(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】MRI用の自己同調液体金属RFコイルおよびコイルアレイ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240405BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
A61B5/055 355
G01N24/00 570Y
G01N24/00 570C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566456
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 US2022026765
(87)【国際公開番号】W WO2022232416
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508298488
【氏名又は名称】コーネル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】エリザヴェータ・モトイロワ
(72)【発明者】
【氏名】ジモーネ・アンゲラ・ヴィンクラー
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB07
4C096AB47
4C096AD10
4C096CC06
4C096CC08
4C096CC15
4C096CC40
(57)【要約】
MR撮像システム用の自己同調式の単一コイル素子または多コイル素子が提供される。素子は、可撓性があり伸張可能であり、様々な身体部位および患者のサイズに形状適合することができる。素子は、MR撮像セッションの間に患者によって装着できる。各コイルは、可撓性導電トレースから形成されたインターデジタルコンデンサを1つまたはそれ以上有することができる。インターデジタルコンデンサのキャパシタンスは、伸張下で変化して自己同調をもたらす。トレースは液体金属から作ることができる。液体金属は、コイルがMR画像上で実質的に見えないように造影剤でドープすることができる。多コイル素子のコイルは、単一層または二重層に配置することができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核磁気共鳴画像法(MRI)スキャナ用のRFコイルであって:
第1の可撓性導電トレースと;
第2の可撓性導電トレースと
を含み、第1の可撓性導電トレースの一方の端部および第2の可撓性導電トレースの対応する端部は、インターデジタルコンデンサを形成するような形状になっており、
第1の可撓性導電トレースおよび第2の可撓性導電トレースのそれぞれの他方の端部は、同調/整合回路構成および前置増幅器を含む1つまたはそれ以上の回路を通してMRIスキャナと接続可能である、
前記RFコイル。
【請求項2】
第1の可撓性導電トレースおよび第2の可撓性導電トレースは液体金属を含む、請求項1に記載のRFコイル。
【請求項3】
液体金属はガリウム合金を含む、請求項2に記載のRFコイル。
【請求項4】
液体金属は、可撓性ポリマーマトリックスにおけるマイクロチャネル内に形成される、請求項2または請求項3に記載のRFコイル。
【請求項5】
患者に装着可能である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のRFコイル。
【請求項6】
インターデジタルコンデンサのデジットに直角の第1の方向に少なくとも30%伸張可能である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のRFコイル。
【請求項7】
30%伸張下での共振周波数の変化は、伸張されていないRFコイルの共振周波数から2%未満である、請求項6に記載のRFコイル。
【請求項8】
乳房壁、胸壁、鼠径部、首、膝および肩からなる群から選択された身体部位に形状適合する、請求項5に記載のRFコイル。
【請求項9】
関節または身体部位の動きと共に伸張するように構成されている、請求項5から請求項8のいずれか1項に記載のRFコイル。
【請求項10】
デジットの数、第1の可撓性導電トレースの一方の端部と第2の可撓性導電トレースの対応する端部との間の隙間、およびデジットの長さは、患者のサイズ、コイルのサイズ、身体部位、予想される動き、またはスキャナの磁場のうちの少なくとも1つに基づいている、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のRFコイル。
【請求項11】
矩形の形状を有する、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のRFコイル。
【請求項12】
可撓性ポリマーマトリックスはエラストマーを含む、請求項4に記載のRFコイル。
【請求項13】
エラストマーは造影剤でドープされている、請求項12に記載のRFコイル。
【請求項14】
造影剤はガドリニウムベースであり、エラストマーはEcoflex(登録商標)であり、Ecoflex(登録商標)と造影剤との比は、RFコイルがMR画像上で実質的に見えないようになっている、請求項13に記載のRFコイル。
【請求項15】
核磁気共鳴画像法(MRI)スキャナ用のRFコイルであって:
第1の可撓性導電トレース、第2の可撓性導電トレースおよび第3の可撓性導電トレースを含む、複数の可撓性導電トレースを含み、
第1の可撓性導電トレースの一方の端部および第2の可撓性導電トレースの対応する端部は、第1のインターデジタルコンデンサを形成するような形状になっており、
第2の可撓性導電トレースの他方の端部および第3の可撓性導電トレースの対応する端部は、第2のインターデジタルコンデンサを形成するような形状になっており、第1のインターデジタルコンデンサは第2のインターデジタルコンデンサに直角であり;
第1の可撓性導電トレースの他方の端部は、同調/整合回路構成および前置増幅器を含む1つまたはそれ以上の回路を通してMRIスキャナと接続可能であり、
第3の可撓性導電トレースの他方の端部は、同調/整合回路構成および前置増幅器を含む1つまたはそれ以上の回路を通してMRIスキャナと接続可能である、
前記RFコイル。
【請求項16】
第1のインターデジタルコンデンサのデジットに直角の第1の方向および第2のインターデジタルコンデンサのデジットに直角の第2の方向に少なくとも30%伸張可能である、請求項15に記載のRFコイル。
【請求項17】
第4の可撓性導電トレースをさらに含み、第4の可撓性導電トレースの一方の端部および第3の可撓性導電トレースの他方の端部は、第3のインターデジタルコンデンサを形成するような形状になっており、第4の可撓性導電トレースの他方の端部は、同調/整合回路構成および前置増幅器を含む1つまたはそれ以上の回路を通してMRIスキャナと接続可能である、請求項15または請求項16に記載のRFコイル。
【請求項18】
複数のコイルを含むコイルアレイであって、複数のコイルのそれぞれは:
第1の可撓性導電トレースと;
第2の可撓性導電トレースと
を含み、第1の可撓性導電トレースの一方の端部および第2の可撓性導電トレースの対応する端部は、インターデジタルコンデンサを形成するような形状になっており、
第1の可撓性導電トレースおよび第2の可撓性導電トレースのそれぞれの他方の端部は、同調/整合回路構成および前置増幅器を含む1つまたはそれ以上の回路を通してMRIスキャナと接続可能である、
前記コイルアレイ。
【請求項19】
第1の可撓性導電トレースおよび第2の可撓性導電トレースは液体金属を含む、請求項18に記載のコイルアレイ。
【請求項20】
液体金属は、可撓性ポリマーマトリックスにおけるマイクロチャネル内に形成される、請求項19に記載のコイルアレイ。
【請求項21】
各コイルは、可撓性ポリマーマトリックスの同じ層に位置決めされる、請求項18から請求項20のいずれか1項に記載のコイルアレイ。
【請求項22】
コイルは二重層に配置され、隣接するコイルは、二重層のうちの異なる層に位置決めされる、請求項18から請求項20のいずれか1項に記載のコイルアレイ。
【請求項23】
各コイルのインターデジタルコンデンサは、他のコイルの対応するインターデジタルコンデンサと位置合わせされる、請求項18から請求項22のいずれか1項に記載のコイルアレイ。
【請求項24】
患者に装着可能である、請求項18から請求項23のいずれか1項に記載のコイルアレイ。
【請求項25】
乳房壁、胸壁、鼠径部、首、膝および肩からなる群から選択された身体部位に形状適合する、請求項24に記載のコイルアレイ。
【請求項26】
関節または身体部位の動きと共に伸張するように構成されている、請求項24または請求項25に記載のコイルアレイ。
【請求項27】
各コイルのインターデジタルコンデンサのデジットに直角の第1の方向に少なくとも30%伸張可能である、請求項26に記載のコイルアレイ。
【請求項28】
30%伸張下での共振周波数の変化は、伸張されていないコイルアレイの共振周波数から2%未満である、請求項27に記載のコイルアレイ。
【請求項29】
隣接するコイルは重なり、重なりの量は、隣接するコイル間のクロストークが予め設定された閾値未満になるように設定されている、請求項18から請求項28のいずれか1項に記載のコイルアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年4月29日出願の米国特許仮出願第63/181,664号の利益および優先権を主張するものであり、その全体を参照によって組み入れる。
【0002】
本開示は、核磁気共鳴画像法(MRI)用の自己同調無線周波数(RF)コイルに関する。
【背景技術】
【0003】
核磁気共鳴画像法(MRI)は、解剖学的な構造を非侵襲的に描写し、診断を容易にするために不可欠な技術である。MRIシステムは、1つまたはそれ以上の無線周波数コイルを介した信号検出に依拠している。ほとんどの市販の受信コイルは剛性であるが、理想的には、1つまたはそれ以上のコイル(コイルアレイ)は、最適な信号対ノイズ比(SNR)を保証するために、様々な身体部位に対応するように曲げ性および形状が一致する伸張性の両方をもたらす必要がある。しかし、ほとんどの市販のMRIコイルは、概して、一般的な患者集団(広い範囲の解剖学的寸法)に対応するように構築されており、そのことによって、解剖学的構造からのコイルの平均オフセット距離が増大し、したがって、利用可能なSNRが低減される。典型的には、それらの画像は、次善のSNRのせいで空間的な撮像解像度が限定されている。
【0004】
標準化されたサイズのコイル設計の使用は、同じコイルを成人、乳幼児および小柄な子供に使用しようとするときに特に課題となる。成人の集団内であっても、広い範囲のサイズがある。
【0005】
長骨の撮像には、四肢の長さおよび周囲長が集団内でも大きく異なるため、別の懸念がある。
【0006】
それらの課題を解決するために、可撓性があり伸張可能であり、エルゴノミクス、汎用性および患者の快適性を改善しながら、さらにSNRおよび画像解像度を改善する、ある一定のコイルアレイが提案されてきた。たとえば、コイルは液体金属から作ることができる。しかし、伸張時に、コイルの寸法が変化し、そのことが、コイルの共振周波数をシフトさせ、したがって、(可撓性のおかげで)解剖学的構造のより近くにコイルを配置することで得られたSNR性能の利益が失われている。具体的には、コイルループ素子の寸法が変化すると、それに応じてその共振周波数が変化する。コイルのインダクタンスはコイルコンダクタの長さに比例し、つまり、コイルが伸張されると、コイルインダクタンスは上昇し、共振周波数は低下する。周波数シフトおよび連結の変動が前置増幅器に存在する電源インピーダンスを変化させ、そのことがSNRの低下を引き起こす。
【0007】
可撓性がある伸張可能なコイルの周波数シフトの影響を軽減するいくつかの手法が提案されてきた。たとえば、広帯域整合回路および自動同調/整合回路構成が提案されてきた。しかし、それらの機構は両方とも、システムにおける追加的な回路構成に依拠し、そのことは、信頼性を損ない、電力を増加させ、それだけでなく複雑さおよび必要な空間を増大させる。空間は、特に貴重であり、狭いMRIボア内で、特に、チャネル数が大きくチャネルごとの同調回路構成に関連するアレイ内で極めて不足している。
【0008】
公知のコイル構造の1つは、AIR(商標)Technologyを使用するが、これは可撓性が高いが伸張可能ではない。追加的に、「可撓性」コイルに関する他の公知の設計はかさばり、その可撓性は単一の方向に限定されている。
【0009】
高インピーダンスの同軸コイルの使用が提案されてきた。それらのコイルは、高い可撓性および形状がぴったりと合う適合性を示し、一方で良好な素子の絶縁ももたらす。しかし、個々のコイルの直径は、所望の共振周波数および同軸ケーブルの特性によって決められ、市販の同軸ケーブルが限定された不連続のセットのインピーダンスを有し、実現可能なコイルの直径は不連続の値になるため、自由に選択することができない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、複数のトレースを含むことができる、核磁気共鳴画像法(MRI)スキャナ用のRFコイルが開示される。それらのトレースは可撓性とすることができる。RFコイルは、第1の可撓性導電トレースおよび第2の可撓性導電トレースを有することができる。第1の可撓性導電トレースの一方の端部および第2の可撓性導電トレースの対応する端部は、インターデジタルコンデンサを形成するような形状とすることができる。他方の端部は、1つまたはそれ以上の回路を介してMRIスキャナと接続することができる。それらの回路は、同調整合回路構成および前置増幅器を含むことができる。
【0011】
本開示の一態様において、RFコイルのインターデジタルコンデンサおよびループ部分の幾何形状は、再同調のための追加的な回路構成を必要とせずに、伸張条件下で共振周波数シフトをオフセットさせるように設定することができる。たとえば、デジットの数、第1の可撓性導電トレースの一方の端部と第2の可撓性導電トレースの対応する端部との間の隙間、およびデジットの長さは、患者のサイズ、コイルのサイズ、身体部位、予想される動き、またはスキャナの磁場のうちの少なくとも1つに基づくことができる。
【0012】
本開示の一態様において、可撓性のトレースは、液体金属から形成することができる。液体金属は、材料の弾性、可撓性、および目標とする解剖学的構造への形状適合性をもたらす、軟質の伸張可能なポリマーマトリックスに封入することができる。液体金属は、マイクロチャネル内に形成することができる。本開示の一態様において、液体金属はガリウム合金とすることができる。コイルは、装着可能であり形状適合するので、密接した位置にあり、そのことが改善された高解像度の撮像をもたらす。本開示の一態様において、RFコイルは、乳房壁、胸壁、鼠径部、首、膝および肩からなる群から選択された身体部位に形状適合することができる。RFコイルは、関節または身体部位の動きと共に伸張することができる。
【0013】
本開示の一態様において、RFコイルは、インターデジタルコンデンサのデジットに直角の第1の方向に少なくとも30%伸張可能とすることができる。30%伸張下で、共振周波数の変化は、伸張されていないRFコイルの共振周波数から2%未満とすることができる。
【0014】
本開示の一態様において、RFコイルは、(ループもインターデジタルコンデンサも)任意の形状を有することができる。たとえば、ループは矩形の形状を有することができる。いくつかの態様において、ループは、たとえば、円形または八角形など、矩形以外の幾何形状を有することができる。
【0015】
本開示の一態様において、可撓性ポリマーマトリックスは、エラストマーを含むことができる。本開示の一態様において、エラストマーは造影剤でドープされていてよい。たとえば、造影剤はガドリニウムベースとすることができる。エラストマーは、Ecoflex(登録商標)とすることができる。本開示の一態様において、Ecoflex(登録商標)と造影剤との比は、RFコイルがMR画像上で実質的に見えないようになっている。
【0016】
複数のインターデジタルコンデンサを有するRFコイルも開示される。インターデジタルコンデンサのうちの少なくとも2つは互いに直角とすることができる。本態様において、コイルは、複数の可撓性導電トレースを含むことができる。たとえば、コイルは、3つ以上の可撓性導電トレースを有することができる。第1の可撓性導電トレースの一方の端部および第2の可撓性導電トレースの対応する端部は、第1のインターデジタルコンデンサを形成するような形状とすることができる。第2の可撓性導電トレースの他方の端部および第3の可撓性導電トレースの対応する端部は、第2のインターデジタルコンデンサを形成するような形状とすることができる。第1のインターデジタルコンデンサは、第2のインターデジタルコンデンサに直角とすることができる。第3の可撓性導電トレースの他方の端部は、同調/整合回路構成および前置増幅器を含む1つまたはそれ以上の回路を通して、MRIスキャナと接続可能とすることができる。
【0017】
RFコイルは、第1のインターデジタルコンデンサのデジットに直角の第1の方向および第2のインターデジタルコンデンサのデジットに直角の第2の方向に少なくとも30%伸張可能とすることができる。
【0018】
本開示の一態様において、RFコイルはさらに、第4の可撓性導電トレースを含むことができる。第4の可撓性導電トレースの一方の端部および第3の可撓性導電トレースの他方の端部は、第3のインターデジタルコンデンサを形成するような形状とすることができる。第4の可撓性導電トレースの他方の端部は、同調/整合回路構成および前置増幅器を含む1つまたはそれ以上の回路を通して、MRIスキャナと接続することができる。
【0019】
複数のコイルを含むことができるコイルアレイも開示される。各コイルは、複数の可撓性トレースを含むことができる。各コイルは、第1の可撓性導電トレースおよび第2の可撓性導電トレースを有することができる。第1の可撓性導電トレースの一方の端部および第2の可撓性導電トレースの対応する端部は、インターデジタルコンデンサを形成するような形状とすることができる。他方の端部は、1つまたはそれ以上の回路を介して、MRIスキャナと接続することができる。それらの回路は、同調整合回路構成および前置増幅器を含むことができる。
【0020】
本開示の一態様において、可撓性のトレースは、液体金属から形成することができる。液体金属は、材料の弾性、可撓性、および目標とする解剖学的構造への形状適合性をもたらす、軟質の伸張可能なポリマーマトリックスに封入することができる。液体金属は、マイクロチャネル内に形成することができる。
【0021】
本開示の一態様において、各コイルは、可撓性ポリマーマトリックスの同じ層に位置決めすることができる。他の態様において、コイルは二重層に配置され、隣接するコイルは、二重層のうちの異なる層に位置決めすることができる。隣接するコイルは重なることができる。本開示の一態様において、重なりの量は、隣接するコイル間のクロストークが予め設定された閾値未満になるように設定することができる。
【0022】
本開示の一態様において、各コイルのインターデジタルコンデンサは、他のコイルの対応するインターデジタルコンデンサと位置合わせすることができる。
【0023】
本開示の一態様において、コイルアレイは、装着可能であり形状適合することができる。コイルアレイは、装着可能であり形状適合するので、密接した位置にあり、そのことが改善された高解像度の撮像をもたらす。本開示の一態様において、コイルアレイは、乳房壁、胸壁、鼠径部、首、膝および肩から成る群から選択された身体部位に形状適合することができる。コイルアレイは、関節または身体部位の動きと共に伸張することができる。
【0024】
本特許または本出願の書類はカラー印刷した図面を少なくとも1つ含む。カラー図面を有する本特許または特許出願公開の複製は、要請したときに、必要な手数料を支払うことによって、当局によって提供されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】本開示の態様による、可撓性の伸張可能なコイル素子を示す。
【
図1B】コイルのループが異なる形状である、本開示の態様による可撓性の伸張可能なコイル素子の別の例を示す。
【
図2】本開示の態様による、インターデジタルコンデンサのデジットに垂直の伸張条件下における、コイル素子に関するインダクタンスおよびキャパシタンスの変化の一例を示す。
【
図3】伸張下におけるトレース幅と共振周波数の変化との理論上の関係を示す。
【
図4】トレース幅wおよびインターデジタルコンデンサのトレース間の隙間(g)を変更する間の、共振周波数の理論上の変化を示す。
【
図5B】可撓性のトレースを有するコイル素子の一例を示す。
【
図5C】
図5Aおよび
図5Bに示されているコイル素子に関する、様々な伸張条件下でのシミュレーション結果の比較を示す。
【
図5D】
図5Aおよび
図5Bに示されているコイル素子に関する、様々な伸張条件下でのシミュレーションおよび測定の結果の比較を示す。
【
図5E】
図5Aに示されているコイル素子の測定された負荷および無負荷のQファクタならびに比を示す。
【
図6】本開示の態様による複数のインターデジタルコンデンサを有するコイル素子を示す。
【
図7A】本開示の態様によるインターデジタルコンデンサのための異なるトレースパターンを示す。
【
図7B】本開示の態様によるインターデジタルコンデンサのための異なるトレースパターンを示す。
【
図8A】重なりを有する、本開示の態様による多コイル素子の一例を示す。
【
図8B】隣接するコイルのコイルループの重なりとクロストークとの関係を示す。
【
図8C】様々な伸張条件下における、設定された重なりを有する2コイル素子のシミュレーション結果を示し、
図8Cは、コイルの1つに関する入力インピーダンスを示し、
図8Dはクロストークを示す。
【
図8D】様々な伸張条件下における、設定された重なりを有する2コイル素子のシミュレーション結果を示し、
図8Cは、コイルの1つに関する入力インピーダンスを示し、
図8Dはクロストークを示す。
【
図9】本開示の態様による単一層の多コイル素子を製作する方法を示す。
【
図10A】本開示の態様による単一層の多コイル素子のための例示的なモールド型のレンダリングを示す。
【
図10C】ジャンパワイヤ用チューブの挿入前の、本開示の態様による、
図10Bに示されているモールド型を使用して製作される2コイル素子のためのマイクロチャネルを有する単一層ポリマーの一例を示す。
【
図10D】本開示の態様による単一層の2コイル素子の一例を示す。
【
図11A】本開示の態様による二重層の多コイル素子のためのモールド型の一例のレンダリングを示す。
【
図11C】本開示の態様による二重層の多コイル素子を作成するために重ねられる、2つの別々のコイル素子を示す。
【
図11D】本開示の態様による、二重層の2コイル素子の一例を示す。
【
図12】ダイレクトインクライティングを使用して製作される本開示の態様による二重層の2コイル素子の一例を示す。
【
図13-1】
図13A~
図13Eは、シミュレートされたファントム上における、本開示の態様による単一のコイル素子の場合のBフィールドに関するシミュレーション結果を示す。
図13F~
図13Jは、実際のファントム上において、本開示の態様による単一のコイル素子を使用して様々な伸張条件下で取得されたSNRマップを示す。
図13K~
図13Oは、
図13F~
図13Jにそれぞれ対応する、正規化されたSNRマップを示す。
図13Pは、本開示の態様によるコイルの中央を通ってファントムまで測定された、正規化されたSNRを示す。
【
図15】本開示の態様による、湾曲したファントム上の多コイル素子に関するシミュレーション結果を示し、
図15Aは、湾曲したファントム上の二重層の多コイル素子を示し、
図15B~
図15Gは、二重層の多コイル素子の異なるコイルが励磁されたときの感度を示す。
【
図16】本開示の態様による、湾曲したファントム上の多コイル素子に関するシミュレーション結果を示し、
図16A~
図16Dは、すべてのコイルが励磁されたときの、様々な伸張条件、0%、10%、20%および30%それぞれにおける感度を示す。
【
図18-1】
図18A~
図18Fは、本開示の態様によるダイレクトインクライティングを使用して製作された二重層の2コイル素子、および専用の市販の膝コイルによる測定結果の比較を示し、
図18A/
図18Dは、専用の市販の膝コイルを使用して取得した画像/SNRマップであり、
図18B/
図18Eは、伸張なしの二重層の2コイル素子を使用して取得した画像/SNRマップであり、
図18C/
図18Eは、15%伸張下で二重層の2コイル素子を使用して取得した画像/SNRマップである。
【
図19】様々なドーパントとポリマーの比に基づいた信号強度測定の結果を示す。
【
図21】本開示の態様による、ドーパント濃度の異なる3つの単一のコイル素子および入力インピーダンスS11の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1Aは、MRIで使用するための本開示の態様による可撓性の伸張可能なコイル素子10の一例を示す。コイル素子10は、装着可能であり、伸張可能であり、目標身体部位に形状適合することができる。そのことで、コイルと解剖学的構造との間の距離が最小化されることによって、信号感度を高める。コイル素子10は、1つまたはそれ以上のコイルを含むことができる。
図1Aに示されているように、コイル素子10は、単一のコイルを含む。本開示の一態様において、コイル素子10は、液体金属トレース12、14およびポリマーマトリックス20を含む。ポリマーマトリックス20は、液体金属トレース12、14のためのマイクロチャネルを含む。1対のトレース、たとえば、12、14は、インターデジタルコンデンサ15上に形成する。
図1Aに示されているように、トレース12、14は矩形のループを形成する。ただし、ループの形状は、
図1Aに示されている例に限定されない。たとえば、
図1Bは、異なる形状のループを有する、本開示の他の態様によるコイル素子10’を示す。いくつかの態様において、トレース12’および14’は、円形または八角形などの形状を形成することができる。形状は、開示されている例に限定されない。
【0027】
本開示の一態様において、ポリマーマトリックス20は、軟質のシリコーンエラストマーから形成することができる。軟質のシリコーンエラストマーは、コイル素子10の可撓性を有効にする。たとえば、ポリマーマトリックス20は、Ecoflex(登録商標)などの材料から作ることができる。ただし、ポリマーマトリックス20の材料は、Ecoflex(登録商標)に限定されず、他の材料を使用することができる。たとえば、DragonSkin(商標)30(Smooth-Onによる)など、別の液体シリコーンを使用することができる。他の態様において、ポリマーは、シリコーンベースではない他のエラストマー材料から作ることができる。ポリマーマトリックス20に使用される材料のタイプは、必要とされる目標伸張に基づいて選択することができる。たとえば、成人に使用されるコイル素子10は、乳幼児用のコイル素子10とは異なるポリマー材料を用いて製作することができる。追加的に、異なる身体部位に使用されるコイル素子10は、異なるポリマー材料を用いて製作することができる。異なるMRIシステムは、異なる場の強さおよび共振周波数を有し、異なるMRIシステムに使用されるコイル素子100は、異なる材料を有することもできる。
【0028】
Ecoflex(登録商標)は、極めて高い可撓性および伸張性を有するポリマーであり、ヒトの皮膚の弾性コンプライアンスに整合する。ポアソン比が0.5の場合、Ecoflex(登録商標)は等積の挙動を保証し、これがマイクロチャネル内に液体金属を収容するための好ましい圧力条件になる。後に記載されるように、Ecoflex(登録商標)に、1つまたはそれ以上の他の材料をドープして、MR画像におけるコイルの視認性を低下させることができる。たとえば、Ecoflex(登録商標)にマンガン(Mn)またはガドリニウム(Gd)を添加して、緩和度を上昇させ、したがって、MR画像における信号を低減することができる。
【0029】
Ecoflex(登録商標)は、比較的低い誘電率εr=2.8を有する。本開示のいくつかの態様において、未硬化のポリマーを高誘電率の材料と混合することによって、誘電率を上昇させることができる。たとえば、いくつかの態様において、チタン酸バリウムBaTiO3(BTO)ナノ粒子をポリマーと混合することができる。以下で示されるように、インターデジタルコンデンサのキャパシタンスがホストの誘電率による影響を受けるため、キャパシタンスなど、コイル素子10の他の特性は、誘電率に基づいて変更することができる。
【0030】
本開示の一態様において、ポリマーマトリックス20およびマイクロチャネルのレイアウトは、モールド型によって形成することができる。たとえば、3Dプリンタを使用して、導電トレース12、14のための所定パターンのレイアウト(インターデジタルコンデンサ15を形成する)を含むプラスチック製モールド型を作成することができる。プラスチック製モールド型は、ネガティブモールド型でよい。プラスチック製モールド型は、ポリ乳酸(PLA)から作ることができる。モールド型は、ポリマーマトリックスの一部分に関する目標厚さを実現するために、予め設定された高さを有することができる。たとえば、高さは50μmでよい。
【0031】
同じサイズ(長さおよび幅)の別のモールド型を、3Dプリンタによって、封止部分に関して用意することもできる。本開示の一態様において、最小解像度が0.2mmの高精度3Dプリンタを使用することができる。
【0032】
未硬化のEcoflex(登録商標)エラストマーは、その等量の2つの成分を混合し、その混合物を真空チャンバで脱気して空気の気泡があればそれを除去することによって用意され、次いで、ネガティブモールド型に流し込まれ、十分に凝固されるまで硬化される。硬化されたエラストマーは、ネガティブモールド型から解放することができ、パターン成形されたエラストマーをカバーする平坦な封止部分が取り付けられる。本開示の一態様において、平坦な封止部分は、0.5mmと1.5mmとの間の厚さでよい。たとえば、平坦な封止部分は1.0mmでよい。パターン成形されたマイクロチャネルを含む伸張可能なポリマーマトリックス20を形成するために、2つの部分を相互に接合することができる。
【0033】
エラストマーの厚さは、ノイズを生み出さないようにまたは可撓性もしくは伸張性を妨げないように十分に薄くするべきであるが、同時にポリマーからの液体金属の溢出につながるマトリックスにおける小さい裂け目のリスクを低減する。
【0034】
本開示の他の態様において、ポリマーマトリックス20およびマイクロチャネルのレイアウトは、ダイレクトインクライティング(DIW)によって形成することができる。DIWは、目標対象物を作成するために制御可能な経路上で制御された流量の下で供給される液体インクを使用する、3Dプリンティング技術である。DIWに使用される材料は、可撓性シリコーン樹脂など、上記で説明したものと同じでよい。DIWプロセスは、成形プロセスよりも迅速とすることができる。様々な基板上での可撓性シリコーン樹脂のダイレクト3Dプリンティングは、大半が自動化されており、組立て不要であり、成形プロセスに必要とされる面倒な手作業の製作を回避することが可能になる。DIWは所要時間を短くする。追加的に、DIWプロセスは、より薄いポリマーマトリックス20を生産することができる。ポリマーマトリックス20がより薄いと、コイル素子10をMR画像において見えないようとすることができる。液体シリコーンは、ガラスパネル上にスピンコートすることができる。マイクロチャネルは、たとえば、マイクロチャネルの壁は、コートされたガラスパネル上にダイレクトプリントされる。たとえば、日本のMusashiによる3Dプリンタ、モデルSHOTmini200’ΩXを使用することができる。マイクロチャネルの壁には、高速硬化のシリコーンシーラントを液体インクとして使用することができる。チャネルを封止するためにシリコーンシートを使用することができる。本開示の一態様において、シリコーンシートは、成形されてもよく、3Dプリントされてもよい。パターン成形されたマイクロチャネルを含む伸張可能なポリマーマトリックス20を形成するために、2つの部分を相互に接合することができる。
【0035】
本開示の一態様において、液体金属トレース12、14は、ガリウム合金から形成することができる。たとえば、EGaInまたはGalinstan(登録商標)を使用することができる。EGaInは、15.7℃/60.3°Fを超える温度でその液体の形態のままであり、蒸気圧が低く、毒性が低い。本開示の一態様において、ガリウム合金に微粒子を添加することができる。たとえば、金の微粒子を添加することができ、そのことで、液体金属の導電性をわずかに上昇させることができる。このような導電性の改善によって、コイル素子10のコイル損失を低減し、Qファクタを改善し、SNRを上昇させることができる。
【0036】
本開示の一態様において、針およびシリンジを使用して液体金属をマイクロチャネルに注入してトレース12、14を形成することができる。
【0037】
本開示の他の態様において、トレース12、14用の材料として使用される液体金属の代わりに、導電性エラストマーをナノ粒子と共に使用することができる。ナノ粒子は、銀のナノ粒子を含むことができる。銀のナノ粒子の導電性は液体材料未満でよいが、銀のナノ粒子を有する導電性エラストマーは、同等のQファクタおよびSNR値をもたらすことができる。
【0038】
回路の他の電気部品のための接点を作成するために、マイクロチャネルの末端に銅ワイヤを挿入することによって、信号ポート30を形成することができる。それらの部品は、同調電子回路、整合電子回路、離調電子回路および集積前置増幅器モジュールを有する、1つまたはそれ以上のプリント回路基板を含むことができる。
【0039】
インターデジタルコンデンサ15は、自己同調をもたらし、そのことが、伸張条件下で共振周波数のシフトを最小限に抑える。そのことが、様々な曲げ角度下で様々なサイズの解剖学的構造の画像を取得するためにコイル素子10が使用されることを可能にする。たとえば、可撓性、伸張性、および自己同調は、頸椎、会陰/鼠径部、乳房/胸部、首/肩、または膝など、様々な複雑なヒトの解剖学的構造の撮像を可能にする。ただし、本明細書に列挙されている身体部位は、単なる一例として説明するためのものであり、コイル素子10は、撮像のために必要に応じて他の身体部位に載置することができる。
【0040】
コイル素子10がたとえばx方向に伸張されるときに、インダクタンスが上昇する。しかし、本開示の態様によれば、インターデジタルコンデンサ15のキャパシタンスは低下し、増大を相殺する。x方向の伸張下における、コイル素子10に関するインダクタンスLおよびキャパシタンスCの変化の一例が
図2に示されている。したがって、共振周波数の変化は、同調のための追加的な回路構成なしで最小限に抑えることができる。
図2に示されているように、インダクタンスの上昇は、伸張に対してほぼ線形である。しかし、キャパシタンスの低下は非線形であり、したがって、キャパシタンスの変化は、インダクタンスの線形の変化を完璧に補償することはできず、共振に若干の変化が生じることがある。
【0041】
コンデンサ15のフィンガ(デジット)に垂直に(
図1Aのx方向に)加えられる因子αによって伸張されるインターデジタルコンデンサは、全キャパシタンスC=C
0/αを示し、ここで、C
0は、インターデジタルコンデンサ15の初期キャパシタンスであり、
【数1】
として計算することができる。Nは、インターデジタルコンデンサ15のデジットの数である。C
I=ε
0ε
rbK(k
I∞)/K(k’
I∞)、C
E=ε
0ε
rbK(k
E∞)/K(k’
E∞)であり、ここで、ε
0は真空誘電率であり、ε
rはホスト材料誘電率であり、bはデジットの長さであり、K(k)は母数kを用いた第1種完全楕円積分であり、k’=√1-k2は補母数であり、k
I∞=sin(πη/2)、k
E∞=2√η1+η、η=w/w+gである。
【0042】
共振は、
【数2】
であり、ここで、f
0は共振周波数であり、LおよびCは、コイルの全インダクタンスおよび全キャパシタンスであるため、全キャパシタンスおよび全インダクタンスをそれぞれ共振の式に代入すると、コイル素子10は、伸張係数の1/4乗にほぼ反比例する共振周波数の変化を有することができる:f~f
0・α
-1/4。一方、固定キャパシタンス値(C=C
0)を有する従来のコイルは、伸張係数の1/2乗に反比例する伸張度における周波数依存性を示す:f~f
0・α
-1/2。
【0043】
トレース12、14およびインターデジタルコンデンサ15を含むコイル素子10の特性は、目標伸張範囲に対して共振周波数シフトを目標範囲内で最小限に抑えるように設定することができる。たとえば、目標伸張範囲は30%でよい。目標伸張範囲は30%に限定されず、他の範囲を使用することができる。目標伸張範囲が30%であると、多くの異なる身体部位を撮像するために同じコイル素子10が使用されることが可能になる。特性は、(a)コイルの周囲長、(b)コンデンサのデジット(フィンガ)の数、(c)デジットの長さ、(d)デジットの幅、および(e)デジット間の間隔(隙間)を含むことができる。
【0044】
図3は、理論上の分析に基づいた、(
図1Aの)x方向の伸張条件下における、0.1mmから1.0mmの範囲にある10個の異なるトレース幅に関する共振周波数の変化を示す。
図3を見ると分かるように、共振周波数の最大の変化はトレース幅が最小の場合である。シミュレートされた10個すべてのトレース幅について以下の特性を維持した。D=10cm、w=1mm、g=0.5mm、b=12mm。Dはループの直径であり、dはトレース12、14の直径であり、gはデジット間の間隔であり、bはデジットの長さである。
【0045】
図4は、インターデジタルコンデンサ15のトレース幅wおよびトレース間の隙間(g)を変更する間の、共振周波数の変化を示す。トレースの隙間g(デジット間の間隔)がトレース幅wよりも小さいときは、トレース幅wの値が広いほど周波数の変化が小さくなる。
【0046】
実際のコイルの挙動は、すべての部材および構成要素の間の相互作用がより複雑であり、それらは単純化された理論上のモデルでは十分に検討されないため、理論上の挙動とは異なる場合がある。本開示のいくつかの態様において、理論上の挙動は、フルウェーブ電磁界シミュレーションを使用して決定できる特性のための出発点として使用することができる。伸張していないときは、コイル素子10の共振周波数は、スキャナの動作周波数に整合するように設定することができる。たとえば、3Tスキャナの動作周波数は128MHzである。抵抗に整合させることもできる。たとえば、抵抗は50オームでよい。前述の特性は、たとえば0%および30%の目標伸張範囲に対して、伸張によるシフトが最小限に抑えられるように選択することができる。たとえば、約6cm×7cmの実質的に矩形のループの場合、特性は:8個のデジットを有することができるインターデジタルコンデンサと、各デジットが7mmのデジットの長さを有することができることと、デジット間の間隔が0.5mmでよいことと、を含むことができる。追加的に、トレースの幅は0.5mmでよい。本開示のいくつかの態様において、トレース幅は、3Dプリンタの解像度に応じて変えることができる。特性を決定するために、モデルにはポリマー材料、たとえば、Ecoflex(登録商標)エラストマーが含まれ、そのモデルに均質の筒状のファントムを含むことも可能である。目標伸張範囲は、異なる身体部位または身体タイプのための要素など、用途が異なる場合は異なっていてよい。様々な特性を様々な目標伸張範囲に使用することができる。
【0047】
本開示の態様によるコイル素子10のシミュレーション結果を、固定値コンデンサを有する同じ寸法のコイルアレイと比較した。
図5Aおよび
図5Bは、固定コンデンサ500および可撓性トレース505との、インターデジタルコンデンサ15およびコイル素子を有する本開示(
図5A)の態様によるコイル素子10の横に並べた比較を示す。トレース12、14は、本明細書に記載されているように液体金属から作ることができる。
【0048】
図5Cは、
図5A/
図5Bに示されている2つのコイル素子によるシミュレーション結果を示す。詳細には、
図5Cは、(y軸上に)入力インピーダンスS11および(x軸上に)周波数を示す。図は、異なる6つの伸張条件(および伸張なし)を示し、それらの様々な伸張条件間には5%の差がある。
図5Cを見ると分かるように、基準コイル素子(
図5B)は、予想通りに、その入力インピーダンスS11がより低い周波数に向かって線形にシフトされている。しかし、本開示の態様によるコイル素子10の入力インピーダンスは、最初により高い周波数にシフトし(最大15%の伸張の場合)、次いで、より低い周波数に戻る(20%以上の場合、目標範囲未満)ことによって、周波数(伸張なし)、たとえば、初期の共振周波数の付近で変動した。
図5Cを見ると分かるように、
図5Bのコイル素子は、7MHzを超えるシフト(7.4MHz)を示し、これは約5.8%のシフトである。しかし、本開示の態様(
図5A)によるコイル素子10は、最大シフト約2.2MHzだけを示し、これは約1.7%のシフトである。したがって、本開示の態様によれば、周波数シフトを約70%改善することができる。
【0049】
シミュレーションに使用される同じ特性を有する2つのコイル設計(
図5Aおよび5B)を製作し、試験した。コイル素子は、3Dプリントされた単方向伸張試験装置に接続した。コイル素子(
図5A/
図5B)を、L字形の同調/整合ネットワークを介してベクトルネットワーク分析器にも接続した。
図5Dは、両方のコイル素子に関する測定結果ならびにシミュレーション結果の比較を示す。合計の周波数シフトを強調するためにシェーディングが加えられている。シミュレートされた曲線は、塗りつぶされていない形状(円形/正方形)によって識別され、測定された曲線は、塗りつぶされた形状(円形/正方形)によって識別される。正方形は、
図5Aに示されている本開示の態様によるコイル素子10についてのものである。円形は、
図5Bに示されているコイル素子についてのものである。
図5Dに示されているように、測定されたデータは、シミュレーション結果とよく一致する。追加的に、
図5Dに示されているように、周波数シフトは、本開示の態様によるコイル素子10を使用すると、
図5Bのコイル素子に対して有意に改善されている。約27%の伸張に相当する、測定された最大の伸張が5cmのときは、本開示の態様によるコイル素子10に関する周波数シフトは、5MHz超(4%超)と比べて0.5MHz(0.4%)に過ぎない。これは、周波数シフトの10倍の減少である。
【0050】
図5Eは、様々な伸張条件下における、
図5Aのコイル素子の測定された負荷Q
Lおよび無負荷Q
Uの(品質)係数およびその比を示す。コイル素子10にファントムQ
LおよびファントムQ
Uが負荷されたときに、ピックアッププローブを使用して品質係数を測定した。品質の比はQ
U/Q
Lと定義される。
図5Eに示されているように、品質の比は約2であった。そのことは、コイル損失の大半がコイル自体というよりもファントム自体によるものであることを意味する。品質の比も伸張条件に対して比較的安定している。
【0051】
図1A/
図1Bは、コイル内にインターデジタルコンデンサ15を1つ示す。コイルにおけるインターデジタルコンデンサ15の数は1つに限定されない。追加的に、インターデジタルコンデンサ15を加えることができる。異なるインターデジタルコンデンサ15の向きは異なっていてよい。インターデジタルコンデンサ15の数および向きは、コイル素子10の予想される伸張に基づくことができる。たとえば、コイル素子10がx方向およびy方向の両方に伸張されることが予想される場合は、インターデジタルコンデンサ15Aおよび15Bは、互いに垂直とすることができる。
【0052】
図6は、単一のコイルが複数のインターデジタルコンデンサ15A~15Cを有する、コイル素子10’’を示す。例示の目的で3つのインターデジタルコンデンサが示されている。インターデジタルコンデンサ15Aは、インターデジタルコンデンサ15B/15Cに垂直である。x方向およびy方向は
図6に示されている。インターデジタルコンデンサ15Aのデジットは、x方向に垂直であり、インターデジタルコンデンサ15B/15Cのデジットは、y方向に垂直である。したがって、インターデジタルコンデンサ15Aは、x方向に伸張する場合の周波数シフトを最小限に抑えることができ、インターデジタルコンデンサ15B/15Cは、y方向の伸張の場合の周波数シフトを最小限に抑えることができる。各インターデジタルコンデンサ15は、対になったトレースから形成することができる。たとえば、インターデジタルコンデンサ15Bは、トレース612、614から形成され、インターデジタルコンデンサ15Aは、トレース614、616から形成され、インターデジタルコンデンサ15Cは、トレース616、618から形成される。トレース612および618は、信号ポート30に接続されている。本開示の一態様において、異なるインターデジタルコンデンサは、デジットの数、デジットの長さ、およびデジット間の間隔など、異なる特性を有することができる。これらの特性は、1つまたはそれ以上の方向における予想される伸張に基づくことができる。特性は、予想される使用、たとえば、身体部位、患者のサイズ、および磁場源(動作周波数など)に基づくこともできる。
【0053】
本開示の態様によれば、異なるコイル素子10、10’、10’’は、異なる身体部位または異なるサイズの患者に使用することができる。したがって、インターデジタルコンデンサ15を含む上記で説明した特性は、身体部位または患者のサイズに対してカスタマイズすることができる。追加的に、特性は、磁場の強度に基づいて変更することができる。たとえば、異なる磁場は、異なるインターデジタルキャパシタンスを必要とする場合がある。
【0054】
本開示の一態様において、インターデジタルコンデンサ15の各デジットは、U字形の導電性経路を有することができる。他の態様において、各デジットは、単一の直線的経路から形成することができる。
【0055】
図7Aは、本開示の態様によるインターデジタルコンデンサ15のための流体チャネル構成の一例を示す。インターデジタルコンデンサを形成する導電トレースの一方712がチャネル1(流体チャネル)であり、インターデジタルコンデンサを形成する導電トレースの他方714がチャネル2(流体チャネル)である。
図7Aは上面図である。x方向およびy方向が示されている。各流体チャネルは、ポリマーマトリックス20内に封入された蛇行導電トレースを有する。
図7Aに示されているように、各蛇行導電トレースは、複数のU字形の曲線を有する。w2およびw4は、それぞれ異なる方向におけるトレース712の幅である。w1およびw3は、それぞれ異なる方向におけるトレース714の幅である。本開示の一態様において、幅w2とw4とは同じでよい。同様に、本開示の一態様において、幅w1とw3とは同じでよい。g1~g4は、トレース間の様々な間隔である(g1の場合、U字形の辺の間の間隔である)。本開示の一態様において、g2、g3およびg4は同じでよい。2つの流体チャネルは、電気的絶縁性の同じポリマーマトリックス20で空間的に隔てられている。
【0056】
図7Bは、本開示の態様によるインターデジタルコンデンサ15のための、2つの流体チャネルの構成の別の例を示す。インターデジタルコンデンサを形成する導電トレースの一方712’がチャネル1(流体チャネル)であり、インターデジタルコンデンサを形成する導電トレースの他方714’がチャネル2(流体チャネル)である。各流体チャネルは、x軸において同じ信号ラインに接続された、y軸に沿って位置する空間的に隔てられた複数のラインから構成されている。2つの流体チャネルは、電気絶縁性の同じポリマーマトリックス20で空間的に隔てられている。
【0057】
本開示の他の態様において、コイル素子は、複数のコイルを含むことができ、そこでは、1つのコイルループが異なるMR画像チャネルに接続されている。複数のコイルはRFコイルアレイを形成する。アレイ内のコイルの数は、N=2からN=32の範囲またはそれよりも大きくすることができる。コイルの数は、MRIシステムのMR画像チャネルの数によってのみ限定される場合がある。隣接するコイルは、z方向において重なることができる。その重なりは、個々のコイルの感度に影響を与えることがある。したがって、本開示の態様によれば、重なりは、隣接するコイルを十分にデカップリングするように設計されており、そのため、個別のコイルの感度がそれぞれ区別でき、隣の要素の存在によって最小限にしか影響を受けない。いくつかの態様において、重なりは、(休止時に、たとえば、伸張下にないときに)ループ領域の10%から30%とすることができる。
【0058】
本開示の一態様において、重なり範囲は、クロストークS21(またはS12)などのパラメータを使用して決定することができる。クロストークは、互いに対する隣のチャネルの影響である。たとえば、S21は、第1のチャネルの送信電力および第2のチャネル(物理的に隣のチャネル)の受信電力の関数である。重なり距離は、その値S21を最小にするように設定することができる。他の態様において、重なり範囲は、S21の値が予め設定された値未満になるように使用することができる。たとえば、予め設定された値は10dbとすることができる。
【0059】
重なりの値または値の範囲は、シミュレーションを使用して決定することができる。本明細書に記載されているコイルの幾何形状およびインターデジタルコンデンサの特性を使用して、フルウェーブ数値シミュレーションを行うことができる。コイルの形状および領域として7×6cmの矩形ループを各コイルループに使用することができる。8デジット、各デジットは、7mm(B=7mm)のデジットの長さを有することができ、デジット間の間隔は0.5mmでよい。追加的に、トレース幅は0.5mmでよい。シミュレーションのために、
図8Aに示されているような2つの隣接するコイル(コイル1 801およびコイル2 802)を使用することができる。本開示の一態様において、隣接するそれぞれのコイルに同じ重なりを使用することができる。
図8Aは、重なり810を有する、シミュレートされた2つのコイル、コイル1 801およびコイル2 802を示す。均質ファントムをシミュレートすることもできる。均質ファントムは、矩形でよく、コイル1 801およびコイル2 802は、同じ場所に位置するようにシミュレートされる。重なり810を所定の最小値から所定の最大値まで変更した。たとえば、所定の最小/最大は、8mm/17mmとすることができる。異なるサイズのループの場合、最小および最大は異なっていてよい。それぞれの変更された重なり810において、S
21パラメータを判定した。
図8Bは重なりとS
21との関係を示す。S
21はy軸上にあり、重なりはx軸上にある。見て分かるように、S
21は12mmの付近で最小である。したがって、本開示の一態様において、重なり810は約12mmとすることができる。曲線上に重ねられた破線は、所定の閾値、たとえば、-10dbである。したがって、本開示の他の態様において、重なり810は、上述の特性を有するコイルおよびインターデジタルコンデンサ15の場合、約10mmと約14mmとの間とすることができる。重なりは、コイルおよびインターデジタルコンデンサ15が、寸法を含む異なる特性を有する場合は異なる可能性がある。
【0060】
コイルの同調およびデカップリングの相対的な安定性を確認するために、12mm重ねられたコイル1 801およびコイル2 802を、x方向に0%から50%、線形に伸張した。
図8Cおよび
図8Dは、様々な伸張条件下(5つの異なる伸張条件および伸張なし、ここでは伸張条件間に10%の差がある)におけるシミュレートされたS値、S
11およびS
21を示す。
図8Dを見ると分かるように、40%未満の伸張条件下では、S
21の最大値は10dB未満である(約128MHz~129MHz)。S
11はコイル1 801の場合である。しかし、両方のコイルが、ほぼ同じS
11、S
22を有するべきである。コイル1 801の共振周波数のシフトは、シミュレートされた伸張条件下では最大で約2MHzであった。
【0061】
本開示の一態様において、コイルアレイ(多コイル素子)は、単一層または二重層を有することができる。単一層では、各コイルは、ポリマーの同じ層にあり、たとえば、コイルは実質的に平坦である。重なり領域にはジャンパワイヤを使用することができる。二重層の素子では、隣接するコイルは、異なる層に位置決めされ、たとえば、コイルは交互の層になる。
【0062】
図9は、本開示の態様による、単一層の多コイル素子1000を製作する方法を示す。単一層の多コイル素子1000は、上記で説明したのと同様にして成形することができる。たとえば、ポリマーマトリックス20’およびマイクロチャネル1005のレイアウトは、900で、モールド型によって形成することができる。たとえば、3Dプリンタを使用して、導電トレース(およびインターデジタルコンデンサ15)およびマイクロチャネル1005のための所定のパターンのレイアウトを含むプラスチック製モールド型を作成することができる。プラスチック製モールド型はネガティブモールド型1015である。プラスチック製モールド型は、ポリ乳酸(PLA)から作ることができる。モールド型は、ポリマーマトリックスの一部分に関する目標厚さを実現するために、予め設定された高さを有することができる。
図10Aは、2コイル素子(単一層)のためのモールド型の例示的なレンダリングを示す。重ねられた領域の部分拡大図が挿入画に示されている。
図10Aを見ると分かるように、重なり領域では、マイクロチャネル1005に隙間または中断部1010がある。これは、コイルが同じ層にあるからである。互いに接触している異なるチャネルからの液体金属を避けるために、コイルの一方がマイクロチャネル1005に中断部を有する。各交差部分に中断部があることになる。
図10Aにおいて、拡大図は、交差部分の1つに関する隙間1010を示す。同様の隙間1010が他の交差部分に存在する。
【0063】
図10Aを見ると分かるように、各コイルのインターデジタルコンデンサ15がx方向から見たときに位置合わせされるように、コイルループを位置合わせすることができる。
図10Aの大きい矩形は、x方向およびy方向における素子1000の寸法、たとえば、ポリマーマトリックスの縁部を表す。
図10Bは、
図10Aに示されているマイクロチャネル1005および隙間1010を有する、3Dプリントされたネガティブモールド型1015の一例を示す。
図10Aのレンダリングでは角は直線的な縁部を有するが、
図10Bのポリマーマトリックス20は曲線的な角を有する。これは、製造を簡単にするためである。しかし、角は、曲線的でもよく、直線的な縁部を有してもよい。
【0064】
905で、ポリマーマトリックス1020用の材料が供給される(必要な場合は混合される)。たとえば、未硬化のEcoflex(登録商標)エラストマーは、その等量の2つの成分を混合し、その混合物を真空チャンバで脱気して空気の気泡があればそれを除去することによって用意することができる。そのエラストマーは、ネガティブモールド型1015に流し込まれ、十分に凝固されるまで硬化させることができる。硬化されたエラストマーは、ネガティブモールド型から解放することができる。別のモールド型(図示せず)を使用して平坦な封止部分を作成することができる。パターン成形されたエラストマーをカバーする平坦な封止部分が、マイクロチャネル1005を有する底部分に取り付けられる。パターン成形されたマイクロチャネルを含む伸張可能なポリマーマトリックス1020を形成するために、2つの部分を相互に接合することができる。
図10Cは、2つのコイル(複数のコイル)のためのマイクロチャネルを有する伸張可能なポリマーマトリックス1020の一例を示す。
【0065】
910で、ジャンパワイヤ用チューブのために、ポリマーマトリックス1020に開口部が作成される。本開示の一態様において、開口部は平坦な封止部分にある。開口部は、マイクロチャネル1005およびチューブの内側部分からの連続的チャネルを形成できるように、マイクロチャネルのうちの隙間1010が始まる直前の縁部に位置することができる。開口部のサイズは、チューブの直径に基づくことができる。本開示の一態様において、チューブは、マイクロチャネルの幅と同じ直径を有することができる。たとえば、チューブの直径は0.5mmでよい。コイルが2つの場合(
図10Cなど)、開口部が4つある。他の態様において、封止部分の代わりに、底部分に開口部が位置することができる。
【0066】
915で、チューブは、それぞれの開口部に挿入される。本開示の一態様において、チューブは、薄い可撓性のシリコーンチューブとすることができる。チューブの長さは、隙間1010の長さに基づくことができる。チューブは、交差部分の隙間の長さをまたぐ(たとえば、2つの隙間のための1つのチューブが
図10A/
図10Cの挿入画に示されている)。たとえば、チューブは約5mmの長さを有することができる。
【0067】
920で、開口部およびチューブは、漏出を防ぐためにシーラントを使用して封止することができる1050。たとえば、SmoothONによるSilPoxyなど、シリコーンエポキシを使用することができる。920で、マイクロチャネル1005およびチューブに液体金属を挿入することができる。液体金属は、針およびシリンジを使用して、マイクロチャネル1005およびチューブに注入することができる。上述と同様に、液体金属に銅ワイヤを接続することができる。
【0068】
図10Dは、チューブおよびシーラントが本明細書に記載されているように製作された、単一層の2コイル素子1000の一例を示す。
図10A~
図10Dは、説明の目的で2つのコイルだけを示すが、N個のコイルを単一層に使用し、本明細書に記載されているように製作することができる。
【0069】
他の態様において、コイルは、二重層になるように構成することができる。隣接するコイルは、二重層の異なる層に位置決めすることができる。たとえば、5コイル素子の場合、コイル1、3および5は第1の層にあってよく、コイル2および4は第2の層にあってよい。第2の層は、第1の層の上にあってよい(またはその逆も同様である)。各層のコイルは、別々に製作し、その後、積層することができる。同じ層内の各コイル間の距離は、上述の目標の重なり810を維持できるように設定することができる。たとえば、各層は、マイクロチャネルのない拡張領域を有することができる。その拡張領域は、他方の層のマイクロチャネルに対向することができる。
【0070】
図11Aは、二重層の多コイル素子1100の場合のモールド型のレンダリングを示す。
図11Aを見ると分かるように、マイクロチャネル25が位置決めされない拡張領域1105がある。
図11Bは、
図11Aのレンダリングに対応する二重層の多コイル素子1100のためのモールド型の一例を示す。やはりここでも、
図11Bのモールド型は、製作をより簡単にするために曲線的な角を有する。しかし、他の態様において、モールド型は、
図11Aのレンダリングに示すような直線的な縁部を有することができる。
図11Cは、別々に製作された2つのコイル素子(単一のコイル素子)の一例を示す。コイル1は第1の層にあり、コイル2は第2の層にある。第1の層の拡張領域1105は、第2の層のマイクロチャネル25に対向し、その逆も同様である。たとえば、
図11Cに示されているように、コイル1のマイクロチャネルは、第2の層の拡張領域1105に対向する。
図11Dは、2つのコイルを有する二重層の多コイル素子1100の一例を示す。見て分かるように、コイルは、目標の重なり810が存在するように位置する。
【0071】
本開示の他の態様において、二重層の素子を成形する代わりに、二重層の素子1100’は、二重層の素子がより薄くなるように、上記で説明したのと同様にしてDIWによって製作することができる。たとえば、同じ層の各コイルのためのマイクロチャネルは、スピンコートされたシリコーン上に配設することができる。薄い封止部分は、各コイルのためのマイクロチャネル25の上に位置することができる。他方の層のためにそのプロセスを繰り返すことができる。やはりここでも、マイクロチャネル間の間隔は、目標の重なり810を実現するように設定することができる。各層は、目標の重なり810を実現するために、他方の層のマイクロチャネル25に対向する拡張領域1105を含むことができる。
図12は、DIWを使用して製作された二重層の多コイル素子1100’(2つのコイル)の一例を示す。
図12は、各コイルのための液体金属に接続された銅線(それぞれのMR画像チャネルにも取り付けられる)も示す。
【0072】
上記で説明したように、信号を抑制するために、造影剤などの材料をポリマー材料に添加することができる。これは、コイル素子がMR画像上で見られる明るさを低減する(またはコイル素子を見えなくさせる)ために使用することができる。コイル素子が見えても画像の品質に影響を及ぼすことはないが、放射線科医師はMR画像上でコイル素子を見るのに慣れていない。信号の強度(グラジエントリコールドエコー(GRE:gradient-recalled-echo)シーケンスの場合など)は、緩和時間T1およびT2に基づいている。ある一定の造影剤が、緩和のタイミングを変化させることができる。たとえば、Gd造影剤は、近くの水素プロトンの緩和を促進し、T1およびT2を両方とも短縮する。しかし、T1の短縮の場合、信号強度は上昇するが、T2の短縮の場合(特にGdが高濃度のとき)、信号強度は低下する。使用されるドーパントの量は、信号強度の目標の低下に基づくことができる。たとえば、マグネビスト対Ecoflex(登録商標)など、材料の体積比は、1:10から2:10,000の範囲でよい。たとえば、その比は5:100でよい。
【0073】
追加的なシミュレーションおよび測定
本明細書に記載されている単一のコイル素子および多コイル素子を、ある一定の伸張条件下でSNRを判定するためのシミュレーションおよび測定に使用した。
図13A~
図13Eは、シミュレートされたファントム上における、単一のコイル素子の場合のBフィールドに関するシミュレーション結果を示す。シミュレーションではコイルの以下の特性を使用した:約6cm×7cmである矩形ループ、インターデジタルコンデンサが8個のデジットを有し、各デジットの長さが7mm、デジット間の間隔が0.5mm、トレース幅が0.5mm。ポリマーはEcoflex(登録商標)、液体金属はEGaIn、ドーパントなしであった。ファントムは、平均的な組織特性を表す均質の矩形ファントムであった。中央軸方向断面の感度B1フィールドプロフィールは
図13A~
図13Eに示されている。伸張条件は、14%、26%、38%および50%(および伸張なし、
図13A)であった。
図13A~
図13Eを見ると分かるように、コイル感度は、伸張による影響を比較的受けなかった。しかし、(中央において)感度のわずかな低下があったが、コイルは、伸張されたときにより大きい領域をカバーでき、性能を、たとえば表面において0.75±0.06μTを維持することができる。
【0074】
上記で説明したように製作され、シミュレーションと同じ特性(目標伸張30%に対して特性を選択した)を有する、単一のコイル素子をファントム上に載置し、0%(
図13F)から50%(
図13J)まで徐々に伸張した。
図13F~
図13Jは、様々な伸張条件下で得られたSNRマップを示す。
図13F~
図13Jから分かるように、ポリマーおよび液体金属が画像上に現れている。高強度の2つの点が、液体金属コイルの縁部に相当する。
図13F~
図13Jを見ると分かるように、SNRは、30%まで伸張されるときに、たとえば、ファントムの表面においてSNR=516±46に維持されている。これは、目標伸張範囲内での概して9%の変動である。目標伸張範囲を超える30%超であっても、有効な画像を提供するSNRが維持され、そのSNRが市販の剛性コイルと同等であることに留意されたい。
【0075】
図13K~
図13Oは、正規化されたSNRマップを示す。SNRは、コイルの寸法に応じて変わり、したがって、SNRは、コイルの伸張と共に低下することが予想される。正規化はコイルのサイズに対して行った。
図13K~
図13Oも、安定したSNR(正規化された)性能を示す。
図13Pは、コイルの中央を通ってファントムまで測定された、正規化されたSNRを示す。30%未満の伸張の場合は、正規化されたSNRは約2%(561±12)だけ変動した。
【0076】
本開示の態様に従って製作された単一のコイル素子(約6cm×7cmである矩形ループ、インターデジタルコンデンサが8個のデジットを有し、各デジットの長さが7mm、デジット間の間隔が0.5mm、トレース幅が0.5mm、ポリマーがEcoflex(登録商標)、液体金属がEGaIn、ドーパントなし)の性能を、市販の膝コイルと比較した。市販の膝コイルは、専用の8チャネル膝コイルを有していた。健康な膝のサジタル面の高速スピンエコー画像を、伸張なしおよび15%伸張下で単一のコイル素子を用いて取得した。単一のコイル素子(単一チャネルのサーフェスコイル)を使用することで膝の一部分だけが見えており、それをボリューム型マルチチャネルコイルである8チャネルの市販の膝コイルと対比した。
図14A~
図14Cは高速スピンエコー画像を示し、
図14Aは、本明細書に記載されている伸張していない単一のコイル素子を使用して取得し、
図14Bは、本明細書に記載されている、15%伸張された単一のコイル素子を使用して取得し、
図14Cは、8チャネルの市販の膝コイルを使用して取得した。各図には2つの矩形が付されている。小さい方の矩形は、固有のSNR比較のためのものである。SNRは、
図14A、
図14Bおよび
図14Cで(小さい矩形において)それぞれ282、288および179であった。これは、8チャネルの市販の膝コイルに対して60%のSNRの上昇に相当する。大きい方の矩形は、改善されたSNRを強調している。単一のコイル素子が
図14A/
図14Bには示されているが、
図14Cには図示されていないことが留意される。
図14D~
図14Fは、同じサジタル面のスライスの対応するSNRマップである。これらのマップは、本明細書に記載されている単一のコイル素子のSNRが、8チャネルの市販の膝コイル(専用)に対して改善されていることを明確に示している。
図14D~
図14Fを見ると分かるように、(大きい方の矩形に対応する領域において)SNRは大幅に改善されている。このような大幅な改善は、伸張可能なコイルの形状適合する設計のおかげである。
【0077】
図15Aは、筒状ファントム1500上の6個のコイル(複数チャネルのコイル素子またはコイルアレイ)のシミュレーションを示す。均質の筒状ファントム上で互いに等距離になるようにコイルをシミュレートした。
図15B~
図15Gは、各コイルに関する個々の感度プロフィールを示す。本明細書に記載されている二重層の多コイル素子としてコイルをシミュレートした。コイル1、3、5は、ポリマーマトリックスの1つの層にあり、コイル2、4、5は別の層にある。上記で説明したものと同じ特性を有するように各コイルをシミュレートした。
図15B~
図15Gにおいて、各コイルの出力およびコイル間のクロストークを別々に試験するために、異なるコイルを励磁した。
図15B~
図15Gに示されているように、各コイルは同様の感度を有する。追加的に、
図15B~
図15Gは、コイルの1つが励磁されたときのクロストークのわずかな存在を示す。たとえば、
図15Bにおいて、コイルの1つが励磁されると、シェーディングによって示すように、隣接するコイルが小さい感度を示す(一方、隣接していないコイルは最小の感度を示すだけである)。
【0078】
図16A~
図16Dは、コイルが様々な伸張条件下にあり、コイルのすべてが励磁されているときの、シミュレートされた感度マップを示す。
図16Aは伸張なし(0%)を示し;
図16Bは10%の伸張を示し;
図16Cは20%の伸張を示し、
図16Dは30%の伸張を示す。
図16A~
図16Dは、コイルアレイとして組み立てられた本明細書に記載されているコイル素子が、伸張されている間も良好な感度を維持できることを示している。それらの図は、コイル素子(コイルアレイ)が湾曲面上で動作することも示す。
【0079】
図17A~
図17Fは、ファントム上の、本開示の態様による異なる技術で製作した多コイル素子の測定結果の比較を示す。各コイル素子は2つのコイルを有していた。
図17A/
図17Dにおいて、単一層の2コイル素子を使用した(成形した)(SL);
図17B/
図17Eにおいて、二重層(ダブル層とも称される)の2コイル素子を使用し(成形した)(DL)、
図17C/
図17Fにおいて、二重層の2コイル素子を使用した(DL-DIW)。各コイル素子は上記で説明したのと同じ特性を有していた。3T(GE Healthcare、MR750)で撮像するために、標準的な矩形シリコーンファントム(W=22cm、L=33cm、H=16cm)上にコイルを位置させた。3Dスポイルドグラジエントエコーシーケンスを使用した(TR=6.3ms、TE=2.4m(同相)、FOV=20cm、ピクセルサイズ0.8×0.8、FA=12°、BW=31.3kHz、スライス厚さ=1mm、NEX=1)。コイルのSNRマップは、
図17A~
図17Cに示されている(中央軸のスライスを通って測定した)。SNRマップにおいて、3つの線、垂直の線2つおよび水平の線1つが加えられている。垂直の線の一方が左のコイルの中央を通り、他方が右のコイルの中央を通る。水平の線は、ファントムの表面から1cm離れている。
図17Dは左の垂直の線に沿ったSNRを示し、
図17Eは右の垂直の線に沿ったSNRを示し、
図17Fは、水平の線に沿ったSNRを示し、ここで、SNRは3つのコイル素子すべてに対して示されている(SL、DL、およびDL-DIW)。素子(SLおよびDL)は
図17Aおよび
図17Bにおいてはっきりと見えるが、
図17Cでは、DL-DIWがずっと薄いと予想されている程度にわずかにしか見えない。DLは画像内でよりよく見える(
図17Aに対する
図17Bを参照)。図は、製作技術が同様の感度マップをもたらすことも示す。
【0080】
本開示の態様に従って製作されるDL-DIWの性能を市販の膝コイルと比較した。市販の膝コイルは、専用の8チャネルの膝コイルアレイを有していた。アキシャル面およびサジタル面の画像を取得した。伸張なしおよび15%伸張下でDL-DIWの場合の画像を取得した。以下のパラメータを有するFSEシーケンスを使用した:TR=4500ms、TE=8.2ms、FOV=18cm、ピクセルサイズ0.4×0.6、ETL=9、BW=83.3kHz、NEX=1、スライス厚さ=1mm。
図18Aは、市販の膝コイルを使用して取得した画像である(
図18Dは対応するSNRマップである)。
図18Bは、伸張されていないDL-DIWを使用して取得した(二重チャネルコイルとして識別される)画像である(
図18Eは対応するSNRマップである)。伸張されていない寸法は124mmである。
図18Cは、15%伸張されたDL-DIWを使用して取得した画像である(
図18Fは対応するSNRマップである)。
図18A~
図18Cを見ると分かるように、信号強度は、DL-DIW素子を使用することで、市販の膝コイルよりも(特に形状適合するコイル素子の近く)改善されている(画像はより明るい)。DL-DIWが膝の解剖学的構造にぴったりと形状適合するため、そのことは期待していた。
【0081】
SNRマップ(
図18D~
図18F)のそれぞれに比較ベースで三角形を加えた。SNRは、DL-DIWを用いることで市販の膝コイルよりも上昇した。たとえば、市販の膝コイルのSNRは40であり、DL-DIWでは52(伸張していない)および60(15%伸張)まで上昇した。DL-DIWのSNRの改善は、専用の市販の膝コイルと比べて最大50%である。
【0082】
ポリマー中のドーパントの濃度を変更することによって、ポリマーをドープする影響を試験した。Ecoflex(登録商標)ポリマーを使用した。ドーパントはマグネビスト(Gd造影剤)であった。造影剤をEcoflex(登録商標)と様々な体積比で混合することによって試料を調合した。各混合物を別々の試験管に載置した。詳細には、すべての試料を真空チャンバで脱気して空気の気泡を除去し、目盛り付きのプラスチック試験管に移し、室温で硬化させた。以下の濃度比を有するドープされた9つの試料および1つの純粋な試料(ドーパントなし)を用意した。(1)2:10,000;(2)5:10,000;(3)1:1,000;(4)2:1,000;(5)5:1,000;(6)1:100;(7)2:1000;(8)5:100;および(9)1:10。
【0083】
標準的な均質の筒状ファントムの周りで等距離に隔てて試料を載置した。外径は9.5cm、長さは30cmであった。32チャネル頭部コイル内にも試料を位置させた。3T MRIスキャナを使用した。平均の信号強度を判定するために対象の領域を識別した。スピンエコー(SE)シーケンスによる単一のアキシャルスライスを取得した(TR=1500ms、スライス厚さ5mm、32TEが8.3~133ms)。
【0084】
図19は、TE=33.2msにおけるドープした9つの試料および1つの純粋な試料の結果を示す。試料の濃度はx軸上に、信号強度はy軸上にある。信号強度は、初期には、濃度が純粋なものから1:1,000に上昇するにつれて上昇した(24%上昇)。しかし、その濃度よりも高くなると、信号強度は(1:10のときは、ドーパントなしの初期の信号強度のたった30%にまで)低下した。そのことは、T1およびT2が変化して、最終的にT2の変化が信号強度の低下を引き起こすため、予想された。
【0085】
様々な濃度のドーパント:(1)純粋なEcoflex(登録商標)(ドーパントなし);(2)5:100;(3)1:10を用いて上記で説明したように3つの単一のコイル素子を製作した。3つの単一コイル素子のコイル幾何形状は同じであった。単一のコイル素子をそれぞれ、矩形ファントム上に載置した。3T MRIスキャナを使用した。
【0086】
図20A~
図20Cは、均質ファントムのSE画像を示す。
図20Aにおいて、純粋なEcoflex(登録商標)から作られた単一のコイル素子のSE画像(
図20Aの右側)が、ポリマーマトリックスに対して5:100の比で作られた単一のコイル素子のSE画像(
図20Aの左側)と比較されている。
図20Bにおいて、純粋なEcoflex(登録商標)から作られた単一のコイル素子のSE画像(
図20Bの右側)が、ポリマーマトリックスに対して1:10の比で作られた単一のコイル素子のSE画像(
図20Bの左側)と比較されている。
図20Cにおいて、異なる比(
図20Cの左側の1:10;
図20Cの右側の5:100)で作られた異なる単一のコイル素子による、2つのSE画像が比較されている。
【0087】
図20A~
図20Cを見ると分かるように、5:100および1:10の比の場合に画像信号の低下がそれぞれ最大83%および92%になって、マグネビストでドープされた信号コイル素子はMR画像上で見えづらくなった。
【0088】
【0089】
【0090】
したがって、所望の場合は、ポリマーは、感度を犠牲にせずに画像上での素子の可視性を低下させるようにドープすることができる。
【0091】
ここで明細書および特許請求の範囲において、「約(about)」という用語は、変更によってプロセスまたはデバイスの不適合が生じない限り、列挙した値をある程度は変更できることを示す。たとえば、一部の素子に関して「約」という用語は、±0.1%の変動を表すことがあり、他の素子に関して「約」という用語は、±1%もしくは±10%、またはその間の任意の点を表すことがある。たとえば、mm単位の測定に使用されるときの約という用語は、±0.1、0.2、0.3などを含むことができ、ここで、提示した数字の間の差は、提示した数字が大きければ大きくてよい。たとえば、約1.5は1.2~1.8を含むことができ、ここで約20は19.0~21.0を含むことができる。
【0092】
本明細書で使用される専門用語は、特定の態様を説明する目的のものに過ぎず、本開示の範囲を限定する意図はなく、排他的なものではない。本開示の範囲および趣旨から逸脱することなく多数の修正例および改変例が当業者には理解されるであろう。
【国際調査報告】