(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】溶媒脱歴を介した溶媒SBNを変化させることによるメソフェーズ軟化点及び生産収率の制御
(51)【国際特許分類】
C10G 21/14 20060101AFI20240405BHJP
C10C 3/08 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C10G21/14
C10C3/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566458
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(85)【翻訳文提出日】2023-12-21
(86)【国際出願番号】 US2022025573
(87)【国際公開番号】W WO2022231910
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509004675
【氏名又は名称】エクソンモービル ケミカル パテンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100228005
【氏名又は名称】澤田 英之
(72)【発明者】
【氏名】リウ イフェイ
(72)【発明者】
【氏名】コーン スティーブン ティー
(72)【発明者】
【氏名】イエ ジェフリー シー
(72)【発明者】
【氏名】シュー テン
【テーマコード(参考)】
4H058
4H129
【Fターム(参考)】
4H058DA13
4H058DA32
4H058DA33
4H058EA17
4H058FA17
4H058GA02
4H058HA02
4H129AA02
4H129CA11
4H129DA06
4H129HB03
4H129NA06
(57)【要約】
メソフェーズピッチを製造するためのプロセスであって、前記プロセスは、等方性ピッチの溶媒と、前記溶媒を含有する溶媒画分及びメソフェーズピッチを含有する不溶性画分を生成するのに十分な条件の下で接触させること、及び前記メソフェーズピッチを回収することを含み、前記接触は溶解ブレンド数(SBN)を有する溶媒を含み、前記溶媒により、前記メソフェーズピッチが、ASTM D3104-14に準拠して測定された270°C~350°Cに及ぶ軟化点を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソフェーズピッチを製造するためのプロセスであって、
前記プロセスは、等方性ピッチを溶媒と、前記溶媒を含有する溶媒画分及びメソフェーズピッチを含有する不溶性画分を生成するのに十分な条件の下で接触させること、及び
前記メソフェーズピッチを回収することを含み、
前記接触は、前記メソフェーズピッチが、ASTM D3104-14に準拠して測定された270°C~350°Cに及ぶ軟化点を有するようにする溶解ブレンド数(S
BN)を有する溶媒を含む、プロセス。
【請求項2】
前記溶媒が30~90SUに及ぶ溶解ブレンド数(S
BN)を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記接触が、等方性ピッチの1グラム当たり3~8mlの割合で前記溶媒を導入することを含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記溶媒が芳香族溶媒を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記溶媒がヘプタン及びトルエンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
更に、ヘプタンのトルエンに対する比率を調節することを含む、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
軟化点が270°C~320°Cに及ぶ、請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
更に、メソフェーズ前駆体の回収率を増加させるため、及び軟化点を低下させるため、前記溶媒のSBNを低下させることを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記等方性ピッチが、
T5≧400°F(204°C)及びT95≦1,400°F(760°C)を有する原料を提供すること、及び
約420°C~約520°Cに及ぶ温度で前記原料を加熱し、前記等方性ピッチを含む熱処理生成物を生成すること、を含む工程により製造され、
前記加熱が[X
*Y]≧20,000秒の関係を満たすのに十分な条件下で実施され、
Xは前記加熱における当量反応時間(ERT)であり、Yは、ASTM D1159に準拠して測定される、前記原料における臭素価である、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記等方性ピッチが少なくとも1つの以下の物性を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のプロセス:
(a)ASTM D4530-15に準拠して測定され、約30%~約90%に及ぶマイクロ残留炭素分(MCR);
(b)ASTM D3104-14に準拠して測定され、約80°C~約250°Cに及ぶ軟化点;
(c)ASTM D4616-95(2018)に準拠して測定され、約0.5体積%を超えるメソフェーズピッチ含量;及び
(d)ASTM D2318-15に準拠して測定され、約1質量%を超えるキノリン不溶性物質含量。
【請求項11】
前記方法が、前記メソフェーズ前駆体の軟化点を350°C未満に維持するためにSBNを調節することを含む、請求項8に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月28日に出願された米国仮出願第63/180,845号の利益及び優先権を主張し、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
本開示は、2021年1月15日に出願された米国仮特許出願第63/138,051号の技術に関連し、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
本開示は、2021年4月8日に出願された米国仮特許出願第63/172,340号の技術に関連し、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、典型的には炭素繊維の製造における使用のための、メソフェーズピッチの製造に関連する。
【背景技術】
【0003】
等方性ピッチ及びメソフェーズピッチは、石炭若しくは石油原料の加工過程で生じる残渣より、又は、例えば低分子芳香族種の酸触媒による縮合のような他の方法により、形成することができる炭素含有原料である。炭素繊維の所定のグレードについて、等方性ピッチを最初の原料として使用することができる。しかし、等方性ピッチより製造する炭素繊維は、一般的にはほとんど分子配向を示さず、比較的乏しい機械特性を示す。等方性ピッチより形成する炭素繊維とは対照的に、メソフェーズピッチより製造する炭素繊維は、非常に好ましい分子配向及び比較的優れた機械特性を示す。それ故、炭素繊維の製造のために適したメソフェーズピッチを製造する能力を向上することができるシステム及び/又は方法を特定することが望ましい。
米国特許第4,208,267号は、メソフェーズピッチを形成するための方法を説明している。等方性ピッチサンプルは溶媒抽出される。前記抽出物は、その後230°C~約400°Cの範囲の高温に曝され、メソフェーズピッチを形成する。
米国特許第5,032,250号は、メソフェーズピッチを単離するためのプロセスを説明している。メソゲンを含む等方性ピッチは、溶媒と組み合わされ、濃密相又は超臨界条件に供され、及び前記メソゲンは相分離させる。
米国特許第5,259,947号は、溶媒和メソフェーズを形成するための方法を説明しており、これは、(1)炭素質芳香族性等方性ピッチを溶媒と組み合わせること、(2)前記組合せにおける不溶性材料を生成するのに十分な攪拌及び十分な熱を適用して、懸濁された液状溶媒和メソフェーズ小滴を形成すること、及び(3)固体としての不溶性材料又は液状溶媒和メソフェーズを回収すること、を含む。
他の関係のある潜在的な参照として、米国特許第9,222,027号、米国特許出願公開第2019/0382665号、及び米国特許出願公開第2020/0181497号が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】
図1は、本開示におけるプロセスの非限定的な例の略図である。
【
図2】
図2は、400°C+の軟化点を有するメソフェーズピッチの光学偏光顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、332°Cの軟化点を有するメソフェーズピッチの光学偏光顕微鏡写真である。
【
図4A】
図4Aは、トルエンから溶媒分別した不溶性物質の光学偏光顕微鏡写真である。
【
図4B】
図4Bは、ヘプタン:トルエン(70:30)から溶媒分別した不溶性物質の光学偏光顕微鏡写真である。
【発明の概要】
【0005】
要約
メソフェーズピッチを製造するためのプロセスであって、前記プロセスは、等方性ピッチを溶媒と、前記溶媒を含有する溶媒画分及びメソフェーズピッチを含有する不溶性画分を生成するのに十分な条件の下で接触させること、及び前記メソフェーズピッチを回収することを含み、前記接触は、前記メソフェーズピッチが、ASTM D3104-14に準拠して測定された270°C~350°Cに及ぶ軟化点を有するようにする溶解ブレンド数(Solubility Blending Number)(SBN)を有する溶媒を含む。
【0006】
前記プロセス中、前記溶媒は30~90SUに及ぶ溶解ブレンド数(SBN)を有してもよい。
前記プロセス中、前記接触は、等方性ピッチの1グラム当たり3~8mlの割合で前記溶媒を導入することを含んでもよい。
前記プロセス中、前記溶媒は芳香族溶媒を含んでもよい。
前記プロセス中、前記溶媒はヘプタン及びトルエンを含んでもよい。
前記プロセスは、更に、ヘプタンのトルエンに対する比率を調節することを含んでもよい。
前記プロセス中、軟化点は270°C~320°Cに及んでもよい。
前記プロセスは、メソフェーズ前駆体の回収率を増加させるため、及び軟化点を低下させるため、前記溶媒のSBNを低下させることを含んでもよい。
前記プロセス中、前記等方性ピッチは、T5≧400°F(204°C)及びT95≦1,400°F(760°C)を有する原料を提供すること、及び約420°C~約520°Cに及ぶ温度で前記原料を加熱し、前記等方性ピッチを含む熱処理生成物を生成すること、を含む工程により製造することができ、前記加熱は[X*Y]≧20,000秒の関係を満たすのに十分な条件下で実施され、Xは前記加熱における当量反応時間(equivalent reaction time)(ERT)であり、Yは、ASTM D1159に準拠して測定される、前記原料における臭素価である。
前記プロセス中、前記等方性ピッチは、少なくとも1つの以下の物性を有する:(a)ASTM D4530-15に準拠して測定され、約30%~約90%に及ぶマイクロ残留炭素分(MCR);(b)ASTM D3104-14に準拠して測定され、約80°C~約250°Cに及ぶ軟化点;(c)ASTM D4616-95(2018)に準拠して測定され、約0.5体積%を超えるメソフェーズピッチ含量;及び(d)ASTM D2318-15に準拠して測定され、約1質量%を超えるキノリン不溶性物質含量。
前記プロセス中、前記方法は、前記メソフェーズ前駆体の軟化点を350°C未満に維持するためにSBNを調節することを含んでもよい。
【発明を実施するための形態】
【0007】
好ましい実施形態の詳細な説明
本明細書中に記載された様々な実施形態は、メソフェーズピッチの製造のためのプロセスを提供する。相当量のメソフェーズ分子(メソフェーズ前駆体としても知られる)が等方性ピッチ中に存在する。しかし、それらは短距離秩序を有する液晶性ではなく、そのため整列することができないためにメソフェーズピッチではない。前記メソフェーズ前駆体を高温で再整列することで高メソフェーズ含量を実現するために、高溶解度数(例えば、70超、好ましくは80超、好ましくは90超、及び好ましくは100超)の溶媒を用いた溶媒脱歴を介して前記メソフェーズ前駆体を濃縮することができることが発見されている。
メソフェーズピッチをピッチベース炭素繊維に延伸するため、紡糸段階で加工可能であるために前記メソフェーズの物理特性は所定の基準を満たす必要がある。特定の一態様は、前記メソフェーズの軟化点が、理想的には350°C未満である一方で、高メソフェーズ含量を保持することである。本発明の技術的な進歩は、軟化点により定義されるこの紡糸の基準を満たしながら、中~高収率のメソフェーズを保持するという課題に対処することができる。
メソフェーズの軟化点が、等方性ピッチ内のメソフェーズ分子前駆体により、並びに芳香族に対する溶媒溶解力(SBNとしても知られる)により、制御されることが発見されている。具体的には、広い分子量分布を有するメソフェーズ分子は、MCBやスチームクラックタール等の重質炭化水素より、熱的脱アルキル化及び熱的脱水素化を通して生成される。前記メソフェーズ前駆体の分子組成は、熱的脱アルキル化と熱的脱水素化の厳しい条件に関連する。脱歴中に異なるSBNを有する溶媒を適用することで、フィードを主にメソフェーズ前駆体の、及び主に等方性ピッチの、画分に分けることができる。実質的に、前記溶媒のSBNを調節することは、軟化点を調節する取っ手のようなものである。メソフェーズ前駆体は再整列され、メソフェーズ結晶を形成する。分画化され、再整列されたメソフェーズ前駆体の平均分子量は、対応するメソフェーズの軟化点に影響する。
【0008】
本明細書中の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲中の全ての数値は、示された値に関して「約」又は「およそ」により修正され、当業者に予想され得る実験的な誤差及び変動を考慮に入れる。別段明示されない限り、室温は約23°Cである。
本明細書で使用される限り、「質量%」は質量百分率を意味し、「体積%」は体積百分率を意味し、「mоl%」はモル百分率を意味し、「ppm」は百万分率を意味し、並びに「ppm wt」及び「wppm」は意味の区別なく用いられ、重量ベースでの百万分率を意味する。本明細書で使用される全ての「ppm」は、別段明示されない限り質量によるppmである。本明細書中の全ての濃度は、問題となる組成物の全体量に基づいて表される。本明細書中の全ての範囲は、別段反対に説明され又は示されない限り、両方の端点を2つの特定の実施形態として含まなければならない。
【0009】
定義
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的のために、以下の用語を定義する。
本明細書で使用される限り、用語「アスファルテン」は、原油より得られ、1,200°F(650°C)を上回る初留点を有し、ヘキサンやヘプタン等の直鎖アルカン、即ちパラフィン溶媒に不溶な材料を意味する。
本明細書で使用される限り、用語「当量反応又は滞留時間(ERT)」は、動作の厳密さを意味し、468°Cで動作する反応器における54kcal/mоlの活性化エネルギーを有する反応についての秒で表す滞留時間として表される。動作におけるERTは、以下により計算する。
【数1】
式中、Wは動作における秒で表す滞留時間であり;eは2.71828であり;E
aは225,936J/mоlであり;Rは8.3145J・mоl
-1・K
-1であり;及びT
rxnはケルビンで表される動作温度である。一般的には、反応率は、温度で12~13°C上昇する毎に2倍になる。このため、468°Cにおける60秒の滞留時間は60ERTに等しく、温度を501°Cに上昇させると、動作が5倍激しくなり得、即ち300ERTである。他の方法で表すと、468°Cにおける300秒は、501°Cにおける60秒に等しく、いずれの条件設定でも、同じ生成混合物及び分配が得られる。
本明細書で使用される限り、用語「ピッチ」は、石油、石炭タール、又は有機物質の蒸留物より得られる粘弾性の炭素質残渣を意味する。本明細書中で別段規定されない限り、用語「ピッチ」は石油ピッチ(即ち、石油の蒸留物より得られるピッチ)を意味する。
本明細書で使用される限り、用語「等方性ピッチ」は、光学的秩序を有する液晶中に整列しない分子を含有するピッチを意味する。
本明細書で使用される限り、用語「メインカラムボトム(MCB)」は、流動触媒的クラッキングプロセスからの下層画分を意味する。
本明細書で使用される限り、用語「メソゲン」は、メソフェーズピッチ形成材料又はメソフェーズピッチ前駆体を意味する。
本明細書で使用される限り、用語「メソフェーズピッチ」は、構造的に秩序付けられた光学的異方性液晶のピッチを意味する。メソフェーズ構造は、光学的複屈折、光散乱、又はその他の散乱技術等の様々な技術により説明され、特徴づけられてもよい。
本明細書で使用される限り、用語「ミドカット(midcut)溶媒」は、スチームクラッカータールの改良中に生成する生成物の再利用部分を意味し、このような再利用部分は、約350°F(177°C)~約850°F(454°C)の大気沸騰範囲を有する。
【0010】
溶解ブレンド数(SBN)及び不溶性数(IN)
溶解ブレンド数(SBN)及び不溶性数(Insolubility Number)(IN)に対応するSU値は、本明細書中に記載する脱歴溶媒の溶解性を特徴付けるために使用することができる値である。
本明細書中に記載する脱歴溶媒についての不溶性数及び溶解ブレンド数を決定するための最初のステップは、前記脱歴溶媒がn-ヘプタンに不溶のアスファルテンを含むかを定めることである。これは、1体積の脱歴溶媒を5体積のn-ヘプタンと混合し、アスファルテンが不溶であるかを決定することにより、達成することができる。任意の従来的な方法を使用してもよい。可能性の1つは、50~600倍の倍率で光学顕微鏡を用いた透過光を用いて、試験用液状混合物と脱歴溶媒とを混合した液滴を、ガラススライド及びガラスカバースリップの間で観察することが挙げられる。前記アスファルテンが溶解性を示す場合、あったとしても、ほどんど、暗い粒子は観察されない。前記アスファルテンが不溶である場合、多くの暗い、通常は茶色の粒子が、通常0.5~10ミクロンのサイズで、観察される。他の可能性のある方法は、試験用液状混合物と脱歴溶媒とを混合した液滴を、1枚のフィルター紙の上に置き、乾燥させることが挙げられる。前記アスファルテンが不溶である場合、前記溶媒により形成される黄~茶色のスポットの大体中心の位置に、暗い輪又は円が見られる。前記アスファルテンが溶解性を示す場合、前記溶媒により形成されるスポットの色は比較的均一な色となる。前記脱歴溶媒がn-ヘプタンに不溶のアスファルテンを含むことが確認される場合、不溶性数及び溶解ブレンド数を決定するために以下の3つの段落に記載する手順に従う。前記脱歴溶媒がn-ヘプタンに不溶のアスファルテンを含むことが確認されない場合、不溶性数は0の値で与えられ、溶解ブレンド数は「アスファルテンを含まない脱歴溶媒」と名付けた節で説明する手順により決定される。
【0011】
アスファルテン含有脱歴溶媒
例えば、残油を含む重油等の、アスファルテンを含む脱歴溶媒についてのI
N及びS
BNの決定は、液状混合物を試験するために、最低でも2体積の比率の脱歴溶媒で試験用液状混合物中の脱歴溶媒の溶解性を試験することを必要とする。試験用液状混合物は、2つの液体を様々な比率で混合することにより調製する。1つの液体は非極性であり(試験溶媒A)、脱歴溶媒中の前記アスファルテンのための溶媒である。もう1つの液体は非極性であり(試験溶媒B)、脱歴溶媒中の前記アスファルテンのための非溶媒である。試験溶媒Aは典型的にはトルエンであり、試験溶媒Bは典型的にはn-ヘプタンである。
試験用液状混合物に対する油分の適切な体積比は、最初の試験のために、例えば5mlの試験用液状混合物に対して1mlの油分が選択される。その後、n-ヘプタン及びトルエンを様々な既知の比率で混合することにより、前記試験用液状混合物の様々な混合物が調製される。これらの各々を、試験用液状混合物に対する脱歴溶媒の選択された体積比で前記脱歴溶媒と混合する。その後、これらの各々について、前記アスファルテンが溶解性であるか、又は不溶性であるかを決定する。任意の従来法を使用してもよい。例えば、50~600倍の倍率で光学顕微鏡で透過光を用いて、試験用液状混合物と脱歴溶媒とを混合した液滴を、ガラススライド及びガラスカバースリップの間で観察することができる。前記アスファルテンが溶解性を示す場合、あったとしても、ほとんど、暗い粒子は観察されない。前記アスファルテンが不溶性である場合、多くの暗い、通常は茶色の、粒子が、通常0.5~10ミクロンのサイズで観察される。脱歴溶媒と全ての前記試験用液状混合物との混合の結果は、前記試験用液状混合物中のトルエンの割合を増加させながら順序付ける。所望の値は、アスファルテンが溶解するトルエンの最小割合及びアスファルテンが析出するトルエンの最大割合の間である。より多くの試験用液状混合物をこれらの制限の間での割合のトルエンを用いて調製し、試験用液状混合物に対する選択された油分の体積比で油分と混合し、前記アスファルテンが溶解性であるか、又は不溶性であるかを決定する。所望の値は、アスファルテンが溶解するトルエンの最小割合及びアスファルテンが析出するトルエンの最大割合の間である。このプロセスは、所望の正確さの範囲内で所望の値が決定されるまで続ける。最終的に、所望の値は、アスファルテンが溶解するトルエンの最小割合及びアスファルテンが析出するトルエンの最大割合を意味するものとされる。これは、試験用液状混合物に対する選択された油分の体積比R
1における、第1のデータポイントT
1である。この試験は、トルエン等価試験と呼ばれる。
第2のデータポイントは、試験用液状混合物に対する脱歴溶媒の異なる体積比を選択することのみにより、第1のデータポイントと同様のプロセスにより、決定することができる。あるいは、第1のデータポイントについて決定されるものを下回る割合のトルエンを選択することができ、試験用液状混合物は、アスファルテンが丁度析出し始めるまで、既知の体積の油分に添加することができる。試験用液状混合物中の選択された割合のトルエンでの、試験用液状混合物に対する油分の体積比R
2のポイントT
2で、第2のデータポイントとなる。最終的な数の正確さは、第2のデータポイントが第1のデータポイントから離れれば離れるほど増大するため、第2のデータポイントを決定するための好ましい試験用液状混合物は0%トルエン又は100%n-ヘプタンである。この試験は、ヘプタン希釈試験と呼ばれる。
不溶性数(I
N)は、以下により定義する。
【数2】
溶解ブレンド数(S
BN)は、以下により定義する。
【数3】
【0012】
アスファルテンを含まない脱歴溶媒
前記脱歴溶媒がアスファルテンを含まない場合、不溶性数はゼロである。しかし、アスファルテンを含まない脱歴溶媒についての溶解ブレンド数の決定は、先に記載した手順を用いて不溶性数及び溶解ブレンド数が前もって決定されているアスファルテンを含む試験油分を使用することを必要とする。最初に、1体積の試験油分を、5体積の脱歴溶媒と混合する。上述の顕微鏡又はスポット技術により、不溶性のアスファルテンを検出することができる。前記油分の粘性が非常に高い場合(100センチポイズ超)、不溶性のアスファルテンを調べる前に、それらを混合する間100°Cまで加熱し、その後室温まで冷却してもよい。同様に、50°C~70°C、オーブン中で粘性油分の混合物についてスポットテストを行ってもよい。不溶性のアスファルテンが検出される場合、前記脱歴溶媒は前記試験油分のための非溶媒であり、次の段落に記載する手順を続けるべきである。しかし、不溶性のアスファルテンが検出されない場合、前記脱歴溶媒は前記試験油分のための溶媒であり、次の段落に続く段落に記載する手順を続けるべきである。
1体積の前記試験油分と5体積の前記脱歴溶媒を混合したときに不溶性のアスファルテンが検出された場合、不溶性のアスファルテンが検出されるまで5mlの前記試験油分に対して前記脱歴溶媒の小体積ずつ添加する。非溶媒油分の体積(V
NSO)は、不溶性のアスファルテンが検出される直前の体積増分について添加された前記脱歴溶媒の全体積及び不溶性のアスファルテンが最初に検出されたときに添加された全体積の平均に等しい。体積増分のサイズは、所望の正確さに必要とされる点まで減少させてもよい。これは、非溶媒油分の希釈試験と呼ばれる。S
BNTOが前記試験油分の溶解ブレンド数であり、I
NTOが前記試験油分の不溶性数である場合、非溶媒油分の溶解ブレンド数(S
BN)は下記により与えられる。
【数4】
1体積の前記試験油分と5体積の前記脱歴溶媒を混合したときに不溶性のアスファルテンが検出されなかった場合、前記脱歴溶媒は前記試験油分のための溶媒油分である。前記試験油分についての不溶性数及び溶解ブレンド数を測定するために使用したものと同じ油分対試験用液状混合物の体積比(R
TO)が選択される。しかし、ここでは、トルエン及びn-ヘプタンの代わりに、異なる既知の割合の石油系油分及びn-ヘプタンを混合することにより、試験用液体の様々な混合物が調製される。これらの各々は、R
TOに等しい油分対試験用液状混合物の体積比率で、前記試験油分と混合する。その後、例えば前述した顕微鏡又はスポットテスト法により、アスファルテンが溶解性であるか又は不溶性であるかを、これらの各々について決定される。油分と全ての前記試験用液状混合物との混合の結果は、前記試験用液状混合物中の脱歴溶媒の割合を増加させながら順番に並べる。所望の値は、アスファルテンが溶解する石油系油分の最小割合及びアスファルテンが析出する脱歴溶媒の最大割合の間である。より多くの試験用液状混合物をこれらの制限の間での割合の脱歴溶媒とともに調製し、選択された試験油分対試験用液状混合物の体積比(R
TO)で前記試験油分と混合し、アスファルテンが溶解性であるか、又は不溶性であるかを決定する。所望の値は、アスファルテンが溶解する脱歴溶媒の最小割合及びアスファルテンが析出する脱歴溶媒の最大割合の間である。このプロセスは、所望の正確さの範囲内で所望の値が決定されるまで続ける。最終的に、所望の値は、アスファルテンが溶解する脱歴溶媒の最小割合及びアスファルテンが析出する脱歴溶媒の最大割合を意味するものとされる。これは、選択された試験油分対試験用液状混合物の体積比(R
TO)における、データポイント(T
SO)である。この試験は、溶媒油分等価試験と呼ばれる。T
TOが、異なる比率のトルエン及びn-ヘプタンが配合された試験液体とともに前記試験油分において試験油分対試験用液状混合物の体積比(R
TO)において前もって測定されたデータポイントである場合、前記脱歴溶媒の溶解ブレンド数(S
BN)は下記により与えられる。
【数5】
【0013】
光学顕微鏡法によるメソフェーズピッチ含量
本明細書中で特段言及されない限り、試料中のメソフェーズピッチ含量は、以下の手順に準拠して光学顕微鏡法により決定する。前記試料のデジタル画像は、光学顕微鏡を用いて作成する。次いで、前記デジタル画像の合計画素数のヒストグラムを作成し、より明るい強度の領域は、高屈折率に起因するメソフェーズピッチに対応する。前記画像は、閾値化によりメソフェーズピッチと非メソフェーズピッチ領域に分割され、所定の閾値より低い強度を有する領域は、メソフェーズピッチに対応する。%領域における前記試料のメソフェーズピッチ含量の推定値(その結果が、体積%の推定値に対応するものとして外挿することができる)は、前記画像の非メソフェーズピッチ領域を減算し、続いて前記画像のメソフェーズピッチ領域の合計量を前記画像の総面積で除算することにより得ることができる。
次に、本発明のある態様をより詳細に説明する。以下の説明は特定の態様に関連するものの、これらはほんの例示にすぎず、及び本発明を別の方法で実施することができることが、当業者に理解される。「発明」への参照は、1又は複数の、しかし必ずしも全てではない、特許請求の範囲により定義される発明を意味する。表題の使用は、単に便宜的なものに過ぎず、これらは特定の態様に対する発明の範囲を制限するものとして解釈してはならない。
【0014】
重質原料
本開示のプロセスで、重質原料は沸点範囲により特徴付けられてもよい。沸点範囲を定義するための1つの選択肢は、フィードについての初期沸点及び/又はフィードについての最終沸点を使用することが挙げられる。他の選択肢は、ある場合におけるフィードについてのより代表的な説明を提供するものであり、1又は複数の温度で沸騰する前記フィードの量に基づいたフィードを特徴付ける。例えば、フィードの「T5」沸点は、5質量%の前記フィードが完全に沸騰する温度として定義される。同様に、「T95」沸点は、95質量%の前記フィードが完全に沸騰する温度である。既定の温度で沸騰するフィードの割合は、例えばASTM D2887の方法により(又は、ASTM D2887が特定の留分にとって不適切な場合は、ASTM D7169の方法により)、決定することができる。一般的に、前記重質原料はT5≧400°F(204°C)及びT95≦1,400°F(760°C)を有してもよい。そのような重質原料の例として、1,050°F+(566°C+)留分を有する原料が含まれる。ある態様において、566°C+留分は、1質量%以上の前記重質原料(即ち、T99が566°C以上)、又は2質量%以上(T98が566°C以上)、又は10質量%以上(T90が566°C以上)、又は15質量%以上(T85が566°C以上)、又は30質量%以上(T70がが566°C以上)、又は40質量%以上(T60がが566°C以上)、例えば約1質量%~約40質量%、又は約2質量%~約30質量%、に対応することができる。
本開示の重質原料は、臭素価により測定される反応性により特徴付けられてもよい。本開示の重質原料は、≧3、又は≧5、又は≧10、又は≧30、又は≧40、例えば約3~約50、又は約5~約40、又は約10~約30の、ASTM D1159に準拠して測定される臭素価を有してもよい。
本開示の重質原料は、芳香族含量により特徴付けられてもよい。本開示の重質原料は、約40mоl%以上の芳香族炭素、又は約50mоl%以上、又は約60mоl%以上、例えば最大約75mоl%又は可能であれば更に高い芳香族炭素、を含んでもよい。前記重質原料の芳香族炭素含量は、ASTM D5186に準拠して決定してもよい。
本開示の重質原料は、平均炭素数により特徴付けられてもよい。本開示の重質原料は、約33~約45(例えば、約35~約40、又は約37~約42、又は約40~約45)の平均炭素数を有する炭化水素で構成されてもよい。
【0015】
本開示の重質原料は、ASTM D4530-15により決定されるマイクロ残留炭素分(MCR)により特徴付けられてもよい。本開示の重質原料は、約5質量%以上(例えば、約5質量%~約45質量%、又は約10質量%~約45質量%)のMCRを有してもよい。
本開示の重質原料は、水素含量により特徴付けられてもよい。本開示の重質原料は、一般的には約6質量%~約11質量%、例えば約6質量%~約10質量%の水素含量を有する。
本開示の重質原料は、多核式芳香族炭化水素(PNA)及び多環式芳香族炭化水素(PAH)の累積的濃度により特徴付けられてもよい。本開示の原料は、約20質量%以上(例えば、約50質量%~約90質量%)の部分的に水素化されたPNA及び部分的に水素化されたPAHの累積的濃度を有してもよい。
ある態様において、好適な重質原料は、約50wppm~約10,000wppmの元素窒素又はそれ以上(即ち、前記原料中の様々な窒素含有化合物における窒素の質量)を含むことができる。更に又はあるいは、前記重質原料は、約100wppm~約20,000wppmの元素硫黄、好ましくは約100wppm~約5,000wppmの元素硫黄を含むことができる。硫黄は、通常有機結合硫黄として存在する。そのような硫黄化合物の例として、例えばチオフェン、テトラヒドロチオフェン、ベンゾチオフェン、及びそれらの高位同族体及び類縁体等のヘテロ環硫黄化合物のクラスが含まれる。他の有機結合硫黄化合物として、脂肪族、ナフテン系、及び芳香族メルカプタン、スルフィド、並びにジ-及びポリスルフィドが含まれる。
好適な重質原料の例として、メインカラムボトム(MCB)、スチームクラッカータール、真空残留物、脱歴残渣又はロック、前述のいずれかの水素処理(hydroprocessed)若しくは水素化処理(hydrotreated)形態、及び先述のいずれかの組合せを含むが、これらに限定されない。好ましい重質原料は、水素処理されたMCBであってもよい。他の好ましい重質原料の例は、水素化処理されたスチームクラッカータールである。スチームクラッカータール及びその後の水素化処理は、例えば、米国特許第8,105,479号に開示されたもの(その全体が、参照により本明細書に組み込まれる)を含む任意の適切な方法、により生成/実施することができる。
【0016】
熱処理
本開示のプロセスで、前記重質原料は、一般的に、前記重質原料を脱アルキル化及び/又は脱水素化し、等方性ピッチを生成するために、熱処理工程に供される。上述した通り、任意の理論に拘束されることを望まず、前記原料の反応性に関連して十分に過酷な条件の下、前記熱処理工程を実施することにより、得られる等方性ピッチ中でメソゲンが有利に形成され、その後脱歴によりメソフェーズの凝集体になり得ると信じられている。しばしば、そのような条件は、ビスブレーキングにおいて採用される条件より過酷である。より具体的には、一般的に、前記熱処理は、約420°C~約520°C、好ましくは約480°C~約510°Cに及ぶ温度で、約5分~8時間、より好ましくは約5分~約1時間、及び最も好ましくは約5分~約30分、例えば約10分~約30分に及ぶ滞留時間で、実施してもよい。一般的には、前記熱処理工程に必要な過酷さは、前記重質原料の臭素価に依存する。典型的には、前記熱処理条件に必要な過酷さは、前記重質原料の臭素価が減少するにつれて増加する。一般的には、前記熱処理は、[X*Y]≧20,000秒(例えば、≧30,000秒、又は≧50,000秒、又は≧70,000秒、又は≧200,000秒、又は≧500,000秒、又は≧700,000秒)の関係を満たすのに十分な条件の下、実施される(式中Xは前記加熱における当量反応時間であり、式中Yは前記原料の臭素価である)。例えば、[X*Y]は、約20,000~約1,000,000秒、例えば、約30,000秒~約700,000秒、又は約50,000秒~約500,000秒、又は約50,000秒~約100,000秒に及んでもよい。例えば、前記重質原料が10以上の臭素価を有する実施形態において、前記熱処理工程の最小ERTは、約2,000秒以下、例えば500秒の最小ERTであってもよい。前記重質原料が10未満の臭素価を有する実施形態において、前記熱処理工程の最小ERTは、約2,000秒超、例えば10,000秒の最小ERT、又はあるいは8,000秒の最小ERTであってもよい。
前記熱処理工程における好適な圧力は、約200psig(1,380kPa-g)~約2,000psig(13,800kPa-g)、例えば約400psig(2,760kPa-g)~約1,800psig(12,400kPa-g)に及んでもよい。前記熱処理は、例えばタンク、パイプ、チューブ状反応容器、又は蒸留カラム等の任意の適切な容器中で実施してもよい。前記熱処理を実施するために採用され得る好適な反応器の構造の例は、米国特許第9,222,027号に記載されており、その全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
一般的に、前記熱処理生成物は液状である。ある態様において、前記熱処理生成物は、例えばフラッシング、蒸留、分別、沸点範囲に基づく他のタイプの分離方法等、好ましくは減圧蒸留によって、更に加工されて本明細書に記載される等方性ピッチを生成してもよい。例えば、しばしば前記熱処理生成物は、1又は複数のディーゼル及び/又はガソリンを含む軽質留分並びに本明細書に記載の等方性ピッチを含む重質留分を含む。そのような態様において、前記等方性ピッチを含む重質留分の収率は、典型的には前記熱処理生成物の約50質量%を超え、例えば約60質量%超、好ましくは約80質量%超である。
【0017】
等方性ピッチ
前記熱処理(及び任意で続く分離工程)より結果的に得られる等方性ピッチは、ASTM D4530-15に準拠して測定されるマイクロ残留炭素分(MCR)により特徴付けられてもよい。一般的には、本開示の等方性ピッチは、30質量%以上(例えば、好ましくは約50質量%以上、更により好ましくは約60質量%以上)のMCRを有してもよい。例えば、好適な等方性ピッチは、約30質量%~約90質量%、好ましくは約50質量%~約90質量%、更により好ましくは約60質量%~約90質量%に及ぶMCRを有してもよい。典型的には、前記等方性ピッチは、前記重質原料のMCRより少なくとも5%多い、例えば少なくとも10%多い、より好ましくは少なくとも20%多いMCRを有する。
本開示の等方性ピッチは、ASTM D3104-14に準拠して測定される軟化点により特徴付けられてもよい。一般的には、本開示の等方性ピッチは、約80°C以上、好ましくは約100°C以上、より好ましくは約120°C以上、更により好ましくは約200°C(例えば、好ましくは約80°C~約250°Cに及び、より好ましくは約100°C~約250°C、更により好ましくは約150°C~約250°Cに及ぶ)の軟化点を有してもよい。
本開示の等方性ピッチは、ASTM D2318-15に準拠して測定されるキノリン不溶性物質含量により特徴付けられてもよい。一般的には、本開示の等方性ピッチは、約1質量%以上(例えば、好ましくは約2質量%以上、更により好ましくは約5質量%以上、例えば約1質量%~約10質量%)のキノリン不溶性物質含量を有してもよい。
本開示の等方性ピッチは、メソフェーズピッチ含量により特徴付けられてもよい。しばしば、本開示の等方性ピッチは、ASTM D4616-95(2018)に準拠して測定される、約0.5質量%超及び/又は約0.5体積%超、例えば約0.5質量%~約1質量%のメソフェーズピッチ含量を有してもよい。あるいは、本開示の等方性ピッチは、ASTM D4616-95(2018)に準拠して測定される、0.5質量%未満、例えば約0質量%又は約0体積%のメソフェーズピッチ含量を有してもよい。
本開示の等方性ピッチは、水素含量により特徴付けられてもよい。一般的には、本開示の等方性ピッチは、約8質量%未満(例えば、好ましくは約6質量%以下、例えば約4質量%~約6質量%)の水素含量を有してもよい。
本開示の等方性ピッチは、硫黄含量により特徴付けられてもよい。一般的には、本開示の等方性ピッチは、約2質量%未満(例えば、好ましくは約1質量%以下、更により好ましくは約0.5質量%以下)、例えば約0質量%~約2質量%の硫黄含量を有してもよい。
【0018】
脱歴溶媒
本開示のプロセスにおいて、溶解ブレンド数(S
BN)に基づき適切な脱歴溶媒を選択することができる。典型的には、前記脱歴溶媒は、少なくとも約10の溶解力単位(「SU」)のS
BNを有する。例えば、本発明の技術的進歩のために適切な脱歴溶媒は、約70~約150SU、例えば約80~約130SU、又は約90~約130SU、又は約90~約150SU、又は約50~60SU、又は約70~約130SUのS
BNを有してもよい。好ましくは、中程度~高度のメソフェーズ含量を保持しつつ、炭素繊維紡糸のための所望の軟化点を得るために、SBNは、より適切なレベル、30~90SU、及びより好ましくは50~90SUであってもよい。100を上回るSUでは、軟化点が350°C以上に上昇する。
本開示の脱歴溶媒は、沸点により特徴付けられてもよい。ある態様において、前記脱歴溶媒は、およそ65°C~200°C、例えば約100°C~約175°Cの大気沸点範囲を有してもよい。有利には、前記脱歴溶媒の大気沸点範囲は、本明細書に記載する抽出プロセスから、例えば蒸留により、前記溶媒の回収を促進するために、約200°C未満であってもよい。
好適な脱歴溶媒の例として、C
2-C
10パラフィン、例えばペンタン、ヘプタン、及びブタン;トルエン、キシレン、エチルベンゼン、及びトリメチルベンゼン等の単環式芳香族;多環式芳香族、例えばナフタレン、メチルナフタレン、インダン、テトラリン、及びアントラセン;ピリジン等のヘテロ原子を含む芳香族;テトラヒドロフラン等の他のヘテロ原子化合物;ヘビーナフサ、ケロセン、及び/又はライトディーゼル画分;重油原料の改良中に生成する生成物の再利用部分、例えばスチームクラッカータール;及び適切な融点範囲を有する他の炭化水素又は炭化水素様画分、を含むが、これらに限定されない。スチームクラッカータールの改良中に生成する生成物の再利用部分が前記脱歴溶媒に含まれるとき、前記再利用部分のための蒸留カットポイントは、適切な沸点範囲及び/又は適切なS
BNを提供するために調節することができる。典型的には、前記再利用部分についての適切な大気沸点範囲は、約350°F(177°C)~約850°F(454°C)に及び、即ちミドカット溶媒である。ミドカット溶媒を得るための好ましい重油原料改良プロセスは、米国特許出願第2020/0071627号に更に記載され、それは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。ある態様において、ヘキサン又はヘプタン等のパラフィンは、溶媒混合物の溶解性パラメーターを調整するための共溶媒として、好ましくは前記溶媒の全体積に基づき最大約90体積%までの量、例えば約10体積%で含まれてもよい。例えば、好ましい脱歴溶媒は、約0~約90体積%のパラフィン、例えばn-ヘプタン、及び約10~約100体積%のトルエン、例えば90体積%のトルエン及び10体積%のn-ヘプタン又はあるいは80体積%のトルエン及び20体積%のn-ヘプタン、又はあるいは70体積%のトルエン及び30体積%のn-ヘプタン、又は更にあるいは10体積%のトルエン及び90体積%のn-ヘプタンを含んでもよい。好ましい脱歴溶媒の例をそのS
BN値とともに表1に示す。
【表1】
【0019】
溶媒抽出
本開示のプロセスで、典型的な溶媒抽出条件は、約10:1~約1:1、例えば約8:1又はそれ以下の体積比率(脱歴溶媒:等方性ピッチ)で前記等方性ピッチを前記脱歴溶媒と混合することを含む。典型的には、前記抽出は、溶液相中で前記溶媒を保持するのに適した条件の下実施する。例えば、前記抽出は、好ましくは約90°C~約350°C、好ましくは約150°C~約350°C、更により好ましくは約200°C~約350°Cの範囲の温度、約15psig(約105kPa-g)~約800psig(約5,600kPa-g)の範囲の合計圧力、及び約5分~約5時間の滞留時間を含む抽出条件の下、実施してもよい。典型的には、前記抽出は、攪拌、例えば回転式スターラーを用いた機械的攪拌で実施してもよい。好適な攪拌率は、約10RPM~約8,500RPM、例えば約50RPM~約5,000RPMに及んでもよい。
【0020】
前記等方性ピッチを前記脱歴溶媒と接触させることにより、少なくとも2つのタイプの生成物流が生じる。生成物流の1つのタイプは、前記脱歴溶媒の大部分及び前記熱処理生成物の大部分を含む溶媒相画分、又は前記脱歴溶媒に溶解する結果的な分離された重質画分であってもよい。少なくとも、前記脱歴溶媒の一部は、典型的には、再利用のために、溶媒相画分から、例えば蒸留により回収し、溶媒抽出のために、回収した脱歴溶媒を再利用する。前記脱歴溶媒の回収後に得られる溶媒相の一部は、一般的には、前記熱処理工程に任意で再利用されてもよい、脱歴油(DAO)としても知られる、補足的なピッチ生成物を含有する。ロックとしても知られる不溶性画分(生成物流の2つ目のタイプ)は、前記等方性ピッチの残りの部分、つまり前記脱歴溶媒に溶解しない部分を含む。一般的には、前記不溶性画分は、メソフェーズピッチ並びに付随的な残留溶媒及びメソフェーズピッチ前駆体を含有する。更に又はあるいは、前記不溶性画分はその後熱処理工程に供されてもよく、残りのメソフェーズ前駆体がメソフェーズピッチに変換される。任意の熱処理工程は、約300°C~約350°Cに及ぶ温度で実施してもよく、及び溶媒、好ましくは低沸点溶媒(例えば約200°F(93.3°C)~約650°F(343°C)に及ぶ大気沸点範囲を有するもの)の存在下実施してもよい。前記不溶性画分から残留溶媒を除くために任意の従来の分離形態(例えば、乾燥、蒸留、分画化、沸点範囲に基づく他のタイプの分離等の1又は複数)を使用してもよい。任意で、得られた回収された残留溶媒は、溶媒抽出のために再利用して再使用してもよい。一般的には、前記残留溶媒が除かれた後に前記不溶性画分より回収されて得られる残りの固体生成物の収率は、少なくとも約10質量%、好ましくは少なくとも約15質量%、例えば約10質量%~約50質量%、又は約20質量%~約40質量%である。前記回収された固体生成物は、典型的には約30体積%以上の光学活性画分、例えば約30体積%~約95体積%又は約50体積%~約85体積%を含有する。ある態様において、前記回収された固体生成中のキノリン不溶性物質含量は、約75質量%以下、又は約50質量%以下、又は約30質量%以下、例えば約0質量%~約30質量%であってもよい。更に又はあるいは、回収された固体生成物中のトルエン不溶性物質含量は、約80質量%以下、又は約60質量%以下、又は約40質量%以下、又は約30質量%以下、例えば約0質量%~約30質量%であってもよい。
【0021】
炭素繊維
本明細書に記載する溶媒抽出プロセスより得られるメソフェーズピッチは、例えば従来の溶融紡糸プロセスを用いて炭素繊維を形成するために使用してもよい。炭素繊維の形成のための溶融紡糸は、既知の技術である。例えば、書籍「Carbon-Carbon Materials and Composites」は、D. D. Edie 及びR. J. Diefendorfにより「Carbon Fiber Manufacturing」というタイトルが付けられた章を含む。他の例としては、論文「Melt Spinning Pitch-Based Carbon Fibers」, Carbon, v.27(5), p647, (1989)がある。
【0022】
プロセスの概略
本明細書中に公開するプロセスは、バッチ、セミバッチ、連続、半連続プロセス、又はそれらの任意の組合せであってもよく、好ましくは連続プロセスである。
図1は、本開示の非限定的な例示的プロセス100の概略を示す。重質原料102が、容器104中で[X
*Y]≧20,000秒の関係を満たすのに十分な条件の下、熱処理工程に供される(式中Xは前記加熱における当量反応時間であり、式中Yは前記原料102の臭素価である)。前記熱処理工程が容器104中で実施され、等方性ピッチを含有する熱処理生成物106が形成される。しばしば(必須ではないが)、前記熱処理生成物106は分離工程に供され、等方性ピッチを含有する重質画分108及び軽質画分110を形成してもよい。任意的に、前記軽質画分110は燃料油と混合してもよい。得られた熱処理生成物106又は重質画分108は溶媒抽出装置112へと通され、脱歴溶媒114を伴う。前記脱歴溶媒114のSBNは、前記メソフェーズピッチが、ASTM D3104-14に準拠して測定される、270°C~350°C(又は270~340、又は280~320、又は270~310)に及ぶ軟化点を有するよう、選択することができる。更に、前記溶媒114が2種以上の溶媒の組合せであるとき、前記2種の溶媒の比率は、前記メソフェーズピッチの軟化点に関するフィードバックに基づいて比率を変化させることにより、動的に制御することができる。前記溶媒は、等方性ピッチ1グラムあたり3~8mlの比率で導入することができる。前記溶媒のSBNを下げることで、軟化点を下げる一方、前記メソフェーズ前駆体の回収率を増加することができる。低SBN溶媒を使用する意図は、軟化点を下げることである。同様の条件下(実施例に示す通り)、低SBNを有するものは低いメソフェーズ含量を有する傾向にあるが、その意図はメソフェーズ含量を下げるよう設定することではない。しかし、繊維紡糸のために、目標は所望の軟化点、高メソフェーズ含量を伴う中~高収率の組合せを見出すことである。本発明の技術的進歩は、軟化点を収率で調節する取っ手を提供することができる。1つの副次的な影響として、前記メソフェーズ含量を同じ条件で下げる点がある。前記脱歴条件は、メソフェーズ含量が損なわれることがないよう、最適化することができる。このように、直感に反するかもしれないが、前記メソフェーズ含量の収率の低下は、得られたメソフェーズ前駆体が炭素繊維紡糸に適したより望ましい軟化点を有するメソフェーズピッチを生成することによる改良である。
前記溶媒114を添加することにより、大部分の脱歴溶媒114及び大部分の熱処理生成物106の一部、又は前記脱歴溶媒114に溶解する重質画分108を含む溶媒相画分116を形成する。前記熱処理生成物106又は重質画分108の不溶性部分の大部分を含む不溶性画分118、即ちロック、もまた形成される。一般的に、前記不溶性画分118は、メソフェーズピッチ並びに付随的な残留溶媒及びメソフェーズピッチ前駆体を含有する。しばしば(必須ではないが)、本明細書に記載した通り、前記不溶性画分118はその後熱処理工程(省略)に供されてもよく、残りのメソフェーズ前駆体がメソフェーズピッチに変換される。しばしば(必須ではないが)、溶媒相画分116の一部は分離工程に供されてもよく、回収された溶媒流122及び脱歴油(DAO)120を形成する。任意で、少なくとも一部の回収された脱歴溶媒流122は、脱歴溶媒流122と組合せて、又は単離されたストリームにより、溶媒抽出装置112に再循環してもよい。追加的に、任意で少なくとも一部のDAO120及び/又は少なくとも一部の前記不溶性物質118を、重質原料102と組合せて、又は単離されたストリームにより、容器104に再循環してもよい。
【0023】
以下の実施例は、本発明を説明する。数多くの修正及び変動が可能であり、添付された特許請求の範囲内で、本発明は本明細書中に具体的に記載されたものとは異なる形で実施してもよいことが理解されている。
等方性ピッチの製造についての更なる説明は、米国仮特許出願第63/138,051号に記載されており、ここでは繰り返さない。
【実施例】
【0024】
実施例1。等方性ピッチの調製の厳しさは、対応するメソフェーズの軟化点に影響を与える。
原料として選択される等方性ピッチは、熱的脱アルキル化及び熱的脱水素化を介したスチームクラッカータール由来の生成物である。表2は、2つの等方性ピッチ調製プロセスの厳しい条件及びこれらの等方性ピッチの物性を示す。厳しさの程度を定量化するために、当量反応時間(ERT)を使用し、より高い数字がより厳しいことを意味する。ERTは、54kcal/mоlの活性化エネルギーを有する468°Cでの典型的なビスブレーキング条件に関して指定したプロセス条件における相対的な滞留時間を意味する。等方性ピッチ1は、より高い厳しさ(即ち1390ERT)で調製しており、ヘプタン(SBN=0)中で、8ml/1グラムの溶媒/原料比で、230°C、1時間で、脱歴に付す。得られたメソフェーズは、400°C+の軟化点を有し、メソフェーズ含量はおよそ50%であり回収率は25%である。このメソフェーズの顕微鏡的な特徴を、
図2に示す。一方、等方性2はより低い厳しさ(即ち845ERT)で調製しており、ピッチ1gあたり8mlの溶媒の比率で脱歴プロセスに付しており、等方性ピッチ1で使用した230°C、1時間とは異なり、前記脱歴プロセスを280°C、1.5時間で実施して、およそ60%のメソフェーズ含量、35%の回収率及びおよそ300°Cの軟化点を有するメソフェーズピッチが得られる。脱歴温度が高いほどメソフェーズの軟化点が高くなるため、メソフェーズが300°Cの軟化点を示す等方性ピッチ2より製造されるという観察は、同様の脱歴条件で、より低い厳しさで調製される等方性ピッチが、より高い厳しさで調製される等方性ピッチと比較して、より低い軟化点を有するメソフェーズを生成しやすいことを示唆している。このことは、恐らく、厳しい条件とは反対の温和な条件の下、等方性ピッチ中で比較的軽いメソフェーズ分子が生成したためであろう。等方性ピッチ2より生成するメソフェーズの顕微鏡的な特徴を、
図3に示す。
【表2】
【0025】
実施例2(溶媒脱歴を介した高及び低SBN溶媒中の等方性ピッチ由来のメソフェーズ前駆体濃度の比較)。
この実施例に使用する等方性ピッチは、実施例1における等方性ピッチ1と同じである。メソフェーズ前駆体を濃縮するため、高温の代わりに室温で前記溶媒脱歴プロセスを実施した。具体的には、1グラム当たり8mlので溶媒を用いて1時間自己生成圧下で、前記脱歴プロセスを実施し、溶媒/原料比は8ml/1グラムである。表3に、SBNの変化に伴う前記前駆体の物性及び収率をまとめる。表3には、より低いSBNでの溶媒脱歴は、高SBN溶媒に溶解していたであろう不溶性のより軽い分子の追加的な捕捉をもたらすことが示される。より軽い分子の追加的な濃縮は、前記メソフェーズ前駆体のより高い回収率及びより低い軟化点に寄与する。
【表3】
【0026】
実施例3(溶媒脱歴を介した高及び低SBN溶媒中の等方性ピッチ由来のメソフェーズ生成の比較)
原料として選択する等方性ピッチは、熱的脱アルキル化及び熱的脱水素化を介したベイタウンMCB由来の製品である。前記等方性ピッチの物性を表4に示す。異なるSBNを有する溶媒を、ピッチの1グラム当たり3mlの比率で前記原料に導入した。前記混合物を、不活性環境下でオートクレーブ中に密閉した。前記溶媒を液相に保持するために、280°C、1時間、700psi下で、前記溶媒抽出プロセスを行った。前記溶解物をデカンとした後、前記不溶性物質(メソフェーズとしても知られる)を回収し、その後洗浄及び1時間、120°Cで乾燥して溶媒残渣を除いた。この比較検討の収率及びメソフェーズ物性を表5にまとめ、メソフェーズの顕微鏡的な特徴を
図4A及び4Bにまとめる。
【表4】
【表5】
前記比較検討により、脱歴中に低SBN溶媒を使用することが、回収率を26%から48%へと向上させ、軟化点を400°C+から270°Cへと低下させるより軽い分子の回収に寄与することが示される。対照的に、より軽い分子は、メソフェーズ含量の減少に反映される現在の条件ではメソフェーズ形成に悪影響を与える可能性がある。
【0027】
本明細書中に記載される全ての文献は、この文脈と矛盾しない程度まで、優先権書面及び/又は試験手順を含めて、参照により、本明細書に取り込まれる。前述の一般的記載や特定の実施形態から明らかであるように、本開示の形態を例示し、記載してきた一方、本開示の主旨及び範囲から逸脱することなく、様々な修正をなすことができる。従って、本開示は、それによって限定されることを意図しない。同様に、用語「含有する(comprising)」は、米国法の目的においては、用語「含む(including)」と同義であると考えられる。同様に、組成物、構成要素又は構成要素の群に対して暫定的表現「含有する(comprising)」が先行するときはいつでも、前記組成物、構成要素、又は構成要素の群の列挙に先立ち、及び逆も同様に、同じ組成物又は構成要素の群に、暫定的表現「~から本質的になる(consisting essentially of)」、「~からなる(consisting of)」「~からなる群より選択される(selected from the group of consisting of)」又は「~である(is)」が伴うことが期待されると理解される。
【0028】
本明細書中、数値的な下限及び数値的な上限が記載されているとき、任意の下限から任意の上限までを考慮する。本開示が特定の態様の観点で説明されていても、そのような限定はなされない。特定の条件下での動作についての適切な変更/修正は、当業者にとって明らかであるべきである。それ故、以下の特許請求の範囲は、本開示の真の主旨/範囲内に収まるように、そのような全ての変更/修正を包括するよう解釈されることが意図される。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソフェーズピッチを製造するためのプロセスであって、
前記プロセスは、等方性ピッチを溶媒と、前記溶媒を含有する溶媒画分及びメソフェーズピッチを含有する不溶性画分を生成するのに十分な条件の下で接触させること、及び
前記メソフェーズピッチを回収することを含み、
前記接触は、前記メソフェーズピッチが、ASTM D3104-14に準拠して測定された270°C~350°Cに及ぶ軟化点を有するようにする溶解ブレンド数(S
BN)を有する溶媒を含む、プロセス。
【請求項2】
前記溶媒が30~90SUに及ぶ溶解ブレンド数(S
BN)を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記接触が、等方性ピッチの1グラム当たり3~8mlの割合で前記溶媒を導入することを含む、請求項1
に記載のプロセス。
【請求項4】
前記溶媒が芳香族溶媒を含む、請求項1
に記載のプロセス。
【請求項5】
前記溶媒がヘプタン及びトルエンを含む、請求項1
に記載のプロセス。
【請求項6】
更に、ヘプタンのトルエンに対する比率を調節することを含む、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
軟化点が270°C~320°Cに及ぶ、請求項1
に記載のプロセス。
【請求項8】
更に、メソフェーズ前駆体の回収率を増加させるため、及び軟化点を低下させるため、前記溶媒のSBNを低下させることを含む、請求項1
に記載のプロセス。
【請求項9】
前記等方性ピッチが、
T5≧400°F(204°C)及びT95≦1,400°F(760°C)を有する原料を提供すること、及び
約420°C~約520°Cに及ぶ温度で前記原料を加熱し、前記等方性ピッチを含む熱処理生成物を生成すること、を含む工程により製造され、
前記加熱が[X
*Y]≧20,000秒の関係を満たすのに十分な条件下で実施され、
Xは前記加熱における当量反応時間(ERT)であり、Yは、ASTM D1159に準拠して測定される、前記原料における臭素価である、請求項1
に記載のプロセス。
【請求項10】
前記等方性ピッチが少なくとも1つの以下の物性を有する、請求項1
に記載のプロセス:
(a)ASTM D4530-15に準拠して測定され、約30%~約90%に及ぶマイクロ残留炭素分(MCR);
(b)ASTM D3104-14に準拠して測定され、約80°C~約250°Cに及ぶ軟化点;
(c)ASTM D4616-95(2018)に準拠して測定され、約0.5体積%を超えるメソフェーズピッチ含量;及び
(d)ASTM D2318-15に準拠して測定され、約1質量%を超えるキノリン不溶性物質含量。
【請求項11】
前記方法が、前記メソフェーズ前駆体の軟化点を350°C未満に維持するためにSBNを調節することを含む、請求項8に記載のプロセス。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
本明細書中、数値的な下限及び数値的な上限が記載されているとき、任意の下限から任意の上限までを考慮する。本開示が特定の態様の観点で説明されていても、そのような限定はなされない。特定の条件下での動作についての適切な変更/修正は、当業者にとって明らかであるべきである。それ故、以下の特許請求の範囲は、本開示の真の主旨/範囲内に収まるように、そのような全ての変更/修正を包括するよう解釈されることが意図される。
本発明のまた別の態様は、以下の通りであってもよい。
〔1〕メソフェーズピッチを製造するためのプロセスであって、
前記プロセスは、等方性ピッチを溶媒と、前記溶媒を含有する溶媒画分及びメソフェーズピッチを含有する不溶性画分を生成するのに十分な条件の下で接触させること、及び
前記メソフェーズピッチを回収することを含み、
前記接触は、前記メソフェーズピッチが、ASTM D3104-14に準拠して測定された270°C~350°Cに及ぶ軟化点を有するようにする溶解ブレンド数(S
BN
)を有する溶媒を含む、プロセス。
〔2〕前記溶媒が30~90SUに及ぶ溶解ブレンド数(S
BN
)を有する、前記〔1〕に記載のプロセス。
〔3〕前記接触が、等方性ピッチの1グラム当たり3~8mlの割合で前記溶媒を導入することを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載のプロセス。
〔4〕前記溶媒が芳香族溶媒を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のプロセス。
〔5〕前記溶媒がヘプタン及びトルエンを含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のプロセス。
〔6〕更に、ヘプタンのトルエンに対する比率を調節することを含む、前記〔5〕に記載のプロセス。
〔7〕軟化点が270°C~320°Cに及ぶ、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のプロセス。
〔8〕更に、メソフェーズ前駆体の回収率を増加させるため、及び軟化点を低下させるため、前記溶媒のSBNを低下させることを含む、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のプロセス。
〔9〕前記等方性ピッチが、
T5≧400°F(204°C)及びT95≦1,400°F(760°C)を有する原料を提供すること、及び
約420°C~約520°Cに及ぶ温度で前記原料を加熱し、前記等方性ピッチを含む熱処理生成物を生成すること、を含む工程により製造され、
前記加熱が[X
*
Y]≧20,000秒の関係を満たすのに十分な条件下で実施され、
Xは前記加熱における当量反応時間(ERT)であり、Yは、ASTM D1159に準拠して測定される、前記原料における臭素価である、前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のプロセス。
〔10〕前記等方性ピッチが少なくとも1つの以下の物性を有する、前記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のプロセス:
(a)ASTM D4530-15に準拠して測定され、約30%~約90%に及ぶマイクロ残留炭素分(MCR);
(b)ASTM D3104-14に準拠して測定され、約80°C~約250°Cに及ぶ軟化点;
(c)ASTM D4616-95(2018)に準拠して測定され、約0.5体積%を超えるメソフェーズピッチ含量;及び
(d)ASTM D2318-15に準拠して測定され、約1質量%を超えるキノリン不溶性物質含量。
〔11〕前記方法が、前記メソフェーズ前駆体の軟化点を350°C未満に維持するためにSBNを調節することを含む、〔8〕に記載のプロセス。
【国際調査報告】