(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】3次元構築物又はその一部を印刷するためのマルチモダリティの方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
B29C 64/106 20170101AFI20240405BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240405BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240405BHJP
B29C 64/40 20170101ALI20240405BHJP
【FI】
B29C64/106
B33Y10/00
B33Y30/00
B29C64/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023566858
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(85)【翻訳文提出日】2023-12-12
(86)【国際出願番号】 SG2022050253
(87)【国際公開番号】W WO2022231521
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】10202104532S
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【氏名又は名称】曽根 太樹
(72)【発明者】
【氏名】ウェイチエ サイラス ベー
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA21
4F213AA29
4F213AR06
4F213AR07
4F213AR08
4F213AR15
4F213WA25
4F213WA97
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL24
4F213WL62
4F213WL96
(57)【要約】
3次元(3D)構築物又はその一部を印刷するためのマルチモダリティの方法及びシステムを提供する。この方法は、(i)流動性前駆体を、照射源による照射を介して流動性前駆体を架橋することができる位置にて、流動性支持体を用いて支持するステップと、(ii)流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するステップと、(iii)照射源による照射を介して、流動性前駆体中の1つ又は複数の材料と接触している流動性前駆体の少なくとも一部を架橋して、3D構築物又はその一部を形成するステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元(3D)構築物又はその一部を印刷するマルチモダリティ方法であって、前記方法は、
(i)流動性前駆体を、照射源による照射を介して前記流動性前駆体を架橋することができる位置にて、流動性支持体を用いて支持するステップと、
(ii)前記流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するステップと、
(iii)前記照射源による照射を介して、前記流動性前駆体中の前記1つ又は複数の材料と接触している前記流動性前駆体の少なくとも一部を架橋して、前記3D構築物又はその一部を形成するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
(iv)前記流動性前駆体を、前記照射源による照射を介して前記流動性前駆体を架橋することができる新たな位置にて、支持するステップと、
(v)任意選択で、前記流動性前駆体の表面/内部に前記1つ又は複数の材料をさらに堆積するステップと、
(vi)前記照射源による照射を介して、任意選択で前記新たな位置にて前記1つ又は複数の材料と接触する前記流動性前駆体の少なくとも一部をさらに架橋して、前記3D構築物又はその一部を形成するステップと、
(vii)任意選択で、所望の3D構築物が形成されるまで、ステップ(iv)から(vi)を繰り返すステップと、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ又は複数の材料を堆積するステップは、犠牲材料を押し出して、前記3D構築物内に1つ又は複数の犠牲構造体の配列を形成するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1つ又は複数の犠牲構造体の配列から前記犠牲材料を除去して、前記3D構築物中に1つ又は複数のチャネルの配列を形成するステップをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ又は複数のチャネルは、前記3D構築物の内部環境と前記3D構築物の外部環境との間の流体連通を促進する開放端を具備する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記犠牲材料は、1つ又は複数の犠牲構造体の前記配列を形成するために押し出されるときに、半固体状態又はゲル状態である、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記犠牲材料を除去するステップは、前記犠牲材料を液化して、前記3D構築物又はその一部からの前記犠牲材料の除去を容易にするステップを含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記犠牲材料を液化するステップは、前記犠牲材料を液化させる温度まで前記犠牲材料を冷却するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
1つ又は複数の材料を堆積するステップは、前記1つ又は複数の材料を含有する液滴を前記流動性前駆体上に推進するステップを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ又は複数の材料を含有する液滴を前記流動性前駆体上に推進するステップは、前記1つ又は複数の材料の空間濃度勾配が前記3D構築物内に形成されるように、前記液滴を可変速度で推進するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記照射源による照射を介して架橋するステップは、前記3D構築物又はその一部が下から上方向で層ごとに形成されるように下から上方向で実施される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記照射源による照射を介して架橋するステップは連続的に実施される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記流動性前駆体の表面/内部に前記1つ又は複数の材料を堆積するステップは、前記流動性前駆体の上面に向かって上から下方向に前記1つ又は複数の材料を堆積するステップを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記流動性支持体は、前記流動性前駆体と非混和性である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記流動性前駆体及び前記1つ又は複数の材料は生体適合性である、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記3D構築物は、前記流動性前駆体及び前記流動性支持体よりも高い密度を有する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記流動性前駆体及び/又は前記1つ又は複数の材料は細胞を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載のマルチモダリティ方法を実施するためのマルチモダリティシステムであって、前記システムは、
流動性支持体と前記流動性支持体の上方に配置された流動性前駆体とを含むように構成されたタンクと、
前記流動性前駆体を照射するように構成された照射源と、
前記タンクと前記照射源との間に配置され、前記流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するように構成された1つ又は複数の分配出口と、を備え、
前記照射源は、前記流動性前駆体中の前記1つ又は複数の材料と接触している前記流動性前駆体の少なくとも一部を照射を介して架橋して、前記3D構築物又はその一部を形成するように構成される、システム。
【請求項19】
前記1つ又は複数の分配出口は、犠牲材料を押し出して、前記3D構築物の1つ又は複数のチャネルの配列のためのテンプレートを形成する押出し機ノズルを具備する、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記1つ又は複数の分配出口は、前記1つ又は複数の材料を含有する液滴を前記流動性前駆体上に推進するためのインクジェットノズルを具備する、請求項18又は19に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広くは、3次元(3D)構築物又はその一部を印刷するためのマルチモダリティの方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
マルチモダリティ3D印刷は、ほとんどの製造品が複数の材料から作成されているため、非常に興味深い分野である。マルチモダリティ印刷をバイオプリンティングで使用して、軟質材料と硬質材料の両方を組み合わせて、例えば、骨/靱帯接合部分などの構造体を作成するほか、血管を含むバイオプリンティング構造体を作成することができる。マルチモダリティ3D印刷ではこのほか、インクジェット印刷などの他の材料堆積方法を組み合わせて、バイオプリンティング構造体内に生物製剤などの材料の濃度勾配を確立することができる。
【0003】
しかし、従来の3Dプリンタは、典型的には、ビルドプレートとパターニングスクリーン/投射窓という2つの固体表面を備えているため、マルチモダリティ印刷には適していない可能性がある。使用中、ビルドプレートは、典型的には、パターニングスクリーンに近づけられ、材料が架橋されるにつれて徐々に持ち上げられる。そのような構成は、ビルドプレートとパターニングスクリーンとの間に、他の材料を堆積するための二次モダリティ(例えば、押出し機及び/又はプリントヘッド)を導入するための空間を残さない。
【0004】
さらに、大多数のバイオプリンタはシリンジ押出法を採用しており、細胞を含む可能性のあるヒドロゲルバイオインクは、シリンジをラスタ化して各層を作成し、次の層に進むことによって堆積される。そのようなシステムでは、解像度、速度及び細胞の互換性の間にトレードオフが存在し、常にそのうちの1つを犠牲にする必要があることになる。例えば、本発明者は、以前のシステムよりも少なくとも1桁分高速である最大200mm/時の速度で生細胞を印刷可能な3Dプリンタを以前に開発した。しかし、印刷された構造体には血管系が存在しないため、拡散限界が細胞の生存能力に影響を及ぼす前に、構造体の厚さが数百ミクロンに制限される。
【0005】
このため、上記の問題の1つに対処するか少なくとも改善しようとする、3D構築物又はその一部を印刷するためのマルチモダリティの方法及びシステムが必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、3次元(3D)構築物又はその一部を印刷するマルチモダリティ方法を提供する。この方法は、(i)流動性前駆体を、照射源による照射を介してこの流動性前駆体を架橋することができる位置にて、流動性支持体を用いて支持するステップと、(ii)流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するステップと、(iii)照射源による照射を介して、流動性前駆体中の1つ又は複数の材料と接触している流動性前駆体の少なくとも一部を架橋して、3D構築物又はその一部を形成するステップと、を含む。
【0007】
一実施形態では、この方法は、(iv)流動性前駆体を、照射源による照射を介して流動性前駆体を架橋することができる新たな位置にて、支持するステップと、(v)任意選択で、流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料をさらに堆積するステップと、(vi)照射源による照射を介して、任意選択で新たな位置にて1つ又は複数の材料と接触する流動性前駆体の少なくとも一部をさらに架橋して、3D構築物又はその一部を形成するステップと、(vii)任意選択で、所望の3D構築物が形成されるまで、ステップ(iv)から(vi)を繰り返すステップと、をさらに含む。
【0008】
一実施形態では、1つ又は複数の材料を堆積するステップは、犠牲材料を押し出して、3D構築物内に1つ又は複数の犠牲構造体の配列を形成するステップを含む。
【0009】
一実施形態では、この方法は、1つ又は複数の犠牲構造体の配列から犠牲材料を除去して、3D構築物中に1つ又は複数のチャネルの配列を形成するステップをさらに含む。
【0010】
一実施形態では、1つ又は複数のチャネルは、3D構築物の内部環境と3D構築物の外部環境との間の流体連通を促進する開放端を備える。
【0011】
一実施形態では、犠牲材料は、1つ又は複数の犠牲構造体の配列を形成するために押し出されるときに、半固体状態又はゲル状態である。
【0012】
一実施形態では、犠牲材料を除去するステップは、犠牲材料を液化して3D構築物又はその一部からの犠牲材料の除去を容易にするステップを含む。
【0013】
一実施形態では、犠牲材料を液化するステップは、犠牲材料を液化させる温度まで犠牲材料を冷却するステップを含む。
【0014】
一実施形態では、1つ又は複数の材料を堆積するステップは、1つ又は複数の材料を含有する液滴を流動性前駆体上に推進するステップを含む。
【0015】
一実施形態では、1つ又は複数の材料を含有する液滴を流動性前駆体上に推進するステップは、1つ又は複数の材料の空間濃度勾配が3D構築物内に形成されるように、液滴を可変速度で推進するステップを含む。
【0016】
一実施形態では、照射源による照射を介して架橋するステップは、3D構築物又はその一部が下から上方向で層ごとに形成されるように、下から上方向で実施される。
【0017】
一実施形態では、照射源による照射を介して架橋するステップは連続的に実施される。
【0018】
一実施形態では、流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するステップは、流動性前駆体の上面に向かって上から下方向に1つ又は複数の材料を堆積するステップを含む。
【0019】
一実施形態では、流動性支持体は、流動性前駆体と非混和性である。
【0020】
一実施形態では、流動性前駆体及び1つ又は複数の材料は生体適合性である。
【0021】
一実施形態では、3D構築物は、流動性前駆体及び流動性支持体よりも高い密度を有する。
【0022】
一実施形態では、流動性前駆体及び/又は1つ又は複数の材料は細胞を含む。
【0023】
一態様では、本明細書に開示するマルチモダリティ方法を実施するためのマルチモダリティシステムを提供する。このシステムは、流動性支持体と、流動性支持体の上方に配置された流動性前駆体とを含むように構成されたタンクと、流動性前駆体を照射するように構成された照射源と、タンクと照射源との間に配置され、流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するように構成された1つ又は複数の分配出口と、を備える。ここで、照射源は、流動性前駆体中の1つ又は複数の材料と接触している流動性前駆体の少なくとも一部を、照射を介して架橋して、3D構築物又はその一部を形成するように構成される。
【0024】
一実施形態では、1つ又は複数の分配出口は、犠牲材料を押し出して、3D構築物の1つ又は複数のチャネルの配列のためのテンプレートを形成するための押出し機ノズルを備える。
【0025】
一実施形態では、1つ又は複数の分配出口は、1つ又は複数の材料を含有する液滴を流動性前駆体上に推進するためのインクジェットノズルを備える。
【0026】
定義
本明細書で使用する「生体適合性」という用語は、天然の細胞、組織又は器官に対する重大な炎症反応、免疫原性又は細胞毒性を誘発することなく、その意図された機能を実施する材料の能力を指すと広く解釈されるべきである。
【0027】
本明細書で使用する「細胞」という用語は、特に指定のない限り、個々の細胞、細胞株、初代培養物又はそのような細胞に由来する培養物を指す。
【0028】
本明細書で使用する「基板」という用語は、任意の支持構造を指すと広く解釈されるべきである。
【0029】
「層」という用語は、第1の材料を説明するために使用する場合、第2の材料の第2の深さと区別可能な第1の材料の第1の深さを指すと広く解釈されるべきである。第1の材料の層は、連続膜、不連続構造体又は両方の混合物として存在する場合がある。この層はこのほか、全体にわたって実質的に均一な深さであっても、さまざまな深さであってもよい。このため、層が個別の構造体によって形成される場合、個別の構造体のそれぞれの寸法は異なっていてもよい。第1の材料と第2の材料は同じであっても異なっていてもよく、第1の深さ及び第2の深さは同じであっても異なっていてもよい。
【0030】
「連続」という用語は、3D構築物の印刷を説明するために使用する場合、3D構築物の形成が、形成された3D構築物の連続する部分又は区画の間に発生する顕著な停止、中断又は一時停止がない状態で実施される方法を広く指す。
【0031】
「光に対して実質的に透明」という用語は、物体を説明するために本明細書で使用する場合、物体の表面に垂直な入射光の50%以上が物体を透過可能であることを意味すると広く解釈されるべきである。いくつかの例では、光に対して実質的に透明な物体は、透過する物体の表面に直交する入射光の60%以上、65%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上又は95%以上を透過させることができる。一例では、光に対して実質的に透明な物体は、物体の表面に垂直な入射光の70%超を透過させることができる。
【0032】
本明細書で使用する「マイクロ」という用語は、約1ミクロンから約1000ミクロンまでの寸法を含むものとして広く解釈されるべきである。
【0033】
本明細書で使用する「ナノ」という用語は、約1000nm未満の寸法を含むものとして広く解釈されるべきである。
【0034】
本明細書で使用する「粒子」という用語は、離散的な物又は離散的な物体を広く指す。本明細書に記載の粒子は、有機粒子、無機粒子又は生物学的粒子を含むことがある。本明細書に記載の粒子はこのほか、複数の副粒子の集合体又は小さな物体の断片によって形成されるマクロ粒子である場合がある。本開示の粒子は、球形、実質的に球形、あるいは不規則な形状の粒子又は楕円形の粒子などの非球形であってもよい。「サイズ」という用語は、粒子を指すために使用する場合、粒子の最大寸法を広く指す。例えば、粒子が実質的に球形である場合、「サイズ」という用語は粒子の直径を指すことがある。あるいは、粒子が実質的に非球形である場合、「サイズ」という用語は、粒子の最大の長さを指すことがある。
【0035】
この説明で使用する「結合された」又は「接続された」という用語は、特に明記しない限り、直接接続されるか、1つ又は複数の中間手段を介して接続された双方を網羅することを意図する。
【0036】
本明細書で2つの要素に言及する場合に使用する「関連する」という用語は、2つの要素間の広範な関係を指す。この関係は、物理的、化学的又は生物学的な関係を含むが、ここに挙げたものに限定されない。例えば、要素Aが要素Bに関連付けられている場合、要素AとBは直接的又は間接的に互いに結合されるか、要素Aに要素Bが含まれるか、あるいはその逆になる。
【0037】
2つの要素に言及する場合に本明細書で使用する「隣接する」という用語は、ある要素が別の要素に近接していることを指し、互いに接触している要素であってもよいが、これに限定されず、1つ又は複数の追加の要素を間に挟んで分離されている要素をさらに含んでもよい。
【0038】
「及び/又は」、例えば、「X及び/又はY」という用語は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味すると理解され、両方の意味又はいずれかの意味を明示的に支持するものとして解釈されるべきである。
【0039】
さらに、本明細書の説明では、「実質的に」という用語は、使用する場合は常に、「全体に」又は「完全に」などを含むが、これに限定されないものと理解される。さらに、「含んでいる」、「含む」などの用語は、使用する場合は常に、明示的に記載していない他の構成要素に加えて、そのような用語の後に記載する要素/構成要素を広く含むという点で、非限定的な記述言語であることを意図している。例えば、「含んでいる」を使用する場合、「1つの」特徴への言及が、その特徴の「少なくとも1つ」への言及であることも意図している。「~から構成されている」、「~から構成される」などの用語は、適切な文脈では、「含んでいる」、「含む」などの用語のサブセットとして考えられる場合がある。このため、「含んでいる」、「含む」などの用語を使用して本明細書に開示した実施形態では、このような実施形態が、「~から構成されている」、「~から構成される」などの用語を使用した対応する実施形態のために教示することが理解されよう。さらに、「約」、「およそ」などの用語は、使用する場合は常に、典型的には、妥当な変動、例えば、開示値の+/-5%の変動、開示値の4%の変動、開示値の3%の変動、開示値の2%の変動又は開示値の1%の変動を意味する。
【0040】
さらに、本明細書の説明では、一定範囲内で特定の値を開示する場合がある。範囲の端点を示す値は、好ましい範囲を示すことを目的としている。範囲を記載している場合は常に、その範囲があらゆる可能な部分的範囲のほか、その範囲内の個々の数値を網羅し、教示することを意図している。即ち、範囲の端点は、柔軟性のない制限として解釈されるべきではない。例えば、1%~5%の範囲の説明では、1%~2%、1%~3%、1%~4%、2%~3%などの部分的範囲のほか、個別に、1%、2%、3%、4%、5%などの範囲内の値を具体的に開示していることを意図する。この範囲内の個々の数値はこのほか、整数、分数及び小数を含むことを理解されたい。さらに、範囲を記載している場合は常に、その範囲が、示した数値端点から追加の小数点以下2桁又は2桁の有効数字(必要に応じて)までの値を網羅し、教示することも意図している。例えば、1%~5%の範囲の説明では、1.00%~5.00%のほか、1.0%~5.0%の範囲及びその範囲にわたるそのあらゆる中間値(1.01%、1.02%...4.98%、4.99%、5.00%及び1.1%、1.2%...4.8%、4.9%、5.0%など)を具体的に開示していることを意図する。上記の特定の開示の意図は、範囲のあらゆる深さ/広さに適用可能である。
【0041】
さらに、いくつかの実施形態を説明する場合、本開示は、方法及び/又はプロセスを特定の一連のステップとして開示している場合がある。しかし、別段の要求がない限り、方法又はプロセスは、開示した特定の一連のステップに限定されるべきではないことが理解されよう。他の一連のステップも可能である。本明細書に開示するステップの特定の順序は、過度の制限として解釈されるべきではない。別段の要求がない限り、本明細書に開示する方法及び/又はプロセスを、記載の順序で実施されるステップに限定するべきではない。ステップの順序は変更されてもよく、依然として本開示の範囲内に含まれる。
【0042】
さらに、本開示は、本明細書で考察した特徴/特性のうちの1つ又は複数を有する実施形態を提供するが、このような特徴/特性のうちの1つ又は複数はこのほか、他の代替実施形態では権利放棄され得るものであり、本開示はそのような権利放棄及びこのような関連する代替実施形態に裏付けを提供することが理解されよう。
【0043】
実施形態の説明
3D構築物又はその一部を印刷するマルチモダリティ方法及び3D構築物又はその一部を印刷するマルチモダリティ方法を実施するためのマルチモダリティシステムの非限定的な実施形態を以下に開示する。
【0044】
さまざまな実施形態では、3次元(3D)構築物又はその一部を印刷するマルチモダリティ方法が提供される。この方法は、(i)流動性前駆体を、照射源による照射を介して流動性前駆体を架橋することを可能にする位置にて、流動性支持体を用いて支持するステップと、(ii)流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するステップと、(iii)照射源による照射を介して、流動性前駆体中の1つ又は複数の材料と接触している流動性前駆体の少なくとも一部を架橋して、3D構築物又はその一部を形成するステップと、を含む。
【0045】
さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料は、流動性前駆体を架橋するためのモダリティとは異なる1つ又は複数のモダリティを使用して堆積される。さまざまな実施形態では、照射源による照射を介して流動性前駆体を架橋するステップは、第1の印刷モダリティによって実施される。第1の印刷モダリティは、例えば、本明細書に開示するさまざまな実施形態による流体-支持液界面重合(FLIP)プリンタであってもよい。さまざまな実施形態では、流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するステップは、第1の印刷モダリティ(例えば、流体-支持液界面重合)とは異なる第2又は追加の印刷モダリティ、例えば、インクジェット又は押出印刷を使用して実施される。さまざまな実施形態では、この方法で3つ以上の印刷モダリティが使用される場合、第2及び追加(例えば、第3)の印刷モダリティは、互いに同じであっても異なっていてもよいが、第2及び第3の印刷モダリティは両方とも第1の印刷モダリティとは異なっている。
【0046】
さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料は、架橋された流動性前駆体と同じであっても異なっていてもよい。さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料は、物理的/機械的な特徴/特性(例えば、形状、サイズ、質量、体積、密度、融点、延性、剛性など)及び/又は化学的な特徴/特性(例えば、化学組成、pH、反応性、反応速度、イオン強度、結合強度など)の点で、架橋された流動性前駆体とは異なっていてもよい。さまざまな実施形態では、流動性前駆体の表面/内部に複数の異なる材料が堆積される場合、異なる材料の堆積に使用されるモダリティは互いに異なっていてもよい。さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料は、3D構築物、例えば、3D構築物の最終構造に組み込まれてもよい。
【0047】
さまざまな実施形態では、この方法は、(iv)流動性前駆体を、照射源による照射を介して流動性前駆体を架橋することができるようにする新たな位置にて支持するステップと、(v)任意選択で、流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料をさらに堆積するステップと、(vi)照射源による照射を介して、3D構築物又はその一部を形成するために新たな位置にて任意選択で1つ又は複数の材料と接触する流動性前駆体の少なくとも一部をさらに架橋するステップと、(vii)所望の3D構築物が形成されるまで、ステップ(iv)から(vi)を任意選択で繰り返すステップと、をさらに含む。さまざまな実施形態では、流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料をさらに堆積するステップ(v)は、1つ又は複数の材料が3D構築物の選択された部分又は領域のみに存在するように、ステップ(iv)から(vi)のいくつかの反復に対しては任意選択であってもよい。
【0048】
有利なことに、マルチモダリティ方法は、2種類以上の材料を含む3D構築物を印刷するために、即ち、多材料印刷に、使用されてもよい。この方法のさまざまな実施形態を、骨/靱帯接合部分及び血管を含むバイオプリント構造体、解剖学的構造体に関連する複雑な形状を有する構築物などの生きている3D構築物(即ち、細胞を含む構築物)を印刷するためのバイオプリンティング用途に使用されてもよい。
【0049】
さまざまな実施形態では、流動性支持体によって支持されている流動性前駆体は、流体媒体と相互作用するか流体媒体に曝されている上面を含む。さまざまな実施形態では、流体媒体は、空気であっても、例えば、前駆体と反応しなかったり、及び/又は照射源による照射の存在下で反応(例えば、架橋)しなかったりする不活性ガス又は液体(例えば、鉱油又はシリコーン油)であってもよい。さまざまな実施形態では、流体媒体はこのほか、照射を通過させることができるものである。さまざまな実施形態では、この方法には、流動性前駆体の上面と接触するスクリーン又はパネル(例えば、ガラススクリーン)が存在しない。さまざまな実施形態では、浮遊液体投射スクリーンとして機能する流体支持前駆体(例えば、ヒドロゲル前駆体)の薄層(例えば、厚さ約3mm)上にパターンを直接投射する。これにより、典型的な樹脂ベースの3Dプリンタに影響を及ぼすスクリーン又はパネル(例えば、ガラススクリーン)への不用意な付着が有利に回避され、高速連続印刷が可能になる。
【0050】
さまざまな実施形態では、流動性前駆体の上面は、前駆体-流体媒体界面に、比較的遮るもののない自由表面を提供する。有利なことに、第1の印刷モダリティのそのような構成は、自由表面によって提供される空間アクセスの程度により、他の異なる印刷モダリティを導入する/組み込む際に大きな順応性を提供する。流動性前駆体の自由表面は、有利には、流動性前駆体上への1つ又は複数の材料の付加を可能にしても、容易にしてもよい。例えば、本明細書に開示する方法を実施するための3Dプリンタ設定(例えば、流体-支持液体界面重合(FLIP)プリンタ)では、自由表面は、有利には、1つ又は複数の異なる材料の押出又は圧電堆積などの他の印刷モダリティを、3Dプリンタ設定に組み合わせるか、統合することができるようにする可能性がある。異なるモダリティを使用することのいくつかの利点には、スループットを向上させる能力(例えば、他のいくつかのモダリティでは、3D構築物内の特定のさらに微細かつ複雑な構造をさらに高速に印刷することができる)と、3D構築物にさまざまな種類の材料を導入することが容易である点と、動作中に異なるモダリティを交換するときに、異なるモダリティの断続的な冷却/非動作/再充電が可能でありながら、途切れない連続印刷が可能であるため、部品の寿命が向上し、効率が向上する点と、が含まれる場合がある。
【0051】
さまざまな実施形態では、流動性支持体によって支持されている流動性前駆体は、流動性支持体と相互作用するか、流動性支持体に曝されている底面を含む。換言すれば、流動性前駆体は、流動性支持体の上方に配置される(例えば、浮遊している)。さまざまな実施形態では、流動性前駆体は、流動性支持体と直接的に相互作用しても、流動性前駆体と流動性支持体との間に配置された1つ又は複数の介在中間層(例えば、別の流動性液体又は分離基板/固体)と間接的に相互作用してもよい。さまざまな実施形態では、流動性前駆体は、流動性支持体と混和せず、互いに別個の異なる相を形成する。有利には、流動性支持体は、流動性前駆体を支持するのに必要な浮力を提供し、その結果、流動性前駆体は、架橋のために照射源に向かって適切に提示/支持される。さまざまな実施形態では、流動性支持体の浮力は、流動性前駆体を支持するには充分であるが、3D構築物を流動性支持体中/流動性支持体上に浮かせるには不充分である。このため、さまざまな実施形態では、3D構築物は依然としてビルドプレートによって支持されている。さまざまな実施形態では、流動性支持体は流動性前駆体の密度よりも高い密度を有し、流体媒体は流動性前駆体の密度よりも低い密度を有する。さまざまな実施形態では、3D構築物は、流動性前駆体、流動性支持体及び流体媒体の密度よりも高い密度を有する。
【0052】
さまざまな実施形態では、流動性前駆体は、流動性支持体と流体媒体(例えば、空気)との間に配置され、例えば、流動性前駆体は、流動性支持体のほか、流体媒体と相互作用する。さまざまな実施形態では、流動性前駆体(流動性前駆体全体)は、流動性支持体及び流体媒体と直接相互作用してもよい。即ち、他の介在層は存在しない。換言すれば、流動性前駆体は、流体媒体及び流動性支持体と直接接触していてもよく、例えば、流動性前駆体の上面は流体媒体との界面を形成し、流動性前駆体の底面は流動性支持体との界面を形成する。さまざまな実施形態では、流動性前駆体は、流動性支持体-流動性前駆体-流体媒体のような構成で、流動性支持体のほか、流体媒体と相互作用する。換言すれば、流動性前駆体は、中間固体スクリーン/パネル(例えば、ガラススクリーン)が存在しない状態で、流動性支持体と流体媒体との間に挟まれてもよい。
【0053】
さまざまな実施形態では、流動性前駆体を新たな位置にて支持するステップは、この流動性前駆体の位置/レベルを調整/変更するステップを含む。さまざまな実施形態では、この流動性前駆体の位置/レベルを調整/変更するステップは、流動性支持体の位置/レベルを調整/変更するステップを含む。例えば、架橋される流動性前駆体の上面の位置を調整するステップは、流動性支持体の上部界面(例えば、前駆体などの別の媒体と相互作用する流動性支持体の上面)の位置を調整するステップを含む。次に、調整するステップは、さらに、介在する中間層の位置を調整するステップを含んでもよい。さまざまな実施形態では、流動性支持体の上部界面の位置を調整することにより、介在する任意の中間層の位置/レベル及び/又は流動性前駆体の上記の上面の位置が変化するか、連動して調整されることになる。さまざまな実施形態では、流動性前駆体の位置/レベルが上昇するにつれて、印刷される3D構築物の断面に対応するパターンが、照射源によって流動性前駆体上に順次転写され、その結果、流動性前駆体は、このパターンに従って架橋される。
【0054】
さまざまな実施形態では、流動性支持体の位置/レベルを調整/変更するステップは、(例えば、流動性支持体の体積を増大させたり、及び/又は(固体基板又は中間液体層であり得る)基部のレベルを移動させたりすることによって)流動性支持体のレベルを上げるステップを含む。基部上には、流動性支持体の体積を変えることなく、流動性支持体が上向きに載置される。さまざまな実施形態では、流動性支持体の体積を増大させるステップは、流動性前駆体が保持される容器/タンクへの流動性支持体の(例えば、約3のレイノルズ数を有する)層流の流入を維持して、流動性前駆体の架橋プロセスの中断を最小化するか防止するステップを含んでもよい。さまざまな実施形態では、流動性前駆体は流動性支持体と相互作用するため、調整するステップは、これに加えて/これとは別に、流動性前駆体と流動性支持体との間の界面の位置を調整するステップを含んでもよい。
【0055】
さまざまな実施形態では、流動性前駆体を新たな位置にて支持するステップは、3D構築物又はその一部に対するこの流動性前駆体の位置/レベルを調整/変更するステップを含む。さまざまな実施形態では、この流動性前駆体の相対位置/レベルを調整/変更するステップは、3D構築物又はその一部の位置/レベルを調整/変更するステップを含んでもよい。例えば、3D構築物又はその一部に対するこの流動性前駆体の位置/レベルを調整/変更するステップは、流動性支持体の体積を一定に保つステップと、流動性前駆体に対する3D構築物又はその一部の位置を変更するステップと、を含んでもよい。これは、流動性前駆体と3D構築物又はその一部との相対位置が変化するように、3D構築物又はその一部を支持する印刷ベッドを下方向に移動させることによって達成されてもよい。
【0056】
さまざまな実施形態では、流動性支持体は、(前駆体と)不混和性の液体であってもよく、流動性前駆体に応じて選択されてもよい。例えば、水性前駆体の場合、流動性支持体は、FC-40、HFE7500などのペルフルオロオイル又は非混和性水溶液(即ち、水性二相系を形成するため)であることがある。(流動性前駆体として使用される場合の)一般的な樹脂の場合、支持流体(又は流動性支持体)は水であってもよい。さまざまな実施形態では、流動性支持体を選択するための1つの基準は、流動性支持体が流動性前駆体より密度が高いことである。
【0057】
さまざまな実施形態では、流動性前駆体は、少なくとも1つの重合性モノマー/架橋性ポリマー及び少なくとも1つの光開始剤を含む。さまざまな実施形態では、流動性前駆体は、ヒドロゲルを形成するために架橋可能なヒドロゲル前駆体である。ヒドロゲルは、モノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸)又はマクロモノマー(例えば、ゼラチンメタクリレート、PEG-ジアクリレート)のいずれかを使用して形成することができる。ヒドロゲルを形成するのに適したポリマー又はコポリマーの非限定的な例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルピロリドン及びそのコポリマーが挙げられる。他の例には、架橋基によって官能化されているか、適合する架橋剤と組み合わせて使用可能なポリエーテル、ポリウレタン及びポリエチレングリコールが挙げられる。さまざまな実施形態では、ポリマー鎖は、ポリマー鎖を光架橋可能にするために、アクリレート類又はメタクリレート類などの反応性基で修飾されてもよい。さまざまな実施形態では、ヒドロゲルは、修飾ポリカプロラクトン、ゼラチン、ゼラチンメタクリレート、アルギン酸塩、アルギン酸メタクリレート、修飾キトサン、キトサンメタクリレート、グリコールキトサン、グリコールキトサンメタクリレート、修飾ヒアルロン酸(HA)、HAメタクリレート及び他の非架橋の天然又は合成のポリマー鎖などを含むが、ここに挙げたものに限定されない高分子を含んでもよい。さまざまな実施形態では、高分子は、高分子を架橋可能にするために修飾されてもよい。例えば、アクリレート類、メタクリレート類又は他のタイプの共役化学を使用して共有結合架橋を形成してもよい。さまざまな実施形態では、流動性前駆体は、ゼラチンメタクリレート(GelMA)及び/又はアルギン酸メタクリレート(ALMA)を含んでもよい。
【0058】
さまざまな実施形態では、光開始剤は、紫外線又は可視光線などの放射線に曝されるとフリーラジカルを生成し、それによって重合反応を開始するフリーラジカル光開始剤であってもよい。適切な光開始剤の非限定的な例には、ベンゾフェノン及びメチルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類(芳香族ケトン)、ジフェニル(2,4,6トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドなどのアシルホスフィンオキシド型光開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類及びベンゾインアルキルエーテル類などが挙げられる。
【0059】
さまざまな実施形態では、流動性前駆体の出発原料は、モノマー(例えば、アクリル酸)又はマクロモノマー(例えば、2つのアクリレート基で修飾されたポリマー鎖であるポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA))を含んでもよい。マクロモノマーは、異なる鎖長(例えば、約100Daから約10,000kDa、約200Daから約9,500kDa、約300Daから約9,000kDa、約400Daから約8,500kDa、約500Daから約8,000kDa)を有してもよい。
【0060】
さまざまな実施形態では、モノマー又はマクロモノマーの濃度は、3D構築物を作製するために使用される材料の種類に応じて、流動性前駆体全体の約1重量%から約100重量%の範囲内である。3Dヒドロゲル構築物の場合、モノマー又はマクロモノマーの濃度は、以下の数値群、即ち、流動性前駆体全体の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45及び50重量%から選択される始点及び終点を有する範囲内にあってもよい。3Dプラスチック樹脂構造体の場合、モノマー又はマクロモノマーの濃度は、次の数値群、即ち、流動性前駆体全体の50、55、60、65、70、75、80、85、90、95及び100重量%から選択された始点及び終点を有する範囲内にあってもよい。
【0061】
さまざまな実施形態では、光開始剤の濃度は、流動性前駆体全体の約0.05重量%から約10重量%の範囲内である。光開始剤の濃度は、例えば、約0.05%から約10%、約0.065%から約9%、約0.08%から約8%、約0.095%から約7%、約0.11%から約6%、約0.125%から約5%の範囲であってもよい。
【0062】
さまざまな実施形態では、ステップ(ii)の1つ又は複数の材料は、流動性前駆体とは異なるものである。1つ又は複数の材料は、物理的及び/又は化学的な特徴/特性の点で流動性前駆体とは異なっていてもよい。さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料は、異なるモダリティ、例えば、インクジェット印刷又は押出印刷を使用して堆積されてもよい。
【0063】
さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料を堆積するステップは、犠牲材料を押し出して、3D構築物中に1つ又は複数の犠牲構造体の配列を形成するステップを含む。さまざまな実施形態では、犠牲材料は、分配出口、例えば、照射源と流動性前駆体との間に配置される押出し機ノズルから押し出されてもよい。1つ又は複数の犠牲構造体の配列は、3D構築物の1つ又は複数のチャネルの配列のための型/テンプレートとして機能する1つ又は複数の犠牲繊維の配列を含んでもよい。犠牲繊維は真っ直ぐであっても湾曲していてもよい。1つ又は複数の犠牲繊維の配列は、規則的なパターンで配置されても、不規則的なパターンで配置されてもよい。1つ又は複数の犠牲構造体は、所定の設計に従って形状及びサイズを決定されてもよく、張り出し構造体、自立型中空構造体、解剖学的構造体に関連する複雑な形状などの3D構築物中のさまざまな構造体の型/テンプレートとして機能してもよい。犠牲構造体自体も3次元であり、3D構築物の異なる平面にまたがってもよい。
【0064】
さまざまな実施形態では、この方法は、1つ又は複数の犠牲構造体の配列から犠牲材料を除去して、3D構築物に1つ又は複数のチャネルの配列を形成するステップをさらに含む。さまざまな実施形態では、1つ又は複数のチャネルは、3D構築物の内部環境と3D構築物の外部環境との間の流体連通を促進する開放端を備える。さまざまな実施形態では、この方法は、1つ又は複数の犠牲構造体の配列から犠牲材料を除去して、3D構築物にさまざまな構造体、例えば、張り出し構造体、自立型中空構造体、解剖学的構造体に関連する複雑な形状を形成するステップをさらに含む。
【0065】
さまざまな実施形態では、犠牲材料は、犠牲構造体を形成するために押し出されるとき、半固体状態又はゲル状態にある。有利には、ゲル状態は、犠牲材料が流動性前駆体と混合せず、3D構築物の形成中にその形状及び形態を実質的に失わないように、犠牲構造体が液体の流動性前駆体中でその形状及び形態を維持するのに役立つ。
【0066】
さまざまな実施形態では、犠牲材料を除去するステップは、3D構築物又はその一部からのその除去を容易にするために犠牲材料を液化するステップを含んでもよい。さまざまな実施形態では、犠牲材料を液化するステップは、使用される犠牲材料の種類に依存する。例えば、犠牲材料は、(例えば、犠牲材料の温度を変えることによる)物理的手法、(例えば、犠牲材料の化学組成を修飾/変更することによる)化学的手法又はその組み合わせを使用して液化されてもよい。
【0067】
さまざまな実施形態では、犠牲材料を液化するステップは、犠牲材料を液化させる温度まで犠牲材料を冷却するステップを含んでもよい。犠牲材料を冷却するステップは、犠牲材料を液化させる温度を有する水槽に3D構築物又はその一部を浸漬するステップを含んでもよい。さまざまな実施形態では、犠牲材料は、温度の変化に応答して、その物理的特性及び/又は化学的特性を変化させる感熱材料であってもよい。物理的特性及び/又は化学的特性が変化する温度は、使用される犠牲材料の種類に依存する。
【0068】
一例では、犠牲材料は、一過性インク(例えば、商品名Pluronic(登録商標) F127としても知られるポロクサマー407)を含んでもよい。F127は、濃度に応じて、液体状態と半固体状態又はゲル状態との間で切り替わるように構成される。例えば、20%の重量比濃度では、F127材料は20℃未満では液体であり、約20℃から約70℃まではゲルであり、70℃を超えると再び液化する。犠牲インクは、印刷温度ではゲル状態を維持し、温度が上昇するか下降すると溶けてなくなるように構成される。言い換えれば、印刷用途で温度を40℃から50℃まで上げることができる場合は、アガロースなどの他の材料も使用することができる。バイオプリンティング用途の場合、40℃を超える高温は、細胞の生存率に影響を及ぼし、細胞死を引き起こす可能性さえあるため、生細胞には適していない。このため、犠牲材料は、印刷温度が細胞に適したものであるように、選択される必要がある。生細胞を伴わない他の印刷用途の場合、そのような印刷用途では、細胞の生存率が考慮される要素ではない可能性があるため、犠牲材料の選択がさらに柔軟になる可能性がある。
【0069】
さまざまな実施形態では、犠牲材料を液化するステップは、犠牲材料を液化させるために犠牲材料の化学組成を変更/修正するステップを含んでもよい。例えば、犠牲材料の化学組成を変更するステップは、犠牲材料を固体又は半固体の形態に維持するために使用される可逆的架橋剤を除去するステップを含んでもよい。さまざまな実施形態では、犠牲材料を液化するステップは、犠牲材料を溶解するステップを含んでもよい。さまざまな実施形態では、犠牲材料はアルギン酸塩を含んでもよい。アルギン酸塩分子は、カルシウムなどの多価陽イオンを含む架橋溶液の存在下でゲルを形成する。さまざまな実施形態では、ゲル状態のアルギン酸塩繊維を押し出して、3D構築物にて1つ又は複数の犠牲構造体の配列を形成してもよい。さまざまな実施形態では、アルギン酸塩から作成された犠牲材料を液化するステップは、3D構築物をキレート剤含有緩衝液(例えば、クエン酸塩、EDTA、EGTA)に浸漬するステップを含んでもよく、これにより、陽イオンが除去され、アルギン酸塩繊維が溶解することになる。
【0070】
さまざまな実施形態では、犠牲材料を除去するステップは、主に、適切な温度又は化学条件の下で犠牲材料(例えば、犠牲インク)を溶融することによって達成される。さまざまな実施形態では、犠牲材料を除去するステップは、例えば、水、適切な緩衝液(例えば、キレート剤含有緩衝液)又は細胞培養培地などの流体で濯ぐ/洗い流すことによって、3D構築物から液化した犠牲材料を能動的に除去するか希釈して、液化した犠牲材料を3D構築物から排出するステップをさらに含んでもよい。さまざまな実施形態では、犠牲材料を除去するステップは、例えば、水、適切な緩衝液(例えば、キレート剤含有緩衝液)などの流体又は細胞培養培地に一定期間3D構築物を浸漬するか浸すことによって、3D構築物から液化した犠牲材料を受動的に除去するか希釈して、液化した犠牲材料を3D構築物から流出させることができるステップをさらに含んでもよい。さまざまな実施形態では、流体(例えば、培地)の温度は、犠牲材料(例えば、犠牲インク)に相変化を引き起こすために使用される。さまざまな実施形態では、犠牲材料を除去するステップは、液化した犠牲材料を3D構築物から能動的に除去するステップと受動的に除去するステップの両方を含んでもよい。
【0071】
さまざまな実施形態では、1つ又は複数のチャネルの配列を含む3D構築物は、細胞を培養するための3D構築物のバイオプリンティングに適用されてもよい。3D構築物中のチャネルの存在は、拡散限界を超えて厚い構造体内の細胞に栄養素を提供するというバイオプリンティングでの基本的な課題に有利に対処するか、同課題を改善する可能性がある。チャネルのサイズ、密度及び配列は、3D構築物全体に分布する細胞に栄養素を充分に供給することを確実なものにするように、最適化されてもよい。
【0072】
さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料を堆積するステップは、1つ又は複数の材料を含有する液滴を流動性前駆体上に推進するステップを含む。さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料は、照射源と流動性前駆体との間に配置される液滴分配出口、例えば、インクジェットノズル、音響浮遊ノズル(acoustophoretic nozzle)から推進されてもよい。
【0073】
さまざまな実施形態では、流動性前駆体上に1つ又は複数の材料を含む液滴を推進するステップは、1つ又は複数の材料が3D構築物中に実質的に均一に分散されるように、液滴を実質的に一定の速度で推進するステップを含む。1つ又は複数の材料は、3D構築物の選択された領域又は3D構築物全体に実質的に均一に分散されてもよい。
【0074】
さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料を含有する液滴を流動性前駆体上に推進するステップは、1つ又は複数の材料の空間濃度勾配を3D構築物、例えば、3D構築物内の分子の空間パターンを形成するように、液滴を可変速度で推進するステップを含む。1つ又は複数の材料は、3D構築物の選択された領域又は3D構築物全体に空間濃度勾配で分散されてもよい。「空間濃度勾配」とは、濃度が1つ又は複数の空間次元に沿って変化し得る濃度勾配である。
【0075】
液滴に含有された1つ又は複数の材料の非限定的な例としては、生物学的反応修飾物質、サイトカイン、成長因子、抗原、薬物、ホルモンなどが挙げられる。一例では、この方法は、組織工学用途のための3D構築物内で所望の血管新生の結果を促進するための血管新生因子の制御された空間勾配を印刷するために使用されてもよい。別の例では、この方法は、第1のタイプの細胞を促進するための第1の成長因子(例えば、第1の領域の軟骨細胞の成長を促進するための成長因子)を含む第1の領域と、第2のタイプの細胞を促進するための第2の成長因子(例えば、第2の領域の骨細胞の成長を促進するための成長因子)を含む第2の領域とを有する3D構築物を印刷するために使用されてもよい。
【0076】
さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料を堆積するステップは、犠牲材料を押し出して、3D構築物のみに1つ又は複数の犠牲構造体の配列を形成するステップを含んでもよい。さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料を堆積するステップは、流動性前駆体上のみに1つ又は複数の材料を含有する液滴を推進するステップを含んでもよい。さまざまな実施形態では、1つ又は複数の材料を堆積するステップは、犠牲材料を押し出して、3D構築物内に1つ又は複数の犠牲構造体の配列を形成するステップと、1つ又は複数の材料を含有する液滴を流動性前駆体上に推進するステップの両方を含んでもよい。
【0077】
さまざまな実施形態では、流動性前駆体の架橋は、流動性前駆体と流体媒体との界面に発生するか、界面の近くに発生するか、界面に隣接して発生するか、界面に近接して発生する。有利には、さまざまな実施形態では、架橋中のどの時点でも少量の流動性前駆体又は薄層の流動性前駆体のみを使用する必要がある。さまざまな実施形態では、厚さを最小にすると、使用される高価な前駆体の量を削減するほか、過剰な光架橋を回避することによって解像度の向上にも役立つ可能性がある。これにより、貴重な資源の無駄が削減されると同時に、高解像度及び高速での構造体形成の制御をさらに適切なものにすることができる。しかし、前駆体材料の量は、所望の構造体を印刷するのに充分なものである必要がある(例えば、10mLの体積の前駆体では、20mLの体積の構造体を印刷するには不充分である)。必要とされる流動性前駆体の実際の量はこのほか、例えば、前駆体の特性(例えば、粘度、表面張力など)に依存するが、さまざまな実施形態では、一例として、約3mmの厚さの流動性前駆体の層が構造体の3D印刷に使用されても/充分であってもよい。流動性前駆体の量は、理想的には、前駆体の連続層を維持するのに充分な量である必要がある。(例えば、界面活性剤の使用によって)表面張力が低くなると、前駆体が流動性支持体全体にわたって広がるのを支援することができるが、それが細胞に対して有毒である場合には望ましくない可能性がある。さまざまな実施形態では、流動性前駆体の層は、約0.5mmから約5mmの範囲の厚さ/高さを有してもよい。流動性前駆体の層は、以下の数値群、即ち、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.2、1.4、1.6、1.8、2、2.2、2.4、2.6、2.8、3、3.2、3.4、3.6、3.8、4、4.2、4.4、4.6、4.8及び5mmから選択される始点及び終点を有する範囲にあってもよい。
【0078】
さまざまな実施形態では、前駆体の少なくとも一部を照射により架橋するステップは、架橋される前駆体の少なくとも一部に、電磁波源(即ち、照射源)からの電磁波を照射するステップを含む。さまざまな実施形態では、流動性前駆体は、電磁照射が施されると架橋することができる。電磁照射は、赤外線波、紫外波又は可視光スペクトルの波長を有する電磁波を含むが、ここに挙げたものに限定されない。さまざまな実施形態では、流動性支持体は、流動性前駆体を架橋するのと同じ電磁照射を施すことによって架橋可能なものではない。同じように、さまざまな実施形態では、流動性前駆体の層の最上部と相互作用する流体媒体は、流動性前駆体を架橋するのと同じ電磁照射を施すことによって架橋可能なものではない。
【0079】
さまざまな実施形態では、電磁照射は、電磁波源(例えば、照明又は照射源)から流動性前駆体への投射の形態である。さまざまな実施形態では、流動性前駆体への投射は、前駆体の架橋によって形成される3D構築物の断面積に対応する。さまざまな実施形態では、(形成される3D構築物の断面積に対応する)投射は、形成される3D構築物の一部と接触するか相互作用する上記流動性前駆体の位置/レベルが変化したり、及び/又は架橋が発生したりするにつれて、連続的に変化する。
【0080】
さまざまな実施形態では、流動性前駆体は、流動性前駆体の表面(例えば、流動性前駆体-流体媒体界面の平面)に実質的に直交する方向で照射される。さまざまな実施形態では、照射源による照射を介して架橋するステップは、3D構築物又はその一部が下から上方向に層ごとに形成されるように、下から上方向で実施される。さまざまな実施形態では、流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するステップは、流動性前駆体の上面に向かって上から下方向に1つ又は複数の材料を堆積するステップを含む。
【0081】
さまざまな実施形態では、照射を介して前駆体の少なくとも一部を架橋するステップは、流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するステップと同時に実施される。例えば、犠牲材料は、流動性前駆体中で架橋が起こる間に、3D構築物中に1つ又は複数の犠牲構造体の配列を形成するために押し出されてもよい。犠牲材料の押し出しには、押出し機ノズルをプロジェクタと流動性前駆体との間に一時的に位置決めする必要がある可能性があるが、犠牲材料の押し出しは、流動性前駆体の架橋よりも速く起こる可能性がある。このため、犠牲材料の押し出しが架橋プロセスに大きな影響を及ぼさない可能性がある。代替の実施形態では、前駆体の少なくとも一部を照射を介して架橋するステップと、流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するステップとが連続して実施されてもよい。例えば、1つ又は複数の材料は、最初に流動性前駆体の表面/内部に堆積され、その後、照射源により流動性前駆体を架橋してもよい。
【0082】
さまざまな実施形態では、流動性前駆体の位置/レベルを調整/変更するステップは、流動性前駆体の架橋速度と実質的に一致するか実質的に並行した(あるいは実質的に比例する)速度で実施される。例えば、流動性前駆体の上面の位置を調整するステップは、流動性前駆体を架橋する速度と実質的に一致する速度で実施される。さまざまな実施形態では、流動性支持体の体積を増大させる速度及び/又は流動性前駆体の位置/レベルを調整/変更する速度は、流動性前駆体の架橋速度と一致するか、さらに並行する(あるいは実質的に比例する)。さまざまな実施形態では、この方法は、連続印刷方法及び/又は高速印刷方法である。さまざまな実施形態では、この方法は、例えば、1つ又は複数の材料を堆積するためのさまざまなモダリティを使用した場合でも、連続印刷方法である。さまざまな実施形態では、照射源による照射を介して架橋するステップは、一時停止することなく連続的に実施される。さまざまな実施形態では、連続印刷は、非連続印刷プロセスの結果として発生する可能性のある層化アーチファクトを実質的に含まない3D構築物の印刷を有利に可能にする。
【0083】
さまざまな実施形態では、この方法は、3D構築物から流動性支持体を除去するステップをさらに含んでもよい。印刷中、すでに印刷されている3D構築物又はその一部はビルドプレート上に配置され、流動性支持体(即ち支持流体)に浸漬される。印刷後、例えば、支持流体は、水又は適切な緩衝液などの別の流体で濯ぐことによって、印刷された3D構築物から除去される。
【0084】
さまざまな実施形態では、この方法は、流動性前駆体の表面平面に直交する垂直軸に沿って約0.05mm/分(又は約3mm/時)から約5mm/分(又は約300mm/時)の印刷速度を有してもよい。理解を容易にするために、X軸及びY軸は流動性前駆体の表面平面に平行であるように規定され、Z軸は流動性前駆体の表面平面に直交するように規定される。印刷速度は、次の数値群、即ち、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9及び5mm/分から選択された始点と終点を有する範囲内であってもよい。さまざまな実施形態では、印刷速度は、流動性前駆体の配合、流動性前駆体の反応速度、急速に架橋されたときの流動性前駆体の挙動(例えば、構造体の反りが起こるかどうか)などの要因に依存してもよい。流動性前駆体の配合に応じて、3D構築物(例えば、複雑な形状を有する軟質ヒドロゲル構造体)は、本明細書に開示する方法を使用して、使用された材料及び構築物のサイズに応じて、数分から数時間程度で印刷されてもよい。例えば、高さ3cmの構造体の場合、印刷時間は、硬化の速い材料の場合は5~10分間、硬化の非常に遅い材料の場合は数時間かかる可能性がある。一実施形態では、この方法は、典型的には約0.1mm/分から1mm/分で動作する多くのDLP(デジタル光処理)プリンタよりも速い3.3mm/分で3Dヒドロゲル構築物を印刷することができる。
【0085】
さまざまな実施形態では、3D構築物は、センチメートルのオーダーの尺度を有する寸法を含んでもよい。さまざまな実施形態では、3D構築物内に形成されたチャネルは、ミリメートル又はサブミリメートルのオーダーの尺度を有する寸法を含んでもよい。さまざまな実施形態では、3D構築物は、約7kPaから約4MPaの範囲の剛性を有する3Dヒドロゲル構築物であってもよい。3Dヒドロゲル構築物の剛性は、次の数値群、即ち、7、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900及び4000kPaから選択された始点と終点を有する範囲内にあってもよい。さまざまな実施形態では、3Dヒドロゲル構築物は、4MPaを超える剛性を有してもよい。さまざまな実施形態では、3D構築物は、約0.1GPaを超える剛性を有する3Dプラスチック樹脂構築物であってもよい。さまざまな実施形態では、3D構築物は、印刷される材料及び構造体に応じて、約1kPa以下の剛性を有してもよい。
【0086】
さまざまな実施形態では、この方法は、細胞を含有する3D構築物のバイオプリンティングに使用されてもよい。さまざまな実施形態では、流動性前駆体及び1つ又は複数の材料は生体適合性のものである。さまざまな実施形態では、流動性前駆体及び/又は1つ又は複数の材料は細胞を含む。さまざまな実施形態では、この方法は、有利には、高剪断、極端な温度又は他の過酷な条件に曝されることなく、軟質材料の高速印刷を達成してもよく、細胞印刷と適合性があってもよい。典型的には、印刷条件が、印刷された構造体の最終培養状態とは(浸透圧、温度、pHなどに関して)異なるため、印刷速度により細胞を最適な培養条件に迅速に戻すことができる。さまざまな実施形態では、速度、使いやすさ及び多用途性により、この方法を幅広い製造用途及び生物医学用途に使用することができる。
【0087】
さまざまな実施形態では、本明細書に開示する方法を実施するためのシステムが提供される。このシステムは、流動性支持体及び流動性支持体の上方に配置された流動性前駆体を含有するように構成されたタンクと、流動性前駆体を照射するように構成された照射源と、タンクと照射源との間に配置され、流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料を堆積するように構成された1つ又は複数の分配出口と、を備える。ここで、照射源は、流動性前駆体中の1つ又は複数の材料と接触している流動性前駆体の少なくとも一部を、照射を介して架橋して、3D構築物又はその一部を形成するように構成される。
【0088】
さまざまな実施形態では、流動性前駆体の架橋を実施するために協働するシステムの構成要素(即ち、タンク、流動性支持体、照射源)は、第1の印刷モダリティに基づくものである。第1の印刷モダリティは、例えば、本明細書に開示するさまざまな実施形態による流体-支持液体界面重合(FLIP)プリンタであってもよい。さまざまな実施形態では、1つ又は複数の分配出口は、第1の印刷モダリティ(例えば、流体-支持液体界面重合)とは異なる、第2又は追加の印刷モダリティ、例えば、インクジェット又は押出印刷に基づくものである。
【0089】
さまざまな実施形態では、システムの第1の印刷モダリティは、流動性前駆体の上面に、比較的遮るもののない自由表面を提供する。流動性前駆体の自由表面は、自由表面によってもたらされる空間的アクセスの程度により、他の異なるモダリティを導入する/組み込む際に高柔軟性を有利に提供してもよく、それにより、流動性前駆体の表面/内部の1つ又は複数の材料の付加を可能にしても容易にしてもよい。有利なことに、システムのさまざまな実施形態では、他の異なる印刷モダリティを導入する/組み込むためのビルドプレートとパターニングスクリーンとの間の空間が不足する従来の3Dプリンタの制限を克服する。異なるモダリティを使用することのいくつかの利点には、スループットを向上させる能力(例えば、他のいくつかのモダリティでは、3D構築物内の特定のさらに微細で複雑な構造をさらに高速に印刷することができる)と、3D構築物にさまざまなタイプの材料を導入するのが容易である点と、動作中に異なるモダリティを交換するときに、断続的な冷却/非動作/再充電が可能でありながら、途切れない連続印刷が可能であるため、部品の寿命が向上し、効率が向上する点と、が挙げられる場合がある。
【0090】
さまざまな実施形態では、1つ又は複数の分配出口は、犠牲材料を押し出して、3D構築物の1つ又は複数のチャネルの配列のためのテンプレートを形成するための押出し機ノズルを備える。さまざまな実施形態では、1つ又は複数の分配出口は、1つ又は複数の材料を含有する液滴を流動性前駆体上に推進するための推進ノズル(例えば、インクジェットノズル、音響浮遊ノズル)を備える。さまざまな実施形態では、1つ又は複数の分配出口(例えば、押出し機ノズル、インクジェットノズル、音響浮遊ノズル)は、1つ又は複数の材料(例えば、犠牲材料、添加剤)を含有するそれぞれの貯蔵器に結合される。
【0091】
さまざまな実施形態では、推進ノズルは、1つ又は複数の材料が3D構築物中に実質的に均一に分散されるように、1つ又は複数の材料を含有する液滴を流動性前駆体上に実質的に均一な速度で推進するように構成されてもよい。推進ノズルは、1つ又は複数の材料を3D構築物の選択された領域又は3D構築物全体に実質的に均一に分散するように構成されてもよい。
【0092】
さまざまな実施形態では、推進ノズルは、1つ又は複数の材料の空間的濃度勾配が3D構築物、例えば、3D構築物内の分子の空間パターンに形成されるように、1つ又は複数の材料を含有する液滴を流動性前駆体上に可変速度で推進するように構成されてもよい。推進ノズルは、3D構築物の選択された領域又は3D構築物全体に空間濃度勾配で1つ又は複数の材料を分散させるように構成されてもよい。
【0093】
さまざまな実施形態では、1つ又は複数の分配出口(例えば、押出し機ノズル、インクジェットノズル、音響浮遊ノズル)は移動可能に構成される。1つ又は複数の分配出口は、1つ又は複数の軸に沿って移動可能に構成されてもよい。例えば、1つ又は複数の分配出口は、流動性前駆体の表面と実質的に平行な水平方向に移動可能に構成されてもよい。1つ又は複数の分配出口は、流動性前駆体の表面に実質的に直交する垂直方向に移動可能であるように構成されてもよい。1つ又は複数の分配出口の可動性により、流動性前駆体の表面/内部に1つ又は複数の材料の堆積が有利に促進されてもよい。
【0094】
さまざまな実施形態では、システムは、犠牲材料を押し出して、3D構築物内に1つ又は複数の犠牲構造体の配列を形成するための押出し機ノズルと、1つ又は複数の材料を含有する液滴を流動性前駆体上に推進するための推進ノズルとの組み合わせを備えてもよい。有利なことに、システムのさまざまな実施形態では、押出ベースの印刷手法とDLP(デジタル光処理)のような連続3D印刷方法とを組み合わせて、細胞の生存に必要な栄養素を細胞に供給可能なチャネルを備えたバイオプリンティング構造体を作成するために使用することができるマルチモダリティプリンタを作成してもよい。チャネルの犠牲構造体を作成するための繊維押出し機に加えて、このほか、システムのさまざまな実施形態を、添加剤、例えば、サイトカイン、成長因子などの濃度勾配を確立して、異種マトリクスを作成することができる推進ノズル、例えば、インクジェットノズル及び/又は音響浮遊ノズルと組み合わせて使用してもよい。
【0095】
さまざまな実施形態では、容器/タンクは、所定の速度での流動性支持体の流入を可能にする入口(即ち、少なくとも1つの入口)を備える。このシステムは、容器/タンクの入口を通る流動性支持体の流入を促進するためのアクチュエータ(例えば、ポンプ、リフトアーム)をさらに備えてもよい。さまざまな実施形態では、容器/タンクは、1つ又は複数の入口を備えてもよく、そのような実施形態では、アクチュエータは、それに応じて、容器/タンクの1つ又は複数の入口を通した流動性支持体の流入を促進してもよい。
【0096】
さまざまな実施形態では、システムは、流動性前駆体が照射源によって架橋される速度と実質的に一致する速度で、流動性前駆体の上記上面の位置を調整するように構成された処理モジュールをさらに備える。さまざまな実施形態では、処理モジュールは、例えば、容器/タンクへの流動性支持体の流量、照射源による照射の強度及び照射源の位置などを制御して、流動性前駆体の上面の位置が調整される速度及び/又は照射源によって流動性前駆体が架橋される速度に影響を及ぼす可能性があるこれらのパラメータを同期させるように構成されてもよい。処理モジュールはこのほか、流動性前駆体の表面/内部に堆積される1つ又は複数の材料の種類及び量のほか、堆積のタイミング及び速度を制御してもよい。処理モジュールはこのほか、流動性前駆体の上面に直交する垂直軸に沿って流動性前駆体の(例えば、すでに形成されている3D構築物の一部に対する)相対レベルが変化するか変更されるにつれて、流動性前駆体上に照射される投射の種類又は形状を制御し判定してもよい。
【0097】
さまざまな実施形態では、システムは、容器/タンクの外側に一定体積の流動性支持体を保持するための貯蔵器をさらに備える。さまざまな実施形態では、貯蔵器は、(例えば、入口を介して)容器/タンクと流体連通している。さまざまな実施形態では、流動性支持体は、(例えば、リフトアームを使用することによって)容器/タンクに対して貯蔵器の位置を上げることによって、受動ポンプシステム、例えば、重力ポンプシステムを使用して、貯蔵器から容器/タンクに移送され、それにより、流動性支持体が容器/タンクに流入する。有利なことに、これにより、容器/タンク内への流動性支持体の層流が確保され、流動性前駆体の架橋プロセスの中断を最小化するか防止する。
【0098】
さまざまな実施形態では、システムは、容器/タンクの基部上又はその近傍に配置された印刷ベッド/ビルドプレートをさらに備える。印刷ベッドは3D構築物又はその一部を支持することができる。さまざまな実施形態では、ビルドプレートの位置はこのほか、3D構築物又はその一部の流動性前駆体に対する位置が変更されるように、流動性前駆体の上面に実質的に直交する鉛直軸に沿って(例えば、処理モジュールによって)調整可能であってもよい。
【0099】
さまざまな実施形態では、照射源は、タンクを覆うように配置されたり(例えば、上から下への投射システム)、タンク/物体の下に配置されたり(例えば、下から上への投射システム)、タンク/物体の横に配置されたり(例えば、側面投射システム)、及び/又はタンク/物体の周囲に配置されたり(例えば、放射状/リング状投射システムなどの円周投射システム)する。
【0100】
さまざまな実施形態では、容器/タンクは、照射源からの照射に対して実質的に透明である。例えば、容器/タンクは、照射源から放出される電磁波を流動性前駆体に伝達することを可能にする。さまざまな実施形態では、そのような容器/タンクは、上から下への投射システム以外の投射システムを使用する場合、即ち、下から上への投射システム、側面投射システム及び/又は円周投射システムを使用する場合に、特に有用であってもよい。さまざまな実施形態では、流動性前駆体、流動性支持体及び3D構築物又はその一部はタンク内に配置される。
【0101】
さまざまな実施形態では、細胞を含んだヒドロゲル構造体を作製するために使用される場合があり、流動性前駆体の自由表面を有する3Dプリンタを利用するマルチモダリティ3Dプリンタが提供される。さまざまな実施形態では、マルチモダリティ3Dプリンタは、異なる材料の押出又は圧電堆積などの他の印刷モダリティと組み合わされる。さまざまな実施形態では、マルチモダリティ3Dプリンタは、細胞を含んだ構造体(例えば、ゼラチンメタクリレート、アルギン酸メタクリレートなど)を作成するための特定のインクのほか、低温であるが細胞に適合する温度下で液化する一時的インク(例えば、Pluronic(登録商標) F127)を使用して、栄養素を供給する手段として、細胞を含んだ構造体にチャネルを作成する。さまざまな実施形態では、マルチモダリティ3Dプリンタは、自由表面印刷と分子(生物製剤など)のインクジェット式堆積とを組み合わせて、ヒドロゲル構造体内にこの分子の濃度勾配を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【
図1】
図1は、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、3D構築物又はその一部を印刷するためのシステム(例えば、流体-支持液体界面重合(FLIP)プリンタ)の側面図を示す概略図である。
【
図2】
図2は、従来の3D印刷システムの側面図を示す概略図である。
【
図3A】
図3Aは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、FLIPプリンタを使用して3D構築物又はその一部を印刷する方法を示す概略図である。
【
図3B】
図3Bは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、FLIPプリンタを使用して3D構築物又はその一部を印刷する方法を示す概略図である。
【
図3C】
図3Cは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、FLIPプリンタを使用して3D構築物又はその一部を印刷する方法を示す概略図である。
【
図3D】
図3Dは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、FLIPプリンタを使用して3D構築物又はその一部を印刷する方法を示す概略図である。
【
図4A】
図4Aは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、3D構築物を印刷するプロセスを示す動画からのスクリーンショットである。
【
図4B】
図4Bは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、3D構築物を印刷するプロセスを示す動画からのスクリーンショットである。
【
図4C】
図4Cは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、3D構築物を印刷するプロセスを示す動画からのスクリーンショットである。
【
図4D】
図4Dは、3D構築物内の除去されたチャネルを示す3D構築物の断面の画像である。
【
図5A】
図5Aは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、ヒドロゲル構築物の断面を示す顕微鏡写真である。スケールバー=200ミクロン。
【
図5B】
図5Bは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、ヒドロゲル構築物の断面を示す顕微鏡写真である。スケールバー=200ミクロン。
【
図6A】
図6Aは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、別のヒドロゲル構築物の断面を示す顕微鏡写真である。スケールバー=200ミクロン。
【
図6B】
図6Bは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、別のヒドロゲル構築物の断面を示す顕微鏡写真である。スケールバー=200ミクロン。
【
図6C】
図6Cは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、別のヒドロゲル構築物の断面を示す顕微鏡写真である。スケールバー=200ミクロン。
【
図7】
図7は、Pluronic(登録商標) F127の状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0103】
本開示の例示的な実施形態が、以下の考察から、妥当な場合には図面と併せて読むことにより、当業者にはさらによく理解され、容易に明らかになるであろう。本発明の範囲から逸脱することなく、構造変更に関連する他の修正を実施し得ることを理解されたい。いくつかの実施形態を1つ又は複数の実施形態と組み合わせて新たな例示的な実施形態を形成することができるため、例示的な実施形態は必ずしも相互排他的ではない。例示的な実施形態は、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0104】
以下の例では、3D構築物を印刷するための戦略について説明する。
【0105】
(3D構築物を印刷するためのシステム)
図1は、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、3D構築物102又はその一部を印刷するためのシステム100(例えば、流体-支持液体界面重合(FLIP)プリンタ)の側面図を示す概略図である。システム100は、流動性支持体106(例えば、支持流体)と、流動性支持体106の上方に配置された流動性前駆体108(例えば、ヒドロゲル前駆体)とを含むように構成されたタンク104を備える。システム100は、流動性前駆体108を照射するように構成された照射源110(例えば、パターニング光源又はプロジェクタ)をさらに備える。システム100は、タンク104と照射源110との間に配置され、流動性前駆体108の表面/内部に材料114を堆積するように構成された分配出口112をさらに備える。システム100は、流動性前駆体108の表面/内部に2つ以上の材料114を堆積するように構成された2つ以上の分配出口112を備えてもよい。照射源110は、材料114と接触している流動性前駆体108の少なくとも一部を、照射を介して架橋して、3D構築物102又はその一部を形成するように構成される。形成された3D構築物102又はその一部は、ビルドプレート116上に配置される。
【0106】
図1に示すシステム100では、照射源110からのパターンを流動性前駆体108上に直接投射し、光架橋が流動性支持体106の上に浮いている流動性前駆体108の表面で発生する。この構成は、流動性前駆体108の上面を解放し、分配出口112(例えば、押出し機)を照射源110と流動性前駆体108との間の間隙に導入して、異なる材料(例えば、流動性前駆体108とは異なる第2の材料)を流動性前駆体108内に堆積し、3D構築物102又はその一部の初期段階の印刷上に堆積することを可能にする自由表面を提供する。そのような構成は、FLIP印刷モダリティとは異なる追加の印刷モダリティを導入するための空間が不足している従来の3Dプリンタで直面する問題に対処する可能性がある。
【0107】
例えば、
図2は、従来の3D印刷システム200の側面図を示す概略図であり、従来の3Dプリンタで直面する問題を強調している。3D印刷システム200は、ビルドプレート202と、パターニングスクリーン204(例えば酸素透過性窓)と、パターン化された光画像をミラー208に投射するように構成された画像ユニット206と、を備え、ミラー208はパターン化された光画像をパターニングスクリーン204上に順に投射する。従来の3D印刷システム200は、ビルドプレート202とパターニングスクリーン204という2つの固体表面を備える。使用中、ビルドプレート202は、パターニングスクリーン204に近づけられ、液体樹脂210を架橋するにつれて徐々に持ち上げられて、ビルドプレート202の下側から垂れ下がる3D構築物212又はその一部を形成する。従来の3D印刷システム200では、3D構築物212又はその一部が形成されるにつれて、ビルドプレート202とパターニングスクリーン204との間に死角214が形成される。これにより、ビルドプレート202とパターニングウィンドウ204との間に、他の材料を堆積するための他の印刷モダリティを導入するための空間が残らない。
【0108】
(3D構築物を印刷する方法)
図3Aから
図3Dは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、FLIPプリンタを使用して3D構築物又はその一部を印刷する方法を示す一連の概略図である。
【0109】
図3Aに示すように、上記流動性前駆体308が(図示しない)照射源(
図1の110と比較されたい)による照射を介して架橋されることを可能にする位置にて、流動性前駆体308(
図1の108と比較されたい)を流動性支持体306(
図1の106と比較されたい)によって支持する。流動性前駆体308は、すでに印刷された円筒形構築物302(例えば、ヒドロゲル構築物)(
図1の102と比較されたい)の一部の上面に接触するように位置決めされる。円筒形構築物302の一部はビルトプレート316(
図1の116と比較されたい)上に配置される。
【0110】
FLIPでは、浮遊前駆体層308内で光架橋が発生する。流動性前駆体308の上方の空間は比較的遮るものがないため、これにより自由表面が提供され、その結果、異なる印刷モダリティに基づく押出し機312(
図1の112と比較されたい)を使用して、印刷が未だ進行中の初期段階の印刷に一時的インク繊維(例えば、Pluronic(登録商標) F127繊維)を堆積することができる。
図3Aに示すように、ブロック矢印318で示すように、押出し機312から押し出される一時的インクが流動性前駆体308を横切って水平に並進するにつれて、繊維314(
図1の114と比較されたい)が円筒形構築物302の上面に形成される。印刷中に流動性前駆体308の自由表面上に一時的インクを押し出すと、栄養供給チャネルの型/テンプレートが作成される。円筒形構築物302の印刷を続けると、流動性支持体306の体積が増大することにより、ブロック矢印320で示すように、流動性前駆体308の位置/レベルが上方に上昇する。
【0111】
図3Bに示すように、流動性前駆体308は、繊維上を流れ続け、架橋すると、繊維を円筒形構築物302内に埋め込む。次いで、円筒形構築物302を4℃の氷浴に浸漬して、繊維314を液化する。
図3Cは、繊維314が元々埋め込まれていた場所にチャネル322が形成された状態の円筒形構築物302の概略斜視図を示す。
図3Dに示すように、次いで、チャネル322を有する円筒形構築物302は、培地324がチャネル322を満たすように培地に浸漬される。
【0112】
図4A、
図4B及び
図4Cは、本明細書に開示するさまざまな実施形態による、3D構築物を印刷するプロセスを示す動画からのスクリーンショットである。
図4Dは、3D構築物内の除去されたチャネルを示す3D構築物の断面の画像である。
【0113】
FLIP印刷では、前駆体-空気界面に自由表面を作成する。これにより、Pluronic(登録商標) F127繊維を堆積するために、例えば、押出し機を使用して材料を直接堆積することが可能になる。
図4Aに示すように、GelMA(ゼラチンメタクリロイル)シリンダ402(
図1の102と比較されたい)を、その前駆体408(
図1の108と比較されたい)から形成する。Pluronic(登録商標) F127ゲル繊維414(
図1の114と比較されたい)を、シリンジ412(
図1の112と比較されたい)からの押出によるGelMAの形成中に組み込む。
図4Bに示すように、支持流体(図では見えない、
図1の106と比較されたい)が流入すると、支持流体の上に浮いている前駆体408は上方に持ち上げられ、堆積した繊維414の上を流れる。
図4Cに示すように、光架橋が継続すると、繊維414はゲル内でカプセル化される。プロジェクタ(図では見えない、
図1の110と比較されたい)と前駆体408との間の押出し機412の位置が、投射されたパターンを妨げる可能性があるが、Pluronic(登録商標) F127の押出は数秒で発生し、光架橋よりもはるかに速いため、架橋プロセスにはあまり影響を及ぼさない。
図4Dに示すように、光架橋が完了した後、シリンダ全体が冷水浴/氷浴に浸漬されると、F127が液化して透明になり、GelMAシリンダ内にチャネルが形成される。
図7の相変化図に示すように、F127は、物理的状態を温度の変化に応答して変化させる感熱材料である。例えば、20%の重量比濃度では、F127材料は20℃未満では液体であり、約20℃から約70℃まではゲルであり、70℃を超えると再び液化する。犠牲インクは印刷温度ではゲル状態のままであるが、温度が上昇するか低下すると融解する。
【0114】
(栄養素供給チャネルを含むヒドロゲル内の細胞のバイオプリンティング)
軟質ヒドロゲル構造体を印刷する能力は、3Dバイオプリンティングに明確な用途がある。しかし、生きた構築物を正常に印刷するには、さらに2つの目標を達成する必要がある。
【0115】
まず、3D印刷プロセス自体に細胞毒性があってはならない。ここで開示するFLIPプリンタのバイオプリンティングの可能性を証明するために、緑色蛍光タンパク質(GFP)発現線維芽細胞をゼラチンメタクリレート(GelMA)中に懸濁し、ゼラチンメタクリレート(GelMA)マトリクス中に印刷した。ヒドロゲル構築物は、静的条件下(即ち、培地の活発な流れがない状態)にて細胞培養培地中で培養された。7日後、ヒドロゲル構築物を半分に切断し、ヨウ化プロピジウム(PI)で染色して死細胞を特定した。
【0116】
(高剪断、高温、過度の照射ではない)穏やかな印刷条件及び迅速な印刷の結果として、細胞は印刷の1週間後でも依然として生存していた。しかし、
図5Aに示すように、印刷されたチャネルがない場合、GFP発現細胞がみられたのは、媒体に面する表面500の数百ミクロン以内の周囲のみであった。表面から数百ミクロンを超えると、栄養素の拡散が制限されるため、細胞生存率が急激に低下し、そのようなゲルのコア領域502には生細胞が実質的にみられなくなる。
図5Bは、死滅したP1染色細胞のみを示すコア領域/壊死性コア502の顕微鏡写真である。
【0117】
これは、バイオプリンティングに必要な第2の条件、即ち、印刷された構造体が、例えば、印刷された構造体内に配置された1つ又は複数のチャネルを通じて、細胞の代謝を支援するのに充分な栄養素を供給しなければならないことを強調している。チャネルを直接印刷することは可能であるが、過剰架橋の傾向により、(プロセスを制御するために過剰な抑制染料を使用する)印刷が非常に遅くなるか、チャネルが部分的に遮断されることが多い。ここで開示する方法は、印刷プロセス中に部分的に印刷された構築物上にF127繊維を直接堆積させることによって一時的インク戦略を利用する(
図3Aから
図3Dを参照)。これは、FLIPが非相互作用戦略を採用しており、光架橋が一時停止することなく進行しながら、押出し機を用いて繊維を自由表面に堆積させることができるため、可能となった。印刷後、構築物を冷媒に浸漬すると、繊維が液化してチャネルを形成し、そのチャネルを通じて細胞が支持された(
図3Cの322を参照)。このようなチャネルの利点は、ゲルの壊死性コア近くに位置しているにもかかわらず、GFP発現細胞が明瞭にみられるチャネル内腔周りで明らかである。
【0118】
図6Aから
図6Cに示すように、緑色蛍光タンパク質(GFP)発現マウス線維芽細胞を、
図5Aの壊死性コア502に対応する類似の場所に印刷されたチャネル600を含むゼラチンメタクリレート(GelMA)マトリクスに直接印刷した。生存率は管腔から100~200ミクロン後ろで低下するが(
図6Bを参照)、GFP発現細胞がチャネル管腔の周囲で明瞭にみられた(
図6Aを参照)。
図6Cは、低い生存率への段階的な移行を示す、
図6A及び
図6Bのオーバーレイ画像である。
【0119】
この実験では受動的な拡散ではなく、能動的な流れによって培地交換が実施された場合に、細胞の生存能力を向上させることができる可能性がある。チャネルを適切に設計すると、この実験では受動的な拡散ではなく、チャネルを通る培地の能動的な流れを可能にすることができ、細胞の生存能力がさらに向上することになる。
【0120】
この実験は、任意の設計のチャネルネットワークを容易に組み込んで細胞の生存能力を支援しながら、細胞を含んだGelMAの(70mm/時を超える速度での)高速印刷が達成され得るため、ここで開示している方法及びシステムを用いた高速かつ多用途のバイオプリンティングの実施可能性を実証する。
【0121】
(考察)
ここで開示するFLIP方法及びシステムの実施形態では、流体支持戦略を使用して軟質構造体の印刷を可能にする連続3D印刷プラットフォームが提供される。ここで開示するFLIP方法及びシステムの実施形態では、組織のバイオプリンティングなどの生物医学用途での3D印刷の役割が拡大される可能性がある。この目的を達成するために、FLIPは、ヒドロゲルの機械的剛性が低い点、解剖学的構造体に関連した形状が複雑である点、既存のバイオプリンタのほとんどは印刷速度が遅い点及び穏やかで細胞と互換性のある印刷条件が必要である点を含む、バイオプリンティングに関連する技術的課題のいくつかに対処しようとした。
【0122】
バイオインクの主成分の1つには、典型的には、細胞生理学との適合性により、ヒドロゲルが挙げられる。ヒドロゲルは、金属、プラスチック、さらには多くのエラストマーなどの従来のエンジニアリング材料よりも柔軟であるが、表向きは同じ材料(例えば、PEG-ジアクリレート)から作成されたヒドロゲルであっても、配合によって機械的特性が大きく異なることがあることに留意することが重要である。メガパスカルのヒドロゲルを、バイオプリンティングの目的でFLIPを含むさまざまなプリンタを用いて印刷することができるが、典型的に、材料のヤング率は数百キロパスカル以下である。このため、張り出し構造体用の支持体の使用が必要になるが、多くの解剖学的構造体(例えば、血管)が薄く、空隙(例えば、心腔)を含む可能性があるという事実によって、その必要性はさらに高まる。
【0123】
この問題に対処するために、考えられる支持体の戦略には、極低温支持体を使用した印刷、高温で溶けるゲルへの直接印刷及び粒状ゲルへの印刷が挙げられる。このような戦略にはそれぞれ利点があるが、いずれもシリンジ押出法を採用しているため、それに伴う制限がある。さらに、極低温支持体の場合にはこのほか、必要な低温が細胞に適合しないため、細胞の直接印刷が困難になる。ここで開示する方法の実施形態では、印刷プロセス中に複雑な構造体が崩壊しないように支持する浮力を提供するために不活性で安定した流体を使用するFLIPが採用される。過フッ素化支持流体を使用すると、水性前駆体と混和しなくなり、モノマー、架橋剤及び開始剤などの前駆体の有機成分との相互作用も最小限に抑えられる可能性がある。結果として、開示した方法の実施形態の支持流体は、ヒドロゲル構造体の膨潤を少しも引き起こさず、流水で濯ぐことによって容易に除去される可能性がある。このような例では、張り出し構造体の印刷とは別に、FLIPプリンタを使用して、多くの樹脂ベースの3Dプリンタでは困難であったサブミリメートルスケールの自立型中空構造体を正常に印刷するために必要な条件を推定可能であることが示された。
【0124】
高い印刷速度は単なる利便性の問題ではないことを強調しておくのは価値がある。むしろ、印刷条件は、印刷された構造体の最終インキュベーション条件とは(浸透圧、温度、pHなどに関して)異なることが多いため、速度により細胞を最適な培養条件に迅速に戻すことができる。FLIPは、高剪断、極端な温度又は他の過酷な条件に軟質材料をさらすことなく、軟質材料の高速印刷を達成し、細胞印刷と互換性があることが示された(
図5及び
図6を参照)。印刷された構造体にチャネルを導入することによって、ここで開示する方法及びシステムの実施形態がこのほか、拡散限界を超えて、厚い構造体内の細胞に栄養素を提供するというバイオプリンティングの基本的な課題に対処できる能力を示した。ここで開示するシステム及び方法の実施形態の多用途性により、チャネルのサイズ、密度及び配列を最適化し、構造体全体に分散された細胞を充分に供給可能であることを保証することが可能である。繊維押出し機に加えて、ここに開示した方法の実施形態をこのほか、サイトカイン、成長因子又は他の添加剤の濃度勾配を確立して不均一なマトリクスを生成することができる音響浮遊ノズルと組み合わせて、使用してもよい。FLIPが現在備えている速度、使いやすさ、多用途性により、FLIPをさまざまな製造用途及び生物医学用途に適用可能である。
【0125】
当業者であれば、広範に説明した本開示の精神又は範囲から逸脱することなく、本明細書に開示した実施形態に他の変形及び/又は修正を施し得ることが理解されよう。例えば、本明細書の説明では、異なる例示的実施形態にわたって、異なる例示的な実施形態の特徴を、混合し、結合し、交換し、組み込み、採用し、修正し、包含するなどしてもよい。このため、本実施形態はあらゆる点で例示的なものであり、限定的なものではないと考える必要がある。
【国際調査報告】