(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】抗菌化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 413/14 20060101AFI20240405BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240405BHJP
A61K 31/538 20060101ALI20240405BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240405BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240405BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20240405BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C07D413/14 CSP
A61P31/04
A61K31/538
A61K9/08
A61P11/00
A61P13/00
A61P9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567995
(86)(22)【出願日】2022-05-03
(85)【翻訳文提出日】2023-12-18
(86)【国際出願番号】 EP2022061873
(87)【国際公開番号】W WO2022233886
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】202111020227
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519054725
【氏名又は名称】ディスキューバ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【氏名又は名称】大野 玲恵
(72)【発明者】
【氏名】カーン,モハメド ナワズ
(72)【発明者】
【氏名】ブライデンシュタイン,エレーナ ベルナデット モニカ
(72)【発明者】
【氏名】バイ,アラン
【テーマコード(参考)】
4C063
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA03
4C063BB01
4C063CC54
4C063DD22
4C063EE01
4C076AA12
4C076BB13
4C076CC32
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC74
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA09
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZA81
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は、抗菌化合物、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置におけるその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物(I):
【化1】
またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ。
【請求項2】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の治療または予防における使用のための、請求項1に記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ。
【請求項3】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置方法における使用のための、請求項1に記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ。
【請求項4】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の前記処置における使用のための医薬の製造のための、請求項1に記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ。
【請求項5】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置における使用のための、請求項1に記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ。
【請求項6】
それを必要とする対象における、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患を処置する方法であって、有効量の請求項1に記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを前記対象に投与することを含む方法。
【請求項7】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による前記感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患が、以下:腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による菌血症または血流感染、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による呼吸器感染、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による尿路感染(UTI)、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による腎盂腎炎、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による腹腔内感染のうちの1つまたは複数であり、好ましくは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による前記感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患が、以下:腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による菌血症または血流感染、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による呼吸器感染、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による尿路感染(UTI)のうちの1つまたは複数であり、より好ましくは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による前記感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患が、以下:腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による呼吸器感染、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による尿路感染(UTI)のうちの1つまたは複数である、請求項2から5のいずれかに記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、あるいは請求項6に記載の方法。
【請求項8】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による前記感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患が、多部位感染である、請求項2から5もしくは7のいずれかに記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、あるいは請求項6もしくは7に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体もしくはプロドラッグが、非経口に、好ましくは静脈内に、より好ましくは静脈内注入(IV注入)によって投与される、請求項2から5、7もしくは8のいずれかに記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、あるいは請求項6から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
腸内細菌目の前記グラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌が、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌または拡張スペクトルβ-ラクタマーゼ腸内細菌目細菌である、請求項2から5、および7から9のいずれかに記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、あるいは請求項6から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記グラム陰性菌が、腸内細菌目のものである、請求項2から5、および7から10のいずれかに記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体もしくはプロドラッグ、あるいは請求項6から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
腸内細菌目の前記グラム陰性菌が、腸内細菌目細菌属のアルセノホヌス(Arsenophonus)、アトランティバクター(Atlantibacter)、ビオストラチコラ(Biostraticola)、ブレネリア(Brenneria)、ブフネラ(Buchnera)、ブドビシア(Budvicia)、ブチアウキセラ(Buttiauxella)、セデセア(Cedecea)、カニア(Chania)、シトロバクター(Citrobacter)、コセンザエア(Cosenzaea)、クロノバクター(Cronobacter)、ジッケヤ(Dickeya)、エドワージエラ(Edwardsiella)、エンテロバシルス(Enterobacillus)、エンテロバクター(Enterobacter)、エルウィニア(Erwinia)、エシェリキア(Escherichia)、エウィンゲラ(Ewingella)、フランコニバクター(Franconibacter)、ジブシエラ(Gibbsiella)、ハフニア(Hafnia)、イズハキエラ(Izhakiella)、コサコニア(Kosakonia)、クレブシエラ(Klebsiella)、クライベラ(Kluyvera)、レクレルシア(Leclercia)、レリオッチア(Lelliottia)、レミノレラ(Leminorella)、レビネア(Levinea)、ロンスダレア(Lonsdalea)、マングロビバクター(Mangrovibacter)、モエレレラ(Moellerella)、モルガネラ(Morganella)、オベスンバクテリウム(Obesumbacterium)、パントエア(Pantoea)、ペクトバクテリウム(Pectobacterium)、ファセオリバクター(Phaseolibacter)、フォトラブダス(Photorhabdus)、プレジオモナス(Plesiomonas)、プルラリバクター(Pluralibacter)、プラジア(Pragia)、プロテウス(Proteus)、プロビデンシア(Providencia)、シュードシトロバクター(Pseudocitrobacter)、ラーネラ(Rahnella)、ラオウルテラ(Raoultella)、ロセンベルギエラ(Rosenbergiella)、ロウシエラ(Rouxiella)、サッカロバクター(Saccharobacter)、サルモネラ(Salmonella)、サムソニア(Samsonia)、セラチア(Serratia)、シゲラ(Shigella)、シムウェリア(Shimwellia)、シッシバクター(Siccibacter)、ソダリス(Sodalis)、タツメラ(Tatumella)、トルセリア(Thorsellia)、トラブルシエラ(Trabulsiella)、ウィグルスウォーチア(Wigglesworthia)、ゼノラブダス(Xenorhabdus)、エルシニア(Yersinia)およびヨケネラ(Yokenella)から選択され、好ましくは、腸内細菌目の前記グラム陰性菌が、セデセア(Cedecea)、シトロバクター(Citrobacter)、エルウィニア(Erwinia)、エシェリキア(Escherichia)、エンテロバクター(Enterobacter)、クレブシエラ(Klebsiella)、クライベラ(Kluyvera)、プレジオモナス(Plesiomonas)、プロテウス(Proteus)、プロビデンシア(Providencia)、ラオウルテラ(Raoultella)、サルモネラ(Salmonella)、セラチア(Serratia)、シゲラ(Shigella)、およびエルシニア(Yersinia)から選択され、好ましくは、腸内細菌目の前記グラム陰性菌が、エルウィニア(Erwinia)、エシェリキア(Escherichia)、エンテロバクター(Enterobacter)、クレブシエラ(Klebsiella)、プロテウス(Proteus)、サルモネラ(Salmonella)、セラチア(Serratia)、シゲラ(Shigella)、およびエルシニア(Yersinia)から選択され、好ましくは、腸内細菌目の前記グラム陰性菌が、腸内細菌目細菌属のエンテロバクター(Enterobacter)エシェリキア(Escherichia)、およびクレブシエラ(Klebsiella)から選択され、より好ましくは、腸内細菌目の前記グラム陰性菌が、腸内細菌目細菌属の)エシェリキア(Escherichia)、およびクレブシエラ(Klebsiella)から選択される、請求項2から5、および7から11のいずれかに記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体もしくはプロドラッグ、あるいは請求項6から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
腸内細菌目の前記グラム陰性菌が、エンテロバクター菌種(Enterobacter spp.)、大腸菌(Escherichia Coli)、および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、より好ましくは大腸菌(Escherichia Coli)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)から選択される、請求項2から5、および7から12のいずれかに記載の化合物(I)、または請求項6から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを使用して、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌の増殖をインビトロで阻害する方法。
【請求項15】
薬学的に許容される賦形剤または担体と一緒に製剤化されている、化合物(I):
【化2】
またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ。
【請求項16】
請求項1に記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、および薬学的に許容される賦形剤または担体を含む医薬組成物。
【請求項17】
前記薬学的に許容される賦形剤または担体が、ヒト対象への静脈内注入に好適な薬学的に許容される賦形剤または担体である、請求項15に記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体もしくはプロドラッグ、あるいは請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグが、50~6000mg、好ましくは50~4000mg、例として50~3000mg、例として50~2000mg、例として100~2000mg、例として200~2000mg、例として200~1750mg、例として200~1500mg、例として250~1000mgの量で存在する、請求項16または17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置における使用のための医薬組成物であって、請求項1に記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、および薬学的に許容される賦形剤または担体を含み、好ましくは、ヒト対象に静脈内注入によって投与される医薬組成物。
【請求項20】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置における使用のための医薬組成物であって、請求項1に記載の化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、および薬学的に許容される賦形剤または担体を含み、前記化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体もしくはプロドラッグが、1日あたり50~6000mgの用量で、静脈内注入によってヒト対象に投与される、医薬組成物。
【請求項21】
前記化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体もしくはプロドラッグが、1日あたり50~6000mgの用量で、ヒト対象に投与される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体もしくはプロドラッグが、1日あたり50~4000mg、例として1日あたり50~3000mg、例として1日あたり50~2000mg、例として1日あたり100~2000mg、例として1日あたり200~2000mg、例として1日あたり200~1750mg、例として1日あたり200~1500mg、例として1日あたり250~1000mgの用量でヒト対象に投与される、請求項19、20または21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
静脈内注入によってヒト対象に1日1回、1日2回、または1日3回、好ましくは1日2回投与される、請求項20から22のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項24】
1日2回投与される場合、これは、1~12時間間隔、例として1~8時間間隔、または2~6時間間隔、または2~5時間間隔、または3~5時間間隔、または1~4時間間隔である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
静脈内注入によってヒト対象に投与され、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による呼吸器感染、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による尿路感染(UTI)(典型的には合併性UTI)の処置における使用のためのものである、請求項20から24のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項26】
静脈内注入によってヒト対象に投与され、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の前記処置が、1~10日間、例として、1~7日間、または1~5日間の処置過程を伴う、請求項20から25のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本明細書で定義される抗菌化合物、化合物を含有する医薬組成物、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌、特に既存の抗生物質に対する耐性を獲得した腸内細菌目のグラム陰性菌による細菌感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置における化合物および化合物を含有する医薬組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の抗菌化合物に対する耐性を伴う細菌病原体の出現に対抗するための新しい抗菌化合物が必要とされている。既存の抗生物質に対する細菌耐性の発生の増加は、多くの細菌病原体の間で多剤耐性が一般的になり、一般的な感染が社会に及ぼす負担を大幅に増強させる脅威となっている。例えば、ESKAPE病原体(フェシウム菌(Enterococcus faecium)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)およびエンテロバクター(Enterobacter)種)の抗生物質耐性菌株、例としてカルバペネム耐性腸内細菌(Enterobacteriaceae)(CRE)、多剤耐性(MDR)アシネトバクター(Acinetobacter)、MDR緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)およびバンコマイシン耐性腸球菌(Enterococcus)(VRE)などは、ヒトの健康に対する緊急のまたは深刻な脅威をもたらすと特定された抗生物質耐性微生物のリストに含まれている。他の顕著な抗生物質耐性病原体には、グラム陽性の嫌気性菌ディフィシル菌(Clostridium difficile)、薬剤耐性淋菌(Neisseria gonorrhoeae)および薬剤耐性結核菌(tuberculosis)が含まれる。
【0003】
具体的には、カルバペネム(β-ラクタム)抗生物質などの既存の抗生物質製剤に対する、グラム陰性菌、特に腸内細菌目のグラム陰性菌の耐性が増加している。例えば大腸菌(Escherichia coli)NDM-1(ニューデリーメタロ-β-ラクタマーゼ)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)のようなカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(Enterobacterales)などの抗生物質耐性グラム陰性腸内細菌目細菌菌株は、処置が困難であり、ますます蔓延し、毒性が増加している。さらに、例えば、ST11カルバペネム耐性の超毒性肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)菌株のような、致死的な大流行に関連するカルバペネム耐性肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)の、新しく出現している超毒性、多剤耐性および強度感染性の菌株が同定された。そのような菌株は、これまでおよび現在推奨されている抗生物質に対して耐性であり、現在、世界的規模の主要な公衆衛生の懸念事項である。
【0004】
現在、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)が疑われる腸内細菌目細菌感染は、一般に広域スペクトル薬剤で処置される。そのような処置は通常、β-ラクタム系抗生物質とβ-ラカタマーゼ阻害剤(BL/BLI)の組合せ、または最終手段の抗生物質であるコリスチンの使用からなる。BL/BLIの組合せは、短期的には有効であるが、最終的には細菌の既存の耐性メカニズムに屈すると予測されている。さらに、これらの広域スペクトル薬剤は、すべてのAmblerのβ-ラクタマーゼクラスに対して活性があるわけではなく、カルバペネム系抗生物質を含む広範囲のβ-ラクタム系抗生物質に対する耐性を与えるメタロ-β-ラクタマーゼに対しては活性を有さない。
【0005】
したがって、カルバペネムおよびその他のβ-ラクタムなどの既知の抗生物質に耐性があるか、または多剤耐性感染因子を伴う腸内細菌目のグラム陰性菌による感染、またはそれによって引き起こされるもしくは悪化する疾患に対して、信頼性の高い方法で効果的な処置を提供することができる、新しい抗菌化合物が必要とされている。さらに、既知の抗菌化合物に伴う副作用を回避または軽減することができる抗生物質製剤を提供する必要がある。
【0006】
本発明の態様の目的は、上述の問題または他の問題の解決策を提供することである。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、化合物(I):
【0008】
【化1】
またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを提供する。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の治療または予防における使用のための、化合物(I):
【0010】
【化2】
またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを提供する。
【0011】
本発明の第3の態様によれば、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置方法における使用のための、化合物(I):
【0012】
【化3】
またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを提供する。
【0013】
本発明の第4の態様によれば、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置における使用のための医薬の製造のための化合物(I):
【0014】
【化4】
またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを提供する。
【0015】
本発明のさらなる態様によれば、それを必要とする対象における、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患を処置する方法であって、有効量の化合物(I):
【0016】
【化5】
またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを前記対象に投与することを含む方法を提供する。
【0017】
化合物(I)は、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌に対して殺菌活性を有し、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置または予防において使用することができる。
【0018】
本発明のさらなる態様によれば、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置における使用のための、化合物(I):
【0019】
【化6】
またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを提供する。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、化合物(I):
【0021】
【化7】
またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを使用して、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌の増殖をインビトロで阻害する方法を提供する。
【0022】
本発明のさらなる態様によれば、薬学的に許容される賦形剤または担体と一緒に製剤化されている、化合物(I):
【0023】
【化8】
またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを提供する。
【0024】
本発明のさらなる態様によれば、化合物(I):
【0025】
【化9】
またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、および薬学的に許容される賦形剤または担体を含む医薬組成物を提供する。
【0026】
本発明のさらなる態様によれば、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置における使用のための医薬組成物であって、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、および薬学的に許容される賦形剤または担体を含み、化合物(I)が、
【0027】
【0028】
本発明のさらなる態様によれば、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置における使用のための医薬組成物であって、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、および薬学的に許容される賦形剤または担体を含み、化合物(I)が、
【0029】
【化11】
であり;医薬組成物が、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグが1日あたり50~6000mgの用量で、静脈内注入によって投与される、医薬組成物を提供する。
【0030】
定義
本明細書で使用される場合、「疾患」または「細菌性疾患」という用語は、生理学的機能を損ない、特定の症状に関連する異常な状態を定義するために使用される。この用語は、病因の性質(または実際には疾患の病因論的根拠が確立されているかどうか)に関係なく、生理学的機能が損なわれているあらゆる障害、疾病、異常、病変、不調、状態または症候群を包含するために広く使用される。したがって、この用語は、外傷、傷害、外科手術、放射線アブレーション、中毒、または栄養欠乏から生じる状態を包含する。この用語は、対象の身体および/または細胞内に存在および/または複製する細菌が関与する(例えば、その存在により生じ、悪化し、関連するかまたは特徴づけられる)任意の疾患を指す。したがって、この用語には、細菌性毒素により生じるかまたは悪化する疾患(本明細書では「細菌性中毒」と呼ばれる場合もある)が含まれる。
【0031】
本明細書で使用される場合、「感染」または「細菌感染」という用語は、対象が細菌に感染している状態を定義するために使用される。感染は、症候性または無症候性であり得る。症候性の場合には、対象は、確立された診断基準に基づいて、感染していると特定することができる。無症候性の場合には、対象は、例えば生化学的検査、血清学的検査、微生物培養法および/または顕微鏡観察を含む種々の検査に基づいて、感染していると特定することができる。したがって、本発明は、典型的には、細菌感染が診断されたかまたは検出された対象の処置における用途が見出される。
【0032】
本明細書で使用される場合、「処置」または「処置すること」という用語は、疾患の症状を治癒する、軽快させる、もしくは軽減する、またはその原因(例えば、原因となる細菌)を取り除く(もしくはその影響を軽減する)介入(例えば、対象への薬剤の投与)を指す。この場合、この用語は「治療」という用語と同義で使用される。したがって、本発明による感染の処置は、本発明の化合物の(直接的または間接的な)殺菌作用を特徴とすることができる。したがって、本発明の化合物は、細菌細胞を死滅させるか、またはその成長を防止する方法における用途が見出される。
【0033】
さらに、「処置」または「処置すること」という用語は、処置集団内での疾患の発症または進行を防止するかもしくは遅延させるか、またはその発生率を低下させる(もしくは根絶する)介入(例えば、対象への薬剤の投与)を指す。この場合、処置という用語は、「予防」という用語と同義で使用される。
【0034】
「対象」という用語(文脈が許す限り、「個体」、「動物」、「患者」または「哺乳動物」を含むものと解釈されるべきである)は、処置が示される任意の対象、特に哺乳動物の対象を定義する。哺乳動物の対象には、ヒト、飼育動物、家畜、動物園動物、競技用動物、ペット動物、例としてイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、雌ウシ;霊長類、例として類人猿、サル、オランウータン、およびチンパンジー;イヌ類、例としてイヌおよびオオカミ;ネコ類、例としてネコ、ライオン、およびトラ;ウマ類、例としてウマ、ロバ、およびシマウマ;食用動物、例として雌ウシ、ブタ、およびヒツジ;有蹄類、例としてシカおよびキリン;げっ歯類、例としてマウス、ラット、ハムスターおよびモルモット;などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、対象はヒトである。
【0035】
「グラム陰性菌」および「グラム陽性菌」という用語は、ある特定の細胞壁染色特徴に基づいて、2つの異なるクラスの細菌を定義する専門用語である。
【0036】
本明細書で使用される場合、化合物または薬剤の「有効量」は、過度の有害な副作用を伴うことなく、所望の薬理効果または治療上の改善を達成する量である。本明細書で使用される「治療有効量」は、感染または疾患の1つもしくは複数の症状をある程度緩和する、投与されている十分な量の薬剤または化合物を指す。結果は、感染または疾患の兆候、症状、もしくは原因の低減および/もしくは緩和、または生物学的系の任意の他の所望の変化であり得る。治療結果は完全治癒である必要はない。「治療有効量」という用語には、例えば、予防有効量が含まれる。「有効量」または「治療有効量」は、個体の年齢、体重、全身状態、投与様式、処置されている状態、処置されている状態の重症度、およびその他の要因により、対象間で異なる可能性があると理解されている。
【0037】
本発明で使用される場合、「予防有効量」は、必要な投与量および期間で、所望の予防結果を達成するために有効な量を指す。典型的には、予防的用量は、発症前または疾患の初期段階の対象において使用されるので、予防有効量は、治療有効量よりも少なくなるであろう。
【0038】
「有効な」という用語には、相加性、相乗作用、副作用の軽減、毒性の軽減、性能の向上、感染時の細菌負荷の軽減、または活性などの有利な効果が含まれる。
【0039】
本発明の化合物(I)に適用される「薬学的に許容される塩」という用語は、過度の毒性、刺激、アレルギー応答を伴うことなく、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに好適であり、合理的な利益/リスク比に相応する、遊離塩基の任意の有機または無機酸付加塩を定義する。好適な薬学的に許容される塩は、当技術分野において周知である。例として、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸およびリン酸)、有機カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、ジヒドロキシマレイン酸、安息香酸、フェニル酢酸、4-アミノ安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸、アントラニル酸、ケイ皮酸、サリチル酸、2-フェノキシ安息香酸、2-アセトキシ安息香酸およびマンデル酸)ならびに有機スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸)から形成される塩がある。
【0040】
本発明の化合物(I)に適用される「溶媒和物」という用語は、化合物(I)と、有機であるかまたは無機であるかどうかにかかわらず、1つまたは複数の溶媒分子との物理的会合を意味する。この物理的会合としては、水素結合を挙げることができる。ある特定の例において、溶媒和物は、例えば、1つまたは複数の溶媒分子が結晶性固体の結晶格子内に組み込まれている場合に、単離することができるであろう。溶媒和物は、化学量論的量の溶媒分子または非化学量論的量の溶媒分子のいずれかを含んでもよい。例えば、非化学量論的量の溶媒分子を含む溶媒和物は、溶媒和物からの溶媒の部分的な損失によって生じる場合がある。「溶媒和物」は、液相溶媒和物および単離可能な溶媒和物の両方を包含する。例示的な溶媒和物としては、水和物、エタノレート、メタノレート、イソプロパノレートなどが挙げられる。溶媒和の方法は、当技術分野で一般に知られている。
【0041】
本発明の化合物(I)に適用される「水和物」という用語は、分子形態で水と会合している場合の化合物(I)を指し、すなわち、ここで、H-OH結合は分割されておらず、例えば、式R・H2Oによって表すことができ、ここで、Rは本発明の化合物である。所与の化合物は、例えば一水和物(R・H2O)または多水和物(R・nH2O、式中、nは>1の整数)、例えば、二水和物(R・2H2O)、三水和物(R・3H2O)など、または半水和物、例として、例えばR・n/2H2O、R・n/3H2O、R・n/4H2Oなどであって、式中、nは整数であるものを含む2つ以上の水和物を形成し得る。
【0042】
本明細書で使用される場合、化合物(I)に適用される「プロドラッグ」という用語は、得られる誘導体のインビボ生体内変換生成物が、式(I)の化合物で定義される活性薬物であるような、エステル、アミドおよびホスフェートなどの薬理学的に許容される誘導体を意味する。一般にプロドラッグを説明するGoodmanおよびGilmanによる参考文献(The Pharmaco- logical Basis of Therapeutics, 8 ed, McGraw-HiM, Int. Ed. 1992, "Biotransformation of Drugs", p 13-15)は、本明細書に組み込まれる。本発明の化合物(I)のプロドラッグは、修飾が定型的な操作またはインビボのいずれかで、親化合物に切断されるような方法で化合物中に存在する官能基を修飾することによって調製される。本発明の化合物のプロドラッグには、化合物(I)のアミノ基が、プロドラッグが対象に投与されたときに開裂して遊離アミノを形成する任意の基に結合している化合物が含まれる。この用語には、そのすべての位置異性体が含まれる。
【0043】
その最も広範な態様において、本発明は、化合物(I)のすべての光学異性体、または薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを企図する。
【0044】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグの立体化学的形態が薬学的有用性にとって重要である場合、本発明は単離されたユートマーの使用を企図する。
【0045】
本明細書で使用される「耐性菌株」という用語は、1つまたは複数の既知の抗菌剤、特に細菌の菌株による感染の処置における標準治療であると広く考えられている抗菌剤に対して耐性または非感受性を示したそのような菌株を指す。「非感受性菌株」は、所与の化合物または化合物クラスの、その菌株に対するMIC(最小発育阻止濃度)が、対応する感受性菌株に対するMICより高い数値に移行した菌株である。例えば、非感受性菌株は、β-ラクタム抗生物質に非感受性である菌株、1つもしくは複数のフルオロキノロンに非感受性である菌株および/または1つもしくは複数の他の抗生物質(すなわち、β-ラクタムおよびフルオロキノロン以外の抗生物質)に非感受性である菌株を指す場合がある。場合によっては、「耐性」という用語は、所与の化合物または化合物クラスの、その菌株に対するMICが、対応する感受性菌株に対するMICより有意に高い数値に移行した菌株を指す場合がある。細菌株は、ある濃度のこの薬剤によりインビトロにおいて阻害され、それが治療失敗の高い可能性に関連する場合、所与の抗生物質に対して耐性があると言われる可能性がある。
【0046】
本明細書で使用される「多剤耐性の」または「多剤耐性」という用語は、2つ以上の抗菌剤に対してインビトロおよび/またはインビボ耐性を示す、高耐性グラム陰性菌(例えば、カルバペネマーゼ産生肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae))などの生物を指す。そのような生物は、現在入手可能な抗菌剤のすべてに対して耐性があるか、またはより古い、より有毒である可能性がある抗菌剤に対してのみ感受性を維持している場合がある。
【0047】
本明細書で使用される「超毒性」という用語は、一般に高毒性プラスミドの獲得の結果として、例外的に高毒性の生物を指す。そのような生物は、重度の疾病を引き起こす可能性がある。完璧を期すると、「高毒性の」とは、極度に重度または有害な影響および疾病を引き起こす可能性がある生物を指す。
【0048】
本明細書で使用する「抗菌処置」という用語は、化合物(I)以外の抗菌剤またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを用いた対象の感染または疾患の処置を意味する。典型的には、本発明との関係においては、これは、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ以外の、カルバペネムまたは他のβ-ラクタム系抗生物質を含む、既知の抗生物質または処置方法によるものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1-1】
図1aは、化合物(I)、比較化合物(II)および比較化合物(III)についてインビトロ薬理学結合アッセイについて、試験した44個のリガンドすべての結果を示す。
【
図1-4】
図1dは、化合物(I)、比較化合物(II)および比較化合物(III)についてインビトロ薬理学結合アッセイの結果のうち、50%を超える阻害を示す結果のみを示す。
【
図2】
図2は、化合物(I)および比較化合物(III)を、腸内細菌目のグラム陰性菌による呼吸器感染の処置のためのマウスモデルにおける概念実証研究において評価した結果を示す。
【
図3】
図3は、化合物(I)および比較化合物(III)を、腸内細菌目のグラム陰性菌による菌血症または血流感染の処置のためのマウスモデルにおける概念実証研究において評価した結果を示す。
【
図4-1】
図4aは、化合物(I)および比較化合物(III)を、腸内細菌目のグラム陰性菌による尿路感染の処置のためのマウスモデルにおける概念実証研究において評価した結果を示す。
【
図5】
図5は、化合物(I)を、腸内細菌目のグラム陰性菌による呼吸器感染の処置のためのマウスモデルにおける概念実証研究においてさらに評価した結果を示す。
【
図6-1】
図6aは、化合物(I)を、腸内細菌目のグラム陰性菌による尿路感染の処置のためのマウスモデルにおける概念実証研究においてさらに評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
発明の詳細な説明
本発明は、腸内細菌目のグラム陰性菌、特にカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)および拡張スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)腸内細菌目細菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置に関して、これまでのアンメット臨床ニーズに対する解決策を提供する。本発明はまた、ヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置に利用することができる。
【0051】
驚くべきことに、かつ有利には、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグによって、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌、例えば、既知のβ-ラクタム系抗生物質に耐性があり、死亡の主な原因である腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の治療が可能になることが見出された。
【0052】
化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、多部位感染、すなわち腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染であり、対象の異なる感染部位(組織および/または臓器の細胞内部位)において発生するものの処置において特に有利であり得る(本発明の実施例セクションに提供されるデータによって示される)。処置を必要とする対象の疾患または感染の抗菌処置が失敗した場合、または対象がアレルギーであるか、もしくはそうでなければ抗菌処置で使用されるまたは使用が検討される薬剤に対して禁忌である場合、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置に、さらに有利に利用することができる。
【0053】
化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、迅速な殺菌作用があるようであり、すべてのAmblerのβ-ラクタマーゼクラス(メタロ-β-ラクタムを含む)を含む、現在試験されているすべての臨床耐性機構に対して非常に活性が高いと考えられる。化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、全範囲のカルバペネム代謝酵素による失活を受けないようであり、カルバペネマーゼまたは他の耐性特性とは無関係に、現在試験されているすべてのCREに対する活性を実証している。既知のBL/BLI組合せ処置とは対照的に、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、インビトロで試験された耐性発現の傾向が低いことを示した。
【0054】
さらに、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、現在試験されているクラスの抗生物質との交差耐性を示さず、禁忌も観察されない。化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、薬理学研究においてインビトロおよびインビボの両方の安全性も実証している。
【0055】
したがって、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌、特に、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)および拡張スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)腸内細菌目細菌などの、既知の抗生物質に耐性のある細菌によって引き起こされるもしくは悪化する細菌感染または疾患の処置に使用することができる。化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌、特に、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)および拡張スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)腸内細菌目細菌などの、既知の抗生物質に耐性のある細菌に対して殺菌活性を有する。
【0056】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目の1つまたは複数のグラム陰性菌を標的とすることができる。化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、グラム陰性菌の腸内細菌目の科および属の1つまたは複数のグラム陰性菌を標的とすることができる。腸内細菌目は、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、ブドビシア科(Budviciaceae)、エルウィニア科(Erwiniaceae)、ハフニア科(Hafniaceae)、モルガネラ科(Morganellaceae)、ペクトバクテリア科(Pectobacteriaceae)、およびエルシニア科(Yersiniaceae)、ならびにそれらのすべての属を包含する。化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目の以下の属の1つまたは複数のグラム陰性菌を標的とすることができる:アルセノホヌス(Arsenophonus)、アトランティバクター(Atlantibacter)、ビオストラチコラ(Biostraticola)、ブレネリア(Brenneria)、ブフネラ(Buchnera)、ブドビシア(Budvicia)、ブチアウキセラ(Buttiauxella)、セデセア(Cedecea)、カニア(Chania)、シトロバクター(Citrobacter)、コセンザエア(Cosenzaea)、クロノバクター(Cronobacter)、ジッケヤ(Dickeya)、エドワージエラ(Edwardsiella)、エンテロバシルス(Enterobacillus)、エンテロバクター(Enterobacter)、エルウィニア(Erwinia)、エシェリキア(Escherichia)、エウィンゲラ(Ewingella)、フランコニバクター(Franconibacter)、ジブシエラ(Gibbsiella)、ハフニア(Hafnia)、イズハキエラ(Izhakiella)、コサコニア(Kosakonia)、クレブシエラ(Klebsiella)、クライベラ(Kluyvera)、レクレルシア(Leclercia)、レリオッチア(Lelliottia)、レミノレラ(Leminorella)、レビネア(Levinea)、ロンスダレア(Lonsdalea)、マングロビバクター(Mangrovibacter)、モエレレラ(Moellerella)、モルガネラ(Morganella)、オベスンバクテリウム(Obesumbacterium)、パントエア(Pantoea)、ペクトバクテリウム(Pectobacterium)、ファセオリバクター(Phaseolibacter)、フォトラブダス(Photorhabdus)、プレジオモナス(Plesiomonas)、プルラリバクター(Pluralibacter)、プラジア(Pragia)、プロテウス(Proteus)、プロビデンシア(Providencia)、シュードシトロバクター(Pseudocitrobacter)、ラーネラ(Rahnella)、ラオウルテラ(Raoultella)、ロセンベルギエラ(Rosenbergiella)、ロウシエラ(Rouxiella)、サッカロバクター(Saccharobacter)、サルモネラ(Salmonella)、サムソニア(Samsonia)、セラチア(Serratia)、シゲラ(Shigella)、シムウェリア(Shimwellia)、シッシバクター(Siccibacter)、ソダリス(Sodalis)、タツメラ(Tatumella)、トルセリア(Thorsellia)、トラブルシエラ(Trabulsiella)、ウィグルスウォーチア(Wigglesworthia)、ゼノラブダス(Xenorhabdus)、エルシニア(Yersinia)およびヨケネラ(Yokenella)。
【0057】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、ヘモフィルス(Haemophilus)属の1つまたは複数のグラム陰性菌を標的とすることができる。ヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性細菌は、パスツレラ科(Pasteurellaceae)、パスツレラ目(Pasteurellales)に属する。
【0058】
好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目の1つまたは複数のグラム陰性菌を標的とする。好ましくは、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置に使用する。
【0059】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、典型的には、腸内細菌目のすべてのグラム陰性細菌に対して同一または類似の活性を有するであろう。これは、腸内細菌目のグラム陰性細菌間の十分に高い配列相同性の結果である。したがって、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目のすべてのグラム陰性細菌と同様に相互作用するであろう。これは、以下に詳述する選択された腸内細菌目細菌属の場合に特に当てはまる。好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、は、腸内細菌目細菌属のセデセア(Cedecea)、シトロバクター(Citrobacter)、エルウィニア(Erwinia)、エシェリキア(Escherichia)、エンテロバクター(Enterobacter)、クレブシエラ(Klebsiella)、クライベラ(Kluyvera)、プレジオモナス(Plesiomonas)、プロテウス(Proteus)、プロビデンシア(Providencia)、ラオウルテラ(Raoultella)、サルモネラ(Salmonella)、セラチア(Serratia)、シゲラ(Shigella)、およびエルシニア(Yersinia)由来の1つまたは複数のグラム陰性菌を標的とする。より好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目細菌属のエルウィニア(Erwinia)、エシェリキア(Escherichia)、エンテロバクター(Enterobacter)、クレブシエラ(Klebsiella)、プロテウス(Proteus)、サルモネラ(Salmonella)、セラチア(Serratia)、シゲラ(Shigella)、およびエルシニア(Yersinia)由来の1つまたは複数のグラム陰性菌を標的とする。エシェリキア(Escherichia)属には、大腸菌(Escherichia Coli)、例として腸管外病原性大腸菌(Escherichia Coli)(ExPEC)菌株およびカルバペネム耐性大腸菌(Escherichia Coli)菌株、例えば、配列型ST131の大腸菌(Escherichia Coli)および大腸菌(Escherichia Coli)ATCC BAA-2469(NDM-1菌株:American Type Culture Collection)、が含まれる。エンテロバクター(Enterobacter)属には、エンテロバクター菌種(Enterobacter spp.)が含まれる。クレブシエラ(Klebsiella)属には、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、例としてカルバペネム耐性肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)菌株、例えば、配列型ST25の肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)ATCC 43816 (American Type Culture Collection)、が含まれる。好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、は、腸内細菌目細菌属のエシェリキア(Escherichia)、エンテロバクター(Enterobacter)、およびクレブシエラ(Klebsiella)、より好ましくは、エシェリキア(Escherichia)およびクレブシエラ(Klebsiella)由来の1つまたは複数のグラム陰性菌を標的とする。好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、は、エンテロバクター菌種(Enterobacter spp.)、大腸菌(Escherichia Coli)、および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、より好ましくは大腸菌(Escherichia Coli)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)を標的とする。
【0060】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグによって標的とされる1つまたは複数のグラム陰性菌は、典型的には多剤耐性であり、カルバペネム耐性またはβ-ラクタム耐性が含まれ、これらの既知の抗生物質および関連する抗菌処置に対する耐性を示す。そのような細菌としては、例えば、カルバペネム耐性大腸菌(Escherichia Coli)ATCC BAA-2469、ExPEC大腸菌(Escherichia Coli)ST131、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)ST258および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)ATCC 42816が挙げられる。
【0061】
ExPEC大腸菌(Escherichia Coli)ST131のNational Collection of Type Cultures(NCTC)参考株は、NCTC13441である。ExPEC大腸菌(Escherichia Coli)ST131に関するさらなる詳細については、以下に提供されている:Pitout et al., ‘Escherichia Coli ST131: a multidrug-resistant clone primed for global domination’, F1000Research 2017, 6(F1000 Faculty Rev):195;Ciesielczuk et al., ‘Trends in ExPEC serogroups in the UK and their significance’, Eur J Clin Microbial Infect Dis (2016) 35:1661-1666;Day et al., ‘Extended-spectrum β-lactamase-producing Escherichia coli in human-derived and foodchain-derived samples from England, Wales, and Scotland: an epidemiological surveillance and typing study’, Lancet Infect Dis 2019, vol. 19;およびDay et al., ‘Population structure of Escherichia coli causing bacteraemia in the UK and Ireland between 2001 and 2010’, J Antimicrob Chemother 2016, 71, 2139-2142。
【0062】
肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)ST258のNational Collection of Type Cultures(NCTC)参考株は、NCTC13438である。肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)ST258のさらなる詳細については、以下に提供されている:Chen et al., ‘Carbapenemase-producing Klebsiella pneumonia: molecular and genetic decoding’, Trends Microbiol., December 2014, 22(12), 686-696。
【0063】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、バイオフィルムの形態の、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染を処置するために使用することができる。
【0064】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌によって引き起こされるもしくは悪化する疾患または感染は、例えば内毒素、外毒素および/または有毒酵素を含む1つもしくは複数の細菌毒素による中毒を含み得る。したがって、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目細菌および/またはヘモフィルス中毒の処置に適用が見出される。そのような場合、細菌の内毒素、外毒素および/または有毒酵素、例えば、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌によって産生される内毒素、外毒素および/または有毒酵素による中毒の処置が好ましい。
【0065】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、本明細書の種々の態様に記載されるように、人体の処置に使用することができる、すなわち、処置される対象はヒトである。
【0066】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、動物の体の処置にも使用することができる、すなわち、処置される対象は動物である。特に家畜などの商用動物を処置するためのものである。あるいは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、ネコ、イヌなどの愛玩動物を処置するために使用することができる。動物の体の処置は、すべての対象、すなわちヒトと動物の両方に対して同様の方式で行われることが理解されるであろう。
【0067】
好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、人体の処置に使用される、すなわち、処置される対象はヒトである。
【0068】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置に、使用することができる。具体的には、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による菌血症もしくは血流感染、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による呼吸器感染、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による尿路感染(UTI)(典型的には合併性UTI)、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による腎盂腎炎(腎臓感染)、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による腹腔内感染の処置に使用することができる。特に、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、感染の抗菌処置が失敗した場合、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による菌血症もしくは血流感染、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による呼吸器感染、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による尿路感染(UTI)(典型的には合併性UTI)、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による腎盂腎炎(腎臓感染)、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による腹腔内感染の処置に使用することができる。化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくは保護された形態は、処置を必要とする対象が、抗菌処置に使用される薬剤に対してアレルギーがあるか、またはそうでなければ禁忌である場合、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による菌血症もしくは血流感染、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による呼吸器感染、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による尿路感染(UTI)(典型的には合併性UTI)、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による腎盂腎炎(腎臓感染)、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による腹腔内感染の処置に使用することができることに、さらに留意されたい。
【0069】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による菌血症もしくは血流感染は、セプシス(sepsis)(敗血症(septicaemia)としても知られる)などの状態を引き起こす可能性がある。
【0070】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による呼吸器感染には、肺炎を含む気道または肺の感染が含まれる。本発明との関係においては、肺炎は、典型的には、院内肺炎および人工呼吸器関連肺炎を含む医療ケア肺炎、または対象が入院する結果となった肺炎を指す。
【0071】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による尿路感染(UTI)には、膀胱(膀胱炎)、尿道(尿道炎)または腎臓(腎臓感染)に影響を及ぼす非合併性および合併性UTIが含まれる。
【0072】
腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による腹腔内感染(IAI)は、腹膜炎、憩室炎、胆嚢炎、胆管炎、および膵炎などの状態を引き起こす可能性がある。
【0073】
好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくは保護された形態は、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による菌血症もしくは血流感染、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による呼吸器感染、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による尿路感染(UTI)(典型的には合併性UTI)の処置に使用することができ、ならびにより好ましくは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による呼吸器感染、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による尿路感染(UTI)(典型的には合併性UTI)の処置に使用することができる。
【0074】
化合物(I)またはその薬学的に許容される、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、多部位感染、すなわち腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染であり、対象の異なる感染部位(組織および/または臓器の細胞内部位)において発生するものの処置において有効であり得る(本発明の実施例セクションに提供されるデータによって示される)。これは、例えば、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌によって引き起こされるまたは悪化する菌血症または血流感染を処置するための血流、ならびに腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌によって引き起こされるまたは悪化する呼吸器感染を処置するための呼吸器臓器の両方において、そうであり得る。多部位における感染は、典型的には、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌の同じ種によって引き起こされるまたは悪化することが理解されるであろう。腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染は、対象の異なる組織および/または臓器において同時にまたはその後に発生し得る。化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の多部位処置に使用することができる。
【0075】
上で示したように、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、特に、感染とされるものを処置するための標準治療と考えられている、既知の抗生物質による経験的抗菌処置が不成功であった後に利用することができる。したがって、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを、抗生物質耐性腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌が、対象の感染または疾患の原因であると確定された後に推進してもよい。
【0076】
抗生物質耐性腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌、例として既知のβ-ラクタム系抗生物質に耐性がある、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)または拡張スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)腸内細菌目細菌の存在を確定した後、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを、これらの耐性腸内細菌目細菌および/もしくはヘモフィルス菌株による、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する、対象における感染を処置するために利用することができる。
【0077】
抗生物質耐性腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌、例として、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)または拡張スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)腸内細菌目細菌の存在を確定する方法は、当業者に周知であろう。好適な方法としては、Al-Zahrani, ‘Routine detection of carbapenem-resistant gram-negative bacilli in clinical laboratories’, Saudi Medical Journal, 2018 Sept., 861-872に開示されているものが挙げられる。
【0078】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、任意の臨床実践または処置に使用することができる。例えば、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、病院環境、例えば重篤な疾患の入院対象に対して使用することができる。代替的にまたは追加的に、化合物(I)は、外来非経口抗菌療法(OPAT)などの外来治療において、または家庭内環境の対象が使用することができる。上記のように、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグによる処置は、抗菌処置が不成功であった後に行うことができる。しかし、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、例えば、感染率が高い環境、例えば地域もしくは単位での流行において第1の抗菌処置として使用することもできる。
【0079】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による院内感染(HAI)、例えば中心ラインまたはカテーテルによる導入の処置に使用することができる。
【0080】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、薬学的に許容される担体または賦形剤とともに医薬組成物として製剤化することができる。好適な薬学的に許容される担体および賦形剤は、医薬組成物の投与様式に依存し、以下でより詳細に説明する。典型的には、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、薬学的に許容される担体または賦形剤をさらに含む医薬組成物において投与される。
【0081】
本明細書で請求される医薬組成物は、これらに限定されないが、安定剤、抗酸化剤、着色剤、希釈剤およびそれらの組合せから選択される薬学的に許容される成分をさらに含み得る。医薬組成物の成分は、副作用が最小限に抑えられ、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグの性能が、処置が無効になる程度には損なわれないように選択される。
【0082】
本発明による医薬組成物は、経腸投与、例として経口、直腸、胃または十二指腸投与;非経口投与(注射または注入による静脈内など);経膣投与、頬側または舌下投与;局所投与または吸入を含むがこれらに限定されない任意の好適な経路によって、必要とする対象に投与することができる。
【0083】
非経口投与には、皮下、静脈内、皮内、筋肉内および腹腔内投与、ならびに滅菌注射用水性乳濁液ならびに油性懸濁液の形態などの注入技術が含まれる。そのような懸濁液は、好適な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して、既知の技術に従って製剤化することができる。注射用滅菌調製物はまた、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の注射用滅菌溶液または懸濁液、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液などであってもよい。使用することができる許容されるビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌不揮発性油が、従来、溶媒または懸濁化媒体として使用されている。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の低刺激性不揮発性油を使用することができる。加えて、オメガ-3多価不飽和脂肪酸は、注射剤の調製にも使用を見出すことができる。
【0084】
好ましくはヒト対象への静脈内投与は、ボーラス(一度にすべて注射される)(IVボーラス)または静脈内注入(IV注入)のいずれかの形態で与えることができ、例えば、一定またはゼロ次の速度で対象の静脈を介して血漿にゆっくりと注入される。好ましくは、静脈内投与は、静脈内注入(IV注入)の形態で投与される。
【0085】
好ましくはヒト対象への、そのような静脈内注入は、等張液として提供することができる。そのような溶液は一般に、250~375mOsm/Lの浸透圧を有する。等張液の好ましい例には、通常の生理食塩水(好ましくは約0.9%塩化ナトリウム)、リン酸緩衝生理食塩水、乳酸リンゲル液、約5%ブドウ糖水溶液(D5W)、およびリンゲル液が含まれる。静脈内注入の場合、等張液は、好ましくは5~8、例として6~8または7.1~7.5のpHを有する。
【0086】
皮下、静脈内、筋肉内、吸入、または腹腔内投与の場合、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、薬学的に許容される賦形剤または担体と一緒に、薬学的に許容される希釈剤中の注射用量として提供され得る(滅菌液体または液体の混合物であり得る)。
【0087】
筋肉内、腹腔内、皮下、吸入、および静脈内使用の場合、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、一般に、適切なpHおよび等張性に緩衝化された滅菌水溶液または懸濁液で提供されるであろう。
【0088】
好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグ、あるいはそれから製剤化されている医薬組成物は、非経口または吸入によって、より好ましくは静脈内に、より好ましくは静脈内注入(IV注入)の形態で静脈内に投与される。最も好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、特に静脈内注入(IV注入)の形態でヒト対象に静脈内投与される。
【0089】
薬学的に許容される賦形剤および担体は、前述のものなどをすべて包含する。効果的な製剤および投与手順に関する上記の考慮事項は当技術分野で周知であり、標準的な教科書に記載されている。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition (Lippincott, Williams and Wilkins), 2000;Lieberman et al., ed., Pharmaceutical Dosage Forms, Marcel Decker, New York, N. Y. (1980)、およびKibbe et al., ed., Handbook of Pharmaceutical Excipients (3rd Edition), American Pharmaceutical Association, Washington (1999)を参照のこと。
【0090】
本発明の医薬組成物に使用するための好適な薬学的に許容される担体または賦形剤には、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリンおよびリン酸緩衝液に加えて、等張液、例として、生理食塩水(好ましくは約0.9%塩化ナトリウム)、リン酸緩衝生理食塩水、乳酸リンゲル液、約5%ブドウ糖水溶液(D5W)、およびリンゲル液が含まれる。等張液は、好ましくは5~8、例として6~8または7.1~7.5のpHを有する。リン酸緩衝液のpHは、5~7、好ましくは6であってもよい。
【0091】
ヒト対象への静脈内注入の場合、薬学的に許容される担体または賦形剤は、生理食塩水(好ましくは約0.9%塩化ナトリウム)、リン酸緩衝生理食塩水、乳酸リンゲル液、約5%ブドウ糖水溶液(D5W)、リンゲル液、および酸緩衝液から選択してもよい。リン酸緩衝液のpHは、5~7、好ましくは6であってもよい。好ましくは、ヒト対象への静脈内注入の場合、薬学的に許容される担体または賦形剤は、好ましくはpH6のリン酸緩衝液である。
【0092】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグについては、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体もしくはプロドラッグの投薬量は、もちろん、投与様式、所望の処置、適応される感染または疾患によって異なる。
【0093】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグの治療目的のための用量のサイズは、周知の医学の原則に従い、状態の性質および重症度、対象の年齢および性別、ならびに投与様式に応じて当然変化するであろう。
【0094】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグの投薬量レベル、投薬頻度、および処置期間は、製剤、投与様式、ならびに患者の臨床適応症、年齢、および併存病状に応じて異なることが予想される。
【0095】
投与方法がヒト対象への静脈内注入である場合、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、典型的には、本発明による医薬組成物において、1日あたり50~6000mgの用量で投与することができる。好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、1日あたり50~4000mg、または1日あたり50~3000mg、例として1日あたり50~2000mg、または1日あたり100~2000mg、例として1日あたり200~2000mg、または1日あたり200~1750mg、または1日あたり200~1500mg、または1日あたり250~1000mgの用量で投与される。化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグが、以下で考察するように、1日2回または3回など、1日2回以上投与される場合、用量は、1日あたりの投与回数に応じて分割される。
【0096】
投与方法がヒト対象への静脈内注入である場合、上記の用量で、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグの投与は、1日1回(QD)、2回(BID)または3回(TID)、行ってもよい。ヒト対象への静脈内注入による1日2回(BID)投与には、1~12時間、例として1~8時間、または2~7時間、または2~6時間、または3~5時間、例として1時間~4時間の間隔をあけた1日2回投与が含まれる。ヒト対象への静脈内注入による1日3回(TID)投与には、2~7時間、または2~6時間、または3~5時間、例として1~4時間の間隔をあけた1日3回投与が含まれる。時間数は、1回目の投与が開始された時間から計算される。これは、1回目の投与が開始されてから2回目の投与が開始されるまでの期間である。1日2回または3回投与する場合、毎回同じ用量または異なる用量を投与することができることがさらに理解されるであろう。静脈内注入の各投与は、30分~6時間、例として30分~4時間、または30分~3時間、または30分~2時間、または30分~1時間、または約1時間の期間にわたって行ってもよい。
【0097】
好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、1日あたり上記の用量で、ヒト対象に、1日1回(QD)、1日2回(BID)、1~12時間間隔、例として1~8時間間隔、もしくは2~6時間間隔、もしくは2~5時間間隔、もしくは3~5時間間隔、もしくは1~4時間間隔、または1日3回(TID)、2~7時間間隔、例として2~6時間間隔、もしくは3~5時間間隔、例として1~4時間間隔で、静脈内注入により投与する。より好ましくは、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、1日あたり上記の用量で、ヒト対象に、1日2回、1~12時間間隔、例として1~8時間間隔、または2~6時間間隔、または2~5時間間隔、または3~5時間間隔、または1~4時間間隔で、静脈内注入により投与する。
【0098】
投与方法がヒト対象への静脈内注入である場合、1日あたり上記の用量および投与で、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくは保護された形態は、好ましくは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による呼吸器感染、ならびに/または腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による尿路感染(UTI)(典型的には合併性UTI)の処置に使用される。
【0099】
投与方法がヒト対象への静脈内注入である場合、1日あたり上記の用量および投与で、処置過程は、1~10日間、例として1~7日間、または1~5日間続いてもよい。「処置過程」とは、連続した日に処置が投与される時間を意味する。
【0100】
したがって、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを含む本発明による医薬組成物は、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグが、1日あたり50~6000mg、または1日あたり50~4000mg、または1日あたり50~3000mg、例として1日あたり50~2000mg、または1日あたり100~2000mg、例として1日あたり200~2000mg、または1日あたり200~1750mg、または1日あたり200~1500mg、または1日あたり250~1000mgの用量で、好ましくは、1日1回(QID)、1日2回(BID)、または1日3回(TID)、より好ましくは、1日1回(QID)、1日2回(BID)、1~12時間間隔、例として1~8時間間隔、もしくは2~6時間間隔、もしくは2~5時間間隔、もしくは3~5時間間隔、もしくは1~4時間間隔で、または1日3回(TID)、2~7時間間隔、例として2~6時間間隔、もしくは3~5時間間隔、例として1~4時間間隔で、より好ましくは1日2回、1~12時間間隔、例として1~8時間間隔、もしくは2~6時間間隔、もしくは2~5時間間隔、もしくは3~5時間間隔、もしくは1~4時間間隔で、ヒト対象に静脈内注入により投与してもよい。
【0101】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、いかなる形態をとってもよい。それは、当技術分野で記載されている技術を使用して、合成、精製、または天然源から単離することができる。
【0102】
化合物(I)は、薬学的に許容される塩の形態で入手、保存および/または投与することができる。例示的な薬学的に許容される塩は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、メシル酸、ステアリン酸、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン(パモ酸)酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トルエンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、アルゲン酸(algenic)、β-ヒドロキシ酪酸、ガラクタル酸およびガラクツロン酸から調製される。
【0103】
好適な薬学的に許容される塩基付加塩には、金属イオン塩および有機イオン塩が含まれる。金属イオン塩としては、適切なアルカリ金属(Ia族)塩、アルカリ土類金属(IIa族)塩、および他の生理学的に許容される金属イオンが挙げられるが、これらに限定されない。そのような塩は、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムおよび亜鉛のイオンから作製することができる。有機塩は、トリメチルアミン、ジエチルアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)、およびプロカインなどの第三級アミンおよび第四級アンモニウム塩から作製することができる。上記の塩はすべて、当業者であれば、対応する化合物から従来の手段によって調製することができる。好適な医薬製剤の選択および調製のための従来の手順は、例えば、"Pharmaceuticals - The Science of Dosage Form Designs", M. E. Aulton, Churchill Livingstone, 1988に記載されている。
【0104】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌、特に、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)および拡張スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)腸内細菌目細菌の増殖のインビトロ阻害にも使用することができる。したがって、本発明は、化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを使用する、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌、特に、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)および拡張スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)腸内細菌目細菌の増殖のインビトロ阻害の方法を、さらに包含する。
【0105】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグは、任意の適切な方法によって合成することができる。
【0106】
化合物(I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグを合成するための好適な方法としては、WO2019/086890の合成経路1に対応する方法が挙げられるが、これに限定されない。
【0107】
化合物(I)は、以下の方法に従って合成することができる。この方法は、化合物(I)の好ましい合成方法を表しており、前記方法は、以下に詳述する好ましい連結ステップを含む。しかしながら、本発明との関係においては、これらの好ましいステップは分離可能であり、ステップのうちの1つまたは複数を、当業者によって特定される任意の他の好適なステップで置き換えることができることが理解されるであろう。ステップXが、AおよびBの選択肢、例えば、ステップ6Aまたはステップ6Bを有する場合、ステップXAまたはXBのいずれかをステップXとして利用することができる、すなわち、ステップ6Aまたは6Bのいずれかをステップ6として利用することができる。
【0108】
ステップ1
【0109】
【化12】
機械的撹拌器を装備した20L四つ口丸底フラスコに、室温で1-(3,4-ジヒドロ-2H-1,4-ベンゾオキサジン-6-イル)エタン-1-オン(1)(300g、1.69mol)を充填した。氷酢酸中のHBrの溶液(33%w/w、2.10L、7V)を、理想的には内部温度を約12℃未満に維持しながら、10℃で滴加した。得られた反応混合物に、氷酢酸(450mL、出発材料に対して1.5V)中の臭素(86.7mL、1.69mol)の溶液を10℃(内部温度)で、内部温度が10℃以下に維持されるようにゆっくりと(約90分かけて)加えた。反応を、LCMSによって監視した。氷酢酸中の臭素の溶液を完全に加えた後、粗LCMSにより、約10%の未消費の出発材料(1-(3,4-ジヒドロ-2H-1,4-ベンゾオキサジン-6-イル)エタン-1-オン(1))、および約30%の所望の一臭素化生成物(2)への変換を、約24%の二臭素化副生成物とともに確認した。冷却浴を取り外し、反応混合物をおよそ1時間かけて徐々に25℃(内部温度)まで温めた。得られた反応混合物をさらに40℃(内部温度)で1.5時間撹拌した[目に見える沈殿が観察され、粗LCMSにより、未消費の出発材料(1)(約4%)を、所望の一臭素化生成物(2)(55%)および二臭素化副生成物(約18%)とともに確認した]。反応混合物を10℃まで冷却し、MTBE(4.9L、16V)で希釈し、1時間撹拌した。得られた沈殿物を濾過し、MTBE(600mL)で洗浄し、減圧下で乾燥させて、340g(一臭素化生成物と二臭素化生成物の混合物)をオフホワイトの固体として得た。得られた固体のLCMSによって、2-ブロモ-1-(3,4-ジヒドロ-2H-1,4-ベンゾオキサジン-6-イル)エタン-1-オン.HBr(2)(約87%、一臭素化)、2,2-ジブロモ-1-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-6-イル)エタン-1-オン(約5%、二臭素化副生成物)および未消費の1-(3,4-ジヒドロ-2H-1,4-ベンゾオキサジン-6-イル)エタン-1-オン(1)(約1%)の混合物を確認した。この混合物をさらに精製することなく次のステップで使用した。LCMSにより観察された一臭素化生成物(2)に基づいて計算された単離収率は、52%であることが判明した。CHNOSのMS (ESI+) m/z 255.96 [M+H]
+;
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.19-7.28 (m, 2H), 6.77 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 4.74 (s, 2H), 4.31 (t, J = 4.4 Hz, 2H)および3.32 (t, J = 4.4 Hz, 2H).
【0110】
ステップ2
【0111】
【化13】
機械的撹拌器を装備した10L四つ口丸底フラスコに、20℃で、THF(3.50L、7V)および2-ブロモ-1-(3,4-ジヒドロ-2H-1,4-ベンゾオキサジン-6-イル)エタン-1-オン.HBr(2)(500g、1.48mol)を充填した。得られた反応混合物に、温度を20℃に維持しながら、塩化アセチル(476mL、6.68mol)を滴加した。反応混合物への塩化アセチルの添加中に、反応温度の2℃の上昇が観察された。反応混合物を、30℃で16時間さらに撹拌した。反応を、LCMSによって監視した。粗LCMSにより、1:1の比で、1-(4-アセチル-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-6-イル)-2-ブロモエタン-1-オンおよび1-(4-アセチル-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-6-イル)-2-クロロエタン-1-オンの混合物の形成を確認した。反応混合物を約10℃に冷却し、10%K
2CO
3水溶液(5.0L)でpH約8.0に塩基性化し、酢酸エチル(3×5L)で抽出した。合わせた有機層をブライン(5.0L)で洗浄し、減圧下で濃縮して、粗生成物を茶色の液体として得た。茶色の液体を10℃に冷却し、ヘキサン(4.0L)で希釈し、10℃で1時間撹拌した。得られた沈殿物を濾過し、ヘキサン(1.0L)で洗浄し、真空下で乾燥させて、1-(4-アセチル-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-6-イル)-2-ブロモエタン-1-オン(3)および1-(4-アセチル-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-6-イル)-2-クロロエタン-1-オン(4)の混合物を薄茶色の固体(387g、LCMSにより純度92%)として得、これをさらに精製することなく次のステップで使用した。CHNOSのMS(ESI+)m/z 297.99[M+H]
+および254.05[M+H]
+。
【0112】
ステップ3
【0113】
【0114】
機械的撹拌器を装備した5.0L四つ口丸底フラスコに、EtOH(2.0L、3V)、1-(4-アセチル-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-6-イル)-2-ブロモエタン-1-オン(3)および1-(4-アセチル-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-6-イル)-2-クロロエタン-1-オン(3A)(685g、2.30mol、LCMSにより純度92%)の混合物を充填し、続いてピリミジン-2-アミン(4)(546g、5.74mol)を20℃で加えた。反応混合物をさらに撹拌し、3時間還流した。反応を、LCMSによって監視した。反応混合物を室温(約20℃)まで冷却し、得られた沈殿固体を濾過し、EtOH(2×250mL)で洗浄し、真空下で乾燥させて、1-(6-(イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)エタン-1-オン(5)を、オフホワイトの固体として得た(418g)。CHNOSのMS (ESI+) m/z 295.06 [M+H] +. 1H NMR (400 MHz, DMSO-d6 + d-TFA): δ 9.27 (d, J = 6.40 Hz, 1H), 8.97 -9.02 (m, 1H), 8.65 (s, 1H), 8.44 (bs, 1H), 7.63-7.69 (m, 2H), 7.10 (d, J = 8.40 Hz, 1H), 4.33-4.36 (m, 2H), 3.89-3.93 (m, 2H), 2.32 (s, 3H).位置異性体構造を、nOeにより確認した。
【0115】
ステップ4
【0116】
【化15】
機械的撹拌器を装備した10L四つ口丸底フラスコに、N,N-ジメチルアセトアミド(2.0L)、1-(6-(イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)エタン-1-オン(5)(250g、849mmol)、2,2-ジメチルプロパン酸(34.7g、340mmol)、炭酸カリウム(587g、4.25mol)および4-ブロモ-3-メチルピリジン(6)(264g、1.44mol)を、20℃で、N
2雰囲気下にて充填した。得られた反応混合物をN
2(気体)で30分間パージし、続いてPd(OAc)
2(19.1g、84.9mmol)およびPCy
3・HBF
4(31.2g、84.9mmol)をN
2雰囲気下で加えた。反応混合物を再びN
2(気体)でさらに15分間パージした。得られた反応混合物を、125℃で7時間さらに撹拌した。反応を、LCMSによって監視した。粗LCMSにより、98:2の位置異性体比で、所望の生成物の位置異性体混合物の形成を確認した。反応混合物をセライト床(高さ1.3cm、直径25cm)に通して濾過した。セライト床を、DCM中10%MeOH(15L)で洗浄した。濾液を減圧下で蒸発させて、粗残留物を茶色の液体として得た。茶色の液体をヘプタン(3×6.0L)中で10時間撹拌して、過剰のDMAを除去した。ヘプタン/DMA混合物をデカントして(デカントした画分中に微量の所望の生成物が観察された)、ワックス状固体を得た。ワックス状固体を、MTBE(3.0L)中でさらに15分間撹拌した。得られた沈殿物を濾過し、MTBE(2.0L)で洗浄して、所望の生成物を茶色の固体として得た。茶色の固体を小さなシリカプラグに通し、DCM中10%MeOH(約35L)で溶出した。得られた溶媒画分を、元の体積の1/10に濃縮した。濃縮した画分をMTBE(200mL)で希釈し、30分間撹拌した。得られた沈殿物を濾過し、MTBE(1.0L)で洗浄し、真空下で乾燥させて、1-(6-(3-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)エタン-1-オン(7)および1-(6-(2-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-3-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)エタン-1-オン(7A)の位置異性体混合物を、薄茶色の固体として得た。収率:66%(LCMSにより97%、位置異性体比98:2)。CHNOSのMS (ESI+) m/z 386.18 [M+1]
+. 1H NMR (400 MHz, DMSO-d6 + d-TFA): δ 9.14 (s, 1H), 9.01-9.04 (m, 2H), 8.86 (d, J = 6.7 Hz, 1H), 8.23 (d, J = 5.8 Hz, 1H), 8.01 (bs, 1H), 7.55-7.58 (m, 1H), 7.41(d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.05 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 4.09-4.33 (m, 2H), 3.71-3.92 (m, 2H), 2.17 (s, 3H), 2.11 (bs, 3H).
【0117】
ステップ5A
【0118】
【化16】
メタノール中(150mL)1-(6-(3-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)エタン-1-オン(7)および1-(6-(2-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-3-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)エタン-1-オン(7A)の位置異性体混合物(97:3)(24.0g、62.3mmol)の溶液に、6.0N HCl水溶液(62mL)を室温で加えた。反応混合物を、90℃で16時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、その元の体積の1/4まで濃縮した。濃縮した反応混合物を、飽和NaHCO3水溶液でpH8~9に塩基性化し、DCM中10%MeOH(3×250mL)で抽出した。有機層をブライン(300mL)で洗浄し、(Na
2SO
4)上で乾燥させ、濾過し、減圧下でその元の体積の1/10まで濃縮した。濃縮した混合物をヘプタン(100mL)で希釈し、30分間撹拌した。得られた沈殿物を濾過し、ヘプタン(100mL)で洗浄し、減圧下で乾燥させて、6-(3-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン(8)および6-(2-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-3-イル)-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン(8A)の混合物(20.0g)を、黄色の固体として得た。収率:71%(位置異性体比2:1の2つの位置異性体の混合物、LCMSにより89%)。LCMSは、それぞれ所望の質量56%および33%を有する2つのピークを示した。CHNOSの(ESI+)m/z 344.20[M+H]
+。
【0119】
あるいはステップ5B
【0120】
【化17】
2.0M NaOH水溶液(52mL、104mmol)中1-(6-(3-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)エタン-1-オン(7)および1-(6-(2-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-3-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)エタン-1-オン(7A)の位置異性体混合物(98:2)(10.0g、25.9mmol)の懸濁液を、100℃で24時間加熱した。反応を、LCMSによって監視した。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、濾過した。濾過ケーキを水(約500mL)で洗浄し、乾燥させて、6-(3-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン(8)および6-(2-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-3-イル)-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン(8A)の混合物を薄茶色の固体として得た。収率:8.1g、90%(位置異性体比98:2の2つの位置異性体の混合物、LCMSにより98.7%)。CHNOSのMS (ESI+) m/z 344.20 [M+H]
+;
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6): δ 8.69 (s, 1H), 8.54-8.62 (m, 2H), 8.25 (d, J = 6.8 Hz, 1H), 7.46 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 6.96-7.03 (m, 2H), 6.46-6.55 (m, 2H), 5.87 (s, 1H), 4.11 (t, J = 4.0 Hz, 2H), 3.25 (bs, 2H), 1.94 (s, 3H).
【0121】
ステップ6A(HMPA媒介アミノ酸カップリング)
【0122】
【化18】
HMPA(84mL、7V)中の2-アミノ-2-メチルプロパン酸(9)(12g、116mmol)の懸濁液に、ACN(8.4mL)中の塩化チオニル(9.29g、128mmol)の溶液を、3℃でゆっくりと加えた(外部温度は0℃であった)。ACN中の塩化チオニルの溶液を完全に加えてから10分後に、懸濁液は透明になる。得られた反応混合物を、0℃で20分間撹拌し、続いて、6-(3-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン(8)および6-(2-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-3-イル)-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン(8A)の位置異性体混合物(8g、23.3mmol)を、0℃で少しずつ加えた。反応混合物を室温まで温め、16時間撹拌した。反応を、LCMSによって監視した。反応の完了後、反応混合物をEtOAc(300mL)で希釈した。得られた沈殿物を濾過し、EtOAc(250mL)で洗浄した。固体を水(50mL)に溶解し、飽和重炭酸ナトリウム溶液でpH8まで中和し、DCM中10%MeOH(4×100mL)で抽出し、減圧下で元の反応混合物の体積の1/10まで濃縮した。粗混合物をMTBE(50mL)で希釈し、15分間撹拌した。得られた沈殿物を濾過し、MTBE(25mL)で洗浄し、真空下で乾燥させて、2-アミノ-2-メチル-1-(6-(3-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)プロパン-1-オン(10)および2-アミノ-2-メチル-1-(6-(2-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-3-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)プロパン-1-オン(10A)の位置異性体混合物を茶色の固体として得た。収率:66%(LCMSにより97%、位置異性体比98:2)。CHNOSのMS (ESI+) m/z 429.16 [M+1]
+ ;
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6): δ 8.69 (s, 1H), 8.54-8.62 (m, 2H), 8.29 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 8.12 (d, J = 1.6 Hz, 1H), 7.46 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 6.98-7.05 (m, 2H), 6.77 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 4.45- 4.67 (m, 2H), 4.30 (bs, 2H), 2.12 (bs, 2H), 1.97 (s, 3H), 1.34 (s, 6H).
【0123】
あるいはステップ6B(DMPU媒介アミノ酸カップリング)
【0124】
【化19】
DMPU(14mL)中の2-アミノ-2-メチルプロパン酸(9)(2.0g、19.4mmol)の溶液に、ACN(1.4mL)中の塩化チオニル(1.55mL、21.3mmol)の溶液を4℃でゆっくり加えた。(外部温度0℃)。得られた反応混合物を、0℃で20分間撹拌し、続いて、6-(3-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン(8)および6-(2-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-3-イル)-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン(8A)の位置異性体混合物(98:1)を、0℃で少しずつ加えた。反応混合物を室温まで温め、16時間撹拌した。反応の完了後(LCMSモニタリング)、反応混合物をEtOAc(50mL)で希釈した。得られた沈殿物を濾過し、EtOAc(50mL)で洗浄した。固体を水(100mL)に溶解し、飽和重炭酸ナトリウム溶液でpH約8.0に塩基性化し、DCM中10%MeOH(3×100mL)で抽出し、乾燥させ(Na
2SO
4)、減圧下で濃縮して粗残留物を得た。粗残留物をMTBE(20mL)中でさらに撹拌し、濾過し、MTBE(20mL)で洗浄し、真空下で乾燥させて、2-アミノ-2-メチル-1-(6-(3-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)プロパン-1-オン(10)および2-アミノ-2-メチル-1-(6-(2-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-3-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)プロパン-1-オン(10A)の位置異性体混合物を茶色の固体として得、これをさらに精製することなく次の工程でさらに使用した。CHNOSのMS (ESI+) m/z 429.16 [M+1]
+ ;
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6): δ 8.69 (s, 1H), 8.54-8.62 (m, 2H), 8.29 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 8.12 (d, J = 1.6 Hz, 1H), 7.46 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 6.98-7.05 (m, 2H), 6.77 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 4.45- 4.67 (m, 2H), 4.30 (bs, 2H), 2.12 (bs, 2H), 1.97 (s, 3H), 1.34 (s, 6H).
【0125】
ステップ7
【0126】
【化20】
イソプロピルアルコール(60mL)中の2-アミノ-2-メチル-1-(6-(3-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-2-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)プロパン-1-オン(10)および2-アミノ-2-メチル-1-(6-(2-(3-メチルピリジン-4-イル)イミダゾ[1,2-a]ピリミジン-3-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)プロパン-1-オン(10A)の位置異性体混合物(98:2)の懸濁液(8.6g、LCMSにより93%、20.1mmol)に、ヒドロキシルアミン塩酸塩(3.49g、50.2mmol)を室温で加えた。得られた懸濁液を、70℃で22時間撹拌した。反応を、LCMSによって監視した。粗LCMSは、微量の脱アミド化副生成物(粗LCMSにより1~2%)および未反応出発材料(LCMSにより2~3%)とともに、所望の生成物の形成を示した。得られた懸濁液を室温まで冷却し、アセトン(100mL)で希釈し、1時間撹拌した。反応混合物を元の体積の20%まで濃縮し、沈殿を濾過し、アセトン(200mL)で洗浄し、真空下で乾燥させて、粗化合物(I)をHCl塩として得た。得られた固体を水(10mL)に溶解し、NaHCO
3の飽和溶液によってpH約8まで塩基性化し、DCM中の10%MeOH(5×100mL)で抽出した。合わせた有機層をNa
2SO
4上で乾燥させ、濾過し、真空下で濃縮して粗残留物を得た。粗残留物を、EtOH(10mL)中で撹拌した。粗生成物を、EtOHに可溶化し、1~2時間撹拌した後、再び沈殿が観察された。得られた沈殿物を濾過し、EtOH(10mL)で洗浄した。このようにして得られた沈殿物を再度EtOH(10mL)中で撹拌し、濾過し、続いてDCM中の2%MeOH(15mL)で洗浄し、真空下で乾燥させて、2-アミノ-1-(6-(2-アミノ-5-(3-メチルピリジン-4-イル)-1H-イミダゾール-4-イル)-2,3-ジヒドロ-4H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-4-イル)-2-メチルプロパン-1-オン(化合物(I))を淡黄色のふわふわした固体として得た。収率:3.5g、44%(LCMSにより98.3%)。CHNOSのMS (ESI+) m/z 392.8 [M+H]
+.
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6 + d-TFA
): δ 8.78-8.84 (m, 2H), 7.93 (d, J = 6.1 Hz, 1 H), 7.44 (d, J = 2.1 Hz, 1 H), 7.09 (dd, J = 2.1, 8.6 Hz, 1 H), 6.97 (d, J = 8.6 Hz, 1 H), 4.34 (bs, 2H), 3.97 (bs, 2H), 2.16 (s, 3H), 1.60 (s, 6H).
【0127】
好ましくは、ステップ5Bが選択される。
【0128】
当業者であれば、典型的には本明細書に開示される合成のいずれかを使用して、化合物(I)を形成し、続いてその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体またはプロドラッグを形成するために必要とされる既知の追加のステップにより、化合物(I)の薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体またはプロドラッグを容易に合成できることが理解されるであろう。
【0129】
ここで、特定の実施例を参照して本発明を説明する。これらは単なる例示であり、例証のみを目的としている;それらは、特許請求された独占権または記載された発明の範囲をいかなる形でも限定することを意図するものではない。これらの実施例は、本発明を実践するために現在企図されている最良の様式を構成する。
【実施例】
【0130】
比較化合物(II):
【0131】
【化21】
は、WO2019/086890に記載の合成経路1に相当する方法により合成した。比較化合物(II)はまた、上記の化合物(I)について概説した方法を改変することによって合成することができる。そのような改変には、適切なピリジル出発材料の選択およびアミノ酸としてのグリシンの使用が含まれる。
【0132】
比較化合物(III):
【0133】
【化22】
は、WO2019/086890に記載の合成経路1に相当する方法により合成した。比較化合物(III)はまた、上記の化合物(I)について概説した方法を改変することによって合成することができる。そのような改変には、適切なピリジル出発材料の選択およびアミノ酸としてのグリシンの使用が含まれる。
【0134】
化合物(I)ならびに比較化合物(II)および(III)について、最小発育阻止濃度(MIC)および最小発育阻止濃度90値(MIC90)に関する以下の分析を行った。
【0135】
抗菌剤感受性
大腸菌(Escherichia coli)(NCTC13441)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)(NCTC13438)(浮遊細菌)に対する最小発育阻止濃度(MIC)は、臨床検査標準委員会(Clinical and Laboratory Standards Institute. Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically; Approved Standard-Eleventh Edition, CLSI document M07, 11 January 2018)のガイドラインに準拠したブロスの微量希釈手順によって決定した。ブロス希釈法には、96ウェルマイクロタイタープレートでの化合物の2倍段階希釈が含まれ、最終濃度範囲は0.39~200μM、最大最終濃度は2%DMSOとなった。試験した細菌株は、大腸菌(Escherichia coli)(NCTC13441)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)(NCTC13438)であった。菌株は、カチオン調整されたミュラーヒントンブロスまたはルリアベルターニ寒天上で、周囲雰囲気中、37℃で増殖させた。MIC(μM)は、20~24時間のインキュベーション期間後の増殖を阻害する化合物の最低濃度として決定した。結果を、表1に示す。
【0136】
【0137】
上で概説した方法論を使用して、化合物(I)ならびに比較化合物(II)および(III)について、最小発育阻止濃度(MIC)対プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)(DSM4479)を決定した。結果を、表2に示す。化合物(I)は、比較化合物(II)および(III)に対して優れた効力を示す。
【0138】
【0139】
大腸菌(Escherichia coli)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)の100単離菌に対する最小発育阻止濃度(MIC90)を測定した。単離菌(菌株)の90%が阻害される最小阻害濃度(MIC90)は、EUCAST感受性試験基準(www.eucast.org)に準拠したブロス微量希釈によって測定した。細菌接種材料は、0.5マクファーランド懸濁液を100倍に希釈することにより、約1×10^6CFU/mLで調製した。最終濃度の2倍の抗菌溶液50μlを含有する抗菌パネルを、接種材料50μlで2倍に希釈して、最終接種材料約5×10^5CFU/ml、および抗菌剤の所望の試験濃度(0.03~64μg/mL)を得た。プレートは、臨床検査標準委員会(Clinical and Laboratory Standards Institute. Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically; Approved Standard-Eleventh Edition, CLSI document M07, 11 January 2018)のガイドラインに従ってインキュベートした。MIC90(μg/ml)は、試験集団内の単離菌(菌株)の90%以上が阻害されるMIC値である。結果を、表3に示す。
【0140】
【0141】
大腸菌(Escherichia coli)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)の100単離菌について上で概説した方法論を使用して、化合物(I)ならびに比較化合物(III)について、最小発育阻止濃度(MIC)対プロテウス菌種(Proteus spp.)およびプロビデンシア菌種(Providencia spp.)を決定した。結果を、表4に示す。化合物(I)は、比較化合物(III)に対して優れた効力を示す。
【0142】
【0143】
化合物(I)および比較化合物(II)および(III)を、親油性および分布容積(Vss)に関する以下の分析に供した。
【0144】
親油性
化合物(I)および比較化合物(III)のLogP値は、Sirius Analytical製のSiriusT3装置を使用して、酸ベースの滴定を実行し、試料溶液が非混和性溶媒(オクタノール)と接触したときのpKaのシフトを測定することによって測定した。比較化合物(II)のLogPは、Marvin(理化学計算ソフトウェア)を使用して計算した。結果を、表5に示す。化合物(I)ならびに比較化合物(II)および(III)の親油性データは、異なる日に実行した別個の実験で収集し、表5において比較した。
【0145】
【0146】
分布容積
化合物(I)ならびに比較化合物(II)および(III)の分布容積(Vss)は、それぞれ5mg/kgのIVボーラス投与後にげっ歯類種(マウス)から得られた血漿濃度時間プロファイルの分析から決定した。分布容積は、PKソルバー(Excel)の2コンパートメントIVボーラスモデルを使用して、化合物(I)ならびに比較化合物(II)および(III)のげっ歯類血漿プロファイルを分析することによって得た。出力Vss値を、表6に示す。化合物(I)および比較化合物(II)の分布データの量は、異なる日に実行した別個の実験で収集し、表6において比較した。
【0147】
【0148】
結果についての考察
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、親油性および分布量に関する上記の結果は、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグが、腸内細菌目のグラム陰性菌および/もしくはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による感染、またはそれらによって引き起こされるもしくは悪化する疾患の処置に、特に、腸内細菌目のグラム陰性菌および/またはヘモフィルス(Haemophilus)属のグラム陰性菌による多部位感染の処置に、有利に使用することができることを実証していると考える。本発明者らは、上記の結果は、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、複合体、もしくはプロドラッグが、あらゆる部位での効果的な処置を可能にするのに十分な濃度で、対象の体の周囲のすべての感染部位に効果的に分布する能力を有することを実証していると考える。薬理学的効果を発揮するのに十分な量の化合物が利用可能であることと同様に、血漿からの化合物の分布が十分に速く、薬物が感染に対して迅速に作用できるようにすることと、薬物が十分な濃度ですべての考えられる感染部位に到達することが妨げられる非常に急速な放出を回避することとの間のバランスが維持されるべきである。
【0149】
そのようなバランスは、以下でより詳細に考察する上記の結果によって実証されていると考えられる。
【0150】
化合物のLogP値は、極性の指標を示し、したがって、化合物が対象の標的組織に到達する能力、すなわち薬物が膜障壁を通過し、対象の体の周囲の考えられる細胞内感染部位に分布することができる容易さを示す。
【0151】
表5から、本発明の化合物(I)は、比較化合物(II)および(III)の両方と比較して、より高いLogP値、したがってより低い極性を有することが分かり、これは、より極性の高い比較化合物(II)および(III)と比較して、化合物(I)の組織分布が改善されたことを示している。本発明者らは、化合物(I)のこの改善された組織分布により、処置が可能になるのに十分な薬物が感染部位のそれぞれに到達し、化合物が対象の体の周囲の考えられるすべての感染部位に分布することが可能になると考えている。表5のLogP値に基づく比較化合物(II)および(III)に見られるように、薬物の分布が効果的でない場合、感染部位全体にわたる薬物濃度が不十分となり、感染の処置が妨げられることになる。上で考察したように、薬物が対象の体の周囲に分布する効率に関しては、達成すべきバランスが存在する。化合物(I)のLogP値は、比較化合物(II)および(III)に対して、化合物(I)が複数の感染部位に分布し、これらの感染部位のすべてにおいて適切な薬物濃度を提供することを示している。
【0152】
分布容積(Vss)は、化合物が血漿ではなく対象の体組織に分布する程度、すなわち、化合物が血漿を離れ、対象の体組織に分布する傾向の指標を提供する。
【0153】
表6から、化合物(I)は、両方とも化合物(I)と構造的に非常に類似している比較化合物(II)および比較化合物(III)と比較して、驚くべきかつ予想外に優れた組織浸透特性を有することが分かる。
【0154】
本発明者らは、化合物(I)が良好な透過性を示すと結論付けた。化合物(I)の親油性および透過性により、化合物は対象の標的組織に到達し、浸透することができる。化合物(I)対比較化合物(II)および(III)の驚くべきかつ予想外に優れた組織分布および浸透特性は、化合物(I)の有利な親油性および透過性に起因する。
【0155】
インビトロ安全性薬理学研究
化合物(I)、比較化合物(II)および比較化合物(III)についてインビトロ薬理学結合アッセイを実行して、10μMの濃度の化合物(I)、比較化合物(II)または比較化合物(III)における44個のリガンド(受容体、輸送体、イオンチャネル、酵素およびキナーゼを含む)に対する阻害のパーセンテージを評価する。化合物の結合は、各標的に特異的な放射性標識リガンドの結合の阻害のパーセンテージとして計算した。50%を超える阻害を示す結果は、化合物(I)、比較化合物(II)または比較化合物(III)の認識可能な効果を表すと考えられる。試験した44個のリガンドすべての結果を、
図1a、1b、および1cに示すが、
図1dは50%を超える阻害を示す結果のみを示す。化合物(I)ならびに比較化合物(II)および(III)のインビトロ薬理学結合アッセイを、異なる日にわたって別々に実行し、
図1a、1b、1c、および1dにおいて比較した。
【0156】
図1a、1b、1c、および1dから、化合物(I)は比較化合物(II)および(III)の両方とは異なるCEREPプロファイルを有することが分かる。化合物(I)は、単一のリガンドのみ、すなわち比較化合物(II)および/または(III)よりも少ない(および異なる)リガンドに対して50%を超える阻害を示した。
【0157】
概念実証研究
化合物(I)および比較化合物(III)を、腸内細菌目のグラム陰性菌による呼吸器感染、腸内細菌目のグラム陰性菌による菌血症または血流感染、および腸内細菌目のグラム陰性菌による尿路感染の処置のためのマウスモデルにおける概念実証研究において評価した。結果を、
図2、3、および4a~cに示す。点、三角形、または四角形のインジケーターそれぞれは、1匹のマウスを表す。LODは、細菌の検出限界を指す。静止(Stasis)は、処置前の対象における細菌のレベル(コロニー形成単位(CFU))を示す。概念実証研究のそれぞれは、別々に実行した。ビヒクルは、薬学的に許容される担体または賦形剤を意味する。
【0158】
腸内細菌目のグラム陰性菌によって引き起こされる、または悪化する呼吸器感染の処置に関する概念実証研究のため、CD-1マウスに、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)ATCC 43816を感染させた。感染2時間後(
図2における「前処置」)、化合物(I)もしくは比較化合物(III)を含有しないビヒクル(20%ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン)、または化合物(I)もしくは比較化合物(III)を含有するビヒクル(20%ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン)を、20mg/kg、TID(8時間間隔)で、1日かけてIVボーラスにより投与した。
【0159】
図2から、研究の終了時(最初の感染から26時間:
図2の「化合物(I)」および「比較化合物(III)」)、化合物(I)は比較化合物(III)と比較して、コロニー形成単位(CFU)が予想外に有意に減少しており、すなわち、細菌負荷が、前処置およびビヒクルと比較して、化合物(I)対比較化合物(III)での処置によって有意に減少したことが分かる。実際、
図2の比較化合物(III)のCFU値は、静止レベル、すなわち細菌の死滅が起こらなかった例に比較的近いままであった。
図2から、研究の終了時(最初の感染から26時間)、化合物(I)はビヒクルと比較して肺内の細菌負荷を6.24log減少させたのに対し、比較化合物(III)は、ビヒクルと比較して4.16logの減少しか示さなかったことが分かる。したがって、化合物(I)は、肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)、特に多剤耐性肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)による呼吸器感染の処置において、比較化合物(III)よりも2log有効である。
【0160】
腸内細菌目のグラム陰性菌による菌血症または血流感染の処置に関する概念実証研究のため、CD-1マウスに、ヒト尿単離大腸菌(E. coli)BAA-2469(NDM-1陽性)を感染させた。感染1時間後(
図3における「前処置」)、化合物(I)もしくは比較化合物(III)を含有しないビヒクル(20%ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン)、または、化合物(I)もしくは比較化合物(III)を含有するビヒクル(20%ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン)を、20mg/kgで単回用量IVボーラスとして投与した。
【0161】
図3から、研究の終了時(最初の感染から9時間:
図3の「化合物(I)」および「比較化合物(III)」)、化合物(I)は比較化合物(III)と比較して、コロニー形成単位(CFU)が予想外に有意に減少しており、すなわち、細菌負荷は、前処置およびビヒクルと比較して、化合物(I)対比較化合物(III)での処置によって有意に減少したことが分かる。実際、
図3の比較化合物(III)のCFU値は、静止レベル以上、すなわち、細菌の死滅が起こらなかった例に留まった。
図3から、研究の終了時(最初の感染から9時間)、化合物(I)によって、血中の細菌負荷が検出限界(LOD)未満に減少し、ビヒクルと比較して7.43log減少したことが分かる。対照的に、比較化合物(III)は、ビヒクルと比較して4.86log減少のみを示した。したがって、化合物(I)は、大腸菌(Escherichia Coli)、特に多剤耐性大腸菌(Escherichia Coli)による菌血症または血流感染の処置において、比較化合物(III)より2.5log有効である。
【0162】
腸内細菌目細菌による尿路感染の処置に関する概念実証研究のため、雌型C3H/HeNマウスに、大腸菌(E. coli)UTI89を感染させた。感染24時間後(
図4a~cにおける「前処置」)、化合物(I)もしくは比較化合物(III)を含有しないビヒクル(20%ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン)、または、化合物(I)もしくは比較化合物(III)を含有するビヒクル(20%ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン)を、20mg/kg、TID(8時間間隔)で、3日かけてIVボーラスにより投与した。
【0163】
尿路感染は、膀胱および腎臓に影響を与えることがあるため、尿、膀胱および腎臓のそれぞれにおける細菌負荷を評価した(それぞれ
図4a~c)。
図4aおよび4bから、研究の終了時(最初の感染から96時間後:
図4aおよび4bの「化合物(I)」および「比較化合物(III)」)、化合物(I)は比較化合物(III)と比較して、コロニー形成単位(CFU)が予想外に有意に減少しており、すなわち、細菌負荷が、前処置およびビヒクルと比較して、化合物(I)対比較化合物(III)での処置によって有意に減少したことが分かる。
図4cから、研究の終了時(最初の感染から96時間後:
図4cの「化合物(I)」および「比較化合物(III)」)、化合物(I)は比較化合物(III)と比較して、コロニー形成単位(CFU)がまた減少しており、すなわち、細菌負荷が、前処置およびビヒクルと比較して、化合物(I)対比較化合物(III)での処置によって減少したことが分かる。
図4aから、研究の終了時(最初の感染から96時間後)、化合物(I)によって、尿中の細菌負荷が検出限界(LOD)未満に減少し、ビヒクルと比較して6.59log減少したことが分かる。対照的に、比較化合物(III)は、ビヒクルと比較して3.36logの減少のみを示した。したがって、化合物(I)は、尿中のCFUの減少において比較化合物(III)よりも3log有効であり、したがって、大腸菌(Escherichia coli)による尿路感染(UTI)の処置を促進する。
図4bから、研究の終了時(最初の感染から96時間後)、ビヒクルと比較して、化合物(I)によって、膀胱内の細菌負荷が5.67log減少したことが分かる。比較すると、比較化合物(III)は、ビヒクルと比較して3.71logの減少のみを示した。したがって、化合物(I)は、膀胱内のCFUの減少において比較化合物(III)よりも3log有効であり、したがって、大腸菌(Escherichia coli)による尿路感染(UTI)の処置を促進する。
図4cから、研究の終了時(最初の感染から96時間後)、ビヒクルと比較して、化合物(I)によって、腎臓における細菌負荷が4.73log減少したことが分かる。
【0164】
化合物(I)を、腸内細菌目のグラム陰性菌による呼吸器感染、および腸内細菌目のグラム陰性菌による尿路感染の処置のためのマウスモデルにおける概念実証研究においてさらに評価した。結果を、
図5および6a~cに示す。点、三角形、または四角形のインジケーターそれぞれは、1匹のマウスを表す。LODは、細菌の検出限界を指す。静止(Stasis)は、処置前の対象における細菌のレベル(コロニー形成単位(CFU))を示す。概念実証研究のそれぞれは、別々に実行した。ビヒクルは、薬学的に許容される賦形剤または担体を意味する。
【0165】
腸内細菌目のグラム陰性菌によって引き起こされる、または悪化する呼吸器感染の処置に関するさらなる概念実証研究のため、雄型CD-1マウスに、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)ATCC 43816を感染させた。
【0166】
感染の2時間後(
図5の「前処理」)、マウスを、化合物(I)を含有しないビヒクル対照(リン酸緩衝液)、または20mg/kgの用量の化合物(I)を1時間(QD)静脈内注入により投与して、化合物(I)を含有するビヒクル(リン酸緩衝液)のいずれかで処置した。化合物(I)を含有しないビヒクル対照を受けたマウス、および化合物(I)を含有するビヒクルを受けた一部のマウスについては、第1の投与開始時間の3時間後に、追加の1時間持続静脈内注入(BID、3時間間隔)を投与した。
【0167】
図5から、研究の終了時(最初の感染から26時間:
図5の「化合物(I)QD」および「化合物(I)BID」)、化合物(I)はコロニー形成単位(CFU)が減少しており、すなわち、前処置およびビヒクル(
図5の「ビヒクルBID」)と比較して、化合物(I)での処置によって、細菌負荷が減少したことが分かる。これは、化合物(I)を2回(BID、3時間間隔)投与した場合に特に見られた(処置前およびビヒクルの両方と比較してP値<0.0001)。化合物(I)を1回投与した場合(QD)のP値は、処置前と比較して0.0042、ビヒクルと比較して<0.0001であった。
図5から、研究の終了時(最初の感染から26時間)、化合物(I)は、肺内の細菌負荷を、ビヒクルと比較して4.35および5.20log減少させ(それぞれ1回(QD)および2回(BID、3時間間隔)投与)、処置前(静止レベル)と比較して、(それぞれ1回(QD)および2回(BID、3時間間隔)投与の場合)0.95および1.80log減少させたことが分かる。したがって、化合物(I)は、肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)、特に多剤耐性肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)による呼吸器感染の処置において有効である。
【0168】
腸内細菌目細菌による尿路感染の処置に関するさらなる概念実証研究のため、雌型C3H/HeNマウスに、大腸菌(E. coli)UTI89を感染させた。
【0169】
感染の24時間後(
図6a~cの「前処理」)、マウスを、化合物(I)を含有しないビヒクル対照(20%ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン)、または20mg/kgの用量の化合物(I)を1時間(QD)静脈内注入により投与して、化合物(I)を含有するビヒクル(20%ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン)のいずれかで処置した。化合物(I)を含有するビヒクルを受けた一部のマウスについては、第1の投与開始時間の5時間後に、追加の1時間持続静脈内注入(BID、5時間間隔)を投与した。1日1または2回の投与を3日間継続した。QDの場合、投与は、感染後24~25時間、48~49時間、および72~73時間の間に行われ、BIDの場合、投与は、感染後24~25時間、29~30時間、48~49時間、53~54時間、72~73時間、および77~78時間の間に行われた。
【0170】
尿路感染は、膀胱および腎臓に影響を与えることがあるため、尿、膀胱および腎臓のそれぞれにおける細菌負荷を評価した(それぞれ
図6a~c)。
図6a、6b、および6cから、研究の終了時(最初の感染から96時間:
図6a、6b、および6cの「化合物(I)QD」および「化合物(I)BID」)、化合物(I)はコロニー形成単位(CFU)が有意に減少しており、すなわち、前処置およびビヒクルと比較して、化合物(I)での処置によって、細菌負荷が有意に減少したことが分かる。これは、化合物(I)を1日2回(BID、5時間間隔)投与した場合に特に見られた。
図6aから、研究の終了時(最初の感染から96時間後)、QDおよびBIDの両方の毎日の投与では、化合物(I)によって、尿中の細菌負荷が検出限界(LOD)未満に減少し、ビヒクルと比較して、(それぞれ1日1回(QD)および2回(BID、5時間間隔)投与の場合)4.86および5.87log減少したことが分かる。化合物(I)のP値は、1回投与(QD)または2回投与(BID、5時間間隔)にかかわらず、ビヒクルと比較して<0.0001であった。したがって、化合物(I)は、尿中のCFUの減少において有効であり、したがって、大腸菌(Escherichia coli)による尿路感染(UTI)の処置を促進する。
図6bから、研究の終了時(最初の感染から96時間後)、QDおよびBIDの両方の毎日の投与では、化合物(I)によって、膀胱内の細菌負荷が検出限界(LOD)未満に減少し、ビヒクルと比較して、(それぞれ1日1回(QD)および2回(BID、5時間間隔)投与の場合)5.01および5.84log減少したことが分かる。ビヒクルと比較して、1日1回投与(QD)のP値は0.001であり、1日2回投与(BID、5時間間隔)では0.0002であった。したがって、化合物(I)は、膀胱内のCFUの減少において有効であり、したがって、大腸菌(Escherichia coli)による尿路感染(UTI)の処置を促進する。
図6cから、研究の終了時(最初の感染から96時間後)、BIDの投与では、化合物(I)によって、腎臓における細菌負荷が検出限界(LOD)未満に減少し、ビヒクルと比較して、(それぞれ1日1回(QD)および2回(BID、5時間間隔)投与の場合)3.17および4.3log減少したことが分かる。ビヒクルと比較して、1日1回投与(QD)のP値は0.0007であり、1日2回投与(BID、5時間間隔)では<0.0001であった。したがって、化合物(I)は、腎臓におけるCFUの減少において有効であり、したがって、大腸菌(Escherichia coli)による尿路感染(UTI)の処置を促進する。
【国際調査報告】