(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】デバイスの輸送材料として使用する組成物の製造方法、当該方法によって得られた組成物、当該組成物を含む輸送層及び当該輸送層を備える電子デバイス
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20240405BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20240405BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20240405BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240405BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/86
H10K85/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572056
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(85)【翻訳文提出日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2022053289
(87)【国際公開番号】W WO2022171759
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523463937
【氏名又は名称】リンクソール・エービー
【氏名又は名称原語表記】LinXole AB
【住所又は居所原語表記】C/O Feng Wang, Rattaregatan 82, LGH 1101, 583 33 Linkoping, Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガオ、フェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、フェン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ティエンカイ
(72)【発明者】
【氏名】フー、ジャンジュン
【テーマコード(参考)】
3K107
5F251
【Fターム(参考)】
3K107EE68
5F251AA11
5F251BA18
5F251FA04
5F251XA01
5F251XA33
5F251XA43
5F251XA52
5F251XA55
(57)【要約】
本発明は、電子デバイスの輸送材料として使用する組成物の製造方法であって、a)第1の有機半導体を準備する工程、b)ラジカル化合物を準備する工程、c)双極子モーメントが少なくとも6.0デバイ(D)の極性化合物を準備する工程、d)第1の有機半導体、ラジカル化合物及び極性化合物とを混合して組成物を得る工程、を含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子デバイスの輸送材料として使用する組成物の製造方法であって、
a)第1の有機半導体を準備する工程、
b)ラジカル化合物を準備する工程、
c)双極子モーメントが少なくとも6.0デバイ(D)の極性化合物を準備する工程、
d)前記第1の有機半導体、前記ラジカル化合物及び前記極性化合物を混合して、前記組成物を得る工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の有機半導体が、コンジュゲートした小分子又はコンジュゲートしたポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の有機半導体が、トリフェニルアミン、チオフェン又はトリフェニルホスフィンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の有機半導体が、2,2’,7,7’-テトラキス[N,N-ジ(4-メトキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン(スピロ-OMeTAD)、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)、3,3’-(2,7-ビス(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)-9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(N-エチル-N,N-ジメチルプロパン-1-アミニウム)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(X44)、オクタキス(4-メトキシフェニル)スピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]-2,2’,7,7’-テトラアミン)(X60)、インダセノジチエノチオフェン-メトキシトリフェニルアミン(IDTT-TPA)、ポリ[N-90-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-alt-3,6-ビス(チオフェン-5-イル)-2,5-ジオクチル-2,5-ジヒドロピロロ[3,4]ピロール-1,4-ジオン](PCBTDPP)、フェニル-ジピレニルホスフィン オキシド(POPy2)及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ラジカル化合物が、R
1
a・+(I
1
b-)
c(式中、a=b・cであり、a及びbは原子価状態であり、R
1
a・+は第2の有機半導体のラジカルカチオンであり、I
1
b-は第1の対アニオンである)で表されるラジカルカチオン対である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の対アニオンが、ハロゲンアニオン(X
-)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン(TFSI
-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF
6
-)、テトラフルオロボレート(BF
4
-)、トリフレート(CF
3SO
3
-)及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ラジカル化合物が、トリアリールアミン(TAA)系ラジカル化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ラジカル化合物が、R
2
d・-(I
2
e+)
f(式中、d=e・fであり、d及びeは原子価状態であり、R
2
d・-は第3の有機半導体のラジカルアニオンであり、I
2
e+は第1の対カチオンである)で表されるラジカルアニオン対である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記極性化合物が、有機塩、分子内塩又は中性極性分子である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記有機塩が、有機小分子、多価有機塩又はポリマー電解質である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記有機塩が、(A
x+)
y(B
z-)
w(式中、x・y=w・zであり、x及びzは原子価状態であり、A
x+は第2のカチオンであり、B
z-は第2のアニオンである)で表される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2のカチオンA
x+が、アルキル又は芳香族有機カチオンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
電子デバイスの輸送材料として使用する組成物であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法に従って製造される、組成物。
【請求項14】
電子デバイスの輸送層であって、請求項13に記載の組成物を含む、輸送層。
【請求項15】
請求項14に記載の輸送層の少なくとも1つを備える、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイスの輸送材料として使用する組成物の製造方法、当該方法によって得られた組成物、当該組成物を含む輸送層及び当該輸送層を備える電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
急速に進化し発展しつつある世界は、過去数世紀にわたって、着実に増加しているエネルギー消費を生んでおり、今日そのほとんどが、未だに再生不能な資源によって賄われている。地球の資源の限界に近づくにつれて、及びエネルギーの生産方法による環境への影響に直面するにつれて、持続可能で再生可能なエネルギー源の開発への関心が非常に高まっている。好評を得ているさまざまな技術には、最大のエネルギー供給源である太陽を利用する太陽電池が含まれている。
【0003】
今日のSiベースの太陽電池は、電力変換効率(PCE)が24%を超え、市場を独占しているが、太陽電池が占める世界の全エネルギー生産は0.1%未満にすぎない。太陽電池の商業化における主な因子は、高効率及び低生産コストである。ペロブスカイト太陽電池は、Siベースの太陽電池と比較して、印刷のような簡単で安価な方法で製造できる。さらに、ペロブスカイト太陽電池は、可撓性で軽く、他の材料に容易に組み込まれ、PCEが25%を超え、それのため、このような太陽電池は、Siベースの太陽電池の魅力的な代替品である。
【0004】
太陽電池の基本原理は、入射光が光活性層中のキャリアを励起させ、電流を生成するというものである。代表的なペロブスカイトデバイスは、通常、透明な導電性酸化物、電子輸送層、光を吸収するペロブスカイト材料、正孔輸送層及び金属電極を含む5つの層で構成されている。太陽光への曝露中、ペロブスカイト層は、クーロン力によって一緒に保持される準粒子である励起子(電子正孔対)を生成するために光子を吸収する。ペロブスカイト材料の励起子結合エネルギーは小さいため、これらの電子正孔対は、容易に分離できる。しかし、電子及び正孔のそれぞれは、材料内に無作為に拡散し、誤った電極に行き着き、そこでその対応物と再結合し、エネルギー損失を引き起こすことがある。このようなエネルギー損失を阻止し、電荷輸送を促進するために、通常、正孔輸送層(HTL)及び電子輸送層(ETL)がペロブスカイト太陽電池デバイスの構造に組み込まれる。
【0005】
このような点を考慮すると、正孔輸送層(HTL)及び電子輸送層(ETL)のような輸送層は、光電子デバイス(例.ペロブスカイト/有機太陽電池/発光ダイオード)におけるキャリアの分離を促進するために非常に重要である。輸送材料の主要部分として、有機半導体が広く使用されてきた。しかし、有機半導体の移動度を増強するためには、添加剤も必要である。例えば、2,2’,7,7’-テトラキス[N,N-ジ(4-メトキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン(スピロ-OMeTAD)を正孔輸送材料として使用する場合、添加剤Li[(CF3SO2)2N](LiTFSI)及び4-tert-ブチルピリジン(tBP)が必要である。しかし、添加剤を含む組成物には欠点がある。特に、LiTFSIは水を吸収し、tBPは揮発性であり、そのため安定性が低下し、デバイスの劣化が生じる。さらに、これらの添加剤を使用する場合、長時間(10~24時間)の後酸化工程が必要で、それにより、製造時間が長くなる。一方、後酸化速度は、環境湿度及び照度に応じて大きく変化するため、それらを注意深く制御する必要がある。その上、成分間の反応で生じた不純物が、場合によってはデバイスの高効率達成を妨げるおそれがある。
【0006】
国際公開第2018/105431号は、第1の基板と、第1の基板上に配置された第1の透明電極と、第1の透明電極上に配置された正孔阻止層と、正孔阻止層上に配置されている電子輸送層とを含んでいる光電変換素子を記載しており、光感作性化合物が吸着される表面上の電子輸送半導体と、電子輸送層に接続されている正孔輸送層とを含んでおり、正孔輸送材料と正孔輸送層上に配置された第2の電極とを含んでいる。国際公開第2018/105431号の光電変換素子において、出力抽出端子部としての、第1の透明電極の材料であるITOの抵抗値の上昇を抑制する機能を有している正孔阻止層は、第1の透明電極を曝露させるために、レーザー加工等によって精密に剥離される。結果として、低電気抵抗の出力電気が抽出される。導電率を改善することを考慮して、有機正孔輸送材料の一部をラジカルカチオンに変えるために、酸化剤を更に添加してもよい。しかし、酸化剤の添加は、前述の感湿性の不利益又は/及び長時間の後酸化工程を誘発する。
【0007】
これらのことを考慮すると、従来技術の欠点が排除されている、電子デバイスの輸送材料として使用できる組成物を製造する改善された方法が必要である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、電子デバイスの輸送材料として使用する組成物の製造方法であって、
a)第1の有機半導体を準備する工程、
b)ラジカル化合物を準備する工程、
c)双極子モーメントが少なくとも6.0デバイ(D)の極性化合物を準備する工程、
d)第1の有機半導体、ラジカル化合物及び極性化合物を混合して組成物を得る工程、
を含む、方法を開示する。
【0009】
前述のことから明らかなように、本発明の方法は、ラジカル化合物を形成するために、酸化剤のようなラジカル開始剤の添加を必要としない。したがって、本発明の方法は、少なくとも10時間の反応時間を必要とする、かなり時間のかかる工程である後酸化工程を排除する。さらに、本発明の方法は、湿気及び熱に対して安定性が改善された組成物を提供する。本発明の方法はまた、不純物を実質的に有していない組成物を提供するが、このことは、ラジカル開始剤及びtBPの添加がこのような不純物の形成を不可避とするので、当該技術分野におけるこれまでに説明した方法では不可能である。最後に、本発明の方法の添加剤は少量で済む。
【0010】
工程d)における第1の有機半導体対ラジカル化合物対極性化合物の比は、モル比により1:0.01:0.03~1:0.3:0.9、好ましくは1:0.05:0.15~1:0.08:0.25、より好ましくはモル比により1:0.07:0.2であってもよい。これらの比は、従来の1:0.5:2~1:0.6:4の比と比較されるべきである。これらの点を考慮すると、本発明の方法は、費用対効果が高い。工程d)は、前述の比に従い、第1の有機半導体、ラジカル化合物及び極性化合物を混合し、この混合物を適切な溶媒又は溶媒混合物に溶解させることによって実施してもよい。あるいは、第1の有機半導体、ラジカル化合物及び極性化合物のそれぞれは、適切な溶媒又は溶媒混合物に溶解させ、その後、混合してもよい。
【0011】
第1の有機半導体は、コンジュゲートした小分子又はコンジュゲートしたポリマー(例.トリフェニルアミン、チオフェン又はトリフェニルホスフィン)であってもよい。例えば、第1の有機半導体は、2,2’,7,7’-テトラキス[N,N-ジ(4-メトキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン(スピロ-OMeTAD)、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)、3,3’-(2,7-ビス(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)-9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(N-エチル-N,N-ジメチルプロパン-1-アミニウム)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(X44)、オクタキス(4-メトキシフェニル)スピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]-2,2’,7,7’-テトラアミン)(X60)、インダセノジチエノチオフェン-メトキシトリフェニルアミン(IDTT-TPA)、ポリ[N-90-ヘプタデカニル-2,7カルバゾール-alt-3,6-ビス(チオフェン-5-イル)-2,5-ジオクチル-2,5-ジヒドロピロロ[3,4]ピロール-1,4-ジオン](PCBTDPP)、フェニル-ジピレニルホスフィンオキシド(POPy2)及びそれらの混合物からなる群から選択してもよい。第1の有機半導体として使用できる化合物の化学構造の一部を以下に図示する。
【0012】
【0013】
本発明の重要な特徴は、ラジカル化合物を提供する工程b)が、工程d)の前にあること、すなわちラジカル化合物が、従来の方法のようにin situで形成されるのではなく、別個に形成され、組成物に添加されるということである。この工程は、ラジカル開始剤及びtBPを組成物に添加する必要性を排除し、結果的に、後酸化処理の必要性も排除する。ラジカル開始剤及びtBPが添加されないため、副産物は形成されず、このことが、不純物を含まない安定な組成物を得るという利点を付与する。
【0014】
工程b)は、以下の手順で実施してもよい。第2の有機半導体は、不活性雰囲気中で第1の無水溶媒に溶解させてもよい。第2の有機半導体は、第1の有機半導体と同じであっても異なっていてもよい。ラジカル開始剤(例.有機塩)は、周囲温度で添加してもよい。混合物は、ラジカル化合物を形成させるために、室温で24時間撹拌してもよい。第1の溶媒はジクロロメタン(DCM)であってもよい。ラジカル開始剤はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド銀(I)であってもよい。工程b)は、さらに、ろ過、希釈、蒸発、沈殿等といった更なる手順を有していてもよい。
【0015】
本発明はさらに、これまでに開示した方法で得られた組成物に関する。
【0016】
本発明の組成物は、電子デバイスにおける輸送材料として使用してもよく、ここで、輸送材料は、正孔輸送材料又は電子輸送材料であってもよい。「正孔輸送材料」という用語は、電子がHOMOからLUMOに励起されるときに生じる正孔を収集し、カソードに向かって輸送できる材料と理解される。「電子輸送材料」という用語は、電子流がアノードに向かって移動するように促進する材料と理解される。
【0017】
本発明の組成物を正孔輸送材料として使用することを意図する場合、ラジカル化合物は、R1
a・+(I1
b-)cで表されるラジカルカチオン対であってもよく、ここで、a=b・cであり、a及びbは原子価状態であり、R1
a・+は第2の有機半導体のラジカルカチオンであり、I1
b-は第1の対アニオンである。第2の有機半導体は、トリフェニルアミン又はチオフェンのようなコンジュゲートした骨格から少なくともなり、第1の有機半導体と同じであっても異なっていてもよい。特に、第2の有機半導体は、2,2’,7,7’-テトラキス[N,N-ジ(4-メトキシフェニルアミノ]-9,9’-スピロビフルオレン(スピロ-OMeTAD)、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)、3,3’-(2,7-ビス(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)-9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(N-エチル-N,N-ジメチルプロパン-1-アミニウム)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(X44)、オクタキス(4-メトキシフェニル)スピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]-2,2',7,7'-テトラアミン)(X60)、インダセノジチエノチオフェン-メトキシトリフェニルアミン(IDTT-TPA)、ポリ[N-90-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-alt-3,6-ビス(チオフェン-5-イル)-2,5-ジオクチル-2,5-ジヒドロピロロ[3,4]ピロール-1,4-ジオン](PCBTDPP)及びそれらの混合物からなる群から選択してもよい。代表的なラジカルカチオンの化学構造を以下に示す。
【0018】
【0019】
第1の対アニオンは、有機又は無機イオンであってもよい。第1の対アニオンは、ハロゲンアニオン(X-)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン(TFSI-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6
-)、テトラフルオロボレート(BF4
-)、トリフレート(CF3SO3
-)及びそれらの混合物からなる群から選択してもよい。
【0020】
別の態様によれば、ラジカル化合物は、4つのアームを有するトリアリールアミン(TAA)系ラジカル分子(M1及びM2)、星型のTAA系ラジカル分子(M3及びM4)及び/又は直鎖状のTAA系ラジカル分子(M5及びM6)であってもよい。
【0021】
【0022】
式中、R1は、アルキル、芳香族又はヘテロ芳香族基であってもよい。R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12及びR13は、独立して、R、-OR又は-NR2であり、ここで、Rは、ハロゲン化物、アルキル、芳香族又はヘテロ芳香族基である。X-対アニオンは、ハロゲンアニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン(TFSI-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6-)、テトラフルオロボレート(BF4-)、トリフレート(CF3SO3
-)及びそれらの混合物からなる群から選択してもよい。ラジカルカチオンは、上記構造におけるN原子のいずれかにおいて個々に又は同時に提示される。M1は、パラ位で全てのR1~R8において-OCH3基を有しており、R9位でCを有している、X-がTFSI-である分子を含まないことに留意されたい。
【0023】
あるいは、本発明の組成物を電子輸送材料として使用することを意図する場合、ラジカル化合物は、R2
d・-(I2
e+)fで表されるラジカルアニオン対であってもよく、ここで、d=e・fであり、d及びeは原子価状態であり、R2
d・-は第3の有機半導体のラジカルアニオンであり、I2
e+は第1の対カチオンである。第3の有機半導体は、好ましくは第1及び/又は第2の有機半導体とは異なる。第1の対カチオンは、Na+又はK+のようなアルカリ金属カチオンであってもよい。ラジカルアニオンの可能な化学構造を以下に示す。
【0024】
【0025】
本発明の組成物は、双極子モーメントが少なくとも6.0Dの極性化合物を更に含む。双極子モーメントは、電気双極子モーメントを使用して、分子内の極性を測定する。このような電気双極子モーメントは、正電荷と負電荷が分離する場合に生じる。結合双極子モーメントμは、
μ=δ・d
(式中、δは、電荷(10-10スタットクーロン)であり、dは、部分電荷δ+とδ-の間の距離(Å)である。)
として定義される。
【0026】
本発明の極性化合物は、有機塩又は中性極性分子であってもよい。有機塩は同様に、有機小分子、多価有機塩、ポリマー電解質又は分子内塩であってもよい。「有機小分子」という用語は、低分子量(<900ダルトン)の有機化合物と理解される。特に、有機塩は、(Ax+)y(Bz-)wと表してもよく、ここで、x・y=w・zであり、x及びzは原子価状態であり、Ax+は第2のカチオンであり、Bz-は第2のアニオンである。
【0027】
第2のカチオンAx+は、アルキル又は芳香族有機カチオンであってもよい。好ましくは、第2のカチオンAx+は、式RNH3
+で表され、ここで、Rは、アルキル基又は芳香族基である。特に、第2のカチオンはtert-ブチル-ピリジニウム(tBP系カチオン)であってもよい。
【0028】
第2のアニオンBz-は、第1の対アニオンI1
-と同じであっても異なっていてもよい。特に、第2のアニオンは、TFSI-、I-、SP6
-、ClO4
-、PF6
-、BF4
-、CF3SO3
-及びそれらの混合物からなる群から選択してもよい。
【0029】
極性化合物が有機塩である場合、双極子モーメントは、少なくとも15D、好ましくは少なくとも20Dであってもよい。極性化合物は、以下の化合物からなる群から選択される多価有機塩又はポリマー電解質であってもよい。
【0030】
【0031】
分子内塩は、双性イオンとも呼ばれ、同数の正に帯電した官能基と負に帯電した官能基とを有する分子である。分子内塩は、以下に示するとおり、L-カルニチン分子内塩(I)、2,7-ビス(1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9,9-ジオクチルフルオレンと2,7-ジブロモ-9,9-ビス((N,N-ジメチルアミノ)エタニル)フルオレン系双性イオン(II)、2,2’-(4,4’-スルホニルビス(1,4-フェニレン)ビス(オキシ))ビス(N,N-ジメチルエタンアミン)系双性イオン(III)、N1,N1,N6,N6-テトラメチルヘキサン-1,6-ジアミン系双性イオン(IV)又はそれらの混合物からなる群から選択してもよい。
【0032】
【0033】
前述したように、本発明の組成物は後酸化を必要とせず、全体の生成サイクルが短縮される。さらに、組成物は、湿気及び熱に対する安定性が強化されている。
【0034】
本発明はさらに、電子デバイスの輸送層であって、第1の有機半導体、ラジカル化合物及び双極子モーメントが少なくとも6.0Dの極性化合物を含む組成物を含む輸送層を開示する。組成物の成分の特徴は、これまでに説明した特徴と同じである。
【0035】
本発明の輸送層は、前述の組成物を、クロロベンゼン、トルエン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、又はそれらの混合物といった溶媒に溶解させ、この溶液を、スピンコーティング、スプレーコーティング、又はロール・ツー・ロールプロセスのような当該技術分野で公知の適切な堆積技術で電子デバイス上に塗布し、輸送層の薄膜を得ることで製造してもよい。
【0036】
本発明の輸送層は、不純物、並びに湿気及び熱に対して敏感な添加剤を実質的に含まず、その結果、電子デバイスの耐用年数を延長するので有利であることに留意されたい。さらに、本発明の輸送層は、後酸化工程を必要とせず、したがって電子デバイスの製造サイクルを短縮する。
【0037】
本発明の輸送層は正孔輸送層(HTL)であってもよい。この場合、ラジカル化合物は、R1
a・+(I1
b-)cで表されるラジカルカチオン対であり、ここで、a=b・cであり、a及びbは原子価状態であり、R1
a・+は第2の有機半導体のラジカルカチオンであり、I1
b-は第1の対アニオンである。ラジカルカチオン及び第1の対アニオンは、先に詳しく説明している。
【0038】
あるいは、本発明の輸送層は電子輸送層(ETL)であってもよい。この場合、ラジカル化合物は、R2
d・-(I2
e+)fで表されるラジカルアニオン対であり、ここで、d=e・fであり、d及びeは原子価状態であり、R2
d・-は第3の有機半導体のラジカルアニオンであり、I2
e+は第1の対カチオンである。ラジカルアニオン及び第1の対カチオンは、先に詳しく説明している。
【0039】
本発明はさらに、前述した輸送層の少なくとも1つを備える電子デバイスを開示する。電子デバイスは、1つの本発明による輸送層を備えていてもよく、ここで、この輸送層は、HTL又はETLのいずれかであってもよい。あるいは、電子デバイスは、2つの本発明による輸送層を備えていてもよく、ここで、一方の層はETLであり、他方の層はHTLである。電子デバイスの残りの成分は当業者に周知で、本発明の一部を形成するものではない。
【0040】
電子デバイスは、有機太陽電池/発光ダイオードモジュール又はペロブスカイト太陽電池/発光ダイオードモジュール又は色素増感太陽電池(DSSC)であってもよい。本発明の太陽電池デバイスは、当該技術分野で公知のものに匹敵する電力変換効率をもたらす。さらに、本発明の太陽電池デバイスは、湿気及び熱に対して改善された安定性を示し、したがって、太陽電池デバイスの耐用年数を延長する。
【0041】
ここで、本発明の態様は、図面を参照し、実施例として記載される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の組成物を含むHTLでの導電率測定を示す図。
【
図3】異なるHTL組成物を含むペロブスカイト太陽電池デバイスのJ-V曲線を示す図。
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図4】異なる極性化合物を使用する、本発明の組成物を含むペロブスカイト太陽電池の密度-電圧(J-V)曲線の図。
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図5】異なる極性化合物を使用する、本発明の組成物を含むペロブスカイト太陽電池の密度-電圧(J-V)曲線の図。
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図6】異なる極性化合物を使用する、本発明の組成物を含むペロブスカイト太陽電池の密度-電圧(J-V)曲線の図。
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図7】異なる極性化合物を使用する、本発明の組成物を含むペロブスカイト太陽電池の密度-電圧(J-V)曲線の図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
発明の詳細な説明
電子デバイスの輸送材料として使用する組成物を製造した。第1の有機半導体として、Sigma-Aldrichから得たスピロ-OMeTADを使用した。ラジカル化合物はスピロ-OMeTAD2・+(TFSI-)2で、以下のように製造した。スピロ-OMeTAD(1.26g、1mmol)及び無水ジクロロメタン(DCM)20mLを、オーブンで乾燥させた50mLのフラスコに、窒素雰囲気下で撹拌しながら添加した。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド銀(I)(0.39g、1mmol)を、周囲温度で5分間かけて添加した。フラスコを脱気し、窒素で再充填した。混合物を室温で24時間撹拌し、続いてDCMで希釈した。フリット付きフィルタで、銀(0)の灰色沈殿物をろ別し、ろ液から溶媒を除去して、暗い色の固体を得た。固体を、最小量のDCMに溶解し、乾燥ジエチルエーテル中で沈殿させた。得られた極めて暗い色の微細な粉末スピロ-OMeTAD2・+(TFSI-)2を、フリット付きフィルタによるろ過で収集した。本発明の代表的な態様によるラジカルカチオンは、先に図説したスピロ-OMeTAD・+で、第1の対アニオンはTFSI-であった。極性化合物として、以下のように製造したtBPM+TFSI-を使用した。tBP(1.35g、10mmol)及び無水アセトニトリル(10mL)を、窒素雰囲気下で撹拌しながら、100mLのフラスコに添加した。無水アセトニトリル(2.5mL)中のヨードメタン(4.2g、30mmol)を、周囲温度で30分間かけて滴下漏斗で添加した。混合物を16時間還流し、次いで室温に冷却した。減圧下で溶媒を除去した後、4-tert-ブチル-1-メチルピリジン-1-イウムヨージドの粗生成物を得、再結晶で精製した。加熱した4-tert-ブチル-1-メチルピリジン-1-イウムヨージド(1.39g、5mmol)のメタノール5mL溶液に、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド銀(I)(3.88g、10mmol)のアセトニトリル(5mL)溶液を撹拌しながら滴下した。ヨウ化銀(I)の濃黄色の沈殿が形成された。沈殿をろ別し、メタノールですすぎ、ろ液から溶媒を除去すると、tBPM+TFSI-のろう状の固体が残った。第2のカチオンはtBPM+で、第2のアニオンはTFSI-であった。第1の有機半導体、ラジカル化合物及び極性化合物は、それぞれ、モル比1:0.07:0.2で使用した。第1の有機半導体、ラジカル化合物及び極性化合物のそれぞれを、クロロベンゼン(CB)及び1,1,2,2-テトラクロロエタン(TCE、10v/v%)に室温で溶解し、溶液を混合した。さらに、成分を混合し、次いで、混合物を前述の溶媒に溶解させることも考えられる。
【0044】
本発明の組成物における極性化合物の機能を示すために、第1の有機半導体であるスピロ-OMeTAD及びラジカル化合物であるスピロ-OMeTAD2・+(TFSI-)2のみを含む参照組成物を得た。参照組成物は、第1の有機半導体及びラジカル化合物を1:0.07のモル比で混合することで製造した。
【0045】
最後に、本発明の組成物と参照組成物の両者を、元のスピロ-OMeTADの形態の第1の有機半導体と比較した。
【0046】
本発明の組成物、参照組成物及び元のスピロ-OMeTADのそれぞれを、クロロベンゼン(CB)及び1,1,2,2-テトラクロロエタン(TCE、10v/v%)の混合物に溶解し、0.07Mの溶液を得た。溶液を、酸化インジウムスズ(ITO)層上にスピン速度5000rmp/分で直接スピンコーティングし、HTLを形成した。フィルムの厚さは、およそ100nmであった。厚さがおよそ60nmの金電極をHTLの上に蒸着した。
【0047】
ソースメータを使用して導電率を測定した。結果を
図1にまとめる。
図1に示すように、元のスピロ-OMeTADの導電率は低かったが、ラジカル化合物及び極性化合物の添加により著しく改善した。
【0048】
図2は、原子間力顕微鏡(AFM)による本発明のHTLの形態を示す。
図2に示されるように、組成の異なるHTLの形態に、変化はほとんどない。
【0049】
最後に、デバイスの光起電能を、放射照度1000W/m
2、およそ25℃及びエアマス1.5の標準試験条件で収集したJ-V曲線から得た。結果を
図3にまとめる。
図3のとおり、3種の異なるHTLの太陽電池性能は異なる。元のスピロ-OMeTADは、導電率が低いことから、開路電圧が低く、曲線因子が低かった。ラジカル化合物であるスピロ-OMeTAD
2・+(TFSI
-)
2を添加すると、導電率が改良されるため、開路電圧及び曲線因子は大きく上昇する。極性化合物であるtBPM
+TFSI
-を更に添加すると、開路電圧、短絡電流密度及び曲線因子の全てが、一層上昇する。このことは、極性化合物が正孔の回収と抽出を促進することを裏付ける。
【0050】
図4~
図7は、異なる極性化合物を使用する本発明の組成物を含むペロブスカイト太陽電池の密度-電圧(J-V)曲線を示す。この結果は、高効率の性能には、双極子モーメントが高い極性化合物が必要であることを裏付ける。
【0051】
本発明は、さまざまな態様を参照しながら記載されているが、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく変更が行われ得ることを認識されよう。詳細な説明は、例示的なものとしてみなされること、及び全ての等価物を含む特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義することが意図されている。
【国際調査報告】