(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-15
(54)【発明の名称】バクテリオファージを含むコーティング組成物およびそれを用いて製造された抗菌フィルム
(51)【国際特許分類】
C12N 7/00 20060101AFI20240408BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240408BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20240408BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20240408BHJP
C08K 5/07 20060101ALI20240408BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C12N7/00
C08L101/00
C08K5/053
C08L71/02
C08K5/07
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507502
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2023-01-31
(86)【国際出願番号】 KR2022010203
(87)【国際公開番号】W WO2023146038
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】10-2022-0013071
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0046236
(32)【優先日】2022-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512100744
【氏名又は名称】ククミン ユニバーシティ インダストリー アカデミ- コーポレーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ユンチ
(72)【発明者】
【氏名】キム、サン ピン
【テーマコード(参考)】
4B065
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4B065AA98X
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4F071BA02
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4F071BC01
4J002BB031
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4J002BE021
4J002CF051
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4J002FD022
4J002FD026
4J002FD187
4J002GH00
(57)【要約】
本発明は、バクテリオファージを含むコーティング組成物およびそれを用いて製造された抗菌フィルムに関するものである。
本発明のコーティング組成物はサルモネラ菌に対して死滅能を有するバクテリオファージを含むので、これを用いれば抗菌活性を有するコーティングを製造することができ、コーティング形成後もバクテリオファージが安定的に生存し、優れた抗菌活性を持続的に維持することができる。本発明を食品包装用コーティングまたはフィルムに適用する場合、サルモネラ菌による食品の汚染を効果的に防止し、食品の安全性および保存性を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サルモネラ属(Salmonella sp.)菌に対して死滅能を有するバクテリオファージ、高分子化合物、および可塑剤を含むコーティング組成物。
【請求項2】
前記サルモネラ属菌がサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記サルモネラ属菌が、サルモネラ・エンテリティディス(S. Enteritidis)、サルモネラ・ティフィムリウム(S. Typhimurium)、サルモネラ・パラティフィ(S. Paratyphi)、サルモネラ・サラメ(S. Salamae)、サルモネラ・ディアリゾネ(S. Diarizonae)、およびサルモネラ・ダブリン(S. Dublin)からなる群より選択される少なくとも1種のサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)血清型(serotype)を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記バクテリオファージがシホウイルス科(Siphoviridae)に属する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記バクテリオファージがサルモネラ属菌(Salmonella sp.)に対して特異的な死滅能を有する受託番号KCTC14929BPのバクテリオファージである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記高分子化合物が、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)、ポリ乳酸(polylactic acid、PLA)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone、PCL)、ポリブチレンサクシネート(polybutylene succinate、PBS)、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate、PET)、ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate、PBT)、 ポリエチレン(polyethylene、PE)、ポリプロピレン(polypropylene、PP)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride、PVC)、ポリアミド(polyamide、PA)、およびポリウレタン(polyurethane、PU)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記高分子化合物が生分解性高分子(biodegradable polymer)を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記可塑剤が、ソルビトール(sorbitol)、グリセロール(glycerol)、トレハロース(trehalose)、フルクトース(fructose)、スクロース(sucrose)、マンニトール(mannitol)、プロピレングリコール(propylene glycol)、およびポリエチレングリコール(polyethylene glycol)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記可塑剤が高分子化合物の重量に基づいて、10~30重量%含まれる、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
前記コーティング組成物が溶媒をさらに含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記コーティング組成物全体の体積に基づいて、前記バクテリオファージが1×10
8~1×10
12PFU/mL含まれる、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
前記コーティング組成物全体の体積に基づいて、前記高分子化合物が5~20g/100mL含まれる、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
前記コーティング組成物の全体の体積に基づいて、前記可塑剤が1~5g/100mL含まれる、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項14】
サルモネラ属(Salmonella sp.)菌に対して死滅能を有するバクテリオファージ、高分子化合物、および可塑剤を含むコーティング組成物を用いて製造された抗菌フィルム。
【請求項15】
前記抗菌フィルムが、基板に前記コーティング組成物をコーティングした後、20~30℃の温度で10~20時間乾燥させて製造された、請求項14に記載の抗菌フィルム。
【請求項16】
前記抗菌フィルムが、コーティング対象物に前記コーティング組成物をコーティングした後、20~30℃の温度で10~180分間乾燥させて製造された、請求項14に記載の抗菌フィルム。
【請求項17】
前記抗菌フィルムが食品包装用フィルムである、請求項14に記載の抗菌フィルム。
【請求項18】
サルモネラ属菌(Salmonella sp.)に対して特異的死滅能を有する受託番号KCTC14929BPのバクテリオファージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリオファージを含むコーティング組成物およびそれを用いて製造された抗菌フィルムに関するもので、より詳しくは、サルモネラ菌に対する死滅能を有するバクテリオファージを含み、バクテリオファージの安定性及び抗菌活性が優秀なコーティングを製造できるコーティング組成物及び前記組成物を用いて製造された抗菌フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品は、製造、流通、及び保管の過程で病原体によって汚染される可能性が高く、菌に汚染される場合、品質が低下するだけでなく、摂取時に食中毒を引き起こすことがある。食品医薬品安全処の統計資料によると、2017年から2020年までの期間中、サルモネラ(Salmonella)感染による食中毒患者数は、総食中毒患者の33.5%に相当すると報告されており、サルモネラ菌のような病原菌による食品汚染を防ぐことが重要である。
【0003】
病原菌による食品汚染を防止して食品の鮮度及び安全性を確保するための一般的な技術としては、抗生剤を用いて病原菌を死滅させる方法がある。しかし、抗生剤の場合、耐性菌出現の問題により長期的な効果を示しにくいため、抗生剤に代わる抗菌物質の研究が必要であった。
【0004】
抗生剤の代替として、天然抽出物および植物精油(essential oil)のような天然抗菌材料を使用する技術が開発された。例えば、大韓民国登録特許公報第10-1072883号では、マスタード精油を用いた抗菌コーティング及び包装素材を記載している。しかし、天然素材を用いる場合、安定した抗菌活性を確保することが難しく、食品の官能的な特性保存に不利であり、有益菌まで除去してマイクロバイオーム(microbiome)のバランスを崩す可能性があった。
【0005】
前記抗生剤、天然素材など既存の抗菌物質を代替できる物質としてバクテリオファージを用いる技術が注目されている。バクテリオファージは、細菌を宿主とするウイルスであり、宿主菌に結合して死滅を誘導する抗菌性物質である。特に、バクテリオファージは、特定のカテゴリーの菌を殺し、それ以外の菌には影響を与えない特性を有する。一例として、大韓民国公開特許第10-2018-0100533号では、緑膿菌を特異的に死滅させる能力を有するバクテリオファージを記載している。このような菌特異的特性によって、バクテリオファージを利用すれば目的とする病原菌のみを死滅させることができるので、有益菌まで死滅する問題が現れないという利点がある。
【0006】
バクテリオファージは2006年からアメリカ食品医薬品局(FDA)によって、一般的に安全とみなされる物質(generally recognized as safe、GRAS)と認められた安全な生物素材であり、病原菌による食品汚染を防止するために食品添加物に適用されている。しかし、バクテリオファージをコーティング膜に適用する場合、コーティング形成工程およびコーティングに使用される物質によってコーティング内でバクテリオファージの生存率が低下するため、コーティング形態としては優れた抗菌活性を発揮できないという限界がある。これによりバクテリオファージの利用は主に溶液状または粉末状に制限されているため、コーティング形成後もバクテリオファージの安定性が確保され、サルモネラ菌に対して優れた抗菌活性が維持されるように調節できる技術の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、バクテリオファージの生存率および安定性に優れた抗菌フィルムを製造することができるコーティング組成物を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、前記コーティング組成物を用いて製造された抗菌フィルムを提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、サルモネラ属菌に対して特異的に死滅能を有するバクテリオファージを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、サルモネラ属(Salmonella sp.)菌に対して殺菌能を有するバクテリオファージ、高分子化合物、および可塑剤を含むコーティング組成物を提供する。
【0011】
本発明において、前記サルモネラ属菌はサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)を含むことができる。
【0012】
本発明において、前記サルモネラ属菌は、サルモネラ・エンテリティディス(S. Enteritidis)、サルモネラ・ティフィムリウム(S. Typhimurium)、サルモネラ・パラティフィ(S. Paratyphi)、サルモネラ・サラメ(S. Salamae)、サルモネラ・ディアリゾネ(S. Diarizonae)、及びサルモネラ・ダブリン(S. Dublin)からなる群より選択される少なくとも1種のサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)血清型(serotype)を含むことができる。
【0013】
本発明において、前記バクテリオファージはシホウイルス科(Siphoviridae)に属することができる。
【0014】
本発明において、前記バクテリオファージは、サルモネラ属菌(Salmonella sp.)に対して特異的死滅能を有する寄託番号KCTC14929BPのバクテリオファージであり得る。
【0015】
本発明において、前記高分子化合物は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)、ポリ乳酸(polylactic acid、PLA)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone、PCL)、ポリブチレンサクシネート(polybutylene succinate、PBS)、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate、PET)、ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate、PBT)、 ポリエチレン(polyethylene、PE)、ポリプロピレン(polypropylene、PP)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride、PVC)、ポリアミド(polyamide、PA)、およびポリウレタン(polyurethane、PU)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0016】
本発明において、前記高分子化合物は生分解性高分子(biodegradable polymer)を含むことができる。
【0017】
本発明において、前記可塑剤は、ソルビトール(sorbitol)、グリセロール(glycerol)、トレハロース(trehalose)、フルクトース(fructose)、スクロース(sucrose)、マンニトール(mannitol)、プロピレングリコール(propylene glycol)、およびポリエチレングリコール(polyethylene glycol)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0018】
本発明において、前記可塑剤を高分子化合物の重量に基づいて、10~30重量%を含むことができる。
【0019】
本発明において、前記コーティング組成物は溶媒をさらに含むことができる。
【0020】
本発明において、前記コーティング組成物の全体の体積に基づいて、前記バクテリオファージは、1×108~1×1012 PFU/mLを含むことができる。
【0021】
本発明において、前記コーティング組成物の全体の体積に基づいて、前記高分子化合物を5~20g/100mLを含むことができる。
【0022】
本発明では、前記コーティング組成物の全体の体積に基づいて、前記可塑剤を1~5g/100mLを含むことができる。
【0023】
本発明はまた、前記コーティング組成物を用いて製造された抗菌フィルムを提供する。
【0024】
本発明において、前記抗菌フィルムは、基板にコーティング組成物をコーティングした後、20~30℃の温度で10~20時間乾燥することによって製造することができる。
【0025】
本発明において、前記抗菌フィルムは、コーティング対象物に前記コーティング組成物をコーティングした後、20~30℃の温度で10~180分間乾燥することによって製造することができる。
【0026】
本発明において、前記抗菌フィルムは食品包装用コーティングであり得る。
【0027】
本発明はまた、サルモネラ属菌(Salmonella sp.)に対して特異的な死滅能を有する受託番号KCTC14929BPのバクテリオファージを提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明のコーティング組成物は、サルモネラ菌に対して死滅能を有するバクテリオファージを含む抗菌活性を示すことができ、コーティング形成後もバクテリオファージが安定的に生存し、優れた抗菌活性を持続的に維持することができる。これにより、本発明を食品包装用コーティングまたはフィルムに適用する場合、サルモネラ菌による食品の汚染を効果的に防止し、食品の安全性および保存性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例によって分離されたバクテリオファージPBSE191の透過電子顕微鏡(TEM)写真を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例によるバクテリオファージPBSE191のサルモネラ菌成長抑制活性を測定した結果のグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例によるバクテリオファージPBSE191の吸着能測定結果を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例によるバクテリオファージPBSE191の1段階成長曲線(one-step growth curve)を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施例によるバクテリオファージPBSE191に対して、-18~80℃の範囲で生存率を測定した結果のグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例によるバクテリオファージPBSE191に対して、pH1~9の範囲で生存率を測定した結果のグラフである。
【
図7】
図7は、本発明の一実施例によるバクテリオファージPBSE191の受容体分析のための点滴検査実験写真を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施例で究明されたバクテリオファージPBSE191のゲノムマップを示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施例で究明されたバクテリオファージPBSE191の系統樹を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施例に従って製造されたバクテリオファージPBSE191含有フィルムをバクテリオファージ未含有フィルムと比較して示す写真である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施例によって製造されたバクテリオファージPBSE191含有フィルムで可塑剤の種類および含有量によるバクテリオファージの生存率を比較した結果のグラフである。
【
図12】
図12は、本発明の一実施例によって製造されたバクテリオファージPBSE191含有フィルムでバクテリオファージの安定性測定結果を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明の一実施例によって製造されたバクテリオファージPBSE191含有フィルムでバクテリオファージの抗菌活性測定結果を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の一実施例によって製造されたバクテリオファージPBSE191含有コーティングでコーティング前後の抗菌活性測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の具体的な実施形態について、より詳しく説明する。他の式で定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野で熟練した専門家によって通常理解されるものと同じ意味を有する。一般的に、本明細書で使用される命名法は、当技術分野で周知であり、通常使用されるものである。
【0031】
本発明は、バクテリオファージ、それを含むコーティング組成物およびそれを用いて製造された抗菌フィルムに関するものである。
【0032】
本発明のコーティング組成物は、バクテリオファージを含む抗菌活性を示すことができ、それを用いてコーティングまたはフィルムを形成した後にもバクテリオファージが安定して生存し、持続的な抗菌活性を示すことができる。また、本発明では、食品病原菌であるサルモネラ属(Salmonella sp.)菌に対する死滅能に優れ、熱およびpHに対して安定性の高いバクテリオファージを用いることにより、食品コーティングや包装材に有用に適用可能な抗菌フィルムを提供することができる。
【0033】
バクテリオファージ(bacteriophage)は、細菌を宿主とするウイルスであり、「ファージ(phage)」と略すことができる。バクテリオファージは、溶菌サイクル(lytic cycle)および/または溶原サイクル(lysogenic cycle)によって宿主菌を死滅させる。例えば、溶菌サイクルによれば、バクテリオファージは菌を感染させた後に菌細胞内で増殖し、増殖後に宿主菌の細胞壁を破壊しながら放出して菌を死滅させることができる。一種類のバクテリオファージは特定のカテゴリーの宿主菌に対してのみ死滅能を有するので、死滅対象となる菌の種類に応じてバクテリオファージを選択したり、新規なバクテリオファージを発掘したりして使用することができる。
【0034】
本発明で使用されるバクテリオファージは、代表的な食品病原菌であるサルモネラ属(Salmonella sp.)菌に対して死滅能を有することができる。これにより、前記バクテリオファージを食品包装材に適用する場合、サルモネラ菌を死滅させて繁殖を抑制する抗菌活性を示し、食品がサルモネラ菌によって汚染されるのを防止することができる。
【0035】
具体的には、本発明で使用されるバクテリオファージは、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)に特異的に死滅能を有することができ、その中でも特に、サルモネラ・エンテリティディス(S. Enteritidis)、サルモネラ・ティフィムリウム(S. Typhimurium)、サルモネラ・パラティフィ(S. Paratyphi)、サルモネラ・サラメ(S. Salamae)、サルモネラ・ディアリゾネ(S. Diarizonae)、およびサルモネラ・ダブリン(S. Dublin)からなる群より選択される少なくとも1種の血清型(serotype)に対して死滅能を示すことができる。
【0036】
本発明の一実施形態では、前記バクテリオファージはバクテリオファージPBSE191(以下、「ファージPBSE191」という)であり得る。前記ファージPBSE191は、韓国生命工学研究院生物資源センター(Korean Collection for Type Culture)で受託番号KCTC14929BP(受託日:2022年3月31日)として寄託されている。
【0037】
前記ファージPBSE191はシホウイルス科(Siphoviridae)に属するものであり、本発明の実施例ではファージPBSE191がサルモネラ属(Salmonella sp.)菌、特にサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)に特異的に抗菌活性を示し、熱安定性およびpH安定性に優れ、様々な温度およびpH条件で適用が可能であることを確認した。これにより、ファージPBSE191を食品包装材に適用すれば、食品病原菌であるサルモネラ菌に対して優れた死滅能を示し、食品の安全性及び保存性を向上させることができる。
【0038】
したがって、本発明は、バクテリオファージを含むコーティング組成物、より具体的にはバクテリオファージを含む食品包装用抗菌コーティング組成物を提供することができる。本発明のコーティング組成物を用いると、コーティング形成後もバクテリオファージの生存率および安定性が高く、抗菌活性に優れたフィルムを製造することができる。
【0039】
本発明のコーティング組成物は、バクテリオファージ、高分子化合物、および可塑剤を含むことができる。
【0040】
前記コーティング組成物でバクテリオファージは、上述したように菌に対して死滅能を示すので、これを用いて抗菌活性を有するフィルムを製造することができる。
【0041】
本発明において、前記高分子化合物はコーティングのマトリックスとなるものであり、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)、ポリ乳酸(polylactic acid、PLA)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone、PCL)、ポリブチレンサクシネート(polybutylene succinate、PBS)、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate、PET)、ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate、PBT)、 ポリエチレン(polyethylene、PE)、ポリプロピレン(polypropylene、PP)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride、PVC)、ポリアミド(polyamide、PA)、およびポリウレタン(polyurethane、PU)などであり得る。そのなかでも、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートなどのような生分解性高分子(biodegradable polymer)を用いることができる。特に、ポリビニルアルコールの場合、人体に無害で生分解が可能であり、フィルム形成能及び酸素遮断性に優れるため、環境にやさしい食品包装材の製造に好ましく用いることができる。
【0042】
本発明において、前記ポリビニルアルコールとしては、重量平均分子量(Mw)が5,000~50,000、具体的には10,000~30,000、例えば13,000~23,000であるものを使用することができ、けん化度が80~95%、好ましくは82~92%、例えば87~89%であるものを使用することができる。
【0043】
本発明において、前記可塑剤とは、高分子化合物に配合してフィルムの物性を調節する添加剤を意味する。一般的に、バクテリオファージを高分子コーティングに適用すると、高分子の種類やコーティング工程によってバクテリオファージが不活性化してコーティングの抗菌能が低下する問題が発生する。このような状況において、本発明の発明者らは、バクテリオファージをコーティングフィルムに適用した場合、可塑剤が単にフィルムの物性を調節できるだけでなく、バクテリオファージの生存率にも重要な影響を及ぼすことを見出し、本発明を完成した。本発明によれば、バクテリオファージおよび高分子化合物と共に可塑剤を使用し、その種類および含有量を調節することにより、抗菌能に非常に優れたコーティングフィルムを提供することができる。
【0044】
本発明で使用される可塑剤は、ソルビトール(sorbitol)、グリセロール(glycerol)、トレハロース(trehalose)、フルクトース(fructose)、スクロース(sucrose)、マンニトール(mannitol)、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)などを含むことができ、好ましくはソルビトールを含むことができる。ソルビトールを用いる場合、他の可塑剤に比べてフィルム形成後もバクテリオファージの生存率が高く、優れた抗菌活性を示すことができ、長期間安定性が確保され、持続的に抗菌活性を維持することができる。
【0045】
本発明において、前記可塑剤は、高分子化合物の重量に基づいて10~30重量%、好ましくは15~25重量%、より好ましくは18~22重量%含むことができる。前記含有量範囲でコーティング形成後もバクテリオファージが安定して生存し、優れた抗菌活性を示すことができ、可塑剤の含有量が低くなったり高くなったりすると、コーティング形成過程またはコーティング形成後に死滅するバクテリオファージの量が多くなり、コーティングの抗菌活性が低下する可能性がある。また、可塑剤の含有量が低すぎるとコーティングの機械的物性や酸素遮断性が低下することがあり、可塑剤の含有量が高すぎでもコーティングの強度低下や変色の恐れがあり、溶解度や透湿性が高くなりすぎて食品包装材として利用するのに適合しないことがある。
【0046】
一般的な高分子コーティングの場合、目的とするコーティングの物性に基づいて可塑剤の種類及び含有量を決定したが、本発明ではバクテリオファージをコーティングに導入する場合、可塑剤の種類及び含有量がバクテリオファージの生存率及び安定性に寄与することを明らかにし、バクテリオファージの活性および安定性を極大化できる最適な組成を発見したという点で優秀な技術的意義を有する。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によれば、バクテリオファージを含むコーティング組成物で高分子化合物としてポリビニルアルコールを使用することができ、可塑剤としてソルビトールを使用することができる。この場合、コーティング形成後のバクテリオファージの生存率、長期安定性、および抗菌活性の側面で最適な活性を示すことができる。
【0048】
バクテリオファージの生存率および安定性の観点から、前記高分子化合物の含有量は、本発明のコーティング組成物全体の体積に基づいて5~20g/100mL、好ましくは8~15g/100mLである得、前記可塑剤の含有量は1~5g/100mL、好ましくは1.5~2.5g/100mLであり得る。このとき、前記バクテリオファージは、プラーク形成単位(plaque forming unit, PFU)基準1×108~1×1012 PFU/mL、例えば1×109~1×1010 PFU/mLで含まれることがあり、具体的には2×109~8×109 PFU/mLで含まれることがある。
【0049】
本発明のコーティング組成物は、必要に応じて湿潤剤、保存剤などの添加剤をさらに含むことができる。さらに、コーティングのために溶媒を添加することによって溶液の形態で使用することができ、このとき組成物の体積は溶液全体の体積に基づくことができる。前記溶媒としては、水または有機溶媒を用いることができ、高分子化合物の種類に応じて適切なものを用いることができる。例えば、ポリビニルアルコールを用いる場合、水を溶媒とし、コーティング溶液を製造することができる。
【0050】
したがって、本発明はまた、前記コーティング組成物を用いて形成された抗菌フィルムを提供することができる。
【0051】
本発明において、前記抗菌フィルムは、前記コーティング組成物、すなわちバクテリオファージ、高分子化合物、および可塑剤を含むコーティング組成物を用いて製造することができる。このとき、コーティング組成物は、コーティング性のために溶媒を含む溶液の形態で使用することができる。
【0052】
本発明において、前記フィルムは、卵などの食品または食品容器のようなコーティング対象物に直接コーティングされた形態のフィルムおよび単独フィルム形態をすべて含むという意味で解釈することができる。
【0053】
具体的には、前記抗菌フィルムは、高分子化合物と可塑剤を含む溶液にバクテリオファージを添加した後、対象物または基板に溶液をコーティングした後に乾燥することにより形成することができる。このとき、前記溶液は必要に応じて希釈して使用することができる。
【0054】
本発明において、抗菌フィルムが食品または食品容器に直接形成される場合、対象体に溶液を噴射するか、または対象体を溶液に浸漬する方法で形成することができる。例えば、対象体に前記コーティング組成物をコーティングした後、20~30℃の温度で10~180分間乾燥することによってフィルムを形成することができる。
【0055】
あるいは、抗菌フィルムが単独フィルムの形態で製造される場合、キャスティング(casting)などの方法で溶液を基板にコーティングする方法を用いて製造することができる。例えば、30~70RH%の相対湿度条件下で基板に前記コーティング組成物をコーティングした後、20~30℃の温度で10~20時間乾燥することによってフィルムを形成することができる。
【0056】
本発明を用いると、バクテリオファージがフィルム形態でも安定して生存し、優れた抗菌活性を示すことができる。したがって、本発明を食品包装材に適用する場合、病原体から食品が汚染されることを効果的に防止し、食品の安全性および保存性を向上させることができる。
【実施例】
【0057】
以下の実施例を通じて本発明をより詳しく説明する。ただし、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するために一部の実験方法と構成を示したものであり、本発明の範囲がこのような実施例に限定されるものではない。
【0058】
実験方法
実験において、宿主菌としてはサルモネラ・エンテリティディス(Salmonella Enteritidis)ATCC 13076を用い、培養培地としてはLB broth(MB-L4488;MB cell、Seoul、Korea)、0.5%(w/v)LB molten agar 及び 1.5%(w/v)LB agar 培地(MB-L4487、MB cell)を用いた。
【0059】
ファージ力価(phage titer)は、0.5%(w/v)LB molten agar 及び 1.5%(w/v)LB agar をそれぞれ上層および下層とする二重層寒天プレート(double-layer agar plate)を用いて測定した。
【0060】
製造例1:バクテリオファージの精製、増殖、及びストック製造
生活下水試料からバクテリオファージ(以下、「ファージ」という)を得て、二重層寒天検査法(double-layer agar assay)およびプラークアッセイ法(plaque assay)を通じて精製した。1つのプラークをリン酸緩衝食塩水(PBS)に再浮遊(resuspend)させた後、15,000×gで1分間4℃で遠心分離し、気孔のサイズが0.22μmの滅菌WhatmanTMPVDFメンブレンフィルターで濾過した。前記濾過工程を5回繰り返した。
【0061】
分離されたファージを増殖させるために、S. Enteritidis ATCC 13076を宿主としてファージをLB brothで培養した。具体的には、S. Enteritidis ATCC 13076を1% 継代接種(subinoculation)した後、37℃で1.5時間培養した。その後、37℃で4時間、好気性条件でファージを培養した。サンプルを15,000×gで10分間4℃で遠心分離し、気孔のサイズが0.45μmの滅菌WhatmanTMPVDFメンブレンフィルターで上清を濾過した。前記段階を3つの体積条件(培養菌3,50及び300mL)に対して連続的に実施して十分な量のファージ溶解物(lysate)を収得した。
【0062】
さらに高い力価のファージストック(stock)を収得するために、精製されたファージ溶解物を30,000×gで30分間4℃で遠心分離してペレット(pellet)を得た。これに対して、二重層寒天検査法を用いてファージ濃度(PFU/mL)を測定した。精製されたファージを増幅して、1010PFU/ml以上の力価を有する溶解物を収得し、使用時まで4℃で保存し、長期間保存するときは、-80℃で35%グリセロールに保存した。
【0063】
前記方法により分離精製されたファージを「ファージPBSE191」と命名し、韓国生命工学研究院生物資源センター(Korean Collection for Type Culture)に寄託し、2022年3月31日付で受託番号KCTC14929BPが付与された。
【0064】
実験例1:ファージの透過電子顕微鏡(TEM)分析
ファージPBSE191について、透過電子顕微鏡(TEM)を用いてモルフォロジーを分析した。
ホルムバール/カーボン(formvar/carbon)コーティングされた200メッシュの銅の格子(copper grid)を放電加工装置(electrical discharge machine、US/91000、USA)で前処理した。前記銅の格子にファージをロードした後、2%(v/v)の酢酸ウラニル(uranyl acetate、pH4.5)でネガティブ染色した。前記サンプルをエネルギー濾過型Libra 120透過電子顕微鏡(energy-filtering Libra 120 transmission electron microscope、Carl Zeiss、Germany)で分析し、その結果を
図1に示した。
【0065】
図1のTEMイメージを参照すると、ファージPBSE191は、二十面体の頭部と収縮性のない柔軟性尾部を有することを確認することができる。具体的には、前記ファージの頭部は、粒径が58.84±1.78nm(n=13)の二十面体形状であり、尾部の長さは115.06±5.64nm(n=13)であり、幅は10.13±0.91nm(n=13)だった。
【0066】
ファージPBSE191のファージは、構造の側面からファージLPST94、BSPM4、およびCGG3-1と類似していたが、前記ファージに比べて尾部が短かった。前記の結果から、ファージPBSE191がカウドウイルス目(Caudovirales)シホウイルス科(Siphoviridae)に属することが分かった。
【0067】
実験例2:ファージを用いた細菌試験分析(bacterial challenge assay)
S. Enteritidis ATCC13076およびファージPBSE191を用いて細菌試験分析を行った。
継代培養した S. Enteritidis を37℃で1.5時間好気性条件下で培養した。その後、培養物にそれぞれ多重感染度(multiplicity of infection、MOI)0.01、0.1、1、10、及び100の条件でファージ感染を行った。37℃で9時間、好気性条件下で宿主を成長させながら、 UV-可視分光光度計(UV-visible spectrophotometer(SP-UV 300, Spectrum Instruments, Perkin Elmer, UK))を用いて600nmでの吸光度を測定して溶解活性を確認し、前記実験を3回繰り返した。
【0068】
図2は、前記ファージの存在下でサルモネラ菌の成長抑制活性を測定した結果を示す図である。
図2の成長抑制活性から、前記ファージがS. Enteritidisの成長を急激に阻害できることを確認した。陰性対照群と比較すると、ファージがMOI値100、10、1、0.1、および0.01の条件下で1時間以内に宿主菌細胞の成長を急激に阻害する結果が示された。さらに、全ての実験群においてこうした成長阻害が6時間持続し、高密度でファージがより高い溶解活性を示し、宿主菌を急激に溶解させ、持続的な成長を阻害する結果を示した。
【0069】
上記の結果から、ファージPBSE191が優れており、長期間持続的な細菌溶解性を示すことが確認できた。
【0070】
実験例3:ファージの宿主菌感染範囲確認(host range determination)
表1の菌に対して点滴検査法(spot test)を行い、ファージPBSE191の宿主菌感染範囲を確認した。
実験菌のうち、Pectobacterium caratovorum およびStaphylococcus aureusを除いた実験菌のローン(lawn)はLB培地を用いて調製し、P. caratovorum および S. aureus のローン(lawn)はTSA培地を用いて製造した。
【0071】
ファージ溶解物(2×108 PFU)を各菌株のローン(lawn)に点滴した後、37℃で24時間培養した。ただし、P. caratovorum KACC 21701の場合、30℃で24時間培養した。サルモネラ菌株およびいくつかのグラム-陽性およびグラム-陰性の菌株に対してファージのプラーク形成効率を測定し、その結果を以下の表1に示す。平板効率(efficiency of plating、EOP)は以下の式に従って計算し、EOP基準で+++は1超過、++は0.001~1、+は0.001未満を表し、-はファージに対する感受性がないことを意味する。
【0072】
【0073】
【0074】
表1の結果を参照すると、ファージPBSE191はサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)を特異的に感染させ、他の菌株に対しては感染を起こさなかった。
【0075】
具体的には、前記ファージは、S. Enteritidis、S. Typhimurium、S. Paratyphi、S. Salamae、S. Diarizonae および S. Dublinの6つの血清型(serotype)を含む広範囲のサルモネラに対して活性があることが分かった。
【0076】
サルモネラだけでなくShigellaまたはE. coliにも活性を示す既存のファージSS3eおよびBSP101と比較すると、ファージPBSE191はサルモネラを特異的に感染させる特徴を有し、また様々な種類のサルモネラを死滅させることができる特徴を示す。したがって、ファージPBSE191は、サルモネラの制御が必要な食品産業に有用に使用されると期待することができる。
【0077】
実験例4:ファージの吸着能分析(phage adsorption analysis)
ファージが宿主菌表面に吸着されるのにかかる時間を用いて、ファージPBSE191の吸着能を評価した。
菌株 S. Enteritidis ATCC 13076のovernight cultureをLB brothに1:100に希釈し、37℃で3時間好気性条件下で培養した。培養した菌(4.7×108 CFU)を15,000×gで1分間遠心分離した後、ペレットを直ちに新鮮なLB broth 10mLに再浮遊させた。
【0078】
MOI 0.001の条件でセルにファージを感染させた後、標本としてサスペンションを1mLずつ取り、それぞれ37℃で静置して培養した。それぞれ0、5、10、15、20、25、および30分後にサンプルを採取し、各サンプルを直ちに15,000×gで1分間遠心分離して濾過した後、二重層寒天検査法を用いてplateし、ファージ力価を決定した。前記実験を3回繰り返し、その結果を
図3に示した。ファージ吸着能は以下の式に従って計算することができる。
【0079】
【0080】
図3を参照すると、10分および25分後にそれぞれ初期ファージ個体群の92.03%および99.85%が宿主菌表面に吸着した結果が示され、これによりファージの速い吸着能を確認することができた。
【0081】
実験例5:ファージの1段階成長分析(one-step growth analysis)
ファージPBSE191に対して潜伏期(latent period)および放出量(burst size)を測定するために、1段階成長分析(one-step growth analysis)を行った。
ファージおよび懸濁液を37℃で25分間、静置状態で培養し、ファージが菌表面に吸着されるようにした。培養後、懸濁液を15,000×gで1分間遠心分離し、上清でプラークアッセイ法を行い、吸着していないファージの力価を測定した。
【0082】
ファージ感染された宿主菌を含有するペレットを10mLのLB brothに直ちに再浮遊させた後、37℃で培養し、100μlのサンプルを10分毎に2時間収集した。収集したサンプルをLB agarにplateし、二重層寒天技術(double-layer agar technique)を通じたファージの算出に使用した。
【0083】
潜伏期(min)はファージ力価の相当の増加および感染した菌が溶解されるのにかかる時間で確認し、放出量は下記の式を用いて計算することができる。
【0084】
【0085】
図4は、前記ファージの1段階成長曲線を示す図であり、これを参照すると、S. Enteritidisを感染させたときの潜伏期間が20分で短く、第1および第2の放出時点がそれぞれ30分および50分であることが確認できた。また、初期放出量は265 PFU/感染細胞(infected cell)であり、第2放出量は127 PFU/感染細胞であった。従来報告されたサルモネラファージの場合、平均放出量が112±48 PFU/感染細胞(n=15)であったことを考慮すると、前記結果からファージが優れた放出量を有することが確認できる。
【0086】
実験例6:ファージの熱安定性およびpH安定性の測定
-18から80℃に及ぶ広い温度範囲および1~9のpH範囲で、ファージPBSE191の生存率を測定して安定性を評価した。
熱安定性測定のために、ファージ溶解物(10
8 PFU)を-18~80℃範囲の互いに異なる温度で30分間培養した。pH安定性測定のために、ファージ溶解物(2×10
8 PFU)を様々なpHの緩衝溶液(pH 2~9)で30分間培養した。残ったファージをプレーティングで算出し、前記実験を3回繰り返した後、実験結果をそれぞれ
図5及び
図6に示した。ファージの安定性は、下記の式に従って計算することができる。
【0087】
【0088】
図5の熱安定性試験結果を参照すると、-18~60℃で30分培養した結果、ファージの生存率が大きく影響されないことが確認された。一方、70℃及び80℃の温度では影響が出たが、30分処理後もファージの5log PFU/mL以上が残っていることを確認した。これらの結果は、LSE7621、LPST10、およびvB_SalP_TR2ファージと同様のレベルであり、80℃ではSE-P3、SE-P16、SE-P37、およびSE-P47ファージより生存率が優れている。
【0089】
図6のpH安定性試験結果によれば、ファージはpH範囲5~7で30分間培養した後も安定的に生存した。pH範囲4~9でファージ減少量が1log PFU/mL未満で最適な安定性が観察され、pH1ではファージが不活性化したが、pH3では30分処理後も3.5 log PFU/mL以上が生存した。
【0090】
これらの結果はファージSS3eに匹敵するものであり、ファージPBSE191は広範囲の温度及びpH条件で安定性を示し、これから食品及び食品製造業に有用に使用できることが確認できた。
【0091】
実験例7:ファージの宿主菌受容体分析
宿主菌としてS. Typhimurium LT2Cを用いて、ファージPBSE191の受容体分析を行った。
【0092】
△rfbP/LT2Cノックアウト変異体(knock-out mutant)とその補足ストレイン(complemented strain)(△rfbP complemented with pUHE::rfbP/LT2C plasmid)はソウル大学研究室から提供を受けて使用した。
野生型細菌およびノックアウト変異体をLB brothで一晩培養(overnight cultivation)した後、カルベニシリン(carbenicillin)を含有するLB brothで補足ストレインを37℃、好気性条件下で培養した。ファージの受容体を確認するために野生型、△rfbP/LT2C変異体および△rfbP補足ストレインで点滴検査(spotting assay)を行い、その結果を
図7に示した。
【0093】
図7を参照すると、S. Typhimurium △rfbP/LT2C変異体がファージに抵抗性を示し、菌株をrfbPで補足(complement)した結果、ファージに対する感受性が回復した結果が示された。
【0094】
これらの結果は、ファージPBSE191が宿主菌の受容体として、Salmonella脂質多糖類(LPS)のO-antigenを認識することを意味する。
【0095】
実験例8:ファージのDNA分析
ファージDNA精製
標準フェノール-クロロホルム抽出法(standard phenol-chloroform extraction method)を用いて、ファージPBSE191のDNAを精製した。
精製前、ファージ溶解物500μlを室温で、DNase I 1μl/mL および RNase I 1μl/mLで30分間処理して、細菌性DNAおよびRNA汚染物質を除去した。次にファージ溶解物を0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate, SDS)、0.5M EDTA(pH8.0)、50μl/mL proteinase Kを含有する溶解バッファー(lysis buffer)で処理し、混合物を65℃で15分間培養した。
【0096】
その後、フェノールを加えてファージDNAを抽出し、室温で混合物を5,000rpmで5分間遠心分離した。次に、水層(aqueous layer)をフェノール-クロロホルム-イソアミルアルコール(25:24:1)溶液と慎重に混合した後、5,000rpmで5分間遠心分離して多糖類やタンパク質成分のような不要な成分を除去した。その後、クロロホルムで同じ段階を繰り返した。
【0097】
3M酢酸ナトリウム(NaOAc、pH5.2)で水層を収集した後、エタノール沈殿を行った。最後に、精製されたファージ遺伝DNAをTE bufferに保存し、実験に使用した。
【0098】
遺伝学的配列分析および生物学的情報分析
RAST(https://rast.nmpdr.org/)、GeneMarkS(http://exon.gatech.edu/GeneMark/genemarks.cgi)、およびFgenesV(trained Pattern Markov chain-based viral gene prediction software)プログラムを利用して、ファージゲノムのオープンリーディングフレーム(open reading frame、ORF)を究明した。未知のORFは、BLASTPを用いた非重複タンパク質NCBIデータベース(non-overlapping protein NCBI database)(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/) および既存の他のバクテリオファージの同種ORFをORF推論に参照した。
【0099】
前記分析結果に基づいて、Genescene software(DNAstar, Madison, WI)を用いてゲノムマップ(genome map)を作成し、
図8に示した。ファージのゲノム配列は、GenBankにアクセス番号OM291373と登録した(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/OM291373)。分析の結果、ファージPBSE191のゲノムは41,332bpで構成され、そのうちGC含有量は49.84%であり、43個のORFを暗号化(encode)すると推論された。
【0100】
ORF確認の結果、前記ファージには cro. cI. integraseのような溶原性モジュール遺伝子(lysogeny module genes)や毒性遺伝子(toxic genes)がないことが確認され、これによりファージの安全性を確認することができた。
【0101】
前記ファージの系統学的確認のために、Molecular Evolutionary Genetics Analysis 11(MEGA 11)ソフトウェアを用いてブートストラップ(bootstrap)を2,000回繰り返した近隣結合法(neighbor-joining method)でメジャーキャプシドタンパク質(major capsid protein、ORF29)に基づいた系統学的分析を行い、系統樹(phylogenetic tree)を
図9に示した。
図9において、系統樹上の密接な関連があることは*で表示した。
【0102】
系統学的分析の結果、ファージPBSE191のメジャーキャプシドタンパク質は、L13、SS3e、およびTS3ファージのメジャーキャプシドタンパク質と類似しており、これにより、サルモネラファージ科に属することを確認した。
【0103】
製造例2:ファージを用いたPVAフィルムの製造
ファージPBSE191を用いて、ファージを含有するポリビニルアルコール(PVA)フィルムを製造した。PVAとしては、シグマアルドリッチから購入したものを用い、前記PVAの重量平均分子量は13,000~23,000であり、けん化度は87~89%であった。
【0104】
蒸留水を用いて11g/100mLのPVA溶液を調製した後、前記11%PVA溶液に可塑剤(plasticizer)及び湿潤剤(moisturizer)として使用されるソルビトール(D-sorbitol 97%)、グリセロール(99%)、又はトレハロース(D-(+)-trehalose dihydrate)をPVA重量に対して、0%、10%、および20%(w/w)の濃度で添加した後、60分間撹拌し、80℃に加熱した。
【0105】
完全に溶解したら、溶液を121℃で15分間オートクレーブ(autoclave)して滅菌した。オートクレーブした溶液を室温に冷却し、PBS系ファージ溶解物(1010 PFU)を調製した溶液に体積基準9:1の割合で添加した後、均一に混合して脱気(degas)した。対照群のフィルム溶液は、11%オートクレーブPVA溶液を滅菌されたPBS bufferと9:1の体積比で混合して調製した。
【0106】
各溶液1mLをペトリ皿に注ぎ、ハイグロ・サーモスタット(hygro-thermostat)で25℃、50RH%の条件下で15時間乾燥した。乾燥したフィルムをキャスティング表面から剥離し、実験に使用した。
【0107】
図10は、PVA10%及びソルビトール2%(w/w)を含むフィルムに対して、ファージ未含有フィルム(左側)及びファージ含有フィルム(右側)の写真を示した図である。図面を参照すると、ファージを含むか否かによって外観に大きな差がないことを確認することができる。
【0108】
実験例9:フィルムにおけるファージの生存能分析
可塑剤としてグリセロール(G)、ソルビトール(S)、またはトレハロース(T)を含むPVAフィルムにおけるファージの生存率を確認するために、製造例2の方法に従って、前記物質をPVA重量に対して10または20重量%を添加してPVAフィルムを製造した。各フィルム溶液の初期ファージ力価(initial phage titer)は、4×109 PFU/mLに設定した。
【0109】
製造されたフィルムを10mLのPBSバッファーに20℃、200rpmで30分間溶解させ、二重層プラークアッセイ法を用いてファージの生存率を評価した。生存したファージを計数し、各可塑剤を含むファージ含有PVAフィルムにおけるファージ生存能測定結果を
図11に示した。
【0110】
図11の結果によれば、可塑剤のない10%(w/v)PVAフィルムでは、2 log PFU以上のファージが不活性化されたのに対し、ソルビトール、グリセロール、またはトレハロースを含むフィルムでは、ファージの生存能が向上したことを確認することができた。特に、ソルビトールは他の湿潤剤に比べァージ保護の観点から優れた活性を示した。
【0111】
具体的には、20%のソルビトールでは、ファージ粒子がほとんど生き残り、不活性化されたファージは0.5 log PFU未満であった。一方、10%のソルビトール、20%のグリセロール、10%のグリセロール、20%のトレハロース、および10%のトレハロースでは、それぞれ1.1、1.1、1.3、1.1、および1.2 log PFUのファージが不活性化された。これより、10%(w/v)PVAフィルムに20%のソルビトールを用いたフィルム(PVAS20)におけるファージ生存率が最も優れたことを確認した。
【0112】
実験例10:PVAフィルムにおけるファージの安定性確認
ファージ含有PVAS20フィルムに対して、30日間ファージの安定性を確認した。
ファージ含有PVAS20フィルムを10mLのPBSバッファーに20℃、200rpmで30分間溶解し、二重層プラークアッセイ法を用いてファージの生存率を評価した。前記の方法で、30日間1、3、10、20、および30日ごとにフィルムにおけるファージの安定性を試験した。プレーティング(plating)で生存したファージを計数し、実験を3回繰り返した。
【0113】
図12は、PVAフィルムにおけるファージの安定性測定結果を示す図である。
図12を参照すると、乾燥条件下で30日間ファージが優れた生存率を示す驚くべき結果を確認することができ、これによりファージがPVA高分子マトリックスで成功的に保護および保存されることが分かった。
【0114】
実験例11:ファージを含有するPVAフィルムの抗菌活性確認
ファージ含有PVAS20フィルムに対して、サルモネラ菌に対する抗菌活性を試験した。
抗菌活性を測定するために、LB broth でのS. Enteritidis ATCC 13076セル懸濁液(約10
5 CFU/mL、early-exponential phase)10mLを調製した。その後、前記懸濁液に37℃で4時間200rpmでシェーキングしながらフィルムを浸漬した。フィルムにおけるファージの量は約10
8PFU/フィルムとし、対照群としてはファージのないフィルムを用いた。0.5、1、2、及び4時間経過した時点で抗菌活性を測定し、その結果を
図13に示した。
【0115】
図13によれば、フィルムでのファージ粒子が4時間にわたってS. Enteritidisに対する宿主溶解活性を維持する結果が示された。これにより、ファージ含有PVAS20フィルムで、ファージが持続的に抗菌活性を示すことができることが確認できた。
【0116】
実験例12:ファージ含有PVAコーティングの抗菌活性測定
ファージ含有コーティングの抗菌活性を評価するために、卵割器(egg opener)(Guangzhou Le Tian Pen Co.、Ltd.、China)を用いて2.5cm粒径の卵殻サンプル(0.46±0.05g、n=125)を準備し、121℃で15分間オートクレーブして滅菌させた。次に、54個のきれいな卵殻を無作為に3つのグループ(対照群、ファージ未含有PVAS20コーティンググループ、およびファージ含有PVAS20コーティンググループ)に分けた。
【0117】
継代培養したS. Enteritidisを好気性条件下で37℃で1.5時間(early exponential phase)培養した。培養物を15,000×gで1分間遠心分離し、LB broth 100μlに細菌ペレットを再浮遊した。2.4×108 CFU/mLのバクテリアセル10μlを卵殻表面に点接種(spot inoculation)し、室温で30分間空気中で乾燥させた。
【0118】
ファージコーティンググループの場合、接種された卵殻をファージ含有PVAS20コーティング溶液(4.0×109 PFU/mL)に3秒間浸した後、室温で40分間乾燥させた。対照群の場合、卵殻をコーティングしないか、或いはファージを含有しないPVAS20コーティング溶液に浸し、40分間乾燥させた。各グループ当たり6個の卵殻サンプルを選択し、5℃、相対湿度50%条件で24時間保存した後、サルモネラに対する抗菌活性を試験した。
【0119】
抗菌活性試験のために、Pulsifier II(Microgen Bioproducts Ltd.、UK)を用いてサンプルを10mlの滅菌PBSバッファーで30秒間均質化した。サンプルは全て10-2に希釈し、XLD agar(MB-X1060;MB cell、Seoul、Korea)にプレートした後、37℃で24時間培養した。プレーティングで黒色コロニーの数を数え、コーティングされた卵殻に残ったファージの力価を二重層寒天検査法で測定した。
【0120】
図14は、コーティング前、コーティング直後、コーティング24時間経過後のS. Enteritidis セル測定結果を示す図である。
図14を参照すると、卵殻にファージを含有するPVAS20コーティングを形成した直後、室温で相当量のサルモネラ菌(約 1 log CFU)が死滅することが確認できる。ファージ含有PVAS20コーティングの場合、24時間後に初期接種量に比べて約2 log CFUのセル減少を誘導した反面、対照群の場合、約1 log CFU程度に減少したことを確認した。
【0121】
上記の結果から、ファージ含有PVAS20コーティングの場合、コーティング後の乾燥段階(40分)の間にファージが菌と接触して死滅を誘導できることを確認した。また、PVAS20コーティングでファージが長期間生存して持続的に効果を示すことにより、菌数の減少が24時間以降にも持続することを確認した。
【0122】
これにより、ファージを含有するPVAコーティングが卵殻に適用された時、優れた安定性及び抗菌活性を示すことが確認できた。
【0123】
以上、本発明の一部の実施形態について説明したが、本発明は、上述したような実施形態に対してのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で修正および変形して実施することができ、そのような修正および変形に加えられた形態も本発明の技術的思想に属するものと理解されなければならない。
【0124】
【国際調査報告】