(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-15
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池材料からの金属抽出
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240408BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240408BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240408BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20240408BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240408BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20240408BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20240408BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B23/00 102
C22B26/12
C22B3/26
C22B3/44 101Z
C22B3/02
C22B3/08
H01M10/54
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563801
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 FI2021050270
(87)【国際公開番号】W WO2022219223
(87)【国際公開日】2022-10-20
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523389279
【氏名又は名称】メッツォ フィンランド オーワイ
【氏名又は名称原語表記】Metso Finland Oy
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】トゥオマス ヴァン デル メール
(72)【発明者】
【氏名】マリカ ティーホネン
(72)【発明者】
【氏名】アヌーカ マキネン
(72)【発明者】
【氏名】ニコ イソマキ
(72)【発明者】
【氏名】ロシャン ブダトーキ
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001DB03
4K001DB22
4K001DB26
5H031EE01
5H031EE02
5H031EE03
5H031HH06
5H031RR02
(57)【要約】
本発明は、リチウムイオン電池の黒色集合体から金属を抽出する方法に関し、該黒色集合体は電池の負極(anode)材料および正極(cathode)材料を含有し、正極材料はリチウムおよびニッケルを含む。さらに、本発明は、この方法に使用するのに適した設備に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の黒色集合体から金属を抽出する方法であって、黒色集合体は電池の負極材料および正極材料を含有し、正極材料はリチウムおよびニッケルを含む方法であって、前記方法は以下のステップ、すなわち、
a)1つ以上の前処理ステップであり、非金属材料を含有する画分が黒色集合体から分離され、負極および正極材料を含有する前処理された黒色集合体が回収される、該前処理ステップと、
b)1つ以上の浸出ステップであり、リサイクルされたリチウム沈殿物と組み合わされた、前処理した黒色集合体から成る、金属を含有する浸出供給物に対して実施され、該浸出ステップは、硫酸を含む溶液中で実施される酸浸出ステップを含み、それによって浸出供給物の金属が溶解され、溶解された金属を含有する浸出溶液が回収される、該浸出ステップと、及び
c)金属材料の初期画分が浸出溶液から分離され、少なくともニッケルおよびリチウムを含有する主要な画分が回収され、それにより、リチウムを含有する画分はニッケル画分の回収が行われた後に回収される、金属分離ステップであり、前記リチウム画分の回収は以下のステップ、すなわち、
iii)リチウムを炭酸リチウムに反応させるステップと、次いで、
iv)固体を流体から分離するステップであり、
- リチウムを含有する固体はそのまま回収されるか、あるいは反応させてさらなるリチウム製品とする、それに対して、
- 廃液をリン酸塩試薬と反応させ、そこに残存するリチウムをリン酸リチウム沈殿物に沈殿させる、及び
- 得られたリチウム沈殿物の少なくとも一部を酸浸出ステップにリサイクルする、
該固体を流体から分離するステップを含むものである、
該金属分離ステップと、
を備える、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で、黒色集合体から金属を抽出するために使用する該用法において、正極材料は、リチウムおよびニッケル、ならびに好ましくはまた、コバルト、マンガン、およびアルミニウムのうち1つ以上を、酸化物の形態で含む、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前処理ステップが、洗浄または加熱の1つ以上のステップ、またはその両方を含み、該加熱は、好ましくは、熱分解または蒸発を提供するために実施される、方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法において、前処理ステップは、黒色集合体から有機化合物などの非金属成分を分離させるために実施され、その結果、有機化合物を3重量%未満、好ましくは1.5重量%未満含む前処理された黒色集合体が得られる、方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法において、前処理ステップは、以下のステップ、すなわち、
- 洗浄溶液で黒色集合体から非金属材料の画分を分離するために、黒色集合体を水溶液または有機溶媒、好ましくは水溶液で洗浄するステップと、
- 分離された非金属材料の画分を含有する使用済みの洗浄溶液をリン酸塩試薬と反応させて、その中のリチウムをリン酸リチウムに沈殿させるステップと、及び
- リン酸リチウム沈殿物を残りの洗浄溶液から分離し、次の浸出ステップに搬送される前処理された黒色集合体と組み合わせるステップと、
を含む、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法において、酸浸出は、再生リチウム沈殿物と混合された前処理された黒色集合体を、酸および随意的な抽出剤を含む溶液に分散させることによって、単一ステップで実施される、方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法において、金属材料の主要画分を回収するステップは、浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するステップに先行する、方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法において、前記初期画分は、リン酸イオン、ならびに鉄イオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオンおよびフッ化物イオンのうちの少なくとも1つを含み、好ましくは鉄イオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオンおよびフッ化物イオンのうちの2つ以上、より好ましくは3つまたは4つ、最も好ましくはすべてを含むように実施される、方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法において、浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するためのステップの少なくとも1つは溶媒抽出として実施され、鉄およびアルミニウムなどの不純物を浸出溶液から除去することを意図し、固体不純物を除去し、溶媒抽出の選択性を高めるために随意的に固体分離が先行し、該固体分離は、随意的にそのような不純物の沈殿が先行する、方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法において、浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するためのステップの少なくとも1つは、浸出溶液から鉄およびアルミニウムなどの不純物、ならびにリン酸塩を除去することを意図した沈殿であり、好ましくは溶媒抽出が後続する、方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法において、金属分離ステップは浸出溶液から銅を回収するための1つのステップを含み、好ましくは、金属材料の他の分離または回収の前に実施される、方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法において、金属材料の主要画分の回収は、ニッケルおよびリチウムに加えて、マンガンおよびコバルトの少なくとも一方を回収するためのステップを含み、好ましくはマンガンおよびコバルトの両方を回収するためのステップを含む、方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法において、マンガン、コバルトまたはニッケルを回収するためのどのステップも、リチウムを回収する前に実施される、方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法において、リチウムを炭酸リチウム生成物に反応させた後に得られるリチウム含有固体を、さらに水酸化リチウムに反応させ、次に該リチウム含有個体は結晶化させて水酸化リチウム結晶を得ることができる、方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法において、ニッケルはコバルト同時、または別々に、好ましくは別々に回収する、方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法において、ニッケルは金属材料の初期画分が浸出溶液から分離された後に回収され、これらの初期画分は、浸出ステップにリサイクルされたリチウム沈殿物のリン酸塩も含有する、方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の方法において、ニッケルは溶媒抽出によって回収され、該溶媒抽出によって硫酸ニッケル溶液(NiSO
4)が生成され、好ましくはカルボン酸官能基を有する抽出化学物質を使用し、適切な抽出化学物質の1つの市販例はVersaticTM 10であり、ネオデカン酸である、方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法において、ニッケルは硫酸ニッケル溶液を生成する溶媒抽出によって回収され、該溶液はそのまま利用される、または、例えばイオン交換および随意的な結晶化によってさらに精製される、または水酸化物もしくは炭酸塩に沈殿される、方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法において、金属分離ステップは、浸出溶液からコバルトを回収するステップを含み、コバルトの回収は、ニッケルの回収と同時に、または直前に、好ましくはニッケルの回収の直前に行われる、方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の方法において、金属分離ステップは浸出溶液からコバルトを回収するステップを含み、該コバルト回収は、硫酸コバルト溶液(CoSO
4)を生成する溶媒抽出によって行われ、ホスフィン酸官能基のようなカルボン酸官能基を有する抽出化学物質を使用することが好ましく、好適な抽出化学物質の一例は、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(2,4,4―トリメチルペンチル)ホスフィネートとしても知られる、Cyanex
TM272である、方法
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法において、金属分離ステップは浸出溶液からコバルトを回収するステップを含み、該コバルトの回収は硫酸コバルト溶液を生成する溶媒抽出によって行われ、該溶液は、そのまま利用される、またはイオン交換および随意的な結晶化などによってさらに精製される、または水酸化物もしくは炭酸塩に沈殿する、方法。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の方法において、金属分離ステップは浸出溶液からマンガンを回収するステップを含み、好ましくは、ニッケルまたはコバルトが回収される前に実施され、より好ましくは、コバルト、ニッケルまたはリチウムのいずれかが回収される前、マンガンの回収が、例えば、溶媒抽出または沈殿によって、もしくは沈殿に続く溶媒抽出によって実施される、方法。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか一項に記載の方法において、リン酸リチウムを沈殿させるために使用されるリン酸塩試薬は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の任意のリン酸塩から選択され、好ましくはリン酸ナトリウム(Na
3PO
4)である、方法。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載の方法において、リン酸塩沈殿は50~90℃、好ましくは70~90℃の温度で実施される、方法。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか一項に記載の方法において、リン酸塩沈殿はpH4以上、好ましくは7以上で実施される、方法。
【請求項26】
リチウムイオン電池の黒色集合体から金属を抽出するため、該黒色集合体は電池の負極材料および正極材料を含有し、正極材料はリチウムおよびニッケルを含む、前記黒色集合体から金属を抽出する設備であって、以下のユニット、すなわち、
- 黒色集合体から非金属成分を含有する画分を分離し、負極材料および正極材料を含有する前処理した黒色集合体を回収するための1つ以上の前処理ユニット(1)と、
- リサイクルされたリチウム沈殿物と組み合わされた、前処理された黒色塊の金属を溶解し、前記溶解した金属を含む浸出溶液を回収するための1つ以上の浸出ユニット(2)であって、少なくとも1つの浸出ユニット(2)は、硫酸および可能な抽出剤のための注入口(211)を有する酸浸出ユニット(21)の形態である、該浸出ユニット(2)と
- 浸出溶液から金属材料の初期画分を分離し、少なくともニッケルおよびリチウムを含有する主要画分を回収するための金属分離ユニット(3)であり、リチウム回収ユニット(36)がニッケル回収ユニット(35)の下流に位置し、リチウム回収ユニット(36)が以下のサブユニットを含むものである、該金属分離ユニット(3)であって、該サブユニットは、以下のユニット、すなわち、
・リチウムを固体炭酸リチウムに反応させるためのユニット(361)であり、そこから廃液を分離し、さらに次に搬送することができる、該ユニット(361)、
・廃液をリン酸塩試薬と反応させるための反応ユニット(362)であって、その結果、その中に残存するリチウムをリン酸リチウム沈殿物に沈殿させ、これを残りの廃液から分離して、さらに経由して運ぶことができる、該反応ユニット(362)、
・こうして得られたリチウム沈殿物の少なくとも一部を回収するために、酸浸出ユニット(2)へのリサイクルライン(363)、
を含むものである、
該金属分離ユニット(3)と、
を備える、設備。
【請求項27】
請求項26に記載の設備において、前処理ユニット(1)は、黒色集合体から有機化合物などの非金属成分を除去するための洗浄ユニット(11)もしくは加熱ユニット(12)、またはその両方を含み、加熱ユニット(12)は、好ましくは熱分解ユニット(121)または蒸発ユニット(122)から選択される、設備。
【請求項28】
請求項26または27に記載の設備において、前処理ユニット(1)は以下のユニット、すなわち、
- 黒色集合体から非金属材料の画分を洗浄溶液に分離するための洗浄ユニット(11)であって、代表的には、形成されたリチウム沈殿物を残りの溶液から分離するための分離サブユニットを備える、該洗浄ユニット(11)と、
- その中のリチウムをリン酸リチウムに沈殿させるために、非金属材料の分離された画分を含む使用済みの洗浄液をリン酸塩試薬と反応させるための反応ユニット(111)であって、典型的には、形成されたリチウム沈殿物を残りの溶液から分離するための分離サブユニットを備える、該反応ユニット(111)と、及び、
- 得られるリン酸リチウム沈殿物を浸出装置(2)に運び、前処理された黒色集合体と結合させるためのリサイクルライン(112)と、
を含む、設備。
【請求項29】
請求項26~28のいずれか一項に記載の設備において、浸出ユニット(2)、好ましくは少なくとも酸浸出ユニット(21)は、温度を調節するための手段(212)を含む、設備。
【請求項30】
請求項26~29のいずれか一項に記載の設備において、金属分離ユニット(3)は、少なくともニッケルを回収するためのユニット(35)およびリチウムイオンを回収するためのユニット(36)を含む、金属材料の主要画分を回収するための1つ以上のユニット(33、34、35、36)を含み、浸出溶液から初期金属画分を分離するための1つ以上の上流ユニット(31、32)が先行し、初期画分が、リン酸イオン、ならびに鉄、アルミニウム、カルシウムおよびフッ化物イオンのうちの少なくとも1つを含む、設備。
【請求項31】
請求項26~30のいずれか一項に記載の設備において、リチウム回収ユニット(36)は、リチウムを炭酸リチウムに反応させた後に得られるリチウム含有固体を水酸化リチウムに反応させるためのサブユニット(364)を含み、結晶化させて水酸化リチウム結晶を得ることができる、設備。
【請求項32】
請求項1~25のいずれか一項に記載の方法であり、請求項26~31のいずれか一項に記載の設備を用いて実施される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池、特に、前記電池材料から得られる黒色集合体から金属を抽出する方法に関する。このような黒色集合体は主に正極(cathode)金属および負極(anode)材料を含有し、この正極金属は、通常、リチウムおよびニッケルを含み、さらに場合によってあり得る正極金属はコバルト、マンガン、およびアルミニウムである。本発明はまた、この方法の使用に適した設備(arrangement)に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の使用は、ここ数年、さらには数十年にわたり着実に伸びてきており、新しい電気自動車の開発が進むにつれて、その重要性はさらに高まるものとみられる。リチウムイオン電池は正極に、電池内での再利用または他の目的のためにこれらの電池から回収された場合、有用なものとなり得るいくつかの遷移金属を含有する。特に、これらの材料のリチウムは回収および再利用されるべきである。
【0003】
リチウムイオン電池からの金属の湿式冶金的分離は黒色集合体の回収を介して進行し、該黒色集合体は正極金属および負極材料を含むが、配線およびプラスチックまたはスチール部品のような他の粗い固体電池部品はすでに除去されている。
【0004】
黒色集合体の形成後の金属回収における次のステップは、典型的には、例えば機械的、熱的、または化学的な前処理ステップを使用して、黒色集合体の他の成分から正極金属を分離し、正極金属の可溶化のための酸浸出が後続し、またそれらを回収のために準備することである。
【0005】
全体的な湿式冶金プロセスの各段階は、金属損失のリスクを引き起こすが、この損失は当然低減されるべきである。本発明者らは、リチウム損失を低減する新しい方法を発見した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの具体的な実施形態は従属請求項に定義されている。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、リチウムイオン電池材料から得られる黒色集合体から金属を抽出する方法が提供され、黒色集合体は、電池の負極材料および正極材料を含有する。特に、抽出される金属には、リチウムおよびニッケル、ならびに場合によってはコバルト、マンガン、およびアルミニウムなどの他の遷移金属が含まれる。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、リチウムの回収率を高めることを目的とした方法が提供される。
【0009】
本発明の第3の態様によれば、リチウム含有画分を浸出ステップに再利用するための1つ以上のステップを含む方法が提供され、増加したリチウム回収率が提供される。
【0010】
本発明のさらなる態様によれば、本発明の方法のステップを実施する際に使用するのに適した設備が提供される。
【0011】
本発明の方法は以下のステップ、すなわち、
- 1つ以上の浸出ステップと、
- 所望の遷移金属、典型的には少なくともリチウムイオンおよびニッケルイオンを含む画分、を回収するために必要な金属分離ステップと、及び、
- リチウム含有画分を浸出ステップに再利用するための1つ以上のステップと、
を備える。
【0012】
同様に、本発明の設備は、
- 1つ以上の浸出ユニットであり、そこから溶解した金属イオンを含有する浸出溶液が回収される、該浸出ユニットと、
- 金属分離ユニットであり、少なくともリチウムおよびニッケルイオンを含む画分を回収するための、該金属分離ユニットと、及び、
- 1つ以上のさらなるリチウム含有画分を浸出ユニットに導くための1つ以上のリサイクルラインと、
を備える。
【0013】
従って、本発明は、主要なリチウム画分に混合した少量のリチウムを含む画分の回収に関するものであり、こうして、金属分離ステップにおけるリチウム生成物の収率または回収率を高める。
【0014】
こうして、本発明はいくつかの利点をもたらす。当然ながら、リチウム収率の増加が達成される。一方、本発明のリサイクルの選択肢もまた、廃液中のリチウムの量を減らすため、廃棄物処理の必要条件を簡素化する。リチウムは廃棄物処理において問題を引き起こす可能性があり、本方法は、廃液中のリチウムの量を大幅に減少させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2A】本発明の実施形態による設備のユニットを示す図。
【
図2B】本発明の実施形態による設備のユニットを示す図。
【
図3】本発明の実施形態による設備のユニットを示す図。
【
図4】本発明の実施形態による設備のユニットを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[定義]
本明細書において、「黒色集合体(“black mass”)」という用語は、電池のマクロ成分を機械的に分離した後に得られる正極および負極材料の混合物を表すことを意図し、黒色集合体は通常また、黒色集合体の前処理方法に応じて、電池の電解質に由来する化合物などの有機化合物を含む。
【0017】
「有機化合物(“Organic compounds”)」は、本明細書では分子を包含することを意図し、1つ以上の炭素原子が1つ以上の水素、酸素または窒素原子と共有結合的に結合している。したがって、例えばグラファイトまたはその他の純炭素の同素体は、この化合物群から除外される。定義を満たしているにもかかわらず、この化合物のクラスから除外されると一般的に考えられている他の化合物には、化合物の唯一の炭素がこのグループに基づく場合、炭酸塩およびシアン化物、ならびに二酸化炭素が挙げられる。
【0018】
「負極(“anode”)」は通常、例えばグラファイトまたはシリコンで形成され、これらは本発明の浸出では可溶化されないが、浸出前の黒色集合体には存在する。
【0019】
「正極材料(“cathode material”)」または「正極金属(“cathode metals”)」は同様に、リチウム、ニッケル、コバルト、およびマンガン(Li、Ni、Co、Mn)などの金属イオンを包含し、典型的にはそれらの酸化物の形態である。黒色集合体中のこれらの金属の含有量は、好ましくはすべて1~35重量%の範囲内である。黒色集合体中に存在しうるが、一般的にはより少量の正極成分の他の例としては、一般的には少量の、スズ、ジルコニウム、亜鉛、銅、鉄、フッ化物、リン、アルミニウム(すなわちSn、Zr、Zn、Cu、Fe、F、P、および、Al)などが挙げられる。
【0020】
本発明は、リチウムイオン電池材料の黒色集合体から金属を抽出する方法に関する。本方法は以下のステップ、すなわち、
(a)1つ以上の前処理ステップであり、非金属材料を含有する画分が黒色集合体から分離され、負極および正極材料を含有する前処理された黒色集合体が回収され、好ましくは浸出によってさらに処理される、該前処理ステップと、
(b)1つ以上の浸出ステップであり、リサイクルされたリチウム沈殿物と組み合わされた、前処理された黒色集合体から形成される、金属を含有する浸出供給物に対して実施され、該浸出ステップは硫酸を含む溶液中で実施される酸浸出ステップを含み、それによって浸出供給物の金属が溶解され、溶解された金属を含有する浸出溶液が回収され、好ましくはそこから金属画分を分離することによってさらに処理が行われる、該浸出ステップと、及び、
(c)金属材料の初期画分が浸出溶液から分離され、少なくともニッケルおよびリチウムを含有する主要な画分が回収され、それにより、リチウムを含有する画分は、ニッケル画分の回収が行われた後に回収される金属分離ステップであり、前記リチウム画分の回収は以下のステップ、すなわち、
i)リチウムを炭酸リチウムに反応させるステップ、次いで、
ii)固体を液体から分離するステップであり、
- リチウムを含有する固体はそのまま回収されるか、あるいは反応させてさらなるリチウム製品とする、それに対して、
- 廃液をリン酸塩試薬と反応させ、そこに残存するリチウムをリン酸リチウム沈殿物に沈殿させる、及び
- 得られたリチウム沈殿物の少なくとも一部を酸浸出ステップにリサイクルする、
該固体を液体から分離するステップを含むものである、
該金属分離ステップと、
を備える。
【0021】
リチウムイオン電池の黒色集合体は通常、正極材料および負極材料の両方、ならびに有機化合物を含む電解質材料を含有する。本発明の目的のために、有機化合物は、好ましくは、上記の前処理ステップによって黒色集合体から除去される。例えば、1つ以上の洗浄ステップを使用することができ、好ましくは電池材料を水または有機溶媒、最も好適には水と混合することによって実施され、これにより、前記有機化合物のような前記溶媒に溶解または分散している材料を、黒色集合体の未溶解成分から分離することができる。あるいは、典型的には熱分解または蒸発ステップとして実施される1つ以上の加熱ステップを、有機化合物を除去するために使用することができ、各該加熱ステップは好ましくは195~470℃の温度で実施される。さらなる選択肢は、洗浄ステップおよび前述の加熱手順の1つの両方を実施することである。
【0022】
こうして、前処理ステップは、好ましくは電池正極のリチウム、ニッケル、およびコバルト、ならびに場合によってはマンガンを酸化物の形態で含み、より好ましくは残存する有機化合物を3重量%未満、最も好ましくは1.5重量%未満しか含まない、前処理された黒色集合体をもたらす。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では、随意的な洗浄ステップで通常失われるリチウムの少なくとも一部は、以下のステップ、すなわち、
- 分離された非金属材料の画分を含有する使用済みの洗浄溶液をリン酸塩試薬と反応させて、その中のリチウムをリン酸リチウムに沈殿させるステップと、及び
- リン酸リチウム沈殿物を残りの洗浄溶液から分離し、また次の浸出ステップに搬送される前処理された黒色集合体と組み合わせるステップと、
によって回収される。
【0024】
前処理ステップの後、通常固液分離が行われ、それにより前処理された黒色集合体は次の浸出ステップに運ばれ、随意的に、前処理ステップまたは金属回収ステップのいずれかからリサイクルされたリン酸リチウム沈殿物のような、添加された金属含有固体またはスラリーと混合され得る。
【0025】
本発明の一実施形態では、1回の浸出ステップのみが使用され、それは前記酸浸出ステップであり、硫酸を含有する溶液中で行われる。通常、酸浸出は従って、酸を含有する溶液に前処理した黒色集合体を分散させ、随意的な抽出剤を添加し、好ましくは次に混合することによって行われる。
【0026】
浸出ステップ中の温度は、好ましくは調節可能であり、それにより、最も好適には、温度は、酸浸出中、高いレベルに維持され、例えば、50℃以上の温度、好ましくは50~95℃の温度、そしてより好ましくは60~90℃の温度である。同様に、酸浸出中の圧力は、好ましくは大気圧、または100~200kPaのわずかに高い圧力に維持される。通常、目的の遷移金属の可溶化は2~6時間以内に完了する。
【0027】
硫酸の添加は、浸出溶液のpHを調整するためにいくらか使用される。したがって、浸出溶液のpHは、過酸化水素、炭水化物および二酸化硫黄から選択される随意的な抽出剤を添加する前に、前記硫酸を用いて好ましくは0~5、より好ましくは1~2のレベルに調整され、その還元能力により、より効果的な溶解を提供する。
【0028】
浸出反応が完了した後、すなわち前処理された黒色集合体が浸出条件下で十分な時間、例えば2~6時間が経過した後、正極金属を含有する浸出溶液を回収するために、通常、固液分離が実施され、これにより、別個の金属画分を回収するために、方法の次のステップに搬送することができる。
【0029】
本発明の一実施形態では、少なくともニッケルイオンおよびリチウムイオンを含む金属材料の主要画分の回収は、好ましくは、浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するための1つ以上のステップに先行する。金属材料の前記初期画分(または「初期金属画分(“the initial metallic fractions”)」)は、通常、鉄、アルミニウム、カルシウム、およびフッ化物イオンの少なくとも1つ、および場合によってはあり得るリン酸塩を含む。このステップの順序は、金属材料の主要画分の回収のために精製溶液を得るという利点があり、これは、初期画分が不純物に属すると考えられる物質を含むためである。これらの物質もまた、浸出溶液中に残っていれば、その後の主要画分の回収を損なうか、または、少なくとも純度もしくは収率が低下する。
【0030】
好ましくは、浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するステップは、鉄イオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオンおよびフッ化物イオンのうちの2つ以上、好ましくは3つまたは4つ、最も好適にはすべてを分離するステップを含む。銅もこれらの初期画分に含まれる。随意的に、別の銅回収ステップを、好ましくは他の初期画分が溶液から分離される前に実施することができる。
【0031】
代表的には、金属材料の初期画分の分離は、溶媒抽出(SX:solvent extraction)として実施される少なくとも1つのステップを含み、これは鉄およびアルミニウムなどの前記不純物を浸出溶液から除去することを意図しており、随意的に固体分離が先行し、すでに固体形態にある不純物を除去し、したがって、溶媒抽出の選択性および性能が向上する。
【0032】
別の代替案では、金属材料の初期画分の分離は、沈殿として実施される少なくとも1つのステップ、例えば、鉄およびアルミニウムなどの不純物を浸出溶液からの固体画分として、浸出溶液から除去することを目的とした水酸化物沈殿、を備える。このような水酸化物沈殿は、リチウム回収ステップおよび随意的な前処理ステップから得られた再生リン酸リチウムのリン酸塩などのリン酸塩の沈殿にも有効であることが示されている。
【0033】
特に好ましい代替案では、金属材料の初期画分の分離は沈殿を含み、随意的に沈殿した不純物の分離、続いて溶媒抽出を伴うが、両ステップとも上記の通りである。このような2段階の不純物分離の利点は、鉄およびアルミニウムなどの不純物の含有量がこうして精製された浸出溶液中でさらに減少することである。このような初期金属画分の2段階分離では、溶媒抽出の前に沈殿を行うことが特に好ましく、これにより溶媒抽出における高い選択性が容易になるからである。
【0034】
銅が別個に回収される場合、この銅回収ステップは、金属材料の前記初期画分が浸出溶液から分離される前に実施されることが好ましく、なぜなら、銅はその後の回収率、およびさらに重要な製品の品質に悪影響を及ぼす可能性があるからである。
【0035】
酸浸出ステップは酸溶液中で実施されるので、最初の金属分離ステップは酸性条件に耐えることが要求される。この要件は、初期金属画分の分離で満たされる。
【0036】
前記金属の分離および回収を行うために、さらなる浸出または洗浄ステップ、溶媒抽出、沈殿、イオン交換ステップ、および電解採取ステップなど、さまざまな反応および手順を利用することができる。しかし、初期金属画分の分離には、少なくとも1回の溶媒抽出を利用することが好ましく、なぜなら、これにより残存溶液の純度が高くなり、またその後の主要画分の回収、特にコバルトおよびニッケルの回収が容易になるからであり、これにより主要画分のすべての金属を高収率かつ高純度で、典型的にはバッテリーグレードの材料として回収することができる。
【0037】
上述したように、金属の主要画分の回収には、少なくともニッケルイオンおよびリチウムイオン、ならびに場合によってはコバルトおよびマンガンを回収するステップが含まれるが、回収の順序は様々である。
【0038】
特に、主要画分の回収は、前記ニッケルイオンおよびリチウムイオンに加えて、マンガンおよびコバルトの少なくとも一方、好ましくは両方を回収するステップを含む。通常、マンガン、コバルトおよびニッケルは全て、前記リチウムの前に回収される。
【0039】
したがって、リチウム回収は、好ましくは、初期金属画分の分離後、より好ましくは、浸出溶液中に存在するマンガン、コバルトおよびニッケルのいずれかが回収された後にも実施される。この好ましいステップ順序を用いると、高純度のリチウム含有溶液からリチウムを回収できる状況になる。
【0040】
リチウムは、該リチウムを炭酸塩に反応させることによって回収され、そのまま回収可能な製品画分を生成するか、あるいはさらに水酸化リチウムなどに変換して、純粋な水酸化物の結晶にすることもできる。
【0041】
リチウム回収のための更なる選択肢は、溶媒抽出を使用することであり、その後、更なる変換または結晶化を実施することができる。この手順の利点は、さらに高いリチウム回収率である。
【0042】
リチウムを炭酸塩に反応させる際に得られた液体画分は、別途回収できるリチウムをまだ含有している。この液体画分を、したがって、リン酸塩試薬、場合によっては別の沈殿試薬とさらに反応させ、その中に残っているリチウムをリン酸リチウム沈殿物に沈殿させ、その少なくとも一部の沈殿物を残りの廃液から分離した後、前処理した黒色集合体と混合することによって浸出ステップにリサイクルすることができる。また、沈殿したリン酸リチウムの一部は、リチウム回収のための上述のステップに導くことができ、炭酸塩とともにリン酸塩は、水酸化リチウムに反応させることができる。
【0043】
上記で使用されるリン酸塩試薬は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の任意のリン酸塩から選択することができる。しかし、リン酸ナトリウム(Na3PO4)が反応混合物に新たな陽イオンをもたらさず、適切な反応性を有するので、好ましい。
【0044】
例えばリチウムをその炭酸塩に反応させる際に得られる、リチウム含有液体画分中のリチウムの沈殿物は、典型的には50~90℃、好ましくは70~90℃の温度で行われる。pHは典型的には4以上、好ましくは7以上に維持される。
【0045】
リチウムをその炭酸塩に反応させる際に得られる液体画分について、ここで使用したのと同じ条件および試薬は、前処理ステップから得られる洗浄溶液にもまた使用することができ、随意的に、リン酸リチウムへの沈殿によるリチウム回収のために処理することもできる。
【0046】
ニッケル回収もまた浸出溶液上で実施され、好ましくは初期金属画分の分離後、典型的には随意的なコバルト回収と同時、または直後に実施され、より好ましくはコバルト回収後、最も好適には上記のリチウム回収の前に実施される。同様に、ニッケル回収は、随意的なマンガン回収の後に実施するのが好ましい。
【0047】
前記ニッケル回収は、例えば、溶媒抽出(SX)を用いて実施することができ、これは、かなり純粋な硫酸ニッケル溶液(NiSO4)を生成する。この溶液は随意的に、例えばイオン交換(IX)によってさらに精製され、その後、結晶化が行われるか、または、例えば新しい正極材料の調製で結晶化または沈殿をせずに、水酸化物または炭酸塩、あるいは硫酸塩溶液への沈殿がそのまま使用され得る。ニッケル回収のための随意的な溶媒抽出は、カルボン酸官能基を有する抽出化学物質を用いて行うのが最も適しており、好適な抽出化学物質の市販品の一例としてVersaticTM 10が挙げられ、それはネオデカン酸である。
【0048】
コバルトの回収も、好ましくはまた、初期金属画分の分離後に浸出溶液で実施され、典型的には、ニッケルの回収と同時または直前、より好ましくは、ニッケルの回収の前に実施され、最も好適には、リチウムの回収の前にも実施される。同様に、随意的なマンガンの回収後にコバルト回収を実施するのが好ましい。
【0049】
前記コバルト回収のための好ましい選択肢は、溶媒抽出(SX)であり、これはかなり純粋な硫酸コバルト溶液(CoSO4)を生成する。この溶液は、随意的に、例えばイオン交換(IX)によりさらに精製され、その後、結晶化、または水酸化物もしくは炭酸塩への沈殿が実施され得るか、または硫酸塩溶液は、例えば新しい正極材料の調製において、結晶化または沈殿することなく、そのまま使用され得る。コバルト回収のための随意的な溶媒抽出は、ホスフィン酸官能基のようなカルボン酸官能基を有する抽出化学物質を用いて最も好適に実施され、好適な抽出化学物質の一例は、CyanexTM 272であり、これはトリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィネートとしても知られる。
【0050】
金属分離ステップを進める1つの代替的な手法では、上記に示したように、例えば溶媒抽出によって、コバルトおよびニッケルを浸出溶液から同時に回収することができ、硫酸塩溶液を生成し、随意的にイオン交換(IX)によるさらなる精製、または水酸化物もしくは炭酸塩への沈殿に続く。あるいは、この硫酸塩溶液は、結晶化や沈殿を起こさずに、例えば新しい正極材料の調製にそのまま使用することもできる。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、金属分離ステップは、浸出溶液からマンガンを回収するステップを含み、マンガンの回収もまた、初期金属画分の分離後に実施される。好ましくは、マンガンは、ニッケルの回収または随意的なコバルトの回収の前に回収され、最も好適には、ニッケル、コバルトまたはリチウムのいずれかが回収される前に回収される。
【0052】
前記マンガン回収の選択肢として、溶媒抽出、沈殿、および結晶化、または溶媒抽出とその後の沈殿または結晶化、が挙げられる。特に好ましい選択肢の1つは、二酸化硫黄(SO2)および空気を用いた酸化沈殿を利用して、酸化マンガン(MnO2)を形成することである。
【0053】
本発明の方法は、方法のステップを実施するのに必要なユニットおよび機器を備えた、任意の適切な装置または設備で実施することができる。
【0054】
本発明の一実施形態では、上述の方法は
図1の設備を用いて実施され、該設備は、以下のユニット、すなわち、
- 黒色集合体から非金属成分を含有する画分を分離し、負極材料および正極材料を含有する前処理した黒色集合体を回収するための1つ以上の前処理ユニット1であり、好ましくは、下流の浸出ユニット2への適切な接続を介して実施されることを意図している、該前処理ユニット1と、
- 再生されたリチウム沈殿物と組み合わされた、前処理した黒色集合体の金属を溶解し、前記溶解した金属を含有する浸出溶液を回収するための1つ以上の浸出ユニット2であり、好ましくは、下流の分離ユニット3に適切な接続部を介して導かれることが意図され、少なくとも1つの浸出ユニット2は、硫酸および可能な抽出剤のための入口211を有する酸浸出ユニットの形態である、該浸出ユニット2と、及び、
- 金属材料の初期画分を浸出溶液から分離し、少なくともニッケルおよびリチウムを含有する主要画分を製品画分として回収するための金属分離ユニット3であり、リチウム回収ユニット36がニッケル回収ユニット35の下流に位置し、またリチウム回収ユニット36は以下のサブユニットを含むものである、該金属分離ユニット3であって、前記サブニットは、以下のユニット、すなわち
・リチウムを固体炭酸リチウムに反応させるためのユニット361で、そこから廃液が分離され、さらに次のステップに搬送される、該ユニット361、
・廃液をリン酸塩試薬と反応させる反応ユニット362で、その中に残存するリチウムをリン酸リチウム沈殿物に沈殿させ、残存する廃液と分離し、以下を介してさらに運ばれる、該反応ユニット362、
・こうして得られたリチウム沈殿物の少なくとも一部を回収するために、酸浸出ユニット2へ送る、リサイクルライン363、
を含むものである、
該金属分離ユニット3と、
を備える。
【0055】
図2Aおよび
図2Bに示される様々な選択肢を有する本発明の一実施形態では、前処理ユニット1は、黒色集合体から有機化合物などの非金属成分を除去するための洗浄ユニット11または加熱ユニット12、あるいはその両方を含み、加熱ユニット12は、最も好適には、熱分解ユニット121または蒸発ユニット122から選択される。随意的な洗浄ユニット11は、好ましくはさらに水注入口を備えている。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、
図3に示されるように、前処理ユニット1は、黒色集合体から非金属材料の画分を洗浄溶液に分離するため、少なくとも洗浄ユニット11を含み、代表的には、形成されたリチウム沈殿物を残りの溶液から分離するための分離サブユニットを備え、前記洗浄ユニット11は以下のユニット、すなわち、
- その中のリチウムをリン酸リチウムに沈殿させるために、非金属材料の分離された画分を含有する使用済みの洗浄溶液をリン酸塩試薬と反応させるための反応ユニット111であって、典型的には、形成されたリチウム沈殿物を残りの溶液から分離するための分離サブユニットを備える、該反応ユニット111と、及び
- 得られたリン酸リチウム沈殿物を浸出ユニット2に運び、前処理された黒色集合体と結合させるためのリサイクルライン112と、
を含む。
【0057】
代表的には、前記酸浸出ユニット21のみで構成される浸出ユニット2は、好ましくは、硫酸および抽出剤に必要な注入口211、ならびに、
図2~4に示すように、加熱または冷却のいずれかを組み込むことができる温度調整手段212を備えている。
【0058】
金属分離ユニット3は、好ましくは、いくつかのサブユニットを含み、すべてのサブユニットは、代表的には、それらが意図する反応を実施するために必要なさらなるサブユニット、例えば、溶媒抽出ユニット、イオン交換ユニット、沈殿ユニット、電解採取ユニット、洗浄ユニットまたは固体/液体分離ユニット)、リサイクルライン、注入口および注出口を備える。
【0059】
好ましくは、金属分離ユニット3は、ニッケル回収用ユニット35およびリチウム回収用ユニット36に加えて、
図4に示されるように、マンガンイオンおよびコバルトイオンを回収するための1つ以上のさらなるユニット33、34を含む。主要画分を回収するためのこれら全てのユニットは、好ましくは、浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するための1つ以上のユニット31、32に先行し、これらユニット31、32は、最も好適には、少なくとも1つの溶媒抽出ユニットを含む。
【0060】
設備内で銅が別個に回収される場合、銅回収ユニット31は、浸出溶液から初期金属画分を分離するための他のユニット32の上流に位置していることが好ましい。
【0061】
前記分離および回収を実施するために、様々なタイプのユニットおよび機器を利用することができ、例えば、さらなる浸出または洗浄ユニット、溶媒抽出ユニット、沈殿ユニット、イオン交換ユニット、および電解採取ユニットなどが挙げられる。しかし、溶媒抽出ユニットが好ましい。特に、初期金属画分の分離に少なくとも1つの溶媒抽出ユニットを利用することが好ましい。より好ましくは、溶媒抽出の前に固体分離ユニットがあり、随意的にその前にそのような不純物の沈殿ユニットがある。
【0062】
このように、金属材料の主要画分を回収するためのユニット33、34、35、36は、少なくともニッケルイオンおよびリチウムイオンを回収するためのユニットを含み、通常、リチウムの前にニッケルを回収するように任意の適切な順序で配置することができる。
【0063】
本発明の好ましい実施形態では、コバルトおよびニッケルを回収するための任意のユニット34、35は、リチウムを回収するためのユニット36の上流に位置している。
【0064】
本発明の別の好ましい実施形態では、マンガンを回収するためのユニット33が設備に含まれ、コバルト、ニッケル、リチウムを回収するためのユニット34、35、36のいずれよりも上流に位置している。
【0065】
金属分離ユニット3の選択および設備の1つの代替方法では、コバルトおよびニッケルを同じユニット34/35で回収することができる。
【0066】
上述したように、リチウム回収ユニット36は、以下のようなサブユニット、すなわち、
・リチウムを炭酸リチウムに反応させるためのユニット361であり、代表的には、炭酸含有の固体を廃液から分離するための固液分離サブユニットが後続する、該ユニット361と、
・廃液を、リン酸塩試薬および場合により別の沈殿試薬と反応させる反応ユニット362であり、その結果、そこに残っているリチウムをリン酸リチウム沈殿物に沈殿させ、通常、リチウム沈殿物を残りの廃液から分離するための固液分離サブユニットが後続する、該反応ユニット362と、及び
・こうして得られたリチウム沈殿物の少なくとも一部を酸浸出ユニット2
に再利用するためのリサイクルライン363と、
を含む。
【0067】
さらに
図4に示すように、リチウム回収ユニット36はまた、リチウムを炭酸リチウムに反応させた後に得られたリチウム含有固体を水酸化リチウムに反応させるためのサブユニット364も含有することができ、次に該水酸化リチウムを結晶化させて水酸化リチウム結晶を得ることができる。また、沈殿したリン酸リチウムの一部を前記反応サブユニット364に導き、反応させて水酸化リチウムにすることもできる。
【0068】
開示された本発明の実施形態は、本明細書に開示された特定の構造、プロセスステップ、または材料に限定されるものではなく、関連技術分野における通常の当業者によって認識されるであろう、それらの等価物に拡張されることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のみに使用され、限定を意図するものではないことを理解されたい。
【0069】
本明細書全体を通して、一実施形態または実施形態への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて様々な箇所で「一実施形態において(“in one embodiment”)」または「或る実施形態において(“in an embodiment”)」という表現が現れるが、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではない。例えば、約(“about”)また実質的に/ほぼ(“substantially”)などの用語を用いて数値に言及する場合は、正確な数値も開示する。
【0070】
本明細書で使用される場合、複数の項目、構造要素、構成要素、および/または材料は、便宜上、共通のリストで示されることがある。しかし、これらのリストは、リストの各メンバーがそれぞれ別個のユニークなメンバーとして個別に識別されているかのように解釈されるべきである。加えて、本発明の様々な実施形態および実施例が、その様々な構成要素の代替案とともに本明細書で言及される場合がある。このような実施形態、実施例、および代替案は、互いの事実上の等価物と解釈されるものではなく、本発明の別個および自律的な表現とみなされるものであることが理解される。
【0071】
さらに、記載された特徴、構造、または特性は、1つ以上の実施形態において、任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0072】
上述した実施例は、1以上の特定の用途における本発明の原理を例示するものであるが、形態、使用法および実施の細部における多数の変更が、発明能力を行使することなく、そして本発明の原理および概念から逸脱することなくなされ得ることは、当業者には明らかであろう。
【0073】
以下の非限定的な実施例は、単に本発明の実施形態で得られる利点を説明することを意図している。
【実施例】
【0074】
(実施例)沈殿リン酸リチウム(Li3PO4)の浸出
Liが15.4%、Pが22.1%の組成のリン酸リチウム(Li3PO4)含有固体試料30.5gを、攪拌反応器の温度80℃で浸出した。リン酸リチウムを0.9Lの80g/L硫酸溶液でパルプ化し、2時間撹拌した。
【0075】
浸出溶液を分析したところ、pH1.1で5140mg/LのLiおよび7540mg/LのPが含まれていた。次の表1に示すように、計算上のリチウムの浸出収率は98.5%であった。
【0076】
【0077】
次のステップでは、リン酸リチウムを沈殿させた。40℃の上記の黒色集合体の浸出溶液1.4Lを攪拌反応器に入れ、続いて500g/LのNaOH含有溶液を段階的に添加し、pHを3から5に上昇させ、リン酸塩、鉄およびアルミニウムを除去した。リン酸塩の効率的な除去は、以下の表2の溶液のリン酸塩含有量の減少によって示されるように、観察された。
【0078】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本方法および前記方法で使用するのに適した設備は、リチウムイオン電池から得られる黒色集合体から金属を回収するための従来の代替手段に取って代わるために使用することができる。
【0080】
特に、本発明の方法および設備は、このような電池材料から、少なくともニッケルおよびリチウム、ならびに随意的にコバルトおよびマンガンを良好な収率で回収するための経済的で効率的な手順を提供する。リチウムの収率は、本方法の1つ以上の廃液から得られたリチウムを回収し、リサイクルすることでさらに向上する。
【符号の説明】
【0081】
図1~
図4に示すように、本発明の1つ以上の実施形態に従って、以下のユニットを本発明の設備に含めることができる、すなわち、
1 前処理ユニットで、以下を含む、または以下のものから構成される、すなわち、
11 洗浄ユニットであり、通常固液分離サブユニットを有し、随意的に以下、すなわち、
111 反応ユニットであり、通常固液分離サブユニットを備え、及び
112 リサイクルライン
を備え、
12 加熱ユニット、例えば以下の形式、すなわち、
121 熱分解ユニット
122 蒸発ユニット
から成り、
2 浸出ユニットで、通常固液分離ユニットを有し、該浸出ユニットは以下を含む、または以下のものから構成される、すなわち、
21 浸出ユニットであり、
211 酸および可能性のある抽出物の注入口と、
212 温度調整手段と、
を含み、
3 金属分離ユニットであり、以下を含む、すなわち、
31 金属材料を回収するための随意的なユニットと、
32 金属材料の初期画分を分離するためのユニットと、
33 マンガンを回収するための随意的なユニットと、
34 コバルトを回収するための随意的なユニットと
35 ニッケルを回収するためのユニットと、
36 リチウムを回収するためのユニットであって、以下、すなわち、
361 リチウムを炭酸リチウムに反応させるためのユニットであり、通常、固液分離サブユニット備えている、該ユニットと、
362 廃液をリン酸塩試薬と反応させるためのユニットで、通常、固液分離サブユニットを備えている、該ユニットと、
363 リサイクルラインと、
364 炭酸リチウムを水酸化物に反応させる随意的なユニットと
を含む。
【国際調査報告】