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特表2024-5164083次元細胞凝集体を培養するための細胞培養装置及びこれを用いた細胞培養方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-15
(54)【発明の名称】3次元細胞凝集体を培養するための細胞培養装置及びこれを用いた細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240408BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240408BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20240408BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20240408BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20240408BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/071
C12N5/0775
C12N5/09
C12N5/077
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566416
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 KR2022006037
(87)【国際公開番号】W WO2022231310
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】10-2021-0054529
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523405074
【氏名又は名称】セルロイド カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CELLOID CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】509ho,87,Cheongam-ro,Nam-gu,Pohang-si,Gyeongsangbuk-do 37673,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドン ソン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ソン ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョン ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ド ヒ
(72)【発明者】
【氏名】オム、ソン ス
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ジェ スン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029DA03
4B029DF05
4B029DG06
4B029GA03
4B029GB09
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AC17
4B065BC25
4B065BC42
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
3次元細胞凝集体を培養するための培養装置及び培養方法に関し、具体的には、多孔質のマイクロウェル及びメンブレン、並びにその他の付加的な構成要素を含む培養装置を用いて3次元細胞凝集体を効率よく培養する技術の全般に関する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部、多孔質メンブレン、及び培養液を収容する細胞培養空間を備える多孔質マイクロウェルを備える上部チャンバと、
前記上部チャンバが内部に配置される空間を備える下部チャンバと、
を含み、
前記上部チャンバの上部に流入した流体は、前記上部チャンバから多孔質マイクロウェルを透過して前記下部チャンバに流入し、
下部チャンバの流体は排出されて流体が流動される
ことを特徴とする3次元細胞凝集体の培養装置。
【請求項2】
前記下部チャンバの流体は、下部チャンバに設けられる流体出口を介して排出されるか、または、上部チャンバと下部チャンバとの間の間隙領域を介して排出される
請求項1に記載の3次元細胞凝集体の培養装置。
【請求項3】
前記下部チャンバと同一平面上に配置され、下部チャンバの排出口と流体連通されている培養液貯留槽をさらに含み、前記培養液貯留槽内の培養液の水位は、下部チャンバ内の培養液の水位に相応するように設定される
請求項2に記載の3次元細胞凝集体の培養装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の3次元細胞培養装置を用いて、上部チャンバの多孔質メンブレン上に細胞を播種する段階と、
細胞培養液を上部チャンバの上部へ開口部を介して投入する段階と、
上部チャンバから多孔質マイクロウェルを透過して下部チャンバに流入した細胞培養液を下部チャンバから排出する段階と、
を含む
3次元細胞凝集体の培養方法。
【請求項5】
前記細胞は、
誘導多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cell)および間葉由来の幹細胞、(Mesenchymal stem cell)を含む幹細胞と、
筋芽細胞(Myoblasts)、胎仔線維芽細胞(Embryo fibroblasts)、静脈内皮細胞(Umbilical vein endothelial cells)、肝癌細胞(HepG2-2細胞)、および表皮細胞(Epidermal cells)を含む細胞株と、
肝、膵臓または小腸から得られた1次細胞と、からなる群から選択される少なくとも1種以上である
請求項4に記載の3次元細胞凝集体の培養方法。
【請求項6】
前記細胞培養液を下部チャンバに投入する段階をさらに含む
請求項4に記載の3次元細胞凝集体の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元細胞凝集体を培養するための培養装置及び培養方法に関し、具体的には、多孔質のマイクロウェル及びメンブレン、並びにその他の付加的な構成要素を含む培養装置を用いて3次元細胞凝集体を効率よく培養する技術の全般に関する。
【背景技術】
【0002】
実際に、体内の細胞は3次元の形状であり、かかる細胞は、細胞の微小環境とも3次元的に相互作用する。一方、細胞培養時、従来の技術のように体外で細胞を3次元構造ではなく、2次元の単層(Monolayer)で培養する場合、体内の細胞と形態的な面で非常に類似性が乏しく、3次元培養する場合、薬物スクリーニング(Drug screening)および細胞治療剤(Cell therapy)として活用する際に実際の生体内現象に一層類似した現象を確認することができる。
【0003】
このように、前記のような2次元の単層細胞培養の限界を克服するために、3次元細胞凝集体(3D cell aggregation)の培養および分化が可能なマイクロウェルプラットフォームへの要求が世界的に増加しつつある。
【0004】
なお、従来のマイクロウェルは、多孔質構造を持たないか、プラスチックなどを用いたため、3次元細胞凝集体の形成に限界があったし、3次元細胞凝集体が形成されたとしても、マイクロウェルプラットフォームから脱着させる過程が容易ではないという問題があり、かつ、従来提案されてきた培養環境は、培養時に発生する老廃物の排出及び栄養分の供給を受動的拡散のみに依存していたため、3次元細胞凝集体の成長及び成熟を制限するという問題があった。
【0005】
本発明は、前記のような限界及び問題点に鑑みて案出されたもので、3次元細胞凝集体を従来に比して効率よく培養することができる培養装置及びそれを用いた培養方法に関する。
【0006】
また、本発明の前記した技術的問題点を解消することに加えて、本技術分野における通常の知識を持つ者が容易に発明することができない更なる技術要素を提供するために発明された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、3次元細胞凝集体、より正確には、3次元細胞スフェロイド(spheroid)の形成が可能な環境を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、細胞培養温度では3次元細胞凝集体の形成を誘導し、培養し易い特性をそのまま維持するが、室温では大量の3次元細胞凝集体が同時にマイクロウェルプレートから脱着自在にすることを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、安定した3次元細胞の培養と、細胞培養時の老廃物を効率よく排出するとともに、細胞の下部まで栄養分を円滑に供給することができるように、多孔質マイクロウェルの下端部に流動調整を可能にすることにその目的がある。
【0010】
また、本発明は、従来広く使用されてきている、繰り返し細胞培養液の入れ替えのために、マイクロウェルの上面である細胞培養面に対するピペッティングによって生じる細胞及び3次元細胞凝集体の消失等を最小化するとともに、持続的に均一な細胞凝集体の周辺環境を提供することができる環境を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記のような問題点を解決するために、本発明による3次元細胞培養装置は、開口部、多孔質メンブレン、及び培養液を収容する細胞培養空間を備える多孔質マイクロウェルを備える上部チャンバと、前記上部チャンバが内部に配置される空間を備える下部チャンバと、を含み、前記上部チャンバの上部に流入した流体は、前記上部チャンバから多孔質マイクロウェルを透過して前記下部チャンバに流入し、下部チャンバの流体は排出されて流体が流動されることを特徴とする、3次元細胞凝集体の培養装置を提供する。
【0012】
本発明の他の実施形態による3次元細胞凝集体培養方法は、前記3次元細胞凝集体の培養装置を用いて、上部チャンバの多孔質メンブレン上に細胞を播種する段階と、細胞培養液を上部チャンバに投入する段階と、上部チャンバから多孔質マイクロウェルを透過して下部チャンバに流入した細胞培養液を下部チャンバから排出する段階と、を含むことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3次元細胞凝縮体、または細胞スフェロイド(spheroid)が効率よく形成できる環境が提供されることにより、一定領域内に安着した細胞がより円滑に3次元的に増殖及び分化できる。
【0014】
また、本発明によれば、温度変化を通じて細胞の培養及び収穫にそれぞれ容易な表面粗さを有する表面構造のマイクロウェルプレートを具現することができ、これによって、3次元細胞凝集体の大量生産及び収穫が可能になるという効果がある。
【0015】
また、本発明によれば、細胞培養時の細胞の安着、増殖及び分化に悪影響を及ぼすことなく、且つ、細胞培養時に形成される老廃物を効率よく除去するとともに3次元細胞の下部まで営養分を円滑に供給することができる培養環境を具現可能になる。
【0016】
また、本発明によれば、細胞を培養する過程中に、細胞および細胞凝集体の消失の可能性を顕著に減少させることができるだけでなく、持続的に均一な細胞凝集体の周辺の微小環境を提供することができる。さらに、培養液貯留槽の高さは、下部チャンバ内の培養液の水位に相応するように設定することで、培養過程で培養物の高さを一定に維持することができる。
【0017】
また、透水係数(Hydraulic conductivity)に非常に優れた多孔質マイクロウェルを使用して多孔質のマイクロウェル及びその内部で培養中の3次元細胞凝集体に印加される水圧を最小化して流体の流れ以外の無駄な刺激を最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態による細胞培養容器を示す図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による細胞培養容器の一側断面図を示す図である。
図3図3は、本発明の一実施形態によるプレート30を示す図である。
図4図4は、図2における一つの開口部31の周辺を拡大した示した図である。
図5図5は、本発明の他の一実施形態による細胞培養容器で細胞が増殖する様子を示す図である。
図6図6は、本発明の他の一実施形態による細胞培養容器の本体10及び締結部(40)を示す図である。
図7図7は、本発明の他の一実施形態による細胞培養容器の製造方法の手順を示す図である。
図8図8は、本発明の他の一実施形態による細胞培養容器の製造方法のS10またはS100に対する一例を示す図である。
図9図9は、本発明の他の一実施形態による細胞培養容器の製造方法のS20またはS200に対する一例を示す図である。
図10図10は、本発明の一実施形態による細胞培養容器の製造方法で形成したメンブレン20の写真を示す図である。
図11図11Aは、本発明のまた他の実施形態によって製造された細胞培養容器の上部チャンバを上から見たイメージを示す図である。図11Bは、図11Aの多数の多孔質マイクロウェルの中で一つを拡大して示した図である。
図12図12は、細胞培養層の表面粗さの変化を温度及び時間によって示した図である。
図13図13Aは、多孔質マイクロウェルを拡大して示した図であり、図13Bは、前記多孔質マイクロウェルの上面にポリイソピルアクリルアミドを含む細胞培養層が形成されたものを示した図である。
図14図14Aは、3次元細胞凝集体を培養する過程で撮影したイメージを示す図である。図14Bは、ウェルプレートから脱着された細胞凝集体を示す図である。図14Cは、細胞凝集体が脱着された後のウェルプレートを撮影した図である。
図15図15aは、本発明の一実施形態による3次元細胞培養装置の例示図であり、図15bは、本発明の3次元細胞培養装置の上部チャンバにおいて、多孔質マイクロウェルの隣接した部分に貫通部が形成されている場合の例示図であり、図15cは、3次元細胞培養装置の実際のイメージを示す図である。
図16図16aは、本発明の実施例2及び比較例2で測定されたアルブミンの発現量を比較したものであり、図16bは、本発明の実施例3及び比較例4で測定されたFITC-Dextranの濃度を比較したものである。
図17図17は、本発明の実施例3に従って、時間によって老廃物が除去される様子を肉眼で観察した結果を示した図である。
図18a図18aは、本発明の下部チャンバにおける流体の流れ及び多孔質マイクロウェルによって多孔質マイクロウェルの上面の老廃物が除去される概路図である。
図18b図18bは、培養液が多孔質マイクロウェルの内側に拡散される概路図を示す図である。
図19図19は、本発明のまた他の実施形態による細胞培養装置を示したものであって、図19aは、細胞培養装置の全体的な形態を示し、図19bは、一つの上部チャンバと下部チャンバとの組み合わせを拡大して示したものであり、図19cは、排出口と連結された培養液貯留槽を含む細胞培養装置の断面図を示す図である。
図20図20は、本発明による細胞培養装置で多孔質メンブレンを介して透過される培養液の流れをシミュレーションした結果を示す図である。
図21図21は、多孔質メンブレンが凹部を具備する形態で構成された多孔質マイクロウェルの顕微鏡写真を示す図である。図21aは4倍、図21bは220倍の倍率で拡大したイメージである。図21cは、多孔質メンブレンが凹部を具備するまた他の形態の多孔質マイクロウェルの写真を示す図であり、図21cのa)は、DSLRカメラ、図21cのb)及び図21cのc)は、それぞれ4倍と20倍の倍率で拡大した顕微鏡イメージである。
図22図22は、電気放射時間による多孔質メンブレンのナノファイバネットワークの構造及び特性変化を示す図である。一般的な商用多孔質メンブレンである8μm空隙サイズのTranswellinsert(Corning社製、米国)製品のメンブレンを参照のために一緒に添付した(最左側、TW)。図22aは、商用メンブレン、電気放射時間の変化による各ナノファイバネットワーク構造を20倍の倍率で拡大した顕微鏡イメージである。図22b、図22c及び図22dは、商用メンブレンと電気放射時間による各ナノファイバネットワーク構造の空隙率(Porosity)(図22b)、透水係数(Hydraulic conductivity)(図22c))、及び水圧(Induced pressure)(図22d)を示す図である。
図23図23は、本発明による細胞培養装置を使用する場合の細胞凝集体の消失度と、従来のピペッティングによる細胞培養液の入れ替え方法によって細胞を培養する場合の細胞凝集体の消失度とを比較した実験結果を示す図である。
図24図24は、本発明による細胞培養装置を使用する場合の細胞凝集体の周辺の営養分の濃度(Glucose concentration)と、従来のピペッティングによる細胞培養液の入れ替え方法によって細胞を培養する場合の細胞凝集体の周辺の営養分の濃度とを、数値シミュレーションを通じて比較した結果を示す図である。
図25図25は、細胞培養装置に存在していた流体が新たに注入される流体に円滑に入れ替えられ、この過程で、下部チャンバ内の培養液の水位が一定に維持される様子を示す図である。
図26図26は、多孔質マイクロウェルを製造する方法を示す図である。
図27図27は、本発明による細胞培養装置に用いられる下部チャンバ(a)と、該下部チャンバの内部に挿入された上部チャンバ(b)とを示すである。
図28図28は、圧縮工程を利用して多孔質マイクロウェルを製造する方法を示した図である。
図29図29は、上部チャンバと下部チャンバとの間の間隙領域を介して流体を排出させて流体の流れを形成する過程を示す図であって、(a)は写真、(b)は図式化したイメージ、そして(c)は、この場合に形成される流体の流速を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、図1図10を参照して本発明による細胞培養装置を構成する基本構成である細胞培養容器及びその製造方法について説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態による細胞培養容器を示し、図2は、一側断面図を示す。図2は、図1におけるA-A’線による一側断面図であり。図3は、本発明の一実施形態によるプレート30を示したものである。
【0021】
細胞培養容器は、図1及び図2に示されているように、本体10とメンブレン20とを含むことができ、追加的にプレート30をさらに含むことができる。以下では説明の便宜上、プレート30について前もって説明した後、本体10及びメンブレン20について順次に説明することにする。
【0022】
プレート30は、開口形状である一つ以上の開口部31を備えているものであって、該開口部31には本体10が挿着できる。開口部31は、図3aに示したように、下部が閉塞され、上部が開口された開放形態であってもよく、図3bに示したように、プレート30を貫通する貫通形態であってもよい。開口部31が貫通形態である場合、細胞培養容器は上部が開口された収容空間を有することができ、収容空間は、プレート30を装着するカバー容器をさらに含むことができる。
【0023】
プレート30に複数個の開口部31が具備された場合、これらの各開口部31が互いに離間して配列されることができ、これによって、細胞培養時には各開口部31のサンプル同士間の影響を遮断することができ、その結果、複数の独立した実験データを一つのプレート30を用いて導出することができる。
【0024】
本体10は、図1及び図2に示したように、スペーサSPと、他端に形成された入口部11と、スペーサと入口部11を貫通する貫通部と、をそれぞれ含む。ここで、スペーサは、本体10の側面乃至側壁にあたる部分を指すもので、図面上では符号SPと表示した。図面からも見られるように、スペーサの外面は開口部31の内側面と対向しており、スペーサと開口部の内側面との間には所定の間隔又は空間が存在することを確認することができる。
【0025】
本体10のスペーサSPは、プレート30の開口部31に挿入されることができる。この時、本体10は一つの挿入部を含んでもよく、複数個の挿入部を含んでもよい。すなわち、一つの挿入部を含む場合、本体10は該当の挿入部が一つの開口部31に挿入されることができる。また、複数の挿入部を含む場合、本体10は各挿入部が多数の開口部31に対応して挿入されることができる。この時、複数個の挿入部を含む場合、本体10は各挿入部が互いに連結された構造を有し、各挿入部が各開口部31に対応して挿入されることができる。
【0026】
図1図6は、一つの挿入部を含む本体10に対して図示しているが、本発明がこれに限定されるものではなく、本発明の内容は本体10が複数個のスペーサ及び貫通部を含む場合にも当然適用できる。
【0027】
本体10のスペーサが開口部31に挿入される時、本体10のスペーサは下部に位置し、本体10の入口部11は上部に位置する。本体10のスペーサは、一端から他端まで幅が一様である垂直型であってもよく、一端から他端まで幅が徐々に広くなる漏斗型であってもよく、垂直型と漏斗型とが複合された形態であってもよい。本体10の貫通部は、その断面が円形、多角形など多様な形状に形成されることができ、そのサイズも多様に形成され得る。
【0028】
図4は、一つの開口部31の周辺を拡大した示す図である。特に、本体10のスペーサがプレート30の開口部31に装着される時、本体10のスペーサの一端が細胞培養容器の底面から一定間隔だけ離れるように位置するように、本体10の入口部11は、図4に示されたように、本体10のスペーサ及び開口部31の入口よりも広い断面を有することが好ましい。これによって、本体10のスペーサと細胞培養容器の底面との間の空間には細胞に供給するための営養分を有する流体の通路が形成されることができる。この時、細胞培養容器の底面は、開放型プレートの場合は、その開口部の底面であることができ、貫通型プレートの場合は、カバー容器の底面であることができる。
【0029】
メンブレン20は、細胞が培養される細胞培養面を提供する層であって、本体10のスペーサ側の貫通部に採用される。例えば、メンブレン20は、電気放射法によって形成されて本体10のスペーサの一端を覆う形態で形成されることができる。この時、メンブレン20は、複数個の高分子ナノファイバがランダムに絡み合ってなるか、高分子合成樹脂が成形されてなることができる。例えば、各高分子ナノファイバは、1nm以上~1000nm未満の直径を有することができる。複数個の高分子ナノファイバからなることによって、メンブレン20は生体内の基底膜に類似した構造を持つことによって生体内における血液流動環境を提供することができる。
【0030】
例えば、高分子ナノファイバまたは高分子合成樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂弾性重合体及び生体高分子の中で少なくとも一つ以上を含むことができる。例えば、高分子ナノファイバまたは高分子合成樹脂は、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)、ポリウレタン(polyurethane)、ポリフッ化ビニリデン(Polyvinylidene fluoride、PVDF)、ポリスチレン(polystyrene)、コラーゲン(collagen)、ゼラチン(gelatin)、キトサン(chitosan)のうちの少なくとも一つ以上を含むことができる。
【0031】
メンブレン20は、多孔質のマイクロウェル(microwell)21、連結部22、及び固定部23を含むことができる。この時、マイクロウェル21、連結部22、及び固定部23は、複数個の高分子ナノファイバが絡み合うことで互いに連結された構造を持つ。
【0032】
マイクロウェル21は、細胞培養面として働く領域であって、下向きに凹んで形成される。このような凹み形状によって細胞はマイクロウェル21内に安着しやすくなり、流体の移動と関係なくマイクロウェル21内で安定に増殖し得るようになる。この時、マイクロウェル21は、少なくとも一つが本体10の貫通部が成す領域内に位置する。すなわち、上部または下部から見る時、マイクロウェル21は本体10の貫通部よりも大きさが小さく、貫通部が成す領域内に含まれる。
【0033】
細胞培養面であるマイクロウェル21が凹み形状に形成されることによって、メンブレン20は、細胞を細胞培養面に一層集中して安定的に付着させ、細胞培養面の面積を増加させることができることから、細胞の付着効率を向上させることができる。また、通常フラット形状の細胞培養面を具備する従来の細胞培養容器と異なり、本発明による細胞培養容器の本体10は、立体的な3次元形状の細胞培養面を具備し、これによって、生体内のように3次元構造環境で細胞を培養することができ、3次元細胞スフェロイド(spheroid)を形成することができる。複数個のマイクロウェル21が本体10の貫通部が成す領域内に位置する場合、本体10のスペーサが多数の細胞培養面を持って細胞付着効率をさらに向上させることができる。
【0034】
連結部22は、任意のマイクロウェル21とその周辺に形成されてマイクロウェル21の間を連結する領域であって、フラット形状を有することができる。また、連結部22は、マイクロウェル21よりもその厚さが厚くてもよい。これは、後述するエンボス(embossing)工程によって、マイクロウェル21がメンブレン20内において下部の凹み形状に伸びる領域に該当し、元より薄くなることに対し、連結部22は伸びない 領域に該当し、元の厚さを維持するからである。
【0035】
固定部23は、本体10のスペーサの一端の縁に固定されている領域である。また、固定部23は、連結部22よりも厚さが薄く密度が低い。これは、メンブレン20が電解質溶液を利用した電気放射法によって形成されることができるからである。すなわち、マイクロウェル21及び連結部22は、電気放射時に電解質溶液が入った位置で生成される領域にあたるので、固定部23よりも多くの高分子ナノファイバが形成されるため、固定部23に比べて密度が大きく厚さが厚く形成されることができる。
【0036】
図5は、本発明による細胞培養容器で細胞が増殖する様子を示す。図5a、図5b及び図5cは、流体集中現象下で、時間によって細胞が増殖する様子を順次に示す。
【0037】
一方、メンブレン20は、高分子ナノファイバの間の領域に形成された多数の空隙(hole)を含む。この時、空隙は数μm~数十μmの寸法を持つことができる。メンブレン20は、空隙によって単一細胞は透過させないながら他の物質は選択的に透過させる選択的透過膜として働くことができ、これによって、物質移動障壁及び通路の役割が果たすことができる。
【0038】
マイクロウェル21に形成された第1空隙が成す第1空隙率と、連結部22に形成された第2空隙が成す第2空隙率とは相異なることができる。この時、空隙率は、単位面積内に存在する空隙面積の割合である。特に、第1空隙率が第2空隙率よりも大きい。これは、メンブレン20の中でマイクロウェル21にあたる領域がエムボス工程によって下方の凹み形状に伸びながら、当該領域の中で絡み合った高分子ナノファイバによって詰まっていた多数の部分が開口するか、既に開口した部分の面積が広がる現象が発生するからである。ただし、第1空隙率と第2空隙率との差があることを説明するために、これらの2種の空隙率について説明しているが、本発明がこれらの2種の空隙率だけを有するものに限定されない。すなわち、本発明は第1空隙率及び第2空隙率の以外に多様な空隙率を有してもよい。
【0039】
このような空隙率の差によって、図5に示したように、マイクロウェル21の周辺領域で流体集中現象が発生し、これに伴い、マイクロウェル21における細胞増殖が一層活発に行われることができる。これは空隙率が高い領域であればあるほどダルシーの式(Darcy’s equation)によって物質透過性がより高いからである。
【0040】
細胞培養のために、プレート30の開口部31には流体(例えば、細胞培養液、蒸溜水、PBS溶液などの混合物)が満たされるが、かかる流体は、スポイト(spuit)などを利用して周期的に入れ替えなければならない。この時、流体の入れ替えは、例えば、本体10の外側で流体が吸引排出(suction)されると同時に、本体10の内側に新しい流体が供給される方法で行われることができる。これは、本体10の内側で流体の吸引排出が行われる場合、マイクロウェル21に安着して増殖及び分化中の細胞に悪影響を与えるか、当該細胞が一緒に排出されるリスクがあるからである。
【0041】
前述した流体入れ替え過程において、マイクロウェル21を収容する収容空間に満たされる流体は、マイクロウェル21及び連結部22の上方から下方に通過するようになる。この時、マイクロウェル21は連結部22よりも空隙率が大きいので、図5に示されたように、連結部22よりも多くの流体を透過させる。これによって、マイクロウェル21の周辺では、連結部22の周辺よりも流体がさらに集中的に移動する現象、すなわち流体集中現象が発生する。
【0042】
このような流体集中現象が発生する場合、マイクロウェル21内で増殖及び分化中の細胞に、より円滑に流体に含まれた酸素及び栄養素を供給することができ、これにより、細胞増殖及び分化が一層促進されることができる。また、このような流体集中現象によって、マイクロウェル21の内部へ細胞が集まるようになる現象も発生する。すなわち、空隙率の差を有する多数の領域を具備し、当該領域の中で細胞培養面であるマイクロウェル21が連結部22よりも高い空隙率を有するように形成されることで、メンブレン20はマイクロウェル21での細胞の増殖及び分化の効率を増加させることができる。
【0043】
プレート30に複数個の開口部31が具備された場合、本発明による細胞培養容器は、生体内と同様な3次元構造環境下で実験した複数の独立した実験データを、一つのプレート30を利用して導出することができる。
【0044】
図6は、本発明の他の一実施形態による細胞培養容器の本体10及び締結部40を示す。
【0045】
一方、本発明の他の一実施形態による細胞培養容器は、図6に示されているように、一端と他端が貫通して本体10のスペーサの一端に締結される締結部40をさらに含むことができる。
【0046】
この時、締結部40は一つの貫通部を含んでもよく、複数個の貫通部を含んでもよい。すなわち、一つの貫通部を含む場合、締結部40は本体10の各スペーサに締結され、リング形状に形成される。また、複数個の貫通部を含む場合、締結部40は各貫通部が本体10の各スペーサに対応して締結される。図6は、締結部40が一つの貫通部を含む場合に対して示しているが、本発明がこれに限定されるものではなく、本発明の内容は締結部40が複数個の貫通部を含む場合にも当然適用可能である。
【0047】
締結部40がさらに含まれる場合、本体10のスペーサの一端にメンブレン20が具備されないで締結部40の一端にメンブレン20が具備されるか、本体10のスペーサの一端及び締結部40の一端ともメンブレン20が具備されることができる。本体10のスペーサに締結部40が締結されれば締結部40の貫通部と本体10の貫通部とは互いに連結される。
【0048】
締結部40は、本体10のスペーサの一端に着脱(装着及び分離)可能な形態で設けられることができる。例えば、締結部40の内部または外部にねじ山が形成されており、本体の一端の外部または内部に締結部40のねじ山に対応するねじ山が形成されてもよい。また、締結部40は、図6bに示したように、本体10のスペーサの一端の貫通部の内周面に嵌合されてもよく、図6cに示したように、本体10のスペーサの一端の外周に嵌合されてもよい。
【0049】
締結部40の一端に設けられるメンブレン20は、前述した本体10のスペーサの一端に設けられるメンブレン20において、本体10のスペーサを締結部40に代替することを除き、同様である。すなわち、締結部40の一端に設けられるメンブレン20は、その位置が本体10のスペーサの一端から、締結部40の一端に変わっただけである。したがって、締結部40の一端に設けられるメンブレン20に対する詳細な説明は、以下省略し、前述した本体10のスペーサの一端に設けられるメンブレン20に対する説明に代えることにする。
【0050】
以下、本発明の一実施形態による細胞培養容器の製造方法について説明する。このような細胞培養容器の製造方法は、マイクロウェル21またはメンブレン20の製造方法を含む。
【0051】
図7は、本発明による細胞培養容器の製造方法の手順を示す。
【0052】
本発明の一実施形態による細胞培養容器の製造方法は、図7に示されているように、準備段階S10、S100及び形成段階S20、S200を含む。この時、S10及びS20は、前述した本体10及びメンブレン20の製造方法であり、S100及びS200は前述した本体10、メンブレン20及び締結部40の製造方法である。
【0053】
S10は、本体10及びメンブレン20を用意する段階である。また、S100は、本体10、メンブレン20及び締結部40を用意する段階である。この時、本体10、メンブレン20及び締結部40は、図1図6に基づいて前述した内容と同一なので、これらに対する説明は以下省略する。ただし、メンブレン20は、電解質溶液を利用した電気放射法によって形成されることができ、次に電解質溶液を利用した電気放射法について説明する。
【0054】
図8は、本発明の他の一実施形態による細胞培養容器の製造方法のS10またはS100に対する一例を示す。
【0055】
電解質溶液を利用した電気放射法は、本体10のスペーサまたは締結部40の一端を覆うようにメンブレン20を形成するものであって、チャンバ内で行われることができる。チャンバは、作業が行われる空間であって、メンブレン20が形成される時に高分子溶液の外部への漏出を防止することができる。今後、本体10のスペーサの一端にメンブレン20を形成する電解質溶液を利用した電気放射法を「第1電気放射法」と呼び、締結部40の一端にメンブレン20を形成する電解質溶液を利用した電気放射法を「第2電気放射法」と呼ぶ。まず、第1電気放射法について説明する。
【0056】
第1電気放射法は、電解質充填段階、電圧印加段階及びメンブレン形成段階を順次含むことができる。
【0057】
電解質充填段階は、図8aに示されているように、一端と他端とが貫通するように形成されている本体10のスペーサに電解質溶液50を満たす段階である。この時、本体10はスペーサの一端が上向きに配置され、他端が遮られる。以後、本体10のスペーサの一端に電解質溶液50が満たされる。この時、本体10の入口部11を塞ぐための蓋が設けられるが、該蓋には電解質溶液50に電圧を印加するための電極が具備されることができる。すなわち、電極は蓋を貫通するように形成され、本体10のスペーサに満たされる電解質溶液50と連結されることができる。
【0058】
もしくは、電解質充填段階では、図8bに示されているように、電解質溶液50が満たされた電解質容器60に本体10のスペーサを配置し、本体10のスペーサの一端を上向きに配置することで、本体10の貫通部に電解質溶液50を充填してもよい。本体10のスペーサが電解質容器60の収容空間に配置されると、電解質溶液50の表面に本体10のスペーサが触れながら電解質溶液50の表面を押圧する圧力が生じて、その圧力によって本体10のスペーサへ電解質溶液50が満たされるようになる。この時、電解質溶液50表面の圧力がより生成され易くするために、電解質容器60の収容空間は本体10のスペーサの形状に一致するように形成されることができる。
【0059】
電解質溶液50は、導電性を有するので、電圧印加段階で電圧が印加されれば負(-)電荷を帯びるようになって、正(+)電荷を有する粒子を電気的引力で引っ張り、これによって、正(+)電荷を有する粒子は、電解質の上部に集積されることができる。電解質溶液50は、解離の程度によって強電解質と弱電解質とに分けられる。解離の程度は溶媒によって異なる。
【0060】
例えば、電解質溶液50としては、塩化カリウムと蒸溜水を3%mol割合で混合した溶液を使うことができる。また、水または有機溶媒(エタノール、メタノール)に溶けて1mS/cmよりも高い電気伝導度を帯びる物質及び濃度の全てを電解質溶液50として使うことができる。また、水に溶けて相対誘電率が80F/mよりも高い値を有する物質及び濃度の全てを電解質溶液50として使うことができる。
【0061】
電圧印加段階は、図8cに示されているように、電解質溶液50と、電気放射器70の金属針(needle)71との間に電圧を印加する段階である。この時、電圧は電源供給機を介して供給されるが、印加電圧の強さの変化によって形成されるメンブレン形成段階で形成されるメンブレン20の構造に変化が生じる可能性がある。
【0062】
電解質溶液50と電気放射器70の金属針71との間には電場が形成され、この際に形成される電場の強さがあまり低すぎる場合、高分子水溶液が連続的に吐出されず均一な厚さの高分子ナノファイバを製造しにくいのみならず、製造された高分子ナノファイバが電解質溶液50上に円滑に集束され難い恐れがある。逆に、電場の強さがあまり高すぎる場合、高分子ファイバが電解質溶液50の上面に正確に安着されないことから、正常な形態を持ち難いことがある。これらのことに鑑み、電解質溶液50及び電気放射器70の金属針71に印加される電圧の強さは、5kV~30kVであることができる。
【0063】
電解質溶液50には、負(-)の電圧を印加し、金属針71には正(+)の電圧を印加することができる。これによって、電解質溶液50は、負(-)の電荷を帯びるようになり、メンブレン形成段階で放射される高分子溶液は、正(+)の電荷を帯びるようになる。
【0064】
メンブレン形成段階は、図8cに示されているように、電圧が印加された状態で電気放射器70を介して本体10のスペーサへ高分子溶液を放射してメンブレン20を形成する段階である。この時、メンブレン20は、電解質溶液50の高い自由度によって複数個の高分子ナノファイバがランダムに絡み合った網状に形成される。
【0065】
一方、電気放射器70は、高分子溶液を供給するデバイスである。すなわち、電気放射器70は、高分子溶液を電気放射が可能な適切な粘度を有するように貯留した後、金属針71を介して高分子溶液を吐出することができる。この時、吐出された高分子溶液は、飛散と同時に硬化されて高分子ナノファイバを形成することができる。
【0066】
金属針71は、高分子溶液を吐出する構成である。金属材質からなることにより、金属針71は電源供給機と連結しやすく、電源供給機から電圧が印加される際に吐出される高分子溶液の電荷帯電効率を向上させることができる。特に、金属針71は、本体10のスペーサと離間した上部に位置し、その吐出端部が本体10のスペーサに向けるように配置された状態で高分子溶液を放射することができる。
【0067】
例えば、電気放射器70は、注射器、注射器ポンプ、及び金属針71で構成されることができる。すなわち、高分子溶液を注射器に入れて注射器ポンプの動力によって金属針71で高分子溶液を空気中に吐出することができる。この時、金属針71は、23ゲージ針(Gauge needle)を用いることができるが、高分子溶液によってそのサイズが異なることができる。特に、電解質溶液50の表面形状を維持しながら電解質溶液50の表面に高分子ファイバが載置されるように、高分子溶液は0.01ml/h~3ml/hの吐出速度で放射されることができる。
【0068】
前述した電圧印加範囲(5kV~30kV)及び吐出速度の範囲(0.01ml/h~3ml/h)で高分子溶液を放射すると、高分子ナノファイバはその直径が10nm~900nmで形成されることができる。
【0069】
高分子溶液としては、クロロホルム(chloroform)とメタノール(methanol)を1:1の質量比で混合した溶液に、ポリカプロラクトン(Polycarprolactone)を混合した5%~25%濃度の溶液を用いることができる。また、アセトン(acetone)とジメチルホルムアミド(Dimethylformamide)を3:7の体積比で混合した後、ポリフッ化ビニリデン(Polyvinylidene fluoride、PVDF)を混合した25%~30%濃度の溶液を高分子溶液として用いることができる。そのほかにも、ポリスチレン(Polystrene)、ポリカーボネート(Polycarbonate)、コラーゲンとポリカーボネートとの混合溶液(collagen/Polycarbonate blending solution)、ゼラチンなどを用いて高分子溶液を製造することができる。
【0070】
メンブレン形成段階で、電解質溶液50が充填された本体10のスペーサ側の貫通部と高分子溶液との間で発生する電気的引力は一定であり、本体10のスペーサの縁と高分子溶液との間で発生する電気的引力に比べてより大きいことができる。これによって、電解質溶液50が充填された本体10のスペーサ側の貫通部に集積されるメンブレン20の領域(以下、「貫通部領域」という)は一定であり、比較的大きい密度及び厚さを有する。
【0071】
これに対し、本体10のスペーサの縁と高分子溶液との間で発生する電気的引力の大きさは、本体10のスペーサの貫通部と高分子溶液との間に発生する電気的引力の大きさに比べて小さく、本体10のスペーサの貫通部から遠ざかるほど次第に小さくなる。これによって、本体10のスペーサの縁に集積されるメンブレン20である固定部23は一定ではないが、比較的小さい密度及び厚さを有する。
【0072】
メンブレン形成段階は、電気放射器70の放射時間を調節して本体10のスペーサの一端に形成されるメンブレン20の厚さ、空隙率及び透明度のうちのいずれか一つ以上を調節する段階をさらに含むことができる。すなわち、電気放射器70の放射時間が長くなるほど集積される高分子ナノファイバの量が多くなる。これによって、本体10のスペーサの一端に形成されるメンブレン20はその厚さが厚くなるとともに、その空隙率及び透明度が小さくなるようになる。
【0073】
また、メンブレン形成段階は、高分子溶液の濃度を調節して形成されるメンブレン20の高分子ナノファイバの直径を調節する段階をさらに含むことができる。すなわち、高分子溶液の濃度が高くなると、その粘性度が大きくなるので、本体10のスペーサの一端に形成されるメンブレン20の高分子ナノファイバの直径は大きくなるようになる。
【0074】
次に、第2電気放射法について説明する。
【0075】
第2電気放射法は、第1電気放射法と同様に、電解質充填段階と、電圧印加段階と、メンブレン形成段階とを含み、追加で締結部締結段階をさらに含むことができる。この時、電解質充填段階、電圧印加段階、及びメンブレン形成段階は、前述した第1電気放射法における本体10のスペーサを締結部40に代替することを除き、同一である。よって、第2電気放射法の電解質充填段階、電圧印加段階、及びメンブレン形成段階に対する詳細な説明は以下省略し、前述した第1電解質電気放射法の電解質充填段階、電圧印加段階、及びメンブレン形成段階に対する説明に代える。
【0076】
第2電気放射法では電解質充填段階、電圧印加段階、及びメンブレン形成段階を通じて締結部40の一端にメンブレン20を形成することができる。その後、締結部締結段階は、一端と他端とが貫通するように形成された本体10のスペーサの一端に、メンブレン20が形成された締結部40を締結する段階である。例えば、締結部締結段階は、本体10のスペーサまたは締結部40を移送して本体10のスペーサと締結部40とを締結する移送装置によって行われることができる。
【0077】
ただ、第1電気放射法及び第2電気放射法は、メンブレン20を形成した後、本体10のスペーサまたは締結部40の形状に合わせて形成されたメンブレン20を切削する段階をさらに含むことができる。
【0078】
図9は、本発明の他の一実施形態による細胞培養容器の製造方法のS20またはS200に対する一例を示す。
【0079】
S20は、本体10のスペーサに形成されたメンブレン20にエンボス工程を行う段階である。また、S200は、締結部40に形成されたメンブレン20にエンボス工程を行う段階である。
【0080】
すなわち、S20またはS200では、図9に示されているように、マイクロウェル21のパターンが形成されたモールドMを利用してS10またはS100で用意したメンブレン20にエンボス工程を行う。この時、エンボス工程は、モールドMでメンブレン20を加圧し、モールドMのパターンに対応するパターンをメンブレン20に形成する工程である。すなわち、エンボス工程の結果、メンブレン20にはマイクロウェル21及び連結部22が形成されることができる。
【0081】
エンボス工程は、加熱されたモールドMでメンブレン20を加圧するホットエンボス(hot embossing)工程であってもよいが、これに限定されるものではない。ホットエンボス工程を用いる場合に、より早くS20の結果を導出することができる。
【0082】
モールドMは、マイクロウェル21のパターンによって下部が突出した第1モールドM1と、マイクロウェル21のパターンによって上部が凹んでいる第2モールドM2と、を含むことができる。すなわち、第1モールドM1と第2モールドM2との間にメンブレン20を設け、第1モールドM1及び第2モールドM2を加圧して合体した後に分離することでメンブレン20にマイクロウェル21及び連結部22を形成することができる。合体時、第1モールドM1の突出した部分がメンブレン20の一面に接触し、第2モールドM2の凹部がメンブレン20の他面に接触する。
【0083】
ホットエンボス工程の場合、合体の前に、第1モールドM1及び第2モールドM2のいずれか一つが加熱されてもよく、第1モールドM1及び第2モールドM2がいずれも加熱されてもよい。ただし、第1モールドM1の突出した形状がマイクロウェル21形成により一層多くの影響を及ぼすので、第1モールドM1だけを加熱して使用することが好ましい。また、加熱された第1モールドM1または第2モールドM2の温度は、メンブレン20を成す高分子ナノファイバの融点よりも低い方が好ましい。
【0084】
図10は、本発明の一実施形態による細胞培養容器の製造方法で形成したメンブレン20の写真を示す。この時、図10cは、メンブレン20の平面写真を示し、図10dは、図10cを拡大して示したマイクロウェル21及び連結部22の平面図を示す。また、図10aは、マイクロウェル21の拡大写真を示し、図10bは、図10aのマイクロウェル21に形成された第1空隙を示す。また、図10eは、連結部22の拡大写真を示し、図10fは、図10eの連結部22に形成された第2空隙を示す。
【0085】
本発明の一実施形態による細胞培養容器の製造方法で形成したメンブレン20は、図10a及び図10eに示されているように、複数個の高分子ナノファイバが絡み合った網状に形成されていることを確認することができる。また、図10b及び図10fを参照すれば、本発明の一実施形態による細胞培養容器の製造方法で形成したメンブレン20において、マイクロウェル21に形成された第1空隙は、連結部22に形成された第2空隙よりも個数が多いことを確認することができる。この時、第1空隙率は第2空隙率に比べて約10倍以上増加したことを確認することができる。
【0086】
図1図10を参照して細胞培養容器及びその製造方法について説明した。ここで、前記した図1図10を参照した実施例では、マイクロウェル、または連結部などのようにメンブレンを構成する一部分の空隙率が如何なる条件を持たなければならないかについても一部言及したが、本発明による細胞培養容器は、流体または物質が通過できる程度の空隙だけ形成されていればよく、空隙率は如何なる制約条件なしに任意の数値を有することができる。すなわち、本詳細な説明で言及されるすべての実施例において、空隙の存在は当然認められるが、空隙率の差は細胞培養容器を具現するに際して必須な限定事項ではないことを理解すべきである。
【0087】
以下では、図11図14を参照してマイクロウェル及びプレートのまた他の実施形態について説明する。
【0088】
まず、図1に対する説明では多孔質マイクロウェル21及びプレート30について説明したが、また他の実施形態では前記多孔質マイクロウェル21上に温度による表面構造変化を有するコーティング組成物をコーティングして、温度による表面構造が変わる細胞培養層が含まれた細胞培養容器を具現することができる。
【0089】
温度による表面構造変化を有する細胞培養層は、前記多孔質マイクロウェル21の上面に32℃超過~40℃以下では細胞に対する付着力が高くて細胞の培養に好適な表面構造を持ち、0℃以上~32℃未満では細胞の脱着に好適な表面構造を持って細胞を回収するのに適した形態に形成されることができる。
【0090】
前記細胞培養層は、ポリイソピルアクリルアミド(Poly(N-isopropylacrylamide)、PNIPAAm)を含むことができ、32℃超過~40℃以下で表面粗さが4~37nmであり、望ましくは、20~32nmであり、0℃以上~32℃未満で表面粗さが4μm以上である、温度による表面粗さ変化特性を有することができる。この時、前記表面粗さは、300kHzの振動数を使用するPPP-NCHR片持ち梁または25kHzの振動数を使用するBL-AC40TS片持ち梁を利用した非接触方式の原子間力顕微鏡(atomic force microscope)(Park Systems社製、韓国)で測定されたものを意味する。
【0091】
前記細胞培養層は細胞培養層の総重量を基準として、1~5重量%の架橋剤を含むことができ、望ましくは、1重量%超過~3重量%未満を含むことができる。前記架橋剤の含有量が1重量%未満である場合は、細胞培養層に細胞が付着しにくい問題が生じることができ、5重量%を超える場合は、LCST(下限臨界共溶温度、lower critical solution temperature)未満の温度で細胞スフェロイドの脱着がよく行われないという問題が生じることができる。
【0092】
さらに、前記多孔質マイクロウェル21は、流体に対する透過性を有する反面、これを除いた部分は流体に対する透過性を有していない。この時、前記多孔質マイクロウェル21の空隙は、平均直径100nm~20μmの気孔サイズを持つことができ、望ましくは、100nm~5μmの気孔サイズを持つことができる。このような気孔サイズによって、前記多孔質マイクロウェルは、単一細胞は透過させないながらも他の物質は選択的に透過させる選択的透過膜として働くことができ、これによって、物質移動障壁及び通路の役割を果たすことができる。
【0093】
また、前記のように多孔質マイクロウェル21とその周辺部との透過率の差によって、前記多孔質マイクロウェル21及び細胞培養層を通過して流体が流れる場合、前記多孔質マイクロウェルで流体集中現象が発生することができる。このような流体集中現象が発生する場合、多孔質マイクロウェルで増殖及び分化中の細胞に、流体に含まれた酸素及び栄養素を円滑に供給することができ、これによって、細胞増殖及び分化がさらに促進されることができる。また、このような流体集中現象によって多孔質マイクロウェル内に細胞が集まるようになる現象も発生して細胞凝集体、またはスフェロイドの形成が容易である。
【0094】
また、本発明の細胞培養容器は、図1に示されているように、上部チャンバ100及び下部チャンバ200を含むことができる。前記下部チャンバ200は、上部チャンバ100が配置または装着されて細胞培養液などが流れることができるチャンバであることができる。さらに、本発明は多くの細胞を同時に培養し得るように、複数個の上部チャンバが配置されている下部チャンバを使用でき、前記上部チャンバの数は、当業界で通用される個数であれば制限なしに使用可能である。
【0095】
以下では、3次元細胞培養容器を製造する方法について説明する。具体的に、前記方法は、N-イソプロピルアクリルアミド単量体、架橋剤、及び残部の水を含み、前記架橋剤は、N-イソプロピルアクリルアミド単量体及び水の混合物100重量部を基準として1重量部以上~5重量部未満のコーティング水溶液を提供する段階と、下部に多孔質マイクロウェルを含むウェルプレートチャンバの多孔質マイクロウェルの上面に前記コーティング水溶液を利用してコーティング層を形成する段階と、前記コーティング層にUVを照射して細胞培養層を形成する段階と、を含むことができる。
【0096】
本実施形態は、前記架橋剤の含有量を調節することで細胞培養用支持体の温度変化による細胞の脱着率を調節することができ、前述のように前記架橋剤は、N-イソプロピルアクリルアミド単量体及び水の混合物100重量部を基準として、1重量部以上~5重量部未満、望ましくは、1重量部超過~3重量部未満であることができる。前記架橋剤の含有量が、N-イソプロピルアクリルアミド単量体及び水の混合物100重量部を基準として1重量部未満である場合は、細胞培養用支持体に細胞が付着しにくいという問題が生じることができ、5重量部以上である場合は、LCST未満の温度で細胞の脱着が行われ難いという問題が生じることができる。
【0097】
一方、前記架橋剤は、N-イソプロピルアクリルアミド単量体をポリイソピルアクリルアミドで重合させる役割をするものであって、ポリイソピルアクリルアミドの製造に使われる通常の方法、すなわち、単独重合(homopolymerization)、共重合copolymerization及び3元共重合(terpolymerization)、架橋重合(cross-linked polymerization)などに用いられることができる架橋剤であれば、制限なしに使用可能であり、望ましくは、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(N,N-Methylenebisacrylamide;MBAAm)及びテトラメチルエチレンジアミン(tetramethylethylenediamine、TEMED)またはこれらの混合が架橋剤として用いられることができる。
【0098】
前記コーティング水溶液中で単量体がUVによって架橋結合を行うことができるように、前記コーティング水溶液は、光開始剤をさらに含むことができる。この時、前記光開始剤は、N-イソプロピルアクリルアミド単量体及び水の混合物100重量部を基準として、0.01~0.1重量部であることができ、望ましくは、0.01~0.05重量部であることができる。前記光開始剤の含有量が、0.01重量部未満である場合は、UVによる架橋結合が行われないという問題が生じることができ、0.05重量部を超える場合は、架橋結合剤それ自体の毒性に起因して、後で後細胞培養に際して細胞が前記毒性によって死んでしまうという問題が生じることができる。
【0099】
一方、前記光開始剤は、UVを通じて架橋結合を開始することができるものであれば、制限なしに使用でき、例えば、2-ヒドロキシ-1-1[4-(ヒドロキシエトキシ]フェニル]-2-メチル-1プロパノンを使用することができる。
【0100】
前記コーティング層を形成する段階は、前記コーティング水溶液によるコーティング層が前記多孔質マイクロウェルへ流体が透過される程度に形成されるものであれば、特に制限がなく、例えば、前記コーティング層を形成する段階は、スピンコート法またはバーコート法を用いて前記コーティング層を形成することができる。さらに、前記コーティング層によって形成された細胞培養層は、ヒドロゲルのような形態で形成されるので、溶液の移動が円滑であるので、多孔質マイクロウェルとヒドロゲルを通過して流体が流れることができる。
【0101】
前記コーティング層にUVを照射して細胞培養層を形成する段階は、単量体を重合する段階であって、N-イソプロピルアクリルアミドの重合体(ポリイソピルアクリルアミド)が形成されることができる程度に遂行されるようにUVを照射するものであれば特に制限がなく、例えば、UVを1800wで10分間照射して遂行されることができる。
【0102】
一方、培養される細胞の脱着のために、3次元細胞凝集体の培養方法は、32℃超過~40℃以下の温度で3次元細胞凝集体を細胞培養層に付着させて培養させ、0℃以上~32℃未満の温度で3次元細胞凝集体を細胞培養層から脱着させる段階を含むことができ、前記細胞は、筋芽細胞(myoblasts)、胚線維芽細胞(embryo fibroblasts)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells)、またはヒト表皮細胞(human epidermal cells)であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0103】
<実施例1>
【0104】
実施例1では、下部に多孔質マイクロウェルを備える上部チャンバを製造した。具体的に、ポリメタクリル酸メチル(polymethylmethacrylate、PMMA)に一定した大きさの穴を穿孔して接着剤とともに高分子ナノファイバを穴が空いたPMMAと結合して、多孔質マイクロウェルを製造した。
【0105】
次に、高濃度のN-イソプロピルアクリルアミド単量体を含む溶液内で現われる相分離現象を利用して、高い含有量の割合のN-イソプロピルアクリルアミド水溶液と、低い含有量の割合のN-イソプロピルアクリルアミド水溶液を製造した。製造された多孔質マイクロウェルを備える上部チャンバの多孔質マイクロウェルの上面に、前記コーティング水溶液を利用して多孔質マイクロウェルの上面に32℃超過~40℃以下では細胞が付着し、0℃以上~32℃未満では細胞が脱着される細胞培養層が形成される、細胞培養容器を製造した。
【0106】
具体的に、N-イソプロピルアクリルアミド単量体と蒸溜水とを1:1質量比で混合して、N-イソプロピルアクリルアミド単量体が蒸溜水に十分に溶けることができるように5分間攪拌した。時間が経過するにつれ、低い濃度のN-イソプロピルアクリルアミド水溶液と高い濃度のN-イソプロピルアクリルアミド水溶液とは、安定的に分けられるようになり、最終的に、N-イソプロピルアクリルアミド水溶液が安定的に分離された時、ピペッティングを利用してそれぞれの溶液をバイアルに移してN-イソプロピルアクリルアミド:水の質量比が87:13である高い含有量の割合のN-イソプロピルアクリルアミド水溶液5mlを得た。
【0107】
次に、紫外線照射処理を行う時紫外線に反応させるための架橋剤であるN,N’-メチレンビスアクリルアミド(N,N-Methylenebisacrylamide、MBAAm)0.05g(N-イソプロピルアクリルアミド単量体及び水の混合物100重量部:1重量部)と、光開始剤である2-ヒドロキシ1-1[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン0.005g(N-イソプロピルアクリルアミド単量体及び水の混合物100重量部:0.01重量部)を得たそれぞれのN-イソプロピルアクリルアミド水溶液に添加した。
【0108】
N-イソプロピルアクリルアミド水溶液に架橋剤及び光開始剤を添加して製造された組成物をバーコートを利用して前記高分子ナノファイバ上に薄く塗布した後、UV光源を10分間照射して多孔質マイクロウェルの上面に32℃超過~40℃以下では細胞が付着し、0℃以上~32℃未満では細胞が脱着される細胞培養層が形成される、細胞培養容器を製造した。
【0109】
図11A及び図11Bは製造された多孔質マイクロウェルの上面に32℃超過~40℃以下では細胞が付着し、0℃以上~32℃未満では細胞が脱着される細胞培養層が形成される、細胞培養容器を示す。
【0110】
<実験例1>
【0111】
表面粗さの変化を測定するために、実施例1の細胞培養層の温度及び時間による表面粗さの変化を原子間力顕微鏡(atomic force microscope、ParkSystems社製、韓国)で測定した結果、図12に示した。
【0112】
図12に示したように、LSCTを超える温度である37℃では、実施例1の細胞培養層の表面粗さの変化がほとんどないことに対し、LSCT未満の温度である20℃では、実施例1の細胞培養層の表面粗さの変化が急激に発生することを確認することができた。
【0113】
<実験例2>
【0114】
実施例1で製造された細胞培養容器において、32℃超過~40℃以下では細胞が付着し、0℃以上~32℃未満では細胞が脱着される細胞培養層の形態的な差を確認するために、走査電子顕微鏡を活用して表面形状を比較した。
【0115】
図13Aは、N-イソプロピルアクリルアミドを含む組成物を高分子ナノファイバにコーティングする前を示し、図13Bは、N-イソプロピルアクリルアミドを含む組成物が高分子ナノファイバにコーティングされた後の細胞培養層を示す。前記細胞培養層は、高分子ナノファイバとヒドロゲルとが結合された形態である。
【0116】
<実験例3>
【0117】
36℃で実施例1の細胞培養容器にヒト肝癌細胞株(HepG2)を播種(seeding)して3日後に3次元細胞凝集体を培養した。培養された3次元ヒト肝癌細胞株凝集体を収穫するために3次元ヒト肝癌細胞株凝集体を含む上部チャンバを20℃の環境に移動した。
【0118】
図14Aは、細胞を培養中の細胞培養容器を撮影したイメージであり、図14Bは、培養された細胞を撮影したイメージを示す。また、図14Cは、培養された細胞を脱着させた細胞培養容器を撮影したイメージを示す。図5Cに示したように、本発明の細胞培養容器で培養された細胞は脱着され易いことを確認することができた。
【0119】
以下では、図15図18を参照して、本発明の一実施例による細胞培養装置、より正確には、下端流動を利用して細胞培養効果を高める細胞培養装置、並びにこれを利用した細胞培養方法を説明する。
【0120】
本実施例は、細胞培養時に生成される老廃物を容易に除去して3次元細胞の下部まで営養分を円滑に供給することができる3次元細胞培養装置に関する。具体的に、本発明は、開口部及び多孔質マイクロウェルを備える上部チャンバ100と、前記上部チャンバが配置され、多孔質マイクロウェルの下端において、流体の流動が可能な下部チャンバ200をと、含む3次元細胞培養装置に関する。
【0121】
図15を参照する時、前記上部チャンバ100は、開口部11及び多孔質マイクロウェル21を含むウェル形態のチャンバがプレートを貫通して嵌められている形態を意味することができる。なお、前記多孔質マイクロウェル21の下端は、多孔質マイクロウェルの下部領域を意味するもので、下部チャンバ200内の領域を意味する。
【0122】
前記上部チャンバ100には、下部チャンバ200の流体が外部と接触するように貫通部が形成されることができ、この時、前記貫通部は、上部チャンバ100の多孔質マイクロウェル21の隣接した部分に形成されてもよく、前記上部チャンバ100の任意の位置に貫通部が形成されてもよい。前記のように流体が外部と接触される場合、流体の流れによって形成された物理的な力によって多孔質メンブレンの形態が変形されることを防止し得るものであれば、前記貫通部の位置は特に限定されない。
【0123】
前記下部チャンバ200は、流体が流動することができる流体流入口310及び流体排出口330をさらに具備することができ、これによって、前記下部チャンバ200の流体が流動することができる。さらに、前記流体流入口310及び流体排出口330は、流動を引き起こすことができる装置がさらに連結されてもよく、例えば、前記下部チャンバ200は、流体が多孔質マイクロウェル21の水平方向に流れるようにする流体の流れを誘導する装置と連結されることができる。この時、前記流体の流れを誘導する装置として、ポンプなどを使用することができるが、前記流体の流動を引き起こすことができるものであれば特に限定されない。
【0124】
このように、前記3次元細胞培養装置は、前記下部チャンバ200を流れる流体が多孔質マイクロウェル21の下端に流れるようにする流体流動誘導装置によって前記下部チャンバ200の流体が安定に流れるようにし、前記多孔質マイクロウェル21の空隙の透過性によって、前記のような流れを有する流体が3次元細胞培養時に形成される老廃物を多孔質メンブレンの上面から下部チャンバ200へ排出させることができ、3次元細胞の下部まで営養分を円滑に供給することができる。ひいては、下部チャンバ200から3次元細胞培養装置の外部へ老廃物を排出させることができる。例えば、前記流体流動誘導装置は、シリンジポンプ(syringe pump)、ペリスタポンプ(peristaltic pump)または攪拌機などを使用することができる。
【0125】
また、前記3次元細胞培養装置は、3次元細胞培養時、多孔質マイクロウェルに印加される圧力を分散させるとともに、形成される老廃物及び営養分を効率よく除去及び供給し得るように、前記上部チャンバ100は、下部チャンバ200の流体の表面が外部と接触するように貫通部400が形成されることができる。
【0126】
前記貫通部400は、下部チャンバ200の流体の表面が外部と接触可能な構造を提供することで、前記のような構造によって流体の流れ時に上部チャンバ100に圧力がかかって多孔質マイクロウェル21が変形され、これにより、3次元細胞培養時細胞の安着、増殖及び分化に悪影響を及ぼすという問題を解決することができる。
【0127】
一方、本発明は本発明の3次元細胞培養装置を利用して多孔質マイクロウェルに細胞培養液及び細胞を投入して細胞を培養する段階を含む3次元細胞培養方法を提供し、前記細胞は筋芽細胞(myoblasts)、胚線維芽細胞(embryo fibroblasts)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells)、ヒト肝癌細胞(HepG2細胞)またはヒト表皮細胞(human epidermal cells)であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0128】
以下、具体的な実施例によって本発明をより具体的に説明する。下記実施例は本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【0129】
<実施例2>
【0130】
図15aのような形態の多孔質マイクロウェルを備える上部チャンバ100と、下部チャンバ200とを含む3次元細胞培養装置において、多孔質マイクロウェル21にHepG2細胞及びDMEM(Dulbeco’s Modified Eagle’s Media、FBS10%)培養液と一緒に注入した後、これを37℃で48時間安定化させて3次元スフェロイドを形成した。その後、下部チャンバに流動を与えて9日間培養した。
【0131】
<比較例2>
【0132】
前記実施例2で下端流動を与えないことを除き、実施例2と同様に3次元のHepG2スフェロイドを培養した。
【0133】
前記実施例2及び比較例2において、前記培養期間中、6日目及び9日目でHepG2スフェロイドのアルブミン発現量を測定した。測定されたアルブミン発現量を図16aに示し、図16aに示したように、比較例2で培養されたHepG2スフェロイドのアルブミン発現量は、6日目に1182.64mg/ml、9日目に2966.505mg/mlである一方、実施例2で培養されたHepG2スフェロイドのアルブミン発現量は、6日目に4813.99mg/ml、9日目に6644.55mg/mlであることを確認することができた。すなわち、下端流動のある3次元細胞培養装置で培養させたHepG2スフェロイドのアルブミン発現量が大きいことが分かったし、これから、下端流動によって3次元HepG2スフェロイドの機能性の向上を確認することができた。
【0134】
<実施例3>
【0135】
下端流動による本発明の3次元細胞培養装置において、老廃物が効率的に除去されることができることを確認するために、図15aのような形態の3次元細胞培養装置の多孔質マイクロウェルにFITC-Dextran 20kDaを200μg/mlを入れ、下端流動を3時間の間行った後、多孔質マイクロウェルに残っているFITC Dextranの濃度を測定した。
【0136】
<比較例3>
【0137】
前記実施例3で下端流動を与えないことを除き、実施例3と同様に、FITC-Dextranを入れて3時間後に多孔質マイクロウェルに残っているFITC-Dextranの濃度を測定した。
【0138】
実施例3にて老廃物が蓄積された程度を肉眼で観察した結果を、図17に示したし、前記実施例3及び比較例3で測定されたFITC-Dextranの濃度を図16bに示した。図16bに示されているように、下端流動のある実施例4の場合、多孔質マイクロウェルに残っているFITC-Dextranの濃度は、55.6199±3.3429mg/mlであることに対し、比較例3の場合、多孔質マイクロウェルに残っているFITC-Dextranの濃度は、131.435±7.80245mg/mlであることを確認することができた。
【0139】
すなわち、下端流動がある時、多孔質マイクロウェルに残っているFITC-dextranの濃度は、下端流動がない場合に比べて著しく低く、同量の培養液であっても下端流動のあった時の方が、多孔質マイクロウェルに残っている細胞の老廃物を効率よく除去できることを確認することができた。これは、図18aのように、下部チャンバにおいて、流体流動誘導装置及び多孔質マイクロウェルによって多孔質マイクロウェルの上面の老廃物が除去されることを確認することができた。図18aは、培養液の下端流動があるときに、多孔質マイクロウェル内に存在していた老廃物が空隙を通過して除去される様子、言い換えれば、老廃物が流体の流れに沿って空隙を通過するようになることで、マイクロウェルの内部から除去される様子を示したものである。一方、図18bは、培養液が下部チャンバ内において、下端流動される時に培養液が自然にマイクロウェルの内部へ拡散される現象を示したもので、培養液の下端流動がある時にメンブレンの空隙を介して老廃物が除去されることができるのみならず、培養液の拡散も同時に起きることができることを説明するための図である。図18a及び図18bを参照するとき、老廃物が空隙を通過する方向と培養液が空隙を通過する方向とは、互いに反対の方向になることは言うまでもない。
【0140】
以下、図19図29を参照して、本発明のまた他の実施例による細胞培養装置及び細胞培養方法について説明する。
【0141】
本実施例によれば、細胞を培養する過程において、マイクロウェルの上部でピペッティングを介して使用済みの細胞培養液を除去し、新しい細胞培養液を注入する既存の細胞培養液の入れ替え法を用いる場合、ピペッティングによる培養液流動によって細胞及び細胞凝集体の消失が発生することができるという問題を解決することができる。また、持続的に多孔質マイクロウェルを透過して誘導される細胞凝集体の周辺の流動によって営養分のような均一な細胞微小環境の具現が可能である。したがって、本発明によれば、培養過程で前記のような細胞の消失を最小化することができるとともに、持続的に均一な細胞凝集体の周辺の微小環境を誘導し、2次元培養に比べて生体内における現象と一層類似した現象を示す3次元の細胞凝集体を培養することができるようになる。
【0142】
図19を参照する時、本実施例による細胞培養装置は、開口部、多孔質メンブレン、及び培養液を収容する細胞培養空間を有する多孔質マイクロウェル21を備える上部チャンバ110を含む。また、前記上部チャンバ110が内部に配置される空間を具備する下部チャンバ210を含み、前記上部チャンバ110の上部に流入した流体は、前記上部チャンバ110から多孔質マイクロウェル21を透過して前記下部チャンバ210に流入し、下部チャンバ210の流体は排出されて流体を流動させるように具現される。
【0143】
また、本詳細な説明では、図19の細胞培養装置を利用して、上部チャンバ110の多孔質メンブレン上に細胞を播種する段階と、細胞培養液を上部チャンバ110の上部へ流入口311または開口部を介して投入する段階と、上部チャンバ110から多孔質マイクロウェルを透過して下部チャンバ210に流入した細胞培養液を、下部チャンバ210から排出する段階と、を含む3次元細胞凝集体培養方法について言及することにする。また、前記3次元細胞凝集体培養方法は、下部チャンバ210から排出される細胞培養液によって細胞培養液が流動するようになり、ひいては、前記細胞培養液を下部チャンバ210へ投入する段階をさらに含むこともできる。
【0144】
本発明の一実施形態による3次元細胞培養装置は、上部チャンバ110の上部に流入した流体が前記上部チャンバ110から多孔質マイクロウェル21を透過して前記下部チャンバ210に流入し、ひいては、下部チャンバ210の流体は排出されて流体を流動させ、この時、前記下部チャンバ210の流体は、下部チャンバ210に具備された流体排出口を介して排出されるか、または上部チャンバ110と下部チャンバ210との間の間隙領域を介して排出されるものであってもよく、例えば、前記間隙領域の上部を介して排出されるものであってもよい。
【0145】
前記流体排出口は、下部チャンバ210の如何なる位置でも形成でき、例えば、図1cのように下部チャンバ210下端に設けられてもよいが、これに限定されるものではない。一方、下部チャンバ210にこのような流体排出口が具備されていない場合、図29a~図29cのように、上部チャンバ110と下部チャンバ210との間の間隙領域を介して流体を排出させて流体の流れを形成することができる。この時、上部チャンバ110と下部チャンバ210との間の間隙領域が存在するために、上部チャンバ110と下部チャンバ210の各側面の壁との間に間隙が存在するように、各チャンバのサイズを調節することができ、これらの間の間隙領域で空気と接する界面の上部から流体を排出させることができる。
【0146】
つまり、本発明による3次元細胞培養装置は、下部チャンバ210から流体を排出するように排出構造を具備することができ、この時、排出構造は下部チャンバ210に流体排出口331を介して流体を流動させる構造、または上部チャンバ110と下部チャンバ210との間の間隙領域、言い換えれば上部チャンバ110と下部チャンバ210との間に存在する間隙を通じて排出させることで流体を流動させる構造からなることができる。
【0147】
一方、本詳細な説明において具体的に言及されていないその他の排出構造が存在することができるが、細胞培養液を含む流体の流れが上部チャンバ110から下部チャンバ210につながる下方の流れを維持することができる限り、排出構造の具体的な詳細条件には限定がないと言える。
【0148】
ここで、本実施例において前記多孔質メンブレンは、ナノファイバネットワークからなるもので、空隙率が20%~60%の多孔質メンブレンであってもよく、例えば、空隙率が30%~50%の多孔質メンブレンであることができる。前記空隙率が20%未満である場合は、透水係数が低くなり、これによって、多孔質メンブレンに加えられる水圧が増加することで、多孔質メンブレン上に培養中の細胞凝集体の生存率が低下するという問題を招くことができる。
【0149】
また、前記多孔質メンブレンは、10nm~10μmの平均空隙の粒径を有することができる。すなわち、前記多孔質メンブレンは、前記のような範囲の平均空隙の大きさを含むので、単一細胞は透過させないとともに細胞培養液内の営養分、成長因子などの他の物質は選択的に透過させる選択的透過膜として働くことができる。これにより、多孔質メンブレン上で単一細胞の凝集を誘導して3次元凝集体を形成させることができ、凝集体形成後には物質移動障壁及び通路の役割を果たすことができる。
【0150】
多孔質メンブレンは、前述した本発明の空隙率及び平均空隙の粒径のサイズの範囲内で高い透水係数の特性を保持することができる。また、前記多孔質メンブレンは、1~20μms-1の透水係数(Hydraulic conductivity)を有することができる。前記透水係数が1μms-1未満の場合は、多孔質メンブレンに高い水圧を招き、1000Pa以上の水圧が多孔質メンブレン及び培養中の細胞凝集体に印加されれば細胞の生存率を低下させるなどの悪影響があり得る。
【0151】
前記多孔質メンブレンは、細胞培養用ナノファイバネットワークであるものであって、その製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、電気放射によって形成される高分子ナノファイバからなるものであってもよい。
【0152】
前記ナノファイバネットワークの製造方法は、例えば、ポリカプロラクトンを4~10wt%濃度になるようにクロロホルム/メタノール3/1vol/vol混合物の溶媒に溶解した溶液を電気放射する段階を含むことができる。前記電気放射は、10~30kV電圧下で0.1~2.0mlhr-1の高分子溶液の吐出速度で行われることが好ましく、電圧が前記範囲未満の場合には、均一なナノファイバの製造に問題があり、前記範囲を超える場合は、ナノファイバの積層が不均一になるなど、安定したナノファイバの製造に問題があり得る。
【0153】
前記多孔質マイクロウェルは、下向きに凹んで形成された凹部の全体または一部が多孔質メンブレンであってもよく、望ましくは、多孔質マイクロウェル、すなわち、上部チャンバの開口部を上向きに配置する場合、底を形成する面が多孔質メンブレンで形成される。
【0154】
一方、前記本発明の上部チャンバ110の下面を成す多孔質メンブレンは、凸部及び/または凹部を具備するように形成されることができる。例えば、図28のように多孔質メンブレンを利用して凹部を形成するとか、もしくは、図26のように、多孔質メンブレン上に凹部に相応する区画を画成することができる側壁または凸部をさらに付け加えて凹部を形成することができ、この時、側壁または凸部の材質は、多孔質であってもよく、または多孔質ではなくてもよく、特に制限されない。望ましくは、凹部の下面は、多孔質メンブレンであり、側壁または凸部は多孔質でも多孔質ではなくてもよい。例えば、図21a及び図21bは、貫通孔が形成された更なる層を積層することで、凹部の側壁が多孔質材質ではない場合の形態を示した例示であり、図21cは、多孔質メンブレンそれ自体に凹部が形成されているもので、凹部及び凹部ではない部分が全体的にいずれも多孔質である材質である場合である。
【0155】
多孔質マイクロウェルは、例えば図26に示したように、電気放射により作製された多孔質メンブレンをスルーホール(Thru-hole)の配列と結合して製造することができるが、これに限定されない。一方、図21cのように、多孔質材質の凹部及び凸部の形成は、例えば、図28のようにモールドを活用した圧縮工程を用いて行われることができる。
【0156】
前記多孔質マイクロウェルの多孔質メンブレンの上面は、細胞培養層として働く領域であって、前述した如く、多孔質メンブレンが凸部及び凹部を具備する場合には、形成された凹部に細胞がより容易に安着するようになり、前記多孔質マイクロウェル内で単一細胞の凝集を誘導して3次元細胞凝集体が安定に形成された後、培養されることができるようになる。より望ましくは、本発明の多孔質メンブレンは凸部及び凹部を具備し、すべての面が多孔質メンブレンからなる。
【0157】
一方、前記下部チャンバ210は、上部チャンバ110が内部に配置される空間を具備し、下部チャンバ210に流体排出口が具備される場合、このように流体が排出されることができる流体排出口331を介して前記上部チャンバ110が内部に配置された状態で培養液が入っている下部チャンバ210の流体が下部チャンバの外部へ排出されながら培養液が流動することができる。このために、前記上部及び/または下部チャンバ210には流動を引き起こすことができる装置がさらに連結されることができるし、例えば、前記上部チャンバ110に細胞培養液を一定した流速で注入する装置が追加されてもよく、前記下部チャンバ210は、前記上部チャンバ110に流入した流体を、前記上部チャンバ110の多孔質メンブレンを透過して前記下部チャンバ210へ流れながら一定した流速で排出させる、流体の流れを制御する装置と連結されることができ、これは、例えば培養液貯留槽であることができる。この時、前記流体の流動を引き起こすことができるものであれば、流体の流れを誘導する装置は特に制限がなく、例えば、前記流体流動誘導装置はシリンジポンプ(syringe pump)、ペリスタポンプ(peristaltic pump)または攪拌機などを用いることができる。
【0158】
本発明による3次元細胞培養装置は、前記下部チャンバ210と同一平面上に配置されて、下部チャンバ210と流体連通されている培養液貯留槽65をさらに含むことができ、前記培養液貯留槽65内の培養液の高さは、下部チャンバ210内の培養液の水位に相応するように設定されることができる。
【0159】
前記下部チャンバ210内の培養液の水位は、上部チャンバ110下端の多孔質メンブレンを基準に上向きに1~20mmの高さであることであることができ、例えば、1~19mm、望ましくは、1~18mm、例えば、1~8mmである。培養液の水位が前記望ましい範囲未満の場合、培養中の細胞凝集体に円滑な営養分供給ができなくなる恐れがあり、前記望ましい範囲を超える場合、培養液の氾濫及び過用をもたらすことができる。
【0160】
また、前記上部チャンバ110下端の多孔質メンブレンと下部チャンバ210の底との間隔は、0.1~8mmであることができ、例えば、0.2~7mm、望ましくは、1~5mmである。間隔が前記望ましい範囲未満の場合、細胞培養液の流動が制限されて排出口を介した排出ができない恐れがある。また、前記望ましい範囲を超える場合、培養液の過用をもたらすことができる。
【0161】
この時、前記流体、すなわち細胞培養液は一定した速度を維持しながら流動することができる。このために、前記流体の流入と排出を一定した速度で調節することができる。この時、例えば、前記流体は0.0001~1mlhr-1、例えば、0.001~1mlhr-1の速度で、望ましくは0.01~1mlhr-1の速度で流動することができる。前記流体の流動速度が0.0001mlhr-1未満の場合は、細胞凝集体が必要とする量の細胞培養液が供給されないという問題が生じることができ、1mlhr-1を超える場合は、細胞凝集体に流動による過度な剪断応力が作用して細胞凝集体に悪影響を及ぼす可能性がある。細胞に悪影響を及ぼさない剪断応力、例えば、0.001~10dynecm-2の剪断応力は細胞に分化及び増殖に肯定的な影響を及ぼすことができる。
【0162】
一方、前記細胞培養液は、1000Pa未満の水圧で前記多孔質メンブレンに印加することが好ましく、圧力が少ないほどより好ましく、例えば、1Pa~100Paであることができる。尚、1000Paを超える場合、細胞生存率が低下するという問題がある。
【0163】
本発明の3次元細胞凝集体培養装置及び前記装置を利用した3次院細胞凝集体培養方法では、細胞株、例えば、筋芽細胞(Myoblasts)、胚線維芽細胞(Embryo fibroblasts)、臍帯静脈内皮細胞(Umbilical vein endothelial cells)、肝癌細胞(HepG2細胞)、表皮細胞(Epidermal cells)またはこれらのうち少なくとも一種以上の混合などを使用することができる。また、細胞株だけではなく、肝、膵膓、小腸などの1次細胞も使用され得る。最後に、幹細胞、例えば、誘導多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cell)、間葉幹細胞(Mesenchymal stem cell)またはこれらのうち少なくとも一種以上の混合などの細胞を培養することができるが、これらに限定されるものではなく、3次元細胞凝集体であるスフェロイドまたはオルガノイドを培養することができる。
【0164】
なお、本実施例による3次元細胞凝集体培養方法は、前記本発明の3次元細胞培養装置を利用して、上部チャンバ110の多孔質メンブレン上に細胞を播種する段階と、細胞培養液を上部チャンバ110の上部へ流入口311または開口部を介して投入する段階と、を含むものであっておよい。
【0165】
前記細胞は、前記多孔質メンブレン上に播種されて培養されることができ、前記播種は、前記上部チャンバ110に流体を流入する段階に先立って、培養する細胞を前記多孔質メンブレン上に播種することで行われることができる。これによって、細胞は前記の3次元細胞培養装置に適用可能であり、前記細胞を播種する方法は、当業界で使われる方法によって行われることができ、例えば、マイクロピペッティングを利用して播種することができる。
【0166】
前記方法に播種された細胞は、数時間から数日内に3次元細胞凝集体を形成する。細胞凝集体形成後に、開発された装置による細胞培養液の流動が印加されることができる。
【0167】
次に、具体的な実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。下記実施例は本発明の理解を助けるための例示に過ぎなく、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【実施例
【0168】
1.多孔質メンブレンの製造
【0169】
ポリカプロラクトン(Polycaprolactone、PCL;Mn=80,000gmol-1)、クロロホルム及びメタノールはSigma-Aldrich社(米国)から購入した。電気放射のためのPCL溶液は、7.5wt%濃度のクロロホルム/メタノール3/1vol/volの混合物にPCLを溶解して用意した。用意したPCL溶液を5ml精密注射器(ガスタイトシリンジ(Gastight syringe)、Hamilton社製)に入れて商用電気放射器(ES-robot、NanoNC社製、韓国)を用いて直径5cmの環状の電極上に10cm距離を置いて配置された23ゲージの金属針を介して1mlh-1の流速で吐出した。金属針と環状の電極との間に前記商用電気放射器を活用して15kVの高電圧を加えて電気放射を遂行した。電気放射されたPCLナノファイバ(As-electrospun PCL nanofiber)は、環状の電極との間に蒸着されて気体及び質量透過性ナノファイバメンブレンを生成した。電気放射は、相対湿度50~60%、温度20~25℃で実施した。ナノファイバネットワークの製造時に放射時間による顕微鏡写真を図22に示したし、ナノファイバの直径は約800~1000nmであることを確認し、放射時間の増加につれ平均空隙の大きさ及び空隙率(Porositiy)は減少し、逆に平均厚さは増加した。
【0170】
前記ナノファイバネットワーク製造時に放射時間によるナノファイバネットワークの構造の変化(図22a)、空隙率の変化(図22b)、多孔質メンブレンの透水係数(Hydraulic conductivity)(図22c)、及び水圧(Induced pressure)(図22d)を、それぞれ図22に示した。
【0171】
この時、空隙率の計算方法は、拡大された顕微鏡イメージを二進イメージ(Binary image)に変換した後、ImageJソフトウェア(NIH社、米国)を用いてナノファイバネットワーク面積対比ナノファイバネットワークによって生成された空隙の面積分率を計算して示したものである。
【0172】
2.多孔質マイクロウェルを備える上部チャンバの製造
【0173】
前記1.にて得られた多孔質メンブレン及び培養液を収容する細胞培養空間を具備する多孔質マイクロウェルを備える上部チャンバを製造するために、一連の工程を遂行したし、これを図26に示した。詳しく、上部チャンバの下端の多孔質メンブレン領域は、500μm厚さのポリメタクリル酸メチル(PMMA)プレート(Acryl Choika社製、韓国)に接着剤を塗布した後、レーザーカッター(ML-7050A、Machineshop社製、韓国)を用いて接着剤が塗布されたPMMAプレートにスルーホールの配列を穿孔したし、塗布された接着剤を活用してスルーホールと多孔質メンブレンとを結合することで、最終的に図21のように底面が多孔質メンブレンからなる凹部を形成して完成した。
【0174】
また他の形態の上部チャンバ下端の多孔質メンブレン領域を製作するための一連の工程を図28に示した。より詳しく、前記1.にて得られたフラットな多孔質メンブレンを凸モールド及び凹モールドを活用した圧縮工程によって、すべての面が多孔質メンブレンからなる凸部及び凹部が形成されている多孔質メンブレンを具備する上部チャンバの下端を完成した。この時、凹モールドは、10mm厚さのポリメタクリル酸メチル(PMMA)プレート(Acryl Choika社製、韓国)に機械加工装備(EGX-350、Roland社製、米国)を活用して穿孔によって製作し、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane、PDMS)で構成された凸モールドを製作するために、10:1の重量比でPDMSと硬化剤の混合物(Sylgard 184、Dow Corning社製、米国)を凹モールドに注いで55℃で12時間の間硬化して完成した。
【0175】
上部チャンバの中で開口部の形態を持つ残りの側面部分は、射出成型機(SE50D、住友社、日本国)を活用して製作した。このように得られた前記側面部分と前記で得られた上部チャンバの下端とを接着剤を活用して結合して多孔質マイクロウェルを備える上部チャンバを完成した。
【0176】
3.3次元細胞凝集体培養装置の製造
【0177】
ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane、PDMS)で構成された下部チャンバとその蓋を製作するために、10:1の重量比でPDMSと硬化剤との混合物(Sylgard 184、Dow Corning社製、米国)をモールドに注いで55℃で12時間の間硬化した。下部チャンバ及び蓋のモールドは、20mm厚さのPMMAプレートを機械加工装備(EGX-350、Roland社製、米国)を活用して製作した。下部チャンバは、30mm×30mm×30mmの大きさに製作され、この時、上面に2mm深さの溝を設計して(図27a)下部チャンバの底面から前記2.で製作された多孔質マイクロウェルの多孔質メンブレンまでの距離間隔は8mmに設定した(図27b)。下部チャンバの底面及び蓋の中央にBiopsy punch(Miltex社製、米国)を活用して1mm大きさに穿孔して排出口を形成した。
【0178】
開口部の蓋の穿孔を介してチューブ(Biokonvision社製、韓国)が連結されシリンジポンプ(KDS200、KD Scientific社製、米国)は、前記チューブを介して0.062mlh-1の流速(flow rate)で細胞培養液を注入した。下部チャンバの底面の穿孔も、チューブと連結されて細胞培養液を培養液貯留槽に移送させるようにした。また、前記培養液貯留槽の下部にZステージ(stage)(Sciencetown社製、韓国)を具備し、貯留槽の高さは下部チャンバ内の培養液の水位に相応するように設定し、培養過程でシリンジポンプから持続的に培養液が流入するにも拘わらず、下部チャンバの培養液の水位を一定に維持するように設計された。
【0179】
4.凝集体培養装置を利用した細胞培養
【0180】
<実施例4>
【0181】
前記1で製造された多孔質マイクロウェルを備える上部チャンバ及び下部チャンバに加えて排出された培養液を貯留することができる培養液貯留槽を含む3次元細胞培養装置を図19のように設けた。この時、培養液貯留槽の高さは、下部チャンバの底面から下部チャンバの水位が12mmに相応するように設定した。このように得られた細胞培養装置と関しては、「本発明の細胞培養装置」及び「実施例4の細胞培養装置」を相互互換的に指称することにする。
【0182】
前記3次元細胞培養装置において、多孔質マイクロウェルに肝細胞(HepG2)及びDMEM(Dulbeco’s Modified Eagle’s Media、FBS10%)培養液を一緒に注入した後、これを37℃で48時間の間流動を印加しないで静的な環境下で3次元HepG2凝集体、すなわち、HepG2スフェロイドを形成した。その後、シリンジポンプを利用して一定した流速である0.062mlhr-1で上部チャンバに細胞培養液を持続的に注入した。その後、前記注入された流量位流体を排出するために、下向きに流体排出口331が形成された下部チャンバを介して培養液貯留槽へ排出させて8日間HepG2スフェロイドを培養した。
【0183】
<比較例4>
【0184】
多孔質メンブレンではない不透過性のPMMAプレートの底面で構成された不透過性のマイクロウェルを用いたことと、シリンジポンプ、培養液貯留槽などの細胞培養液の流動を印加する装置を用いることなくピペッティングを利用した細胞培養液の入れ替えを遂行したことを除き、前記実施例4と同様にHepG2スフェロイドを培養した。
【実験例】
【0185】
(1)時間の経過による3次元細胞培養装置内の流体の入れ替えの確認
【0186】
実施例4の3次元細胞培養装置において、上部チャンバへ新しく流体が0.062mlhr-1の流速で注入される際に、3次元細胞培養装置内の流動変化(流体の入れ替えの確認)を確認するための実験を進行した。
【0187】
図25に示したように、細胞培養凝集体の内部に既存に存在していた青い溶液が、新たに注入される透明な色の溶液に漸進的に入れ替えられることを確認することができた(黒白の図面では図25の左側から右側に時間が経過するほど暗い色の溶液が徐々に明るい色に変わって行くことを確認することができる)。また、この過程で下部チャンバの水位は一定に維持されることを確認することができた。
【0188】
2)実施例4における細胞培養液の流れの解釈
【0189】
本発明の3次元細胞培養装置における細胞培養液の流れを測定するための電算流体解釈方法を適用するために、COMSOL Multiphysicsソフトウェア(Version5.0、米国)を通じて実施例4の3次元細胞培養装置における流速(Surface velocity:0ms-1~8.11e-6ms-1)、流動方向(黒色のコーン状)、流線(白色線)にあたる内容を解釈及び計算した。
【0190】
その結果、図20に示しているように、本発明の3次元細胞培養装置で、細胞培養液は上部チャンバから下部チャンバに円滑に流れることを確認することができた。
【0191】
(3)細胞培養時細胞が消失される程度の比較
【0192】
実施例4及び比較例4において2日間隔で肝細胞スフェロイドの消失程度を比較し、その結果を図23に示した。
【0193】
図23に示したように、実施例4では幹細胞のスフェロイドの消失が全くなかったが、比較例4では持続的にスフェロイドが消失されて、8日目には約15%ほどのHepG2細胞スフェロイドの消失が発生することを確認することができた。
【0194】
(4)時間の経過による3次元細胞凝集体の周辺の営養分の濃度の比較
【0195】
実施例4及び比較例4において、時間の経過によるHepG2スフェロイドの周辺の営養分(Glucose)の濃度を測定して、比較分析のために、COMSOL Multiphysicsソフトウェア(Version5.0、米国)を活用した。この過程で活用された数値は、下記表1に示した。
【0196】
【表1】
【0197】
図24に示すように、実施例4の細胞培養装置では36時間後、均一な営養分濃度がHepG2細胞凝集体の周辺に誘導されることが数値予測されたが、比較例4ではピペッティング間隔前後で営養分濃度の変化がひどく、細胞凝集体の周辺に不均一な営養分の濃度が誘導されることが数値予測された。
【0198】
(5)実施例4の3次元細胞培養装置における多孔質メンブレンの透水係数及び水圧の測定
【0199】
上部チャンバで新しく流体が0.062mlhr-1の流速で注入される時、3次元細胞培養装置内の多孔質メンブレンに印加される水圧(Applied pressureon membrane)を確認するための実験を進めた。これを確認するために、事前に透水係数の測定は、発明された装置の外部で、下記のように変水位法(Falling-head method)を活用して進行した。
【0200】
具体的に、初期圧力水頭(Initial pressure head、h)を有する水が多孔質メンブレンを透過して最終圧力水頭(Final pressure head、h)に至るまでの時間を確認してダルシーの法則(Darcy’s law)に基づく式によって透水係数を測定した。
【0201】
【数1】
【0202】
ここで、Kは多孔質メンブレンの透水係数、Lは多孔質メンブレンの厚さ、tはhでhまで至る時間であり、本実験ではそれぞれ100mmと10mmのh及びhを活用した。計算された透水係数に基づいて多孔質メンブレンの透過度(Permeability)を次のような式2を活用して計算した。
【0203】
【数2】
【0204】
ここで、kは現在多孔質メンブレンの透過度、μは細胞培養液の粘度、ρは細胞培養液の密度、gは重力加速度である。
【0205】
0.062mlhr-1の流速で多孔質メンブレンを透過する細胞培養液、測定された透水係数と計算された透過度に基づいて次のような式(コゼニー・カルマンの式(Kozeny-Carmane quation))を活用して多孔質メンブレンに印加される水圧を計算した。
【0206】
【数3】
【0207】
ここでは、現在多孔質メンブレンを透過する流体の流速kは現在多孔質メンブレンの透過性、μは細胞培養液の粘度、Lは多孔質メンブレンの厚さであり、pは多孔質メンブレンに印加される水圧である。
【0208】
図22に示したように、多孔質メンブレンに印加される水圧、すなわち、水力反発力は多孔質メンブレンを構成するナノファイバのネットワークが疎であるほど、つまり、電気放射の遂行時間が短いほど、すなわち空隙率及び透水係数が高いほど低いことを確認した。これを本発明の多孔質メンブレンではない商用多孔質メンブレンと比較分析した時、本発明の多孔質メンブレンに遥かに低い水力反発力が印加されることを確認することができたし、ナノファイバネットワークで構成された多孔質メンブレンが本発明の装置にさらに好適であることを確認することができた。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18a
図18b
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
【国際調査報告】