(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-15
(54)【発明の名称】B系統細胞を分化及び増大させるための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0781 20100101AFI20240408BHJP
【FI】
C12N5/0781
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566753
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(85)【翻訳文提出日】2023-12-13
(86)【国際出願番号】 CA2022050662
(87)【国際公開番号】W WO2022226659
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518393115
【氏名又は名称】ステムセル テクノロジーズ カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】タバタベイ-ザヴァレー,ヌーシン
(72)【発明者】
【氏名】ブラワー,パトリック
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA92X
4B065BA06
4B065BB19
4B065CA60
(57)【要約】
細胞をB細胞系統へと指向性分化させるための培地、キット、及び方法が開示される。開示される分化手法は、1つ以上の段階特異的培地調合物を使用して、1つ以上の中間細胞集団を介して初代細胞または多能性幹細胞由来細胞を取り、B系統細胞をもたらすことができる。したがって、指向性分化ワークフローを実行するための培地及びサプリメントは、1つ以上の基礎培地と、それに添加される1つ以上のサプリメントとを含むキットに含まれ得る。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B細胞前駆体の集団を調製する方法であって、
CD34
+造血幹または始原細胞(HSPC)の集団を、基礎培地と、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうちの少なくとも1つと、少なくとも1つの他のサイトカインとを含む、誘導培地と接触させること、ならびに、
前記誘導培地中の前記HSPCの集団を無血清条件下で培養してB細胞前駆体の集団を取得すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記HSPCの集団を、臍帯血もしくは骨髄から濃縮するか、または多能性幹細胞(PSC)から分化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記B細胞前駆体の集団が、CD10またはCD19の一方または両方を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記誘導培地が、SCFまたはTPOのいずれかを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記B細胞前駆体の集団を分化培地と接触させること、及び前記分化培地中の前記B細胞前駆体の集団を無血清条件下で培養することをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
CD19
+B系統細胞の集団を取得することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導培地中の前記HSPCの集団を培養した後よりも多くのCD19
+B系統細胞を取得することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記CD19
+B系統細胞の少なくとも一部が、IgM
+細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記分化培地が、基礎培地と、SCF、TPO、及びFLT3Lのうちの少なくとも1つと、前記少なくとも1つの他のサイトカインとを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記CD19
+B系統細胞の集団を下流分化培地と接触させること、及び前記下流分化培地中の前記CD19
+B系統細胞の集団を無血清条件下で培養することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記分化培地中の前記B細胞前駆体の集団を培養した後よりも多くのIgM
+細胞を取得することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記IgM
+細胞の少なくとも一部が、抗体分泌細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記下流分化培地が、基礎培地、ヒトCD40のリガンド、及び前記少なくとも1つの他のサイトカインを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
B系統細胞の集団を調製する方法であって、
B細胞前駆体の集団を、基礎培地と、SCF、TPO及びFLT3Lのうちの少なくとも1つと、少なくとも1つの他のサイトカインとを含む、分化培地と接触させること、ならびに、
前記分化培地中の前記B細胞前駆体の集団を無血清条件下で培養してB系統細胞の集団を取得すること
を含む、前記方法。
【請求項15】
前記B細胞前駆体の集団が、CD10またはCD19の一方または両方を発現する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記B細胞前駆体の集団が、臍帯血もしくは骨髄から濃縮されたか、または多能性幹細胞(PSC)から分化したかのいずれかである、CD34
+造血幹または始原細胞(HSPC)の集団に由来する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記B系統細胞の集団が、CD19を発現し、前記B系統細胞の集団が、誘導培地中の前記HSPCの集団を培養して前記B細胞前駆体の集団を得た後よりも多くのCD19
+細胞を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
CD19
+B系統細胞の少なくとも一部が、IgM
+細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記B系統細胞の集団を下流分化培地と接触させること、及び下流分化培地中の前記B系統細胞の集団を無血清条件下で培養することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記分化培地中の前記B細胞前駆体の集団を培養した後よりも多くのIgM
+細胞を取得することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記IgM
+細胞の少なくとも一部が、抗体分泌細胞である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記下流分化培地が、基礎培地、ヒトCD40のリガンド、及び前記少なくとも1つの他のサイトカインを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記誘導培地が、無血清である、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記誘導培地が、基礎培地と、少なくとも1つのサイトカインと、SCF、TPO、及びFLT3Lのうちの1つ以上とを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つの他のサイトカインが、IL-3、IL-6、またはIL-7のうちの1つ以上である、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つの他のサイトカインが、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、またはIL-21のうちの1つ以上である、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記方法が、フィーダー細胞不含条件下で行われる、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
フィーダー細胞不含条件が、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞外マトリックスタンパク質または前記細胞接着分子が、可溶化されているかまたは培養容器の表面上にコーティングされている、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞外マトリックスタンパク質または前記細胞接着分子が、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ECM1、SPARC、オステオポンチン、血管細胞接着分子、固定化SCFタンパク質、または前述のもののいずれかの組み合わせである、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
フィーダー細胞不含条件が、可溶化されているかまたは培養容器の表面上にコーティングされている細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子の非存在下である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
B系統細胞の指向性分化のためのキットであって、
基礎培地と、
幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうちの少なくとも1つ、ならびに少なくとも1つの他のサイトカインを含む、少なくとも1つのサプリメントと
を含む、前記キット。
【請求項33】
第2のサプリメントをさらに含む、請求項32に記載のキット。
【請求項34】
前記第2のサプリメントが、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうちの少なくとも1つ、ならびに少なくとも1つの他のサイトカインを含む、請求項33に記載のキット。
【請求項35】
前記少なくとも1つのサプリメントの調合物が、前記第2のサプリメントとは異なる、請求項33または34に記載のキット。
【請求項36】
第3のサプリメントをさらに含む、請求項32~35のいずれか1項に記載のキット。
【請求項37】
前記第3のサプリメントが、ヒトCD40のリガンド、及び少なくとも1つの他のサイトカインを含む、請求項36に記載のキット。
【請求項38】
前記少なくとも1つのサイトカインが、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、またはIL-21のうちの1つ以上である、請求項32~37のいずれか1項に記載のキット。
【請求項39】
基礎培地と、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうちの少なくとも1つと、少なくとも1つの他のサイトカインとを含む、B細胞前駆体の誘導のための培地。
【請求項40】
基礎培地と、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうちの少なくとも1つと、少なくとも1つの他のサイトカインとを含む、B系統細胞の分化のための培地。
【請求項41】
基礎培地、ヒトCD40のリガンド、及び少なくとも1つの他のサイトカインを含む、B系統細胞の下流分化のための培地。
【請求項42】
前記少なくとも1つのサイトカインが、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、またはIL-21のうちの1つ以上である、請求項39~41のいずれか1項に記載の培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年4月30日に出願された米国特許仮出願第63/182,054号の優先権の利益を主張し、その全内容の全体を参照により本明細書に援用するものである。
【0002】
本開示は、細胞培養用途に関し、より具体的には、造血細胞を使用した細胞培養用途に関し、さらにより具体的には、B細胞の1つ以上の集団(複数可)に関連する細胞培養用途に関する。
【背景技術】
【0003】
哺乳動物の血液は、リンパ球、血小板、赤血球、ならびにその直接的及び間接的な前駆体を含む様々な細胞型から構成される。白血球(leukocyte)は白血球(white blood cell)と呼ばれることがあり、これらは宿主の免疫系で機能する。白血球はさらに、B細胞、T細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、好酸球、好塩基球、及び好中球に細分することができる。このような白血球は各々、宿主の免疫系において特定の機能を果たす。
【0004】
B細胞は、他の血球と同様に、自己再生及び各血球系統への分化が可能な造血幹/始原細胞(HSPC)に由来する。B細胞は、液性免疫の中心成分であり、抗原に(その表面に発現されたB細胞受容体を介して)結合すると抗体を分泌する。
【0005】
in vivoでは、哺乳動物B細胞が骨髄で発生し、HSPCから始まって、プロB細胞、プレB細胞、及び未成熟B細胞を含む様々な発達段階を進行する。未成熟B細胞は、第2のリンパ系臓器(例えば、脾臓、胸腺など)でメモリーB細胞に成熟し、第2のリンパ系臓器または骨髄のいずれかで形質芽球及び形質細胞(すなわち、抗体産生細胞)に成熟する。これらの発達ステップをin vitroまたはex vivoで再現することは、限られた成功しか達成していない。特に、組織由来細胞または多能性幹細胞(「PSC」)を起源物質として使用する無血清かつフィーダー細胞不含の培養システムでは、これらの発達ステップを再現することは不可能であった。
【0006】
初代組織由来細胞とPSCとの両方が、特に、臨床応用に適切なB系統細胞の同種のカスタマイズ可能な大規模集団を作出する機会をもたらす。分化PSCにより、疾患モデリングまたは細胞療法の応用を容易にする遺伝子エンジニアリング法も可能になる。
【0007】
B細胞は、環境中の抗原の感知に関与していること、そして、刺激に応じて大量の抗体を分泌して標的を中和することを考慮すると、精力的な研究及び治療上の関心対象である。したがって、PSCに由来するものか、臍帯血または骨髄から単離された適切な前駆体に由来するものかを問わず、前駆体集団から培養下の未成熟及び成熟型のB系統細胞を取得する効率的な手段が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、培地組成物及び/または培地に添加されるサプリメント、ならびに造血幹/始原細胞(HSPC)の培養/分化のための方法に関する。より具体的には、本開示は、段階特異的培地及び/または基礎培地に添加されるサプリメントを使用して、HSPCを様々なB細胞系統に段階的に分化させる方法に関する。
【0009】
本開示の一態様では、CD34+造血幹または始原細胞(HSPC)の集団を、基礎培地と、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうちの少なくとも1つと、少なくとも1つの他のサイトカインとを含む、誘導培地と接触させること、ならびに、誘導培地中のHSPCの集団を無血清条件下で培養してB細胞前駆体の集団を取得することを含む、B細胞前駆体の集団を調製するための指向性分化方法が提供される。
【0010】
一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、IL-3、IL-6、またはIL-7のうちの1つ以上である。一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、またはIL-21のうちの1つ以上である。
【0011】
一実施形態において、HSPCの集団を、臍帯血もしくは骨髄から濃縮するか、または多能性幹細胞(PSC)から分化させる。
【0012】
一実施形態において、B細胞前駆体の集団は、CD10またはCD19の一方または両方を発現する。
【0013】
一実施形態において、誘導培地は、SCFまたはTPOのいずれかを含む。
【0014】
一実施形態において、本方法は、B細胞前駆体の集団を分化培地と接触させること、及び分化培地中のB細胞前駆体の集団を無血清条件下で培養することをさらに含み得る。一実施形態において、本方法は、CD19+B系統細胞の集団を取得することをさらに含み得る。
【0015】
一実施形態において、本方法は、誘導培地中のHSPCの集団を培養した後よりも多くのCD19+B系統細胞を取得することをさらに含み得る。
【0016】
一実施形態において、CD19+B系統細胞の少なくとも一部は、IgM+細胞である。
【0017】
一実施形態において、分化培地は、基礎培地と、SCF、TPO、及びFLT3Lのうちの少なくとも1つと、少なくとも1つの他のサイトカインとを含む。
【0018】
一実施形態において、本方法は、CD19+B系統細胞の集団を下流分化培地と接触させること、及び下流分化培地中のCD19+B系統細胞の集団を無血清条件下で培養することをさらに含み得る。一実施形態において、本方法は、分化培地中のB細胞前駆体の集団を培養した後よりも多くのIgM+細胞を取得することをさらに含み得る。
【0019】
一実施形態において、IgM+細胞の少なくとも一部は、抗体分泌細胞である。
【0020】
一実施形態において、下流分化培地は、基礎培地、ヒトCD40のリガンド、及び少なくとも1つの他のサイトカインを含む。
【0021】
一実施形態において、本方法は、フィーダー細胞不含条件下で行われる。一実施形態において、フィーダー細胞不含条件は、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子を含む。一実施形態において、フィーダー細胞不含条件は、可溶化されているかまたは培養容器の表面上にコーティングされている細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子の非存在下である。
【0022】
一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子は、可溶化されているかまたは培養容器の表面上にコーティングされている。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子は、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ECM1、SPARC、オステオポンチン、血管細胞接着分子、固定化SCFタンパク質、または前述のもののいずれかの組み合わせである。
【0023】
本開示の別の態様では、B細胞前駆体の集団を、基礎培地と、SCF、TPO及びFLT3Lのうちの少なくとも1つと、少なくとも1つの他のサイトカインとを含む、分化培地と接触させること、ならびに、分化培地中のB細胞前駆体の集団を無血清条件下で培養してB系統細胞の集団を取得することを含む、B系統細胞の集団を調製するための指向性分化方法が提供される。
【0024】
一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、IL-3、IL-6、またはIL-7のうちの1つ以上である。一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、またはIL-21のうちの1つ以上である。
【0025】
一実施形態において、B細胞前駆体の集団は、CD10またはCD19の一方または両方を発現する。
【0026】
一実施形態において、B細胞前駆体の集団は、臍帯血もしくは骨髄から濃縮されたか、または多能性幹細胞(PSC)から分化したかのいずれかである、CD34+造血幹または始原細胞(HSPC)の集団に由来する。
【0027】
一実施形態において、B系統細胞の集団は、CD19を発現する。一実施形態において、B系統細胞の集団は、誘導培地中のHSPCの集団を培養してB細胞前駆体の集団を得た後よりも多くのCD19+細胞を含む。
【0028】
一実施形態において、誘導培地は、無血清である。一実施形態において、誘導培地は、基礎培地と、少なくとも1つのサイトカインと、SCF、TPO、及びFLT3Lのうちの1つ以上とを含む。
【0029】
一実施形態において、CD19+B系統細胞の少なくとも一部は、IgM+細胞である。
【0030】
一実施形態において、本方法は、B系統細胞の集団を下流分化培地と接触させること、及び下流分化培地中のB系統細胞の集団を無血清条件下で培養することをさらに含み得る。一実施形態において、本方法は、分化培地中のB細胞前駆体の集団を培養した後よりも多くのIgM+細胞を取得することをさらに含み得る。
【0031】
一実施形態において、IgM+細胞の少なくとも一部は、抗体分泌細胞である。
【0032】
一実施形態において、下流分化培地は、基礎培地、ヒトCD40のリガンド、及び少なくとも1つの他のサイトカインを含む。
【0033】
一実施形態において、本方法は、フィーダー細胞不含条件下で行われる。一実施形態において、フィーダー細胞不含条件は、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子を含む。一実施形態において、フィーダー細胞不含条件は、可溶化されているかまたは培養容器の表面上にコーティングされている細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子の非存在下である。
【0034】
一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子は、可溶化されているかまたは培養容器の表面上にコーティングされている。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子は、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ECM1、SPARC、オステオポンチン、血管細胞接着分子、固定化SCFタンパク質、または前述のもののいずれかの組み合わせである。
【0035】
本開示の別の態様では、B系統細胞の指向性分化のためのキットであって、基礎培地と、少なくとも1つのサプリメントとを含む、キットが提供される。一実施形態において、少なくとも1つのサプリメントは、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうちの少なくとも1つ、ならびに少なくとも1つの他のサイトカインを含む。
【0036】
一実施形態において、キットは、第2のサプリメントをさらに含む。
【0037】
一実施形態において、第2のサプリメントは、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうちの少なくとも1つ、ならびに少なくとも1つの他のサイトカインを含む。
【0038】
一実施形態において、少なくとも1つのサプリメントの調合物は、第2のサプリメントとは異なる。
【0039】
一実施形態において、キットは、第3のサプリメントをさらに含む。一実施形態において、第3のサプリメントは、ヒトCD40のリガンド、及び少なくとも1つの他のサイトカインを含む。
【0040】
一実施形態において、少なくとも1つのサイトカインは、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、またはIL-21のうちの1つ以上である。
【0041】
本開示の他の態様では、B細胞前駆体、またはB系統細胞、またはB系統細胞の下流の細胞、例えばIgM+細胞及び/または抗体分泌細胞の指向性分化のための培地が提供される。
【0042】
本開示の一態様では、B細胞前駆体の誘導のための培地が提供される。一実施形態において、誘導培地は、基礎培地と、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうちの少なくとも1つと、少なくとも1つの他のサイトカインとを含む。
【0043】
本開示の一態様では、B系統細胞の分化のための培地が提供される。一実施形態において、分化培地は、基礎培地と、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうちの少なくとも1つと、少なくとも1つの他のサイトカインとを含む。
【0044】
本開示の一態様では、B系統細胞の下流の細胞の下流分化のための培地が提供される。一実施形態において、下流分化培地は、基礎培地、ヒトCD40のリガンド、及び少なくとも1つの他のサイトカインを含む。
【0045】
一実施形態において、本開示の培地に含まれる少なくとも1つのサイトカインは、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、またはIL-21のうちの1つ以上である。
【0046】
本明細書に記載される様々な実施形態がより良く理解されるように、またこれらの様々な実施形態がどのように実行され得るかをより明確に示すために、少なくとも1つの実施形態例を示す添付図面を例として参照し、これより、添付図面について説明する。図面は、本明細書に記載される教示の範囲を限定することを意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】単一のヒト臍帯血ドナーサンプルから濃縮されたCD34
+HSPCの代表的なフローサイトメトリープロットを示す。CD34
+細胞の濃縮集団(すなわち「バルク」)を染色し、次いでLin
-について選別した(Linには、CD3、CD14、CD15、CD16、CD19、CD56、及びCD66bが含まれた)(A)。(A)の細胞をさらに選別して、B細胞運命の推定上の始原細胞の2つのより特殊化された集団、すなわち(B)のLin
-CD34
+CD38
-/lo/midCD10
-細胞(「集団1」または「pop1」)、及び(B)のLin
-CD34
+CD38
midCD10
+細胞(「集団2」または「pop2」)を得た。Pop1細胞は、顆粒球、単球、リンパ系、及び赤血球の子孫に対する多分化能を有するが、pop2細胞はリンパ系系統に制限される。
【
図2】CD34
+HSPCの集団からのB細胞前駆体の誘導の結果をまとめた棒グラフを示す。Pop2細胞を種々の誘導培地調合物(「SUPPLCTL」ベースライン培地、及び示されているサイトカイン/成長因子を欠く調合物)中で14日間培養し、選択された成長因子またはサイトカインの非存在の効果を試験した。14日後に、CD19
+を発現する細胞(B)のB細胞前駆体(A)の存在比率及び収量を判定した。示された結果は、1~3つの独立した実験の平均である。
【
図3】CD34
+HSPCの集団からのB細胞前駆体の誘導の結果をまとめた棒グラフを示す。Pop1細胞及びpop2細胞を、TPOを除くが図示のサイトカインを単独または組み合わせでさらに含む誘導培地中で、14日間別々に培養した。pop2由来細胞については、棒グラフは、全体的な増大倍率(A)、B細胞前駆体の存在比率及び収量(B)、CD19
+を発現する細胞の存在比率及び収量(C)、ならびにCD10及びCD19の発現を分析するサンプルフロープロット(D)を示す。pop1由来細胞については、棒グラフは、全体的な増大倍率(E)、B細胞前駆体の存在比率及び収量(F)、CD19
+B系統細胞の存在比率及び収量(G)、ならびにCD10及びCD19の発現を分析するサンプルフロープロット(H)を示す。示された結果は、2~8つの独立した実験の平均である。
【
図4】CD34
+HSPC由来B細胞前駆体の集団からのCD19
+B系統細胞の分化の結果をまとめた棒グラフを示す。Pop2細胞を
図2のコントロール調合物中でまず14日間培養し、次いで、図示のとおり個々の因子及び因子の組み合わせを除いた様々な分化培地調合物(「DiM」)に移して、さらに14日間おいた。28日間の培養後に、産出細胞のうちのB細胞前駆体(A)、CD19
+B系統細胞(B)、及びIgM
+細胞(C)の存在比率及び収量を判定した。示された結果は、1~3つの独立した実験の平均である。
【
図5】本開示の培地におけるCD34
+HSPCの分化効率を比較する棒グラフを示す。Pop1細胞及びpop2細胞を2つのバージョンの誘導培地で14日間別々に培養し、次いで
図4の分化培地調合物に移して、さらに14日間おいた。pop2由来細胞については、棒グラフは、B細胞前駆体の存在比率及び収量(A)、CD19
+B系統細胞の存在比率及び収量(B)、ならびにCD19
+細胞画分に応じたIgM
+細胞の存在比率及び収量(C)を示す。pop1細胞については、棒グラフは、B細胞前駆体の存在比率及び収量(D)、CD19
+B系統細胞の存在比率及び収量(E)、ならびにCD19
+細胞画分に応じたIgM
+細胞の存在比率及び収量(F)を示す。示された結果は、4つの独立した実験の平均である。
【
図6】CD34
+HSPC由来B細胞前駆体の集団からのCD19
+B系統細胞の分化の結果をまとめた棒グラフを示す。Pop1細胞をまず、
図2に示される(ただし
図3~5で使用されたものとは異なる)誘導培地調合物中で14日間培養した。得られたB細胞前駆体を、本開示の分化培地に移して、さらに14日間おいた。28日後に、B細胞前駆体(A)及びCD19
+B系統細胞(B)の存在比率及び収量を判定した。示された結果は、1~5つの独立した実験の平均±標準誤差である。
【
図7】B系統細胞の分化に対する拡大培養の効果を比較した棒グラフを示す。Pop1細胞をまず誘導培地中で14日間培養し、次いで分化培地に移して、さらに14日間または28日間おいた。棒グラフは、CD19
+B系統細胞の存在比率及び収量(A)、ならびにCD19
+細胞画分に応じたIgM
+細胞の存在比率及び収量(B)を示す。示された結果は、4つの独立した実験の平均±標準誤差である。
【
図8】バルクCD34
+細胞、pop1 CD34
+細胞、またはpop2 CD34
+細胞のいずれかから出発して、本開示の培地調合物及び方法を使用して分化させた、28日目のCD19
+細胞の存在比率及び収量をまとめた棒グラフを示す。バーは、少なくとも23個の独立したデータ点の平均を表す。
【
図9】CD19
+B系統細胞からのIgM
+細胞の分化効率を最適化する実験の結果を示す。Pop1細胞またはバルク細胞を誘導培地中で14日間別々に培養し、分化培地に移して、さらに14日間おいた。その後、28日目の細胞を、様々な下流分化培地(「DDM」)調合物、すなわち、ネガティブコントロール、ならびにヒトCD40のリガンド及び様々なサイトカイン/成長因子を含む2つの調合物で、別々に培養した。35日目のpop1由来細胞を、CD19
+B系統細胞(A)及びCD19
+細胞画分に応じたIgM
+細胞(B)の存在比率及び収量について分析した。示された結果は、少なくとも4つの独立した実験の平均である。35日目のpop1由来細胞を、ELISPOTアッセイにおいてIgM(赤/灰色)及びIgG(青/黒)の分泌についても試験した。コントロール細胞(Ci)及び図示の下流分化培地中で培養した細胞(Cii及びCiii)について、産出された抗体分泌細胞の数と共に代表的な画像が示されている。35日目のバルク由来細胞を、CD19
+B系統細胞(D)及びCD19
+細胞画分に応じたIgM
+細胞(E)の存在比率及び収量について分析した。示された結果は、少なくとも3つの独立した実験の平均である。
【
図10】ヒトPSC由来CD34
+HSPCの集団からB細胞前駆体を誘導した結果を示す。図示のように、異なるコーティング材料の非存在下または存在下のいずれかで、PSC由来CD34
+HSPCを本開示の誘導培地中で14日間培養した。示された結果は、少なくとも2つの独立した実験の平均である(A)。様々なコーティング材料の非存在下または存在下で培養した28日目の細胞集団を、CD10及びCD19の発現についてフローサイトメトリーによって分析した(B)。PSC由来または臍帯血由来のバルク細胞を、本明細書に記載される誘導/分化プロトコルの図示された時点におけるEBF1(C)及びPAX5(D)の発現についてqRT-PCRによって分析した。28日目の細胞集団を、CD10及びCD19の発現ならびにCD19及びCD20の発現についてフローサイトメトリーによって分析した(E)。バーは、少なくとも1つの実験の平均±標準誤差を表す。
【
図11】臍帯血由来CD34
+細胞の誘導/分化に対する様々なコーティングの効果をまとめた棒グラフを示す。Pop1細胞を図示されたコーティング上の誘導培地中で14日間培養し、B細胞前駆体(A)及びCD19を発現する細胞(B)の存在比率及び収量を判定した。14日目の細胞を、図示されたコーティング上の分化培地中でさらに14日間培養し、28日目のCD19
+B系統細胞の存在比率及び収量(C)ならびにCD19
+細胞画分に応じたIgM
+細胞の存在比率(D)を判定した。示された結果は、少なくとも2つの独立した実験の平均である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本開示は、培地組成物及び/または培地に添加されるサプリメント、ならびにHSPCの培養/分化のための方法に関する。より具体的には、本開示は、段階特異的培地及び/または基礎培地に添加されるサプリメントを使用して、HSPCを様々なB細胞系統に分化させることに関する。
【0049】
本明細書で使用される場合、「造血幹または始原細胞」または「HSPC」という用語は、自己複製及び/または造血系統のより特殊化された細胞への分化が可能な造血系統の細胞を指す。いくつかの実施形態では、HSPCは、細胞集団に含まれていてもよく、HSPCの集団は、純度50%超、純度60%超、純度70%超、純度80%超、または純度90%超であり得る。HSPCは、骨髄(BM)、臍帯血(CB)、胚から成体の末梢血(PB)、胸腺、末梢リンパ節、胃腸管、扁桃、妊娠子宮、肝臓、脾臓、胎盤、またはHSPCの局部的集団を有する任意の他の組織から取得され得る。いくつかの実施形態では、HSPC(またはHSPCの集団)は、HSPCを含む組織源または別の細胞集団から、例えば免疫磁気分離または蛍光活性化細胞選別により濃縮される。HSPCはまた、例えば人工多能性幹細胞、胚幹細胞、ナイーブ幹細胞、伸長幹細胞などの多能性幹細胞から分化し得る。HSPCの顕著な特徴は、膜貫通リン糖タンパク質CD34を発現することであり、ゆえに、HSPCは、CD34+細胞と呼ばれることもある。ヒトHSPCは、CD45及びCD34の発現によってさらに定義され、かつ、HSPC亜集団を区別するために使用され得るCD38、CD43、CD45RO、CD45RA、CD10、CD49f、CD59、CD90、CD109、CD117、CD133、CD166、HLA-DR、CD201、及びインテグリン-α3などのマーカーの組み合わせによってさらに定義される場合がある。HSPCは、グリコフォリンA、CD3、CD4、CD8、CD14、CD15、CD19、CD20及びCD56などのマーカーを発現しないか、またはそれらを少ししか発現しないことがあり、そのようなマーカーは、より成熟した血球を特徴付ける場合がある。
【0050】
本明細書で使用される場合、「多能性幹細胞」または「PSC」という用語は、自己複製及び/または3つの胚性胚葉のいずれかの任意の細胞型への分化が可能な細胞を指す。胚幹細胞などのPSCは、胚盤胞から単離され、維持または分化細胞培養条件に供される場合がある。人工多能性幹細胞などのPSCは、Oct4、Nanog、Sox2、Klf4などの特定の多能性遺伝子の強制発現によって任意の細胞型から誘導される場合がある。多能性遺伝子の発現は、それらのコード領域を安定的にもしくは一過性に宿主細胞へ導入することによって、またはそのような遺伝子の内因性コピーを活性化する因子を導入することによって強制的に行われ得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、「B細胞前駆体(B cell precursor)」または「B細胞前駆体(B cell precursors)」という用語は、HSPCよりもさらに特殊化されているが、B細胞などの1つ以上のリンパ球系細胞型にさらに分化することが可能な細胞型を指す。B細胞前駆体は、組織由来かPSC由来かを問わず、HSPCの直接的な子孫である場合もあれば、またはHSPCからさらに離れている場合もある。さらに、B細胞前駆体は、B細胞などの下流のリンパ球系細胞型に直接分化する場合もあれば、または1つ以上のさらなる分化ステップを経た後にB細胞になる場合もある。B細胞前駆体の一例は、表現型マーカーCD10またはCD19のうちの1つに対して陽性な細胞である。一例では、CD10+B細胞前駆体は、CD19に対して陰性であり、このような細胞は、B系統にコミットしない場合がある。一例では、CD19+B細胞前駆体は、CD10に対して陰性であり、このような細胞は、B系統にコミットする場合がある。B細胞前駆体によって発現されることがある他の表現型マーカーとしては、CD20、CD45RA、CD34、CD38、CD161、CD122、CD117、CD127、及び/またはインテグリンβ7が挙げられる。さらに、B細胞前駆体によって発現されないことがある表現型マーカーの例としては、CD10、CD19、CD20、CD45RA、CD34、CD38、CD161、CD122、CD117、CD127、及び/またはインテグリンβ7が挙げられる。本明細書において、明言しない限り、B細胞前駆体の集団は、1つ以上の下流細胞型に分化することが可能な同種の細胞の集団または異種の細胞の集団を指す場合がある。一実施形態において、B細胞前駆体は、任意の型のB系統細胞に分化することが可能であり得る。一実施形態において、B細胞前駆体は、例えばダブルポジティブCD10+CD19+B系統細胞にのみ分化するように、その分化能力においてさらに制限されていてもよい。
【0052】
本明細書で使用される場合、「B系統細胞」という用語は、組織由来かPSC由来かを問わず、HSPCから分化することができ、B細胞前駆体よりも特殊化/コミットしている、造血系統のリンパ球の一種を指す。より具体的には、B系統細胞は、多リンパ球系始原細胞(MLP)またはリンパ球系共通始原細胞(CLP)から誘導され得る。初期のB系統細胞は、CD10及びCD19の両方の表面マーカーの発現によって特徴付けられる場合があり、より成熟したナイーブB細胞は、CD19を発現するが、CD10を発現しない。いくつかの実施形態では、B系統細胞は、CD19を発現する(そしてCD10は発現しない)場合があるが、それでも1つ以上の他のマーカーに基づいてB細胞前駆体と区別可能であり得る。一実施形態において、ダブルポジティブCD10+CD19+B系統細胞は、一方または他方のマーカーの発現を失う可能性があるが、それでもB系統にコミットし続けることができる。一実施形態において、本開示に従ってB細胞前駆体を誘導した後、その中にいくつかのCD19+細胞が含まれる場合があり、そのようなCD19+細胞は、B系統細胞の場合もあれば、より原始的な細胞の亜集団の場合もある。しかしながら、誘導培地への曝露後に取得されたこれらの細胞を分化培地に曝露すると、B系統細胞の存在比率が増加する。言い換えれば、B系統細胞の集団は、B細胞前駆体の集団と比較して、CD19を発現する細胞の存在比率が高いことによって特徴付けられ得る。
【0053】
本明細書で使用される場合、「B細胞(B cell)」または「B細胞(B cells)」という用語は、B系統細胞から分化する細胞型を指す。B細胞は、典型的には、T特異的マーカー、NK特異的マーカー、及び赤骨髄系(erythromyeloid)特異的マーカーの非存在;CD19、CD20、B細胞受容体(すなわち、表面IgM)、IgG、IgD、IgA、IgE、CD138のうちの1つ以上の発現;及びそれらのエフェクター機能によって特徴付けられる。より具体的には、B細胞のエフェクター機能は、抗体の産生を含み得る。B細胞の種類である形質細胞及び形質芽球は、抗体を分泌し、CD138(形質細胞)、CD38及びCD27の発現によって特徴付けられる。PSCまたはHSPCからのB細胞の分化は、通常、PSC由来の中胚葉前駆体及び/またはリンパ球系始原細胞(例えば、PSC由来のリンパ球系始原細胞)などの1つ以上の始原細胞集団によって媒介される。
【0054】
培地及び方法
本開示の方法は、組織またはPSCのいずれかに由来する造血始原細胞を、1つ以上の中間細胞集団を介して未成熟または成熟型のB細胞に分化させるステップを包含する。HSPC及び他の誘導される下流細胞型を分化させるための本明細書で開示される方法は、好ましくはin vitro法である。以下に開示される本開示の培地は、本開示の方法を行うために使用することができ、したがって、本開示の独立した態様である。
【0055】
本開示の指向性分化方法は、CD34+HSPCの集団を誘導培地と接触させること、及びB細胞前駆体の集団を誘導するのに十分な時間にわたって誘導培地中のHSPCの集団を培養することを含み得る。いくつかの実施形態では、この段階の間に、B系統細胞への限定的な分化も起こり得る。
【0056】
一実施形態において、本開示の指向性分化方法は、B細胞前駆体の集団を誘導する。一実施形態において、本開示の指向性分化方法は、B系統細胞の集団を誘導する。一実施形態において、本開示の指向性分化方法は、IgM+及び/または抗体分泌細胞の集団を誘導する。
【0057】
誘導培地は、HSPCをB細胞前駆体集団に分化させるために使用することができる任意の培地である。好ましい実施形態において、誘導培地は、無血清である。誘導培地が無血清である場合、そのような培地に、BIT 9500 Serum Substitute(STEMCELL Technologies、型番09500)、または他の市販の血清代替溶液などの血清代替サプリメントを含める必要がある場合がある。あるいは、本開示の任意の細胞を培養または分化するために必要である、血清中に通常存在する成分が、許容可能な濃度で誘導培地に個別に添加されてもよい。一実施形態において、血清中に通常存在する成分は、アルブミンである。アルブミンが誘導培地中に(血清の代わりに)含まれる場合、これは任意の種に由来し得るが、典型的にはウシまたはヒトのいずれかのものである。いくつかの実施形態では、アルブミンは組換え型であり得る。
【0058】
代替的に「SUPPLCTL」培地とも呼ばれる本開示の誘導培地には、HSPCを培養し、B細胞前駆体の誘導を支持するために適切に調合された基礎培地が含まれる。したがって、好適な基礎培地は、造血系統の細胞、特にB細胞前駆体及び/またはB系統細胞及び/またはIgM+細胞の培養を支持する任意の基礎培地である。例示的な基礎培地は、STEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Basal Medium(STEMCELL Technologies、型番100-171)、STEMdiff(商標)Hematopoietic Basal Medium(STEMCELL Technologies、型番05311)、STEMdiff(商標)APEL(商標)2 Medium(STEMCELL Technologies、型番05270)、StemSpan(商標)AOF Medium(STEMCELL Technologies、型番100-0130)、StemSpan(商標)SFEM&SFEM II、ImmunoCult(商標)XF(STEMCELL Technologies、型番09650、09655、10981)、または目的にかなった任意の他の市販の基礎培地を含むが、これらに限定されない。基礎培地を調合する一般的な成分は、塩、バッファー、脂質、アミノ酸、微量元素、特定のタンパク質、ビタミン、ミネラル、還元剤などを含み得る。一実施形態において、基礎培地は、HSPCの分化及びそこからのB細胞前駆体(複数可)の誘導を支持するように最適化される。
【0059】
一実施形態において、誘導培地は、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)のうちの少なくとも1つを含む。一実施形態において、誘導培地は、SCF、TPO、及びFLT3Lのうち2つ以上を含む。一実施形態において、誘導培地は、SCF、TPO、及びFLT3Lの各々を含む。一実施形態において、誘導培地は、SCFまたはTPOのいずれかを含む。一実施形態において、誘導培地は、TPO、SCF、及びFLT3Lのうちの1つ、2つ、または各々を含まない。一実施形態において、誘導培地は、TPO及びSCFの一方または両方を含まない。一実施形態において、誘導培地は、TPOを含まない。一実施形態において、誘導培地は、SCFを含まない。
【0060】
SCFが誘導培地に含まれる場合、その中のSCFの濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0061】
FLT3Lが誘導培地に含まれる場合、その中のFLT3Lの濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0062】
TPOが誘導培地に含まれる場合、その中のTPOの濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0063】
一実施形態において、誘導培地は、少なくとも1つの他のサイトカインをさらに含む。一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、1つ以上のインターロイキンである。一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-15、IL-17、及びIL-21のうちの1つ以上である。一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、IL-3、IL-6、もしくはIL-7、またはそれらのいずれかの組み合わせである。
【0064】
誘導培地に含まれる少なくとも1つの他のサイトカインの濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0065】
一実施形態において、誘導培地は、HSPC集団からのB細胞前駆体集団の誘導をさらに増進するために、1つ以上の追加のサイトカインもしくは成長因子、または小分子をさらに含む。誘導培地に含まれ得る1つ以上の追加のサイトカインまたは成長因子の非限定的な例としては、エリスロポエチン(EPO)、インスリン成長因子1(IGF-1)及びインスリン成長因子2(IGF-2)、B細胞活性化因子(BAFF)、増殖誘導リガンド(APRIL)、ならびにインターフェロンガンマ(IFN-g)が挙げられる。
【0066】
誘導培地に含まれる1つ以上の追加の成長因子の濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0067】
一実施形態において、誘導培地は、完全培地として調合され得る。一実施形態において、誘導培地は、使用前に新たに調製することができ、したがって、基礎培地は、基礎培地に添加される1つ以上のサプリメントとは別々に貯蔵することができる。一例では、誘導/分化方法において完全な誘導培地を使用する直前に、成長因子及びサイトカインを1つ以上のサプリメントに組み合わせて基礎培地に添加することができる。
【0068】
誘導培地に含まれる成長因子及びサイトカインは、様々な商業的供給者から調達することができ、また、組換え型であってもよい。
【0069】
本開示の誘導培地は、HSPCの集団の培養を支持するための基質との相乗作用を示し得る。一実施形態において、間質細胞またはフィーダー細胞が、本開示の細胞培養培地と共に使用され得る。そのような細胞の非網羅的な例としては、胚性肝臓細胞株EL08.1D2、AFT024細胞、OP9細胞、MS-5またはM2-10B4細胞、胚性大動脈-生殖腺中腎(AGM)由来のマウス胚性線維芽細胞または間質細胞が挙げられる。
【0070】
一実施形態において、HSPCの集団の培養は、フィーダー細胞不含及び/または間質細胞不含の条件下で行われる。そのような手法は、間質/フィーダー細胞によって事前にコンディショニングした培地を利用してもよく、またはそのようなシステムは、間質/フィーダー細胞代替物を利用してもよい。間質/フィーダー細胞代替物は、適切なシグナルまたは接触部位を培養中の細胞に提供する1つ以上の既定の成分を含む場合がある。このような成分は、誘導培地に含まれる(例えば可溶化される)か、または培養容器の内部培養物表面に、もしくは細胞培養培地中に懸濁した固体表面上に、例えば粒子、ビーズ、マイクロキャリアなどの上に適用されるコーティングとして用いられてもよい。このような成分の非網羅的な例は、フィブロネクチンコーティング、ゼラチンコーティング、コラーゲンコーティング、固定化されたNotchリガンド、またはStemSpan(商標)Lymphoid Differentiation Coating Supplement(STEMCELL Technologies、型番09925)もしくはMatrigel(Corning)などのコーティングを含み得る。
【0071】
一実施形態において、HSPCの集団の培養は、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子の存在下で(そしてフィーダー細胞及び/または間質細胞担体の非存在下で)行われる。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子は、誘導培地中に可溶化されているか、または誘導培地と接触する表面上にコーティングされている。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質は、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ECM1、SPARC、またはオステオポンチンである。一実施形態において、細胞接着分子は、血管細胞接着分子(例えばVCAM-1)または固定化SCFタンパク質(例えばSCF-Fc)である。
【0072】
一実施形態において、前述のタンパク質の異なる組み合わせが使用され得る。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質の組み合わせが使用される。一実施形態において、細胞接着分子の組み合わせが使用される。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質(複数可)及び細胞接着分子(複数可)の組み合わせが使用される。
【0073】
使用される場合、誘導培地との相乗作用を示す細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子の濃度は、約0.1~100μg/mL(または96ウェルプレートで0.03~30μg/ウェル)、約0.2~50μg/mL(または96ウェルプレートで0.06~15μg/ウェル)、または約0.5~20μg/mL(または96ウェルプレートで0.15~6μg/ウェル)の範囲である。
【0074】
一実施形態において、本開示の培地は、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子と併せた使用に依存しない。
【0075】
誘導培地中でHSPCの集団を培養することは、それらの生存能力または下流系統へ分化する能力に影響を与えない任意の期間にわたって行われ得る。一実施形態において、HSPCの集団からB細胞前駆体の集団を誘導するための指向性分化方法は、誘導培地中のCD34+HSPCの集団を約1~28日間、約3~25日間、約5~21日間、または約7~14日間培養することを含む。一実施形態において、HSPCの集団からB細胞前駆体の集団を誘導するための指向性分化方法は、誘導培地中のCD34+HSPCの集団を約3~14日間培養することを含む。
【0076】
一実施形態において、誘導細胞の1%以上がB細胞前駆体である(例えばCD10を発現する)。一実施形態において、誘導細胞の5%以上がB細胞前駆体である。一実施形態において、誘導細胞の10%以上がB細胞前駆体である。一実施形態において、誘導細胞の20%以上がB細胞前駆体である。一実施形態において、誘導細胞の30%以上がB細胞前駆体である。一実施形態において、誘導細胞の40%以上がB細胞前駆体である。一実施形態において、誘導細胞の50%以上がB細胞前駆体である。さらに、一実施形態において、誘導培地を使用して誘導された細胞の1%以上がCD19を発現する。一実施形態において、誘導培地を使用して誘導された細胞の5%以上がCD19を発現する。一実施形態において、誘導培地を使用して誘導された細胞の10%以上がCD19を発現する。一実施形態において、誘導培地を使用して誘導された細胞の20%以上がCD19を発現する。一実施形態において、誘導培地を使用して誘導された細胞の30%以上がCD19を発現する。一実施形態において、誘導培地を使用して誘導された細胞の40%以上がCD19を発現する。
【0077】
一実施形態において、B細胞前駆体の(誘導培地を使用した)誘導時に出現し得るCD19+細胞は、B系統細胞であり得る。一実施形態において、B細胞前駆体の(誘導培地を使用した)誘導時に出現し得るCD19+細胞は、B系統細胞ではなく、より原始的な細胞またはその始原細胞であり得る。一実施形態において、前述の細胞型の両方が、誘導培地中での培養後に取得される細胞に含まれ得る。
【0078】
一実施形態において、誘導培地を使用したB細胞前駆体の誘導は、投入細胞当たり1個以上のCD10+細胞、投入細胞当たり5個以上のCD10+細胞、投入細胞当たり10個以上のCD10+細胞、投入細胞当たり20個以上のCD10+細胞、投入細胞当たり50個以上のCD10+細胞、または投入細胞当たり100個以上のCD10+細胞をもたらす。さらに、一実施形態において、誘導培地を使用したB細胞前駆体の誘導は、投入細胞当たり1個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり5個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり10個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり20個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり50個以上のCD19+細胞、または投入細胞当たり100個以上のCD19+細胞をもたらす。
【0079】
別の態様では、本開示の指向性分化方法は、B細胞前駆体の集団を分化培地と接触させること、及びB系統細胞を取得するのに十分な時間にわたって分化培地中のB細胞前駆体の集団を培養することをさらに含む。
【0080】
一実施形態において、B細胞前駆体の集団は、CD10またはCD19の一方または両方を発現する。
【0081】
一実施形態において、B系統細胞は、CD19+細胞である。一実施形態において、B系統細胞は、ダブルポジティブCD10+CD19+である。一実施形態において、B系統細胞の集団は、誘導培地中のCD34+HSPCの集団を培養した後(すなわち、誘導培地を使用したB細胞前駆体の集団の誘導の後)よりも多くのCD19+細胞を含む。一実施形態において、B系統細胞の集団は、B細胞前駆体の集団の誘導後よりも2倍以上のCD19+細胞を含む。一実施形態において、B系統細胞の集団は、B細胞前駆体の集団の誘導後よりも3倍以上のCD19+細胞を含む。一実施形態において、B系統細胞の集団は、B細胞前駆体の集団の誘導後よりも4倍以上のCD19+細胞を含む。一実施形態において、B系統細胞の集団は、B細胞前駆体の集団の誘導後よりも5倍以上のCD19+細胞を含む。一実施形態において、B系統細胞の集団は、B細胞前駆体の集団の誘導後よりも10倍以上のCD19+細胞を含む。一実施形態において、B系統細胞の集団は、B細胞前駆体の集団の誘導後よりも20倍以上のCD19+細胞を含む。一実施形態において、B系統細胞の集団は、B細胞前駆体の集団の誘導後よりも50倍以上のCD19+細胞を含む。
【0082】
分化培地は、B細胞前駆体集団を(B系統細胞集団に)分化させるために使用することができる任意の培地である。好ましい実施形態において、分化培地は、無血清である。分化培地が無血清である場合、そのような培地に、BIT 9500 Serum Substitute(STEMCELL Technologies、型番09500)、または他の市販の血清代替溶液などの血清代替サプリメントを含める必要がある場合がある。あるいは、本開示の任意の細胞を培養または分化するために必要である、血清中に通常存在する成分が、許容可能な濃度で分化培地に個別に添加されてもよい。一実施形態において、血清中に通常存在する成分は、アルブミンである。アルブミンが分化培地中に(血清の代わりに)含まれる場合、これは任意の種に由来し得るが、典型的にはウシまたはヒトのいずれかのものである。いくつかの実施形態では、アルブミンは組換え型であり得る。
【0083】
代替的に「DiM」培地とも呼ばれる本開示の分化培地には、HSPC及び/またはB細胞前駆体及び/またはB系統細胞及び/またはIgM+細胞を培養するのに適切に調合された基礎培地が含まれる。したがって、好適な基礎培地は、造血系統の細胞、特にB系統細胞の培養を支持する任意の基礎培地である。例示的な基礎培地は、STEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Basal Medium(STEMCELL Technologies、型番100-171)、STEMdiff(商標)Hematopoietic Basal Medium(STEMCELL Technologies、型番05311)、STEMdiff(商標)APEL(商標)2 Medium(STEMCELL Technologies、型番05270)、StemSpan(商標)AOF Medium(STEMCELL Technologies、型番100-0130)、StemSpan(商標)SFEM&SFEM II、ImmunoCult(商標)XF(STEMCELL Technologies、型番09650、09655、10981)、または目的にかなった任意の他の市販の基礎培地を含むが、これらに限定されない。そのような基礎培地を調合するために使用される一般的な成分は、塩、バッファー、脂質、アミノ酸、微量元素、特定のタンパク質、ビタミン、ミネラル、還元剤などを含み得る。一実施形態において、基礎培地は、HSPCの分化及びそこからのB細胞前駆体(複数可)の誘導、そしてB系統細胞のさらなる分化を支持するように最適化される。
【0084】
一実施形態において、分化培地は、FLT3L、TPO、及びSCFのうちの少なくとも1つを含む。一実施形態において、分化培地は、FLT3L、TPO、及びSCFのうちの2つ以上を含む。一実施形態において、分化培地は、FLT3L、TPO、及びSCFの各々を含む。一実施形態において、分化培地は、FLT3L、TPO、及びSCFの各々、ならびに少なくとも1つの他のサイトカインを含む。一実施形態において、分化培地は、SCFまたはTPOのいずれかを含む。一実施形態において、分化培地は、TPO、SCF、及びFLT3Lのうちの1つまたは各々を含まない。一実施形態において、分化培地は、TPO及びSCFの一方または両方を含まない。一実施形態において、分化培地は、TPOを含まない。一実施形態において、分化培地は、SCFを含まない。
【0085】
SCFが分化培地に含まれる場合、その中のSCFの濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0086】
FLT3Lが分化培地に含まれる場合、その中のFLT3Lの濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0087】
TPOが分化培地に含まれる場合、その中のTPOの濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0088】
一実施形態において、分化培地は、少なくとも1つの他のサイトカインをさらに含む。一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、1つ以上のインターロイキンである。一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-15、IL-17、及びIL-21のうちの1つ以上である。一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、IL-3、IL-6、もしくはIL-7、またはそれらのいずれかの組み合わせである。
【0089】
分化培地中の少なくとも1つの他のサイトカインの濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0090】
一実施形態において、分化培地は、B細胞前駆体集団からのB系統細胞の分化をさらに増進するために、1つ以上の追加のサイトカインもしくは成長因子、または小分子をさらに含む。分化培地に含まれ得る1つ以上の追加のサイトカインまたは成長因子の非限定的な例としては、エリスロポエチン(EPO)、インスリン成長因子1(IGF-1)及びインスリン成長因子2(IGF-2)、B細胞活性化因子(BAFF)、増殖誘導リガンド(APRIL)、ならびにインターフェロンガンマ(IFN-g)が挙げられる。
【0091】
分化培地に含まれる1つ以上の追加のサイトカインまたは成長因子の濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0092】
一実施形態において、分化培地は、完全培地として調合され得る。一実施形態において、分化培地は、使用前に新たに調製することができ、したがって、基礎培地は、基礎培地に添加される1つ以上のサプリメントとは別々に貯蔵することができる。一例では、誘導/分化方法において完全な分化培地を使用する直前に、成長因子及びサイトカインをサプリメントに組み合わせて基礎培地に添加することができる。
【0093】
分化培地に含まれる成長因子及びサイトカインは、様々な商業的供給者から調達することができ、また、組換え型であってもよい。
【0094】
本開示の分化培地は、B細胞前駆体の集団の培養を支持するための基質との相乗作用を示し得る(B系統細胞の分化のため)。一実施形態において、間質細胞またはフィーダー細胞が、本開示の細胞培養培地と共に使用され得る。そのような細胞の非網羅的な例としては、胚性肝臓細胞株EL08.1D2、AFT024細胞、OP9細胞、MS-5またはM2-10B4細胞、胚性大動脈-生殖腺中腎由来のマウス胚性線維芽細胞または間質細胞が挙げられる。
【0095】
一実施形態において、B細胞前駆体の集団の培養は、フィーダー細胞不含及び/または間質細胞不含の条件下で行われる。そのような手法は、間質/フィーダー細胞によって事前にコンディショニングした培地を利用してもよく、またはそのようなシステムは、間質/フィーダー細胞代替物を利用してもよい。間質/フィーダー細胞代替物は、適切なシグナルまたは結合部位を培養中の細胞に提供する1つ以上の既定の成分を含む場合がある。このような成分は、分化培地に含まれるか、または培養容器の内部培養物表面に、もしくは細胞培養培地中に懸濁した固体表面上に、例えば粒子、ビーズ、マイクロキャリアなどの上に適用されるコーティングとして用いられてもよい。そのような成分の非網羅的な例は、フィブロネクチンコーティング、ゼラチンコーティング、コラーゲンコーティング、またはMatrigel(Corning)を含み得る。
【0096】
一実施形態において、B細胞前駆体の集団の培養は、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子の存在下で(そしてフィーダー細胞及び/または間質細胞担体の非存在下で)行われる。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子は、分化培地中に可溶化されているか、または分化培地と接触する表面上にコーティングされている。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質は、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ECM1、SPARC、またはオステオポンチンである。一実施形態において、細胞接着分子は、血管細胞接着分子(例えばVCAM-1)または固定化SCFタンパク質(例えばSCF-Fc)である。
【0097】
一実施形態において、前述のタンパク質の異なる組み合わせが使用され得る。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質の組み合わせが使用される。一実施形態において、細胞接着分子の組み合わせが使用される。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質(複数可)及び細胞接着分子(複数可)の組み合わせが使用される。
【0098】
含まれる場合、分化培地との相乗作用を示す細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子の濃度は、約0.1~100μg/mL(または96ウェルプレートで0.03~30μg/ウェル)、約0.2~50μg/mL(または96ウェルプレートで0.06~15μg/ウェル)、または約0.5~20μg/mL(または96ウェルプレートで0.15~6μg/ウェル)の範囲である。
【0099】
一実施形態において、本開示の培地は、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子と併せた使用に依存しない。
【0100】
分化培地中でB細胞前駆体の集団を培養することは、それらの生存能力または下流系統へ分化する能力に影響を与えない任意の期間にわたって行われ得る。一実施形態において、B細胞前駆体の集団をB系統細胞の集団に分化させる方法は、分化培地中のB細胞前駆体の集団を約1~28日間、約3~25日間、約5~21日間、または約7~14日間培養することを含む。一実施形態において、B細胞前駆体の集団をB系統細胞の集団に分化させる方法は、分化培地中のB細胞前駆体の集団を約3~14日間培養することを含む。
【0101】
一実施形態において、分化培地を使用して分化させた細胞の1%以上がB系統細胞である(例えば、CD19を発現する)。一実施形態において、分化培地を使用して分化させた細胞の5%以上がB系統細胞である。一実施形態において、分化培地を使用して分化させた細胞の10%以上がB系統細胞である。一実施形態において、分化培地を使用して分化させた細胞の20%以上がB系統細胞である。一実施形態において、分化培地を使用して分化させた細胞の30%以上がB系統細胞である。一実施形態において、分化培地を使用して分化させた細胞の40%以上がB系統細胞である。一実施形態において、分化培地を使用して分化させた細胞の50%以上がB系統細胞である。一実施形態において、分化培地を使用して分化させた細胞の60%以上がB系統細胞である。一実施形態において、分化培地を使用して分化させた細胞の70%以上がB系統細胞である。一実施形態において、分化培地を使用して分化させた細胞の80%以上がB系統細胞である。一実施形態において、分化培地を使用して分化させた細胞の90%以上がB系統細胞である。
【0102】
一実施形態において、CD19+B系統細胞(分化培地を使用して分化させたもの)の少なくとも一部は、IgM+細胞である。一実施形態において、約1%以上のCD19+B系統細胞が、IgM+細胞である。一実施形態において、約2%以上のCD19+B系統細胞が、IgM+細胞である。一実施形態において、約3%以上のCD19+B系統細胞が、IgM+細胞である。一実施形態において、約4%以上のCD19+B系統細胞が、IgM+細胞である。一実施形態において、約5%以上のCD19+B系統細胞が、IgM+細胞である。一実施形態において、約10%以上のCD19+B系統細胞が、IgM+細胞である。
【0103】
一実施形態において、分化培地を使用したB系統細胞の分化は、投入細胞当たり10個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり25個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり50個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり100個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり250個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり500個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり1000個以上のCD19+細胞、または投入細胞当たり2000個以上のCD19+細胞をもたらす。さらに、一実施形態において、分化培地を使用したB系統細胞の分化は、投入細胞当たり1個以上のIgM+細胞、投入細胞当たり5個以上のIgM+細胞、投入細胞当たり10個以上のIgM+細胞、投入細胞当たり20個以上のIgM+細胞、投入細胞当たり50個以上のIgM+細胞、または投入細胞当たり100個以上のIgM+細胞をもたらす。
【0104】
別の態様では、本開示の指向性分化方法は、B系統細胞の集団を下流分化培地と接触させること、ならびに、IgM+細胞(及び/または抗体分泌細胞)を取得する及び/または増大させるのに十分な時間にわたって下流分化培地中のB系統細胞の集団を培養することを含む。
【0105】
一実施形態において、B系統細胞の集団は、ダブルポジティブCD10+CD19+B系統細胞またはシングルポジティブCD19+細胞などのCD19+細胞を含むか、またはそれらの集団である。
【0106】
一実施形態において、本方法は、本開示の分化培地中での培養後に産出される細胞(例えばB系統細胞の集団)の中に、またはCD19+細胞(例えばダブルポジティブCD10+CD19+B系統細胞)の集団の中に含まれるよりも多くの、下流分化培地中での培養後のIgM+細胞を取得することをさらに含む。
【0107】
下流分化培地(IgM+細胞の分化及び増大用の培地とみなすこともできる)は、B系統細胞の集団を(IgM+細胞の集団に)分化させるために、またはIgM+細胞を増大させるために使用され得る、任意の培地である。好ましい実施形態において、下流分化培地は、無血清である。下流分化培地が無血清である場合、そのような培地に、BIT 9500 Serum Substitute(STEMCELL Technologies、型番09500)、または他の市販の血清代替溶液などの血清代替サプリメントを含める必要がある場合がある。あるいは、本開示の任意の細胞を培養または分化するために必要である、血清中に通常存在する成分が、許容可能な濃度で下流分化培地に個別に添加されてもよい。一実施形態において、血清中に通常存在する成分は、アルブミンである。アルブミンが下流分化培地中に(血清の代わりに)含まれる場合、これは任意の種に由来し得るが、典型的にはウシまたはヒトのいずれかのものである。いくつかの実施形態では、アルブミンは組換え型であり得る。
【0108】
代替的に「DDM」培地とも呼ばれる本開示の下流分化培地には、HSPCを培養し、B細胞前駆体の誘導、IgM+細胞を含むB系統細胞の分化を支持するために適切に調合された基礎培地が含まれる。したがって、好適な基礎培地は、造血系統の細胞、特にB系統細胞の培養を支持する任意の基礎培地である。例示的な基礎培地は、STEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Basal Medium(STEMCELL Technologies、型番100-171)、STEMdiff(商標)Hematopoietic Basal Medium(STEMCELL Technologies、型番05311)、STEMdiff(商標)APEL(商標)2 Medium(STEMCELL Technologies、型番05270)、StemSpan(商標)AOF Medium(STEMCELL Technologies、型番100-0130)、StemSpan(商標)SFEM&SFEM II、ImmunoCult(商標)XF(STEMCELL Technologies、型番09650、09655、10981)、または目的にかなった任意の他の市販の基礎培地を含むが、これらに限定されない。そのような基礎培地を調合するために使用される一般的な成分は、塩、バッファー、脂質、アミノ酸、微量元素、特定のタンパク質、ビタミン、ミネラル、還元剤などを含み得る。一実施形態において、基礎培地は、HSPCをB系統細胞(そこからのIgM+細胞を含む)に分化させることを最適に支持するように調合される。
【0109】
一実施形態において、下流分化培地は、ヒトCD40のリガンドを含む。ヒトCD40のリガンドは、天然形態で単離及び/または使用することができる。あるいは、ヒトCD40のリガンドは、増加した活性及び/または半減期及び/または安定性のためにエンジニアリングされ得る。CD40のリガンドは、天然のものであってもエンジニアリングされたものであっても、商業的供給者から入手することができ、また、組換え型であってもよい。
【0110】
含まれる場合、下流分化におけるCD40のリガンドは、約10ng/mL~5μg/mL、約25ng/mL~2μg/mL、約50ng/mL~1μg/mL、または約100ng/mL~500ng/mLの範囲の濃度で存在し得る。
【0111】
一実施形態において、下流分化培地は、少なくとも1つの他のサイトカインをさらに含む。一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、1つ以上のインターロイキンである。一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-15、IL-17、及びIL-21のうちの1つ以上である。一実施形態において、少なくとも1つの他のサイトカインは、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、もしくはIL-21のうちの1つ以上、またはそれらのいずれかの組み合わせである。
【0112】
下流分化培地中の少なくとも1つの他のサイトカイン(または少なくとも1つの他のサイトカインの各々)の濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0113】
一実施形態において、下流分化培地は、B系統細胞集団からのIgM+細胞及び抗体分泌細胞の分化をさらに増進するために、1つ以上の追加のサイトカインもしくは成長因子、または小分子をさらに含み得る。分化培地に含まれ得る1つ以上の追加のサイトカインまたは成長因子の非限定的な例としては、エリスロポエチン(EPO)、インスリン成長因子1(IGF-1)、インスリン成長因子2(IGF-2)、B細胞活性化因子(BAFF)、増殖誘導リガンド(APRIL)、及びインターフェロンガンマ(IFN-g)が挙げられる。
【0114】
下流分化培地に含まれる1つ以上の追加の成長因子の濃度は、約0.1ng/mL~1μg/mL、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0115】
一実施形態において、下流分化培地中に含まれる1つ以上の追加の成長因子は、SCF、TPO、及びFLT3Lのうちの1つ以上から選択することができる。一実施形態において、下流分化培地は、SCF、TPO、及びFLT3Lのうちの2つ以上を含み得る。一実施形態において、下流分化培地は、SCF、TPO、及びFLT3Lの各々を含んでもよいし、いずれも含まなくてもよい。一実施形態において、下流分化培地は、SCF及びFLT3Lの一方または両方を含まない。一実施形態において、下流分化培地は、TPOを含まず、SCF及びFLT3Lの一方または両方を含まない。
【0116】
SCFが下流分化培地に含まれる場合、その中のSCFの濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0117】
FLT3Lが下流分化培地に含まれる場合、その中のFLT3Lの濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0118】
TPOが下流分化培地に含まれる場合、その中のTPOの濃度は、約0.5ng/mL~500ng/mL、約1ng/mL~250ng/mL、約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの範囲であり得る。
【0119】
一実施形態において、下流分化培地は、基礎培地、ならびにCD40のリガンド及び少なくとも1つの他のサイトカインの一方または両方を含む。一実施形態において、下流分化培地は、基礎培地、ならびにCD40のリガンド、少なくとも1つの他のサイトカイン、及び少なくとも1つの追加のサイトカインのうちの1つ以上を含む。一実施形態において、下流分化培地は、基礎培地、CD40のリガンド及び少なくとも1つの追加のサイトカインの一方または両方を含む。
【0120】
一実施形態において、下流分化培地は、完全培地として調合され得る。一実施形態において、下流分化培地は、使用前に新たに調製することができ、したがって、基礎培地は、基礎培地に添加される1つ以上のサプリメントとは別々に貯蔵することができる。一例では、誘導/分化方法において完全な下流分化培地を使用する直前に、成長因子及びサイトカインをサプリメントに組み合わせて基礎培地に添加することができる。
【0121】
下流分化培地に含まれる成長因子及びサイトカインは、様々な商業的供給者から調達することができ、また、組換え型であってもよい。
【0122】
本開示の下流分化培地は、B系統細胞の集団の培養を支持するための基質との相乗作用を示し得る。一実施形態において、間質細胞またはフィーダー細胞が、本開示の細胞培養培地と共に使用され得る。そのような細胞の非網羅的な例としては、胚性肝臓細胞株EL08.1D2、AFT024細胞、OP9細胞、MS-5またはM2-10B4細胞、胚性大動脈-生殖腺中腎(AGM)由来のマウス胚性線維芽細胞または間質細胞が挙げられる。
【0123】
一実施形態において、B系統細胞の集団の培養は、フィーダー細胞不含及び/または間質細胞不含の条件下で行われる。そのような手法は、間質/フィーダー細胞によって事前にコンディショニングした培地を利用してもよく、またはそのようなシステムは、間質/フィーダー細胞代替物を利用してもよい。間質/フィーダー細胞代替物は、適切なシグナルまたは結合部位を培養中の細胞に提供する1つ以上の既定の成分を含む場合がある。このような成分は、下流分化培地に含まれるか、または培養容器の内部培養物表面に、もしくは細胞培養培地中に懸濁した固体表面上に、例えば粒子、ビーズ、マイクロキャリアなどの上に適用されるコーティングとして用いられてもよい。そのような成分の非網羅的な例は、フィブロネクチンコーティング、ゼラチンコーティング、コラーゲンコーティング、またはMatrigel(Corning)を含み得る。
【0124】
一実施形態において、B系統細胞の集団の培養は、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子の存在下で(そしてフィーダー細胞及び/または間質細胞担体の非存在下で)行われる。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子は、下流分化培地中に可溶化されているか、または下流分化培地と接触する表面上にコーティングされている。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質は、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ECM1、SPARC、またはオステオポンチンである。一実施形態において、細胞接着分子は、血管細胞接着分子(例えばVCAM-1)または固定化SCFタンパク質(例えばSCF-Fc)である。
【0125】
一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質及び細胞接着分子の組み合わせが使用される。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質の組み合わせが使用される。一実施形態において、細胞接着分子の組み合わせが使用される。一実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質(複数可)及び細胞接着分子(複数可)の組み合わせが使用される。
【0126】
含まれる場合、下流分化培地との相乗作用を示す細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子の濃度は、約0.1~100μg/mL(または96ウェルプレートで0.03~30μg/ウェル)、約0.2~50μg/mL(または96ウェルプレートで0.06~15μg/ウェル)、または約0.5~20μg/mL(または96ウェルプレートで0.15~6μg/ウェル)の範囲である。
【0127】
一実施形態において、本開示の培地は、細胞外マトリックスタンパク質または細胞接着分子と併せた使用に依存しない。
【0128】
下流分化培地中でB系統細胞の集団を培養することは、それらの生存能力または下流系統へ分化する能力に影響を与えない任意の期間にわたって行われ得る。一実施形態において、B系統細胞の集団をIgM+細胞及び/または抗体分泌細胞の集団に分化させる方法は、下流分化培地中のB系統細胞の集団を約1~28日間、約3~25日間、約5~21日間、または約7~14日間培養することを含む。一実施形態において、B系統細胞の集団をIgM+細胞の集団に分化させる方法は、下流分化培地中のB系統細胞の集団を約3~21日間培養することを含む。
【0129】
一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後の細胞の10%以上がCD19+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後の細胞の20%以上がCD19+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後の細胞の30%以上がCD19+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後の細胞の40%以上がCD19+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後の細胞の50%以上がCD19+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後の細胞の60%以上がCD19+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後の細胞の70%以上がCD19+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後の細胞の80%以上がCD19+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後の細胞の90%以上がCD19+細胞である。
【0130】
一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後のCD19+細胞の1%がIgM+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後のCD19+細胞の2%がIgM+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後のCD19+細胞の3%がIgM+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後のCD19+細胞の4%がIgM+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後のCD19+細胞の5%以上がIgM+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後のCD19+細胞の10%以上がIgM+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後のCD19+細胞の15%以上がIgM+細胞である。一実施形態において、下流分化培地中でB系統細胞を培養した後のCD19+細胞の20%以上がIgM+細胞である。
【0131】
一実施形態において、下流分化培地を使用したB系統細胞の下流分化は、投入細胞当たり50個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり100個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり250個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり500個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり1000個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり2000個以上のCD19+細胞、投入細胞当たり3000個以上のCD19+細胞、または投入細胞当たり4000個以上のCD19+細胞をもたらす。さらに、一実施形態において、下流分化培地を使用したB系統細胞の下流分化は、投入細胞当たり10個以上のIgM+細胞、投入細胞当たり25個以上のIgM+細胞、投入細胞当たり50個以上のIgM+細胞、投入細胞当たり100個以上のIgM+細胞、投入細胞当たり150個以上のIgM+細胞、または投入細胞当たり200個以上のIgM+細胞をもたらす。
【0132】
一実施形態において、下流分化培地中での培養後、産出細胞の約0.5%以上が抗体分泌細胞である。一実施形態において、産出細胞の約1%以上が抗体分泌細胞である。一実施形態において、産出細胞の約2%以上が抗体分泌細胞である。一実施形態において、産出細胞の約3%以上が抗体分泌細胞である。一実施形態において、産出細胞の約4%以上が抗体分泌細胞である。一実施形態において、産出細胞の約5%以上が抗体分泌細胞である。一実施形態において、産出細胞の約10%以上が抗体分泌細胞である。
【0133】
一実施形態において、抗体分泌細胞は、CD19+である。一実施形態において、抗体分泌細胞は、CD19-であり、このような抗体分泌細胞集団は、CD138+であり得る。一実施形態において、抗体分泌細胞は、IgM-である。一実施形態において、抗体分泌細胞は、IgMまたはIgGのいずれかを分泌する。
【0134】
HSPCがPSC由来である、本明細書で開示される方法の実施形態では、PSCは、無血清条件下で培養され得る。同じかまたは異なる実施形態では、PSCは、間質細胞不含条件及び/またはフィーダー不含条件下で培養され得る。PSCからのCD34+HSPCの分化は、STEMdiff(商標)Hematopoietic Kit(STEMCELL Technologies)またはSTEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Basal Mediumなどの市販のキットを、EB Supplement A及びEB Supplement B(STEMCELL Technologies)と併せて使用することによって行われ得る。このステップでは、または本明細書で開示される本方法の任意のステップでは、方法の次のステップに進む前に目的の細胞を精製/濃縮することが望ましい場合がある。細胞を精製/濃縮する方法は、免疫磁気細胞分離または蛍光活性化細胞選別などによるものが知られている。
【0135】
IgM+B細胞は、IgM+IgD+ナイーブB細胞へと(IgM+IgD+移行B細胞期を介して)、IgM抗体分泌細胞へと、またはアイソタイプスイッチに応じてIgG+、IgE+、もしくはIgA+メモリーB細胞もしくは形質細胞のいずれかへと、さらに成熟し得る。そのようなメモリーB細胞は、抗体分泌細胞(IgM、IgG、IgEまたはIgAを分泌することができる)に分化する場合もある。
【0136】
一実施形態において、PSC由来HSPCの集団からB細胞前駆体の集団を誘導する方法は、上述のようにPSCをHSPCに分化させる前にPSCを凝集体に形成し、次いでそのようなPSC由来HSPCを誘導培地条件に供することを含み得る。
【0137】
PSCは、任意の公知の手法を使用して凝集体に形成することができる。例えば、PSCの凝集体は、細胞培養プレートのチューブまたはウェルの底に所望の数のPSCを堆積させることによって形成され得る。あるいは、凝集体は、確実にPSCの均一なサイズの凝集体を効率的かつ再現可能に形成するために、Aggrewell(商標)マイクロウェルデバイス(STEMCELL Technologies)のウェル中に所望の数のPSCを堆積させることによって形成され得る。
【0138】
一実施形態において、凝集体を形成するために使用されるPSCの数は、約1~100,000である。一実施形態において、凝集体を形成するために使用されるPSCの数は、約10~10,000である。一実施形態において、凝集体を形成するために使用されるPSCの数は、約100~1,000である。
【0139】
したがって、一実施形態において、PSCの凝集体は、マイクロウェルデバイス中で形成され得る。一実施形態において、PSCの凝集体は、約1000個の細胞または約500個の細胞から形成される。
【0140】
i)HSPCを濃縮する、ii)PSCを中胚葉前駆体に分化させる、iii)PSC由来か組織由来かを問わずHSPCからB細胞前駆体の集団を誘導する、iv)B細胞前駆体からB系統細胞を分化させる、v)B系統細胞からIgM+及び/またはIgM分泌細胞を分化させる、あるいはvi)B系統細胞またはより後期の細胞型からIgG+及び/またはIgG分泌細胞を分化させるための培地ならびにこれらの方法を開示することに加えて、本明細書で開示される様々な培地が、無血清及び/またはフィーダー細胞不含もしくは間質細胞不含の条件下か否かを問わず、PSCまたは組織由来HSPCから未成熟または成熟型のB細胞への段階的分化のためのシステムまたはキットに含まれ得る。
【0141】
いくつかの実施形態では、システム全体が、無血清及び/またはフィーダー細胞不含もしくは間質細胞不含の条件下で行われる。いくつかの実施形態では、システムの特定の態様のみが、無血清及び/またはフィーダー細胞不含もしくは間質細胞不含の条件下で行われる。例えば、前述の内容の普遍性を限定するものではないが、PSCから中胚葉前駆体、PSC由来中胚葉前駆体から造血始原細胞、PSC由来造血始原細胞からリンパ球系始原細胞(例えば、B細胞前駆体の集団)への分化、B細胞前駆体からB系統細胞への分化、ならびにB系統細胞からIgM発現細胞(及び/またはIgM分泌細胞)及び/またはIgG発現細胞(及び/またはIgG分泌細胞)のいずれかへの分化が、無血清及び/またはフィーダー細胞不含もしくは間質細胞不含の条件下で行われるのに対し、さらなる下流段階は、この条件下で行われても行われなくてもよい。逆に、システムの後期段階が、無血清及び/または間質不含の条件下で行われるのに対し、初期段階は、無血清及び/またはフィーダー細胞不含もしくは間質細胞不含の条件下で行われても行われなくてもよい。
【0142】
一実施形態において、このようなシステムまたはキットは、PSCワークフローとの関連において、PSCを中胚葉前駆体に分化させるための第1の培養システム;PSC由来中胚葉前駆体を造血始原細胞に分化させるための第2の培養システム;PSC由来造血始原細胞をリンパ球系始原細胞の1つ以上の亜集団に分化させるための第3の培養システム;PSC由来リンパ球系始原細胞(例えばB細胞前駆体の集団)を分化させるための第4の培養システム;PSC由来リンパ球系始原細胞(例えばB細胞前駆体の集団)をB系統細胞の集団に分化させるための第5の培養システム;B系統細胞の集団をIgM発現細胞(及び/またはIgM分泌細胞)及び/またはIgG発現細胞(及び/またはIgG分泌細胞)に分化させるための第6の培養システム;コーティング基質;HSPCの集団を正または負に濃縮するための第1のキット;B細胞前駆体の集団を正または負に濃縮するための第2のキット;B系統細胞の集団を正または負に濃縮するための第3のキット;未成熟B細胞の集団を正または負に濃縮するための第4のキット;ならびに成熟B細胞の集団を正または負に濃縮するための第5のキットのうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、またはそれ以上の構成要素を含み得る。
【0143】
一実施形態において、このようなシステムまたはキットは、初代CD34+細胞または組織由来CD34+細胞ワークフローとの関連において、CD34+HSPCの集団からB細胞前駆体を誘導するための第1の培養システム;B細胞前駆体の集団からB系統細胞を分化させるための第2の培養システム;B系統細胞の集団からIgM+またはIgM分泌細胞をさらに分化させるための第3の培養システム;コーティング基質;HSPCの集団を正または負に濃縮するための第1のキット;B細胞前駆体の集団を正または負に濃縮するための第2のキット;B系統細胞の集団を正または負に濃縮するための第3のキット;未成熟B細胞の集団を正または負に濃縮するための第4のキット;ならびに成熟B細胞の集団を正または負に濃縮するための第5のキットのうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、またはそれ以上の構成要素を含み得る。
【0144】
本明細書で開示される培地を用いて、または本明細書で開示される方法によって取得された細胞は、任意の下流のアッセイまたは目的のために使用することができる。一実施形態において、本開示の細胞(B細胞前駆体の集団か、CD19+もしくはCD10+CD19+B系統細胞の集団か、またはIgM+もしくはIgM分泌細胞かを問わない)は、B細胞発生、またはがんなどのB細胞疾患の生物学を調べるための研究用途で使用され得る。
【0145】
一実施形態において、本開示の細胞は、造血(例えばB細胞)障害に罹患している患者など、必要のある患者への移植目的で使用され得る。このような実施形態では、必要のある患者に移植される細胞は、B細胞前駆体の集団、CD19+もしくはCD10+CD19+B系統細胞の集団、あるいはIgM+細胞、あるいはIgM及び/またはIgGのようなIgを分泌する細胞であり得る。このような細胞は、1つ以上の導入遺伝子を導入するか、1つ以上のDNA断片を除去するか、または1つ以上のハイポモルフもしくはハイパーモルフ突然変異を作出するために、公知の遺伝子編集技術を使用して編集され得る。一実施形態において、移植される細胞はPSC由来であり、したがって同種異系細胞の普遍的な供給源である可能性がある。一実施形態において、移植される細胞は組織由来であり、したがって自己細胞の供給源である可能性がある。
【0146】
一実施形態において、本開示の細胞は、毒性研究または薬物スクリーンなどの試験条件に対する細胞の応答性を評価するために使用され得る。そのような実施形態では、起源細胞は、非疾患状態または疾患状態に対応し得る。いくつかの実施形態では、遺伝子編集技術などによって1つまたは複数の出発細胞に疾患状態を導入することができる。
【0147】
以下の非限定的な実施例は、本開示を例示するものである。
【実施例】
【0148】
実施例1:ドナーサンプルからのCD34
+HSPCの濃縮
商業的供給者から臍帯血ユニットを入手し、EasySep Human Cord Blood CD34 Positive Selection Kit II(STEMCELL Technologies)を使用してCD34
+HSPCを濃縮し、次いで10%DMSOを含む血清中で凍結したか、または新鮮な状態で使用した。続いて、CD34
+細胞を染色し、次いで、Lin
-(Linには、CD3、CD14、CD15、CD16、CD19、CD56、及びCD66bが含まれた)、「pop1」と呼ばれるCD34
+CD38
-/mid/lowCD10
-細胞について選別した(FACS Aria)。コントロールとして使用された、より決定的な第2の選別集団は、「pop2」と呼ばれるLin
-CD34
+CD38
midCD10
+であった(
図1)。
【0149】
実施例2:フローサイトメトリーならびに細胞数及び収量の判定
本開示で概説する指向性分化プロトコルの任意の段階で、サンプルを回収することができ、その表現型をフローサイトメトリーによって評価することができる。以下の概略的プロトコルは、CD34、CD10、CD19、CD20及びIgMの測定に等しく適用される。
【0150】
簡単に述べると、細胞サンプルを遠心分離によって回収し、適切に洗浄した。続いて、選択された抗原に対抗する蛍光体結合抗体で細胞サンプルを染色し、CytoFLEX S(商標)フローサイトメーター(Beckman-Coulter)で分析した。死細胞を、光散乱プロファイル及びDRAQ7染色によって除外した。
【0151】
NucleoCounter NC250(Chemometec)を使用して、製造業者の推奨に従って総生存細胞数を得た。細胞を必要に応じて希釈した後に、アクリジンオレンジ及びDAPI(AO/DAPI)の混合物によって染色した。本混合物では、AOは、細胞膜を標識し、DAPIは、死/瀕死細胞の核酸を標識し、これらを一緒に用いることで、サンプル中の生存細胞と非生存細胞との写真による識別が可能になる。次にNC250ソフトウエアによって、得られた画像を分析し、生存細胞濃度を含む細胞数を記録した。投入細胞当たりの特定の細胞の収量を計算するために、総生存可能数に所定の細胞型の存在比率%を乗じた。例えば、投入CD34+細胞当たりのCD10+細胞の収量を計算するために、まず生存細胞数に、フローサイトメトリーによって取得したCD10+の%を乗ずる。次に、この数を、投入細胞の数で除算して(投入CD34+細胞の場合)、最終の値を得る。1つのウェルで培養された総細胞に細胞分離後のCD34+細胞の存在比率を乗ずることによって、投入CD34+細胞数を得た。
【0152】
実施例3:臍帯血由来CD34
+HSPCからのB細胞前駆体の誘導
実施例1の濃縮されたCD34
+HSPCを、誘導培地中でB細胞前駆体に分化させた。誘導培地は、典型的には、StemSpan(商標)SFEMII(STEMCELL Technologies、型番09655)などの基礎培地、ならびに多様な段階特異的サイトカイン及び成長因子を含んでいた。誘導培地の最初の複製物はSCF、TPO、FLT3L、及びIL-7を含むものとし、このような因子の様々な組み合わせを試験する実験を実行した(
図2、3及び6)。
【0153】
簡単に述べると、本質的に実施例1に記載したようなCD34
+HSPCの濃縮集団からpop2細胞を選別し、試験した誘導培地調合物中に、24ウェルプレートのウェル当たり5000個の細胞を播種した。様々な培地調合物中で14日間の培養後、CD10
+(
図2A)及びCD19
+(
図2B)の細胞の存在比率及び収量について、フローサイトメトリーによって産出細胞を分析した。
【0154】
TPOは、臍帯血由来CD34+HSPCからB細胞前駆体を誘導するための誘導培地において必須ではないことが観察された。TPOが誘導培地において必須ではないことを特定したので、このような誘導培地中に添加される他のサイトカイン(例えばIL-3及び/またはIL-6)の効果を試験した。
【0155】
簡単に述べると、pop2細胞をCD34
+HSPCの濃縮集団から選別し、本質的に上述のように播種し、培養した。様々な培地調合物中で14日間の培養後、総増大倍率(
図3A)、CD10
+細胞の存在比率及び収量(
図3B)、ならびにCD19
+細胞の存在比率及び収量(
図3C)について、フローサイトメトリーによって産出細胞を分析した。フローサイトメトリーによって分析された14日目の細胞の例示的なプロットを
図3Dに示す。
【0156】
IL-3またはIL-6を組み合わせずに単独で誘導培地に含めることでpop2細胞からのCD10+細胞の収量が向上したこと、そしてIL-3が単独でpop2細胞からのCD19+細胞の収量を向上させたことが観察された。
【0157】
実施例1に記載のように濃縮され、選別され、播種されたpop1細胞を使用して、上記で実行及び報告されたものと同様の実験を行った。様々な培地調合物中で14日間の培養後、総増大倍率(
図3E)、CD10
+細胞の存在比率及び収量(
図3F)、ならびにCD19
+細胞の存在比率及び収量(
図3G)について、フローサイトメトリーによって産出細胞を分析した。フローサイトメトリーによって分析された14日目の細胞の例示的なプロットを
図3Hに示す。
【0158】
IL-3またはIL-6を単独または組み合わせで含めることで、誘導培地中で14日後にpop1細胞からのCD10+細胞の収量が向上したことが観察された。
【0159】
実施例4:臍帯血由来B細胞前駆体からのCD19+B系統細胞の分化
本質的に実施例3に記載したようなCD34+HSPC(すなわちpop2細胞)からB細胞前駆体を誘導し、後述するようにCD19+B系統細胞へと分化させた。
【0160】
最初の実験では、コントロール誘導培地(例えばSUPPLCTL)中でpop2細胞を14日間培養した。14日後、細胞を様々な分化培地調合物に移し、さらに14日間培養した。試験した分化培地条件は、
図4に示すように、SCF、TPO、IL-7、またはFLT3Lのうちの1つ以上が欠如するように調合した。28日目の細胞を、フローサイトメトリーによって、CD10
+細胞(
図4A)、CD19
+B系統細胞(
図4B)、及びCD19
+細胞に応じたIgM
+細胞(
図4C)の存在比率及び収量について分析した。
【0161】
すべての分化培地調合物が、分析された各細胞集団において相当の存在比率及び収量をもたらしたことが観察された。
【0162】
追跡実験では、実施例3に記載したような誘導培地を14日間使用して、pop2細胞からB細胞前駆体を誘導した。14日後、産出細胞を回収し、計数し、フローサイトメトリーによりCD10及びCD19の発現を分析し、24ウェルプレートのウェル当たり1~2×105個の細胞を、上記の段落に記載したような分化培地に再播種した。2週間の培養後、すべての条件を回収し、計数し、CD10、CD19及びIgMの発現についてフローサイトメトリーにより分析した(データは示さない)。IL-6を誘導培地に含めることによって分化培地との相乗作用が生じ、最も多い数のCD19+B系統細胞が得られることが観察された(データは示さない)。
【0163】
上記の所見を確認するために、pop2細胞を誘導培地調合物(実施例3及び本実施例に記載するとおり)で14日間培養し、次いで産出細胞を回収し、計数し、フローサイトメトリーによってCD10及びCD19などのマーカーの発現について分析した。14日目の細胞を分化培地調合物(本実施例で上述のとおり)でさらに14日間培養し、次いで回収し、計数し、CD10(
図5A)、CD19(
図5B)、及びIgM(
図5C)の発現(ならびに存在比率及び収量)についてフローサイトメトリーにより分析した。Pop1細胞を同様に培養し、フローサイトメトリーによってCD10(
図5D)、CD19(
図5E)、及びIgM(
図5F)の発現(ならびに存在比率及び収量)について分析した。
【0164】
pop2細胞については、開発された誘導及び分化のプロトコルにより、投入細胞当たりおよそ150個のCD19
+B系統細胞のロバストな収量を生成することができた。さらに、投入細胞当たりおよそ10個のIgM
+細胞を生成することができた。濃縮されたCD34
+HSPCの5%のみがpop2細胞に相当することを考慮すると、無血清かつフィーダー細胞不含の条件でのこれらの効率は特筆に値する。pop1細胞から出発したが、pop2細胞との関連で観察されたように、開発された誘導及び分化のプロトコルにより、投入細胞当たりおよそ300個のCD19
+B系統細胞のロバストな収量を生成することができた(
図5E)。さらに、投入細胞当たり5個を超えるIgM
+細胞を生成することができた(
図5F)。
【0165】
本実施例において上記のように実行及び報告された実験と同様に、実施例1に記載のようにpop1細胞を濃縮及び単離し、次いで、SCFを欠いているがIL-3またはIL-6のいずれかを単独または組み合わせで含む誘導培地調合物に、24ウェルプレートのウェル当たり5000個の細胞を播種した。14日後、産出細胞を回収し、計数し、フローサイトメトリーによりCD10及びCD19の発現を分析し、1~2×10
5個の細胞/ウェルを分化培地(本実施例で上述のとおり)に再播種した。14日間の培養後、すべての条件を回収し、計数し、CD10、CD19及びIgMの発現についてフローサイトメトリーにより分析した(データは示さない)。上記のように、28日目の細胞を回収し、計数し、CD10(
図6A)及びCD19(
図6B)の発現についてフローサイトメトリーによって分析した。
【0166】
この場合にはpop1細胞から出発したが、pop2細胞との関連で観察されたように、IL-6を様々な誘導培地調合物に含めることで分化培地との相乗作用が生じ、最も高い存在比率及び収量のCD19+B系統細胞が得られた。
【0167】
CD19
+B系統細胞及びIgM
+細胞の存在比率及び収量を増加させるために、分化培地中での培養期間を14日から28日に延長した。42日間のプロトコル(誘導培地で14日間、分化培地で28日間)の後、pop1由来CD19
+B系統細胞の存在比率及び収量(
図7A)ならびにCD19+細胞中のIgM
+細胞の存在比率(
図7B)は著しく増加した。CD34
+HSPCの濃縮集団中でpop1細胞がpop2細胞よりも豊富であるとはいえ、無血清かつフィーダー細胞不含の条件を使用して達成された結果は特筆に値する。
【0168】
各出発細胞集団(バルクCD34
+、pop1及びpop2)について、CD19
+B系統細胞の存在比率及び収量の全体的概要を
図8に示す。各細胞集団を別々に実施例3及び本実施例に記載のとおりの誘導培地条件に14日間供し、次いで本実施例に記載のように分化培地条件に移して14日間おいた。CD34
+細胞の出発集団に関係なく、本培地を使用し、本開示の方法を実施することにより、CD19+細胞の顕著な存在比率及び収量を達成できることが明らかである。
【0169】
実施例5:臍帯血由来CD19+B系統細胞からIgM+細胞への下流分化の最適化
分化培地中での培養期間を延長することにより、IgM+細胞の産出を向上させることができたが、IgM+細胞の産出を増進する他の方法を探索した。具体的には、IgM+細胞の産出を増進するために、培養培地添加物の効果を調べた。
【0170】
簡単に述べると、24ウェルプレートの各ウェルで5000個のpop2細胞を誘導培地調合物(
図3参照)に播種し、14日間の培養後、産出細胞を24ウェルプレートのウェル当たり細胞1~2×10
5個で分化培地(
図4及び5参照)に再播種して、さらに14日間おいた。28日間の培養後、産出細胞を24ウェルプレートのウェル当たり細胞1~2×10
5個で再播種し、様々な下流分化培地、すなわち、サイトカインまたは成長因子を含まない基礎SFEM II培地(STEMCELL Technologies)(「-DDM」)、CD40L及び組み合わせのサイトカインを補充したSFEMII(STEMCELL Technologies)基礎培地(「DDMa」)、ならびにCD40L及び組み合わせのサイトカインを補充した分化培地(「DDMb」)において、7日間培養した。35日間のプロトコルの後、産出細胞を回収し、計数し、CD19(
図9A)及びIgM(
図9B)の発現についてフローサイトメトリーによって分析した。35日目の産出細胞によるIgM及びIgGの分泌が、ELISPOT(ImmunoSpot Human IgM/IgG-B-Cell Specific Double-Color ELISPOTキット)によって確認された。StemSpan(商標)SFEMII基礎培地コントロールと比較すると(
図9Ci)、CD40Lを補充した下流分化培地中で、増加した数のIgM(赤/灰色のドット)及びIgG(青/黒のドット)の両方が検出された(
図9Cii及び9Ciii)。実際、CD19発現細胞及びIgM発現細胞の産出が(収量に関して)、CD40L含有条件において達成された。
【0171】
pop2細胞に関しては、バルク細胞から出発してIgM
+細胞を分化させるための培養培地添加物の効果を調査した。pop2細胞について記載したように、バルク細胞を播種し、培養し、分析した(
図9D及び9E)。pop2細胞で観察されたように、CD40Lを含有する下流分化培地調合物中のバルク細胞は、コントロール条件と比較して、CD19発現細胞及びIgM発現細胞の産出における(収量に関する)顕著な増加を示した。
【0172】
実施例6:PSCの維持
B細胞前駆体を誘導するためにhPSCを使用した場合、これらを、mTeSR(商標)1(STEMCELL Technologies)、TeSR(商標)-E8(STEMCELL Technologies)、またはmTeSR(商標)Plus(STEMCELL Technologies)培地中で、製造業者の推奨に従って6~8日間、Matrigel(商標)でコーティングしたプレート上に維持した。必要に応じて完全培地交換を行った。PSCコロニーを、維持培養中に、新たにコーティングしたMatrigel(商標)プレート上で凝集塊にして継代した。PSCを下流アッセイに使用した場合、単一細胞懸濁液を得るために、ACCUTASE(商標)(STEMCELL Technologies)を使用して、製造業者の推奨プロトコルに従ってコロニーを解離した。
【0173】
実施例7:PSC凝集体の形成及び分化
実施例6に従って単一細胞懸濁液を得ることに先立って、24ウェルまたは6ウェルのAggrewell(商標)400プレート(STEMCELL Technologies)を、製造業者の推奨に従って準備し、その際、抗粘着洗浄液(STEMCELL Technologies)を使用してマイクロウェルデバイスへの細胞の接着を低減させた。推奨されるインキュベーションの後に、抗粘着洗浄液を廃棄し、15mMのHEPESを含む等量のDMEM-F12で各ウェルを1回すすいだ。
【0174】
マイクロウェルデバイスを準備した後、実施例6に従って解離したhPSCを、マイクロウェルデバイスの1つ以上のウェルにおいて、EB Formation Medium(STEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Supplement A(STEMCELL Technologies)を補充したSTEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Basal Medium)及び10μMのY-27632(STEMCELL Technologies)の中に播種した。6ウェル方式のマイクロウェルデバイスを使用する実施形態では、2.5mLのEB Formation Mediumをマイクロウェルデバイスのウェルに添加した。次に、さらに2.5mLの細胞懸濁液(約1.4×106細胞/mL)を含むEB Formation Mediumをウェルに添加し、マイクロウェルデバイスを短時間遠心分離し、37℃でインキュベートした。24ウェル方式のマイクロウェルデバイスを使用する場合、その分、ウェル当たりの容量を2mL/ウェルに縮小する必要がある。マイクロウェルデバイスの各ウェルにおける最終細胞濃度は、約3×105細胞/ml、もしくは24ウェルプレートで6×105細胞/ウェル、または7×105細胞/mL、もしくは6ウェルプレートで3.5×106細胞/ウェルにする必要がある。
【0175】
実施例8:凝集体から造血始原細胞への分化
実施例7に記載のように凝集体を調製し、凝集体形成後2日目に、凝集体を崩すことなく、マイクロウェルデバイスの各ウェル中の2.5mLの培地を慎重に取り出して廃棄した。2.5mL容量の新鮮なEB Medium A(STEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Supplement A(STEMCELL Technologies)を補充したSTEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Basal Medium(STEMCELL Technologies))を各ウェルに添加し、マイクロウェルデバイスを37℃でインキュベートした。
【0176】
中胚葉中間体(例えば、中胚葉前駆体)が形成された3日目に、凝集体を崩すことなく、マイクロウェルデバイスの各ウェル中の2.5mLの培地を慎重に取り出して廃棄した。STEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Supplement B(STEMCELL Technologies)を補充した2.5mL容量の新鮮なEB Medium B(STEMdiff(商標)Hematopoietic-EB Basal Medium(STEMCELL Technologies))を各ウェルに添加し、37℃でインキュベートして、中胚葉前駆体細胞を造血始原細胞に分化させた。
【0177】
5日目に、凝集体をマイクロウェルデバイスの各ウェルから回収し、37μmリバーシブルフィルタ(STEMCELL Technologies)に通して、その表面上で凝集体を単離した。新鮮なチューブの上方でフィルタを反転させ、2.5mL/ウェルの新鮮なEB Medium Bをメッシュに対して誘導することにより、新鮮なチューブに凝集体の濾液を堆積させた(24ウェル形式のマイクロウェルデバイスで1mL/ウェルを使用した)。このようにして得た凝集体を緩やかに再懸濁させた後に、総容量を非組織培養処理プレートに添加し、その後、37℃でインキュベートした。7日目に、6ウェルプレートの各ウェルに新鮮なEB Medium Bを2.5mL(または24ウェルプレートで1mL/ウェル)ずつ足し、次に、37℃でインキュベートした。10日目に、凝集体を崩さないように注意を払いながら新鮮なEB Medium Bで半分培地交換を行い、続いて37℃でさらに2日間インキュベートした。
【0178】
実施例9:造血始原細胞の濃縮
実施例8の凝集体を各ウェルから回収し、個々の15mLチューブへ移した。チューブを300×gで5~10分間遠心分離した。上澄液を吸引し、1mLのCollagenase Type II-2500U/mL(STEMCELL Technologies)(型番07418)を各チューブに添加し、37℃で20分間インキュベートした。その後、3mLのTryPLE(商標)Expressを加え、各チューブをさらに20分間インキュベートした。
【0179】
インキュベーション後、各チューブにDMEM/F12を6mLずつ足し、37μmフィルタに通して濾過した。溶出液を300×gで5~10分間遠心分離し、上澄液を廃棄した。ペレット化した細胞をCD34+濃縮プロトコル(EasySep(商標)Human CD34 Positive Selection Kit II、STEMCELL Technologies)に供した。CD34+濃縮に関しては、磁気分離の回数を4から2に減らしたことを除いては製造業者の推奨に従った。H1、H9、WLS-1C、STiPS-M001、及びSTiPS-F016 PSC株は、CD34+造血始原細胞に効率的に分化した。
【0180】
実施例10:hPSC由来CD34+HSPCからのB細胞前駆体の誘導
実施例9の濃縮されたCD34+HSPCを、24ウェルプレートのウェル当たり細胞2.5×104個の密度で播種し、誘導培地中で、かつ細胞外マトリックスタンパク質もしくは細胞接着分子の様々なコーティングまたはMS-5間質細胞の存在下で14日間培養した。誘導培地は、典型的には、実施例3及び4のように、StemSpan(商標)SFEM II(STEMCELL Technologies)などの基礎培地、ならびに多様な段階特異的サイトカイン及び成長因子を含んでいた。誘導培地の最初の複製物は上述のものにIGF-1をさらに含めて調合し、14日後に産出されたH9由来細胞をCD10及びCD19の発現について分析した。
【0181】
最も高い存在比率のB細胞前駆体は、フィブロネクチンまたはコラーゲン1のいずれかでコーティングされたウェルでhPSCを培養した際に生成され、これらは、Matrigel(商標)コーティングなどのより従来の手法(
図10A)またはMS-5間質細胞上(データは示さない)よりも優れた性能を示した。細胞外マトリックスでコーティングされていないか、またはVCAM-1及びSCF-Fcの一方もしくは両方でコーティングされたウェルにおいてhPSCを培養した際、相当の存在比率のB細胞前駆体が生成されたことも観察された(
図10B)。
【0182】
B系統細胞に分化するPSC由来CD34
+HSPC細胞の能力について、かかる細胞におけるマーカー転写因子の発現を臍帯血由来CD34
+HSPC細胞中の発現レベルと比較することによって調査した。PSC由来CD34
+HSPCと臍帯血由来CD34
+HSPC細胞との両方において、B細胞特異化転写因子EBF1の相対的な発現変化倍率が経時的に減少したことが観察された(
図10C)。B細胞コミットメント因子PAX5の発現変化倍率は、PSC由来CD34
+HSPCと臍帯血由来CD34
+HSPC細胞との両方で、分化プロトコル中に増加し(
図10D)、このことは、PSC由来の分化細胞が、対応する臍帯血由来物と同様の転写プログラムを有することを示唆している。
【0183】
実施例11:hPSC由来B細胞前駆体からのCD19
+B系統細胞の分化
VCAM-1及び/またはSCF-Fcでコーティングされた、あるいはコーティングされていないプレートにおいて、実施例10に記載したように生成されたB細胞前駆体を、24ウェルプレートのウェル当たり細胞5.0×10
4個でVCAM-1コーティングプレート上に再播種し、本質的に実施例4に記載のとおりだがIGF-1をさらに含む分化培地中で14日間培養した。28日目のH9由来細胞を回収し、CD10及びCD19の発現(
図10E)ならびにCD19及びCD20の発現(
図10E)についてフローサイトメトリーによって分析した。
【0184】
CD19を発現するH9由来細胞の集団はCD20も発現しており、このことは、記載された無血清かつフィーダー細胞不含の条件がCD19+B系統細胞を生成し得ることを示唆している。
【0185】
実施例12:コーティングの存在下での臍帯血由来CD34+HSPCからのB細胞前駆体及びCD19+B系統細胞の生成
B細胞前駆体の誘導、及びpop1細胞からのCD19+B系統細胞へのB細胞前駆体の分化との関連で、細胞外マトリックスタンパク質コーティングまたは細胞接着分子コーティングの(コーティングなしと比較した)効果についても試験した。
【0186】
簡単に述べると、実施例1に記載したようにpop1細胞を選別し、24ウェルプレートのウェル当たり細胞5000個の密度で、本質的に実施例3に記載したように、TPO不含誘導培地に播種した(
図2)。誘導培地において様々なコーティングの存在下で14日間培養した後、各産出細胞集団を回収し、CD10
+(
図11A)及びCD19
+(
図11B)の存在比率及び収量について、フローサイトメトリーによって分析した。次に、14日目の細胞を、24ウェルプレートの対応するコーティングが施されたウェルに、ウェル当たり細胞1~1.5×10
5個で再播種し、本質的に実施例4に記載したように、分化培地の存在下で培養した。28日目の細胞を回収し、CD19
+細胞の存在比率及び収量(
図11C)ならびにCD19
+細胞中のIgM
+細胞の存在比率(
図11D)についてフローサイトメトリーによって分析した。
【0187】
試験したコーティングは、14日目のB細胞前駆体の誘導に著しい影響を与えたようには見受けられず、14日目のCD19発現細胞の生成に正の影響を与えなかった。興味深いことに、試験したコーティングのうち特定のものは、14日目のCD19発現細胞の生成に対して有害であり得るように見受けられた。28日目のCD19+B系統細胞の生成及び28日目のIgM発現細胞の生成についても、同じ全体的結論が導き出され得る。
【国際調査報告】