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特表2024-516463ALK-5(TGF-βR1)阻害剤による肺疾患の治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-15
(54)【発明の名称】ALK-5(TGF-βR1)阻害剤による肺疾患の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240408BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240408BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240408BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 31/444 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 31/4365 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 31/437 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240408BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P11/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K31/4709
A61K31/519
A61K31/5377
A61K31/444
A61K31/517
A61K31/4365
A61K31/437
A61K9/14
A61K9/08
A61K9/10
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568478
(86)(22)【出願日】2022-05-03
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 US2022027402
(87)【国際公開番号】W WO2022235621
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】63/183,393
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523417136
【氏名又は名称】ティロナ・バイオ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】バロー、デイビッド・エー.
(72)【発明者】
【氏名】フォルケス、ジョン・ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】ビーリー、ナイジェル・アール.・エー.
(72)【発明者】
【氏名】クリスタル、ロジャー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076AA29
4C076AA93
4C076BB25
4C076BB27
4C076CC15
4C084AA17
4C084MA17
4C084MA23
4C084MA43
4C084MA56
4C084MA57
4C084NA10
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB03
4C086CB05
4C086CB09
4C086CB27
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA43
4C086MA56
4C086MA57
4C086NA10
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZC20
(57)【要約】
本発明は、種々の肺疾患、例えば特発性肺線維症、特発性間質性肺炎、強皮症関連間質性肺疾患、サルコイドーシス、嚢胞性線維症、肺がん及びCOVID感染症、の処置又は予防のための、所望の解剖学的部位へALK5(TGF-βR1)阻害剤含有組成物を治療的に吸入送達する、液体製剤、乾燥粉末製剤及び定量製剤に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のALK5(TGF-βR1)阻害剤を哺乳動物の対象の肺に投与して前記対象を治療することを含む、肺疾患の患者を治療する方法。
【請求項2】
前記ALK5阻害剤が、
【化1】
又はその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
治療有効量の、式I
【化2】
[式中、
は、チエノ[3,2-c]ピリジニル、チエノ[3,2-b]ピリジニル、チエノ[2,3-c]ピリジニル及びチエノ[2,3-b]ピリジニルからなる群から選択され;各選択肢は、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR、ハロ、-CN及び-OHからなる群から独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよく;
及びRは、独立して、H、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR1011、ハロ、-CN、-OH及びC~Cシクロアルキルからなる群から選択されるか;
あるいは、R及びRは一緒になって、5~6員ヘテロアリール、フェニル、C~Cシクロアルキル又は4~6員ヘテロシクロアルキルを形成してもよく;C~Cシクロアルキル及び4~6員ヘテロシクロアルキルは、ハロ、-OH、オキソ及びC~Cアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよく;5~6員ヘテロアリール及びフェニルは、ハロ、-CN、-OH、-O(C~Cアルキル)及びC~Cアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよく;
、R、R及びRは、H、Cシクロアルキル、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR1213、ハロ、-CN、-OHからなる群から選択され;
及びRは、独立して、H、-(C~Cアルキル)OH、C~Cアルキル、ハロ及び-O(C~Cアルキル)からなる群から選択され;
10及びR11は、独立して、H及びC~Cアルキルからなる群から選択され;
12及びR13は、独立して、H、C~Cアルキル、ハロ及び-O(C~Cアルキル)からなる群から選択される]
で表される構造を有するALK-5(TGF-βR1)阻害剤又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む、肺疾患の患者を治療する方法であって、前記阻害剤又はその薬学的に許容される塩を前記患者の肺に投与して前記患者を治療する方法。
【請求項4】
式Iで表される化合物が、
【化3】
又はその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
式Iで表される化合物が、
【化4】
又はその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
式Iで表される化合物が、
【化5】
又はその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
式Iで表される化合物が、
【化6】
又はその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
式Iで表される化合物が、
【化7】
又はその薬学的に許容される塩である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項9】
式Iで表される化合物が、
【化8】
又はその薬学的に許容される塩である、請求項3又は5に記載の方法。
【請求項10】
式Iで表される化合物が、
【化9】
又はその薬学的に許容される塩である、請求項3又は6に記載の方法。
【請求項11】
式Iで表される化合物が、
【化10】
又はその薬学的に許容される塩である、請求項3又は7に記載の方法。
【請求項12】
前記ALK5阻害剤の各用量が、前記有効量の前記ALK5阻害剤及び少なくとも1種の薬学的に許容される担体を送達できる装置で、吸入によって下気道に投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記装置が、ネブライザー、定量吸入器又は乾燥粉末吸入器からなる群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記装置が、液体又は懸濁液を送達できる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記有効量が、前記ALK5阻害剤0.1mg~100mgである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ALK5阻害剤が、吸入に適した組成物として製剤化される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
各吸入量が、ALK5阻害剤の溶液からもたらされる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
各吸入量が、ALK5阻害剤の乾燥粉末製剤からもたらされる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
各吸入量が、水溶液、並びに、共溶媒、等張化剤、甘味料、界面活性剤、湿潤剤、キレート剤、酸化防止剤、塩及び緩衝剤から選択される1種以上の追加の成分を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ALK5阻害剤の製剤が少なくとも週1回投与される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ALK5阻害剤の製剤が毎日の連続する投与スケジュールで投与される、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ALK5阻害剤の製剤が、1日1回、1日2回又は1日3回投与される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1種の治療剤が、製剤化された前記ALK5阻害剤と同時に、前記患者に投与される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1種の治療剤が製剤化された前記ALK5阻害剤に含まれる、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記肺疾患が間質性肺疾患である、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記間質性肺疾患が、特発性肺線維症(IPF)、特発性間質性肺炎(IIP)、強皮症関連間質性肺疾患(SSc-ILD)、サルコイドーシス、閉塞性細気管支炎、ランゲルハンス細胞組織球症(好酸球性肉芽腫又は組織球症Xとも呼ばれる)、慢性好酸球性肺炎、膠原病、肉芽腫性血管炎、グッドパスチャー症候群、肺がん及び肺胞蛋白症(PAP)からなる群から選択される、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記間質性肺疾患が特発性肺線維症(IPF)である、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記対象又は患者がヒトである、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
治療有効量のALK5阻害剤及び薬学的に許容される担体を含む、下気道への直接投与に適した医薬組成物。
【請求項30】
前記ALK5阻害剤が、
【化11】
又はその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記ALK5(TGF-βR1)阻害剤が、式I
【化12】
[式中、
は、チエノ[3,2-c]ピリジニル、チエノ[3,2-b]ピリジニル、チエノ[2,3-c]ピリジニル及びチエノ[2,3-b]ピリジニルからなる群から選択され;各選択肢は、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR、ハロ、-CN及び-OHからなる群から独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよく;
及びRは、独立して、H、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR1011、ハロ、-CN、-OH及びC~Cシクロアルキルからなる群から選択されるか;
あるいは、R及びRは一緒になって、5~6員ヘテロアリール、フェニル、C~Cシクロアルキル又は4~6員ヘテロシクロアルキルを形成してもよく;C~Cシクロアルキル及び4~6員ヘテロシクロアルキルは、ハロ、-OH、オキソ及びC~Cアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよく;5~6員ヘテロアリール及びフェニルは、ハロ、-CN、-OH、-O(C~Cアルキル)及びC~Cアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよく;
、R、R及びRは、H、Cシクロアルキル、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR1213、ハロ、-CN、-OHからなる群から選択され;
及びRは、独立して、H、-(C~Cアルキル)OH、C~Cアルキル、ハロ及び-O(C~Cアルキル)からなる群から選択され;
10及びR11は、独立して、H及びC~Cアルキルからなる群から選択され;
12及びR13は、独立して、H、C~Cアルキル、ハロ及び-O(C~Cアルキル)からなる群から選択される]
で表される構造を有するか、その薬学的に許容される塩である、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記阻害剤が、
【化13】
からなる群から選択される式Iで表される構造を有するか、その薬学的に許容される塩である、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記阻害剤が、
【化14】
からなる群から選択される式Iで表される構造を有するか、その薬学的に許容される塩である、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記阻害剤が、
【化15】
からなる群から選択される式Iで表される構造を有するか、その薬学的に許容される塩である、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項35】
前記阻害剤が、
【化16】
からなる群から選択される式Iで表される構造を有するか、その薬学的に許容される塩である、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記阻害剤が、構造:
【化17】
を有するか、その薬学的に許容される塩である、請求項31又は32に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記阻害剤が、構造:
【化18】
を有するか、その薬学的に許容される塩である、請求項31又は33に記載の医薬組成物。
【請求項38】
前記阻害剤が、構造:
【化19】
を有するか、その薬学的に許容される塩である、請求項31又は34に記載の医薬組成物。
【請求項39】
前記阻害剤が、構造:
【化20】
を有するか、その薬学的に許容される塩である、請求項31又は35に記載の医薬組成物。
【請求項40】
前記治療有効量が、前記ALK5阻害剤0.1mg~100mgである、請求項29~39のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項41】
前記ALK5阻害剤が、吸入に適した担体中に存在する、請求項29~40のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項42】
前記担体が、ALK5阻害剤の水溶液である、請求項29~41のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項43】
前記担体が、ALK5阻害剤の乾燥粉末製剤である、請求項29~41のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項44】
各吸入量の水溶液が、共溶媒、等張化剤、甘味料、界面活性剤、湿潤剤、キレート剤、酸化防止剤、塩及び緩衝剤から選択される1種以上の成分を更に含む、請求項29~42のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項45】
ALK5阻害剤の製剤が少なくとも週1回投与される、請求項29~44のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項46】
ALK5阻害剤の製剤が毎日の連続する投与スケジュールで投与される、請求項29~45のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項47】
ALK5阻害剤の製剤が、1日1回、1日2回又は1日3回投与される、請求項29~46のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項48】
少なくとも1種の治療剤が、製剤化された前記ALK5阻害剤と同時に、前記患者に投与される、請求項29~47のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項49】
少なくとも1種の治療剤が製剤化された前記ALK5阻害剤に含まれる、請求項29~48のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項50】
前記肺疾患が、COVID感染症であるか、COVID感染症に関連している、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年5月3日に出願の米国仮出願第63/183,393号の優先権を主張するもので、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、種々の肺疾患の処置又は予防のための、所望の解剖学的部位へのALK5(TGF-βR1)阻害剤を含む組成物の吸入送達する、液体製剤、乾燥粉末製剤及び定量製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD;及びその範囲に含まれる疾患)、喘息及び嚢胞性線維症などの肺疾患は、外部負荷により惹起される。その惹起因子として、感染症、喫煙、環境曝露、放射線曝露、外科的手技及び移植拒絶反応が、非限定的な例として挙げられる。他の原因として、遺伝的素因及び加齢効果がある。また、最近の刊行物は、COVID19又はそのバリアントによる感染が肺線維症を引き起こす可能性があるという懸念も提起している。
【0004】
特発性肺線維症(IPF)は最も一般的な種類の特発性間質性肺炎であって、予後不良を特徴としており、推定5年生存率は約20%である。進行性で不可逆性の肺機能障害によって、生活の質の深刻な減失を伴う慢性の呼吸不全が生じる。IPFでは、損傷し機能不全の肺胞上皮細胞が線維芽細胞の動員と増殖を促進し、肺組織に瘢痕が生じる。過去20年、疾患の発症機序及び病理生物学的特性に関する理解が進んだ結果、IPFに対する新規治療薬が開発されてきた。しかし、IPFに有効な治療薬を開発する上での主な問題の1つは、その発症に関与する経路の重複である。がんと同様に、単一のメディエーター又はシグナル伝達経路を阻害することは、IPFの進行を遅らせる上でほとんど有効ではない。したがって、IPF向けの2種の承認薬であるニンテダニブ及びピルフェニドンは、この疾患を回復させるか又は治癒することはなく、疾患の進行を遅らせるのみである。
【0005】
トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)とそのI型受容体(ALK5)による異常なシグナル伝達は、複数の疾患に関与しており、この経路は、肺線維症を治療する潜在的で主要な標的と考えられている。実際、TGF-βは「肺線維症のタイタン」と呼ばれている(Yue et al (2010) Curr. Enzyme Inhib. 6(2): 10.2174/10067)。さらに、30年を超える研究と数千点もの刊行物は、ほぼ全ての線維性疾患において、TGF-βが中心的な役割を実証してきた。
【0006】
TGF-β経路を阻害するための以前の試みは、TGF-βリガンド又はTGF-β受容体ALK5のキナーゼ活性を標的とする薬剤の治療量を全身に曝露させることに重点を置いていた。しかし、そのような阻害剤の開発に複数の製薬企業が多大な努力を行っているにもかかわらず、臨床試験を良好に進めることは困難であることが判明した。TGF-βの多面的な生物学的特性を考慮すると、TGF-β阻害剤を全身投与する場合、許容される治療濃度域(therapeutic window)を見いだすことは、大きな課題である。ALK5阻害剤を肺に投与する吸入療法は、潜在的な全身毒性を少なくしながら最大限の局所効果を生じさせるという利点を有する。すなわち、治療効果の副作用に対する比を向上させる。
【0007】
この明細書は、肺及び/又は全身への吸入送達に適したALK5(TGF-βR1)阻害剤化合物の組成物並びに当該組成物の使用方法を記載する。
【0008】
エアロゾル又は他の吸入可能な送達媒体による肺疾患の処置は、吸入装置によって活性成分を薬の標的部位に直接送達できるため、標的を絞った薬物療法を可能にする。これには、吸入された液滴又は粒子が標的組織に到達し、そこに沈着されることが必要である。一般に、エアロゾル粒子の直径が小さいほど、活性成分が肺の末端に到達する可能性が高くなる。薬剤粒子の沈着の種類及び程度に応じて、肺線維症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)及び肺気腫などの疾患を、吸入によって「準局所的に」処置できる。現在、吸入による活性成分の投与のために、複数の方法が使用されている。これらの方法として、加圧ガス噴射式定量吸入器、粉末吸入器及びネブライザーが挙げられる。標的部位における沈着の種類及び程度は、液滴又は粒径、処置中のヒト患者の気道の解剖学的特性及び罹患した肺の全体的な機能に依存する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、肺に関連するさまざまな線維性疾患及び炎症性疾患の予防又は治療で使用するのための、ALK5(TGF-βR1)阻害剤化合物のエアロゾル投与に好適な製剤を含む、経口での肺への送達又は鼻腔内吸入による送達に好適なALK5阻害剤の製剤又は組成物を提供する。
【0010】
この明細書で開示するいくつかの態様は、ALK5阻害剤化合物を投与することを含む、哺乳動物において肺疾患を治療する方法であって、化合物又はその薬学的に許容される塩をエアロゾルとして経口での肺への送達又は鼻腔内吸入による送達により哺乳動物に投与する方法を提供する。
【0011】
この明細書で開示する他の態様は、ALK5阻害剤化合物を投与することを含む、哺乳動物において肺疾患を治療する方法であって、化合物又はその薬学的に許容される塩を乾燥粉末として経口での肺への送達又は鼻腔内吸入による送達により哺乳動物に投与する方法を提供する。
【0012】
この明細書で開示する1つの態様は、構造式I:
【0013】
【化1】
【0014】
を有するALK5阻害剤化合物、並びにそのプロドラッグ及び薬学的に許容される塩を投与することを包含する。
【0015】
式Iで表される化合物のいくつかの態様では、
は、チエノ[3,2-c]ピリジニル、チエノ[3,2-b]ピリジニル、チエノ[2,3-c]ピリジニル及びチエノ[2,3-b]ピリジニルからなる群から選択され;各基は、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR、ハロ、-CN及び-OHからなる群から独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよく;
及びRは、H、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR1011、ハロ、-CN、-OH及びC~Cシクロアルキルからなる群から独立して選択され;
あるいは、R及びRは一緒になって、5~6員ヘテロアリール、フェニル、C~Cシクロアルキル又は4~6員ヘテロシクロアルキルを形成してもよく;C~Cシクロアルキル及び4~6員ヘテロシクロアルキルは、ハロ、-OH、オキソ及びC~Cアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよく;5~6員ヘテロアリール及びフェニルは、ハロ、-CN、-OH、-O(C~Cアルキル)及びC~Cアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよく;
、R、R及びRは、H、Cシクロアルキル、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR1213、ハロ、-CN、-OHからなる群から選択され;
及びRは、H、-(C~Cアルキル)OH、C~Cアルキル、ハロ及び-O(C~Cアルキル)からなる群からそれぞれ独立して選択され;
10及びR11は、H及びC~Cアルキルからなる群からそれぞれ独立して選択され;
12及びR13は、H、C~Cアルキル、ハロ及び-O(C~Cアルキル)からなる群からそれぞれ独立して選択される。
【0016】
この明細書で開示する1つの態様は、式II:
【0017】
【化2】
【0018】
の構造を有するALK5阻害剤化合物、並びにそのプロドラッグ及び薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0019】
この明細書で開示する1つの態様は、式III:
【0020】
【化3】
【0021】
の構造を有するALK5阻害剤化合物、並びにそのプロドラッグ及び薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0022】
この明細書で開示する1つの態様は、式IV:
【0023】
【化4】
【0024】
の構造を有するALK5阻害剤化合物、並びにそのプロドラッグ及び薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0025】
この明細書で開示する1つの態様は、式V:
【0026】
【化5】
【0027】
の構造を有するALK5阻害剤化合物、並びにそのプロドラッグ及び薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0028】
この明細書で開示する1つの態様は、式VI:
【0029】
【化6】
【0030】
の構造を有するALK5阻害剤化合物、並びにそのプロドラッグ及び薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0031】
この明細書で開示する1つの態様は、式VII:
【0032】
【化7】
【0033】
の構造を有するALK5阻害剤化合物、並びにそのプロドラッグ及び薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0034】
この明細書で開示する1つの態様は、
【0035】
【化8】
【0036】
の構造を有する化合物を投与することを含む。
【0037】
いくつかの態様では、本開示はソフトALK5阻害剤である。本明細書では「ソフトドラッグ」又は「ソフトALK5阻害剤」という用語は、血液中に入ると、親化合物に比べて生物活性が減少した予測可能な代謝産物に変換される生物活性化合物を意味する。ソフトドラッグは、標的の臓器又は組織においてその所望の治療効果を好ましくは発揮し、次に、血液中に入ると、更に活性が低い代謝産物に速やかに変換される。これにより、生物活性化合物の全身に対する曝露が減少する。したがって、ソフトドラッグは、望ましくない副作用が、同等の生物活性を示す非ソフトドラッグ化合物に比べて低い。好ましくは、本開示のソフトドラッグは、所期の作用部位(例.肺)において良好な安定性を示し、血液中に入ると速やかに代謝される。
【0038】
いくつかの態様では、本開示は、肝臓中で酸化されて速やかに代謝されるソフトALK5阻害剤である。好ましくは、ソフトドラッグはALK5活性の強力な阻害剤であるが、対応する酸化ソフトドラッグのALK5阻害活性は減少している。例えば、ALK5阻害剤と対応する酸化ALK5阻害剤との阻害活性の差は、10倍~100倍であってもよい。いくつかの態様では、本開示のソフトALK5阻害剤は、例えば吸入によって肺に投与され、肺でALK5の活性を阻害する。しかし、ソフトALK5阻害剤は、肺を出ると肝臓中で容易に酸化される可能性があり、そのため、ソフトドラッグの全身に対する曝露が減少する。
【0039】
この明細書で開示する別の態様は、式I、II、III、IV、V、VI及びVIで表される化合物を、ネブライザー、定量吸入器又は乾燥粉末吸入器によって投与することを含む。
【0040】
この明細書で開示する他の態様は、式I、II、III、IV、V、VI及びVIIで表される化合物の液体製剤又は乾燥粉末製剤を含む。
【0041】
この明細書で開示する他の態様は、式I、II、III、IV、V、VI及びVIで表される化合物を、少なくとも週1回投与するか、毎日の連続する投与スケジュールで投与するか、1日1回投与するか、1日2回投与するか、又は1日3回投与することを含む。
【0042】
この明細書で提供する化合物及び組成物により処置可能な疾患の非限定的な例として、種々の肺がん及び全ての種類の肺線維症が挙げられる。肺疾患、例えば、特発性肺線維症(IPF)、特発性間質性肺炎(IIP)、強皮症関連間質性肺疾患(SSc-ILD)、サルコイドーシス、閉塞性細気管支炎、ランゲルハンス細胞組織球症(好酸球性肉芽腫又は組織球症Xとも呼ばれる)、慢性好酸球性肺炎、膠原病、肉芽腫性血管炎、グッドパスチャー症候群、肺胞蛋白症(PAP)を含む、間質性肺疾患及び嚢胞性線維症。
【0043】
1つの態様は、特発性肺線維症(IPF)を、式I、II、III、IV、V、VI及びVIIで表される化合物により処置する方法を含む。
【0044】
1つの態様は、強皮症関連間質性肺疾患(SSc-ILD)を、式I、II、III、IV、V、VI及びVIIで表される化合物により処置する方法を含む。
【0045】
これまでの一般的な説明と以下の詳細な説明が例示的及び説明的であるのみであり、特許請求する本開示を限定するものではないということを理解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
詳細な説明
この明細書では、エアロゾル化ALK5(TGF-βR1)阻害剤化合物の経口での肺への送達又は鼻腔内吸入による送達などの方法による、肺に関連するさまざまな線維性疾患及び炎症性疾患の予防又は処置のための組成物及び方法を提供する。
【0047】
間質性肺疾患(ILD;及びその範囲に含まれる疾患)、慢性閉塞性肺疾患(COPD;及びその範囲に含まれる疾患)、喘息、嚢胞性線維症及び肺の線維性適応症などのいくつかの望ましくない肺疾患は、外部負荷によって惹起される。非限定的な例として、これらの作動因子としては、感染症、喫煙、環境曝露、放射線曝露、外科的手技及び移植拒絶反応が挙げられる。しかし、遺伝的素因及び加齢効果に関連する他の原因に起因する可能性もある。
【0048】
上皮では、瘢痕化は損傷後の治癒に有益な役割を果たす。しかし、上皮組織は、損傷の慢性化及び/又は損傷の反復後に、次第に瘢痕となり、機能異常を引き起こす。特発性肺線維症(IPF;及びILDの他のサブクラス)及び嚢胞性線維症では、十分な割合の肺が瘢痕化されると、呼吸不全が生じる可能性がある。いずれの場合でも、臓器のさまざまな領域に対する繰り返される侵襲により、又は損傷治癒後に修復工程が停止しないことにより、進行性の瘢痕化が生じる可能性がある。そのような場合、瘢痕化は制御されず、調節されないようになる。線維性疾患のいくつかの形態では、瘢痕化は限られた領域に局在化され、他の形態では、瘢痕化は広範な領域に影響し、直接又は関連する臓器不全を引き起こす可能性がある。
【0049】
肺線維症などの状態においては、ALK5阻害剤化合物による炎症促進因子及び線維症促進性因子の制御により特徴付けられる生理応答が、線維症を減弱及び/又は回復させるために有益である可能性がある。この明細書では、これらの疾患及び他の適応症におけるこうしたALK5阻害剤化合物の効果を利用する治療戦略を想定する。
【0050】
トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)は、3つの異なるアイソフォーム、TGF-β1、TGF-β2及びTGF-β3で見られる分泌タンパク質である(ten Dijke et al 1988 Proc. Nat. Acad. Sci. 85, pp. 4715-4719;Tzavlaki & Moustakas, Biomolecules 2020, 10, 487)。これら3つのTGF-βは配列同一性が80%を超え、同じ受容体系に結合し、同じシグナル伝達機構を利用する。しかし、それらのプロモーター領域は異なり、細胞型に特異的な発現を示す。複雑なTGF-βシグナル伝達過程に複数の経路が関与しているが、最も単純なモデルでは、TGF-βがその受容体に結合することでALK-5キナーゼドメインを活性化し、このドメインがSMAD転写因子を(特に)リン酸化し、この転写因子が、複数の遺伝子が関与する線維症促進性応答を上方制御する(Walton et al 2017 Front. Pharmacol.; 8: 461)。SMAD非依存性のTGF-βシグナル伝達過程も存在するが、それらもALK-5キナーゼドメインにより制御される(Liu et al 2017, Exper & Therap Med. 13, 2123-2128)。したがって、ALK-5キナーゼを阻害することは、この機構が促進する過剰な線維化を遮断する可能性がある。
【0051】
TGF-βは、発生、組織再生、免疫応答及び腫瘍形成を含む無数の生物学的プロセスを調節する、進化的に保存された多面的因子である。TGF-βは、遺伝子改変マウスモデルで示されるように、肺の器官形成及びホメオスタシスのために必要である。TGF-βは、肺の分枝形態の形成及び肺胞増殖の間の上皮-間充織相互作用において重要である。肺におけるこれら3つのTGF-βリガンドアイソフォームの発現及び活性化は、複数の機構により時間的にも空間的にも調節される。肺は、外因性刺激及び病原体に構造的に曝されていて、炎症、アレルギー反応及び発癌を引き起こしやすい。肺線維症、肺気腫、気管支喘息及び肺がんを含む主要な肺疾患において、TGF-βリガンドの上方制御が観察される。TGF-βは複数の細胞プロセス、例えば上皮細胞の増殖抑制、肺胞上皮細胞の分化、線維芽細胞の活性化及び細胞外マトリックスの組織化を調節する。これらの効果は、肺線維症及び肺気腫における組織リモデリングと密接に関連している。また、TGF-βはT細胞ホメオスタシスにおいて中心的で、喘息性気道炎症に深く関与している。TGF-βは、非小細胞肺がん細胞の上皮-間充織転換の最も強力な誘導因子で、肺がん組織における腫瘍促進性微小環境の発生において中心的である(Noguchi et al (2018) Inter. J. Molecular Sciences, 19(8), 3674)。
【0052】
TGF-βシグナル伝達は、喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症にも関与している。これらの疾患は、気道の閉塞(通常、喘息では可逆的で、COPDでは不可逆的と見なされる)、炎症及びリモデリングを特徴とする。TGF-β1レベルは、喘息患者の気管支肺胞洗浄(BAL)液で、COPD患者の気道及び肺胞上皮で上昇した。TGF-β1の多型の生成増加は、喘息の悪化に関連している。機構的には、TGF-βが杯細胞過形成、上皮下線維化、上皮損傷及び気道平滑筋肥大を促進し、これらの疾患において病理作用を生じさせると仮定される。
【0053】
また、ある特定の場合、TGF-βシグナル伝達は、線維化、杯細胞過形成、異常な炎症応答及びイオン輸送の調節不全を含む、嚢胞性線維症(CF)の病態生理に関与するいくつかのプロセスを促進する(Kramer et al., 2018 Expert Opinion on Therapeutic Targets, 22(2), 177-189)。TGF-βは、CFにおいて身体全体の上皮中で既に調節不全のイオン輸送を悪化させるように上皮の塩素イオン輸送を下方制御し、CF肺疾患の病理学的特徴である杯細胞過形成及びムチン分泌を促進する。さらに、TGF-βは異常な炎症応答を生じさせるもので、GF肺は、炎症応答の進行、慢性の感染を排除できないこと及び先天性免疫の調節不全によって損なわれることが知られている。最後に、TGF-βは線維症を促進し、感染及び炎症のサイクル後に線維性肺疾患を促進し、CF患者における肺機能低下の大きな一因となる。
【0054】
TGF-βは、初期及び後期のCF疾患において重要である可能性がある(Kramer et al (2018) American Journal of Physiology, 315(3), L456-L465)。Ad-TGF-βによる処置後に天然潜伏TGF-βの発現が誘発された。このことは、早期CF疾患に関連する可能性がある正のフィードバックが生じる可能性があることを示唆している。さらに、TGF-βは、筋線維芽細胞の分化及び増殖を促進することで、CFにおける後期肺線維化及び気道リモデリングに関与している。思春期のCF患者から得た肺試料の研究は、強度の線維化及び筋線維芽細胞増殖を示す領域に関連するTGF-βシグナル伝達を特定した。また、難治性の肺機能低下を有するCF患者は、狭窄性細気管支炎、線維形成及びTGF-βシグナル伝達増加を示すことが判明した。これらのデータは、CFにおいて肺の罹患と死亡に寄与する不可逆的な気道リモデリングと線維化を促進するTGF-βの潜在的な役割を強調する。
【0055】
また、TGF-βは、CF肺疾患の遺伝子修飾因子である(Kramer et al. 2018 Expert Opinion on Therapeutic Targets, 22(2), 177-189)。ゲノムワイド関連研究において、2つのTGF-β1多型(プロモーター領域内のC-509T多型及びコドン10内のT29C多型)が、より重症の嚢胞性線維症(CF)肺疾患に関連していることが判明している。さらに、TGF-β1レベルは、CF患者由来の血漿及び気管支肺胞洗浄液中で上昇しており、肺機能の減少に関連していた。CF増悪患者及び非増悪患者の血清中のTGF-β1レベルは、健康な対照に比べて増加していた。このレベルは増悪期のほうが著しく高かった。また、全ての種類の細菌感染症におけるTGF-β1レベルの増加が報告されており、レベルの増加は緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に感染した患者において一層大きかった。これらの多型はin vitro及び非CF集団において遺伝子発現及び分泌のレベルの上昇に関連していた。HeLa細胞中でのT29C多型の遺伝子導入は、TGF-β1の分泌の2.8倍増を引き起こすもので、T29C対立遺伝子の少なくとも1個のコピーを有することは、血清TGF-β1タンパク質レベルの増加に関連していた。C-509Tプロモーター領域多型は、in vitroでのTGF-β1の転写活性の上昇及び血漿TGF-β1レベルの上昇に関連している。しかし、これらの多型と血中又はBAL中のTGF-β1レベルとの関係性は、CF集団中では明確には定まっていない。
【0056】
また、TGF-βの役割は、CFにおける肺疾患重症度の増加のバイオマーカーである。CF患者における血中(血漿中)及びBAL中のTGF-β1レベルの増加は、肺増悪、肺疾患の重症度、BAL中での好中球性炎症の増加、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)による感染及びCFのいくつかの臨床的表現型に関連している(Sagwal et al., 2020 Lung, 198(2), 377-383)。まとめると、これらの研究は、CFにおける有望な潜在的治療標的としてのTGF-β1を示唆している。
【0057】
SARS-CoV-2感染後の線維性肺疾患の負担は、パンデミックの世界的規模を考慮すれば、著しく増加すると予想される。COVID19の最も重症の症例は、胚の広範囲の線維化組織が見られ、サイトカイン及びTGF-βを含む増殖因子の血清中のレベルは大きく増加する。活性TGF-βが他の炎症促進サイトカイン(例.TNF-α、IL-6及びIL-1β)と共に突然かつ制御不能に増加すること(「サイトカインストーム」)によって、気道をリモデリングし、閉鎖する急速かつ広範囲な浮腫と線維化が必然的に生じる(George et al 2020. Lancet Respiratory Medicine, 8(8), 807-815)。
【0058】
入手可能な抗線維症治療薬が疾患の原因にかかわらず広範な抗線維症活性を示すことから、これらの薬剤がSARS-CoV-2感染症において線維症を促進する経路を弱める役割を果たす可能性があると考えられる。実際、最近の報告では、薬剤、例えばピルフェニドン及びニンテダニブをCOVID19患者において試験すべきであると示唆されている(George et al., 2020 Lancet Respiratory Medicine, 8(8), 807-815)。しかし、ピルフェニドン及びニンテダニブは経口形態でしか市販されておらず、したがって、挿管された患者及び機械換気を行っている患者では使用できない。
【0059】
ロングCOVIDとも呼ばれる持続性COVID後症候群は、持続性の免疫抑制、並びに肺線維症、心線維症及び血管線維症を含む、COVID19後の持続性の身体的、医学的及び認知的後遺症を包含する病理学的実体である。臓器及び血管系の線維症は、死亡率を増加させ、生活の質を著しく悪化させる。以下で更に詳細に検討する、長年にわたる疾病の説明となる潜在的な統一仮説は、免疫抑制及び線維症の遷延状態を生じさせるTGF-βの過剰発現である。COVID-19患者の肺からの組織学的変化は、線維芽細胞増殖及び間質性線維症を示しており、これはTGF-βの関与を示唆する(Oronsky, B., et al. 2021. Clinic Rev Allerg Immunol 20, 1-9)。FBM5712の吸入製剤及び吸入薬として送達することになるその可能性によって、この新たに出現した疾患に関して別のチャンスが得られる。
【0060】
このエビデンスは、ヒト及びマウス肺線維症を含む線維症の発症におけるTGF-βの中心的役割を裏付けるものである。TβRI/アクチビン受容体様キナーゼ5受容体(ALK5)を破壊するアプローチ(Journal of Clinical Investigation (2011), 121(1), 277-287)は、肺線維症の実験モデルにおける保護を実現した。線維症発症後のALK5阻害剤化合物SB-525334によるブレオマイシン曝露ラットの治療的処置によって、測定した全ての肺機能パラメータが、媒体処置対照を比較して用量依存的に有意に向上した。これらの肺機能の改善は、肺病態の有意な減少と相関していた(Jarman et al Physiological Reports, (2014), 2(9), e12133)。別の研究では、短期ルシフェラーゼアッセイと長期通常アッセイの両者の結果に基づけば、ALK5阻害剤化合物R-268712は、ブレオマイシンモデルにおいて強力な線維症に対する効果を示した(Terashima et al Pulmonary Pharmacology & Therapeutics (2019), 51, 31-38)。これまでいくつかのグループによって多数の試みがなされたにもかかわらず、説明しているように、TGF-β経路の治療的アンタゴニストの臨床開発は困難であった。
【0061】
TGF-β経路を阻害するためのこれまで報告された試みは、TGF-βリガンドを標的とするか、TGF-β受容体ALK5のキナーゼ活性を標的とする治療薬の全身曝露を実現することに重点を置いていた。ラット及びイヌにおける研究を含む前臨床研究からの観察結果は、in vivoでのTGF-βの阻害に関連するある特定の全身毒性を明らかにした。さらに、いくつかのTGF-β/ALK5阻害剤の臨床試験が行われたものの、TGF-βを標的とする複数の臨床プログラムが全身性の副作用を理由として中断された。
【0062】
例えば、Andertonら(Toxicologic Pathology (2011), 39(6), 916-924)は、2種の低分子ALK5阻害剤、すなわちAZ12601011及びAZ12799734が、前臨床動物モデルにおいて、弁間質細胞の出血、炎症、変性及び増殖を特徴とする心臓弁病変を誘発したことを報告した。試験を行った全ての用量において、全ての心臓弁で毒性が観察された。Frazierら(Toxicologic Pathology (2007), 35(2), 284-295)は、ALK5阻害剤GW788388の投与がラットにおいて骨端軟骨の異形成を誘発したことを報告した。
【0063】
Stauberら(Journal of Clinical Toxicology (2014), 4(3), 1000196/1-1000196/10)は、ある特定のがん処置に関して調査中であるALK5阻害剤LY2157299の長期(3月超)投与が、ラット及びイヌにおいて、心血管系、胃腸系、免疫系、骨/軟骨系、生殖器系及び腎臓系が関与する多臓器毒性を引き起こしたことを報告した。しかし、これらの心血管安全性の懸念事項がヒトにおいては生じない可能性があることに留意すべきである(Kovacs et al 2015 Cardiovasc Toxicol. 2015; 15(4): 309-323)。
【0064】
TGF-βの全てのヒトアイソフォームを中和できる「パン」TGF-β抗体であるフレソリムマブ(Fresolimumab)(GC1008)は、カニクイザルを用いた研究において、複数回の投与後に、歯肉、膀胱及び鼻甲介上皮の上皮過形成を誘発したことが報告されている(Current Pharmaceutical Biotechnology (2011), 12(12), 2176-2189)。同様に、強皮症に関する臨床開発も、線維症に対する明らかな臨床効果にもかかわらず、種々の出血及び貧血の問題のため不可能であった(Rice et al 2015. J Clin Invest.;125(7):2795-2807)。
【0065】
臨床開発中のALK5阻害剤に関して、毒性の懸念事項を管理する一般的な手段は、間欠投与レジメン、例えば14日投薬14日休薬のスケジュールである(Yap et al, Proceedings from the 2018 SITC Annual Meeting, Abstract 030)。経路の継続的抑制を実現するためのALK5阻害剤の連続投与は、治療効果が大きくなる可能性があるが、これまでのところ、臨床現場では、経口投与ALK5阻害剤の連続投与は、安全性の懸念事項のため不可能であった。
【0066】
したがって、吸入によって肺に直接ALK5阻害剤を送達することが求められており、ソフトALK5阻害剤を送達して、全身毒性の可能性を更に最小化し、それにより一層大きな治療効果を達成する利点がある。
【0067】
この明細書で提供するいくつかの態様は、全ての種類の肺線維症を含む疾患をALK-5阻害剤によって治療する方法に関する。肺疾患、例えば、特発性肺線維症(IPF)、特発性間質性肺炎(IIP)、強皮症関連間質性肺疾患(SSc-ILD)、サルコイドーシス、閉塞性細気管支炎、ランゲルハンス細胞組織球症(好酸球性肉芽腫又は組織球症Xとも呼ばれる)、慢性好酸球性肺炎、膠原病、肉芽腫性血管炎、グッドパスチャー症候群、肺胞蛋白症(PAP)を含む、間質性肺疾患及び嚢胞性線維症。ALK-5阻害剤の吸入は、肺がんの処置においても有益な可能性がある。
【0068】
定義
別途定義がない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。全ての特許、出願、出願公報及び他の刊行物は、その全体が参照により組み入れられる。この明細書において1つの用語について複数の定義が存在する場合、別途記載がない限り、この項における定義が優先する。
【0069】
本明細書では「アルキル」とは、炭素及び水素のみを有する、分枝状又は直鎖状の化学基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル及びネオペンチルを意味する。アルキル基は、置換されていなくても、1以上の置換基により置換されていてもよい。いくつかの態様では、アルキル基は、1~9個の炭素原子(例えば1~6個の炭素原子、1~4個の炭素原子又は1~2個の炭素原子)を含む。
【0070】
本明細書では「シクロアルキル」とは、環系骨格中に炭素原子のみを有する環状の環系、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘキセニルを意味する。シクロアルキルは複数の縮合環を含んでいてもよい。カルボシクリルは、環系のいずれの環も芳香環ではないという条件で、飽和度は任意であってもよい。カルボシクリル基は、置換されていなくても、1以上の置換基により置換されていてもよい。いくつかの態様では、カルボシクリル基は、3~10個の炭素原子、例えば3~6個の炭素原子を有する。
【0071】
本明細書では「アリール」とは、5~14個の環原子、あるいは5個、6個、9個又は10個の環原子を有し;環状アレイ中で共有される6個、10個又は14個のπ電子を有し;環系の少なくとも1個の環が芳香環である、環骨格中に炭素原子しか存在しない、単環式基、二環式基、三環式基又は多環式基を意味する。アリール基は、置換されていなくても、1以上の置換基により置換されていてもよい。アリールの例として、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、2,3-ジヒドロ-1H-インデニルなどが挙げられる。いくつかの態様では、アリールはフェニルである。
【0072】
本明細書では「ヘテロアリール」という用語は、5~14個の環原子、あるいは5個、6個、9個又は10個の環原子を有し;環状アレイ中で共有される6個、10個又は14個のπ電子を有し;環系の少なくとも1個の環が芳香環であり、環系の少なくとも1個の環が、N、O及びSからなる群から選択される1以上のヘテロ原子を有する、単環式基、二環式基、三環式基又は多環式基を意味する。ヘテロアリール基は、置換されていなくても、1以上の置換基により置換されていてもよい。ヘテロアリールの例として、チエニル、ピリジニル、フリル、オキサゾリル、オキサジアゾリル、ピロリル、イミダゾリル、トリアゾリル、チオジアゾリル、ピラゾリル、イソオキサゾリル、チアジアゾリル、ピラニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、トリアジニル、チアゾリル、ベンゾチエニル、ベンゾオキサジアゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾトリアゾリル、シンノリニル、インダゾリル、インドリル、イソキノリニル、イソチアゾリル、ナフチリジニル、プリニル、チエノピリジニル、ピリド[2,3-d]ピリミジニル、ピロロ[2,3-b]ピリジニル、キナゾリニル、キノリニル、チエノ[3,2-c]ピリジニル、チエノ[3,2-b]ピリジニル、チエノ[2,3-c]ピリジニル、チエノ[2,3-b]ピリジニル、ピラゾロ[3,4-b]ピリジニル、ピラゾロ[3,4-c]ピリジニル、ピラゾロ[4,3-c]ピリジン、ピラゾロ[4,3-b]ピリジニル、テトラゾリル、クロマン、2,3-ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン、ベンゾ[d][1,3]ジオキソール、2,3-ジヒドロベンゾフラン、テトラヒドロキノリン、2,3-ジヒドロベンゾ[b][1,4]オキサチイン、イソインドリンなどが挙げられる。いくつかの態様では、ヘテロアリールは、チエニル(thiinyl)、ピリジニル、フリル、ピラゾリル、イミダゾリル、イソインドリニル、ピラニル、ピラジニル及びピリミジニルから選択される。
【0073】
本明細書では「ハロ」、「ハロゲン化物」又は「ハロゲン」とは、塩素、臭素、フッ素又はヨウ素原子ラジカルである。いくつかの態様では、ハロは塩素、臭素又はフッ素である。例えば、ハロゲン化物はフッ素であってもよい。
【0074】
本明細書では「ハロアルキル」とは、以上の塩素、臭素、フッ素及び/又はヨウ素原子により置換された直鎖状又は分枝状の、アルキル、アルケニル又はアルキニル炭化水素置換基を意味する。いくつかの態様では、ハロアルキルは、1以上の水素原子がフッ素原子によって置換されたフルオロアルキルである。いくつかの態様では、ハロアルキルは、長さが1個~約3個の炭素(例.長さが1個~約2個の炭素又は長さが1個の炭素)である。「ハロアルキレン」という用語は、ハロアルキルのジラジカルバリアントを意味し、このジラジカルは、ラジカル間の、原子間の、又は環と別の官能基との間のスペーサーとして機能する可能性がある。
【0075】
本明細書では「ヘテロシクロアルキル」とは、環系骨格中に少なくとも1個のヘテロ原子を有する環状の非芳香族環系を意味する。ヘテロシクリルは複数の縮合環を含んでいてもよい。ヘテロシクリルは、置換されていなくても、1以上の置換基により置換されていてもよい。いくつかの態様では、複素環は3~11個の環原子を有する。6員単環式複素環において、ヘテロ原子は1~3個のO、N又はSから選択され、複素環が5員である場合、O、N又はSから選択される1個又は2個のヘテロ原子を有していてもよい。ヘテロシクリルの例として、アジリニル、アジリジニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、1,4,2-ジチアゾリル、ジヒドロピリジニル、1,3-ジオキサニル、1,4-ジオキサニル、1,3-ジオキソラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピペラジニル、ピラニル、ピロリジニル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロピリジニル、オキサジニル、チアジニル、チイニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、オキサゾリジニル、イソオキサゾリジニル、ピペリジニル、ピラゾリジニル、イミダゾリジニル、チオモルホリニルなどが挙げられる。いくつかの態様では、ヘテロシクリルは、アゼチジニル、モルホリニル、ピペラジニル、ピロリジニル及びテトラヒドロピリジニルから選択される。
【0076】
「置換された」という用語は、分子の1以上の水素を置きかえる置換基を有する部分を意味する。「置換」又は「~により置換された」は、この置換が、置換される原子及び置換基の原子価に従って行われ、この置換が、安定な化合物、例えば転位、環化、脱離などによる変換を自発的に経ることがない化合物、を生じさせるという暗黙の条件を含むものと理解される。置換基として、例えば以下の基を挙げることができる:1以上のヒドロキシル、-NH、-NH(C1~3アルキル)及び-N(C1~3アルキル)により置換されていてもよい-(C1~9アルキル);-(C1~9ハロアルキル);ハロゲン化物;ヒドロキシル;カルボニル[例.-C(=O)OR及び-C(=O)R];チオカルボニル[例.-C(=S)OR、-C(=O)SR及び-C(=S)R];1以上のハロゲン化物、ヒドロキシル、-NH、-NH(C1~3アルキル)及び-N(C1~3アルキル)により置換されていてもよい-(C1~9アルコキシ);-OPO(OH);ホスホネート[例.-PO(OH)及び-PO(OR’)];-OPO(OR’)R’’;-NRR’;-C(O)NRR’;-C(NR)NR’R’’;-C(NR’)R’’;シアノ;ニトロ;アジド;-SH;-S-R;-OSO(OR);スルホネート[例.-SO(OH)及び-SO(OR)];-SONR’R’’;並びに-SOR;ここでR、R’及びR’’は、出現するごとにH;-(C1~9アルキル);1~3個のR’’’により置換されていてもよいC6~10アリール;N、O及びSから独立して選択される1~4個のヘテロ原子を有し、1~3個のR’’’により置換されていてもよい、5~10員ヘテロアリール;1~3個のR’’’により置換されていてもよいC3~7カルボシクリル;並びにN、O及びSから独立して選択される1~4個のヘテロ原子を有し、1~3個のR’’’により置換されていてもよい、3~8員ヘテロシクリルから独立して選択され;ここで各R’’’は、-(C1~6アルキル)、-(C1~6ハロアルキル)、ハロゲン化物(例.F)、ヒドロキシル、-C(O)OR、-C(O)R、-(C1~6アルコキシル)、-NRR’、-C(O)NRR’及びシアノから独立して選択され、ここでR及びR’は、出現するごとにH及び-(C1~6アルキル)から独立して選択される。いくつかの態様では、置換基は、-(C1~6アルキル)、-(C1~6ハロアルキル)、ハロゲン化物(例.F)、ヒドロキシル、-C(O)OR、-C(O)R、-(C1~6アルコキシル)、-NRR’、-C(O)NRR’及びシアノから選択され、ここでR及びR’は、出現するごとにH及び-(C1~6アルキル)から独立して選択される。
【0077】
本明細書では、2つの基が「連結」又は「結合」して「環」を形成する場合、結合が2つの基の間で形成され、その結合によって一方又は両方の基の水素原子が置換されることでカルボシクリル環、ヘテロシクリル環、アリール環又はヘテロアリール環が形成されると理解すべきである。当業者は、これらの環が一般的な化学反応によって形成可能であり、それによって容易に形成されることを認識する。いくつかの態様では、これらの環は、3~7個の環原子、例えば5個又は6個の環原子を有する。
【0078】
当業者は、この明細書に記載のいくつかの化学構造が、紙上で1以上の他の共鳴形により表すことができ、あるいは、速度論的にみても、1つ以上の他の互変異性として存在する可能性があることを認識し、これらの互変異性がこれらの化合物の実例のごく一部に過ぎないことを認識する。これらの共鳴形又は互変異性は明細書では明示的に示していないが、これらの化合物は、明らかにこの開示の範囲内と想定される。
【0079】
この明細書で提供する化合物は、さまざまな立体化学の形態を含んでいてもよい。本化合物は、ある特定の化合物における構造的非対称性の結果として生じる、ジアステレオマー並びに光学異性体、例えば、ラセミ混合物を含む鏡像異性体混合物、並びに個々の鏡像異性体及びジアステレオマーも包含する。個々の異性体の分離又は個々の異性体の選択的合成は、当業者に周知のさまざまな方法を適用することで達成される。別途指示がない限り、開示される化合物を立体化学構造の指定なしに1つの構造によって命名又は描写され、1つ以上のキラル中心を有する場合、それは当該化合物の全ての可能性の立体異性体を表すものと理解される。
【0080】
本開示は、1以上の原子が、原子番号が同じであるが、自然界において優勢である原子質量又は原子質量数とは異なる原子質量又は原子質量数の原子で置換された、式I、II、III、IV、V、VI及びVIIの全ての薬学的に許容される同位体標識化合物を含む。本開示の化合物に好適に含まれる同位体として、これらに限定されるものではないが、水素同位体、例えばH(重水素)及びH(トリチウム)、炭素同位体、例えば11C、13C及び14C、塩素同位体、例えば36Cl、フッ素同位体、例えば18F、ヨウ素同位体、例えば123I及び125I、窒素同位体、例えば13N及び15N、酸素同位体、例えば15O、17O及び18O、リン同位体、例えば32P、並びに硫黄同位体、例えば35Sが挙げられる。
【0081】
「投与」又は「投与すること」及び「送達」という用語は、例えば、経口、鼻腔内、肺内、腹腔内、胸膜内、気管支内、吸入、気管内又は気管支内注入、肺腔への直接注入、胸腔内及び胸腔洗浄によって、哺乳動物に化合物又は医薬組成物を投与する方法を意味する。投与方法は、さまざまな要因、例えば医薬組成物の成分、製剤を導入、送達、若しくは投与すべき所望の部位、治療効果が追求される部位又は下流罹患臓器に対する初期送達部位の近接性、例えば肺へのエアロゾル送達に応じて異なってもよい。いくつかの態様では、この明細書に記載の医薬組成物は経肺投与により投与する。
【0082】
「経肺投与」、「吸入」、「経肺送達」、「経口吸入」又は「鼻腔内吸入」という用語及び他の関連する用語は、所望の治療剤又は予防剤が哺乳動物の肺に送達される経路によって、哺乳動物に化合物又は医薬組成物を投与する方法を意味する。肺へのこの送達は、鼻腔内投与、経口吸入投与であってもよい。これらの各投与経路は、この明細書に記載の製剤のエアロゾルの吸入として行われてもよい。いくつかの態様では、経肺投与は、機械換気によってこの明細書に記載のエアロゾルを受動的に送達することにより行われる。
【0083】
「鼻腔内吸入投与」及び「鼻腔内吸入送達」という用語は、製剤が鼻腔を通じた哺乳動物の肺に対する直接的な治療用製剤の送達及び吸収を目的とする経路によって、哺乳動物に化合物又は医薬組成物を投与する方法を意味する。いくつかの態様では、鼻腔内吸入は、ネブライザーによって行われる。
【0084】
「鼻腔内投与」及び「鼻腔内送達」という用語は、所望の治療剤又は予防剤を、鼻腔を介して送達する経路によって、哺乳動物に化合物又は医薬組成物を投与する方法を意味する。鼻腔へのこの送達は、鼻腔内投与により行ってもよい。この投与経路は、この明細書に記載の製剤のエアロゾルの吸入、この明細書に記載の製剤のエアロゾルの注射、この明細書に記載の製剤の経管栄養又は機械換気による受動送達として行ってもよい。
【0085】
「経口吸入投与」、「経口吸入送達」又は「経口吸入」いう用語は、哺乳動物の肺への直接的な製剤の送達及び吸収のために、口を経由して哺乳動物に化合物又は医薬組成物を投与する方法を意味する。いくつかの態様では、経口吸入は、ネブライザーの使用により行われる。
【0086】
「哺乳動物」という用語は、その通常の生物学的意味で使用される。したがって、それは具体的に、ヒト、ウシ、ウマ、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、雌ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ及び非ヒト霊長類を含むが、多くの他の種も含む。
【0087】
「薬学的に許容される担体」、「薬学的に許容される希釈剤」又は「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、生物学的に又は他の点で望ましくないものではない、あらゆる溶媒、共溶媒、錯化剤、分散媒、コーティング、等張化剤及び吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野において周知である。従来の媒体又は薬剤は、活性成分と適合しない場合を除いて、治療用組成物中でのその使用が想定されている。補助的な有効成分を組成物に含めてもよい。さらに、当技術分野において一般的に使用する補助剤などのさまざまな補助剤を含めてもよい。これらの化合物及び他のそのような化合物は、文献に、例えばthe Merck Index, Merck & Company, Rahway, NJに記載されている。医薬組成物にさまざまな成分を包含させることに関する考慮事項は、例えばBrunton et al. (Eds.) (2017); Goodman and Gilman’s: The Pharmacological Basis of Therapeutics, 13th Ed., The McGraw-Hill Companiesに記載されている。
【0088】
「薬学的に許容される塩」という用語は、この明細書で提供する化合物の生物学的な有効性及び特性を保持し、生物学的に又は他の点で望ましくないものではない、塩を意味する。多くの場合、この明細書で提供する化合物は、アミノ基及び/若しくはカルボキシル基又はこれらに類似の基の存在によって、酸性塩及び/又は塩基性塩を形成できる。例えば国際公開第87/05297号に記載されているように、多くのこれらの塩は当技術分野において公知である。薬学的に許容される酸付加塩は、無機酸及び有機酸によって形成可能である。塩を誘導できる無機酸として、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。塩を誘導できる有機酸として、例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸などが挙げられる。薬学的に許容される塩基付加塩は無機塩基及び有機塩基によって形成可能である。塩を誘導できる無機塩基として、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム及びベリリウムなどが挙げられ;アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩が特に好ましい。塩を誘導できる有機塩基として、例えば第一級、第二級及び第三級アミン、天然置換アミンを含む置換アミン、環状アミン、塩基性イオン交換樹脂など、具体的には例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ヒスチジン、アルギニン、リジン、ベネタミン(benethamine)、N-メチル-グルカミン及びエタノールアミンが挙げられる。他の酸として、ドデシル硫酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸及びサッカリンが挙げられる。
【0089】
「pH減少性酸」という用語は、本開示の化合物の生物学的な有効性及び特性を保持し、生物学的に又は他の点で望ましくないものではない酸を意味する。薬学的に許容されるpH減少性酸として、例えば無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。別の非限定的な例として、有機酸、例えば、クエン酸、酢酸、プロピオン酸、ナフトエ酸、オレイン酸、パルミチン酸、パモ酸(エンボン酸)、ステアリン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルコヘプトン酸、グルクロン酸、乳酸、ラクトビオン酸、酒石酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸なども挙げることができる。
【0090】
「酸性賦形剤」という用語は、通常、酸性賦形剤水溶液として存在する。例として、酸性塩、例えばリン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、プロピオン酸塩及びソルビン酸塩、有機酸、例えばカルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステル、並びに/又は1~12個の炭素原子を有する他の有機酸、クエン酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸及びトリクロロ酢酸、サリチル酸、トリフルオロ酢酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メチルホスホン酸、メチルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、並びにホスホン酸モノブチルエステルを挙げることができる。それは、安定な又は生分解性の多酸性ポリマー又は共重合体、例えばポリカルボフィル、酸性セルロース、ポリグリコリド、ポリラクチド及びポリメタクリレートも含んでいてもよい。
【0091】
本明細書では「患者」とは、ヒト又は非ヒト哺乳動物、例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、雌ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、非ヒト霊長類又はトリ、例えば、ニワトリ及び他の脊椎動物又は無脊椎動物を意味する。いくつかの態様では、患者はヒトである。
【0092】
この明細書で提供する化合物の「治療有効量」とは、所望の生理学的効果を実現するために十分な量のことであり、疾患の性質及び重症度、並びに化合物の効力に応じて異なっていてもよい。「治療有効量」は、式I、II、III、IV、V、VI及びVIIの1種以上の化合物と、この明細書に記載の疾患及び/又は状態の治療に有効な1種以上の他の薬剤との組合せを含むことも意図されている。化合物の組合せは相乗的組合せの可能性がある。例えばChou and Talalay, Advances in Enzyme Regulation (1984), 22, 27-55に記載の相乗作用は、組合せで投与される際の化合物の効果が、単剤として単独投与される場合の化合物の相加的効果よりも大きい場合に生じる。一般に、相乗的効果は、化合物の最適以下の濃度で最も明らかに示される。活動性疾患の予防と治療では濃度が異なる場合があることが認識される。さらに、この量は、患者の身長、体重、性別、年齢及び病歴に依存する可能性がある。
【0093】
治療効果によって疾患の1つ以上の症状がある程度軽減される。
【0094】
本明細書では「処置する」、「処置」又は「処置すること」とは、この明細書で提供する化合物又は医薬組成物を治療目的で投与することを意味する。「治療的処置」という用語は、既に疾患に罹患した患者に処置を行い、それにより治療効果を引き起こすこと、例えば、既存の症状を改善すること、症状の根本にある代謝的原因を改善すること、障害の更なる進行を延期若しくは予防すること、及び/又は、発症するであろう症状若しくは発生すると予想される症状の重症度を減少させることを意味する。
【0095】
「投与間隔」という用語は、複数回の投与における、医薬品を投与する間の時間を意味する。
【0096】
「呼吸に適した送達量」という用語は、呼吸シミュレーターの吸気相の間に吸入される5ミクロン以下のエアロゾル化化合物粒子の量を意味する。
【0097】
本明細書では「肺沈着」という用語は、肺の中に沈着する医薬の有効成分(API)の名目用量の割合を意味する。
【0098】
「名目用量」又は「充填用量」という用語は、哺乳動物への投与の前にネブライザーに入れる薬剤の量を意味する。名目用量を有する溶液の体積を「充填体積」と呼ぶ。
【0099】
「薬物動態プロファイルの向上」という用語は、一部の薬物動態パラメータの向上を意味する。向上可能な薬物動態パラメータとして、AUClast、AUC(0-∞)、Tmax及び場合によってはCmaxが挙げられる。いくつかの態様では、薬物動態プロファイルの向上は、1種類の吸入装置によって投与される医薬の有効成分(API)の名目用量について得られる薬物動態パラメータと、同じ医薬の有効成分(API)の組成物の経口投与によって得られる同じ薬物動態パラメータとを比較することで、定量的に測定できる。
【0100】
「血漿中濃度」という用語は、対象集団又は患者集団の血漿成分中の医薬の有効成分(API)の濃度を意味する。
【0101】
本明細書では「呼吸器状態」という用語は、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫又は喘息を含むがそれらには限定されない気道中で物理的に現れる疾患又は状態を意味する。
【0102】
本明細書では「定量吸入器」という用語は、通常は吸入によって患者が自己投与するエアロゾル化医薬の短い噴射の形態で、特定の量の薬剤を肺に送達する装置を意味する。
【0103】
本明細書では「乾燥粉末吸入器」という用語は、乾燥粉末の形態で薬剤を肺に送達する装置を意味する。乾燥粉末吸入器のいくつかの仕組みが存在する。例えば、1つの仕組みは、薬剤用のリザーバが装置内に配置され、患者が薬剤の1回分の用量を吸入室に入れる、定量装置である。別の方法は、個々の用量が別々の容器に入れられた、工場で定量された装置である。いずれのシステムも、質量中央径が約1~約5ミクロンの小さな粒子に薬剤を製剤化することに依存しており、一般に、大きな賦形剤粒子(通常、直径100ミクロンのラクトース粒子)と同時に製剤化することを含む。(装置定量によって又は工場定量製剤の破壊によって)薬剤の粉末が吸入室に入り、患者の吸気流が、粉末が装置を出て口の中に入るのを促進する。
【0104】
本明細書では「ネブライザー」とは、薬剤、組成物、製剤、懸濁液及び混合物などを肺に送達するために、微小なミスト又はエアロゾルに変換する装置を意味する。ネブライザーは、アトマイザーと呼ばれることもある。
【0105】
本明細書では「ソフトミスト吸入器」とは、吸入器の液体下部を手動で時計回りに180度回転させて、可撓性液体容器の周りのスプリング中にビルドアップ張力を加えた場合に、使用者に一定量の薬剤を投与する装置を意味する。使用者が吸入器の下部を起動すると、スプリングからのエネルギーが放出され、可撓性液体容器に圧力を掛けることで、2つのノズルから液体が吹き出され、これにより吸入されるべきソフトミストが形成される。一例はRespimat(登録商標)Soft Mist(商標)Inhalerである。
【0106】
本明細書では「ジェット式ネブライザー」とは、水溶液を空気圧で破壊してエアロゾル液滴を生じさせる装置を意味する。ジェット式ネブライザーは、管が圧縮ガス(通常は圧縮空気又は圧縮酸素)の供給源に接続されており、圧縮ガスが液体の医薬の中を高速で流れて医薬をエアロゾルに変え、そして患者はエアロゾルを吸入する。
【0107】
本明細書では「超音波式ネブライザー」という用語は、高周波発生器を利用して超音波を発生させて圧電素子を機械的振動させる装置を意味する。この振動素子は液体リザーバと接触しており、その高周波振動は、液体表面で蒸気ミストを生じさせることができる。非限定的な例としてOmron NE-U17及びBeurer Nebulizer IH30がある。
【0108】
本明細書では「振動メッシュ式ネブライザー」という用語は、圧電素子が駆動して、超音波により液体リザーバの上部の1000~7000個のレーザードリル孔を有するメッシュ/膜を振動させて、微小な液滴のミストを孔から押し出す装置を意味する。非限定的な例としてPari eFlow(登録商標)rapid Nebulizer System、Respironics I-neb、Beurer Nebulizer IH50及びAerogen Aeronebがある。
【0109】
本明細書では「呼吸作動式ネブライザー」という用語は、患者が生じさせる陰圧がアクチュエータを定位置に引き下げることで、ジェットノズルを封鎖して、薬剤をリザーバから引き出し、エアロゾルを生成するために十分である場合に、吸気の間にエアロゾルを生成する装置を意味する。一例はAeroEclipse(登録商標)Breath Actuated Nebulizerである。
【0110】
本明細書では「高効率液体ネブライザー」とは、充填用量の大部分を患者に送達する装置を意味する。いくつかの高効率液体ネブライザーは以下の1以上を利用する:微小穿孔膜、能動的若しくは受動的に振動する微小穿孔膜、発振膜、複数の開口部を有する振動メッシュ若しくはプレート、エアロゾル混合室を有する振動発生器、共鳴システム及び/又は拍動膜。いくつかの高効率液体ネブライザーは連続運転式である。いくつかは、圧縮ガスの必要なしで液滴のプルームを生じさせるためのバルク液体に対して先細り状のノズルを有する振動微小穿孔膜を含有する。いくつかは、溶液と接触している受動ノズル膜及び別個の圧電変換器を使用する。いくつかは、ネブライザーで音圧を使用することで、ノズル膜の高周波振動によって溶液の微小な液滴を生じさせる、能動ノズル膜を使用する。
【0111】
定量値を指す場合の「約」という用語は、指定量が当該の指示量よりも当該の記載数値の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20%大きい又は小さい可能性があることを意味する。
【0112】
化合物
この明細書に記載の化合物及び組成物は、抗線維症剤として使用できる。さらに、化合物は、1種以上のアクチビン受容体様キナーゼ(ALK)の阻害剤として使用できる。ALKは、線維芽細胞、免疫細胞、幹細胞、内皮細胞、壁細胞及び腫瘍細胞を含む、広範な細胞系におけるさまざまな生理学的プロセス及び病理学的プロセスに関与するTGF-β受容体スーパーファミリーの一種である。
【0113】
この明細書に記載の化合物及び組成物は、TGF-β媒介状態の緩和にも使用できる。TGF-β媒介状態の例として、肺がん及び全ての種類の線維性肺疾患が挙げられる。ある態様では、TGF-β媒介状態は特発性肺線維症である。別の態様では、それは、全身性硬化症としても知られる強皮症の患者で生じる肺線維症である。
【0114】
いくつかの態様では、ALK5阻害剤としての使用のための化合物は、以下の学術誌論文、米国特許及び米国特許出願に記載の化合物を含む。
【0115】
いくつかの態様では、ALK5阻害剤化合物は米国特許出願公開第2008/0090861号、米国特許第7,964,612号、同第8,455,512号、同第9,090,625号又は同第9,260,450号(これらの内容は、この明細書に組み込まれる)に記載の化合物である。
【0116】
本開示のいくつかの態様は、式Iで表される化合物:
【0117】
【化9】
【0118】
又はその塩、薬学的に許容される塩、若しくはプロドラッグを含む。
【0119】
いくつかの態様では、Rは、チエノ[3,2-c]ピリジニル、チエノ[3,2-b]ピリジニル、チエノ[2,3-c]ピリジニル及びチエノ[2,3-b]ピリジニルからなる群から選択され;各基は、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR、ハロ、-CN及び-OHからなる群からそれぞれ独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよい。
【0120】
いくつかの態様では、R及びRは、H、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR1011、ハロ、-CN、-OH及びC~Cシクロアルキルからなる群から独立して選択される。
【0121】
いくつかの態様では、R及びRは一緒になって、5~6員ヘテロアリール、フェニル、C~Cシクロアルキル又は4~6員ヘテロシクロアルキルを形成してもよく;C~Cシクロアルキル及び4~6員ヘテロシクロアルキルは、ハロ、-OH、オキソ及びC~Cアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよく;5~6員ヘテロアリール及びフェニルは、ハロ、-CN、-OH、-O(C~Cアルキル)及びC~Cアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の置換基により置換されていてもよい。
【0122】
いくつかの態様では、R、R、R及びRは、H、Cシクロアルキル、C~Cアルキル、-(C~Cアルキル)S(C~Cアルキル)、-S(C~Cアルキル)、-(C~Cアルキル)O(C~Cアルキル)、-O(C~Cアルキル)、-C(=O)O(C~Cアルキル)、-COH、-C(=O)NR1213、ハロ、-CN、-OHからなる群から選択される。
【0123】
いくつかの態様では、R及びRは、H、-(C~Cアルキル)OH、C~Cアルキル、ハロ及び-O(C~Cアルキル)からなる群からそれぞれ独立して選択される。
【0124】
いくつかの態様では、R10及びR11は、H及びC~Cアルキルからなる群からそれぞれ独立して選択される。
【0125】
いくつかの態様では、R12及びR13は、H、C~Cアルキル、ハロ及び-O(C~Cアルキル)からなる群からそれぞれ独立して選択される。
【0126】
いくつかの態様では、Rは置換されていないチエノ[3,2-c]ピリジニルである。
【0127】
いくつかの態様では、Rは置換されていないチエノ[3,2-b]ピリジニルである。
【0128】
いくつかの態様では、Rは置換されていないチエノ[2,3-c]ピリジニルである。
【0129】
いくつかの態様では、Rは置換されていないチエノ[2,3-b]ピリジニルである。
【0130】
いくつかの態様では、R及びRは、H、C~Cアルキル、ハロ、-CN及び-OHからなる群から独立して選択される。
【0131】
いくつかの態様では、R及びRは、H、C~Cアルキル及びハロからなる群から独立して選択される。
【0132】
いくつかの態様では、R及びRは、H及びC~Cアルキルからなる群から独立して選択される。
【0133】
いくつかの態様では、R及びRはいずれもHであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもC~Cアルキルであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもMeであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもEtであり;いくつかの態様では、RはMeで、RはEtであり;いくつかの態様では、RはEtで、RはMeであり;いくつかの態様では、RはHで、RはC~Cアルキルであり;いくつかの態様では、RはC~Cアルキルで、RはHであり;いくつかの態様では、RはHで、RはMeであり;いくつかの態様では、RはMeで、RはHであり;いくつかの態様では、RはHで、RはEtであり;いくつかの態様では、RはEtで、RはHである。
【0134】
いくつかの態様では、R及びRは一緒になって、C~Cシクロアルキルを形成し;いくつかの態様では、R及びRは一緒になって、シクロブチルを形成し;いくつかの態様では、R及びRは一緒になって、シクロペンチルを形成し;いくつかの態様では、R及びRは一緒になって、シクロヘキシルを形成する。
【0135】
いくつかの態様では、R、R、R及びRは、H、C~Cアルキル、ハロ、-CN及び-OHからなる群から選択される。
【0136】
いくつかの態様では、R、R、R及びRは、H、C~Cアルキル及びハロからなる群から選択される。
【0137】
いくつかの態様では、R、R、R及びRは、H及びC~Cアルキルからなる群から選択される。
【0138】
いくつかの態様では、R、R、R及びRは全てHであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てHで、RはC~Cアルキルである。
【0139】
いくつかの態様では、R、R及びRは全てHで、RはC~Cアルキルであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てHで、RはC~Cアルキルであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てHで、RはC~Cアルキルであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てHで、RはMeであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てHで、RはMeであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てHで、RはMeであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てHで、RはMeであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもC~Cアルキルであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもC~Cアルキルであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもC~Cアルキルであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもC~Cアルキルであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもC~Cアルキルであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもC~Cアルキルであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもMeであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもMeであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもMeであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもMeであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもMeであり;いくつかの態様では、R及びRはいずれもHで、R及びRはいずれもMeであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てC~Cアルキルであり;RはHであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てC~Cアルキルであり;RはHであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てC~Cアルキルであり;RはHであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てC~Cアルキルであり;RはHであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てMeで、RはHであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てMeで、RはHであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てMeで、RはHであり;いくつかの態様では、R、R及びRは全てMeで、RはHである。
【0140】
式Iで表される化合物のいくつかの態様では、
は、Me、ハロ、-CN及び-OHからなる群からそれぞれ独立して選択される1~2個の置換基により置換されていてもよい、チエノ[3,2-c]ピリジニル及びチエノ[2,3-c]ピリジニルからなる群から選択され;
及びRは、H、C~Cアルキル、ハロ、-CN及び-OHからなる群から独立して選択され;
あるいは、R及びRは一緒になって、ハロ、-OH、オキソ及びMeからなる群から独立して選択される1~2個の置換基により置換されていてもよい、C~Cシクロアルキルを形成してもよく;
、R、R及びRは、H、C~Cアルキル、ハロ、-CN及び-OHからなる群から選択される。
【0141】
ある特定の態様では、Rはチエノ[3,2-c]ピリジニルで、この明細書で説明するように置換されていてもよい。チエノ[3,2-c]ピリジニルの原子のナンバリングは以下のとおりである。
【0142】
【化10】
【0143】
チエノ[3,2-c]ピリジニルは、チエノ[3,2-c]ピリジンの一価のラジカルである。したがって、本発明のある特定の態様では、式Ia:
【0144】
【化11】
【0145】
(式中、R、R、R、R、R、R及びRは、この明細書で特定するいずれかであり、チエノ[3,2-c]ピリジニルラジカルは、2位、3位、4位、6位又は7位のいずれかで結合している。)
で表される化合物である。
【0146】
ある特定の態様では、Rは、説明したように置換されていてもよいチエノ[2,3-c]ピリジニルである。チエノ[2,3-c]ピリジニルの原子のナンバリングは以下のとおりである。
【0147】
【化12】
【0148】
チエノ[2,3-c]ピリジニルは、チエノ[2,3-c]ピリジンの一価のラジカルである。したがって、本発明のある特定の態様では、式Ib:
【0149】
【化13】
【0150】
(式中、R、R、R、R、R、R及びRは、この明細書で特定するいずれかであり、チエノ[2,3-c]ピリジニルラジカルは、2位、3位、4位、6位又は7位のいずれかで結合している。)
で表される化合物である。
【0151】
ある特定の態様では、Rはチエノ[2,3-b]ピリジニルで、この明細書で説明するように置換されていてもよい。チエノ[2,3-b]ピリジニルの原子のナンバリングは以下のとおりである。
【0152】
【化14】
【0153】
チエノ[2,3-b]ピリジニルは、チエノ[2,3-c]ピリジンの一価のラジカルである。したがって、本発明のある特定の態様では、式Ic:
【0154】
【化15】
【0155】
(式中、R、R、R、R、R、R及びRは、この明細書で特定するいずれかであり、チエノ[2,3-b]ピリジニルラジカルは、2位、3位、4位、6位又は7位のいずれかで結合している。)
で表される化合物である。
【0156】
ある特定の態様では、Rはチエノ[3,2-b]ピリジニルで、この明細書で説明するように置換されていてもよい。チエノ[3,2-b]ピリジニルの原子のナンバリングは以下のとおりである。
【0157】
【化16】
【0158】
チエノ[3,2-b]ピリジニルは、チエノ[3,2-c]ピリジンの一価のラジカルである。したがって、本発明のある特定の態様では、式Id:
【0159】
【化17】
【0160】
(式中、R、R、R、R、R、R及びRは、この明細書で特定するいずれかであり、チエノ[3,2-b]ピリジニルラジカルは、2位、3位、4位、6位又は7位のいずれかで結合している。)
で表される化合物である。
【0161】
ある特定の態様では、ALK5(TGF-βR1)阻害剤は、以下の構造のうち1つ又はその薬学的に許容される塩から選択される。
【0162】
【化18】
【0163】
ある特定の態様では、ALK5(TGF-βR1)阻害剤は、以下の構造のうち1つ又はその薬学的に許容される塩から選択される。
【0164】
【化19】
【0165】
ある特定の態様では、ALK5(TGF-βR1)阻害剤は、以下の構造のうち1つ又はその薬学的に許容される塩から選択される。
【0166】
【化20】
【0167】
ある特定の態様では、ALK5(TGF-βR1)阻害剤は、以下の構造のうち1つ又はその薬学的に許容される塩から選択される。
【0168】
【化21】
【0169】
ある特定の好ましい態様では、ALK5(TGF-βR1)阻害剤は、2-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-2,4,5,6-テトラヒドロシクロペンタ[c]ピラゾール-3-イル)チエノ[2,3-c]ピリジン(以下に示す)又はその薬学的に許容される塩である。
【0170】
【化22】
【0171】
ある特定の好ましい態様では、ALK5(TGF-βR1)阻害剤は、2-(4-メチル-1-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-イル)チエノ[2,3-c]ピリジン(以下に示す)又はその薬学的に許容される塩である。
【0172】
【化23】
【0173】
ある特定の好ましい態様では、ALK5(TGF-βR1)阻害剤は、2-(2-(6-メチルピリジン-2-イル)-2,4,5,6-テトラヒドロシクロペンタ[c]ピラゾール-3-イル)チエノ[3,2-c]ピリジン(以下に示す)又はその薬学的に許容される塩である。
【0174】
【化24】
【0175】
ある特定の好ましい態様では、ALK5(TGF-βR1)阻害剤は、2-[4-メチル-1-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-イル]チエノ[3,2-c]ピリジン(以下に示す)又はその薬学的に許容される塩である。
【0176】
【化25】
【0177】
式Iで表される代表的な化合物を表1に示す。
【0178】
【表1-1】
【0179】
【表1-2】
【0180】
【表1-3】
【0181】
国際公開第2002/094833号(A1)及び同第2004/048382号(A1)は式IIで表される化合物を記載しており、それらの全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0182】
本開示のいくつかの態様は、式IIで表される化合物:
【0183】
【化26】
【0184】
又はその塩、薬学的に許容される塩、若しくはプロドラッグを含む。
【0185】
式IIで表される代表的な化合物を表2に示す。
【0186】
【表2】
【0187】
いくつかの態様では、化合物41はガルニセルチブ(LY2157299)と呼ばれ、化合物42はLY2109761と呼ばれる。
【0188】
米国特許出願公開第2011/0319406号は式IIIで表される化合物を記載しており、その全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0189】
本開示のいくつかの態様は、式IIIで表される化合物:
【0190】
【化27】
【0191】
又はその塩、薬学的に許容される塩、若しくはプロドラッグを含む。
【0192】
式IIIで表される代表的な化合物を表3に示す。
【0193】
【表3】
【0194】
いくつかの態様では、化合物43はバクトセルチブ(EW-7197)と呼ばれ、化合物44はEW-7195と呼ばれる。
【0195】
米国特許出願公開第2005/0096333号は式IVで表される化合物を記載しており、その全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0196】
本開示のいくつかの態様は、式IVで表される化合物:
【0197】
【化28】
【0198】
又はその塩、薬学的に許容される塩、若しくはプロドラッグを含む。
【0199】
式IVで表される代表的な化合物を表4に示す。
【0200】
【表4】
【0201】
いくつかの態様では、化合物45はSD208と呼ばれる。
【0202】
国際公開第2002/066462号は式Vで表される化合物を記載しており、その全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0203】
本開示のいくつかの態様は、式Vで表される化合物:
【0204】
【化29】
【0205】
又はその塩、薬学的に許容される塩、若しくはプロドラッグを含む。
【0206】
式Vで表される代表的な化合物を表5に示す。
【0207】
【表5】
【0208】
いくつかの態様では、化合物46はGW788388と呼ばれる。
【0209】
Molecular Pharmacology (2019), 95(2), 222-234は、表6の化合物47及び48を記載しており、その全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0210】
【表6】
【0211】
いくつかの態様では、化合物47はAZ12601011と呼ばれ、化合物48はAZ12799734と呼ばれる。
【0212】
米国特許出願公開第2016/0096823号は式VIで表される化合物を記載しており、その全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0213】
本開示のいくつかの態様は、式VIで表される化合物:
【0214】
【化30】
【0215】
又はその塩、薬学的に許容される塩、若しくはプロドラッグを含む。
【0216】
式VIで表される代表的な化合物を表7に示す。
【0217】
【表7】
【0218】
いくつかの態様では、化合物49はLY3200882と呼ばれる。
【0219】
米国特許第8,067,591号及び国際公開第2020/058820号(A1)は式VIIで表される化合物を記載しており、それらの全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0220】
本開示のいくつかの態様は、式VIIで表される化合物:
【0221】
【化31】
【0222】
又はその塩、薬学的に許容される塩、若しくはプロドラッグを含む。
【0223】
式VIIで表される代表的な化合物を表8に示す。
【0224】
【表8】
【0225】
いくつかの態様では、化合物49はPF-06952229と呼ばれる。
【0226】
化合物の製造
本開示の化合物を製造する上で使用する出発原料は、公知であるか、公知の方法により製造されるか又は市販されている。当業者には、特許請求する化合物に関連する前駆体及び官能基を製造する方法が一般的に文献に記載されていることは明らかである。当業者は、文献及びこの開示を前提として、当該化合物を製造する準備が十分にできる。
【0227】
有機化学分野の当業者が更なる指示を受けることなく容易に操作できること、すなわち、これらの操作を行うことが十分に当業者の領域及び慣行の範囲内であるということが認識される。これらとして、カルボニル化合物から対応するアルコールへの還元、酸化、アシル化、求電子性芳香族置換と求核性芳香族置換、エーテル化、エステル化及びケン化などが挙げられる。これらの操作はMarch's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure 7th Ed., John Wiley & Sons (2013)、Carey and Sundberg, Advanced Organic Chemistry 5th Ed., Springer (2007)、Comprehensive Organic Transformations: A Guide to Functional Group Transformations, 2nd Ed., John Wiley & Sons (1999)(それらの全体が、参照によりこの明細書に組み込まれる)等などの標準的なテキストで説明されている。
【0228】
当業者は、他の官能基が分子中で遮蔽又は保護されて、それにより望ましくない副作用が回避され及び/又は反応の収率が増加する際に、ある特定の反応が最もよく実行されるということを容易に認識する。多くの場合、当業者は、この収率増加を実現するために又は望ましくない反応を回避するために、保護基を利用する。これらの反応は文献に見られるもので、当業者の知見の範囲内である。多くのこれらの操作に関する例は、例えばP. Wuts Greene's Protective Groups in Organic Synthesis, 5th Ed., John Wiley & Sons (2014)(その全体が参照によりこの明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0229】
以下の代表的なスキームは、例示であり、全体として、この明細書で提供する化合物を製造するための代表的な方法を表すものである。さらに、本開示の化合物を製造するための他の方法は、以下の反応スキーム及び実施例に照らせば、当業者には容易に明らかである。当業者は、文献及び本開示を前提として、それらの方法によってこれらの化合物を製造する準備が十分にできている。以下に示す合成スキームにおいて使用する化合物のナンバリングは、それら特定のスキームのみを対象とするもので、本出願の他の節における同じナンバリングと解釈されるか又はそれと混同されるべきではない。別途指示がない限り、全ての可変要素はこれまでに説明したとおりである。
【0230】
一般的手順
式Iで表される化合物を製造するための一般的合成スキームを、以下のスキーム1及びスキーム2に示す。
【0231】
【化32】
【0232】
スキーム1はピラゾールの合成を示す。非プロトン性溶媒(例.THF(テトラヒドロフラン)、ジエチルエーテル等)中のチエノ[3,2-c]ピリジン1(J. Het. Chem. (1993), 30, 289-290)は、アルキルリチウム試薬(例.n-ブチルリチウム)と約-40℃以下で反応させることができる。スキーム1ではチエノ[3,2-c]ピリジンを置換されていないものとして示すが、明細書で説明するように置換されていてもよい。次に、反応液にN-メチル-N-メトキシアセトアミド(又は他の好適なアシル化剤、例えばN-アセチル-モルホリン、無水酢酸及び塩化アセチル)を加え、反応を-30℃~-45℃で進行させてケトン(例.1-(チエノ[3,2-c]ピリジン-2-イル)エタノン)を得る。次にケトンとジメチルホルムアミド-ジメチルアセタール(「DMF-DMA」)とをDMF(ジメチルホルムアミド)中、約70℃で反応させて、例えば、(E)-3-(ジメチルアミノ)-1-(チエノ[3,2-c]ピリジン-2-イル)プロパ-2-エン-1-オンを得、次にこれを酢酸中、約80℃でピリジニル-ヒドラジン(例.1-(6-メチルピリジン-2-イル)ヒドラジン)により処理して図示する2種の位置異性体を得る。所望の化合物から従来の精製技術、例えば析出、濾過及びカラムクロマトグラフィーを使用して、」位置異性体を分離できる。
【0233】
【化33】
【0234】
スキーム2はピラゾールへの別の合成経路を示す。チエノ[3,2-c]ピリジンの溶液は、アルキルリチウム試薬(例.n-ブチルリチウム)と、窒素ガス雰囲気下、溶媒(例.THF)中、約-50℃~-78℃で反応させることができる。スキーム2ではチエノ[3,2-c]ピリジンを置換されていないものとして示すが、明細書で説明するように置換されていてもよい。ホウ酸トリイソプロピル及びリン酸の添加によりボロン酸のリン酸塩を得る。次に、無機炭酸塩塩基(例.NaCO、KCO、NaHCOなど)又は三塩基性リン酸カリウムなとの塩基、及びパラジウム触媒(例.Pd(Cl)dppf[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)])の添加により、ボロン酸塩とピリジニル-ピラゾールとを結合して、ピラゾールを得る。この反応は、好適な溶媒(例.THF又は1,2-ジメトキシエタン)中で、1~24時間還流させて行ってもよく、ジオキサン中、約80~100℃で行ってもよい。この反応はKF及び水の存在下で行ってもよい。対応するボロン酸エステルをボロン酸の代わりに使用してもよい。LG基は、好適な脱離基、例えばトリフルオロメタンスルホニル、Br、I又はClを表す。
【0235】
対応するチエノ[3,2-b]ピリジン-2-イル、チエノ[2,3-c]ピリジン-2-イル及びチエノ[2,3-b]ピリジン-2-イル類似体を、チエノ[3,2-c]ピリジンの代わりに、それぞれ、チエノ[3,2-b]ピリジン、チエノ[2,3-c]ピリジン、チエノ[2,3-b]ピリジンを使用して製造できる。
【0236】
投与及び医薬組成物
いくつかの態様は、(a)治療有効量のこの明細書で提供する化合物又はその対応する鏡像異性体、ジアステレオ異性体、若しくは互変異性体、あるいは薬学的に許容される塩;及び(b)薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物を含む。
【0237】
この明細書に記載の方法においては、ALK5阻害剤化合物、最も好ましくは2-[4-メチル-1-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-イル]チエノ[3,2-c]ピリジン(3)を、液体霧化、乾燥粉末吸入器又は定量吸入器を使用して投与できる。いくつかの態様では、この明細書で開示するALK5阻害剤化合物は、エアロゾル形成、適応症向けの用量、沈着位置、肺、鼻腔内/副鼻腔又は呼吸器外での治療作用のための経肺送達又は鼻腔内送達、良好な味覚、製造及び貯蔵安定性、並びに患者の安全性及び忍容性のために好適な医薬組成物として製造される。
【0238】
いくつかの態様では、医薬の有効成分はALK5阻害剤化合物の塩である。いくつかのそのような態様では、陽イオンは、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム及びベリリウムからなる群から選択される。いくつかの態様では、医薬の有効成分は、ALK5阻害剤化合物の塩ではない。いくつかのそのような態様では、組成物は安定な水溶性の製剤である。
【0239】
この明細書で提供するALK5阻害剤化合物は、他の公知の薬剤との組合せ(同時投与又は順次投与)でも有益な可能性がある。
【0240】
いくつかの態様では、特発性肺線維症/肺線維症を、式Iで表される化合物と以下の薬剤のうち1種以上との組合せにより処置できる:ピルフェニドン(ピルフェニドンは2011年に欧州で商品名Esbriet(登録商標)として使用が承認された)、プレドニゾン、アザチオプリン(イムラン(登録商標))、N-アセチルシステイン、インターフェロンγ 1b、シクロホスファミド(エンドキサン(登録商標)、シトキサン(登録商標)、ネオサール(Neosar)(登録商標)、プロサイトックス(Procytox)(登録商標)、Revimmune(登録商標)及びシクロブラスチン(Cycloblastin)(登録商標))、ミコフェノール酸モフェチル/ミコフェノール酸(セルセプト(登録商標))、ニンテダニブ(オフェブ(登録商標)及びバルガテフ(Vargatef)(登録商標))、アクテムラ(登録商標)(トシリズマブ)、並びに抗炎症剤、例えばコルチコステロイド。いくつかの態様では、間質性肺疾患(ILD)の他の形態を、式Iで表される化合物と以下の抗炎症治療薬のうち1種以上との組合せにより処置できる:メトトレキサート、シクロホスファミド、シクロスポリン、ラパマイシン(シロリムス)及びタクロリムス。
【0241】
いくつかの態様では、特発性肺線維症/肺線維症の処置のために、式Iで表される化合物を以下の方法のうちのいずれかと組み合わせて使用できる:酸素療法、肺リハビリテーション及び手術。
【0242】
この明細書で開示する化合物又はその薬学的に許容される塩の投与は、経口、鼻腔内、肺内、気管支内、吸入、気管内又は気管支内注入、肺腔への直接注入、胸腔内、鼻のみでのエアロゾル吸入、気管内液、噴霧注入、乾燥粉末吹送及び胸腔洗浄を含むがそれらには限定されない許容される投与様式のいずれかによる投与であってもよい。いくつかの態様では、投与方法は吸入投与を含む。
【0243】
化合物は単独で投与してもよく、従来の薬学的な担体、賦形剤などと組み合わせて投与してもよい。薬学的に許容される賦形剤として、イオン交換樹脂、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、自己乳化型薬物送達システム(SEDDS)、例えばd-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシネート、薬学的剤形において使用される界面活性剤、例えば、Tween(登録商標)、ポロキサマー又は他の同様のポリマー送達マトリックス、血清タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、緩衝物質、例えばリン酸塩、トリス、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩又は電解質、例えば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイダルシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー及び羊毛脂が挙げられるがそれらには限定されない。この明細書に記載の化合物の送達を向上させるために、シクロデキストリン、例えばα-、β-及びγ-シクロデキストリン、若しくは化学修飾誘導体、例えば2-及び3-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含むヒドロキシアルキルシクロデキストリン又は他の可溶化誘導体を使用してもよい。剤形を調製するための実際の方法は当業者に公知であり又は当業者には明らかである;例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 22nd Edition (Pharmaceutical Press, London, UK. 2012)を参照。
【0244】
薬学的に投与可能な液体組成物は、例えば、この明細書で提供する化合物及び場合によっては薬学的補助剤を、担体(例.水、生理食塩水、デキストロース水溶液、グリセロール、グリコール、エタノールなど)に溶解させるか、分散させるなどして、溶液、コロイド、リポソーム、乳濁液、複合体、コアセルベート又は懸濁液を形成することで調製できる。必要であれば、医薬組成物は、微量の無毒の補助物質、例えば湿潤剤、乳化剤、共溶媒、可溶化剤、pH緩衝剤など(例.酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、シクロデキストリン誘導体、モノラウリン酸ソルビタン、酢酸トリエタノールアミン、オレイン酸トリエタノールアミンなど)を有していてもよい。
【0245】
ある態様では、可溶性又はナノ粒子状の薬剤粒子を有する水性製剤が提供される。水性エアロゾル製剤は、肺の適切な区域への有効な送達を実現するもので、高濃度のエアロゾル製剤は、大量の原薬を非常に短い時間で肺に送達できるという更なる利点を示す。ある態様では、製剤は、十分に忍容される製剤が得られるように最適化される。したがって、ある態様では、この明細書で開示するALK5阻害剤化合物は、良好な味覚、約4.0~約8.0のpH、約100~約5000mOsmol/kgのオスモル濃度を示すように製剤化される。いくつかの態様では、オスモル濃度は約100~約1000mOsmol/kgである。いくつかの態様では、オスモル濃度は約200~約500mOsmol/kgである。いくつかの態様では、浸透性イオン濃度は約30~約300mMである。
【0246】
いくつかの態様では、この明細書は、ALK5阻害剤化合物、水、並びに共溶媒、等張化剤、甘味料、界面活性剤、湿潤剤、キレート剤、酸化防止剤、塩及び緩衝剤から選択される1種以上の追加成分を含む、水性医薬組成物を記載する。同じ製剤内であっても多くの賦形剤がいくつかの機能を果たすことがあることを理解すべきである。
【0247】
いくつかの態様では、この明細書に記載の医薬組成物は増粘剤を含まない。
【0248】
いくつかの態様では、pHは約4.0~約8.0である。いくつかの態様では、pHは約5.0~約8.0である。いくつかの態様では、pHは約6.0~約8.0である。いくつかの態様では、pHは約6.5~約8.0である。
【0249】
いくつかの態様では、医薬組成物は1種以上の共溶媒を含む。いくつかの態様では、医薬組成物は1種以上の共溶媒を含み、共溶媒の総量は、組成物の総体積の約1%~約50%v/vである。いくつかの態様では、医薬組成物は1種以上の共溶媒を含み、共溶媒の総量は、組成物の総体積の約1%~約50%v/v、約1%~約40%v/v、約1%~約30%v/v又は約1%~約25%v/vである。共溶媒として、これらに限定されるものではないが、エタノール、プロピレングリコール、グリセロール、PEG200~400が挙げられる。共溶媒として、中鎖トリグリセリド(MCT)などの油との脂質分散体、モノオレイン酸グリセリル、セバシン酸ジエチルとレシチンなどの界面活性剤との組合せ、ポリオキシエチル化脂肪酸、ポロキサマーも挙げることができる。いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v~約25%のエタノールを含む。いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v~約15%のエタノールを含む。いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v、2%v/v、3%v/v、4%v/v、5%v/v、6%v/v、7%v/v、8%v/v、9%v/v、10%v/v、11%v/v、12%v/v、13%v/v、14%v/v、15%v/v、16%v/v、17%v/v、18%v/v、19%v/v、20%v/v、21%v/v、22%v/v、23%v/v、24%v/v又は25%v/vのエタノールを含む。いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v~約25%のグリセロールを含む。いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v~約15%のグリセロールを含む。いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v、2%v/v、3%v/v、4%v/v、5%v/v、6%v/v、7%v/v、8%v/v、9%v/v、10%v/v、11%v/v、12%v/v、13%v/v、14%v/v、15%v/v、16%v/v、17%v/v、18%v/v、19%v/v、20%v/v、21%v/v、22%v/v、23%v/v、24%v/v又は25%v/vのグリセロールを含む。いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v~約50%のプロピレングリコールを含む。いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v~約25%のプロピレングリコールを含む。いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v、2%v/v、3%v/v、4%v/v、5%v/v、6%v/v、7%v/v、8%v/v、9%v/v、10%v/v、11%v/v、12%v/v、13%v/v、14%v/v、15%v/v、16%v/v、17%v/v、18%v/v、19%v/v、20%v/v、21%v/v、22%v/v、23%v/v、24%v/v又は25%v/vのプロピレングリコールを含む。
【0250】
いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v~約25%のエタノール及び約1%v/v~約50%のプロピレングリコールを含む。いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v~約15%のエタノール及び約1%v/v~約30%のプロピレングリコールを含む。いくつかの態様では、水性医薬組成物は約1%v/v~約8%のエタノール及び約1%v/v~約16%のプロピレングリコールを含む。いくつかの態様では、水性医薬組成物はエタノール及び体積比で2倍のプロピレングリコールを含む。
【0251】
いくつかの態様では、水性医薬組成物は緩衝剤を含む。いくつかの態様では、緩衝剤はクエン酸塩緩衝剤又はリン酸塩緩衝剤である。いくつかの態様では、緩衝剤はクエン酸塩緩衝剤である。いくつかの態様では、緩衝剤はリン酸塩緩衝剤である。
【0252】
いくつかの態様では、水性医薬組成物はALK5阻害剤化合物、水、エタノール及び/又はプロピレングリコール、pHを約4~8に維持するための緩衝剤、並びに場合によっては塩、界面活性剤及び甘味料(矯味剤)からなる1種以上の成分から本質的になる。いくつかの態様では、1種以上の塩は等張化剤から選択される。いくつかの態様では、1種以上の塩は塩化ナトリウム及び塩化マグネシウムから選択される。
【0253】
いくつかの態様では、医薬組成物は、約1mg/mL~約50mg/mLのALK5阻害剤化合物を、水と1種以上の共溶媒(例.約1%v/v~約10%v/vのエタノール及び/又は約1%v/v~約50%v/vのプロピレングリコール)との組合せ中に含む。望ましくは、医薬組成物は、pHを約4~8に維持するための緩衝剤、並びに場合によっては塩、界面活性剤及び甘味料(矯味剤)からなる1種以上の成分から本質的になる。
【0254】
ある態様では、エアロゾル製剤の調製に使用される溶液又は希釈剤のpHは、約4.0~約8.0である。この範囲のpHで忍容性が向上する。
【0255】
非限定的な例として、組成物は、緩衝剤又はpH調整剤、通常は有機酸又は有機塩基から調製される塩を含んでいてもよい。代表的な緩衝剤として、クエン酸、アスコルビン酸、グルコン酸、炭酸、酒石酸、コハク酸、酢酸若しくはフタル酸の有機酸塩、トリス(トロメタミンとしても知られる)、塩酸塩又はリン酸塩の緩衝剤が挙げられる。
【0256】
多くの患者は、苦味、塩味、甘味、金属味を含む、さまざまな化学的味覚に対する感受性の増加を示す。十分に忍容される薬品を製造するために、非限定的な例として、矯味賦形剤、オスモル濃度の調整及び甘味料の添加により矯味できる。
【0257】
いくつかの態様では、この明細書で開示するALK5阻害剤化合物の水溶液のオスモル濃度は、賦形剤を添加することで調整される。いくつかの場合では、エアロゾル化ALK5阻害剤化合物の良好で有効な送達のためには、一定量の塩素イオン又は別の陰イオンが必要である。
【0258】
薬学的な使用が意図されるこの明細書で提供するALK5阻害剤化合物を、凍結乾燥若しくは非晶質の薬剤のような結晶性若しくは非晶質の製品、噴霧乾燥分散体のような複合体、又は共結晶として投与できる。これら固体形態の薬学的に許容される組成物として、液体、溶液、コロイド、リポソーム、乳濁液、懸濁液及びエアロゾルを挙げることができる。剤形、例えば粉末、液剤、懸濁液剤、エアロゾル剤、制御放出製剤など。それらは、例えば固体のプラグ、粉末又はフィルムとして、沈殿、結晶化、製粉、粉砕、超臨界流体処理、コアセルベーション、複合コアセルベーション、封入、乳化、複合体形成、凍結乾燥、噴霧乾燥又は蒸発乾燥などの方法により得ることができる。マイクロ波乾燥又は高周波乾燥をこの目的で使用してもよい。
【0259】
固体組成物を、この明細書で提供するALK5阻害剤化合物の物理化学特性、所望の溶解速度、コスト上の考慮事項及び他の判断基準に応じて、さまざまな種類の剤形で提供できる。1つの態様では、固体組成物は1つのまとまりである。このことは、化合物の1回分の用量が1つの物理的に成形された固体形態又は物品に含まれることを意味している。言い換えれば、固体組成物はまとまっていて、これは、複数回投与の剤形とは対照的である。
【0260】
他方で、いくつかの用途では、固体組成物は、これまでに説明した複数回投与の剤形として形成してもよい。複数回投与の剤形の例として、粉末、顆粒、微粒子、ペレット、ミニ錠剤、ビーズ、凍結乾燥粉末などがある。ある態様では、固体組成物は凍結乾燥粉末である。この分散凍結乾燥系は、多数の粉末粒子を含むもので、粉末の形成で使用する凍結乾燥工程のため、各粒子は不規則で多孔質の微小構造を有しており、この微小構造のため粉末は水を非常に速やかに吸収し、速やかに溶解する。発泡性組成物も、化合物の速やかな分散及び吸収を促進すると想定されている。
【0261】
速やかな薬剤の溶解を実現する別の種類の多粒子系は、この明細書で提供する化合物が個々の粒子の外側に位置するように、当該化合物でコーティングされた、水溶性賦形剤由来の粉末、顆粒又はペレットの多粒子系である。この種の系では、水溶性低分子量賦形剤はこれらコーティング粒子のコアを調製するために有益な可能性がある。続いてコアを、化合物及び例えば1種以上の追加の賦形剤、例えば結合剤、孔形成剤、糖、糖アルコール、フィルム形成ポリマー、可塑剤又は薬学的コーティング組成物で使用する他の賦形剤を含む、コーティング組成物でコーティングできる。
【0262】
いくつかの態様では、乾燥エアロゾルの生成に使用するための又はナノ粒子の液体中懸濁液を生成するための、固体薬剤のナノ粒子が提供される。ナノ粒子の薬剤を含む粉末は、ナノ粒子の薬剤及び表面修飾剤の水性分散体を噴霧乾燥させて、凝集薬剤のナノ粒子からなる乾燥粉末を形成することにより製造できる。ある態様では、凝集体の粒径は、肺深部への送達に好適な約1~約2ミクロンであってもよい。噴霧乾燥分散体中の薬剤の濃度を増加させることで又は噴霧乾燥機が生じさせる液滴径を増加させることで、凝集体の粒径を別の送達部位、例えば気管支上部領域又は鼻粘膜を標的とするように増加させることができる。
【0263】
あるいは、薬及び表面修飾剤の水性分散体は、溶解希釈剤、例えばラクトース又はマンニトールを含んでいてもよく、希釈剤は、噴霧乾燥される際に、各粒子が少なくとも1種の埋め込まれた薬剤のナノ粒子及び表面修飾剤を有する、呼吸に適した希釈剤粒子を形成する。埋め込まれた薬剤を有する希釈剤粒子の粒径は、肺深部への送達に好適な約1~約2ミクロンであってもよい。さらに、噴霧乾燥前に水性分散体中の溶解希釈剤の濃度を増加させることで又は噴霧乾燥機が生じさせる液滴径を増加させることで、希釈剤の粒径を代わりの送達部位、例えば気管支上部領域又は鼻粘膜を標的とするように増加させることができる。
【0264】
噴霧乾燥粉末を、乾燥粉末吸入器又は加圧式定量吸入器において、単独又は凍結乾燥ナノ粒子と組み合わせて使用できる。さらに、薬剤のナノ粒子を有する噴霧乾燥粉末を、各液滴が少なくとも1個の薬剤のナノ粒子を有する、呼吸に適した液滴径の水性分散体が生じるように再構成し、ジェット式又は超音波式ネブライザーで使用できる。本開示のこれらの態様においては、濃縮したナノ粒子の分散体を使用してもよい。
【0265】
ナノ粒子の薬剤の分散体を凍結乾燥させて、経鼻又は経肺送達に好適な粉末を得てもよい。これらの粉末は、表面修飾剤を有する凝集した薬剤のナノ粒子を有していてもよい。これらの凝集体は、呼吸に適したサイズ、例えば空気力学的質量中央径(MMAD)が約1~約5ミクロンであってもよい。
【0266】
また、粒径が適切な凍結乾燥粉末を、溶解希釈剤(例.ラクトース又はマンニトール)を更に含有する、薬剤と表面修飾剤の水性分散体を凍結乾燥させることで得ることもできる。これらの場合、凍結乾燥粉末は、各粒子が少なくとも1種の埋め込まれた薬剤のナノ粒子を有する、呼吸に適した希釈剤粒子からなる。
【0267】
凍結乾燥粉末を、乾燥粉末吸入器又は加圧式定量吸入器において、単独又は噴霧乾燥ナノ粒子と組み合わせて使用できる。さらに、薬剤のナノ粒子を有する凍結乾燥粉末を、各液滴が少なくとも1個の薬剤のナノ粒子を有する、呼吸に適した液滴径の水性分散体が生じるように再構成し、ジェット式又は超音波式ネブライザーで使用できる。
【0268】
本開示の1つの態様は、薬剤のナノ粒子及び表面修飾剤を含む、噴射剤ベースの系のための過程及び組成物に関する。これらの製剤は、周囲圧力下又は高圧条件下で、粗い原薬及び表面修飾剤を液体噴射剤中で湿式製粉することで調製できる。あるいは、薬剤のナノ粒子を有する乾燥粉末を、薬剤のナノ粒子の水性分散体を噴霧乾燥又は凍結乾燥させることで調製し、得られた粉末を、従来の加圧式定量吸入器中での使用に好適な噴射剤中に分散させることもできる。これらのナノ粒子加圧式定量吸入器用製剤を経鼻又は経肺送達に使用できる。経肺投与では、これらの製剤は、小さな粒径(例.約1~約2ミクロンのMMAD)がこれらの方法により利用可能であることから、肺深部領域への送達の向上を実現する。濃縮したエアロゾル製剤を加圧式定量吸入器で使用してもよい。
【0269】
別の態様は、経肺又は経鼻送達のための、ナノ粒子組成物を含有する乾燥粉末に関する。粉末は、薬剤のナノ粒子の呼吸に適した凝集物か、又は少なくとも1種の埋め込まれた薬剤のナノ粒子を有する呼吸に適した希釈剤粒子からなってもよい。薬剤のナノ粒子を有する粉末を、ナノ粒子の水性分散体から、噴霧乾燥又は凍結乾燥による水の除去により調製できる。噴霧乾燥は凍結乾燥よりも消費時間が少なくて安価で、費用対効果が高い。しかし、生物学的製剤などのある特定の薬剤は、乾燥粉末製剤を製造する上で、噴霧乾燥よりも凍結乾燥のほうが有利である。
【0270】
多くの場合、MMADが約1~約5ミクロンという粒径の、乾燥粉末エアロゾルの送達で使用する従来の微粉化薬剤粒子は、その静電凝集力のため、少量での定量及び分散が困難である。そのために、送達装置での原薬の損失、並びに不完全な粉末分散及び最適以下の肺への送達が生じることがある。従来の乾燥粉末の平均粒径は、通常、MMADが約1~約5ミクロンであることから、実際に肺胞領域に到達する物質の割合はかなり小さい場合がある。したがって、肺、特に肺胞領域への微粉化乾燥粉末の送達は、粉末それ自体の特性のため、概して非常に非効率である。
【0271】
ナノ粒子の薬剤を有する乾燥粉末エアロゾルは、同等の微粉化原薬よりも小さく製造でき、肺深部への効率的な送達に適している。さらに、ナノ粒子の薬剤の凝集体は、幾何学的形状が球状で、流動性が良好であり、そのため、投与する組成物の定量及び肺又は鼻腔での沈着が容易になる。
【0272】
乾燥ナノ粒子組成物は、乾燥粉末吸入器又は加圧式定量吸入器で使用できる。本明細書では「乾燥」とは、組成物中の水分が約5%未満であることを意味する。
【0273】
ある態様では、空気力学的粒径の有効平均粒径が約1~5μmの薬剤粒子で、下気道に到達する可能性がある、ナノ粒子を有する組成物が提供される。「有効平均粒径が約5μm未満」とは、光散乱などの技術により測定する場合に、薬剤粒子の重量平均粒径の少なくとも50%が約5μm未満であることを意味する。いくつかの態様では、薬剤粒子の平均粒径の少なくとも70%が約5μm未満でありし、いくつかの態様では、薬剤粒子の平均粒径の少なくとも90%が約5μm未満であり、いくつかの態様では、粒子の重量平均粒径の少なくとも約95%が約5μm未満である。
【0274】
エアロゾル投与用のナノ粒子の薬剤組成物を、例えば、(1)粉砕若しくは沈殿により得られるナノ粒子の薬剤の分散体を霧化すること;(2)ナノ粒子の薬剤と表面修飾剤の凝集体の乾燥粉末をエアロゾル化すること(エアロゾル化組成物は希釈剤を更に含有してもよい);又は(3)非水性噴射剤中のナノ粒子の薬剤若しくはナノ粒子の薬剤の凝集体の懸濁液をエアロゾル化することにより製造できる。希釈剤を更に含有していてもよい、ナノ粒子の薬剤と表面修飾剤の凝集体は、非加圧下又は加圧下の非水性系中で製造できる。濃縮したエアロゾル製剤をこれらの方法によって製造してもよい。
【0275】
薬剤粒子を液体分散媒に分散させ、粉砕媒体の存在下で機械的手段を適用して薬剤の粒径を所望の有効平均粒径まで減少させることにより、ナノ粒子の薬剤を得るために水性薬剤を粉砕してもよい。粒子の粒径を1種以上の表面修飾剤の存在下で減少させることができる。あるいは、磨砕後に粒子を1種以上の表面修飾剤と接触させることもできる。粒径を小さくする工程の間に、他の化合物(例.希釈剤)を薬剤/表面修飾剤組成物に加えてもよい。分散体は連続式で製造してもバッチ式で製造してもよい。
【0276】
ナノ粒子の分散体を形成する別の方法は微量沈殿である。これは、1種以上の表面修飾剤、及び微量の毒性溶媒又は可溶化重金属不純物を含まない1種以上のコロイドの安定性を向上させる界面活性剤の存在下で、薬剤の安定な分散体を調製する方法である。この方法は、例えば、(1)薬剤を好適な溶媒に混合しながら溶解させること;(2)少なくとも1種の表面修飾剤を含む溶液に工程(1)の製剤を混合しながら加えて透明溶液を得ること;及び(3)適切な非溶媒を使用して工程(2)の製剤を混合しながら沈殿させることを含む。この方法の後に、形成された塩(存在する場合)を、従来の方法による分散体の透析又はダイアフィルトレーション及び濃縮によって除去してもよい。得られたナノ粒子の薬剤の分散体は、液体ネブライザーで利用してもよく、乾燥粉末吸入器又は加圧式定量吸入器で使用する乾燥粉末が形成されるように処理してもよい。
【0277】
非水性で加圧しない粉砕では、室温での蒸気圧が約1気圧以下で、かつ原薬が本質的に溶解しない非水性液体を、ナノ粒子の薬剤組成物を製造するための湿式粉砕媒体として使用できる。この工程では、薬剤と表面修飾剤のスラリーを非水性媒体中で粉砕して薬剤のナノ粒子を生成できる。好適な非水性媒体の例として、エタノール、トリクロロモノフルオロメタン(CFC-11)及びジクロロテトラフルオロエタン(CFC-114)が挙げられる。CFC-11を使用することの利点は、CFC-114が蒸発を回避するために制御された条件を必要とするのに対して、CFC-11が室温をわずかに下げることで扱える点である。粉砕の完了時に液体媒体を減圧下又は加熱下で除去及び回収して、乾燥ナノ粒子組成物を得ることができる。次に乾燥組成物を好適な容器に充填し、最後に噴射剤を充填してもよい。塩素化炭化水素を含まないことが理想である代表的な噴射剤として、HFA-134a(テトラフルオロエタン)及びHFA-227(ヘプタフルオロプロパン)が挙げられる。非塩素化噴射剤が環境上の理由で好ましい場合があるが、本開示のこの態様では塩素化噴射剤を使用してもよい。
【0278】
非水性で加圧する粉砕では、室温での蒸気圧が約1気圧を著しく超える非水性液体媒体を、ナノ粒子の薬剤組成物を製造するための粉砕工程で使用できる。粉砕媒体が適切なハロゲン化炭化水素噴射剤である場合、得られる分散体を好適な加圧式定量吸入器に直接充填できる。あるいは、粉砕媒体を減圧下又は加熱下で除去及び回収して、乾燥ナノ粒子組成物を得ることもできる。次に、この組成物を適切な容器に充填し、加圧式定量吸入器中での使用に好適な噴射剤を充填できる。
【0279】
噴霧乾燥は、液体媒体中で薬剤の粒径を減少させた後に、薬剤のナノ粒子を有する粉末を得るために使用する工程である。一般に、噴霧乾燥は、液体媒体の蒸気圧が室温で約1気圧未満の場合に使用できる。噴霧乾燥機は、液体を蒸発させ、薬剤粉末の回収を可能にする装置である。溶液又は懸濁液の試料を噴霧ノズル中に供給する。ノズルが試料を直径約20~約100ミクロンの液滴とし、液滴はキャリアガスによって乾燥室に輸送される。キャリアガスの温度は、通常、約80℃~約200℃である。液滴が急速に蒸発して乾燥した粒子が残り、サイクロン装置の下部の特別なリザーバに回収される。約1ミクロン~約5ミクロンという小さな粒子も可能である。
【0280】
液体試料がナノ粒子と表面修飾剤の水性分散体の場合、回収される製品は薬剤のナノ粒子の球状凝集体からなる。液体試料が、不活性希釈剤(ラクトース又はマンニトール等)が溶解したナノ粒子の水性分散体の場合、回収される製品は、埋め込まれた薬剤のナノ粒子を有する希釈剤(例.ラクトース又はマンニトール)の粒子からなる。回収される製品の最終的なサイズは制御可能であり、液体試料中のナノ粒子の薬剤及び/又は希釈剤の濃度、並びに噴霧乾燥機ノズルが生じさせる液滴の径に依存する。回収される製品を、経肺若しくは経鼻送達用の従来の乾燥粉末吸入器で使用でき、加圧式定量吸入器で使用するために噴射剤に分散させてもよく、又は、粒子をネブライザーで使用するために水中で再構成させてもよい。
【0281】
いくつかの場合では、最終製品の定量特性を向上させるために噴霧乾燥材料に不活性担体を加えることが望ましい。噴霧乾燥粉末が非常に小さい(約5ミクロン未満)場合、又は所期の用量が極めて小さく定量が困難な場合に、特に当てはまる。通常、これらの担体粒子(増量剤としても知られる)は、肺に送達するには大きすぎ、単純に口及び喉に当たって嚥下される。通常、これらの担体は、糖、例えばラクトース、マンニトール又はトレハロースからなる。多糖及びセルロース系材料を含む他の不活性材料も担体として有益な可能性がある。
【0282】
薬剤のナノ粒子を有する噴霧乾燥粉末を、従来の乾燥粉末吸入器中で使用でき、加圧式定量吸入器で使用するために噴射剤に分散させることができ、又はネブライザーでの使用のために液体媒体中で再構成できる。
【0283】
熱により変性又は不安定化された化合物、例えば融点は低い(すなわち約70℃~約150℃)化合物では、ナノ粒子の薬剤組成物の乾燥粉末を得る上で蒸発よりも昇華の方が好ましい。これは、昇華によって、噴霧乾燥による高い処理温度が回避されるためである。さらに、凍結乾燥としても知られる昇華は、薬剤の保存安定性を増加させることができる。また、凍結乾燥粒子を再構成し、ネブライザーで使用することもできる。凍結乾燥させた薬剤のナノ粒子の凝集体を、経鼻送達又は経肺送達用の乾燥粉末吸入器又は加圧式定量吸入器中で、乾燥した粉末の中間体とブレンドするか、単独で使用できる。
【0284】
昇華は、製品を凍結させること及び試料を強真空条件に供することを包含する。これにより、形成された氷を固体状態から上記状態に直接変換することが可能になる。この過程は非常に効率的で、噴霧乾燥よりも高い収率が得られる。得られる凍結乾燥製品は薬剤及び修飾剤を有する。薬剤は、通常、凝集状態で存在しており、乾燥粉末吸入器若しくは加圧式定量吸入器中で単独で(経肺若しくは経鼻)、希釈剤(ラクトース、マンニトールなど)と組み合わせて吸入のために使用でき、又はネブライザーで使用するために再構成できる。
【0285】
いくつかの態様では、この明細書で開示するALK5阻害剤化合物をリポソーム粒子に製剤化でき、次にこれを吸入送達のためにエアロゾル化できる。本開示において有用な脂質は、中性脂質及び荷電脂質を含む種々の脂質のいずれかの可能性がある。望ましい特性を有する担体を、脂質と標的化基と循環促進剤との適切な組合せを使用して製造できる。さらに、この明細書で提供する組成物はリポソーム又は脂質粒子の形態の可能性がある。本明細書では「脂質粒子」という用語は、化合物を「コーティング」し、水性内部をほとんど又は全く有さない、脂質二重層の担体を意味する。より具体的には、この用語は、内層の一部分が、化合物(例.プラスミドホスホジエステル骨格)の負電荷とイオン結合又はイオン対を形成するカチオン性脂質を有する、自己集合する脂質二重層の担体を説明するために使用される。内層は、中性脂質又は膜融合脂質、及びいくつかの態様では負に帯電した脂質も含んでいてもよい。通常、粒子の外層は、(リポソームと同様に)末端と末端で配向する脂質と内層の疎水性末端との混合形態を含む。外層の脂質に存在する極性頭部は、粒子の外面を形成する。
【0286】
リポソーム生物活性剤を、治療効果の持続又は毒性の低下を示すように設計でき、これにより投与頻度が減少し、治療指数が向上する。リポソームは、所望の医薬を捕捉する二重層で構成される。これらは、医薬が異なる層の脂質内に又は層間の水性空間内に捕捉された、同心二重層の多重膜ベシクルとして構成されてもよい。
【0287】
非限定的な例として、組成物中で使用される脂質は、リン脂質、トコフェロール、ステロイド、脂肪酸、アルブミンなどの糖タンパク質、負に帯電した脂質及びカチオン性脂質を含む、合成脂質、半合成脂質又は天然脂質の可能性がある。リン脂質として、卵ホスファチジルコリン(EPC)、卵ホスファチジルグリセロール(EPG)、卵ホスファチジルイノシトール(EPI)、卵ホスファチジルセリン(EPS)、ホスファチジルエタノールアミン(EPE)及び卵ホスファチジン酸(EPA);大豆対応物、すなわち大豆ホスファチジルコリン(SPC);SPG、SPS、SPI、SPE及びSPA;水素化卵及び大豆対応物(例.HEPC、HSPC);12~26個の炭素原子の鎖を有するグリセロールの2位及び3位の脂肪酸と、コリン、グリセロール、イノシトール、セリン、エタノールアミンを含むグリセロールの1位の異なる頭部とのエステル結合により構成される、リン脂質;並びに対応するホスファチジン酸が挙げられる。これら脂肪酸の炭素鎖は飽和であっても不飽和であってもよく、リン脂質は鎖長及び飽和度が異なる脂肪酸で構成されてもよい。特に、製剤の組成物は、天然肺サーファクタントの主要構成要素であるジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、並びにジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)及びジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)を含んでいてもよい。他の例として、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)及びジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)及びジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、並びに混合リン脂質、例えばパルミトイルステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)及びパルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール(PSPG)、並びに単一アシル化リン脂質、例えばモノ-オレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(MOPE)が挙げられる。
【0288】
好ましい態様では、PEG修飾脂質が本開示の組成物に凝集防止剤として包含される。PEG修飾脂質の使用によって、嵩高いPEG基がリポソーム又は脂質担体の表面に位置し、担体の外側にDNAが結合することを防ぐ(その結果、脂質担体の架橋及び凝集が阻害される)。多くの場合、PEGセラミドの使用が好ましく、これは膜二重層を安定化し、循環寿命を延長するという更なる利点を示す。さらに、脂質二重層中のPEGセラミドの寿命を制御するために、PEGセラミドの脂質末端の長さをさまざまに調製できる。このようにして、脂質担体の融合を制御できる「プログラム可能な」放出を達成できる。例えば、C20-アシル基を有するPEGセラミドは、22年の半減期で脂質二重層の担体から拡散する。C14-及びC8-アシル基を有するPEGセラミドは、それぞれ10分及び1分未満の半減期で同じ担体から拡散する。その結果、脂質末端の長さを選択することで、二重層が公知の速度で不安定化される(そのため、膜融合する)組成物が得られる。他のPEG脂質又は脂質-ポリオキシエチレン結合体も本組成物において有用である。好適なPEG修飾脂質の例として、PEG修飾ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジン酸、PEG修飾ジアシルグリセロール及びジアルキルグリセロール、PEG修飾ジアルキルアミン、並びにPEG修飾1,2-ジアシルオキシプロパン-3-アミンが挙げられる。PEGセラミド結合体(例.PEG-Cer-C8、PEG-Cer-C14又はPEG-Cer-C20は、米国特許第5,820,873号に記載されており、参照によりこの明細書に組み込まれる)が特に好ましい。
【0289】
本開示の組成物を、直径が約50nm~約400nmであるリポソーム組成物が実現されるように調製できる。当業者は、封入される体積に応じて組成物のサイズを大きく又は小さくできることを理解する。したがって、体積を大きくする場合、サイズ分布は、通常約80nm~約300nmとなる。
【0290】
この明細書で開示するALK5阻害剤化合物を、公知の薬学的有機及び無機賦形剤から選択されてもよい好適な表面修飾剤との医薬組成物として調製できる。これらの賦形剤として、低分子量オリゴマー、ポリマー、界面活性剤及び天然産物が挙げられる。好ましい表面修飾剤として、非イオン性及びイオン性界面活性剤が挙げられる。2種以上の表面修飾剤を組合せで使用してもよい。
【0291】
表面修飾剤の代表的な例として、塩化セチルピリジニウム、ゼラチン、カゼイン、レシチン(ホスファチド)、デキストラン、グリセロール、アラビアゴム、コレステロール、トラガント、ステアリン酸、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセロール、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例.セトマクロゴール1000などのマクロゴールエーテル)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例.Tween(登録商標)20及びTween(登録商標)80といった市販のTween(登録商標)、(ICI Specialty Chemicals));ポリエチレングリコール(例.Carbowax(登録商標)3350及びCarbowax(登録商標)1450、並びにCarbopol(登録商標)934(Union Carbide))、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、ステアリン酸ポリオキシエチレン、コロイド状二酸化ケイ素、ホスフェート、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC、HPC-SL及びHPC-L)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、非結晶性セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェノールとエチレンオキシド及びホルムアルデヒドとのポリマー(チロキサポール、スペリオン(superione)及びトライトン(登録商標)としても知られる)、ポロキサマー(例.エチレンオキシド及びプロピレンオキシドのブロック共重合体であるPluronic(登録商標)F68及びPluronic(登録商標)F108);ポロキサミン(例.エチレンジアミンにプロピレンオキシド及びエチレンオキシドを順次加えることにより誘導される四官能性ブロック共重合体である、Poloxamine 908(商標)としても知られるTetronic(登録商標)908(BASF Wyandotte Corporation, Parsippany, N.J.));荷電リン脂質、例えばジミリストイルホスファチジルグリセロール、スルホコハク酸ジオクチル(DOSS);Tetronic(登録商標)1508;(T-1508)(BASF Wyandotte Corporation)、ナトリウムスルホコハク酸のジアルキルエステル(例.ナトリウムスルホコハク酸のジオクチルエステルであるAerosol(登録商標)OT(American Cyanamid));ラウリル硫酸ナトリウムであるDuponol P(商標)(DuPont);アルキルアリルポリエーテルスルホネートであるTritons(登録商標)X-200(Rohm and Haas);ステアリン酸スクロースとジステアリン酸スクロースとの混合物であるCrodestas F-110(商標)(Croda Inc.);Olin-log(商標)又はSurfactant 10-G(商標)としても知られるp-イソノニルフェノキシポリ-(グリシドール)(Olin Chemicals, Stamford, Conn.);Crodestas SL-40(商標)(Croda, Inc.);及びC1837CH(CON(CH)-CH(CHOH)(CHOH)であるSA9OHCO(Eastman Kodak Co.);デカノイル-N-メチルグルカミド;n-デシルβ-D-グルコピラノシド;n-デシルβ-D-マルトピラノシド;n-ドデシルβ-D-グルコピラノシド;n-ドデシルβ-D-マルトシド;ヘプタノイル-N-メチルグルカミド;n-ヘプチル-β-D-グルコピラノシド;n-ヘプチルβ-D-チオグルコシド;n-ヘキシルβ-D-グルコピラノシド;ノナノイル-N-メチルグルカミド;n-ノニルβ-D-グルコピラノシド;オクタノイル-N-メチルグルカミド;n-オクチル-β-D-グルコピラノシド;オクチルβ-D-チオグルコピラノシド;などが挙げられる。いくつかの態様では、表面修飾剤はチロキサポールであり、これはステロイドの経肺又は経鼻送達に好ましく、霧化療法には更に好ましい。
【0292】
この明細書で開示する溶液中で使用する界面活性剤の例として、これらに限定されるものではないが、ラウレス硫酸アンモニウム、セタミンオキシド、塩化セトリモニウム、セチルアルコール、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチル、コカミドDEA、コカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルアミンオキシド、コカミドMEA、ラウリル硫酸DEA、ジステアリルフタル酸アミド、塩化ジセチルジメチルアンモニウム、ジパルミトイルエチルヒドロキシエチルモニウム、ラウレススルホコハク酸二ナトリウム、二(水素化)獣脂フタル酸、ジラウリン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、ミリスチン酸イソプロピルnf、パルミチン酸イソプロピルnf、ラウラミドDEA、ラウラミドMEA、ラウラミドオキシド、ミリスタミンオキシド、イソノナン酸オクチル、パルミチン酸オクチル、ネオペンタン酸オクチルドデシル、塩化オレアルコニウム、ステアリン酸PEG-2、カプリル酸/カプリン酸PEG-32グリセリル、ステアリン酸PEG-32グリセリル、ステアリン酸及びジステアリン酸PEG-4及びPEG-150、ラウリン酸及びジラウリン酸PEG-4~PEG-150、オレイン酸及びジオレイン酸PEG-4~PEG-150、ヤシ油脂肪酸PEG-7グリセリル、PEG-8ミツロウ、ステアリン酸プロピレングリコール、C14~16オレフィンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、トリデセス硫酸ナトリウム、塩化ステアラルコニウム、ステアラミドオキシド、ドデシルベンゼン硫酸TEA、ラウリル硫酸TEAが挙げられる。
【0293】
これら表面修飾剤の大部分は公知の薬学的賦形剤であり、the Handbook of Pharmaceutical Excipients, published jointly by the American Pharmaceutical Association and The Pharmaceutical Society of Great Britain (The Pharmaceutical Press, 1986)(参照により組み込まれる)に詳述されている。表面修飾剤は市販されており及び/又は当技術分野において公知の技術により調製可能である。薬剤及び表面修飾剤の相対量は大きく変動することがあり、表面修飾剤の最適量は、例えば選択される特定の薬剤及び表面修飾剤、それがミセルを形成する場合は表面修飾剤の臨界ミセル濃度、表面修飾剤の親水性親油性バランス(HLB)、表面修飾剤の融点、表面修飾剤及び/又は薬剤の水溶性、表面修飾剤の水溶液の表面張力などに依存する可能性がある。
【0294】
本開示では、薬剤対表面修飾剤の最適比は、ALK5阻害剤化合物約0.1%~約99.9%である。いくつかの態様では、約10%~約90%である。
【0295】
いくつかの態様では、マイクロスフェアを、ALK5阻害剤化合物の経肺送達に、水に可溶化されるべき適量の化合物を最初に加えることで使用できる。例えば、ALK5阻害剤化合物の水溶液を、所定量(0.1~1%w/v)のポリ(DL-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)を含有する塩化メチレンに、氷浴上で1~3分間のプローブ超音波処理により分散させることができる。これとは別に、ALK5阻害剤化合物を、PLGA(0.1~1%w/v)を含有する塩化メチレンに可溶化させることができる。得られた油中水型一次乳濁液又はポリマー/薬剤溶液を、1~2%ポリビニルアルコール(4℃に予冷)からなる水性連続相に、氷上で3~5分間のプローブ超音波処理により分散させる。得られた乳濁液を、室温で2~4時間連続的に撹拌して塩化メチレンを蒸発させる。こうして形成された微粒子を、8000~10000rpmで5~10分間遠心分離することで連続相から分離する。沈殿した粒子を蒸留水で3回洗浄し、凍結乾燥させる。凍結乾燥ALK5阻害剤化合物微粒子を-20℃で保管する。
【0296】
いくつかの態様では、ALK5阻害剤化合物マイクロスフェアを調製するために噴霧乾燥法が使用できる。適量のALK5阻害剤化合物を、PLGA(0.1~1%)を含有する塩化メチレンに可溶化させる。この溶液を噴霧乾燥させてマイクロスフェアを得る。
【0297】
いくつかの態様では、ALK5阻害剤化合物微粒子を粒径分布(要件:90%<5μm、95%<10μm)、形状、薬剤担持効率及び薬剤放出について、適切な技術及び方法を使用して特徴付けることができる。
【0298】
いくつかの態様では、この方法は、例えばナノ粒子ベースの製剤用の低溶解性ALK5阻害剤化合物又は塩の形態などのAUCが向上した固体製剤を、金属イオン封鎖し、その水溶性を向上させるために使用することもできる。
【0299】
いくつかの態様では、ALK5阻害剤化合物を、水で96%から75%に希釈する際に、当該化合物を溶解状態で維持するために必要な最小量の96%エタノールに最初に溶解させることができる。次に、この溶液を水で希釈して75%エタノール溶液を得ることができ、次に、特定の量のポリマーを加えて以下の薬剤/ポリマー比(w/w)を得ることができる:1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、6:1、9:1及び19:1。これらの最終溶液を以下の条件で噴霧乾燥させる:供給速度、15mL/分;入口温度、110℃;出口温度、85℃;圧力、4bar;及び乾燥空気流量、35m/時。次に粉末を回収し、デシケーター中で減圧保管する。
【0300】
いくつかの態様では、ALK5阻害剤の固体脂質粒子の調製は、少なくとも脂質の融点に維持された脂質融解物(ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンなどのリン脂質)に薬剤を溶解させ、続いて少なくとも脂質の融点に維持された熱界面活性剤水溶液(通常は1~5%w/v)に薬剤含有融解物を分散させることを包含してもよい。この粗い分散体を、Microfluidizer(登録商標)を使用して1~10分間均質化してナノエマルジョンを得る。ナノエマルジョンを4~25℃に冷却して脂質を再凝固することで固体脂質ナノ粒子を形成する。長期の薬剤送達を実現するために製剤パラメータ(脂質マトリックスの種類、界面活性剤濃度及び生産パラメータ)の最適化を行う。非限定的な例として、この方法を、AUCが向上した固体製剤を、例えばナノ粒子ベース製剤用の低溶解性ALK5阻害剤化合物又は塩形態を金属イオン封鎖し、かつその水溶性を向上させるために使用することもできる。
【0301】
いくつかの態様では、溶融押出したAUCが向上するALK5阻害剤の製剤を、界面活性剤の添加若しくはマイクロエマルジョンの調製により薬剤をミセルに溶解させるか、他の分子、例えばシクロデキストリンとの包接複合体を形成するか、薬剤のナノ粒子を形成するか、又はポリマーマトリックスに非晶質薬剤を埋め込むことで調製できる。薬剤を均質的にポリマーマトリックスに埋め込むことで固体分散体が生じる。固体分散体は溶媒法及び熱溶融法という2つのやり方で調製できる。溶媒法は有機溶媒を使用するもので、有機溶媒中で薬剤及び適切なポリマーを溶解させた後、(噴霧)乾燥させる。この方法の主な欠点は、有機溶媒の使用及びバッチモードの製造過程である。熱溶融法は、薬剤を適切なポリマーに分散又は溶解させるために熱を使用する。溶融押出過程は熱溶融法の最適化された形である。溶融押出法の利点は有機溶媒の不使用及び連続的な製造過程である。溶融押出は新規の薬学的技術であるため、それを取り扱う文献は限られている。技術的構成は、非限定的な例として、ALK5阻害剤化合物のAUCが向上した製剤を製造するための、ALK5阻害剤化合物、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の混合及び押出を包含する。シクロデキストリンは、外面にヒドロキシル基を、中心に空洞を有する、ドーナツ形の分子である。シクロデキストリンは包接複合体を形成することで薬剤を金属イオン封鎖する。シクロデキストリンと薬剤との複合体形成は広範に調査されている。水溶性ポリマーが複合体形成の途中のシクロデキストリン及び薬剤と相互作用することで、該ポリマーとも同時に複合体化された薬剤及びシクロデキストリンの安定化複合体を形成することが知られている。この複合体は古典的なシクロデキストリン-薬剤複合体よりも安定である。一例として、HPMCは水溶性であり、したがって、このポリマーをHP-β-CDと共に融解物中で使用することで、水溶性のAUCが向上した製剤が製造されると予想される。非限定的な例として、この方法を、AUCが向上した固体製剤を、例えばナノ粒子ベース製剤用の低溶解性ALK5阻害剤化合物又は塩形態を金属イオン封鎖し、かつその水溶性を向上させるために使用することもできる。
【0302】
いくつかの態様では、共沈させたALK5阻害剤の製剤を、薬理学的に不活性なポリマー材料との共沈物の形成により調製できる。さまざまな水溶性ポリマーでAUCが向上した製剤を製造するための分子固体分散体又は共沈物の形成により、それらのin vitro溶解速度及び/又はin vivo吸収が著しく遅くなる場合があることが示された。粉末製品を調製する上で、溶解速度が粒径の影響を強く受けることから、粒径を減少させるために粉砕が一般的に使用される。さらに、強い力(粉砕等)によって、表面エネルギーを増加させ、結晶格子の歪みを引き起こし、かつ粒径を減少させることができる。薬剤とヒドロキシプロピルメチルセルロース、β-シクロデキストリン、キチン及びキトサン、結晶セルロース、並びにゼラチンとを共粉砕することで、他の点では直ちに生体利用可能なALK5阻害剤化合物においてAUC形状の向上が得られるように溶解特性を向上させることができる。非限定的な例として、この方法を、AUCが向上した固体製剤を、例えばナノ粒子ベース製剤用の低溶解性ALK5阻害剤化合物又は塩形態を金属イオン封鎖し、かつその水溶性を向上させるために使用することもできる。
【0303】
いくつかの態様では、組成物は1種以上のジケトピペラジン、ジケトモルホリン及びジケトジオキサン、並びにそれらの置換類似体を含んでいてもよい。別の限定するものではない例として、ジケトピペラジンカルボン酸塩およびそれを含む微粒子の形成について開示する米国特許第10,912,821号が、参照により、その全体がこの明細書に組み込まれる。
【0304】
いくつかの態様では、ALK5阻害剤化合物は、複素環式化合物により形成される微粒子に包含されてもよい。これらの複素環式化合物として、これらに限定されるものではないが、ジケトピペラジン、ジケトモルホリン及びジケトジオキサン、並びにそれらの置換類似体が挙げられる。これらの複素環式組成物は、対向するヘテロ原子及び未結合の電子対を有する、強固な六角形の環を含む。これらの複素環式化合物は、送達されるべきALK5阻害剤化合物を包含する微粒子を形成する。これらの微粒子は、単独で又は1種以上の薬剤と組み合わせて、複素環式化合物で構成される外殻を有する、マイクロカプセルを含む。固体の設計が何を行うことを意図しているかに応じて、薬剤は、複素環式化合物マトリックスに分子的に分散されてそれと複合体形成されてもよく、該マトリックスに分散された微結晶固体として存在するか、又は該マトリックス複素環式化合物と共結晶を形成してもよい。それは肺深部に浸透し、かつ呼吸膜との接触時に急速に溶解するように設計されてもよく、あるいは、組合せとして何らかのやり方で生物応答を制御するか又は膜の透過性に影響を与えるための、マトリックスからの緩徐放出を目的としていてもよい。この外殻はコア材料を取り囲んでもよい。この外殻は、球体全体に分散され及び/又は球体の表面に吸着された1種以上の薬剤を含有する、中実若しくは中空又はその組合せであるマイクロスフェアを取り囲むか又は構成してもよい。外殻は、単独で又は上記マイクロスフェアと組み合わせて、不規則形状の微粒子を取り囲んでもよい。経肺送達に関する好ましい態様では、微粒子は直径が約0.1ミクロン~約10ミクロンである。薬剤送達システム内で、これらの微粒子は望ましい形状、密度及び粒径分布、並びに良好なカーゴ耐性を示す。
【0305】
いくつかの態様では、複素環式化合物はジケトピペラジンである。
【0306】
いくつかの態様では、ジケトピペラジンは、3,6-ジ(4-アミノブチル)-2,5-ジケトピペラジンの誘導体である。代表的な誘導体として、3,6-ジ(スクシニル-4-アミノブチル)-(スクシニルジケトピペラジン又はSDKP)、3,6-ジ(マレイル-4-アミノブチル)-、3,6-di(シトラコニル-4-アミノブチル)-、3,6-ジ(グルタリル-4-アミノブチル)-、3,6-ジ(マロニル-4-アミノブチル)-、3,6-ジ(オキサリル-4-アミノブチル)-及び3,6-ジ(フマリル-4-アミノブチル)-2,5-ジケトピペラジン(フマリルジケトピペラジン又はFDKP)が挙げられる。
【0307】
いくつかの態様では、ジケトピペラジンの塩は、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アンモニウム又はモノ-、ジ-、若しくはトリアルキルアンモニウム(トリエチルアミン、ブチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、若しくはピリジンなどに由来する)の塩からなる群から選択される。塩は単塩、二塩又は混合塩であってもよい。ジケトピペラジン塩の対陽イオンは、さまざまな溶解性を示す塩を生じさせるように選択できる。これらさまざまな溶解性は、溶解速度及び/又は固有溶解度の差の結果の可能性がある。ジケトピペラジン塩溶解の速度を制御することで、ジケトピペラジン塩/ALK5阻害剤化合物の組合せからの薬剤の吸収の速度を、即時放出及び/又は持続放出プロファイルを示す製剤が実現されるように制御することもできる。例えば、有機化合物のナトリウム塩は生体系で高度に可溶性であることを特徴とし、一方、カルシウム塩の生体系での可溶性はごくわずかである。したがって、ジケトピペラジンナトリウム塩/ALK5阻害剤化合物の組合せで構成される製剤は即時の薬剤吸収を実現し、ジケトピペラジンカルシウム塩/ALK5阻害剤化合物の組合せで構成される製剤は、薬剤吸収を遅らせる。また、塩基性が高いALK5阻害性化合物は、生体液中で溶解性及びイオン交換性により放出を行って制御放出機構を作り出すイオン性複合体を形成するための、ジケトピペラジン酸との塩形成剤として作用しうる。後者の製剤の組合せを有する製剤を使用して、薬剤を即時に吸収し、続いて持続的に吸収できる。
【0308】
いくつかの態様では、組成物は、2個以上のロイシン残基を有する1種以上のジペプチド又はトリペプチドを含んでいてもよい。別の限定するものではない例として、分散促進ペプチドについて開示する米国特許第6,835,372号が、参照により、その全体がこの明細書に組み込まれる。本特許では、ジ-ロイシル含有ジペプチド(例.ジロイシン)及びトリペプチドが粉末組成物の分散性を増加させる能力に関して優れているという発見が記述される。
【0309】
別の態様では、アミノ酸を含む高分散性粒子が投与される。疎水性アミノ酸が好ましい。好適なアミノ酸として天然及び非天然の疎水性アミノ酸が挙げられる。非天然アミノ酸を含むがそれらには限定されない、いくつかの天然疎水性アミノ酸として、例えばβ-アミノ酸が挙げられる。D配置及びL配置の両者とラセミ配置の疎水性アミノ酸を使用できる。好適な疎水性アミノ酸として、アミノ酸類似体を挙げることもできる。本明細書で使用されるアミノ酸類似体は、式-NH-CHR-CO-を有するアミノ酸のD配置又はL配置を含み、式中、Rは脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、芳香族基又は置換芳香族基であり、Rは天然アミノ酸の側鎖に対応しない。本明細書では脂肪族基は、完全に飽和しており、1個若しくは2個のヘテロ原子、例えば窒素、酸素、若しくは硫黄を有する及び/又は1個以上の脱飽和単位を有する、直鎖状、分枝状又は環状のC1~C8炭化水素を含む。芳香族基として、炭素環式芳香族基、例えばフェニル及びナフチル、並びに複素環芳香族基、例えばイミダゾリル、インドリル、チエニル、フラニル、ピリジル、ピラニル、オキサゾリル、ベンゾチエニル、ベンゾフラニル、キノリニル、イソキノリニル及びアクリジニルが挙げられる。
【0310】
脂肪族基、芳香族基又はベンジル基の好適な置換基として、-OH、ハロゲン(-Br、-Cl、-I及び-F)、-O(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリール基又は置換アリール基)、-CN、-NO、-COH、-NH、-NH(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリール基又は置換アリール基)、-N(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリール基又は置換アリール基)、-CO(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリール基又は置換アリール基)、-CONH、-CONH(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリール基又は置換アリール基))、-SH、-S(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、芳香族基又は置換芳香族基)、並びに-NH-C(CONH)-NHが挙げられる。置換ベンジル基又は置換芳香族基は置換基として、脂肪族基又は置換脂肪族基を有していてもよい。置換脂肪族基は、置換基としてベンジル基、置換ベンジル基、アリール基又は置換アリール基を有していてもよい。置換脂肪族基、置換芳香族基又は置換ベンジル基は1以上の置換基を有していてもよい。アミノ酸置換基を修飾することで、例えば、親水性である天然アミノ酸の親油性又は疎水性を増加させることができる。
【0311】
いくつかの好適なアミノ酸、アミノ酸類似体及びその塩を商業的に得ることができる。他のものは当技術分野において公知の方法により合成できる。
【0312】
一般に、疎水性は、非極性溶媒と水との間でのアミノ酸の分配に関して規定される。疎水性アミノ酸は、非極性溶媒に対する選好を示す酸である。アミノ酸の相対的疎水性は、グリシンが値0.5を示す疎水性スケール上で表すことができる。このスケール上では、水に対する選好を示すアミノ酸は0.5未満の値を示し、非極性溶媒に対する選好を示すアミノ酸は0.5超の値を示す。本明細書では疎水性アミノ酸という用語は、疎水性スケール上で0.5以上の値を示し、言い換えれば、グリシンのそれと少なくとも等しい非極性酸中での分配の傾向を示す、アミノ酸を意味する。
【0313】
使用可能なアミノ酸の例として、これらに限定されるものではないが、グリシン、プロリン、アラニン、システイン、メチオニン、バリン、ロイシン、チロシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファンが挙げられる。好ましい疎水性アミノ酸として、ロイシン、イソロイシン、アラニン、バリン、フェニルアラニン及びグリシンが挙げられる。疎水性アミノ酸の組合せを使用してもよい。さらに、組合せ全体が疎水性である、疎水性アミノ酸と親水性(水中に優先的に分配される)アミノ酸との組合せを使用してもよい。
【0314】
アミノ酸は、本開示の粒子に少なくとも10重量%存在できる。好ましくは、アミノ酸は粒子に約20~約80重量%存在できる。疎水性アミノ酸の塩は、本開示の粒子に少なくとも10重量%存在できる。好ましくは、アミノ酸塩は、粒子に約20~約80重量%存在する。好ましい態様では、粒子のタップ密度は約0.4g/cm未満である。
【0315】
アミノ酸を含む粒子を形成する方法及び送達する方法は、噴霧乾燥中に多孔質粒子を形成する単純なアミノ酸の使用という発明の名称の米国特許第6,586,008号に記載されており、その教示は、その全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0316】
タンパク質賦形剤として、ヒト血清アルブミン(HSA)、組換えヒトアルブミン(rHA)などのアルブミン、ゼラチン、カゼイン、ヘモグロビンなどを挙げることができる。緩衝能においても機能しうる好適なアミノ酸(本開示のジロイシル-ペプチドの外側の)として、アラニン、グリシン、アルギニン、ベタイン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、リジン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、アスパルテーム、チロシン、トリプトファンなどが挙げられる。分散剤として機能するアミノ酸及びポリペプチドが好ましい。この分類に入るアミノ酸として、疎水性アミノ酸、例えばバリン、イソロイシン、トリプトファン、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン及びプロリンが挙げられる。分散性向上ペプチド賦形剤として、1種以上の疎水性アミノ酸成分、例えば上記の成分を含む、二量体、三量体、四量体及び五量体が挙げられる。
【0317】
非限定的な例として、炭水化物賦形剤として、単糖、例えばフルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D-マンノース、ソルボースなど;二糖、例えばラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなど;多糖、例えばラフィノース、メレチトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプンなど;及びアルジトール、例えばマンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール ソルビトール(グルシトール)、ピラノシルソルビトール、ミオイノシトール、イソマルト、トレハロースなどを挙げることができる。
【0318】
非限定的な例として、組成物は、ポリマー賦形剤/添加剤、例えばポリビニルピロリドン、誘導体化セルロース、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、Ficolls(ポリマー糖の1種)、ヒドロキシエチルデンプン、デキストレート(非限定的な例として、シクロデキストリンとして、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン、ランダムメチル化β-シクロデキストリン、ジメチル-α-シクロデキストリン、ジメチル-β-シクロデキストリン、マルトシル-α-シクロデキストリン、グルコシル-1-α-シクロデキストリン、グルコシル-2-α-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン及びスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンを挙げることができる)、ポリエチレングリコール、並びにペクチンを含んでもよい。
【0319】
投与される高分散性粒子は生物活性剤及び生体適合性、好ましくは生分解性のポリマー、共重合体又はブレンドを含む。ポリマーは、i)送達時に薬剤の安定化及び活性の保持を実現するための、送達すべき薬剤とポリマーとの間の相互作用;ii)ポリマー分解の速度とその結果の薬剤放出プロファイルの速度;iii)化学修飾による表面特性及び標的化能力;並びにiv)粒子の多孔性を含む、粒子のさまざまな特性を最適化するように調節可能である。
【0320】
粒子を形成するために表面侵食性ポリマー、例えばポリ無水物を使用できる。例えば、ポリ無水物、例えばポリ[(p-カルボキシフェノキシ)ヘキサン無水物](PCPH)を使用できる。生分解性ポリ無水物は米国特許第4,857,311号に記載されている。バルク侵食性ポリマー、例えばポリ(ヒドロキシ酸)を含むポリエステルをベースとするポリマーも使用できる。例えば、粒子を形成するためにポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)又はその共重合体を使用できる。ポリエステルは荷電基又は官能化可能基、例えばアミノ酸を有していてもよい。好ましい態様では、制御放出特性を有する粒子は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)などの界面活性剤を包含するポリ(D,L-乳酸)及び/又はポリ(DL-乳酸-co-グリコール酸)(「PLGA」)で形成されてもよい。
【0321】
他のポリマーとして、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリビニル化合物、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル及びポリビニルエステル、アクリル酸及びメタクリル酸のポリマー、セルロース及び他の多糖、並びにペプチド若しくはタンパク質又はその共重合体若しくはブレンドが挙げられる。さまざまな薬剤の制御送達のために、in vivoで適切な安定性及び分解速度を示すか又は示すように修飾されたポリマーを選択できる。
【0322】
Hrkach et al., Macromolecules, 28: 4736-4739 (1995)及びHrkach et al., "Poly(L-Lactic acid-co-amino acid) Graft Copolymers: A Class of Functional Biodegradable Biomaterials" in Hydrogels and Biodegradable Polymers for Bioapplications, ACS Symposium Series No. 627, Raphael M, Ottenbrite et al., Eds., American Chemical Society, Chapter 8, pp. 93-101, 1996に記載のように、官能化ポリエステルグラフト共重合体から高分散性粒子を形成できる。
【0323】
ある態様では、生物活性剤及びリン脂質を含む高分散性粒子が投与される。好適なリン脂質の例として、特にホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール及びその組合せが挙げられる。リン脂質の具体例として、これらに限定されるものではないが、ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)又はその組合せが挙げられる。他のリン脂質は当業者に公知である。別の態様では、リン脂質は肺に内在性である。
【0324】
リン脂質は、粒子に約0~約90重量%存在できる。別の態様では、それは、粒子に約10~約60重量%存在できる。
【0325】
本開示の別の態様では、リン脂質又はその組合せは、高分散性粒子に制御放出特性を付与するように選択される。特定のリン脂質の相転移温度は患者の生理的体温を下回るか、その近傍であるか又はそれを上回ることがある。好ましい相転移温度は30℃~50℃(例.患者の正常体温の±10℃以内)である。リン脂質又はリン脂質組合せをそれらの相転移温度に従って選択することで、制御放出特性を有するように粒子を調整できる。例えば、患者の体温よりも高い相転移温度を有するリン脂質又はリン脂質組合せを含む粒子を投与することで、ドーパミン前駆体、アゴニスト又は前駆体及び/若しくはアゴニストの組合せの放出を遅くできる。他方で、より低い転移温度を有するリン脂質を粒子に含めることで、急速放出を得ることができる。
【0326】
いくつかの態様では、この明細書で開示するALK5阻害剤の製剤及び関連組成物は、1種以上の矯味剤、例えば香味料、無機塩(例.塩化ナトリウム)、甘味料、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤(例.「Tween(登録商標)20」及び「Tween(登録商標)80」といったポリソルベート)、ソルビタンエステル、サッカリン(例.サッカリンナトリウム又は他のサッカリン形態-特定の態様では、他の箇所に記載したように、ALK5阻害剤化合物に対して特定の濃度又はモル比で存在する可能性がある)、炭酸水素塩、シクロデキストリン、脂質(例.レシチン及び他のホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンのようなリン脂質)、脂肪酸及び脂肪酸エステル、ステロイド(例.コレステロール)、並びにキレート剤(例.EDTA、亜鉛及び他の同様の好適な陽イオン)を更に含んでいてもよい。本開示に係る組成物中での使用に好適な他の薬学的賦形剤及び/又は添加剤は、"Remington: The Science & Practice of Pharmacy", 19th ed., Williams & Williams, (1995)及び"Physician's Desk Reference", 52nd ed., Medical Economics, Montvale, N.J. (1998)に列挙されている。
【0327】
いくつかの態様では、ALK5阻害剤の製剤中の矯味剤は、香味料、甘味料、並びに他のさまざまなコーティング戦略、例えば糖、例えばスクロース、デキストロース及びラクトース、カルボン酸、メントール、アミノ酸又はアミノ酸誘導体、例えばアルギニン、リジン及びグルタミン酸一ナトリウム、並びに/又は合成香味油及び香味芳香剤並びに/若しくは天然油、植物、葉、花、果実などからの抽出物、並びにその組合せの使用を含んでいてもよい。これらとして、桂皮油、ウィンターグリーン油、ペパーミント油、クローバー油、ベイ油、アニス油、ユーカリ油、バニラ油、柑橘油、例えばレモン油、オレンジ油、ブドウ油及びグレープフルーツ油、リンゴ、モモ、セイヨウナシ、イチゴ、ラズベリー、サクランボ、プラム、パイナップル、アプリコットなどを含む果実エッセンスを挙げることができる。更なる甘味料として、スクロース、デキストロース、アスパルテーム(NutraSweet(登録商標))、アセスルファムK、スクラロース及びサッカリン(例.サッカリンナトリウム又は他のサッカリン形態-これは、特定の態様では、他の箇所に記載したように、ALK5阻害剤化合物に対して特定の濃度又はモル比で存在する可能性がある)、有機酸(非限定的な例としてクエン酸及びアスパラギン酸)が挙げられる。これらの香味は約0.05~約4重量%存在してもよく、香味に対する効果の作用強度、香味料の溶解性、他の製剤成分の溶解性又は他の物理化学特性若しくは薬物動態特性に対する香味料の効果、あるいは他の因子のうち1つ以上の因子として、それよりも少ない量又は多い量で存在してもよい。
【0328】
吸入薬の不快な味覚を改善又は遮蔽するための別の方法は、薬剤の溶解性を減少させることの可能性がある。例えば、薬剤は必ず味覚受容体と相互作用するように溶解する。したがって、固体形態の薬剤を送達することで、味覚応答を回避し、所望の改善された味覚効果を生じさせることができる。この明細書では、例えば、ALK5阻害剤化合物の特定の塩形態の製剤化、例えばキシナホ酸、オレイン酸、ステアリン酸及び/又はパモ酸との複合体形成における使用を通じて、ALK5阻害剤化合物の溶解性を減少させるための非限定的な方法を記載する。更なる共沈殿剤としてジヒドロピリジン及びポリビニルピロリドンなどのポリマーが挙げられる。
【0329】
さらに、親油性ベシクルを製造することで矯味を達成することもできる。更なるコーティング剤又はキャッピング剤として、デキストレート(非限定的な例として、シクロデキストリンとしては2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン、ランダムメチル化β-シクロデキストリン、ジメチル-α-シクロデキストリン、ジメチル-β-シクロデキストリン、マルトシル-α-シクロデキストリン、グルコシル-1-α-シクロデキストリン、グルコシル-2-α-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン及びスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンを挙げることができる)、修飾セルロース、例えばエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、糖及び糖アルコール、ワックス、セラック、ポリアクリレート、並びにその混合物が挙げられる。非限定的な例として、特定の態様によればALK5阻害剤化合物の非溶解形態を又はいくつかの態様ではALK5阻害剤化合物の非溶解形態を送達するための他の方法は、薬剤を単独で又は単純で溶解性が影響を受けない製剤、例えば結晶性微粉化製剤、乾燥粉末製剤、噴霧乾燥製剤及び/又はナノ懸濁液製剤として投与することである。
【0330】
いくつかの態様では、味覚変革剤がALK5阻害剤の製剤に含まれる。これらの態様は、有効薬剤であるALK5阻害剤又はその塩と混合されるか、その上にコーティングされるか又は他のやり方でそれと組み合わせられる矯味物質を製剤に含めることを想定する。これらの製剤に1種以上のこの薬剤を含めることは、ALK5阻害剤化合物以外に製剤に含まれる追加の薬理学的に活性な化合物、例えば粘液溶解剤の味覚を向上させることにも役立ちうる。これらの味覚変革物質の非限定的な例として、酸性リン脂質、リゾリン脂質、コハク酸トコフェロールポリエチレングリコール及びエンボン酸(パモ酸)が挙げられる。これらの薬剤の多くは、単独で使用してもよく、ALK5阻害剤化合物(若しくはその塩)又は別の態様ではエアロゾル投与用のALK5阻害剤化合物と組み合わせて使用してもよい。
【0331】
ALK5阻害剤化合物によるエアロゾル処置の間の痰の粘性を減少させるために薬剤を組み合わせた製剤を調製する方法は、例えばN-アセチルシステイン又はナシステリン(NAL)を含む。これらの薬剤は、固定製剤中で調製してもよく、エアロゾルALK5阻害剤化合物治療薬に続いて投与してもよい。
【0332】
最も一般的に処方される薬剤は、巨大分子間のジスルフィド架橋を破壊することでin vitroで粘液を脱重合する、N-アセチルシステイン(NAC)である。こうした痰の粘性の減少によって気道からの痰の除去が容易になると仮定される。さらに、NACは酸素ラジカルスカベンジャーとしても作用しうる。NACは経口摂取しても吸入摂取してもよい。これら2つの投与方法の間の差は正式には研究されていない。経口投与後、NACは肝臓内及び腸内で抗酸化物質グルタチオンの前駆体であるシステインに還元される。この抗酸化特性は、嚢胞性線維症(CF)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)又は線維性肺疾患(例.特発性肺線維症)における肺機能低下を予防する上で有益な可能性がある。特に大陸欧州におけるCFの患者には、痰の粘性を減少させることで痰の喀出を改善するために、霧化NACが一般的に処方される。これの最終的な目標は、CFにおける肺機能低下を遅らせることである。
【0333】
L-リジン-N-アセチルシステイン(ACC)又はナシステリン(NAL)は、粘液溶解性、抗酸化性及び抗炎症性を有する新規粘液活性剤である。化学的には、それはACCの塩である。この薬剤は、L-リジンとACCの相乗的な粘液溶解活性のため、その親分子ACCよりも優れた活性を示す。さらに、そのほぼ中性のpH(6.2)のために、肺内投与における気管支痙攣の発生率が非常に低くなるが、酸性ACC(pH2.2)ではそうはならない。必要な肺用量が非常に多く(約2mg)、微粉化薬剤が粘着性及び凝集性があって、そのため再分散性製剤を調製する上で問題があるということから、NALを吸入形態で製剤化することは困難である。NALはクロロフルオロカーボン(CFC)を収容する定量吸入器(MDI)として最初に開発された。これは、この形態が、前臨床試験及び最初の臨床試験を始める上で最も容易かつ速やかに開発されたためである。NAL MDIは1回のパフにつき2mgを送達し、その約10%が健康ボランティアの肺に到達できた。この製剤の1つの大きな不都合は、所要量を得るために12回と多くのパフが必要になることによる患者コンプライアンスである。さらに、医薬品からCFCガスが徐々に失われることは、患者集団の大部分が遭遇するコーディネーションの問題と相俟って、NALの新たなガレヌス製剤形態の開発を促した。定量吸入器とのコンプライアンスの問題を解消するために、また、若年小児を含む可能な限り広範な患者集団に薬剤を投与するための最適、再現可能、かつ快適なやり方と組み合わせるために、乾燥粉末吸入器(DPI)製剤が選択された。
【0334】
NALの乾燥粉末吸入器用製剤は、従来にないラクトース(通常は錠剤の直接圧縮のために留保される)、すなわちローラー乾燥(RD)無水β-ラクトースの使用を包含した。単一用量乾燥粉末吸入装置によりin vitroで試験される際に、この粉末製剤は名目用量の少なくとも30%の、すなわち定量吸入器でのそれよりも3倍多い微小粒子画分(FPF)を生じさせる。同時投与又は固定併用療法のために、この方法をALK5阻害剤化合物と組み合わせて使用できる。
【0335】
粘液溶解活性に加えて、嚢胞性線維症(CF)患者の気道内の過剰な好中球エラスターゼ活性は、進行性肺損傷を生じさせる。還元剤によるエラスターゼのジスルフィド結合の破壊により、その酵素活性を改変できる。3つの天然ジチオール還元系をエラスターゼ活性に対する効果について調査した:1)大腸菌チオレドキシン(Trx)系、2)組換えヒトチオレドキシン(rhTrx)系及び3)ジヒドロリポ酸(DHLA)。Trx系はTrx、Trx還元酵素及びNADPHからなっていた。エラスターゼ活性の分光光度アッセイが示すように、2つのTrx系及びDHLAは、精製ヒト好中球エラスターゼ及びCF痰の可溶性相(ゾル)に存在するエラスチン分解活性を阻害した。これら3つのTrx系構成要素のいずれかを除去することで阻害が防止された。ジチオールは、モノチオールであるN-アセチルシステイン及び還元グルタチオンに比べて大きなエラスターゼ阻害を示した。調査用のツールとしてTrxを簡素化するために、rhTrxの安定還元型を単一成分として合成及び使用できる。還元rhTrxは、NADPH又はTrx還元酵素なしで精製エラスターゼ及びCF痰ゾルエラスターゼを阻害する。エラスターゼ活性を制限するTrx及びDHLAの能力とそれらの粘液溶解効果との組合せによって、これらの化合物はCFの潜在的な治療薬となり、また、ALK-5阻害剤と組み合わせてより大きな効果示す可能性がある。
【0336】
加えて、嚢胞性線維症(CF)患者の痰に存在するが、正常な気道液には存在しない、F-アクチンとDNAとの束は、感染した気道液の排除を阻害してCFの病態を悪化させる、痰の粘弾性の変化の一因となる。可溶性多価アニオンは、単独で又は他の粘液溶解剤と組み合わせて、CF痰中で形成される荷電バイオポリマーの大きな束を選択的に分離する可能性を示す。
【0337】
したがって、痰の粘度の減少による分配の改善を通じて抗線維症活性及び/又は抗炎症活性を向上させるために、また、肺機能の向上(痰の流動性及び粘液線毛クリアランスの向上による)及び免疫炎症応答による肺組織損傷の減少を通じて臨床結果を向上させるために、NAC、未分画ヘパリン、還元グルタチオン、ジチオール、Trx、DHLA、他のモノチオール、DNアーゼ、ドルナーゼアルファ、高浸透圧製剤(例.約350mOsmol/kgを超えるオスモル濃度)、多価アニオン、例えばポリマーアスパラギン酸イオン又はグルタミン酸イオン、グリコシダーゼ及び上記で列挙した他の例と、ALK5阻害剤化合物及び他の粘液溶解剤とをエアロゾル投与のために組み合わせることができる。
【0338】
ある態様では、例えばネブライザー、定量吸入器、アトマイザー、ミスト発生器、エアロゾル、乾燥粉末吸入器、吹送器、液体注入又は他の好適な装置若しくは技術により、組成物を気道に投与(経鼻投与及び経肺投与を含む)できる。
【0339】
いくつかの態様では、鼻粘膜への送達が意図されるエアロゾルが、鼻を通じた吸入のために提供される。鼻腔への最適な送達では、約5~約100ミクロンの吸入粒径が有用であり、約10~約60ミクロンの粒径が好ましい。経鼻送達では、鼻粘膜に対する嵌入を最大化するために、また、投与される製剤の肺沈着を最小化又は予防するために、より大きな吸入粒径が望ましいことがある。いくつかの態様では、肺への送達が意図されるエアロゾルが、鼻又は口を通じた吸入のために提供される。肺への送達では、約10μm未満(例.約1~約10ミクロン)の空気力学的吸入粒径が有用である。吸入粒子は、溶解した薬剤を含有する液滴、懸濁薬剤粒子を有する液滴(薬剤が懸濁媒体に不溶性である場合)、純粋な原薬の乾燥粒子、賦形剤、リポソーム、乳濁液、コロイド系、コアセルベートに包含された原薬、薬剤のナノ粒子の凝集体又は埋め込まれた薬剤のナノ粒子を有する希釈剤の乾燥粒子として規定されてもよい。
【0340】
いくつかの態様では、呼吸送達(全身送達又は局所送達)が意図される、この明細書で開示する式Iで表される化合物を、水性製剤として、非水性の溶液若しくは懸濁液として、アルコールを伴うか若しくは伴わないハロゲン化炭化水素噴射剤中の懸濁液若しくは溶液として、コロイド系として、乳濁液として、コアセルベートとして又は乾燥粉末として投与できる。水性製剤は、液圧微粒化若しくは超音波微粒化を使用する液体ネブライザーによって又は修正型マイクロポンプシステム(ソフトミスト吸入器、Aerodose(登録商標)又はAERx(登録商標)システムなど)によってエアロゾル化できる。噴射剤ベースのシステムは好適な加圧式定量吸入器(pMDI)を使用できる。乾燥粉末は、原薬を有効に分散する乾燥粉末吸入装置(DPI)を使用できる。適切な装置を選択することで、所望の粒径及び粒径分布を得ることができる。
【0341】
いくつかの態様では、霧化吸入投与用の溶液は、約0.1μg/mL組成物の単位増分で約1μg/mL~約20μg/mLのALK5阻害剤化合物を含んでいてもよい。
【0342】
いくつかの態様では、霧化吸入投与用の溶液は、約0.01mg/mL組成物の単位増分で約0.1mg/mL~約100mg/mLのALK5阻害剤化合物を含んでいてもよい。
【0343】
いくつかの態様では、哺乳動物の肺に直接投与される各吸入量は、約0.01mLの単位増分で約0.05mL~約10mLのALK5阻害剤化合物水溶液を含む。
【0344】
いくつかの態様では、オスモル濃度は約1mOsmol/kgの単位増分で約50mOsmol/kg組成物を超える。
【0345】
いくつかの態様では、pHは約0.1のpH単位増分で約3.0を超える。例えばpH約3、pH約3.5、pH約4、pH約4.5、pH約5、pH約5.5、pH約6、pH約6.5、pH約7、pH約7.5、pH約8、pH約8.5及びpH約9である。
【0346】
いくつかの態様では、pHはクエン酸、クエン酸塩、リンゴ酸、リンゴ酸塩、ピリジン、ギ酸、ギ酸塩、ピペラジン、コハク酸、コハク酸塩、ヒスチジン、マレイン酸塩、ビス-トリス、ピロリン酸塩、リン酸、リン酸塩、PIPES、ACES、MES、カコジル酸、炭酸、炭酸塩、ADA(N-(2-アセトアミド)-2-イミノ二酢酸)からなる群から選択される有機緩衝剤の包含により平衡される。
【0347】
いくつかの態様では、ALK5阻害剤化合物溶液は浸透性イオン濃度を有する。いくつかの態様では、浸透性イオンは臭素、塩素及びリチウムからなる群から選択される。いくつかの態様では、浸透性イオン濃度は10mM増分で約10mM~約300mMである。例えば約10mM~20mM、20mM~30mM、30mM~約40mM、約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mm、約150mM、約200mM、約250mM及び約300mMである。
【0348】
いくつかの態様では、組成物は矯味剤を更に含む。いくつかの態様では、矯味剤はラクトース、スクロース、デキストロース、サッカリン、アスパルテーム、スクラロース、アスコルビン酸塩、多価カチオン及びクエン酸塩からなる群から選択される。いくつかの態様では、矯味剤濃度は約0.01mM増分で約0.01mM~約50mMである。例えば約0.01mM、約0.05mM、約0.1mM、約0.2mM、約0.3mM、約0.4mM、約0.5mM、約0.6mM、約0.7mM、約0.8mM、約0.9mM、約1mM、約2mM、約3mM、約4mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mM及び約50mMである。
【0349】
別の態様では、約50mOsmol/kg~約6000mOsmol/kgのオスモル濃度を有する非封入型水溶性賦形剤による単純液体ALK5阻害剤(又はその塩)化合物製剤を含む医薬組成物が提供される。ある態様では、オスモル濃度は約50mOsmol/kg~約1000mOsmol/kgである。ある態様では、オスモル濃度は約400mOsmol/kg~約5000mOsmol/kgである。他の態様では、オスモル濃度は約50、100、150、200、250、300、350、400、450、500mOsmol/kg~約1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2200、2400、2600、2800、3000、3200、3400、3600、3800、4000、4200、4400、4600、4800、5000、5200、5400、5600、5800及び6000mOsmol/kgである。
【0350】
いくつかの態様では、吸入量は、1日4回未満、1日3回未満、1日2回未満、1日1回未満又は毎日未満で送達される。いくつかの態様では、吸入量は、連続流エアロゾル又は呼吸作動型エアロゾルの標準的な安静呼吸を使用する霧化により送達される。これらの霧化送達の態様では、送達時間は、10分未満、8分未満、6分未満、4分未満、2分未満及び1分未満の可能性がある。いくつかの態様では、吸入量は、受動型分散乾燥粉末吸入器又は能動型分散乾燥粉末吸入器の10回未満、8回未満、6回未満、5回未満、4回未満、3回未満、2回未満又は1回の呼吸を使用する分散乾燥粉末エアロゾルの吸入により送達される。いくつかの態様では、吸入量は、スペーサーを伴うか又は伴わない圧縮ガス定量吸入器の10回未満、8回未満、6回未満、5回未満、4回未満、3回未満、2回未満又は1回の呼吸を使用するエアロゾルの吸入により送達される。
【0351】
別の側面では、この明細書は、哺乳動物の肺疾患を治療する方法であって、それを必要とする哺乳動物に吸入により1回分の用量のALK5阻害剤化合物を投与することを含む方法を記載し、ALK5阻害剤化合物の吸入量はネブライザー、定量吸入器又は乾燥粉末吸入器によって投与される。いくつかの態様では、吸入量はALK5阻害剤化合物の水溶液を含み、この用量は液体ネブライザーによって投与される。いくつかの態様では、哺乳動物の肺に直接投与される各吸入量は、約0.1mL~約6mLのALK5阻害剤化合物水溶液を含み、水溶液中のALK5阻害剤化合物の濃度は約0.1mg/mL~約60mg/mLであり、水溶液のオスモル濃度は約50mOsmol/kg~約6000mOsmol/kgである。いくつかの態様では、各吸入量の水溶液は共溶媒、等張化剤、甘味料、界面活性剤、湿潤剤、キレート剤、酸化防止剤、塩及び緩衝剤から選択される1種以上の追加成分を更に含む。いくつかの態様では、各吸入量の水溶液はクエン酸塩緩衝剤又はリン酸塩緩衝剤、並びに塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、臭化ナトリウム、臭化マグネシウム、塩化カルシウム及び臭化カルシウムからなる群から選択される1種以上の塩を更に含む。いくつかの態様では、各吸入量の水溶液は水;約0.1mg/mL~約20mg/mLのALK5阻害剤化合物;1種以上の塩の総量が水溶液の重量の約0.01重量%~約2.0重量%である1種以上の塩;及び、場合によって、溶液のpHを約pH5.0~約pH8.0に維持するリン酸塩緩衝剤又は溶液のpHを約4.0~約7.0に維持するクエン酸塩緩衝剤。を含む。いくつかの態様では、ALK5阻害剤化合物の吸入量は連続投与スケジュールで投与される。いくつかの態様では、肺疾患は間質性肺疾患(ILD)である。いくつかの態様では、間質性肺疾患(ILD)は特発性肺線維症(IPF)、強皮症関連間質性肺疾患(SSc-ILD)、サルコイドーシス、閉塞性細気管支炎、ランゲルハンス細胞組織球症(好酸球性肉芽腫又は組織球症Xとも呼ばれる)、慢性好酸球性肺炎、膠原病、肉芽腫性血管炎、グッドパスチャー症候群又は肺胞蛋白症(PAP)からなる群から選択される。いくつかの態様では、間質性肺疾患は特発性肺線維症である。いくつかの態様では、肺疾患は嚢胞性線維症である。いくつかの態様では、方法は、哺乳動物に1種以上の追加の治療剤を投与することを更に含む。
【0352】
ある態様では、ネブライザーは、主に約1~約5ミクロンの空気力学的質量中央径(MMAD)を有するこの明細書で開示するALK5阻害剤化合物のエアロゾルの形成を可能にすることに基づいて選択される。ある態様では、ALK5阻害剤化合物の送達量は、肺の病態に対する治療効果及び/又は肺外、全身、組織、若しくは中枢神経系への分配を実現する。
【0353】
水性系及び他の非加圧下の液体系では、製剤をエアロゾル化するために種々のネブライザー(小容量ネブライザーを含む)が利用可能である。圧縮機駆動式ネブライザーはジェット技術を包含しており、液体エアロゾルを生成するために圧縮空気を使用する。これらの装置は例えばHealthdyne Technologies, Inc.;Invacare, Inc.;Mountain Medical Equipment, Inc.;Pari Respiratory, Inc.;Mada Medical, Inc.;Puritan-Bennet;Schuco, Inc., DeVilbiss Health Care, Inc及びHospitak, Inc.から市販されている。超音波式ネブライザーは、呼吸に適した液滴を生じさせるために圧電性結晶の振動の形態の機械的エネルギーに依存するもので、例えばOmron Heathcare, Inc.、Boehringer Ingelheim及びDeVilbiss Health Care, Inc.から市販されている。振動メッシュ式ネブライザーは、呼吸に適した液滴を生じさせるために圧電パルス又は機械的パルスに依存する。ALK5阻害剤化合物で使用するネブライザーの他の例は、米国特許第4,268,460号、同第4,253,468号、同第4,046,146号、同第3,826,255号、同第4,649,911号、同第4,510,929号、同第4,624,251号、同第5,164,740号、同第5,586,550号、同第5,758,637号、同第6,644,304号、同第6,338,443号、同第5,906,202号、同第5,934,272号、同第5,960,792号、同第5,971,951号、同第6,070,575号、同第6,192,876号、同第6,230,706号、同第6,349,719号、同第6,367,470号、同第6,543,442号、同第6,584,971号、同第6,601,581号、同第4,263,907号、同第5,709,202号、同第5,823,179号、同第6,192,876号、同第6,644,304号、同第5,549,102号、同第6,083,922号、同第6,161,536号、同第6,264,922号、同第6,557,549号及び同第6,612,303号(これらは全て、参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0354】
この明細書に記載する、医薬の送達を行うために好適ないずれかの公知の吸入ネブライザーを、この明細書で説明するさまざまな態様及び方法において使用できる。これらのネブライザーとして、例えばジェット式ネブライザー、超音波式ネブライザー、拍動膜ネブライザー、複数の開口部を有する振動メッシュ又はプレートを備えたネブライザー、並びに振動発生器及び水収容室を含むネブライザー(例.Pari eFlow(登録商標))が挙げられる。本開示における使用に好適な市販のネブライザーとして、Aeroneb(登録商標)、MicroAir(登録商標)、Aeroneb(登録商標)Pro及びAeroneb(登録商標)Go、Aeroneb(登録商標)Solo、Aeroneb(登録商標)Solo/Idehalerの組合せ、Aeroneb(登録商標)Solo又はGo Idehaler-Pocket(登録商標)の組合せ、PARI LC-Plus(登録商標)、PARI LC-Start、PAR1 Sprint(登録商標)、eFlow及びeFlow Rapid(登録商標)、Pari Boy(登録商標)N及びPari Duraneb(登録商標)(PARI, GmbH)、MicroAir(登録商標)(Omron Healthcare, Inc.)、Halolite(登録商標)(Profile Therapeutics Inc.)、Respimat(登録商標)(Boehringer Ingelheim)、Aerodose(登録商標)(Aerogen, Inc, Mountain View, Calif.)、Omron Elite(登録商標)(Omron Healthcare, Inc.)、Omron Microair(登録商標)(Omron Healthcare, Inc.)、Mabismist II(登録商標)(Mabis Healthcare, Inc.)、Lumiscope(登録商標)6610 (The Lumiscope Company, Inc.)、Airsep Mystique(登録商標) (AirSep Corporation)、Acorn-1及びAcorn-II (Vital Signs, Inc.)、Aquatower(登録商標)(Medical Industries America)、Ava-Neb(登録商標)(Hudson Respiratory Care Incorporated)、Cirrus(登録商標)(Intersurgical Incorporated)、Dart(登録商標)(Professional Medical Products)、Devilbiss(登録商標)Pulmo Aide (DeVilbiss Corp.)、Downdraft(登録商標)(Marquest)、Fan Jet(登録商標)(Marquest)、MB-5 (Mefar)、Misty Neb(登録商標)(Baxter)、Salter 8900 (Salter Labs)、Sidestream(登録商標)(Medic-Aid)、Updraft-II(登録商標)(Hudson Respiratory Care)、Whisper Jet(登録商標)(Marquest Medical Products)、Aiolos(登録商標)(Aiolos Medicnnsk Teknik)、Inspiron(登録商標)(Intertech Resources, Inc.)、Optimist(登録商標)(Unomedical Inc.)、Prodomo(登録商標)、Spira(登録商標)(Respiratory Care Center)、AERx(登録商標)及びAERx Essence(商標)(Aradigm)、Respirgard II(登録商標)、Sonik(登録商標)LDI Nebulizer (Evit Labs)、Swirler W Radioaerosol System (AMICI, Inc.)、Maquet SUN 145 ultrasonic、Schill ultrasonic、Omron製のcompare and compare Elite、Monoghan AeroEclipse BAN、Transneb、DeVilbiss 800、AerovectRx、Porta-Neb(登録商標)、Freeway Freedom(商標)、Sidestream、Ventstream及びPhilips, Inc.が製造するI-nebを挙げることができる。限定するものではない例として、米国特許第6,196,219号があり、その全体がこの明細書に組み込まれる。
【0355】
この明細書で記載する、水性吸入薬の送達を行うために好適なこれらの及び他の公知のネブライザーのうちいずれかを、この明細書で説明するさまざまな態様及び方法において使用できる。いくつかの態様では、ネブライザーは例えばPari GmbH (Starnberg, Germany)、DeVilbiss Healthcare (Heston, Middlesex, UK)、Healthdyne、Vital Signs、Baxter、Allied Health Care、Invacare、Hudson、Omron、Bremed、AirSep、Luminscope、Medisana、Siemens、Aerogen、Mountain Medical、Aerosol Medical Ltd. (Colchester, Essex, UK)、AFP Medical (Rugby, Warwickshire, UK)、Bard Ltd. (Sunderland, UK)、Carri-Med. Ltd. (Dorking, UK)、Plaem Nuiva (Brescia, Italy)、Henleys Medical Supplies (London, UK)、Intersurgical (Berkshire, UK)、Lifecare Hospital Supplies (Leies, UK)、Medic-Aid Ltd. (West Sussex, UK)、Medix Ltd. (Essex, UK)、Sinclair Medical Ltd. (Surrey, UK)その他から入手可能である。
【0356】
この明細書に記載の方法及びシステムにおける使用に好適な他のネブライザーとして、ジェット式ネブライザー(任意に圧縮機と共に販売される)、超音波式ネブライザーなどを挙げることができるがそれらには限定されない。この出願での使用する代表的なジェット式ネブライザーとして、Pari LC plus/ProNeb、Pari LC plus/ProNeb Turbo、Pari LCPlus/Dura Neb 1000 & 2000 Pari LC plus/Walkhaler、Pari LC plus/Pari Master、Pari LC star、Omron CompAir XL Portable Nebulizer System(NE-C18 and JetAir Disposable nebulizer)、Omron compare Elite Compressor Nebulizer System(NE-C21 and Elite Air Reusable Nebulizer)、Pari LC Plus or Pari LC Star nebulizer with Proneb Ultra compressor、Pulomo-aide、Pulmo-aide LT、Pulmo-aide traveler、Invacare Passport、Inspiration Healthdyne 626、Pulmo-Neb Traveler、DeVilbiss 646、Whisper Jet、AcornII、Misty-Neb、Allied aerosol、Schuco Home Care、Lexan Plasic Pocet Neb、SideStream Hand Held Neb、Mobil Mist、Up-Draft、Up-DraftII、T Up-Draft、ISO-NEB、Ava-Neb、Micro Mist及びPulmoMateを挙げることができる。
【0357】
この明細書で記載すれる医薬の送達を行うために好適である代表的な超音波式ネブライザーとして、MicroAir、UltraAir、Siemens Ultra Nebulizer 145、CompAir、Pulmosonic、Scout、5003 Ultrasonic Neb、5110 Ultrasonic Neb、5004 Desk Ultrasonic Nebulizer、Mystique Ultrasonic、Lumiscope's Ultrasonic Nebulizer、Medisana Ultrasonic Nebulizer、Microstat Ultrasonic Nebulizer及びMabismist Hand Held Ultrasonic Nebulizerを挙げることができる。この出願で使用する他のネブライザーとして、5000 Electromagnetic Neb、5001 Electromagnetic Neb 5002 Rotary Piston Neb、Lumineb I Piston Nebulizer 5500、Aeroneb Portable Nebulizer System、Aerodose Inhaler及びAeroEclipse Breath Actuated Nebulizerがある。複数の開口部を有する振動メッシュ又はプレートを備えた代表的なネブライザーはR. Dhand in New Nebulizer Technology - Aerosol Generation by Using a Vibrating Mesh or Plate with Multiple Apertures, Long-Term Healthcare Strategies 2003, (July 2003), p. 1-4 and Respiratory Care, 47: 1406-1416 (2002)に記載されており、それらの開示の全体が、参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0358】
この明細書に記載する本開示における使用に好適な更なるネブライザーとして、振動発生器及び水収容室を含むネブライザーが挙げられる。これらのネブライザーは例えばPari eFlowとして市販されており、米国特許第6,962,151号、同第5,518,179号、同第5,261,601号及び同第5,152,456号(これらは特に参照によってこの明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0359】
振動メッシュ式ネブライザーを使用するエアロゾル化ミスト送達の技術、プロトコル及び特徴付けに関する記述を含む、ネブライザーを使用する製剤送達のための組成物及び方法に関する代表的な開示は、例えば米国特許出願公開第2006/0276483号に見ることができる。
【0360】
ある態様では、ジェット式ネブライザーが選択される。
【0361】
ある態様では、超音波式ネブライザーが選択される。
【0362】
ある態様では、振動メッシュ式ネブライザーが選択される。
【0363】
ある態様では、ALK5阻害剤化合物のエアロゾルを送達するために振動メッシュ式ネブライザーが使用される。振動メッシュ式ネブライザーは、隔膜並びに吸入弁及び呼出弁と流体接触している液体保管容器を含む。ある態様では、約1~約6mlのALK5阻害剤の製剤が保管容器に入れられ、エアロゾル発生器が係合されることで約1~約5ミクロンの粒径の微粒化エアロゾルが選択的に生成される。ある態様では、約1~約10mLのALK5阻害剤の製剤が保管容器に入れられ、エアロゾル発生器が係合されることで約1~約5ミクロンの粒径の微粒化エアロゾルが選択的に生成される。ある態様では、投与される用量のサイズを増加させるために、保管容器及びエアロゾル発生器に最初に入れられたALK5阻害剤の製剤のほぼ全量が置きかえられる。
【0364】
ある態様では、高効率液体ネブライザーが選択される。
【0365】
いくつかの態様では、高効率液体ネブライザーは、哺乳動物に投与されるALK5阻害剤化合物の名目用量に対して約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%又は約85%の肺沈着を実現する。
【0366】
いくつかの態様では、高効率液体ネブライザーは、高効率液体ネブライザーによって投与される溶液の放出液滴径分布に関して約1.0μm~約2.5μm、約1.2μm~約2.5μm、約1.3μm~約2.0μm、少なくとも約1.4μm~約1.9μm、少なくとも約1.5μm~約1.9μm、約1.5μm、約1.7μm又は約1.9μmの幾何標準偏差(GSD)を生じさせる。
【0367】
いくつかの態様では、高効率液体ネブライザーは、高効率液体ネブライザーによって放出される溶液の液滴径に関して約1μm~約5μm、約2~約4μm又は約2.5~約4.0μmの空気力学的質量中央径(MMAD)を生じさせる。いくつかの態様では、高効率液体ネブライザーは1μm~約5μm、約2~約4μm又は約2.5~約4.0μmの体積平均径(VMD)を生じさせる。いくつかの態様では、高効率液体ネブライザーは約1μm~約5μm、約2~約4μm又は約2.5~約4.0μmの質量中央径(MMD)を生じさせる。
【0368】
いくつかの態様では、高効率液体ネブライザーは、高効率ネブライザーから放出される液滴に関して約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%又は約90%の微小粒子画分(FPF=%≦5ミクロン)を生じさせる。
【0369】
いくつかの態様では、高効率液体ネブライザーは少なくとも0.1mL/分、少なくとも0.2mL/分、少なくとも0.3mL/分、少なくとも0.4mL/分、少なくとも0.5mL/分、少なくとも0.6mL/分、少なくとも0.8mL/分又は少なくとも1.0mL/分の出力速度を生じさせる。
【0370】
いくつかの態様では、高効率液体ネブライザー(vi)は充填体積の約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%又は約80%を哺乳動物に送達する。
【0371】
いくつかの態様では、高効率液体ネブライザーは約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%又は約85%のRDDを生じさせる。
【0372】
穿孔膜を有する高効率液体ネブライザーの更なる特徴は米国特許第6,962,151号、同第5,152,456号、同第5,261,601号及び同第5,518,179号、米国特許第6,983,747号(これらは参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に開示されている。高効率液体ネブライザーの他の態様は発振膜を有する。高効率液体ネブライザーの特徴は、米国特許第7,252,085号、同第7,059,320号、同第6,983,747号(これらは参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0373】
商業的な高効率液体ネブライザーは、eFlow(登録商標)(PAR1 (Germany))、AeroNeb(登録商標)Go、AeroNeb(登録商標)Pro及びAeroNeb(登録商標)Solo(Nektar Therapeutics (San Carlos, Calif.))、1-Neb(登録商標)(Respironics (Murrysville, Calif.))、Micro-Air(登録商標)(Omron (Bannockburn, Ill.))、Akita(登録商標)(Activaero (Germany))、OnQ(登録商標)ネブライザー(Aerogen (Galaway, Ireland))並びにAirlife(登録商標)Sidestream(Carefusion (San Diego, Calif.))である。
【0374】
ある態様では、定量吸入器が選択される。
【0375】
いくつかの態様では、定量吸入器中の原薬の粒径を最適に選択できる。いくつかの態様では、有効成分の粒子の粒径は約50ミクロン未満である。いくつかの態様では、粒子の粒径は約10ミクロン未満である。いくつかの態様では、粒子の粒径は約1ミクロン~約5ミクロンである。いくつかの態様では、粒子の粒径は約1ミクロン未満である。1つの有利な態様では、粒子の粒径は約2ミクロン~約5ミクロンである。
【0376】
非限定的な例として、定量吸入器においては、この明細書で開示するALK5阻害剤化合物は定量吸入器の要件に適合した製剤から剤形として調製される。この明細書で開示するALK5阻害剤化合物は、噴射剤に可溶性である可能性があり、噴射剤プラス共溶媒(非限定的な例としてエタノール)に可溶性である可能性があり、噴射剤プラス溶解性の増加を促進する追加の部分(非限定的な例としてグリセロール又はリン脂質)に可溶性である可能性があり、あるいは安定な懸濁液又は微粉化懸濁液、噴霧乾燥懸濁液、若しくはナノ懸濁液として存在する可能性がある。
【0377】
非限定的な例として、定量ALK5阻害剤化合物を上記の呼吸に適した送達量で10回以下の吸息呼吸、8回以下の吸息呼吸、6回以下の吸息呼吸、4回以下の吸息呼吸又は2回以下の吸息呼吸により投与できる。
【0378】
定量吸入器で使用する噴射剤は、当技術分野において公知の噴射剤の可能性がある。噴射剤の例として、クロロフルオロカーボン(CFC)、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン及びジクロロテトラフルオロエタン;ヒドロフルオロアルカン(HFA);並びに二酸化炭素が挙げられる。CFCの使用に伴う環境上の懸念事項のため、CFCの代わりにHFAを使用することが有利となる可能性がある。HFAを含有する薬用エアロゾル製剤の例は、米国特許第6,585,958号、同第2,868,691号及び同第3,014,844号(これらは全て、参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に示されている。いくつかの態様では、原薬の溶解又は懸濁を促進するために、共溶媒が噴射剤と混合される。
【0379】
いくつかの態様では、例えば米国特許第4,534,345号(参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、噴射剤及び有効成分は別々の容器に収容される。
【0380】
いくつかの態様では、本明細書で使用される定量吸入器は、患者がレバー、ボタン又は他のアクチュエータを押すことで起動される。他の態様では、例えば米国特許第6,672,304号、同第5,404,871号、同第5,347,998号、同第5,284,133号、同第5,217,004号、同第5,119,806号、同第5,060,643号、同第4,664,107号、同第4,648,393号、同第3,789,843号、同第3,732,864号、同第3,636,949号、同第3,598,294号、同第3,565,070号、同第3,456,646号、同第3,456,645号及び同第3,456,644号(これらは参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、エアロゾルの放出が呼吸駆動され、したがって、ユニットを最初に作動状態にした後で、患者が吸入し始めたときに有効化合物のエアロゾルが放出される。このシステムによって、より多くの有効化合物が患者の肺に入ることが可能になる。例えば米国特許第4,470,412号及び同第5,385,140号(両者とも参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、有効成分を伴う十分な投与量を患者が得ることに役立つ別の機構は、患者が2回以上の呼吸を使用して薬剤を吸入することを可能にする弁機構を含んでいてもよい。
【0381】
当技術分野において公知であって、この出願での使用に好適な定量吸入器の更なる例として、米国特許第6,435,177号、同第6,585,958号、同第5,642,730号、同第6,223,746号、同第4,955,371号、同第5,404,871号、同第5,364,838号及び同第6,523,536号(これらは全て、参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)が挙げられる。
【0382】
ある態様では、乾燥粉末吸入器が選択される。
【0383】
非限定的な例として、乾燥粉末ALK5阻害剤化合物を上記の呼吸に適した送達量で10回以下の吸息呼吸、8回以下の吸息呼吸、6回以下の吸息呼吸、4回以下の吸息呼吸又は2回以下の吸息呼吸により投与できる。
【0384】
いくつかの態様では、この明細書に記載のALK5阻害剤化合物を分配するために乾燥粉末吸入器が使用される。乾燥粉末吸入器は原薬を微小乾燥粒子の形態で収容する。乾燥粒子は、患者による吸入により、通常エアロゾルクラウドを形成し、これが患者の肺内に引き込まれる。微小乾燥薬剤粒子は、当技術分野において公知の方法により生成可能である。いくつかの周知の技術として、ジェットミル若しくは他の粉砕機器の使用、飽和若しくは超飽和溶液からの沈殿、噴霧乾燥、インサイチュー微粉化(Hovione)又は超臨界流体法が挙げられる。代表的な粉末製剤は、球状ペレット又は接着混合物の生成を含む。接着混合物中では、薬剤粒子がより大きな担体粒子、例えば粒径が約50~約100ミクロンのラクトース一水和物に結合している。より大きな担体粒子によって担体/薬剤凝集体に対する空気力学的な力が増加し、これによりエアロゾル形成性が向上する。乱流及び/又は機械的装置によって凝集体が構成要素に分解される。次に、小さな薬剤粒子が肺内に引き込まれ、大きな担体粒子は口内又は喉内に沈着する。接着混合物のいくつかの例は、米国特許第5,478,578号並びに国際公開第95/11666号、同第87/05213号、同第96/23485号及び同第97/03649号(これらは全て、参照によりその全体が組み込まれる)に記載されている。追加の賦形剤が原薬と共に含まれてもよい。
【0385】
3つの一般的種類の乾燥粉末吸入器が存在し、いずれもこの明細書に記載のALK5阻害剤化合物と共に使用可能である。単一用量乾燥粉末吸入器では、1回の用量の乾燥原薬/賦形剤を収容するカプセルが吸入器に充填される。起動時に、カプセルが破られることで、乾燥粉末を分散させ、乾燥粉末吸入器を使用して吸入できる。追加の用量を分配するには、古いカプセルを取り除いて追加のカプセルを充填しなければならない。単一用量乾燥粉末吸入器の例は、米国特許第3,807,400号、同第3,906,950号、同第3,991,761号及び同第4,013,075号(これらは全て、参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載されている。複数単位用量乾燥粉末吸入器では、複数の単一用量区画を収容するパッケージが設けられる。例えば、パッケージは、各ブリスター区画が1回の用量を収容するブリスターパックを含んでいてもよい。各用量はブリスター区画を破ったときに分配されてもよい。パッケージにおける区画の数種類の構成のうちいずれかを使用できる。例えば、ロータリー構成又はストリップ構成が一般的である。複数単位用量乾燥粉末吸入器の例は、欧州特許出願公開第0211595号(A2)、同第0455463号(A1)及び同第0467172号(A1)(これらは全て、参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載されている。複数用量乾燥粉末吸入器では、乾燥粉末の1個のリザーバが使用される。例えば米国特許第5,829,434号、同第5,437,270号、同第2,587,215号、同第5,113,855号、同第5,840,279号、同第4,688,218号、同第4,667,668号、同第5,033,463号並びに同第4,805,811号及び国際公開第92/09322号(これらは全て、参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、エアロゾル化及び吸入されるべき単一用量をリザーバから計り取る機構が設けられる。
【0386】
いくつかの態様では、乾燥粉末吸入器の操作を容易にするために、患者の吸入に加えての又はそれ以外の補助エネルギーを与えてもよい。例えば米国特許第3,906,950号、同第5,113,855号、同第5,388,572号及び同第6,029,662号並びに国際公開第93/12831号、同第90/07351号及び同第99/62495号(これらは全て、参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、例えば、粉末の脱凝集を促進するために加圧空気を与えてもよい。例えば米国特許第3,948,264号、同第3,971,377号、同第4,147,166号及び同第6,006,747号並びに国際公開第98/03217号(これらは全て、参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、電気駆動式インペラを設けてもよい。例えば国際公開第90/13327号(参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、別の機構は電気駆動型タッピングピストンである。例えば米国特許第5,694,920号及び同第6,026,809号(両者とも参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、他の乾燥粉末吸入器は振動子を使用する。最後に、例えば国際公開第93/24165号(参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、スクレーパーシステムを使用してもよい。
【0387】
この出願で使用する乾燥粉末吸入器の更なる例は、米国特許第4,811,731号、同第5,113,855号、同第5,840,279号、同第3,507,277号、同第3,669,113号、同第3,635,219号、同第3,991,761号、同第4,353,365号、同第4,889,144号、同第4,907,538号、同第5,829,434号、同第6,681,768号、同第6,561,186号、同第5,918,594号、同第6,003,512号、同第5,775,320号、同第5,740,794号及び同第6,626,173号(これらは全て、参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0388】
いくつかの態様では、例えば米国特許第4,470,412号、同第4,790,305号、同第4,926,852号、同第5,012,803号、同第5,040,527号、同第5,024,467号、同第5,816,240号、同第5,027,806号及び同第6,026,807号(これらは全て、参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、患者により吸収される原薬の量を増加させるために、スペーサー又は収容室をこの明細書に記載の吸入器のいずれかと共に使用できる。例えば、スペーサーによって、エアロゾル生成からエアロゾルが患者の口に入る時点までの時間を遅延させることができる。この遅延により、患者の吸入とエアロゾル生成との間の同期化を向上させることができる。例えば米国特許第4,809,692号、同第4,832,015号、同第5,012,804号、同第5,427,089号、同第5,645,049号及び同第5,988,160号(これらは全て、参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、伝統的なマウスピースを使用することが困難である乳児又は他の患者のためにマスクを組み込んでもよい。
【0389】
通常、乾燥粉末粒子の脱凝集及びエアロゾル化を包含する乾燥粉末吸入器は、製剤を送達するために、ユニットを経由して引き込まれる吸入空気のバーストに依存する。これらの装置は、例えば、吸引段階及び注入段階を有する空気式粉末排出器に関する米国特許第4,807,814号;軸方向空気流管を有する携帯式粉末分散器が記載されているソ連国特許発明第628930号(要約);ベンチュリ絞り部の上流に軸方向空気送込管を有するベンチュリエダクターが記載されているFox et al., Powder and Bulk Engineering, pages 33-36 (March 1988);折り畳み式膨張室を有する携帯式粉末分散器が記載されている欧州特許出願公開第347 779号;及び薬剤の乾燥粉末送達装置に関する米国特許第5,785,049号に記載されている。
【0390】
この明細書にで記載するALK5阻害剤の製剤と共に使用可能な乾燥粉末吸入器の商業的な例として、Aerolizer、Turohaler、Handihaler及びDiscusが挙げられる。
【0391】
非限定的な例として、霧化ALK5阻害剤化合物は上記の呼吸に適した送達量で約20分未満以内、約15分未満以内、約10分未満以内、約7分未満以内、約5分未満以内、約3分未満以内又は約3分未満以内に投与されてもよい。
【0392】
異なる種類の水性吸入混合物での吸入器の使用を最大化するようにこの明細書で記載する薬剤の送達を行うために、霧化において使用されるパラメータ、例えば流量、メッシュ膜のサイズ、エアロゾル吸入室のサイズ、マスクのサイズ及び材料、弁、並びに電源を適宜変動させることができる。
【0393】
いくつかの態様では、薬剤の溶液が患者によるネブライザーの使用前に形成される。他の態様では、薬剤がネブライザーに懸濁液、溶液などを含んでいてもよい液体形態で保管される。他の態様では、薬剤がネブライザーに固体形態で保管される。この場合、例えば米国特許第6,427,682号及び国際公開第03/035030号(両者とも参照によりその全体がこの明細書に組み込まれる)に記載のように、溶液はネブライザーの起動時に混合される。これらのネブライザーでは、場合によって賦形剤と組み合わせて固体組成物を形成した固体の薬剤は、液体溶媒とは別の区画に保管される。
【0394】
液体溶媒は、エアロゾル化し、吸入してもよい液体組成物を形成するように固体組成物を溶解させる能力がある。この能力は、とりわけ、液体の選択される量及び潜在的には組成の関数である。容易な取り扱い及び再現可能な投与を可能にするために、滅菌水性液体は固体組成物を短時間で、場合によっては緩やかな撹拌下で溶解可能な可能性がある。いくつかの態様では、最終液体は約30秒以内で使用の準備が整う。いくつかの場合では、固体組成物は約20秒以内に、有利には約10秒以内に溶解する。本明細書では「溶解させる(溶解した)」、「溶解させること」及び「溶解」という用語は、固体組成物の分解及び有効化合物の放出、すなわち溶解を意味する。固体組成物を液体溶媒で溶解させる結果、有効化合物が溶解状態で含有される液体組成物が形成される。本明細書では有効化合物は、少なくとも約90重量%が溶解する際に、より好ましくは、少なくとも約95重量%が溶解する際に、溶解状態となる。
【0395】
分離区画型ネブライザーの基礎的設計に関して、水性液体及び固体組成物を同じ容器若しくは一次パッケージの別々の室内に収容するほうが有用であるか又はそれらを別々の容器に入れるべきであるかは、具体的な用途に主に依存する。別々の容器が使用される場合、これらは同じ二次パッケージ内にセットとして設けられる。別々の容器の使用は、2用量以上の有効化合物を収容するネブライザーにおいて特に好ましい。複数用量キットに設けられる容器の総数に制限はない。ある態様では、固体組成物は複数の容器内又は1つの容器の複数の室内に単位用量として入れられ、これに対して、液体溶媒は1つの室内又は容器内に入れられる。この場合、好ましい設計では、分配装置で閉鎖された、例えば液体を定量するための機械式ポンプで閉鎖された、ガラスビン又はプラスチックビンであってもよい定量分配器に、液体が入れられる。例えば、ポンピング機構の1回の作動により、固体組成物の1回の用量を溶解させるための液体の正確な量を分配できる。
【0396】
複数用量分離区画型ネブライザーの別の態様では、固体組成物及び液体溶媒が複数の容器内又は1つの容器の複数の室内に組合せ単位用量として入れられる。例えば、2室容器を使用して、固体組成物の1つの単位を一方の室内に保持し、液体の1つの単位を他方の室内に保持できる。本明細書では1つの単位は、1回分の用量である、固体組成物に存在する薬剤の量によって規定される。しかし、これらの2室容器を、薬剤の1回用量のみを収容するネブライザーに有利に使用することもできる。
【0397】
分離区画型ネブライザーのある態様では、2つのブリスターを有するブリスターパックが使用され、このブリスターは、最終液体組成物の用量単位を調製するための組合せ量で固体組成物及び液体溶媒を収容するための室となる。本明細書ではブリスターパックとは、場合によってはアルミニウムなどの金属箔を含んでもよいポリマー包装材料をほとんどの場合で含む、熱成形又は加圧成形一次包装単位のことを表す。ブリスターパックは、内容物の容易な分配を可能にするように成形されてもよい。例えば、パックの一方の側面は先細り状であるか又は先細り状の部分若しくは領域を有することがあり、ブリスターパックを先細り状の端部において開くときに、そこを経由して内容物が別の容器内に分配されることが可能になる。先細り状の端部は先端部となりうる。
【0398】
いくつかの態様では、ブリスターパックの2つの室はチャネルによって接続され、チャネルは、液体溶媒を収容するブリスターから固体組成物を収容するブリスターに流体を向かわせるように調整されている。保管の間、チャネルはシールで閉鎖されている。この意味で、シールは、液体溶媒が固体組成物に接触することを防止する構造である。シールは、好ましくは破壊可能又は除去可能である。ネブライザーを使用すべきときにシールを破壊又は除去すると、液体溶媒が他方の室に入り込んで固体組成物を溶解させる。ブリスターパックを振盪することで溶解過程を向上させることができる。こうして、吸入用の最終液体組成物が得られ、液体は、どのようにしてパックが保持されるかに応じて、チャネルにより接続されるパックの一方の室に存在することもあれば、両方の室に存在することもある。
【0399】
別の態様によれば、一方の室、好ましくはブリスターパックの先細り状部分に近い方の室が、当該の室から先細り状部分の遠位位置に延伸する第2のチャネルと連通している。保管の間、この第2のチャネルはパックの外側とは連通せず、気密的に閉鎖されている。場合によっては、第2のチャネルの遠位端は、例えばツイストオフキャップ、ブレークオフキャップ又はカットオフキャップであってもよい破壊可能又は除去可能なキャップ又は閉鎖部により閉鎖されていてもよい。
【0400】
ある態様では、2つの区画を有するバイアル又は容器が使用され、この区画は、最終液体組成物の用量単位を調製するための組合せ量で固体組成物及び液体溶媒を収容するための室となる。液体組成物及び第2の液体溶媒は、最終液体組成物の用量単位を調製するための組合せ量で収容されてもよい(非限定的な例として、2種の可溶性賦形剤又はALK5阻害剤化合物及び賦形剤が保管において不安定であるが、投与のために同じ混合物中にあることが望まれる場合)。
【0401】
いくつかの態様では、例えば、バイアル又は容器がチャネル又は破壊可能なバリアにより接続されていて、チャネル又は破壊可能なバリアが流体を2つの区画の間に向かわせることで投与前の混合を可能にするように調整されている場合、2つの区画は物理的に分離されているが流体連通している。保管の間、チャネルはシールで閉鎖されており又は破壊可能なバリアは無損傷である。この意味で、シールは、2つの区画の内容物の混合を防止する構造である。シールは、好ましくは破壊可能又は除去可能である。ネブライザーを使用すべきときにシールを破壊又は除去すると、液体溶媒が他方の室に入り込んで固体組成物を溶解させるか又は2種の液体の場合は混合が可能になる。容器を振盪することで溶解過程又は混合過程を向上させることができる。こうして、吸入用の最終液体組成物が得られ、液体は、どのようにしてパックが保持されるかに応じて、チャネル又は破壊可能なバリアにより接続されるパックの一方の室に存在することもあれば、両方の室に存在することもある。
【0402】
固体組成物それ自体を、薬剤の物理化学特性、所望の溶解速度、コスト上の考慮事項及び他の判断基準に応じて、さまざまな種類の剤形で提供できる。1つの態様では、固体組成物は1つのまとまりである。このことは、薬剤の1回分の用量が1つの物理的に成形された固体形態又は物品に含まれることを意味している。言い換えれば、固体組成物はまとまっていて、これは、複数回投与の剤形とは対照的である。
【0403】
固体組成物の剤形として使用可能な1つのまとまりの例として、錠剤、例えば圧縮錠剤、フィルム状の単位、ホイル状の単位、カシェ剤、凍結乾燥マトリックス単位などが挙げられる。好ましい態様では、固体組成物は高多孔性凍結乾燥形態である。場合によってはカシェ剤又は凍結乾燥錠剤とも呼ばれる、これらの凍結乾燥物は、有効化合物の急速な分解に特に有用である。
【0404】
他方で、いくつかの用途では、固体組成物はこれまでに説明した複数単位剤形として形成してもよい。複数単位の例として、粉末、顆粒、微粒子、ペレット、ビーズ、凍結乾燥粉末などがある。ある態様では、固体組成物は凍結乾燥粉末である。この分散凍結乾燥系は多数の粉末粒子を含むもので、粉末の形成において使用される凍結乾燥工程のため、各粒子は不規則で多孔質の微小構造を有しており、この微小構造のため粉末は水を非常に速やかに吸収し、速やかに溶解する。
【0405】
急速な薬剤の溶解を実現する別の種類の多粒子系は、薬剤が個々の粒子の外側に位置するように当該薬剤でコーティングされた、水溶性賦形剤由来の粉末、顆粒又はペレットの系である。この種の系では、水溶性低分子量賦形剤はこれらコーティング粒子のコアを調製するために有用である。続いてコアを、薬剤及び好ましくは1種以上の追加の賦形剤、例えば結合剤、孔形成剤、糖、糖アルコール、フィルム形成ポリマー、可塑剤又は薬学的コーティング組成物で使用する他の賦形剤を含む、コーティング組成物でコーティングできる。
【0406】
別の態様では、固体組成物は、不溶性材料でできた複数の単位上にコーティングされたコーティング層に似ている。不溶性単位の例として、ガラス、ポリマー、金属及び無機塩でできたビーズが挙げられる。所望の効果は主にコーティング層の急速な分解及び薬剤の速やかな溶解で、この効果は、特に高い表面対体積比を示す物理的形態で固体組成物を提供することで実現される。コーティング組成物は、通常、薬剤及び水溶性低分子量賦形剤に加えて、1種以上の賦形剤、例えば、コーティング可溶性粒子について先に言及した賦形剤又は薬学的コーティング組成物中で有用であることが知られている他の賦形剤を含む。
【0407】
所望の効果を実現するには、2種以上の水溶性低分子量賦形剤を固体組成物に組み込むことが有益な可能性がある。例えば、1種の賦形剤を薬剤の担体及び希釈剤としてのその能力のために選択でき、一方、別の賦形剤を、pHを調整するために選択できる。最終液体組成物を緩衝させる必要がある場合、一緒に緩衝系を形成する2種の賦形剤を選択できる。
【0408】
ある態様では、分離区画型ネブライザーで使用すべき液体は、その主成分が水である液体として明細書で定義する水性液体である。この液体は、必ずしも水のみからなるわけではないが、ある態様では精製水である。別の態様では、この液体は他の成分又は物質、好ましくは他の液体成分を含むが、場合によっては溶解固体も含む。有益な可能性がある水以外の液体成分として、プロピレングリコール、グリセロール及びポリエチレングリコールが挙げられる。固体化合物を溶質として組み込むことの理由の1つは、この化合物が最終液体組成物において望ましいものの、固体組成物又はその成分、例えば有効成分と相溶性ではないためである。
【0409】
液体溶媒の別の望ましい特性は、それが無菌であるということである。無菌性を確保するための対策が取られない場合には、水性液体は相当な微生物の混入及び増殖の危険にさらされる。実質的に無菌の液体を得るためには、有効量の許容される抗菌剤又は防腐剤を組み込んでもよく、液体を滅菌してから収容し、気密シールで密封してもよい。ある態様では、液体は、防腐剤を含まない滅菌液体であり、適切な気密容器に入れられる。しかし、ネブライザーが複数用量の有効化合物を収容する別の態様によれば、液体は複数用量容器、例えば定量分配器に供給されることがあり、また、初回使用後の微生物混入を防止するために防腐剤を必要とすることがある。
【0410】
特定の化合物及び緩和すべき状態の重症度に応じて濃度及び投与量値が変動することもあることに留意すべきである。さらに、特定の患者について特定の投与レジメンを個人の必要及び組成物を投与する者又は組成物の投与を監督する者の専門的判断に従って経時的に調節すべきであること、並びに、この明細書で開示する濃度範囲が代表的なものに過ぎず、特許請求する組成物の範囲又は実施を制限するようには意図されていないことを理解すべきである。
【0411】
この明細書ではキットも提供する。キットは、通常、この明細書に記載する1種以上の化合物又は組成物を含む。特定の態様では、キットは、1種以上の送達系、例えばこの明細書で提供する化合物を送達又は投与するための送達系及びキットの使用に関する説明書(例.患者を処置するための説明書)を含んでいてもよい。別の態様では、キットは、この明細書に記載する化合物又は組成物及び間質性肺疾患(ILD)を有する患者に内容物を投与すべきであることを示すラベルを含んでいてもよい。別の態様では、キットは、この明細書に記載する化合物又は組成物及び特発性肺線維症(IPF)、家族性肺線維症(FPF)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、特発性器質化肺炎(COP)、リンパ球性間質性肺炎(LIP)、呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患(RB-ILD)、剥離性間質性肺炎(DIP)、通常型間質性肺炎(UIP)、巨細胞性間質性肺炎(GIP)、過敏性肺炎、じん肺、急性間質性肺炎(AIP)のうち1種以上を有する患者に内容物を投与すべきであることを示すラベルを含んでいてもよい。別の態様では、キットは、この明細書に記載する化合物又は組成物及び嚢胞性線維症の患者に内容物を投与すべきであることを示すラベルを含んでいてもよい。
【0412】
処置方法
この明細書に記載の化合物及び組成物を、抗線維症剤として使用できる。さらに、化合物を1種以上のアクチビン受容体様キナーゼ(ALK)の阻害剤として使用できる。ALKは、線維芽細胞、免疫細胞、幹細胞、内皮細胞、壁細胞及び腫瘍細胞を含む、広範な細胞系における異なる生理学的プロセス及び病理学的プロセスに関与するTGF-βスーパーファミリーの一種である。したがって、この明細書に記載の化合物及び組成物を、TGF-β媒介状態の緩和に使用することもできる。TGF-β媒介状態の例として、全ての種類の線維性肺疾患及び肺がんが挙げられる。ある態様では、TGF-β媒介状態は特発性肺線維症である。TGF-β誘発病態の別の例は嚢胞性線維症である。
【0413】
いくつかの態様では、障害又は疾患は肺疾患である。
【0414】
いくつかの態様では、本開示は、間質性肺疾患(ILD)における線維症を処置又は改善する方法を提供する。
【0415】
いくつかの態様では、間質性肺疾患(ILD)は特発性肺線維症(IPF)、特発性間質性肺炎(IIP)、強皮症関連間質性肺疾患(SSc-ILD)、サルコイドーシス、閉塞性細気管支炎、ランゲルハンス細胞組織球症(好酸球性肉芽腫又は組織球症Xとも呼ばれる)、慢性好酸球性肺炎、膠原病、肉芽腫性血管炎、グッドパスチャー症候群又は肺胞蛋白症(PAP)からなる群から選択される。
【0416】
いくつかの態様では、本開示は、肺線維症の一形態及び間質性肺疾患(ILD)のサブグループである特発性間質性肺炎(IIP)を処置又は改善する方法を提供する。
【0417】
いくつかの態様では、特発性間質性肺炎(IIP)は特発性肺線維症(IPF)、家族性肺線維症(FPF)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、特発性器質化肺炎(COP)、リンパ球性間質性肺炎(LIP)、呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患(RB-ILD)、剥離性間質性肺炎(DIP)、通常型間質性肺炎(UIP)、巨細胞性間質性肺炎(GIP)、過敏性肺炎(外因性アレルギー性肺胞炎とも呼ばれる)、じん肺(職業性間質性肺疾患とも呼ばれる)、ハンマン・リッチ症候群とも呼ばれる急性間質性肺炎(AIP)からなる群から選択される。
【0418】
いくつかの態様では、本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、輸血関連急性肺損傷(TRALI)及び急性間質性肺炎(AIP)に見られるびまん性肺胞損傷を処置又は改善する方法を提供する。
【0419】
いくつかの態様では、本開示は、結合組織疾患及び自己免疫疾患に関連する線維症を処置又は改善する方法を提供する。
【0420】
いくつかの態様では、本開示は、薬物誘発性肺線維症を処置又は改善する方法を提供する。いくつかの態様では、薬物誘発性肺線維症は抗生物質(例.ニトロフラントイン(マクロビッド(Macrobid))及びスルファサラジン(アザルフィジン(登録商標)))、免疫抑制薬(例.メトトレキサート)、心臓病用薬(例えばアミオダロン(ネクステロン(Nexterone)))、がん化学療法薬(例.シクロホスファミド)又はがん若しくは免疫障害に処置に使用する生物学的薬剤(例.アダリムマブ(ヒュミラ(登録商標))若しくはエタネルセプト(エンブレル(登録商標)))により引き起こされる。
【0421】
いくつかの態様では、本開示は、サルコイドーシスを処置又は改善する方法を提供する。いくつかの態様では、サルコイドーシスは環状サルコイドーシス、紅皮症型サルコイドーシス、魚鱗癬様サルコイドーシス、低色素性サルコイドーシス、レフグレン症候群、凍瘡性狼瘡、モルフェア型サルコイドーシス、粘膜サルコイドーシス、神経サルコイドーシス、丘疹性サルコイド、瘢痕サルコイド、皮下サルコイドーシス、全身性サルコイドーシス及び潰瘍性サルコイドーシスからなる群から選択されてもよい。
【0422】
いくつかの態様では、本開示は、自己免疫疾患(例.関節リウマチ、シェーグレン症候群、エリテマトーデス(ループスとしても知られる)、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎又は血管炎)により引き起こされる肺線維症を処置又は改善する方法を提供する。
【0423】
いくつかの態様では、本開示は、感染症(例.細菌感染症又はウイルス感染症(例.C型肝炎、アデノウイルス、ヘルペスウイルス及び他のウイルス))により引き起こされる肺線維症を処置又は改善する方法を提供する。
【0424】
いくつかの態様では、本開示は、環境曝露(例.アスベスト繊維、粗粒ダスト、シリカダスト、特定のガス、喫煙又は放射線)により引き起こされる肺線維症を処置又は改善する方法を提供する。
【0425】
いくつかの態様では、本開示は、細気管支炎(小気道(細気管支)の炎症)、肺胞炎(気嚢(肺胞)の炎症)、血管炎(小血管(毛細血管)の炎症)により引き起こされる肺線維症を処置又は改善する方法を提供する。
【0426】
いくつかの態様では、本開示は、嚢胞性線維症を処置する方法を提供する。
【0427】
いくつかの態様では、障害又は疾患は肺線維症である。
【0428】
いくつかの態様では、障害又は疾患は特発性肺線維症(IPF)である。
【0429】
いくつかの態様では、患者は哺乳動物である。
【0430】
いくつかの態様では、哺乳動物はヒトである。
【0431】
いくつかの態様では、障害又は疾患は線維性障害であり、線維性障害は皮膚線維症;強皮症;進行性全身性線維症;肺(lung)線維症;筋線維症;腎(kidney)線維症;糸球体硬化症;糸球体腎炎;肥厚性瘢痕形成;子宮線維症;腎(renal)線維症;肝硬変、肝線維症;癒着;慢性閉塞性肺疾患;心筋梗塞後の線維症;肺(pulmonary)線維症;びまん性/間質性肺疾患に関連する線維症及び瘢痕化;中枢神経系線維症;増殖性硝子体網膜症(PVR)に関連する線維症;再狭窄;子宮内膜症;虚血性疾患;並びに放射線線維症からなる群から選択される。
【0432】
本発明の1つの態様では、方法は、本発明の化合物又は医薬組成物によって、COVID感染症であるか又はそれに関連する肺疾患を有する患者を処置すること、例えば肺線維症にり患しているか、肺線維症を発症する危険性があるCOVID患者を処置することを含む。
【実施例
【0433】
実施例1 ALK5キナーゼ阻害のin vitroスクリーニング
ALK5キナーゼのアッセイ方法は当該技術分野で知られている(Molecular Pharmacology (2002), 62(1), 58-64)。ALK5自己リン酸化活性の阻害及びα-カゼインのALK5リン酸化の阻害について、代表的な化合物を以下のように試験する。
【0434】
以下で説明するALK5キナーゼ活性のアッセイ手順を使用して代表的な化合物をスクリーニングする。
【0435】
96ウェルフィルターボトムプレート(Millipore, #MSDV N6B 50)の各ウェルに、アッセイバッファー58μLを加える。冷ATPミックス10μLをアッセイバッファーに加えた後、α-カゼインストックの1:10希釈液10μLを加える。次に、最終濃度50倍で試験化合物(DMSO)2μLを加える。熱ATPミックス(10μL)を加え、0.05%BSA(ウシ血清アルブミン)が添加されたアッセイバッファーで1:350に希釈したALK5タンパク質(最終濃度2nM)10μLを加えて反応を開始する。反応液を室温で5分間混合した後、室温で145分間続ける。氷冷20%TCA(トリクロロ酢酸)100μLを加えて反応を停止させる。アッセイ液を4℃で少なくとも1時間インキュベートした後、各ウェルの内容物を、フィルターを使用して吸引濾過する。ウェルを氷冷10%TCA 200μLで3回洗浄する。プラスチックのサブベースを取り外す前及び取り外した後にプレート下部をブロッティングし、室温で終夜乾燥させる。シンチレーション液30μLを加え、Wallac Tri-Luxシンチレーションカウンターで1つのウェルにつき1分間カウントする。
【0436】
以下の表2で報告するIC50(nM)値は、1回以上の実験において確定した2つ以上のIC50値の平均値である。
【0437】
表9に、この明細書で提供する式Iで表される代表的な化合物の活性を示す。
【0438】
【表9】
【0439】
実施例2 ALK5阻害のヒト細胞アッセイ
コラーゲン(1A2)発現の阻害を評価するアッセイ方法は当該技術分野で知られている(BMC Pulmonary Medicine (2018), 18(63), 1-13)。コラーゲン(1A2)発現の阻害について、代表的な化合物を以下のように試験する。
【0440】
培養ヒト線維芽細胞の刺激: ヒト肺初代線維芽細胞株及びA549細胞株を6ウェルプレート(Nunc Thermo Scientific)において10%FBSが添加された適切な培地中で培養する。細胞が80%コンフルエンスに達した後、培地を2%FBSに変更する。一連の範囲(例.10、25、50、100、250及び500nM)の試験化合物(DMSO)の存在下で、細胞を活性化TGF-β(5ng/mL)(R&D Systems Minneapolis, MN, USA)で刺激する。インキュベーション後、細胞及び上清を収集し、遠心分離し、更なる分析のために凍結させた。
【0441】
RNA抽出及びリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR): その後、Qiagen RNeasy Mini Kit(Qiagen, Valencia, CA, USA)を製造者が勧める方法で、全RNAを培養細胞から単離する。試料をDNアーゼI(Qiagen)で消化して混入ゲノムDNAを除去する。各試料のRNAの濃度及び純度を、UV分光光度法を使用して測定した。iScript cDNA合成キット(Bio Rad)をオリゴデオキシチミジン及びランダム六量体プライマーと共に使用して合計1μgのRNAを逆転写した。逆転写反応は総量20μLで従来型のサーマルサイクラー(Bio-Rad)中、25℃で5分間、続いて42℃で30分間、85℃で5分間進行した。SYBR Green PCRマスターミックス及び配列特異的プライマー(Sigma)を使用して、接着カバー付きの384ウェル光学反応プレート(ABI Prism(商標)Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)に反応量20μLを入れた。同じ試料から増幅されたグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GADPH)のmRNAを内部対照として使用した。試料を95℃で10分間加熱した後、ABI Prism 7900(Applied Biosystems)を使用して、95℃で15秒と60℃で1分のサイクルを40回行い、PCR増幅した。比較CT法(ΔΔCt法)を使用して対応するハウスキーピング遺伝子(β-アクチン、GADPH、HPRT及びRNA18s)の閾値サイクル(Ct)値を減算することで、各標的遺伝子の相対発現を正規化した。
【0442】
表10に、この明細書で提供する式Iで表される代表的な化合物の活性を示す。
【0443】
【表10】
【0444】
実施例3 ヒト肝ミクロソームにおける固有クリアランス
ヒト肝ミクロソーム(HLM)における固有クリアランス(CLINT)を評価するアッセイ方法は当該技術分野で知られている(Drug Metab. Dispos., (2005), 33(9), 1304-1311 BMC Pulmonary Medicine (2018), 18(63), 1-13)。ヒト肝ミクロソーム(HLM)における固有クリアランス(CLINT)について、代表的な化合物を以下のように試験する。
【0445】
2mM NADPH(Sigma-Aldrich, St. Louis, Mo.)を補充した、pH7.4に緩衝された100mMリン酸カリウム(BD Biosciences, Woburn, Mass.)を用いて、5ミクロソームインキュベーション補因子溶液を調製した。試験化合物の10mM DMSOストックを希釈し、補因子溶液に添加して、濃度を0.2μM(0.02%v/v DMSO)とする。凍結ヒト肝ミクロソーム(Bioreclamation IVT, Baltimore Md.)のアリコートを解凍し、100mMリン酸カリウム緩衝液で希釈してミクロソームタンパク質の濃度を0.2mg/mLとする。別途、補因子/薬剤溶液及びミクロソーム溶液を、37℃に保持した水浴中であらかじめ4分間温める。等量の補因子/薬剤溶液とミクロソーム溶液を混合してインキュベーションを開始する(n=1)。試験化合物の最終濃度を0.1μMとし、タンパク質の最終濃度を0.1mg/mLとし、NADPHの最終濃度を1mMとする。試料を0、3、8、15、30及び45分の時点で収集して試験化合物の消失をモニタリングする。各時点で、インキュベーション試料を50μL取り出し、反応停止のために25μLの水+3%ギ酸+内部標準に添加する。次に試料をLC-MS/MSによる定量化のためにAB Sciex API 4000三連四重極型質量分析計に注入する。移動相Aは0.2%ギ酸が添加されたHPLCグレード水で、移動相Bは0.2%ギ酸が添加された30のHPLCグレードアセトニトリルであり、全ての試料をThermo HyPURITY C18 50×2.1mmカラム(Waltham, Mass.)に注入する。HLM CLINTデータをmL/分/kg単位で得る。
【0446】
表11に、この明細書で提供する式Iで表される代表的の化合物の活性を示す。
【0447】
【表11】
【0448】
実施例4 肺線維症モデルによる有効性の試験
肺線維症を予防し、回復させ、肺機能及び運動能力を向上させるために、化合物3を使用する。Jackson Laboratory(Bar Harbor, ME)から入手した雄C57BL6/Jマウス(7~9週齢)を試験に使用する。硫酸ブレオマイシン(MP Biomedicals, Solon, OH, USA)を0.9%生理食塩水に溶解し、IA-1C液体MicroSprayer(PennCentury, Wyndmoor, PA, USA)に充填する。イソフルラン(100%O中5%)で軽く麻酔したマウスの気管内に、ブレオマイシン(1~5U/kg)50mlを噴霧する。対照動物には0.9%生理食塩水50mlを投与する。試験では、ブレオマイシン投与(2U/kg)の2日後(予防)又は5日後(治療)から、化合物3を適切な量及び頻度で鼻腔内投与する。試験の終わり(ブレオマイシン投与後21日目)まで動物を処置する。
【0449】
肺機能及び運動能力: ブレオマイシン投与後の指定された時点で侵襲的に肺機能を測定する。マウスをペントバルビタールナトリウム(Abbott Labs, IL)2.5mgで麻酔し、気管にカニューレを挿入する。コンピュータ制御型ピストン換気装置(flexiVent, SCIREQ Inc., Montreal, Canada;一回換気量=10ml/kg、呼吸数150呼吸/分、呼気終末陽圧3cmHO)を使用して動物を機械的に換気する。運動能力を試験するために、動物を傾斜5%で速度10m/分のトレッドミルに置き、疲労困憊するまで速度を4分ごとに分速1m増加させる。生理食塩水又はブレオマイシンの投与の2日前と、投与後週1回、すなわち、注入後6日目、12日目及び19日目に、各マウスのベースラインの運動能力を評価する。
【0450】
気管支肺胞洗浄細胞評価: 肺機能測定の直後にマウスを失血させ、気管支肺胞洗浄液(BALF)を収集し、総細胞数及び差分細胞数をカウントする。試料を遠心分離(3006g)し、上清を、サイトカイン及びケモカインについてMSDマルチプレックスキット(Gaithersburg, MD)及びMilliporeイムノアッセイキット(Billerica, MA)を使用して分析するまで保管する。4-ヒドロキシプロリン(HP)の分析のために、BALF試料をアセトニトリルによって1:6の体積比で抽出する。遠心分離後、上清に酢酸(水中0.1%)を1.5:1の体積比で加える。LC/MS/MS分析を行う前に、試料を混合し、遠心分離する。LC/MS/MS分析を選択的反応モニタリング(SRM)付きの勾配HPLCにより行う。定量範囲は40~2,000ng/ml。分析に使用したLC/MS/MSシステムは、Agilent 1200ポンプを接続したエレクトロスプレー源を有するAB-Sciex API4000、Waters 2777オートサンプラー及びAgilent 1100シリーズカラムオーブンであった。クロマトグラフィー分析を、Ascentis Express HILIC(3062.1mm、2.7um)を用いるHILIC HPLCにより行う。SRM遷移はm/z 132~m/z 41とする。
【0451】
組織学的検査: 肺機能を測定した後、(気管支肺胞洗浄に供されていない)肺全体を25cm HO圧下で気管カニューレを使用して10%中性緩衝ホルマリンで膨張させ、ホルマリンに少なくとも24時間浸漬する。パラフィンブロックに加工した後、肺を切片化(5mm)し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色するか又は抗コラーゲンI抗体(ウサギポリクローナル、Genetex Inc., Irvine, CA)で免疫標識して、肺の線維性変化を評価する。各マウスの肺について線維症病理組織学的検査スコアを確定するために、左右の肺の縦断面(気管分岐部のレベル)全体を別々に倍率100倍でスコアリングし、スコアを組み合わせた(総スコア0~8)。グレード判定基準は以下のとおり:グレード0=目に見える線維症なし;グレード1=肺切片全体の5%未満が冒される、大部分が間質性である肺胞中隔線維症の珍しい病巣を伴う、最小限の線維症;グレード2=肺切片全体の5~25%が冒される、線維症による肺胞隔壁の肥厚及び肺胞の何らかの損傷による肺胞腔内での線維沈着を伴う領域への進行による、複数の病巣を特徴とする、軽度の線維症;グレード3=肺切片全体の25~50%が冒される、肺構造の決定的な損傷による、肺胞を消失させる複数の線維症又は1個の癒着した大きな線維症の領域を伴う、中程度の線維症;グレード4=肺切片全体の50~75%が冒される、大きな連続した線維性領域による肺実質の重度の歪みを伴う、顕著な線維症。コラーゲンI IHCの定量化のために、ガラススライドをZeiss Miraxスキャナ(Carl Zeiss Microimaging, Thornwood, NY)を使用して20倍でスキャンし、作成したデジタルスライドをDefiniens Tissue Studioソフトウェア(Definiens, Munich, Germany)で分析した。数値結果を陽性標識面積(コラーゲンI標識面積/実質組織基準面積)の割合として表す。さらに、α-平滑筋アクチン(Thermo Scientific, Freemont, CA)に対する染色を、3段階ビオチン-ストレプトアビジン-HRP検出法及び検出用色素原としてのDAB(3,3-ジアミノベンジジン)を使用して行った。
【0452】
HP含有量の有意な減少、肺における線維症病理組織学的検査スコアの向上及びIHCにより評価されるコラーゲン1の減少によって証明されるように、化合物3はブレオマイシン誘発性肺線維症を予防し、及び/又は回復させる。化合物3の投与による肺線維症の阻害で、肺機能が有意に向上し、運動能力が増加する。
【0453】
実施例5 同系肺がんモデルによる有効性の試験
化合物3は、単独、又は免疫療法剤と組み合わせて投与して、同系肺がんモデルの肺での腫瘍増殖を抑制するために使用できる。6~8週齢のBALB/cマウスを、IACUCガイドラインに準拠するin vivoでの試験に使用する。ホタルルシフェラーゼ発現CT-26マウス結腸がん細胞(luc-CT26, CSC-RR0237, Creative Biogene, Shirley, NY, USA)を、10%ウシ胎仔血清(500105N1DD, Dominique Dutscher)、0.2%グルコース(19002-013, Gibco, Thermo Fisher Scientific, Hampton, NH, USA)、2mM L-グルタミン(X0550, Dominique Dutscher)、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシン(15140155, Gibco, Thermo Fisher Scientific)を補充したダルベッコ変法イーグル培地中、5%CO加湿雰囲気下、37℃で増殖させる。細胞懸濁液をトリプシン-EDTA(11560626, Thermo Fisher Scientific)による酵素処理を行い調製する。Luc-CT26細胞(細胞2×10個/マウス)をBALB/cマウスに静脈注射して、肺における腫瘍増殖が観察されるがんモデルを作成する。CT26細胞の注射後、6日目から、D-ルシフェリンを腹腔内に注射した後にIVISスペクトル画像化システム(Caliper, PerkinElmer)を使用してマウスを週3回(すなわち6日目、8日目、11日目、13日目など)モニタリングする。処置群にわたる平均生体発光強度が2×10p/s/cm/srに到達するとき、マウスを(1)媒体対照、(2)鼻腔内投与する適切な量及び頻度の化合物3、(3)腹腔内投与する適切な量及び頻度の免疫療法剤、例えば抗PD-1抗体、又は(4)化合物3及び免疫療法剤によって、それぞれ適切な量及び頻度で処置する。体重を週2回測定する。生体発光強度(BLI)の統計的に有意な減少が、化合物3のみにより処置された動物の肺において観察され、BLIの減少により測定される効果の増加が、化合物3と免疫療法剤との組合せにより処置された動物において観察される。
【国際調査報告】