(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】コーティング平鋼製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/14 20060101AFI20240409BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240409BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240409BHJP
C22C 22/00 20060101ALI20240409BHJP
C22C 18/00 20060101ALI20240409BHJP
C23C 14/16 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C23C14/14 D
C22C38/00 301B
C22C38/58
C22C22/00
C22C18/00
C23C14/16 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558132
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2022056503
(87)【国際公開番号】W WO2022200099
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】102021107330.8
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514309479
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】THYSSENKRUPP STEEL EUROPE AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァンケ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ビエンホルツ,シュテファン
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA24
4K029BA21
4K029BB02
4K029BB04
(57)【要約】
本発明は、金属被覆でコーティングされ、少なくとも800MPaの引張強度Rmを有する平鋼製品に関し、金属被覆は、気相から堆積された、亜鉛元素及びマンガン元素を含む系からなる。本発明はまた、その製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DIN EN ISO 6892-1:2017に従って決定される引張強度R
mが少なくとも800MPaであり、金属被覆でコーティングされた平鋼製品であって、前記平鋼製品は、その構造中に少なくとも2つの異なる相を含み、前記金属被覆は、亜鉛元素及びマンガン元素を有する系であって、気相から堆積された系、からなることを特徴とする、平鋼製品。
【請求項2】
前記系が、亜鉛-マンガン合金の層を含む、請求項1に記載の平鋼製品。
【請求項3】
前記亜鉛-マンガン合金が、10重量%と90重量%との間の亜鉛含有量、及び、90重量%と10重量%との間のマンガン含有量を有する、請求項2に記載の平鋼製品。
【請求項4】
前記系が、マンガンの層と亜鉛の層とを含む、請求項1に記載の平鋼製品。
【請求項5】
前記マンガンの層が前記平鋼製品上に配置され、前記亜鉛の層が前記マンガンの層上に配置されている、請求項4に記載の平鋼製品。
【請求項6】
前記平鋼製品が熱間圧延又は冷間圧延された製品である、請求項1から5のいずれかに記載の平鋼製品。
【請求項7】
前記平鋼製品が、Fe、及び不可避の製造関連不純物に加えて、重量%で、
C:0.001~0.50%、
Mn:0.10~3.00%、
Si:0.01~2.0%、
Al:0.002~1.5%、
P:~0.020%、
S:~0.020%、
N:~0.020%、
任意選択で、(Ti、Nb、V、Cr、Mo、W、Ca、B、Cu、Ni、Sn、As、Co、O、H)の群からの1つ又は複数の合金元素であって、
Ti:~0.20%、
Nb:~0.20%、
V:~0.20%、
Cr:~2.0%、
Mo:~2.0%、
W:~1.0%、
Ca:~0.050%、
B:~0.10%、
Cu:~1.0%、
Ni:~1.0%、
Sn:~0.050%、
As:~0.020%、
Co:~0.50%、
O:~0.0050%、
H:~0.0010%
である、1つ又は複数の合金元素
からなる、請求項1から6のいずれかに記載の平鋼製品。
【請求項8】
金属被覆でコーティングされ、DIN EN ISO 6892-1:2017に従って決定される引張強度R
mが少なくとも800MPaである平鋼製品を製造するための方法であって、前記平鋼製品は、その構造中に少なくとも2つの異なる相を含み、前記方法は、
熱間圧延又は冷間圧延された平鋼製品を提供する工程と、
前記平鋼製品を金属被覆でコーティングする工程と
を含み、
前記金属被覆は、亜鉛元素及びマンガン元素を有する系からなり、気相から前記平鋼製品上に堆積されることを特徴とする、
方法。
【請求項9】
前記系が、1つの工程で堆積され、前記平鋼製品上に亜鉛-マンガン合金の層を生成する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記堆積が、前記亜鉛-マンガン合金において、亜鉛含有量が10重量%と90重量%との間、及びマンガン含有量が90重量%と10重量%との間で確立されるように制御される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記系が、最初に前記平鋼製品上にマンガンの層を、続いて前記マンガンの層上に亜鉛の層を連続的に堆積させることによる、2つの工程で堆積される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被覆でコーティングされ、少なくとも800MPaの引張強度Rmを有する平鋼製品に関し、また、その製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術からの一般的な知見としては、例えば独国特許出願公開第1621376号明細書に記載されているように、気相から堆積された金属被覆を有する鋼がある。気相から堆積され、熱間成形を意図した同等の金属被覆が、独国特許出願公開第102014004652号明細書及び独国特許出願公開第102018128131号明細書から知られており、熱間成形及び(プレス)硬化によって作製された鋼及び構成要素のそれぞれが、1500MPa以上の最終引張強度を有する。
【0003】
より高強度の多相鋼、特に、焼入れ-分配(quench and partitioning:Q&P)鋼として知られているものでは、亜鉛含有金属被覆を用いると、抵抗スポット溶接(resistance spot welding:RSW)における液体金属脆化(liquid metal embrittlement:LME)に起因して、割れ発生への傾向が増大する。RSW中のLME誘起の割れ発生については、多くの刊行物で取り上げられており、その中の国際公開第2017/234839号及び国際公開第2018/234938号は、RSWと関連したLMEに関するものであり、亜鉛被覆を有する極めて高い強度のQ&P鋼について記載している。これらの刊行物から、さらに、合金元素としてのモリブデン、クロム及びケイ素は、鋼板中でのそれらの量が増加するにつれてLMEを促進することが明らかである。したがって、ここでは、露点の目標制御による方法で酸素分圧が確立されかつ鋼板中への酸素の拡散が焼鈍段階中に促進される雰囲気中で、Q&P構造を確立するための焼鈍が行われ、二酸化ケイ素の形態のケイ素を含む元素の結合を、鋼板の表面近傍領域で引き起こすことにより、鋼板中の亜鉛コーティング下の元素であるケイ素の含有量を減少させることが可能になり、そのためLMEに対する抵抗性を増加させることが、提案されている。これらの刊行物の教示は、亜鉛コーティングQ&P鋼のLMEに対する高レベルの抵抗性を提供することを可能にするために、合金元素のケイ素、クロム及びモリブデンについて、そして、亜鉛被覆の0~100μm下の鋼板領域における対応する構造について、定義された確立を目的としている。亜鉛被覆はまた、気相から堆積されてもよいことが、1つの代替形態により付随的に述べられているだけである。
【0004】
加えて、従来技術から以下のことが知られている。鋼においては、強度が増加すると、亜鉛ベースの被覆と関連してLME感受性が上昇し、そして、割れ発生に起因してRSW中に問題が発生する。それは、RSW中に被覆内の亜鉛が液化し、基材に浸透し、鋼の粒界に堆積し得るためである。その結果、脆性破壊をより受けやすくなり、その後の用途において、負荷下での早期破損につながる可能性がある。
【0005】
溶接電極の接触面積を増加させることによって、又は別に、材料とシート厚さとの組合せを変更することによって、LMEの問題を抑制するためのさらなる手法が知られている(米国特許第9333588号明細書を参照されたい)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第1621376号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102014004652号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第102018128131号明細書
【特許文献4】国際公開第2017/234839号
【特許文献5】国際公開第2018/234938号
【特許文献6】米国特許第9333588号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、先行技術に記載されている手段及び/又は適合の種類の進行中(標準的)プロセスにおいて、対応する手段を講じかつ/又は適合を行う必要なく、RSW中のLME誘起の割れ発生の傾向を減少させることができ、金属被覆と併せて少なくとも800MPaの引張強度Rmを有する平鋼製品を提供し、またその製造のための対応する方法を定めることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本目的は、本発明の第1の態様によれば、請求項1の特徴を有する平鋼製品によって達成される。
【0009】
本発明は、少なくとも800MPaの引張強度Rmを有し、金属被覆でコーティングされた平鋼製品であって、金属被覆は、気相から堆積した(堆積している)亜鉛元素及びマンガン元素を有する系からなる、平鋼製品を提供する。
【0010】
本発明の本質は、金属被覆が、亜鉛元素及びマンガン元素を有する系からなることであり、亜鉛は結果的に陰極腐食制御に寄与し、マンガンは鋼(基材)のLME割れ発生傾向にプラスの影響を及ぼす。これは、金属被覆系にマンガンが存在すると、系の溶融温度を上昇させることができ、結果的にRSW中の系の溶融を減少及び/又は遅延させる可能性があるためである。その結果、脆性破壊に対する感受性を低くすることができる。
【0011】
さらに、驚くべきことに、当該方法の結果として、気相から堆積された金属被覆は、通常、他のコーティング方法、特に電解コーティングの場合、プロセスの結果として生じ金属格子に含まれる可能性のある水素を、提供しないことが観察された。少なくとも800MPa以上の引張強度を有する鋼の場合、含まれる水素により水素誘起脆性破壊が生じるおそれがある。
【0012】
気相からの堆積、例えば、化学気相堆積(chemical vapor deposition:CVD)又は物理気相堆積(physical vapor deposition:PVD)の原理は、従来技術である。PVD法が好ましい。この技術は、電解コーティングによる被覆の付与、又は、ホット・ディップ・コーティングによる被覆の付与と、混同されるべきではない。
【0013】
本発明の平鋼製品は、引張強度Rmが、少なくとも800MPa、より詳細には少なくとも850MPa、好ましくは少なくとも910MPa、より好ましくは少なくとも950MPaである。本発明の平鋼製品の引張強度Rmは、1700MPa以下、より詳細には1600MPa以下、好ましくは1520MPa以下、より好ましくは1490MPa以下である。引張強度Rmは、DIN EN ISO 6892-1:2017に応じた引張試験で決定してもよい。本発明の平鋼製品は、熱間成形用途(硬化を含む)ではなく、もっぱら冷間成形用途に用いられるため、対応する特性は、冷間成形前の平鋼製品に既に存在する。
【0014】
一構成によれば、当該系は、亜鉛-マンガン合金の層を含む。したがって、当該系は、気相から一段階で堆積され、亜鉛-マンガン合金の層が平鋼製品上に生成される。したがって、平鋼製品上の金属被覆は、気相から堆積された亜鉛及びマンガンの単層合金からなる。この場合、堆積は、特に、亜鉛-マンガン合金において、亜鉛含有量が10重量%と90重量%との間、かつマンガン含有量が90重量%と10重量%との間で確立されるように制御される。RSW中のLME割れ発生への傾向を確実に減少させるために、少なくとも10重量%のマンガン含有量が必要であり、その量は、特に少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%であってもよい。逆に、合金(層)中のマンガン含有量を90重量%以下に制限することによって、金属被覆及び系のそれぞれは、少なくとも10重量%、より詳細には少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%の亜鉛により、確実に、陰極腐食を十分に制御する。これは、金属被覆又は系を、平鋼製品上に0.5μmと20μm以下との間、より詳細には15μm以下、好ましくは10μm以下の厚さで気相から付与するからである。系中の亜鉛含有量、又は(比較的薄い)金属被覆中の亜鉛含有量がそれぞれ高いほど、陰極腐食はより制御される。
【0015】
代替的な構成によれば、系は、マンガンの層と亜鉛の層とを有する。したがって、金属被覆は2層であり、亜鉛層及びマンガン層からなり、それぞれは気相から堆積される。当該系は、最初に平鋼製品上にマンガンの層を、続いてマンガンの層上に亜鉛の層を連続的に堆積させることによる、2つの工程で堆積される。したがって、マンガンの層は平鋼製品上に、亜鉛の層はマンガンの層上に配置される。2つの層はそれぞれ、0.5μmと20μm以下との間、より詳細には15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下の厚さで堆積されてもよい。
【0016】
1層系と比較して、2層系には、亜鉛の外層によって完全かつ高品位に陰極腐食を制御し、マンガンの内層によってRSW中の完全な障壁がもたらされるという利点がある。1層系に比べて不利な点は、各層を連続的に堆積させるために、2つの別々の気相段階を経る必要があることである。
【0017】
一構成によれば、平鋼製品は、熱間圧延又は冷間圧延のいずれかが行われてもよい。決定因子は、意図される用途である。熱間圧延された平鋼製品(ホットストリップ)は、1.5mmと10mmとの間の厚さを有してもよい。冷間圧延された平鋼製品(コールドストリップ)は、0.5mmと4mmとの間の厚さを有してもよい。特に、下記に好ましいものとして挙げる化学組成物を用いた溶融物の鋳造から、前駆生成物を得、熱間圧延され得る温度まで前駆生成物を加熱して、平鋼製品へと進行するプロセスは、従来技術である。必要とされる最小引張強度がホットストリップ自体で確立される場合、対応する手順は当業者によく知られている。ホットストリップから、800MPaの最小引張強度を有する冷間圧延平鋼製品を確立することが意図されている場合、ホットストリップを、冷間圧延してコールドストリップを形成する前に、特に最初に酸洗することも従来技術である。その後の焼鈍プロセスにおいて、所望の特性が確立される。本発明の核心は、少なくとも800MPaの引張強度を有する平鋼製品を製造することではなく、むしろ800MPa以上の所定の引張強度クラスの鋼に対して、RSW中にこれらの引張強度クラスの特定のLME感受性を打ち消すことができる適切なコーティング手法を定めることである。
【0018】
平鋼製品の構造は、少なくとも2つの異なる相を含む。したがって、その構造は、フェライト、パーライト、マルテンサイト、ベイナイト、オーステナイト、残留オーステナイト、及び/又はセメンタイトからの少なくとも2つの構成物を含有し、かつ不可避の製造関連構造的構成物も含有する。これらは、例えば、硬質相、例えばマルテンサイトと、軟質相、例えばフェライトとの混合物から構成される構造を有する二相鋼(dual-phase steel:DP鋼)を含む。複合相鋼(complex-phase steel:CP鋼)は、任意選択で析出硬化と併せて、主として、ベイナイト及び/又は(焼戻し)マルテンサイトなどの中程度の硬度の相を含有する。焼入れ-分配(QP鋼)は、主に、マルテンサイト(焼戻しマルテンサイトを含む)及び残留オーステナイトを含有する。代替的又は追加的に、析出物が当該構造の中に存在してもよい。
【0019】
一構成によれば、平鋼製品は、Fe、及び不可避の製造関連不純物に加えて、重量%で、
C:0.001~0.50%、
Mn:0.10~3.0%、
Si:0.01~2.0%、
Al:0.002~1.5%、
P:~0.020%、
S:~0.020%、
N:~0.020%、
任意選択で、(Ti、Nb、V、Cr、Mo、W、Ca、B、Cu、Ni、Sn、As、Co、O、H)の群からの1つ又は複数の合金元素であって、
Ti:~0.20%、
Nb:~0.20%、
V:~0.20%、
Cr:~2.0%、
Mo:~2.0%、
W:~1.0%、
Ca:~0.050%、
B:~0.10%、
Cu:~1.0%、
Ni:~1.0%、
Sn:~0.050%、
As:~0.020%、
Co:~0.50%、
O:~0.0050%、
H:~0.0010%
である、1つ又は複数の合金元素
からなる。
【0020】
本目的は、本発明の第2の態様によれば、請求項8の特徴を有する方法によって達成される。
【0021】
金属被覆でコーティングされ、少なくとも800MPaの引張強度Rmを有する平鋼製品を製造するための方法は、
熱間圧延又は冷間圧延された平鋼製品を提供することと、
前記平鋼製品を金属被覆でコーティングすることと
を含む。
【0022】
本発明によれば、金属被覆は、亜鉛元素及びマンガン元素を有する系からなり、気相から平鋼製品上に堆積される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
RSW溶接箇所を考慮した場合、構成要素の機能に対して割れが有害となる程度についての評価を、正確に行うことはできない。したがって、RSW中の割れを防止すること、又は少なくとも大幅に減少させることが、当該用途のためには非常に重要である。
【0024】
Feと、重量%でC=0.25%、Si=1.5%、Mn=2.2%、Al=0.03%、Cr=0.7%、P=0.005%の不可避の製造関連不純物とからなる溶融物から、前駆生成物を鋳造し、これを最初に平鋼製品に熱間圧延し、続いて1.5mmの厚さに冷間圧延した。冷間圧延平鋼製品にQ&Pプロセスを行って、本質的にマルテンサイト(焼戻しマルテンサイトを含む)/ベイナイト及び9%残留オーステナイト(retained austenite:RA)と、加えて不可避の製造関連構造的構成物とから構成される構造を確立した。このようにして生成した平鋼製品から試料を採取し、各試料を以下の状態にした。
【0025】
-a)コーティングしない状態でおいた。
【0026】
-b)いずれかの面をそれぞれ厚さ7μmの亜鉛コーティング(Z)でホット・ディップ・コーティングし、RAを7%まで低下させた。試料b1)の一部を約630℃で約15秒、追加の加熱処理(ZF)をしたところ、加熱処理/拡散によりRAがさらに3%まで低下した。
【0027】
-c)いずれかの面を厚さ6μmの亜鉛コーティング(ZE)で電解コーティングした。
【0028】
-d)60重量%の亜鉛及び40重量%のマンガンを有する単層系を作製するように堆積を制御して、亜鉛及びマンガンを同時に用い、両面に6μmで、気相による亜鉛-マンガン合金(ZnMn-PVD)の堆積を行った。
【0029】
-e)まず、マンガンの層(Mn-PVD)を用い、気相によって両面に2μmで堆積を行い、続いて、亜鉛の層(Zn-PVD)を用い、気相によって両面に4μmでマンガンの層の上への堆積を行って、Mn-Zn-PVDコーティングを有する2層系を試料上に得た。
【0030】
平鋼製品からさらなる試料を採取し、DIN EN ISO 6892-1:2017による引張試験に供した。1183MPaの引張強度Rmが測定された。平鋼製品及び試料を、記載したそれぞれの金属被覆b)~e)でコーティングした。コーティングは実験室規模で行ったものの、大規模なライン製造のパラメータで行った。
【0031】
LME誘起の割れ発生に関するRSW研究において生じる自然的なばらつきにより、一般に、多数の測定系列において大量の材料を消費する必要があると思われる。LME関連の測定変量の定量性が低いため、RSW研究の内、鋼のLME感受性については、定性的な記述しか確認できない。大規模な材料に関する要件により、実験室用途のための既存レベルまでの試験は不適格であると思われる。このため、実験室規模に適した試験及び最適化の概念を、「LMEグリーブル熱間引張試験」の形態で発展させた。試験は、市販の試験装置Gleeble 3500で行った。使用した処理変量は、割れ形成領域において、RSW中に受けた熱機械的荷重に対応した。使用した引張速度は、10mmの測定長さについて、一定の3mm/sとした。試料の測定領域における実際の歪み値を決定するために、歪みをレーザーによって非接触で測定した。加熱速度を1000K/sとした。温度間隔として、100℃工程において、500℃と900℃との間の亜鉛の液相を使用した。
【0032】
全ての試料a)~e)について、熱間引張試験を行った。試験装置に試料をクランプした後、試験チャンバを閉じ、事前にプログラムされたスクリプトを以下のように実行した。ここでの熱間引張試験中の測定周波数は、少なくとも5000Hzとした。試料を伝導によって加熱し、500℃と900℃との間の上記の温度帯で試料試験温度に達した時に、試料を所定の引張速度で破損するまで引き伸ばした。次いで、収集した測定データを、Origin解析ソフトウェアを使用し、試料の品質について検証した。熱間引張試験の評価ルーチンは、引張試験の規格[DIN EN ISO 6892-1:2017]に準拠した。成功裏に行われた熱間引張試験からの生データを、コンピュータ支援により三次関数に変換した。必要な支持点と、試料の技術的破損の時間とを、ユニットオペレータによって評価用モジュールに入力した。
【0033】
個々の測定データから、機械的特性及び破壊挙動の変化を、温度の関数として取得した。種々の金属被覆の影響の比較性を向上させるために、絶対測定値からいわゆる相対変化曲線を生成した。ここでの変化曲線についての基準変量は、基本的に、コーティングされていない試料a)の測定結果とした。それぞれの金属被覆による変化の大きさを温度の関数として決定し、LME影響の強度の尺度として使用した。
【0034】
Zを有する試料b)について、技術的破壊点における急激な減少率を、全ての試験温度について決定した。特に、技術的破壊点の歪み値は、試料a)と比較して>85%減少した。ZFを有する試料b1)は、500℃及び600℃の試験温度で、技術的破壊点における実質的な変化を示さなかった。この減少は、他の試験温度(700~900℃)について、非常に顕著であった。ZEを有する試料c)によって示された挙動は、試料b)の挙動と同等であった。Zn/Mn合金-PVDを有する試料d)の場合、いずれの試験温度についても技術的破壊点の有意な歪み値は決定されず、試料a)と比較して、技術的破壊点は約<10%低かった。Mn-Zn-PVDを有する試料e)について、結果は、試料d)の場合と同程度の大きさであった。
【0035】
塑性エネルギー吸収能力の変化について見出された結果は、技術的破壊点の変化について見出された結果と同様であった。その結果、試料b)のZによる悪影響が確認された。同様に、試料b1)のZFは、500℃及び600℃の試験温度で、塑性エネルギー吸収能力に対する制限は示されなかった。この減少はまた、ここで、700℃と900℃との間の残りの試験温度についても、非常に顕著であった。試料c)が表す挙動は、試料b)についての挙動と同等であった。試料d)の場合、600℃と800℃との間の試験温度で、塑性エネルギー吸収能力のわずかな減少が明らかであった。残りの試験温度では、金属被覆の影響は実質的に示されなかった。試料e)についても、試料d)と同程度の大きさであった。
【0036】
破断時収縮の変化も同様に、技術的破壊点及び塑性エネルギー吸収能力の変化と、同様の結果を示した。破断時収縮を考慮した場合、技術的試料破損及び塑性エネルギー吸収能力とは異なり、破断時収縮は、局所的測定変量であることに留意されたい。
【0037】
その結果、全ての試験温度で一貫して、脆性破壊面が原因の破断時収縮に対し、試料b)のZによる悪影響が確認された。試料b1)のZFの場合、500℃及び600℃の試験温度で、破断時収縮に対する制限はなかった。しかし、700℃の試験温度を超えると、破壊面での激しい脆性破壊挙動が検出された。ここでも、ZEを有する試料c)は、試料b)と同様の挙動を示した。Zn/Mn-PVDを有する試料d)の場合、破断時収縮のわずかな減少が、800℃の試験温度で明らかであった。600℃、800℃及び900℃の試験温度では、実際の破壊面の後方に割れが検出された。Mn-Zn-PVDを有する試料e)が表す結果は、試料d)についての結果と同様であった。
【0038】
技術的破壊点、塑性エネルギー吸収能力及び破断時収縮に対する様々な金属被覆の影響についての研究により、亜鉛含有金属被覆については、LME誘起割れ形成を大きく排除することはできないことが示されている。
【0039】
熱間引張試験では、多種多様な金属被覆を有する試料b)~e)を、それらの「LME感受性」について研究した。コーティングしていない試料a)を、基準として利用した。これとは別に、複雑で定量的なRSW研究を経る必要なく、本明細書に記載していないさらなるコーティング、及び異なる鋼設計についても、研究することが同じく可能である。ここでは特に、少なくとも800MPaの引張強度Rmを有する全てのLME感受性鋼材について、研究することが可能である。
【0040】
500~900℃の温度範囲にわたる技術的破壊点の変化について、以下が成立する場合、
f(x)=0.1375x-58.75
又は、500~900℃の試験範囲において、一貫した温度工程サイズを用い、試験間隔において以下が成立する場合、
f(x)=7.25√x-155
又は、500~900℃の温度範囲において、一貫した温度工程サイズを用い、全ての測定値の合計について、試験間隔において以下が成立する場合、
Σ f(x)/n<40
割れ頻度、割れ深さ及び割れ長さの防止又は減少が、予測される。
【0041】
実験的RSW研究では、プロセスパラメータ及び材料厚さの組合せが用いられ、それらは、他の要因の中でも、亜鉛コーティングされた試料の場合、LME割れに対して高い確率及び高い再現性でリードしている。グリーブル法において与えられる熱機械的負荷は、ここでは、RSW実験において与える平均熱機械的荷重のモデルである。
【0042】
グリーブル法における「LME感度」が比較的小さい場合、及び、RSW試験において割れ頻度が大幅に減少し、割れ深さがより浅い(又は割れが全くない)場合、実証は成功したと見なされる。
【0043】
試料a)~e)について、実験的RSW研究を行った。RSW研究のパラメータを表1に示す。目標スポット径を達成するために必要な電流強度を決定した直後に、RSW研究用の試料系列を製造した。続いて、溶接電極を、溶接機内の可動キャップミリング装置によってミリングし、3回の溶接で調整した。溶接スプラッタが発生した試料は廃棄した。溶接結果の比較性については、スポット径、電流強度、及び処理変量に一貫性があることから、良好であると評価した。
【表1】
RSW研究からの結果は、グリーブル熱間引張試験からの予測と良好に一致したが、RSWプロセスに固有の研究結果のばらつきのために、完全な定量的相関関係は得られなかった。割れ試験の精度を向上させるために、溶接した全て試料を、割れ特性評価の前に剥離した。全ての試料について、マクロスコープを使用して、LME試験片の上面で割れ特性評価を行った。ここでの試料系列の割れ頻度を、二項分類(割れあり/割れなし)を用いて決定した。割れ形態の分析のために、デジタル測定を行い、試料系列当たり3つの選択試料に基づいて、LME割れを数えた。割れ深さを決定するために、研磨した金属切片を少なくとも3つ準備した。切片の位置を試料上にマークし、溶接箇所表面の最も長い割れの中央を通した。さらに、グリーブル所見の定性的置換が成功したことを確認するために、平均割れ深さを決定することも必要であった。
【0044】
Zでコーティングした試料b)については、割れ頻度が最も高く、かつ、割れが最も深く最も長いことが予想された。定義された基準溶接作業における高い能動的負荷の結果として、ZFでコーティングした試料b1)による割れ頻度の向上については、溶接プロセス中に、確認された臨界温度700℃を溶接箇所表面の多くの点で超える可能性があるため、予測されなかった。溶接した試料b)及びb1)については、割れ頻度が最も高く、かつ、割れが最も長いことがわかり、b1)の場合は、系列2で割れ頻度が最も高かったが、平均割れ長さは、系列1の試料b1)、並びに系列1及び系列2の試料b)よりも低かった。これらの結果は、グリーブル法において検証された強いLMEの影響と良好に一致した。試料c)についても、結果は、試料b)の場合と同様であった。溶接結果に関しては、試料d)及びe)について、系列1では割れは検出されなかった。系列2では、試料e)の場合のみ、電極加圧領域に小さな割れが見られた。これについて考えられる説明としては、貫通性の溶接電極により、これらの領域でマンガン層が断裂し、液体亜鉛が浸透したことである。金属被覆系において液体亜鉛相の割合が少ない試料d)の場合、系列2でも割れは発生しなかった。したがって、試料d)及びe)の結果に基づき、RSW溶接試験において、割れの頻度及び割れの程度が大幅に減少していると予測された。RSW試験からの結果は、グリーブル試験からの予測と良好な一致を示しているが、RSWプロセスに固有の研究結果のばらつきのために、定量的に完全に相関させることはできない。
【0045】
特に系列2の試料e)のRSW結果により、亜鉛含有コーティングを有するLME感受性基材物質を溶接する場合には、LME割れ発生を排除することはできないものの、純粋な亜鉛層と比べて、割れの数及び程度を大幅に減少させ得ることが示された。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DIN EN ISO 6892-1:2017に従って決定される引張強度R
mが少なくとも800MPaであり、金属被覆でコーティングされた平鋼製品であって、前記平鋼製品は、その構造中に少なくとも2つの異なる相を含み、前記金属被覆は、亜鉛元素及びマンガン元素を有する系であって、気相から堆積された系、からなることを特徴とする、平鋼製品。
【請求項2】
前記系が、亜鉛-マンガン合金の層を含む、請求項1に記載の平鋼製品。
【請求項3】
前記亜鉛-マンガン合金が、10重量%と90重量%との間の亜鉛含有量、及び、90重量%と10重量%との間のマンガン含有量を有する、請求項2に記載の平鋼製品。
【請求項4】
前記系が、マンガンの層と亜鉛の層とを含む、請求項1に記載の平鋼製品。
【請求項5】
前記マンガンの層が前記平鋼製品上に配置され、前記亜鉛の層が前記マンガンの層上に配置されている、請求項4に記載の平鋼製品。
【請求項6】
前記平鋼製品が熱間圧延又は冷間圧延された製品である、請求項1から5のいずれかに記載の平鋼製品。
【請求項7】
前記平鋼製品が、Fe、及び不可避の製造関連不純物に加えて、重量%で、
C:0.001~0.50%、
Mn:0.10~3.00%、
Si:0.01~2.0%、
Al:0.002~1.5%、
P:~0.020%、
S:~0.020%、
N:~0.020%、
任意選択で、(Ti、Nb、V、Cr、Mo、W、Ca、B、Cu、Ni、Sn、As、Co、O、H)の群からの1つ又は複数の合金元素であって、
Ti:~0.20%、
Nb:~0.20%、
V:~0.20%、
Cr:~2.0%、
Mo:~2.0%、
W:~1.0%、
Ca:~0.050%、
B:~0.10%、
Cu:~1.0%、
Ni:~1.0%、
Sn:~0.050%、
As:~0.020%、
Co:~0.50%、
O:~0.0050%、
H:~0.0010%
である、1つ又は複数の合金元素
からなる、請求項1に記載の平鋼製品。
【請求項8】
金属被覆でコーティングされ、DIN EN ISO 6892-1:2017に従って決定される引張強度R
mが少なくとも800MPaである平鋼製品を製造するための方法であって、前記平鋼製品は、その構造中に少なくとも2つの異なる相を含み、前記方法は、
熱間圧延又は冷間圧延された平鋼製品を提供する工程と、
前記平鋼製品を金属被覆でコーティングする工程と
を含み、
前記金属被覆は、亜鉛元素及びマンガン元素を有する系からなり、気相から前記平鋼製品上に堆積されることを特徴とする、
方法。
【請求項9】
前記系が、1つの工程で堆積され、前記平鋼製品上に亜鉛-マンガン合金の層を生成する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記堆積が、前記亜鉛-マンガン合金において、亜鉛含有量が10重量%と90重量%との間、及びマンガン含有量が90重量%と10重量%との間で確立されるように制御される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記系が、最初に前記平鋼製品上にマンガンの層を、続いて前記マンガンの層上に亜鉛の層を連続的に堆積させることによる、2つの工程で堆積される、請求項8に記載の方法。
【国際調査報告】