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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】腎機能低下の診断及び予測の方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240409BHJP
   C07K 17/00 20060101ALI20240409BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 38/55 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240409BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240409BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240409BHJP
   C07K 14/50 20060101ALN20240409BHJP
   C07K 14/525 20060101ALN20240409BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240409BHJP
   C07K 16/24 20060101ALN20240409BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
C07K17/00
A61P13/12
A61K38/16
A61K38/18
A61K38/19
A61K38/55
A61K38/43
A61K48/00
A61K31/7088
G01N33/53 D
G01N33/543 545A
C07K14/50
C07K14/525
C12N15/12
C07K16/24
C12N15/63 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561715
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 US2022071640
(87)【国際公開番号】W WO2022217283
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】63/172,541
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/215,150
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】506199905
【氏名又は名称】ジョスリン ダイアビーティス センター インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クロレフスキー,アンジェイ
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB07
2G045CB11
2G045CB12
2G045CB14
2G045CB15
2G045CB26
2G045CB30
2G045FA40
2G045FB01
2G045FB03
2G045FB05
2G045FB06
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084BA44
4C084DA01
4C084DB52
4C084DB54
4C084DC01
4C084DC32
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA81
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
4H045AA10
4H045AA30
4H045AA40
4H045BA60
4H045DA01
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
本開示は、対象からのサンプル中の防御タンパク質(複数可)のレベル(複数可)を調べることにより、進行性腎機能低下を発症するリスクを持つヒト対象を識別する方法を提供する。本開示で識別されるタンパク質(複数可)のレベル(複数可)は、進行性腎不全及び末期腎臓病(ESKD)からの防御に関連付けられる。そのような防御タンパク質の例は、FGF20、ANGPT1、及びTNFSF12を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行性腎機能低下を発症するリスクを持つヒト対象を識別する方法であって、
それを必要とする対象からのサンプル(複数可)中の少なくとも1つの防御タンパク質のレベルを検出することであって、前記防御タンパク質が、線維芽細胞成長因子20(FGF20)、アンジオポエチン-2(ANGPT1)、及び腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー12(TNFSF12)からなる群から選択される、前記検出すること、
前記防御タンパク質の前記レベルを前記防御タンパク質の参照レベルと比較することであって、前記参照レベルが、非進行者ヒト対象における前記防御タンパク質のレベルである、前記比較すること
を含み、
前記非進行者の参照レベルと比較して低い前記防御タンパク質のレベルは、前記ヒト対象が進行性腎機能低下を発症するリスクを持つことを示すか、または、
前記参照レベルと比較して同等のまたはより高い前記防御タンパク質のレベルは、前記ヒト対象が進行性腎機能低下を発症するリスクを持たないことを示す、前記方法。
【請求項2】
防御タンパク質の組み合わせのレベルが検出され、
防御タンパク質の前記組み合わせが、FGF20及びTNFSF12、FGF20及びANGPT1、ならびにTNFSF12及びANGPT1からなる群から選択されるか、または、
防御タンパク質の前記組み合わせが、FGF20、TNFSF12、及びANGPT1を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
進行性腎機能低下を発症するリスクを持つヒト対象を識別する方法であって、
それを必要とする対象からのサンプル(複数可)中の少なくとも1つの防御タンパク質のレベルを検出することであって、前記防御タンパク質が、
Testican-2、酸性システインリッチ分泌タンパク質(SPARC)、C-Cモチーフケモカイン5(CCL5)、アミロイドベータA4タンパク質(APP)、血小板第4因子(PF4)、及びANGPT1からなる群から選択される防御タンパク質の第1の群からの防御タンパク質、
DNAJC19及びTNFSF12からなる群から選択される防御タンパク質の第2の群からの防御タンパク質、ならびに
FGF20からなる群から選択される、前記検出すること、
前記防御タンパク質の前記レベルを前記防御タンパク質の参照レベルと比較することであって、前記参照レベルが、非進行者ヒト対象における前記防御タンパク質のレベルである、前記比較すること
を含み、
前記参照レベルと比較して低い前記防御タンパク質のレベルは、前記ヒト対象が進行性腎機能低下を発症するリスクを持つことを示すか、または、
前記参照レベルと比較して同等のまたはより高い前記防御タンパク質のレベルは、前記ヒト対象が進行性腎機能低下を発症するリスクを持たないことを示す、前記方法。
【請求項4】
防御タンパク質の組み合わせのレベルが検出され、防御タンパク質の前記組み合わせが、FGF20及び第1群の防御タンパク質、FGF20及び第2群の防御タンパク質、第1群の防御タンパク質及び第2群の防御タンパク質、ならびに、FGF20、第1群の防御タンパク質、及び第2群の防御タンパク質からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記非進行者が、非糖尿病性ヒト対象である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記対象が進行性腎機能低下のリスクを有するものとして識別された場合、腎機能を改善させる療法を施与することをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が進行性腎機能低下のリスクを有するものとして識別された場合、前記対象に、FGF20、FGF20の活性断片、FGF20模倣物、またはFGF20をコードする核酸、もしくはその活性断片を投与することをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記対象が進行性腎機能低下のリスクを有するものとして識別された場合、前記対象に、ANGPT1、ANGPT1の活性断片、ANGPT1模倣物、またはANGPT1をコードする核酸、もしくはその活性断片を投与することをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象が進行性腎機能低下のリスクを有するものとして識別された場合、前記対象に、TNFSF12、TNFSF12の活性断片、TNFSF12模倣物、またはTNFSF12をコードする核酸、もしくはその活性断片を投与することをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象が進行性腎機能低下のリスクを有するものとして識別された場合、前記対象に、SPARC、SPARCの活性断片、SPARCの模倣物、またはSPARCをコードする核酸、もしくはその活性断片を投与することをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒト対象が、腎機能異常、糖尿病、またはその両方を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記糖尿病が、I型糖尿病またはII型糖尿病である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒト対象が非糖尿病性である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記サンプルが血漿サンプルである、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記防御タンパク質の前記レベルが、イムノアッセイ、質量分析、液体クロマトグラフィー(LC)分画、SOMAscam、Mesoscaleプラットフォーム、または電気化学発光検出を使用して判定される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記イムノアッセイが、ELISAまたはウエスタンブロット分析である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記質量分析が、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型(MALDI-TOF)、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)、オフセットトリガ型マルチプレックス正確質量高分解能絶対定量法(TOMAHAQ)、リアルタイム直接分析法質量分析(DART-MS)、または二次イオン質量分析(SIMS)である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記サンプルが、血液サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、リンパサンプル、尿サンプル、唾液サンプル、涙液サンプル、汗液サンプル、精液サンプル、膣サンプル、気管支サンプル、粘膜サンプル、または脳脊髄液(CSF)サンプルである、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ヒト対象の進行性腎機能低下を識別またはモニタリングするためのタンパク質アレイであって、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12及びヒトANGPT1に特異的な抗体またはその抗原結合断片を含む、前記タンパク質アレイ。
【請求項20】
ヒト対象の進行性腎機能低下を識別またはモニタリングするためのタンパク質アレイであって、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12、ヒトANGPT1、ヒトTestican-2、ヒトSPARC、ヒトCCL5、ヒトAPP、ヒトPF4、ヒトANGPT1、ヒトDNAJC19、ヒトTNFSF12、またはそれらの組み合わせに特異的な抗体またはその抗原結合断片を含む、前記タンパク質アレイ。
【請求項21】
タンパク質バイオマーカーに特異的に結合するための複数のプローブを含むアレイであって、前記タンパク質バイオマーカーが、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12、及びヒトANGPT1のうちの少なくとも1つ以上である、前記アレイ。
【請求項22】
タンパク質バイオマーカーに特異的に結合するための複数のプローブを含むアレイであって、前記タンパク質バイオマーカーが、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12、ヒトANGPT1、ヒトTestican-2、ヒトSPARC、ヒトCCL5、ヒトAPP、ヒトPF4、ヒトDNAJC19、及びヒトTNFSF12のうちの少なくとも1つ以上である、前記アレイ。
【請求項23】
請求項19~22のいずれか1項に記載のタンパク質アレイを含む検査パネル。
【請求項24】
請求項23に記載の検査パネルを含むキットまたはアッセイデバイス。
【請求項25】
ヒト対象における進行性腎機能低下の進行を阻害する方法であって、
有効量の少なくとも1つの防御タンパク質及び/または防御タンパク質の少なくとも1つのアゴニストを対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項26】
ヒト対象における腎機能低下を防止する方法であって、
有効量の少なくとも1つの防御タンパク質及び/または防御タンパク質の少なくとも1つのアゴニストを対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項27】
ヒト対象における腎機能低下を処置する方法であって、
治療有効量の少なくとも1つの防御タンパク質及び/または少なくとも1つの防御タンパク質のアゴニストを対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項28】
前記少なくとも1つの防御タンパク質が、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、Testican-2、SPARC、CCL5、APP、PF4、及びDNAJC19のうちの1つ以上である、請求項25~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記少なくとも1つの防御タンパク質が、FGF20、FGF20の活性断片、FGF20模倣物、またはFGF20をコードする核酸、もしくはその活性断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つの防御タンパク質が、TNFSF12、TNFS12の活性断片、TNFSF12模倣物、またはTNFSF12をコードする核酸、もしくはその活性断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記少なくとも1つの防御タンパク質が、ANGPT1、ANGPT1の活性断片、ANGPT1模倣物、またはANGPT1をコードする核酸、もしくはその活性断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記少なくとも1つの防御タンパク質が、SPARC、SPARCの活性断片、SPARC模倣物、またはSPARCをコードする核酸、もしくはその活性断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの防御タンパク質が、CCL5、CCL5の活性断片、CCL5模倣物、またはCCL5をコードする核酸、もしくはその活性断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つの防御タンパク質が、APP、APPの活性断片、APP模倣物、またはAPPをコードする核酸、もしくはその活性断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つの防御タンパク質が、PF4、PF4の活性断片、PF4模倣物、またはPF4をコードする核酸、もしくはその活性断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記少なくとも1つの防御タンパク質が、DNAJC19、DNAJC19の活性断片、DNAJC19模倣物、またはDNAJC19をコードする核酸、もしくはその活性断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
前記少なくとも1つの防御タンパク質が、Testican-2、Testican-2の活性断片、Testican-2模倣物、またはTestican-2をコードする核酸、もしくはその活性断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項38】
前記核酸がベクター中にある、請求項28~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記ヒト対象が、進行性腎機能低下を発症するリスクを持つ進行者として以前に識別されたものである、請求項25~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
定義された期間内のヒト対象における腎機能低下のおおよそのリスクを判定する方法であって、
a)前記ヒト対象から生物学的サンプルを取得すること、
b)前記生物学的サンプル中の少なくとも1つの防御タンパク質のレベルを検出することであって、前記少なくとも1つの防御タンパク質が、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、Testican-2、SPARC、CCL5、APP、PF4、及びDNAJC19からなる群から選択される、前記検出すること、
c)前記防御タンパク質の前記レベルに関するデータを、前記ヒト対象の臨床データ特徴(eGFR、uACR、臨床化学検査測定値、バイタルサイン、患者人口構成など)と組み合わせること、ならびに
d)機械学習または統計的モデルリングによる予後リスクスコアアルゴリズム(例えばKidneyIntelX検査プラットフォーム)を使用した判定による、前記ヒト対象についての腎機能低下(RD)の前記おおよそのリスクを判定することを含む、前記方法。
【請求項41】
前記生物学的サンプル中の前記少なくとも1つの防御タンパク質の前記レベルを、非進行者コントロールレベルまたは正常アルブミン尿性コントロールレベルと比較することをさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記生物学的サンプルが、第1の時点及び第2の時点で前記ヒト対象から取得される、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記第2の時点が、前記第1の時点の約6か月後、約12か月後、約18か月後、約24か月後、約3年後、約4年後、約5年後、約10年後、または約15年後の前記ヒト対象から取得される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
第1の時点の前記ヒト対象から取得された前記生物学的サンプル中の前記少なくとも1つの防御タンパク質の前記レベルを、第2の時点の前記ヒト対象から取得された前記生物学的サンプルと比較することをさらに含む、請求項42または43に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本願は、2021年4月8日に提出された米国仮出願第63/172,541号に対する優先権を主張し、2021年6月25日に提出された米国仮出願第63/215,150号に対する優先権を主張する。前述の優先権出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
米国政府の利益
本発明は、米国立衛生研究所から与えられた助成金DK041526-27による米国政府の援助を受けてなされたものである。米国政府は本発明において一定の権利を有し得る。
【0003】
配列表
本願には、ASCII形式で電子提出された配列表が含まれ、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。2022年4月5日に作成された前記ASCIIコピーは、J103021_1090WO_SL.txtという名称であり、サイズは24,798バイトである。
【0004】
慢性腎臓病(CKD)は、患者の生涯の何年にもわたる、ゆっくりとした進行性の腎機能喪失である。進行性腎機能低下の転帰は永続的腎不全であり、最終的には末期腎疾患(ESRD;末期腎臓病ESKDとも呼ばれる)に至る。
【0005】
慢性腎臓病は広範囲に広がっており、高血圧または糖尿病など、患者が有する他の病態と関連していることが多い。残念ながら、腎機能低下(RD)は、疾患がかなり進行するまで検出されず、診断されないことがよくある。腎不全が進行するにつれて、腎臓の機能が著しく損なわれ、その結果、有毒なレベルの老廃物が患者の体内に蓄積する。慢性腎臓病の処置は、疾患の進行の停止または緩徐化を目的としている。慢性腎機能低下は、患者に深刻な影響を与えることがあり、最終的には透析及び腎臓移植を必要とするESKDにつながり得る。腎機能低下のリスクを持つ患者を識別することで、早期処置が改善され、この深刻な疾患の進行が緩徐化するであろう。
【発明の概要】
【0006】
慢性腎臓病の進行性及びその重篤度を考慮すると、進行性腎機能低下のリスクを持つ患者を識別することは有益であろう。
【0007】
本開示は、末期腎臓病(ESKD;本明細書では末期腎疾患またはESRDともいう)に進行する患者/対象及び防御される者を識別するためにそのレベルが使用され得る特定の防御タンパク質の発見に少なくとも部分的に基づいている。
【0008】
第1の態様において、本開示は、進行性腎機能低下を発症するリスクを持つヒト対象を識別する方法であって、それを必要とする対象からのサンプル(複数可)中の少なくとも1つの防御タンパク質のレベルを検出するステップであって、防御タンパク質が、線維芽細胞成長因子20(FGF20)、アンジオポエチン-2(ANGPT1)、及び腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー12(TNFSF12)からなる群から選択される、検出するステップと、防御タンパク質のレベルを防御タンパク質の参照レベルと比較するステップであって、参照レベルが、非進行者ヒト対象における防御タンパク質のレベルである、比較するステップとを含む、方法を提供する。特定の実施形態では、防御タンパク質は、Testican-2である。いくつかの実施形態では、参照レベルと比較して低い防御タンパク質のレベルは、ヒト対象が進行性腎機能低下を発症するリスクを持つことを示すか、または、参照レベルと比較して同等のもしくはより高い防御タンパク質のレベルは、ヒト対象が進行性腎機能低下を発症するリスクを持たないことを示す。
【0009】
前述の態様のいくつかの実施形態では、防御タンパク質の組み合わせのレベルが検出され、防御タンパク質の組み合わせは、FGF20及びTNFSF12、FGF20及びANGPT1、ならびにTNFSF12及びANGPT1からなる群から選択されるか、または、防御タンパク質の組み合わせは、FGF20、TNFSF12、及びANGPT1を含む。特定の実施形態では、検出される防御タンパク質の組み合わせは、Testican-2を含む。
【0010】
別の態様では、本開示は、進行性腎機能低下を発症するリスクを持つヒト対象を識別する方法であって、それを必要とする対象からのサンプル(複数可)中の少なくとも1つの防御タンパク質のレベルを検出するステップであって、防御タンパク質が、(i)酸性システインリッチ分泌タンパク質(SPARC)、C-Cモチーフケモカイン5(CCL5)、アミロイドベータA4タンパク質(APP)、血小板第4因子(PF4)、及びANGPT1からなる群から選択される防御タンパク質の第1の群からの防御タンパク質、及び/または(ii)DNAJC19及びTNFSF12からなる群から選択される防御タンパク質の第2の群からの防御タンパク質、ならびにFGF20からなる群から選択される、検出するステップと、防御タンパク質のレベルを防御タンパク質の参照レベルと比較するステップであって、参照レベルが、非進行者ヒト対象における防御タンパク質のレベルである、比較するステップとを含む、方法を提供する。特定の実施形態では、防御タンパク質は、本明細書に記載される1つ以上の防御タンパク質と組み合わせたTestican-2である。いくつかの実施形態では、参照レベルと比較して低い防御タンパク質のレベルは、ヒト対象が進行性腎機能低下を発症するリスクを持つことを示すか、または、参照レベルと比較して同等のもしくはより高い防御タンパク質のレベルは、ヒト対象が進行性腎機能低下を発症するリスクを持たないことを示す。
【0011】
前述の態様のいくつかの実施形態では、防御タンパク質の組み合わせのレベルが検出され、防御タンパク質の組み合わせは、FGF20及び第1群の防御タンパク質、FGF20及び第2群の防御タンパク質、第1群の防御タンパク質及び第2群の防御タンパク質、ならびに、FGF20、第1群の防御タンパク質、及び第2群の防御タンパク質からなる群から選択される。特定の実施形態では、防御タンパク質は、本明細書に記載される1つ以上の防御タンパク質と組み合わせたTestican-2である。特定の実施形態では、非進行者は、非糖尿病性ヒト対象である。
【0012】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、当該方法は、対象が進行性腎機能低下のリスクを有するものとして識別された場合、腎機能を改善させる療法を施与することをさらに含む。一実施形態において、患者がリスクを持つものとして識別された場合、SGLT2阻害剤が患者に投与される。いくつかの実施形態では、療法は、FGF20(例えば組換えFGF20)を含む。いくつかの実施形態では、療法は、対象が進行性腎機能低下のリスクを有するものとして識別された場合、対象に、FGF20、FGF20の活性断片、FGF20模倣物、またはFGF20をコードする核酸、もしくはその活性断片を投与することを含む。他の実施形態では、療法は、TNFSF12(例えば組換えTNFSF12)を含む。いくつかの実施形態では、療法は、対象が進行性腎機能低下のリスクを有するものとして識別された場合、対象に、TNFSF12、TNFSF12の活性断片、TNFSF12模倣物、またはTNFSF12をコードする核酸、もしくはその活性断片を投与することを含む。さらに他の実施形態では、療法は、ANGPT1(例えば組換えANGPT1)を含む。いくつかの実施形態では、療法は、対象が進行性腎機能低下のリスクを有するものとして識別された場合、対象に、ANGPT1、ANGPT1の活性断片、ANGPT1模倣物、またはANGPT1をコードする核酸、もしくはその活性断片を投与することを含む。いくつかの実施形態では、療法は、対象が進行性腎機能低下のリスクを有するものとして識別された場合、対象に、Testican-2、Testican-2の活性断片、Testican-2模倣物、またはTestican-2をコードする核酸、もしくはその活性断片を投与することを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、ヒト対象は、腎機能異常、糖尿病、またはその両方を有する。特定の実施形態では、糖尿病は、I型糖尿病またはII型糖尿病である。他の実施形態では、ヒト対象は非糖尿病性である。
【0014】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、サンプルは血漿サンプルである。いくつかの実施形態では、防御タンパク質のレベルは、イムノアッセイ、質量分析、液体クロマトグラフィー(LC)分画、SOMAscam、Mesoscaleプラットフォーム、または電気化学発光検出を使用して判定される。いくつかの実施形態では、イムノアッセイは、ELISAまたはウエスタンブロット分析である。いくつかの実施形態では、質量分析は、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型(MALDI-TOF)、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)、オフセットトリガ型マルチプレックス正確質量高分解能絶対定量法(triggered-by-offset,multiplexed,accurate-mass,high-resolution,and absolute quantification、TOMAHAQ)、リアルタイム直接分析法質量分析(DART-MS)、または二次イオン質量分析(SIMS)である。いくつかの実施形態では、サンプルは、血液サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、リンパサンプル、尿サンプル、唾液サンプル、涙液サンプル、汗液サンプル、精液サンプル、膣サンプル、気管支サンプル、粘膜サンプル、または脳脊髄液(CSF)サンプルである。
【0015】
別の態様では、本開示は、ヒト対象の進行性腎機能低下を識別またはモニタリングするためのタンパク質アレイであって、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12及びヒトANGPT1に特異的な抗体またはその抗原結合断片を含む、タンパク質アレイを提供する。
【0016】
さらに別の態様において本明細書で提供されるのは、ヒト対象の進行性腎機能低下を識別またはモニタリングするためのタンパク質アレイであって、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12及びヒトANGPT1、ヒトSPARC、ヒトCCL5、ヒトAPP、ヒトPF4、ヒトANGPT1、ヒトDNAJC19、ヒトTNFSF12、Testican-2、またはそれらの組み合わせに特異的な抗体またはその抗原結合断片を含む、タンパク質アレイである。
【0017】
別の態様において本明細書で提供されるのは、タンパク質バイオマーカーに特異的に結合するための複数のプローブを含むアレイであって、タンパク質バイオマーカーが、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12、及びヒトANGPT1のうちの少なくとも1つ以上である、アレイである。
【0018】
さらに別の態様において本明細書で提供されるのは、タンパク質バイオマーカーに特異的に結合するための複数のプローブを含むアレイであって、タンパク質バイオマーカーが、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12及びヒトANGPT1、ヒトSPARC、ヒトCCL5、ヒトAPP、ヒトPF4、ヒトTestican-2、ならびにヒトDNAJC19のうちの少なくとも1つ以上である、アレイである。
【0019】
別の態様では、本開示は、本明細書で開示されるようなタンパク質アレイを含む検査パネルを提供する。
【0020】
別の態様では、本開示は、本明細書で開示されるような検査パネルを含むキットまたはアッセイデバイスを提供する。
【0021】
別の態様では、本開示は、ヒト対象における進行性腎機能低下の進行を阻害する方法を提供し、前記方法は、有効量の少なくとも1つの防御タンパク質及び/または防御タンパク質の少なくとも1つのアゴニストを対象に投与することを含む。
【0022】
別の態様では、本開示は、ヒト対象における腎機能低下を防止する方法を提供し、前記方法は、有効量の少なくとも1つの防御タンパク質のアゴニスト及び/または防御タンパク質の少なくとも1つのアゴニストを対象に投与することを含む。
【0023】
別の態様では、本開示は、ヒト対象における腎機能低下を処置する方法を提供し、前記方法は、治療有効量の少なくとも1つの防御タンパク質のアゴニスト及び/または少なくとも1つの防御タンパク質のアゴニストを対象に投与することを含む。
【0024】
別の態様において本明細書で提供されるのは、ヒト対象が進行性腎疾患を発症する増加したリスクを有するかどうかを判定する方法であって、そのリスクを持つヒト対象からサンプルを取得すること、対象サンプル中の少なくとも1つの防御タンパク質の存在を検出し、そのレベルを測定すること、防御タンパク質の対象レベルを防御タンパク質の参照レベルと比較すること、対象レベルと参照レベルとの比較に基づいて、対象が進行性腎疾患を発症する増加したリスクの増加したリスクを有するかどうかを判定することであって、参照レベルより有意に低いレベルにおける対象サンプル中の防御タンパク質の存在が、対象が進行性腎疾患を発症する増加したリスクを有することを示す、判定すること、ならびに、進行性腎疾患を発症するリスクを有するものとして識別された対象に療法を施与することを含む、方法である。当該方法は、識別された対象における防御タンパク質の増加をモニタリングすることをさらに含み得る。
【0025】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、少なくとも1つの防御タンパク質は、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、Testican-2、及びDNAJC19のうちの1つ以上である。他の実施形態では、少なくとも1つの防御タンパク質は、FGF20、FGF20の活性断片、FGF20模倣物、またはFGF20をコードする核酸、もしくはその活性断片である。様々な他の実施形態では、少なくとも1つの防御タンパク質は、TNFSF12、TNFS12の活性断片、TNFSF12模倣物、またはTNFSF12をコードする核酸、もしくはその活性断片である。特定の他の実施形態では、少なくとも1つの防御タンパク質は、ANGPT1、ANGPT1の活性断片、ANGPT1模倣物、またはANGPT1をコードする核酸、もしくはその活性断片である。他の実施形態では、少なくとも1つの防御タンパク質は、SPARC、SPARCの活性断片、SPARC模倣物、またはSPARCをコードする核酸、もしくはその活性断片である。他の実施形態では、少なくとも1つの防御タンパク質は、CCL5、CCL5の活性断片、CCL5模倣物、またはCCL5をコードする核酸、もしくはその活性断片である。特定の他の実施形態では、少なくとも1つの防御タンパク質は、APP、APPの活性断片、APP模倣物、またはAPPをコードする核酸、もしくはその活性断片である。他の実施形態では、少なくとも1つの防御タンパク質は、PF4、PF4の活性断片、PF4模倣物、またはPF4をコードする核酸、もしくはその活性断片である。他の実施形態では、少なくとも1つの防御タンパク質は、DNAJC19、DNAJC19の活性断片、DNAJC19模倣物、またはDNAJC19をコードする核酸、もしくはその活性断片である。特定の実施形態では、少なくとも1つの防御タンパク質は、Testican-2、Testican-2の活性断片、Testican-2模倣物、またはTestican-2をコードする核酸、もしくはその活性断片である。
【0026】
さらに他の実施形態では、核酸はベクター中にある。他の実施形態では、ヒト対象は、進行性腎機能低下を発症するリスクを持つ進行者として以前に識別されたものである。
【0027】
別の態様では、本開示は、定義された期間内のヒト対象における腎機能低下のおおよそのリスクを判定する方法であって、a)ヒト対象から生物学的サンプルを取得すること、b)生物学的サンプル中の少なくとも1つの防御タンパク質のレベルを検出することであって、少なくとも1つの防御タンパク質が、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、Testican-2、及びDNAJC19からなる群から選択される、検出すること、c)防御タンパク質のレベルに関するデータを、ヒト対象の臨床データ特徴(eGFR、uACR、臨床化学検査測定値、バイタルサイン、患者人口構成など)と組み合わせること、ならびにd)機械学習または統計的モデリングによる予後リスクスコアアルゴリズム(例えばKidneyIntelX検査プラットフォーム)を使用した判定による、ヒト対象についての腎機能低下(RD)のおおよそのリスクを判定することを含む、方法を提供する。特定の実施形態では、ヒト対象からのサンプルを、防御タンパク質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片と接触させ、防御タンパク質に対する抗体の結合を測定して、防御タンパク質と抗体との間の結合のレベルを判定する。
【0028】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、当該方法は、生物学的サンプル中の少なくとも1つの防御タンパク質のレベルを、非進行者コントロールレベルまたは正常アルブミン尿性コントロールレベルと比較することをさらに含む。いくつかの実施形態では、生物学的サンプルは、第1の時点及び第2の時点でヒト対象から取得される。他の実施形態では、第2の時点は、第1の時点の約6か月後、約12か月後、約18か月後、約24か月後、約3年後、約4年後、約5年後、約10年後、または約15年後のヒト対象から取得される。特定の他の実施形態では、当該方法は、第1の時点のヒト対象から取得された生物学的サンプル中の少なくとも1つの防御タンパク質のレベルを、第2の時点のヒト対象から取得された生物学的サンプルと比較することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】A及びBは、log10変換後の上位3つの防御タンパク質候補であるFGF20、TNFSF12、及びANGPT1の分布を示すヒストグラムを提供する。Aは、複合されたT1D発見コホート及びT2D複製コホートにおけるlog10変換後のFGF20、TNFSF12、及びANGPT1の分布を示すヒストグラムを提供する。Bは、T1D検証コホートにおけるlog10変換後のFGF20、TNFSF12、及びANGPT1の分布を示すヒストグラムを提供する。
図2】T1D及びT2DのJoslin Kidney StudyコホートにおけるeGFRの傾き(ml/分/1.73m/年)の分布を示すグラフである。低速低下者(slow decliner)は、eGFR損失<3.0ml/分/1.73m/年と定義され、高速低下者(fast decliner)は、eGFR損失≧3.0ml/分/1.73m/年またはESKD進行者と定義された。各コホートにおいて、研究参加後の最初の10年間に発症したESKD症例のみが本研究で考慮された。破線は、eGFR損失が3.0ml/分/1.73m/年に等しいことを示す。
図3】探索パネル及び複製パネルの研究参加者、ならびに候補防御タンパク質がどのように選択されたかを示す、研究デザインの概略表現である。
図4A】急速進行性腎機能低下からの防御に関連する候補循環タンパク質を示すグラフを提供する。T1D(N=214)及びT2D(N=144)のJoslinコホートにおける19種の血漿タンパク質のベースライン濃度とeGFRの傾きとの間のスピアマンの順位相関係数(r)を示すグラフである。陰影付きのバーは、効果サイズのグラフ表現である。対応する両側P値が提供されている。使用された有意性の閾値:T1D探索コホートではFDR調整済みP<0.005、T2D複製コホートでは公称P<0.05。
図4B】急速進行性腎機能低下からの防御に関連する候補循環タンパク質を示すグラフを提供する。単変量モデル及び調整済みロジスティック回帰モデルでの、T1D及びT2Dの複合コホートにおける19種の候補防御タンパク質及び急速進行性腎機能低下(eGFR損失≧3.0ml/分/年)についてのオッズ比(95%CI)を示すグラフである。効果は、特定のタンパク質の循環ベースライン濃度の1四分位増加ごとのオッズ比(95%CI)として示されている。最終モデルは、糖尿病の種類ごとに層別化して、ベースラインeGFR、HbA1c及びACRに合わせて調整された。選択された8種のマーカーは赤色で示されている。分析に含まれたPKM2は、以前の公表文献に基づいている。
図5A】8種の確認済み防御タンパク質と、臨床的共変量との関連性、及び急速進行性腎機能低下のリスクとの関連性を示すグラフを提供する。糖尿病の種類に合わせて調整された2つのコホートにおける、TNF-R1を含む8種の候補防御タンパク質と重要な臨床的共変量との間のスピアマンの順位相関行列を示すグラフである。相関係数(r)は、効果サイズの大きさに対応する、赤(正;#で表示)及び青(負;##で表示)の色合いとして提示されている。急速進行性腎機能低下に対するeGFR及びHbA1cの効果は、それぞれ、10ml/分/1.73m増加当たり、及び1%増加当たりで推定されている。急速進行性腎機能低下に対するACRの効果は、log10ACRの1単位の増加として推定されている。各タンパク質の効果は、該当するタンパク質の循環ベースライン濃度の1四分位増加ごとのオッズ比(95%CI)として示されている。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001;ns、有意差なし。
図5B】8種の確認済み防御タンパク質と、臨床的共変量との関連性、及び急速進行性腎機能低下のリスクとの関連性を示すグラフを提供する。複合Joslinコホートにおける階層的クラスター分析を示すグラフである。急速進行性腎機能低下に対するeGFR及びHbA1cの効果は、それぞれ、10ml/分/1.73m増加当たり、及び1%増加当たりで推定されている。急速進行性腎機能低下に対するACRの効果は、log10ACRの1単位の増加として推定されている。各タンパク質の効果は、該当するタンパク質の循環ベースライン濃度の1四分位増加ごとのオッズ比(95%CI)として示されている。
図5C】8種の確認済み防御タンパク質と、臨床的共変量との関連性、及び急速進行性腎機能低下のリスクとの関連性を示すグラフを提供する。有意性基準α=0.1を使用して共変量の後向き選択から選択された共変量のオッズ比(95%CI)を示すグラフである。急速進行性腎機能低下に対するeGFR及びHbA1cの効果は、それぞれ、10ml/分/1.73m増加当たり、及び1%増加当たりで推定されている。急速進行性腎機能低下に対するACRの効果は、log10ACRの1単位の増加として推定されている。各タンパク質の効果は、該当するタンパク質の循環ベースライン濃度の1四分位増加ごとのオッズ比(95%CI)として示されている。
図6】糖尿病の種類に合わせて調整されたACRと11種の候補防御タンパク質の間のスピアマンの順位相関行列のグラフである。相関係数(r)は、効果サイズの大きさに対応する、赤(正)及び青(負;#で表示)の色合いとして提示されている。
図7A】急速進行性腎機能低下及びESKDへの進行のリスクに対する防御タンパク質(FGF20、TNFSF12及びANGPT1)の複合効果を示すグラフを提供する。両種類の糖尿病及び腎機能(「腎臓機能」ともいう)の異常を有する探索及び複製の複合コホート(N=358)における離散共変量とみなされる防御指数に応じた、急速進行性腎機能低下のオッズ比を示すグラフである。防御指数:各タンパク質の中央値を超える値は1としてスコア付けし、中央値未満の値は0としてスコア付けした;これらのスコアを合計することにより、対象は、0(中央値未満のすべてのタンパク質)から3(中央値を超えるすべてのタンパク質)の間で変動する総合防御指数を有し得る。P<0.05;****P<0.0001;ns、有意差なし。
図7B】急速進行性腎機能低下及びESKDへの進行のリスクに対する防御タンパク質(FGF20、TNFSF12及びANGPT1)の複合効果を示すグラフを提供する。探索及び複製の複合コホートにおける防御指数の離散値に応じた、ESKDの累積発生率(%)を示すグラフである。防御指数:各タンパク質の中央値を超える値は1としてスコア付けし、中央値未満の値は0としてスコア付けした;これらのスコアを合計することにより、対象は、0(中央値未満のすべてのタンパク質)から3(中央値を超えるすべてのタンパク質)の間で変動する総合防御指数を有し得る。P<0.05;****P<0.0001;ns、有意差なし。
図7C】急速進行性腎機能低下及びESKDへの進行のリスクに対する防御タンパク質(FGF20、TNFSF12及びANGPT1)の複合効果を示すグラフを提供する。正常な腎機能を有するT1D対象の検証コホート(N=294)における離散共変量とみなされる防御指数に応じた、急速進行性腎機能低下のオッズ比を示すグラフである。防御指数:各タンパク質の中央値を超える値は1としてスコア付けし、中央値未満の値は0としてスコア付けした;これらのスコアを合計することにより、対象は、0(中央値未満のすべてのタンパク質)から3(中央値を超えるすべてのタンパク質)の間で変動する総合防御指数を有し得る。P<0.05;****P<0.0001;ns、有意差なし。
図7D】急速進行性腎機能低下及びESKDへの進行のリスクに対する防御タンパク質(FGF20、TNFSF12及びANGPT1)の複合効果を示すグラフを提供する。検証コホートにおける防御指数の離散値に応じた、ESKDの累積発生率(%)を示すグラフである。防御指数:各タンパク質の中央値を超える値は1としてスコア付けし、中央値未満の値は0としてスコア付けした;これらのスコアを合計することにより、対象は、0(中央値未満のすべてのタンパク質)から3(中央値を超えるすべてのタンパク質)の間で変動する総合防御指数を有し得る。P<0.05;****P<0.0001;ns、有意差なし。
図8】FGF20トリプシンペプチドGGPGAAQLAHLHGILR(配列番号9)(アミノ酸50~65)の抽出イオンクロマトグラムである。組換えFGF20の存在下(上)または非存在下(下)でのFGF20 SOMAmer血漿プルダウン。
図9】非糖尿病者と比較した、非進行者及び進行者に関する、複合Joslinコホートにおける例示的な防御タンパク質ANGPT1(左パネル)、TNFSF12(中央パネル)、FGF20(右パネル)の血漿濃度を示すグラフを提供する。バーは、平均±標準偏差を示す。一元配置ANOVAとダンの多重比較検定。**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001;ns、有意差なし。
図10】非ESKD進行者とESKD進行者との間のTestican-2(SPOCK2)血漿レベル(RFU)の比較のデータを示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
I.定義
本発明を詳細に記述する前に、本明細書で使用される特定の用語の定義を提供する。別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0031】
「対象」または「患者」という用語は、本明細書では同義に使用され、ヒトを指す。
【0032】
本明細書で使用される「サンプル」という用語は、対象から取得された血漿、血清、細胞、または組織を指す。組織または細胞サンプルの供給源は、固形組織(新鮮な、凍結された、及び/または保存された臓器もしくは組織サンプルまたは生検もしくは吸引物からのもの)、全血もしくは任意の血液成分、または血清、血漿、尿、唾液、汗液、もしくは滑液などの体液であり得る。一実施形態において、サンプルは、ヒト対象から取得された血漿サンプルである。
【0033】
本明細書で使用されるバイオマーカーの「レベル」または「量」という用語は、バイオマーカーの測定可能な量、例えばバイオマーカーのタンパク質レベルを指す。この量は、(a)単位体積もしくは細胞当たりの分子、モルもしくは重量で測定される絶対量、または(b)例えば濃度測定分析によって測定される相対量のいずれでもよい。
【0034】
本明細書で使用される場合、「既知の標準レベル」、「参照レベル」または「コントロールレベル」という用語は、同義に使用され、患者のサンプルに由来するバイオマーカーレベルを比較するために使用されるバイオマーカーの許容されるまたは既定のレベルを指す。一実施形態において、特定のバイオマーカー(防御タンパク質)の参照レベルと比較した場合、参照レベルからの偏差は、概して、病状または将来の病状の改善または悪化のいずれかを示す。一実施形態において、防御タンパク質の参照レベルと比較した場合、参照レベルからの偏差は、概して、対象における疾患進行の可能性の増加または減少を示す。参照レベルは、健康な(例えば、非糖尿病性)個人、またはESKDの素因を有することが知られている個人から採取されたサンプルから生成され得る。一実施形態において、本明細書に記載される防御タンパク質の参照レベルは、非糖尿病性対象におけるタンパク質のレベルである。
【0035】
本明細書で使用される場合、「同等のレベル」という用語は、別のバイオマーカーのレベル、例えばコントロールレベルと実質的に類似している、あるバイオマーカーのレベルを指す。一実施形態において、バイオマーカーのレベルがコントロールバイオマーカーレベルの1標準偏差以内にある場合、2つのバイオマーカーは同等のレベルを有する。別の実施形態では、バイオマーカーのレベルがコントロールバイオマーカーレベルのレベルの20%以下である場合、2つのバイオマーカーは同等のレベルを有する。
【0036】
本明細書で使用される場合、「推定糸球体濾過率」または「eGFR」という用語は、腎機能を推定するための手段を指す。一実施形態において、eGFRは、血清クレアチニンレベルの測定に基づいて判定され得る。別の実施形態では、eGFRは、血清シスタチンCレベルの測定に基づいて判定され得る。さらに別の実施形態では、eGFRは、CKD-EPIクレアチニン方程式を使用して判定され得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、「慢性腎臓病に関連する障害」または「慢性腎疾患に関連する障害」という用語は、経時的に腎臓の損傷を引き起こし得る腎機能異常に関連する疾患または病態を指す。慢性腎臓病に関連する障害の例は、1型糖尿病、2型糖尿病、高血圧、糸球体腎炎、間質性腎炎、多嚢胞性腎臓病、尿路の長期閉塞(例えば、前立腺肥大、腎臓結石、及び一部のがんなどの病態による)、膀胱尿管逆流、及び再発性腎臓感染症を含むが、これらに限定されない。慢性腎臓病及びそのステージ(CKD 1~5)は、通常、腎臓損傷(アルブミン尿)または推定糸球体濾過率の異常(腎臓損傷の有無にかかわらず、GFR<60[ml/分/1.73m])のいずれかの存在に基づくなど、相応に特性評価または分類され得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「ESKD進行者」、「進行者」または「急速進行者」という用語は、ESKD(本明細書ではESRDともいいう)を発症するリスクが高いものとして識別されている、慢性腎臓病に関連する障害を有する対象を指す。ESKD進行者は、対象をESKD発症リスクにさらし得る慢性腎臓病に関連する障害を有するが、この用語は、慢性腎臓病に関連する障害に通常関連付けられるリスクを超えて上昇したリスクが確認されている対象を含むことを意図する。一実施形態において、進行者は、非進行者コントロールレベルまたは正常アルブミン尿性コントロールよりも統計的に有意に低い、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、Testican-2、及び/またはDNAJC19のうちのいずれか1つ以上のレベルを有し、したがって、ESKDを発症する増加したリスクを有する。別の実施形態では、進行者は、非進行者コントロールレベルまたは正常アルブミン尿性コントロールよりも統計的に有意に低い、FGF20、TNFSF12、及び/またはANGPT1のうちのいずれか1つ以上のレベルを有し、したがって、ESKDを発症する増加したリスクを有する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「非進行者」という用語は、ESKDを発症する低減したリスクを有する、慢性腎臓病に関連する障害を有する対象を指す。一実施形態において、非進行者は、CKD(慢性腎臓病)のステージ1または2にあるが、防御タンパク質のレベルが(例えば、正常アルブミン尿性コントロールと比較して)上昇しているまたは同等であることに少なくとも部分的に起因して、ESKDに進行するリスクがより低い、慢性腎臓病に関連する障害を有する対象である。一実施形態において、非進行者は、進行者コントロールレベルよりも統計的に有意に高い、または正常アルブミン尿性コントロールよりも高いもしくはそれと同等である、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、Testican-2、及び/またはDNAJC19のうちのいずれか1つ以上のレベルを有する対象と定義される。別の実施形態では、非進行者は、進行者コントロールレベルよりも統計的に有意に高い、または正常アルブミン尿性コントロールよりも高いもしくはそれと同等である、FGF20、TNFSF12、及び/またはANGPT1のうちのいずれか1つ以上のレベルを有する対象と定義される。別の実施形態では、非進行者は、進行者コントロールレベルよりも統計的に有意に高い、または正常アルブミン尿性コントロールよりも高いもしくはそれと同等である、Testican-2のレベルを有する対象と定義される。一実施形態において、非進行者は、非糖尿病性ヒト対象である。非糖尿病性とは、糖尿病(II型)と診断されていない人物を指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「防御タンパク質」という用語は、ヒト対象におけるレベルが、腎機能低下、及び/またはESKDに進行するリスクの増加もしくは減少と関連付けられる、タンパク質を指す。本明細書で使用される防御タンパク質は、その存在またはレベルの上昇が進行性腎機能低下からの明らかな防御をもたらすタンパク質である。防御タンパク質の例としては、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、Testican-2、及び/またはDNAJC19が挙げられる。
【0041】
本明細書で使用される場合、「腎機能低下(renal decline)」または「RD」という用語(本明細書では「腎臓機能低下(kidney decline)」(KD)ともいう)は、腎機能異常に関連する病態を指す。一実施形態において、腎機能低下は、推定糸球体濾過率(eGFR)の少なくとも-3ml/分/年の変化(すなわち、eGFR損失≧3.0ml/分/年)と定義される。一実施形態において、腎機能低下は、推定糸球体濾過率(eGFR)の少なくとも-5ml/分/年の変化(すなわち、eGFR損失≧5.0ml/分/年)と定義される。一実施形態において、腎機能低下は、eGFRにおけるベースラインからの(少なくとも3か月にわたって確認された)≧40%の持続的な低下と定義される。
【0042】
「治療有効量」または「有効量」という用語は、生きている対象に投与された場合に、生きている対象に対する所望の効果を達成する量を指す。正確な量は処置の目的に依存し、当業者が公知の技術を使用することで確認可能である。当技術分野では公知のように、全身送達か局所送達か、年齢、体重、全体的健康状態、性別、食事、投与時間、薬物相互作用、及び病態の重篤度に合わせた調整が必要な場合があり、これは当業者が定型的な実験を用いることで確認可能である。例えば、生きている対象に投与される、本明細書に記載される薬剤の有効量は、ESKDを防止及び/または処置する量である。例えば、腎保護剤の場合、治療有効量は、慢性腎臓病のベースラインの臨床的に観察可能な徴候及び症状と比較して、観察可能な治療的有用性をもたらすことが示されている量であり得る。
【0043】
本明細書で使用する場合、「腎保護剤」という用語は、中程度に増加したアルブミン尿または糖尿病性腎症を有する対象における腎症の進行を防止し得るまたは遅延させ得る薬剤を指す。腎保護剤の例は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤及びアンジオテンシン-II受容体遮断薬(ARB)を含むが、これらに限定されない。一実施形態において、腎保護剤は、本明細書に記載される防御タンパク質、またはその均等物、例えば活性断片である。
【0044】
II.防御タンパク質
本開示は、ESKD(本明細書ではESRDともいう)に進行する対象/患者及び防御される者を識別するためにタンパク質レベルが使用され得る特定のバイオマーカーの発見に少なくとも部分的に基づいている。
【0045】
本明細書では、ヒト対象が進行性腎機能低下を発症するリスクを持つかどうかを識別する方法が開示される。当該方法は、それを必要とする対象からのサンプル(複数可)中の少なくとも1つの防御タンパク質のレベルを検出することを含む。酸性システインリッチ分泌タンパク質(SPARC)、C-Cモチーフケモカイン5(CCL5)、アミロイドベータA4タンパク質(APP)、血小板第4因子(PF4)、DNAJC19、アンジオポエチン-2(ANGPT1)、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー12(TNFSF12)、線維芽細胞成長因子20(FGF20)、及びTestican-2(SPOCK2)は、本明細書における研究により、そのレベルが腎臓病の非進行と相関する防御タンパク質として識別された。これらのレベルは、進行性疾患を示す、これらのタンパク質のレベルがより低い患者よりも高い。
【0046】
対象からの1つまたは複数のサンプルにおける1つまたは複数の防御タンパク質のレベルは、患者が進行性腎機能低下そして最終的にESKD(本明細書ではESRDともいう)を発症するリスクを判定するために、防御タンパク質の参照レベルを持つ1つまたは複数の防御タンパク質のレベルと比較され得る。
【0047】
本明細書で開示される方法では、防御タンパク質の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、または8つすべてのレベルが使用され得る。
【0048】
一実施形態において、患者が進行性腎機能低下を発症または継続するリスクを判定するために、線維芽細胞成長因子20(FGF20)、アンジオポエチン-2(ANGPT1)、及び腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー12(TNFSF12)の各々、またはそれらの組み合わせのレベルが参照レベルと比較される。一実施形態において、患者が進行性腎機能低下を発症または継続するリスクを判定するために、Testican-2のレベルが参照レベルと比較される。別の実施形態では、FGF20及びTNFSF12;FGF20及びANGPT1;TNFSF12及びANGPT1;ならびにFGF20、TNFSF12、及びANGPT1、FGF20及びTestican-2;ANGPT1及びTestican-2;TNFSF12及びTestican-2;FGF20、ANGPT1、及びTestican-2;ANGPT1、TNFSF12及びTestican-2;FGF20、TNFSF12及びTestican-2;またはFGF20、ANGPT1、TNFSF12及びTestican-2の各々のレベルが、本明細書で開示される方法において使用される。
【0049】
一実施形態において、患者が進行性腎機能低下を発症または継続するリスクを判定するために、線維芽細胞成長因子20(FGF20);SPARC、CCL5、APP、PF4及びANGPT1を含む防御タンパク質の第1の群(第1群の防御タンパク質)からの防御タンパク質;DNAJC19及びTNFSF12を含む防御タンパク質の第2の群(第2群の防御タンパク質)からの防御タンパク質の各々、またはそれらの組み合わせ、例えば、第1群及び第2群の防御タンパク質、またはFGF20及び第1群もしくは第2群のいずれかの防御タンパク質のレベルが参照レベルと比較される。
【0050】
本明細書で識別される9種の防御タンパク質について記載する表を以下に提供する。
【表1】
【0051】
対象からのサンプル中で防御タンパク質レベルが検出されたら、そのレベルが進行者プロファイル(リスク)または非進行者(防御)と一致するかどうかを判定するために、そのレベルが参照レベルと比較される。
【0052】
進行性腎機能低下の発生は、患者が正常な腎機能を有し、それがほぼ直線的にESKDに進行するときに始まるが、推定糸球体濾過率(eGFR)の傾きとして表される低下速度は、-72~3.0ml/分/年の範囲で個人ごとに異なる。
【0053】
一実施形態において、防御タンパク質の参照レベルは、非糖尿病性ヒト対象のレベルであり、参照レベルと比較して低い防御タンパク質のレベルは、ヒト対象が進行性腎機能低下を発症するリスクを持つことを示す。あるいは、参照レベルと比較して同等のまたはより高い防御タンパク質のレベルは、ヒト対象が進行性腎機能低下を発症するリスクを持たないことを示す。
【0054】
一実施形態において、検査用のサンプルを提供するヒト対象は、糖尿病または高血圧など、進行性腎機能低下に関連する病態を有する対象である。別の実施形態では、対象は、腎機能異常を有する場合があり、腎破壊を軽減するために、さらなる腎機能低下のリスクを判定することが望ましい。一実施形態において、対象は、I型糖尿病またはII型糖尿病を有する。
【0055】
糖尿病を有する対象については、過去20年間にわたるDKDの防止及び処置のための血糖コントロールの改善及び腎保護療法の進歩にもかかわらず、慢性腎臓病及びESKDのリスクは依然として比較的高い(Rosolowsky et al.,J Am Soc Nephrol 22:545-553(2011)、de Boer et al.,JAMA 305:2532-2539(2011))。3000名を超える糖尿病対象の縦断的研究であるJoslin Kidney Studyからの所見は、進行性腎機能低下が、ESKDへの進行の根底にあるDKDの主要な臨床兆候であることを実証している(Perkins et al.,N Engl J Med 348:2285-2293(2003)、Perkins et al.,J Am Soc Nephrol 18:1353-1361(2007)、Krolewski,Diabetes Care 38,954-962(2015)、Krolewski et al.,Kidney International 91:1300-1311(2017))。
【0056】
血糖コントロールが改善され、ほぼ例外なく実施されている腎保護療法が進歩しているにもかかわらず、糖尿病患者におけるESKDの発生率は増加し続けている。
【0057】
糖尿病性腎臓病(DKD)と、その重要な臨床兆候であり、末期腎臓病(ESKD;本明細書ではESRDともいう)につながる進行性腎機能低下とは、糖尿病を有する対象にとって大きな健康上の負担である。進行性腎機能低下の根底にある疾患プロセスには、進行性腎機能低下を防ぐ因子/経路だけでなく、この転帰のリスクを増加させる因子/経路も含まれる。7~15年間追跡された長期にわたる1型及び2型糖尿病ならびに様々なステージのDKDを有する3つの独立コホートの対象からの循環タンパク質のノンターゲットプロテオミクスプロファイリングを使用することで、進行性腎機能低下及びESKDへの進行からの防御に関連付けられる、上昇した3つの血漿タンパク質、線維芽細胞成長因子20(FGF20;OR=0.69;95%CI:0.54-0.88)、アンジオポエチン-1(ANGPT1;OR=0.72;95%CI:0.57-0.91)、及び腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー12(TNFSF12;OR=0.75;95%CI:0.59-0.95)が識別された。これら3つの防御タンパク質の複合効果は、フォローアップの開始時にこれらのタンパク質の濃度が低い(中央値を下回る)対象ではESKDの累積リスクが高かったのに対し、3つすべてのタンパク質のベースライン濃度が高い(中央値を上回る)対象におけるESKDの累積リスクが非常に低かったことにより、十分に実証された。この防御効果は、循環炎症性タンパク質及び重要な臨床的共変量とは無関係に強く現れ、正常な腎機能を持つ糖尿病対象の独立コホートで確認された。3つの防御タンパク質は、ESKDへの進行のリスクに応じて糖尿病対象を層別化するためのバイオマーカーとして役立ち得る。
【0058】
一実施形態において、対象からの検査サンプルは血漿サンプルである。1つ以上の防御タンパク質の検査には複数のサンプルが使用され得る。あるいは、1つのサンプルを使用して1つ以上の防御タンパク質を検査することもできる。
【0059】
防御タンパク質の検出は、標準的なイムノアッセイに従って判定することができる。例えば、ELISAまたは電気化学発光検出(例えばMeso Sector S600(Meso Scale Diagnostics))。
【0060】
本明細書には、ヒト対象の進行性腎機能低下を識別またはモニタリングするためのタンパク質アレイも含まれる。一実施形態において、前記タンパク質アレイは、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12、ヒトANGPT1、及び/またはヒトTestican-2に特異的な抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0061】
別の実施形態では、本開示は、ヒト対象の進行性腎機能低下を識別またはモニタリングするためのタンパク質アレイを提供し、前記タンパク質アレイは、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12及びヒトANGPT1、ヒトSPARC、ヒトCCL5、ヒトAPP、ヒトPF4、ヒトDNAJC19、ヒトTestican-2、またはそれらの組み合わせに特異的な抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0062】
一実施形態において、アレイは、タンパク質バイオマーカーに特異的に結合するための複数のプローブを含み、当該タンパク質バイオマーカーは、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12、及びヒトANGPT1のうちの少なくとも1つ以上である。
【0063】
一実施形態において、アレイは、タンパク質バイオマーカーに特異的に結合するための複数のプローブを含み、当該タンパク質バイオマーカーは、ヒトFGF20、ヒトTNFSF12、ヒトANGPT1、ヒトSPARC、ヒトCCL5、ヒトAPP、ヒトPF4、ヒトDNAJC19、ヒトTestican-2のうちの少なくとも1つ以上である。
【0064】
本明細書に記載される研究では、サンプル中のレベルに応じて、ESKDを発症する、もしくはESKDにつながる継続的な進行性腎臓病を有する可能性が高い患者、またはESKDへの進行から防御される患者を識別するために使用され得る、9つの防御タンパク質(すなわち、酸性システインリッチ分泌タンパク質(SPARC)、C-Cモチーフケモカイン5(CCL5)、アミロイドベータA4タンパク質(APP)、血小板第4因子(PF4)、DNAJC19、アンジオポエチン-2(ANGPT1)、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー12(TNFSF12)、線維芽細胞成長因子20(FGF20)、及びTestican-2が識別される。
【0065】
SPARC
本開示の防御タンパク質の1つは、酸性システインリッチ分泌タンパク質(SPARC)である。
【0066】
「酸性システインリッチ分泌タンパク質」遺伝子、または「SPARC」遺伝子という用語は、「オステオネクチン」、「ONT」、「基底膜タンパク質40」、「BM-40」及び「OI17」としても知られ、形態形成、リモデリング、及び創傷修復が行われている組織において高レベルで発現される遺伝子を指す。SPARC遺伝子は、SPARCと呼ばれるタンパク質をコードする。SPARCは、モジュール構成が系統発生的に保存されている32~35kDのCa2+結合マトリクス細胞糖タンパク質である(Martinek,et al.Dev. Genes Evol.212:124-133)。SPARCは、細胞外空間のI型コラーゲンに結合する(Mendozo-Londono,et al.Am J Hum Genet.2015 Jun 4;96(6):979-985)。生化学的研究は、SPARCが、ネットワーク形成コラーゲンIVとのCa2+依存性相互作用を含め、いくつかのコラーゲン性及び非コラーゲン性ECM分子に結合することを示している。SPARCタンパク質は、Follistin様ドメイン、Kazal様ドメイン、及びEFハンドドメインの3つのドメインを含み、2つのカルシウム結合部位を含む。Follistin様酸性ドメインは、低い親和性で5~8つのCa2+に結合し、EFハンドループは、高い親和性でCa2+イオンに結合する。骨において、SPARCは骨芽細胞によって発現される。SPARCヌルマウスは、骨形成の欠陥により進行性骨粗鬆症を発症する(Delany,et al.J.Clin.Invest.2000;105:915-923)。
【0067】
SPARC多型、特に3’UTRの多型は、骨におけるSPARCの蓄積に影響を及ぼし、骨形成のばらつき、骨質量のばらつきに関連しており、成人における骨粗鬆症の発病に関与している可能性がある(Delany,et al.(2016)Osteoporos. Int.2008;19:969-978、Dole,et al.(2016)J.Bone Miner. Res.2015;30:723-732)。SPARCのホモ接合性変異は、ヒトにおける重篤な骨脆弱性を引き起こす可能性がある(Mendozo-Londono,et al.Am J Hum Genet.2015 Jun 4;96(6):979-985)。
【0068】
SPARC遺伝子を保有するヒト染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、GenBankで入手可能なGenome Reference Consortium Human Build 38(Human Genome build 38またはGRCh38ともいう)で確認することができる。SPARC遺伝子を保有するヒト第5染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、ヒト第5染色体のヌクレオチド151,661,096~151,686,975に対応する、GenBankアクセッション番号NC_000005.10でも確認することができる。この遺伝子には、異なるアイソフォームをコードする3つの転写物バリアントが見出されている。SPARCの例示的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号NM_003118.4(Homo sapiens SPARC転写物バリアント1)で確認することができる。ヒトSPARC転写物バリアント1のアミノ酸配列を以下に示す。
MRAWIFFLLCLAGRALAAPQQEALPDETEVVEETVAEVTEVSVGANPVQVEVGEFDDGAEETEEEVVAENPCQNHHCKHGKVCELDENNTPMCVCQDPTSCPAPIGEFEKVCSNDNKTFDSSCHFFATKCTLEGTKKGHKLHLDYIGPCKYIPPCLDSELTEFPLRMRDWLKNVLVTLYERDEDNNLLTEKQKLRVKKIHENEKRLEAGDHPVELLARDFEKNYNMYIFPVHWQFGQLDQHPIDGYLSHTELAPLRAPLIPMEHCTTRFFETCDLDNDKYIALDEWAGCFGIKQKDIDKDLVI(配列番号1)
【0069】
SPARC配列のさらなる例は、公的に利用可能なデータベース、例えば、GenBank、OMIM、及びUniProt(P09486)で確認することができる。SPARCに関する追加情報は、例えば、遺伝子6678に言及するNCBIウェブサイトで確認することができる。本明細書で使用されるSPARCという用語は、臨床バリアントデータベースにおいて、例えば、NM_003118.4という用語に言及するNCBI臨床バリアントウェブサイトで提供されているバリアントを含むSPARC遺伝子のバリエーションも指す。
【0070】
CCL5
本開示の防御タンパク質の1つは、C-Cモチーフケモカインリガンド5(CCL5)である。
【0071】
「C-Cモチーフケモカインリガンド5」遺伝子、または「CCL5」遺伝子という用語は、「RANTES」、「SCYA5」、「SISd」、「EoCP」及び「D17S136E」としても知られ、白血球を炎症部位に動員する際に活発に機能する、T細胞、好酸球、及び好塩基球の走化因子であるCCL5タンパク質をコードする遺伝子を指す。CCL5タンパク質は、単一のドメインを持つ8kDタンパク質である。CCL5は、血液単球、メモリーTヘルパー細胞、及び好酸球の走化性因子である。CCL5は、好塩基球からのヒスタミンの放出を引き起こし、好酸球を活性化し、CCR1、CCR3、CCR4、及びCCR5を含むいくつかのケモカイン受容体を活性化することが知られている。CCL5及びその同族受容体の1つであるCCR5は、CD8+T細胞によって産生される主要なHIV抑制因子の1つとして最もよく知られており、組換えCCL5タンパク質は、HIV-1、HIV-2、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)の様々な株の用量依存性阻害を誘導する。CCL5は、高濃度ではチロシンキナーゼ経路を通してT細胞を活性化し(Wong et al.J Biol Chem 273:309-314(1998)、Bacon et al.Science 269:1727-1730(1995))、T細胞によるIFNγの産生をもたらし(Appay et al.Int Immunol 12:1173-1182(2000))、樹状細胞の成熟を誘導すると考えられている(Fischer,et al.J Immunol 167:1637-1643(2001))。滑液CD8+T細胞では高レベルのCCL5タンパク質が示されており、T細胞受容体トリガリングによって滑液CD8+T細胞からCCL5タンパク質が急速に放出される(Pharoah et al.Arthritis Res Ther 8(2):R50(2006))。CCL5は、がん細胞に直接シグナルを伝達して、生存、浸潤、及び幹細胞の再生を促進する。乳癌では、MSCによって発現されたCCL5が乳癌細胞に作用して、浸潤及び転移を促進する(Karnoub et al.Nature 449(7162):557-63(2007))。
【0072】
CCL5遺伝子を保有するヒト染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、GenBankで入手可能なGenome Reference Consortium Human Build 38で確認することができる。CCL5遺伝子は、第17染色体のq腕にクラスターを形成するいくつかのケモカイン遺伝子のうちの1つである。CCL5遺伝子を保有するヒト第17染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、ヒト第17染色体のヌクレオチド35871491~35880360に対応する、GenBankアクセッション番号NC_000017.11でも確認することができる。この遺伝子には、異なるアイソフォームをコードする4つの転写物バリアントが見出されている。CCL5の例示的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号NM_002985.3(Homo sapiens CCL5転写物バリアント1)で確認することができる。ヒトCCL5転写物バリアント1のアミノ酸配列を以下に示す。
MKVSAAALAVILIATALCAPASASPYSSDTTPCCFAYIARPLPRAHIKEYFYTSGKCSNPAVVFVTRKNRQVCANPEKKWVREYINSLEMS(配列番号2)
【0073】
CCL5配列のさらなる例は、公的に利用可能なデータベース、例えば、GenBank、OMIM、及びUniProt(P13501)で確認することができる。CCL5に関する追加情報は、例えば、遺伝子6352に言及するNCBIウェブサイトで確認することができる。本明細書で使用されるCCL5という用語は、臨床バリアントデータベースにおいて、例えば、NM_002985.3という用語に言及するNCBI臨床バリアントウェブサイトで提供されているバリアントを含むCCL5遺伝子のバリエーションも指す。
【0074】
APP
別の本開示の防御タンパク質は、アミロイドベータ前駆体タンパク質(APP)である。
【0075】
「アミロイドベータ前駆体タンパク質」遺伝子、または「APP」遺伝子という用語は、「ABPP」、「A4」、「AD1」、「ペプチダーゼネキシン-II」及び「PreA4」としても知られ、アミロイドベータA4タンパク質をコードする遺伝子を指す。APPは、短い細胞質尾部と、そのE1及びE2ドメインに銅結合部位を含む大きな細胞外ドメインとを有するI型膜貫通タンパク質である(Kong et al.Eur Biophys J 37(3):269-79(2008)、Dahms et al.J Mol Biol 416(3):438-52(2012))。APPタンパク質は、アルツハイマー病の発病において中心的な役割を果たす(Masters et al.Brain 129(Pt 11):2823-39(2006))。APPは、細胞表面受容体としての細胞間シナプス接着、神経突起成長、ニューロン接着、軸索形成、シナプス形成、細胞移動の促進、及びタンパク質間相互作用を介した転写制御を含むシナプスプロセスにも不可欠である(Muller et al.Cold Spring Harb Perspect Med 2(2):a006288(2012))。Appは、銅イオンの還元を通じて銅の恒常性/酸化ストレスに関与している。In vitroでは、銅金属酸化APPがニューロンの死を直接誘導するか、またはCu2+媒介性の低密度リポタンパク質の酸化によって強化される(White et al.J Neurosci 19(21):9170-9(1999)、Maynard et al.J Biol Chem 277(47):44670-6(2002))。APPノックアウトマウスは認知障害を示し、シナプス前またはシナプス後コンパートメントのいずれかにおけるAPLP2ノックアウトバックグラウンドでのAPPの不活性化により、神経筋シナプスの欠陥が引き起こされた(Muller et al.Cold Spring Harb Perspect Med 2(2):a006288(2012))。
【0076】
APP遺伝子を保有するヒト染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、GenBankで入手可能なGenome Reference Consortium Human Build 38で確認することができる。APP遺伝子を保有するヒト第21染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、ヒト第21染色体のヌクレオチド25880550~26171128に対応する、GenBankアクセッション番号NC_000021.9でも確認することができる。この遺伝子には、異なるアイソフォームをコードする複数の転写物バリアントが見出されている。APPの例示的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号NM_000484.4(Homo sapiens APP転写物バリアント1)で確認することができる。ヒトAPP転写物バリアント1のアミノ酸配列を以下に示す。
MLPGLALLLLAAWTARALEVPTDGNAGLLAEPQIAMFCGRLNMHMNVQNGKWDSDPSGTKTCIDTKEGILQYCQEVYPELQITNVVEANQPVTIQNWCKRGRKQCKTHPHFVIPYRCLVGEFVSDALLVPDKCKFLHQERMDVCETHLHWHTVAKETCSEKSTNLHDYGMLLPCGIDKFRGVEFVCCPLAEESDNVDSADAEEDDSDVWWGGADTDYADGSEDKVVEVAEEEEVAEVEEEEADDDEDDEDGDEVEEEAEEPYEEATERTTSIATTTTTTTESVEEVVREVCSEQAETGPCRAMISRWYFDVTEGKCAPFFYGGCGGNRNNFDTEEYCMAVCGSAMSQSLLKTTQEPLARDPVKLPTTAASTPDAVDKYLETPGDENEHAHFQKAKERLEAKHRERMSQVMREWEEAERQAKNLPKADKKAVIQHFQEKVESLEQEAANERQQLVETHMARVEAMLNDRRRLALENYITALQAVPPRPRHVFNMLKKYVRAEQKDRQHTLKHFEHVRMVDPKKAAQIRSQVMTHLRVIYERMNQSLSLLYNVPAVAEEIQDEVDELLQKEQNYSDDVLANMISEPRISYGNDALMPSLTETKTTVELLPVNGEFSLDDLQPWHSFGADSVPANTENEVEPVDARPAADRGLTTRPGSGLTNIKTEEISEVKMDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIATVIVITLVMLKKKQYTSIHHGVVEVDAAVTPEERHLSKMQQNGYENPTYKFFEQMQN(配列番号3)
【0077】
APP配列のさらなる例は、公的に利用可能なデータベース、例えば、GenBank、OMIM、及びUniProt(P05067)で確認することができる。APPに関する追加情報は、例えば、遺伝子351に言及するNCBIウェブサイトで確認することができる。本明細書で使用されるAPPという用語は、臨床バリアントデータベースにおいて、例えば、NM_000484.4という用語に言及するNCBI臨床バリアントウェブサイトで提供されているバリアントを含むAPP遺伝子のバリエーションも指す。
【0078】
PF4
本開示の防御タンパク質の1つは、血小板第4因子(PF4)である。
【0079】
「血小板第4因子」遺伝子、または「PF4」遺伝子という用語は、「CXCL4」、「ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド4」、「オンコスタチン-A」、「SCYB4」及び「Iroplact」としても知られ、PF4タンパク質をコードする遺伝子を指す。PF4は、ヘパリンに対して高い親和性を有するホモ四量体の形態で活性化血小板のアルファ顆粒から主に放出されるケモカインであり、血小板凝集に関与している。PF4は、種々の免疫細胞によって分泌されることが知られている(Levine et al.J Biol Chem 251(2):324-8(1976)、Bon et al.N Engl J Med 370(5):433-43(2014))。PF4は、多数の他の細胞型に対して走化性があり、造血、血管新生、及びT細胞機能の阻害剤としても機能する。このタンパク質は、Plasmodium falciparumに対する抗菌活性も呈する。PF4は、骨髄異形成症候群、マラリア、HIV-1、アテローム性動脈硬化症、炎症性腸疾患、及び関節リウマチを含む種々の炎症性疾患の病理にも関係するとされている(Affandi et al.Eur J Immunol 48(3):522-531(2018)、Yeo et al.Ann Rheum Dis 75(4):763-71(2016))。
【0080】
APP遺伝子を保有するヒト染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、GenBankで入手可能なGenome Reference Consortium Human Build 38で確認することができる。PF4遺伝子を保有するヒト第4染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、ヒト第4染色体のヌクレオチド73,980,811~73,982,027に対応する、GenBankアクセッション番号NC_000004.12でも確認することができる。この遺伝子については1つの転写物が識別されている。PF4の例示的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号NM_002619.4(Homo sapiens PF4転写物バリアント1)で確認することができる。ヒトPF4転写物バリアント1のアミノ酸配列を以下に示す。
MSSAAGFCASRPGLLFLGLLLLPLVVAFASAEAEEDGDLQCLCVKTTSQVRPRHITSLEVIKAGPHCPTAQLIATLKNGRKICLDLQAPLYKKIIKKLLES(配列番号4)
【0081】
PF4配列のさらなる例は、公的に利用可能なデータベース、例えば、GenBank、OMIM、及びUniProt(P02776)で確認することができる。PF4に関する追加情報は、例えば、遺伝子5196に言及するNCBIウェブサイトで確認することができる。本明細書で使用されるPF4という用語は、臨床バリアントデータベースにおいて、例えば、NM_002619.4という用語に言及するNCBI臨床バリアントウェブサイトで提供されているバリアントを含むPF4遺伝子のバリエーションも指す。
【0082】
DNAJC19
本開示の防御タンパク質の1つは、DnaJ熱ショックタンパク質ファミリー(Hsp40)メンバーC19(DNAJC19)である。
【0083】
「DnaJ熱ショックタンパク質ファミリー(Hsp40)メンバーC19」遺伝子、または「DNAJC19」遺伝子という用語は、「TIMM14」、「TIM14」、「PAM18」、及び「ミトコンドリア輸入内膜トランスロカーゼサブユニットTIM14」としても知られ、DNAJC19タンパク質をコードする遺伝子を指す。DNAJC19タンパク質は、DNAJタンパク質ファミリーの残りと比較して異常な構造を有する59個のアミノ酸で構成される6.29kDaのタンパク質である。DNAJC19のDNAJドメインは、N末端ではなくC末端に位置しており、その膜貫通ドメインはDNAJC19への膜結合局在性を付与するが、他のDNAJタンパク質はサイトゾル性である(Zong et al.Circulation Research 113(9):1043-53)。DNAJC19は、ミトコンドリアマトリクス内へのミトコンドリアプレタンパク質のATP依存性輸入に必要である。DNAJC19のJ-ドメインは、この輸送を駆動するためにmtHsp70 ATPase活性を刺激する(Mokranjac et al.EMBO J 22(19):4945-56)。DNAJC19の欠陥は、運動失調を伴う拡張型心筋症(DCMA)、成長不全、小球性貧血、及び男性生殖器の異常と関連付けられている。DNAJC19は、血族のフッタライト集団に関する研究で初めてDCMAに関係していることが示され、これはその後、他の欧州系集団でも確認されている(Ojala et al.Pediatric Research 72(4):432-7)。臨床において、DNAJC19変異は、3-メチルグルタコン酸レベルの上昇、ミトコンドリアの窮迫、拡張型心筋症、心電図におけるQT間隔の延長、及び小脳失調のスクリーニングによって検出された(Ojala et al.Pediatric Research 72(4):432-7、Koutras et al.Frontiers in Cellular Neuroscience 8:191)。
【0084】
DNAJC19遺伝子を保有するヒト染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、GenBankで入手可能なGenome Reference Consortium Human Build 38で確認することができる。DNAJC19遺伝子を保有するヒト第3染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、ヒト第3染色体のヌクレオチド180983709~180989838に対応する、GenBankアクセッション番号NC_000003.12でも確認することができる。DNAJC19の例示的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号NM_145261.4(Homo sapiens DnaJ熱ショックタンパク質ファミリー(Hsp40)メンバーC19(DNAJC19)転写物バリアント1)で確認することができる。ヒトDNAJC19のアミノ酸配列を以下に示す。
MASTVVAVGLTIAAAGFAGRYVLQAMKHMEPQVKQVFQSLPKSAFSGGYYRGGFEPKMTKREAALILGVSPTANKGKIRDAHRRIMLLNHPDKGGSPYIAAKINEAKDLLEGQAKK(配列番号5)
【0085】
DNAJC19配列のさらなる例は、公的に利用可能なデータベース、例えば、GenBank、OMIM、及びUniProt(Q96DA6)で確認することができる。DNAJC19に関する追加情報は、例えば、遺伝子131118に言及するNCBIウェブサイトで確認することができる。本明細書で使用されるDNAJC19という用語は、臨床バリアントデータベースにおいて、例えば、NM_145261.4という用語に言及するNCBI臨床バリアントウェブサイトで提供されているバリアントを含むDNAJC19遺伝子のバリエーションも指す。
【0086】
ANGPT1
本開示の防御タンパク質の1つは、アンジオポエチン1(ANGPT1)である。
【0087】
「アンジオポエチン1」遺伝子、または「ANGPT1」遺伝子という用語は、「KIAA0003」、「ANG-1」、「AGP1」、及び「AGPT」としても知られ、ANGPT1タンパク質をコードする遺伝子を指す。ANGPT1は、分泌型70kDa糖タンパク質であり、成長因子のアンジオポエチンファミリーのメンバーである。ANGPT1は、主に内皮細胞に見られるチロシンキナーゼ受容体Tekの主要なアゴニストである。ANGPT1は、血管支持細胞ならびに腎臓の有足細胞及び肝臓のITO細胞などの特殊化された周皮細胞によって産生される(Satchell et al.J Am Soc Nephrol 13(2):544-550(2002))。ANGPT1は、血管新生の制御、内皮細胞の生存、増殖、遊走、接着及び細胞の拡散、アクチン細胞骨格の再構成、ならびに血管静止状態の維持において重要な役割を果たす(Jeansson et al.J Clin Invest 121(6):2278-2289(2011))。従来のANGPT1またはTekノックアウトマウスは、同様の異常な血管表現型及び心臓肉柱形成の喪失を伴い、E9.5からE12.5の間の致死率を呈するため、ANGPT1/Tek経路は正常な発達にとって重要である(Suri et al.Cell 87(7):1171-80(1996)、Tachibana et al.Mol Cell Biol 25(11):4693-702 (2005))。
【0088】
ANGPT1遺伝子を保有するヒト染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、GenBankで入手可能なGenome Reference Consortium Human Build 38で確認することができる。ANGPT1遺伝子を保有するヒト第8染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、ヒト第8染色体のヌクレオチド107249482~107497918に対応する、GenBankアクセッション番号NC_000008.11でも確認することができる。ANGPT1の例示的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号NM_001146.5(Homo sapiensアンジオポエチン1(ANGPT1)、転写物バリアント1)で確認することができる。ヒトANGPT1のアミノ酸配列を以下に示す。
MTVFLSFAFLAAILTHIGCSNQRRSPENSGRRYNRIQHGQCAYTFILPEHDGNCRESTTDQYNTNALQRDAPHVEPDFSSQKLQHLEHVMENYTQWLQKLENYIVENMKSEMAQIQQNAVQNHTATMLEIGTSLLSQTAEQTRKLTDVETQVLNQTSRLEIQLLENSLSTYKLEKQLLQQTNEILKIHEKNSLLEHKILEMEGKHKEELDTLKEEKENLQGLVTRQTYIIQELEKQLNRATTNNSVLQKQQLELMDTVHNLVNLCTKEGVLLKGGKREEEKPFRDCADVYQAGFNKSGIYTIYINNMPEPKKVFCNMDVNGGGWTVIQHREDGSLDFQRGWKEYKMGFGNPSGEYWLGNEFIFAITSQRQYMLRIELMDWEGNRAYSQYDRFHIGNEKQNYRLYLKGHTGTAGKQSSLILHGADFSTKDADNDNCMCKCALMLTGGWWFDACGPSNLNGMFYTAGQNHGKLNGIKWHYFKGPSYSLRSTTMMIRPLDF(配列番号6)
【0089】
ANGPT1配列のさらなる例は、公的に利用可能なデータベース、例えば、GenBank、OMIM、及びUniProt(Q15389)で確認することができる。ANGPT1に関する追加情報は、例えば、遺伝子284に言及するNCBIウェブサイトで確認することができる。本明細書で使用されるANGPT1という用語は、臨床バリアントデータベースにおいて、例えば、NM_001146.5という用語に言及するNCBI臨床バリアントウェブサイトで提供されているバリアントを含むANGPT1遺伝子のバリエーションも指す。
【0090】
TNFSF12
本開示の防御タンパク質の1つは、腫瘍壊死因子スーパーファミリーメンバー12(TNFSF12)である。
【0091】
「腫瘍壊死因子スーパーファミリーメンバー12」遺伝子、または「TNFSF12」遺伝子という用語は、「APO3L」、「DR3LG」、「TWEAK」、及び「TNLG4A」としても知られ、TNFSF12タンパク質をコードする遺伝子を指す。TNFSF12は、免疫系の制御において重要な役割を果たすタンパク質の腫瘍壊死因子(TNF)ファミリーのメンバーである。TNFSF12は、多くの組織で広く発現され、いくつかの細胞株でインターロイキン-8合成を誘導する(Chicheportiche et al.Cell Biology and Metabolism 272(51):32401-32410(1997))。ヒト腺癌細胞株HT29は、TNFSF12及びインターフェロンγの両方の存在下でアポトーシスを起こした。白血球は、ヒトの休止単球及び活性化単球、樹状細胞ならびにナチュラルキラー細胞を含むTNFSF12の主な供給源である(Maecker et al.Cell 123(5):931-44)。TNFSF12は、IFN-γ及びIL-12の産生を抑制し、先天性応答及びその適応TH1免疫への移行を抑える。TNFSF12はまた、内皮細胞の増殖及び遊走を促進し、血管新生の制御因子として作用する。
【0092】
TNFSF12遺伝子を保有するヒト染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、GenBankで入手可能なGenome Reference Consortium Human Build 38で確認することができる。TNFSF12遺伝子を保有するヒト第17染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、ヒト第17染色体のヌクレオチド7549058~7557881に対応する、GenBankアクセッション番号NC_000017.11でも確認することができる。TNFSF12の例示的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号NM_003809.3(Homo sapiens TNFスーパーファミリーメンバー12(TNFSF12)、転写物バリアント1)で確認することができる。ヒトTNFSF12のアミノ酸配列を以下に示す。
MAARRSQRRRGRRGEPGTALLVPLALGLGLALACLGLLLAVVSLGSRASLSAQEPAQEELVAEEDQDPSELNPQTEESQDPAPFLNRLVRPRRSAPKGRKTRARRAIAAHYEVHPRPGQDGAQAGVDGTVSGWEEARINSSSPLRYNRQIGEFIVTRAGLYYLYCQVHFDEGKAVYLKLDLLVDGVLALRCLEEFSATAASSLGPQLRLCQVSGLLALRPGSSLRIRTLPWAHLKAAPFLTYFGLFQVH(配列番号7)
【0093】
TNFSF12配列のさらなる例は、公的に利用可能なデータベース、例えば、GenBank、OMIM、及びUniProt(O43508)で確認することができる。TNFSF12に関する追加情報は、例えば、遺伝子8742に言及するNCBIウェブサイトで確認することができる。本明細書で使用されるTNFSF12という用語は、臨床バリアントデータベースにおいて、例えば、NM_003809.3という用語に言及するNCBI臨床バリアントウェブサイトで提供されているバリアントを含むTNFSF12遺伝子のバリエーションも指す。
【0094】
FGF20
別の本開示の防御タンパク質は、線維芽細胞成長因子20(FGF20)である。
【0095】
「線維芽細胞成長因子20」遺伝子、または「FGF20」遺伝子という用語は、「RHDA2」としても知られ、FGF20タンパク質をコードする遺伝子を指す。FGF20は、主に正常な脳、特に小脳で発現する。ラットホモログは脳で優先的に発現され、in vitroで中脳ドーパミン作動性ニューロンの生存を向上させることができる。FGF20は、広範な分裂促進活性及び細胞生存活性を有し、細胞成長、形態形成、組織修復、腫瘍成長、浸潤、及び胚発生を含む種々の生物学的プロセスに関与している線維芽細胞成長因子(FGF)ファミリーのメンバーである(Koga et al.Biochemical and Biophysical Research Communications 261(3):756-65)。FGF20の遺伝子多型は、パーキンソン病に関係するとされている(Zhao et al.Neurol Sci 37(7):1119-26(2016)、Zhu et al.Neurol Sci35(12)(2014))。
【0096】
FGF20遺伝子を保有するヒト染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、GenBankで入手可能なGenome Reference Consortium Human Build 38で確認することができる。FGF20遺伝子を保有するヒト第8染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、ヒト第8染色体のヌクレオチド16992181~17002345に対応する、GenBankアクセッション番号NC_000008.11でも確認することができる。FGF20の例示的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号NM_019851.3(Homo sapiens線維芽細胞成長因子20(FGF20))で確認することができる。ヒトFGF20のアミノ酸配列を以下に示す。
MAPLAEVGGFLGGLEGLGQQVGSHFLLPPAGERPPLLGERRSAAERSARGGPGAAQLAHLHGILRRRQLYCRTGFHLQILPDGSVQGTRQDHSLFGILEFISVAVGLVSIRGVDSGLYLGMNDKGELYGSEKLTSECIFREQFEENWYNTYSSNIYKHGDTGRRYFVALNKDGTPRDGARSKRHQKFTHFLPRPVDPERVPELYKDLLMYT(配列番号8)
【0097】
FGF20配列のさらなる例は、公的に利用可能なデータベース、例えば、GenBank、OMIM、及びUniProt(Q9NP95)で確認することができる。FGF20に関する追加情報は、例えば、遺伝子26281に言及するNCBIウェブサイトで確認することができる。本明細書で使用されるFGF20という用語は、臨床バリアントデータベースにおいて、例えば、NM_019851.3という用語に言及するNCBI臨床バリアントウェブサイトで提供されているバリアントを含むFGF20遺伝子のバリエーションも指す。
【0098】
Testican-2
本明細書に記載される方法及び組成物においてマーカーとして使用され得る別の防御タンパク質は、Testican-2である。
【0099】
ヒトTestican-2タンパク質は、TICN2またはKIAA0275としても知られるSPOCK2遺伝子によってコードされている。Testican-2は、グリコサミノグリカンと結合して細胞外マトリクスの一部を形成する。このタンパク質は、チログロブリン1型ドメイン、フォリスタチン様ドメイン、及びカルシウム結合ドメインを含有し、酸性C末端領域にグリコサミノグリカン付着部位を有する。SPOCK(SPARC/オステオネクチンCWCV及びKazal様ドメイン)は、分泌型プロテオグリカンをコードし、3つの既知のホモログ、SPOCK1、SPOCK2、及びSPOCK3を有する。SPOCKは初めは精漿GAG含有ペプチドの前駆形態として特性評価され、後にクローニングされ、コンドロイチン/ヘパリン硫酸プロテオグリカン(HSPG)として識別された。SPOCK1及びSPOCK2のプロテオグリカンは、神経細胞の付着及び神経突起の伸長を阻害する。さらに、SPOCK2の多型は、未熟児によく見られる慢性呼吸器疾患である気管支肺異形成への易罹患性に関係する遺伝形質であることが最近判明し(Hadchouel et al.,Am J Respir Crit Care Med.,2011,184(10):1164-70)、肺上皮細胞のウイルス感染に対する防御バリアとして機能する(Ahn et al.,J Virol.,2019,93(20):e00662-19)。
【0100】
Testican-2遺伝子(SPOCK2)を保有するヒト染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、GenBankで入手可能なGenome Reference Consortium Human Build 38で確認することができる。Testican-2遺伝子を保有するヒト第10染色体のゲノム領域のヌクレオチド配列は、例えば、ヒト第10染色体のヌクレオチド72059034~72095313に対応する、GenBankアクセッション番号NC_000010.11でも確認することができる。Testican-2の例示的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号NM_001244950.2(Homo sapiens SPARC/オステオネクチン、cwcv及びkazal様ドメインプロテオグリカン2(SPOCK2)、転写物バリアント3)で確認することができる。ヒトTestican-2(アイソフォーム2前駆体)のアミノ酸配列を以下に示す。
MRAPGCGRLVLPLLLLAAAALAEGDAKGLKEGETPGNFMEDEQWLSSISQYSGKIKHWNRFRDEVEDDYIKSWEDNQQGDEALDTTKDPCQKVKCSRHKVCIAQGYQRAMCISRKKLEHRIKQPTVKLHGNKDSICKPCHMAQLASVCGSDGHTYSSVCKLEQQACLSSKQLAVRCEGPCPCPTEQAATSTADGKPETCTGQDLADLGDRLRDWFQLLHENSKQNGSASSVAGPASGLDKSLGASCKDSIGWMFSKLDTSADLFLDQTELAAINLDKYEVCIRPFFNSCDTYKDGRVSTAEWCFCFWREKPPCLAELERIQIQEAAKKKPGIFIPSCDEDGYYRKMQCDQSSGDCWCVDQLGLELTGTRTHGSPDCDDIVGFSGDFGSGVGWEDEEEKETEEAGEEAEEEEGEAGEADDGGYIW(配列番号11)
【0101】
Testican-2配列は、公的に利用可能なデータベース、例えば、GenBank、OMIM、及びUniProt(Q92563)でも確認することができる。Testican-2(SPOCK2)に関する追加情報は、例えば、遺伝子9806に言及するNCBIウェブサイトで確認することができる。本明細書で使用されるTestican-2という用語は、臨床バリアントデータベースにおいて、例えば、NM_001244950.2という用語に言及するNCBI臨床バリアントウェブサイトで提供されているバリアントを含むSPOCK2遺伝子のバリエーションも指す。
【0102】
前述のGenBankアクセッション番号及び遺伝子データベース番号の各々の内容全体は、本願の出願日の時点で参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
III.防御タンパク質に基づいてRD及びESRDのリスクを判定するための方法及び組成物
本開示は、進行性腎臓病または末期腎臓病への進行のリスクを持つヒト対象を識別するために特定の防御タンパク質のレベルが使用され得るという発見に少なくとも部分的に基づいている。進行性腎不全を有しない人物と比べて、本明細書で識別される防御タンパク質のレベルが低いことは、末期腎臓病への進行から防御される者と、そうでない者を示す。本明細書に記載される別の実施形態は、ESKDのリスクを持つものとして識別されたヒト患者の処置であり、例えば、防御タンパク質またはその組み合わせの投与により、患者の進行性腎臓病のリスクが減少する。
【0104】
本明細書に記載される方法及び組成物で使用され得る防御タンパク質の例は、本明細書で提供されている。本明細書に記載されるように、防御タンパク質という用語は、防御タンパク質及びその機能的断片を含むよう意図されている。機能的断片は、例えば、対応する完全長(または非断片)の均等物に帰する能力を保持する。
【0105】
1つ以上の防御タンパク質の発現レベルが、対象に由来する生物学的サンプルにおいて判定され得る。対象に由来するサンプルとは、対象を起源とし、対象から取得されるものである。そのようなサンプルは、対象から取得された後にさらに処理され得る。例えば、タンパク質がサンプルから単離され得る。一実施形態において、サンプルから単離されるタンパク質も、対象に由来するサンプルである。タンパク質の発現は全身の細胞、組織、及び体液で報告されているため、1つ以上の防御タンパク質のレベルを判定するのに有用な生物学的サンプルは、本質的にあらゆる供給源から取得され得る。しかし、本開示の一態様では、腎機能低下及び/またはESKDを有する対象、あるいは腎機能低下を有する及び/またはESKDを発症するリスクを持つ対象を示す、1つ以上の防御タンパク質のレベルは、対象から非侵襲的に取得されたサンプル中で検出され得る。
【0106】
特定の実施形態では、1つ以上の防御タンパク質のレベルを判定するために使用される生物学的サンプルは、循環タンパク質バイオマーカーを含有するサンプルである。細胞外タンパク質バイオマーカーは、循環系からの流体などの体液、例えば、血液サンプルもしくはリンパサンプル、または脳脊髄液(CSF)、尿もしくは唾液などの別の体液を含む、広範囲の生物学的物質中を自由に循環する。したがって、いくつかの実施形態では、1つ以上の防御タンパク質のレベルを判定するために使用される生物学的サンプルは、体液、例えば、血液、その画分、血清、血漿、尿、唾液、涙液、汗液、精液、膣分泌物、リンパ液、気管支分泌物、CSFなどである。いくつかの実施形態では、サンプルは、非侵襲的に取得されたサンプルである。1つの特定の実施形態において、サンプルは尿サンプルである。別の実施形態では、サンプルは血漿サンプルである。別の実施形態では、サンプルは血清サンプルである。
【0107】
いくつかの実施形態では、1つ以上の防御タンパク質のレベルを判定するために使用される生物学的サンプルは、細胞を含有し得る。他の実施形態では、生物学的サンプルは、細胞を含まない、または実質的に含まないものであり得る(例えば血清サンプル)。いくつかの実施形態では、循環タンパク質バイオマーカーを含有するサンプルは、血液由来サンプルである。例示的な血液由来サンプルの種類には、例えば血液サンプル、血漿サンプル、血清サンプルなどが含まれる。他の実施形態では、循環タンパク質バイオマーカーを含有するサンプルは、リンパサンプルである。循環タンパク質バイオマーカーは尿及び唾液にも見られ、これらの供給源に由来する生物学的サンプルも同様に、1つ以上の防御タンパク質のレベルを判定するために好適である。
【0108】
防御タンパク質レベルを判定するための組成物
本明細書では、本明細書に記載される方法を行うための、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、及びTestican-2のうちのいずれか1つ以上に特異的な抗体またはその抗原結合断片を含むアレイ(例えばタンパク質アレイ)または組成物も開示される。そのようなアレイには、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、及びTestican-2のうちのいずれか1つ以上に特異的な抗体またはその抗原結合断片のうちのいずれか1つ以上を付着させるための担体または基質が含まれ得る。そのような担体及び基質は、当技術分野では公知であり、共有結合及び非共有結合の相互作用を含む。例えば、適用されたタンパク質(例えば抗体またはその抗原結合断片)がヒドロゲルなどの多孔質表面に拡散することで、ヒドロゲル構造内の未修飾タンパク質の非共有結合が可能になる。共有結合法は、安定な結合をもたらし、様々なタンパク質に適用され得る。タンパク質(例えばバイオマーカー)上のタグ(例えばヘキサヒスチジン(配列番号10)/Ni-NTAまたはビオチン/アビジン)と、基質の表面上に固定化されたパートナー試薬とを利用する生物学的捕捉法は、安定な結合をもたらし、タンパク質(例えばバイオマーカー)に特異的かつ再現可能な配向で結合する。
【0109】
一実施形態において、本明細書に記載されるFGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、及びTestican-2のうちのいずれか1つ以上に特異的な抗体またはその抗原結合断片は、化学的に誘導体化されたガラス、またはニトロセルロースなどだがこれに限定されないタンパク質結合剤でコーティングされたガラスプレートなどの担体または基質上にコーティングされるか、またはスポッティングされる。
【0110】
別の実施形態では、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、及びTestican-2のうちのいずれか1つ以上に特異的な抗体またはその抗原結合断片は、マイクロアレイなどのアレイの形態で提供される。タンパク質マイクロアレイは、当技術分野では公知であり、例えば、Hall et al.(2007)Mech Ageing Dev 128:161-167及びStoevesandt et al(2009)Expert Rev Proteomics 6:145-157によって概説されており、これらの開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。マイクロアレイは、接触スポッターまたは非接触マイクロアレイアーを使用して、処理済みの顕微鏡スライドなどの基質上に精製抗原を固定化することによって調製され得る。マイクロアレイは、対応するDNAアレイから直接、in situ無細胞合成によって生成することもできる。マイクロアレイは、本明細書で開示される方法を行うための検査パネルに含まれ得る。マイクロアレイの生成は、特定の状況では、抗原の三次元形状を維持するように設計された市販のプリンティングバッファーを用いて行われる。一実施形態において、マイクロアレイの基質は、ニトロセルロースでコーティングされたスライドガラスである。
【0111】
アッセイは、当技術分野で公知の方法によって行われ、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、及びTestican-2のうちのいずれか1つ以上に特異的な1つ以上の抗体またはその抗原結合断片と、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、及びTestican-2のうちのいずれか1つ以上との免疫複合体を形成させて免疫複合体の検出を可能にする条件下で、抗体を生物学的サンプルと接触させる。免疫複合体の存在及び量は、標識に基づく検出及び標識を用いない検出を含む、当技術分野で公知の方法によって検出され得る。例えば、標識に基づく検出法には、シグナル生成化合物を含む指示試薬に結合した二次抗体の添加が含まれる。二次抗体は抗ヒトIgG抗体であり得る。指示試薬には、発色剤、酵素コンジュゲートなどの触媒、フルオレセイン及びローダミンなどの蛍光化合物、ジオキセタン、アクリジニウム、フェナントリジニウム、ルテニウム、及びルミノールなどの化学発光化合物、放射性元素、直接可視標識、ならびに補因子、阻害剤、及び磁性粒子が含まれる。酵素コンジュゲートの例としては、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、及びベータ-ガラクトシダーゼが挙げられる。標識を用いない検出の方法には、表面プラズモン共鳴、カーボンナノチューブ及びナノワイヤ、ならびに干渉分光法が含まれる。標識に基づく検出法及び標識を用いない検出法は、当技術分野では公知であり、例えば、Hall et al.(2007)及びRay et al.(2010)Proteomics 10:731-748によって開示されている。検出は、当技術分野で公知、かつ使用される標識に適切なスキャン方法、及び関連する分析ソフトウェアによって達成され得る。
【0112】
本明細書に記載されるように、腎機能低下及び/またはESKDを示す防御タンパク質、及び/または、腎機能低下の増加したリスク及び/またはESKDへの進行の増加したリスクを示す防御タンパク質が開示される。したがって、検査対象(例えば、腎機能低下及び/またはESKDを有する疑いのある対象、あるいは腎機能低下及び/またはESKDを有する増加したリスクを持つ対象)が腎機能低下及び/またはESKDを有するかどうか、あるいは検査対象が腎機能低下の増加したリスク及び/またはESKDへの進行の増加したリスクを持つかどうかを判定するために、検査対象などの対象からのサンプルから、防御タンパク質のレベルがアッセイされ得ることが企図される。特定の実施形態では、例えば、腎機能低下及び/またはESKDを発症した対象からのサンプル、あるいは腎機能低下及びESKDへの急速な進行のリスクがあった糖尿病(T1D、T2D)を有する対象からのサンプル中の、特定のタンパク質(例えば循環タンパク質)のレベルを、例えば、腎機能低下及び/またはESKDを発症しなかった対象からのサンプル、あるいは安定な腎機能を有すると判定された(すなわち、非進行者であった)糖尿病(T1D、T2D)を有する対象からのサンプル、あるいは健康なコントロール対象からのサンプル、あるいは標準のコントロールレベルまたは参照レベルからのサンプル中の、特定のタンパク質(例えば循環タンパク質)のレベルと比較して、比較することにより、防御タンパク質が識別された。他の実施形態では、例えば、腎機能低下及び/またはESKDを発症した対象からのサンプル、あるいは腎機能低下及びESKDへの急速な進行のリスクがあった糖尿病(T1D、T2D)を有する対象からのサンプル中の、特定のタンパク質(例えば循環タンパク質)のレベルを、例えばプロテオミクスプラットフォーム(例えばSOMAscanプラットフォーム、及び/またはOLINKプラットフォーム)によって分かったまたは測定されたタンパク質(例えば循環タンパク質または血漿タンパク質)の既知のベースライン濃度と比較して比較することにより、防御タンパク質が識別された。FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、及び/またはTestican-2を含むがこれらに限定されない、いくつかの差示的に存在するタンパク質バイオマーカーがこの様式で識別され、腎機能低下及び/またはESKDを有する対象を示し、腎機能低下及び/またはESKDへの進行の増加したリスクを示すものであると判定された。
【0113】
本明細書で識別される防御タンパク質は、T1DまたはT2Dを有し、腎機能低下及び/またはESKDを発症するリスクが以前に不明であった対象などの対象が、腎機能低下及び/またはESKDを有するかどうか、またはその発症リスクを持つかどうかを判定するために使用され得る。これは、対象に由来する生物学的サンプル中の、FGF20、TNFSF12、ANGPT1、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、及び/またはTestican-2のうちの1つ以上、またはそれらの組み合わせのレベルを判定することによって達成され得る。正常な対象に由来する生物学的サンプル中のレベル(すなわち、腎機能低下及び/またはESKDを有しないことが知られている対象、あるいは正常アルブミン尿性コントロールレベル、あるいは健康なコントロールレベル、あるいは標準のコントロールレベル)と比較した、これらの防御タンパク質のうちの1つ以上のレベルにおける差は、対象が腎機能低下及び/またはESKDを発症するリスクを有するかどうかに関する予測能を有し得る。
【0114】
生物学的サンプル中の1つ以上の防御タンパク質のレベルは、任意の好適な方法によって判定され得る。サンプル中のタンパク質のレベルまたは量を測定または検出するための任意の信頼できる方法を使用することができる。したがって、本明細書で開示される方法の実施には、分子生物学の分野における定型的な技術が利用され得る。本開示における一般的な使用方法を開示する基本的な文書には、Sambrook and Russell,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(3rd ed.2001)、Kriegler,Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990)、及びCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al.,eds.,1994))が含まれる。
【0115】
本開示は、腎機能低下及び/またはESKDの存在の検出、発症リスクの評価、診断、予後判定、及び/または進行のモニタリング、及び/または処置の有効性のモニタリングのための手段として、対象の細胞、組織、またはサンプル(例えば血漿サンプルまたは血清サンプル)中で見られる特定のタンパク質レベルの量を測定または検出する方法(例えばin vitro法)に関する。したがって、特定の実施形態では、本開示の方法(例えば、腎機能低下及び/またはESKDの診断、予後判定、及び/またはモニタリングのために、特定の識別されたバイオマーカーを使用するin vitro法)を実施する第1のステップは、検査対象から細胞、組織またはサンプル(例えば、尿サンプルまたは血漿サンプルまたは血清サンプル)を取得し、サンプルからタンパク質を抽出することである。
【0116】
サンプルは、当技術分野で公知の方法に従って調製され得る。対象からの細胞、組織または血液サンプル(例えば、血漿サンプルまたは血清サンプル)は、本開示に好適であり、よく知られている方法を使用して、かつ本明細書に記載されるように取得され得る。特定の本開示の実施形態では、血漿サンプルが好ましいサンプルの種類である。他の本開示の実施形態では、血清サンプルが好ましいサンプルの種類である。
【0117】
いくつかの実施形態では、生物学的サンプル(例えば細胞、組織、血漿サンプル、または血清サンプル)は、本明細書に記載されるように腎機能低下及び/またはESKDについて検査またはモニタリングされる対象から取得される。同じ種類の生物学的サンプルは、検査対象(例えば、腎機能低下及び/またはESKDを有する疑いのある対象、及び/または、腎機能低下及び/またはESKDを発症するリスクを持つ対象)と、コントロール対象(例えば、腎機能低下及び/またはESKDを患っていない対象;例えば、正常アルブミン尿性コントロール対象もしくは健康なコントロール対象からのサンプル、または既知/標準のコントロールレベルのもの))との両方から採取されるべきである。検査対象などの対象からの生物学的サンプルの収集は、病院または診療所が一般的に従う標準プロトコルに従って行われ得る。適切な量の生物学的サンプル(例えば細胞、組織または血漿サンプル)が収集され、さらなる調製の前に標準的手順に従って保管され得る。
【0118】
本明細書で開示される方法に従った、対象(例えば検査対象)の生物学的サンプルに見られる、本明細書に記載される特定の防御タンパク質の分析は、特定の実施形態では、例えば細胞、組織、尿サンプル、血漿サンプル、または血清サンプルを使用して行われ得る。タンパク質抽出のために生物学的サンプルを調製する方法は、当業者の間ではよく知られている。例えば、対象(例えば検査対象)の細胞集団または組織サンプルは、まず、細胞内に含有されたタンパク質を放出させるために、細胞膜を破壊するように処理されるべきである。
【0119】
本明細書で開示される特定の防御タンパク質の存在を検出する目的では、あるいは検査対象が腎機能低下及び/またはESKDを有するかどうか、またはその発症リスクを持つかどうかを評価する目的では、生物学的サンプルを対象から収集することができ、本明細書で開示される特定の防御タンパク質のレベルを測定した後、これらの同じ特定の防御タンパク質の正常レベルと比較する(例えば、腎機能低下及び/またはESKDの発生前の対象における同じ種類の生物学的サンプル中の、本明細書で開示される特定の防御タンパク質のレベルと比較する、及び/または、健康なコントロール対象(例えば、T1DもしくはT2Dを有しない対象)からの同じ種類の生物学的サンプル中の、本明細書で開示される特定の防御タンパク質のレベルと比較する、及び/または、本明細書で開示される特定の防御タンパク質のベースラインレベルの既知のコントロール標準と比較する)ことができる。本明細書で開示される1つ以上の特定の防御タンパク質のレベルが、本明細書で開示される1つ以上の特定の防御タンパク質の正常レベルと比較して統計的に有意に低ければ、検査対象は、腎機能低下及び/またはESKDを有するか、あるいは腎機能低下及び/またはESKDを発症する増加したリスクを有するとみなされる。疾患の進行をモニタリングする目的では、あるいは腎機能低下及び/またはESKD患者における治療効果を評価する目的では、本明細書で開示される特定の防御タンパク質のレベルを経時的に測定すること(すなわち、連続的検査)により、疾患の状態を示す情報が提供され得るように、検査対象からの生物学的サンプルを異なる時点で採取することができる。例えば、検査対象からの本明細書で開示される特定の防御タンパク質のレベルが、経時的に正常レベルまで上昇するまたは安定化する全般的傾向を示す場合、検査対象の腎機能低下及び/またはESRDの重篤度が改善または安定化しているとみなされるか、あるいは患者が受けている療法が効果的であるとみなされる。検査対象からの本明細書で開示される特定の防御タンパク質のレベルが上昇もしくは安定化しない場合、または検査対象からの本明細書で開示される特定の防御タンパク質のレベルが継続的に低下する傾向にある場合は、病態の悪化及び患者に与えられた療法の無効性を示す。概して、検査対象において見られる本明細書で開示される特定の防御タンパク質の比較的低いレベルは、検査対象が腎機能低下及び/またはESKDを有すること、及び/または、検査対象の腎機能低下及び/またはESKDの状態が悪化していること、あるいは腎機能低下及び/またはESKDが進行していることを示す。
【0120】
本明細書で開示されるような防御タンパク質(複数可)など、特定の固有性を持つタンパク質は、種々の免疫学的アッセイを使用して検出することができる。いくつかの実施形態では、防御タンパク質(複数可)に対する特異的結合親和性を有する抗体(複数可)を用いて検査サンプルから防御タンパク質(複数可)を捕捉することにより、サンドイッチアッセイを行うことができる。その後、例えば、防御タンパク質(複数可)に対する特異的結合親和性を有する標識抗体を使用して、防御タンパク質(複数可)を検出することができる。一般的な検出法の1つは、放射性同位体(例えばH、125I、35S、14C、または32P、99mTcなど)で標識された放射標識検出剤(例えば、放射標識された抗防御タンパク質特異的抗体)を使用することによるオートラジオグラフィーの使用である。放射性同位体の選択は、選択された同位体の合成の容易さ、安定性、及び半減期により、研究における優先傾向に依存する。検出剤の標識のために(例えば抗バイオマーカー特異的抗体の標識のために)使用され得る他の標識には、フルオロフォア、化学発光剤、フルオロフォア、及び酵素(例えばHRP)で標識された抗リガンドまたは抗体に結合する化合物(例えばビオチン及びジゴキシゲニン)が含まれる。そのような免疫学的アッセイは、マイクロアレイプロテインチップなどのマイクロ流体デバイスを使用して実行することができる。目的タンパク質(例えば、本明細書で開示されるような防御タンパク質(複数可))は、ゲル電気泳動(2次元ゲル電気泳動など)、及び特異的抗体(例えば抗防御タンパク質特異的抗体)を使用したウエスタンブロット分析によって検出することもできる。いくつかの実施形態では、適切な抗体(複数可)、例えば抗防御タンパク質特異的抗体を使用して、所定のタンパク質(例えば、本明細書で開示されるような防御タンパク質)を検出するために、標準的なELISA技術が使用され得る。他の実施形態では、適切な抗体を使用して、所定のタンパク質(例えば、本明細書で開示されるような防御タンパク質)を検出するために、標準的なウエスタンブロット分析技術が使用され得る。あるいは、適切な抗体(複数可)、例えば抗防御タンパク質特異的抗体を使用して、所定の防御タンパク質を検出するために、標準的な免疫組織化学的(IHC)技術が使用され得る。モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体(所望の結合特異性を持つ抗体断片を含む)の両方が、防御タンパク質(複数可)の特異的検出のために使用され得る。特定のタンパク質(例えば、本明細書で開示されるような防御タンパク質(複数可))に対する特異的結合親和性を有する、そのような抗体及びそれらの結合断片は、公知技術によって生成され得る。
【0121】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるような防御タンパク質は、抗防御タンパク質特異的抗体、またはその抗原結合断片など、防御タンパク質に結合する抗体を用いて検出され得る(例えば、検出アッセイで検出され得る)。特定の実施形態では、抗防御タンパク質特異的抗体は、本明細書で開示されるような防御タンパク質(複数可)に結合し、防御タンパク質(複数可)(例えば生物学的サンプル由来)を検出する、例えば検出アッセイ(例えばウエスタンブロット分析、免疫組織化学分析、オートラジオグラフィー分析、及び/またはELISA)において防御タンパク質(複数可)を検出する、検出抗体などの検出剤として使用される。特定の実施形態では、抗防御タンパク質特異的抗体は、防御タンパク質に結合し、防御タンパク質(例えば生物学的サンプル由来)を検出する、例えば検出アッセイ(例えばウエスタンブロット分析、免疫組織化学分析、オートラジオグラフィー分析、及び/またはELISA)で防御タンパク質を検出する、捕捉剤として使用される。いくつかの実施形態では、抗防御タンパク質特異的抗体、またはその抗原結合断片は、検出を容易にするために標識される。いくつかの実施形態では、抗防御タンパク質特異的抗体、またはその抗原結合断片は、放射標識される(例えば放射性同位体で標識される、例えばH、125I、35S、14C、または32P、99mTcなどで標識される)、酵素的に標識される(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などの酵素で標識される)、蛍光標識される(例えばフルオロフォアで標識される)、化学発光剤で標識される、及び/または化合物(例えばビオチン及びジゴキシゲニン)で標識される。
【0122】
本開示を実施する際は、本明細書で開示されるような防御タンパク質のレベルを測定または検出するために、他の方法を用いてもよい。例えば、多数のサンプル中でも標的タンパク質を迅速かつ正確に定量するために、質量分析技術に基づいて種々の方法が開発されている。これらの方法には、多重反応モニタリング(MRM)技術を使用した三連四重極型(トリプルQ)機器、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化法飛行時間型タンデム質量分析計(MALDI TOF/TOF)、選択的イオンモニタリング(SIM)モードを使用したイオン捕捉機器、及びエレクトロスプレーイオン化(ESI)ベースのQTOP質量分析計など、高度に洗練された機器が用いられる。例えば、Pan et al.,J Proteome Res 2009 February;8(2):787-797を参照されたい。
【0123】
他の実施形態では、本明細書で開示されるような防御タンパク質を評価することにより、本明細書で開示されるような防御タンパク質の発現が評価される。いくつかの実施形態では、抗防御タンパク質特異的抗体、またはその断片が、防御タンパク質を評価するために使用され得る。そのような方法には、IHC、ウエスタンブロット分析、ELISA、免疫沈降、オートラジオグラフィー、または抗体アレイの使用が含まれ得る。特定の実施形態では、防御タンパク質はIHCを使用して評価される。IHCの使用は、防御タンパク質の定量化及び特性評価を可能にし得る。IHCは、防御タンパク質の発現が判定されるサンプルの免疫反応性スコアも可能にし得る。「免疫反応性スコア」(IRS)という用語は、陽性細胞のパーセンテージを反映するスケール(1~4のスケールで、0=0%、1=<10%、2=10%~50%、3=50%~80%、4=>80%)に染色の強度(1~3のスケールで、1=弱、2=中、3=強)を乗じたものに基づいて計算される数を指す。IRSは0~12の範囲をとり得る。
【0124】
特定の他の実施形態では、本明細書で開示されるような防御タンパク質のレベルを判定するために、アプタマーベースのプロテオミクスプラットフォームであるSOMAscanが使用され得る。このプラットフォーム技術は、アプタマーといわれるDNA及びRNAの固有の一本鎖配列が、折り畳まれたタンパク質エピトープを高い親和性及び特異性で認識できるという認識に基づいている。この特性は、SOMAscanプラットフォームを使用してタンパク質の濃度をアッセイする(タンパク質ごとに1つのアプタマーを使用する)ことでさらに進歩した。このプラットフォームは、再現性及び感度を備えたハイスループット機能(1つのサンプルで1000を超えるタンパク質)を特徴とする。
【0125】
特定の他の実施形態では、本明細書で開示されるような防御タンパク質(複数可)のレベルを判定するために、OLINK-Proximity Extension Assayベースのプロテオミクスプラットフォームが使用され得る。OLINK Proximity Extension Assayは、抗体ベースのイムノアッセイをPCR及び定量的リアルタイムPCR(qPCR)の強力な特性と併合する分子技術であり、わずか1μLの血漿/血清を使用することで多数の防御タンパク質を同時に定量できる多重化可能かつ高度に特異的な方法(例えば、タンパク質ごとに2つの抗体を使用する)をもたらす。これらのアッセイは十分に検証され、特定の疾患または生物学的プロセスに焦点を当てるように設計されたパネルとしてグループ化され、臨床サンプル中の標的タンパク質濃度の予想されるダイナミックレンジに合わせて最適化された。
【0126】
本明細書に記載されるように、推定糸球体濾過率(eGFR)は、腎機能を推定するための手段を指す。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法は、ヒト対象の推定糸球体機能率(eGFR)の傾きを測定することと、ヒト対象のeGFRの傾きが、ヒト対象が腎機能低下を有することまたはその発症リスクを持つことを示すかどうかを判定することとを含む。いくつかの実施形態では、eGFRは、血清クレアチニンレベルの測定に基づいて判定される。他の実施形態では、eGFRは、血清シスタチンCレベルの測定に基づいて判定される。他の実施形態では、eGFRは、入手可能で少なくとも6か月間隔で測定された少なくとも3つの血清クレアチニン値を用いて線形回帰を仮定する通常の最小二乗法を使用して判定される。他の実施形態では、eGFRは、入手可能で少なくとも1年間隔で測定された少なくとも3つの血清クレアチニン値を用いて線形回帰を仮定する通常の最小二乗法を使用して判定される。さらに他の実施形態では、eGFRは、入手可能で少なくとも2年以上の間隔で測定された少なくとも3つの血清クレアチニン値を用いて線形回帰を仮定する通常の最小二乗法を使用して判定される。他の実施形態では、eGFRは、目視検査によって推定される。
【0127】
いくつかの実施形態では、少なくとも<-3ml/分/年のeGFRの傾き(すなわち、eGFR損失≧3.0ml/分/年)は、ヒト対象が腎機能低下を有するまたはその発症リスクを持つことを示す。他の実施形態では、少なくとも<-5ml/分/年のeGFRの傾きは、ヒト対象が腎機能低下を有するまたはその発症リスクを持つことを示す。さらに他の実施形態では、少なくとも<-10ml/分/年のeGFRの傾きは、ヒト対象が腎機能低下を有するまたはその発症リスクを持つことを示す。さらに別の実施形態では、少なくとも<-15ml/分/年のeGFRの傾きは、ヒト対象が腎機能低下を有するまたはその発症リスクを持つことを示す。他の実施形態では、eGFRにおけるベースラインからの(少なくとも3か月にわたって確認された)≧40%の持続的な低下は、ヒト対象が腎機能低下を有するまたはその発症リスクを持つことを示す。
【0128】
さらに別の実施形態では、eGFRは、CKD-EPIクレアチニン方程式を使用して判定され得る。いくつかの実施形態では、GFRの傾きの推定は、対象の人種、性別、及び血清クレアチニンレベルに依存し得る。例えば、一実施形態において、血清クレアチニン濃度(μmol/dL)が≦62(≦0.7)のアフリカ系女性のeGFRの傾きは、次式を使用して判定される:GFR=166×(Scr/0.7)-0.329×(0.993)Age。別の実施形態では、血清クレアチニン濃度(μmol/dL)が>62(>0.7)のアフリカ系女性のeGFRの傾きは、次式を使用して判定される:GFR=166×(Scr/0.7)-1.209×(0.993)Age。別の実施形態では、血清クレアチニン濃度(μmol/dL)が≦80(≦0.9)のアフリカ系男性のeGFRの傾きは、次式を使用して判定される:GFR=163×(Scr/0.9)-0.411×(0.993)Age。別の実施形態では、血清クレアチニン濃度(μmol/dL)が>80(>0.9)のアフリカ系男性のeGFRの傾きは、次式を使用して判定される:GFR=163×(Scr/0.9)-1.209×(0.993)Age。別の実施形態では、血清クレアチニン濃度(μmol/dL)が≦62(≦0.7)の非アフリカ系女性のeGFRの傾きは、次式を使用して判定される:GFR=144×(Scr/0.7)-0.329×(0.993)Age。別の実施形態では、血清クレアチニン濃度(μmol/dL)が>62(>0.7)の非アフリカ系女性のeGFRの傾きは、次式を使用して判定される:GFR=144×(Scr/0.7)-1.209×(0.993)Age。別の実施形態では、血清クレアチニン濃度(μmol/dL)が≦80(≦0.9)の非アフリカ系男性のeGFRの傾きは、次式を使用して判定される:GFR=141×(Scr/0.9)-0.411×(0.993)Age。別の実施形態では、血清クレアチニン濃度(μmol/dL)が>80(>0.9)のアフリカ系男性のeGFRの傾きは、次式を使用して判定される:GFR=141×(Scr/0.9)-1.209×(0.993)Age
【0129】
推定糸球体濾過率を判定するための追加の方法は、当業者の間では公知である。
【0130】
本明細書に記載される方法は、進行性腎臓機能低下の正確なリスク予測を可能にするためのin vitro診断として機械学習による予後リスクスコアアッセイを使用することにより、電子健康記録(EHR)とバイオマーカー(例えば、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、ANGPT1、TNFSF12、FGF20、及びTestican-2のうちの1つ以上)とを組み合わせることをさらに含み得る。
【0131】
いくつかの実施形態では、機械学習による予後リスクスコアアッセイは、KIDNEYINTELX(商標)である。そのために、ランダムフォレストモデルを訓練することができ、性能(例えば曲線下面積(AUC)、正及び負の予測値(PPV/NPV)、ならびに正味再分類指数(NRI))を、推定糸球体濾過率(eGFR)低下≧5ml/分/年、≧40%の持続的低下、または5年以内の腎不全の複合転帰を予測するための臨床モデル及びKDIGOカテゴリと比較することができる。いくつかの実施形態では、蔓延している糖尿病性腎臓病(DKD)を有する患者/2つのHER関連バイオバンクからのバンク血漿の観察コホート研究を使用することができる。KIDNEYINTELX(商標)は、KDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)ガイドライン及び初期ステージのDKDを有する個人の臨床モデルよりも改善された腎臓転帰の予測を行うことができる。いくつかの実施形態では、PCT出願第PCT/US2021/018030号(公開番号WO/2021/163619;その方法及び組成物は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているような機械学習モデルが、本明細書に記載される方法において使用される。
【0132】
8種の防御タンパク質バイオマーカーは、パターン化されたアレイと組み合わせた電気化学発光検出法を用いてアッセイの多重化を可能にするMesoscaleプラットフォーム(MesoScale Diagnostics,Gaithersburg,Maryland,USA)を使用して、独占権下にある分析的に検証された多重形式で測定され得る。各サンプルは、各プレートで既知の低濃度、中濃度、及び高濃度の各バイオマーカーを含むクオリティコントロールサンプルと共に、二連で実行することができる。アッセイ精度は、測定範囲にわたる参照サンプルのパネルを使用して評価することができる。Levey-Jenningsプロットを用いることができ、サンプルの再実行にはWestguardルールに従うことができる。バイオマーカーアッセイを行う研究室職員は、すべての臨床情報に対して盲検化され得る。
【0133】
eGFRは、例えばLevey et al.(Ann Intern Med 150(9):604-61221(2009))に記載されているように、CKD-EPIクレアチニン方程式を使用して判定することができる。例えば、Leffondre et al.(Nephrol Dial Transplant 30(8):1237-1243(2015))に記載されているように、線形混合モデルを非構造化分散共分散行列と共に用いることができ、ランダム切片/傾きを各個人について使用して、eGFRの傾きを推定することができる。主要な複合転帰である腎機能の進行性低下には、以下が含まれ得る:eGFRの傾きの≧5ml/分/1.73m/年の低下と定義されるRKFD;eGFRにおけるベースラインからの持続的な(少なくとも3か月後に確認された)≧40%の低下;または少なくとも30日後に確認されたeGFR<15ml/分/1.73mの持続によって定義される「腎不全」;または長期維持透析の受容、もしくは腎臓移植の受容(KDIGO,Kidney Int Suppl 3:1-163(2012)、Levey et al.Am J Kidney Dis 64(6):821-835(2014))。さらに、腎臓専門医(SC/GNN)を採用して、すべての転帰を独立的に判断し、各個の患者を長期的な経過にわたって調べ、eGFRの変化(年換算で≧5ml/分の低下または≧40%の持続的減少を確実にする)、対応するICD/CPTコード及び薬物治療を考慮して、転帰が状況に依存した(例えば薬物治療/入院による)一時的な変化ではなく真の低下を表すものであったことを確実にすることができる。フォローアップ期間は、フォローアップ不能になった後、複合腎臓エンドポイントの非傾き成分が満たされた日以降、またはベースラインから5年後に打ち切ることができる。
【0134】
データセットは導出セット(60%)及び検証セット(40%)にランダム化することができる。検証データセットは完全に盲検化し、導出データセット全体から隔離することができる。導出セットのみを使用することで、組み合わせたバイオマーカー及びすべての構造化EHR特徴に対する教師ありランダムフォレストアルゴリズムを、事前の特徴選択なしで評価することができ、候補特徴セットを識別することができる。次に、導出セットを二次訓練セットと検査セットにランダムに分割して、70%~30%のスピッティング及びAUCの10分割交差検証によるモデルの最適化を行うことができる。バイオマーカーの生の値及び比率の両方が考慮され得る。欠損しているuACR値は10mg/gを代入することができ(Nelson et al.JAMA(2019))、欠損している血圧(BP)値は複数の予測子(年齢、性別、人種、及び降圧薬)を使用して代入することができ(De Silva et al.BMC Med Res Methodol 17(1):114(2017))、欠損が30%未満であった場合には他の特徴に中央値を使用することができる。
【0135】
モデルのさらなるイテレーションは、個々のハイパーパラメータのチューニングによって実行することができる。ハイパーパラメータは、訓練中に重み(変数の重みなど)が学習されるパラメータとは対照的に、学習プロセスをコントロールするために使用されるパラメータ(RFツリーの数など)である。ハイパーパラメータのチューニングとは、理想的な性能を達成するためにパラメータの重みを設定した後の、モデルアーキテクチャのイテレーションを指す。ハイパーパラメータの最適化は、グリッド検索アプローチを使用して行うことができる。ハイパーパラメータのすべての可能な組み合わせについて、K分割交差検証ベースのAUCを評価することができる。モデル構築のためにAUCを最適化するハイパーパラメータの組み合わせを選択することができる。最適化には次のハイパーパラメータが考慮され得る:ノードを分割する候補としてランダムに選択された変数の数;フォレストの終端ノード内の固有のケース(データポイント)の平均数;ツリーを成長させるべき最大深度。
【0136】
さらに、再現性及び透明性を改善させるために、ハイパーパラメータ最適化のコードをgithubリポジトリ(https://github.com/girish-nadkarni/KidneyIntelX_hyperparameter_tuning)にデポジットすることができる。AUC性能に基づいて最終モデルを選択することができる。
【0137】
5~100の連続スコアに合わせて5ずつ増分してスケーリングされた、導出セットの最終モデルを使用して、複合腎臓エンドポイントのリスク確率を生成することができ、このスコアを検証セットに適用することができる。リスクカットオフは、導出セットにおいて、上位15%を高リスク群(スコア90~100)、下位45%を低リスク群(スコア5~45)、中間の40%を中リスク群(スコア50~85)として包含するように選択することができる。一次性能基準は、既定のカットオフでのAUC、高リスク群の正の予測値、及び低リスク群の負の予測値(それぞれ、PPV及びNPV)であり得る。次に、選択されたモデル及び関連するカットオフが、隔離された検証コホート内で独立した生物統計学者(MK)によって検証され得る。
【0138】
これらの従来の検査統計量に加えて、観察された転帰のみに対するKIDNEYINTELXスコアの観察された転帰と期待される転帰のプロットの傾きを調べることによって、キャリブレーションが評価され得る。また、Cox比例ハザード法を使用したハザード比を用い、40%低下及び腎不全の時間依存性転帰について、カプランマイヤー曲線を構築することができる。KIDNEYINTELXモデルの判別能(discrimination)は、最近検証された包括的臨床モデルと比較することができ、この包括的臨床モデルは、年齢、性別、人種、eGFR、心血管疾患、喫煙、高血圧、BMI、UACR、インスリン、糖尿病治療薬、及びHbA1cを含み、T2DにおけるeGFRの40%のeGFR低下を予測するために開発されたものである(Nelson et al.JAMA(2019))。ユーティリティメトリック(PPV、NPV)を包括的臨床モデル及びKDIGOリスク層の両方と比較することができる。
【0139】
最後に、KDIGOリスク層と比較したイベント及び非イベントの正味再分類指数(NRI)を計算することができる(Pencina et al.Stat Med 27(2):157-172(2008)、Pencina et al.Stat Med 30(1):11-21(2010))。事前の有意水準はすべて<0.05であり得る。すべての仮説検定は両側検定であり得る。95%信頼区間はブートストラップによって計算することができる。すべての分析は、Rソフトウェア(www.rproject.org)、dplyrパッケージ、randomForestSRC、及びCARETパッケージ(Hadley et al.(2020)dplyr:A Grammar of Data Manipulation. R Package version 0.7.6.cran.r-project.org/web/packages/dplyr/index.htmlから入手可能);Hemant Ishwaran UBK(2020)randomForestSRC:Fast Unified Random Forests for Survival,Regression,and Classification(RF-SRC). cran.rproject.org/web/packages/randomForestSRC/indexから入手可能)を用いて行うことができる。
【0140】
2つのバイオバンクからのT2D患者の血漿サンプル及び関連するEHRデータを利用して、RKFD、eGFRの持続的な40%の低下、及び5年間の腎不全からなる複合腎臓転帰である進行性腎機能低下を予測するためのランダムフォレストアルゴリズムにより、臨床データ及び血漿バイオマーカーを組み合わせたリスクスコアを策定し、検証することができる。KIDNEYINTELXは、KDIGOリスクカテゴリ(KDIGO,Kidney Int Suppl 3:1-163(2012))を含む標準的な臨床変数のみを使用したモデルよりも優れた性能を示すことが実証され得る。AUC、NRI、及びKDIGOリスクカテゴリと比較したPPVの改善によって測定されるように、判別能において臨床モデルに勝る顕著な改善を見ることができる。さらに、KIDNEYINTELXは、イベントを経験している患者をKDIGOリスク層よりも40%超多く正確に識別することができる。最後に、KIDNEYINTELXは、eGFRの持続的な40%の低下または腎不全という承認済みFDAエンドポイントに関して、この臨床的かつ客観的なエンドポイントの高リスク層と低リスク層との間で15倍のリスク差がある、優れたリスク層別化を提供することができる。
【0141】
DKDは、ますます複雑になり、現代の医療システムを脅かす一般的な問題となっている。実際の診療では、特に腎機能が保たれている初期疾患の場合、DKD進行の予測は困難であり、したがって、改善された予後検査の実施が非常に重要である。統合リスクスコアは、特に臨床意思決定支援(CDS)及び組み込まれたケアパスウェイと関連付けた場合、短期的な臨床的意義を有する。臨床リスク層別化の現行基準(KDIGOリスク層)(KDIGO KDIGO,Kidney Int Suppl 3:1-163(2012))は、KIDNEYINTELX研究に含めることができるDKD患者集団と重複する3つのリスク層を有する。3つのリスク層(低、中、及び高)によるリスクスコアは、KDIGO分類コンポーネント(eGFR及びuACR)を組み込むこと、ならびに他の臨床変数及び3つの血液ベースのバイオマーカーを追加することによって作成され得る。このようにして、DKD患者を正確にリスク層別化する能力を強化することができ、それによって患者管理の改善が可能になる。
【0142】
DKDの低リスク患者のケアは、再検査、臨床状態の変化、または専門医への紹介に関する地域の取り決めによる別段の指示がない限り、現行のPCPまたは糖尿病専門医によって継続され、強度の低い処置を必要とし得る。高リスクスコアを持つ者については、監督には、腎臓内科へのさらなる紹介(Smart et al.The Cochrane database of systematic reviews(6):CD007333(2014)、Smart and Titus,Am J Med 124(11):1073-1080 e1072(2011))、モニタリング間隔の増加、腎臓の健康に対する意識の向上、栄養士への紹介、レニンアンジオテンシンアルドステロン系のアンタゴニストの使用の強化、ならびに進行を緩徐化するためのSGLT2阻害剤及びGLP-1受容体アゴニストを含む最近承認された薬剤を開始する動機付けの増加が含まれ得る(Kristensen et al.Lancet Diabetes Endocrinol 7(10):776-785(2019)、Sarafidis et al.Nephrol Dial Transplant 34(2):208-230(2019))。これらの新しい療法の採用は、標準的な基準で「低リスク」と考えられる患者において特に遅れており、治療費及び有害事象の存在が制限要因となっている。腎臓専門医と早期に連携することで、より積極的な処置がDKDの進行を最終的に防止できない場合の患者中心の腎置換オプションとしての在宅透析及び先制的または早期の腎臓移植について、患者にアドバイス及び教育を与えるためのより多くの時間を確保できる可能性がある。将来のRCTにおける登録プロセスの一部としてリスクスコアを使用すると、イベントの可能性が高い試験参加者が増加して第二種過誤の確率が低減するか、または処置対コントロールの統計的有意差を検出するために必要なサンプルサイズが最小限に抑えられる可能性がある。DKD進行を防止または緩徐化し、患者中心の腎置換モダリティを推進する介入は、米国保健福祉省のAdvancing American Kidney Healthイニシアチブの目標をサポートする(Mehrotra,Clin J Am Soc Nephrol 14(12):1788(2019))。
【0143】
KIDNEYINTELXには、DKD患者を含む、いくつかの環境で調べられたバイオマーカーからの入力が含まれた。可溶性TNFR1及び2ならびに血漿KIM-1は、腎機能低下及びESKDの信頼できる独立した予後シグナルを示している(Niewczas et al.J Am Soc Nephrol 23(3):507-515(2012)、Coca et al.J Am Soc Nephrol 28(9):2786-2793(2017)、Nadkarni et al.Kidney Int 93(6):1409-1416(2018)、Tummalapalli et al.Curr Opin Nephrol Hypertens 25(6):480-486(2016)、Gohda et al.J Am Soc Nephrol 23(3):516-524(2012)、Krolewski et al.Diabetes care 37(1):226-234(2014)、Bhatraju et al.J Am Soc Nephrol 29(11):2713-2721(2018))。過去のある研究では、単一施設でのEHRから得られた臨床データにバイオマーカーを含めることで、臨床モデル単独よりも予測性能が向上することが判明した(Chauhan et al.Kidney360(2020))。しかし、この研究には、蔓延しているCKDを有する患者がほとんど含まれていなかった(T2Dのコホートではおおよそ1/3がCKDを有し、APOL1高リスクコホートでは1/4がCKDを有していた)。しかし、本明細書で上述した方法では、バイオマーカー濃度及びEHRデータを機械学習アルゴリズムに組み込むことにより、DKD患者のリスクの多次元的表現を提供することができ、将来の進行に関する改善された予後推定値を生成することができる(Tangri et al.JAMA 315(2):164-174(2016)、Tangri et al.JAMA 305(15):1553-1559(2011))。複数の血漿バイオマーカーと限られた臨床データ特徴とを組み込んだ他の複合検査は、T2Dを有する個人における偶発性CKDを正確に予測することが示されているが、腎機能の進行性低下の予測は継続的な課題である(Peters et al.J Clin Med 9(10)(2020)、Peters et al.J Diabetes Complicat 33(12)(2019))。しかし、KIDNEYINTELX検査の目標は、確定したDKDを有する患者のうち、腎不全による腎機能の進行性低下のリスクが最も高い者と、経時的に進行する可能性が低いCKDを有する者とを判定することである。
【0144】
したがって、血漿バイオマーカーとEHRデータとを組み合わせた機械学習モデルは、大規模な学術医療センターのT2 DKD患者における標準的な臨床モデルと比べて、腎機能の進行性低下の予測を大幅に改善させることができる。
【0145】
本開示の方法で使用するための機械学習による予後リスクスコアアッセイは、例えば、米国特許出願第62/976,767号、米国特許出願第62/976,761号、及び米国特許出願第63/016,868号(これらは各々、その全体が参照により本明細書に組み込まれている)に記載されているように使用することができる。
【0146】
IV.処置または防止の方法
腎機能低下及び/またはESKD(本明細書ではESRDともいう)の処置または防止を、それを必要とする対象において行うための方法及び組成物もまた、本開示の特徴である。一実施形態において、本開示は、腎機能低下及び/またはESKDを有する対象、腎機能低下及び/またはESKDを有する疑いのある対象、あるいは腎機能低下及び/またはESKDを発症するリスクを持つ対象を処置する方法を提供する。他の実施形態では、腎機能低下及び/またはESKDに関連する障害を有する対象は、本開示の予測方法によって識別されることなく、本明細書に記載される方法を使用して処置され得る。特定の実施形態では、本明細書で開示される処置の方法は、そのような対象の腎機能(本明細書では「腎臓機能」ともいう)を改善させる。
【0147】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される処置の方法は、本開示の療法を対象に施与することを含む。本開示の療法は、本明細書で上述した1つ以上の防御タンパク質の発現及び/または機能を増加させる、治療有効量のタンパク質または核酸分子を含み得る。例えば、本開示の療法は、治療有効量の1つ以上の防御タンパク質(例えば、治療有効量の組換えSPARC、組換えCCL5、組換えAPP、組換えPF4、組換えDNAJC19、組換えANGPT1、組換えTNFSF12、組換えFGF20、及び/または組換えTestican-2)を含み得る。あるいは、本開示の療法は、治療有効量の1つ以上の防御タンパク質のアナログ(例えば、治療有効量のSPARCアナログ、CCL5アナログ、APPアナログ、PF4アナログ、DNAJC19アナログ、ANGPT1アナログ、TNFSF12アナログ、FGF20アナログ、及び/またはTestican-2アナログ)を含み得る。防御タンパク質のアナログは、変異型ポリペプチド(例えば、変異型SPARCポリペプチド、変異型CCL5ポリペプチド、変異型APPポリペプチド、変異型PF4ポリペプチド、変異型DNAJC19ポリペプチド、変異型ANGPT1ポリペプチド、変異型TNFSF12ポリペプチド、変異型FGF20ポリペプチド、及び/または変異型Testican-2ポリペプチド)であり得る。あるいは、防御タンパク質のアナログは、防御タンパク質(例えば、SPARCポリペプチド、CCL5ポリペプチド、APPポリペプチド、PF4ポリペプチド、DNAJC19ポリペプチド、ANGPT1ポリペプチド、TNFSF12ポリペプチド、FGF20ポリペプチド、及び/またはTestican-2ポリペプチド)と、in vivo安定性、in vivo半減期、及び/または取り込み/投与を向上させる1つ以上のポリペプチド部分とを含有するキメラタンパク質などの融合タンパク質でもよい。あるいは、防御タンパク質のアナログは、1つ以上の防御タンパク質の模倣薬(例えば非ペプチド模倣薬)(例えば、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、ANGPT1、TNFSF12、FGF20、及び/またはTestican-2の模倣薬)でもよい。他の場合には、防御タンパク質のアナログは、1つ以上の防御タンパク質のアゴニスト(例えば、SPARCアゴニスト、CCL5アゴニスト、APPアゴニスト、PF4アゴニスト、DNAJC19アゴニスト、ANGPT1アゴニスト、TNFSF12アゴニスト、FGF20アゴニスト、及び/またはTestican-2アゴニスト)であり得る。本開示で使用するためのアゴニストは、防御タンパク質の受容体に対する抗体などのアゴニスト抗体(例えば、アゴニストSPARC受容体抗体、アゴニストCCL5受容体抗体、アゴニストAPP受容体抗体、アゴニストPF4受容体抗体、アゴニストDNAJC19受容体抗体、アゴニストANGPT1受容体抗体、アゴニストTNFSF12受容体抗体、アゴニストFGF20受容体抗体、及び/またはアゴニストTestican-2受容体抗体であり得る。さらに他の実施形態では、本開示の療法は、治療有効量の、1つ以上のタンパク質タンパク質をコードする核酸分子(例えば、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、ANGPT1、TNFSF12、FGF20、及び/またはTestican-2のうちの1つ以上をコードするDNAまたはRNA分子)を含み得る。
【0148】
ANGPT1
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される処置の方法は、ANGPT1の発現及び/または機能を増加させる治療有効量のタンパク質または核酸分子を対象に投与することなど、ANGPT1の治療的使用を含む。例えば、本明細書に記載される処置の方法は、治療有効量の組換えANGPT1(例えば、ヒトまたはマウス起源のもの)、ANGPT1アナログ(例えば、変異型ANGPT1ポリペプチド、あるいは、ANGPT1ポリペプチドと、in vivo安定性、in vivo半減期、及び/または取り込み/投与を向上させる1つ以上のポリペプチド部分とを含有するキメラタンパク質などのANGPT1融合タンパク質)、ANGPT1模倣薬(例えば、ANGPT1の非ペプチド模倣薬)、ANGPT1アゴニスト(例えば、アゴニストANGPT1受容体抗体)、及び/またはANGPT1をコードする核酸分子を対象に投与することを含み得る。
【0149】
ANGPT1のそのような治療的使用は、例えばWO2018067991A1に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2018067991A1は、ANGPT1などのアンジオポエチンまたはアンジオポエチン様タンパク質の発現、活性及び/または機能を促進する1つまたは複数の調節剤と機能不全T細胞を接触させることにより、がん及び慢性感染症などの病態を処置するために使用される、T細胞機能不全を調節する方法を記載している。
【0150】
あるいは、ANGPT1の治療的使用は、例えばUS20090304680A1に記載されているような治療的使用を含み得る。US20090304680A1は、個人における川崎病の処置、防止または診断のための医薬組成物を記載しており、この組成物は、ANGPT1またはその調節因子を含む分子を含む。
【0151】
TNFSF12
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される処置の方法は、TNFSF12の発現及び/または機能を増加させる治療有効量のタンパク質または核酸分子を対象に投与することなど、TNFSF12またはTWEAKの治療的使用を含む。例えば、本明細書に記載される処置の方法は、治療有効量の組換えTNFSF12(例えば、ヒトまたはマウス起源のもの)、TNFSF12アナログ(例えば、変異型TNFSF12ポリペプチド、あるいは、TNFSF12ポリペプチドと、in vivo安定性、in vivo半減期、及び/または取り込み/投与を向上させる1つ以上のポリペプチド部分とを含有するキメラタンパク質などのTNFSF12融合タンパク質)、TNFSF12模倣薬(例えば、TNFSF12の非ペプチド模倣薬)、TNFSF12アゴニスト(例えば、アゴニストTNFSF12受容体抗体)、及び/またはTNFSF12をコードする核酸分子を対象に投与することを含み得る。
【0152】
TNFSF12のそのような治療的使用は、例えばWO2010088534A1に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2010088534A1に記載されているように、TNFSF12は、ヒト及び齧歯類の膵臓細胞の集団を増大させ、膵臓における内分泌系譜に傾倒した前駆細胞の出現を誘導することができる。したがって、TNFSF12受容体(TNFSF12-R)のアゴニストは、in vivo及びin vitroで膵臓組織を再生し、膵臓細胞の集団を増大させるための方法で使用することができる。これらの方法は、細胞置換療法のために膵臓前駆細胞の増強が望ましい、糖尿病などを含む疾患または病態、及び膵臓の全部または一部の喪失をもたらす病態を処置するために使用することができる。そのような方法で使用する場合、TNFSF12-Rアゴニストは、TNFSF12(例えば、ヒトまたはマウス起源のTNFSF12ポリペプチド)、TNFSF12アナログ(例えば、変異型TNFSF12ポリペプチド、あるいは、TNFSF12ポリペプチドと、in vivo安定性、in vivo半減期、及び/または取り込み/投与を向上させる1つ以上のポリペプチド部分とを含有するキメラタンパク質などのTNFSF12融合タンパク質)、TNFSF12模倣薬(例えば、TNFSF12の非ペプチド模倣薬)、及びアゴニストTNFSF12-R抗体であり得る。
【0153】
あるいは、TNFSF12の治療的使用は、例えばWO2001085193A2に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2001085193A2は、新血管形成を促進するために血管新生活性を増強する方法における、相乗的に有効な量のTNFSF12アゴニスト及び血管新生因子の使用を記載している。そのようなTNFSF12アゴニストとしては、可溶性組換えTNFSF12タンパク質ならびにWO98/05783、WO98/35061及びWO99/19490で教示されているTNFSF12アゴニストが挙げられる。
【0154】
FGF20
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される処置の方法は、FGF20の発現及び/または機能を増加させる治療有効量のタンパク質または核酸分子を対象に投与することなど、FGF20の治療的使用を含む。例えば、本明細書に記載される処置の方法は、治療有効量の組換えFGF20(例えば、ヒトまたはマウス起源のもの)、FGF20アナログ(例えば、変異型FGF20ポリペプチド、あるいは、FGF20ポリペプチドと、in vivo安定性、in vivo半減期、及び/または取り込み/投与を向上させる1つ以上のポリペプチド部分とを含有するキメラタンパク質などのFGF20融合タンパク質)、FGF20模倣薬(例えば、FGF20の非ペプチド模倣薬)、FGF20アゴニスト(例えば、アゴニストFGF20受容体抗体)、及び/またはFGF20をコードする核酸分子を対象に投与することを含み得る。
【0155】
FGF20のそのような治療的使用は、例えばWO2005019427A2に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2005019427A2は、治療有効量の単離FGF20ポリペプチド(例えば、FGF20ポリペプチドに増加した安定性を付与する変異を有するFGF20ポリペプチド)を投与することによって高リン酸血症状態を処置する方法を記載している。WO2005019427A2には、FGF20ポリペプチドのレベルを上昇させる治療有効量の試薬を投与することによって高リン酸血症状態を処置する方法も記載されている。WO2005019427A2には、治療有効量のFGF20またはFGF20ポリペプチドのレベルを上昇させる試薬を対象に投与することによって、対象の動脈または軟部組織中のカルシウム及びリン酸塩の沈着を伴う病態を処置する方法も記載されている。
【0156】
あるいは、FGF20の治療的使用は、例えばWO2020160468A1に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2020160468A1は、FGF20を含む群から選択される2つ以上のタンパク質の発現及び/または活性を集合的に増加させる1つ以上の薬剤を患者に提供することによって、神経認知障害(NCD)を有すると診断された患者を処置する方法を記載している。
【0157】
SPARC
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される処置の方法は、SPARCの発現及び/または機能を増加させる治療有効量のタンパク質または核酸分子を対象に投与することなど、SPARCの治療的使用を含む。例えば、本明細書に記載される処置の方法は、治療有効量の組換えSPARC(例えば、ヒトまたはマウス起源のもの)、SPARCアナログ(例えば、変異型SPARCポリペプチド、あるいは、SPARCポリペプチドと、in vivo安定性、in vivo半減期、及び/または取り込み/投与を向上させる1つ以上のポリペプチド部分とを含有するキメラタンパク質などのSPARC融合タンパク質)、SPARC模倣薬(例えば、SPARCの非ペプチド模倣薬)、SPARCアゴニスト(例えば、アゴニストSPARC受容体抗体)、及び/またはSPARCをコードする核酸分子を対象に投与することを含み得る。
【0158】
SPARCのそのような治療的使用は、例えばWO2008128169A1に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2008128169A1は、血管新生阻害剤の非存在下または存在下で、治療有効量のSPARCポリペプチド及び治療有効量の疎水性化学療法剤(例えば、タキサンなどの微小管阻害剤)を含む、哺乳動物の腫瘍を処置するための組成物を記載している。WO2008128169A1の組成物で使用されるSPARCポリペプチドは、外因性野生型SPARCまたは外因性変異体SPARC(ヒトSPARCタンパク質の成熟型における第3のグルタミンの欠失に対応する変異を有する)のいずれかである。
【0159】
SPARCの治療的使用は、例えばWO2013170365A1に記載されているような治療的使用も含み得る。WO2013170365A1は、SPARCポリペプチド及びGRP78の投与による、がん細胞の感作の方法を開示している。WO2013170365A1の方法で使用されるSPARCポリペプチドは、完全長303アミノ酸SPARCタンパク質配列、及び、当技術分野で公知である、化学感作活性を保持するその任意の断片またはバリアントを指し、これには、Rahman et al.(PLOS ONE 10.1371/journal.pone.0026390 Published:1 November 2011)に記載されているいくつかのSPARCポリペプチド、及びWO/2008/000079で試験されたSPARC断片が含まれる。
【0160】
あるいは、SPARCの治療的使用は、例えば、Chlenski et al.(Mol Cancer 9:138(2010))に記載されているような治療的使用を含み得る。Chlenski et alは、タンパク質のフォリスタチンドメイン(FS-E)に対応するSPARCペプチド、特に、FS-EのC末端ループに対応するペプチドFSECが、神経芽細胞腫において強力な抗血管新生作用及び抗腫瘍形成作用を有することを記載している。
【0161】
CCL5
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される処置の方法は、CCL5の発現及び/または機能を増加させる治療有効量のタンパク質または核酸分子を対象に投与することなど、CCL5の治療的使用を含む。例えば、本明細書に記載される処置の方法は、治療有効量の組換えCCL5(例えば、ヒトまたはマウス起源のもの)、CCL5アナログ(例えば、変異型CCL5ポリペプチド、あるいは、CCL5ポリペプチドと、in vivo安定性、in vivo半減期、及び/または取り込み/投与を向上させる1つ以上のポリペプチド部分とを含有するキメラタンパク質などのCCL5融合タンパク質)、CCL5模倣薬(例えば、CCL5の非ペプチド模倣薬)、CCL5アゴニスト(例えば、アゴニストCCL5受容体抗体)、及び/またはCCL5をコードする核酸分子を対象に投与することを含み得る。
【0162】
CCL5のそのような治療的使用は、例えば、Bhat et al.(Front Immunol,11:1849(2020))及び/またはXie et al.(PNAS 118(9)e2017282118(2021))に記載されているような治療的使用を含み得る。Bhat et alは、アレナウイルスリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)処置後の強力なCCL5産生について記載している。Xie et alは、毛様神経栄養因子(CNTF)遺伝子療法後のケモカインCCL5の広範な発現を示している。
【0163】
あるいは、CCL5の治療的使用は、例えばWO2020068261A1に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2020068261A1は、免疫調節性ドメインに作動可能に連結されたコラーゲン結合ドメインを含む免疫調節性融合タンパク質であって、免疫調節性ドメインがCCL5などの1つ以上のケモカインを含む、免疫調節性融合タンパク質、及び、それを例えばがんを処置するために使用する方法を記載している。
【0164】
他の場合には、CCL5の治療的使用は、例えばWO2020146857A1に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2020146857A1は、ケモカイン部分に融合したプロペプチド部分を含むプロケモカイン部分(ここで、ケモカイン部分は、N末端及びC末端を含み、ケモカイン部分は、CCL5との少なくとも90%の類似性を有するケモカインアミノ酸配列を含む)と、プロケモカイン部分に連結されたターゲティング部分(ここで、ターゲティング部分は、腫瘍、線維症またはアルツハイマー病に関連する抗原または受容体への結合特異性を有する)とを含む、プロテアーゼ放出型ケモカインタンパク質(PARK)を記載している。
【0165】
APP
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される処置の方法は、APPの発現及び/または機能を増加させる治療有効量のタンパク質または核酸分子を対象に投与することなど、APPの治療的使用を含む。例えば、本明細書に記載される処置の方法は、治療有効量の組換えAPP(例えば、ヒトまたはマウス起源のもの)、APPアナログ(例えば、変異型APPポリペプチド、あるいは、APPポリペプチドと、in vivo安定性、in vivo半減期、及び/または取り込み/投与を向上させる1つ以上のポリペプチド部分とを含有するキメラタンパク質などのAPP融合タンパク質)、APP模倣薬(例えば、APPの非ペプチド模倣薬)、APPアゴニスト(例えば、アゴニストAPP受容体抗体)、及び/またはAPPをコードする核酸分子を対象に投与することを含み得る。
【0166】
APPのそのような治療的使用は、例えばWO2020201471A1に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2020201471A1は、肝疾患の処置または防止に使用するための化合物を記載しており、この化合物は、アミロイドベータ関連タンパク質であり、アミロイドベータ関連タンパク質は、アミロイドベータタンパク質、それに由来するアミロイドベータペプチド、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、APPからのアミロイドベータペプチドの生成に関与する化合物、またはアミロイドベータタンパク質もしくはそれに由来するアミロイドペプチドの分解を阻害する化合物からなる群から選択される。アミロイド前駆体タンパク質または「APP」は、多くの組織で発現され、ニューロンのシナプスに集中する内在性膜タンパク質を指す。APPは、タンパク分解によってベータアミロイド(Ab)を生成する前駆体分子として知られている。特に、アミロイドベータタンパク質に由来するアミロイドベータペプチドは、アミロイドベータ40、アミロイドベータ42、及びアミロイドベータ38からなる群から選択される。さらに、APPからのアミロイドベータペプチドの生成に関与する化合物は、アルファ-セクレターゼ、ベータ-セクレターゼ(BACE1)、ガンマ-セクレターゼ、好ましくはプレセニリンから選択される酵素であり得る。
【0167】
あるいは、APPの治療的使用は、例えばWO2020160468A1に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2020160468A1は、APPを含む群から選択される2つ以上のタンパク質の発現及び/または活性を集合的に増加させる1つ以上の薬剤を患者に提供することによって、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び/または前頭側頭葉型認知症などの神経認知障害を有するまたはその発症リスクを持つ患者を処置するための組成物及び方法を記載している。APP及びアミロイドベータA4タンパク質には、APP遺伝子またはタンパク質の野生型形態、ならびに野生型APPタンパク質のバリアント(例えば、とりわけ、スプライスバリアント、トランケーション、コンカテマー、及び融合構築物)及びそれをコードする核酸が含まれる。
【0168】
PF4
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される処置の方法は、PF4の発現及び/または機能を増加させる治療有効量のタンパク質または核酸分子を対象に投与することなど、PF4の治療的使用を含む。例えば、本明細書に記載される処置の方法は、治療有効量の組換えPF4(例えば、ヒトまたはマウス起源のもの)、PF4アナログ(例えば、変異型PF4ポリペプチド、あるいは、PF4ポリペプチドと、in vivo安定性、in vivo半減期、及び/または取り込み/投与を向上させる1つ以上のポリペプチド部分とを含有するキメラタンパク質などのPF4融合タンパク質)、PF4模倣薬(例えば、PF4の非ペプチド模倣薬)、PF4アゴニスト(例えば、アゴニストPF4受容体抗体)、及び/またはPF4をコードする核酸分子を対象に投与することを含み得る。
【0169】
PF4のそのような治療的使用は、例えばWO2009117710A2に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2009117710A2は、(i)CXCR2及びCXCR4へのMIFの結合、及び/または(ii)CXCR2及びCXCR4のMIF活性化;(iii)ホモ多量体を形成するMIFの能力;またはそれらの組み合わせを阻害する活性剤を対象に投与することにより、MIF媒介性障害を処置する方法を記載しており、この活性剤は、組換えPF4であり得る。
【0170】
あるいは、PF4の治療的使用は、例えばWO1994013321A1に記載されているような治療的使用を含み得る。WO1994013321A1は、骨髄系細胞を抑制するケモカインの相乗的組み合わせを投与することによって骨髄系細胞を抑制するプロセスを記載しており、この相乗的組み合わせは、PF4からなる群から選択される少なくとも1つのケモカインを含む。WO1994013321A1の方法及び組成物で使用されるPF4は、天然のヒトPF4である。
【0171】
DNAJC19
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される処置の方法は、DNAJC19の発現及び/または機能を増加させる治療有効量のタンパク質または核酸分子を対象に投与することなど、DNAJC19の治療的使用を含む。例えば、本明細書に記載される処置の方法は、治療有効量の組換えDNAJC19(例えば、ヒトまたはマウス起源のもの)、DNAJC19アナログ(例えば、変異型DNAJC19ポリペプチド、あるいは、DNAJC19ポリペプチドと、in vivo安定性、in vivo半減期、及び/または取り込み/投与を向上させる1つ以上のポリペプチド部分とを含有するキメラタンパク質などのDNAJC19融合タンパク質)、DNAJC19模倣薬(例えば、DNAJC19の非ペプチド模倣薬)、DNAJC19アゴニスト(例えば、アゴニストDNAJC19受容体抗体)、及び/またはDNAJC19をコードする核酸分子を対象に投与することを含み得る。
【0172】
DNAJC19のそのような治療的使用は、例えばWO2016170348A2に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2016170348A2は、治療目的で標的遺伝子の発現を調節するための低分子活性化RNAについて記載しており、この標的遺伝子はDNAJC19であり得る。
【0173】
あるいは、DNAJC19の治療的使用は、例えばWO2017191274A2に記載されているような治療的使用を含み得る。WO2017191274A2は、代謝障害もしくは内分泌障害、がん、感染性疾患または免疫不全などの疾患、障害または病態における遺伝子療法において使用される医薬として使用される組成物を調製するのに有用な、コード配列を含むRNAを記載しており、ここで、コードされるペプチドまたはタンパク質は、限定されるものではないがDNAJC19を含む群から選択される治療用タンパク質またはその断片もしくはバリアントを含む。
【0174】
Testican-2
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される処置の方法は、Testican-2である、あるいはTestican-2の発現及び/または機能を増加させる治療有効量のタンパク質または核酸分子を対象に投与することなど、Testican-2の治療的使用を含む。例えば、本明細書に記載される処置の方法は、治療有効量の組換えTestican-2、Testican-2アナログ(例えば、変異型Testican-2ポリペプチド、あるいは、Testican-2ポリペプチドと、in vivo安定性、in vivo半減期、及び/または取り込み/投与を向上させる1つ以上のポリペプチド部分とを含有するキメラタンパク質などのTestican-2融合タンパク質)、Testican-2模倣薬(例えば、Testican-2の非ペプチド模倣薬)、Testican-2アゴニスト(例えば、アゴニストTestican-2受容体抗体)、及び/またはTestican-2をコードする核酸分子を対象に投与することを含み得る。
【0175】
特定の実施形態では、本明細書で開示される方法及び組成物は、進行性腎機能低下を発症するリスクを持つヒト対象を識別するために使用され(対象は腎機能低下を既に有している可能性があり、その場合、リスクはさらなる進行に関して評価される)、リスクを持つものとして識別されたヒト対象に、腎機能を改善させる(すなわち、腎臓病の進行を緩徐化する)ための療法が施与される。療法の例は、体重減少、高血圧をコントロールする薬剤、及び/または高コレステロールレベルをコントロールする薬剤を含むが、これらに限定されない。このような薬剤は、進行性腎臓病を引き起こし得る問題、及びその結果として起こり得る合併症、例えば高血圧を処置するために使用され得る。本明細書で開示される方法は、特定の実施形態では、追加の薬剤、例えば抗線維症剤を対象に投与することも含む。例示的な薬剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)及びアンジオテンシンII受容体1型遮断薬(ARB)、レニン阻害剤(アリスキレン、エナルキレン、ザルキレン)、ミネラルコルチコイド受容体遮断薬(スピロノラクトン、エプレレノン)、バソペプチダーゼ阻害剤(例えばAVE7688、オマパトリラト)を含むが、これらに限定されない。特定の実施形態では、アトルバスタチンまたはシンバスタチンなどのスタチンが、ヒト対象のコレステロールレベルを低下させるために投与される。
【0176】
さらに、本明細書に記載される治療方法において有用な核酸分子(例えばDNA及び/またはmRNA核酸分子)は、合成されたものでもよい。「合成」という用語は、核酸分子が単離されており、内因性前駆体mRNA分子などの天然に存在する核酸分子と配列(配列全体)及び/または化学構造において同一ではないことを意味する。いくつかの実施形態では、本発明の核酸は天然に存在する核酸の配列と同一の配列全体を有しないが、そのような分子は天然に存在する配列の全部または一部を包含し得る。しかし、細胞に投与された合成核酸は、その後、その構造または配列が、成熟mRNA配列などの非合成核酸または天然に存在する核酸と同じになるように、細胞内で修飾または変更され得ることが企図される。例えば、合成核酸は、前駆体mRNAの配列とは異なる配列を有し得るが、その配列は細胞に入ると変更されて、内因性のプロセシングされたmRNAと同じになり得る。「単離された」という用語は、本開示の核酸分子が(配列または構造の点で)異なる望まれない核酸分子から最初に分離され、それにより、単離された核酸の集団が少なくとも約90%均質になり、他のポリヌクレオチド分子に関して少なくとも約95、96、97、98、99、または100%均質になり得ることを意味する。本開示の多くの実施形態において、核酸は、細胞内の内因性核酸とは別にin vitroで合成されたことにより単離されている。しかし、単離された核酸はその後、一緒に混合またはプールされ得ることが理解されるであろう。
【0177】
核酸は、例えば、化学合成、酵素的生成または生物学的生成など、当業者に公知の任意の技術によって作製され得る。
【0178】
核酸合成は、標準的な方法に従って行われる。例えば、Itakura and Riggs(1980)を参照されたい。さらに、米国特許第4,704,362号、米国特許第5,221,619号、及び米国特許第5,583,013号は各々、合成核酸を調製する様々な方法を記載している。合成核酸(例えば、合成オリゴヌクレオチド)の非限定的な例には、参照により本明細書に組み込まれているEP266,032に記載されているような、ホスホトリエステル、ホスファイトもしくはホスホラミダイト化学及び固相技術を使用したin vitro化学合成によって、または各々参照により本明細書に組み込まれているFroehler et al..,1986及び米国特許第5,705,629号に記載されているような、デオキシヌクレオシドH-ホスホネート中間体を介して作製された核酸が含まれる。本発明の方法では、1つ以上のオリゴヌクレオチドが使用され得る。様々な異なるオリゴヌクレオチド合成メカニズムが、例えば、米国特許第4,659,774号、同第4,816,571号、同第5,141,813号、同第5,264,566号、同第4,959,463号、同第5,428,148号、同第5,554,744号、同第5,574,146号、同第5,602,244号で開示されており、その各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0179】
酵素的に生成された核酸の非限定的な例には、PCRなどの増幅反応で酵素によって生成されたもの(例えば、各々参照により本明細書に組み込まれている米国特許第4,683,202号及び米国特許第4,682,195号を参照されたい)、または参照により本明細書に組み込まれている米国特許第5,645,897号に記載されているオリゴヌクレオチドの合成によって生成されたものが含まれる。
【0180】
オリゴヌクレオチド合成は、当業者にはよく知られている。様々な異なるオリゴヌクレオチド合成メカニズムが、例えば、米国特許第4,659,774号、同第4,816,571号、同第5,141,813号、同第5,264,566号、同第4,959,463号、同第5,428,148号、同第5,554,744号、同第5,574,146号、同第5,602,244号で開示されており、その各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0181】
細胞内で核酸を産生させる組換え方法は、当業者にはよく知られている。これらには、標的細胞または単に宿主細胞であってもよい細胞に(所望のRNA分子を大量に産生させるために)核酸を送達するためのベクター、プラスミド、コスミド、及び他のビヒクルの使用が含まれる。あるいは、そのようなビヒクルは、RNA分子を生成するための試薬が存在する限り、無細胞系の環境で使用してもよい。そのような方法には、Sambrook,2003、Sambrook,2001、及びSambrook,1989に記載されているものが含まれ、これらは参照により本明細書に組み込まれている。
【0182】
特定の実施形態では、本開示の核酸分子は、合成されたものではない。いくつかの実施形態では、核酸分子は、天然に存在する核酸の化学構造及び天然に存在する核酸の配列を有する。このような非合成核酸は、組換え技術の使用に加えて、オリゴヌクレオチドの作出に使用される技術を利用することなどにより、化学的に生成することもできる。
【0183】
本開示に係る治療剤(例えば、防御タンパク質)の投与または送達は、標的組織がその経路を介して利用可能である限り、任意の経路を介するものであり得る。例えば、投与は、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内もしくは静脈内注射、または標的組織(例えば、心臓組織)への直接注射によるものであり得る。ポリペプチドもしくはポリヌクレオチド、またはポリペプチドもしくはポリヌクレオチド配列を含む発現構築物を含む医薬組成物は、治療剤を心臓に送達するためのカテーテルシステムまたは冠循環を隔離するシステムによって投与することもできる。治療剤を心臓及び冠血管系に送達するための様々なカテーテルシステムが当技術分野では公知である。本発明での使用に好適なカテーテルベースの送達方法または冠血管隔離方法のいくつかの非限定的な例が、米国特許第6,416,510号、米国特許第6,716,196号、米国特許第6,953,466号、WO2005/082440、WO2006/089340、米国特許公開第2007/0203445号、米国特許公開第2006/0148742号、及び米国特許公開第2007/0060907号で開示されており、これらはすべて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0184】
治療剤(例えば、防御タンパク質)は、非経口投与しても腹腔内投与してもよい。例として、遊離塩基または薬理学的に許容される塩としてのコンジュゲートの溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と好適に混合した水中で調製することができる。グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びそれらの混合物中で、また油中で分散液を調製してもよい。通常の保管条件及び使用条件下では、これらの調製物は概して、微生物の成長を防止するための保存剤を含有する。
【0185】
注射用途またはカテーテル送達に好適な治療剤(例えば、防御タンパク質)には、例えば、無菌の水溶液または分散液及び無菌の注射可能な溶液または分散液を即時調製するための無菌粉末が含まれる。概して、これらの調製物は無菌であり、容易に注射できる程度の流動性を持つ。調製物は、製造及び保管の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌などの微生物の混入作用から保護されなければならない。適切な溶媒または分散媒は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、それらの好適な混合物、及び植物油を含有し得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散の場合には必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤(複数可)、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射可能組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを、組成物中に使用することによってもたらされ得る。
【0186】
本開示を以下の実施例によってさらに説明するが、これは限定と解釈されるべきではない。
【実施例
【0187】
本明細書では、進行性腎機能低下及び/またはESKDを有する対象、あるいはその疑いのある対象、あるいはそれを発症する可能性のある対象の診断、予後判定、及び識別に有用なバイオマーカーを識別する研究について説明する。以下の実施例は例示を目的として含まれるものに過ぎず、限定を意図するものではない。
【0188】
過去数十年にわたり、1型糖尿病(T1D)及び2型糖尿病(T2D)を有するヒトにおける糖尿病性腎臓病(DKD)のメカニズムを理解するために、かなりの研究努力が払われてきた。その研究において、主要な焦点は、DKDの様々な兆候を発現する高いリスクに関連する因子及びマーカーに当てられていた(Parving et al.,Diabetic Nephropathy. In:Brenner BM,ed.Brenner and Rector’s The Kidney.7th ed.Philadelphia. (Elsevier,2004)、JAMA 290:2159-2167(2003)、Lancet 352:837-853(1998)、Nowak et al.,Kidney International 93:1198-1206(2018)、Niewczas et al.,Nat Med 25:805-813(2019)、Ahluwalia et al.,Editorial:Novel Biomarkers for Type 2 Diabetes. Front Endocrinol(Lausanne)10:649(2019))。最近では、DKDからの防御に関連する因子及びバイオマーカーの探索に関心が集まっている。糖尿病の期間が長いにもかかわらず後期合併症を起こさなかった対象、いわゆる糖尿病長期罹患生存者は、そのような防御因子/バイオマーカーを豊富に持つ可能性があるという仮説が立てられている。このアプローチは、DKDに関する新しい仮説の発展をもたらしただけでなく、DKDを防止するための新しい治療標的としてのピルビン酸キナーゼM2(PKM2)の識別にもつながる所見を既に提供している(Qi et al.,Nat Med 23:753-762(2017))。
【0189】
材料及び方法
本明細書に記載される研究の対象は、Joslin Kidney Study(JKS)の参加者の中から選択された。The Joslin Diabetes Center Committee on Human Studiesは、両種類の糖尿病における腎機能低下の決定因子及び自然経過を調査する縦断的観察研究であるJKSのインフォームドコンセント、リクルート及び検査プロトコルを承認した。
【0190】
Joslin Kidney Study(JKS)
簡潔に述べると、JKSは、1型糖尿病(T1D)及び2型糖尿病(T2D)の2つのコンポーネントを含む。T1Dコンポーネントの対象は、1991年から2009年の間にJoslinクリニックに通院したT1Dを有する18~64歳の成人3,500名の中から継続的にリクルートされた。登録(ベースライン調査)前の2年間に取得されたACRの中央値に従って、マクロアルブミン尿(ACR≧300μg/mg)、ミクロアルブミン尿(30≦ACR<300μg/mg)、及び正常アルブミン尿(ACR<30μg/mg)の3つのサブグループに対象が分類された。その目的は、マクロアルブミン尿対象及びミクロアルブミン尿対象の全員、ならびに同様の数の正常アルブミン尿対象をJKSにリクルートすることであった。マクロアルブミン尿対象526名、ミクロアルブミン尿対象563名、及び正常アルブミン尿対象795名の計1884名が登録された。
【0191】
T2Dコホートの対象は、2003年から2009年の間にJoslinクリニックに通院したT2Dを有する35~64歳の成人4500名の中から継続的にリクルートされた。登録(ベースライン調査)前の2年間に取得されたACRの中央値に従って、T1Dについて上述したように3つのサブグループに対象が分類された。その目的は、マクロアルブミン尿対象及びミクロアルブミン尿対象全員、ならびに同様の数の正常アルブミン尿対象をJKSにリクルートすることであった。マクロアルブミン尿対象261名、ミクロアルブミン尿対象482名、及び正常アルブミン尿対象733名の計1,476名が登録された。
【0192】
JKSに登録されたすべての対象は、定期的な診療所訪問中に年2回の調査を受けるか、または特別訪問に招待されるか、または自宅で調査を受けた。これらの調査は、対象が末期腎臓病(ESKD)を発症するか、死亡するか、フォローアップ不能になるか、または2015年のフォローアップ終了まで実施された。調査で取得された生物検体は-85℃で保管された。ベースラインでの腎機能及びフォローアップ訪問中のその変化を判定するために、血清クレアチニンが使用された。血清クレアチニン測定値は、Skupien et al.(Kidney international 82:589-597(2012))によって説明されたプロトコルを使用して経時的に較正された。糸球体濾過率(GFR)の推定値は、Levey et al.(Ann Intern Med 150:604-612(2009))によって説明されたChronic Kidney Disease Epidemiology Collaborationの式を使用して取得された。
【0193】
フォローアップ中の腎機能変化の径路のパターンを分類するための第1のステップは、それらが線形であるか非線形であるかを判定することであった。ほとんどの推定糸球体濾過率(eGFR)径路は検査時に線形に見えたが、この印象は、線形モデルとスプラインモデルとの両方を各患者の腎機能の径路に当てはめることによって統計的に検証された。Jones and Molitoris(Anal Biochem 141:287-290(1984))によって説明され、Shah and Levey(J Am Soc Nephrol 2:1186-1191(1992))によって使用されたアプローチを適用することで、フォローアップ中の個人の連続的な腎機能変化が調べられた。この研究の参加者は、7~15年間のフォローアップ中に5回以上のeGFR判定を受けた。この方法は、各参加者の腎機能の径路を、単純な線形モデルとして、また、個別に判定された点で接続された線形セグメントを含むスプラインモデルとして表す。線形モデル及びスプラインモデルが比較され、線形モデルは、0.05の名目上の有意性、及びスプラインセグメントの数によって決定される自由度(n-1)で棄却された。大部分は線形の傾きを有していた。eGFR低下の傾きを判定するために、各個人の径路の線形成分を抽出することで、フォローアップ中の全体的なeGFR変化の傾きの分布が生成された。このアプローチの詳細は以下に記載されており、Skupien et al.(Kidney international 82:589-597(2012))にも記載されている。
【0194】
JKSに含まれた全対象を2年毎にUnited States Renal Data System(USRDS)及びNational Death Index(NDI)の名簿と照合することで、ESKDを発症した患者または死亡した患者が確認された。最後の照会は2015年に実施された。USRDSは、透析及び移植の日付を含む、腎置換療法を受けている米国の患者の名簿を管理している。
【0195】
探索、複製、及び検証コホート
本研究は、3つのJKSコホートを含む。T1D対象214名の探索コホート及びT2D対象144名の複製コホートは、T1D及びT2DにおけるESKDの発症を予測するための血清TNF-R1濃度のカットポイント値を判定するための我々の研究に以前に参加していた(Yamanouchi et al.,Kidney International 92:258-266(2017))。慢性腎臓病(CKD)ステージ3及び4の対象を含んでいた以前の研究とは異なり、本研究には、ベースライン調査時にCKDステージ3を有していたJKSの対象が含まれた。検証コホートは、ベースラインでCKDステージ1及び2を有していたT1D対象294名からなり、初期ステージのDKD対象の後期糖尿病性腎臓病(DKD)コホートで観察される3つの例示的な防御タンパク質の重要性を調べるために使用された。主な目的は、腎機能異常を有するT1D患者だけでなく、DKDのステージを問わないあらゆる糖尿病患者における、進行性腎機能低下及びESKDへの進行に対する防御タンパク質を探索することであった。したがって、所見のロバスト性を実証するために、T1D探索コホート(後期ステージのDKDを有するT1D患者)、T2D複製コホート(後期ステージのDKDを有するT2D患者)、及びT1D検証コホート(初期ステージのDKDを有するT1D患者)という、異なるベースライン特性を持つ3つの非常に異なるコホートを選択した。
【0196】
T1D及びT2Dを有する対象は、マクロアルブミン尿(ACR≧300μg/mg)及びミクロアルブミン尿(ACR≧30μg/mg)を有していた。これらの対象は、eGFR低下の速度(eGFRの傾き)を判定し、ESKDの発生を確認するために、7~15年間追跡された。これらの対象からの臨床データ及び血漿検体のすべてが本研究に利用可能であった。これらのコホートの詳細な説明、臨床的特徴の測定値、血清クレアチニンの連続的測定からのeGFRの傾きの判定、及びESKDの発生の確認については、例えば、Niewczas et al.(Nat Med 25:805-813(2019))及びYamanouchi et al.(Kidney International 92:258-266(2017))に記載されている。3つすべてのコホートにおいて、進行性腎機能低下が低速の者(非進行者)または高速の者(進行者)を定義するための閾値として、eGFR損失<3.0ml/分/年が選択された。そのような閾値の理論的根拠は、以前の公表文献で十分に立証され、使用されており(Perkins et al.,J Am Soc Nephrol 18:1353-1361(2007)、Krolewski et al.,Diabetes Care 37:226-234(2014))、一般集団における年間腎機能喪失の分布の2.5パーセンタイルに対応する(Lindeman et al.,J Am Geriatr Soc 33:278-285(1985))。
【0197】
T1D対象の健康な非糖尿病性の親
Joslin Kidney Studyでは、T1Dを有する対象の生きている親も調べられた。T1D対象の非糖尿病性親の群は、T1DにおけるDKDの決定因子に関する遺伝的研究から導出された。親のベースライン調査は、JKSの全参加者と同じプロトコルに従って行われた。調査で取得された生物検体は-85℃で保管された。本試験では、ベースライン調査時の年齢が50~69歳であった白人非糖尿病性親79名を非糖尿病性コントロールとして使用するために選択した。40名の親には、糖尿病の期間が長いにもかかわらず腎臓の合併症を起こさなかった子どもがおり、39名の親には、進行したDKD(腎機能異常またはESKD)を有する子どもがいた。非糖尿病性親のT1D子孫の臨床表現型は、正常アルブミン尿(n=40)、またはESKDもしくはタンパク尿(n=39)のいずれかである。ベースライン調査で取得された血漿検体をSOMAscan分析に供した。
【0198】
SOMAscanプロテオミクス分析
SOMAscanプロテオミクスプラットフォームは、わずか50μlの血漿、血清、または同様に少量の他の様々な生物学的マトリクスで1129種のタンパク質の濃度を測定する一本鎖DNAアプタマーを使用する。タンパク質の完全なリストを表1に示す。SOMAscanプラットフォームは、過去20年間に開発されたアプタマー技術を利用する新世代のSOMAMER(Slow Off-rate Modified Aptamer)試薬を役立てるものである(Tuerk et al.,Science 249:505-510(1990)、Ellington et al.,Nature 346:818-822(1990))。SOMAmer試薬は、天然の折り畳まれた立体構造にあるタンパク質に対して選択されており、折り畳まれたタンパク質に、したがって線形ペプチド配列ではなく三次元形状エピトープに結合する。SOMAscanプラットフォームは非常にダイナミックなレンジを提供し、この大きなダイナミックレンジは、目的のサンプルの3つの連続希釈物と組み合わせた各SOMAMER試薬の検出範囲に起因する。希釈物は、40%(存在量の最も少ないタンパク質を検出するための最も濃度の高いサンプル:100%サンプル中でfM~pM)、1%(中域)、及び0.005%(存在量の最も多いタンパク質を検出するための最も濃度の低いサンプル設計:100%サンプル中で約μM)の3つのプールに分けられる。アッセイの読み取り値は相対蛍光単位(RFU)で報告され、元のサンプル中の標的タンパク質量に正比例する。SOMAscanプロテオミクスプラットフォームの詳細については、他の箇所に記載されている(Gold et al.,PLoS One 5:e15004(2010)、Hathout et al.,Proc Natl Acad Sci USA 112:7153-7158(2015))。
【0199】
プロテオミクスプロファイリングは、SomaLogic laboratory(Boulder,CO)に拠点を置くSOMAscanプラットフォームを使用して行った。製造元が推奨するプロトコルに従って、較正サンプル及び正規化サンプルのセットを備えたHuman Plasma SOMAscan 1.1kキットを使用した。データの標準化は、SOMAscanプラットフォームのデータクオリティコントロールプロトコルに従って行った。SOMAscanアッセイ結果を標準化するために、まず、生のSOMAscanアッセイデータを正規化して、ラン内のハイブリダイゼーションのばらつきを除去し(ハイブリダイゼーション正規化)、その後、全サンプルのシグナル中央値正規化によってラン内の他のアッセイの偏りを除去し、最後にラン間のアッセイ差を除去するために較正した。ハイブリダイゼーション及びシグナル中央値正規化のスケール因子の許容基準は0.4~2.5の範囲であると予想される。較正スケール因子の中央値は1.0から±0.2以内であると予想され、全アレイにおける個々のSOMAmer試薬の最低95%は中央値から±0.4以内である必要がある。すべてのサンプルのSOMAscanデータはクオリティコントロール基準に合格し、分析に適していた。
【0200】
LC-MS/MSによるSOMAmer特異性の技術的検証
SOMAscanプラットフォームの特異性を系統的に評価するために、SOMAmerを使用したプロトコルを開発して、無傷タンパク質の親和性プルダウン後のペプチド消化及び非標的質量分析による分析を行った。FGF20 SOMAmer試薬を解凍し、ボルテックスして2分間スピンダウンし、PCR機で100℃まで5分間加熱し、その後25℃の水浴でゆっくり冷却した。FGF20 SOMAmerを50mM ABバッファー(40mM HEPES、100mM NaCl、5mM KCl、5mM MgCl2、0.05% Tween-20、pH7.5)に希釈した後、水浴で25℃まで20分間冷却した。ストレプトアビジンアガロースビーズを50mMから7.5%に希釈し、次いで1000×gで2分間スピンした。7.5%ストレプトアビジンアガロースビーズをABバッファーで洗浄し、ボルテックスし、1000×gで2分間遠心分離した。液体を真空引きし、洗浄をもう一度繰り返して合計2回とした。SOMAmerをビーズに加え、25℃で振盪しながら20分間インキュベートした。チューブを1000×gで2分間スピンし、液体を真空によって除去した。ビーズを0-Wバッファーで2回洗浄し、その後ABバッファーで2回洗浄した。ABバッファー、血漿及び血清サンプル、ならびに組換えタンパク質を、30μlのSOMAmer結合ビーズと共に適切なチューブに加えた。これらのチューブを室温で1.5時間振盪した。インキュベーションが完了した後、チューブを1分間スピンダウンし、液体を除去した。サンプルを1-B遮断薬で1回洗浄し、800rpmで5分間振盪し、液体を除去した。サンプルをABバッファーで6回洗浄した後、-80℃で凍結した。サンプル量の4倍の-20℃のアセトンを各チューブに加えた。チューブを素早くボルテックスし、-20℃で1時間インキュベートした。チューブを13,000×gで10分間遠心分離し、上清を真空引きした。
【0201】
洗浄したビーズの各セットに、等量の0.5M炭酸アンモニウムpH10.5を加えた。次いで、97.5%アセトニトリル中の2%(v/v)ヨードエタノール及び0.5%(v/v)トリエチルホスフィンからなる別の等量の還元/アルキル化カクテルを各サンプルに加えた。溶液に蓋をし、37℃で1時間インキュベートし、その後、乾燥するまで高速真空引きした。次いで、得られたペレットをトリプシン溶液(Pierce Trypsin Protease MS-Grade、100mM Tris-HCl中、pH8.0)に再溶解した。消化を37℃で一晩行い、その後、μC18 ZipTips(Millipore)を使用して溶液を脱塩した。Thermo EASY-nLC HPLCシステムを使用して、Thermo Q-Exactive質量分析計により、消化後のサンプルを分析した。75μm×15cmのThermo EASY-Spray C18カラムを用いて分離を行った。完全高解像度MSスキャンとそれに続く上位10個の最も強度の高い前駆イオン(350~2000m/zの質量範囲内)のMS/MSスキャンを用いるデータ依存取得モードでMSデータを収集した。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表2-9】
【表2-10】
【表2-11】
【表2-12】
【表2-13】
【表2-14】
【表2-15】
【表2-16】
【表2-17】
【表2-18】
【表2-19】
【表2-20】
【表2-21】
【表2-22】
【表2-23】
【表2-24】
【表2-25】
【表2-26】
【表2-27】
【表2-28】
【表2-29】
【表2-30】
【表2-31】
【表2-32】
【表2-33】
【表2-34】
【表2-35】
【表2-36】
【表2-37】
【表2-38】
【表2-39】
【表2-40】
【表2-41】
【表2-42】
【表2-43】
【表2-44】
【表2-45】
【表2-46】
【表2-47】
【0202】
統計分析
すべての統計分析は、Windows版SASバージョン9.4(SAS Institute,Cary,NC)を使用して行った。すべてのデータは、該当する場合、平均値及び標準偏差、中央値(25パーセンタイル及び75パーセンタイル)、またはカウント(割合)の測度のいずれかとして提示した。スピアマンの順位相関(r)を使用して、循環血漿濃度とeGFRの傾き、TNF-R1、及び臨床共変量との相関関係を評価した。階層的クラスター分析(Ward法)を使用して防御タンパク質のクラスターを識別した。ベースラインタンパク質RFU濃度(n=1,129)を自然対数変換した後、関連性検定の前にその分布の四分位に分類した。発見及び複製の複合コホートならびに検証コホートにおける自然対数変換後の上位3つの防御タンパク質の分布を図1A~1Bに示す。単変量及び多変量ロジスティック回帰モデルを使用して、ベースラインで測定された該当する循環血漿タンパク質と転帰測度(eGFR損失≧3.0ml/分/年またはESKDへの進行の場合は進行者)との関連性を検定し、対応する95%信頼区間と共に該当するタンパク質の循環血漿濃度の1四分位増加ごとのオッズ比として表した。3つの例示的な防御タンパク質の複合効果である防御指数に応じたESKDの累積発生率を、SASソフトウェアのPROC LIFETESTを使用して分析した。非糖尿病者、非進行者、及び進行者における血漿タンパク質濃度間の比較を、一元配置ANOVAとダンの多重比較検定を使用して調べた。有意性は、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、及び****P<0.0001と定義した。
【0203】
実施例1.Joslin Kidney Studyの探索及び複製コホートの特徴
本明細書で開示される研究には、現在進行中のJoslin Kidney Studyに参加している対象が含まれた。糖尿病及び腎機能異常(CKDステージ3)を有する対象の2つの独立コホート、すなわちT1D対象214名の探索Joslinコホート及びT2D対象144名の複製Joslinコホートが構成された。これらのコホートは、eGFRの傾きを判定し、ESKDの発生時期を確認するために、7~15年間追跡された。これらのコホートの臨床的特徴を表2に示す。Joslin T1Dコホートに含まれたすべての研究参加者及びT2Dコホートに含まれた研究参加者の92%が白人であった。ベースラインでは、T1D対象と比較して、T2D対象は年齢が高く、糖尿病の期間が短く、体格指数(BMI)が高く、ヘモグロビンA1c(HbA1c)が低く、尿中アルブミン対クレアチニン比(ACR)が低いが、eGFRには同様の異常があった。
【0204】
7~15年間のフォローアップ中、両コホートの対象の大多数が進行性腎機能低下を有していた。しかし、eGFRの傾きは対象間で大きく異なり、T1D対象の傾きはT2D対象よりもわずかに急勾配であった。T1D及びT2DのJoslinコホートにおけるeGFRの傾きの分布を図2に示す。eGFR損失<3.0ml/分/年と定義された低速低下者(非進行者という)の数は、T1D探索コホート及びT2D複製コホートでそれぞれ71(33%)及び69(48%)であった(表2)。この研究の焦点であるこれらの非進行者は、非常に浅いeGFRの傾きを有しており、中央値(25パーセンタイル、75パーセンタイル)は、T1Dコホート及びT2Dコホートでそれぞれ-1.6ml/分/年(-2.3、-1.0)及び-0.9ml/分/年(-2.0、0.4)であった。7~15年間のフォローアップ中、これらの対象はいずれもESKDに進行しなかった。これに対し、表2に示すように、eGFR損失≧3.0ml/分/年と定義された高速低下者(進行者という)の大部分(複合コホートの61%)が、10年間のフォローアップ中にESKDに進行した。
【表3】
【0205】
実施例2.進行性腎機能低下を防ぐ血漿タンパク質のプロファイリング
SOMAscanプロテオミクスプラットフォームを使用して、上記の表1に示した1129種の血漿タンパク質を測定した。これらの血漿タンパク質を、ベースラインの非進行者における濃度の上昇について調べた。本研究の概略表現を図3にまとめる。Joslin探索T1Dコホートでは、73種のタンパク質のベースライン血漿濃度が、偽発見率(FDR)調整済みP<0.005でeGFRの傾きと正に、かつ有意に相関しており(表3)、したがって、これらのタンパク質のベースライン濃度の上昇は、フォローアップ中の低速または最小限の腎機能低下に関連付けられた。これらのタンパク質は、進行性腎機能低下に対する候補防御因子/バイオマーカーと考えることができる。eGFRの傾きと負に相関したタンパク質は、進行性腎機能低下及びESKDへの進行のリスクを増加させる候補因子/バイオマーカーと考えられ得る。それどころか、別個の研究は、同じSOMAscanプロテオミクスプラットフォームを使用して、194種の炎症性循環タンパク質と、これら2つのJoslinコホートにおけるESKDへの進行のリスクとの関連性を発表している(Niewczas et al.,Nat Med 25:805-813(2019))。
【0206】
T1D対象におけるeGFRの傾きと正に相関する73種の血漿タンパク質を、T2D対象の複製コホートでさらに分析した。18種のタンパク質は、公称P<0.05でeGFRの傾きと正に相関していることが分かった(表3)。本明細書に記述するように、腎組織及び血漿におけるPKM2の濃度上昇は、T1Dの期間が長い対象のDKDを防ぐ新規のバイオマーカー及び潜在的な治療標的であることが最近実証された(Qi et al.,Nat Med 23:753-762(2017))。このタンパク質が、腎機能異常を有する対象における進行性腎機能低下からの防御にも関与しているかどうかを判定するために、PKM2はT2D対象のeGFRの傾きと有意に相関していないが、PKM2を18種の候補タンパク質と共にさらなる分析に含めた。19種の血漿タンパク質の名称、相関係数、ならびにT1D及びT2DコホートでそれぞれeGFRの傾きと正に相関した各タンパク質のP値を、図4Aに提示する。T2D群では、相関は概してわずかに弱かったが、18種すべてのタンパク質が、eGFRの傾きと正に、かつ有意に相関した。
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【0207】
実施例3.進行性腎機能低下を防ぐ血漿タンパク質
両方のJoslinコホートがベースラインで腎機能異常(CKDステージ3)を有し、eGFRの傾きとの均一な強さの関連性を有していたため、両コホートのSOMAscan結果を統合した。ロジスティック回帰分析を使用して、19種のタンパク質の各々のベースライン血漿濃度と進行性腎機能低下の速度との関連性を分析した。複合Joslinコホートの対象を、(1)進行者という、高速の腎機能低下(eGFR損失≧3.0ml/分/年)もしくはESKDへの進行を有する対象、または(2)非進行者という、低速もしくは最小限の腎機能低下(eGFR損失<3.0ml/分/年)を有する対象の群に分けた。進行性腎機能低下に関連する臨床的特徴及びリスク因子からの防御効果の統計的独立性を評価するために、まず単変量ロジスティックモデル、次にベースライン臨床共変量に対して調整された多変量ロジスティックモデルを行った。潜在的な交絡因子のリストには、年齢、性別、民族性/人種、糖尿病の期間、インスリン処置、腎保護処置、BMI、収縮期血圧及び拡張期血圧、HbA1c、eGFRならびにACRが含まれた。HbA1c、eGFR、及びACRからなる主要な共変量を最終的なロジスティックモデルに含めた。ロジスティックモデルに入れる共変量の選択に関する情報を表4に示す。単変量分析及び多変量分析の結果を図4Bに示す。すべてのモデルは糖尿病の種類に合わせて調整した。効果は、特定のタンパク質のベースライン血漿濃度の1四分位増加ごとのオッズ比(OR)として95%信頼区間(95%CI)と共に示されている。単変量モデルでは、PKM2(図4B-##で表示)を含む19種すべてのタンパク質が進行性腎機能低下を防いだ(OR<1.0であった)。eGFR、HbA1c、ACR、及び糖尿病の種類を含むベースライン臨床共変量について調整された最終モデルでは、8種のタンパク質の血漿濃度の上昇が、進行性腎機能低下からの防御と依然として関連していた(図4B及び表5)。これら8種の血漿タンパク質を「確認済み」防御タンパク質といい、これらはTNFSF12、SPARC、CCL5、APP、PF4、DNAJC19、ANGPT1及びFGF20(図4B-#で表示)を含んでいた。PKM2のベースライン濃度は、臨床共変量によるさらなる調整の後、進行性腎機能低下からの防御に関連していなかった。PKM2の効果は、単変量分析では有意(P<0.05)であったが、臨床共変量の調整後には統計的に有意でなくなった。
【表5】
【表6】
【0208】
どの確認済み防御タンパク質が進行性腎機能低下からの防御に独立的に寄与したかを調べるために、まず、スピアマンの順位相関を使用して、8種のタンパク質及び重要な臨床共変量の間のベースラインでの関係を分析した。図5Aに示す相関行列は、ベースラインHbA1cにおける変動が8種の防御タンパク質の変動に影響しない一方で、ベースラインeGFRの変動はTNFSF12及びFGF20と弱く相関したことを示す。これに対し、ベースラインACRは、FGF20を除くすべてのタンパク質と弱く相関した(図5A及び図6)。さらに、防御タンパク質のすべてが、ESKDへの進行のリスク増加に関連する循環炎症性タンパク質の1つとして我々が以前に報告した(Niewczas et al.,Nat Med 25:805-813(2019))、血漿中の腫瘍壊死因子受容体1(TNF-R1)の濃度と負に相関し、防御タンパク質の濃度上昇に伴う血漿TNF-R1濃度の低下を示している。確認済み防御タンパク質を互いとの相関係数に従って3つのサブグループに分けた(図5A)。サブグループ(A)には、相互相関性が極めて高い5つのタンパク質であるSPARC、CCL5、APP、PF4及びANGPT1が含まれた。サブグループ(B)には、DNAJC19及びTNFSF12の2つのタンパク質が含まれ、これらは、互いと、かつサブグループ(A)のタンパク質と中程度に相関していた。サブグループ(C)には、TNFSF12との中程度の相関を除いて他のタンパク質のいずれとも相関しないタンパク質であるFGF20が含まれた。このタンパク質の群分けのパターンは、図5Bに示すように、階層的クラスター分析で維持され、確認された。この所見は、これら3つのサブグループのタンパク質の血漿濃度が異なるメカニズムによって制御されていることを示唆している。これは、それらが同じメカニズムによって制御されているという仮説が立てられ得るほど強い相互相関性を示したサブグループ(A)の5つのタンパク質とは対照的である。
【0209】
これら8種のタンパク質(3つのサブグループ)のうちのどれが進行性腎機能低下からの防御に独立的に寄与したかをさらに検査するために、効果がないまたは弱い(α>0.1)タンパク質及び臨床共変量の後方削除を用いる多変数ロジスティック回帰分析を行った(表6)。すべての関連する臨床的特徴及び8種の確認済み防御タンパク質を分析に含めた。最終モデルでは、3つのベースライン臨床変数、eGFR、HbA1c、及びACRが進行性腎機能低下のリスクを有意に増加させ、3つのベースライン血漿タンパク質、ANGPT1(サブグループAの例)、TNFSF12(サブグループBの例)、及びFGF20(サブグループC)が、進行性腎機能低下を有意に防いだ。臨床共変量及び例示的な防御タンパク質について多変数ロジスティック回帰分析から取得されたオッズ比(95%CI)を図5Cに示す。
【表7】
【0210】
実施例4.3つの例示的な防御タンパク質の複合効果
進行性腎機能低下及びESKDへの進行のリスクに対する3つの例示的な防御タンパク質の複合効果を推定するために、「防御指数」を策定した。3つの例示的な防御タンパク質(ANGPT1、TNFSF12、及びFGF20)の血漿濃度を各対象で評価した。各タンパク質の中央値を超える値は1としてスコア付けし、中央値未満の値は0としてスコア付けした;これらのスコアを合計することにより、対象は、0(中央値未満のすべてのタンパク質)から3(中央値を超えるすべてのタンパク質)の間で変動する総合防御指数を有し得る。防御指数と進行性腎機能低下との間の関連性を図7Aに示す。進行性腎機能低下のオッズ比(95%CI)は、総合防御指数が1、2及び3の対象では、防御指数値0の対象と比較して、それぞれ0.69(0.28、1.69)、0.34(0.14、0.83)及び0.19(0.1、0.52)であった。3つの防御タンパク質の複合効果を可視化するために、ESKDへの進行の累積リスクを防御指数に従って複合研究コホートで分析した。図7Bは、防御指数の値に応じた、7.5年間のフォローアップ中のESKDの累積発生率を示す。3つすべての防御タンパク質の値が中央値を超える対象はESKDを発症するリスクが非常に低く、7.5年間のフォローアップ中の累積発生率は16%であった。これに対し、防御指数値0、例えば3つすべての防御タンパク質の値が中央値未満であった対象は、ESKDの累積発生率が80%と非常に高かった。統計的有意性の高いP値(P=2.7×10-10)は、4つのサブグループ間でESKDの累積発生率に有意差があることの強い証拠を示している。
【0211】
図7Aに示した結果が、炎症性循環タンパク質(例えば、高いTNF-R1血漿濃度)または臨床共変量によって交絡された可能性があるかどうかを調べるために、複合Joslinコホート(T1D及びT2D)でロジスティック回帰分析を行った。この分析では、防御指数を図7Aのような離散変数ではなく連続変数とみなした。表7に示すように、防御指数の効果は非常に有意であり(P<0.0001)、オッズ比は0.47であった(95%CI:0.32-0.60)。我々が以前に報告した(5)、1つの炎症性タンパク質TNF-R1をモデルに含めることにより、指数の防御効果が減弱され、オッズ比は0.60に増加したが(95%CI:0.45-0.78)、依然として統計的有意性は高かった(P<0.0002)。多くの臨床共変量をモデルに加えても、防御指数のオッズ比が実質的に変化しなかったことは有意義である。
【表8】
【0212】
実施例5.初期CKDにおける3つの例示的な防御タンパク質の検証
所見のロバスト性を実証するため、ベースラインでアルブミン尿はあったものの腎機能は正常であったT1D対象294名の独立したJoslinコホートで検証研究を実施した。このコホートは、eGFRの傾きを判定し、ESKDの発生時期を確認するために、7~15年間追跡された。294名のT1D対象の検証研究からの血漿サンプルに、同じSOMAscanプラットフォームを使用した目的タンパク質のプロファイリングを行った。ベースラインで腎機能異常(CKDステージ3)を有していた探索コホート及び複製コホートとは異なり、検証コホートは、ベースラインで正常な腎機能(CKDステージ1及び2;eGFR中央値(25パーセンタイル、75パーセンタイル):100(82、114)ml/分/1.73m)を有していた。検証コホートの臨床的特徴を表8に示す。
【表9】
【0213】
3つの例示的な防御タンパク質(ANGPT1、TNFSF12、及びFGF20)の血漿濃度を各対象で評価し、防御指数を策定した。防御指数と進行性腎機能低下との間の関連性を図7Cに示す。進行性腎機能低下のオッズ比(95%CI)は、総合防御指数が1、2及び3の対象では、防御指数値0の対象と比較して、それぞれ0.48(0.24、0.95)、0.46(0.24、0.89)及び0.11(0.05、0.27)であった。ESKDへの進行の累積リスクも防御指数に従って検証コホートで分析した。図7Dは、防御指数の値に応じた、7.5年間のフォローアップ中のESKDの累積発生率を示す。3つすべての防御タンパク質の値が中央値を超えた対象で、7.5年間のフォローアップ中にESKDに進行した者はいなかった。防御指数値が0であり、7.5年間のフォローアップ中の累積発生率が33%である対象と比較すると、防御指数値1及び2の対象については、それぞれ14%及び11%と低いESKDの累積発生率が観察された。統計的有意性の高いP値(P=1.7×10-5)は、4つのサブグループ間でESKDの累積発生率に有意差があることの強い証拠を示唆している。
【0214】
さらに、3つの例示的な防御タンパク質のうちの2つ(ANGPT1及びFGF20)について、異なるプラットフォームを使用して検証した。ANGPT1測定値については、製造元のプロトコルに従ってHuman Ang-1 MSD R-Plexアッセイ(F21YQ-3、Meso Scale Diagnostics)を使用して、サンプルのサブセット(n=32)で検証した。簡潔に述べると、MSD GOLD Small Spot Streptavidinプレートを、コーティング希釈剤100中で100μlのビオチン化Ang-1捕捉抗体でコーティングし、1時間室温でインキュベートした。プレートを150μl/ウェルの洗浄バッファー(1×PBS-Tween 20)で洗浄し、100,000pgから24pg/mlまでの25μlの連続的に希釈された標準物質の複製物と、我々の研究からの32の血漿サンプルとをすべて同じプレートにロードした。室温で振盪しながら1時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、50μlの結合検出抗体(MSD GOLD SULFO-TAG(商標))と共に1時間室温でインキュベートし、その後洗浄し、最後に150μl/ウェルの読み取りバッファーをプレートに加えた。プレートをMSD機器にロードし、プレート電極に電圧を印加して発光の強度を測定し、サンプル中の分析物の定量的測定を行った。
【0215】
抗体ベース(MSD)の測定値とアプタマーベース(SOMAscan)の結果との間の相関は極めて良好であった。SOMAscanとMSD ANGPT1測定値との間のスピアマンの順位相関係数はr=0.76、P<0.0001であった。SOMAmer特異性を分析的に検証するために、無傷タンパク質のDNAベースの親和性プルダウンを質量分析と統合するプロトコルを策定した。組換えFGF20を添加したFGF20 SOMAmer血漿プルダウンでは、FGF20タンパク質配列のアミノ酸(a.a.)50~211にわたる14個のFGF20トリプシンペプチドが識別されたが、組換えFGF20を添加しなかったFGF20 SOMAmer血漿プルダウンでは、FGF20ペプチドが識別されなかった。FGF20トリプシンペプチドGGPGAAQLAHLHGILR(a.a.50~65;配列番号9)の抽出イオンクロマトグラムの一例を図8に示す。このFGF20ペプチドは、組換えFGF20を添加した血漿プルダウンでは識別されたが、組換えFGF20を添加しなかった血漿プルダウンでは検出されず、これにより、SOMAscanプラットフォームでのFGF20 SOMAmerの特異性が確認された。
【0216】
実施例6.非糖尿病性対象及び糖尿病対象における防御タンパク質の血漿濃度
研究参加時に進行性腎機能低下のリスクがあった者と比較した、非進行者における防御タンパク質の濃度上昇をどのように説明するかについては、2つの可能性が存在する。第1の可能性は、糖尿病及び関連する腎臓の損傷が、推定上の防御タンパク質の血漿濃度の低下を引き起こし得るというものである。結果として、進行者は、根底にあるより高度の腎臓の損傷のために、非進行者よりも低いタンパク質濃度を有することになるが、これは、臨床共変量によって認識されず、多変数モデルでは考慮されなかった。これが正しければ、低下速度の低い糖尿病者と比較して、非糖尿病者では防御タンパク質がさらに上昇するという仮説が立てられる。第2の可能性は、糖尿病が推定上の防御タンパク質の濃度の決定因子ではない可能性があるが、ベースラインでのこれらのタンパク質の濃度上昇が進行性腎機能低下を防ぎ得るというものである。したがって、これらのタンパク質の血漿濃度が上昇している対象が主に非進行者を構成するのに対し、これらのタンパク質の濃度が低い者は進行性腎機能低下のリスクを持つことになる。これが正しければ、非糖尿病者と比較すると、非進行者では推定上の防御タンパク質の濃度がより高いはずであり、進行者では、タンパク質濃度がコントロールより低いかまたはそれと同等になるという仮説が立てられる。
【0217】
上述の2つの可能性を区別するために、同じアプタマーベースのSOMAscanプラットフォームを使用して、T1D対象の健康な非糖尿病性親、非進行者、ならびにT1D及びT2Dを有する進行者の間で防御タンパク質の血漿濃度を比較した。3つの研究サブグループ間のベースライン臨床的特徴及び防御タンパク質のベースライン値を表9に示す。非糖尿病者は、糖尿病対象と比較して年齢が高く、正常なHbA1c、正常なACR、及びほぼ正常なeGFRを有していた。設計上、非進行者及び進行者はベースラインで同様の腎機能異常を有していたが、7~15年間のフォローアップ中のeGFRの傾きは劇的に異なっていた。8種の確認済み防御タンパク質に関して、最も低いベースライン濃度は非糖尿病者で観察され、最高値は非進行者で観察されたが、進行者の濃度は2つの他のサブグループの間に収まった。3つのサブグループ間の3つの例示的な防御タンパク質の比較が図9に示されており、主に進行性腎機能低下に対するこれらの防御タンパク質の役割を裏付けている。
【表10】
【0218】
防御タンパク質の血漿濃度が糖尿病状態及び早期腎機能低下の発症に先行したかどうかを調べるために、正常アルブミン尿またはESKD(またはタンパク尿症)の2つのカテゴリのT1D発端者の非糖尿病性親における3つの例示的な防御タンパク質(ANGPT1、TNFSF12及びFGF20)の血漿濃度について比較分析を行った。2つのカテゴリのT1D発端者の非糖尿病性親におけるベースライン特徴及び3つの防御タンパク質のベースライン値を表10に示す。興味深いことに、表10に示すように、腎臓の合併症(ESKDまたはタンパク尿症)を有する子どもの親は、糖尿病の期間が長いにもかかわらず腎臓の合併症を起こさなかった子どもの親よりも有意に低い循環FGF20濃度を有していた。
【表11】
【0219】
実施例1~6の考察
上記実施例で説明した本研究は、偏りのないプロテオミクスプロファイリングにより、糖尿病及び中程度の腎機能異常を有する対象の2つの独立コホートにおいて、進行性腎機能低下及びESKDへの進行からの防御に特異的に関連する循環血漿タンパク質を識別した。ベースラインeGFR、HbA1c、ACR、及び糖尿病の種類などの臨床共変量とは無関係に進行性腎機能低下からの防御効果を有する8種の循環タンパク質が識別された。これらのタンパク質は、(A)SPARC、CCL5、APP、PF4、ANGPT1、(B)DNAJC19、TNFSF12、及び(C)FGF20の3つのサブグループに分類できた。8種の確認済み防御タンパク質をまとめて検討すると、各サブグループを代表する3つのタンパク質、例えばANGPT1、TNFSF12及びFGF20のみが、進行性腎機能低下に対して強く独立した防御効果を示したことに留意することは有意義である。これら3つの例示的な防御タンパク質の複合効果は、フォローアップの開始時に3つすべてのタンパク質について中央値を超える値を有していた対象におけるESKDの非常に低い累積リスクによって良好に実証された。さらに、非進行者では非糖尿病者よりもこれらの防御タンパク質の濃度がはるかに高かったという事実は、これらのタンパク質またはそれらが表す経路が進行性腎機能低下からの防御に因果的に関与していることの強い証拠を提供する。これら3つの例示的な防御タンパク質の重要性は、10年間にわたって前向きに追跡されたT1D及びT2Dという異なる種類の糖尿病ならびにDKDの初期ステージ及び後期ステージという異なるステージのDKDを有する研究参加者の3つの独立コホートで確認されたため、これらの研究所見は非常に一般化しやすい。
【0220】
アンジオポエチン(ANGPT)は、血管新生及び血管炎症に関与する成長因子である。ANGPTファミリーのメンバーの中で、アンジオポエチン-1(ANGPT1)及びアンジオポエチン-2(ANGPT2)は両方ともTie-2受容体のリガンドである(Suri et al.,Cell 87:1171-1180(1996)、Maisonpierre et al.,Science 277:55-60(1997))。ANGPT1は、Tie-2受容体の主要なリガンド及び活性化因子であり、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ/タンパク質キナーゼB(PI3K/Akt)経路の活性化によって血管の完全性を維持し(Brindle et al.,Circ Res 98:1014-1023(2006))、したがって、成長因子及びサイトカインによる過剰な活性化から内皮を防御する(Fiedler et al.,Trends Immunol 27:552-558(2006))。一方、ANGPT2は、Tie-2受容体へのANGPT1の結合を防止し、その結果ANGPT1/Tie-2経路の活性化を低減させ、血管壁の不安定化及び血管漏出を促進することにより、ANGPT1の天然のアンタゴニストであると考えられている(Maisonpierre et al.,Science 277:55-60(1997)、Fiedler et al.,Trends Immunol 27:552-558(2006))。ANGPT1及びANGPT2は互いとTie-2受容体を競合し、反対の作用を有するため、ANGPT1とANGPT2との間の平衡の(例えばANGPT2に有利な)乱れが、糖尿病によるアンジオポエチンの不均衡、例えば血管壁の不安定化をもたらし、炎症及び線維症を促進するような、進行中の血管新生プロセスの平衡を評価するために、両方のアンジオポエチンを測定することがおそらく有益である(Gnudi,Diabetologia 59:1616-1620(2016))。ANGPT2がSOMAscanプラットフォームで測定され、その結果が本研究に利用可能であったため、ANGPT1の防御効果を、ANGPT2のリスク効果、及び進行性腎機能低下のリスクに対するANGPT1/ANGPT2の(ANGPT1に有利な)比の効果と比較した。残念ながら、これらの分析の所見は、ANGPT1単独の防御効果と比較して強い、2つのアンジオポエチンの比の防御効果を示さず(表11)、2つのアンジオポエチンの比ではなく、進行性腎機能低下に対するANGPT1単独の防御的役割を裏付けている。
【表12】
【0221】
ANGPT1の防御効果に関しては、さらなる研究が行われている。ANGPT1は、抗炎症効果を発揮し、炎症因子から内皮細胞の透過性を防御することが示されている(Pizurki et al.,Br J Pharmacol 139:329-336(2003))。軟骨オリゴマー基質タンパク質アンジオポエチン-1(COMP-Ang1)として知られているANGPT1のバリアントが、片側尿管閉塞誘発性腎線維症及び糖尿病性腎症の動物モデルにおけるCOMP-Ang1の防御効果を調査するために開発された(Kim et al.,J Am Soc Nephrol 17:2474-2483(2006)、Lee et al.,Nephrol Dial Transplant 22:396-408(2007))。COMP-Ang1で処置された糖尿病db/dbマウスでは、アルブミン尿及び空腹時血中グルコース濃度が低減し、メサンギウム拡大が減少し、糸球体基底膜の肥厚及び有足細胞の足突起の拡大が認められた(Lee et al.,Nephrol Dial Transplant 22:396-408(2007))。遺伝子改変マウスを使用した研究において、糖尿病性糸球体疾患におけるANGPT1発現濃度の重要性がさらに確認された。糖尿病マウスの特に糸球体におけるANGPT1の過剰発現または過多は、糖尿病誘発性ネフリンリン酸化の減少を伴うアルブミン排泄の低減をもたらし(Dessapt-Baradez et al.,J Am Soc Nephrol 25:33-42(2014))、その結果、低減したネフリン分解及び有足細胞の足突起の拡大が生じ、より安定で機能的な糸球体濾過バリアがもたらされた(Zhu et al.,Kidney International 73:556-566(2008))。これらの観察のすべてを、上昇した血漿ANGPT1濃度が進行性腎機能低下を防いだことを示すヒトにおける我々の強固な所見と合わせて考慮すると、ANGPT1が糖尿病における進行性腎機能低下の防止またはリスク低減のための潜在的な治療標的であり得ることは非常に明らかである。
【0222】
本研究は、ANGPT1が他の4つの確認済み防御タンパク質(PF4、SPARC、APP及びCCL5)と有意かつ高度に相関していることを実証し、これらのタンパク質が同様の生理学的意義を有する可能性、共通の経路の一部である可能性、または同じ遺伝的制御下にある可能性があることを示唆している。これらのタンパク質の5つすべてが発現及び分泌される共通経路は、血小板機能と関連する。トロンビンは、血管修復中に血管内皮細胞の安定化を助けるために血小板からのANGPT1の放出を誘導することが知られている(Li et al.,Thromb Haemost 85:204-206(2001))。血小板第4因子(PF4)は、活性化された血小板のアルファ顆粒から放出され、ヘパリンに高い親和性で結合する。これは、好中球、線維芽細胞、及び単球の強力な走化性因子である(Lord et al.,J Biol Chem 292:4054-4063(2017))。酸性システインリッチ分泌タンパク質(SPARC)もまた、ヒト血小板のアルファ顆粒成分であり、血小板活性化中に分泌される。これはさらに、線維芽細胞、内皮細胞、マクロファージ、及び脂肪細胞によっても産生される。SPARCは、細胞増殖、組織損傷の修復、コラーゲン基質形成、及び骨芽細胞の分化に関与している(Yun et al.,Biomed Res Int 2016:9060143(2016))。血小板は、血液循環におけるアミロイドベータA4タンパク質(APP)の主な供給源である(Li et al.,Blood 84:133-142(1994))。RANTESとしても知られるC-Cモチーフケモカイン5(CCL-5)も、活性化された血小板アルファ顆粒によって放出され、炎症を起こした内皮に沈着し、活性化された内皮への単球の遊出を媒介する。低い血漿CCL-5濃度は、冠動脈造影に紹介される患者における心臓死亡率の独立した予測子である(Nomura et al.,Clin Exp Immunol 121:437-443(2000))。これまでの研究では、活性化血小板が糖尿病性腎症の発症に関与することが報告されている(Omoto et al.,Nephron 81:271-277(1999)、Zhang et al.,J Am Soc Nephrol 29:2671-2695(2018))。本研究の結果は、糖尿病性腎症の進行における血小板分泌タンパク質の重要性をさらに指摘している。血小板活性化タンパク質の分泌は、白血球輸送に関連する血管損傷を防ぐことよって、糖尿病性腎症の急速な進行を防ぐ可能性がある。進行性腎機能低下からの防御に関するこれらのタンパク質の関連性については、さらに調査する必要がある。
【0223】
腫瘍壊死因子(TNF)リガンドスーパーファミリーメンバー12(TNFSF12)は、TWEAKとしても知られ、リガンド及び受容体の大きなTNFスーパーファミリーのメンバーである(Chicheportiche et al.,J Biol Chem 272:32401-32410(1997))。in vitro及びin vivoモデルからの所見は、TNFSF12を投与すると、腎尿細管細胞における炎症性サイトカイン産生が増加する、例えば単球走化性タンパク質-1及びインターロイキン-6(IL-6)のmRNA及びタンパク質の発現が増加するのに対し、TNFSF12を遮断すると、マウスにおける尿細管ケモカイン及びIL-6発現、間質炎症ならびにマクロファージ浸潤が防止されることを示している(Sanz et al.,J Am Soc Nephrol 19:695-703(2008))。DKDの発症/進行におけるTNFSF12の役割は、依然として不明である。これまでのところ、このトピックに特化した文献は乏しく、いくつかの横断的研究では、循環TNFSF12濃度とDKDとの間の関係が調査されている。ある研究では、T2D及びESKD対象における循環TNFSF12濃度の低下が報告された(Kralisch et al.,Atherosclerosis 199:440-444(2008))。他の腎臓病及び他の形態の糖尿病におけるTNFSF12の作用も報告されている(Sanz et al.,J Cell Mol Med 13:3329-3342(2009)、Dereke et al.,PLoS One 14:e0216728(2019)、Bernardi et al.,Clin Sci(Lond):133,1145-1166(2019))。実験的な葉酸誘発性急性腎傷害では、TNFSF12欠損により腎臓のアポトーシス及び炎症が低減し、腎機能が改善した。妊娠真性糖尿病(GBM)を有する女性及びGBMを有しない女性を対象としたケースコントロール研究では、GBMを有しない妊娠中のボランティアと比較した、GBMを有する女性におけるTNFSF12濃度の低下が報告された。本研究は、前述の研究における所見とは異なり、非常にロバストな所見によってTNFSF12が進行性腎機能低下に対する防御タンパク質であることが示された唯一のフォローアップ観察である。この所見はヒト及び動物の研究でさらに調査される必要がある。
【0224】
線維芽細胞成長因子20(FGF20)は、分泌型のシグナル伝達タンパク質及び細胞内の非シグナル伝達タンパク質からなる7つのサブファミリーを含む22種の線維芽細胞成長因子(FGF)の大きなファミリーのメンバーである(Itoh et al.,J Biochem 149:121-130(2011))。22種のうち17種のFGFがSOMAscanプロテオミクスプラットフォームで測定され、FGF20のみが進行性腎機能低下からの防御とロバストに関連していた。FGF20は、元々ラットの脳で識別された新規の神経栄養因子であり、ドーパミン作動性ニューロンの発達において重要な役割を果たすことが示唆されている(Ohmachi et al.,Biochem Biophys Res Commun 277:355-360(2000)、Correia et al.,Front Neuroanat 1:4(2007)、Shimada et al.,J Biosci Bioeng 107:447-454(2009))。さらに、いくつかの研究では、FGF20とパーキンソン病との関連性の証拠は報告されていないが、多数の研究により、様々な民族におけるパーキンソン病易罹患性とFGF20遺伝子多型との相関が報告されている(Pan et al.,Parkinsonism Relat Disord 18:629-631(2012)、Sadhukhan et al.,Neurosci Lett 675:68-73(2018)、van der Walt et al.,Am J Hum Genet 74:1121-1127(2004)、Clarimon et al.,BMC Neurol 5:11(2005)、Wider et al.,Mov Disord 24:455-459(2009))。興味深いことに、過去のある研究では、ヒト及びマウスの両方においてネフロン前駆細胞の幹細胞性を維持することにより、腎臓の発達におけるFGF20/Fgf20の本質的な役割が実証された(Barak et al.,Dev Cell 22:1191-1207(2012))。FGF20は腎臓のネフロン前駆細胞にのみ発現していた。ヒト及びマウスにおけるFGF20/Fgf20の喪失は、胎児の腎臓の一方または両方が発達できない故に新生児の腎臓の一方または両方が欠損する状態である腎臓無形成をもたらした。
【0225】
FGF20は、2001年にJeffersらがヒトの悪性腫瘍の処置の潜在的標的となり得る新規の癌遺伝子としてFGF20を識別した際に初めて発見された(Jeffers et al.,Cancer Research 61:3131-3138(2001))。その後、同著者らは、FGF-20(CG53135-05)が実験的な腸管炎症を処置する治療活性を有することを実証し(Jeffers et al.,Gastroenterology 123:1151-1162(2002))、別の研究は、潜在的に致死性の全身放射能の前にマウスにFGF20を単回投与すると、急性放射線曝露の致死効果が低減し、全生存率の実質的増加につながるように、FGF20が新規の放射線保護剤であることを報告した(Maclachlan et al.,Int J Radiat Biol 81:567-579(2005))。これらの所見に基づいて、CG53135-05(ベラフェルミンに改名された)は、化学療法の副作用である口腔粘膜炎の発症に対する防御薬として、がん患者のフェーズII臨床試験で評価された(Schuster et al.,Support Care Cancer 16:477-483(2008))。この試験の結果、ベラフェルミンは良好な安全性及び忍容性プロファイルを有することが示されたが、口腔粘膜炎の処置に追加した場合には十分な有効性を示さなかった。
【0226】
本研究は、FGF20が、T1D及びT2Dの複合コホートにおける進行性腎機能低下及びESKDへの進行からの防御と最も強く関連している確認済み防御タンパク質の1つであることを実証している。この関連性は、循環炎症性タンパク質及び該当する臨床共変量とは無関係である。ベースラインでのFGF20の高い血漿濃度は、7~15年間のフォローアップ中の腎機能低下が少ないことを予測した。この関連性は、FGF20の関与、ならびに進行性腎機能低下及びESKDの発症を遅延させるまたはそのリスクを減少させる独立した役割を指摘している。したがって、FGF20は、糖尿病における進行性腎機能低下及びESKDの発生を防止または遅延させるための有用な標的であり得る。我々の研究で得られた別の興味深い所見は、正常アルブミン尿またはESKD/タンパク尿症のいずれかの2つのカテゴリのT1D発端者の非糖尿病性親の血漿プロファイルで観察された。驚くべきことに、ESKD/タンパク尿症を有するT1D子孫の非糖尿病性親は、腎臓合併症のないT1D子孫を持つ親よりも有意に低いFGF20の血漿濃度を有していた。これらの所見は、子孫において、親から受け継がれた遺伝的素因または成分が、対応するタンパク質濃度を調節し得るかどうかという疑問及び/または推測を促し、より大規模な研究で確認されれば、T1D(及びT2D)における進行性腎機能低下の決定因子に関する将来の研究において深い意味を持つ可能性がある。
【0227】
DKDを含む後期糖尿病合併症に対する防御因子の研究における最近の関心は、Joslin Medalist Studyによって開始された。この横断的研究には、T1Dを有しながら少なくとも50年間生存した国中の対象が登録された。後期糖尿病合併症を起こさなかった者が、生物検体の様々なオミクスプロファイルを含む多数の特徴に関して、非糖尿病性配偶者及び糖尿病の経過の非常に後期で合併症を発症した者と比較された。3つのサブグループの対象から取得された腎組織のプロテオミクスプロファイルを比較すると、糖尿病の期間が極めて長いにもかかわらずDKDを起こさなかった者の間で非常に高い、PKM2を含むいくつかのグルコース代謝酵素/タンパク質が糸球体において識別された。この所見の後に一連の機能研究を行うことにより、著者らは、PKM2の上方制御がDKDの発症を防止する一手段となり得ると結論付けた(Qi et al.,Nat Med 23:753-762(2017))。
【0228】
本研究は防御因子の探索も行ったが、Medalist研究とは大きく異なっていた。後者は横断的であり、細胞研究及び動物研究で調査するための候補防御タンパク質を探索したが、本研究は、進行性腎機能低下を防いだベースライン循環血漿タンパク質と7~15年間のフォローアップ中のESKDへの急速進行との間の関連性を調査したJoslinクリニック集団ベースの前向き観察であった。さらに、2つの研究は2つの異なる前提に基づいていた。Medalist研究は、後期糖尿病合併症の発生/発症に対する防御タンパク質を見出すことを目的としていたのに対し、本研究は、既に存在する軽度腎障害を有する対象における進行性腎機能低下に対する防御タンパク質を識別することを目的としていた。これが、Joslin Medalist研究で得られたPKM2の所見を我々が統計的有意性を持って確認できなかった理由である可能性が高い。
【0229】
本研究の強みには、その前向き設計、3つの独立した研究コホートの長期フォローアップ観察、T1D及びT2Dにおけるデータの一貫性、ならびにすべてのJoslinコホートにおけるタンパク質濃度を測定するためのSOMAscanプロテオミクスプラットフォームの使用が含まれる。さらに、本研究では、主要な潜在的交絡因子及び糖尿病の種類に関する所見を調整した。しかし、あらゆる研究に当てはまるように、本研究も潜在的な限界を踏まえて検討する必要がある。第1に、これは観察研究であり、これらのタンパク質は、腎機能低下の進行を直接防ぐ可能性があるが、代替的に防御プロセスの間接的なレポーターである可能性もある。それらに直接的な防御能があることを確認するためには、我々の所見の因果的説明を動物モデル及び臨床試験によって確立する必要がある。第2に、これらの所見は、慢性腎臓病及び腎機能異常を有する白人の糖尿病者に限定されており、したがって、これらの結果は、他の集団内の個人及び他の腎臓病を有する個人には一般化できない可能性がある。第3に、ベースライン血漿サンプルは糖尿病発生時に採取されたものではないため、進行性腎機能低下が低速か高速かは、採血時に関連するものであり、疾患の発生に関連するものではない。本研究には、2000年代にJKSに登録され、2012年~2013年まで追跡された参加者のサブセットが含まれる。登録前、これらの個人は長年にわたってJoslinクリニックでケアを受けており(糖尿病発生の最初期にこれらの個人を追跡することは現実的ではなかった)、我々の前向き研究に彼らを含めることは、後続のフォローアップにおける彼らの未知の将来の転帰とは無関係であった。したがって、これらの研究所見は、糖尿病を有する個人におけるCKDの偏りのない同時期の自然な経過及びESKDの発症を反映している。前述の内容にかかわらず、ESKD及びESKDへの進行に関する防御タンパク質の識別は注目に値し、あらゆる患者にとって深刻な診断に対処するための診断及び療法の両方に対する豊富な機会を提供する。
【0230】
実施例7.Testican-2の循環レベルは、T1D患者におけるESKDからの防御と独立的に関連している
我々は、T1Dを有する小さなJoslinコホートにおいてSOMAscanを使用して、追加の防御タンパク質を探索した。10年間のフォローアップ中にESKDに進行した患者及びESKDを起こさなかった患者の特徴を表12に示す。Testican-2(SPOCK2)の循環レベルは、進行者よりも非進行者において有意に高かった。この差異は図10に示されている。上記の実施例に記載したように、FGF20、TNFSF12及びANGPT1の3つの防御タンパク質についても同様の差異が観察された。
【表13】
【0231】
ESKDへの進行に対する循環SPOCK2(Testican-2)の防御効果を検査するために、ロジスティック回帰分析を行った。その結果を以下の表13に示す。単変量ロジスティック回帰(モデル1)では、すべての防御タンパク質が、ESKDへの進行に対する強い防御効果を有していた(1未満のORは防御効果を示す)。多変数ロジスティック回帰分析(モデル2)において、関連する臨床変数及びすべての防御タンパク質を一緒に分析した際、SPOCK2(Testican-2)の防御効果も見られた。
【0232】
結論として、SPOCK2(Testican-2)の循環レベルは、ESKDからの防御と独立的に関連しており、いわゆる「防御指数」を策定するために、以前に報告されている3つの防御タンパク質(FGF20、ANG1及びTNFSF12)と共に使用され得る。
【表14】
【表15-1】
【表15-2】
【0233】
参照による組み込み
本願を通して引用されるすべての参考文献、特許、及び公開特許出願の全内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
【配列表】
2024516548000001.app
【国際調査報告】