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  • 特表-高アンモニア血症の処置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】高アンモニア血症の処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/36 20060101AFI20240409BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240409BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 31/357 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20240409BHJP
   C07D 317/54 20060101ALI20240409BHJP
   C07D 319/18 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
A61K31/36
A61P3/00
A61P25/00
A61K31/357
A61K45/00
A61K9/14
A61K9/10
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/02
C07D317/54
C07D319/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564564
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(85)【翻訳文提出日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2022060445
(87)【国際公開番号】W WO2022223636
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】2104119
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】509109316
【氏名又は名称】バイオコデックス
【氏名又は名称原語表記】BIOCODEX
【住所又は居所原語表記】7, avenue Gallieni, F-94250 Gentilly, FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーレイ,マルク
(72)【発明者】
【氏名】ジラード,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ル・ゲルン,マリー-エマニュエル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA01
4C076AA16
4C076AA29
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC01
4C076CC21
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZC211
4C084ZC212
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BA13
4C086BA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA21
4C086MA31
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA43
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZC21
(57)【要約】
本発明は、個体における高アンモニア血症の予防又は治療に使用するための、下記式(I):

で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物又は溶媒和物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における高アンモニア血症の予防又は治療に使用するための、下記式(I):
【化6】

[式中、
nは、1又は2を表わし、
、A及びAは、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子又は1~4個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を表わし、
、R及びRは、水素原子又は1~4個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を独立して表わし、
-Yは、-OH、=O又は-SHを表わす]
で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項2】
式(I)で示される化合物が、下記式(II):
【化7】

[式中、n、A1、A2、A3及びRは、請求項1で定義されたとおりである]
で示されるものである、請求項1記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項3】
式(I)で示される化合物が、下記式(III):
【化8】

で示されるものである、請求項1又は2記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項4】
高アンモニア血症に伴うけいれんの予防又は治療のための、請求項1~3のいずれか一項記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項5】
薬物誘発性高アンモニア血症の予防又は治療のための、請求項1~4のいずれか一項記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項6】
50mg~1500mgの単位用量で包装されている、請求項1~5のいずれか一項記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項7】
経口投与に適している、請求項1~6のいずれか一項記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項8】
散剤、錠剤、カプセル剤、小袋又は坐剤の形態にある、請求項1~7のいずれか一項記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項9】
高アンモニア血症の予防もしくは治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための少なくとも1種の追加の化合物と組み合わせた、請求項1~8のいずれか一項記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項10】
高アンモニア血症の予防及び治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための、神経保護剤、抗炎症剤、安息香酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酪酸グリセロール、N-カルバミルグルタマート、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、ラクツロース、アルギニン塩酸塩、L-アルギニン、カルグルミン酸、L-オルニチン、L-アスパラギン酸、シトルリン及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種の追加の化合物と組み合わせた、請求項1~9のいずれか一項記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか一項で定義された式(I)で示される少なくとも1種の化合物又はその塩、水和物もしくは溶媒和物を、薬学的に許容し得る担体を任意選択的に伴って、有効物質として含み、且つ、高アンモニア血症の予防もしくは治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための少なくとも1種の追加の化合物を任意選択的に含む、医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか一項で定義された式(I)で示される少なくとも1種の化合物又はその塩、水和物もしくは溶媒和物を、薬学的に許容し得る担体を任意選択的に伴って、有効物質として含み、且つ、高アンモニア血症の予防もしくは治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための、神経保護剤、抗炎症剤、安息香酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酪酸グリセロール、N-カルバミルグルタマート、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、ラクツロース、アルギニン塩酸塩、L-アルギニン、カルグルミン酸、L-オルニチン、L-アスパラギン酸、シトルリン及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種の追加の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項13】
個体における高アンモニア血症の予防又は治療に使用するための、特に、同時、別々又は連続的に使用するための併用製品としての、
-請求項1~3のいずれか一項で定義された式(I)で示される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物と、
-高アンモニア血症の予防もしくは治療又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための少なくとも1種の追加の化合物と
を含有する製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本出願は、高アンモニア血症、特に、薬剤誘発性高アンモニア血症の予防又は治療に有用な、医薬化合物及び組成物に関する。
【0002】
技術背景
高アンモニア血症は、血中の窒素含有化合物であるアンモニアが高いレベルにあることを特徴とする代謝障害である。アンモニアは、重要な窒素源であり、アミノ酸合成に必要である。また、アンモニアは、正常な酸塩基平衡にも必要である。ただし、高濃度で存在すると、アンモニアは有毒である。
【0003】
アンモニアは、通常、大腸及び小腸で生成され、そこから肝臓に運ばれ、尿素サイクルにより、水溶性化合物である尿素に変換され、ついで、腎臓により排泄される。
【0004】
高アンモニア血症の結果はさまざまであり、深刻なものとなる場合がある。アンモニアは、強力な神経毒であり、脳内に侵入すると、けいれん、運動失調、脳卒中様病変、昏睡、精神病、視力喪失、急性脳症及び脳浮腫につながる場合がある神経障害を引き起こす。また、高アンモニア血症を有する個体では、他の症状、例えば、嘔吐、呼吸性アルカローシス、低体温及び死につながる肝障害も観察される。
【0005】
高アンモニア血症は、潜在的に致命的な合併症、例えば、脳浮腫又は脳ヘルニアの発症を避けるために、早期に発見し、直ちに処置しなければならない。
【0006】
現在、高アンモニア血症の管理は、血中のアンモニア濃度を下げるための手段の組み合わせを含む。典型的には、患者は、窒素排泄を促進することを目的とした薬剤、例えば、フェニル酪酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム及びフェニル酪酸グリセロールと組み合わせて、低タンパク食を与えられる(Enns et al., (2007) New Engl J Med., 356 :2282-2292)。
【0007】
ただし、これらの薬剤を1日に数回投与しなければならず、多くの副作用、特に、吐き気、嘔吐、過敏症及び食欲不振を伴う。さらに、用量を計算する必要があるため、過剰投与が起こりやすく、重篤な代謝性副作用及び死につながる場合がある。
【0008】
このため、高アンモニア血症の効果的な代替治療及び予防の必要性が残っている。
【0009】
発明の概要
本発明は、スチリペントールが、メチオニンスルホキシミン(MSO)誘発性高アンモニア血症及びメチオニンスルホキシミン(MSO)誘発性高アンモニア血症関連発作を軽減するという、本発明者らの予期せぬ発見に由来する。
【0010】
このため、本発明は、個体における高アンモニア血症の予防又は治療に使用するための、下記式(I):
【化1】

[式中、
nは、1又は2を表わし、
、A及びAは、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子又は1~4個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を表わし、
、R及びRは、水素原子又は1~4個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を独立して表わし、
-Yは、-OH、=O又は-SHを表わす]
で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物に関する。
【0011】
また、本発明は、高アンモニア血症の予防もしくは治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための少なくとも1種の追加の化合物と組み合わせた、上記定義された使用のための式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物に関する。
【0012】
また、本発明は、上記定義された式(I)で示される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物を、薬学的に許容し得る担体を任意選択的に伴って、有効物質として含む、高アンモニア血症の予防又は治療に使用するための医薬組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、上記定義された式(I)で示される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物を、薬学的に許容し得る担体を任意選択的に伴って、有効物質として含み、且つ、高アンモニア血症の予防もしくは治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための少なくとも1種の追加の化合物を任意選択的に含む、医薬組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、上記定義された式(I)で示される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物を、薬学的に許容し得る担体を任意選択的に伴って、有効物質として含み、且つ、高アンモニア血症の予防もしくは治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための、神経保護剤、抗炎症剤、安息香酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酪酸グリセロール、N-カルバミルグルタマート、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、ラクツロース、アルギニン塩酸塩、L-アルギニン、カルグルミン酸、L-オルニチン、L-アスパラギン酸、シトルリン及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種の追加の化合物を含む、医薬組成物に関する。
【0015】
また、本発明は、個体における高アンモニア血症の予防又は治療に使用するための、特に、同時、別々又は連続的に使用するための併用製品としての、
-上記定義された式(I)で示される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物と、
-高アンモニア血症の予防もしくは治療又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための少なくとも1種の追加の化合物と
を含有する製品に関する。
【0016】
また、本発明は、個体における高アンモニア血症を予防し又は治療する方法であって、有効量の上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物を、該個体に投与することを含む、方法に関する。
【0017】
本発明の一実施態様において、上記定義された方法は、高アンモニア血症の予防もしくは治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための少なくとも1種の追加の化合物の投与も含む。
【0018】
また、本発明は、個体における高アンモニア血症の予防又は治療を目的とした医薬の製造のための、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物の使用に関する。
【0019】
本発明の一実施態様では、上記定義された医薬は、高アンモニア血症の予防もしくは治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための少なくとも1種の追加の化合物を含む。
【0020】
発明の詳細な説明
本明細書で意図されるように、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「含有する(containing)」又は「包含する(encompassing)」と同義であり、すなわち、対象物が1つ以上の特徴を「含む」場合、言及された特徴以外の特徴も、その対象物に含まれていてもよい。逆に、「からなる(consisting of」という表現は、「~により構成される(constituted by)」を意味し、すなわち、対象物が1つ以上の特徴「からなる」場合、その対象物は、言及された特徴以外の特徴を含むことができない。
【0021】
式(I)で示される化合物
好ましくは、上記定義された式(I)で示される化合物は、下記式(II):
【化2】

[式中、n、A、A、A及びRは、上記定義されたとおりである]
で表わされる。
【0022】
より好ましくは、上記で定義された式(I)又は(II)で示される化合物は、下記式(III):
【化3】

で表わされる。
【0023】
本発明に係る好ましいアルキル基は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、s-ブチル及びt-ブチルを含む。
【0024】
Cl、I、Br又はF原子は、本発明に係る好ましいハロゲン原子である。
【0025】
参照により本明細書に組み入れられる仏国特許FR第2173691号には、特にメチレンジオキシ-3,4-フェニル-1-ジメチル-4,4-ペンテン-1-オン-3からの、スチリペントールの合成が記載されている。この教示から、式(I)で示される他の化合物を合成することは、当業者の通常の技術の範囲内である。
【0026】
当業者には明らかなように、上記定義された式(I)、(II)及び(III)は、これらの式に包含される種々の立体異性体又はそれらの混合物、特に、それらのラセミ混合物のいずれかを表わす。
【0027】
このため、式(III)で示される化合物は、式(IIIa)で示される化合物、式(IIIb)で示される化合物、又は式(IIIa)で示される化合物と式(IIIb)で示される化合物との混合物、特にそれらのラセミ混合物であることができる。
【化4】

【化5】
【0028】
予防又は治療
「高アンモニア血症」は、体内のアンモニア濃度の上昇を指す。このため、本発明に係る高アンモニア血症は、例えば、体内におけるアンモニア産生の増加又はアンモニア解毒プロセスの低下により引き起こされるものであってもよい。
【0029】
アンモニア(NH)は、pHによっては体内でアンモニウムカチオン(NH )と共存する場合があり、タンパク質及び他の窒素化化合物の異化の産物である。アンモニアは、尿素サイクルの酵素により、より毒性の低い物質である尿素に変換され、その後、腎臓により尿中に排泄される。
【0030】
尿素サイクルは、体内で特定のアミノ酸(アルギニン、シトルリン及びオルニチン)を生産するための供給源としても機能し、6つの酵素:カルバモイルリン酸シンターゼI(CPS)、オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)、アルギニノコハク酸シンテターゼ(ASS)、アルギニノコハク酸リアーゼ(ASL)、アルギナーゼ及びN-アセチルグルタミン酸シンターゼ(NAGS)と、2つの輸送タンパク質:オルニチントランスロカーゼ(ORNT1)及びシトリンとを含む。これら8つのタンパク質のうち1つ以上に異常が生じ、その結果、原発性高アンモニア血症としても知られる高アンモニア血症になる場合がある。
【0031】
本発明に係る原発性高アンモニア血症につながる尿素サイクル障害の例は、
・N-アセチルグルタミン酸シンターゼ欠損症
・カルバモイルリン酸シンターゼ1欠損症
・オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症
・アルギニノコハク酸シンターゼ欠損症
・アルギニノコハク酸リアーゼ欠損症
・アルギナーゼ1欠損症
・高オルニチン血症-高アンモニア血症-ホモシトルリン尿症症候群
・シトルリン欠損症(2型シトルリン血症)
を含む。
【0032】
本発明に係る高アンモニア血症は、尿素サイクルの一部ではない酵素又はタンパク質の活性低下を特徴とする中間代謝障害の結果としての、尿素サイクルの阻害に起因するものであってもよく、これは、二次性高アンモニア血症としても知られる。
【0033】
本発明に係る二次性高アンモニア血症につながる尿素サイクルの阻害を引き起こす異常の例として、以下:
・グルタミン酸欠乏につながるプロピオン酸血症
・メチルクエン酸産生につながるメチルマロン酸血症
・イソ吉草酸血症
・3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA-リアーゼ欠損症
・二次性CPS1欠損症につながるATP欠乏
を挙げることができる。
【0034】
本発明に係る二次性高アンモニア血症の別の例は、基質欠乏により、特に、以下:
・CoA欠乏につながる脂肪酸酸化の欠陥
・CoA欠乏につながるカルニチンサイクルの障害
・CoA欠乏につながるピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の障害
・CoA欠乏につながる急性又は慢性肝不全
・シトルリン、アルギニン及びオルニチンの欠乏につながるリシン尿タンパク質不耐症
・グルタミン酸欠乏につながる高インスリン血症-高アンモニア血症症候群
・アスパラギン酸欠乏につながるピルビン酸カルボキシラーゼ欠損
・シトルリン、アルギニン及びオルニチンの欠乏につながるピロリン-5-カルボン酸シンターゼ欠損
により引き起こされる高アンモニア血症である。
【0035】
また、本発明に係る高アンモニア血症は、他の病態、特に、肝障害、例えば、急性又は慢性の肝不全、ウイルス性肝炎、肝硬変、肝機能障害及び肝臓における血液ろ過の低下をもたらす肝臓の血管バイパスからなる群より選択される病態と関連し、又はこれらにより引き起こされるものであってもよい。これは、後天性高アンモニア血症としても知られる。
【0036】
また、本発明に係る高アンモニア血症は、薬剤の摂取又は化学療法に起因するものであってもよい。これは、薬剤誘発性高アンモニア血症と呼ばれる。高アンモニア血症を引き起こしやすい薬剤の例は、バルプロ酸ナトリウム、バルビツラート、例えばプリミドン、グリシンゲル、L-アスパラギナーゼ、5-フルオロウラシル、スニチニブ、アスパラギナーゼ化学療法及びレゴラフェニブを含む。
【0037】
本発明に係る高アンモニア血症は、固形臓器移植、例えば肺移植の合併症に起因するものであってもよい。これは、術後高アンモニア血症と呼ばれる。
【0038】
また、本発明に従って予防され又は治療される高アンモニア血症は、新生児の一過性高アンモニア血症であってもよい。
【0039】
一実施態様において、本発明は、好ましくは、高アンモニア血症関連けいれん及び高アンモニア血症関連けいれん発作からなる群より選択される、高アンモニア血症に関連する障害の予防又は治療に関する。
【0040】
個体
本発明に係る個体は、好ましくは、人間である。
【0041】
好ましくは、本発明に係る個体は、高アンモニア血症、特に、薬剤誘発性高アンモニア血症を患っている。
【0042】
本発明の一実施態様では、個体は、少なくとも40μM/L、少なくとも45μM/L、少なくとも50μM/L、少なくとも80μM/L又は少なくとも90μM/Lの血漿アンモニア濃度を有する満期産児である。
【0043】
本発明の一実施態様において、個体は、少なくとも70μM/L、少なくとも80μM/L又は少なくとも90μM/Lの血漿アンモニア濃度を有する早産児である。
【0044】
本発明の一実施態様において、個体は、少なくとも40μM/L、少なくとも45μM/L、少なくとも50μM/L、少なくとも80μM/L又は少なくとも90μM/Lの血漿アンモニア濃度を有する生後1か月超の小児である。
【0045】
本発明の一実施態様において、個体は、少なくとも30μM/L、少なくとも40μM/L、少なくとも50μM/L、少なくとも80μM/L、少なくとも150μM/L、少なくとも180μM/L、少なくとも200μM/L、少なくとも300μM/L又は少なくとも400μM/Lの血漿アンモニア濃度を有する成人である。
【0046】
本発明の一実施態様において、本発明に係る個体は、尿素サイクル障害を有する。
【0047】
本発明の一実施態様において、本発明に係る個体は、大脳機能の障害を呈する。好ましくは、本発明に係る個体は、けいれん、けいれん発作、錯乱、激越、意識障害、無気力、運動失調、脳卒中様病変、昏睡、精神病、視力喪失、急性脳症、脳浮腫及び脳ヘルニアからなる群より選択される少なくとも1種の障害を呈する。より好ましくは、本発明に係る個体は、けいれん又はけいれん発作を有する。
【0048】
投与
好ましくは、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物は、約50mg~約1500mg、特に、約150mg~300mgの単位用量で投与されもしくは投与可能であるか、又はこの単位用量で包装される。また好ましくは、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物は、約5g/日~約45g/日の投与計画でも投与され又は投与可能である。また好ましくは、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物は、50mg/kg/日~500mg/kg/日、好ましくは、250mg/kg/日~350mg/kg/d、より好ましくは、約300mg/kg/dの投与計画でも投与され又は投与可能である。
【0049】
好ましくは、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物、上記で定義された医薬組成物又は上記定義された医薬は、経口投与又は直腸投与用に許容し得る形態にある。好ましくは、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物、上記定義された医薬組成物又は上記定義された医薬は、散剤、錠剤、カプセル剤、小袋(sachets)又は坐剤の形態で投与され又は投与可能である。
【0050】
一実施態様において、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物、上記定義された医薬組成物又は上記定義された医薬は、別の抗けいれん剤又は抗てんかん剤、例えば、バルプロ酸ナトリウム及びクロバザムと共には投与されない。
【0051】
一実施態様において、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物、上記定義された医薬組成物又は上記定義された医薬は、カルニチン処置と共には投与されない。
【0052】
好ましくは、本発明に係る、高アンモニア血症の予防もしくは治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための追加の化合物は、高アンモニア血症を、特に、血中のアンモニアの産生を減少させることにより、又は血液からアンモニアを除去するメカニズムを向上させることにより予防し又は治療することを意図するものである。
【0053】
また、好ましくは、高アンモニア血症の予防もしくは治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための追加の化合物は、高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状を緩和し又は治療することを意図した任意の化合物、例えば、神経保護剤又は抗炎症剤であってもよい。
【0054】
高アンモニア血症に伴う症状の例は、嘔吐、食欲不振、呼吸性アルカローシス、低体温、肝障害、神経障害、例えば、けいれん、けいれん発作、錯乱、激越、意識障害、無気力、運動失調、脳卒中様病変、昏睡、精神病、視力喪失、急性脳症、脳浮腫、脳ヘルニアを含む。
【0055】
好ましくは、高アンモニア血症の予防又は治療に有用な追加の化合物は、神経保護剤、例えば、N-アセチルシステイン、インドメタシン、プロポフォール、ミノサイクリン及びマンニトール、抗炎症剤、安息香酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酪酸グリセロール、N-カルバミルグルタミン酸、安息香酸ナトリウム/フェニル酢酸ナトリウム、ラクツロース、アルギニン塩酸塩、L-アルギニン、カルグルミン酸、L-オルニチンとL-アスパラギン酸との混合物、シトルリン及びそれらの混合物からなる群より選択される。
【0056】
また、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物、上記で定義された医薬組成物又は上記定義された医薬は、高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状を緩和しもしくは軽減し、又は高アンモニア血症を予防しもしくは治療することを意図した治療法、例えば、血液ろ過、間欠的血液透析、腹膜透析、低体温療法、腎代替療法を伴っていてもよい。
【0057】
また、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物、上記定義された医薬組成物又は上記定義された医薬を、低タンパク食及び/又は摂取カロリーが糖及び脂質により置き換えられた食事と組み合わせることもできる。
【0058】
本明細書で使用する場合、「併用される」又は「併用で」又は「併用製品」という表現は、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物、特にスチリペントールと、上記定義された、高アンモニア血症の予防もしくは治療、又は高アンモニア血症に伴う1つ以上の症状の予防もしくは治療のための追加で示される化合物とを、同じ医薬組成物もしくは医薬内で併用し、このため共に投与してもよく、別々に、すなわち、別々の投与経路及び/もしくは別々の投与計画により投与してもよいことを意味する。ただし、別々に投与する場合、上記定義された式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩、水和物もしくは溶媒和物が、個体に対して薬理学的効果を発揮する期間と、上記定義された追加の化合物が、個体に対して薬理学的効果を発揮する期間とは、全部又は一部が重複する。
【0059】
本発明を下記非限定的な実施例及び図により、さらに説明するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1図1は、50mg/kg メチオニンスルホキシミン(MSO)でマウスを処置した後の、アンモニア(μMで表示、縦軸)に対する腹腔内投与されたスチリペントール(STP)の効果を示す。p<0.05:処置群対対照群のANOVA統計検定。#p<0.05:MSO及びスチリペントールを与えた群対MSOのみを与えた群のANOVA統計検定。
【0061】
実施例
本発明者らは、Hevor et al. (1985) Neuropathol. Appl. Neurobiol. 11: 129-139によるメチオニンスルホキシミン(MSO)誘発性けいれんのモデルにおいて、高アンモニア血症及び高アンモニア血症に伴うけいれんに対するスチリペントールの有効性を、下記のとおり検討した。
【0062】
A.材料及び方法
1.動物
体重23~27グラムのオスのCBAマウス(Janvier)を動物舎(t°=22±2℃;飼育条件は下記のとおり:餌:SAFE「A04」、飲み水:水道水、昼夜サイクル:12h/12h(明:7h/19h-暗:19h/7h))において、少なくとも4日間馴化させた後に使用する。
【0063】
受け入れ時に、欧州議会指令2010/63/EU(2010年9月22日)の倫理的勧告に従って、巣材及びシズルドライ(sizzle dry)(SDS)を豊富に備えた1500Uのケージ(床面積1500cm2)に、マウスを8~10匹のバッチにグループ分けする。
【0064】
2.プロトコール
試験当日、マウスの体重を測定し、印をつけ、個別のケージに入れる。t=0分に、MSO(0.1mL/10g)を腹腔内投与し、マウスを8時間注意深く観察する。動物は、最初の4時間は正常である。強直発作及び間代発作が数時間出現し、ついで、徐々に消失する。
【0065】
評価されるパラメーターをIrwin grid(Irwin 1968)に従う動物の全身状態、けいれん回数、その発症時間及び死亡率とする。倫理委員会で承認されたANI07の手順に従って、限界点に達し次第、又は8時間の観察期間が終了した時点で、動物を安楽死させる。
【0066】
一部の試験では、殺処分時の、又は試験を完了しなかった動物についての死亡時のアンモニアレベルを測定するため、血液及び小脳を含む全脳のサンプルを採取するものとする。
【0067】
血液をイソフルラン麻酔下で心臓穿刺により収集し(マウス1匹当たり0.5~1.0mL)、アンモニアレベルを測定する。脳と血液を採取する場合、マウスを断頭により迅速に殺処分する。脳を摘出し、液体窒素中で凍結させる。ついで、肝臓を摘出し、液体窒素中で急速凍結させる。サンプルを-80℃で保存する。
【0068】
スチリペントール(0.1mL/10g)を、MSOに対して種々のタイミングで腹腔内投与する。
【0069】
3.ABCAMキットによるアンモニア血症測定
オレンジ色の25G針(Terumo、NN2516R)と、EDTAを含有する1.3mlのS-Monovetteチューブ(紫色キャップ、ref 41.1395.105、Sarstedt)を使用して、断頭後、又は、イソフルラン麻酔下(流速1.5l/分、導入及び維持のために、エバポレーター4.3%)、心臓穿刺により、血液を収集する。このチューブを、4℃に冷却されたBeckman Allegra遠心分離機にて、2000gで10分間遠心分離する。血漿を1mlのマイクロチューブ(Brand、ref 780500)に収集する。マイクロチューブを分析前に-80℃の冷凍庫に入れ、それ以外は、砕いた氷の上に置く。
【0070】
アンモニアを、マイクロプレートリーダー(Dynex、モデルMRX)と、幾つかの試薬を含むABCAMキット(ref AB83360、アンモニアアッセイキット)を使用して比色測定する。このキットにより、サンプル中に存在するアンモニウムの定量的酵素測定が可能となる。アッセイ中に、アンモニウムは、マイクロプレートリーダーを使用して570nmで定量するために、OxiRedプローブと反応する生成物に変換される。この試験では、1nmol(#20μM)のアンモニウムを検出することができる。このキットは、-20℃で保存され、下記成分を含む。
-アンモニアアッセイバッファー(25mL):すぐに使用可能、使用前に室温に戻す;
-OxiRedプローブ(200μL):すぐに使用可能、DMSOを融解するために、37℃に温める;
-現像液(1バイアル):アンモニアアッセイバッファー 220μLで再構成する;
-酵素混合物(1バイアル):アンモニアアッセイバッファー 220μLで再構成する;
-変換酵素(1バイアル):アンモニアアッセイバッファー 220μLで再構成する;
-10mM NHCl標準液(100μL):すぐに使用可能、使用中は氷上で保存
【0071】
NHCl標準液による検量線
-使用する毎に行う
-1mM NHCl標準液 100μLを調製する
-10mM NHCl標準液 10μL+ED 90μL
-1mM NHCl標準液を使用し、下記表1に従って希釈液を調製する
【0072】
【表1】
【0073】
標準液は1mM、すなわち、1L中1mmol又は1μL中1nmol、よって6μL中には6nmol。150μL(6+144)から50μL取れば、2nmol/ウェルとなる。
【0074】
サンプル調製
-血漿又は血清を直接試験することができる
-1/2、1/5及び1/10希釈
-ウェル当たり5~15μLの体積の血漿/血清
【0075】
アンモニアの測定手順
-全ての標準液/サンプル/材料を室温に平衡化する
-各測定を2回行う
-ウェル注入物
・標準液:標準液の希釈物 50μL
・サンプル:サンプル 2~50μL、次いでアッセイバッファーで50μLに調整する
-以下の表2に従って、反応混合物を調製する
【0076】
【表2】
【0077】
-反応混合物 50μLを標準液及びサンプルに加える
-混合し、遮光して37℃で60分間インキュベーションする
-570nmで測定する
【0078】
アンモニア濃度の計算
-高すぎる値(標準範囲外)は、希釈後に再測定すべきである
-2回分の値を平均する
-「ブランク」値を差し引いて、補正済みODを得る
-標準液で曲線を作成し、方程式(傾き)を得る
-アンモニウム量(nmol/ウェル)(Sa)を計算する
Sa=(補正済みOD-y)/傾き
-サンプル濃度(Sa/Sv)Dを計算する。ここで、Sv:サンプル量、D:希釈係数、NH モル質量=18.04g/mol
【0079】
4.製品
メチオニンスルホキシミン(Sigma、ref M5379、バッチSLBN0115V、SLBP0971V)を0.9% NaClに溶解させた。
【0080】
スチリペントール(バッチ176)を5%(v/v) Tween 80及び0.9% NaClに懸濁させた。
【0081】
ABCAMアッセイキット(ref AB83360、アンモニアアッセイ)及びNHCl(塩化アンモニウム、Sigma、ref 254134、モル質量53.49g)をアンモニア血症の判定に使用する。
【0082】
5.統計分析
結果を平均値±MSEで表わす。使用された統計検定は以下のとおりである。
-けいれんの割合と死亡率については、フィッシャーの正確確率検定を行い、5%の閾値で群間の有意差を判定する
-観察された薬理学的効果が5%レベルで有意であるかどうかを判定するために、アッセイについて一要因分散分析を行う(SigmaPlot 3.1ソフトウェア)
【0083】
B.結果
1.メチオニンスルホキシミンの投与効果
メチオニンスルホキシミン(MSO)を種々の濃度で腹腔内投与した。投与後8時間まで、マウスの行動及び死亡を観察した。
-40mg/kgで、MSOにより、中程度の行動学的効果が生じた。4時間目以降、筋緊張低下、運動低下、呼吸促進、眼瞼下垂及び散瞳が観察された。観察終了時(7~8時間)には、10匹のうちの2匹のマウスがけいれんし、1匹が死亡した。
-50mg/kgで開始した場合、早ければ3時間目に毒性の徴候が現れる。けいれんと死亡は、MSO注射後4時間で始まる。80%のマウスがけいれんし、死亡率は90%であった。
-60mg/kgでは、メチオニンスルホキシミンにより、100%のマウスにけいれんが生じ、死亡率は90%である。
-80mg/kgでは、メチオニンスルホキシミンにより、100%のマウスにけいれんが生じ、死亡率は100%である。
【0084】
これらの結果に基づき、MSO誘発性障害に対するスチリペントールの保護効果を研究するために、50mg/kg メチオニンスルホキシミン用量を選択した。
【0085】
2.アンモニア血症に対するスチリペントールの具体的な効果
スチリペントールをメチオニンスルホキシミン無しで、300mg/kgで腹腔内投与した。
【0086】
スチリペントールは、対照群(179±11μM)と比較して、アンモニア血症を変化させなかった(176±14μM)ことが観察された。
【0087】
3. 50mg/kg MSO投与後のスチリペントールの効果
2.1.MSOの直前にスチリペントールを投与した場合
スチリペントールをHevor et al. (1985) Neuropathol.Appl. Neurobiol.11 : 129-139に従って、メチオニンスルホキシミンの直前に投与する。
【0088】
50mg/kg メチオニンスルホキシミンを投与すると、毒性の行動学的徴候が現れ、けいれん率は90%、死亡率は75%であった。
【0089】
MSOの直前に300mg/kg スチリペントールを投与すると、けいれん率は50%に、死亡率は25%に有意に低下した。このことから、保護効果が示唆される。
【0090】
この研究では、アンモニア血症の判定から、下記結果が与えられた。
-メチオニンスルホキシミンを受けていない、又は何ら処置を受けていない対照群では、基礎アンモニア血症は、174±18μMと測定される。
-50mg/kg メチオニンスルホキシミンを投与すると、アンモニア血症は、609±51μMに有意に上昇した。
-MSOの直前に300mg/kg スチリペントールを投与すると、この高アンモニア血症は、32%低下し、417±51μMとなった。
【0091】
2.2.MSOの30分前にスチリペントールを投与した場合
Cloix (2010) Epilepsia, 51 : 118-128に従って、スチリペントールをメチオニンスルホキシミンの30分前に腹腔内投与する。
【0092】
50mg/kg メチオニンスルホキシミンを投与すると、毒性の行動学的徴候が現れ、けいれん率は100%、死亡率は80%であった。
【0093】
MSOの30分前に300mg/kg スチリペントールを投与すると、けいれん率は45%に、死亡率は25%に有意に低下した。このことから、保護効果が示唆される。
【0094】
この研究では、アンモニア血症の判定から、下記結果が与えられた(図1)。
-メチオニンスルホキシミンを受けていない、又は何ら処置を受けていない対照群では、アンモニア血症は184±12μMと測定された。
-50mg/kg メチオニンスルホキシミンを投与すると、アンモニア血症は、763±71μMに有意に上昇した。
-MSOの30分前に300mg/kg スチリペントールを投与すると、MSOのみの群と比較して、この高アンモニア血症は、有意に41%低下し、448±65μMとなった。
【0095】
C.結論
メチオニンスルホキシミン(MSO)誘発性けいれんモデルにおいて、本発明者らは、50mg/kg MSOを単回腹腔内投与すると、マウスの80~100%に高アンモニア血症、けいれん及び死亡が起こることを示した。
【0096】
本発明者らは、スチリペントールを300mg/kgで腹腔内投与すると、メチオニンスルホキシミン誘発性けいれん及び死亡が有意に減少することを示した。このことから、保護効果を示唆される。
【0097】
MSOの主な作用メカニズムは、アンモニアの解毒に関与する酵素であるグルタミンシンターゼの、特に脳における不可逆的阻害であり、これは、高アンモニア血症につながる(Ratnakumari, et al. (1985) J. Neurosci. Res. 14: 449-59)。アストロサイトでは、グルタミンシンターゼがアンモニウム及びグルタミン酸を使用してグルタミンを産生するため、MSOによるその活性の阻害が、アンモニアの増加につながる。
【0098】
アンモニア血症に関して、本発明者らは、300mg/kgでのスチリペントールの腹腔内投与により、MSO誘発性高アンモニア血症が有意に低下することを示した。
図1
【国際調査報告】