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特表2024-516648重油開発用高強度耐熱ケーシング及びその製造方法
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  • 特表-重油開発用高強度耐熱ケーシング及びその製造方法 図1
  • 特表-重油開発用高強度耐熱ケーシング及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】重油開発用高強度耐熱ケーシング及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240409BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240409BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20240409BHJP
   B22D 11/20 20060101ALI20240409BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/38
B22D11/00 A
B22D11/00 G
B22D11/20 A
C21D8/10 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565880
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 CN2022089945
(87)【国際公開番号】W WO2022228524
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】202110479389.2
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ドン, シャオミン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, ジョンファ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, ウェイグオ
【テーマコード(参考)】
4E004
4K032
【Fターム(参考)】
4E004MB03
4E004NB04
4E004NC04
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA12
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA36
4K032AA37
4K032BA03
4K032CA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CD03
4K032CD06
4K032CF01
4K032CF02
(57)【要約】
本開示は重油開発用耐熱ケーシングを提供し、該ケーシングは、重量パーセントで以下:C:0.08~0.19%、Si:0.1~0.4%、Mn:1.0~1.8%、Cr:1~2%、Mo:0.1~0.4%、W:0.1~0.5%、V:0.01~0.15%、Al:0.01~0.05%、N:0.008%以下、Fe及び不可避的不純物を含み、上記耐熱ケーシングはTi及びNbを含まない。本開示の石油ケーシングは、高温強度及び耐クリープ性がいずれも良好であり、重油開発の高温環境下におけるケーシングの性能に対する使用要件、特にスチームフラッディングを用いた重油開発におけるケーシングの性能に対する要件を満たしている。本発明はさらに、上記重油開発用耐熱ケーシングの製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセントで以下の元素:
C:0.08~0.19%;
Si:0.1~0.4%;
Mn:1.0~1.8%;
Cr:1~2%;
Mo:0.1~0.4%;
W:0.1~0.5%;
V:0.01~0.15%;
Al:0.01~0.05%;
N≦0.008%;
Fe及び不可避的不純物
を含み、
Ti及びNbを含まない
重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項2】
重量パーセントで以下の元素:
C:0.08~0.19%;
Si:0.1~0.4%;
Mn:1.0~1.8%;
Cr:1~2%;
Mo:0.1~0.4%;
W:0.1~0.5%;
V:0.01~0.15%;
Al:0.01~0.05%;
N≦0.008%
を含み、
残部がFe及び不可避的不純物である、
重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項3】
上記元素はさらに、
C:0.1~0.16%;
Si:0.15~0.35%;
Mn:1~1.6%;
Cr:1~1.5%;
Mo:0.15~0.4%;
W:0.2~0.5%;
V:0.05~0.12%;
Al:0.015~0.035%
を満たす、請求項1又は2に記載の重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項4】
上記不可避的不純物はP及びSを含み、重量パーセントでP≦0.015%及びS≦0.005%を満たす、請求項1又は2に記載の重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項5】
上記不可避的不純物はさらにP≦0.013%及びS≦0.003%を満たす、請求項4に記載の重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項6】
上記耐熱ケーシングは、ASTM E112による結晶粒度評価が6未満の焼戻しソルバイトの微細組織を有する、請求項1又は2に記載の重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項7】
上記耐熱ケーシングは、降伏強度が758~1069MPa、引張強度が862MPa以上、伸びが18%以上、0℃でのT方向シャルピー衝撃エネルギーが60J以上、350℃での高温降伏強度が700MPa以上、クリープ速度が1.5×10-6%/秒以下である、請求項1又は2に記載の重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項8】
以下の工程:
製錬工程:請求項1~5のいずれか1項に記載の重油開発用耐熱ケーシングの化学成分を配合して原材料を得て、該原材料を製錬してビレットを得る工程;
連続鋳造工程:上記ビレットを連続鋳造して丸ビレットを得る工程;
穿孔工程:上記丸ビレットを加熱及び穿孔する工程;
圧延工程:上記穿孔した丸ビレットを圧延する工程;
サイジング工程:最終圧延した上記丸ビレットをサイジングしてケーシングを得る工程;
制御冷却工程:上記ケーシングの本体の冷却前温度を850~900℃に制御し、制御冷却装置を用いて上記ケーシングの外表面を水スプレー冷却し、上記ケーシング本体の内壁温度が500~900℃の場合は冷却速度が20~40℃/秒となり、上記ケーシング本体の内壁温度が500℃を下回る場合は冷却速度が30~50℃/秒となり、最終冷却温度が50℃以下となるように冷却水の量を制御する工程;
熱処理工程:上記ケーシングを室温まで冷却した後、焼戻し熱処理する工程;及び
矯正工程:上記ケーシングを矯正する工程
を有する、重油開発用耐熱ケーシングの製造方法。
【請求項9】
上記連続鋳造工程において、溶鋼の過熱を40℃未満となるように制御し、連続鋳造速度が2.0~2.4m/分である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
上記穿孔工程において、上記丸ビレットを1200~1260℃の環状炉で加熱及び穿孔し、穿孔温度が1120~1200℃である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
上記圧延工程において、最終圧延温度を980~1080℃となるように制御する、請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
上記サイジング工程において、サイジング温度が920~960℃である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項13】
上記熱処理工程において、焼戻し温度が600~700℃であり、保持時間が50~80分である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項14】
上記矯正工程において、矯正温度が400~500℃である、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐熱ケーシング、特に重油開発用高強度耐熱ケーシング及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
採油産業が発展を続け、石油消費量が増加し続けるなか、重油は国内外の多くの石油会社にとって主要な生産源となっている。重油回収法には通常、スチームソーキング(Steam soaking)及びスチームフラッディング(Steam Flooding)の2種類がある。水スチームソーキング法とは、蒸気注入、浸漬、及び製造という3つのプロセスを実現する重油回収方法を指す。スチームフラッディングとは、好適な坑井パターンを有する蒸気注入井から蒸気を連続的に注入して注入井の周囲に蒸気ゾーンを形成し、注入した蒸気で地下の原油を加熱して周囲の生産井へ送って産出するものを指す。1990年代以前、中国での重油開発は主にスチームソーキング井によるものであった。しかしながら、国内の石油分野におけるスチームソーキング回収技術での重油開発は、概して高サイクルとそれに続く回収の段階に入った。地層圧が低下して、開発効果が悪化し、産出量が低下している。スチームフラッディングによる重油開発の方式を採用することで、高サイクル回収段階に入った重油分野での収率を効果的に向上できるとともに、重油の生産に対して突出した効果を発揮できる。
【0003】
また、重油回収の方式がスチームソーキング井からスチームフラッディング井に移行したため、耐熱ケーシングに対する需要も高まっている。一般的な石油・ガス開発における低温作業条件の環境とは異なり、スチームフラッディングによる重油開発では、350℃、17MPaの蒸気圧、及び長期使用という特徴がある。ケーシングは、長期使用中に温度上昇及び温度降下で生じる周期的な応力変化を受け、高温環境ではクリープにより変形するため、高温環境下でのケーシングの不十分な機械的特性又は材料クリープに起因してケーシングが損失してしまうという問題を解決するために、耐熱ケーシングは良好な高温機械的特性及び耐クリープ性を有する必要がある。
【0004】
中国特許出願公開第200810204727.6号明細書には、重量パーセントで以下の組成:C:0.2~0.30%、Si:0.10~0.3%、Mn:0.4~1.0%、Cr:0.5~1.5%、W:0.1~0.5%を有し、残部がFe及び不可避的不純物である耐熱ケーシング用鋼が開示されている。上記耐熱ケーシング用鋼の製造方法は、以下の工程:上記組成処方に従って製錬、鋳造、及び熱間圧延を実施して継目無鋼管を形成する工程、上記継目無鋼管を820℃~920℃の温度範囲で加熱し、30~60分保持して十分にオーステナイト化させる工程、焼入れ工程、焼入れ管を580℃~720℃の温度範囲で均一に加熱し、30~90分保持して焼き戻しする工程を有する。
【0005】
中国特許出願公開第201710469926.9号明細書には、継目無鋼管、その製造方法、及び重油熱回収ケーシングが開示されている。上記継目無鋼管は、重量パーセントで、C:0.20~0.30%、Si:0.20~0.60%、Mn:0.50~1.20%、P≦0.015%、S≦0.003%、Cr:0.80~1.30%、Mo:0.30~0.70%、Ti:0.005~0.02%、Ni≦0.10%、Al:0.01~0.05%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避的不純物である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、重油開発用高強度耐熱ケーシング及びその製造方法を提供することを目的とする。本開示の石油ケーシングは、高温強度及び耐クリープ性がいずれも良好であり、重油開発の高温環境下におけるケーシングの性能に対する使用要件、特にスチームフラッディングを用いた重油開発におけるケーシングの性能に対する要件を満たしている。
【0007】
重油開発の周囲温度は比較的高く、一般的には350℃に達するので、ケーシングは、高温環境下での不十分な機械的特性又は材料クリープに起因するケーシング損失の問題を防止するために、高温機械的特性及び耐クリープ性が良好である必要がある。一般的な設計思想は、固溶強化をもたらすCr、Mo、及びW等の合金元素を添加することでマトリックス原子間の結合力を向上させて、高温環境下における材料の強度を高め、耐クリープ性に有利な微細組織を形成することである。
【0008】
鋼の粒径も耐クリープ性に大きな影響を与える。クリープが続くと、粒界すべりや粒界拡散が比較的十分になり、粒界に沿って空洞や亀裂が発生及び成長しやすく、最終的には材料破壊が引き起こされる。細粒材料に比べて、粗粒材料は粒界の総面積が小さく、粒界すべりによる変形が少なく、クリープ速度が小さく、クリープ破壊限界が大きいため、粒径を大きくすることで材料の耐クリープ性を向上できる。しかしながら、従来技術では、耐熱ケーシングの熱処理にオフライン焼入れ+焼戻し熱処理プロセスを採用しており、熱間圧延後にケーシングを室温まで冷却した後、焼入れ炉で再オーステナイト化して焼入れ及び焼戻ししている。このような熱処理プロセスの場合、結晶粒が著しく微細化して耐クリープ性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示が提供する実施形態では、従来技術と異なるオンライン制御冷却技術が採用され、熱間圧延後にケーシングをオンラインで直接焼入れし、オフライン焼入れプロセスは省略している。一方、熱間圧延後の余熱を利用してオンラインでケーシングを焼入れする場合、熱間圧延中の元の粗粒が保持されるため、従来のオフライン熱処理プロセスにおいてオーステナイト化ケーシングを焼入れすることで生じる結晶粒微細化の問題が解決され、材料の耐クリープ性が向上する。しかしながら、熱間圧延後にケーシングを直接焼入れする場合、結晶粒の歪みが高エネルギーを蓄えるため、焼入れプロセスにおいて亀裂が発生しやすい。したがって、本開示が提供する実施形態では、耐熱ケーシングのC、Mn、Cr、Mo、及びW等の合金元素の種類及び量を、オンライン制御冷却プロセスの特性と組み合わせて最適化することにより、菅の亀裂及び応力の集中を防止して、安全な生産及び安定した品質を確保している。TiやNb等の合金元素が析出すると結晶粒が微細化するため、本出願ではTiやNbを添加しない。
【0010】
本開示の第1の態様は、重量パーセントで以下の元素:C:0.08~0.19%、Si:0.1~0.4%、Mn:1.0~1.8%、Cr:1~2%、Mo:0.1~0.4%、W:0.1~0.5%、V:0.01~0.15%、Al:0.01~0.05%、N≦0.008%、Fe及び不可避的不純物を含み、Ti及びNbを含まない重油開発用耐熱ケーシングを提供する。
【0011】
本開示の別の態様は、重量パーセントで以下の元素:C:0.08~0.19%、Si:0.1~0.4%、Mn:1.0~1.8%、Cr:1~2%、Mo:0.1~0.4%、W:0.1~0.5%、V:0.01~0.15%、Al:0.01~0.05%、N≦0.008%を含み、残部がFe及び不可避的不純物である重油開発用耐熱ケーシングを提供する。
【0012】
上記耐熱ケーシング中の元素はさらに、C:0.1~0.16%;Si:0.15~0.35%;Mn:1~1.6%;Cr:1~1.5%;Mo:0.15~0.4%;W:0.2~0.5%;V:0.05~0.12%;Al:0.015~0.035%を満たすことが好ましい。
【0013】
上記不可避的不純物はP及びSを含み、重量パーセントでP≦0.015%及びS≦0.005%を満たすことが好ましい。
【0014】
上記不可避的不純物はさらに、P≦0.013%及びS≦0.003%を満たすことが好ましい。
【0015】
本開示が提供する高強度耐熱ケーシングにおける各化学元素の設計思想は以下の通りである。
【0016】
C:Cは炭化物を形成する元素であり、鋼の強度を高めることができる。C含有量が0.08重量%未満だと鋼の焼入れ性が低下して、鋼の強度及び靱性が低下することになる。一方、C含有量が0.19重量%を超えると鋼の焼割れ感受性が高くなり、オンライン焼入れ時に焼割れが発生しやすくなる。石油ケーシングの高強度の要件を満たすために、本開示の技術的解決手段では、C含有量を0.08~0.19重量%となるように制御する必要がある。
【0017】
Si:Siはフェライト中に固溶し、鋼の降伏強度を高めることができるが、Si含有量が多くなり過ぎないようにするべきである。Si含有量が多すぎると鋼の加工性及び靱性が劣化し、Si含有量が0.1重量%未満だと石油ケーシングが酸化しやすくなるため、Si含有量は0.10~0.40重量%となるように制御するべきである。
【0018】
Mn:Mnはオーステナイトを形成する元素であり、鋼中の固溶強化効果により鋼の高温機械的特性を高めることになる。本開示に係る高強度耐熱ケーシングの鋼種系において、Mn含有量が1重量%未満だと、鋼の焼入れ性が著しく低下し、固溶強化効果が弱まり、高温強度が低下することになるが、Mn含有量が1.8重量%を超えると、組成偏析が生じて焼割れが発生しやすくなる。このため、本開示の技術的解決手段では、Mn含有量を1~1.8重量%となるように制御する。
【0019】
V:Vは典型的な析出強化元素であり、炭素の減少により低下した強度を補うことができる。V含有量が0.01%未満だと強化効果が明らかではなく、V含有量が0.15%を超えると粗大なV(CN)が形成されやすいため、靱性が低下する。
【0020】
Mo:Moは主に、炭化物及び固溶体強化形態を通じて鋼の強度及び焼戻し安定性を向上させる。本開示の技術的解決手段では、Mo添加量が0.4重量%を超えると焼割れが発生しやすい。Mo含有量が0.1重量%を下回ると、石油ケーシングの強度が高強度要件を満たすことができない。これに基づき、本開示では、Mo含有量を0.1~0.4重量%となるように制御している。
【0021】
Cr:Crは強力な焼入れ性向上元素であり、かつ強力な炭化物形成元素であって、鋼中で明らかな固溶強化及び析出強化効果を有し、鋼の高温機械的特性を向上させることができる。しかしながら、Cr含有量が2%を超えると粗大なM23炭化物が粒界で析出しやすくなるため、靱性が低下し、焼割れが発生しやすくなる。Cr含有量が1%未満だと高温機械的特性が不十分である。
【0022】
W:Wの固溶強化によって、マトリックス原子間の結合力を増大させ、高温環境における材料の強度を高めることができる。Wの重量パーセントが0.5重量%より大きいと強化効果が明らかではないため、合金の無駄が生じる。W含有量が0.1重量%未満だと鋼の高温機械的特性を向上させることができない。本開示では、W含有量を0.1~0.5重量%となるように制御することが望ましい。
【0023】
Al:Alは良好な脱酸及び窒素固定元素であり、Al含有量は0.01~0.05%が適当である。
【0024】
N:Nは不純物であり、その含有量はプロセス条件に応じてできる限り低減する。
【0025】
本開示の第2の態様は、以下の工程:
製錬工程:上述した重油開発用高強度耐熱ケーシングの化学成分を配合して原材料を得て、該原材料を製錬してビレットを得る工程;
連続鋳造工程:上記ビレットを連続鋳造して丸ビレットを得る工程;
穿孔工程:上記丸ビレットを加熱及び穿孔する工程;
圧延工程:上記穿孔した丸ビレットを圧延する工程;
サイジング工程:最終圧延した上記丸ビレットをサイジングしてケーシングを得る工程;
制御冷却工程:上記ケーシングの本体の冷却前温度を850~900℃に制御し、オンライン制御冷却装置を用いて上記ケーシングの外表面を水スプレー冷却し、上記ケーシング本体の内壁温度が500~900℃の場合は冷却速度が20~40℃/秒となり、上記ケーシング本体の内壁温度が500℃を下回る場合は冷却速度が30~50℃/秒となり、最終冷却温度が50℃以下となるように冷却水の量を制御する工程;
熱処理工程:上記ケーシングを室温まで冷却した後、焼戻し熱処理する工程;及び
矯正工程:上記ケーシングを矯正する工程
を有する重油開発用高強度耐熱ケーシングの製造方法を提供する。
【0026】
上記連続鋳造工程において、溶鋼の過熱を40℃未満となるように制御し、連続鋳造速度が2.0~2.4m/分であることが好ましい。
【0027】
上記穿孔工程において、上記丸ビレットを1200~1260℃の環状炉で加熱及び穿孔し、穿孔温度が1120~1200℃であることが好ましい。
【0028】
上記圧延工程において、最終圧延温度を980~1080℃となるように制御することが好ましい。
【0029】
上記サイジング工程において、サイジング温度が920~960℃であることが好ましい。
【0030】
上記熱処理工程において、焼戻し温度が600~700℃であり、保持時間が50~80分であることが好ましい。
【0031】
上記矯正工程において、矯正温度が400~500℃であることが好ましい。
【0032】
本開示が提供する高強度耐熱ケーシングの製造方法は、オンライン焼入れ+焼戻し熱処理を採用して実施されるので、鋼は高温強度がより高くなり耐クリープ性がより良好になる。プロセス操作が単純であり、大規模な生産及び製造を実現しやすいので、経済的メリットが大きい。
【0033】
本開示が提供するケーシングの微細組織は、ASTM E112による結晶粒度評価が6未満の焼戻しソルバイトである。
【0034】
本開示が提供する製造方法に従って作製される110ksi超の鋼種の耐熱ケーシングは、降伏強度が758~1069MPa、引張強度が862MPa以上、伸びが18%以上、0℃でのT方向シャルピー衝撃エネルギーが60J以上、350℃での高温降伏強度が700MPa以上、クリープ速度が1.5×10-6%/秒以下であり、重油開発の高温環境下におけるケーシングの性能に対する使用要件を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本開示の実施形態A3の金属構造を示す。
図2】本開示の比較例B3の金属構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下の具体的な実施形態を参照して本開示の実施形態を説明するが、本明細書に開示された内容から、当業者には本開示の他の利点及び効果が直ちに明らかとなるであろう。本開示の明細書は好ましい実施形態に関連して記載されるが、本発明の特徴がこれらの実施形態にのみ限定されることを意味するものではない。むしろ、実施形態に関連する本発明の説明は、本開示の特許請求の範囲に基づいて可能となる他の選択肢又は修正を包含することを意図している。本開示の十分な理解が得られるように、以下の記載は多くの具体的な詳細を含んでいる。本開示は、これらの詳細なしで実施することもできる。加えて、本開示の焦点を乱したり不明瞭にしたりすることを避けるために、いくつかの具体的な詳細については説明を省略する。
【0037】
本開示の態様の実施形態は、重量パーセントで以下の元素:C:0.08~0.19%、Si:0.1~0.4%、Mn:1.0~1.8%、Cr:1~2%、Mo:0.1~0.4%、W:0.1~0.5%、V:0.01~0.15%、Al:0.01~0.05%、N≦0.008%、Fe及び不可避的不純物を含み、Ti及びNbを含まない重油開発用高強度耐熱ケーシングを提供する。
【0038】
本開示の態様の別の実施形態は、重量パーセントで以下の元素:C:0.08~0.19%、Si:0.1~0.4%、Mn:1.0~1.8%、Cr:1~2%、Mo:0.1~0.4%、W:0.1~0.5%、V:0.01~0.15%、Al:0.01~0.05%、N≦0.008%を含み、残部がFe及び不可避的不純物である重油開発用高強度耐熱ケーシングを提供する。
【0039】
これに対応して、本開示はさらに、以下の工程:製錬、連続鋳造、穿孔、圧延、サイジング、制御冷却、熱処理、及び矯正を有する、上記高強度耐熱ケーシングの製造方法を提供する。
【0040】
本開示の高強度耐熱ケーシングの製造方法では、連続鋳造工程において、溶鋼の過熱を40℃未満となるように制御し、連続鋳造速度が2.0~2.4m/分であり、丸ビレットが得られることが好ましい。丸ビレットを1200~1260℃の環状炉で加熱及び穿孔し、穿孔温度が1120~1200℃である。最終圧延温度を980~1080℃となるように制御し、最終圧延した丸ビレットをサイジング温度920~960℃でサイジングすることでケーシングを得る。サイジングしたケーシングを制御冷却装置で制御冷却し、ケーシングの本体の冷却前温度を850~900℃とし、オンライン制御冷却装置を用いてケーシングの外表面を水スプレー冷却し、内壁及び外壁にかかる残留応力を低減するために、ケーシング本体の内壁温度が500~900℃の場合は冷却速度が20~40℃/秒となり、ケーシング本体の内壁温度が500℃を下回る場合は冷却速度が30~50℃/秒となり、最終冷却温度が50℃以下となるように冷却水の量を制御する。
【0041】
ケーシングを室温まで冷却した後、焼戻し熱処理し、焼戻し温度が600~700℃であり、保持時間が50~80分であることが好ましい。最後に、ケーシングを400~500℃で熱矯正する。
【0042】
本開示によれば、高温機械的特性が良好で、110ksiを超える鋼種の耐熱ケーシングを製造できる。
【0043】
本開示が提供する高強度耐熱ケーシングは、熱延鋼管の余熱を焼入れに利用し、オフライン焼入れ工程を省略している。オンライン焼入れ+焼戻し熱処理のプロセスを用いて耐熱ケーシングを製造することで、ケーシングの高温機械的特性及び耐クリープ性を向上させるとともに、生産効率を向上させて、生産コスト及びエネルギー消費を削減してグリーン・マニュファクチャリングを実現できる。
【0044】
以下、実施形態に従って本開示をより詳細に説明する。
実施形態A1~A7は、本開示が提供する重油開発用高強度耐熱ケーシングの実施形態であり、B1~B4は比較例である。
【0045】
実施形態A1~A7及び比較例B1~B4のケーシングは、以下の工程に従って製造される。
(1)製錬:表1に従って実施形態A1~A7及び比較例B1~B4における各化学元素の重量パーセントを制御する。
(2)連続鋳造:連続鋳造して丸ビレットを得るが、溶鋼の過熱を40℃未満となるように制御し、連続鋳造速度は2.0~2.4m/分である。
(3)穿孔:連続鋳造工程を経た丸ビレットを1200~1260℃の環状炉で加熱及び穿孔するが、穿孔温度は1120~1200℃である。
(4)圧延:穿孔した丸ビレットを圧延するが、最終圧延温度は980~1080℃となるように制御する。
(5)サイジング:最終圧延を経た丸ビレットをサイジングしてケーシングを得るが、サイジング温度は920~960℃となるように制御する。
(6)制御冷却:比較例B3を除き、ケーシングの本体の冷却前温度を850~900℃となるように制御し、ケーシング本体の内壁温度が500~900℃の場合は冷却速度が20~40℃/秒となり、ケーシング本体の内壁温度が500℃を下回る場合は冷却速度が30~50℃/秒となり、50℃以下の温度まで冷却するように冷却水の量を制御する。比較例3では、従来技術のオフライン焼入れプロセスを採用するが、具体的には該プロセスでは、900℃で加熱し、40分保持した後、水焼入れし、650℃で焼戻し、60分保持する。
(7)熱処理:ケーシングを600~700℃で焼戻し、50~80分保持する。
(8)矯正:ケーシングを400~500℃で熱矯正する。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
表3から分かるように、上記実施形態A1~A7のケーシングは、降伏強度が810~1050MPa、引張強度が862MPa以上、伸びが18%以上、0℃でのT方向シャルピー衝撃エネルギーが60J以上、350℃での高温降伏強度が700MPa以上、クリープ速度が1.5×10-6%/秒以下であり、重油開発の高温環境下におけるケーシングの性能に対する使用要件を満たすことができる。
【0050】
比較例B1のC含有量は、本開示の技術的解決手段で定義された範囲を超えており、強度は要件を満たすものの、製造過程で焼割れが発生して、製造不良を引き起こしている。比較例B2ではWを添加しない。比較例B3の成分は、本開示の技術的解決手段で定義された範囲を超えていないが、圧延後に制御冷却プロセスを採用していない(すなわち、重油開発用高強度耐熱ケーシングの製造方法において制御冷却工程を設ける本開示の第2の態様は、具体的には以下の工程を有する:ケーシング本体の冷却前温度を850~900℃に制御し、制御冷却装置を用いてケーシングの外表面を水スプレー冷却し、ケーシング本体の内壁温度が500~900℃の場合は冷却速度が20~40℃/秒となり、ケーシング本体の内壁温度が500℃を下回る場合は冷却速度が30~50℃/秒となり、最終冷却温度が50℃以下となるように冷却水の量を制御する)。A3及びB3の金属構造をそれぞれ図1及び図2に示す。図1の結晶粒構造は粗大であり、耐クリープ性の向上に有利である。一方、図2の結晶粒は結晶粒度評価が8と微細であり、これは耐クリープ性に劣ることを意味する。比較例B4のCrは、本開示の技術的解決手段で定義された範囲を超え、比較例B4はMoを含まない。とりわけ、比較例B2~B4のケーシングの機械的特性のうち少なくとも1つは、良好な高温強度及び耐クリープ性の要件を満たさない。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-12-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセントで以下の元素:
C:0.08~0.19%;
Si:0.1~0.4%;
Mn:1.0~1.8%;
Cr:1~2%;
Mo:0.1~0.4%;
W:0.1~0.5%;
V:0.01~0.15%;
Al:0.01~0.05%;
N≦0.008%;
Fe及び不可避的不純物
を含み、
Ti及びNbを含まない
重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項2】
重量パーセントで以下の元素:
C:0.08~0.19%;
Si:0.1~0.4%;
Mn:1.0~1.8%;
Cr:1~2%;
Mo:0.1~0.4%;
W:0.1~0.5%;
V:0.01~0.15%;
Al:0.01~0.05%;
N≦0.008%
を含み、
残部がFe及び不可避的不純物である、
重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項3】
上記元素はさらに、
C:0.1~0.16%;
Si:0.15~0.35%;
Mn:1~1.6%;
Cr:1~1.5%;
Mo:0.15~0.4%;
W:0.2~0.5%;
V:0.05~0.12%;
Al:0.015~0.035%
を満たす、請求項1又は2に記載の重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項4】
上記不可避的不純物はP及びSを含み、重量パーセントでP≦0.015%及びS≦0.005%を満たす、請求項1又は2に記載の重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項5】
上記不可避的不純物はさらにP≦0.013%及びS≦0.003%を満たす、請求項4に記載の重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項6】
上記耐熱ケーシングは、ASTM E112による結晶粒度評価が6未満の焼戻しソルバイトの微細組織を有する、請求項1又は2に記載の重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項7】
上記耐熱ケーシングは、降伏強度が758~1069MPa、引張強度が862MPa以上、伸びが18%以上、0℃でのT方向シャルピー衝撃エネルギーが60J以上、350℃での高温降伏強度が700MPa以上、クリープ速度が1.5×10-6%/秒以下である、請求項1又は2に記載の重油開発用耐熱ケーシング。
【請求項8】
以下の工程:
製錬工程:請求項1又は2に記載の重油開発用耐熱ケーシングの化学成分を配合して原材料を得て、該原材料を製錬してビレットを得る工程;
連続鋳造工程:上記ビレットを連続鋳造して丸ビレットを得る工程;
穿孔工程:上記丸ビレットを加熱及び穿孔する工程;
圧延工程:上記穿孔した丸ビレットを圧延する工程;
サイジング工程:最終圧延した上記丸ビレットをサイジングしてケーシングを得る工程;
制御冷却工程:上記ケーシングの本体の冷却前温度を850~900℃に制御し、制御冷却装置を用いて上記ケーシングの外表面を水スプレー冷却し、上記ケーシング本体の内壁温度が500~900℃の場合は冷却速度が20~40℃/秒となり、上記ケーシング本体の内壁温度が500℃を下回る場合は冷却速度が30~50℃/秒となり、最終冷却温度が50℃以下となるように冷却水の量を制御する工程;
熱処理工程:上記ケーシングを室温まで冷却した後、焼戻し熱処理する工程;及び
矯正工程:上記ケーシングを矯正する工程
を有する、重油開発用耐熱ケーシングの製造方法。
【請求項9】
上記連続鋳造工程において、溶鋼の過熱を40℃未満となるように制御し、連続鋳造速度が2.0~2.4m/分である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
上記穿孔工程において、上記丸ビレットを1200~1260℃の環状炉で加熱及び穿孔し、穿孔温度が1120~1200℃である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
上記圧延工程において、最終圧延温度を980~1080℃となるように制御する、請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
上記サイジング工程において、サイジング温度が920~960℃である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項13】
上記熱処理工程において、焼戻し温度が600~700℃であり、保持時間が50~80分である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項14】
上記矯正工程において、矯正温度が400~500℃である、請求項8に記載の製造方法。
【国際調査報告】