(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】敗血症の早期検出のためのプレセプシンマーカーパネル
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240409BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566594
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2022061587
(87)【国際公開番号】W WO2022229442
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(71)【出願人】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】フェリクス グリューネバルト
(72)【発明者】
【氏名】ビクトール ヨハン ラウル イェガー
(72)【発明者】
【氏名】マルティン クラマー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ シュッツ
(72)【発明者】
【氏名】マリア フォン ホルタイ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ウェーバー
(72)【発明者】
【氏名】ハイケ ベグマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ウルズラ-ヘンリーケ ビエンヒュース-テレン
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA13
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA36
2G045DA42
2G045FB03
(57)【要約】
本発明は、診断の分野に関する。具体的には、本発明は、感染が疑われる対象を評定するための方法であって、前記対象のサンプル中の第1のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第1のバイオマーカーがプレセプシンである、第1のバイオマーカーの量を決定する工程;前記対象のサンプル中の第2のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第2のバイオマーカーが、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される、第2のバイオマーカーの量を決定する工程、前記バイオマーカーの量を前記バイオマーカーの基準と比較し、かつ/または前記バイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる前記対象を評定するためのスコアを計算する工程;ならびに前記比較および/または前記計算に基づいて前記対象を評定する工程を含む、方法に関する。本発明は、また、プレセプシンである第1のバイオマーカー、ならびにGDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカーの使用、または感染が疑われる対象を評定するための、前記第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤および前記第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤の使用に関する。さらに、本発明は、感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法、ならびに感染が疑われる対象を評定するための装置およびキットにさらに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染が疑われる対象を評定するための方法であって、
(a)前記対象のサンプル中の第1のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第1のバイオマーカーがプレセプシンである、第1のバイオマーカーの量を決定する工程;
(b)前記対象のサンプル中の第2のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第2のバイオマーカーが、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される、第2のバイオマーカーの量を決定する工程;
(c)前記バイオマーカーの量を前記バイオマーカーの基準と比較し、かつ/または前記バイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる前記対象を評定するためのスコアを計算する工程;ならびに
(d)工程(c)において行われた前記比較および/または前記計算に基づいて前記対象を評定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
工程(b)において、
(i)GDF-15の量が前記第2のバイオマーカーとして決定される場合、前記方法がsFlt1、IGFBP7もしくはsTREM1の量を第3のバイオマーカーとして決定することをさらに含むか;または
(ii)シスタチンCの量が前記第2のバイオマーカーとして決定される場合、前記方法がアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの量を第3のバイオマーカーとして決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象が、救急科に来院している対象である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記評定が、敗血症を発症するリスクの評定、および/または前記対象の状態が悪化するリスクの評定である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基準が、敗血症を発症するリスクがあることが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーに対する基準であり、好ましくは、前記バイオマーカーのそれぞれに対する量が、対応する基準と本質的に同一または類似であることが、敗血症を発症するリスクがある対象であることを示し、前記バイオマーカーのそれぞれに対する量が、対応する基準とは異なることが、敗血症を発症するリスクがない対象であることを示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基準が、敗血症を発症するリスクがないことが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーに対する基準であり、好ましくは、前記バイオマーカーのそれぞれに対する量が、対応する基準と本質的に同一または類似であることが、敗血症を発症するリスクがない対象であることを示し、前記バイオマーカーのそれぞれに対する量が、対応する基準とは異なることが、敗血症を発症するリスクがある対象であることを示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が感染症に罹患しているか、または感染症に罹患している疑いがある、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプルが、血液、血清または血漿サンプルである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象がヒトである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)前記対象のサンプル中の第1のバイオマーカーの量の値を受け取る工程であって、前記第1のバイオマーカーがプレセプシンである、第1のバイオマーカーの量の値を受け取る工程;
(b)前記対象のサンプル中の第2のバイオマーカーの量の値を受け取る工程であって、前記第2のバイオマーカーが、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される、第2のバイオマーカーの量の値を受け取る工程;
(c)前記バイオマーカーの量の値を前記バイオマーカーの基準と比較し、かつ/または前記バイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる前記対象を評定するためのスコアを計算する工程;ならびに
(d)工程(c)において行われた前記比較および/または前記計算に基づいて前記対象を評定する工程
を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項11】
工程(b)において、
(i)GDF-15の量の値が前記第2のバイオマーカーとして受け取られる場合、前記方法がsFlt1、IGFBP7またはsTREM1の量の値を第3のバイオマーカーとして受け取ることをさらに含むか;または
(ii)シスタチンCの量の値が前記第2のバイオマーカーとして受け取られる場合、前記方法がアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの量の値を第3のバイオマーカーとして受け取ることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
感染が疑われる対象を評定するための装置であって、
(a)前記対象のサンプル中の、プレセプシンである第1のバイオマーカーと、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカーの量とを決定するための測定ユニットであって、前記第1のバイオマーカーおよび前記第2のバイオマーカーの検出システムを備える、測定ユニット;ならびに
(b)前記測定ユニットに動作可能に連結された評価ユニットであって、好ましくは請求項1~9のいずれか一項に記載のような、前記第1のバイオマーカーおよび前記第2のバイオマーカーのための保存された基準を有するデータベースと、好ましくは請求項1~9のいずれか一項に記載のような、前記第1のバイオマーカーおよび前記第2のバイオマーカーの量と基準との比較を実行するための、および/または前記バイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる前記対象を評定するためのスコアの計算を実行するための、ならびに前記比較に基づいて前記対象を評定するための命令を有するデータプロセッサと、を備え、前記測定ユニットから前記バイオマーカーの量の値を自動的に受け取ることができる、評価ユニット
を備える、装置。
【請求項13】
前記測定ユニットが、第3のバイオマーカーを決定し、かつ第3のバイオマーカーのための検出システムを備え、前記データベースが、第3のバイオマーカーの保存された基準を有し、前記第3のバイオマーカーが、
(i)GDF-15が前記第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7もしくはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが前記第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記検出システムが、前記バイオマーカーの各々を特異的に検出することができる少なくとも1種の検出剤を含む、請求項12または13に記載の装置。
【請求項15】
感染が疑われる対象を評定するための装置であって、プレセプシンである第1のバイオマーカー、ならびにGDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカーの保存された基準を有するデータベースと、好ましくは請求項1~11のいずれか一項に記載のような、前記第1のバイオマーカーおよび前記第2のバイオマーカーの量と基準との比較を実行するための、ならびに前記比較に基づいて前記対象を評定するための命令を含むデータプロセッサと、を備える評価ユニットを備え、前記評価ユニットが、前記対象のサンプルにおいて決定された前記バイオマーカーの量の値を受け取ることができる、装置。
【請求項16】
前記データベースが、第3のバイオマーカーの保存された基準を含み、前記第3のバイオマーカーが、
(i)GDF-15が前記第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7もしくはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが前記第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
感染が疑われる対象を評定するための、i)プレセプシンである第1のバイオマーカー、ならびにGDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカー、またはii)前記第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤および前記第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤の使用。
【請求項18】
第3のバイオマーカーまたは前記第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤が追加的に使用され、前記第3のバイオマーカーが、
(i)GDF-15が前記第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7もしくはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが前記第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
プレセプシンである第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤と、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤とを含む、感染が疑われる対象を評定するためのキット。
【請求項20】
第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤をさらに含み、前記第3のバイオマーカーが、
(i)GDF-15が前記第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7もしくはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが前記第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記評定が、敗血症を発症するリスクの評定である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法、装置、使用またはキット。
【請求項22】
48時間以内に敗血症を発症するリスクが予測される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法、装置、使用またはキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断の分野に関する。具体的には、本発明は、感染が疑われる対象を評定するための方法であって、対象のサンプル中の第1のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第1のバイオマーカーがプレセプシンである、第1のバイオマーカーの量を決定する工程;対象のサンプル中の第2のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第2のバイオマーカーが、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される、第2のバイオマーカーの量を決定する工程、バイオマーカーの量を前記バイオマーカーの基準と比較し、かつ/またはバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアを計算する工程;ならびに比較および/または計算に基づいて前記対象を評定する工程を含む方法に関する。本発明はまた、感染が疑われる対象を評定するための、プレセプシンである第1のバイオマーカー、ならびにGDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカー、または前記第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤および前記第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤の使用に関する。さらに、本発明は、感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法、ならびに感染が疑われる対象を評定するための装置およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症、特に、より重篤な徴候およびその症状を有する患者、例えば救急外来を受診する患者に発生する感染症は、全身性炎症反応症候群(SIRS)および敗血症を含むより生命を脅かす医学的状態に発展することがある。
【0003】
Sepsis-3の定義によれば、敗血症は、感染に対する調節不全の宿主応答によって引き起こされる生命を脅かす臓器機能不全として定義される。敗血症は急速に発症するので、敗血症患者の管理および入院の最初の1時間以内の適切な抗生物質療法を含む正しい治療措置を開始し、ならびに静脈内輸液および血管作動薬による蘇生を開始するために、早期の認識が重要である(敗血症キャンペーンガイドライン2016)。1時間遅延するごとに、罹患率および死亡率が徐々に上昇する。
【0004】
敗血症の診断は、非特異的で容易に見落とされ得る臨床症状および症状に基づく。したがって、患者はしばしば誤診され、疾患の重症度は過小評価されることがある。これまでのところ、敗血症の診断のためのゴールドスタンダードは一般的に存在せず、特に救急科では存在しない。高所得国では、c反応性タンパク質(CRP)、プロカルシトニン(PCT)および白血球(WBC)数は、敗血症性ショックの検出のための乳酸塩値と共に、敗血症を発症するリスクがある血流感染症を有する患者の検出のために緊急治療室でしばしば使用されている。低所得国では、診断は主に臨床徴候および症状、場合によってはSIRSおよびSOFA基準に基づいて行われている。しかし、最新のガイドラインでは、乳酸塩以外に、敗血症を診断するためのバイオマーカーは挙げられていない(臨床化学、BGEおよびSOFAスコアの血液学的構成要素を除く)。PCTは、抗生物質療法を潜在的に緩和するためにのみ推奨されているが、エビデンスは中程度である。敗血症診断におけるPCTの限界は、主に感度および特異度が中程度であることである。
【0005】
国際公開第2007/009071号は、sFlt-1に基づいて対象の炎症応答を診断する方法を開示している。開示されている方法は、VEGF、PlGF、TNF-α、IL-6、D-ダイマー、P-セレクチン、ICAM-I、VCAM-I、Cox-2、またはPAI-Iの少なくとも1つのレベルを分析することをさらに含む。
【0006】
欧州特許第2174143号は、感染症ではない原発疾患を有する患者の予後診断のためのインビトロ方法を開示しており、この方法はプロカルシトニンのレベルを決定することを含む。
【0007】
多数のマーカーが敗血症の検出または診断に有用であることが示唆されている。これらには、その他多数、PCT、プレセプシン、GDF-15、sFLT、炎症マーカー、例えばCRPもしくはインターロイキン、または臓器不全に特異的なマーカーが含まれる(例えば、Spanuth,2014,急性心不全入院患者の死亡率予測におけるsCD14-ST(プレセプシン)と8種のバイオマーカーの比較,2014 AACC Annual Meeting Abstracts.B-331;van Engelen,2018,Crit Care Clin 34(1):139-152)。
【0008】
国際公開第2015/031996号には、疾患および/または処置応答に対する重大なまたは生命を脅かす応答の早期決定のためのバイオマーカーが開示されている。
【0009】
しかし、感染の徴候および症状を示す患者の信頼できる早期の評定を可能にするバイオマーカーが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
したがって、本発明は、これらの必要性に応じる手段および方法を提供する。
【0011】
本発明は、感染が疑われる対象を評定するための方法であって、
(a)対象のサンプル中の第1のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第1のバイオマーカーがプレセプシンである、第1のバイオマーカーの量を決定する工程;
(b)対象のサンプル中の第2のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第2のバイオマーカーが、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される、第2のバイオマーカーの量を決定する工程;
(c)バイオマーカーの量を前記バイオマーカーの基準と比較し、かつ/またはバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアを計算する工程;ならびに
(d)工程(c)において行われた比較および/または計算に基づいて前記対象を評定する工程
を含む、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「a」または「an」は、それが使用される文脈に応じて、1以上を意味し得ることを理解されたい。したがって、例えば、「an」という項目への言及は、少なくとも1つの項目を利用し得ることを意味することができる。
【0013】
以下で使用されるとき、「・・・を有する(have)」、「・・・含む(comprise)」、または「・・・を含む(include)」という用語、あるいはこれらの任意の文法的変形は、非排他的なやり方で使用される。したがって、これらの用語は、この文脈において説明されているエンティティに、これらの用語によって導入される特徴以外のさらなる特徴が存在しない状況、および1つ以上のさらなる特徴が存在する状況の双方を指すことがある。例として、「AはBを有する」、「AはBを備える」、および「AはBを含む」という表現はいずれも、B以外に、他の要素がAに存在しない状況(すなわち、Aが単独かつ排他的にBからなる状況)、ならびにB以外に、要素C、要素CおよびD、あるいはまたさらなる要素など、1つ以上のさらなる要素がエンティティAに存在する状況を指すことができる。「含む(comprising)」という用語は、言及される項目のみが存在する実施形態も包含する、すなわち、「からなる(consisting of)」という意味で限定的な意味を有する。
【0014】
さらに、以下で使用される場合、「特に」、「より具体的には」、「典型的には」、および「より典型的には」という用語または同様の用語は、代替の可能性を制限することなく、追加の/代替の特徴と共に使用される。したがって、これらの用語によって導入される特徴は、追加の/代替の特徴であり、決して特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。本発明は、当業者であれば理解するとおり、代替の特徴を使用することによって実施されてもよい。同様に、「本発明の実施形態では」または同様の表現によって導入される特徴は、本発明の代替の実施形態に関する制限なしに、本発明の範囲に関する制限なしに、およびそのように導入された特徴を本発明の他の追加の/代替のまたは非追加の/代替の特徴と組み合わせる可能性に関する制限なしに、追加の/代替の特徴であることが意図される。
【0015】
さらに、本明細書で使用される場合、「少なくとも1つ」という用語は、この用語に続いて言及される項目の1つ以上が本発明に従って使用されることができることを意味することが理解されよう。例えば、この用語が、少なくとも1つのサンプリングユニットが使用されるべきであることを示す場合、これは、1つのサンプリングユニットまたは2つ以上のサンプリングユニット、すなわち、2つ、3つ、4つ、5つ、または任意の他の数として理解してもよい。用語が言及する項目に応じて、当業者は、もしあれば用語がどの上限を指すことができるかについて理解する。
【0016】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、当該用語の後に列挙された任意の数に関して、技術的効果を達成することができる区間精度が存在することを意味する。したがって、本明細書で言及される「約」は、好ましくは、正確な数値または当該正確な数値の±20%、好ましくは±15%、より好ましくは±10%、またはさらにより好ましくは±5%の範囲を指す。
【0017】
さらに、明細書および特許請求の範囲における「第1」、「第2」、「第3」などの用語は、同様の要素を区別するために使用され、必ずしも連続的または時系列的な順序を説明するためのものではない。
【0018】
本発明の方法は、上述の工程からなってもよく、または工程(d)で得られた評定をさらに評価するための工程、処置などの治療措置を推奨する工程などの追加の工程を含んでもよい。さらに、本発明の方法は、サンプルの前処理に関する工程などの工程(a)の前の工程を含んでもよい。しかし、好ましくは、上述の方法は、ヒトまたは動物の身体に対して実施されるいかなる工程をも必要としないエクスビボ方法であることが想定される。さらに、本方法は、自動化によってサポートされてもよい。典型的には、バイオマーカーの決定はロボット装置によってサポートされてもよく、比較および評定はコンピュータなどのデータ処理装置によってサポートされてもよい。
【0019】
本明細書で使用される場合、「評定する」という用語は、対象が敗血症に罹患しているかどうか、敗血症に罹患するリスクがあるかどうか、全体的な健康状態に関して、または敗血症もしくは敗血症および/または感染に伴う徴候および症状に関して悪化する症状を示すかどうかを評定することを指す。したがって、本明細書で使用される評定は、敗血症を診断すること、敗血症を発症するリスクを予測すること、および/または特に敗血症および/または感染に伴う徴候および症状に関して、対象の健康状態のあらゆる悪化を予測することを含む。
【0020】
典型的には、本発明により言及される評定は、敗血症を発症するリスクの評定(したがって、敗血症を発症するリスクの予測)である。あるいは、評定は、対象の(健康)状態が悪化するリスクの予測である。さらに、敗血症を発症するリスクまたは健康状態の悪化のリスクが予測される場合、典型的には、予測は予測ウィンドウ内で行われることが理解されよう。より典型的には、当該予測ウィンドウは、好ましくはサンプルが得られた後、約8時間、約10時間、約12時間、約16時間、約20時間、約24時間、約48時間、特に少なくとも約48時間である。さらに、好ましくは試験サンプルが得られた後の24または48時間以内に敗血症を発症するリスクを予測することができる。
【0021】
一実施形態では、24時間以内に敗血症を発症するリスクが予測される。
別の実施形態では、48時間以内に敗血症を発症するリスクが予測される。48時間の期間を実施例の項で試験した。
【0022】
さらに別の実施形態では、評定は、対象の(健康)状態が将来悪化するか否かのリスクの予測である。感染症に罹患していると疑われる対象および/または感染症に罹患している対象の「状態の悪化」という用語は、当業者にはよく理解されている。この用語は、典型的には、最終的にさらなる投薬または他の介入をもたらすことができる状態の悪化に関する。
【0023】
好ましくは、対象の状態が悪化する場合、対象の疾患重症度が上昇した場合、対象の抗生物質療法が強化された場合、対象がより高いレベルのケアのためにICUまたは別のユニットに入院した場合、対象が緊急手術を必要とした場合、対象が病院で死亡した場合、対象が入院後30日以内に死亡した場合、対象が退院後30日以内に再入院した場合、対象が、例えばSOFAスコアで測定されるような器官機能不全または不全を経験した場合、および/または対象が臓器支援を必要とした場合である。
【0024】
当業者は、対象の状態が悪化しない場合を理解する。典型的には、対象が前の段落で述べた結果を有さない場合、対象の状態は悪化していない。
【0025】
一実施形態では、対象が以下の転帰のうちの1つ以上を有する場合、対象の状態が悪化している:対象がICUに入院した場合、対象が病院で死亡した場合、対象が入院から30日以内に死亡した場合、および/または対象が退院から30日以内に再入院した場合。
【0026】
一実施形態では、対象の状態が悪化するリスクの予測は、対象の抗生物質療法が強化されるリスクの予測である。
【0027】
一実施形態では、対象の状態が悪化するリスクの予測は、ICUに入院する対象のリスクの予測である。したがって、対象がICUに入るリスクがあるか否かが評定される。
【0028】
別の実施形態では、対象の状態が悪化するリスクの予測は、入院中に対象が死亡するリスクの予測である。したがって、対象が入院中に死亡するリスクがあるかどうかが評定される。
【0029】
さらに別の実施形態では、対象の状態が悪化するリスクの予測は、入院から30日以内の対象の死亡リスクの予測である。したがって、対象が病院への入院から30日以内に死亡するリスクがあるかどうかが評定される。
【0030】
さらに別の実施形態では、対象の状態が悪化するリスクの予測は、退院後30日以内の対象の再入院のリスクの予測である。したがって、対象が退院後30日以内に再入院するリスクがあるかどうかが評定される。
【0031】
さらに別の実施形態では、対象の状態が悪化するリスクの予測は、対象が臓器機能不全または機能不全を経験するリスクの予測である。臓器機能障害および機能不全は、例えば、SOFAスコアを介して評定することができる。したがって、本発明はさらに、(試験サンプルが得られた後に)対象のSOFAスコアが上昇するか、または上昇しないリスクの予測に関する。SOFAスコアの上昇(例えば、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つの点などによって)は、状態の悪化と考えられる。対照的に、SOFAスコアが上昇しない場合(対象が最も高いSOFAスコアを有さない場合)、通常、状態は悪化しない。予測ウィンドウは、敗血症を発症するリスクの予測のための上記の予測ウィンドウであってもよい。
【0032】
逐次臓器不全評価(SOFA)は、臓器の機能障害/機能不全を定量的に記述する臨床評定と実験室での測定値とを組み合わせた有効なスコアである。呼吸、凝固、肝臓、心血管系、中枢神経系および腎臓の機能不全を個々にスコア化し、0~24の範囲のSOFAスコアまで合計する。好ましくは、SOFAスコアは、Vincent 1996(Vincentら.Intensive Care Med.1996 Jul;22(7):707-10.doi:10.1007/BF01709751.PMID:8844239.)に記載されているように決定される。
【0033】
さらに別の実施形態では、対象の状態が悪化するリスクの予測は、対象が血管作動療法、血行動態支援(例えば、換気によって、または体外膜酸素化によって)、酸素供給、および/または腎置換療法を必要とするリスクの予測など、対象が臓器支援を必要とするリスクの予測である。予測ウィンドウは、例えばサンプルが得られた後24または48時間以内に敗血症を発症するリスクを予測するための上記の予測ウィンドウであってもよい。
【0034】
一実施形態では、「評定」という用語は敗血症の診断を指す。したがって、感染が疑われる対象が敗血症に罹患しているか否かが診断される。好ましくは、評定は敗血症の早期検出を指す。
【0035】
当業者によって理解されるように、本発明に従って行われる評定は、好ましいが、通常、調査された対象の100%については正しくない場合がある。この用語は、典型的には、対象の統計学的に有意な部分が正確に評定することができることを必要とする。一部が統計的に有意であるかどうかは、様々な周知の統計評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントt検定、マン-ホイットニー検定などを使用して、当業者によってさらに難なく決定することができる。詳細は、DowdyおよびWearden,Statistics for Research,John WileyおよびSons,New York 1983に見出すことができる。典型的に想定される信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、典型的には、0.2、0.1、0.05である。
【0036】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より典型的にはヒトを指す。本発明の方法によって調査される対象は、感染が疑われる対象であるものとする。本明細書で使用される場合「感染が疑われる」という用語は、対象が感染の臨床パラメータ、徴候および/または症状を示すことを意味する。したがって、本発明による対象は、典型的には、感染症に罹患しているかまたは感染症への罹患が疑われる対象である。典型的には、対象は、救急科に来院している対象である。有利には、サンプルは提示時に得られている。好ましくは、サンプルは、救急科での提示時に得られている。しかし、サンプルは、プライマリケア医での提示時に取得されてもよい。
【0037】
本明細書で使用される場合、「サンプル」という用語は、生理学的条件下で、本明細書で言及される第1、第2および/または第3のバイオマーカーを含むあらゆるサンプルを指す。より典型的には、サンプルは体液サンプル、例えば血液サンプルまたはそれに由来するサンプル、尿サンプル、唾液サンプル、リンパ液サンプルなどである。最も典型的には、当該サンプルは血液サンプルまたはそれに由来するサンプルである。したがって、サンプルは、血液、血清または血漿サンプルであってもよい。血液サンプルは、典型的には、毛細血管、静脈または動脈の血液サンプルを含む。
【0038】
一実施形態では、サンプルは間質液サンプルである。
【0039】
「敗血症」という用語は当該技術分野で周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、感染に対する調節不全の宿主応答によって引き起こされる生命を脅かす臓器機能不全を指す。敗血症の定義は、例えば、Singerら(Sepsis-3:The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock.JAMA 2016;315:801-819)に見出すことができ、これは本開示内容全体に関して参照により組み込まれる。好ましくは、「敗血症」という用語は、Singerら(上記文献中)に開示されているSepsis-3の定義による敗血症を指す。
【0040】
典型的には、試験される対象は、感染症に罹患していることが疑われるものとする。「感染」という用語は、当業者にはよく理解されている。本明細書で使用される場合、「感染」という用語は、好ましくは、疾患を引き起こす微生物による対象の身体組織の浸潤、その増殖、および微生物に対する対象の組織の反応を指す。一実施形態では、感染は細菌感染である。したがって、対象は細菌感染に罹患していることが疑われている。
【0041】
本明細書の他の箇所に記載されるように、本発明は、リスクのある患者の早期の特定を可能にする。したがって、本明細書に記載の予測の一実施形態では、試験される対象は、サンプルが得られた時点で敗血症に罹患していない。特に好ましい実施形態では、試験される対象は、好ましくは、サンプルが得られる時点で敗血症性ショックに罹患していない。「敗血症性ショック」という用語は、Singerら(上記文献中)において定義されている。したがって、以下の基準を満たす場合、対象は敗血症性ショックを患っている。
● 敗血症、すなわち感染の疑い/感染の記録、および感染の結果として2点以上の総SOFAスコアの変化
● および十分な量の蘇生にもかかわらず、MAP≧65mmHgを維持するために血管収縮薬を必要とし、かつ血清乳酸レベル>2mmol/L(18mg/dL)を有する持続性低血圧
【0042】
さらに、試験される対象は、SARS-CoV-2に感染していてもいなくてもよいことが想定される。
【0043】
本明細書で使用される場合、「決定する」という用語は、本発明に従って言及されるバイオマーカーの定性的および定量的決定を指し、すなわち、この用語は、当該バイオマーカーの有無の決定または絶対量もしくは相対量の決定を包含する。
本明細書で使用される場合、「量」という用語は、本明細書で言及される化合物の絶対量、当該化合物の相対量または濃度、ならびにそれらと相関するかまたはそれらから誘導することができる任意の値またはパラメータを指す。そのような値またはパラメータは、直接測定によって当該化合物から得られた全ての特定の物理的または化学的特性からの強度信号値、例えば質量スペクトルまたはNMRスペクトルの強度値を含む。さらに、本明細書の他の箇所で指定される間接測定によって得られる全ての値またはパラメータ、例えば、特異的に結合したリガンドから得られる化合物または強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムから決定される応答レベルが包含される。上述の量またはパラメータと相関する値は、全ての標準的な数学的演算によっても得ることができるということを理解されたい。バイオマーカーが、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASTまたはASAT)などの酵素である場合、「量」という用語は、酵素の活性をも包含することができる。
【0044】
本発明の方法における量の決定は、第1の分子からの放出時に当該第2の分子の有無または量を検出することを可能にする任意の技術によって実施することができる。適切な技術は、分子の性質およびバイオマーカーの特性に依存し、本明細書の他の箇所でより詳細に論じられる。
【0045】
典型的には、本発明に従って言及されるバイオマーカーの量は、サンドイッチ、競合、または他のアッセイ形式を使用するイムノアッセイによって決定することができる。当該アッセイは、バイオマーカーの有無または量を示すシグナルを発生させる。さらに適切な方法は、その正確な分子質量またはNMRスペクトルなどのバイオマーカーに特異的な物理的または化学的特性を測定することを含む。当該方法は、好ましくは、バイオセンサ、イムノアッセイと連結した光学装置、バイオチップ、質量分析計などの分析装置、NMR分析器、表面プラズモン共鳴測定機器またはクロマトグラフィー装置を含む。さらに、方法は、マイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化またはロボットイムノアッセイ(例えば、Rocheから入手可能)を含む。本発明による適切な測定方法はまた、沈殿(特に免疫沈降)、電気化学発光(電気発生化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニドフルオロイムノアッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、濁度測定、比濁法、ラテックス増強比濁法もしくは比濁法、または固相免疫試験を含んでもよい。ゲル電気泳動、2Dゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)またはウェスタンブロッティングなどの当技術分野で公知のさらなる方法がある。より典型的には、本明細書で言及されるバイオマーカーを決定するために特に想定される技術は、以下の添付の実施例に記載されている。
【0046】
本発明に従って決定されるバイオマーカーは、当技術分野で周知である。さらに、バイオマーカーの量を決定する方法は公知である。例えば、バイオマーカーは、実施例の項に記載のように測定することができる(実施例1参照)。試験したバイオマーカーのいくつかは酵素(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼなど)である。これらのバイオマーカーの量は、サンプル中の当該酵素の活性を決定することによっても決定することができる。
【0047】
バイオマーカーであるプレセプシンは、「可溶性CD14サブタイプ」または「sCD14-ST」としても知られており、sCD14(可溶性CD14)に由来し、その高分子量の少なくとも2つの形態が存在し(49kDaおよび55kDa)、そのsCD14-STは断片である。sCD14のタンパク質分解は、プレセプシンの形成をもたらす。マーカーは当該技術分野で周知であり、例えば、本明細書に参考として組み込まれるErenlerら(Presepsin(sCD14-ST)as a biomarker of sepsis in clinical practice and in emergency department:a mini review.2015 J Lab Med 39:367-372)の総説を参照されたい。好ましくは、sCD14に結合することなく、プレセプシンに特異的に結合する抗体が利用可能である(例えば、Okamura Y,Yokoi H.Development of a point-of-care assay system for measurement of presepsin(sCD14-ST).Clin Chim Acta.2011;412(23-24):2157-61を参照されたい)。
【0048】
「増殖分化因子-15」または「GDF-15」という用語は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-サイトカインスーパーファミリーのメンバーであるポリペプチドに関する。ポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質という用語は、本明細書を通して互換的に使用される。GDF-15は、最初はマクロファージ阻害性サイトカイン1としてクローニングされ、その後、胎盤形質転換成長因子-15、胎盤骨形成タンパク質、非ステロイド性抗炎症薬活性化遺伝子1、および前立腺由来因子としても同定された(Bootcov loc cit;Hromas,1997 Biochim Biophys Acta 1354:40-44;Lawton 1997,Gene 203:17-26;Yokoyama-Kobayashi 1997,J Biochem(Tokyo),122:622-626;Paralkar 1998,J Biol Chem 273:13760-13767)。GDF-15のアミノ酸配列は、国際公開第99/06445、WO 00/70051号、国際公開第2005/113585等、Bottner 1999,Gene 237:105-111,Bootcov 上記文献中,Tan loc.cit.,Baek 2001,Mol Pharmacol 59:901-908,Hromas 上記文献中,Paralkar loc cit,Morrish 1996,Placenta 17:431-441に開示されている。
【0049】
インスリン様成長因子結合タンパク質7(=IGFBP7)は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞および上皮細胞によって分泌されることが知られている30kDaのモジュール式糖タンパク質である(Ono,Y.,ら,Biochem Biophys Res Comm 202(1994)1490-1496)。好ましくは、「IGFBP7」という用語はヒトIGFBP7を指す。タンパク質の配列は、当該技術分野で周知であり、例えば、GenBank(NP_001240764.1)を介してアクセス可能である。
【0050】
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASTまたはASAT)は、L-アスパラギン酸からα-ケトグルタル酸へのアミノ基転移を触媒し、L-グルタミン酸およびオキサル酢酸塩を形成する。形成されたオキサル酢酸塩は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の同時酸化と共にリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(MDH)によってリンゴ酸塩に還元される。NADHのNADへの変換による経時的な吸光度変化は、AST活性に正比例し、例えば二色性(340、700nm)速度技術を用いて測定することができる。
【0051】
マーカーであるシスタチンC(CysC)は、当技術分野で周知である。シスタチンCは、CST3遺伝子によってコードされ、全ての有核細胞によって一定の速度で産生され、ヒトにおける産生速度は生涯にわたって著しく一定である。循環からの排除は、糸球体濾過によってほぼ完全に行われる。このため、シスタチンCの血清中濃度は、1歳~50歳の年齢範囲では、筋肉量および性別とは無関係である。したがって、血漿および血清中のシスタチンCは、GFRに対するより感受性の高いマーカーとして提案されている。ヒトシスタチンCポリペプチドの配列は、Genbank(例えば、受け入れ番号NP_000090.1を参照)によって評定することができる。バイオマーカーは、粒子増強免疫比濁アッセイによって決定することができる。ヒトシスタチンCは、抗シスタチンC抗体でコーティングされたラテックス粒子と凝集する。凝集体は濁度計で検出される。
【0052】
sTREM-1または可溶性TREM1(またはSTREM1)は、TREM-1(骨髄細胞に発現するトリガー受容体-1)の可溶性形態である。したがって、この用語は、TREM-1の非細胞結合形態を指す。TREM-1は、好中球および単球/マクロファージ上に発現することが知られている免疫受容体である。TREM-1は、自然免疫応答に関与する免疫グロブリンスーパーファミリーの最近発見されたメンバーである。TREM-1は、16アミノ酸のシグナルペプチド、184アミノ酸の細胞外ドメイン、29アミノ酸の膜貫通ドメインおよび5アミノ酸の短い細胞質ドメインを有する234アミノ酸前駆体として合成される約30kDの単量体タンパク質である。感染の間、受容体発現は変化し、sTREM-1が放出される。したがって、sTREM-1(17kDa)は、活性化された食細胞の膜から放出されるTREM-1の可溶性形態であり、典型的には、「sTREM-1」という用語は、少なくともTREM-1の細胞外部分を有する全ての天然に存在する切断または放出された形態を包含する。
【0053】
マーカー「クレアチニン」は、当技術分野で周知である。筋肉の代謝において、クレアチニンは、クレアチンおよびクレアチンリン酸から内因的に合成される。正常な腎機能の条件下では、クレアチニンは糸球体濾過によって排出される。クレアチニンの決定は、急性および慢性腎疾患の診断およびモニタリングならびに腎透析のモニタリングのために行われる。尿中のクレアチニン濃度は、特定の分析物(アルブミン、α-アミラーゼ)の排泄の基準値として使用し得る。クレアチニンは、Popperら(Popper Hら.Biochem Z 1937;291:354)、SeeligおよびWust(Seelig HP,Wust H.Arztl Labor 1969;15:34)またはBartels(Bartels Hら.Clin Chim Acta 1972;37:193)に記載されているように決定することができる。例えば、水酸化ナトリウムおよびピクリン酸をサンプルに添加して、クレアチニン-ピクリン酸錯体の形成を開始する。アルカリ溶液中で、クレアチニンはピクリン酸塩と黄橙色の錯体を形成する。着色強度はクレアチニン濃度に直接比例し、測光的に測定することができる。
【0054】
本明細書で使用される場合、「可溶性Flt-1」または「sFlt-1」(「可溶性fms様チロシンキナーゼ-1」の略語)という用語は、好ましくは、VEGF受容体Flt1の可溶性形態であるポリペプチドを指す。sFlt-1は、ヒト臍帯静脈内皮細胞の馴化培養培地で同定された。内因性可溶性Flt1(sFlt-1)受容体は、組換えヒトsFlt-1とクロマトグラフィーおよび免疫学的に類似しており、同等の高親和性で[125I]VEGFに結合する。ヒトsFlt-1は、インビトロでKDR/Flk-1の細胞外ドメインとVEGF安定化複合体を形成することが示されている。好ましくは、sFlt-1は、Kendall 1996,Biochem Biophs Res Commun 226(2):324-328(アミノ酸配列については、例えば、ヒトについてはP17948、GI:125361およびマウスsFlt-1についてはBAA 24499.1、GI:2809071も参照されたい)に記載されているヒトsFlt-1を指す。
【0055】
膵石タンパク質(PSPと略す)は、膵臓によって分泌されるタンパク質であり、リトスタチン-1-アルファ膵島細胞再生因子(ICRF)またはランゲルハンス島再生タンパク質(REG)である。ヒトでは、PSPポリペプチドは、REG1A遺伝子によって144アミノ酸の単一ポリペプチドとしてコードされ、トリプシンによってさらに切断されてトレオニン27上でO結合型グリコシル化された133アミノ酸タンパク質を生成する。ヒトPSPのアミノ酸配列は、UniProtを介してアクセスすることができる(P05451(REG1A_HUMAN)参照)。
【0056】
本発明の方法では、第3のバイオマーカーを決定してもよい。特に、本発明の方法の工程(b)において、
(i)GDF-15の量が第2のバイオマーカーとして決定される場合、本方法は、sFlt1、IGFBP7もしくはsTREM1の量を第3のバイオマーカーとして決定することをさらに含むか:または
(ii)シスタチンCの量が第2のバイオマーカーとして決定される場合、本方法は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの量を第3のバイオマーカーとして決定することをさらに含む。
【0057】
したがって、本発明は、少なくとも2種のバイオマーカー(すなわち、本明細書で言及される第1および第2のバイオマーカー)または少なくとも3種のバイオマーカー(すなわち、本明細書で言及される第1、第2および第3のバイオマーカー)の決定に関する。
【0058】
第1のバイオマーカーはプレセプシンである。第2のバイオマーカーは、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)から選択されるものとする。
【0059】
一実施形態では、第2のバイオマーカーはGDF-15である。
別の実施形態では、第2のバイオマーカーはシスタチンCである。
別の実施形態では、第2のバイオマーカーはクレアチニンである。
別の実施形態では、第2のバイオマーカーはsFlt1である。
別の実施形態では、第2のバイオマーカーはIGFPB7である。
別の実施形態では、第2のバイオマーカーはsTREM1である。
別の実施形態では、第2のバイオマーカーはPSPである。
【0060】
GDF-15が第2のマーカーである場合、本方法は、第3のバイオマーカーとしてsFlt1、IGFBP7またはsTREM1の量を決定することをさらに含んでもよい。
【0061】
一実施形態では、プレセプシン、GDF-15およびsFlt-1が決定される。
【0062】
別の実施形態では、プレセプシン、GDF-15およびIGFBP7が決定される。
【0063】
別の実施形態では、プレセプシン、GDF-15およびsTREM1が決定される。
【0064】
シスタチンCの量が第2のバイオマーカーとして決定される場合、本方法は、第3のバイオマーカーとしてアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASAT)の量を決定することをさらに含んでもよい。したがって、プレセプシン、シスタチンCおよびASATが決定される。
【0065】
本発明が上記のマーカーに限定されないことを理解されたい。むしろ、本発明は、さらなるマーカーを決定することを含んでもよい。
【0066】
本明細書で使用される場合、「基準」という用語は、疾患もしくは状態に罹患しているもしくはそれを発症するリスクがある対象の群、または当該疾患もしくは状態に罹患していないもしくはそれを発症するリスクがない対象の群のいずれかに対象を割り当てることを可能にする量または値を指す。このような基準は、これらの群を互いに分離する閾値量とし得る。したがって、基準は、対象を、疾患もしくは状態に罹患しているか、または疾患もしくは状態を発症するリスクがあるか否かにかかわらず、対象の群へ割り当てることを可能にする量またはスコアであるものとする。基準は、対象を、敗血症を発症するリスクのある群、または発症するリスクのない群(約48時間以内など、上記の予測ウィンドウ内)への割り当てを可能にする量またはスコアであるものとする。
【0067】
2つの群を分離する適切な閾値量は、疾患もしくは状態に罹患していることが知られているかもしくはそれを発症するリスクがある対象もしくは対象群、または疾患もしくは状態に罹患していないことが知られているかもしくはそれを発症するリスクがある対象もしくは対象群のいずれかからのバイオマーカーの量に基づいて、本明細書の他の箇所で言及される統計学的試験によってさらに骨折りすることなく計算し得る。個々の対象に適用可能な基準量は、年齢、性別、または亜集団などの様々な生理学的パラメータに応じて変化する場合がある。
【0068】
典型的には、当該基準は、敗血症を発症するリスクがあることが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーについての基準であり、好ましくは、対応する基準と本質的に同一または類似であるバイオマーカーのそれぞれについての量は、敗血症を発症するリスクがある対象について示され、対応する基準とは異なるバイオマーカーのそれぞれについての量は、敗血症を発症するリスクがない対象について示される。
【0069】
また、典型的には、当該基準は、敗血症を発症するリスクがないことが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーについての基準であり、好ましくは、対応する基準と本質的に同一または類似であるバイオマーカーのそれぞれについての量は、敗血症を発症するリスクがない対象について示され、一方、対応する基準とは異なるバイオマーカーのそれぞれについての量は、敗血症を発症するリスクがある対象について示される。
【0070】
「少なくとも1の対象」という用語は、1の対象または複数の対象、例えば少なくとも10、50、100、200、または1000の対象を指す。
【0071】
一実施形態では、当該バイオマーカーの量が基準よりも多いと、リスクがある対象(例えば敗血症を発症する)であることを示す。さらに、当該バイオマーカーの量が基準よりも低いと、リスクがない対象であることを示す。
【0072】
基準量は、原則として、標準的な統計学的方法を適用することによって、バイオマーカー量などの所与のパラメータの平均値または平均値に基づいて、対象のコホートについて計算することができる。特に、事象の診断を目的とする方法等の検査が正確であるか否かは、受信者動作特性(ROC)により最もよく説明される(特に、Zweig 1993,Clin.Chem.39:561-577を参照されたい)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、全ての感受性/特異性のペアのプロットである。診断方法の臨床成績は、その正確性、すなわち対象をある特定の予後または診断に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について、感度対1-特異性をプロットすることにより、2つの分布間の重なりを示す。y軸は、感度、または真陽性率であり、真陽性の検査結果の数および偽陰性の検査結果の数の積に対する、真陽性の検査結果の数の比率として定義される。これは、疾患または症状の存在下での陽性とも呼ばれている。y軸は、影響を受ける下位群からのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、または1-特異性であり、これは、真陰性の数および偽陽性結果の数の積に対する、偽陽性結果の数の比率として定義される。x軸は、特異性の指標であり、影響を受けない下位群からのみ計算される。真陽性率および偽陽性率は、2つの異なる下位群からの検査結果を使用することによって完全に別個に計算されるので、ROCプロットはコホートにおける事象の有病率に非依存性である。ROCプロット上の各点は、特定の判定閾値に対応する感度/特異度の対を表す。完全な区別のある(結果の2つの分布に重なりがない)検査は、左上隅を通過するROCプロットを有しており、真陽性率は1.0、または100%(完全な感受性)であり、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つの群についての結果の分布が同一である)検査についての理論上のプロットは、左下隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間に収まる。ROCプロットが45°対角線を完全に下回って収まる場合、これは、「陽性率」についての基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることによって、容易に修正される。定性的には、プロットが左上隅に近いほど、試験全体の精度が高くなる。所望の信頼区間に応じて、閾値をROC曲線から導出して、それぞれ感度および特異度の適切なバランスで所与の事象の診断または予測を可能にする。したがって、本発明の前述の方法に使用される基準、すなわち、リスクがある対象とリスクがない対象とを識別することを可能にする閾値は、通常、上記のように当該コホートのROCを確立し、そこから閾値量を導出することによって生成することができる。診断方法の所望の感度および特異性に応じて、ROCプロットは適切な閾値を導出することを可能にする。最適な感度は、リスクが高いかまたは疾患に罹患している(すなわち、除外する)対象を除外するためには望ましいが、最適な特異度は、リスクが高いかまたは疾患に罹患している(すなわち、除外する)ために想定されることが理解されよう。
【0073】
本発明の方法の工程c)は、バイオマーカー(すなわち、第1のバイオマーカー、第2のバイオマーカー、および場合により第3のバイオマーカー)の量を当該バイオマーカーの基準と比較すること、および/またはバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアを計算することを含む。
【0074】
したがって、第1のバイオマーカー、第2のバイオマーカー、および場合により第3のバイオマーカーの量は、それぞれ、第1のバイオマーカーの基準、第2のバイオマーカーの基準、および場合により第3のバイオマーカーの基準と比較することができる。
【0075】
あるいは、バイオマーカーの量に基づいて、すなわち第1のバイオマーカー、第2のバイオマーカー、および場合により第3のバイオマーカーの量に基づいて、スコアを計算することができる。当該スコアは、敗血症を発症するリスクを予測するなどのために、感染が疑われる対象の評定を可能にするものとする。場合により、当該スコアは、適切な基準スコアと比較されてもよい。
【0076】
本明細書で使用される場合、「比較する」という用語は、本明細書で言及される、決定されたバイオマーカーの量を基準と比較することを包含する。本明細書で使用される比較は、量の値と基準との間で行われるあらゆる種類の比較を指すことを理解されたい。しかし、好ましくは、同一のタイプの値が互いに比較され、例えば、本発明の方法において絶対量が決定され比較される場合、基準も絶対量であり、本発明の方法において相対量が決定され比較される場合、基準も相対量でもあることなどと理解されるべきである。あるいは、本明細書で使用される場合、「比較する」という用語は、計算されたスコアを適切な基準コアと比較することを包含する。比較は、手動またはコンピュータ支援により実行することができる。量の値および基準は、例えば、互いに比較し得、当該比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムによって自動的に実行することができる。当該評価を実施するコンピュータプログラムは、適切な出力形式で、所望の評定を提供する。
【0077】
上記のように、第1および第2のバイオマーカー、または第1、第2もしくは第3のバイオマーカーの量に基づいてスコア(特に単一のスコア)、すなわち単一のスコアを計算し、このスコアを基準スコアと比較することも想定される。好ましくは、スコアは、対象由来のサンプル中の第1および第2のバイオマーカーの量に基づき、第3のバイオマーカーの量が決定される場合、対象由来のサンプル中の第1、第2および第3のバイオマーカーの量に基づく。
【0078】
計算されたスコアは、少なくとも2つまたは3つのバイオマーカーの量に関する情報を組み合わせたものである。さらに、スコアにおいて、バイオマーカーは、好ましくは、評価の確立への寄与に従って重み付けされる。したがって、個々のマーカーの値は通常重み付けされ、スコアを計算するために、重み付けされた値が使用される。適切な係数(重み)は、当業者であればさらに困難を伴わずに決定することができる。スコアは、少なくとも2つのバイオマーカーについて訓練された決定木または決定木のセット(アンサンブル)から計算することも可能である。本発明の方法で適用されるバイオマーカーの組み合わせに基づいて、個々のバイオマーカーの重みならびに決定木の構造は異なっていてもよい。
【0079】
スコアは、本明細書に記載の対象を評定するための分類パラメータとみなすことができる。特に、単一のスコアに基づいて評定を提供する人を可能にする。基準スコアは、好ましくは値、特に本明細書に記載の感染が疑われる対象の評定を可能にするカットオフ値である。好ましくは、基準は単一の値である。したがって、人は、個々のバイオマーカーの量に関する情報全体を解釈する必要はない。本明細書に記載のスコアリングシステムを使用すると、有利なことに、値がスコアに数学的に変換されるので、バイオマーカーの異なる寸法または単位の値を使用することができる。したがって、例えば、絶対濃度の値をピーク面積比を有するスコアと組み合わせることができる。適用される基準スコアは、所望の感度または所望の特異度に基づいて選択することができる。適切な基準スコアをどのように選択するかは、当技術分野で周知である。
【0080】
有利なことに、本発明の基礎となる試験では、第1のバイオマーカーおよび第2のバイオマーカー、好ましくは第3のバイオマーカーとを組み合わせることにより、感染症の徴候および症状を示す患者の信頼できる早期評定を可能にすることが見出された。例えば、対象の評定は、試験サンプルが得られてから5時間以内に行うことができる。試験においては、救急外来で内科的(非外科的)非常事態であることを示す患者を調査した。この目的のために、患者を、高い確率で敗血症に罹患している患者と、敗血症に罹患せずに感染症に罹患していると疑われる患者とに細分化した。様々なバイオマーカーの量を決定し、バイオマーカーを分析し、論理回帰分析によって数学的に組み合わされた。受信者動作特性下面積(AUC)を使用して、バイオマーカーの性能を評価した。AUC値は、区間[a][b]内の関数f(x)の数学的整数である。AUCはまた、バイオマーカー対およびトリプレットについても調査した。最良の単一バイオマーカーのAUCよりも改善されたAUCを示すバイオマーカーの組み合わせを同定した。結果は、以下に添付する実施例に記載されている。
【0081】
特に、これらの患者が、例えば救急ユニットに入院している場合、敗血症、SIRSなどの重篤な合併症を発症するリスク、または全体的な健康状態の全体的な悪化の早期評定が、薬剤投与、身体的介入または他の治療的介入および/または入院を含む治療措置を開始することを決定付ける。これらの治療手段としては、特に、例えば、広域抗生物質の迅速な投与、輸液による蘇生、血管作動性薬治療、機械的換気、その他の臓器支持(例えば、連続血液ろ過、体外膜酸素化)を挙げることができる。より高いレベルのケア(例えば集中治療室、中間治療室)へのトリアージも治療手段として包含される。重度の合併症のリスクがない場合、患者は、自宅に退院し、外来設定で管理されるか、または低レベルのケア(例えば一般的な病棟)で病院に入院することができる。本発明により、患者はバイオマーカー決定によって早期に評定され得るため、生命を脅かす出来事を防ぐことができる。本発明の基礎となる研究で特定されたバイオマーカー対およびトリプレットは、医学的決定のための信頼できる基礎であり、評定は時間的および費用効果的な方法で実行することができる。
【0082】
したがって、本発明の方法は、適切な治療手段を推奨または開始することをさらに含んでもよい。典型的には、当該適切な治療手段は、敗血症および敗血症性ショックの管理のための国際ガイドライン(Intensive Care Med,2017)などの敗血症の管理のための医療ガイドラインまたは推奨から選択される。例えば、治療手段は、敗血症の処置またはさらなる診断調査または開業医によって必要とされるケアの他の態様であってもよい。
【0083】
一実施形態では、患者にリスクがあると評定された場合に推奨または開始される治療措置は、以下から選択される。
● 典型的には可能性の高い病原体と考えられる生物および抗生物質感受性に応じて、セファロスポリン、ベータラクタム/ベータラクタマーゼ阻害剤(例えば、ピペラシリン)、またはカルバペネムなどの少なくとも1種以上の広域スペクトルの抗生物質を用いた経験的広域スペクトル療法の投与
● 輸液による蘇生
● ノルエピネフリンの投与などの、1種以上の血管収縮薬の投与、および
● ヒドロコルチゾンの投与などの1種以上のコルチコステロイドの投与。
【0084】
上記の本明細書中に示される定義は、必要な変更を加えて以下に適用される。
【0085】
本発明は、また感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)対象のサンプル中の第1のバイオマーカーの量の値を受け取る工程であって、前記第1のバイオマーカーがプレセプシンである、第1のバイオマーカーの量を受け取る工程;
(b)対象のサンプル中の第2のバイオマーカーの量の値を受け取る工程であって、前記第2のバイオマーカーが、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)(NTproBNPまたはBNPなど)から選択される、第2のバイオマーカーの量を受け取る工程;
(c)バイオマーカーの量の値を前記バイオマーカーの基準と比較し、かつ/またはバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアを計算する工程;ならびに
(d)工程(c)において行われた比較および/または計算に基づいて前記対象を評定する工程
を含む、コンピュータ実装方法に関する。
【0086】
本明細書で使用される場合、「コンピュータ実装」という用語は、方法が、通常、コンピュータまたは同様のデータ処理装置に含まれるデータ処理ユニット上で自動化された方法で実行されることを意味する。データ処理ユニットは、バイオマーカーの量の値を受け取るものとする。そのような値は、量、相対量、または本明細書の他の箇所で詳細に説明される量を反映する任意の他の計算値であってもよい。したがって、上述の方法は、バイオマーカーの量の決定を必要とせず、むしろ既に決定された量の値を使用することを理解されたい。
【0087】
典型的には、当該方法の工程(b)において、
(i)GDF-15の量の値が第2のバイオマーカーとして受け取られる場合、本方法は、sFlt1、IGFBP7またはsTREM1の量の値を第3のバイオマーカーとして受け取ることをさらに含むか;または
(ii)シスタチンCの量の値が第2のバイオマーカーとして受け取られる場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの量の値を第3のバイオマーカーとして受け取ることをさらに含む。
【0088】
本発明はまた、原則として、当該コンピュータプログラムが接続可能に組み込まれたコンピュータプログラム、コンピュータプログラム製品またはコンピュータ可読記憶媒体も企図し、コンピュータプログラムは、データ処理装置またはコンピュータ上で実行されると、上記に特定される本発明の方法を実行する命令を含む。具体的には、本開示は、以下をさらに包含する:
- 少なくとも1つのプロセッサを備え、プロセッサは、本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されるコンピュータまたはコンピュータネットワーク。
- コンピュータ上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されたコンピュータロード可能データ構造。
- コンピュータスクリプトであって、コンピュータプログラムが、プログラムがコンピュータ上で実行されている間に、本明細書に記載された実施形態のうちの1つの方法を実行するように適合されている、コンピュータスクリプト、
- コンピュータプログラムがコンピュータ上またはコンピュータネットワーク上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するためのプログラム手段を備えるコンピュータプログラム。
- 先行の実施形態に記載のプログラム手段をコンピュータにとって読み取り可能な記憶媒体上に格納して備えているコンピュータプログラム。
- データ構造が記憶媒体に記憶され、データ構造が、コンピュータもしくはコンピュータネットワークの主記憶装置および/または作業記憶装置にロードされた後、本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように適合された、記憶媒体、
- コンピュータまたはコンピュータネットワーク上でプログラムコード手段が実行された場合に、この明細書に記載された実施形態のうちの1つによる方法を実行するために、プログラムコード手段が記憶されることができる、または記憶媒体上に記憶されることができる、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品、
- 本明細書の他の箇所で定義されているパラメータのデータを含む、通常は暗号化されたデータストリーム信号、および
- 本発明の方法によって提供される評定を含む、典型的には暗号化されたデータストリーム信号。
【0089】
本発明は、感染が疑われる対象を評定するための装置であって、
(a)対象のサンプル中の、プレセプシンである第1のバイオマーカーと、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカーの量を決定するための測定ユニットであって、第1のバイオマーカーおよび第2のバイオマーカーの検出システムを備える測定ユニット;ならびに
(b)測定ユニットに動作可能に連結された評価ユニットであって、好ましくは上記に特定されるような、第1のバイオマーカーおよび第2のバイオマーカーのための保存された基準を有するデータベースと、好ましくは上記に特定されるような、第1のバイオマーカーおよび第2のバイオマーカーの量と基準との比較を実行するための、および/またはバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアの計算を実行するための、ならびに比較に基づいて当該対象を評定するための命令を有するデータプロセッサと、を備え、測定ユニットからバイオマーカーの量の値を自動的に受け取ることができる、評価ユニット
を備える、装置に関する。
【0090】
本明細書で使用される場合、「装置」という用語は、評定を提供することができるように、本発明の方法によるバイオマーカーの量の決定およびその評価を可能にするように互いに動作可能に連結された前述のユニットを含むシステムに関する。
【0091】
分析ユニットは、典型的には、サンプルと接触させる固体支持体または担体上に固定化された形態で、第1および第2のバイオマーカー、好ましくは第3のバイオマーカーに対するバイオマーカー検出剤を有する少なくとも1つの反応ゾーンを備えている。さらに、反応ゾーンでは、サンプル中に含まれるバイオマーカーへの検出剤の特異的結合を可能にする条件を適用することが可能である。
【0092】
反応ゾーンは、サンプルを直接適用することも可能であり、またはサンプルが適用される負荷ゾーンに接続してもよい。後者の場合、サンプルは、装填ゾーンと反応ゾーンとの間の接続部を介して反応ゾーンに能動的または受動的に輸送することができる。さらに、反応ゾーンは検出器にも接続されるものとする。連結は、検出器がバイオマーカーのそれらの検出剤への結合を検出できるようなものとする。適切な接続は、バイオマーカーの存在または量を測定するために使用される技術に依存する。例えば、光学的検出のために、検出器と反応ゾーンとの間に光の伝達が必要とされ得る一方で、電気化学的判定のために、例えば反応ゾーンと電極との間に流体接続が必要な場合がある。
【0093】
検出器は、バイオマーカーの量の決定を検出するように適合されなければならない。決定された量は、続いて評価ユニットに送信することができる。当該評価ユニットは、サンプル中に存在する量を決定するための実装されたアルゴリズムを備えたコンピュータなどのデータ処理要素を含む。
【0094】
本発明の方法に従って言及される処理ユニットは、典型的には、中央処理装置(CPU)および/または1つ以上のグラフィック処理ユニット(GPU)および/または1つ以上の特定用途向け集積回路(ASIC)および/または1つ以上のテンソル処理ユニット(TPU)および/または1つ以上のフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などを備えている。データ処理要素は、例えば、汎用コンピュータまたはポータブルコンピューティング装置であってもよい。本明細書に開示された方法の1つ以上の工程を実行するために、ネットワークまたはデータを転送する他の方法を介してなど、複数のコンピューティング装置を一緒に使用できることも理解されたい。例示的なコンピューティング装置としては、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、携帯情報端末(personal data assistant「PDA」)、携帯電話機器(cellular device)、スマート装置またはモバイル機器、タブレットコンピュータ、サーバなどが挙げられる。一般に、データ処理要素は、複数の命令(ソフトウェアのプログラムなど)を実行することができるプロセッサを備える。
【0095】
評価ユニットは、通常は、メモリを備えるか、またはメモリへのアクセスすることができる。メモリは、コンピュータ可読媒体であり、例えば、コンピューティング装置と共にローカルに配置されるか、またはネットワークを介してコンピューティング装置にアクセス可能な単一の記憶装置または複数の記憶装置を備えてもよい。コンピュータ可読媒体は、コンピューティング装置によってアクセスすることが可能であり、揮発性媒体および不揮発性媒体の両方を含む任意の利用可能な媒体であってもよい。さらに、コンピュータ可読媒体は、リムーバブル媒体および非リムーバブル媒体の一方または両方であってもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体は、コンピュータ記憶媒体を含んでもよい。例示的なコンピュータ記憶媒体としては、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたは任意の他のメモリ技術、CD-ROM、デジタル多用途ディスク(DVD)または他の光ディスク記憶装置、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置または他の磁気記憶装置、あるいは計算装置によってアクセスされ、計算装置のプロセッサによって実行されることが可能な複数の命令を記憶するために使用することができる任意の他の媒体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
本開示の実施形態によれば、ソフトウェアは、コンピューティング装置のプロセッサによって実行されると、本明細書に開示される方法の1つ以上の工程を実行し得る命令を含むことができる。命令のいくつかは、他の機械の動作を制御する信号を生成するように適合されてもよく、したがって、コンピュータ自体から遠く離れた材料を変換するためにそれらの制御信号を介して動作してもよい。これらの説明および表現は、例えば、それらの研究の内容を他の当業者に最も効果的に伝えるために、データ処理の当業者によって使用される手段である。
【0097】
複数の命令はまた、一般に、所望の結果をもたらす自己矛盾のない一連の工程であると考えられるアルゴリズムを含むことができる。これらの工程は、物理量の物理的操作を必要とするものである。必ずしもそうとは限らないが、通常、これらの量は、記憶、転送、変換、結合、比較、および他の方法で操作し得る電気または磁気パルスまたは信号の形態をとる。これらの信号を、そのような信号が具体化または表現される物理的なアイテムまたは表現への言及として、値、文字、表示データ、数字などとして参照することは、主に一般的な使用上の理由から、時には便利であることが判明している。しかし、これらの用語および類似の用語の全ては、適切な物理量に関連付けられるべきであり、単にこれらの量に適用される便利なラベルとして使用されることに留意されたい。
【0098】
評価ユニットはまた、出力装置を備えてもよく、または出力装置へのアクセスを有してもよい。例示的な出力装置としては、例えば、ファックス、ディスプレイ、プリンター、ファイルなどが挙げられる。本開示のいくつかの実施形態によれば、コンピューティング装置は、本明細書に開示される方法の1つ以上の工程を実行し、その後、出力装置を介して、方法の結果、指示、比または他の要因に関する出力を提供することができる。
【0099】
典型的には、当該測定ユニットは、第3のバイオマーカーのための検出システムを備え、当該データベースは、第3のバイオマーカーの保存された基準を有し、当該第3のバイオマーカーは、
(i)GDF-15が第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7またはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである。
【0100】
当該検出システムは、バイオマーカーの各々を特異的に検出することができる少なくとも1種の検出剤を含む。
【0101】
本発明は、本発明は、感染が疑われる対象を評定するための装置であって、プレセプシンである第1のバイオマーカー、ならびにGDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカーの保存された基準を有するデータベースと、好ましくは上記に特定されるような、第1のバイオマーカーおよび第2のバイオマーカーの量と基準との比較を実行するための、ならびに比較に基づいて前記対象を評定するための命令を含むデータプロセッサと、を備える評価ユニットを備え、前記評価ユニットが、対象のサンプルにおいて決定されたバイオマーカーの量の値を受け取ることができる、装置を企図する。
【0102】
典型的には、当該データベースは、第3のバイオマーカーのための保存された基準を含み、当該第3のバイオマーカーは、
(i)GDF-15が第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7またはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである。
【0103】
本発明は、原則として、感染が疑われる対象を決定するための、プレセプシンである第1のバイオマーカー、ならびにGDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカー、または前記第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤および前記第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤の使用に関する。
【0104】
本明細書で使用される場合、「検出剤」という用語は、典型的には、バイオマーカーに特異的に結合するあらゆる薬剤、すなわちサンプル中に存在する他の成分と交差反応しない薬剤を指す。典型的には、本明細書で言及されるバイオマーカーに特異的に結合する検出剤は、抗体、抗体断片または誘導体、アプタマー、バイオマーカーのリガンド、バイオマーカーの受容体、バイオマーカーに結合および/または変換することが知られている酵素、またはバイオマーカーに特異的に結合することが知られている小分子であってもよい。例えば、本明細書で検出剤として言及される抗体としては、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方、ならびに抗原またはハプテンに結合することができるFv、FabおよびF(ab)2断片などのその断片が挙げられる。本発明はまた、所望の抗原特異性を示す非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列がヒトアクセプター抗体の配列と組み合わされた一本鎖抗体およびヒト化ハイブリッド抗体を含む。ドナー配列は、通常、少なくともドナーの抗原結合アミノ酸残基を含むが、ドナー抗体の他の構造的および/または機能的に関連するアミノ酸残基を含むことができる。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知のいくつかの方法によって調製することができる。アプタマー検出剤は、例えば、核酸またはペプチドアプタマーであってもよい。そのようなアプタマーを調製する方法は、当技術分野で周知である。例えば、アプタマーの基礎となる核酸またはペプチドにランダム突然変異を導入することができる。次いで、これらの誘導体を、当技術分野で公知のスクリーニング手順、例えばファージディスプレイに従って結合について試験することができる。検出剤の特異的結合は、分析されるサンプル中に存在する別のペプチド、ポリペプチドまたは物質に実質的に結合しない、すなわち交差反応しないことを意味する。好ましくは、特異的に結合したバイオマーカーは、サンプルの任意の他の成分よりも少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高い、さらにより好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合するべきである。非特異的結合は、例えばウエスタンブロット上のそのサイズに応じて、またはサンプル中の比較的高い存在量によって、依然として明確に区別および測定することができる場合に、許容することができる。
【0105】
検出剤は、検出可能な標識に永久的または可逆的に融合または連結することができる。適切な標識は当業者に周知である。適切な検出可能な標識は、適切な検出方法によって検出可能なあらゆる標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性および超常磁性標識を含む)および蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が挙げられる。検出に適した基質としては、ジ-アミノ-ベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnosticsから既製の原液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート)、CDP-Star(商標)(Amersham Biosciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が挙げられる。適切な酵素-基質の組み合わせは、着色した反応生成物、蛍光または化学発光をもたらす可能性があり、これは当技術分野で公知の方法(例えば、感光フィルムまたは適切なカメラシステムを用いる)に従って測定することができる。酵素反応の測定に関しては、上記の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えばAlexa568)が挙げられる。さらなる蛍光標識は、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が、企図される。典型的な放射性標識としては、35S、125I、32P、33Pなどが挙げられる。放射性標識は、公知且つ適切な、例えば感光膜またはホスホイメージャー(phosphor imager)等の任意の方法により検出することができる。適切な標識はまた、ビオチン、ジゴキシゲニン、His-Tag、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-tag、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質などのタグであってもよく、またはそれらを含んでもよい。
【0106】
AST、ALT、ビリルビンおよびクレアチニンなどのバイオマーカーの検出剤は、実施例に記載されている(実施例1を参照されたい)。バイオマーカーがASTまたはALTなどの酵素である場合、検出剤は酵素の基質であってもよい。
【0107】
本明細書に記載のバイオマーカーの決定は、分離工程(例えば、LCまたはHPLCによって)の後に実施される質量分析(MS)を含んでもよい。本明細書で使用される質量分析は、本発明に従って決定される化合物、すなわちバイオマーカーに対応する分子量(すなわち、質量)または質量変数の決定を可能にする全ての技術を包含する。好ましくは、本明細書で使用される質量分析は、GC-MS、LC-MS、直接注入質量分析、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析、MS-MSもしくはMS-MSなどの任意の逐次結合質量分析、ICP-MS、Py-MS、TOF、または前述の技術を使用する任意の組み合わせ手法に関する。これらの技術をどのように適用するかは、当業者に周知である。さらに、適切な装置が市販されている。より好ましくは、本明細書で使用される質量分析は、LC-MSおよび/またはHPLC-MS、すなわち、事前の液体クロマトグラフィー分離工程に動作可能に連結された質量分析に関する。好ましくは、質量分析はタンデム質量分析(MS/MSとしても知られる)である。MS/MSとしても知られているタンデム質量分析は、2以上の質量分析工程を含み、その間に断片化が起こる。タンデム質量分析では、衝突セルによって接続された直列の2つの質量分析計がある。質量分析計は、クロマトグラフィー装置に連結されている。クロマトグラフィーにより分離されたサンプルは、第1の質量分析装置において分取および秤量された後、衝突セルにおいて不活性ガスにより断片化され、第2の質量分析装置において分取および秤量される。断片を選別し、第2の質量分析計で秤量する。MS/MSによる同定はより正確である。
【0108】
一実施形態では、本明細書で使用される質量分析は四重極MSを包含する。最も好ましくは、当該四重極MSは、以下のように実行される:a)質量分析計の第1の分析四重極におけるイオン化によって生成されたイオンの質量/電荷商(m/z)の選択、b)衝突ガスで満たされ、衝突チャンバーとして作用する追加の後続の四重極で加速電圧を印加することによる、工程a)で選択されたイオンの断片化、c)追加の後続の四重極での工程b)の断片化プロセスによって生成されたイオンの質量/電荷商の選択。それにより、方法の工程a)~c)が少なくとも1回実行され、イオン化プロセスの結果として物質の混合物中に存在する全てのイオンの質量/電荷商の分析が実行され、それによって四重極は衝突ガスで満たされるが、分析中に加速電圧は印加されない。本発明に従って使用される当該最も好ましい質量分析に関する詳細は、国際公開第2003/073464号に見出すことができる。
【0109】
より好ましくは、当該質量分析は、液体クロマトグラフィー(LC)MS、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)MS、特にHPLC-MS/MSである。本明細書で使用される場合、液体クロマトグラフィーは、液体または超臨界相での化合物(すなわち、代謝産物)の分離を可能にする全ての技術を指す。
【0110】
質量分析のために、サンプル中の分析物は、荷電分子または分子断片を生成するためにイオン化される。その後、イオン化された分析物、特にイオン化されたバイオマーカーまたはその断片の質量電荷が測定される。イオン化の前に、サンプルをプロテアーゼ、例えばトリプシンで切断してもよい。プロテアーゼは、タンパク質バイオマーカーをより小さな断片に切断する。
【0111】
したがって、質量分析工程は、好ましくは、決定されるバイオマーカーがイオン化されるイオン化工程を含む。当然、サンプル/溶離液中に存在する他の化合物もイオン化される。バイオマーカーのイオン化は、適切と考えられるあらゆる方法、特に電子衝撃イオン化、高速原子衝撃、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)によって行うことができる。
【0112】
好ましい実施形態では、(質量分析のための)イオン化工程は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)によって行われる。したがって、質量分析はESI-MS(またはタンデムMSを行う場合:ESI-MS/MS)が好ましい。エレクトロスプレーは、化学結合を破壊することなくイオンを形成するソフトイオン化法である。
【0113】
より典型的には、第3のバイオマーカーまたは前記第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤がさらに使用され、前記第3のバイオマーカーは、
(i)GDF-15が第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7もしくはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである。
【0114】
本発明は、また、プレセプシンである第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤と、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤とを含む、感染が疑われる対象を評定するためのキットに関する。
【0115】
本明細書で使用される場合、「キット」という用語は、通常は、別個のまたは単一の容器内に提供される上述の成分の集合を指す。容器はまた、通常は、本発明の方法を実施するための説明書を含む。これらの説明書は、マニュアルの形態であってもよいし、コンピュータまたはデータ処理装置に実装されたときに本発明の方法で言及されるバイオマーカーの決定を実行またはサポートすることができるコンピュータプログラムコードによって提供されてもよい。コンピュータプログラムコードは、光記憶媒体(例えば、コンパクトディスク)などのデータ記憶媒体もしくは装置上に、またはコンピュータもしくはデータ処理装置上に直接提供されてもよく、またはアクセス可能なサーバもしくはクラウドへのリンクなどのダウンロード形式で提供されてもよい。さらに、キットは、通常、本明細書の他の箇所に詳細に記載されているように、較正目的のためのバイオマーカーの基準量の標準を含んでもよい。本発明によるキットはまた、放出された第2の分子の検出に必要な溶媒、緩衝液、洗浄液および/または試薬などの本発明の方法を実施するために必要なさらなる成分を含んでもよい。さらに、キットは、本発明の装置を部分的にまたは全体的に含んでもよい。
【0116】
より典型的には、前記キットは、第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤をさらに含み、前記第3のバイオマーカーは、
(i)GDF-15が第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7もしくはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである。
【0117】
したがって、上記の用語の定義および説明は、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載された全ての実施形態に適用されることを理解されたい。以下の実施形態は、本発明に従って想定される特定の実施形態である。
【0118】
1.感染が疑われる対象を評定するための方法であって、
(a)対象のサンプル中の第1のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第1のバイオマーカーがプレセプシンである、第1のバイオマーカーの量を決定する工程;
(b)対象のサンプル中の第2のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第2のバイオマーカーが、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される、第2のバイオマーカーの量を決定する工程;
(c)バイオマーカーの量を前記バイオマーカーの基準と比較し、かつ/またはバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアを計算する工程;ならびに
(d)工程(c)において行われた比較および/または計算に基づいて前記対象を評定する工程
を含む、方法。
【0119】
2.工程(b)において、
(i)GDF-15の量が第2のバイオマーカーとして決定される場合、本方法は、sFlt1、IGFBP7もしくはsTREM1の量を第3のバイオマーカーとして決定することをさらに含むか:または
(ii)シスタチンCの量が第2のバイオマーカーとして決定される場合、方法がアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの量を第3のバイオマーカーとして決定することをさらに含む、実施形態1に記載の方法。
【0120】
3.対象が、救急科に来院している対象である、実施形態1または2に記載の方法。
【0121】
4.評定が、敗血症を発症するリスクの評定、および/または対象の状態が悪化するリスクの評定である、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0122】
5.前記基準が、敗血症を発症するリスクがあることが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーに対する基準であり、好ましくは、バイオマーカーのそれぞれに対する量が、対応する基準と本質的に同一または類似であることが、敗血症を発症するリスクがある対象であることを示し、バイオマーカーのそれぞれに対する量が、対応する基準とは異なることが、敗血症を発症するリスクがない対象であることを示す、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0123】
6.前記基準が、敗血症を発症するリスクがないことが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーに対する基準であり、好ましくは、バイオマーカーのそれぞれに対する量が、対応する基準と本質的に同一または類似であることが、敗血症を発症するリスクがない対象であることを示し、バイオマーカーのそれぞれに対する量が、対応する基準とは異なることが、敗血症を発症するリスクがある対象であることを示す、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
7.前記対象が感染症に罹患しているか、または感染症に罹患している疑いがある、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0125】
8.前記サンプルが血液サンプルまたはそれに由来するサンプルである、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0126】
9.前記対象がヒトである、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0127】
10.感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)対象のサンプル中の第1のバイオマーカーの量の値を受け取る工程であって、前記第1のバイオマーカーがプレセプシンである、第1のバイオマーカーの量を受け取る工程;
(b)対象のサンプル中の第2のバイオマーカーの量の値を受け取る工程であって、前記第2のバイオマーカーが、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される、第2のバイオマーカーの量を受け取る工程;
(c)バイオマーカーの量の値を前記バイオマーカーの基準と比較し、かつ/またはバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアを計算する工程;ならびに
(d)工程(c)において行われた比較および/または計算に基づいて前記対象を評定する工程
を含む、コンピュータ実装方法。
【0128】
11.工程(b)において、
(i)GDF-15の量の値が第2のバイオマーカーとして受け取られる場合、本方法は、sFlt1、IGFBP7またはsTREM1の量の値を第3のバイオマーカーとして受け取ることをさらに含むか;または
(ii)シスタチンCの量の値が第2のバイオマーカーとして受け取られる場合、方法がアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの量の値を第3のバイオマーカーとして受け取ることをさらに含む、実施形態10に記載の方法。
【0129】
12.感染が疑われる対象を評定するための装置であって、
(a)対象のサンプル中の、プレセプシンである第1のバイオマーカーと、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカーとの量を決定するための測定ユニットであって、第1のバイオマーカーおよび第2のバイオマーカーの検出システムを備える、測定ユニット;ならびに
(b)測定ユニットに動作可能に連結された評価ユニットであって、好ましくは実施形態1~9のいずれか1つに記載のような、第1のバイオマーカーおよび第2のバイオマーカーのための保存された基準を有するデータベースと、好ましくは実施形態1~9のいずれか1つに記載のような、第1のバイオマーカーおよび第2のバイオマーカーの量と基準との比較を実行するための、および/またはバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアの計算を実行するための、ならびに比較に基づいて前記対象を評定するための命令を有するデータプロセッサと、を備え、測定ユニットからバイオマーカーの量の値を自動的に受け取ることができる、評価ユニット
を備える、装置。
【0130】
13.前記測定ユニットが、第3のバイオマーカーを決定し、かつ第3のバイオマーカーのための検出システムを備え、前記データベースが、第3のバイオマーカーの保存された基準を有し、前記第3のバイオマーカーが、
(i)GDF-15が第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7またはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである、実施形態12に記載の装置。
【0131】
14.前記検出システムが、バイオマーカーの各々を特異的に検出することができる少なくとも1種の検出剤を含む、実施形態12または13に記載の装置。
【0132】
15.感染が疑われる対象を評定するための装置であって、プレセプシンである第1のバイオマーカー、ならびにGDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカーの保存された基準を有するデータベースと、好ましくは、実施形態1~11のいずれか1つに記載のような、第1のバイオマーカーおよび第2のバイオマーカーの量と基準との比較を実行するための、ならびに比較に基づいて前記対象を評定するための命令を含むデータプロセッサと、を備える評価ユニットを備え、前記評価ユニットが、対象のサンプルにおいて決定されたバイオマーカーの量の値を受け取ることができる、装置。
【0133】
16.前記データベースが、第3のバイオマーカーの保存された基準を含み、前記第3のバイオマーカーが、
(i)GDF-15が第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7またはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである、実施形態15に記載の装置。
【0134】
17.感染が疑われる対象を評定するための、プレセプシンである第1のバイオマーカー、ならびにGDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカー、または前記第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤および前記第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤の使用。
【0135】
18.第3のバイオマーカーまたは前記第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤が追加的に使用され、前記第3のバイオマーカーが、
(i)GDF-15が第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7もしくはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである、実施形態17に記載の使用。
【0136】
19.プレセプシンである第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤と、GDF-15、クレアチニン、sFlt1、IGFBP7、sTREM1、シスタチンCおよびPSP(膵石タンパク質)からなる群から選択される第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤とを含む、感染が疑われる対象を評定するためのキット。
【0137】
20.第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤をさらに含み、第3のバイオマーカーが、
(i)GDF-15が第2のバイオマーカーである場合、sFlt1、IGFBP7もしくはsTREM1であるか;または
(ii)シスタチンCが第2のバイオマーカーである場合、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼである、実施形態19に記載の装置。
【0138】
本明細書を通して引用された全ての参考文献は、上記で具体的に言及された開示内容およびその全体に関して本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0139】
実施例1:バイオマーカーの決定
GDF-15の決定について、Elecsys(登録商標)Electro-ChemiLuminescence(ECL)技術およびアッセイ方法を以下に簡単に説明する。GDF-15の濃度は、cobas e801分析装置によって決定した。Cobas e801分析装置によるGDF-15の検出は、Elecsys(登録商標)Electro-ChemiLuminescence(ECL)技術に基づいている。簡単に説明すると、ビオチン標識およびルテニウム標識抗体をそれぞれの量の未希釈サンプルと合わせ、分析装置でインキュベートする。次いで、ビオチン標識免疫複合体の結合を促進するために、ストレプトアビジン被覆磁性微粒子を加え、装置上でインキュベートする。このインキュベーション工程の後、反応混合物を測定セルに移し、そこでビーズを電極の表面に磁気的に捕捉する。その後のECLのためにトリプロピルアミン(TPA)を含有するProCell M緩衝液を測定セルに導入して、結合したイムノアッセイ複合体を遊離の残存粒子から分離する。次いで、作用電極と対電極との間の電圧の誘導は、ルテニウム錯体およびTPAによる光子の放出をもたらす反応を開始させる。光電子増倍管によって得られた電気化学発光シグナルは、記録され、それぞれの分析物の濃度レベルを示す数値に変換される。
【0140】
プレセプシン(sCD14-ST)は、PathfastCLIAMagtrationプラットフォーム(LSIMedience、日本)のために開発されたサンドイッチイムノアッセイである、プレセプシン(sCD14-ST)用の市販の化学発光(CLIA)アッセイで測定した。このアッセイは、プレセプシンに特異的に結合する抗体(sCD14-ST)およびプレセプシンに特異的に結合するアルカリホスファターゼ(ALP)結合抗体(sCD14-ST)で被覆された磁気ビーズを含む。各血漿サンプルから100μLを使用し、Pathfast(商標)分析装置(Mitsubishi Chemical Europe、ドイツ/LSIM)で測定した。簡単に説明すると、PATHFASTプレセプシンの試験原理は、*MAGTRATIONR(登録商標)技術と組み合わせた非競合的CLEIAに基づいている。サンプルとアルカリホスファターゼ標識抗プレセプシンポリクローナル抗体および抗プレセプシンモノクローナル抗体被覆磁性粒子とのインキュベーション中、サンプルのプレセプシンは抗プレセプシン抗体と結合し、酵素標識抗体および抗体被覆磁性粒子との免疫複合体を形成する。*MAGTRATIONR(登録商標)技術によって未結合物質を除去した後、化学発光基質を添加する。短時間のインキュベーションの後、酵素反応によって生成された発光強度を測定する。発光強度は、サンプルのプレセプシン濃度に関連し、標準曲線によって算出される。*MAGTRATION(登録商標)は、ピペットチップ内で磁性粒子を洗浄するB/F分離の技術であり、Precision System Scienceの登録商標である。
【0141】
SFLT-1またはsFLT-1(可溶性fms様チロシンキナーゼ-1)は、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム(Roche Diagnostics,ドイツ由来のECLIAアッセイ)のために開発されたサンドイッチイムノアッセイであるsFLT-1の市販のECLIAアッセイで測定した。このアッセイは、sFLT-1に特異的に結合するビオチン化モノクローナル抗体およびルテニウム化モノクローナル抗体を含む。各血清サンプルから12μLを使用し、希釈せずにcobas e801分析装置(Roche Diagnostics、ドイツ)で測定した。
【0142】
GDF15(増殖分化因子15)は、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム(Roche Diagnostics,GermanyのECLIAアッセイ)用に開発されたサンドイッチイムノアッセイである、GDF-15の市販のECLIAアッセイで測定した。このアッセイは、GDF-15に特異的に結合するビオチン化モノクローナル抗体およびルテニウム化モノクローナル抗体を含む。各血清サンプルから21μLを使用し、希釈せずに、cobas e801分析装置(Roche Diagnostics、ドイツ)で測定した。
【0143】
CysC2(シスタチンC)は、cobas(登録商標)臨床化学分析装置プラットフォーム(Roche Diagnostics、ドイツ)用に開発されたCysC用の市販のPETIA(粒子増強免疫比濁法アッセイ)で測定した。このアッセイは、CysCに特異的に結合する抗体でコーティングされたラテックス粒子を含む。抗体試薬およびサンプルを混合してインキュベートすると、ラテックスは、試薬中の抗シスタチンC抗体でコーティングされた粒子を増強し、サンプル中のヒトシスタチンCと凝集する。凝集物によって引き起こされる濁度の程度は、546nmで比濁に決定することができ、これはサンプル中のシスタチンCの量に比例している。各血清サンプルから2μLを使用し、cobas c501分析装置(Roche Diagnostics、ドイツ)で測定した。
【0144】
FERR(フェリチン)は、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム(Roche Diagnostics,ドイツ由来のECLIAアッセイ)用に開発されたサンドイッチイムノアッセイである、フェリチンの市販のECLIAアッセイで測定した。このアッセイは、フェリチンに特異的に結合するビオチン化モノクローナル抗体およびルテニウム化モノクローナル抗体を含む。各血清サンプルから10μLを使用し、希釈せずに、cobas e801分析装置(Roche Diagnostics、ドイツ)で測定した。
【0145】
IGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)は、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム(Roche Diagnostics,ドイツ由来のECLIAアッセイ)のために社内で開発されたサンドイッチイムノアッセイである、IGFBP-7についてのロバストなプロトタイプECLIAアッセイで測定した。このアッセイは、IGFBP-7に特異的に結合するビオチン化モノクローナル抗体およびルテニウム化モノクローナル抗体を含む。各血清サンプルから10μLを使用し、希釈せずに、cobas e601分析装置(Roche Diagnostics、ドイツ)で測定した。
【0146】
STREM1またはsTREM-1(骨髄細胞上に発現される可溶性トリガー受容体1)を、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム(Roche Diagnostics,ドイツのECLIAアッセイ)のために社内で開発されたサンドイッチイムノアッセイであるsTREM-1のためのロバストなプロトタイプECLIAアッセイで測定した。このアッセイは、sTREM-1に特異的に結合するビオチン化モノクローナル抗体およびルテニウム化モノクローナル抗体を含む。各血清サンプルから50μLを使用し、希釈せずに、cobas e601分析装置(Roche Diagnostics、ドイツ)で測定した。
【0147】
PSP(膵石タンパク質)を市販のAbionic Platform(Abionic、スイス)で測定した。30μLのEDTA血漿サンプルからのPSPを定量するナノ流体PSP(膵石タンパク質)イムノアッセイ。試験原理は、抗PSP抗体が固定化されているナノメートルサイズのチャネルを通る、蛍光標識検出抗体を含有する溶液と数秒間予め混合された検体の通過に依存する。これらの抗体は、蛍光検出抗PSP抗体に結合したPSPを捕捉する。abioSCOPEは、PSPセンサからの蛍光発光を読み取り、高度なシグナル処理を使用して、アッセイの埋め込まれたロット特異的較正により、シグナルを濃度に変換する。
【0148】
KL6(シアリル化炭水化物抗原KL-6):サンプル中のシアリル化炭水化物抗原KL-6(KL-6)は、抗原抗体反応を介してマウスKL-6モノクローナル抗体被覆ラテックスと凝集する。この凝集による吸光度変化を測定し、KL-6のレベルを決定する。試薬は、積水メディカル株式会社(日本)製であった。2.5μLの血漿を分析した。サンプルは、cobas c 501分析装置(Roche Diagnostics、ドイツ)で測定した。
【0149】
BILI(ビリルビン):ジアゾ化スルファニル酸は、低pHで亜硝酸ナトリウムおよびスルファニル酸を組み合わせることによって形成される。サンプル中のビリルビン(非抱合)を、カフェイン/安息香酸塩/酢酸塩/EDTAの混合物中で希釈することによって可溶化する。ジアゾ化スルファニル酸を添加すると、コンジュゲートビリルビン(モノグルコニドおよびジグルコニド)およびデルタ型2(アルブミンに共有結合したビリタンパク質-ビリルビン)を含む可溶化ビリルビンがジアゾビリルビンに変換され、これは540nmで吸収する総ビリルビンを表す赤色発色団であり、二色性(540、700nm)終点法を用いて測定される。サンプルブランク補正が使用される。
【0150】
CREJ2(クレアチニン):この速度論的比色アッセイは、ヤッフェ法に基づく。アルカリ性溶液中で、クレアチニンはピクリン酸塩および黄橙色の錯体を形成する。色素の形成速度は、検体中のクレアチニン濃度に比例する。このアッセイは、ビリルビンによる干渉を最小限に抑えるために「レートブランキング」を使用する。Roche Diagnostics(ドイツ)由来のアッセイ7.5μLの血漿を決定に使用した。サンプルは、cobas c 501分析装置(Roche Diagnostics、ドイツ)で測定した。
【0151】
ALAT(アラニンアミノトランスフェラーゼ):アラニンアミノトランスフェラーゼは、L-アラニンのα-ケトグルタル酸(α-KG)へのアミノ基転移を触媒し、L-グルタミン酸およびピルビン酸を形成する。形成されたピルビン酸は、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)によって乳酸塩に還元され、同時に還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)が酸化される。吸光度の変化はアラニンアミノトランスフェラーゼ活性に正比例し、二色性(340、700nm)速度法を用いて測定される。
【0152】
ASAT(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ):アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)は、L-アスパラギン酸からα-ケトグルタル酸へのアミノ基転移を触媒し、L-グルタミン酸およびオキサル酢酸塩を形成する。形成されたオキサル酢酸塩は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の同時酸化と共にリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(MDH)によってリンゴ酸塩に還元される。NADHのNADへの変換による経時的な吸光度変化はAST活性に正比例し、二色性(340、700nm)速度法を用いて測定される。
【0153】
実施例2:トリアージ試験からの患者の分析
トリアージ試験、スイス、アーラウ病院救急部。(Schuetz 2013、BMC救急医療、13(1)、12)。
【0154】
医学的緊急事態のために救急科(ED)のケアを受けようとしている全ての継続をED入院時に含めた。合計4000人の患者から、以下に従って、入院時に感染が疑われる患者のサブセットを選択し、蓋然性の高い敗血症症例群または感染対照群に分類した。
● 症例(N=64):ED来院の48時間以内に悪化/重症度がより高い敗血症の可能性の高い症例で、ICUに入院しているか、またはRhee 2017,「Incidence and Trends of Sepsis in US Hospitals Using Clinical vs Claims Data,2009-2014.」JAMA 318(13):1241-1249の基準を満たす場合。
● 対照(N=207):ED来院後48時間以内に感染が疑われたが敗血症ではなかった患者。
【0155】
マーカーをロジスティック回帰によって数学的に組み合わせ、「受信者動作特性下面積」(AUC)をマーカー性能の一般的な尺度として使用した。
【0156】
単一マーカーよりもAUCが少なくとも1パーセンテージポイント改善されたマーカー対(二変量マーカー組み合わせ)の組み合わせを表1に示す。
【表1】
【0157】
二変量マーカー対よりもAUCが改善されたマーカートリプレット(三変量マーカーの組み合わせ)、ならびに少なくとも1パーセンテージポイントが改善された3つ全ての単一マーカーの組み合わせを表2に示す。
【表2】
【0158】
単一のマーカーよりも改善されていないマーカーの二変量組み合わせの例を表3に示す。
【表3】
【国際調査報告】