(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】敗血症の早期検出用のNGALマーカーパネル
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240409BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566800
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(85)【翻訳文提出日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2022061577
(87)【国際公開番号】W WO2022229435
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】グリューネバルト,フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】イェーガー,ヴィクトル・ヨハン・ラウル
(72)【発明者】
【氏名】クラマー,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】シュッツ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】フォン ホルタイ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーバー,シュテフェン
(72)【発明者】
【氏名】ベクマイヤー,ハイケ
(72)【発明者】
【氏名】ビーンヒューズ-テレン,ウルスラ-ヘンリケ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA20
2G045DA36
2G045DA53
2G045JA01
(57)【要約】
本発明は、診断の分野に関する。具体的には、本発明は、感染が疑われる対象を評定するための方法であって、対象の試料中の第1のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第1のバイオマーカーがNGALである工程、対象の試料中の第2のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第2のバイオマーカーが、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される工程、バイオマーカーの量を前記バイオマーカーについての基準と比較し、かつ/又はバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアを計算する工程、並びに前記比較及び/又は計算に基づいて前記対象を評定する工程、を含む、感染が疑われる対象を評定するための方法に関する。本発明はまた、NGALである第1のバイオマーカー並びにHBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカー、又は前記第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤及び前記第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤の、感染が疑われる対象を評定するための使用に関する。さらに、本発明は、感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法、並びに感染が疑われる対象を評定するためのデバイス及びキットに更に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染が疑われる対象を評定するための方法であって、
(a)前記対象の試料中の第1のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第1のバイオマーカーがNGALである、工程、
(b)前記対象の試料中の第2のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第2のバイオマーカーが、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される、工程、
(c)前記バイオマーカーの前記量を前記バイオマーカーについての基準と比較し、かつ/又は前記バイオマーカーの前記量に基づいて感染が疑われる前記対象を評定するためのスコアを計算する工程、並びに
(d)工程(c)で行われた前記比較及び/又は前記計算に基づいて前記対象を評定する工程、
を含む、感染が疑われる対象を評定するための方法。
【請求項2】
工程(b)において、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)の前記量が前記第2のバイオマーカーとして決定される場合、前記方法が、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)の量を第3のバイオマーカーとして決定することを更に含むか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの前記量が前記第2のバイオマーカーとして決定される場合、前記方法が、BNP又はNT-proBNP等のBNP型ペプチドの量を第3のバイオマーカーとして決定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象が、救急部に来院している対象である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記評定が、敗血症を発症するリスクの評定及び/又は前記対象の症状が悪化するリスクの評定である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基準が、敗血症を発症するリスクがあることが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーについての基準であり、好ましくは、前記バイオマーカーのそれぞれについての量が、前記対応する基準と本質的に同一又は類似であることが、敗血症を発症するリスクがある対象を示し、前記バイオマーカーのそれぞれについての量が、前記対応する基準とは異なることが、敗血症を発症するリスクがない対象を示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基準が、敗血症を発症するリスクがないことが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーについての基準であり、好ましくは、前記バイオマーカーのそれぞれについての量が、前記対応する基準と本質的に同一又は類似であることが、敗血症を発症するリスクがない対象を示し、前記バイオマーカーのそれぞれについての量が、前記対応する基準とは異なることが、敗血症を発症するリスクがある対象を示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が、感染症に罹患しているか、又は感染症に罹患していることが疑われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記試料が、血液試料又はそれに由来する試料である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象が、ヒトである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)前記対象の試料中の第1のバイオマーカーの量についての値を受け取る工程であって、前記第1のバイオマーカーがNGALである、工程、
(b)前記対象の試料中の第2のバイオマーカーの量についての値を受け取る工程であって、前記第2のバイオマーカーが、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される、工程、
(c)前記バイオマーカーの前記量についての前記値を前記バイオマーカーについての基準と比較し、かつ/又は前記バイオマーカーの前記量に基づいて感染が疑われる前記対象を評定するためのスコアを計算する工程、並びに
(d)工程(c)で行われた前記比較及び/又は前記計算に基づいて前記対象を評定する工程、
を含む、感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法。
【請求項11】
工程(b)において、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)の前記量についての前記値が前記第2のバイオマーカーとして受け取られる場合、前記方法が、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1若しくはHAPT(ハプトグロビン)の量についての値を第3のバイオマーカーとして受け取ることを更に含むか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの前記量についての前記値を前記第2のバイオマーカーとして受け取る場合、前記方法が、BNP型ペプチドの量についての値を第3のバイオマーカーとして受け取ることを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
感染が疑われる対象を評定するためのデバイスであって、
(a)前記対象の試料中の、NGALである第1のバイオマーカー、並びにHBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカーの量を決定するための測定ユニットであって、前記第1のバイオマーカー及び前記第2のバイオマーカーに対する検出システムを含む、測定ユニットと、
(b)前記測定ユニットに動作可能に連結された評価ユニットであって、好ましくは請求項1~9のいずれか一項に記載されるような、前記第1のバイオマーカー及び前記第2のバイオマーカーについての保存された基準を有するデータベースと、好ましくは請求項1~9のいずれか一項に記載されるような、前記第1のバイオマーカー及び前記第2のバイオマーカーの前記量と基準との比較を実行するための、及び/又は前記バイオマーカーの前記量に基づいて感染が疑われる前記対象を評定するためのスコアの計算を実行するための、並びに前記比較に基づいて前記対象を評定するための命令を含むデータプロセッサとを備え、前記測定ユニットから前記バイオマーカーの前記量についての値を自動的に受け取ることができる、評価ユニットと、
を含む、感染が疑われる対象を評定するためのデバイス。
【請求項13】
前記測定ユニットが、第3のバイオマーカーを決定し、かつ第3のバイオマーカーに対する検出システムを備え、前記データベースが、第3のバイオマーカーについての保存された基準を備え、前記第3のバイオマーカーが、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が前記第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)であるか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが前記第2のバイオマーカーである場合、BNP若しくはNT-proBNP等のBNP型ペプチドである、
請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記検出システムが、前記バイオマーカーのそれぞれを特異的に検出することができる少なくとも1つの検出剤を含む、請求項12又は13に記載のデバイス。
【請求項15】
感染が疑われる対象を評定するためのデバイスであって、NGALである第1のバイオマーカー、並びにHBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカーについての保存された基準を有するデータベースと、好ましくは請求項1~11のいずれか一項に記載されるような、前記第1のバイオマーカー及び前記第2のバイオマーカーの前記量と基準との比較を実行するための、及び前記比較に基づいて前記対象を評定するための命令を含むデータプロセッサとを含み、前記対象の試料において決定された前記バイオマーカーの前記量についての値を受け取ることができる、評価ユニットと、を含む、感染が疑われる対象を評定するためのデバイス。
【請求項16】
前記データベースが、第3のバイオマーカーについての保存された基準を含み、前記第3のバイオマーカーが、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が前記第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、又はHAPT(ハプトグロビン)であり、
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが前記第2のバイオマーカーである場合、BNP型ペプチド、例えばBNP又はNT-proBNPである、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
i)NGALである第1のバイオマーカー、並びにHBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカー、又はii)前記第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤及び前記第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤の、感染が疑われる対象を評定するための使用。
【請求項18】
第3のバイオマーカー又は前記第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤が追加的に使用され、前記第3のバイオマーカーが、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が前記第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)であるか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが前記第2のバイオマーカーである場合、BNP若しくはNT-proBNP等のBNP型ペプチドである、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
NGALである第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤と、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤とを含む、感染が疑われる対象を評定するためのキット。
【請求項20】
前記キットが、第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤を更に含み、前記第3のバイオマーカーが、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が前記第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)であるか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが前記第2のバイオマーカーである場合、BNP若しくはNT-proBNP等のBNP型ペプチドである、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記評定が敗血症を発症するリスクの評定である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法、デバイス、使用又はキット。
【請求項22】
48時間以内に敗血症を発症するリスクが予測される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法、デバイス、使用又はキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断の分野に関する。具体的には、本発明は、感染が疑われる対象を評定するための方法であって、対象の試料中の第1のバイオマーカーの量を決定する工程であって、当該第1のバイオマーカーがNGALである工程、対象の試料中の第2のバイオマーカーの量を決定する工程であって、当該第2のバイオマーカーが、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される工程、バイオマーカーの量を当該バイオマーカーについての基準と比較し、かつ/又はバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアを計算する工程、並びに比較及び/又は計算に基づいて当該対象を評定する工程、を含む、感染が疑われる対象を評定するための方法に関する。本発明はまた、NGALである第1のバイオマーカー、並びにHBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNPペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカー、又は当該第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤及び当該第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤の、感染が疑われる対象を評定するための使用に関する。さらに、本発明は更に、感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法、並びに感染が疑われる対象を評定するためのデバイス及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症、特に、そのより重度の徴候及び症状を有する患者、例えば救急処置室に運ばれた患者において起こる感染症は、全身炎症反応症候群(SIRS)及び敗血症を含む生命をより脅かす医学的状態に発展する場合がある。
【0003】
ステージ3敗血症の定義によれば、敗血症は、感染に対する調節不全の宿主応答によって引き起こされる生命を脅かす臓器機能不全として定義される。敗血症は急速に発症するため、早期の認識が、敗血症患者の管理、並びに、入院の最初の1時間以内の適切な抗生物質治療、並びに静脈内流体及び血管作動性薬物を用いた蘇生の開始を含む正しい治療的措置の開始のために重要である(surviving sepsis campaign guidelines 2016)。1時間ごとの遅延は、罹患率及び死亡率を徐々に増加させる。
【0004】
敗血症の診断は、非特異的な臨床徴候及び症状に基づいており、容易に見逃され得る。そのため、患者は頻繁に誤診され、疾患の重症度は多くの場合に過小評価される。総合部門及び特に救急部においてこれまで敗血症の診断のためのゴールドスタンダードはない。高所得国において、C反応性タンパク質(CRP)、プロカルシトニン(PCT)及び白血球(WBC)カウントは、敗血症性ショックの検出のためのラクテートと共に、敗血症の発症のリスクがある血流感染症を有する患者の検出のために救急処置室において多くの場合に使用されている。低所得国において、診断は大抵、臨床徴候及び症状並びに一部の事例においてSIRS及びSOFA基準に基づく。しかしながら、ほとんどの現行のガイドラインにおいて、ラクテートの他に、(臨床化学、BGE及びSOFAスコアの血液学的成分の例外と共に)敗血症を診断するためのバイオマーカーは列記されていない。PCTは、抗生物質療法を潜在的に緩和するためにのみ推奨されているが、証拠は中程度である。敗血症診断におけるPCTの制限は主に中程度の感度及び特異性である。
【0005】
国際公開第2007/009071号は、sFlt-1に基づいて試験対象において炎症応答を診断する方法を開示している。開示される方法は、VEGF、PlGF5、TNF-α、IL-6、D-ダイマー、P-セレクチン、ICAM-I、VCAM-I、Cox-2、又はPAI-Iの少なくとも1つのレベルを分析することを更に含む。
【0006】
EP 2 174 143号B1は、感染症ではない原発性疾患を有する患者の予後診断のためのインビトロ方法であって、プロカルシトニンのレベルを決定することを含む、方法を開示している。
【0007】
数多くのマーカーが、敗血症の検出又は診断のために有用であると示唆されている。これらには、数ある中でも、PCT、プレセプシン、GDF-15、sFLT、CRP若しくはインターロイキン等の炎症マーカー、又は臓器不全に特異的なマーカーが含まれる(例えば、Spanuth,2014,Comparison of sCD14-ST(рresepsin)with еight biomarkers for mortality prediction in patients admitted with acute heart failure,2014 AACC Annual Meeting Abstracts.B-331;van Engelen,2018,Crit Care Clin 34(1):139-152.を参照)。
【0008】
国際公開第2015/031996号は、病気に対する危機的な若しくは生命を脅かす応答及び/又は処置応答の早期判定用のバイオマーカーを記載している。
【0009】
しかしながら、感染症の徴候及び症状を呈する患者の信頼できるかつ早期の評定を可能とするバイオマーカーが依然として必要とされている。
【0010】
したがって、本発明は、これらの必要性に適合する手段及び方法を提供する。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、感染が疑われる対象を評定するための方法であって、
(a)対象の試料中の第1のバイオマーカーの量を決定する工程であって、当該第1のバイオマーカーがNGALである、工程、
(b)対象の試料中の第2のバイオマーカーの量を決定する工程であって、当該第2のバイオマーカーが、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される、工程、
(c)バイオマーカーの量を当該バイオマーカーについての基準と比較し、かつ/又はバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアを計算する工程、並びに
(d)工程(c)で行われた比較及び/又は計算に基づいて当該対象を評定する工程、を含む、感染が疑われる対象を評定するための方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、それが使用される文脈に応じて、1つ以上を意味することができることを理解されたい。したがって、例えば、「1(an)」項目への言及は、少なくとも1つの項目を利用できることを意味することができる。
【0013】
以下で使用されるように、「有する(have)」、「含む(comprise)」、若しくは「含む(include)」という用語、又はそれらの任意の文法上の変形は、非排他的に使用される。したがって、これらの用語は、これらの用語によって導入される特徴の他に、この文脈において説明される実体に更なる特徴が存在しない状況、及び1つ以上の更なる特徴が存在する状況の両方を指すことができる。例として、「AはBを有する」、「AはBを備える」、及び「AはBを含む」という表現は、B以外に、他の要素がAに存在しない状況(すなわち、AがもっぱらBのみからなる状況)、及び、B以外に、要素C、要素C及びD、あるいはまた更なる要素等の1つ以上の更なる要素が実体Aに存在する状況の両方を指すことができる。「含む(comprising)」 という用語は、言及される項目のみが存在する実施形態も包含する、すなわち、「からなる(consisting of)」という意味で限定的な意味を有する。
【0014】
さらに、以下で使用するとき、「特に」、「より詳細には」、「典型的には」、及び「より典型的には」という用語、又は類似の用語は、代替の可能性を制限することなく、追加/代替の特徴と併せて使用される。したがって、これらの用語によって導入される特徴は、追加の/代替の特徴であり、決して特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。本発明は、当業者であれば理解できるとおり、代替の特徴を使用することによって実行されてもよい。同様に、「本発明の実施形態では」又は同様の表現によって導入される特徴は、本発明の代替の実施形態に関する制限なしに、本発明の範囲に関する制限なしに、及びそのように導入された特徴を本発明の他の追加の/代替の又は非追加の/代替の特徴と組み合わせる可能性に関する制限なしに、追加の/代替の特徴であることが意図される。
【0015】
さらに、本明細書で使用される場合、「少なくとも1つ」という用語は、この用語に続いて言及される項目の1つ以上が本発明にしたがって使用され得ることを意味することが理解されよう。例えば、該用語が、少なくとも1つのサンプリングユニットが使用されることを示す場合、これは、1つのサンプリングユニット又は1つより多くのサンプリングユニット、すなわち2、3、4、5若しくは任意の他の数として理解され得る。該用語が指す要素に依存して、該用語が指し得る上限があれば、それがどの程度であるのかに関して当業者は理解する。
【0016】
「約」という用語は、本明細書で使用される場合、当該用語の後に記載される任意の数に関して、技術的な効果が達成され得る範囲内で正確性が存在することを意味する。よって、本明細書において言及されている約は、好ましくは、精密な数値又は当該精密な数値の辺りの±20%、好ましくは±15%、より好ましくは±10%、若しくはよりいっそう好ましくは±5%の範囲を指す。
【0017】
更には、本明細書及び請求項における「第1」、「第2」、及び「第3」等の用語は、類似した要素の間で区別するために使用され、必ずしも逐次的な又は経時的な順序を記載するために使用されるものではない。
【0018】
本発明の方法は、上述の工程からなるものであってもよいか、又は追加の工程、例えば、工程(d)において得られた評定の更なる評価工程、又は治療的措置、例えば処置を推奨する工程等を含んでもよい。さらに、それは、工程(a)に先立つ工程、例えば試料の前処理に関する工程を含んでもよい。しかしながら、好ましくは、上記の方法は、ヒト又は動物身体において実施されるいかなる工程も要求しないエクスビボの方法であることが想定される。さらに、方法は、自動化により補助されてもよい。典型的には、バイオマーカーの決定はロボット機器によりサポートされてもよく、比較及び評定は、データ処理機器、例えばコンピュータによりサポートされてもよい。
【0019】
「評定する」という用語は、本明細書で使用される場合、対象が、敗血症に罹患しているかどうか、敗血症に罹患するリスクがあるかどうか、全体的な健康状態に関して又は敗血症若しくは敗血症及び/若しくは感染症に付随する徴候及び症状に関して悪化する医学的状態を呈するかどうかを評定することを指す。よって、評定することは、本明細書で使用される場合、敗血症を診断すること、敗血症を発症するリスクを予測すること、並びに/又は対象の健康状態の任意の悪化、特に、敗血症及び/若しくは感染症に付随する徴候及び症状に関するものを予測することを含む。
【0020】
典型的には、本発明にしたがって言及される評定は、敗血症を発症するリスクの評定(及びそのため敗血症を発症するリスクの予測)である。あるいは、評定は、対象の症状が悪化するリスクの予測である。さらに、敗血症を発症するリスク又は健康状態の悪化のリスクが予測される場合、典型的には、予測は予測ウィンドウ内で実行されることが理解されるであろう。より典型的には、当該予測ウィンドウは、好ましくは、試料が得られた、約8時間、約10時間、約12時間、約16時間、約20時間、約24時間、約48時間、特に少なくとも約48時間後である。さらに、好ましくは試験試料が得られた、24又は48時間後以内に、敗血症を発症するリスクが予測されてもよい。
【0021】
一実施形態において、24時間以内に敗血症を発症するリスクが予測される。
【0022】
代替の実施形態では、48時間以内に敗血症を発症するリスクが予測される。
【0023】
48時間の期間を実施例のセクションで試験した。
【0024】
更に別の実施形態において、評定は、対象の(健康)症状が将来的に悪化するのか否かのリスクの予測である。感染症に罹患していることが疑われる、かつ/又は感染症に罹患している対象の「症状の悪化」という用語は、当業者によりよく理解されている。該用語は、典型的には、更なる薬物療法又は他の介入に最終的に繋がり得る症状の悪化に関する。
【0025】
好ましくは、対象の疾患重症度が増加する場合、対象の抗生物質治療が強化される場合、対象がICU若しくはより高いレベルの治療のための別の処置室に入院した場合、対象が救急手術を要求する場合、対象が病院内で死亡する場合、対象が入院の30日以内に死亡する場合、対象が退院の30日以内に再入院する場合、対象が、例えばSOFAスコアで測定された場合に、臓器機能障害若しくは不全を経験する場合、及び/又は対象が臓器サポートを要求する場合に、対象の症状は悪化している。
【0026】
当業者は、対象の症状が悪化していない場合を理解する。典型的には、対象が、先行する段落において言及されたアウトカムを有しない場合に、対象の症状は悪化していない。
【0027】
一実施形態において、対象が以下のアウトカム:対象がICUに入院した場合、対象が病院内で死亡した場合、対象が入院の30日以内に死亡した場合、及び/又は対象が退院の30日以内に再入院した場合のうちの1つ以上を有する場合に、対象の症状は悪化している。
【0028】
一実施形態において、対象の症状が悪化するリスクの予測は、対象の抗生物質治療が強化されるリスクの予測である。
【0029】
一実施形態において、対象の症状が悪化するリスクの予測は、対象がICUに入院させられるリスクの予測である。そのため、対象がICUに入院させられるリスクがあるか否かが評定される。
【0030】
別の実施形態において、対象の症状が悪化するリスクの予測は、病院内での死の対象のリスクの予測である。そのため、対象が病院内での死のリスクがあるか否かが評定される。
【0031】
更に別の実施形態において、対象の症状が悪化するリスクの予測は、入院の30日以内の死の対象のリスクの予測である。そのため、対象が病院への入院の30日以内に死のリスクがあるか否かが評定される。
【0032】
更に別の実施形態において、対象の症状が悪化するリスクの予測は、退院の30日以内の再入院の対象のリスクの予測である。そのため、対象が退院の30日以内の再入院のリスクがあるか否かが評定される。
【0033】
更に別の実施形態において、対象の症状が悪化するリスクの予測は、対象が臓器機能障害又は不全を経験するリスクの予測である。臓器機能障害及び不全は、例えば、SOFAスコアを介して評定され得る。よって、本発明は更に、(試験試料が得られた後に)対象のSOFAスコアが増加するか否かのリスクの予測に方向付けられている。(例えば少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、又は少なくとも4点等の)SOFAスコアの増加は症状の悪化として考えられる。対照的に、SOFAスコアが増加しない場合(但し、対象は最も高いSOFAスコアを有しない)に、症状は典型的には悪化しない。予測ウィンドウは、敗血症を発症するリスクの予測のために上記されている予測ウィンドウであってもよい。
【0034】
逐次的臓器不全評価(sequential organ failure assessment;SOFA)は、臓器機能障害/不全を定量的に記載する、臨床的な評定及び実験室測定値を組み合わせた検証されたスコアである。呼吸、凝固、肝臓、心臓血管系、中枢神経系及び腎臓の機能障害は個々にスコア付けされ、足し合わせられて、0~24の範囲に及ぶSOFAスコアとされる。好ましくは、SOFAスコアは、Vincent 1996(Vincent et al.Intensive Care Med.1996 Jul;22(7):707-10.doi:10.1007/BF01709751.PMID:8844239)に記載されるように決定される。
【0035】
更に別の実施形態において、対象の症状が悪化するリスクの予測は、対象が臓器サポートを要求するリスクの予測、例えば対象が血管作動薬治療、血行動態サポート(例えば輸液治療)、酸素供給(例えば換気若しくは体外膜型人工肺によるもの)、及び/又は腎臓置換治療を要求するリスクの予測である。予測ウィンドウは、例えば試料が得られてから24時間又は48時間後に敗血症を発症するリスクを予測するための上記の予測ウィンドウであり得る。
【0036】
一実施形態において、「評定」という用語は敗血症の診断を指す。そのため、感染が疑われる対象が敗血症に罹患しているか否かが診断される。好ましくは、評定は敗血症の早期検出を指す。
【0037】
当業者によって理解されるように、本発明にしたがって行われる評定は、好ましいが、通常、調査された対象の100%では正しくない場合がある。典型的には、という用語は、対象の統計的に有意な部分が正確に評定され得ることを要求する。部分が統計的に有意であるかどうかは、様々な周知の統計評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントt検定、マン-ホイットニー検定等を使用して、当業者によって更に難なく決定されることができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に見出すことができる。典型的には、想定される信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、典型的には、0.2、0.1、0.05である。
【0038】
「対象」という用語は、本明細書で使用される場合、動物、好ましくは哺乳動物、より典型的にはヒトを指す。本発明の方法により調べられる対象は、感染が疑われる対象である。「感染が疑われる」という用語は、本明細書で使用される場合、対象が、感染症の臨床的なパラメータ、徴候及び/又は症状を呈することを意味する。そのため、本発明による対象は、典型的には、感染症に罹患しているか、又は感染症に罹患していることが疑われる対象である。典型的には、対象は、救急部に来院している対象である。有利には、試料は、来院時に得られたものである。好ましくは、試料は、救急部に来院したときに得られたものである。しかしながら、試料はまた、かかりつけ医に来院したときに得られたものであってもよい。
【0039】
「試料」という用語は、本明細書で使用される場合、生理学的条件下で本明細書において言及される第1、第2及び/又は第3のバイオマーカーを含む任意の試料を指す。より典型的には、試料は、体液試料、例えば血液試料若しくはそれに由来する試料、尿試料、唾液試料、又はリンパ液試料等である。最も典型的には、当該試料は、血液試料又は血液試料に由来する試料である。好ましい実施形態では、試料は、血液、血清又は血漿試料である。血液試料は、典型的には、毛細血管、静脈又は動脈の血液試料を含む。
【0040】
一実施形態において、試料は間質液試料である。
【0041】
「敗血症」という用語は当該技術分野で周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、感染に対する調節不全の宿主応答によって引き起こされる生命を脅かす臓器機能不全を指す。}敗血症の定義は、例えば、Singer et al.(Sepsis-3 The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock.JAMA 2016;315:801-819)に見出すことができ、これは本開示内容全体に関して参照により組み込まれる。好ましくは、「敗血症」という用語は、Singer et al.(loc.cit.)において開示されているSepsis-3定義による敗血症を指す。
【0042】
典型的には、試験される対象は、感染症に罹患している疑いがあるものとする。「感染」という用語は、当業者にはよく理解されている。本明細書で使用される場合、「感染」という用語は、好ましくは、疾患を引き起こす微生物による対象の身体組織の浸潤、その増殖、及び微生物に対する対象の組織の反応を指す。一実施形態において、感染は細菌感染である。したがって、対象は細菌感染症に罹患している疑いがある。
【0043】
本明細書の他の箇所に記載されるように、本発明は、リスクのある患者の早期の特定を可能にする。本明細書において記載されている予測の一実施形態において、試験される対象は、そのため、試料が得られる時点において敗血症に罹患していない。特に好ましい実施形態において、試験される対象は、好ましくは、試料が得られる時点において、敗血症性ショックに罹患していない。「敗血症性ショック」という用語は、Singer et al.(loc.cit.)において定義されている。そのため、以下の基準が満たされる場合に、対象は敗血症性ショックに罹患している。
・敗血症、すなわち感染の疑い/文書化された感染、かつ感染の結果としての総SOFAスコア≧2点の変化
・かつMAP≧65mmHgを維持するために昇圧薬を必要とし、十分な量の蘇生にもかかわらず2mmol/L(18mg/dL)を超える血清乳酸レベルを有する持続性低血圧。
【0044】
さらに、試験される対象は、SARS-CoV-2への感染症に罹患していてもよく、又はそうでなくてもよいことが想定される。
【0045】
「決定する」という用語は、本明細書で使用される場合、本発明にしたがって言及されるバイオマーカーの定性的な及び定量的な決定を指し、すなわち該用語は、当該バイオマーカーの存在若しくは非存在の決定又は絶対的な若しくは相対的な量の決定を包含する。
【0046】
「量」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書で言及される化合物の絶対量、当該化合物の相対量又は濃度、及びそれらと相関する又はそれらから導き出され得る任意の値又はパラメータを指す。このような値又はパラメータは、直接的な測定により当該化合物から得られる、全ての具体的な物理的又は化学的特性に由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトル又はNMRスペクトルにおける強度値を含む。さらに、本明細書の他の箇所で明示される間接測定により得られる値又はパラメータ全て、例えば、特異的に結合したリガンドから得られる化合物又は強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムにより決定される応答レベルが包含される。上述の量又はパラメータと相関する値は、全ての標準的な数学的演算によっても得ることができるということを理解されたい。バイオマーカーが酵素、例えばアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST若しくはASAT)である場合、「量」という用語はまた、酵素の活性を包含することがある。
【0047】
本発明の方法における量の決定は、第1の分子からの放出での当該第2の分子の存在若しくは非存在又は量を検出することを可能とする任意の技術により実行されてもよい。好適な技術は、分子の性質及びバイオマーカーの特性に依存し、本明細書の他の箇所においてより詳細に議論される。
【0048】
典型的には、本発明にしたがって言及されているバイオマーカーの量は、サンドイッチ、競合、又は他のアッセイフォーマットを使用するイムノアッセイにより決定され得る。当該アッセイは、バイオマーカーの存在若しくは非存在又は量を示すシグナルを発生させる。更なる好適な方法は、バイオマーカーに特異的な物理的又は化学的特性、例えば、その正確な分子量又はNMRスペクトル等を測定することを含む。当該方法は、好ましくは、バイオセンサー、免疫学的検定法と連関した光学装置、バイオチップ、質量分析計、NMR分析機、表面プラズモン共鳴測定機器又はクロマトグラフィーデバイス等の分析装置を含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化又はロボットイムノアッセイ(例えば、Rocheから入手可能)が含まれる。本発明による好適な測定方法はまた、沈降(特には免疫沈降)、電気化学発光(電気生成化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニドフルオロイムノアッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、比濁法、比濁分析、ラテックス増強比濁法若しくは比濁分析、又は固相免疫試験を含み得る。当技術分野において公知の更なる方法、例えばゲル電気泳動、2Dゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)又はウエスタンブロッティングがある。より典型的には、本明細書において言及されるバイオマーカーを決定するために特に想定される技術は、以下の付随する実施例において記載される。
【0049】
本発明にしたがって決定されるバイオマーカーは当技術分野において周知である。さらに、バイオマーカーの量の決定方法は公知である。例えば、バイオマーカーは、実施例セクションに記載されるように測定され得る(実施例1を参照)。試験したバイオマーカーのいくつかは酵素(ALAT及びASAT)である。これらのバイオマーカーの量はまた、試料中の当該酵素の活性を決定することにより決定され得る。
【0050】
しばしば「リポカリン-2」とも呼ばれるバイオマーカーNGAL(好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン)は、当技術分野で周知である。NGALは、小さい疎水性リガンドを輸送するタンパク質のリポカリンファミリーのメンバーである。これは、ヒトのLCN2遺伝子によってコードされる。該バイオマーカーは好中球において高発現することが知られている。また、該バイオマーカーは、急性腎障害及び炎症性腸疾患のバイオマーカーとして用いられる。ヒトNGALの配列は周知であり、例えば、UniProtデータベース(UniProtKB-P80188,NGAL_HUMANを参照)から誘導することができる。
【0051】
インターロイキン-6(IL-6と略す)は、T細胞及びマクロファージによって分泌され、例えば感染中及び外傷後、特に火傷又は炎症につながる他の組織損傷の間に免疫応答を刺激するインターロイキンである。これは、炎症促進性サイトカイン及び抗炎症性サイトカインの両方として作用する。ヒトでは、IL6遺伝子によってコードされる。ヒトIL-6の配列は、GenBank(ポリヌクレオチド配列についてはNM_000600.3、アミノ酸配列についてはNP_000591.1を参照)を介してアクセスすることができる。IL-6は、リガンド結合IL-6Rα鎖(CD126)及びシグナル伝達成分gp130(CD130とも呼ばれる)からなる細胞表面I型サイトカイン受容体複合体を介してシグナルを伝達する。CD130は、白血病抑制因子(LIF)、毛様体神経向性因子、オンコスタチンM、IL-11及びカーディオトロフィン-1を含むいくつかのサイトカインの共通のシグナル伝達物質であり、ほとんどの組織でほぼ遍在的に発現される。対照的に、CD126の発現は特定の組織に限定される。IL-6がその受容体と相互作用すると、それはgp130及びIL-6Rタンパク質をトリガーして複合体を形成し、したがって受容体を活性化する。これらの複合体は、gp130の細胞内領域を一緒にして、特定の転写因子、ヤヌスキナーゼ(JAK)及びシグナル伝達兼転写活性化因子を介してシグナル伝達カスケードを開始する。
【0052】
バイオマーカー内皮細胞特異的分子1(ESM-1と略記する)は当該技術分野でよく知られている。バイオマーカーは、しばしばエンドカンとも呼ばれる。ESM-1は分泌タンパク質であり、主にヒトの肺及び腎臓組織の内皮細胞で発現される。パブリックドメインのデータは、甲状腺、肺、腎臓だけでなく、心臓組織でも発現することを示唆している。例えばProtein Atlas database(Uhlen M.et al.,Science 2015;347(6220):1260419)のESM-1のエントリーを参照されたい。この遺伝子の発現はサイトカインによって調節されている。ESM-1は、20kDaの成熟ポリペプチドと30kDaのO-結合型グリカン鎖で構成されるプロテオグリカンである(Bechard D et al.,J Biol Chem 2001;276(51):48341-48349)。本発明の好ましい実施形態では、ヒトESM-1ポリペプチドの量は、対象からの試料において測定される。ヒトESM-1ポリペプチドの配列は当技術分野で周知であり(例えば、Lassale P.et al.,J.Biol.Chem.1996;271:20458-20464を参照されたい、例えば、Uniprotデータベースを介して評定することができ、エントリーQ9NQ30(ESM1_HUMAN)を参照されたい。ESM-1の2つのアイソフォームは、選択的スプライシングによって生成され、アイソフォーム1(Uniprot識別子Q9NQ30-1を有する)及びアイソフォーム2(Uniprot識別子Q9NQ30-2を有する)である。アイソフォーム1は、長さ184アミノ酸である。アイソフォーム2では、アイソフォーム1のアミノ酸101から150が欠損している。アミノ酸1から19は、シグナルペプチドを形成する(該シグナルペプチドは切断され得る)。
【0053】
好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム1の量が決定され、すなわち、アイソフォーム1はUniProt受入番号Q9NQ30-1の下に示されるような配列を有する。
【0054】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム2の量が決定され、すなわち、アイソフォーム2はUniProtアクセッション番号Q9NQ30-2の下に示されるような配列を有する。
【0055】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム-1及びアイソフォーム2の量、すなわち総ESM-1が決定される。
【0056】
マーカーである「ビリルビン」は当技術分野で周知である。ビリルビンは、直鎖状テトラピロールであるビラジエンのクラスのメンバーであり、ジピロール単位はエキソビニル及びエンドビニルの両方のタイプである。ヘム分解の生成物であり、それは、ビリベルジンの還元により網内皮系において産生され、血清アルブミンとの複合体として肝臓に輸送される。それは抗酸化物質としての役割を有する。ビリルビン測定は、ほとんどの医学実験室においてルーチンに行われており、様々な方法(例えば実施例セクションに記載されている方法)により測定され得る。
【0057】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)は、α-ケトグルタル酸(α-KG)へのL-アラニンのアミノ基転移を触媒して、L-グルタミン酸及びピルビン酸を形成させる。形成されるピルビン酸は、還元されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の同時の酸化と共に乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)により乳酸に還元される。吸光度における変化は、アラニンアミノトランスフェラーゼ活性に正比例しており、例えば二色性(340、700nm)レート技術を使用して測定することができる。
【0058】
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST又はASAT)は、L-アスパラギン酸からα-ケトグルタル酸へのアミノ基転移を触媒して、L-グルタミン酸及びオキサロ酢酸を形成させる。形成されるオキサロ酢酸は、還元されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の同時の酸化と共にリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(MDH)によりリンゴ酸に還元される。NADへのNADHの変換に起因する経時的な吸光度における変化は、AST活性に正比例しており、例えば二色性(340、700nm)レート(bichromatic rate)技術を使用して測定され得る。
【0059】
バイオマーカー「ハプトグロビン」(略してHAPT)は、当技術分野において周知である。ヒトにおいて、該タンパク質はHP遺伝子によりコードされる。ハプトグロビンは、遊離血漿ヘモグロビンを捕捉し、それと組み合わさって、ヘム鉄の肝臓再利用を可能とし、腎損傷を予防する。ハプトグロビンはまた、抗酸化物質として作用し、抗菌活性を有し、かつ急性期応答の多くの態様のモジュレーションにおいて役割を果たす。ヒトハプトグロビンポリペプチドの配列に関する情報はUniprotを介してアクセスされ得る(UniProtKB-P00738(HPT_HUMAN)を参照)。
【0060】
本明細書で使用される場合、「BNP型ペプチド」という用語は、好ましくは、pre-proBNP、proBNP、NT-proBNP、及びBNPを含む。より好ましくは、BNP型ペプチドはNT-proBNP又はBNPである。最も好ましくは、BNP型ペプチドはNT-proBNPである。プレプロペプチド(pre-proBNPの場合は134アミノ酸)は、短いシグナルペプチドを含み、該プレプロペプチドは、プロペプチド(proBNPの場合は108アミノ酸)を放出するために酵素で切断される。プロペプチドは更に、N末端プロペプチド(NT-プロペプチド、NT-proBNPの場合は76アミノ酸)及び活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸)へと切断される。好ましくは、本発明によるBNP型ペプチドは、NT-proBNP、BNP及びそれらの変異体である。BNP(脳ナトリウム利尿ペプチド)は活性ホルモンであり、それぞれの不活性対応物NT-proBNPよりも短い半減期を有する。
【0061】
バイオマーカーヘパリン結合性タンパク質(HBPと略記される)は、Cationic Antimicrobial Protein of 37kDa(CAP37)又はアズロシジンとしても公知である。それは、好中球において合成される37kDaの糖タンパク質である。さらに、それは、ヘパリンと好中球顆粒由来抗菌性並びに単球及び線維芽細胞特異的走化性糖タンパク質であることが公知である。HBPはセリンプロテアーゼスーパーファミリーに属する。しかしながら、それはプロテアーゼとして不活性である。ヒトHBPのアミノ酸配列は、UniProtを介してアクセスされ得る(UniProtKB-P20160(CAP7_HUMAN)を参照)。
【0062】
本発明による方法において、第3のバイオマーカーが決定されてもよい。特に、本発明の方法の工程(b)において、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)の量が第2のバイオマーカーとして決定される場合、方法は、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)の量を第3のバイオマーカーとして決定することを更に含むか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの量が第2のバイオマーカーとして決定される場合、方法は、BNP又はNT-proBNP等のBNP型ペプチドの量を第3のバイオマーカーとして決定することを更に含む。
【0063】
したがって、本発明は、少なくとも2つのバイオマーカー(すなわち、本明細書で言及される第1及び第2のバイオマーカー)又は少なくとも3つのバイオマーカー(すなわち、本明細書で言及される第1、第2及び第3のバイオマーカー)の決定に関する。
【0064】
第1のバイオマーカーはNGALである。第2のバイオマーカーは、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASAT)、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)、ESM-1、及びBNP型ペプチド(NT-proBNP又はBNP等)から選択されるものとする。
【0065】
代替的な実施形態では、第2のバイオマーカーは、BNP型ペプチド、例えばNT-proBNP又はBNP、好ましくはNT-proBNPである。
【0066】
代替的な実施形態では、第2のバイオマーカーはHBPである。
【0067】
代替的な実施形態では、第2のバイオマーカーはASATである。
【0068】
代替の実施形態では、第2のバイオマーカーはビリルビンである。
【0069】
代替的な実施形態では、第2のバイオマーカーはALATである。
【0070】
代替的な実施形態では、第2のバイオマーカーはESM-1である。
【0071】
HBPが第2のマーカーである場合、この方法は、第3のバイオマーカーとして、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1又はHAPT(ハプトグロビン)の量を決定することを更に含み得る。
【0072】
一実施形態では、NGAL、HBP及びビリルビンが決定される。
【0073】
代替の実施形態では、NGAL、HBP及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが決定される。
【0074】
代替の実施形態では、NGAL、HBP及びアラニンアミノトランスフェラーゼが決定される。
【0075】
代替の実施形態では、NGAL、HBP及びハプトグロビンが決定される。
【0076】
代替の実施形態では、NGAL、HBP及びESM1が決定される。
【0077】
別の実施形態では、NGAL、HBP及びIL-6が決定される。
【0078】
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの量が第2のバイオマーカーとして決定される場合、この方法は、BNP型ペプチド、例えばNT-proBNP又はBNP、好ましくはNT-proBNPの量を第3のバイオマーカーとして決定することを更に含み得る。
【0079】
本発明が上記のマーカーに限定されないことを理解されたい。むしろ、本発明は、追加のマーカーの決定を包含してもよい。
【0080】
「基準」の用語は、本明細書で使用される場合、疾患若しくは症状を患っているか、若しくはそれを発症するリスクがある対象の群、又は当該疾患若しくは症状を患っていないか、若しくはそれを発症するリスクがない対象の群のいずれかへの対象の割り当てを可能とする量又は値を指す。そのような基準は、これらの群を互いから分離する閾値量であることができる。よって、基準は、疾患若しくは症状を患っているか、若しくはそれを発症するリスクがある対象の群、又はそうでない対象の群への対象の割り当てを可能とする量又はスコアである。例えば、基準は、(上記されている予測ウィンドウ内、例えば約48時間以内に)敗血症を発症するリスクがある対象の群、又は敗血症を発症するリスクがない対象の群への対象の割り当てを可能とする量又はスコアである。
【0081】
2つの群を分離する好適な閾値量は、疾患若しくは症状を患っているか、若しくはそれを発症するリスクがあることが既知である対象若しくは対象の群又は疾患若しくは症状を患っていないか、若しくはそれを発症するリスクがないことが既知である対象若しくは対象の群のいずれかからのバイオマーカーの量に基づいて本明細書の他の箇所において言及される統計的検定により更に難なく算出され得る。個々の対象のために適用可能な基準量は、様々な生理学的パラメータ、例えば年齢、性別、又は亜集団に依存して変動し得る。
【0082】
典型的には、当該基準は、敗血症を発症するリスクがあることが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーについての基準であり、好ましくは、バイオマーカーのそれぞれについての量が、対応する基準と本質的に同一又は類似であることが、敗血症を発症するリスクがあることを示し、バイオマーカーのそれぞれについての量が、対応する基準とは異なることが、敗血症を発症するリスクがない対象を示す。
【0083】
また、典型的には、当該基準は、敗血症を発症するリスクがないことが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーについての基準であり、好ましくは、バイオマーカーのそれぞれについての量が、対応する基準と本質的に同一又は類似であることが、敗血症を発症するリスクがない対象を示し、バイオマーカーのそれぞれについての量が、対応する基準とは異なることが、敗血症を発症するリスクがある対象を示す。
【0084】
「少なくとも1の対象」という用語は、1つの対象又は1つより多くの対象、例えば少なくとも10、50、100、200、若しくは1000の対象を指す。
【0085】
一実施形態では、当該バイオマーカーについての基準よりも大きいバイオマーカーの量は、リスクがある対象(例えば敗血症を発症する)を示す。さらに、バイオマーカーの基準よりも低い当該バイオマーカーの量は、リスクがない対象を示す(ハプトグロビンを除いて:ハプトグロビンについては、当該バイオマーカーについての基準よりも低いバイオマーカーの量が、リスクがある対象について示され、当該バイオマーカーについての基準よりも高いバイオマーカーの量は、リスクがない対象について示される)。
【0086】
基準量は、原則として、標準的な統計的方法を適用することによって、所与のパラメータ、例えばバイオマーカー量についての平均又は平均値に基づいて、対象のコホートについて算出することができる。特に、事象の診断を目的とする方法等の検査が正確であるか否かは、受信者動作特性(ROC)により最もよく説明される(特に、Zweig 1993,Clin.Chem.39:561-577を参照されたい)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、全ての感受性/特異性のペアのプロットである。診断方法の臨床成績は、その正確性、すなわち対象をある特定の予後又は診断に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について、感度対1-特異性をプロットすることにより、2つの分布間の重なりを示す。y軸は、感度、又は真陽性率であり、真陽性の検査結果の数及び偽陰性の検査結果の数の積に対する、真陽性の検査結果の数の比率として定義される。これは、疾患又は症状の存在下での陽性とも呼ばれている。y軸は、影響を受ける下位群からのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、又は1-特異性であり、これは、真陰性の数及び偽陽性結果の数の積に対する、偽陽性結果の数の比率として定義される。x軸は、特異性の指標であり、影響を受けない下位群からのみ計算される。真陽性率及び偽陽性率は、2つの異なる下位群からの検査結果を使用することによって完全に別個に計算されるので、ROCプロットはコホートにおける事象の有病率に非依存性である。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に相当する感受性/-特異性の対を表す。完全な区別のある(結果の2つの分布に重なりがない)検査は、左上隅を通過するROCプロットを有しており、真陽性率は1.0、又は100%(完全な感受性)であり、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つの群についての結果の分布が同一である)検査についての理論上のプロットは、左下隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間に収まる。ROCプロットが45°対角線を完全に下回って収まる場合、これは、「陽性率」についての基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることによって、容易に修正される。定性的には、プロットが左上隅に近いほど、検査の全体的な精度が高くなる。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導くことができ、これにより、感度及び特異性の適切な平衡状態をそれぞれ備えた所与の事象についての診断又は予測が可能になる。したがって、本発明の前述の方法に使用される基準、すなわち、リスクがある対象とリスクがない対象とを識別することを可能にする閾値は、通常、上記のように当該コホートのROCを確立し、そこから閾値量を導出することによって生成することができる。診断方法についての所望の感度及び特異性に応じて、ROCプロットは、適切な閾値を導くことができる。リスクが高い対象を除外(すなわち、ルールアウト)するためには最適な感度が望ましいが、リスクが高いと評定される(すなわち、ルールイン)対象については最適な特異度が想定されることが理解されよう。
【0087】
本発明の方法の工程c)は、バイオマーカー(すなわち第1のバイオマーカー、第2のバイオマーカー及び任意に第3のバイオマーカー)の量についての基準を当該バイオマーカーの基準と比較し、かつ/又はバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアを計算することを含む。
【0088】
そのため、それぞれ第1のバイオマーカー、第2のバイオマーカー及び任意に第3のバイオマーカーの量は、第1のバイオマーカーについての基準、第2のバイオマーカーについての基準及び任意に第3のバイオマーカーについての基準と比較されてもよい。
【0089】
代替的に、スコアは、バイオマーカーの量に基づいて、すなわち第1のバイオマーカー、第2のバイオマーカー及び、任意に第3のバイオマーカーの量に基づいて算出されてもよい。当該スコアは、感染が疑われる対象を評定すること、例えば敗血症を発症するリスクを予測することを可能とする。任意に、当該スコアは、好適な基準スコアと比較されてもよい。
【0090】
「比較する」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書において言及されているバイオマーカーについての決定された量を基準と比較することを包含する。比較は、本明細書で使用される場合、量についての値と基準との間で実行される任意の種類の比較を指すことが理解されるべきである。しかしながら、好ましくは、同一のタイプの値が互いと比較され、例えば、絶対量が本発明の方法において決定され、比較される場合、基準もまた絶対量であり、相対量が本発明の方法において決定され、比較される場合、基準もまた相対量であること等が理解されるべきである。代替的に、「比較する」という用語は、本明細書で使用される場合、算出されたスコアを好適な基準スコアと比較することを包含する。比較は、手動又はコンピュータ支援により実行することができる。量及び基準の値は、例えば、互いに比較することができ、また当該比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムにより自動的に実施され得る。当該評価を実施するコンピュータプログラムは、適切な出力形式で、所望の評定を提供する。
【0091】
上記のように、第1及び第2のバイオマーカー、又は第1、第2若しくは第3のバイオマーカーの量、すなわち単一のスコアに基づいてスコア(特に単一のスコア)を算出すること、並びにこのスコアを基準スコアと比較することもまた想定される。好ましくは、スコアは、試験対象からの試料中の第1及び第2のバイオマーカーの量に基づき、第3のバイオマーカーの量が決定される場合、試験対象からの試料中の第1、第2及び第3のバイオマーカーの量に基づく。
【0092】
算出されたスコアは、少なくとも2又は3つのバイオマーカーの量に関する情報を組み合わせている。さらに、スコアにおいて、バイオマーカーは、好ましくは、評定の確立に対するそれらの寄与にしたがって重み付けされる。そのため、個々のマーカーについての値は典型的には重み付けされ、重み付けされた値がスコアを計算するために使用される。好適な係数(重み)は、当業者により更に難なく決定され得る。スコアはまた、少なくとも2つのバイオマーカーに対して訓練された決定木又は決定木のセット(アンサンブル)から算出され得る。本発明の方法で適用されるバイオマーカーの組み合わせに基づいて、個々のバイオマーカーの重み並びに決定木の構造は異なり得る。
【0093】
スコアは、本明細書に記載されるように対象を評定するための分類器パラメータとみなされ得る。特に、それは、単一のスコアに基づく評定を提供することを可能にする。基準スコアは、好ましくは値、特に、本明細書に記載されるように感染が疑われる対象を評定することを可能とするカットオフ値である。好ましくは、基準は単一の値である。そのため、個々のバイオマーカーの量に関する全情報を解釈する必要はない。本明細書に記載されているスコアリングシステムを使用して、有利には、バイオマーカーのために異なる次元又は単位の値が使用されてもよく、その理由は、値はスコアに数学的に変換されるからである。よって、例えば絶対的な濃度についての値は、スコアにおいてピーク面積比と組み合わせられてもよい。応用される基準スコアは、所望される感度又は所望される特異性に基づいて選択されてもよい。好適な基準スコアを選択する方法は当技術分野において周知である。
【0094】
有利なことに、第2及び、好ましくは、第3のバイオマーカーとの第1のバイオマーカーの組合せは、感染症の徴候及び症状を呈する患者の信頼できるかつ早期の評定を可能とすることが本発明の基礎となる研究において見出されている。例えば、対象の評定は、試験試料が得られてから5時間以内に行うことができる。研究において、医療(非外科)救急である救急部に来院している患者が調べられた。この目的のために、患者は、高い確率で敗血症を患っている患者及び敗血症を伴わずに感染症を患っていることが疑われる患者に更に分けられた。様々なバイオマーカーの量が決定されており、バイオマーカーは、ロジスティック回帰分析を介して分析され、数学的に組み合わせられた。バイオマーカー性能を評価するために受信者動作特性曲線下面積(AUC)が使用された。AUC値は、区間[a][b]内での関数f(x)の数学的積分である。AUCはまた、バイオマーカーペア及びトリプレットについても調べられた。一緒になって最良の単一バイオマーカーAUCに対するAUCの向上を示すバイオマーカーの組合せが同定された。結果は、以下の付随する実施例に記載される。
【0095】
特に、これらの患者が、例えば、救急処置室に現れている場合、重度合併症、例えば敗血症、SIRS又は全体的健康状態の一般的悪化を発症するリスクの早期評定は、薬物投与、物理的若しくは他の治療的介入及び/又は入院を含む治療的措置を開始するために決定的である。これらの治療的措置は、特に、例えば、広域抗生物質の迅速な投与、輸液蘇生、血管作動性薬物治療、機械的換気、他の臓器サポート(例えば、連続的な血液濾過、体外膜型人工肺)を含み得る。治療的措置として包含されるのはまた、より高レベルの治療(例えば集中治療室、中間治療室)へのトリアージである。重度合併症のリスクがない場合、患者は、退院させて外来状況において管理され得るか、又は病院の低レベル治療(例えば一般病棟)に入院させられ得る。本発明のおかげで、患者はバイオマーカー判定により早期ステージにおいて評定され得るので、生命を脅かす発症が予防され得る。本発明の基礎となる研究において同定されたバイオマーカーペア及びトリプレットは、医学的決定のための信頼できる基礎であり、評定は、時間及び費用効果の高い方式で行われ得る。
【0096】
そのため、本発明の方法は、適切な治療措置を推奨又は開始することを更に含んでもよい。典型的には、当該適切な治療措置は、International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock(Intensive Care Med,2017)等の敗血症の管理のための医療ガイドライン又は推奨から選択される。例えば、治療措置は、敗血症の処置、又は更なる診断調査、又は専門家が必要と考えるケアの他の態様であり得る。
【0097】
一実施形態では、患者にリスクがあると評定された場合に推奨又は開始される治療措置は、以下から選択される。
・セファロスポリン、ベータ-ラクタム/ベータ-ラクタマーゼ阻害剤(例えば、ピペラシリン)、又はカルバペネム等の少なくとも1つ以上の広域抗生物質、典型的には可能性の高い病原体と考えられる生物及び抗生物質感受性に応じた、経験的広域治療の投与
・輸液による蘇生
・ノルエピネフリンの投与等の1つ以上の血管収縮薬の投与、並びに
・ヒドロコルチゾンの投与等の1つ以上のコルチコステロイドの投与
【0098】
本明細書での上記の定義は、必要な変更を加えて以下に適用される:
【0099】
本発明はまた、感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)対象の試料中の第1のバイオマーカーの量についての値を受け取る工程であって、当該第1のバイオマーカーがNGALである、工程、
(b)対象の試料中の第2のバイオマーカーの量についての値を受け取る工程であって、当該第2のバイオマーカーが、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチド(NTproBNP又はBNP等)からなる群から選択される工程、
(c)バイオマーカーの量についての値を当該バイオマーカーについての基準と比較し、かつ/又はバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアを計算する工程、並びに
(d)工程(c)で行われた比較及び/又は計算に基づいて当該対象を評定する工程、を含む、感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法に関する。
【0100】
「コンピュータ実装」という用語は、本明細書で使用される場合、方法が、典型的には、コンピュータ又は類似したデータ処理デバイス中に含まれる、データ処理ユニット上で自動化された様式で実行されることを意味する。データ処理ユニットは、バイオマーカーの量についての値を受け取る。そのような値は、本明細書の他の箇所において詳細に記載されている量を反映する量、相対量又は任意の他の算出された値であることができる。よって、上述の方法は、バイオマーカーについての量の決定を要求せず、むしろ既に予め決定された量についての値を使用することが理解されるべきである。
【0101】
典型的には、当該方法の工程(b)において、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)の量についての値が第2のバイオマーカーとして受け取られる場合、方法が、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1若しくはHAPT(ハプトグロビン)の量についての値を第3のバイオマーカーとして受け取ることを更に含むか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの量についての値を第2のバイオマーカーとして受け取る場合、方法が、BNP型ペプチドの量についての値を第3のバイオマーカーとして受け取ることを更に含む。
【0102】
本発明はまた、原理的に、コンピュータプログラム、コンピュータプログラム製品、又はコンピュータプログラムが有形的に組み込まれたコンピュータ可読記憶媒体も企図し、当該コンピュータプログラムは、データ処理デバイス又はコンピュータで実行されると上記のような本発明の方法を実行する、命令を含む。具体的には、本開示は、以下を更に包含する:
-少なくとも1つのプロセッサを備えており、プロセッサは、本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されているコンピュータ又はコンピュータネットワーク、
-コンピュータ上で実行されているときに、本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されたコンピュータロード可能データ構造、
-コンピュータスクリプトであって、コンピュータプログラムが、プログラムがコンピュータ上で実行されている間に、本明細書に記載された実施形態のうちの1つの方法を実行するように適合されている、コンピュータスクリプト、
-コンピュータ上又はコンピュータネットワーク上で実行されているときに、本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するためのプログラム手段を備えるコンピュータプログラム、
-プログラム手段がコンピュータに読み取り可能な記憶媒体上に保存された、先行する実施形態によるプログラム手段を備えるコンピュータプログラム、
-データ構造が記憶媒体に保存され、データ構造が、コンピュータ若しくはコンピュータネットワークの主記憶装置及び/又は作業記憶装置にロードされた後、本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように適合された、記憶媒体、
-コンピュータ又はコンピュータネットワーク上でプログラムコード手段が実行された場合に、この明細書に記載された実施形態のうちの1つによる方法を実行するために、プログラムコード手段が保存されることができる、又は記憶媒体上に保存されることができる、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品、
-本明細書の他の箇所で定義されているパラメータのデータを含む、典型的には暗号化されたデータストリーム信号、並びに
-本発明の方法によって提供される評定を含む、典型的には暗号化されたデータストリーム信号。
【0103】
本発明は、感染が疑われる対象を評定するためのデバイスであって、
(a)対象の試料中の、NGALである第1のバイオマーカー、並びにHBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカーの量を決定するための測定ユニットであって、第1のバイオマーカー及び第2のバイオマーカーに対する検出システムを含む、当該測定ユニットと、
(b)測定ユニットに動作可能に連結された評価ユニットであって、好ましくは上記に記載されるような、第1のバイオマーカー及び第2のバイオマーカーについての保存された基準を有するデータベースと、好ましくは上記に記載されるような、第1のバイオマーカー及び第2のバイオマーカーの量と基準との比較を実行するため、及び/又はバイオマーカーの量に基づいて感染が疑われる対象を評定するためのスコアの計算を実行するための、並びに比較に基づいて当該対象を評定するための命令を含むデータプロセッサとを備え、測定ユニットからバイオマーカーの量についての値を自動的に受信することができる、評価ユニットと、を含む、感染が疑われる対象を評定するためのデバイスに関する。
【0104】
「デバイス」という用語は、本明細書で使用される場合、評定が提供され得るように本発明の方法によるバイオマーカーの量の決定及びその評価を可能とするように互いに機能的に連結された上述のユニットを含むシステムに関する。
【0105】
分析ユニットは、典型的には、試料と接触させられる固体支持体又は担体上に固定化された形態で第1及び第2のバイオマーカー及び、好ましくはまた第3のバイオマーカー用のバイオマーカー検出剤を有する少なくとも1つの反応ゾーンを含む。さらに、反応ゾーンにおいて、試料中に含まれるバイオマーカーに対する検出剤(複数可)の特異的結合を可能とする条件を適用することが可能である。
【0106】
反応ゾーンは、試料適用を直接的に可能としてもよく、又は試料が適用されるローディングゾーンに接続されていてもよい。後者の場合、試料は、ローディングゾーンと反応ゾーンとの間の接続を介して反応ゾーンに能動的に又は受動的に輸送され得る。さらに、反応ゾーンはまた、検出器に接続される。接続は、検出器がバイオマーカーのそれらの検出剤への結合を検出できるようなものである。好適な接続は、バイオマーカーの存在又は量を測定するために使用される技術に依存する。例えば、光学的な検出のために、光の伝播が検出器と反応ゾーンとの間に要求されることがあり、電気化学的決定のために、流体接続が、例えば、反応ゾーンと電極との間に、要求されることがある。
【0107】
検出器は、バイオマーカーの量の決定を検出するように適合される。決定された量は引き続いて評価ユニットに伝達され得る。当該評価ユニットは、試料中に存在する量を決定するためのアルゴリズムが実装されたデータ処理要素、例えばコンピュータを含む。
【0108】
本発明の方法にしたがって言及されている処理ユニットは、典型的には、中央処理装置(CPU)及び/又は1つ以上のグラフィック処理ユニット(GPU)及び/又は1つ以上の特定用途向け集積回路(ASIC)及び/又は1つ以上のテンソル処理ユニット(TPU)及び/又は1つ以上のフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)等を備える。データ処理要素は、例えば、汎用コンピュータ又は携帯型コンピューティングデバイスであってもよい。本明細書に開示される方法の1つ以上の工程を行うために、ネットワーク越しに又はデータを転送する他の方法等で、複数のコンピューティングデバイスが一緒に使用されてもよいこともまた理解されるべきである。例示的なコンピューティングデバイスは、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、パーソナルデータアシスタント(「PDA」)、セルラーデバイス、スマート又はモバイルデバイス、タブレットコンピュータ、及びサーバー等を含む。一般に、データ処理要素は、複数の命令(例えばソフトウェアのプログラム)を実行することができるプロセッサを含む。
【0109】
評価ユニットは、典型的には、メモリを含むか、又はメモリに対するアクセスを有する。メモリはコンピュータ読取り可能な媒体であり、例えば、コンピューティングデバイスとローカルに位置するか、又はネットワークを通じてコンピューティングデバイスにアクセス可能な単一のストレージデバイス若しくは複数のストレージデバイスを含んでもよい。コンピュータ読取り可能な媒体は、コンピューティングデバイスによりアクセス可能な任意の利用可能な媒体であってもよく、揮発性媒体及び非揮発性媒体の両方を含む。さらに、コンピュータ読取り可能な媒体は、リムーバブル媒体及び非リムーバブル媒体の一方又は両方であってもよい。例として、非限定的に、コンピュータ読取り可能な媒体はコンピュータストレージ媒体を含んでもよい。例示的なコンピュータストレージ媒体は、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリー若しくは任意の他のメモリ技術、CD-ROM、デジタル多用途ディスク(DVD)若しくは他の光学ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ若しくは他の磁気ストレージデバイス、又はコンピューティングデバイスによりアクセス可能であり、かつコンピューティングデバイスのプロセッサにより実行可能な複数の命令を保存するために使用され得る任意の他の媒体を含むが、それに限定されない。
【0110】
本開示の実施形態によれば、ソフトウェアは、コンピューティングデバイスのプロセッサにより実行された場合に、本明細書に開示される方法の1つ以上の工程を行い得る命令を含んでもよい。命令の一部は、他の機械の作動を制御する信号を生成するように適合されていてもよく、そのためそれらの制御信号を通じて、コンピュータそれ自体から遠く離れたマテリアルを変換するように作動してもよい。これらの記述及び表現は、データ処理技術の当業者によって、例えば、研究の内容を他の当業者に最も効果的に伝えるために使用される手段である。
【0111】
複数の命令はまた、所望される結果に繋がるつじつまの合う工程の配列であると一般に考えられるアルゴリズムを含んでもよい。これらの工程は、物理量の物理的マニピュレーションを要求するものである。必ずしもそうではないが、通常、これらの量は、保存、伝達、変換、結合、比較、及び他にマニピュレートされることができる電気的な又は磁気的なパルス又はシグナルの形態を取る。これらの信号を、そのような信号が具体化又は表現される物理的な項目又は表現の参照として、値、文字、表示データ、数字等として参照することは、主に一般的な使用上の理由から、時には便利であることが判明している。しかしながら、これらの及び類似した用語の全ては、適切な物理量と関連付けられ、これらの量に適用される好都合な標識として本明細書において単に使用されていることが留意されるべきである。
【0112】
評価ユニットはまた、出力デバイスを含んでもよいか、又は出力デバイスに対するアクセスを有し得る。例示的な出力デバイスは、例えば、ファックス機、ディスプレイ、プリンター、及びファイルを含む。本開示の一部の実施形態によれば、コンピューティングデバイスは、本明細書に開示される方法の1つ以上の工程を行い、その後に、方法の結果、指標、比又は他の因子に関する出力を、出力デバイスを介して提供してもよい。
【0113】
典型的には、当該測定ユニットは、第3のバイオマーカーに対する検出システムを決定し備え、当該データベースは、第3のバイオマーカーについての保存された基準を備え、当該第3のバイオマーカーは、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)であるか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが第2のバイオマーカーである場合、BNP若しくはNT-proBNP等のBNP型ペプチドである。
【0114】
より典型的には、当該検出システムは、バイオマーカーのそれぞれを特異的に検出することができる少なくとも1つの検出剤を含む。
【0115】
本発明は、更に、感染が疑われる対象を評定するためのデバイスであって、NGALである第1のバイオマーカー、並びにHBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカーについての保存された基準を有するデータベースと、好ましくは上記のように、第1のバイオマーカー及び第2のバイオマーカーの量と基準との比較を実行するための、かつ比較に基づいて当該対象を評定するための命令を含むデータプロセッサと、を含む評価ユニットを含み、当該評価ユニットが、当該対象の試料において決定されたバイオマーカーの量についての値を受け取ることができる、感染が疑われる対象を評定するためのデバイスを企図する。
【0116】
典型的には、当該データベースは、第3のバイオマーカーについての保存された基準を含み、当該第3のバイオマーカーは、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、又はHAPT(ハプトグロビン)である、
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが第2のバイオマーカーである場合、BNP若しくはNT-proBNP等のBNP型ペプチドである。
【0117】
本発明はまた、原則として、NGALである第1のバイオマーカー、並びにHBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNPペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカー、又は当該第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤及び当該第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤の、感染が疑われる対象を評定するための使用に関する。
【0118】
本明細書で使用される場合、「検出剤」という用語は、典型的には、バイオマーカーに特異的に結合する任意の薬剤、すなわち試料中に存在する他の成分と交差反応しない薬剤を指す。典型的には、本明細書において言及されているバイオマーカーに特異的に結合する検出剤は、抗体、抗体断片若しくは誘導体、アプタマー、バイオマーカーのリガンド、バイオマーカーの受容体、バイオマーカーに結合しかつ/若しくはバイオマーカーを変換させることが既知である酵素、又はバイオマーカーに特異的に結合することが既知である小分子であってもよい。例えば、検出剤として本明細書において言及されている抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の両方の他に、その断片、例えば抗原又はハプテンに結合することができるFv、Fab及びF(ab)2断片を含む。本発明はまた、単鎖抗体、及び、所望される抗原特異性を呈する非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列がヒトアクセプター抗体の配列と組み合わせられたヒト化ハイブリッド抗体を含む。ドナー配列は、ドナーの少なくとも抗原結合性アミノ酸残基を通常含むが、ドナー抗体の他の構造的に及び/又は機能的に妥当なアミノ酸残基もまた含むことができる。そのようなハイブリッドは、当技術分野において周知のいくつかの方法により調製され得る。例えば、アプタマー検出剤は核酸又はペプチドアプタマーであってもよい。そのようなアプタマーを調製する方法は当技術分野において周知である。例えば、ランダム突然変異が、アプタマーのための基礎となる核酸又はペプチドに導入され得る。これらの誘導体は次に、当技術分野において公知のスクリーニング手順、例えばファージディスプレイにしたがって結合について試験され得る。検出剤の特異的結合は、分析される試料中に存在する別のペプチド、ポリペプチド又は物質と実質的に結合しない、すなわち交差反応しないことを意味する。好ましくは、特異的に結合したバイオマーカーは、試料の任意の他の成分よりも少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高い、よりいっそう好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合しているべきである。非特異的結合は、それが、例えばウエスタンブロット上でのそのサイズにしたがって、又は試料中でのその相対的により高い存在量により、依然として明確に区別及び測定され得る場合に、許容できることがある。
【0119】
検出剤は、検出可能な標識に永久的に又は可逆的に融合又は連結していてもよい。適切な標識は当業者に周知である。好適な検出可能な標識は、適切な検出方法で検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性及び超常磁性標識を含む)、及び蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びそれらの誘導体が挙げられる。検出に適した基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnostics製の既成の保存溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスファート)、CDP-Star(商標)(Amersham Biosciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が挙げられる。適切な酵素-基質の組み合わせにより、着色された反応産物、蛍光又は化学発光が生じてもよく、これは、当該技術分野で公知の方法によって(例えば感光フィルム又は適切なカメラシステムを使用して)、測定することができる。酵素反応を測定することについては、上記の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、及びAlexa色素(例えばAlexa568)が挙げられる。更なる蛍光標識が、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が、企図される。典型的な放射性標識には、35S、125I、32P、33P等が含まれる。放射性標識は、公知かつ適切な、例えば感光膜又はホスホイメージャー(phosphor imager)等の任意の方法により検出され得る。適切な標識はまた、ビオチン、ジゴキシゲニン、His-Tag、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-tag、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質等のタグであり得るか、又はそれらを含み得る。
【0120】
AST、ALT、アルブミン、ビリルビン及びクレアチニン等のバイオマーカーのための好ましい薬剤は、例えば実施例に記載されている。
【0121】
バイオマーカーがAST又はALT等の酵素である場合、検出剤は、酵素の基質、又は検出に使用される任意の薬剤であり得る(実施例を参照)。
【0122】
一実施形態では、ALT(ALAT)用の検出剤は、例えばL-アラニンである。
【0123】
一実施形態において、AST(ASAT)用の検出剤は例えばL-アスパルテートである。
【0124】
クレアチニン用の検出剤は、例えばクレアチニナーゼ、又は検出のために使用される任意の剤である(実施例を参照)。
【0125】
アルブミンの検出剤は、例えばブロムクレゾールパープルである。
【0126】
ビリルビン用の検出剤は、例えば、亜硝酸ナトリウム及びスルファニル酸、又は検出のために使用される任意の剤である(実施例を参照)。
【0127】
本明細書に記載されているバイオマーカーの決定は、(例えばLC又はHPLCによる)分離工程後に実行される質量分析(MS)を含んでもよい。質量分析は、本明細書で使用される場合、分子量(すなわち質量)又は本発明にしたがって決定されるべき化合物、すなわちバイオマーカーに対応する質量変数の決定を可能とする全ての技術を包含する。好ましくは、質量分析は、本明細書で使用される場合、GC-MS、LC-MS、直接注入質量分析、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析、任意の逐次的に連結された質量分析、例えばMS-MS若しくはMS-MS-MS、ICP-MS、Py-MS、TOF又は上述の技術を使用する任意の組み合わせられたアプローチに関する。これらの技術をどのように適用するかは、当業者に周知である。さらに、適切なデバイスが市販されている。より好ましくは、質量分析は、本明細書で使用される場合、LC-MS及び/又はHPLC-MS、すなわち先行する液体クロマトグラフィー分離工程に機能的に連結されている質量分析に関する。好ましくは、質量分析はタンデム質量分析(MS/MSとしても公知)である。タンデム質量分析は、MS/MSとしても公知であり、2つ又はより多くの質量分析工程を伴い、断片化がステージの間に行われる。タンデム質量分析において、連続した2つの質量分析計がコリジョンセルにより接続される。質量分析計はクロマトグラフィーデバイスに連結される。クロマトグラフィーにより分離された試料は、第1の質量分析計において選別及び計量され、次にコリジョンセルにおいて不活性ガスにより断片化され、1つ以上の小片は第2の質量分析計において選別及び計量される。断片は、第2の質量分析計において選別及び計量される。MS/MSによる同定はより正確である。
【0128】
一実施形態において、質量分析は、本明細書で使用される場合、四重極MSを包含する。最も好ましくは、当該四重極MSは以下のように実行される:a)質量分析計の第1の分析四重極におけるイオン化により作出されたイオンの質量/電荷比(m/z)の選択、b)コリジョンガスを充填されており、コリジョンチャンバーとして作用する追加の引き続いての四重極において加速電圧を印加することによる工程a)において選択されたイオンの断片化、c)追加の引き続いての四重極における工程b)における断片化プロセスにより作出されたイオンの質量/電荷比の選択が為され、方法の工程a)~c)は少なくとも1回実行され、イオン化プロセスの結果として物質の混合物中に存在する全てのイオンの質量/電荷比の分析が実行され、四重極はコリジョンガスで充填されているが、加速電圧は分析の間に印加されない。本発明にしたがって使用される当該最も好ましい質量分析に関する詳細は、国際公開第2003/073464号において見出され得る。
【0129】
より好ましくは、当該質量分析は、液体クロマトグラフィー(LC)MS、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)MS、特にHPLC-MS/MSである。液体クロマトグラフィーは、本明細書で使用される場合、液体又は超臨界相中の化合物(すなわち代謝物)の分離を可能とする全ての技術を指す。
【0130】
質量分析のために、試料中のアナライトは、荷電分子又は分子断片を生成するためにイオン化される。その後、イオン化されたアナライト、特にイオン化されたバイオマーカー、又はその断片の質量-電荷が測定される。イオン化に先立って、試料は、プロテアーゼ、例えばトリプシンでの切断に供されてもよい。プロテアーゼは、タンパク質バイオマーカーをより小さい断片に切断する。
【0131】
そのため、質量分析工程は、好ましくは、決定されるべきバイオマーカーがイオン化されるイオン化工程を含む。当然、試料/溶出液中に存在する他の化合物もまたイオン化される。バイオマーカーのイオン化は、適切であるとみなされる任意の方法により、特に電子衝撃イオン化、高速原子衝突、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)により実行され得る。
【0132】
好ましい実施形態において、(質量分析のための)イオン化工程はエレクトロスプレーイオン化(ESI)により実行される。よって、質量分析は好ましくはESI-MS(又はタンデムMSが実行される場合、ESI-MS/MS)である。エレクトロスプレーは、いかなる化学結合も壊すことなくイオンの形成を結果としてもたらすソフトイオン化方法である。
【0133】
より典型的には、第3のバイオマーカー又は当該第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤が更に使用され、当該第3のバイオマーカーは、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)であるか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが第2のバイオマーカーである場合、BNP若しくはNT-proBNP等のBNP型ペプチドである。
【0134】
本発明はまた、感染が疑われる対象を評定するための、NGALである第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤と、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤とを含む、キットに関する。
【0135】
本明細書で使用される場合、「キット」という用語は、典型的には、別個に又は単一の容器内に提供される、上述の構成要素の集合を指す。容器はまた、典型的には、本発明の方法を実施するための説明書も含む。これらの説明書は、マニュアルの形式であってもよく、又はコンピュータ若しくはデータ処理デバイス上で実行される場合に本発明の方法において言及されるバイオマーカーの決定を実行若しくはサポートすることができるコンピュータプログラムコードにより提供されてもよい。コンピュータプログラムコードは、データストレージ媒体若しくはデバイス、例えば光学ストレージ媒体(例えば、コンパクトディスク)上に若しくは直接的にコンピュータ若しくはデータ処理デバイス上に提供されてもよく、又はダウンロードフォーマット、例えばアクセス可能なサーバー若しくはクラウドへのリンクにおいて提供されてもよい。さらに、キットは、本明細書の他の箇所において詳細に記載されている軟正目的のためにバイオマーカーの基準量のための標準品を通常は含んでもよい。本発明によるキットはまた、本発明の方法を実行するために必要な更なる成分、例えば溶媒、緩衝剤、洗浄溶液及び/又は放出された第2の分子の検出のために要求される試薬を含んでもよい。さらに、それは、本発明のデバイスを部分的に又は全体的に含んでもよい。
【0136】
より典型的には、キットは、第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤を更に含み、当該第3のバイオマーカーは、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)であるか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが第2のバイオマーカーである場合、BNP若しくはNT-proBNP等のBNP型ペプチドである。
【0137】
上記で実行された用語の定義及び説明は、本明細書及び添付の請求項において記載される全ての実施形態のために然るべく適用されることが理解されるべきである。以下の実施形態は、本発明にしたがって想定される特定の実施形態である。
【0138】
1.感染が疑われる対象を評定するための方法であって、
(a)前記対象の試料中の第1のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第1のバイオマーカーがNGALである、工程、
(b)前記対象の試料中の第2のバイオマーカーの量を決定する工程であって、前記第2のバイオマーカーが、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される、工程、
(c)前記バイオマーカーの前記量を前記バイオマーカーについての基準と比較し、かつ/又は前記バイオマーカーの前記量に基づいて感染が疑われる前記対象を評定するためのスコアを計算する工程、並びに
(d)工程(c)で行われた前記比較及び/又は前記計算に基づいて前記対象を評定する工程、を含む、感染が疑われる対象を評定するための方法。
【0139】
2.工程(b)において、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)の前記量が前記第2のバイオマーカーとして決定される場合、前記方法が、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)の量を第3のバイオマーカーとして決定することを更に含むか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの前記量が前記第2のバイオマーカーとして決定される場合、前記方法が、BNP又はNT-proBNP等のBNP型ペプチドの量を第3のバイオマーカーとして決定することを更に含む、実施形態1に記載の方法。
【0140】
3.前記対象が、救急部に来院している対象である、実施形態1又は2に記載の方法。
【0141】
4.前記評定が、敗血症を発症するリスクの評定及び/又は前記対象の症状が悪化するリスクの評定である、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0142】
5.前記基準が、敗血症を発症するリスクがあることが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーについての基準であり、好ましくは、前記バイオマーカーのそれぞれについての量が、前記対応する基準と本質的に同一又は類似であることが、敗血症を発症するリスクがある対象を示し、前記バイオマーカーのそれぞれについての量が、前記対応する基準とは異なることが、敗血症を発症するリスクがない対象を示す、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0143】
6.前記基準が、敗血症を発症するリスクがないことが既知である少なくとも1の対象に由来する各バイオマーカーについての基準であり、好ましくは、前記バイオマーカーのそれぞれについての量が、前記対応する基準と本質的に同一又は類似であることが、敗血症を発症するリスクがない対象を示し、前記バイオマーカーのそれぞれについての量が、前記対応する基準とは異なることが、敗血症を発症するリスクがある対象を示す、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0144】
7.前記対象が、感染症に罹患しているか、又は感染症に罹患していることが疑われる、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0145】
8.前記試料が、血液試料又はそれに由来する試料である、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0146】
9.前記対象が、ヒトである、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0147】
10.感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)前記対象の試料中の第1のバイオマーカーの量についての値を受け取る工程であって、前記第1のバイオマーカーがNGALである、工程、
(b)前記対象の試料中の第2のバイオマーカーの量についての値を受け取る工程であって、前記第2のバイオマーカーが、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される、工程、
(c)前記バイオマーカーの前記量についての前記値を前記バイオマーカーについての基準と比較し、かつ/又は前記バイオマーカーの前記量に基づいて感染が疑われる前記対象を評定するためのスコアを計算する工程、並びに
(d)工程(c)で行われた前記比較及び/又は前記計算に基づいて前記対象を評定する工程、を含む、感染が疑われる対象を評定するためのコンピュータ実装方法。
【0148】
11.工程(b)において、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)の前記量についての前記値が第2のバイオマーカーとして受け取られる場合、前記方法が、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1若しくはHAPT(ハプトグロビン)の量についての値を第3のバイオマーカーとして受け取ることを更に含むか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの前記量についての前記値を前記第2のバイオマーカーとして受け取る場合、前記方法が、BNP型ペプチドの量についての値を第3のバイオマーカーとして受け取ることを更に含む、実施形態10に記載の方法。
【0149】
12.感染が疑われる対象を評定するためのデバイスであって、
(a)前記対象の試料中の、NGALである第1のバイオマーカー、並びにHBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカーの量を決定するための測定ユニットであって、前記第1のバイオマーカー及び前記第2のバイオマーカーに対する検出システムを含む、測定ユニットと、
(b)前記測定ユニットに動作可能に連結された評価ユニットであって、好ましくは実施形態1~9のいずれか1つに記載されるような、前記第1のバイオマーカー及び前記第2のバイオマーカーについての保存された基準を有するデータベースと、好ましくは実施形態1~9のいずれか1つに記載されるような、前記第1のバイオマーカー及び前記第2のバイオマーカーの前記量と基準との比較を実行するため、及び/又は前記バイオマーカーの前記量に基づいて感染が疑われる前記対象を評定するためのスコアの計算を実行するための、並びに前記比較に基づいて前記対象を評定するための命令を含むデータプロセッサとを備え、前記測定ユニットから前記バイオマーカーの前記量についての値を自動的に受信することができる、評価ユニットと、
を含む、感染が疑われる対象を評定するためのデバイス。
【0150】
13.前記測定ユニットが、第3のバイオマーカーに対する検出システムを決定し備え、前記データベースが、第3のバイオマーカーについての保存された基準を備え、前記第3のバイオマーカーが、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が前記第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)であるか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが前記第2のバイオマーカーである場合、BNP若しくはNT-proBNP等のBNP型ペプチドである、実施形態12に記載のデバイス。
【0151】
14.前記検出システムが、前記バイオマーカーのそれぞれを特異的に検出することができる少なくとも1つの検出剤を含む、実施形態12又は13に記載のデバイス。
【0152】
15.感染が疑われる対象を評定するためのデバイスであって、NGALである第1のバイオマーカー、並びにHBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカーについての保存された基準を有するデータベースと、好ましくは実施形態1~11のいずれか1つに記載されるような、前記第1のバイオマーカー及び前記第2のバイオマーカーの前記量と基準との比較を実行するための、及び前記比較に基づいて前記対象を評定するための命令を含むデータプロセッサとを含み、前記対象の試料において決定された前記バイオマーカーの前記量についての値を受け取ることができる、評価ユニットと、を含む、
感染が疑われる対象を評定するためのデバイス。
【0153】
16.前記データベースが、第3のバイオマーカーについての保存された基準を含み、前記第3のバイオマーカーが、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が前記第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、又はHAPT(ハプトグロビン)である、
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが前記第2のバイオマーカーである場合、BNP型ペプチド、例えばBNP又はNT-proBNPである、実施形態15に記載のデバイス。
【0154】
17.i)NGALである第1のバイオマーカー、並びにHBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカー、又はii)前記第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤及び前記第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤の、感染が疑われる対象を評定するための使用。
【0155】
18.前記第3のバイオマーカー又は前記第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤が更に使用され、前記第3のバイオマーカーが、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が前記第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)であるか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが前記第2のバイオマーカーである場合、BNP若しくはNT-proBNP等のBNP型ペプチドである、実施形態17に記載の使用。
【0156】
19.NGALである第1のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤と、HBP(ヘパリン結合タンパク質)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ESM-1及びBNP型ペプチドからなる群から選択される第2のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤とを含む、感染が疑われる対象を評定するためのキット。
【0157】
20.前記キットが、第3のバイオマーカーに特異的に結合する検出剤を更に含み、前記第3のバイオマーカーが、
(i)HBP(ヘパリン結合タンパク質)が前記第2のバイオマーカーである場合、ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、IL6、ESM-1、若しくはHAPT(ハプトグロビン)であるか、又は
(ii)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼが前記第2のバイオマーカーである場合、BNP若しくはNT-proBNP等のBNP型ペプチドである、実施形態19に記載のキット。
【0158】
21.前記評定が敗血症を発症するリスクの評定である、実施形態1~20のいずれか1つに記載の方法、デバイス、使用又はキット。
【0159】
22.48時間以内に敗血症を発症するリスクが予測される、実施形態1~21のいずれか1つに記載の方法、デバイス、使用又はキット。
【0160】
本明細書を通して引用された全ての参考文献は、上記で具体的に言及された開示内容及びその全体に関して本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0161】
実施例1:バイオマーカーの決定
GDF-15の決定のためのElecsys(登録商標)電気化学発光(ECL)技術及びアッセイ方法を以下に簡単に説明する。GDF-15の濃度は、cobas e 801分析装置によって決定した。cobas e 801分析装置を用いたGDF-15の検出は、Elecsys(登録商標)電気化学発光(ECL)技術に基づく。簡潔には、ビオチン標識及びルテニウム標識抗体をそれぞれの量の未希釈試料と合わせ、分析装置でインキュベートする。続いて、ビオチン標識免疫複合体の結合を促進するために、ストレプトアビジン被覆磁性微粒子を添加し、機器でインキュベートする。このインキュベーション工程の後、反応混合物を測定セルに移し、そこでビーズを電極の表面に磁気的に捕捉する。次いで、結合したイムノアッセイ複合体を遊離の残りの粒子から分離するために、その後のECL反応のためのトリプロピルアミン(TPA)を含有するProCell M緩衝液を測定セルに導入する。次いで、作用電極と対電極との間の電圧の誘導は、ルテニウム錯体及びTPAによる光子の放出をもたらす反応を開始させる。光電子増倍管によって得られた電気化学発光シグナルは、記録され、それぞれの分析物の濃度レベルを示す数値に変換される。
【0162】
SFLT1又はsFLT-1(可溶性fms様チロシンキナーゼ-1)を、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム(Roche Diagnostics、GermanyからのECLIAアッセイ)用に開発されたサンドイッチイムノアッセイである、商用のsFLT-1用ECLIAアッセイで測定した。アッセイは、sFLT-1に特異的に結合するビオチン化及びルテニウム化モノクローナル抗体を含む。各血清試料から12μLを使用し、cobas e 801分析装置(Roche Diagnostics、Germany)で希釈せずに測定した。
【0163】
PBNP又はNTpBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモン)を、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム(Roche Diagnostics、GermanyからのECLIAアッセイ)用に開発されたサンドイッチイムノアッセイである、商用のNTproBNP用ECLIAアッセイで測定した。アッセイは、NTproBNPに特異的に結合するビオチン化及びルテニウム化モノクローナル抗体を含む。各血清試料から15μLを使用し、cobas e 801分析装置(Roche Diagnostics、Germany)で希釈せずに測定した。
【0164】
IL6(インターロイキン6)を、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム(Roche Diagnostics、GermanyからのECLIAアッセイ)用に開発されたサンドイッチイムノアッセイである、商用のインターロイキン-6用ECLIAアッセイで測定した。アッセイは、IL-6に特異的に結合するビオチン化及びルテニウム化モノクローナル抗体を含む。各血清試料から30μLを使用し、cobas e 801分析装置(Roche Diagnostics、Germany)で希釈せずに測定した。
【0165】
ESM1(Endothelial cell-specific molecule 1)は、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム(Roche Diagnostics、GermanyからのECLIAアッセイ)用に自社で開発されたサンドイッチイムノアッセイである、ESM-1用のロバストなプロトタイプECLIAアッセイで測定した。アッセイは、ESM-1に特異的に結合するビオチン化及びルテニウム化モノクローナル抗体を含む。各血清試料から20μLを使用し、cobas e 601分析装置(Roche Diagnostics、Germany)で希釈せずに測定した。
【0166】
STREM1又はsTREM-1(Soluble triggering receptor expressed on myeloid cells 1)は、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム(Roche Diagnostics、GermanyからのECLIAアッセイ)用に自社で開発されたサンドイッチイムノアッセイである、sTREM-1用のロバストなプロトタイプECLIAアッセイで測定した。アッセイは、sTREM-1に特異的に結合するビオチン化及びルテニウム化モノクローナル抗体を含む。各血清試料から50μLを使用し、cobas e 601分析装置(Roche Diagnostics、Germany)で希釈せずに測定した。
【0167】
NGAL(好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン)試験は、3μLの血漿を反応緩衝液R1と混合してNGALを定量するための粒子増強比濁法イムノアッセイである。短いインキュベーションの後、免疫粒子懸濁液(NGALに対するマウスモノクローナル抗体で被覆されたポリスチレン微粒子)の添加によって反応を開始する。Roche Diagnostics(Germany)からのアッセイ。試料中のNGALは、免疫粒子を凝集させる。凝集の程度は、光の吸収として測定される光散乱の量によって定量化される。試料中のNGAL濃度は、確立された検量線上の内挿によって決定される。試料は、cobas c 501分析装置(Roche Diagnostics、Germany)で測定した。
【0168】
LDHI2(乳酸デヒドロゲナーゼ):UVアッセイ 乳酸デヒドロゲナーゼはピルビン酸へのL-乳酸の変換を触媒し;NADは該プロセスにおいてNADHに還元される。L-乳酸+NAD+LDHピルビン酸+NADH+H+形成の初期速度は触媒LDH活性に正比例する。それは、吸光度における増加を光度測定により測定することにより決定される。Roche Diagnostics(Germany)からのアッセイ。2.2μLの血漿を分析した。試料は、cobas c 501分析装置(Roche Diagnostics、Germany)で測定した。
【0169】
HAPT2(ハプトグロビン):比濁法で決定される特異的抗血清と沈殿物を形成するヒトハプトグロビンの免疫比濁法アッセイ。3.9μLの血漿を分析した。試料は、cobas c 501分析装置(Roche Diagnostics、Germany)で測定した。
【0170】
HBP(ヘパリン結合タンパク質):HBPの決定は、循環HBPと、ポリエチレングリコールポリマー(PEG)の存在下、最適なpH条件でクロロメチル微粒子に結合した鳥類単一特異性ポリクローナル抗体との間で起こる濁度反応に基づく。変化の大きさは、試験試料中のHBPの量に比例する。Axis-Shield Diagnostics Ltd.(Scotland)製の試薬。10μLの血漿を分析した。試料は、cobas c 501分析装置(Roche Diagnostics、Germany)で測定した。
【0171】
BILI(ビリルビン):ジアゾ化されたスルファニル酸は、亜硝酸ナトリウム及びスルファニル酸を低いpHで組み合わせることにより形成される。試料中のビリルビン(非共役型)は、カフェイン/ベンゾエート/アセテート/EDTAの混合物中への希釈により可溶化される。ジアゾ化されたスルファニル酸の添加で、共役型ビリルビン(モノ及びジグルコロニド)並びにデルタ2型(アルブミンに共有結合したビリプロテイン-ビリルビン)を含む可溶化されたビリルビンはジアゾ-ビリルビンに変換され、これは、540nmで吸収する、二色性(540、700nm)エンドポイント技術を使用して測定される総ビリルビンを表す赤色発色団である。試料ブランク補正が使用される。
【0172】
CREAJ2(クレアチニン):この速度論的比色アッセイは、Jaffe法に基づく。アルカリ性溶液中で、クレアチニンは、ピクリン酸とイエローオレンジの複合体を形成する。色素形成速度は、試料中のクレアチニン濃度に比例する。このアッセイは、ビリルビンによる干渉を最小限に抑えるために「レートブランキング」を使用する。Roche Diagnostics(Germany)からのアッセイ。7.5μLの血漿を測定に使用した。試料は、cobas c 501分析装置(Roche Diagnostics、Germany)で測定した。
【0173】
ALAT(アラニンアミノトランスフェラーゼ):アラニンアミノトランスフェラーゼは、α-ケトグルタル酸(α-KG)へのL-アラニンのアミノ基転移を触媒して、L-グルタミン酸及びピルビン酸を形成させる。形成されるピルビン酸は、還元されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の同時の酸化と共に乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)により乳酸に還元される。吸光度における変化は、アラニンアミノトランスフェラーゼ活性に正比例しており、二色性(340、700nm)レート技術を使用して測定される。
【0174】
ASAT(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ):アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)は、L-アスパラギン酸からα-ケトグルタル酸へのアミノ基転移を触媒して、L-グルタミン酸及びオキサロ酢酸を形成させる。形成されるオキサロ酢酸は、還元されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の同時の酸化と共にリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(MDH)によりリンゴ酸に還元される。NADへのNADHの変換に起因する経時的な吸光度における変化は、AST活性に正比例しており、例えば二色性(340、700nm)レート(bichromatic rate)技術を使用して測定される。
【0175】
実施例2:TRIAGE研究からの患者の分析
TRIAGE研究、Kantonsspital Aarau,Switzerland,Emergency Department.(Schuetz 2013,BMC emergency medicine,13(1),12).
【0176】
医学的緊急事態のために救急部(ED)のケアを受けようとしている全ての連続患者をED入院時に含めた。全部で4000人の患者から、入院時に感染が疑われる患者のサブセットを選択し、以下にしたがって高確率敗血症症例群又は感染症対照群に分類した:
・症例(N=64):ICUに入院しているか、又はRhee 2017、’’Incidence and Trends of Sepsis in US Hospitals Using Clinical vs Claims Data,2009-2014.’’JAMA 318(13):1241-1249の基準を満たす場合、ED来院の48時間以内に悪化/より高い重症度を有する可能性の高い敗血症症例。
・対照(N=207):ED来院の48時間以内に感染が疑われるが敗血症を有しない患者。
【0177】
ロジスティック回帰を介してマーカーを数学的に組み合わせ、「受信者動作特性曲線下面積」(AUC)をマーカー性能についての一般的尺度として使用した。
【0178】
少なくとも1パーセンテージ点だけ単一マーカーに対してAUCの向上を有するマーカーペアの組合せ(二変量マーカー組合せ)を表1に示す。
【表1】
【0179】
少なくとも1パーセンテージ点だけ二変量マーカーペアの他に3つ全ての単一マーカーに対してAUCの向上を有するマーカートリプレットの組合せ(三変量マーカー組合せ)を表2に示す。
【表2】
【0180】
単一マーカーに対する向上を有しないマーカーの二変量組合せの例を表3に示す。
【表3】
【国際調査報告】