(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】線維芽細胞活性化タンパク質の過剰発現を検出するための((R)-1-((6-ヒドラジニルニコチノイル)-D-アラニル)ピロリジン-2-イル)ボロン酸(HYNIC-IFAP)をベースとする放射性医薬品
(51)【国際特許分類】
A61K 51/04 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
A61K51/04 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567111
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 MX2021050055
(87)【国際公開番号】W WO2022231410
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】MX/A/2021/005089
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MX
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523409407
【氏名又は名称】インスティトゥト・ナシオナル・デ・インベスティガシオネス・ニュークレアレス
【住所又は居所原語表記】INSTITUTO NACIONAL DE INVESTIGACIONES NUCLEARES
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェッロ-フロレス,ギジェルミーナ
(72)【発明者】
【氏名】オカンポ-ガルシア,ブランカ・エリ
(72)【発明者】
【氏名】ルナ-グティエレス,マーナ・アレハンドラ
(72)【発明者】
【氏名】サントス-クエバス,クララ・レチシア
(72)【発明者】
【氏名】ヒメネス-マンシラ,ナレリー・パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】アソリン-ベガ,エリカ・パトリシア
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085HH03
4C085KB56
4C085LL18
(57)【要約】
本発明は、分子((R)-1-((6-ヒドラジニルニコチノイル)-D-アラニル)ピロリジン-2-イル)ボロン酸(HYNIC-iFAP)をベースとする新しい線維芽細胞活性化タンパク質(iFAP)阻害性放射性医薬品であって、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)が放射性金属の配位圏を完成させるために使用される、放射性金属の99mTcのキレート剤としてのHYNICの従来の使用と組み合わせて、HYNICのヒドラジン窒素が、HYNIC-iFAP分子と線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)の活性中心にあるフェニルアラニン(Phe-350およびPhe-351)、グルタミン酸(Glu-203およびGlu-204)、およびセリン(Ser-624)との相互作用について好ましい化学基として機能する、放射性医薬品に関する。99mTc-EDDA/HYNIC-iFAPからの新しい放射性医薬品(99mTc-HYNIC-iFAP)は、核医学SPECT分子イメージング技術を使用して、上皮起源の悪性腫瘍の微小環境で発現したFAPをインビボで高い親和性で検出する。
本発明の目的は、boronPro型阻害剤(分子標的放射性医薬品)に基づいて、腫瘍微小環境におけるFAPタンパク質発現の検出のための高感度の新しいSPECT特異的放射性医薬品を提供することである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造:
【化1】
を含む化学式
99mTc-EDDA/HYNIC-iFAP(
99mTc-HYNIC-iFAP)の放射性医薬品。
【請求項2】
請求項1に記載した放射線医薬品を含むことを特徴とする、放射性医薬品組成物。
【請求項3】
放射性診断剤としての使用のための請求項1に記載の放射性医薬品。
【請求項4】
構造:
【化2】
を含む、放射性医薬品の前駆体リガンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
明細書
本発明の技術分野
本発明は、線維芽細胞活性化タンパク質(iFAP)阻害剤((R)-1-((6-ヒドラジニルニコチノイル)-D-アラニル)ピロリジン-2-イル)ボロン酸(HYNIC-iFAP)をベースとする新しい放射性医薬品であって、放射性金属の99mTcのキレート剤としてのHYNICの従来の使用と組み合わせて、HYNICのヒドラジン窒素は、HYNIC-iFAP分子と線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)の本質的な活性中心、フェニルアラニン(Phe-350およびPhe-351)、グルタミン酸(Glu-203およびGlu-204)、およびセリン(Ser-624)との相互作用について好ましい化学基として機能する、放射性医薬品に関する。特に、99mTcで標識された新しい放射性医薬品HYNIC-iFAPは、核医学におけるSPECT分子イメージング技術によって、インビボにおいて高い親和性で、腫瘍微小環境で発現したFAPを検出する。
【背景技術】
【0002】
背景
線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)は、ジペプチジルペプチダーゼおよびエンドペプチダーゼ活性によってプロリン残基の下流に位置するペプチドを切断するII型セリンプロテアーゼである。FAPは、ほとんどのヒト上皮腫瘍に存在する活性化された間質線維芽細胞の細胞表面で高度に発現されるが、正常な線維芽細胞では発現されない。がん関連線維芽細胞は肉眼で見える腫瘍質量の最大90%を占める(Hamson他、Understanding fibroblast activation protein(FAP):substrates,activities,expression and targeting for cancer therapy.Proteomics Clin.Appl.、2014、8巻、454~463)。
【0003】
特異的FAP阻害剤は最初に、可能性のある抗がん剤として開発された(Aertgeerts他、Structural and kinetic analysis of the substrate specificity of human fibroblast activation protein α.J.Biol.Chem.、2005、280巻、19441~19444;Edosada他、Selective inhibition of fibroblast activation protein protease based on dipeptide substrate specificity. J.Biol.Chem.2006、281巻、7437~7444;Tran他、Synthesis and structure-activity relationship of N-acyl-Gly-,N-acyl-Sar- and N-blocked-boroPro inhibitors of FAP,DPP4,and POP.Bioorg.Med.Chem.Lett.、17巻、2007、1438~1442)。これらのうち、最も適当なものは、2群の選択性の高い化合物で、1つはキノリン-シアノピロリジン構造をベースにしており、もう1つはピロリジン-ボロン酸をベースにするか、またはプロリン-ボロン酸(boronPro)としても知られている。第1群に関しては、Jansen他が39種類の新しいFAP阻害剤の合成を最初に報告し、4-キノリノイル-グリシアノピロリジン足場の構造活性相関を探索した(Jansen他、Extended structure activity relationship and pharmacokinetic investigation of(4-quinolinoyl)-glycyl-2-cyanopyrrolidin inhibitors of fibroblast activation protein J.Med.Chem.、2014、57巻、3053~3074)。著者等は、FAPが酵素とこれらの分子に存在するニトリル基との間に共有結合を形成するために厳しい構造要件を課していると報告した(Jansen他、Selective inhibitors of fibroblast activation protein(FAP)with a(4-quinolinoyl)-glycyl-2-cyanopyrrolidin scaffold.ACS Med.Chem.Lett.、2013、4巻、491~496)。著者等はまた、N-ピリジンが、ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)およびプロリルオリゴペプチダーゼ(PREP)などの他のポストプロリン切断酵素に対して高い選択性のあるFAP阻害剤を生じることを発見した。キノリノイル断片は分子のFAPに対する親和性をより高くするが、この残基が別のアザヘテロ芳香族置換基に置換されると、FAPに対する親和性は劇的に減少した。さらに、シアノピロリジン環断片にフッ素またはジフルオロを付加すると、FAPに対する親和性および選択性が向上することがわかった。著者等がグリシン残基をいくつかの他のアミノ酸に置換すると、PREPに対する親和性が増加し、FAPの能力が著しく減少した。この研究の結果、著者等は、N-(4-キノリノイル)-グリシル-(2-シアノピロリジン)足場がFAPの最良の阻害剤であることを特定した。選択されたFAP阻害剤のマウスにおける薬物動態研究は、経口投与後の高いバイオアベイラビリティを、血漿半減期が短く、インビボでのFAP阻害が長期間持続することとともに示した。
【0004】
同時に、Poplawsky他はFAPおよびPREPに対する20種類を超えるプロリンボロン酸ベースの阻害剤を設計し、特徴づけた(Poplawski他、Identification of selective and potent inhibitors of fibroblast activation protein and prolyl oligopeptidase.J.Med.Chem.2013、56巻、3467~3477)。著者等は、プロトン化されたピリジン性窒素原子を使用することによって、FAPに対する親和性を高めることができると報告したが、これはこの窒素原子がFAPには存在するがPREPには存在しないグルタミン酸(Glu-204)のカルボニル酸素と水素結合を形成するからである。著者等はまた、FAPのエンドペプチダーゼ活性が非常に厳しい要件を有し、グリシンまたはD-アラニンなどの小さなアミノ酸のみを受け入れることも発見した。D-アラニンが好ましいが、これはこの阻害剤がナノモル範囲でFAP阻害能力を保持し、PREPよりもFAPに対して360倍の選択性を提供するためである。これらの結果に基づいて、Poplawski他は、N-(ピリジン-4-カルボニル)-D-Ala-boroProが発見した最良の線維芽細胞活性化タンパク質阻害剤であることを立証した。
【0005】
合成されて特徴づけられたFAP阻害剤は多数あるにも関わらず、それらのうちの限られた数のみが医療目的で放射性標識されている。2015年に、ヨウ素-125による最初の放射性標識ボロン酸ベースのFAP阻害剤(125I-MIP-1232)がアテローム性プラークイメージングのために報告されたが、I-125は単一光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)または陽電子放出断層撮影(PET)イメージングに有用な放射性核種ではないことを明確にすることが重要である(Meletta他、Evaluation of the radiolabeled boronic acid based FAP inhibitor MIP-1232 for atherosclerotic plaque imaging.Molecules、2015、20巻、2081~2099)。
【0006】
2018年に、LindnerおよびLoktevは、画像診断または治療目的のために適切な放射性核種で標識するために、2,2’,2’’,2’’’-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトライル)四酢酸(DOTA)の4-キノリノイル-Gly-シアノピロリジン足場への結合を報告した(Lindner他、Development of quinoline-based theranostic ligands for the targeting of fibroblast activation protein.J.Nucl.Med.、2018、59巻、1415~1422;Loktev他、A tumor-imaging method targeting cancer-associated fibroblasts.J.Nucl.Med.、2018、59巻、1423~1429)。著者等は、FAP阻害剤(FAPI)誘導体の腫瘍への取り込みおよび保持時間を改善するために、異なる位置を使用してDOTAを4-キノリノイル-Gly-シアノピロリジン足場に結合させた15種類の誘導体を開発した。15種類の異なるFAPIは、177Lu、90Y、または68Gaで放射性標識された。放射性標識され、報告されたFAPI複合体全ての中で、68Ga-FAPI-02および68Ga-FAPI-04が診断用途に最も適した薬剤であることが判明した。その後、同じ著者等が、FAPI-21からFAPI-55まで連続して番号付けられた同じフレームワークの他の誘導体を報告した(Loktev他、Development of Fibroblast Activation Protein-Targeted Radiotracers with Improved Tumor Retention.J.Nucl.Med.、2019、60巻、1421~1429)。DOTAの1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N’,N’’-三酢酸(NOTA)による置換は、誘導体FAPI-74を生じ、これは68Gaおよび18F(18F-AlF、AlCl3の存在下)で標識されうる(Giesel他、FAPI-74 PET/CT Using Either 18F-AlF or Cold-Kit 68Ga Labeling:Biodistribution,Radiation Dosimetry,and Tumor Delineation in Lung Cancer Patients.J.Nucl.Med.、2021、62巻、201~207)。特に、FAPI-35は99mTcおよびおそらく188Reで標識するために開発された(Lindner他、Design and Development of 99mTc-Labeled FAPI Tracers for SPECT Imaging and 188Re Therapy.J.Nucl.Med.、2020、61巻、1507~1513)。
【0007】
PETスキャンのためにヒトで使用された最初のFAP阻害剤は、68Ga-FAPI-02および68Ga-FAPI-04であった(Giesel他、68Ga-FAPI PET/CT:biodistribution and preliminary dosimetry estimate of 2 DOTA-containing FAP-targeting agents in patients with various cancers.J.Nucl.Med.、2019、60巻、386~392;Kratochwil他、68Ga-FAPI PET/CT:Tracer Uptake in 28 Different Kinds of Cancer.J.Nucl.Med.、2019、60巻、801~805)。
【0008】
興味深いことに、64Cu-/225Ac-FAPI-04セラノスティック結合は、マウスモデルにおいてFAPを過剰発現している膵臓がんの治療においてその有用性を示した。線維芽細胞活性化タンパク質を標的とする療法はがん治療に効果があり、新しい治療戦略の確立に貢献しうる(Watabe他、Theranostics Targeting Fibroblast Activation Protein in the Tumor Stroma:64Cu- and 22Ac-Labeled FAPI-04 in Pancreatic Cancer Xenograft Mouse Models.J.Nucl.Med.、2020、61巻、563~569)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、あらゆる放射線治療の前に、その治療が患者にとって有用であるかどうかを確認するために、ならびに腫瘍に切除放射線量を送達するために投与するのに必要な活性を決定するために、腫瘍またはその転移における放射性医薬品の取り込みを核イメージングによって評価しなければならない、すなわち、個別化医療が実践される。このためには、PETまたはSPECTによって分子画像を取得するためにFAP阻害剤診断用放射性医薬品を使用する必要がある。これら2つの技術のうち、PETは空間分解能および感度が最高の技術であり、したがって、前述したように、これまでに開発され臨床研究に適用された診断用FAP阻害剤放射性医薬品は、PETのための放射性医薬品である4-キノリノイル-Gly-シアノピロリジン誘導体に結合した68Gaおよび18Fを使用しており、キノリン-シアノピロリジンに同様に結合した99mTcの誘導体を使用した研究は1件のみであった(以下の表を参照)。それにも関わらず、病院内または病院の近くにサイクロトロンを設置する必要がないため、国内および国際的に、SPECT研究は費用が低く、機器や放射性核種がより入手しやすいため、核医学全体の70%超を占めている。SPECTイメージングの場合、最も一般的に使用される放射性核種は99mTcであり、ピロリジン-ボロン酸誘導体またはboron-Proに基づくFAPイメージングについての放射性医薬品に関する研究に特化した出版物はない。
【0010】
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の詳細な説明
特許の目的のために、((R)-1-((6-ヒドラジニルニコチノイル)-D-アラニル)ピロリジン-2-イル)ボロン酸(HYNIC-iFAP)分子をベースとする新規の線維芽細胞活性化タンパク質(iFAP)阻害性放射性医薬品であって、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)が放射性金属の配位圏を完成させるために使用される、放射性金属の
99mTcのキレート剤としてのHYNICの従来の使用とを組み合わせて、HYNICのヒドラジン窒素が、HYNIC-iFAP分子と線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)の活性中心にあるフェニルアラニン(Phe-350およびPhe-351)、グルタミン酸(Glu-203およびGlu-204)、およびセリン(Ser-624)との相互作用について好ましい化学基として機能する、放射性医薬品が提示される。
99mTc-EDDA/HYNIC-iFAPの新しい放射性医薬品(
99mTc-HYNIC-iFAP)は、核医学SPECT分子イメージング技術を使用して、上皮起源の悪性腫瘍の微小環境で発現したFAPをインビボで高い親和性で検出する。
図1は、HYNIC-iFAP構造に基づいて特許対象となる
99mT放射性医薬品の構造を概略的に示している。
【0013】
分子ドッキングの研究に基づいて、HYNIC-iFAP誘導体[((R)-1-((6-ヒドラジニルニコチノイル-)-ダラニル)-ピロリジン-2-イル)ボロン酸]を設計し、合成し、文献で報告されているboronProの2つの最も代表的な構造、N-アシル-Gly-boroPro(Tran他、Synthesis and structure-activity relationship of N-acyl-Gly-,N-acyl-Sar- and N-blocked-boroPro inhibitors of FAP,DPP4,and POP.Bioorg.Med.Chem.Lett.、17巻、2007、1438~1442)およびN-(ピリジン-4-カルボニル)-D-Ala-boroPro(Poplawski他、Identification of selective and potent inhibitors of fibroblast activation protein and prolyl oligopeptidase.J.Med.Chem.2013、56巻、3467~3477)を親和性および阻害定数(Ki)について比較した。別の誘導体、S-2-(4-イソチオシアナトベンジル)-DOTAに結合したHYNIC-iFAP分子(DOTA-Bz-NCS-HYNIC-iFAP)の親和性も、この誘導体の親和性が68Ga、177Lu、64Cu、225Acなどの他のDOTA様の放射性金属による標識能力に適しているかどうかを研究するために得られた。この目的のために、全構造はChemDraw(.cdx形式)で作成され、3D構造はChem3Dソフトウェアを介して.pdb形式でエクスポートされた。分子エディタAVOGADRO1.2.0を使用して、各構造にホウ素原子が存在するため、分子幾何学はユニバーサルフォースフィールド(UFF)を使用して合計10,000ステップで最適化された。続いて、PM7レベルの理論を用いた半経験的量子化学ソフトウェアMOPAC2016を使用して2回目の幾何学的最適化が実行され、得られた空間構成を.pdb形式にエクスポートした。
【0014】
線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)のアルファサブユニットの結晶構造は、RSCBタンパク質データバンクデータベース(PDB ID:1Z68)から得られた。分子ドッキングの計算で受容体高分子として使用するために、この分子はBIOVIA Discovery Studio 2021で編集されて、X線回折で示された水分子および残基が除去され、主要なアミノ酸鎖のみが.pdbファイルに残された。モデルで表された二量体のA鎖も除去され、B鎖のみが残された。高分子の三次元モデルは2.60Åの分解能が必要なため、相同性モデリングステップがSWISS-MODELオンラインプラットフォームによって実行された。得られた構造は、受容体として使用するためにpdb形式で保存された。受容体およびHYNIC-iFAP由来の構造は両方とも、欠落した水素の添加および生理的pH(pH=7.4)に対する分子最適化を示すOPEN BABEL GUI 2006ライブラリを用いて調製され、再び.pdb形式で構造が作成された。AutoDockツール1.5.6ソフトウェアパッケージを使用して、受容体を高分子として構成し、各リガンドを別個のファイルに構成し、ファイルを.pdbqt拡張子でエクスポートした。検索ボックスは、2013年にPoplawskyおよび共同研究者等によって提案されたように、受容体のSer-624の周囲の疎水性部位S1に配置され、中心としてXYZ座標18.948、10.676、28.989それぞれおよびサイズ90が、ボックスの各軸に設定された。リガンドに関しては、http://mgldev.scripps.edu/pipermail/autodock/2009-March/005439.htmlで入手可能なホウ素原子のパラメータを追加するために、<<AD4_parameters.dat>>ファイルを変更する必要があった。
【0015】
タンパク質リガンド分子ドッキングの実行はAutoDock4.2.6パッケージを用いて実行され、事前にAutoGrid4.2.6ツールで、必要な.mapグリッドを計算した。分子ドッキングの結果を含むログファイルは、最良の親和性スコアを有する複合体を.pdb形式にエクスポートすることによって、AutoDockツールで視覚化された。距離および相互作用の視覚化および分析は、BIOVA Discovery Studio Visualizer 2021によって実行された。
【0016】
阻害定数(Ki)は、式:
【数1】
を使用して計算され、
ここで、
親和性:AutoDock4.2.6スコアリング関数で得られた値に対応する。
R:理想気体の熱力学定数の値に対応する(0.00198179kcal/molK)。
T:AutoDock4.2.6が分子カップリング計算で扱う絶対スケール298.15Kの温度値に対応する。
【0017】
Ki値は、モル単位(M)で得られる。表2は、各リガンドの親和性スコア、Ki阻害定数、およびSer624までの距離を示す。表2で明らかなように、HYNIC-iFAP分子は、N-(ピリジン-4-カルボニル)-D-Ala-boroPro誘導体(Ki=14.07)よりも26倍低い阻害定数(Ki=0.536nM)を示し、これはFAPによるHYNIC-iFAPの阻害能力がより高いことを意味する。
【0018】
【0019】
分子ドッキングの研究で得られたHYNIC-iFAPとFA活性中心のアミノ酸残基との相互作用マップと一致して、HYNIC-iFAPがN-(ピリジン-4-カルボニル)-D-Ala-boroProよりも親和性が増加しているのは、HYNICのヒドラジン窒素の存在によるものであり、この増加は、FAPの活性中心、主にGlu-203、Glu-204、Phe-350、およびPhe-351残基との結合、ならびにより近接したSer-624との相互作用におけるHYNIC-iFAP分子のファンデルワールス型相互作用および水素結合に都合がよい(上述の分子ドッキングの方法論で得られたFAPのアミノ酸残基とHYNIC-iFAPリガンドとの相互作用マップ)。DOTA-Bz-NCS-HYNIC-iFAPリガンドの高い親和性およびFAP阻害能力は、新しい診断および治療用放射性医薬品の調製に使用できる可能性を示しているが、これはこのリガンドが、DOTA大環状化合物によってキレート化されうる放射性核種、例えば、68Ga、64Cu、177Lu、および225Acで標識される有用なリガンドであるためである。
【0020】
本発明の放射性医薬品の調製方法
HYNIC-iFAP分子の合成のために、最初にBoc-ピロリジンを窒素雰囲気下、-40℃でエチルエーテル/TMEDAに溶解した。続いて、5℃でs-BuLiの溶液(シクロヘキサン中)と反応させた。次いで、B(OMe)3を添加し、抽出精製方法を実施し(最初に2M NaOHで抽出し、続いて2M HClで酸性化し、最後にEtOAcで抽出し、溶媒を蒸発させた)、Boc-ピロリジン-ボロン酸を得て、これにピナンジオールを添加し、HPLC分離(ミクロポラシルカラム)によってRジアステレオマーが得られた。Boc脱保護後、D-アラニンカップリング、続いてHATU/DIPEAを使用するスクシンイミジル-N-boc-HYNICカップリングを実施した。最後に、化合物をTFAで脱保護し、逆相HPLCで精製し、凍結乾燥した。最終生成物は((R)-1-((6-ヒドラジニルニコチノイル)-ダラニル)ピロリジン-2-イル)ボロン酸(HYNIC-iFAP)で、予測される質量スペクトルを示した:m/z322(計算値321)[M+H]+;m/z642(計算値321)2×[M+H]+。1H-NMR(300MHz,DMSO)、δ(ppm):8.5-6.7(s,1H,-CH6-,arom.ピリジン)、9.7(s,1H,-NH-NH-)、8.3(s,1H,-CH2-NHCO)、3.1-3.3(m,1H,CH2 CHB)。
【0021】
凍結乾燥させた白色固体の逆相HPLC分析は、化合物の化学純度が95%であることを示した。
【0022】
HYNIC-iFAP(30μg)は、EDDA10mg、トリシン20mg、塩化第一スズ20μg、およびマンニトール50mgを含有する凍結乾燥剤形として製剤化された。前記製剤は、0.2M、pH7の溶液1mLおよび99Mo/99mTc発生装置からその場で得られた過テクネチウム酸ナトリウム溶液(99mTcO4Na)1mLで再構成すると、特許対象となる化合物99mTc-EDDA/HYNIC-iFAP(99mTc-HYNIC-iFAP)を逆相HPLCによる測定で98%を超える放射化学的純度で生じる。
【0023】
放射性医薬品は、標識の24時間後も放射化学的純度が95%超で安定している。ヒト血清におけるインビトロ安定性試験は、2.1±0.3%の血清タンパク質結合および高い放射化学的安定性(>95%)を示す。99mTc HYNIC-iFAPのインビトロ特異性の評価のために、本発明者等は、乳がんの2つの異なる分子サブタイプの腫瘍間質(患者の生検):エストロゲン受容体(ER)およびヒト上皮成長因子受容体タイプ2(HER2)の高発現を特徴とするルミナルBならびにER、プロゲステロン受容体(PR)、およびHER2の発現レベルがゼロのトリプルネガティブ(TNBC)を使用した。本発明者等は、異なる乳房腫瘍の表現型における以前の研究と同様に、これらの腫瘍間質を選択し、TNBC腫瘍は最高レベルのFAPを発現することが示された一方、ルミナルB腫瘍は最低レベルのFAPを発現した(Park他、Differential expression of cancer-associated fibroblast-related proteins according to molecular subtype and stromal histology in breast cancer Breast.Cancer Res.Treat.、2015、149巻、727~741)。結果は、TNBC腫瘍の間質に添加された放射活性の99mTc HYNIC-iFAPの取り込みが7.8±1.2%であることを示し、これはルミナルB腫瘍の間質によって取り込まれた放射活性(添加された放射活性の2.3±0.3%)よりも有意に高かった(P<0.05、t-スチューデント)。
【0024】
この化合物は、研究用balb-Cマウスに40mg/kgの用量で投与した場合、毒性や副作用を示さなかった。誘発性トリプルネガティブ乳がん腫瘍(MBCDF-T細胞)を有する胸腺欠損マウスにおける
99mTc-HYNIC-iFAPのMicro-SPECT/CTイメージングは、組織1グラムあたり投与活性の9.2±1.4%が腫瘍内に取り込まれ(%ID/g)(
図2)、主に腎臓を介して迅速に排出されることを示した。
【0025】
健康なボランティアにおける体内動態および線量測定の検査は、腎臓での取り込みおよび排泄の増加による迅速な血液クリアランスならびに投与された740MBqあたり2.0±0.5mSvの有効線量を示す。
図3は、健康なボランティアで投与後1時間で得られた放射性医薬品の
99mTc-HYNIC-iFAPのSPECT画像を示す。
図4は、
18F-FDG(PET、対照放射性医薬品、腫瘍代謝検出のためのゴールドスタンダード)および
99mTc-HYNIC-iFAP(SPECT)の両方を投与されたトリプルネガティブ乳がんを有する同じ患者のPETおよびSPECT画像を示しており、両方の放射性医薬品が高感度で乳がん腫瘍を検出することを示している。
図5は、
18F-FDG(PET、対照放射性医薬品、腫瘍代謝検出のためのゴールドスタンダード)および
99mTc-HYNIC-iFAP(SPECT)の両方を投与された同じ肺がん患者(主に充実性パターンを有する低分化型肺腺癌)のPETおよびSPECT画像を示しており、両方の放射性医薬品が高感度で肺腫瘍を検出することを示しているが、
99mTc-HYNIC-iFAPの場合、高い取り込みは腫瘍微小環境におけるFAP発現の認識と関連している。これらの画像は、HYNICヒドラジンに存在する窒素によって強化されたFAP活性阻害特性により、
99mTc-HYNIC-iFAPが特異的な方法で腫瘍病変を検出できることを裏付け、主な証拠となる。
【0026】
結論として、99mTc-HYNIC-iFAPは以下の特性で得られる:
- 98%を上回る放射化学的純度。
- 核医学単一光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)によって、線維芽細胞活性化タンパク質を発現する腫瘍の微小環境をインビボで特異的に検出する放射性医薬品の能力。
- boronPro残基の分子認識に加えて、99mTcに基づいて特許対象となる放射性医薬品は、HYNIC分子内のヒドラジン窒素の存在によって付与された親和性の増加によりFAP発現腫瘍微小環境を高感度で(低Ki値;Ki=0.536)有意に捕捉し、検出する能力を有しており、これにより、SPECTイメージングによる検出のためにFAP酵素の活性部位とドッキングして効率的に相互作用することが可能になる。
【0027】
本発明を十分に説明したので、次の条項の内容を新規として考慮し、したがって独占的な特徴として主張する。
【国際調査報告】