(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】2,6-ジクロロ-4-(4-(4-ヒドロキシシクロヘキシルアミノ)-7H-ピロロ[2,3-D]ピリミジン-5-イル)フェノールを活性成分として含有する、がんを予防、緩和、または処置するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20240409BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240409BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240409BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240409BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20240409BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20240409BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240409BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20240409BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20240409BHJP
A61K 31/475 20060101ALI20240409BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20240409BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20240409BHJP
C07D 239/553 20060101ALI20240409BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20240409BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240409BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240409BHJP
C07D 487/04 20060101ALN20240409BHJP
C07D 213/81 20060101ALN20240409BHJP
C07D 239/94 20060101ALN20240409BHJP
C07H 15/252 20060101ALN20240409BHJP
C07D 519/04 20060101ALN20240409BHJP
C07D 305/14 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K33/243
A61K31/44
A61K39/395 N
A61K31/5377
A61K31/704
A61K31/475
A61K31/337
A61K31/513
C07D239/553 A
A61K31/675
A61P37/04
A23L33/10
C07D487/04 140
C07D213/81
C07D239/94
C07H15/252
C07D519/04
C07D305/14
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023567917
(86)(22)【出願日】2022-05-03
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 KR2022006339
(87)【国際公開番号】W WO2022235054
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】10-2021-0056988
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521559061
【氏名又は名称】ジェービーケーラボ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ボンクン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C050
4C055
4C057
4C072
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD18
4B018ME08
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4C086HA12
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4C086HA26
4C086HA28
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4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、2,6-ジクロロ-4-(4-(4-ヒドロキシシクロヘキシルアミノ)-7H-ピロロ[2,3-D]ピリミジン-5-イル)フェノールを活性成分として含有する、がんを予防または処置するための医薬組成物に関する。本発明は、乳がん細胞株において腫瘍様塊の形成を阻害し、かつ、肺がん、卵巣がん、結腸がん、黒色腫等において幅広く使用されるトポイソメラーゼインヒビターである抗がん薬ソラフェニブおよびエトポシドと比較すると、抗がん薬ソラフェニブおよびエトポシドより大きく際立った効果またはこれらと等しい効果を呈することが突き止められた。加えて、例1の化合物は、本発明によると、乳がん細胞株および肝臓がん細胞株において放射線治療または他の抗がん薬と組み合わされたとき相乗的な抗がん効果を呈し、よって、がんの処置において優れた効果を呈する抗がん薬または食品として開発され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下の式1:
[式1]
【化1】
によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩を活性成分として含む、がんの予防または処置における使用のための医薬組成物。
【請求項2】
上の式1によって表される化合物が、(trans)-2,6-ジクロロ-4-(4-(4-ヒドロキシシクロヘキシルアミノ)-7H-ピロロ[2,3-D]ピリミジン-5-イル)フェノールである、請求項1に記載のがんの予防または処置における使用のための医薬組成物。
【請求項3】
がんが、肺がん、非小細胞肺がん(NSCL)、細気管支肺胞細胞肺がん、卵巣がん、大腸がん、黒色腫、胃がん、消化管がん、肝臓がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚または眼球の黒色腫、子宮がん、直腸がん、結腸がん、乳がん、子宮肉腫、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、食道がん、喉頭がん、小腸がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、多発性骨髄腫、および慢性または急性の白血病からなる群から選択されるいずれか1つである、請求項1に記載のがんの予防または処置における使用のための医薬組成物。
【請求項4】
がんが、乳がんまたは肝臓がんである、請求項3に記載のがんの予防または処置における使用のための医薬組成物。
【請求項5】
医薬組成物が、放射線または抗がん剤と組み合わされた処置のために使用される、請求項1に記載のがんの予防または処置における使用のための医薬組成物。
【請求項6】
抗がん剤が、シスプラチン、ソラフェニブ、オプジーボ、テセントリク、キイトルーダ、イミフィンジ、OKN-007(Oklahoma nitrone-007)、ゲフィチニブ、ドキソルビシン、ビンブラスチン、タキソール、エトポシド、5-FU(5-フルオロウラシル)、およびイホスファミドからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項5に記載のがんの予防または処置における使用のための医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が、免疫を増強する、請求項1に記載のがんの予防または処置における使用のための医薬組成物。
【請求項8】
下の式1:
[式1]
【化2】
によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩を活性成分として含む、がんの予防または回復における使用のための健康機能食品組成物。
【請求項9】
薬学的に有効な量の抗がん剤を含有する第1の構成要素;および
下の式1:
[式1]
【化3】
によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩を活性成分として含有する第2の構成要素
を含む、がんを予防または処置するための医薬キット。
【請求項10】
上の式1によって表される化合物が、(trans)-2,6-ジクロロ-4-(4-(4-ヒドロキシシクロヘキシルアミノ)-7H-ピロロ[2,3-D]ピリミジン-5-イル)フェノールである、請求項9に記載のがんを予防または処置するための医薬キット。
【請求項11】
がんが、肺がん、非小細胞肺がん(NSCL)、細気管支肺胞細胞肺がん、卵巣がん、大腸がん、黒色腫、胃がん、消化管がん、肝臓がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚または眼球の黒色腫、子宮がん、直腸がん、結腸がん、乳がん、子宮肉腫、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、食道がん、喉頭がん、小腸がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、多発性骨髄腫、および慢性または急性の白血病からなる群から選択されるいずれか1つである、請求項9に記載のがんを予防または処置するための医薬キット。
【請求項12】
抗がん剤が、シスプラチン、ソラフェニブ、オプジーボ、テセントリク、キイトルーダ、イミフィンジ、OKN-007(Oklahoma nitrone-007)、ゲフィチニブ、ドキソルビシン、ビンブラスチン、タキソール、エトポシド、5-FU(5-フルオロウラシル)、およびイホスファミドからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項9に記載のがんを予防または処置するための医薬キット。
【請求項13】
請求項1に記載の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩の投与を、これを必要とする対象へするステップを含む、がんを予防または処置するための方法。
【請求項14】
請求項1に記載の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩と、放射線または抗がん剤との共投与を、これを必要とする対象へするステップを含む、がんを予防または処置するための方法。
【請求項15】
がんの予防または処置における使用のための医薬の調製のための、請求項1に記載の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩の使用。
【請求項16】
がんの予防または処置における使用のための医薬の調製のための、請求項1に記載の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩と、組み合わせて投与される放射線または抗がん剤との使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の背景
1.本発明の分野
本発明は、2,6-ジクロロ-4-(4-(4-ヒドロキシシクロヘキシルアミノ)-7H-ピロロ[2,3-D]ピリミジン-5-イル)フェノールを活性成分として含有する、がんを予防または処置するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の記載
がんの発生率が文明の発展とともに増加しつつあるという事実があるにかかわらず、がん患者の処置は、外科手術、放射線治療、および細胞傷害性が強い抗がん薬を投与することによる化学治療に依然として頼っている。しかしながら、これらの処置は、一般に早期がんの患者または特定タイプのがんの患者に限定され、様々な副作用を引き起こしており、そのため、安全性プロファイルを有しながら有効かつより副作用が少ない抗がん薬を開発するニーズがある。
【0003】
とりわけ、乳がん市場は、抗がんの高い有効性および安全性を欠いている、医療ニーズが満たされない分野であることが知られている。
【0004】
乳がん処置に関し、ホルモン治療、化学治療、および標的治療などの、疾患特徴が異なる患者を標的にする様々な機序の治療が導入されているが、抗がんの有効性および安全性が優れた治療に対して臨床上一定の需要がある。これらの中でも、すべての乳がんの16%を占める三種陰性乳がん(TNBC)は、処置後の予後不良に起因して処置が困難であり、TNBCを標的にする利用可能な治療が十分にない(非特許文献1、Rev Peru Med Exp Salud Publica. Oct-Dec 2013;30(4):649-56)。
【0005】
目下、乳がんのための処置は、腫瘍成長に関与するヒト上皮成長因子受容体2(下文において「HER2」と称される)遺伝子を阻害する治療を包含し、抗ホルモン薬が幅広く使用されている。しかしながら、TNBCのケースにおいて、HER2受容体、エストロゲン受容体、およびプロゲステロン受容体はすべて陰性であり、そのため既存の抗がん薬に反応しない。結果的に、安全かつ効率的に処置し得る新しい標的処置が至急必要とされる。
【0006】
よって、本発明者らは、安全かつ有効な抗がん薬として使用され得る本発明の医薬組成物を、様々ながん細胞株を使用して研究し完成させた。
【発明の概要】
【0007】
本発明の概要
がんを予防または処置するための医薬組成物を提供することが本発明の目的である。
がんを予防または処置するための健康機能食品組成物(health functional food composition)を提供することが本発明の目的である。
【0008】
がんを予防または処置するための医薬キット(pharmaceutical kit)を提供することが本発明の目的である。
がんを予防または処置するための放射線と抗がん剤との組み合わせを提供することが本発明の目的である。
【0009】
がんを処置するための方法を提供することが本発明の別の目的であるが、前記方法は、これを必要とする対象へ投与するステップを含む。
がんを予防または処置するための化合物を提供することが本発明の別の目的である。
がんの予防または処置における使用のための医薬の調製のための化合物の使用を提供することが本発明の別の目的である。
【0010】
上の目的を達成するために、本発明の側面において、本発明は、本明細書に記載の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩を活性成分として含む、がんを予防または処置するための医薬組成物を提供する。
本発明の別の側面において、本発明は、本明細書に記載の式1によって表される化合物を活性成分として含む、がんを予防または回復させるための健康機能食品組成物を提供する。
【0011】
本発明の別の側面において、本発明は、薬学的に有効な量の抗がん剤を含有する第1の構成要素;および本明細書に記載の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩を活性成分として含有する第2の構成要素を含む、がんを予防または処置するための医薬キットを提供する。
本発明の別の側面において、本発明は、がんを予防または処置するための放射線と抗がん剤との組み合わせを提供する。
【0012】
本発明の別の側面において、本発明は、がんを処置するための方法を提供するが、前記方法は、本明細書に記載の式1によって表される化合物の投与を、これを必要とする対象へするステップを含む。
本発明の別の側面において、本発明は、がんの予防または処置における使用のための、本明細書に記載の式1によって表される化合物を提供する。
本発明の別の側面において、本発明は、がんの予防または処置における使用のための医薬の調製のための、本明細書に記載の式1によって表される化合物の使用を提供する。
【0013】
有利な効果
本発明の例1の化合物は、乳がん細胞株において腫瘍様塊の形成を阻害し、かつ、肺がん、卵巣がん、結腸がん、黒色腫等において幅広く使用されているトポイソメラーゼインヒビターである抗がん薬ソラフェニブおよびエトポシドと比較すると、抗がん薬ソラフェニブおよびエトポシドより大きく際立った効果またはこれらと等しい効果を呈することが突き止められた。加えて、例1の化合物は、本発明によると、乳がん細胞株および肝臓がん細胞株において放射線治療または他の抗がん薬と組み合わされたとき相乗的な抗がん効果を呈し、よってがんの処置において優れた効果を呈する抗がん薬または食品として展開され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図面の簡単な記載
【
図1】
図1は、主要タンパク質の発現の阻害能の評価を示す図表である。
【
図2】
図2は、培養下での例1の化合物での処置の48時間後のヒト由来乳がん細胞株BT20の細胞生存率を示す一連のグラフである。
【
図3】
図3は、培養下での例1の化合物での処置の48時間後のTNBC細胞株MDA-MB-231の細胞生存率を示す一連のグラフである。
【0015】
【
図4】
図4は、例1の化合物での処置の24時間後のMDA-MB-231、MDA-MB-453、およびBT-20の細胞生存率を示す一連のグラフである。
【
図5】
図5は、例1の化合物での処置が腫瘍成長を有意に阻害し得ることを確認したグラフである。
【
図6】
図6は、アポトーシスプロセスを経たアポトーシス小体を示す一連の写真である。
【0016】
【
図7】
図7は、例1の化合物での処置後の肝臓がん細胞株Hep3Bの細胞生存率を示す一連のグラフである。
【
図8】
図8は、例1の化合物での処置後の肝臓がん細胞株HepG2の細胞生存率を示す一連のグラフである。
【
図9】
図9は、肝臓がん細胞株Hep3Bを例1の化合物で処置した結果を示す一連の写真である。
【0017】
【
図10】
図10は、肝臓がん細胞株HepG2を例1の化合物で処置した結果を示す一連の写真である。
【
図11】
図11は、本発明の例1の化合物の様々ながん細胞株に対する傷害性を確認した結果を示す一連のグラフである。
【
図12】
図12は、処置方法に従う、三種陰性乳がん同種移植マウスモデルにおける腫瘍サイズの変化を示すグラフである。
【0018】
【
図13】
図13は、処置方法に従う、三種陰性乳がん同種移植マウスモデルにおける肺を示す一連の写真および腫瘍小結節の数を示すグラフである。
【
図14】
図14は、フローサイトメトリーを通した腫瘍細胞における処置方法に従い免疫細胞の変化を観察した結果を示す一連のグラフである。
【
図15】
図15は、フローサイトメトリーを通した
図14の腫瘍細胞における処置方法に従う免疫細胞の変化を示す一連のグラフである。
【0019】
【
図16】
図16は、免疫細胞化学的アッセイを通して腫瘍細胞におけるタンパク質発現および免疫細胞の変化を観察した結果を示す一連の写真である。
【
図17】
図17は、免疫細胞化学的アッセイを通して
図16の腫瘍細胞におけるタンパク質発現および免疫細胞の変化を示す一連のグラフである。
【
図18】
図18は、例1の化合物とシスプラチンとを単独でおよび組み合わせて投与した際の腫瘍細胞(SKOV-3およびOVCAR-3)の細胞生存率を示す一連のグラフである。
【
図19】
図19は、例1の化合物とソラフェニブとを単独でおよび組み合わせて投与した際の腫瘍細胞(SK Hep1およびHuh-7)の細胞生存率を示す一連のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
好ましい態様の記載
下文において、本発明は詳細に記載される。
本発明の態様は他の様々な形態に改変され得、本発明の範囲は下に記載の態様に限定されない。本発明の態様が、本発明をより正確に解釈するために与えられていることは、本分野に対して平均的な知識を有する当該技術分野の者によって十分理解される。
【0021】
加えて、本明細書全体にわたる要素の「包含」は、具体的に別様に規定されない限り、他の要素を排除せず、また他の要素を包含していてもよい。
【0022】
本発明の側面において、本発明は、下の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩を活性成分として含む、がんを予防または処置するための医薬組成物を提供する。
[式1]
【化1】
【0023】
本発明の別の側面において、上の式1によって表される化合物は、(trans)-2,6-ジクロロ-4-(4-(4-ヒドロキシシクロヘキシルアミノ)-7H-ピロロ[2,3-D]ピリミジン-5-イル)フェノールであり得る。
本発明の別の側面において、医薬組成物は、放射線または抗がん剤との組み合わせ処置において使用され得る。
【0024】
抗がん剤は、シスプラチン、ソラフェニブ、OKN-007、ゲフィチニブ、ドキソルビシン、ビンブラスチン、タキソール、エトポシド、5-FU、およびイホスファミドからなる群から選択される少なくとも1つであり得る。
【0025】
本発明の別の側面において、医薬組成物は、免疫を増強し得る。下の実験例9において、腫瘍微小環境における免疫細胞の変化を評価した。結果として、例1の化合物を単独でまたは放射線と組み合わせて投与したとき、CD8陽性T細胞の割合が増大し、M1 TAMも増大し、M2 TAMは減少したことを確認した。
【0026】
本発明において、用語「薬学的に許容し得る塩」は、医薬産業において一般的に使用されている塩、例えば、カルシウム、カリウム、ナトリウム、およびマグネシウムから作られる無機イオン性塩;塩酸、硝酸、リン酸、臭素酸、ヨウ素酸、過塩素酸、および硫酸から作られる無機酸塩;酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、安息香酸、酒石酸、フマル酸、マンデル酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、ガラクツロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グルクロン酸、アスパラギン酸、アスコルビン酸、炭酸、バニリン酸、ヨウ化水素酸等々から作られる有機酸塩;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、およびナフタレンスルホン酸から作られるスルホン酸塩;グリシン、アルギニン、リシン等々から作られるアミノ酸塩;ならびにトリメチルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、ピリジン、ピコリン等々から作られるアミン塩を指すが、これらの塩は本発明の塩のタイプを限定しない。
【0027】
本発明において、用語「異性体」は、同じ化学式または分子式を有するが、構造的または立体的には異なる、本発明の化合物またはその塩を指す。異性体は、互変異性体および立体異性体などの構造異性体を包含し、立体異性体は、不斉炭素中心をもつR異性体またはS異性体(光学異性体、鏡像異性体)と幾何異性体(trans、cis)との両方を包含する。本発明において、式1によって表される化合物のすべての立体異性体およびそれらの混合物もまた、本発明の範囲に包含される。
【0028】
本発明において、用語「水和物」は、上の式1によって表される化合物および非共有結合の分子間力によって結合された水を指し、化学量論の水または非化学量論量の水を包含していてもよい。具体的には、水和物は、1モルの活性成分に基づき約0.25モル~約10モルの比率で水を含有していてもよく、より具体的には、約0.5モル、約1モル、約1.5モル、約2モル、約2.5モル、約3モル、約5モル等々を含有していてもよい。
【0029】
本発明において、用語「溶媒和物」は、上の式1によって表される化合物および非共有結合の分子間力によって結合された水以外の溶媒を指し、化学量論の水または非化学量論量の水を包含していてもよい。好ましい溶媒は、揮発性、非傷害性であって、ヒトへ微量に投与され得る。具体的には、溶媒和物は、1モルの活性成分に基づき約0.25モル~約10モルの比率で水を含有していてもよく、より具体的には、約0.5モル、約1モル、約1.5モル、約2モル、約2.5モル、約3モル、約5モル等々を含有していてもよい。
【0030】
本発明において、用語「約」は、先行する値の±10%である数値を指す。
【0031】
本発明において、用語「活性成分として含む」は、がんを予防、回復、または処置する効果をもたらす投薬量範囲中に含有することを意味し、投薬量範囲は、重症度および製剤に依存して変動してもよく、適用数もまた、対象の齢(age)、重量、および体格に依存して変動してもよい。本発明の一態様において、本発明の医薬組成物中、式1によって表される化合物は、例えば、0.001mg/kg以上、好ましくは0.1mg/kg以上、より好ましくは10mg/kg以上、より好ましくは100mg/kg以上、より好ましくは250mg/kg以上、および最も好ましくは0.1g/kg以上の量で包含されている。本発明の医薬組成物中に包含されている式1によって表される化合物の量的上限は、当業者によって適切な範囲内に選択されてもよい。
【0032】
本発明に従う医薬組成物は、式1によって表される有効量の化合物を単独で含んでいてもよく、または1以上の薬学的に許容し得る担体、賦形剤、もしくは希釈剤も包含していてもよい。
【0033】
薬学的に許容し得る担体、賦形剤、または希釈剤は、生理学的に許容し得る物質であって、かつ典型的には、ヒトへ投与されたとき消化器不調、めまいなどのアレルギー反応、または同様の反応を引き起こさない物質を指す。担体、賦形剤、および希釈剤の例は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギナート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油を包含するが、必ずしもこれらに限定されない。加えて、充填剤、抗凝固薬、潤滑剤、湿潤剤、フレグランス、乳化剤、および防腐剤も加えて包含されていてもよい。
【0034】
本発明の医薬組成物は、対象へ投与された後に活性成分の迅速な、持続した、または遅延した放出を提供するために当該技術分野において知られている方法を使用して製剤化され得る。医薬組成物は、経口用調製物、注射用調製物、または外用調製物の形態で製剤化され得る。経口用調製は、錠剤、丸薬、粉末、顆粒、カプセル、懸濁液、溶液、エマルション、シロップ剤、および凍結乾燥調製物からなる群から選択され得るが、必ずしもこれらに限定されない。加えて、外用調製物は、クリーム、ゲル、軟膏、エマルション、懸濁液、スプレー、および経皮パッチからなる群から選択され得るが、必ずしもこれらに限定されない。
【0035】
本発明の医薬組成物は、経口投与、経皮投与、皮下投与、静脈内投与、または筋肉内投与を包含する様々なルートを通して投与され得る。
本発明において、用語「回復」は、本発明の医薬組成物もしくは食品組成物をがんを患う対象へ投与、摂取、または適用することによる、がん症状の緩和、予防、あるいは処置を指す。
【0036】
本発明において、用語「予防」は、本発明の医薬組成物もしくは食品組成物をがんを患っていない対象へ投与、摂取、または適用することによってがん症状を阻害あるいはブロックすることを指す。
本発明において、用語「処置」は、本発明の医薬組成物をがんを患う対象へ投与した結果として、がん症状の完全な治癒、ならびにがん症状の部分的な治癒、改善、および緩和を指す。
【0037】
本発明において、用語「対象」は、がんを既に発症しているかまたはがんを発症している可能性のある、ヒトを包含するいずれの動物も指す。
本発明の医薬組成物は、薬学的に有効な量で投与される。
【0038】
本発明において、用語「薬学的に有効な量」は、医学的処置または改善へ適用可能である合理的ベネフィット/リスク比で疾患を処置するのに充分な量を意味する。有効な用量レベルは、対象のタイプおよび重症度、齢(age)、性、薬物活性、薬物への感受性、投与の時間、投与ルートおよび排出速度、処置の持続時間、併用薬物、ならびに医療分野において周知である他の因子を包含する因子に依存する。
【0039】
本発明において、用語「投与」は、いずれか適切な方法によって物質を対象または患者へ提供することを意味する。物質は、非経口的に(例として、静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射、もしくは局所注射)投与され得るか、または所望される方法に従って経口的に投与され得る。投薬量範囲は、患者の重量、齢(age)、性、健康状態、規定食(diet)、投与時間、投与方法、排出速度、および疾患の重症度に依存して変動する。具体的には、本発明において、用語「非経口投与」は、管を使用して、皮下に、筋肉内に、静脈内に、または腹腔内に投与する方法を指すが、経口投与は排除される。加えて、本発明において、用語「経口投与」は、病的症状を回復させるための注射剤の口中への投与方法を指す。
【0040】
非経口投与の製剤について、滅菌懸濁液、液体、水不溶性の賦形剤、懸濁液、エマルション、点眼薬、眼軟膏、シロップ剤、坐薬、エアロゾルなどの外用調製物、および滅菌注射液は従来の方法によって調製され得、好ましくは、クリーム、ゲル、パッチ、スプレー、軟膏、硬膏剤、ローション、塗布薬、眼軟膏、点眼薬、ペースト、またはパップの医薬組成物が調製され得るが、必ずしもこれらに限定されない。水不溶性の賦形剤および懸濁液は、活性化合物(単数または複数)に加えて、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油といった植物油、エチロラート(ethylolate)といった注射用エステル等々を含有し得る。坐薬は、活性化合物(単数または複数)に加えて、ウィテップゾール、マクロゴール、ツイーン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチン等々を含有し得る。
【0041】
本発明において、がんは、肺がん、非小細胞肺がん(NSCL)、細気管支肺胞細胞肺がん(bronchial alveolar cell lung cancer)、卵巣がん、大腸がん、黒色腫、胃がん、消化管がん、肝臓がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚または眼球の黒色腫、子宮がん、直腸がん、結腸がん、乳がん、子宮肉腫、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、食道がん、喉頭がん、小腸がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、多発性骨髄腫、および慢性または急性の白血病からなる群から選択されるいずれか1つであり得、好ましくは、がんは、肝臓がん、肺がん、卵巣がん、大腸がん、黒色腫、または乳がんであり得る。
【0042】
本発明の別の側面において、本発明は、下の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩を活性成分として含む、がんを予防または回復させるための健康機能食品組成物を提供する。
[式1]
【化2】
【0043】
本発明に従う食品組成物は、医薬組成物と同じやり方で製剤化され得、かつ機能的食品として使用され得るかまたは様々な食品へ加えられ得る。本発明の食品組成物が加えられ得る食品は、飲料(beverages)、アルコール性の飲料、菓子類、ダイエットバー(diet bars)、乳製品、肉、チョコレート、ピザ、ラーメン、他の麺類、ガム、アイスクリーム、および二日酔いの薬(hangover relievers)(飲み物(drinks)、低粘度ゲルタイプ、丸薬、錠剤、カプセル等々)、ビタミン複合体、健康補助剤(health supplements)等々によって例示される。
【0044】
本発明の食品組成物は、式1によって表される化合物、その薬学的に許容し得る塩、その水和物、またはその溶媒和物を活性成分として含み、ならびに食品製品化の間に一般的に加えられる成分、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素、調味料、および香味剤を包含していてもよい。上述の炭水化物の例は、単糖類、たとえばグルコース、フルクトース等々;二糖類、たとえばマルトース、スクロース、オリゴ糖類等々;ならびに多糖類、たとえばデキストリンおよびシクロデキストリンを包含する一般的な糖、および糖アルコール、たとえばキシリトール、ソルビトール、およびエリスリトールを包含する。天然甘味剤(タウマチン、ステビア抽出物、例えばレバウジオシドA、グリチルリチン等々)および合成甘味剤(サッカリン、アスパルテーム等々)は、甘味剤として包含され得る。本発明の食品組成物が飲み物および飲料として製剤化されるとき、加えて、クエン酸、高果糖コーンシロップ、糖、グルコース、酢酸、リンゴ酸、果汁、および様々な植物エキスを、式1もしくは2によって表される化合物、その薬学的に許容し得る塩、その水和物、またはその溶媒和物に加えて包含していてもよい。
【0045】
本発明は、式1によって表される化合物、その薬学的に許容し得る塩、その水和物、もしくはその溶媒和物を活性成分として含む食品組成物を含有する、健康機能食品または健康補助食品(health supplement food)を提供する。本発明において、用語「健康機能食品または健康補助食品」は、健康機能食品の法令(Act on Health Functional Food)に従う人体に有用な機能特性を有する原材料または成分を使用して製造および処理された食品を指す。用語「機能」食品は、有用な健康効果を得る(人体の構造および機能または生理学的効果のための栄養素を調節する(regulating)、など)の目的から消費される食品を指す。本発明において、機能食品は、式1によって表される化合物、その薬学的に許容し得る塩、その水和物、もしくはその溶媒和物を、飲料、茶、香辛料、ガム、および菓子類などの食品材料へ加えることによって、またはカプセル化、粉末化、もしく懸濁によって、調製される食品製品である。上の機能食品は、消費されたとき特定の健康効果を有するが、食品を原材料として使用して製造されるところ、一般的な薬物とは違って、長期間薬物を取り込み続けたときに生じる可能性のあるいずれの副作用も有さないという利点を有する。このように得られる本発明の健康機能食品または健康補助食品は、日常的に取り込まれてもよいものであるところ、極めて有用である。かかる健康機能食品または健康補助食品中の、式1によって表される化合物、その薬学的に許容し得る塩、その水和物、またはその溶媒和物の量は、標的にされる健康機能食品のタイプに依存するが、食品本来の味覚を損なわない範囲で加えられ、一般に標的食品の0.01~50wt%、好ましくは0.1~20wt%の範囲にあるので、一様には処方され得ない。加えて、丸薬、顆粒、錠剤、もしくはカプセルの形態にある、健康機能食品または健康補助食品のケースにおいては大抵、0.1~100 wt%、好ましくは0.5~80wt%の範囲で加えられる。本発明の一態様において、本発明の健康機能食品または健康補助食品は、丸薬、錠剤、カプセル、または飲料の形態にあってもよい。
【0046】
本発明の食品組成物は、従来の食品添加剤を含有し得る。「食品添加剤」としての適性は、別様に特定されない限り、食品医薬品安全処(Ministry of Food and Drug Safety)によって承認された食品添加剤のための一般規則および一般試験方法に従い、問題になっている品物に係る規格および基準によって決定される。
【0047】
「韓国食品添加物公定書(Korean Food Additives Code)」に列挙される品物は、例えば、ケトン、グリシン、クエン酸カリウム、ニコチン酸、および桂皮酸などの化学化合物;柿色素(persimmon color)、甘草エキス、結晶セルロース、モロコシ色素(sorghum color)、およびグァーガムなどの天然の添加剤;ならびにL-グルタミン酸ナトリウム調製物、麺類用のアルカリ剤、防腐剤製剤、およびタール色素製剤などの混合型調製物を包含する。
【0048】
加えて、本発明の食品組成物は、がんを予防および/または回復させる目的から、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液体、丸薬等の形態に調製、処理され得る。
【0049】
例えば、錠剤形態にある健康機能食品は、式1によって表される化合物、その薬学的に許容し得る塩、その水和物、またはその溶媒和物を活性成分として含む食品組成物と、賦形剤、結合剤、崩壊剤、および他の添加剤との混合物を従来のやり方で造粒すること、次いで混合物を潤滑剤もしくは同種のものとともに圧縮成形することまたは混合物を直接圧縮成形することによって調製され得る。加えて、錠剤形態にある健康機能食品は、フレーバー増強剤(flavors enhancer)もしくは同種のものを随時含有し得、また好適なコーティング剤で随時コートもされ得る。
【0050】
カプセル形態にある健康機能食品の中でも、硬カプセルは、従来の硬カプセルに、式1によって表される化合物、その薬学的に許容し得る塩、その水和物、もしくはその溶媒和物を活性成分として含む食品組成物と賦形剤などの添加剤との混合物、またはその粒状物(granularity thereof)もしくはコートされたその粒状物を充填することによって調製され得る。軟カプセルは、式1によって表される化合物、その薬学的に許容し得る塩、その水和物、またはその溶媒和物を活性成分として含む食品組成物と賦形剤などの添加剤との混合物を、ゼラチンなどのカプセル基部中へ充填することによって調製され得る。軟カプセルは、必要ならば、グリセリンまたはソルビトールなどの可塑剤、着色料、防腐剤等々を含有し得る。
【0051】
丸薬形態にある健康機能食品は、式1によって表される化合物、その薬学的に許容し得る塩、その水和物、またはその溶媒和物を活性成分として含む食品組成物と、賦形剤、結合剤、崩壊剤等との混合物をいずれか好適なやり方で成形することによって調製され得るが、必要ならば、白色糖もしくは別の好適なコーティング剤でコートされ得るか、またはデンプン、タルク、もしくは他の好適な物質でコートされ得る。
【0052】
顆粒形態にある健康機能食品は、式1によって表される化合物、その薬学的に許容し得る塩、その水和物、またはその溶媒和物を活性成分として含む食品組成物と、賦形剤、結合剤、崩壊剤等との混合物をいずれか好適なやり方で使用することによって調製され得るが、必要ならば、香味剤、フレーバー増強剤等々を含有し得る。No.12(1680μm)、No.14(1410μm)、およびNo.45(350μm)シーブ(sieves)を使用して粒子サイズ試験を行ったとき、顆粒形態にある健康機能食品の全量がNo.12シーブを通過し、No.14シーブに総量の5.0%未満が残存し、総量の15.0%未満がNo.45シーブを通過した。
【0053】
食品のタイプには具体的な限定はなく、従来の意味においてすべての健康機能食品を包含する。
本発明の医薬組成物および食品組成物において言及される事柄は、相互に矛盾しない限り、同じやり方で適用される。
【0054】
本発明の別の側面において、本発明は、薬学的に有効な量の抗がん剤を含有する第1の構成要素;および下の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩を活性成分として含有する第2の構成要素を含む、がんを予防または処置するための医薬キットを提供する。
[式1]
【化3】
【0055】
本発明の別の側面において、上の式1によって表される化合物は、(trans)-2,6-ジクロロ-4-(4-(4-ヒドロキシシクロヘキシルアミノ)-7H-ピロロ[2,3-D]ピリミジン-5-イル)フェノールであり得る。
【0056】
本発明の別の側面において、がんは、肺がん、非小細胞肺がん(NSCL)、細気管支肺胞細胞肺がん、卵巣がん、大腸がん、黒色腫、胃がん、消化管がん、肝臓がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚または眼球の黒色腫、子宮がん、直腸がん、結腸がん、乳がん、子宮肉腫、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、食道がん、喉頭がん、小腸がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、多発性骨髄腫、および慢性または急性の白血病からなる群から選択されるいずれか1つであり得る。
【0057】
本発明の別の側面において、抗がん剤は、シスプラチン、ソラフェニブ、OKN-007、ゲフィチニブ、ドキソルビシン、ビンブラスチン、タキソール、エトポシド、5-FU、およびイホスファミドからなる群から選択される少なくとも1つであり得る。
【0058】
本発明の別の側面において、本発明は、本明細書に記載の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩の投与を、これを必要とする対象へするステップを含む、がんを予防または処置するための方法を提供する。
【0059】
本発明の別の側面において、本発明は、本明細書に記載の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩と、放射線または抗がん剤との共投与を、これを必要とする対象へするステップを含む、がんを予防または処置するための方法を提供する。
【0060】
本発明の別の側面において、本発明は、がんの予防または処置における使用のための医薬の調製のための、本明細書に記載の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩の使用を提供する。
【0061】
本発明の別の側面において、本発明は、がんの予防または処置における使用のための医薬の調製のための、本明細書に記載の式1によって表される化合物、その立体異性体、その溶媒和物、その水和物、またはその薬学的に許容し得る塩と、組み合わせて投与される放射線または抗がん剤との使用を提供する。
上の方法または使用に、上に記載の医薬組成物の詳細な記載が適用されてもよい。
【0062】
下文において、本発明は、以下の例および実験例によって詳細に記載されるであろう。
しかしながら、以下の例および実験例は、本発明を説明するためだけのものであって、本発明の内容はこれらに限定されない。
【0063】
例1: (trans)-2,6-ジクロロ-4-(4-(4-ヒドロキシシクロヘキシルアミノ)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)フェノールの調製
[反応式1]
【化4】
【0064】
ステップ1
DMF(30mL)を4-クロロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(2g、13.02mmol)へ加え、NBS(2.52g、14.24mmol)を0℃にてこれへ加えた。混合物を室温にて3時間撹拌した。反応が完了したら、溶媒を高圧下で除去し、結果として生じたものを水と混合して濾過し、ヘキサンで洗浄して乾燥させることで、5-ブロモ-4-クロロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(2.66g、88%)が与えられた。
1H NMR(DMSO,300MHz):δ7.81(s,1H),8.76(s,1H),5.02(br s,1H).
【0065】
ステップ2
NaH(0.41g、10.3mmol)を、DMF(10mL)に溶解された5-ブロモ-4-クロロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(1.2g、5.16mmol)へ加え、これに続き0℃にて30分間撹拌した。p-塩化トシル(1.36g、7.16mmol)を加えた後、混合物を室温にて6時間撹拌した。反応が完了したら、水をこれへ加えて10分間撹拌し、結果として生じたものを濾過によって収集、乾燥させることで、5-ブロモ-4-クロロ-7-トシル-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(1.79g、90%)が与えられた。
1H NMR(CDCl3,300MHz):δ8.76(s,1H),8.09(d,2H,J=8.1Hz),7.54(s,1H),7.34(d,2H,J=8.1Hz),2.41(s,3H).
【0066】
ステップ3
N-BuOH(10mL)を5-ブロモ-4-クロロ-7-トシル-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(500mg、1.29mmol)へ加え、これへtrans-4-アミノシクロヘキサン-1-オール(223mg、1.94mmol)およびDIPEA(2.58mmol)を加えた。混合物を110℃にて3時間加熱した。溶媒を高圧下で除去して残渣をクロマトグラフィーによって精製することで、(trans)-4-((5-ブロモ-7-トシル-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)アミノ)シクロヘキサン-1-オール(540mg、90%)が与えられた。
1H NMR(CDCl3,300MHz):δ8.37(s,1H),8.06(d,2H,J=8.3Hz),7.45(s,1H),7.31(d,2H,J=8.2Hz),5.87(d,1H),4.12(m,1H),3.70(m,1H),2.40(s,3H),2.16(m,2H),2.03(m,2H),1.54(m,2H),1.31(m,2H).
【0067】
ステップ4
(Trans)-4-((5-ブロモ-7-トシル-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)アミノ)シクロヘキサン-1-オール(200mg、0.43mmol)、2,6-ジクロロ-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノール(0.86mmol)、Na2CO3(0.86mmol)、ジオキサン(4mL)、および水(1mL)をマイクロ波バイアル中に入れた。溶媒を15分間脱気してPd(PPh3)2Cl2(10mol%)をこれへ加え、マイクロ波によって80℃にて30分間照射した。溶液をセライト層に通して濾過して濾過物をブライン(10mL x 5)で洗浄し、有機層を濃縮してクロマトグラフィー(10%メタノール:ジクロロメタン)へ供することで、(trans)-2,6-ジクロロ-4-(4-((-4-ヒドロキシシクロヘキシル)アミノ)-7-トシル-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)フェノール(40%)が与えられた。
1H NMR(CDCl3,300MHz):δ8.46(s,1H),8.11(d,2H,J=8.36Hz),7.41(s,1H),7.36(s,2H),7.31(d,2H,J=8.13Hz),6.03(m,1H),4.71(d,1H),4.09(m,1H),3.63(m,1H),2.41(s,3H),2.05(m,2H),1.89(m,2H),1.40(m,2H),1.10(m,2H).
【0068】
ステップ5
1M TBAF(THF中)を、上の中間体(trans)-2,6-ジクロロ-4-(4-((-4-ヒドロキシシクロヘキシル)アミノ)-7-トシル-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)フェノールへ加え、室温にて20時間撹拌した。反応物をクロマトグラフィー(15%メタノール:ジクロロメタン + 0.1%水性アンモニア)によって減圧下で精製することで標題化合物(40%)が与えられた。
1H NMR(DMSO-d6,300MHz):δ11.82(br s,1H),10.16(br s,1H),8.17(s,1H),7.42(s,2H),7.29(s,1H),5.27(d,1H),4.54(m,1H),4.01(m,1H),3.43(m,1H),1.95(m,2H),1.76(m,2H),1.40(m,2H),1.20(m,4H).
【0069】
実験例1: 主要タンパク質発現の阻害の評価
ウェスタンブロッティングを通して、がん細胞成長の際の主要タンパク質の発現に対する、本発明の医薬組成物の活性成分である例1の化合物の阻害効果を確認するための実験を実施した。
【0070】
具体的には、TNBC細胞株であるMDA-MB-231細胞を37℃、5%CO2インキュベーター中で培養し、細胞培養に使用された培地は10%FBSで補充されたRPMI-1640であった。BALB/c-ヌードマウス(対照群および投与群において各5匹のマウス)の右首中、皮下に5x106/頭/100μlのMDA-MB-231細胞を注射することによって腫瘍を誘発し、腫瘍サイズが200mm3に達したときに実験を実施した。本発明の医薬組成物の活性成分である例1の化合物を、5、10、および20mg/kgの濃度にて静脈内注射によって1度投与し(T4、T5、およびT6)、次いでCO2を使用して安楽死させ、その結果対照群および投与群から得られた腫瘍組織を採取してウェスタンブロッティングへ供した。タンパク質を腫瘍組織から単離し、BRD4、c-myc、PD-L1、およびアクチンの抗体を夫々使用してウェスタンブロッティングの結果を確認した。
【0071】
本発明の医薬組成物の活性成分である例1の化合物で処置されたT4、5、および6群におけるBRD4、c-myc、およびPD-L1の発現を、未処置陰性対照(NC)のと比較したとき、T4、5、および6群におけるがん形成に重要なタンパク質の発現が低減していたことを確認した。
【0072】
実験例2: 乳がん細胞株の阻害の評価
本発明の医薬組成物の活性成分である例1の化合物の乳がん細胞株に対する成長阻害効果を細胞生存率アッセイを通して確認するための実験を実施した。
【0073】
具体的には、以下のとおりの細胞生存率アッセイを実施した。ヒト由来乳がん細胞株BT20およびTNBC細胞株MDA-MB-231を各々、96ウェルプレートに5×103細胞/ウェルの密度にて播種し24時間培養した。次いで、I-bet 762および例1の化合物をそれらへ種々の濃度にて処置し、48時間培養した。培養終了時に100μlのWST-8溶液をプレートの各ウェルへ加え、マイクロプレートリーダーで450nm光学フィルターを使用して生細胞中の還元因子によって産生されるホルマザンを測定するため吸光度を測定した。
【0074】
図2および3に示されるとおり、ヒト由来乳がん細胞株BT20およびTNBC細胞株MDA-MB-231を培養することによって腫瘍様塊の形成を分析した結果として、本発明の医薬組成物の活性成分である例1の化合物が、一般的な乳がん細胞株においてのみならず、TNBC細胞株においてもまた、用量依存的に細胞生存率が抑制されたことを確認した。
【0075】
図4は、例1の化合物での処置の24時間後のMDA-MB-231、MDA-MB-453、およびBT-20の細胞生存率を示す。
図4に示されるとおり、一般的な乳がん細胞株においてのみならず、TNBC細胞株においてもまた、用量依存的に細胞生存率が抑制されたことを確認した。
【0076】
実験例3: 乳がん成長阻害の評価
本発明の医薬組成物の活性成分である例1の化合物の、ヒト由来TNBC細胞株である乳がん細胞(MBA-MB-231)の異種移植腫瘍試料に対する腫瘍阻害を確認するための実験を実施した。
【0077】
具体的には、80匹メス5週齢の異種移植Balb/cヌードマウスを使用して、本発明の医薬組成物の活性成分である例1の化合物の、乳がん細胞生存率に対するin vitro阻害効果を確認するための実験を実施したが、前記マウスは投与開始時におよそ8週齢であった。
【0078】
実験的異種移植Balb/cヌードマウスは、免疫細胞であるT細胞を欠いており、ヒトがん細胞を移植するのに好適な動物モデルとして選択した。投与時に総平均体重の±20%以内にある動物を選択し、その表面から腫瘍成長を週に2度チェックし、腫瘍のサイズをノギスで3週間測定した。
【0079】
図5に示されるとおり、本発明の医薬組成物の活性成分である例1の化合物が、腫瘍成長を有意に阻害し得たことを確認した。
【0080】
実験例4: アポトーシス小体頻度の比較
がん細胞株が注射されたBALB/c-ヌードマウスにおける腫瘍中のアポトーシス小体の数および腫瘍組織のH&E染色を測定することによって、本発明の医薬組成物の活性成分である例1の化合物の腫瘍壊死効果を確認するための実験を実施した。
【0081】
具体的には、実験例1のT4、T5、およびT6群の腫瘍組織中のアポトーシス小体の数を測定するため、腫瘍組織が成長していた5箇所のエリアを無作為に選択し、アポトーシス小体の数をx400倍率にて測定した。測定値の和を算出し個々の値として表現し、GraphPad Prism 5を使用して統計的に比較した。
【0082】
アポトーシス小体を観察した結果として、細胞が縮んで分裂したこと(ブレブ)および空隙(中空)が周辺を取り囲んだことが観察された。加えて、細胞質の好酸球性(eosinophilicity)が増大し、核は小さく、濃縮または断片化され、周囲の細胞によって貪食されることが観察された。
【0083】
表1中の測定されたアポトーシス小体の数によると、その数は、本発明の医薬組成物の活性成分である例1の化合物で処置されたT4、T5、およびT6群において、NC(陰性対照)と比較して用量依存的に高かったが、このことにより、本発明の例1の化合物は、がん細胞のアポトーシスを増加させることによって腫瘍抑制効果を有することが確認された。
【0084】
図6に示されるとおり、中心エリア(central area)を切り取り、一般的な組織処理プロセスを通してパラフィンブロックを調製し、ミクロトームを使用して組織を3μm厚にて薄片にした。次いで切片をヘマトキシリンおよびエオジンで染色し、細胞壊死エリアを観察した。
【0085】
NC群と例1の化合物で処置されたT4、T5、およびT6群との染色組織を比較したとき、例1の化合物で処置された群における組織壊死のエリアがより多かったが、このことにより、例1の化合物は、腫瘍組織の壊死を引き起こし、腫瘍抑制効果を有することが確認された。
【0086】
【0087】
実験例5: 肝臓がん細胞株の阻害の評価
本発明の医薬組成物の活性成分である例1の化合物が、TNBC以外のがん細胞株に対しても成長阻害効果を有するかを確認した。
【0088】
具体的には、
図7および8に示される肝細胞癌細胞株であるHepG2およびHep3Bの細胞生存率をチェックするためのWST-8アッセイを以下のとおり実施した。HepG2およびHep3Bを各々、96ウェルプレートに5×10
3細胞/ウェルの密度にて播種し、24時間培養した。次いでソラフェニブおよびOPT-0139を2倍濃度にて段階希釈し、次いでプレートへ種々の濃度にて処置し、これに続き24、48、および72時間培養した。100μlのWST-8溶液をプレートの各ウェルへ加え、マイクロプレートリーダーで450nm光学フィルターを使用して生細胞中の還元因子によって産生されるホルマザンを測定するため吸光度を測定した。
【0089】
ソラフェニブおよび例1の化合物で処置されなかった細胞は、濃いオレンジ色を示し、ソラフェニブおよび例1の化合物で処置された細胞は、細胞株の培養培地の色である明るい桃色を示した。したがって、生細胞の数は吸光度を測定することによって測定され得る。
【0090】
図9および10に示されるとおり、クローン形成アッセイを以下のとおり実施した。HepG2およびHep3Bを各々、12ウェルプレートに3×10
3細胞/ウェルの密度にて播種し24時間培養した。次いで、ソラフェニブおよび例1の化合物をそれらへ各々2.5μMおよび5μMにて処置し、10日間培養した。培養が完了したら、細胞をPBSで洗浄して37%ホルムアルデヒドで固定し、0.01%クリスタルバイオレットで染色した。染色後、細胞を蒸留水で洗浄し、染色細胞のコロニーを撮影した。
【0091】
染色細胞のコロニーを観察した結果として、ソラフェニブおよび例1の化合物で処置されなかったエリアと処置されたエリアとの間の、細胞生存率を示すコロニー数には、明確な差異があった。
【0092】
図7~10に示されるとおり、肝臓がん細胞株Hep3B細胞およびHepG2細胞において、WST-8を使用して細胞生存率を確認した結果として、例1の化合物およびソラフェニブの処置によって、用量依存的かつ時間依存的に細胞生存率が減少し、既存の標的抗がん剤であるソラフェニブと比較して際立った効果を示したことが見出された。
【0093】
実験例6: 様々ながん細胞株に対する細胞傷害性の評価
上に記載の肝臓がん細胞株阻害の評価と同様のプロセスを通して、様々ながん細胞株に対する例1の化合物の細胞傷害性を評価した。エトポシドは、抗がん剤として販売されており、対照群薬物として使用した。
【0094】
結果は
図11に示す。
図11は、本発明の例1の化合物の傷害性を様々ながん細胞株に対して確認した結果を示す一連のグラフである。
【0095】
図11に示されるとおり、本発明に従う例1の化合物は、がん細胞株A549、SK-OV-3、SK-MEL-2、およびHCT15に対して優れた傷害性を用量依存的に示した。よってこれは抗がん剤における活性成分として有効に使用され得る。
【0096】
実験例7: 三種陰性乳がん同種移植マウスモデルにおける処置方法に従う腫瘍サイズの変化の評価
4T1マウスの三種陰性乳がん細胞(6x105細胞)を、免疫能力のある6週齢BALB/cマウスの後肢中へ注射した。注射後7日に着実な腫瘍成長を確認した後、各群から10匹のマウスを選択し、これに続く実験に使用した。
【0097】
実験群は、対照群(処置なし)、放射線治療群、例1の化合物で処置された群、および例1の化合物と放射線治療との組み合わせで処置された群からなった。各処置は腫瘍移植から31日後に実行した。
【0098】
電子ビームを使用して放射線処置を実施し、1週間、2日毎に1度、合計24Gyを3回照射した(第10、12、および14日)(8Gy x 3)。例1の化合物を10mg/kgの用量にて、2日毎または3日毎に1度(第10、12、14、17、19、および21日)合計6回、2週間にわたり静脈内投与した。放射線治療と薬物投与とを同時に行った日は、放射線治療から4時間後、マウスが麻酔から覚醒したことを確認した後に例1の化合物を投与した。
【0099】
ノギスを使用して各処置日に腫瘍の長さおよび幅を測定し、次いで下の数式1を使用して腫瘍体積(mm3)を算出した。
[数式1]
体積(mm3)=長さ(mm) x {幅(mm)}2 x 0.5
【0100】
上と同じやり方で各処置方法につき10匹のマウス中へ腫瘍を注射した後、腫瘍成長を31日間観察した結果を
図12に示す。結果として、例1の化合物の単独投与は、対照群と比較して腫瘍成長を有意に遅延させることを確認した。加えて、例1の化合物と放射線との組み合わせ投与は、各単独投与と比較して腫瘍成長に対して秀でた阻害効果を有することもまた、確認した。
【0101】
実験例8: 三種陰性乳がん同種移植マウスモデルにおける処置方法に従う肺転移の評価
マウスを実験例7と同じやり方で調製し、腫瘍注射後31日目にマウスの肺を除去し、肺転移を観察した結果を
図13に示す。結果として、例1の化合物の単独投与は、対照群と比較して転移を有意に低減することを確認した。加えて、例1の化合物と放射線との組み合わせ投与は、各単独投与と比較して肺転移を有意に(P<0.05)低減することもまた、確認した。
【0102】
実験例9: 三種陰性乳がん同種移植マウスモデルにおける処置方法に従う腫瘍微小環境中の免疫細胞変化の評価
各マウスからの腫瘍組織を単一細胞単離へ、これに続きフローサイトメトリー分析(FACS)へ供して、免疫調節(immunomodulatory)効果を確認した。
【0103】
具体的には、腫瘍細胞注射から31日後に実験例7と同じやり方でマウスの脾臓および腫瘍を抽出した。腫瘍組織を切除後、滅菌されたかみそりの刃を使用してこれを細かく刻むことによって機械的に処理し、次いでDNase(0.1mg/ml)およびコラゲナーゼ(1mg/ml)で夫々処置し、36℃にて30分間反応させることで単細胞懸濁液が得られた。腫瘍組織から単細胞を単離後、浸潤性白血球を分析するために、FACS管当たり1×10細胞を、CD3抗体、CD8b抗体、CD4抗体、CD11b抗体、F4/80抗体、およびCD206抗体を使用して、FITC、PE、PerCP/Cy5.5、およびAPCの蛍光で染色した。各染色試料につき、BD Bioscience FACSCalibur機を使用してCD8+ 細胞傷害性T細胞の画分を算出した。FlowJoソフトウェア(version 10)を使用してFACS結果の分析を実施した。
【0104】
上に記載のとおりの処置方法に従う腫瘍微小環境における免疫細胞の観察された変化を
図14および15に示す。
【0105】
CD+ T細胞は、腫瘍細胞を破壊し得る細胞傷害性T細胞であることが知られている。上の実験の結果として、例1の化合物を単独投与したときCD8+ T細胞の割合が増大したことを確認した。加えて、例1の化合物と放射線とを組み合わせて投与したとき、CD8+ T細胞の割合も各単独投与と比較して有意に増大したことを確認した。
【0106】
例1の化合物を単独投与したとき、抗腫瘍効果を有するM1 TAMは有意に(P<0.01)増加し、および免疫抑制効果を有するM2 TAMは有意に(P<0.01)減少した。加えて、例1の化合物と放射線とを組み合わせて投与したときも、M1 TAMの増加およびM2 TAMの減少を確認した。
【0107】
実験例10: 三種陰性乳がん同種移植マウスモデルにおける処置方法に従う腫瘍微小環境中のタンパク質発現変化の評価
ブロモドメインおよび末端外(extraterminal)ドメイン(BET)ファミリータンパク質は近年、がん処置にとって重要な標的になりつつあり、とりわけBETファミリーメンバーの1つBRD4は、血液腫瘍および固形腫瘍において一般的に見出されている。したがって、がん遺伝子の下方調節効果に加えて、BRD4インヒビターは、腫瘍細胞の増殖を直接抑制することによって腫瘍成長を阻害する。加えて、低酸素症誘導性因子1α(HIF-1α)タンパク質は、腫瘍微小環境において腫瘍細胞分裂、血管新生、浸潤、および転移を調節する、鍵となる因子である。
【0108】
BRD4およびHIF-1αなどのタンパク質の発現の変化を評価するために、実験例9において単離された腫瘍細胞を、処置方法に従う腫瘍微小環境におけるタンパク質発現を評価する免疫細胞化学(IHC)分析へ供した。結果を
図16および17に示す。
【0109】
具体的には、腫瘍組織を抽出して4%パラホルムアルデヒド中で固定し、パラフィン中に包埋することでブロックを創出した。組織を含有するパラフィンブロックを横方向に4μmの厚さへ薄く切り、スライドを付着させた。スライドを付着した組織からキシレンおよびエタノールを使用してパラフィンを除去し、スライドをメタノール中3%H2O2の溶液に10分間室温にて浸すことによって組織から内在性ペルオキシダーゼを除去した。次いで、抗原回復(antigen retrieval)につき、スライドを0.01Mクエン酸ナトリウム緩衝(pH6.0)中に入れて煮沸した。非特異的結合を除外するために、5%正常ヤギ血清を使用して細胞表面上のFcRをブロックした。次いでスライドを、一次抗体(HIF-1α(SantaCruz,sc-13515)、PD-L1(Abcam,ab2025921)、CD8(Abcam,ab203035)、およびCD68(CellSignaling,97778))とともに4℃にて終夜インキュベートした。二次抗体を付着させ、ImmPRESSGoat Anti-Rat IgG(Mouse Adsorbed) Polymerキット(Vector Laboratories)、Abcam(ab150165,ab150081)、およびREAL EnVisiondetection系(Dako)を使用して発色現像を誘発した。染色組織をAxioskop40光学顕微鏡(Carl Zeiss)下40×倍率にて観察し、AxioVision4.7ソフトウェアを使用して画像を保存した。Image Jソフトウェア(NIH,Bethesda)を使用し写真中の染色領域の面積(area)を通して発現レベルを測定した。1試料当たり少なくとも3つのスライドから平均密度値を算出した。
【0110】
結果として、Brd4発現は、例1の化合物での処置によって有意に(P<0.001)低減し、Brd4との関連が知られているHIF-1α発現もまた、腫瘍組織において有意に(P<0.05)低減した。加えて、例1の化合物は、免疫回避を誘発するためがん細胞によって発現されるPD-L1の発現も有意に(P<0.01)減少させることを確認した。
【0111】
実験例9のフローサイトメトリー結果と一致して、CD8+ T細胞の集団は、放射線および例1の化合物の投与の夫々に起因して増加したことが観察された。加えて、例1の化合物と放射線とを組み合わせて投与したとき、CD8+ T細胞の集団はさらに増加した(相乗効果)ことも確認した。さらにまた、腫瘍組織中のCD68+ マクロファージの集団は、例1の化合物によって有意に(P<0.01)低減した。
【0112】
実験例11: 他の抗がん剤と組み合わせた有効性の評価
<11-1>シスプラチンと組み合わせた有効性の評価
ヒト卵巣がん細胞株(SKOV-3およびOVCAR-3)を、対照(処置なし)、0.1μMの例1の化合物、1μMのシスプラチン、および0.1μMの例1の化合物/1μMのシスプラチンで処置し、SKOV-3およびOVCAR-3の細胞生存率を確認した。結果は
図18に示す。
【0113】
0.1μMの例1の化合物または1μMのシスプラチンを、SKOV-3細胞株およびOVCAR-3細胞株へ投与したとき、細胞生存率が抑制されたことを確認した。加えて、0.1μMの例1の化合物および1μMのシスプラチンを組み合わせて投与したとき、細胞生存率はさらに阻害された(相乗効果)こともまた確認した。
【0114】
<11-2>ソラフェニブと組み合わせた有効性の評価
ヒト肝臓がん細胞株(SK Hep1およびHuh-7)を、対照(処置なし)、0.1μMの例1の化合物、1μMのソラフェニブ、および0.1μMの例1の化合物/1μMのソラフェニブで処置し、SK Hep1およびHuh-7の細胞生存率を確認した。結果は
図19に示す。
【0115】
0.1μMの例1の化合物または1μMのソラフェニブを、SK Hep1細胞株およびHuh-7細胞株へ投与したとき、細胞生存率が抑制されたことを確認した。加えて、0.1μMの例1の化合物および1μMのソラフェニブを組み合わせて投与したとき、細胞生存率がさらに阻害された(相乗効果)ことも確認した。
【0116】
上の結果から、本発明に従う例1の化合物が、乳がん細胞株において腫瘍様塊の形成を阻害し、かつ、肺がん、卵巣がん、結腸がん、黒色腫等において幅広く使用されているトポイソメラーゼインヒビターである抗がん薬ソラフェニブおよびエトポシドと比較すると、抗がん薬ソラフェニブおよびエトポシドより大きく際立った効果またはこれらと等しい効果を呈することを確認した。加えて、本発明に従う例1の化合物は、乳がん細胞株および肝臓がん細胞株において放射線治療または他の抗がん薬と組み合わされたとき相乗的な抗がん効果を呈し、よってがんの処置において優れた効果を呈する抗がん薬または食品として展開され得る。
【国際調査報告】