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特表2024-516703増幅後にゲノム完全性が維持されている細胞を含む細胞微小区画及び調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】増幅後にゲノム完全性が維持されている細胞を含む細胞微小区画及び調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20240409BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20240409BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
C12N5/00
C12N5/07
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568053
(86)(22)【出願日】2022-05-11
(85)【翻訳文提出日】2023-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2022062792
(87)【国際公開番号】W WO2022238485
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】2104988
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520174104
【氏名又は名称】ツリーフロッグ テラピューティクス
【氏名又は名称原語表記】TREEFROG THERAPEUTICS
【住所又は居所原語表記】30 AVENUE GUSTAVE EIFFEL BATIMENT A,33600 PESSAC,FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】フェイユー,マクシム
(72)【発明者】
【氏名】コーヘン,フィリップ,ジョセフ,レジス
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BC01
4B065BC47
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】
培養中の細胞の遺伝子完全性を維持するための、特に細胞療法の大規模生産のための解決策が必要とされている。
【解決手段】
本発明は、三次元細胞微小区画又は三次元細胞微小区画アセンブリであって、少なくとも1つの外側ヒドロゲル層と、上述の外側層の内側に、細胞の少なくとも1つの層及び/又は少なくとも1つの細胞ベース層と、を含み、微小区画又は微小区画アセンブリ中に存在する細胞の全集合体の20%未満が、少なくとも1つの変異を有する細胞である、三次元細胞微小区画又は三次元細胞微小区画アセンブリに関する。本発明はまた、そのような微小区画又は細胞微小区画アセンブリを製造するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元細胞微小区画であって、少なくとも1つの外側ヒドロゲル層と、前記外側層の内側に、細胞の少なくとも1つの層及び/又は少なくとも1つの細胞ベース層と、を含み、前記微小区画中に存在する細胞の全集合体の20%未満が、少なくとも1つの変異を有する細胞であることを特徴とする、三次元細胞微小区画。
【請求項2】
前記細胞が、前記微小区画の体積に対して50体積%より多く、好ましくは前記微小区画の体積に対して70体積%より多くを占めることを特徴とする、請求項1に記載の微小区画。
【請求項3】
前記変異が、遺伝子変異及びエピジェネティック変異から選択されることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項4】
前記変異が、機能的変異であることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項5】
少なくとも1つの変異が、発がん性変異であることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項6】
前記細胞の20%未満が、P53遺伝子の少なくとも1つの変異及び/又は20q染色体領域の増幅による少なくとも1つの変異及び/又は7q染色体領域の増幅による少なくとも1つの変異を有する細胞であることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項7】
前記細胞の20%未満が、20q11染色体領域の増幅による少なくとも1つの変異を有する細胞であることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項8】
前記少なくとも1つの変異を有する細胞が、前記微小区画中に存在する前記細胞の全集合体の0~10%、好ましくは0~5%を占めることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項9】
前記細胞が、組織又は微小組織の形態で組織化されていることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項10】
内部管腔を含むことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項11】
(a)前記細胞層及び/又は前記細胞ベース層と(b)前記ヒドロゲル層との間に、等張性水溶液の及び/又は細胞外マトリックス要素を含む少なくとも1つの中間層も含むことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項12】
中間等張性水溶液層が、細胞外マトリックス層であることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項13】
前記等張性水溶液の中間層が、0.05~3kDaのヤング率を有することを特徴とする、請求項11又は12に記載の微小区画。
【請求項14】
前記細胞がヒト細胞又は動物細胞であることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項15】
管腔の周りに連続して組織化された
-細胞の少なくとも1つの層及び/又は少なくとも1つの細胞ベース層と、
-等張性水溶液の中間層と、
-外側ヒドロゲル層と、を含むことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項16】
前記細胞が、ヒト若しくは動物の人工多能性幹細胞(iPSC)、及び/又はヒト若しくは動物の複能性細胞、及び/又はヒト若しくは動物の前駆細胞、及び/又はヒト若しくは動物の分化細胞であることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項17】
閉じられていることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項18】
前記外側層が、アルギネートを含むことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項19】
卵形、円筒形、回転楕円体又は球体の形状を有することを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項20】
少なくとも20個の細胞、優先的には少なくとも1000個の細胞を含むことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の細胞微小区画。
【請求項21】
前記微小区画中に存在する細胞が、少なくとも1個の細胞、優先的には1~50個の細胞の外側ヒドロゲル層へのカプセル化の後の少なくとも2回の細胞分裂サイクルの後に得られたことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項22】
前記微小区画中に存在する細胞が、少なくとも1個の細胞、優先的には1~50個の細胞の外側ヒドロゲル層へのカプセル化の後の少なくとも5回の細胞分裂サイクルの後に得られたことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項23】
少なくとも2つの三次元細胞微小区画のアセンブリであって、各微小区画が、少なくとも1つの外側ヒドロゲル層と、前記外側層の内側に、細胞の少なくとも1つの層及び/又は少なくとも1つの細胞ベース層と、を含み、全ての前記微小区画中に存在する細胞の全集合体を構成する細胞の20%未満が、少なくとも1つの変異を有する細胞であることを特徴とする、アセンブリ。
【請求項24】
少なくとも1つの微小区画が、請求項1~21のいずれか一項に記載の微小区画であることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画のアセンブリ。
【請求項25】
前記微小区画が、閉じたバイオリアクター内の培養培地中に配置されることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の微小区画のアセンブリ。
【請求項26】
請求項1~22のいずれか一項に記載の細胞微小区画又は請求項23~25のいずれか一項に記載の細胞微小区画のアセンブリを調製するための方法であって、
-(a)等張性培地、優先的にはアポトーシス阻害剤を含有する培養培地中に、単一細胞及び/又は細胞の少なくとも1つのクラスターを含む細胞の懸濁液を調製する工程と、
-(b)前記細胞懸濁液をヒドロゲル層内にカプセル化する工程と、
-(c)優先的に、得られた前記微小区画を、アポトーシス阻害剤を含有する等張性溶液中で培養する工程と、
-(d)優先的に、前記アポトーシス阻害剤を除去するように、前記微小区画をすすぐ工程と、
-(e)少なくとも2回の細胞分裂サイクルの間、等張性溶液中で前記微小区画を培養する工程と、
-(f)任意選択的に、得られた前記細胞微小区画を回収する工程と、を含み、
前記方法が、工程(b)で最初にカプセル化された細胞の全てが、それらがカプセル化される前記微小区画の体積の50%未満の体積を占めることを特徴とする、方法。
【請求項27】
工程(b)で最初にカプセル化された各細胞クラスターが、それがカプセル化される微小区画の最大寸法の20%未満のより大きな寸法を有することを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
工程(a)と(b)の間、又は工程(b)のカプセル化と同時のいずれかに、前記細胞を細胞外マトリックスと混合する工程を含むことを特徴とする、請求項26~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
工程(c)、(d)及び(e)が、連続的又は逐次的な撹拌下で行われることを特徴とする、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
閉じたバイオリアクター内で実施されることを特徴とする、請求項26~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記方法が、工程(e)の後に前記細胞の少なくとも1回の再カプセル化を含むことを特徴とする、請求項26~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記方法が、前記細胞の2~15回の再カプセル化を含むことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
各再カプセル化が、継代に対応することを特徴とする、請求項31又は32に記載の方法。
【請求項34】
前記再カプセル化が、
-(i)前記外側ヒドロゲル層を除去する工程と、
-(ii)等張性培地、優先的にはアポトーシス阻害剤を含有する培養培地中で単一細胞及び/又は細胞の少なくとも1つのクラスターを得るように、前記微小区画内に含有された前記細胞を再懸濁させる工程と、
-(iii)前記細胞懸濁液をヒドロゲル層内にカプセル化する工程と、
-(iv)優先的に、得られた前記微小区画を、アポトーシス阻害剤を含有する等張性溶液中で培養する工程と、
-(v)優先的に、前記アポトーシス阻害剤を除去するように、前記微小区画をすすぐ工程と、
-(vi)少なくとも1回の細胞分裂サイクルの間、等張性溶液中で前記微小区画を培養する工程と、
-(vii)任意選択的に、得られた前記細胞微小区画を回収する工程と、を含むことを特徴とする、請求項31~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
各微小区画について、前記単一細胞が、工程(b)で最初にカプセル化された細胞の全ての数の50%未満を占めることを特徴とする、請求項26~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
工程(a)の前又はそれと同時に、前記方法が、化学的解離、酵素的解離又は機械的解離による前記細胞の解離工程を含むことを特徴とする、請求項26~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
変異細胞を含む前記微小区画を除去する1つ以上の工程を含むことを特徴とする、請求項26~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
細胞の増幅中に細胞のゲノム完全性を維持するための、請求項26~37のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項39】
細胞の増幅中に細胞のゲノム完全性を維持するための、請求項1~22のいずれか一項に記載の微小区画、又は請求項23~25のいずれか一項に記載の微小区画アセンブリの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に三次元細胞培養の文脈において、いくつかの細胞分裂サイクルにわたるエクスビボ分裂中に細胞のゲノム完全性を維持することに関する。
【背景技術】
【0002】
エクスビボ細胞培養は、ますます関心を集めている分野である。培養細胞は、任意の種類の細胞であってよい。培養細胞は、異なる表現型を有する分化細胞、前駆細胞及び幹細胞の両方を含み得る。細胞培養技術における顕著な進歩は、三次元培養系の導入である。三次元培養は、実際にインビボ天然系により近く、多くの用途、特に療法の開発に使用することができる。
【0003】
しかしながら、細胞療法及び組織操作は、工業的な量の細胞の利用可能性によって条件付けられ、このことは、細胞数の大きな増加、したがって、短時間での多数の分裂に頼ることを必要とする。最新の細胞培養系において、この増加によって、培養物の増殖中に多数の細胞にわたる各分裂において、変異、特に、有害なゲノム及び/又はエピジェネティック機能的変異の出現及び選択を引き起こし、したがって、特に療法におけるそれらの使用を損なう。
【0004】
変異は、遺伝子配列(コード若しくは非コード、ペプチド配列に関してサイレントであるか若しくはサイレントでない)の点変異、構造バリアント、エピジェネティック修飾、又は更にミトコンドリアDNA修飾であり得る。1つ以上の機能的変異又は潜在的に機能的な変異を有する変異細胞のみが、療法における細胞の使用、すなわち、培養細胞に対して機能の獲得若しくは喪失、又は機能の潜在的な喪失を与える任意の伝染性の遺伝子修飾又はエピジェネティック修飾に関して問題である。それは、特に、成長の利点、細胞死に対する感受性の低下、腫瘍形成に関与する遺伝子の改変、又は腫瘍形成の抑制であり得る。最も影響力のある変異は、培養において優勢になる細胞のクローン増殖を可能にする変異である。
【0005】
特に再発性の遺伝子変異の例は、特に、Y.Avior,K.Eggan,N.Benvenisty,Cancer-Related Mutations Identified in Primed and Naive Human Pluripotent Stem Cells.Cell Stem Cell.25,456-461(2019)に記載される。最もよく知られているものの中で、P53遺伝子の変異(F.T.Merkle,S.Ghosh,N.Kamitaki,J.Mitchell,Y.Avior,C.Mello,S.Kashin,S.Mekhoubad,D.Ilic,M.Charlton,G.Saphier,R.E.Handsaker,G.Genovese,S.Bar,N.Benvenisty,S.A.McCarroll,K.Eggan,Human pluripotent stem cells recurrently acquire and expand dominant negative P53 mutations.Nature.545,229-233(2017))、及び20q11染色体領域の増幅による変異(N.Lefort,M.Feyeux,C.Bas,O.Feraud,A.Bennaceur-Griscelli,G.Tachdjian,M.Peschanski,A.L.Perrier,Human embryonic stem cells reveal recurrent genomic instability at 20q11.21.Nature Biotechnology.26,1364-1366(2008))から作製されることが述べられ得る。
【0006】
培養細胞の遺伝的安定性及び完全性の問題は、既知であり、特に、多能性幹細胞について広く研究されており、例えば、S.Attwood,M.Edel,iPS-Cell Technology and the Problem of Genetic Instability-Can It Ever Be Safe for Clinical Use? Journal of Clinical Medicine.8,288(2019)、又は、P.Andrews,Human pluripotent stem cells:genetic instability;or stability;Regenerative medicine,vol.16,No 2,March 2,2021。また、変異誘発は、Ji,S.Ng,V.Sharma,D.Necut,S.Human,M.Sam,Q.Trinh,G.M.Church,J.D.McPherson,A.Nagy,N.N.Batada,Elevated coding mutation rate during the reprogramming of human somatic cells into induced pluripotent stem cells.Stem Cells.30,435-440(2012)、及びV.Turinetto,L.Orlando,C.Giachino,Induced pluripotent stem cells:Advances in the quest for genetic stability during reprogramming process.International Journal of Molecular Sciences.18(2017),doi:10.3390/ijms18091952に記載されるようにプログラミングされてすぐに幹細胞を培養することにとって、現時点で非常に問題であることも知られている。
【0007】
この遺伝的不安定性は、細胞療法の開発にとって、特に、幹細胞の臨床用途にとって、非常に有害である(Yamanaka,Pluripotent Stem Cell-Based Cell Therapy-Promise and Challenges.Cell stem cell.27,523-531(2020)、S.E.Peterson,J.F.Loring,Genomic instability in pluripotent stem cells:Implications for clinical applications.Journal of Biological Chemistry.289,4578-4584(2014)、K.Garber,RIKEN suspends first clinical trial involving induced pluripotent stem cells.Nature biotechnology.33,890-891(2015))。
【0008】
したがって、培養中の細胞の遺伝子完全性を維持するための、特に細胞療法の大規模生産のための解決策が大いに必要とされている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、これらの必要性の全てを満たし、従来技術の不都合及び限界を克服することである。
【発明の概要】
【0010】
3Dでの細胞培養のための細胞微小区画の開発に取り組むことによって、本願発明者らは、それらのゲノム完全性を維持しつつ、細胞塊培養を可能にする系を開発した。
【0011】
この目的において、本発明の主題は、三次元細胞微小区画であって、少なくとも1つの外側ヒドロゲル層と、外側層の内側に、細胞の少なくとも1つの層及び/又は少なくとも1つの細胞ベース層と、を含み、微小区画中に存在する細胞の全集合体の20%未満が、いくつかの細胞分裂の後であっても、優先的には0~10%、より優先的には0~5%、優先的には0~3%が、少なくとも1つの変異を有する細胞である、三次元細胞微小区画である。
【0012】
別の主題によれば、本発明は、好ましくは液体懸濁液中の、少なくとも2つの三次元細胞微小区画のアセンブリであって、各微小区画が、少なくとも1つの外側ヒドロゲル層と、上述の外側層の内側に、細胞の少なくとも1つの層及び/又は少なくとも1つの細胞ベース層と、を含み、全ての微小区画中に存在する細胞の全集合体の20%未満、優先的には0~10%、更により優先的には0~5%、特に0~2%が、少なくとも1つの変異を有する細胞である、アセンブリに関する。
【0013】
有利なことに、変異細胞のこのレベルは、既存の細胞培養系のレベルよりも低い。例えば、特定の研究は、P53遺伝子の不活性化変異が、従来の2D幹細胞培養系において、1回の継代当たり最大1.9倍の選択利点を与えることを示唆している(iPS-Cell Technology and the Problem of Genetic Instability-Can It Ever Be Safe for Clinical Use? Attwood & Edel)+Merkle,F.T.;Ghosh,S.;Kamitaki,N.;Mitchell,J.; Avior,Y.;Mello,C.;Kashin,S.;Mekhoubad,S.;Ilic,D.;Charlton,M.;et al.Human pluripotent stem cells recurrently acquire and expand dominant negative P53 mutations.Nature 2017,545,229-233)。このことは、この変異の発生後の付着の確率が97%であることを暗示している(Haldane,J.B.S.A Mathematical Theory of Natural and Artificial Selection,Part V:Selection and Mutation.Math.Proc.Camb.Phills.Soc.1927,23,838-844)。
【0014】
細胞のゲノム完全性を維持することにより、異なる用途のために、特に、病状の予防及び/又は治療において、本発明による細胞培養物と共に微小区画を使用することが可能になる。
【0015】
本発明による細胞微小区画は、特に、
-(a)等張性培地、優先的にはアポトーシス阻害剤を含有する培養培地中に、単一細胞及び/又は細胞の少なくとも1つのクラスターを含む細胞の懸濁液を調製する工程と、
-(b)細胞懸濁液をヒドロゲル層内にカプセル化する工程と、
-(c)得られた微小区画を、等張性溶液、好ましくは、アポトーシス阻害剤を含有する培地中で培養する工程と、
-(d)優先的に、アポトーシス阻害剤を除去するように、微小区画をすすぐ工程と、
-(e)少なくとも2回の細胞分裂サイクル(増幅)の間、微小区画を培養する工程と、
-(f)任意選択的に、得られた細胞微小区画を回収する工程と、を含む特定の調製方法の実施によって得ることができ、
本方法は、(カプセル化時に)工程(b)で最初にカプセル化された細胞の全てが、それらがカプセル化される微小区画の体積の50%未満の体積を占めることを特徴とする。
【0016】
この方法は、ゲノム完全性が維持され、安定化された細胞の集合体を有する本発明による微小区画を得ることを可能にする。
【0017】
本発明はまた、細胞の増幅中に細胞のゲノム完全性を維持するための細胞培養区画及び/又はそのような方法の使用を目的とする。
【0018】
他の特徴及び利点は、本発明の詳細な説明及び以下の実施例から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】3つの実験アーム「2D培養」、「バイオリアクター凝集体」及び「本発明」の概要、並びに実施された継代の番号及び時系列である(D4=4日目、D8=8日目などの長方形で示される)。詳細な遺伝子比較のために、全ての培養を最終日D28に停止させた。
図2a】最終サンプリング前の最終日28日目における実験アーム「2D培養」の結果を示す、位相差顕微鏡画像である。500μmスケールバー。
図2b】最終サンプリング前の最終日28日目における実験アーム「バイオリアクター凝集体」の結果を示す、位相差顕微鏡画像である。示された凝集体を懸濁液中の培養物から取り出し、ペトリ皿に一時的に置いて顕微鏡観察を行った。500μmスケールバー。
図2c】最終サンプリング前の最終日28日目における実験アーム「本発明」の結果を示す、位相差顕微鏡画像である。示された微小区画を懸濁液中の培養物から取り出し、ペトリ皿に一時的に置いて顕微鏡観察を行った。500μmスケールバー。
図3】各継代の前後に細胞をカウントすることによって計算された、培養時間中の細胞の目に見える成長の表示である。累積理論増幅係数は、時間の関数として表される。縦軸(増幅)は、対数目盛で示されている。示されたデータ点は、継代時に実行された全てのカウントに対応する。
図4】フローサイトメトリーによる幹細胞の表現型評価の結果の表示である。解離した細胞を固定し、OCT4及びNANOG多能性マーカーについて標識する。28日間にわたる連続継代中のこれらの2つのマーカーについての二重陽性細胞のパーセンテージをここに示す(平均及び標準偏差)。
図5】最初の0日目の試料、並びに28日目の3つの実験アーム「2D培養」、「バイオリアクター凝集体」及び「本発明」の分析の比較分析のためのCytoscan HDアレイSNPチップによる高分解能核型である。ThermoFisherによって販売されているCytoScan(登録商標)HD Array Affymetrixは、ゲノム全体に分布する267万個のプローブについて、細胞当たりの平均コピー数を定量化する。囲まれた領域は、染色体20を中心とする。
図6】3つの実験アームについての28日間の培養中の20q11染色体領域の平均コピー数のデジタルPCRによる評価の結果を示す(分析は、StemogenomicsからのiPS ddPCR 24プローブ試験を用いて実施した)。左側では、培養日数の関数としての20q11コピーのカウントである。右側では、20q11コピーのカウントは、経時的な累積理論増幅に対する比である。データ点は、様々な継代の間に実施されたサンプリングに対応する。四角形=「バイオリアクター凝集体」、丸形=「2D培養」、及び三角形=「本発明」。関連する曲線は、対応する回帰に対応する。これらの測定値の標準偏差は、平均で0.12(20q11コピーのカウント)であり、星印は、有意に増加した測定値を示すことに留意すべきである。
図7】実施例1のアームの「2D培養」、「バイオリアクター凝集体」及び「本発明」についての28日間の培養中の変異細胞のパーセンテージの概要を示す。
図8】実施例2で使用した2つの細胞株(GHE及びAAVS1_GFP)のデジタルPCRによって得られた核型を示す。
図9】2つの実験アーム「バイオリアクター凝集体」及び「本発明」の概要、また、実施された継代の番号及び時系列である(D4=4日目、D8=8日目などの長方形で示される)。
図10図10Aおよび10Bは、「バイオリアクター凝集体」について19日目、「本発明」について21日目の実験アームA:「バイオリアクター凝集体」及びB:「本発明」の結果を示す位相差顕微鏡画像である。凝集体、及び示された微小区画を懸濁液中の培養物から取り出し、ペトリ皿に一時的に置いて顕微鏡観察を行った。500μmスケールバー。
図11】各継代の前後に細胞をカウントすることによって計算された、培養時間中の細胞の目に見える成長の表示である。累積理論増幅係数は、時間の関数として表される。縦軸(増幅)は、対数目盛で示されている。示されたデータポイントは、継代時に実行された全てのカウントに対応する。
図12】フローサイトメトリーによる幹細胞の表現型評価の結果の表示である。解離した細胞を固定し、OCT4及びNANOG多能性マーカーについて標識する。28日間にわたる連続継代中のこれらの2つのマーカーについての二重陽性細胞のパーセンテージをここに示す(平均及び標準偏差)。
図13】2つの実験アームについての21日間の培養中のGFP-(iPSC-GHE)及びGPFP+(iPSC-AAVS1)細胞のパーセンテージのデジタルPCRによる評価の結果を示す。左側:培養日数の関数としてのGFP-細胞及びGFP+細胞のパーセンテージ。右側:経時的な累積理論増幅に対するGFP-細胞及びGFP+細胞のパーセンテージ。データ点は、様々な継代の間に実施されたサンプリングに対応する。四角形=「バイオリアクター凝集体」、及び三角形=「本発明」。
図14】2つの実験アームについての28日間の培養中の7q及び20q染色体領域の平均コピーカウントのデジタルPCRによる評価の結果を示す(分析は、StemogenomicsからのiPS ddPCR 24プローブ試験を用いて実施した)。左側では、培養日数の関数としての7q及び20qコピーのカウントである。右側では、7q及び20qコピーのカウントは、経時的な累積理論増幅に対する比である。データ点は、様々な継代の間に実施されたサンプリングに対応する。四角形=「バイオリアクター凝集体」、及び三角形=「本発明」。
図15】実施例2のアームの「バイオリアクター凝集体」及び「本発明」についての28日間の培養中の変異細胞のパーセンテージの概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
本発明の目的において、「アルギネート」は、β-D-マンヌロンネート及びα-L-グルロネートから形成される直鎖多糖類、それらの塩、及び誘導体を意味する。
【0021】
本発明の目的において、「ヒドロゲルカプセル」は、液体、優先的には水を使用して膨潤したポリマー鎖のマトリックスから形成される三次元構造を意味する。
【0022】
本発明の目的において、「遺伝子を発現する細胞」は、多能性細胞と比較して、問題の遺伝子のDNA配列から転写されたRNAの少なくとも5倍多いコピー、優先的には10倍多いコピー、優先的には20倍多いコピー、優先的には100倍多いコピーを含有する細胞を意味する。
【0023】
本発明の目的において、「分化した」細胞は、分化していない多能性幹細胞、又は分化を受けている前駆細胞とは対照的に、特定の表現型を有する細胞を意味する。
【0024】
本発明の目的において、「ヒト細胞」は、ヒト細胞又は免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳動物細胞を意味する。これが特定されない場合であっても、本発明による細胞、幹細胞、前駆細胞、及び組織は、ヒト細胞から、若しくは免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳動物細胞からなるか、又はそれらから得られる。
【0025】
本発明の目的において、「変異細胞」という用語は、少なくとも1つの変異を有する細胞を指す。
【0026】
本発明の目的において、「前駆細胞」は、既に細胞分化が約束されているが、まだ分化していない幹細胞を意味する。
【0027】
本発明の目的において、「胚性幹細胞」は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する細胞の多能性幹細胞を意味する。胚性幹細胞の多能性は、転写因子OCT4、NANOG、及びSOX2などのマーカー、並びにSSEA3/4、Tra-1-60、及びTra-1-81などの表面マーカーの存在によって評価することができる。本発明の文脈において使用される胚性幹細胞は、例えば、Chang et al.(Cell Stem Cell,2008,2(2):113-117)に記載される技法を使用して、それらの由来となる胚を破壊することなく得られる。任意選択的に、ヒト胚性幹細胞を本発明から除外することができ、この場合、本発明の主題はヒト胚性幹細胞を除外する。
【0028】
本発明の目的において、「多能性幹細胞」又は「多能性細胞」は、起源の生物全体に存在する全ての組織を形成する能力を有するが、生物全体自体を形成することができない細胞を意味する。ヒト多能性幹細胞は、本出願においてhPSCと呼ぶことができる。これらは、特に、誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC又はヒト誘導多能性幹細胞についてhiPSC)、胚性幹細胞、又はMUSE細胞(「多系統分化ストレス耐性」について)であり得る。
【0029】
本発明の目的において、「誘導多能性幹細胞」は、分化した体細胞の遺伝子再プログラミングによって多能性になるように誘導された多能性幹細胞を意味する。これらの細胞は、特に、アルカリホスファターゼによる染色並びにタンパク質NANOG、SOX2、OCT4、及びSSEA3/4の発現などの多能性マーカーについて陽性である。誘導多能性幹細胞を得るための方法の例は、Yu et al.(Science 2007,318(5858):1917-1920)、Takahashi et al(Cell,207,131(5):861-872)、及びNakagawa et al(Nat Biotechnol,2008,26(1):101-106)による論文に記載されている。
【0030】
本発明による微小区画の「フェレ直径」は、上述の微小区画に対する2つの接線の間の距離「d」を意味し、これらの2つの接線は平行であり、その結果、上述の微小区画の突出部全体が、これらの2つの平行した接線の間に含まれる。
【0031】
本発明の目的において、細胞分化を受けているヒト細胞の内層の「可変的な厚さ」は、同じ微小区画において、内層が全体にわたって同じ厚さを有さないことを意味する。
【0032】
本発明の目的において、「微小区画」又は「カプセル」は、いくつかの細胞を含有する、部分的に又は完全に閉じられた三次元構造を意味する。
【0033】
本発明の目的において、「対流培養培地」は、内部運動によって撹拌される培養培地を意味する。
【0034】
本発明の目的のために、「変異」という用語は、遺伝子変異又はエピジェネティック変異、優先的には機能的変異を意味する。それは、特に、遺伝子配列の点修飾、構造バリアント、エピジェネティック修飾、又はミトコンドリアDNAの修飾を伴い得る。それは、染色体領域の増幅による変異、例えば、20q染色体領域、特に20q11、又は7qの増幅による変異を伴い得る。
【0035】
本発明の意味における「機能的変異」という用語は、関連する変異細胞に対して機能の潜在的な獲得若しくは喪失、又は潜在的な機能の喪失を与える伝染性の遺伝子修飾又はエピジェネティック修飾を指す。それは、好ましくは、影響を受けた変異細胞の表現型の改変を引き起こす変異を伴う。非常に優先的には、それは、細胞の集合体の治療可能性を変化させるか、又は産生される療法に関連するリスクを増加させることによって、又は産生される療法によって提供される利益を低下させることによって、ゲノム配列及び/又はエピジェネティック配列の変化を伴う。
【0036】
本発明の意味における微小区画若しくは細胞クラスター、又は細胞の層、又は細胞ベース層の「最大寸法」は、上述の微小区画の最大フェレ直径の値を意味すると理解される。
【0037】
本発明の意味における微小区画若しくは細胞クラスター、又は細胞の層、又は細胞ベース層の「最小寸法」は、上述の微小区画の最小フェレ直径の値を意味すると理解される。
【0038】
本発明の目的において、「組織」又は「生物学的組織」は、生物学における組織についての一般的な意味、すなわち、細胞と器官の間の中間の組織化レベルを有する。組織は、クラスター、ネットワーク、又はバンドル(繊維)に分類される、類似細胞のアセンブリ及び同じ起源のアセンブリである(最も一般的に、共通の細胞株に由来するが、それらは異なる細胞株の会合に由来し得る)。組織は、機能的アセンブリを形成し、すなわち、その細胞が同じ機能に寄与する。生物学的組織は規則的に再生し、一緒に集合して器官を形成する。
【0039】
本発明の目的において、「管腔」は、細胞によって形態的に囲まれた水溶液の体積を意味する。優先的に、その内容物は、微小区画の外側に存在する対流液体の体積と拡散平衡にない。
【0040】
細胞微小区画
本発明の主題は、少なくとも1つの外側ヒドロゲル層と、外側層の内側に、細胞の少なくとも1つの層及び/又は少なくとも1つの細胞ベース層と、を含み、存在する細胞の全集合体の20%未満が、少なくとも1つの変異を有する細胞である、三次元細胞微小区画である。
【0041】
微小区画は、外部ヒドロゲル層を含む。優先的に、使用されるヒドロゲルは生体適合性であり、すなわち細胞に対して非毒性である。ヒドロゲル層は、微小区画に含有される細胞を供給し、かつそれらが生存することを可能にするために、酸素及び栄養素の拡散を可能にしなければならない。一実施形態により、外側ヒドロゲル層は、少なくともアルギネートを含む。それは、排他的にアルギネートからなり得る。アルギネートは、特にアルギン酸ナトリウムであることができ、80%のα-L-グルロネート及び20%のβ-D-マンヌロネートから構成され、100~400kDaの平均分子量及び0.5~5重量%の総濃度を有する。ヒドロゲル層は、細胞を有さない。
【0042】
ヒドロゲル層は、特に、細胞を外部環境から保護し、細胞の制御されない増殖を制限することを可能にする。
【0043】
本発明による微小区画は、細胞の少なくとも1つの層及び/又は少なくとも1つの細胞ベース層を含む。細胞のこの層若しくはこれらの層及び/又は細胞ベース層は、微小区画内で三次元的に組織化される。
【0044】
微小区画は、特に、
-三次元的に組織化された、細胞の1つ以上の層及び/若しくは1つ以上の細胞ベース層、又は
-三次元的に組織化された、細胞の1つ以上の層及び/若しくは1つ以上の1つ以上の細胞ベース層、並びに微小区画中の懸濁液中の細胞を含み得る。
【0045】
微小区画中に存在する細胞は、任意の細胞型であり得る。好ましくは、細胞は、ヒト細胞又は動物細胞である。
【0046】
特定の実施形態において、微小区画は、多能性幹細胞を含む。多能性幹細胞又は多能性細胞は、起源の生物全体に存在する全ての組織を形成する能力を有するが、生物全体自体を形成することができない細胞を指す。多能性幹細胞は、特に、人工多能性幹細胞(iPSC)、成体哺乳動物の皮膚及び骨髄に見出されるMUSE細胞(「多系統分化ストレス耐性(Multilineage-differentiating Stress Enduring)」)細胞、又は胚性幹細胞(embryonic stem cell、ES)であり得る。
【0047】
本発明の特に好適な変形例によれば、本発明による微小区画は、ヒト又は動物の人工多能性幹細胞を含む。
【0048】
別の特定の実施形態において、本発明による微小区画は、ヒト若しくは動物の複能性細胞、及び/又はこれらの複能性細胞に由来するヒト若しくは動物の前駆細胞を含む。複能性細胞及び/又は前駆細胞は、優先的には、多能性幹細胞、特にヒト多能性幹細胞から、又は任意選択的に、転写プロファイルが特定の複能性細胞及び/又は前駆細胞のものと一致するように人工的に改変された非多能性ヒト細胞から、典型的には標的細胞表現型に特異的な転写因子の発現を強制させることによって得られた。優先的に、複能性細胞及び/又は前駆細胞は、多能性幹細胞から、当該幹細胞の分化を開始することができる溶液と接触させた後に得られた。
【0049】
別の変形例によれば、本発明による微小区画は、ヒト又は動物の分化細胞を含む。分化細胞は、好ましくは、多能性幹細胞若しくは前駆細胞、特にヒト多能性幹細胞若しくはヒト前駆細胞から、又は任意選択的に、転写プロファイルが特定の分化細胞の転写プロファイルに接続するように人工的に改変された非多能性ヒト細胞から、典型的には標的細胞表現型に特異的な転写因子の発現を強制させることによって得られた。優先的に、分化細胞は、多能性若しくは複能性、又は前駆幹細胞から、上述の幹細胞の分化を開始することができる溶液と接触させた後に得られた。一変形例によれば、微小区画の細胞内容物は、同種又は混合細胞同一性を含む。
【0050】
分化細胞は、特に、三次元組織若しくは微小組織の形態、又は微小区画内の複数の布状若しくは微小組織の形態であってもよい。分化細胞は、圧縮された組織又は微小組織であってもよい。
【0051】
本発明による微小区画は、いくつかの種類の細胞を含み得る。特に、本発明による微小区画は、例えば、人工多能性を有する幹細胞及び/又は複能性細胞及び/又は前駆細胞及び/又は分化細胞を含み得る。
【0052】
微小区画内にカプセル化された細胞が、ヒトにおける細胞療法に使用されることが意図される場合、細胞は、拒絶のあらゆるリスクを回避するために、それらを受容することが意図されるヒトと免疫適合性であり得る。
【0053】
微小区画中に存在する細胞は、機能的変異をほとんど有していないか、又は全く有していない。本発明によれば、存在する細胞の全集合体の20%未満は、少なくとも1つの変異、特に、少なくとも1つの機能的変異、遺伝子変異又はエピジェネティック変異を有する細胞である。
【0054】
本発明は、特に、存在する細胞の全集合体の20%未満が、少なくとも1つの機能的変異を有する細胞である微小区画、優先的には、存在する細胞の全集合体の20%未満が、関連する変異細胞の表現型の改変をもたらす少なくとも1つの変異を有する細胞である微小区画を対象とする。
【0055】
本発明はまた、存在する細胞の全集合体の20%未満が、培養物中で優勢になる細胞のクローン増殖を可能にする少なくとも1つの変異を有する細胞である微小区画を対象とする。
【0056】
特に好適な変形例によれば、本発明は、存在する全細胞集合体の20%未満が、発がん性変異から選択される少なくとも1つの変異を有する細胞である微小区画に関する。少なくとも1つの変異は、発がん性変異である。
【0057】
ある実施形態によれば、本発明は、存在する全細胞集合体の20%未満が、遺伝子の少なくとも1つの変異及び/又は染色体領域の増幅による変異を有する細胞である微小区画に関する。
【0058】
本発明の一実施形態において、微小区画中に存在する全細胞集合体の20%未満は、P53遺伝子の少なくとも1つの変異及び/又は20q及び/若しくは7q染色体領域の増幅(20q及び/若しくは7q染色体領域の増幅による変異)、特に、20q11染色体領域の増幅(20q11染色体領域の増幅による変異)を有する細胞である。
【0059】
好ましくは、本発明の実施形態の1つによる少なくとも1つの変異を有する細胞は、微小区画中に存在する全細胞集合体の0~15%、特に、0~14%、0~12%、特に、0~10%、更により優先的には0~8%、0~5%、0~2%を占める。
【0060】
細胞集合体中の変異細胞のパーセンテージは、当業者に既知の様々な方法によって測定することができる。点変異の検出のために、高いリーディング深度を有する配列決定方法が好ましい(全ゲノム配列決定、エクソーム配列決定、振幅など)。構造バリアントの検出のために、高分解能の方法が好ましい(高分解能SNPアレイ、Bionanoオプティカルゲノムマッピング、デジタルPCRなど)。エピジェネティックバリアントの検出のために、いくつかのツールを想定することができる(RRBSメチル化アレイ、バイサルファイト配列決定/パイロシーケンシングなど)。
【0061】
有利なことに、本発明による微小区画は、非常に低レベルの変異細胞を有しており、これは、いくつかの細胞分裂サイクルの後にそうなる。本発明による細胞は、実際に、少なくとも1個の細胞から増幅によって得られる細胞である。
【0062】
実際に、本発明による微小区画中に存在する細胞は、少なくとも1個の細胞の外側ヒドロゲル層へのカプセル化の後の少なくとも2回の細胞分裂サイクルの後に得られた。
【0063】
好ましくは、本発明による微小区画中に存在する細胞は、少なくとも1個の細胞、優先的には1~5個、1~10個、1~15個、1~20個、1~30個、1~40個、1~50個、1~60個、1~100個の細胞の外側ヒドロゲル層へのカプセル化の後の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、28、30回の細胞分裂サイクルの後に得られた。例えば、微小区画中に存在する細胞は、少なくとも1個の細胞、優先的には1~50個の細胞の外側ヒドロゲル層へのカプセル化の後の少なくとも6回の細胞分裂サイクルの後に得られた。
【0064】
好ましくは、微小区画は、カプセル化後の少なくとも2回の継代、より好ましくは少なくとも3、4、5、6、7、8、9又は10回の継代の後に得られる。各継代は、例えば2~15日間、特に3~10日間継続してもよい。
【0065】
好ましくは、微小区画は、少なくとも1回の再カプセル化、より好ましくは1~14回の再カプセル化、特に、2~7回の再カプセル化の後に得られる。非常に優先的には、再カプセル化は、新しい継代に対応し、各カプセル化サイクルは、継代に対応する。
【0066】
好ましくは、1番目の細胞分裂サイクルの前に微小区画に最初にカプセル化された細胞の全ては、それらがカプセル化される微小区画の体積の50%未満、より好ましくはそれらがカプセル化される微小区画の体積の40%、30%、20%、10%未満の体積を占める。
【0067】
したがって、一実施形態によれば、本発明による微小区画中に存在する細胞は、それらがカプセル化される微小区画の体積の50%未満、より好ましくはそれらがカプセル化される微小区画の体積の40%、30%、20%、10%未満の体積を占める細胞の外側ヒドロゲル層へのカプセル化の後の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、28、30回の細胞分裂サイクルの後に得られた。
【0068】
好ましくは、本発明による微小区画において、細胞は、微小区画の体積に対して50体積%を超える、更により好ましくは微小区画の体積に対して60体積%、70体積%、75体積%、80体積%、85体積%、90体積%を超える体積を占める。
【0069】
本発明による微小区画は、いくつかの細胞、好ましくは少なくとも20個の細胞、更により好ましくは少なくとも100個、少なくとも500個、少なくとも1000個、少なくとも10,000個の細胞を含む。
【0070】
外側層及び細胞に加えて、本発明による微小区画は、他の要素、特に、
-培養培地、及び/又は
-等張性水溶液及び/又は細胞外マトリックス要素の少なくとも1つの中間層を含み得る。
【0071】
培養培地は、当業者の知識に従って微小区画中に存在する細胞に適した培地である。
【0072】
等張性水溶液の中間層は、優先的に、細胞外マトリックス要素、例えば、インテグリンに結合することができるペプチド又はペプチド模倣配列を含有する。「等張性水溶液」は、200~400mOsm/Lのモル浸透圧濃度を有する水溶液を意味する。この層は、好ましくは、(a)細胞の層及び/又は細胞ベース層と、(b)外側ヒドロゲル層との間に位置する。
【0073】
中間層は、微小区画の産生中に添加されている要素、及び/又は微小区画に添加された要素、及び/又は微小区画の他の成分によって分泌若しくは誘導された要素、からなり得る。
【0074】
中間層は、特に、細胞外マトリックス及び/若しくは培養培地を含み得るか、又はそれらからなり得る。それが細胞外マトリックスを含む場合、これは、内層の細胞によって分泌される細胞外マトリックス及び/又は微小区画の調製/産生時に添加される細胞外マトリックスであり得る。
【0075】
中間層は、分化を受けている細胞を培養するために必要なタンパク質及び細胞外化合物の混合物を優先的に含む。優先的に、中間層は、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、ビトロネクチンなどの構造タンパク質、並びにTGF-ベータ及び/又はEGFなどの成長因子を含む。一変形例により、中間層は、Matrigel(登録商標)及び/若しくはGeltrex(登録商標)及び/若しくは修飾アルギネートなどの植物由来、若しくは合成由来のヒドロゲル型マトリックス、又はMebiol(登録商標)型のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)とポリ(エチレングリコール)とのコポリマー(PNIPAAm-PEG)からなるか、又はそれらを含み得る。
【0076】
一変形例によれば、中間層は、ゲルを形成し得る。
【0077】
分化を受けているヒト細胞の内層と接触している中間層の表面で、中間層は、任意選択的に、1個以上の細胞を含有し得る。
【0078】
好ましくは、中間層は、0.05~3kDaのヤング率を有する。ヤング率は、当業者に知られている任意の方法によって、特に、中間層と同じ組成のゲルのレオロジーを測定することによって、又はAFM(atomic force microscopy、原子間力顕微鏡法)によって測定することができる。
【0079】
そのようなヤング率の値を有する、等張性水溶液の及び/又は細胞外マトリックス要素を含む中間層、優先的には、細胞外マトリックスの中間層は、細胞分裂中にこの中間層に含有された細胞の細胞表現型及び/又はゲノム完全性の維持を改善することを可能にする。
【0080】
本発明の特定の実施形態によれば、微小区画はまた、少なくとも1つの開口部又は管腔を含む。好ましくは、微小区画は、内部管腔を含む。本発明による微小区画はまた、いくつかの管腔を含み得る。管腔は、液体、特に、培養培地及び/又は細胞によって分泌された液体を含有し得る。有利なことに、この中空部分の存在は、細胞が組成を制御することができる小さな拡散体積を有することを可能にし、細胞連通を促進する。
【0081】
本発明の一変形例において、微小区画は、管腔の周りに組織化された以下のものを連続的に含む。
-細胞の少なくとも1つの層及び/又は少なくとも1つの細胞ベース層、優先的には上皮細胞、特に幹細胞のもの、特に、ヒト又は動物の人工多能性幹細胞、
-等張性水溶液及び/又は細胞外マトリックス要素の中間層、優先的には細胞外マトリックス層、
-外側ヒドロゲル層。
【0082】
この変形例において、本発明による微小区画内の細胞の内層は、中空である。中心管腔を囲む単層又は球状の上皮基部におけるこの三次元配置は、嚢胞とも呼ばれ得る。管腔は、好ましくは、嚢胞の形成時に、細胞外マトリックス層上で増え、発達する細胞によって生成される。
【0083】
嚢胞形状の立体配座は、2D培養物又は凝集体と比較して、幹細胞が受ける圧力を減少させることを可能にする。この立体配座は、細胞死亡率を減少させ、培養増幅係数を増加させる。その結果、これにより、必要な継代及び解離の回数を減少させて、必要な最終細胞数に達するのに必要な培養時間を短縮することが可能になる。まとめると、これらの改善はまた、微小区画における幹細胞の遺伝子完全性の維持に関与する。
【0084】
本発明による細胞微小区画は、閉じられているか、又は部分的に閉じられており、すなわち、外側層は閉じられているか、又は部分的に閉じられている。優先的には、微小区画は、閉じられている。
【0085】
本発明による微小区画は、任意の三次元形態であってもよく、すなわち、空間内の任意の物体の形状を有し得る。微小区画は、細胞カプセル化に適合した任意の形態を有し得る。優先的に、本発明による微小区画は、球状又は細長い形態である。本発明による微小区画は、卵形、円筒形、回転楕円体又は球形の形状を有し得る。本発明による微小区画は、特に、中空の回転楕円体、中空の卵形、中空の円筒形、又は中空球形の形態であり得る。
【0086】
本発明による微小区画に対して、そのサイズ及び形状を与えるのは、微小区画の外層、すなわち、ヒドロゲル層である。優先的に、本発明による微小区画の最小寸法は、10μm~1mm、優先的には100μm~700μmである。本発明による微小区画の最小寸法は、10μm~600μm、特に10μm~500μmであり得る。
【0087】
その最大寸法は、優先的には10μmより大きく、より優先的には10μm~1m、更により優先的には10μm~50cmである。
【0088】
本発明による微小区画は、ゲノム完全性が保存及び/又は維持された細胞を含有し、微小区画中に存在する細胞の非常に少ないパーセンテージが、変異のキャリアである。任意の用途のために、特に、ヒト又は動物における細胞療法における薬物として、これを使用することができる。
【0089】
本発明による微小区画は、任意選択的に、保存のために凍結されてもよい。その後、使用前に解凍されなければならない。
【0090】
本発明はまた、複数の微小区画が合わさったものにも関する。
【0091】
したがって、本発明はまた、本発明による少なくとも2つの細胞微小区画を含む上述の細胞微小区画のアセンブリ又は一連の細胞微小区画に関する。
【0092】
本発明はまた、少なくとも2つの三次元細胞微小区画の微小区画のアセンブリ又は一連の微小区画であって、各微小区画が、少なくとも1つの外側ヒドロゲル層と、上述の外側層の内側に、細胞の少なくとも1つの層及び/又は少なくとも1つの細胞ベース層と、を含み、少なくとも1つの微小区画が、本発明による微小区画である、微小区画のアセンブリ又は一連の微小区画に関する。
【0093】
本発明の別の特定の目的は、少なくとも2つの三次元細胞微小区画のアセンブリ又は一連の少なくとも2つの三次元細胞微小区画であって、各微小区画が、少なくとも1つの外側ヒドロゲル層と、上述の外側層の内側に、細胞の少なくとも1つの層及び/又は少なくとも1つの細胞ベース層と、を含み、アセンブリの全ての微小区画中に存在する細胞の全集合体の20%未満が、少なくとも1つの変異を有する細胞である、微小区画のアセンブリ又は一連の微小区画に関する。好ましくは、少なくとも1つの変異を有する細胞は、全ての微小区画中に存在する細胞の全集合体の0~15%、特に、0~14%、0~12%、特に、0~10%、更により優先的には0~8%、0~5%、0~2%を占める。好ましくは、少なくとも1つの微小区画は、本発明による微小区画である。
【0094】
したがって、一連の1つ以上の微小区画は、上述の微小区画中に存在する細胞の数に対して、20%を超える変異細胞を含んでもよいが、本発明による微小区画アセンブリを形成する全ての微小区画について、アセンブリの全ての微小区画中に存在する細胞の全集合体の20%未満が、少なくとも1つの変異、特に、少なくとも1つの機能的変異、遺伝子変異又はエピジェネティック変異を有する細胞である。好ましくは、少なくとも1つの微小区画は、本発明による微小区画である。
【0095】
本発明は、特に、アセンブリ中に存在する細胞の全集合体の20%未満が、少なくとも1つの機能的変異を有する細胞である微小区画アセンブリ、好ましくは、アセンブリ中に存在する細胞の全集合体の20%未満が、関連する変異細胞の表現型の改変をもたらす少なくとも1つの変異を有する細胞である微小区画に関する。
【0096】
本発明はまた、アセンブリ中に存在する細胞の全集合体の20%未満が、培養物中で優勢になる細胞のクローン増殖を可能にする少なくとも1つの変異を有する細胞である微小区画アセンブリに関する。
【0097】
特に好適な変形例によれば、本発明は、アセンブリ中に存在する細胞の全集合体の20%未満が、発がん性変異から選択される少なくとも1つの変異を有する細胞である微小区画アセンブリに関する。少なくとも1つの変異は、発がん性変異である。
【0098】
一実施形態によれば、本発明は、アセンブリ中に存在する細胞の全集合体の20%未満が、遺伝子の少なくとも1つの変異及び/又は染色体領域の増幅による変異を有する細胞である微小区画アセンブリに関する。
【0099】
本発明の一実施形態において、微小区画アセンブリ中に存在する全細胞集合体の20%未満は、P53遺伝子の少なくとも1つの変異及び/又は20q及び/若しくは7q染色体領域の増幅(20q及び/若しくは7q染色体領域の増幅による変異)、特に、20q11染色体領域の増幅(20q11染色体領域の増幅による変異)を有する細胞である。
【0100】
好ましくは、本発明の実施形態の1つによる少なくとも1つの変異を有する細胞は、微小区画アセンブリ中に存在する全細胞集合体の0~15%、特に、0~14%、0~12%、特に、0~10%、更により優先的には0~8%、0~5%、0~2%を占める。
【0101】
好ましくは、本発明による微小区画アセンブリの微小区画中に存在する細胞は、微小区画当たり少なくとも1個の細胞の外側ヒドロゲル層へのカプセル化の後の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、28、30回の細胞分裂サイクルの後に得られた。この微小区画アセンブリ中に存在する微小区画は、本発明による微小区画の1つ以上の特徴(サイズ、形状、細胞カウント、細胞の体積、中間層、管腔など)を有し得る。
【0102】
本発明による微小区画アセンブリは、好ましくは、2~1016個の微小区画を含む。
【0103】
好ましくは、本発明による一連の微小区画は、培養培地中、特に、少なくとも部分的に対流する培養培地中にある。
【0104】
特に好適な実施形態によれば、本発明の目的は、閉じられたチャンバ、例えば、バイオリアクター内で、優先的には、閉じられたチャンバ、例えば、バイオリアクター内の培養培地中で、上述の一連の細胞微小区画である。
【0105】
外側ヒドロゲル層、及びおそらく等張性水溶液の中間層の存在は、微小区画間の細胞の均一な分布を可能にする。更に、このヒドロゲル層は、微小区画が統合することを防止することを可能にし、これらの統合事象は、細胞の表現型の均質性にとって望ましくない変動性の主な原因である。
【0106】
本発明による微小区画を得るための方法
本発明はまた、本発明による微小区画を調製するための方法に関する。
【0107】
本発明による微小区画又は微小区画アセンブリを調製するための方法は、
-(a)等張性培地、優先的にはアポトーシス阻害剤を含有する培養培地中に、単一細胞及び/又は細胞の少なくとも1つのアセンブリを含む細胞の懸濁液を調製する工程と、
-(b)細胞懸濁液をヒドロゲル層内にカプセル化する工程と、
-(c)優先的に、得られた微小区画を、等張性溶液、好ましくは、アポトーシス阻害剤を含有する培地中で培養する工程と、
-(d)優先的に、アポトーシス阻害剤を除去するように、微小区画をすすぐ工程と、
-(e)少なくとも2回の細胞分裂サイクルの間、等張性溶液、優先的には培養培地中で微小区画を培養する工程と、
-(f)任意選択的に、得られた細胞微小区画を回収する工程と、からなる工程の少なくとも1つの実施を含み得る。
【0108】
本発明はまた、カプセル化された細胞のゲノム完全性を維持するためにこの方法を使用することを目的とする。
【0109】
本発明による方法において、工程(b)で最初にカプセル化された細胞の全ては、それらがカプセル化される微小区画の体積の50%未満、より好ましくはそれらがカプセル化される微小区画の体積の40%、30%、20%、10%未満の体積を占める。
【0110】
アポトーシス阻害剤は、例えば、RHO/ROCK(RHO関連タンパク質キナーゼ)経路の1つ以上の阻害剤、又は当業者に既知の任意の他のアポトーシス阻害剤であってもよい。アポトーシス阻害剤は、細胞生存を促進することを可能にしなければならず、細胞外マトリックスが存在する場合には、上述の細胞外マトリックスの周りに外側ヒドロゲル層が形成される時点での細胞外マトリックスへの細胞の付着を促進することを可能にしなければならない。
【0111】
本発明による方法は、工程(a)の前又はそれと同時に、化学的解離、酵素的解離又は機械的解離による細胞の解離工程を含み得る。この工程は、付着細胞の場合に特に重要である。
【0112】
カプセル化された細胞は、単一細胞及び/又は少なくとも2つの細胞のクラスター若しくはアセンブリ(「クラスター」)の形態で懸濁される。好ましくは、単一細胞は、工程(b)で最初にカプセル化された細胞の全ての数の50%未満を占める。実際に、細胞のクラスターをカプセル化することは、これが染色体の分離を減少させ、その結果、新たな変異の出現を減少させ、細胞のゲノム完全性の維持に関与するため、好ましい。
【0113】
好ましくは、工程(b)で最初にカプセル化された各細胞クラスターは、それがカプセル化される微小区画の最大寸法の20%未満、更により優先的には10%未満のより大きな寸法を有する。実際に、細胞クラスターは、微小区画のサイズと比較して大きすぎるサイズを有してはならない。なぜなら、大きすぎるこれらの初期の細胞クラスターの寸法は、細胞分裂の間に、早すぎるカプセル中の細胞コンフルエンスをもたらし得るからである。カプセルの全て又は一部のこの早すぎるコンフルエンスは、細胞内圧の増加を引き起こし、細胞ストレスを引き起こし、特に、染色体分離に影響を及ぼす可能性がある。
【0114】
一変形例によれば、本発明による方法は、工程(a)と(b)の間、又は工程(b)のカプセル化と同時のいずれかに、細胞を細胞外マトリックスと混合する工程を含み得る。
【0115】
非常に好ましくは、工程(c)、(d)及び(e)は、連続的又は逐次的な撹拌下で行われる。この撹拌は、培養環境の均質性を維持し、拡散勾配の形成を回避するため、重要である。例えば、細胞酸素化レベルの均一な制御を可能にする。したがって、低酸素症に関連する壊死又は過酸素症に関連する酸化ストレス現象を回避する。細胞死亡率及び/又は酸化ストレスの増加を回避することによって、撹拌は、遺伝子完全性の維持に関与する。
【0116】
本発明による方法は、好ましくは、密閉されたバイオリアクターなどの閉じられたチャンバ内で実施される。
【0117】
工程(e)における細胞分裂の数は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15細胞分裂サイクルである。
【0118】
好ましくは、微小区画は、少なくとも2回の継代(ここで、継代は、工程(a)、(b)、及び(e)、任意選択的に(c)及び(d)の完全なサイクルに対応する)、より好ましくは少なくとも3、4、5、6、7、8、9又は10回の継代の後に得られる。各継代は、例えば2~15日間、特に3~8日間継続してもよい。
【0119】
好ましい変形例では、本発明による方法は、工程(e)の後の細胞の少なくとも1回の再カプセル化、すなわち少なくとも2回のカプセル化サイクルを含む。好ましくは、各カプセル化サイクルは、継代に対応する。本方法のこの変形例(工程(e)の後の細胞の少なくとも1回の再カプセル化)において、(全ての継代についての)本方法全体の細胞分裂の数は、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30回の細胞分裂サイクルである。
【0120】
本発明による方法において、いくつかの再カプセル化、好ましくは1~100回、特に、1~10回の再カプセル化が存在してもよい。
【0121】
各再カプセル化は、以下を含み得る。
-細胞の懸濁液又は細胞クラスターの懸濁液を得るために、微小区画又は一連の微小区画を解離させることからなる工程。外側ヒドロゲル層は、特に、加水分解、溶解、穿孔、及び/又は任意の生体適合性手段、すなわち細胞に対して毒性でない手段による破壊によって除去することができる。例えば、除去は、リン酸緩衝化生理食塩水、二価イオンキレート剤、ヒドロゲルがアルギネートを含む場合にアルギン酸リアーゼなどの酵素、及び/又はレーザーマイクロダイセクションを使用して達成され得る。
-細胞又は細胞クラスターの全部若しくは一部をヒドロゲルカプセル中に再カプセル化する工程。
【0122】
再カプセル化は、多能性工程から生じる細胞増幅を増加させ、変異のリスクを減少させるのに適した手段である。
【0123】
一実施形態によれば、再カプセル化は、
-(i)外側ヒドロゲル層を除去する工程と、
-(ii)等張性培地、優先的にはアポトーシス阻害剤を含有する培養培地中で単一細胞及び/又は細胞の少なくとも1つのアセンブリ若しくはクラスターを得るように、微小区画内に含有された細胞を再懸濁させる工程と、
-(iii)細胞懸濁液をヒドロゲル層内にカプセル化する工程と、
-(iv)優先的に、得られた微小区画を、アポトーシス阻害剤を含有する等張性溶液、好ましくは、アポトーシス阻害剤を含有する培養培地中で培養する工程と、
-(v)優先的に、アポトーシス阻害剤を除去するように、微小区画をすすぐ工程と、
-(vi)少なくとも1回の細胞分裂サイクルの間、等張性溶液、優先的には培養培地中で微小区画を培養する工程と、
-(vii)任意選択的に、得られた細胞微小区画を回収する工程と、を含む。
【0124】
微小区画への区画化は、他のカプセルよりも更に多くの変異細胞を含有する微小区画を排除することを可能にする。変異細胞が急速に成長した場合であっても、それらがカプセル内コンフルエンスに達し、その増加を制限する。区画化はまた、細胞集団全体を汚染しないことを可能にし、また、任意の時点で、特に、再カプセル化工程の前に、変異細胞を含有するカプセルを排除することを可能にする。この選別は、例えば、インライン分析によって、又は充填されたカプセルを他のカプセルよりも迅速に排除することによって行うことができる。したがって、本発明による方法は、変異細胞を含む微小区画、特に、20%を超える変異細胞を含む微小区画を除去する1つ以上の工程を含み得る。
【0125】
本発明の一変形例によれば、細胞は、多能性幹細胞から、又は微小区画の形成中にヒドロゲルカプセル内で多能性細胞へと再プログラミングされる分化細胞から、直接的に嚢胞へと組織化される多能性幹細胞である。
【0126】
工程(a)及び/又は(ii)のインキュベーションは、優先的には数分間~数時間、優先的には2分間~2時間、より好ましくは10分間~1時間を含む時間にわたって実施される。
【0127】
アポトーシス阻害剤と共に培養する工程(c)及び/又は(iv)は、2~72時間を含む時間、優先的には6~48時間を含む時間、より好ましくは24~48時間を含む時間にわたって実施される。
【0128】
すすぐ工程は、工程(c)及び/又は(iv)の開始の後、96時間未満、優先的には72時間未満、より好ましくは24~48時間、RHO/ROCK経路阻害剤を含まない連続培養培地中で、1つ以上のすすぐ操作によって行うことができる。
【0129】
一実施形態において、工程の少なくとも1つ(好ましくは全ての工程)は、4~42℃を含む、細胞の生存に適した温度で実施される。細胞増殖中の温度は、修復酵素の性能を低下させることによって、変異を誘発することを回避するために、好ましくは32~37℃でなければならない。同様に、好ましくは、温度は、工程(b)における細胞に対するストレスを管理するために低くなければならない(理想的には約4℃)。
【0130】
一変形例によれば、細胞再プログラミング剤は、工程(a)及び/又は(b)及び/又は(c)及び/又は(ii)及び/又は(iii)及び/又は(iv)において添加されてもよい。好ましくは、それらは、ヒドロゲル層を透過しない細胞再プログラミング剤である。再プログラミング剤の添加は、最初にカプセル化された細胞が、特に多能性段階まで脱分化される分化細胞である場合に、特に関連する。当業者は、本発明において「再プログラミング剤」と称される特定の因子によって胚段階に関連する遺伝子の発現を再活性化することによってどのように分化細胞を幹細胞に再プログラミングするかを知っている。以下に記載される方法は、例として引用され得る。Takahashi et al.,2006(「Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors」Cell,2006 Vol 126,pages 663-676)、Ban et al.,2009(「Efficient induction of transgene-free human pluripotent stem cells using a vector based on Sendai virus,an RNA virus that does not integrate into the host genome」Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci.2009;85(8):348-62)、及び表題が「Production of reprogrammed pluripotent cells」である国際出願第2010/105311号。再プログラミング剤は、有利には、生成物を濃縮し、全ての細胞との接触を促進するように、分化細胞と共にカプセル化される。ヒドロゲル層に浸透する再プログラミング剤の場合、カプセル化工程の後に上述の薬剤を培養培地に添加することが可能である。再プログラミング剤は、細胞に対して多能性段階への一連の表現型変化を課すことを可能にする。有利には、再プログラミングの工程は、特定の培養培地を使用して行われ、これらの表現型の変化を促進する。例えば、細胞を、10%のヒト若しくはウシ血清を含む第1の培地中、セリン/スレオニンプロテインキナーゼ受容体阻害剤(例えば、製品SB-431542(C2216))、1つ以上のRHO/ROCK(RHO関連プロテインキナーゼ)経路阻害剤、例えば、チアゾリン及び/又はY-27632、線維芽細胞成長因子、例えば、FGF-2、アスコルビン酸及び抗生物質、例えば、Trichstan A(C1722)を追加したイーグル最小必須培地(DMEM)中で培養する。次いで、培養培地を、mTeSR(登録商標)1培地などの多能性細胞の増加を促進する培地と交換する。
【0131】
どの時点でも、本発明による方法は、微小区画内に含有された細胞の表現型を検証することからなる工程を含み得る。この検証は、微小区画内に含有された細胞の少なくとも一部分によって、求められる表現型に特異的な少なくとも1つの遺伝子の発現を同定することによって行うことができる。
【0132】
次いで、本発明の方法に従って得られた細胞微小区画は、任意の使用前に凍結され得る。凍結は、優先的には、-190℃~-80℃を含む温度で実施される。解凍は、細胞を極めて迅速に解凍するために温水槽中(優先的には37℃)で実施することができる。使用前の本発明による微小区画は、使用前の限られた時間にわたって、4℃より高い温度で、優先的には4℃~38℃で維持されてもよい。
【0133】
本発明による方法は、その特定の特徴により、培養中に細胞のゲノム完全性を維持することを可能にし、最終的な微小区画は、変異をほとんど有していないか、又は全く有していない細胞を有する。
【0134】
特に、微小区画中の細胞の三次元構造、及びカプセル化の間に単離された細胞の低いパーセンテージ又は更にゼロのパーセンテージ(細胞の大部分は、細胞のクラスターの形態でカプセル化される)は、染色体分離を減少させ、その結果、新しい変異の出現を減少させる。
【0135】
本発明はまた、高い増幅係数で増幅を促進し、その結果、非常に多数の細胞を得るための培養時間及び分裂数を減少させ、したがって、変異誘発を制限する。
【0136】
外側層による細胞の保護、及び存在する場合の細胞外マトリックス要素の存在は、染色体分離を減少させ、細胞の機械的ストレスを制限し、その結果、新たな変異の出現を減少させる。
【0137】
バイオリアクターにおける培養パラメーターの制御はまた、酸化ストレスを減少させ、これは新たな変異の減少に関与する。
【0138】
また、本発明の主題は、増幅中に細胞のゲノム完全性を維持するための、本発明による方法の使用でもある。
【0139】
本発明の主題はまた、細胞の増殖中に細胞のゲノム完全性を維持するための、内側部分を画定する少なくとも1つの外部ヒドロゲル層を含む、好ましくは閉じられた、優先的には球状又は細長い形状の三次元微小区画の使用である。好ましくは、本発明の主題は、本出願に記載されるようなその異なる変形例における本発明による細胞微小区画の使用を伴う。本発明はまた、細胞の増殖中に細胞のゲノム完全性を維持するための、これらの微小区画のアセンブリ、優先的には閉じられたバイオリアクターにおける、更により優先的には本発明による、また、本出願に記載される全ての変形例による微小区画アセンブリの使用を対象とする。
【0140】
次に、本発明を2つの実施例及び比較結果によって説明する。
【0141】
これらの実施例は、ヒト多能性幹細胞、より具体的にはヒト人工多能性幹(induced pluripotent stem、iPS)細胞の培養に関する。
【0142】
実施例1
プロトコル:
iPS-IMGINE005と呼ばれるここで使用される細胞株は、この刊行物に以前に記載されている。E.Quelennec,C.Banal,M.Hamlin,D.Clemantine,M.Michael,N.Lefort,Generation of two induced pluripotent stem cell lines IMAGINi004-A and IMAGINi005-A from healthy donors.Stem Cell Research,101959(2020)。
【0143】
iPS株を、二次元でのiPS培養の通常の標準に従って生成した。この株の長期培養中に変異の実質的に避けられない出現を監視するために、核型の監視を定期的に行う(5~10回の継代ごとに)。
【0144】
ここで実施された実験の出発点は、再プログラミング後の継代2D数23の凍結iPS細胞試料である。培養のこの段階で、この試料について、高分解能核型試験は、20q11染色体領域の増幅を検出することができなかったが、この試料の短時間の培養(10未満の2D継代)が、20q11染色体領域の増幅による変異の出現を引き起こすことが観察された。
【0145】
この細胞開始点は、培養中の細胞の集合体における変異体クローンの経時的な陽性選択を試験するために特に適切である。
【0146】
実際に、20q11染色体領域の増幅による変異は、変異したクローンに対して成長の利点を与える。培養系の選択圧が大きいほど、このクローンが迅速に選択されて優勢になるリスクが大きくなる。
【0147】
撹拌した懸濁液中のカプセル化培養系(以下、「本発明」と呼ぶ)を、多能性幹細胞の産生の分野において、標準的な2つの培養系である二次元での培養(以下、「2D培養」と呼ぶ)及び凝集体の形態での保護されていない撹拌懸濁液中の培養(以下、「バイオリアクター凝集体」と呼ぶ)と比較した。
【0148】
最初の試料(以前に記載され、2Dで培養された)を使用して、3つの培養系に関連する3つの実験アームを並行して開始し、これを28日間にわたって行った。各継代において、また、各実験アームについて、細胞をサンプリングして、遺伝子試験の実施を可能にする(結果のセクションを参照されたい)。特に、20q11染色体領域の増幅による変異の頻度を、この28日間の長期培養の開始時及び終了時に評価する。
【0149】
各培養系についての継代の速度は、各条件についての最適な推奨に綿密に従う。したがって、2D培養物を、コンフルエンスが70~90%であるときに4~5日毎に継代する。凝集物培養物を、供給業者(Minibio、ABLE(登録商標)Bioreactor Systems)の推奨に従って、5日ごとに継代する。カプセル化培養物を、平均カプセル内コンフルエンスが50~100%であるときに7日ごとに継代する。
【0150】
以下に記載される全ての培養は、mTeSR 1培養培地(「Stemcell Technologies」)を用いて行われる。10μMのRock阻害剤の処理を、継代後の最初の24時間の間に開始する。
【0151】
全ての培養物(2D、バイオリアクター凝集体及び本発明)を、37℃及び5%COの細胞培養インキュベーター中で維持する。
【0152】
懸濁液中で幹細胞を培養する2つの実験アームである「バイオリアクター凝集体」及び「本発明」は、MinibioのABLE(登録商標)Bioreactor Systemsブランドの30mLのバイオリアクターを使用する。播種から細胞が回収されるまで、一定の撹拌速度を35回転/分に設定した。
【0153】
「バイオリアクター凝集体」及び「本発明」懸濁液において、三次元細胞集団形態で幹細胞を培養する2つの実験アームは、連続継代のために酵素的解離を使用する。一方で凝集体、他方でカプセル化嚢胞を、TryplE浴を37℃で20分間使用することによって解離する。次いで、この解離から得られる細胞及び細胞の小集団(クラスター)を使用して、新しい培養物に播種する。
【0154】
細胞外マトリックスを使用する培養には、Matrigel(Corning)を使用する。したがって、2D培養のために、フラスコ(T-Flak T75)を予めマトリゲルでコーティングする。カプセル化又は再カプセル化のために、細胞を、中心マイクロ流体チャネルへの注入前にマトリゲルと混合し、凝集体中の培養は、細胞外マトリックスの使用を必要としない。
【0155】
「2D培養」は、マトリゲル(登録商標)で予めコーティング/カーペット処理されたフラスコ(T-Flask T75)内で確立され、細胞播種濃度は、1cm当たり10,000~30,000個の細胞である。継代は、カルシウムキレート剤RelesR(Stem cell technologies)の短時間使用(5分未満)による小凝集体法によって行われる。培養培地を1日目に完全に交換して、rock阻害剤(一定体積)処理を除去し、その後毎日処理する。
【0156】
「バイオリアクター凝集体」培養は、「2D培養」及び「本発明」培養に播種するために使用したのと同じ細胞懸濁液で開始するが、合計20mLの培地について、培地1mL当たり175,000個の細胞の初期濃度を有する。培養培地を1日目に完全に交換して、rock阻害剤(一定体積)処理を除去し、次いで培地の75%を毎日新しくする(20mLの一定体積)。
【0157】
本発明によるhiPSCの培養(本発明によるカプセル化):
カプセル化の前に、2D幹細胞コロニーを、ReLeSRを使用して1分間分離させ、次いで、Accutase(StemCell Technologies)を用いて解離させた。次いで、HiPSCを、50/50体積比でMatrigelと4℃で混合して、懸濁液を液体状態に維持した。したがって、細胞/マトリックス溶液中の細胞の最終濃度は、0.4~1.0×10個の生細胞/mlであり、これをカプセル化密度と呼んだ。エチレン-テトラフルオロエチレン(Ethylene-tetrafluoroethylene、ETFE)チューブを、3D印刷したマイクロ流体共層流フローデバイスの3つの入口に接続する。より良好な流れ制御のために、押出成形され、研磨されたガラスから作られたマイクロキャピラリーチップ(ほとんどの実験について約100μmのノズル直径、又は150μmのノズル直径を有する)をノズルの出口に接着する。細胞/マトリックス懸濁液を、三方向デバイスの内部チャネルに充填し、これは、Matrigelの時期尚早なゲル化を回避するために、インライン冷却システムによって冷却された状態に保たれる。アルギン酸ナトリウム溶液(Novamatrix Proonova SLG100、蒸留水中2%で0.25g)を外部チャネルに注入する。懸濁液中の細胞によるカルシウムの放出に起因するマイクロ流体デバイスにおけるアルギネートのゲル化を防止するために、カルシウム非含有溶液(ソルビトール300mM、Sigma-Aldrich)を共押出成形チップの中間チャネル中で使用し、カルシウム拡散に対するバリアとして機能させる。3つの溶液についての流速は、3つのチャネル(アルギネート溶液、ソルビトール溶液及び細胞+マトリックス懸濁液)について120mL/h程度であった。これらの流速において、複合溶液は、自発的なレイリー・プラトー不安定性に起因して、液滴(ノズルのサイズの約2倍)に断片化する液体ジェットを形成する。一連の液滴のその後の合着を回避するために、アルギネート充填部分及び銅リングを高電圧発生器(2000V)に接続する。複合した液滴がカルシウム収集浴と(100mMで)接触すると、アルギネートの外側層がゲル化する。したがって、内部細胞/マトリックス溶液は、閉じられた球状の透過性微小区画内に捕捉されたままである。カプセル化に続く数分間で、カプセルを培地(DMEM)ですすぎ、基底カルシウム濃度を低下させる。最後に、それらを懸濁液で培養培地に移す。
【0158】
本実験の「本発明」アームの継代は、再カプセル化に対応する。これらの再カプセル化は、ReleSRによる短時間のすすぎを用いてアルギネートカプセルを溶解させ、その後、TrypLE(トリプシンに基づく解離酵素、ThermoFisher)を用いて37℃で20分間細胞を解離させることによって行われる。次に、得られた細胞を、本発明によるカプセル化プロトコルに従って処理した。
【0159】
結果:
それぞれ7日間の期間で、4回の連続したカプセル化を行った。「バイオリアクター凝集体」アームについて6回の連続継代を行い、「2D培養アーム」について7回の連続継代を行った。各継代及び28日目の細胞のサンプリングは、経時的な3つの培養アームの比較評価を可能にした(図1)。
【0160】
位相差顕微鏡による評価は、「2D培養」、「バイオリアクター凝集体」及び「本発明」アームについて予想されたように、幹細胞の二次元コロニー、凝集体及びカプセル化嚢胞の形成の成功を確認する(図2a、2b、2c)。
【0161】
各継代において、セルカウンター(Nucleo Counter NC 3000)を使用して細胞をカウントし、これにより培養中の細胞増幅係数を確立することが可能になる(図3)。累積理論増幅は、実験アーム「本発明」、「2D培養」及び「バイオリアクター凝集体」についてそれぞれ1億5100万、7100万及び13,330である。これらの累積増幅係数は、「本発明」、「2D培養」及び「バイオリアクター凝集体」培養アームについて、それぞれ、28日間の平均可視細胞分裂数27.2、26.2及び13.7に対応する。最終細胞増幅は、2つの他の実験アームと比較して、実験アーム「本発明」において、より高いことが観察される。
【0162】
3つの培養系は、3つの比較された培養系において同様に発現される多能性マーカーOCT4及びNANOGによって示唆されるように、最良の標準に従って成功裏に実施された(図4)。
【0163】
遺伝子評価は、最初に、超高水準SNPチップ(CytoScan(登録商標)HD Array Affymetrix、ThermoFisher)によって実施した(図5)。構造的変異の出現は、実験アーム「2D培養」(約50%の変異細胞)及び「バイオリアクター凝集体」(約50%の変異細胞)の最終試料(D28)について明確に見ることができる染色体20付近で観察される(20q11領域を包含する染色体重複及び欠失)。これらの2つの試料についての染色体20の再適合についての類似のプロファイルは、それが独立した事象を含まないこと、及びこの変異が共通の祖先から遺伝されることを示す。従って、この変異が最初のサンプリングの間に検出不能であったとしても、このことは、実験の最初の瞬間に低いパーセンテージでその存在を強く示唆する。「本発明」アームの試料D28については、コピー数のより低い振幅が注目され、これは、10%未満の集合体中の変異細胞のパーセンテージに対応する。
【0164】
多能性幹細胞(iCS-digital PSC 24プローブ、StemGenomics)についての再発性遺伝子変異の可能性のある出現を検出するために、デジタルPCR分析も全ての実験アームについて各継代で行った。特に、この試験のPCRプローブは、20q11染色体領域のコピーのカウントを経時的に定量化することを可能にした(図6)。20q11領域のコピーの平均カウントは、3つの実験アームの細胞について培養中に経時的に増加する。この増加は、「本発明」アームと比較して、「2D培養」アーム及び「バイオリアクター凝集体」アームについて、より大きく、かつより速い。各変異細胞についての領域20q11のコピーのカウントが3であること(1コピーの増加、図5を参照)を考慮すると、2.2未満の平均コピーカウントは、20%未満の細胞の集合体における変異細胞のパーセンテージに対応する。
【0165】
全体として、デジタルPCR及びSNPチップの結果は一致しており、28日間の培養中の変異細胞の選択は、「2D培養」及び「バイオリアクター凝集体」アームと比較して、「本発明」アームにおいて、少なくとも5倍低かったことを示唆している(図7)。特に、カプセル化培養系(本発明)は、各カプセル化について20%未満の変異細胞のパーセンテージを維持しつつ、又は4つのカプセル化を端から端まで行うことによって、1回の継代当たり平均6.8回の細胞分裂を生じさせることを可能にした。
【0166】
実施例2:
プロトコル:
この実施例では、iPSC-GHE(Gibco)と呼ばれる市販の株、及びiPSC-AAVS1-GFP(Coriell、Allen Institute for Cell Science)と呼ばれるGFP蛍光タンパク質を構成的に発現するトランスジェニック株といった2つの細胞株を使用する。
【0167】
実験の開始時に、2つの株を独立して2Dで培養する。デジタルPCR(iCS-デジタルPSC 24プローブ、Semenomics)による核型分析は、iPSC-GHE株が、染色体領域7q及び20qの増幅を伴う2つの核型異常を有し、一方で、iPSC-AAVS1-GFP株が、試験した24個のゾーン(Fijack 8)上にいかなる異常も示さないことを明らかにする。
【0168】
7q及び20q染色体領域の増幅を有するiPSC-GHE株の使用は、培養物中の細胞の集合体における変異体クローンの経時的な陽性選択を試験することに特に関連する。実際に、7q及び20q染色体領域の増幅による変異は、変異したクローンに対して成長の利点を与える。培養系の選択圧が大きいほど、このクローンが迅速に選択されて優勢になるリスクが大きくなる。
【0169】
撹拌懸濁液中のカプセル化された培養系「本発明」を、多能性幹細胞産生の分野における標準的な培養系(凝集体形態の保護されていない撹拌懸濁液中の培養「バイオリアクター凝集体」)と21日間にわたって比較した。
【0170】
2つの培養系に関連する2つの実験アームを並行して開始するために使用される試料は、iPSC-AAVS1-GFP及びiPSC-GHE株の混合物に対応する。混合物は、80%のiPSC-AAVS1-GFP及び20%のiPSC-GHEに対応する。
【0171】
各継代において、また、各実験アームについて、細胞をサンプリングして、サイトメトリー試験及び遺伝子試験の実施を可能にする(結果のセクションを参照されたい)。特に、分析は、培養物内の核型異常を含むiPSC-GHE集合体の頻度の発生を監視することを目的とする。
【0172】
各培養系についての継代の速度は、各条件についての最適な推奨に綿密に従う。したがって、凝集体中の培養物を、供給業者(Minibio、ABLE(登録商標)Bioreactor Systems)の推奨に従って、5日ごとに継代し、カプセル化された培養物を、平均カプセル内コンフルエンスが50~100%である場合に7日ごとに継代する。
【0173】
以下に記載される全ての培養は、mTeSR1 plus培養培地(Stemcell Technologies)を用いて行われる。10μMのRock阻害剤の処理を、継代後の最初の24時間の間に開始する。
【0174】
全ての培養物(バイオリアクター凝集体及び本発明)を、37℃及び5%COの細胞培養インキュベーター中で維持する。
【0175】
2つの実験アーム「バイオリアクター凝集体」及び「本発明」は、Minibio、ABLE(登録商標)Bioreactor Systemsブランドからの30mLのミニバイオリアクターを使用し、撹拌速度は、「バイオリアクター凝集体」条件については55回転/分で一定であり、「本発明」条件については100回転/分で一定である。
【0176】
2つの実験アーム「バイオリアクター凝集体」及び「本発明」は、連続継代のために酵素的解離を使用する。一方で凝集体、他方でカプセル化嚢胞を、TryplE浴を37℃で使用することによって解離する。次いで、この解離から得られる細胞及び細胞の小集団(クラスター)を使用して、新しい培養物に播種する。
【0177】
カプセル化又は再カプセル化のために、細胞を、中心マイクロ流体チャネルへの注入前にマトリゲル(登録商標)と混合し、凝集体中の培養は、細胞外マトリックスの使用を必要としない。
【0178】
「バイオリアクター凝集体」培養は、「本発明」培養に播種するために使用したのと同じ細胞懸濁液で開始するが、合計10mLの培地について、培地1mL当たり175,000個の細胞の初期濃度を有する。培養培地を1日目に完全に交換して、rock阻害剤を除去する。
【0179】
本発明によるhiPSCの培養(本発明によるカプセル化):
カプセル化の前に、iPSC-GHE及びiPSC-AAVS1-GFPの2D幹細胞コロニーを、アキュターゼ(StemCell Technologies)を用いて解離させた。次いで、2つのiPSC株を先に示した比率(80%~20%)に従って混合し、この細胞懸濁液自体を、50/50体積比でマトリゲルと4℃で混合して、懸濁液を液体状態に維持した。したがって、細胞/マトリックス溶液中の細胞の最終濃度は、0.4~1.0×10個の生細胞/mlであり、これをカプセル化密度と呼んだ。エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)チューブを、3D印刷したマイクロ流体共層流フローデバイスの3つの入口に接続する。より良好な流れ制御のために、押出成形され、研磨されたガラスから作られたマイクロキャピラリーチップ(ほとんどの実験について約100μmのノズル直径、又は150μmのノズル直径を有する)をノズルの出口に接着する。細胞/マトリックス懸濁液を、三方向デバイスの内部チャネルに充填し、これは、Matrigelの時期尚早なゲル化を回避するために、インライン冷却システムによって冷却された状態に保たれる。アルギン酸ナトリウム溶液(Novamatrix Proonova SLG100、蒸留水中2%で0.25g)を外部チャネルに注入する。懸濁液中の細胞によるカルシウムの放出に起因するマイクロ流体デバイスにおけるアルギネートのゲル化を防止するために、カルシウム非含有溶液(ソルビトール300mM、Sigma-Aldrich)を共押出成形チップの中間チャネル中で使用し、カルシウム拡散に対するバリアとして機能させる。3つの溶液についての流速は、3つのチャネル(アルギネート溶液、ソルビトール溶液及び細胞+マトリックス懸濁液)について120mL/h程度であった。これらの流速において、複合溶液は、自発的なレイリー・プラトー不安定性に起因して、液滴(ノズルのサイズの約2倍)に断片化する液体ジェットを形成する。一連の液滴のその後の合着を回避するために、アルギネート充填部分及び銅リングを高電圧発生器(2000V)に接続する。複合した液滴がカルシウム収集浴と(100mMで)接触すると、アルギネートの外側層がゲル化する。したがって、内部細胞/マトリックス溶液は、閉じられた球状の透過性微小区画内に捕捉されたままである。カプセル化に続く数分間で、カプセルを培地(DMEM)ですすぎ、基底カルシウム濃度を低下させる。最後に、それらを懸濁液で培養培地に移す。
【0180】
本実験の「本発明」アームの継代は、再カプセル化に対応する。これらの再カプセル化は、ReleSRによる短時間のすすぎを用いてアルギネートカプセルを溶解させ、その後、アキュターゼを用いて37℃で20分間細胞を解離させることによって行われる。次に、得られた細胞を、本発明によるカプセル化プロトコルに従って処理した。
【0181】
結果:
それぞれ7日間の期間で、「バイオリアクター凝集体」アームについて、3回の連続カプセル化を行い、4回の連続継代を行った。各継代及び21日目の細胞のサンプリングは、経時的な2つの培養アームの比較評価を可能にした(図9)。
【0182】
位相差顕微鏡による評価は、「バイオリアクター凝集体」及び「本発明」アームについて予想されたように、幹細胞の凝集体及びカプセル化嚢胞の形成の成功を確認する(図10)。
【0183】
各継代において、セルカウンター(Nucleo Counter NC 3000)を使用して細胞をカウントし、これにより培養中の細胞増幅係数を確立することが可能になる(図11)。累積理論増幅は、実験アーム「本発明」及び「バイオリアクター凝集体」についてそれぞれ55兆7766億9900万及び40,481である。これらの累積増幅係数は、「本発明」及び「バイオリアクター凝集体」培養アームについて、それぞれ、21日間の平均可視細胞分裂数25.73及び15.30に対応する。最終細胞増幅は、「バイオリアクター凝集体」実験アームと比較して、実験アーム「本発明」において、より高いことが観察される。
【0184】
2つの培養系は、2つの比較された培養系において同様に発現される多能性マーカーOCT4及びNANOGによって示唆されるように、最良の標準に従って成功裏に実施された(図12)。
【0185】
第1のフローサイトメトリー分析を実施して、細胞培養物内のiPSC-GHE株の集合体の発生を監視した。iPSC-GHE(GFP陰性)細胞は、7q及び20q染色体領域の増幅を含み、これは、hiPSCの培養中に選択的利点を与える。iPSC-AAVS1-GFP(GFP陽性)細胞は、染色体異常を含まない。
【0186】
全ての実験アームについての各継代でのフローサイトメトリー分析は、iPSC-GHE及びiPSC-AAVS1-GFP細胞の頻度を経時的に定量化することを可能にし(図13)、したがって、染色体領域7q及び20qのコピーカウントの外挿によって定量化することを可能にした。細胞培養物内のiPSC-GHE(陰性GFP)集合体の頻度は、「バイオリアクター凝集体」アームでは経時的に増加するが、「本発明」アームでは経時的に低下する。
【0187】
次いで、フローサイトメトリー分析をデジタルPCR分析によって確認して、多能性幹細胞集合体(ICs-デジタルPSC 24プローブ、StemGenomics)の集合体における遺伝子変異率の発生を検出した。特に、この試験の2つのPCRプローブは、7q及び20q染色体領域のコピーのカウントを経時的に定量化することを可能にした(図14)。7q及び20q領域のコピーの平均カウントは、「バイオリアクター凝集体」アームについて培養中に経時的に増加する。「本発明」アームでは、7q領域のコピーの平均カウントは経時的に低下し、次いで、20q領域のコピーの平均カウントは、経時的に低下し、次いで非常にわずかに増加するが、「バイオリアクター凝集体」アームよりもはるかに有意ではなく、かつあまり急速ではない。各iPSC-GHE変異細胞の7q及び20q領域のコピーのカウントが3であること(1コピーの増加、図8参照)を考慮すると、2.3に相当する平均コピーカウントは、30%の細胞集合体中の変異細胞のパーセンテージに対応する。
【0188】
全体として、フローサイトメトリー及びデジタルPCRの結果は一致しており、21日間の培養中の変異細胞の選択は、「バイオリアクター凝集体」アームと比較して、「本発明」アームにおいて、少なくとも14.7倍低かったことを示唆している(図15)。特に、カプセル化培養系(本発明)は、各カプセル化について20%未満(3%未満)の変異細胞のパーセンテージを維持しつつ、又は4つのカプセル化を端から端まで行うことによって、1回の継代当たり平均8.6回の細胞分裂を生じさせることを可能にした。
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】