(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測装置および予測方法
(51)【国際特許分類】
B60T 17/22 20060101AFI20240409BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B60T17/22 Z
B60T8/17 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568175
(86)(22)【出願日】2022-05-12
(85)【翻訳文提出日】2023-11-03
(86)【国際出願番号】 EP2022062942
(87)【国際公開番号】W WO2022243166
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】102021205088.3
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ゼウツィウス,ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D049BB02
3D049BB12
3D049BB17
3D049CC02
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3D049HH39
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3D246MA03
3D246MA06
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3D246MA38
(57)【要約】
【課題】 本発明は、車両(12)のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測装置に関する。
【解決手段】 予測装置は、運転者により引き起こされる、および/または車両(12)の自律的な制動時に能動的に実行される複数の走行ダイナミクスコントロール中に検知された値および/または情報をそれぞれが有する、かつ検知された入力量、同時に検知された出力量、および同時に車両(12)によって走行される路面(16)に関する摩擦値または位置表示情報をそれぞれが含む、提供された値群(W)について、特定の摩擦値での入力量と出力量との間の所定の目標関係にそれぞれが対応する複数の目標セクタを有する座標系に値群(W)をプロットするように、かつ少なくとも所定の予測時間インターバル中にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかを推定するように、設計および/またはプログラミングされている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(12)のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測装置(10)であって、
電子機器(14)を備え、前記電子機器は、
-運転者により引き起こされる、および/または前記車両(12)の自律的な制動時に能動的に実行される複数の走行ダイナミクスコントロール中に検知された値および/または情報をそれぞれが有する、かつ検知された入力量(x)および同時に検知された出力量(p)であって、前記入力量(x)が前記車両(12)の運転者によるブレーキペダルの操作の操作強度または前記ブレーキシステムのモータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の動作モードを表し、前記出力量(p)が前記入力量(x)に対する前記ブレーキシステムの反応を表す入力量および出力量と、同時に前記車両(12)によって走行される路面(16)に関する摩擦値または位置表示情報(μ)をそれぞれが含む、前記電子機器(14)に提供された値群(W)について、前記それぞれの摩擦値または位置表示情報(μ)をもとにして同時に前記車両(12)によって走行される前記路面(16)の前記それぞれの摩擦値(μ)を読み取る、または検知するように、
-前記入力量(x)を表示する少なくとも1つの第1の軸および前記出力量(p)を表示する第2の軸を有する座標系であって、前記座標系の第3の軸、または前記第1の軸と前記第2の軸とにより形成される平面上のセクタによって前記摩擦値(μ)が表示され、前記第1の軸と前記第2の軸とにより形成される前記座標系の面積が、特定の摩擦値(μ
C1~μ
C3)での前記入力量(x)と前記出力量(p)との間の所定の目標関係にそれぞれが対応する複数の目標セクタ(C1~C3)に分割される、座標系に前記値群(W)をプロットするように、
-前記いくつかの目標セクタ(C1~C3)に割り振られた値群(W)の前記摩擦値(μ)をもとにして、少なくとも所定の予測時間インターバル中に前記ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかを推定するように、
設計および/またはプログラミングされる、予測装置。
【請求項2】
前記電子機器(14)は、前記検知された入力量(x)および前記同時に検知された出力量(p)に加えて、前記同時に前記車両(12)によって走行される路面(16)の位置表示を摩擦値または位置表示情報(μ)としてそれぞれが含む、前記電子機器(14)に提供された値群(W)について、前記それぞれの位置表示をもとにして、所定の摩擦値マップ(18)から前記それぞれの摩擦値(μ)を呼び出すように、および前記呼び出された摩擦値(μ)を前記値群(W)に加えるように、設計および/またはプログラミングされる、請求項1に記載の予測装置(10)。
【請求項3】
前記電子機器(14)は、運転者により引き起こされる、および/または前記車両(12)の自律的な制動中に検知された値および/または情報をそれぞれが有する、かつ前記検知された入力量(x)、前記同時に検知された出力量(p)、および前記同時に前記車両によって走行される路面に関する前記摩擦値または位置表示情報(μ)に加えてさらに、コントローラ状態情報をそれぞれが含む、前記電子機器(14)に提供された値群(W)から、能動的に実行される走行ダイナミクスコントロールから逸脱するコントローラ状態情報を含む前記値群(W)をフィルタリングするように設計および/またはプログラミングされる、請求項1または2に記載の予測装置(10)。
【請求項4】
前記電子機器(14)は、前記座標系にプロットされた前記値群(W)にそれぞれブレーキ作動点(P1~P3)を割り当てるように、かつ前記走行ダイナミクスコントロールについて検知された前記ブレーキ作動点(P1~P3)の分布を追加的に考慮して、少なくとも前記所定の予測時間インターバル中に前記ブレーキシステムの前記少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかを推定するように、設計および/またはプログラミングされる、請求項1から3までのいずれか1項に記載の予測装置(10)。
【請求項5】
前記予想装置は前記車両(12)に組付け可能である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の予測装置(10)。
【請求項6】
前記予測装置(10)は、前記車両(12)のデータ送信器(22)により送信された前記値群(W)を受信するように設計された通信機器(20)を含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の予測装置(10)。
【請求項7】
車両(12)のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測方法であって、次のステップ、すなわち、
-運転者により引き起こされる、および/または前記車両(12)の自律的な制動時に能動的に実行される複数の走行ダイナミクスコントロール中に値群(W)を検知するステップであって、前記検知された値群(W)の各々がそれぞれ、検知された入力量(x)、同時に検知された出力量(p)、ならびに同時に前記車両(12)によって走行される路面(16)の検知または呼び出された摩擦値(μ)を含み、前記入力量(x)が前記車両(12)の運転者によるブレーキペダルの操作の操作強度または前記ブレーキシステムのモータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の動作モードを表し、前記出力量(p)が前記入力量(x)に対する前記ブレーキシステムの反応を表す、ステップ(S1)と、
-前記入力量(x)を表示する少なくとも1つの第1の軸および前記出力量(p)を表示する第2の軸を有する座標系であって、前記座標系の第3の軸、または前記第1の軸と前記第2の軸とにより形成される平面上のセクタによって前記摩擦値(μ)が表示され、前記第1の軸と前記第2の軸とにより形成される前記座標系の面積が、特定の摩擦値(μ
C1~μ
C3)での前記入力量(x)と前記出力量(p)との間の所定の目標関係にそれぞれが対応する複数の目標セクタ(C1~C3)に分割される、座標系に前記検知された値群(W)をプロットするステップ(S3)と、
-前記いくつかの目標セクタ(S1~S3)に分布した前記値群(W)の前記摩擦値(μ)をもとにして、少なくとも所定の予測時間インターバル中に前記ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかを推定するステップ(S4)と、を包含する予測方法。
【請求項8】
前記座標系にプロットされた前記値群(W)にそれぞれブレーキ作動点(P1~P3)が割り当てられ、かつ前記走行ダイナミクスコントロールのために検知された前記ブレーキ作動点(P1~P3)の分布を追加的に考慮して、少なくとも前記所定の予測時間インターバル中に前記ブレーキシステムの前記少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかが推定される(S7)、請求項7に記載の予測方法。
【請求項9】
前記検知された値群(W)を前記座標系にプロットする前に、温度が所定の正常温度範囲外である場合、前記運転者により調節されるブレーキペダルの調節速度が所定の正常速度範囲外である場合、車両電機システムの電圧が所定の正常電圧範囲外である場合、データ提供機器の故障中、および/またはフェード現象中に検知された値群(W)がフィルタリングされる(S2)、請求項7または8に記載の予測方法。
【請求項10】
前記入力量(x)として、前記ブレーキペダルに結合された入力ロッドのロッドストローク(x)、前記ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダのマスタブレーキシリンダ圧力、前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置のモータのモータ電流強さ、前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の前記モータの動作電圧、前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の少なくとも1つの調節可能なピストンの調節行程、または前記ブレーキシステムの前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置として使用される少なくとも1つのポンプのポンプレートが検知され、ならびに/あるいは前記出力量(p)として、前記マスタブレーキシリンダの前記マスタブレーキシリンダ圧力(p)、前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の前記モータのモータトルク、前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置に結合された前記ブレーキシステムの伝動装置の伝動装置効率、前記ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダの少なくとも1つのブレーキ圧、前記ブレーキシステムによって前記車両(12)にもたらされるブレーキ力、前記ブレーキシステムによって前記車両(12)にもたらされるブレーキトルク、または前記ブレーキシステムによって前記車両(12)にもたらされる車両減速度が検知される、請求項7から9までのいずれか1項に記載の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測装置に関する。本発明は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術から自動車を監視する方法が知られている。例えば、特許文献1は、自動運転機能を有する自動車を監視する方法を記載し、該方法で、特に自動車を停止させるように形成された少なくとも1つのエネルギー消費機器に供給するエネルギー貯蔵器が監視される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第102017218446号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、請求項1の特徴を有する車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測装置、および請求項7の特徴を有する車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの監視だけでなく、早期診断の有利な可能性も提供する。したがって、本発明は、それぞれのブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのすでに生じた故障の認識だけでなく、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの将来の機能能力および将来の動作挙動に関する予想も可能にする。以下でより詳しく説明されるように、複数の異なったブレーキシステムコンポーネント、例えばそれぞれのブレーキシステムのマスタブレーキシリンダに前置された電気機械式ブレーキ倍力装置、および/またはそれぞれのブレーキシステムに組み込まれたモータ駆動式プランジャ装置(特にIPB、インテグレーテッド・パワー・ブレーキ)などについて、それらの将来の機能能力を本発明により信頼性をもって予測することができる。本発明を利用することにより、それぞれのブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの将来の機能障害または将来の故障を早期に予想できるため、本発明は、有利にもそれぞれのブレーキシステムを装備した車両の自律走行を安全にするためにも適している。
【0006】
予測装置の有利な一実施形態では、電子機器は、検知された入力量および同時に検知された出力量に加えて、同時に車両によって走行される路面の位置表示(Ortsangabe)を摩擦値または位置表示情報としてそれぞれが含む電子機器に提供された値群について、それぞれの位置表示をもとにして所定の摩擦値マップからそれぞれの摩擦値を呼び出す(abzufragen)ように、かつ呼び出された摩擦値を値群に加えるように設計および/またはプログラミングされている。予測装置とは、車両とは別個に使用可能な予測装置と解することもできるので、予測装置は、膨大な摩擦値マップを容易に備えることができ、そこからそれぞれの摩擦値を呼び出すことができる。
【0007】
代替的および補足的に、電子機器は、運転者により引き起こされる、および/または自律的な車両の制動中に検知された値および/または情報をそれぞれが有する、かつ検知された入力量、同時に検知された出力量、同時に車両によって走行される路面に関する摩擦値または位置表示情報に加えてさらに、コントローラ状態情報をそれぞれが含む電子機器に提供された値群から、能動的に実行される走行ダイナミクスコントロールから逸脱するコントローラ状態情報を含む値群をフィルタリングする(herauszufiltern)ように設計および/またはプログラミングされてもよい。このようにして、能動的に実行される走行ダイナミクスコントロールのための値群のみが座標系にプロットされることを信頼性をもって確保することができる。同様に、本明細書に記載される技術により、能動的に実行される走行ダイナミクスコントロールのための値群がブレーキシステムの正常な動作状態として座標系のブレーキ特性マップと調整され、誤動作と解釈されないようにすることができる。
【0008】
予測装置の有利な発展形態として、電子機器は、座標系にプロットされた値群にそれぞれブレーキ作動点を割り当てるように、および走行ダイナミクスコントロールのために検知されたブレーキ作動点の分布を追加的に考慮して、少なくとも所定の予測時間インターバル中にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかを推定するように設計および/またはプログラミングされてもよい。このことは、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの本明細書に記載される予測装置の実施形態により実行される予測を改善することができる。
【0009】
例えば、予測装置は車両に組付け可能であり得る。したがって、車両は、自身の予測装置を装備している/することができる。
【0010】
代替的に、予測装置は、車両のデータ送信器から送信される値群を受信するように設計された通信機器を含むことができる。この場合、予測装置を車両に組み付ける必要はない。したがって、本明細書に記載される予測装置の実施形態を比較的大きい体積および/または比較的大きい重量で問題なく形成することができる。さらに、本明細書に記載される予測装置の実施形態は、複数の車両から、それらのデータ送信器により送信される値群を受信することもできる。この場合、予測装置を車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの監視および早期診断のために利用することができる。
【0011】
上記の利点は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための対応する予測方法を実行する場合にも保証される。
【0012】
予測方法の有利な一実施形態では、座標系にプロットされた値群にそれぞれブレーキ作動点が割り当てられ、走行ダイナミクスコントロールのために検知されたブレーキ作動点の分布を追加的に考慮して、少なくとも所定の予測時間インターバル中にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかが推定される。このようにして、それぞれのブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測方法によって実行される早期診断を改善することができる。
【0013】
殊に、検知された値群を座標系にプロットする前に、温度が所定の正常温度範囲外である場合、運転者により調節されるブレーキペダルの調節速度(Verstellgeschwindigkeit)が所定の正常速度範囲外である場合、車両電気システムの電圧が所定の正常電圧範囲外である場合、データ提供機器の故障中、および/またはフェード現象中に検知された値群がフィルタリングされる。このようにして、極端な温度、ブレーキペダルの普通でない調節速度、車両のバッテリの機能障害または故障、データ提供機器の故障、またはフェード現象が本明細書に記載される予測方法により立てられる予測の妨げになることを防ぐことができる。温度、ブレーキペダルの調節速度、または車両電気システムの電圧の短時間の一時的な(妥当な)変動は「ユースケース」として評価することができる。異常を記録し、引き続き追跡でき、場合によっては故障予測および/または情報の形で運転者に出力することができる。代替的に、フィルタリングされた値群を別個に評価することもでき、このようにして、原因とそれぞれのフィルタリング基準のブレーキ特性に及ぼす影響が調べられる。
【0014】
例えば、入力量として、ブレーキペダルに結合された入力ロッドのロッドストローク、ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダのマスタブレーキシリンダ圧、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置のモータのモータ電流強さ、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置のモータの動作電圧、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の少なくとも1つの調節可能なピストンの調節行程(Verstellweg)、またはブレーキシステムのモータ駆動式ブレーキ圧上昇装置として用いられる少なくとも1つのポンプのポンプレートを検知することができ、ならびに/あるいは出力量として、マスタブレーキシリンダのマスタブレーキシリンダ圧、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置のモータのモータトルク、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置に結合されたブレーキシステムの伝動装置の伝動装置効率、ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダの少なくとも1つのブレーキ圧、ブレーキシステムによって車両にもたらされるブレーキ力、ブレーキシステムによって車両にもたらされるブレーキトルク、またはブレーキシステムによって車両にもたらされる車両減速度を検知することができる。ここに挙げた入力量と出力量の例は、従来どおりすでに車両に搭載されているセンサ系を使用して決定することができる。したがって、本明細書に記載される予測方法は、従来どおりすでに車両に搭載されているセンサ系を拡張することなく実行することができる。
【0015】
以下、図をもとにして本発明の他の特徴および利点を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1a】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測方法の実施形態を説明するためのフローチャートである。
【
図1b】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測方法の実施形態を説明するための座標系の図である。
【
図1c】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測方法の実施形態を説明するための座標系の図である。
【
図1d】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測方法の実施形態を説明するための座標系の図である。
【
図2】車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測装置の実施形態の動作原理を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1a~
図1dは、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測方法の実施形態を説明するためのフローチャートおよび座標系を示す。
【0018】
以下に説明される予測方法は、複数の異なったタイプのブレーキシステムで実行することができる。予測方法を実行できるのが、それぞれのブレーキシステムを装備する車両/自動車の特殊な車両タイプ/自動車タイプに限定されないということを明言しておく。
【0019】
予測方法の方法ステップS1において、運転者により引き起こされる、および/または車両の自律的な制動時に能動的に実行される複数の走行ダイナミクスコントロール中に値および/または情報の値群が検知される。そのために、検知された値群の各々について、それぞれ検知された入力量x、それぞれの値群の入力量xと同時に検知された出力量p、および入力量xおよび出力量pの検知と同時に車両によって走行される路面の検知または呼び出された摩擦値μが決定される。走行ダイナミクスコントロールとは、例えば、ABSコントロール(アンチロックシステムコントロール)、ESPコントロール(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)、TCSコントロール(トラクション・コントロール・システム)、またはACCコントロール(アダプティブ・クルーズ・コントロール)と解することができる。
【0020】
入力量xは、車両の運転者によるブレーキペダルの操作の操作強度、またはブレーキシステムのモータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の動作モードを表す量を示す。モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の動作モードを表す入力量を、車両の自律制動を制御するための自動装置によって予め定められた量と解することもできる。
図1a~
図1dの例では、入力量xは、ブレーキペダルに結合された入力ロッドのロッドストロークxである。ロッドストロークxは、例えばロッドストロークセンサを用いて容易に、かつ信頼性をもって検出することができる。出力量pとして、入力量xに対するブレーキシステムの反応を表す量が検出される。本明細書に記載される実施形態では、例示的に、ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダのマスタブレーキシリンダ圧pが出力量pとして検知される。マスタブレーキシリンダ圧pとは、ブレーキシステムの予圧pと解することもできる。例えば、マスタブレーキシリンダ圧pを検知するために、ブレーキシステムの予圧センサを利用することができる。例えば車両によって走行される路面の摩擦係数を摩擦値μと解することができる。
【0021】
しかしここで挙げられる入力量xおよび出力量pの例は、限定するものと解釈されるべきでない。例えば、マスタブレーキシリンダ圧pが運転者によるブレーキペダルの操作に対応することを(実質的に)出発点とすることができる場合、ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダのマスタブレーキシリンダ圧pを入力量として検知することもできる。代替的に、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置のモータのモータ電流強さ、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置のモータの動作電圧、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の少なくとも1つの調節可能なピストンの調節行程、例えば特にマスタブレーキシリンダに前置された電気機械的ブレーキ倍力装置またはブレーキシステムに組み込まれたプランジャ装置(特にIPB、インテグレーテッド・パワー・ブレーキ)の少なくとも1つの調節可能なピストンの調節行程、またはブレーキシステムのモータ駆動式ブレーキ圧上昇装置として用いられる少なくとも1つのポンプのポンプレートを入力量xとして検知することもできる。ここで列挙される入力量の例は、車両の自律制動を制御するための自動装置によって指定されてもよい。出力量pとして、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置のモータのモータトルク、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置に結合されたブレーキシステムの伝動装置の伝動装置効率、ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダの少なくとも1つのブレーキ圧、ブレーキシステムによって車両にもたらされるブレーキ力、ブレーキシステムによって車両にもたらされるブレーキトルク、またはブレーキシステムによって車両にもたらされる車両減速度を検知することもできる。ここで列挙されるすべての量は、通常は車両にすでに搭載されているセンサ系を用いて問題なく入力量xまたは出力量pとして信頼性をもって決定することができる。したがって、方法ステップS1を車両に設置されたセンサ系を拡張することなしに実行することができる。
【0022】
方法ステップS1は、複数の部分ステップS1a~S1cを含むことができる。例えば、部分ステップS1aにおいて、運転者により引き起こされる、および/または自律的な車両の自律的な複数の制動中に値群を検知することができ、検知された値群の各々は、それぞれ少なくとも検知された入力量x、それぞれの値群の入力量xと同時に検知された出力量p、ならびに入力量xおよび出力量pの検知と同時に車両によって走行される路面に関する摩擦値または位置表示情報を含む。摩擦値または位置表示情報は、入力量xおよび出力量pの検知と同時に車両によって走行される路面の検知された摩擦値μであり得る。同様に、摩擦値または位置表示情報は、入力量xおよび出力量pの検知と同時に検知された車両が走行中の路面の位置表示であり得る。殊に、この場合、それぞれの位置表示をもとにして、入力量xおよび出力量pの検知と同時に車両によって走行される路面の摩擦値μを所定の摩擦値マップから読み取り可能/呼び出し可能である。方法ステップS1aを実行するときに、能動的に実行される走行ダイナミクスコントロール中に値群が検知されることが確保されない場合、値群の各々は、追加的に、入力量xおよび出力量pの検知と同時に決定される、場合によっては同時に実行される走行ダイナミクスコントロールに関するコントローラ状態情報をさらに含むことができる。
【0023】
部分ステップS1aを実行するときに、能動的に実行される走行ダイナミクスコントロール中に値群が検知されることが確保されない場合、続いて、部分ステップS1bが実行される。部分ステップS1bにおいて、部分ステップS1aを実行することによって検知された値群から、能動的に実行される走行ダイナミクスコントロールから逸脱するコントローラ状態情報を有する値群がフィルタリングされる。部分ステップS1bによって、運転者により引き起こされる、および/または自律的な制動時に能動的に実行される複数の走行ダイナミクスコントロール中に、さらに評価される値群が検知されることを確保することができる。
【0024】
部分ステップS1aを実行することによって検知された値群がそれぞれ入力量xおよび出力量pの検知と同時に車両によって走行される路面の摩擦値μを含まない場合、さらに別の部分ステップS1cを実行することができる。部分ステップS1cにおいて、それぞれの位置表示を用いて、所定の摩擦値マップからそれぞれの摩擦値μが読み取られ/呼び出され、それぞれの値群に加えられることにより、値群についてそれぞれ割り当てられる摩擦値μが決定される。場合によっては、それぞれの位置表示/摩擦値または位置表示情報の代わりにそれぞれの摩擦値μを関連する値群に付加することもできる。
【0025】
任意的な方法ステップS2において、方法ステップS1の後に(さらに方法ステップS3を実行する前にも)、温度が所定の正常温度範囲外である場合、運転者により調節されるブレーキペダルの調節速度が所定の正常速度範囲外である場合、車両電気システムの電圧が所定の正常電圧範囲外である場合、データ提供機器が故障中、および/またはフェード現象中に検知された値群をフィルタリングすることができる。この場合、次に説明される方法ステップS3は、方法ステップS2でフィルタリングされた値群を使用せずに実行される。(これらの場合には、ブレーキ特性マップにおいて逸脱の原因、すなわち不足電圧、フェード現象、...がすでに一義的に識別される)。
【0026】
方法ステップS3において、検知された(フィルタリングされていない)値群が、入力量xを表示する少なくとも1つの第1の軸と出力量pを表示する第2の軸とを有する座標系にプロットされ、摩擦値μは、座標系の第3の軸、または第1の軸と第2の軸とにより形成される平面上のセクタによって表示される。
図1b~
図1dは、それぞれの座標系の例を示し、入力量xは例示的横座標であり、出力量pは例示的に縦座標である。しかし、
図1b~
図1dの座標系で表される第1の軸、第2の軸、および(任意的に)第3の軸に分けることが限定するものと解釈されてはならないことに言及しておく。(わかりやすくするため、第3の軸は、
図1b~
図1dの座標系には図示されない。)
【0027】
図1bおよび
図1cの座標系に認識できるように、第1の軸と第2の軸とにより形成される座標系の面積が複数の目標セクタC1~C3に分割され、これらはそれぞれ特定の摩擦値μ
C1~μ
C3での入力量xと出力量pとの間の所定の目標関係に対応する。第1の目標セクタC1は、第1の摩擦値μ
C1での目標関係に対応し、第1の摩擦値μ
C1は、第2の目標セクタC2の第2の摩擦値μ
C2より小さい。第3の目標セクタC3は、第2の目標セクタC2の第2の摩擦値μ
C2より大きい第3の摩擦値μ
C3での目標関係に対応する。座標系の目標セクタC1~C3は、同じ面積および/または同じ形状で形成することができる。しかし代替的に、目標セクタC1~C3が異なった面積および/または異なった形状を有することもできる。目標セクタC1~C3のそれぞれの形状および/またはそれぞれの面積を学習可能に形成することもできる。
【0028】
座標系の補足として、さらに少なくとも1つの別の数学的および/または物理的量および/または少なくとも1つの周辺情報を別の軸によって図表的に示すことができる。
図1bの座標系に認識できるように、例えば、第1の軸と第2の軸とにより形成される座標系の面積の特定の領域にプロットされた値群の頻度Nを別の軸によって表すことができる。
【0029】
図1bおよび
図1cの座標系をもとにして、それぞれ1つの入力量xと割り当てられた出力量pについて検知された摩擦値μが、入力量xと出力量pとの間の所定の目標関係のそれぞれの摩擦値μ
C1~μ
C3に対応するかどうかが認識できる。そのために、それぞれの入力量xおよび割り当てられた出力量pが第1の軸と第2の軸とにより形成される座標系の面積の目標セクタC1~C3に属する/投影可能である値群の摩擦値μが所定の目標関係に対応する摩擦値μ
C1~μ
C3に対応するかどうかを検知しさえすればよい。したがって、
図1bおよび
図1cの座標系を、値群のそれぞれの出力量pが割り当てられた入力量および割り当てられた摩擦値μに対して所定の目標関係にあるかどうかを検証するために利用することができる。
【0030】
図1bの座標系において、例えば、マーキングP+によって、マーキングされた値群が、マーキングP+でマーキングされた値群が属する/投影可能である第2の目標セクタC2の第2の摩擦値μ
C2に対応する摩擦値μを有することが表示される。これに対して、
図1bの座標系におけるマーキングN-によって、値群のいくつかが、マーキングN-でマーキングされる値群が属する/投影可能である第3の目標セクタC3の第3の摩擦値μ
C3より小さい摩擦値μを有することも示される。マーキングN-によって示される値群は、例えばブレーキシステムの液圧回路における空気/残気の存在を示唆する。
【0031】
図1Cの座標系において、値群が第1の摩擦値μ
C1を有する第1の目標セクタC1から第2の摩擦値μ
C2を有する第2の目標セクタC2の「中へ移る」ことが認識できる。したがって、値群は、第2の摩擦値μ
C2を有する第2の目標セクタC2から、第3の摩擦値μ
C3を有する第3の目標セクタC3へ「移る」。このことは、それぞれのブレーキシステムの液圧回路に残気が存在して漏れが進行することを示唆する。
【0032】
したがって、本明細書に記載される予測方法は、それぞれのブレーキシステムの欠陥または機能障害を早期に認識するための非常に高感度な(sensitiv)可能性である。有利にも、それぞれ作成された座標系をもとにして、ブレーキシステムのまだ機能能力のあるブレーキシステムコンポーネントが近い将来、最善でも機能能力が制限されることになるのかどうかを、信頼性をもって予測できる。特にブレーキシステムの「初期欠陥」をそれぞれ作成された座標系をもとにして認識/予測することができる。そのために実行されるべき方法ステップS1およびS3は、比較的低コストで、かつ比較的小さな体積の電子機器を用いて実行可能である。
【0033】
本明細書に記載される予測方法の別の方法ステップS4において、いくつかの目標セクタC1~C3に割り振られた値群の摩擦値μをもとにして、少なくとも所定の予測時間インターバルの間ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかが推定される。したがって、方法ステップS4は、走行ダイナミクスコントロールを実行するために使用される自動装置が、特定の時点から車両のブレーキシステムのパフォーマンスに満足しなくなり、そのため、走行中の路面の実摩擦値μに比して高くなったか、または低くなったブレーキ要求によって、座標系にプロットされた摩擦値μおよびそれぞれの値群が属する/投影可能である目標セクタC1~C3の摩擦値μC1~μC3に逸脱が引き起こされたかどうかを、座標系をもとにして早期に認識できることを利用する。
【0034】
さらに、車両のブレーキシステムのパフォーマンスに対する反応としてブレーキ要求が高くなるか、または低くなることの責任を負うのは走行ダイナミクスコントロールを実行するために使用される自動装置であり、車両の運転者ではないことが本明細書に記載される予測方法によって利用される。したがって、運転者の運転方法は、座標系にプロットされた値群から「フィルタリングされる」。したがって、座標系にプロットされた摩擦値μと、それぞれの値群が属する/投影可能である目標セクタC1~C3の摩擦値μC1~μC3の逸脱は、例えば比較的遅い、慎重な運転方法、または比較的速い、スポーツ的な運転方法などの運転者の運転方法に起因しない。任意的に、例えばペダル速度などの少なくとも1つの導出された量を使用することによって運転者の運転方法を追加的に検出および評価することができる。
【0035】
上記の予測方法によって、特に、電気機械的なブレーキ倍力装置または組み込まれたプランジャ装置の総合的な機能性も、その将来の可用性/機能能力の予測の点で検査することができる。特に、この手法によって、従来の監視手法および従来技術によるセンサ、例えばモータ状態センサまたは差動センサでは予想可能でない電気機械的ブレーキ倍力装置または組み込まれたプランジャ装置の将来の故障も予想することができる。したがって、本明細書に記載される予測方法は、特に車両のブレーキシステムの電気機械的ブレーキ倍力装置または組み込まれたプランジャ装置の有利な早期診断を可能にする。しかし、予測方法によって、上記の機能障害/将来の故障に関して他のブレーキシステムコンポーネントも検査できるということを明言しておく。
【0036】
特に、方法ステップS4において、予測時間インターバル中にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いことが予測/予想される場合、任意的な方法ステップS5として、発光表示、音声出力、および/または画像表示によって車両の運転者に相応の警告を伝達することができる。警告を伝達するために、車両の少なくとも1つの発光素子、車両の音声出力装置、車両の画像表示器および/または運転者のモバイル機器、例えば特に携帯電話を使用することができる。したがって、運転者は、修理工場を訪れるよう様々な仕方で促され得る。代替的または補足的に、方法ステップS5において、予測に対応するサービス情報を修理工場に送信することもできる。
【0037】
しかし、方法ステップS4において、予測時間インターバル中に、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する心配がないことが予測/予想される場合、任意的な方法ステップS6として、車両の自律走行のための許可基準を出力することもできる。したがって、方法ステップS4において、予測時間インターバル中にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いことが予測/予想される場合、車両の自律走行のための許可基準を無効にすることができる。殊に、この場合、車両の自律走行のために使用される自動装置は、許可基準が存在する場合にのみ、この自動装置が車両の自律走行のために適した動作モードに切り替えられるように形成されている。このようにして、自律走行の少なくとも推定される時間の間、自車のブレーキシステムに機能障害の発生が高い確率であり得ない場合にのみ、車両が自律走行に移されることが確保される。
【0038】
本明細書に記載される予測方法の任意的な発展形態として、方法ステップS4の前に、(方法ステップS3を実行することによって)座標系にプロットされた値群にそれぞれブレーキ作動点P1~P3が割り当てられる方法ステップS7を付加することもできる。
図1dの座標系において、例えば3つのブレーキ作動点P1~P3が示され、これらは、ブレーキ作動点P1によりABSコントロール中の制動、ブレーキ作動点P2により比較的高い車両速度で実行される回生、ブレーキ作動点P3により比較的低速で実行される回生を表す。続いて、走行ダイナミクスコントロールのために検知されたブレーキ作動点P1~P3の分布を追加的に考慮して、少なくとも所定の予測時間インターバル中にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかをさらに信頼性をもって推定することができる。特に環境データ、路面データおよび/または交通状況データに依存して、それぞれ1つのブレーキ作動点P1~P3を各全システム状態に割り当てることができるということを明言しておく。次に、座標系におけるそれぞれのブレーキ作動点P1~P3の位置が、特定のブレーキ動作に指定された目標位置から逸脱する場合、これは、ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキコンポーネントの機能能力の低下を示唆する。例えば、乾燥した道路から雪道への移行時に運転者が制動することによる、第1のブレーキ作動点P1~P3から第2のブレーキ作動点P1~P3への移行も検出して相応に評価することができる。したがって方法ステップS7の追加的実行は、それぞれのブレーキシステムのための一時的で高度に動的な早期診断を可能にする。
【0039】
図2は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測装置の一実施形態の動作原理を説明するための模式図を示す。
【0040】
以下に記載される予測装置10は、車両12のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントの予測、特に早期診断のために利用できる。以下に記載される予測装置10の使用可能性は、それぞれのブレーキシステムの特別なブレーキシステムタイプにも、それぞれのブレーキシステムを装備する車両/自動車12の特殊な車両タイプ/自動車タイプにも制限されない。
【0041】
予測装置10は、運転者により引き起こされる、および/または車両12の自律的な制動時に能動的に実行される複数の走行ダイナミクスコントロール中に検知された値および/または情報をそれぞれが有する、電子機器14に提供される値群Wを、以下に記載されるように評価するよう設計および/またはプログラミングされている電子機器14を有する。走行ダイナミクスコントロールとは、例えばABSコントロール、ESPコントロール、TCSコントロール、またはACCコントロールと解することができる。
【0042】
値群Wは、それぞれ検知された入力量、同時に検知された出力量、同時に車両12によって走行される路面16に関する摩擦値または位置表示情報を含む。入力量は、車両12の運転者によるブレーキペダルの操作の操作強度、またはブレーキシステムのモータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の動作モードを示す。したがって出力量は、入力量に対するブレーキシステムの反応を表す。入力量および出力量の例はすでに上記で列挙した。摩擦値とは、例えば、車両12によって走行される路面16の摩擦係数と解することができる。
【0043】
任意的に、電子機器14は、運転者により引き起こされる、および/または車両12の自律的な制動中に検知された値および/または情報をそれぞれが有する、かつ検知された入力量、同時に検知された出力量、同時に車両12によって走行される路面16に関する摩擦値または位置表示情報に加えてさらに、コントローラ状態情報をそれぞれが含む、電子機器14に提供された値群Wから、能動的に実行される走行ダイナミクスコントロールから逸脱するコントローラ状態情報を含む値群Wをフィルタリングするように設定および/またはプログラミングされていてもよい。このようにして、電子機器14によってさらに評価される値群Wがそれぞれ、運転者により引き起こされる、および/または車両12の自律的な制動時に能動的に実行される走行ダイナミクスコントロール中に検知されることを確保することができる。
【0044】
電子機器14は、電子機器14に提供された値群Wについて、それぞれの摩擦値または位置表示情報をもとにして、同時に車両12によって走行される路面16のそれぞれの摩擦値を読み取る、または検知するようにも設計/プログラミングされている。それぞれの摩擦値または位置表示情報がそれぞれの摩擦値を有するのではなく、同時に車両12によって走行される路面16の位置表示を摩擦値または位置表示情報として有する場合、電子機器14は、例えば、それぞれの位置表示をもとにして、所定の摩擦値マップ18からそれぞれの摩擦値を呼び出し、呼び出された摩擦値をそれぞれの値群Wに加えるように設計/プログラミングされていてもよい。
【0045】
さらに、電子機器14は、入力量を表示する少なくとも1つの第1の軸と出力量を表示する第2の軸とを有する座標系に値群Wをプロットするように設計/プログラミングされ、摩擦値は、座標系の第3の軸、または第1の軸と第2の軸とにより形成される平面上のセクタによって表示される。このような座標系の例については上記ですでに説明した。その際、第1の軸と第2の軸とにより形成される座標系の面積が、それぞれが特定の摩擦値での入力量と出力量との間の所定の目標関係に対応する複数の目標セクタに分割されるということも説明されている。
【0046】
次に、電子機器14は、いくつかの目標セクタに割り振られた値群Wの摩擦値をもとにして、少なくとも所定の予測時間インターバル中にブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかを推定することができる。次に、電子機器14は、特定の予測情報PIを出力する。予測情報PIを使用して、例えば、相応の警告を発光表示、音声出力、および/または画像表示によって車両12の運転者に伝達することができる。警告を伝達するために、車両12の少なくとも1つの発光素子、車両12の音声出力器、車両12の画像表示器、および/または運転者のモバイル機器、特に携帯電話を使用することができる。代替的または補足的に、予測情報PIに対応するサービス情報を修理工場に送信することもできる。同様に、予測情報PIが車両の自律走行のための許可基準を含むこともできる。有利な発展形態として、電子機器14は、さらに、座標系にプロットされた値群Wにそれぞれブレーキ作動点を割り当てるように、かつ走行ダイナミクスコントロールのために検知されたブレーキ作動点の分布を追加的に考慮して予測/早期診断を実行するように設計および/またはプログラミングされてもよい。
【0047】
したがって、本明細書に記載される予測装置10は、すでに上記した予測方法の利点をもたらす。予測装置10をすでに上記した予測方法のすべての方法ステップを実行するように形成/プログラミングすることができる。
【0048】
予測装置10とは、車両12に組付け可能/搭載可能な予測装置10と解することができる。しかし
図2に図表的に示されるように、予測装置10は、車両12のデータ送信器22により送信された値群Wを、特にインターネット24を介して受信するように設計された通信機器20を含むこともできる。したがって、予測装置10は、これと車両12との間の距離が比較的大きい場合にもなお有利な予測/早期診断を実行することができる。したがって予測装置10と車両12の協働が車両12の重量を増すことも、車両12に利用可能な予測装置10のための構造空間を必要とすることもない。このことは、予測装置10の可用性を損なうことなしに、予測装置10を比較的大きい体積の、および/または比較的重い形態にすることも可能にする。さらに、この場合、予測装置10と車両12の協働は、車両12の製造コストの増加なしにも可能である。
図2に図表的に示されるように、通信機器20を装備した予測装置10は、予測/早期診断を実行するために複数の車両12と協働することもできる。車両12は、通常、自身のデータ送信器22を装備しているので、予測装置10を様々に使用することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 予測装置
12 車両
14 電子機器
16 路面
18 摩擦値マップ
20 通信機器
22 データ送信器
x 入力量
p 出力量
P1~P3 ブレーキ作動点
W 値群
μ 位置表示情報、
μC1~C3 摩擦値
S1~S7 方法ステップ
S1a、S1b、S1c 部分ステップ
【手続補正書】
【提出日】2023-11-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(12)のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測装置(10)であって、
電子機器(14)を備え、前記電子機器は、
- 運転者により引き起こされる、および/または前記車両(12)の自律的な制動時に能動的に実行される複数の走行ダイナミクスコントロール中に検知された値および/または情報をそれぞれが有する、かつ検知された入力量(x)および同時に検知された出力量(p)であって、前記入力量(x)が前記車両(12)の運転者によるブレーキペダルの操作の操作強度または前記ブレーキシステムのモータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の動作モードを表し、前記出力量(p)が前記入力量(x)に対する前記ブレーキシステムの反応を表す入力量および出力量と、同時に前記車両(12)によって走行される路面(16)に関する摩擦値または位置表示情報(μ)をそれぞれが含む、前記電子機器(14)に提供された値群(W)について、前記それぞれの摩擦値または位置表示情報(μ)をもとにして同時に前記車両(12)によって走行される前記路面(16)の前記それぞれの摩擦値(μ)を読み取る、または検知するように、
- 前記入力量(x)を表示する少なくとも1つの第1の軸および前記出力量(p)を表示する第2の軸を有する座標系であって、前記座標系の第3の軸、または前記第1の軸と前記第2の軸とにより形成される平面上のセクタによって前記摩擦値(μ)が表示され、前記第1の軸と前記第2の軸とにより形成される前記座標系の面積が、特定の摩擦値(μ
C1~μ
C3)での前記入力量(x)と前記出力量(p)との間の所定の目標関係にそれぞれが対応する複数の目標セクタ(C1~C3)に分割される、座標系に前記値群(W)をプロットするように、
- 前記いくつかの目標セクタ(C1~C3)に割り振られた値群(W)の前記摩擦値(μ)をもとにして、少なくとも所定の予測時間インターバル中に前記ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかを推定するように、設計および/またはプログラミングされる、予測装置。
【請求項2】
前記電子機器(14)は、前記検知された入力量(x)および前記同時に検知された出力量(p)に加えて、前記同時に前記車両(12)によって走行される路面(16)の位置表示を摩擦値または位置表示情報(μ)としてそれぞれが含む、前記電子機器(14)に提供された値群(W)について、前記それぞれの位置表示をもとにして、所定の摩擦値マップ(18)から前記それぞれの摩擦値(μ)を呼び出すように、および前記呼び出された摩擦値(μ)を前記値群(W)に加えるように、設計および/またはプログラミングされる、請求項1に記載の予測装置(10)。
【請求項3】
前記電子機器(14)は、運転者により引き起こされる、および/または前記車両(12)の自律的な制動中に検知された値および/または情報をそれぞれが有する、かつ前記検知された入力量(x)、前記同時に検知された出力量(p)、および前記同時に前記車両によって走行される路面に関する前記摩擦値または位置表示情報(μ)に加えてさらに、コントローラ状態情報をそれぞれが含む、前記電子機器(14)に提供された値群(W)から、能動的に実行される走行ダイナミクスコントロールから逸脱するコントローラ状態情報を含む前記値群(W)をフィルタリングするように設計および/またはプログラミングされる、請求項1または2に記載の予測装置(10)。
【請求項4】
前記電子機器(14)は、前記座標系にプロットされた前記値群(W)にそれぞれブレーキ作動点(P1~P3)を割り当てるように、かつ前記走行ダイナミクスコントロールについて検知された前記ブレーキ作動点(P1~P3)の分布を追加的に考慮して、少なくとも前記所定の予測時間インターバル中に前記ブレーキシステムの前記少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかを推定するように、設計および/またはプログラミングされる、請求項
1または2に記載の予測装置(10)。
【請求項5】
前記予
測装置は前記車両(12)に組付け可能である、請求項
1または2に記載の予測装置(10)。
【請求項6】
前記予測装置(10)は、前記車両(12)のデータ送信器(22)により送信された前記値群(W)を受信するように設計された通信機器(20)を含む、請求項
1または2に記載の予測装置(10)。
【請求項7】
車両(12)のブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントのための予測方法であって、次のステップ、すなわち、
- 運転者により引き起こされる、および/または前記車両(12)の自律的な制動時に能動的に実行される複数の走行ダイナミクスコントロール中に値群(W)を検知するステップであって、前記検知された値群(W)の各々がそれぞれ、検知された入力量(x)、同時に検知された出力量(p)、ならびに同時に前記車両(12)によって走行される路面(16)の検知または呼び出された摩擦値(μ)を含み、前記入力量(x)が前記車両(12)の運転者によるブレーキペダルの操作の操作強度または前記ブレーキシステムのモータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の動作モードを表し、前記出力量(p)が前記入力量(x)に対する前記ブレーキシステムの反応を表す、ステップ(S1)と、
- 前記入力量(x)を表示する少なくとも1つの第1の軸および前記出力量(p)を表示する第2の軸を有する座標系であって、前記座標系の第3の軸、または前記第1の軸と前記第2の軸とにより形成される平面上のセクタによって前記摩擦値(μ)が表示され、前記第1の軸と前記第2の軸とにより形成される前記座標系の面積が、特定の摩擦値(μ
C1~μ
C3)での前記入力量(x)と前記出力量(p)との間の所定の目標関係にそれぞれが対応する複数の目標セクタ(C1~C3)に分割される、座標系に前記検知された値群(W)をプロットするステップ(S3)と、
- 前記いくつかの目標セクタ(S1~S3)に分布した前記値群(W)の前記摩擦値(μ)をもとにして、少なくとも所定の予測時間インターバル中に前記ブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかを推定するステップ(S4)と、を包含する予測方法。
【請求項8】
前記座標系にプロットされた前記値群(W)にそれぞれブレーキ作動点(P1~P3)が割り当てられ、かつ前記走行ダイナミクスコントロールのために検知された前記ブレーキ作動点(P1~P3)の分布を追加的に考慮して、少なくとも前記所定の予測時間インターバル中に前記ブレーキシステムの前記少なくとも1つのブレーキシステムコンポーネントに少なくとも1つの機能障害が発生する確率が高いかどうかが推定される(S7)、請求項7に記載の予測方法。
【請求項9】
前記検知された値群(W)を前記座標系にプロットする前に、温度が所定の正常温度範囲外である場合、前記運転者により調節されるブレーキペダルの調節速度が所定の正常速度範囲外である場合、車両電機システムの電圧が所定の正常電圧範囲外である場合、データ提供機器の故障中、および/またはフェード現象中に検知された値群(W)がフィルタリングされる(S2)、請求項7または8に記載の予測方法。
【請求項10】
前記入力量(x)として、前記ブレーキペダルに結合された入力ロッドのロッドストローク(x)、前記ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダのマスタブレーキシリンダ圧力、前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置のモータのモータ電流強さ、前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の前記モータの動作電圧、前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の少なくとも1つの調節可能なピストンの調節行程、または前記ブレーキシステムの前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置として使用される少なくとも1つのポンプのポンプレートが検知され、ならびに/あるいは前記出力量(p)として、前記マスタブレーキシリンダの前記マスタブレーキシリンダ圧力(p)、前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の前記モータのモータトルク、前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置に結合された前記ブレーキシステムの伝動装置の伝動装置効率、前記ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダの少なくとも1つのブレーキ圧、前記ブレーキシステムによって前記車両(12)にもたらされるブレーキ力、前記ブレーキシステムによって前記車両(12)にもたらされるブレーキトルク、または前記ブレーキシステムによって前記車両(12)にもたらされる車両減速度が検知される、請求項7
または8に記載の予測方法。
【国際調査報告】