(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2感染症の治療のためのクロロフィル誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/409 20060101AFI20240409BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240409BHJP
A61K 36/02 20060101ALI20240409BHJP
A61K 36/13 20060101ALI20240409BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
A61K31/409
A61P31/14
A61K36/02
A61K36/13
A61K36/185
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568213
(86)(22)【出願日】2022-05-04
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 CA2022050697
(87)【国際公開番号】W WO2022232930
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523414559
【氏名又は名称】アフィニティイムノ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AffinityImmuno Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ズッコロ,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ズッコロ,アミール ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ディケアコス,ジミー ディー.
(72)【発明者】
【氏名】フィンク,コルビー
(72)【発明者】
【氏名】デカバン,グレゴリー エイ.
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB04
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA56
4C086NA14
4C086ZB33
4C088AA12
4C088AB00
4C088AC03
4C088AC05
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4C088BA33
4C088CA03
4C088MA56
4C088NA14
4C088ZB33
(57)【要約】
本願は、ACE2発現細胞におけるSARS-CoV-2の侵入を阻止するための、SARS-CoV-2による感染症および/もしくは関連疾患(COVID-19)を治療するための、または、対象におけるCOVID-19の発症リスクもしくはCOVID-19の重症度を減少させるための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用に関する。フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩は、植物もしくは藻類抽出物などの抽出物中に存在してもよく、または精製された形態であってもよい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ACE2発現細胞における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)の侵入および/または複製を阻止する方法であって、前記細胞を有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩に接触させることを含む、方法。
【請求項2】
対象におけるSARS-CoV-2による感染症を治療する方法であって、前記対象に有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
【請求項3】
対象におけるCOVID-19を予防または治療する方法であって、前記対象に有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
【請求項4】
対象におけるCOVID-19の発症リスクまたはCOVID-19の重症度を減少させる方法であって、前記対象に有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
【請求項5】
有効量のフェオホルビドAが投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が抽出物中に存在する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記抽出物が植物または藻類抽出物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が精製された形態である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が医薬組成物へと製剤される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、フェオホルビドAを含んだ医薬組成物を投与することを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が肺内投与される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記対象がヒトである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が非ヒト動物である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記非ヒト動物が家畜である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記非ヒト動物がペットである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ACE2発現細胞におけるSARS-CoV-2の侵入および/または複製を阻止するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項17】
ACE2発現細胞におけるSARS-CoV-2の侵入および/または複製を阻止する薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項18】
対象におけるSARS-CoV-2による感染症を治療するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項19】
対象におけるSARS-CoV-2による感染症を治療するための薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項20】
対象におけるCOVID-19を治療するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項21】
対象におけるCOVID-19を治療するための薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項22】
対象におけるCOVID-19の発症リスクまたはCOVID-19の重症度を減少させるための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項23】
対象におけるCOVID-19の発症リスクまたはCOVID-19の重症度を減少させるための薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項24】
フェオホルビドAが使用される、請求項16~23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が抽出物中に存在する、請求項16~24のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
前記抽出物が植物または藻類抽出物である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が精製された形態である、請求項16~26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が医薬組成物へと製剤される、請求項16~27のいずれか1項に記載の使用。
【請求項29】
前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が肺内投与用である、請求項16~28のいずれか1項に記載の使用。
【請求項30】
前記対象がヒトである、請求項16~29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項31】
前記対象が非ヒト動物である、請求項16~29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項32】
前記非ヒト動物が家畜である、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記非ヒト動物がペットである、請求項31に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年5月5日に出願された米国仮出願第63/201,568号明細書の利益を主張するものであり、それは参照により本明細書に取り込まれるものとする。
【0002】
技術分野
本開示は、概してウイルス感染症、特に、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染症などのコロナウイルス感染症および関連疾患の、予防および/または治療に関する。
【背景技術】
【0003】
コロナウイルスは、球状表面突起を有する、大型でほぼ球状のRNAウイルスであり、哺乳類および鳥類に疾患を引き起こす。ヒトでは、これらのウイルスは軽症~致命的な範囲の気道感染症を引き起こす。軽症の疾患としては一部の感冒(主にライノウイルス等の他のウイルスによっても引き起こされる)が挙げられ、より致命的な種類が引き起こしうるものとして重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、およびコロナウイルス感染症2019(COVID-19)が挙げられる。コロナウイルスは、4つの構造タンパク質、すなわち、ウイルスエンベロープ内のスパイク(S)、エンベロープ(E)、およびメンブレン(M)タンパク質、ならびに、ウイルスRNAゲノムを包むヌクレオカプシド(N)タンパク質、を有する。
【0004】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、COVID-19パンデミックの原因の呼吸器疾患である、COVID-19を引き起こす種類のコロナウイルスである。この疾患の徴候は、肺炎、肺障害、炎症、および重症急性呼吸器症候群(SARS)である。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質は、ウイルスが宿主細胞の膜に付着し、融合することが可能となる原因の糖タンパク質である。具体的には、そのS1サブユニットが細胞上の受容体への付着を促進し、S2サブユニットがウイルス膜と細胞の原形質膜との融合を促進する。ヒト細胞へのSARS-CoV-2の侵入に関与する主な受容体は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)である。SARS-CoV-2ビリオンが標的細胞に付着すると、細胞のプロテアーゼである膜貫通型プロテアーゼセリン2(TMPRSS2)がウイルスのスパイクタンパク質を切り開き、S2サブユニット内の融合ペプチドを露出させる。
【0005】
SARS-CoV-2の複数のバリアント(株)が世界的に、また米国内で広がっている。新たなバリアントがこれらの国々で急速に優勢となり、懸念を引き起こしている:B.1.1.7(VOC-202012/01またはアルファとしても知られる)、501Y.V2(B.1.351またはベータ)、P.1(B.1.1.28.1またはガンマ)、デルタ(B.1.617.2)、およびB.1.1.529(オミクロン;これはBA.1、BA.2、およびBA.3亜系統を含む)。
【0006】
B.1.1.7バリアント(17個のアミノ酸変化を伴う23個の変異)は、2020年12月に英国で初めて記載された。501Y.V2バリアント(17個のアミノ酸変化を伴う23個の変異)は、2020年12月に南アフリカで最初に報告された。また、P.1バリアント(17個のアミノ酸変化を伴う35個の変異)は、2021年1月にブラジルで報告された。2021年2月までに、B.1.1.7バリアントは93カ国で、501Y.V2バリアントは45カ国で、P.1変異は21カ国で報告されている。これら3つのバリアントはいずれもN501Y変異を持ち、これはスパイクタンパク質の受容体結合ドメインの501位でアミノ酸のアスパラギン(N)をチロシン(Y)に変化させるものである。501Y.V2およびP.1バリアントはどちらも、K417N/TおよびE484Kという2つのさらなる受容体結合ドメイン変異を持つ。これらの変異は、受容体結合ドメインのアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体への結合親和性を高める。これらの新たなバリアントの出現に起因する4つの主な懸念として、ウイルスの伝播性、疾患の重症度、再感染率(すなわち自然免疫の回避)、およびワクチンの有効性(すなわちワクチン誘導免疫の回避)に対するそれらの影響が挙げられる。近年、カリフォルニア州で初めて検出されたさらなる2つのSARS-CoV-2バリアント、B.1.427およびB.1.429が、既存のバリアントよりも約20%伝播性が高いことが示され、懸念されるバリアントとしてCDCにより分類されている。B.1.617.2デルタバリアントは、ウイルスの伝播性に影響を与えることが知られている、スパイクタンパク質内の次の置換を含む:D614G、T478K、P681R、およびL452R。B.1.1.529(オミクロン)バリアントは、2021年11月にWHOに報告され、スパイクタンパク質内の32個の変異を含む。これらバリアントに関する研究は、それらが、自然誘導免疫も、そして現在承認されているワクチンにより誘導される免疫も回避する能力を有するという、説得力のある証拠を提供した。
【0007】
複数の企業によるワクチンアプローチにより、感染の重症度が低下する兆しは見えているが、現時点では、世界の感染率はパンデミック開始以来最高となっており、現在のワクチン接種率がまだ世界的な集団免疫に近づいていないことが示されている。さらには、新たに出現したSARS-CoV-2バリアントは、ワクチンの有効性を低下させるいくつかの異なるゲノム変異および構造変異を示す。したがって、現時点の証拠は、SARS-CoV-2が集団中でエンデミックになるであろうことを示唆している。
【0008】
そのため、SARS-CoV-2感染症およびCOVID-19の管理のためには、ウイルスの侵入またはウイルスの増殖を妨げることができる新規阻害剤などの、代替療法の開発が必要とされる。
【0009】
本明細書は多くの文書を参照しているが、その内容はすべて参照により本明細書に組み込まれたものとする。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、次の項目1~33を提供する。
1.ACE2発現細胞における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)の侵入および/または複製を阻止する方法であって、前記細胞を有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩に接触させることを含む、方法。
2.対象におけるSARS-CoV-2による感染症を治療する方法であって、前記対象に有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
3.対象におけるCOVID-19を予防または治療する方法であって、前記対象に有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
4.対象におけるCOVID-19の発症リスクまたはCOVID-19の重症度を減少させる方法であって、前記対象に有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
5.有効量のフェオホルビドAが投与される、項目1~4のいずれか1つに記載の方法。
6.前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が抽出物中に存在する、項目1~5のいずれか1つに記載の方法。
7.前記抽出物が植物または藻類抽出物である、項目6に記載の方法。
8.前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が精製された形態である、項目1~5のいずれか1つに記載の方法。
9.前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が医薬組成物へと製剤される、項目1~8のいずれか1つに記載の方法。
10.前記方法が、フェオホルビドAを含んだ医薬組成物を投与することを含む、項目1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が肺内投与される、項目1~10のいずれか1つに記載の方法。
12.前記対象がヒトである、項目1~11のいずれか1つに記載の方法。
13.前記対象が非ヒト動物である、項目1~11のいずれか1つに記載の方法。
14.前記非ヒト動物が家畜である、項目13に記載の方法。
15.前記非ヒト動物がペットである、項目13に記載の方法。
16.ACE2発現細胞におけるSARS-CoV-2の侵入および/または複製を阻止するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
17.ACE2発現細胞におけるSARS-CoV-2の侵入および/または複製を阻止する薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
18.対象におけるSARS-CoV-2による感染症を治療するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
19.対象におけるSARS-CoV-2による感染症を治療するための薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
20.対象におけるCOVID-19を治療するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
21.対象におけるCOVID-19を治療するための薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
22.対象におけるCOVID-19の発症リスクまたはCOVID-19の重症度を減少させるための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
23.対象におけるCOVID-19の発症リスクまたはCOVID-19の重症度を減少させるための薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用。
24.フェオホルビドAが使用される、項目16~23のいずれか1つに記載の使用。
25.前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が抽出物中に存在する、項目16~24のいずれか1つに記載の使用。
26.前記抽出物が植物または藻類抽出物である、項目25に記載の使用。
27.前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が精製された形態である、項目16~26のいずれか1つに記載の使用。
28.前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が医薬組成物へと製剤される、項目16~27のいずれか1つに記載の使用。
29.前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が肺内投与用である、項目16~28のいずれか1つに記載の使用。
30.前記対象がヒトである、項目16~29のいずれか1つに記載の使用。
31.前記対象が非ヒト動物である、項目16~29のいずれか1つに記載の使用。
32.前記非ヒト動物が家畜である、項目31に記載の使用。
33.前記非ヒト動物がペットである、項目31に記載の使用。
【0011】
本開示の他の目的、利点、および特徴は、単に例示として挙げられた以下の具体的実施形態の非限定的な記載を添付の図面を参照しながら読むことにより、より明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
添付図面は次の通りである。
【
図1】
図1は、LCクロマトグラム(黒線=410nmにおけるPDA吸収)、回収された画分(灰色の四角)、および測定された阻害活性のオーバーレイを示す。最も強い効果が、植物抽出物の主要成分であるフェオホルビドAを含んだウェル34にマッピングされた。
【
図2】
図2A~Dは、LC-MSスパイキング実験の結果を示す。
図2Aは、活性植物抽出物におけるクロロフィル誘導体を示すUV-visクロマトグラム(410nm)。
図2Bは、市販のフェオホルビドA標準品のUV-visクロマトグラム(410nm)。
図2Cは、市販のフェオホルビドA標準品を用いて1:1でスパイクした活性植物抽出物のUV-visクロマトグラム(410nm)。
図2Dは、フェオホルビドAピーク強度に対して標準化を行った、オーバーレイされたクロマトグラム(410nm)を示すディファレンシャルディスプレイ。注:フェオホルビドAの添加により、植物抽出物中の微量成分の相対的なピーク高さの強度が減少している。
【
図3】
図3AおよびBは、活性植物抽出物(
図3A)および標準品(
図3B)に由来するフェオホルビドAピークのUV-vis吸収スペクトルおよび抽出されたノミナル質量ESI+ve MSトレースを示す。両者のUV-vis吸収スペクトルは409および663nmにおける極大値によって定義されるが、593.3m/zのノミナル質量陽イオン[M+H]
+は[フェオホルビドA+H]
+=593.275847m/zの予測されるモノトピック質量(monotopic mass)にマッチする。
【
図4】
図4は、フェオホルビドA(PPA)存在下ではSARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合が用量依存的に減少するが、非活性分子(シアノコバラミン)の存在下ではそうではないことを示すグラフである。
【
図5】
図5A~Dは、フェオホルビドa(Pa)がSARS-CoV-2 USA-WA1/2020ウイルス感染を阻害することを示すグラフである。SARS-CoV-2許容細胞株をUSA-WA1/2020ウイルスに感染させ、Paとともにインキュベートした。1時間後、培養下でPaを光活性化させたか(Pact Pa)、または光から保護した(Pa)。2日後、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存率アッセイを用いて、Huh-7.5(
図5A)およびVero E6(
図5B)の細胞生存率を測定した。Paは、Huh-7.5(
図5C)およびVero E6(
図5D)の両細胞株に対して、培養下でSARS-CoV-2 USA-WA1/2020ウイルスバリアントの感染を有意に阻害する。二元配置分散分析を用いて、対照(0μM Pa)との比較により、有意性を決定した(
*P<0.05)。
図5C~Dの点線は、非感染条件のバックグラウンド吸光度(490nm)である。
【
図6】
図6A~Bは、フェオホルビドa(Pa)がSARS-CoV-2アルファバリアントの感染を阻害することを示すグラフである。SARS-CoV-2アルファバリアントに感染したVero E6細胞を、Paとともにインキュベートした。1時間後、培養下でPaを光活性化させたか(Pact Pa)、または光から保護した(Pa)。2日後、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存率アッセイを用いて、細胞生存率を測定した(
図6A)。Paは、培養下でSARS-CoV-2感染を有意に阻害し、この阻害は光活性化により増強される(
図6B)。二元配置分散分析を用いて、対照(0μM Pa)との比較により、有意性を決定した(
*P<0.05)。
図6Bの点線は、非感染条件のバックグラウンド吸光度(490nm)である。
【
図7】
図7A~Bは、フェオホルビドa(Pa)がSARS-CoV-2 USA-WA1/2020ウイルス感染を阻害することを示すグラフである。SARS-CoV-2 USA-WA1/2020ウイルスに感染したHT1080 ACE2+細胞を、Paとともにインキュベートした。1時間後、培養下でPaを光活性化させたか(Pact Pa)、または光から保護した(Pa)。2日後、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存率アッセイを用いて、細胞生存率を測定した(
図7A)。Paは培養下でSARS-CoV-2感染を有意に阻害する(
図7B)。二元配置分散分析を用いて、対照(0μM Pa)との比較により、有意性を決定した(
*P<0.05)。
図7Bの点線は、非感染条件のバックグラウンド吸光度(490nm)である。
【
図8】
図8A~Bは、フェオホルビドa(Pa)がSARS-CoV-2アルファバリアントの感染を阻害することを示すグラフである。SARS-CoV-2アルファバリアントに感染したA549 ACE2+細胞を、Paとともにインキュベートした。1時間後、培養下でPaを光活性化させたか(Pact Pa)、または光から保護した(Pa)。2日後、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存率アッセイを用いて、細胞生存率を測定した(
図8A)。Paは培養下でSARS-CoV-2感染を有意に阻害する(
図8B)。二元配置分散分析を用いて、対照(0μM Pa)との比較により、有意性を決定した(
*P<0.05)。
図8Bの点線は、非感染条件のバックグラウンド吸光度(490nm)である。
【
図9】
図9A~Bは、フェオホルビドa(Pa)がSARS-CoV-2アルファバリアントの感染を阻害することを示すグラフである。SARS-CoV-2アルファバリアントに感染したHuh-7.5細胞を、Paとともにインキュベートした。1時間後、培養下でPaを光活性化させたか(Pact Pa)、または光から保護した(Pa)。2日後、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存率アッセイを用いて、細胞生存率を測定した(
図9A)。Paは培養下でSARS-CoV-2感染を有意に阻害する(
図9B)。二元配置分散分析を用いて、対照(0μM Pa)との比較により、有意性を決定した(
*P<0.05)。
図9Bの点線は、非感染条件のバックグラウンド吸光度(490nm)である。
【
図10】
図10A~Dは、フェオホルビドa(Pa)前処理がSARS-CoV-2 USA-WA1/2020ウイルス感染を阻害することを示すグラフである。SARS-CoV-2許容細胞株を、Paとともにインキュベートした。1時間後、培養下でPaを光活性化させたか(Pact Pa)、または光から保護し(Pa)、その後、USA-WA1/2020ウイルスに感染させた。2日後、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存率アッセイを用いて、Huh-7.5(
図10A)およびVero E6(
図10B)の細胞生存率を測定した。Paは、Huh-7.5(
図10C)およびVero E6(
図10D)の両細胞株に対して、培養下でSARS-CoV-2 USA-WA1/2020ウイルスバリアントの感染を有意に阻害する。二元配置分散分析を用いて、対照(0μM Pa)との比較により、有意性を決定した(
*P<0.05)。
図10C~Dの点線は、非感染条件のバックグラウンド吸光度(490nm)である。
【
図11】
図11A~Cは、フェオホルビドA、および本明細書に記載の研究で試験した、ポルフィン環を有する他の化合物の構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本技術を記述する文脈における(特に後述の請求項の文脈における)「a」、「an」、および「the」という語の使用は、本明細書中で他に断りがない限り、または文脈と明確に矛盾しない限り、単数形と複数形の両方を包含すると解釈されるべきである。
【0014】
「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、および「含む(containing)」という語は、他に断りがない限り、オープンエンドな語である(すなわち、「~を含むが限定されない」を意味する)と解釈されるべきである。
【0015】
本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書中で他に断りがない限り、または文脈と明確に矛盾しない限り、任意の適した順番で行われうる。
【0016】
本明細書で提供されるあらゆる実施例または例示的な言葉(「など(“e.g.”, “such as”)」)の使用は、請求項に記載の技術の実施形態をより良く説明することのみを意図しており、他に断りがない限り、範囲に制限を与えるものではない。
【0017】
本明細書中のいかなる言葉も、請求項に記載されていないいずれかの要素が請求項に記載の技術の実施形態の実施に不可欠なものであることを示すと解釈されるべきではない。
【0018】
本明細書中、「約(about)」という語は、その通常の意味を有する。「約」という語は、ある値が、その値を決定するために用いられる装置もしくは方法の誤差の固有の変動を含むこと、または、記載された値に近い値、例えば記載された値(もしくは値の範囲)の10%の範囲内の値を包含すること示すために用いられる。
【0019】
本明細書に示されている値の範囲は、本明細書中で他に断りがない限り、単に範囲内に含まれる個別の値を個々に参照することを省略する方法として機能することを意図しており、個別の値が本明細書に個々に示されたのと同様に本明細書に組み込まれたものとする。範囲内の値のあらゆるサブセットについても、それらが本明細書に個々に示されたのと同様に本明細書に組み込まれたものとする。
【0020】
本開示の特徴または態様がマーカッシュ群または代替物のリストで記載されている場合、当業者は、それによって本開示に前記のマーカッシュ群または代替物のリストの任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループに関しても記載されているものと認識するであろう。
【0021】
他に断りがない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、当業者によって(例えば、幹細胞生物学、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、ウイルス学、免疫組織化学、タンパク質化学、および生化学において)一般的に理解されているものと同じ意味を有するとみなされるべきである。
【0022】
他に断りがない限り、本開示で利用される組換えタンパク質、細胞培養、および免疫学的技術は、当業者に周知の標準的な手順である。このような技術は、例えば以下のような情報源の文献全体にわたって記載および説明されている:J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T. A. Brown (editors), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991)、D. M. Glover and B. D. Hames(editors), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996)、F. M. Ausubel et al. (editors), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-lnterscience (1988; 現在までのすべての更新を含む)、Ed Harlow and David Lane (editors) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, (1988)、J. E. Coligan et al. (editors) Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons(現在までのすべての更新を含む)、およびCurrent protocols in Microbiology, John Wiley & Sons(現在までのすべての更新を含む)。
【0023】
本明細書に記載の研究において、本願発明者らは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質とその受容体ACE2との間の相互作用を遮断する、植物抽出物中に存在する小分子阻害物質を同定した。この分子は、クロロフィルAから植物内に産生される天然化合物である、フェオホルビドAである。
【0024】
本開示は、ACE2発現細胞におけるウイルス、例えばSARS-CoV-2などのコロナウイルスの侵入および/または複製を阻止する方法であって、前記細胞を有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩に接触させることを含む、方法を提供する。本開示はまた、ACE2発現細胞におけるウイルス、例えばSARS-CoV-2などのコロナウイルスの侵入および/または複製を阻止するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用を提供する。本開示はまた、ACE2発現細胞におけるウイルス、例えばSARS-CoV-2などのコロナウイルスの侵入および/または複製を阻止する薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用を提供する。本開示はまた、ACE2発現細胞におけるウイルス、例えばSARS-CoV-2などのコロナウイルスの侵入および/または複製を阻止することにおいて使用するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を提供する。
【0025】
本開示は、対象におけるウイルス、好ましくはSARS-CoV-2などのコロナウイルスによる感染症を治療する方法であって、前記対象に有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を投与することを含む、方法を提供する。本開示はまた、対象におけるウイルス、例えばSARS-CoV-2などのコロナウイルスによる感染症を治療するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用を提供する。本開示はまた、対象におけるウイルス、好ましくはSARS-CoV-2などのコロナウイルスによる感染症を治療するための薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用を提供する。本開示はまた、対象におけるウイルス、好ましくはSARS-CoV-2などのコロナウイルスによる感染症を治療することにおいて使用するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を提供する。
【0026】
本開示は、対象におけるウイルス疾患、好ましくはCOVID-19などのコロナウイルスによって引き起こされるウイルス疾患を治療する方法であって、前記対象に有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を投与することを含む、方法を提供する。本開示はまた、対象におけるウイルス疾患、好ましくはCOVID-19などのコロナウイルスによって引き起こされるウイルス疾患を治療するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用を提供する。本開示はまた、対象におけるウイルス疾患、好ましくはCOVID-19などのコロナウイルスによって引き起こされるウイルス疾患を治療するための薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用を提供する。本開示はまた、対象におけるウイルス疾患、好ましくはCOVID-19などのコロナウイルスによって引き起こされるウイルス疾患を治療することにおいて使用するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を提供する。
【0027】
本開示は、対象におけるCOVID-19などのコロナウイルス関連疾患の発症のリスクまたはコロナウイルス関連疾患(例えばCOVID-19)の重症度を減少させる方法であって、前記対象に有効量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を投与することを含む、方法を提供する。本開示はまた、対象におけるCOVID-19などのコロナウイルス関連疾患の発症のリスクおよび/または重症度を減少させるための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用を提供する。本開示はまた、対象におけるCOVID-19などのコロナウイルス関連疾患の発症のリスクまたはコロナウイルス関連疾患(例えばCOVID-19)の重症度を減少させるための薬剤の製造のための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の使用を提供する。本開示はまた、対象におけるCOVID-19などのコロナウイルス関連疾患の発症のリスクまたはコロナウイルス関連疾患(例えばCOVID-19)の重症度を減少させることにおいて使用するための、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を提供する。
【0028】
フェオホルビドA(PPBa)は、藻類および高等植物で形成されるクロロフィルaの脱フィチル化(dephytylation)および脱金属(demetallation)生成物である。
【0029】
植物および藻類抽出物を含む様々な供給源からPPBaを見出し、単離することができる。それら抽出物の例として、Dunaliella primolecta、Cylindrotheca closterium、Morinda citrifolia、Enteromorpha prolifera、Spinacia oleracea(ホウレンソウ)、Spirulina、Mentha piperita、Arrabidaea chica、Gelidium amansii、およびScutellaria barbataからの抽出物が挙げられる(例えば、Saide et al., Mar. Drugs 2020, 18(5), 257;中国特許出願公開第103031354号;Kobayashi et al., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 83, 2019 - Issue 7;Miranda et al., Photodiagnosis and Photodynamic Therapy, 03 Jun 2017, 19:256-265;国際公開第2017/086536号;Tang et al., Cancer Biology & Therapy, 5:9, 1111-1116を参照)。
【0030】
一実施形態において、抽出物は、Clintonia borealis L.抽出物(葉)、Lupinus polyphyllus L.抽出物(葉)、Caltha palustris L.抽出物(葉)、Quercus macrocarpa L.抽出物(葉)、Prunus americana L.抽出物(花)、またはCaragana arborescens L.抽出物(樹皮)である。
【0031】
フェオホルビドA類似体の例としては、フェオホルビド-A メチルエステル、(R,S)-13(2)-ヒドロキシフェオホルビド-A メチルエステル、15(2)-ヒドロキシラクトンフェオホルビド-A メチルエステル、および15(2)-メトキシラクトンフェオホルビド-A メチルエステルが挙げられる(例えば、Kamarulzaman et al., Chem Biodivers 2011 Mar;8(3):494-502を参照)
【0032】
フェオホルビドAは、HCl-N-フェオホルビドAのような薬理学的に許容される塩の形態であってよい。「薬理学的に許容される塩」という用語は、目的の薬理活性、すなわちACE2発現細胞におけるSARS-CoV-2の侵入を阻止する活性を保持するフェオホルビドAの塩のことを意味する。これらの塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、およびヨウ化水素酸塩などの無機酸;または、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、重硫酸塩、スルファミン酸塩、硫酸塩、ナフチレート(naphthylate)、酪酸塩、クエン酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩(camphosulfate)、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタン硫酸塩(ethanesulfate)、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩(glucoheptanoate)、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩(heptanoate)、ヘキサン酸塩、2-ヒドロキシエタン硫酸塩(2-hydroxyethanesulfate)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、トシル酸塩、およびウンデカン酸塩(undecanoate)などの有機酸;を用いて形成してよい。
【0033】
フェオホルビドAは、マグネシウム(天然に見出される主要な形態)、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、またはナトリウムなどの金属に錯体化してよい。一実施形態においては、フェオホルビドAは亜鉛フェオホルビドA(ZnPh)の形態ではない。
【0034】
本明細書に記載されている方法、使用、および治療のために、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を、適量のフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を含んだ抽出物(植物または藻類抽出物など)の形態、例えば粗抽出物の形態、またはフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、もしくはその薬理学的に許容される塩を多く含む部分的に精製された抽出物の形態で使用してよく、あるいは、精製された(植物もしくは藻類などの天然源から単離された、または合成された)形態で使用してもよい。したがって、一実施形態においては、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を含む抽出物が使用または投与される。他の一実施形態においては、精製または単離されたフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が使用または投与される。
【0035】
本明細書で使用される「単離」または「精製」という用語は、前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が、天然で見出される形態と同一ではない(例えば、天然には見出されない純度の)物理的形態であることを意味する。「単離」または「精製」は、前記フェオホルビド類似体またはその薬理学的に許容される塩が100%の純度であることを必ずしも必要としない。一実施形態においては、精製または単離された、フェオホルビドA類似体またはその薬理学的に許容される塩は、抽出物または製剤中に存在する全成分のうち少なくとも10%に相当する。好ましい実施形態においては、精製または単離されたフェオホルビドA類似体またはその薬理学的に許容される塩は、抽出物または製剤中に存在する全成分のうち少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、または95%に相当する。
【0036】
一実施形態においては、本明細書に記載されている方法または使用には光線力学療法(PDT)は含まれない。すなわち、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩はPDTと組み合わせて使用されない。
【0037】
他の一実施形態においては、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が光活性化される。一実施形態においては、本明細書に記載されている方法および使用は、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を光と接触させること、すなわち、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩に励起光を照射することを含む。一実施形態においては、本明細書に記載されている方法または使用は光線力学療法(PDT)と組み合わされる。フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を、適した波長(例えば450nm~595nmに含まれる波長)かつ十分な出力の、例えば発光ダイオード(LED)などの任意の光と接触させ、前記フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を活性化させてよい。
【0038】
他の一実施形態においては、本明細書に記載されている方法または使用には亜鉛補給は含まれない。すなわち、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩は亜鉛補給と組み合わせて使用されない。
【0039】
当業者は、前記抽出物または精製されたフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩を、1つまたは複数の担体および/または賦形剤(薬理学的に許容される担体および/または賦形剤)と混合し、対象への投与に適した組成物を得てもよいことを理解するであろう。
【0040】
本明細書で使用される「賦形剤」とは、当該分野におけるその通常の意味を有し、有効成分(薬物)そのものではない任意の成分のことである。賦形剤の例として、緩衝剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、充填剤、増粘剤、崩壊剤、可塑剤、被覆剤、バリア層製剤、安定化剤、徐放剤、および他の成分が挙げられる。本明細書で使用される「薬理学的に許容される賦形剤」とは、有効成分の生物学的活性の有効性を妨げず、対象に対して毒性のない、任意の賦形剤のことを指す。すなわち、賦形剤の一種であり、および/または、対象に毒性のない量で使用されるためのものである。賦形剤は当該分野で周知であり、本組成物はこれらの点で限定されない。担体/賦形剤は、静脈内、非経口、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼(ophthalmic)、心室内、嚢内(intracapsular)、脊髄内、髄腔内、硬膜外、槽内(intracisternal)、腹腔内、鼻腔内、または肺内(エアロゾル、ネブライザーなどによる)投与などに適したものでありうる。治療用組成物は、当該分野で公知の標準的な方法を用いて、所望の純度の有効成分を、1つまたは複数の任意の薬理学的に許容される担体、賦形剤、および/または安定化剤と混合することにより、調製される(Remington: The Science and Practice of Pharmacy, by Loyd V Allen, Jr, 2012, 22nd edition, Pharmaceutical Press;Handbook of Pharmaceutical Excipients, by Rowe et al., 2012, 7th edition, Pharmaceutical Pressを参照)。
【0041】
一実施形態においては、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が、経口投与用に製剤される。経口投与に適した製剤としては、(a)有効量の活性薬剤/組成物などを水、生理食塩水、またはPEG400などの希釈剤に懸濁させた、液体溶液;(b)所定量の有効成分を液体、固形物、顆粒、またはゼラチンとして含む、カプセル、小袋、または錠剤;(c)適切な液体中の懸濁液;および、(d)適したエマルション;が挙げられる。錠剤形態は、乳糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、コーンスターチ、ジャガイモ澱粉、微結晶セルロース、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、その他の賦形剤、着色剤、充填剤、結着剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、香料、染料、崩壊剤、および薬理学的に適合する担体のうち、1つまたは複数を含みうる。ロゼンジ形態としは、ショ糖などの香味料中に有効成分を含むもの、ならびに、ゼラチンおよびグリセリンまたはショ糖およびアカシアエマルション、ゲルなどの不活性基剤中に有効成分を含むトローチなど、有効成分に加えて当該分野で公知の担体を含むものでありうる。
【0042】
一実施形態においては、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が、非経口投与(注射など)用に製剤される。非経口投与用の製剤は、例えば、賦形剤;滅菌水;生理食塩水;ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール;植物由来の油;または水素化ナフタレン(hydrogenated napthalenes);などを含んでいてよい。生体適合性の生分解性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリド共重合体、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体を使用して、化合物の放出を制御してよい。有用でありうる他の非経口送達系として、エチレン酢酸ビニル共重合体粒子、浸透圧ポンプ、埋め込み型輸液システム、およびリポソームが挙げられる。
【0043】
吸入用の製剤は、賦形剤(乳糖など)を含んでいてもよく、または、例えばポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、グリココール酸塩、およびデオキシコール酸塩などを含む水溶液であってもよく、または、点鼻薬の形態で、もしくはゲルとして投与するための油性溶液であってもよい。
【0044】
一実施形態においては、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が、気道への投与用に製剤される。一実施形態においては、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が、肺投与用に、エアロゾルまたは噴霧剤などの形態で製剤される。フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩は、定量吸入器、乾燥粉末吸入器、またはネブライザーなどの吸入装置を使用して投与してよい。肺投与用製剤は、典型的には、糖/多糖、ポリマー、アミノ酸、粘度調節剤、界面活性剤、噴射剤、脂質(例えばリポソームを形成するためのもの)などの賦形剤を含んでいてよい。肺投与のための製剤は、単位用量または複数回用量の形態(presentations)であってよい。他の一態様においては、本開示は、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、もしくはその薬理学的に許容される塩、またはそれらを含む組成物、を含む吸入装置を提供する。他の一実施形態においては、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が、経鼻投与用に、鼻腔用スプレーなどの形態で製剤される。他の一実施形態においては、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩が、口内洗浄液の形態で製剤される。
【0045】
特定の疾患または状態(COVID-19などのウイルス性疾患)の予防、治療、または重症度の減少という目的において、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の適切な投与量は、治療対象となる疾患または状態の種類;疾患または状態の重症度および経過;フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩の投与が予防目的なのか治療目的なのか;治療歴;患者の病歴およびフェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩に対する反応;ならびに、主治医の裁量に依存しうる。フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩は、一度に、または一連の治療にわたって、患者に適切に投与してよい。好ましくは、用量反応曲線をin vitroで決定し、次いで有用な動物モデルで決定した後で、ヒトにおける試験を行うことが望ましい。本開示は、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩、および、それらを含む組成物のための、投与量を提供する。例えば、疾患の種類および重症度に応じて、1日あたり、体重1kgあたりで、約1μg/kg~1000mg/kgである。さらに、有効用量は、0.5mg/kg、1mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg/25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、55mg/kg、60mg/kg、70mg/kg、75mg/kg、80mg/kg、90mg/kg、100mg/kg、125mg/kg、150mg/kg、175mg/kg、200mg/kgであってもよく、25mg/kgきざみで最大1000mg/kgまで増やしてもよく、あるいは、上記の値のうちいずれか2つの値の間の範囲であってもよい。典型的な1日の投与量は、上記の要因に応じて、約1μg/kgから100mg/kg以上の範囲であってもよい。数日以上の反復投与では、状態によっては、疾患症状の所望の抑制が起こるまで治療を維持する。しかし、他の投薬計画が有用な場合もある。この治療の進行は、従来の技術および分析によって容易にモニターされる。
【0046】
ウイルス疾患に対して本明細書で使用される「治療すること(treating)」または「治療(treatment)」という用語は、前記ウイルス疾患(COVID-19など)と関連した1つまたは複数の症状または病理学的特徴の軽減/改善を指すことが意図され、例えば、1つまたは複数の症状の発生および/または重症度の軽減などが挙げられる。限定されない例として、ウイルス量の減少;咳、発熱、倦怠、息切れの軽減;急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の軽減/予防;多臓器不全、敗血症性ショック、血餅、入院、または挿管を伴うICUの必要性の軽減/予防;などが挙げられる。
【0047】
一実施形態において、本明細書に定義される方法および使用は、武漢の元々のSARS-CoV-2バリアントによる感染の予防、治療、および/または管理のためのものである。他の一実施形態において、本明細書に定義される方法および使用は、武漢の元々のSARS-CoV-2バリアントのいずれかのバリアントによる感染の予防、治療および/または管理のためのものである。このようなバリアントの例として、B.1.1.7(VOC-202012/01またはアルファ(α)としても知られる)、501 Y.V2(B.1.351またはベータ(β)としても知られる)、P.1(B.1.1.28.1またはガンマ(γ)としても知られる)、B.1.617.2(デルタ(δ)としても知られる)、またはB.1.1.529(オミクロン)バリアント、ならびに他の懸念されるバリアント(VOC)、例えばB.1.429、B.1.526、B.1.525、およびA.23.1(例えばwww.cdc.qov/coronavirus/2019-ncov/cases-updates/variant-surveillance/variant-info.htmlを参照)が挙げられる。一実施形態において、本明細書に定義される方法および使用は、SARS-CoV-2デルタ(δ)バリアントによる感染の予防、治療、および/または管理のためである。一実施形態において、本明細書に定義される方法および使用は、SARS-CoV-2オミクロンバリアント、例えばオミクロン亜系統BA.1、BA.2、および/またはBA.3による感染の予防、治療、および/または管理のためのものである。一実施形態において、本明細書に定義される方法および使用は、任意の新しいSARS-CoV-2バリアントによる感染の予防、治療、および/または管理のためのものである。
【0048】
フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩は、単独で、または抗ウイルス薬、抗炎症薬、ワクチン、免疫療法などの他の予防もしくは治療薬と組み合わせて使用してよい。活性薬剤および/またはそれらを含む組成物の組み合わせは、任意の従来の剤形で投与、または(例えば、連続的に、同時に、または時間をずらして)併用投与してよい。本開示の文脈における併用投与とは、改善された臨床成績を達成するために、コーディネートされた治療の過程全体を通して複数の治療薬を投与することを指す。このような併用投与は、コ・エクステンシブ(coextensive)、すなわち重複する期間中に発生するものであってよい。例えば、第1剤(例えば、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩)を、第2の活性薬剤(例えば、抗ウイルス剤または抗炎症剤)の投与の前に、投与と同時に、投与の前後に、または投与の後で、患者に投与してよい。これら薬剤は、一実施形態では、組み合わせて/製剤して単一の組成物とし、それにより同時に投与してよい。
【0049】
一実施形態において、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩は、ウイルス疾患(例えばCOVID-19)の発症前に投与するためのものである。他の一実施形態において、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩は、ウイルス疾患(例えばCOVID-19)の発症後に投与するためのものである。他の一実施形態において、フェオホルビドA、フェオホルビドA類似体、またはその薬理学的に許容される塩は、ウイルス疾患(例えばCOVID-19)の発症前および発症後に投与するためのものである。
【0050】
本明細書で使用される「対象」という用語は、ネコ、イヌ、マウス、モルモット、ウマ、ウシ、ヒツジ、非ヒト霊長類、およびヒトなどの哺乳類を含む温血動物のことを意味すると理解される。一実施形態において、対象は哺乳類、特にヒトである。
【0051】
一実施形態において、前記対象または患者は、免疫系が弱く、SARS-CoV-2感染症などのウイルス感染症と戦う能力が低下している。他の一実施形態において、前記対象または患者は、免疫抑制または免疫不全となった対象または患者である。免疫抑制は、AIDS、癌、糖尿病、栄養失調、もしくは特定の遺伝性疾患などの特定の疾患もしくは状態、または、抗癌剤、放射線治療、および幹細胞もしくは臓器移植などの特定の薬物もしくは治療によって引き起こされるものであってよい。一実施形態において、前記対象または患者は、高齢の対象または患者であってよく、例えば、60歳以上、65歳以上、70歳以上、75歳以上、または80歳以上であって、典型的にはワクチンおよび感染に対して引き起こされる免疫応答が弱い対象または患者である。
【実施例】
【0052】
本開示を、以下の限定されない実施例により、より詳細に説明する。
【0053】
実施例1:植物抽出物のスクリーニング
150個の乾燥植物試料を含むライブラリーを収集した。それぞれの乾燥植物材料(葉、花、果実、樹皮、および根)1gを、ポリトロンイマージョンホモジナイザー(Polytron immersion homogenizer)による機械的破砕を用いて、30mLの3:1アセトニトリル:水(1%ギ酸)溶媒混合物中に抽出した。試料をソニックバス中で35℃で1時間でインキュベートした後、QuEChERs塩(AOAC法2007.1;6.0g MgSO4+1.5g NaOAc)を加えて、水相および有機相への相分離を促進した。ボルテックスおよび遠心分離の後、有機相の20mLアリコートを窒素ガス流下で乾燥させ、20mg/mLの濃度でエタノール中に溶解した。
【0054】
SARS-CoV-2 Surrogate Virus Neutralization Test(sVNT)を用いて粗抽出物をスクリーニングした。このスクリーニングでは、96穴ポリスチレンELISAプレートの固相上にACE2標的タンパク質をコートし、検出はSARS-Cov-2スパイクタンパク質S1サブユニットと西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)酵素との融合タンパク質であった。抽出物試料(20mg/mL)をアッセイ緩衝液(PBS/BSA)で希釈し、最終濃度5mg/mLにした。40μLの抽出物試料を、60μLのアッセイ緩衝液中の検出融合タンパク質と混合した。SARS-CoV-2中和モノクローナル抗体を陽性対照として用いた。抽出物試料と同濃度のアッセイ緩衝液中のエタノールを、陰性対照として用いた。
【0055】
抽出物23、14、および20は陽性対照中和抗体の>90%に相当する阻害を示し、試料124、32、および86は対照中和抗体の>88%の活性を示した。他のすべての試料は、サロゲートウイルス中和試験で低レベルの阻害を示した。
【0056】
次いで、前記酵素をプレート上に直接コーティングすることによって、すべての粗抽出物をアッセイの検出酵素成分に対してスクリーニングした。それにより、観察された阻害が、SARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2タンパク質との間の相互作用のブロックの結果であり、単にSARS-CoV-2に結合させた酵素レポーターの小分子阻害物質に起因するものではないことを確認した。簡単に述べると、レポーター酵素であるHRPを96穴ELISAプレート上にコーティングし、BSA-PBSを用いてブロックした。プレート洗浄後、コーティングされたプレートに粗植物抽出物を塗布し、300RPMで振とうしながら室温で1時間インキュベートした。プレートを0.05% Tween(登録商標)20を含むPBSで3回洗浄し、発色基質とともにインキュベートした。抽出物はいずれもレポーター酵素に対して直接活性を有しておらず、sVNTで観察された阻害はSARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2タンパク質との間の相互作用を能動的に遮断する分子によるものであることが示された。
【0057】
実施例2:顕著な生物学的活性を有する粗抽出物における活性化合物の同定
顕著な生物学的活性を有する6個の粗抽出物を選択し、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)によるさらなる分画および特徴づけを行った。これら6個の上位活性抽出物について、それぞれ200μgを、水/アセトニトリル勾配を用いた逆相(RP)-C18 LC/MSにより、高精度ロボットフラクションコレクターを用いて8×0.500mLのサブフラクションに分離した。これらの画分を、上記のようにその後の阻害スクリーニングのために乾燥させた。活性画分中の成分を、紫外可視吸収データ、m/z比、および市販の標準品との一致保持時間(congruent retention times)を使用してLC/MSにより同定した。6個の抽出物はいずれも同一の画分にマッピングされる阻害活性を有しており、その画分はクロロフィル誘導体の単純混合物を含むことが分かった。一方、不活性粗抽出物はこれらのピークを欠いていた。次いで、クロマトグラフィー勾配の最適化後に1個の上位抽出物(試料番号14 - ルピナス(big leaf lupine))をRP-C18分画し、62.5μLのサブフラクションを得た。その結果、最も強い阻害活性が1つの主要ピークを含む第34画分に関連していることが明らかになった(
図1)。さらに、前記植物抽出物単独、市販標準品単独、および1:1混合物の組み合わせを用いてLC-MSスパイク実験を行ったところ、第34画分の活性ピークはクロロフィル誘導体であるフェオホルビドA(
図2A~Dおよび3A~B)に対応することが示された。フェオホルビドAが抽出物中で測定されたSARS-CoV-2阻害活性を与える化合物であることを確認するため、実施例1に記載のsVNTアッセイにおいて、供給業者から得た純粋なフェオホルビドAを試験した。
図4に示すように、フェオホルビドA(PPA)の存在下では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のACE2への結合の、用量依存的な阻害が観察された。
【0058】
実施例3:他の構造的に関連した化合物の試験
ポルフィン環の存在を基盤としてフェオホルビドAに構造的に関連する他の市販化合物(
図11A~C)を、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のACE2への結合を阻害する能力に関して、sVNTアッセイを用いて試験した。表2で報告されている結果は、試験した化合物のほとんどがSARS-CoV-2スパイクタンパク質のACE2への結合を阻害しないことを示している。2つの非天然化合物、プロトポルフィリンIXおよびベルテポルフィンのみが類似の阻害活性を有することが分かった。
【0059】
表2に示す結果は、ポルフィン環の存在が、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のACE2への結合を阻害する能力を与えるのに十分ではないことを示している。
【0060】
実施例4:フェオホルビドAの、SARS-CoV-2感染に対する効果
方法
複製可能SARS-CoV-2の感染
感染1日前に、SARS-CoV-2許容細胞株(Vero E6、Hu-7.5、A549 ACE2+、およびHT1080 ACE2+細胞株)の細胞を、4枚組の96穴平底プレートにウェルあたり2×104個播種し、一晩インキュベートした(37℃/5% CO2)。感染当日、バイオセーフティレベル3実験室(ImPaKT施設、ウェスタン大学)において、103組織培養培地感染用量/ミリリットル(TCID50/mL)のSARS-CoV-2複製可能(replication-competent)ウイルスを、最小必須培地(MEM)+2%ウシ胎児血清(FBS)中に調製し、これを各ウェルに、ウェルあたり500TCID50に相当する容量で添加して、37℃で1時間インキュベートした。実験によっては、SARS-CoV-2 USA/WA1/2020ウイルスまたはアルファバリアント(B.1.1.7系統)を感染に使用した。その後、ウイルス接種材料を吸引し、所定濃度のフェオホルビドa(Pa)または溶媒対照を含むMEM+2% FBSに置き換えた。37℃でさらに1時間インキュベートした後、培地を吸引し、あらかじめ温めたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でウェルを2回洗浄した。あらかじめ温めたMEM+2% FBSをウェルあたり100μL添加し、2枚のプレートを15分間光活性化し、この間、残りの2枚のプレートを光から保護した。実験のサブセットにおいては、培養液へのPaの添加とSARS-CoV-2感染とを上記と全く同様に行ったが、細胞単層をPa(±光活性化)で前処理した後でSARS-CoV-2 USA-WA1/2020に感染させた。実験サブセットに関わりなく、すべてのプレートを48時間インキュベートした(37℃/5% CO2)。2日後、1枚の光活性化プレートおよび1枚の光から保護されたプレートを使用し、以下のように生存率評価(A.2)またはSARS-CoV-2感染(A.3)の評価を行った。
【0061】
CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存率アッセイ
上記各条件(±光活性化)に対応する1枚のプレートをインキュベーターから取り出し、室温の暗所に30分間静置することにより、CellTiter-Glo(登録商標)試薬(Promega)とともに平衡化した。各ウェル内の培地の容量に相当する量のCellTiter-Glo(登録商標)試薬をウェルごとに加え、十分な細胞溶解が起こるように混合した。10分間インキュベートした後、各ウェルから100μLを不透明な黒色96穴プレート上の対応するウェルに移した。その後、Synergy LXマルチモードリーダー、Gen5(登録商標)マイクロプレートリーダー、およびイメージャソフトウェア(BioTek(登録商標))を使用して、1秒間の積算時間で発光を測定し、ATP発光単位として定量した。
【0062】
マイクロ中和アッセイ
既に記載されているマイクロ中和アッセイ(Gasser R et al. Major role of IgM in the neutralizing activity of convalescent plasma against SARS-CoV-2. Cell Rep 2021;34;108790)を行い、生SARS-CoV-2感染を定量した。簡単に述べると、残りの2枚の96穴プレートの培地を破棄し、単層を10%ホルムアルデヒドで24時間架橋した。ウェルをPBSで洗浄し、PBS+0.1% Triton X-100(BDH Laboratory Reagents)で15分間透過処理し、PBSで再度洗浄した後、PBS+3%脱脂乳とともに室温で1時間インキュベートした。抗マウスSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質一次抗体溶液(1μg/mL、クローン1C7、Bioss Antibodies)をPBS+1%脱脂乳中に調製し、すべてのウェルに室温で1時間添加した。PBSでよく洗浄した後、抗マウスIgG西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)二次抗体溶液をPBS+1%脱脂乳中に調製した。インキュベーション1時間後、ウェルをPBSで洗浄し、SIGMAFAST(登録商標)o-フェニレンジアミン二塩酸塩(OPD)発色溶液(Millipore Sigma)を使用説明書に従って調製し、各ウェルに12分間添加した。3.0M希塩酸(HCl)の添加で反応をクエンチし、Synergy LXマルチモードリーダー、Gen5(登録商標)マイクロプレートリーダー、およびイメージャソフトウェア(BioTek(登録商標))を使用して、培養プレートの490nmにおける光学密度を直ちに測定した。
【0063】
結果
図5~10に示した結果は、フェオホルビドAがSARS-CoV-2感染を用量依存的に阻害し、抗ウイルス活性が、フェオホルビドAが感染細胞に毒性を示す用量よりも低い用量で検出されたことを示す。この効果は、各種SARS-CoV-2許容細胞型(Hu-7.5ヒト肝癌細胞株、Vero E6腎臓上皮細胞株、ACE2
+ HT-1080線維肉腫細胞株、およびACE2
+ A549ヒト肺胞基底上皮細胞株)において、各種SARS-CoV-2バリアント(USA-WA1/2020およびアルファバリアント)を用いて観察された。フェオホルビドAは暗所で(すなわち光活性化なしで)抗ウイルス活性を示すことが示されたが、一般に活性は光曝露下(光活性化)で改善された。抗ウイルス効果は、細胞をSARS-CoV-2曝露前にフェオホルビドAで前処理した場合により顕著であった(
図10A~D)。
【0064】
全体として、本明細書で報告されている研究は、一部の植物種に豊富に存在し、ヒトへの毒性が低い、天然のクロロフィル誘導体であるフェオホルビドAが、SARS-CoV-2感染症およびCOVID-19の予防および/または治療に有用でありうるという有力な証拠を提供する。
【0065】
本発明を、その具体的な実施形態により上に記載したが、本発明は、添付の請求項に定義される対象発明の要旨および本質から逸脱することなく改変することができる。請求項において、「comprising」という単語はオープンエンドな語として用いられ、「including, but not limited to」という表現と実質的に同等である。単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈と明確に矛盾しない限り、対応する複数形の参照を包含する。
【国際調査報告】