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特表2024-516719ジェミナルジニトリル添加剤を含む一次アルカリ金属電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ジェミナルジニトリル添加剤を含む一次アルカリ金属電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/16 20060101AFI20240409BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240409BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20240409BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H01M6/16 A
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M4/06 W
H01M4/06 X
H01M4/06 K
H01M4/06 L
H01M4/06 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568245
(86)(22)【出願日】2022-05-09
(85)【翻訳文提出日】2023-11-06
(86)【国際出願番号】 EP2022062452
(87)【国際公開番号】W WO2022238312
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】21173552.7
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521561330
【氏名又は名称】リトロニック バッテリーテクノロジー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブアッザ、ソフィアン
【テーマコード(参考)】
5H024
5H050
【Fターム(参考)】
5H024AA01
5H024AA02
5H024AA03
5H024AA06
5H024AA07
5H024AA11
5H024AA12
5H024FF11
5H024HH02
5H024HH08
5H050AA08
5H050AA09
5H050AA12
5H050BA06
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA10
5H050CA11
5H050CA14
5H050CA17
5H050CB12
5H050HA10
(57)【要約】
本発明は、一次電池に属する。前記一次電池は、活性アノード材料としてアルカリ金属を有する少なくとも1つのアノードと、活性カソード材料を有する少なくとも1つのカソードと、電解質と、を含む。更に、電解質は、少なくとも1つの添加剤を含み、それにより、少なくとも1つの添加剤は、少なくとも1つのジェミナルジニトリル部分を有する非イオン性又はイオン性化合物であり、脂肪族複素環、以下の式の化合物:
【化1】


【化2】

、又は、
【化3】

(式中、My+は、yの原子価を有する対イオンを表し、R、R’及びR”は、脂肪族又は脂肪族複素環式骨格を有する置換基である)からなる群から選択されるものであることが、本発明の考えに従う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性アノード材料としてアルカリ金属を有する少なくとも1つのアノードと、活性カソード材料を有する少なくとも1つのカソードと、電解質と、を含む一次電池であって、前記電解質が少なくとも1つの添加剤を含み、
前記少なくとも1つの添加剤が、少なくとも1つのジェミナルジニトリル部分を有する非イオン性又はイオン性化合物であって、脂肪族複素環、以下の式の化合物:
【化1】


以下の式の化合物:
【化2】

、又は、
以下の式の化合物:
【化3】

(式中、My+は、yの原子価を有する対イオンを表し、R、R’及びR”は、脂肪族又は脂肪族複素環式骨格を有する置換基である)からなる群から選択されることを特徴とする、一次電池。
【請求項2】
少なくとも1つのジェミナルジニトリル部分を有する前記非イオン性化合物が、
【化4-1】

【化4-2】

(式中、R、R、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素、非置換、一置換又は多置換アルキル、アルケニル、シクロアルキル、チオエーテル、複素環式、アリール及び/又はヘテロアリール置換基を示す)からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の一次電池。
【請求項3】
少なくとも1つのジェミナルジニトリル部分を有する前記イオン性化合物が、
【化5】

(式中、R、R、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素、非置換、一置換又は多置換アルキル、アルケニル、シクロアルキル、チオエーテル、複素環式、アリール及び/又はヘテロアリール置換基を示す)からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の一次電池。
【請求項4】
一置換又は多置換R、R、R、R、R及びR部分の前記置換基が、互いに独立して、アルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、カルボニル、カルボキシル、チオール、チオアルコキシド、アリール、エーテル、チオエーテル、ニトロ、シアノ、アミノ、アジド、アミジノ、ヒドラジノ、ヒドラゾノ、カルバモイル、スルホ、スルファモイル、スルホニルアミノ、アルキル-アミノスルホニル、アルキルスルホニルアミノ部分及び/又はハロゲン、好ましくはハロゲン、フルオロアルキル及び/又はシアノ部分を含む群から選択されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の一次電池。
【請求項5】
y=1又は2、m=1又は2であり、かつ前記対イオンMy+が、前記イオン性ジェミナルジニトリル添加剤について、ヒドロキソニウム、ニトロソニウム、アンモニウム、アルカリ金属イオン、原子価yの金属イオン、原子価yの有機イオン及び/又は原子価yの有機金属カチオンを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1又は3に記載の一次電池。
【請求項6】
前記少なくとも1つの添加剤が、前記電解質中で0.0005mol/lから0.5mol/l、好ましくは0.005mol/lから0.4mol/l、最も好ましくは0.05mol/lから0.3mol/lの濃度を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の一次電池。
【請求項7】
活性アノード材料として使用される前記アルカリ金属が、金属ナトリウム、ナトリウム合金、金属リチウム又はリチウム合金、好ましくはリチウム又はリチウム合金であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の一次電池。
【請求項8】
前記活性カソード材料が、金属、金属酸化物、混合金属酸化物、金属硫化物、金属フッ化物、炭素質化合物又はそれらの混合物を含む固体材料であり、好ましくはMnO、銀バナジウムオキシド(SVO)、銅銀バナジウム酸化物(CSVO)、V、TiS、CuO、CuS、FeS、FeS、CF、AgO、Ag、CuF、AgCrO、CuO、銅バナジウム酸化物又はそれらの混合物を含み、特に好ましくはMnOを含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の一次電池。
【請求項9】
前記一次電池が、活性アノード材料としてリチウムを有する少なくとも1つのアノードと、活性カソード材料としてMnOを有する少なくとも1つのカソードと、を含むリチウム金属バッテリーであることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の一次電池。
【請求項10】
医療機器、特にインプラント型医療機器におけるインプラント型バッテリー又はバッテリーとしての、請求項1から9のいずれか一項に記載の一次電池の使用。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項に記載の一次電池を含む医療機器、特にインプラント型医療機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性アノード材料としてアルカリ金属を有する少なくとも1つのアノードと、活性カソード材料を有する少なくとも1つのカソードと、電解質と、を含み、電解質が少なくとも1つの添加剤を含む、一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一次電池は、使用中に起こる電気化学反応が不可逆的であるバッテリー(battery)である。そのため、一次電池(primary cell)は、充電不可能になる。対照的に、二次電池(secondary cell)の電気化学反応は、電池に電流を流し、それによってそれぞれの化学反応物質を再生することによって逆転させることができる。
【0003】
少なくとも1つの二次電池を含むバッテリーは、環境保護的観点から特に有利であるが、一次バッテリーは、戦闘、救助任務、又は埋め込まれた医療機器などの充電が非現実的又は不可能である場合に重要な役割を果たす。更に、一次バッテリーは、はるかに低い自己放電速度を示し、長期間にわたって安定した性能を要求する用途に最適なバッテリータイプとなるため、長い貯蔵時間後でも優れた比エネルギー及び即応性を示す。
【0004】
活性アノード材料としてアルカリ金属を含むアノードの使用は、高い公称電圧、高い比容量及び低い自己放電などの一次電池の理論的に達成可能な特性に関して、好ましいと考えられている。特に、リチウム及びナトリウムは、非常に高い理論比容量(Li:3860mAh/g、Na:1165mAh/g)、低い密度(Li:0.59g/cm;Na:0.97g/cm)及び負の電気化学的電位(Li:-3.04V;Na:-2.71V vs標準水素電極)を示す。
【0005】
しかしながら、特定のアルカリ金属は反応性が高く、電池電解質との反応によりアノード表面に不動態化層が形成される。この不動態化層は、既知の固体電解質界面相(solid-electrolyte interphase:SEI)であり、電池性能に大きく影響する。SEIの形成は不可避であるため、それ以上の劣化反応を防止するためには、SEIが十分に安定かつ電気絶縁性であることが求められる。しかしながら、SEIの通常低いイオン導電率は、電池内部のインピーダンスの増加をもたらす。その結果、放電電圧及びバッテリー容量が低下する。
【0006】
パルス放電条件下(とりわけ、医療機器で使用されるインプラント型一次電池(implantable priary cell)の一般的な動作モード)では、高オーミックSEIは、いわゆる電圧遅延をもたらし、それによって第1のパルスの最小電位は、後続のパルスの最小電位よりも低くなり、非単調な放電挙動をもたらす。この効果は、米国特許第6,063,526号明細書(US6,063,526A)、米国特許第5,753,389号明細書(US5,753,389)、米国特許第6,027,827号明細書(US6,027,827A)、米国特許第5,753,389号明細書(US5,753,389A)及び米国特許第6,274,269号明細書(US6,274,269B1)に示されているように、カソード材料がゆっくり溶解し、続いてアノード表面に析出する、又は送達容量の理論容量に対する比×100(放電深度(depth of discharge:DOD)と呼ばれる)が、電池容量の40%を超える場合の、長期保存又は非活性期間後のアルカリ金属/金属酸化物電池において、特に顕著である。
【0007】
アルカリ金属電池における別の主要な問題は、蓋、ケーシング、コレクタ又はカソードピンを含む電池構成要素のアノード表面又は内面上でのアルカリ金属の形成及び析出である。金属リチウム析出物の形成は、それぞれの成分の電位がそれぞれのアルカリ金属の析出電位より低い場合、例えば、Li/Liに対してU<0Vである場合に、起こる。これに関連して、「電池の内面」(inner surface of the cell)という用語は、限定はしないが、電池の蓋、ケーシング又は電流コレクタを含む、電解質と接触しているか又は接触する可能性がある内部構成要素(inner components)の表面を含む。
【0008】
活性粒子内のリチウムの拡散が電解質中のLiイオンの輸送よりも低い場合、例えば電解質中のLiイオン濃度の局所的な増加に起因して、複数の理由がこの状態を引き起こし得る。局所的に増加したリチウム濃度が、電流コレクタ又はアノード電位を有する他のアクセス可能な内面要素(inner surface elements)に向かって移動すると、過剰なリチウムイオンがリチウム金属に析出する可能性がある。更に、オーミック抵抗の増加は、例えば電極の電気導電率又は電解質のイオン導電率が低下した場合に、アノード電位の低下をもたらす可能性がある。
【0009】
析出は、粒状又は樹状形態で不規則である。最悪の場合、電池の正及び負の化合物が架橋されて内部短絡を引き起こしている。
【0010】
米国特許第6,274,269号明細書(US6,274,269B1)は、電気化学的電池の無機アルカリ金属塩を含む非水性低粘性電解質中のリン酸塩添加剤の使用を開示して、アノードSEIをイオン導電性に改質し、それによって電圧遅延を最小限に抑える。
【0011】
同様に、米国特許第7,871,721号明細書(US7,871,721B2)は、Rが直鎖CからC15アルカンである脂肪族モノニトリル(R-C≡N)を含む二次リチウムイオンバッテリー用の電解質溶媒を記載している。これにより、充電/放電サイクル中の電解質の安定性が向上する。
【0012】
米国特許第6,333,425号明細書(US6,333,425B1)から、マロノニトリル塩又はマロノニトリルイオン性化合物は、電解質の導電率を改善するために改善することが知られている。
【0013】
特定のニトリル溶媒及びジニトリル溶媒の混合物は、充電中に高電圧電解質を安定化させるために高電圧電解質に混合されることについて、米国特許第9,666,906号明細書(US9,666,906B2)に教示されている。
【0014】
しかしながら、いずれのアプローチも一次電池を対象としていない。したがって、従来技術から知られている添加剤は、上記で概説した2つの問題に関連しない。これは、長期及び/又は大電流用途、例えば心臓ペースメーカー、ループレコーダー、内部心臓除細動器(ICD)、又は神経刺激用のバッテリーとして適用される場合、アノード表面に溶解したカソード材料が析出する傾向がある一次アルカリ金属/金属酸化物電池に特に当てはまる。
【発明の概要】
【0015】
したがって、本発明の目的は、電池化合物の内面だけでなくアノード表面上へのそれぞれのアルカリ金属及びカソード材料の析出を同時に抑制しながら、長期及び/又は大電流用途に使用するのに適した一次アルカリ金属電池を提供することである。
【0016】
この目的は、現在の請求項1の特徴を有する一次アルカリ金属電池によって達成される。
【0017】
請求項1に記載の一次電池は、少なくとも1つのアノードであって、活性アノード材料としてアルカリ金属を含む少なくとも1つのアノードと、少なくとも1つのカソードであって、活性カソード材料を含む少なくとも1つのカソードと、電解質であって、少なくとも1つの添加剤を含む電解質と、を含む。
【0018】
少なくとも1つの添加剤は、少なくとも1つのジェミナルジニトリル部分を有する非イオン性又はイオン性化合物であり、脂肪族複素環、式(I)の化合物:
【化1】


式(II)の化合物:
【化2】

、又は、
式(III)の化合物:
【化3】

(式中、My+は、yの原子価を有する対イオンを表し、R、R’及びR”は、脂肪族又は脂肪族複素環式骨格を有する置換基である)からなる群から選択される。
【0019】
「脂肪族」という用語は、芳香族性の基準を満たさない非環式又は環式、飽和又は不飽和部分、すなわちp軌道の共役系における環式、(本質的に)平面及び4n+2電子を示す。少なくとも1つのジェミナルニトリル部分に加えて、本発明によるジェミナルニトリルは、それらのそれぞれの骨格、すなわち複素環R、R’又はR”の基本構造が脂肪族であることを共通に有する。しかしながら、脂肪族骨格又は複素環の置換基は、依然として芳香族性であり得る。
【0020】
驚くべきことに、一次アルカリ金属電池の電解質に、脂肪族複素環、又は以下「ジェミナルジニトリル」(geminal dinitriles)と称する一般式IからIIIの化合物の群から選択される少なくとも1つのジェミナルジニトリル部分を有する非イオン性又はイオン性化合物を添加することにより、それに起因する電池のアノード表面及び他の内面へのアルカリ金属の析出が効果的に抑制されることが、見出された。この観察は、高速及び大電流パルス放電用途においても安定したSEIの形成によって説明することができ、本明細書で使用される「パルス」という用語は、電流の短いバーストを指し、振幅は前記パルスの前又は後の電流よりも著しく大きい。パルス列は、比較的短い連続した一連のパルスである。
【0021】
更に、アノード表面上へのカソード材料の析出が最小化されるか又は完全に排除され、それによって電池のインピーダンスが安定化される。その結果、本発明による一次アルカリ金属電池は、長期間の不使用後又は40%を超える放電深度であっても電圧遅延を示さず、電池の信頼性及び寿命を高める。
【0022】
いくつかの一次電池がバッテリーに組み合わされることは、本発明の範囲内である。バッテリーは、一般に、少なくとも1つの電気化学電池(electrochemical cell)を含み、複数の電池が直列及び/又は並列回路で組み合わされてもよい。本明細書では、電池、一次(アルカリ金属)電池、一次(アルカリ金属)バッテリー及びバッテリーという用語は、総称(collective terms)と見なされ、適用可能な場合には交換可能に使用される。
【0023】
発明の好ましい実施形態において、少なくとも1つのジェミナルジニトリル部分を有する非イオン性化合物は、
【化4-1】

【化4-2】

(式中、R、R、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素、非置換、一置換又は多置換アルキル、アルケニル、シクロアルキル、チオエーテル、複素環式、アリール及び/又はヘテロアリール置換基を示す)からなる群から選択される。
【0024】
いくつかの化合物は、上記のマーカッシュ構造の好ましい代表である。詳細には、これらは、構造(1)について:2-メチリデンプロパンジニトリル、ベンザルマロノニトリル、4-(ジシアノメチレン)-2,6-ジメチル-4H-ピラン、チロホスチンA1、チロホスチンA23,3-(ジシアノメチリデン)インダン-1-オン、2-(ジシアノメチレン)インダン-1,3-ジオン、2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、(3,5,5-トリメチルシクロヘキサ-2-エニリデン)-マロノニトリル;構造(2)について:ベンジリデンマロノニトリル、2-(2,4,6-トリメチル-ベンジリデン)-マロノニトリル、2-(2,4-ジメチルベンジリデン)-マロノニトリル、2-(3-フリルメチレン)マロノニトリル、2-エチリデンプロパンジニトリル;構造(3)について:イソプロピリデンマロノニトリル、テトラシアノエチレン、2-アミノ-1,1,3トリシアノ-1-プロペン、2-[ビス(ジメチルアミノ)メチリデン]プロパンジニトリル;構造(4)について:アセチルマロノニトリル、2-ベンゾイルマロノニトリル;構造(5)について:2-(1-シクロプロピルエチル)プロパンジニトリル;構造(6)について:tert-ブチルマロノニトリル、エタン-1,1,2-トリカルボニトリル、エタン-1,1,2,2-テトラカルボニトリル;構造(7)について:(エトキシメチレン)マロノニトリル、(1-エトキシエチリデン)マロノニトリル、2-(3-オキソブタン-2-イリデン)プロパンジニトリル;構造(8)について:2-(2-ブロモ-1-メチルエチリデン)マロノニトリル、2-(2-クロロ-1-メチルエチリデン)マロノニトリル2-(ブタン-2-イリデン)プロパンジニトリル;構造(9)について:2-メチルプロパ-1-エン-1,1,3,3-テトラカルボニトリル、プロパ-1-エン-1,1,2,3,3-ペンタカルボニトリル;構造(10)について:1,3-ブタジエン-1,1,2,3,4,4-ヘキサカルボニトリル;構造(11)について:デカシアノオクタテトラエン;構造(12)について:7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジメチル-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン;構造(13)について:1,1,4,4-テトラシアノブタ-1,3-ジエン;構造(14)について:テトラシアノエチレンオキシド;構造(15)について:3,3,4,4-テトラシアノ-1,2-ジオキセタン;構造(16)について:3-クロロオキソラン-2,2,5,5-テトラカルボニトリルのものである。
【0025】
更に、少なくとも1つのジェミナルジニトリル部分を有するイオン性化合物は、
【化5】

(式中、R、R、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素、非置換、一置換又は多置換アルキル、アルケニル、シクロアルキル、チオエーテル、複素環式、アリール及び/又はヘテロアリール置換基を示す)からなる群から選択される。
【0026】
上記のマーカッシュ構造について考えられる化合物は以下の通りである。
【化6】
【0027】
好ましい実施形態では、一般構造1から25の化合物の一置換又は多置換R、R、R、R、R及びR部分の置換基は、特に良好な結果を示すので、アルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、カルボニル、カルボキシル、チオール、チオアルコキシド、アリール、エーテル、チオエーテル、ニトロ、シアノ、アミノ、アジド、アミジノ、ヒドラジノ、ヒドラゾノ、カルバモイル、スルホ、スルファモイル、スルホニルアミノ、アルキル-アミノスルホニル、アルキルスルホニルアミノ部分及び/又はハロゲン、好ましくはハロゲン、フルオロアルキル及び/又はシアノ部分を含む群から互いに独立して選択される。
【0028】
構造1から25の化合物は、文献に報告されている標準的な合成手順によって入手可能である。異なる骨格並びに個々の置換基の変化は、ジェミナルジニトリルの特性を電解質、活性アノード及びカソード材料に特異的に適合させることを可能にする。溶解度、pK値又は解離定数などを変化させることによって、形成されたSEI層の組成及び安定性も影響を受ける。
【0029】
イオン性ジェミナルジニトリルは、yの原子価を有する十分な数mの対イオンMy+を有する正味の中性塩を形成する。好ましくは、yは1又は2に等しく、mは1又は2に等しく、対イオンMy+は、特に良好な性能を示すので、イオン性ジェミナルジニトリル添加剤について、ニトロソニウム(NO)、アンモニウム(NH )、アルカリ金属イオン、原子価yの金属イオン、原子価yの有機イオン及び/又は原子価yの有機金属カチオンを含む群から選択される。
【0030】
一実施形態により、少なくとも1つの添加剤、すなわちジェミナルジニトリルは、電解質中で0.0005mol/lから0.5mol/l、好ましくは0.005mol/lから0.4mol/l、最も好ましくは0.05mol/lから0.3mol/lの濃度を有する。0.0005mol/l未満の濃度では、ジェミナルジニトリルの有益な効果はほとんど目立たないが、0.5mol/lを超える濃度では、リチウム析出又は電圧遅延の更なる注目すべき減少はもたらされない。
【0031】
添加剤としてのジェミナルジニトリルに加えて、電解質は、少なくとも1つの溶媒を含み、少なくとも1つの導電性塩を更に含んでもよい。
【0032】
電解質に適した溶媒は、非水性、非プロトン性の有機溶媒である。好ましくは、これらの溶媒は、エステル、エーテル及びジアルキルカーボネート、例えばテトラヒドロフラン、グリム、ジグリム、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ジエチルカーボネート及びそれらの混合物から選択される。更に、環式カーボネート、環式エステル、環式アミド及びスルホキシドが適切な溶媒であることが分かった。これらの溶媒には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリジノン又はそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
導電性塩は、無機アルカリ金属塩であることが好ましく、アルカリ金属カチオンは、活性アノード材料と同様である。適切なアニオンは、とりわけ、PF 、BF --、AsF 、SbF 、ClO 、O 、AlCl 、GaCl 、SCN、SO(C、C(SOCF 、N(SOCF 、及びSOCFである。好ましい実施形態では、電解質中の導電性塩の濃度は、0.5から2.0mol/l、好ましくは0.8から1.5mol/lである。
【0034】
好ましい実施形態では、活性アノード材料として使用されるアルカリ金属は、金属ナトリウム、ナトリウム合金、金属リチウム又はリチウム合金、好ましくはリチウム又はリチウム合金である。ナトリウム、リチウム及びそれらの合金に基づくアノードは、それらの高い理論比容量及び負の電気化学電位のために特に適している。更に、両方のアルカリ金属は、それらのより重い同族体と比較して、安価で容易に入手可能である。
【0035】
アノードの形状は、特定の形態に限定されない。好ましくは、アノードは、例えばプレス又は溶接によって、少なくとも金属アノード電流コレクタ上に導電的に接続された薄いシート又は箔の形態である。更なる実施形態は、ディスク形状、円筒、棒形状又は折り畳まれたアノードを含む。
【0036】
カソードは、好ましくは固体材料であり、金属、金属酸化物、混合金属酸化物、金属硫化物、炭素質化合物又はそれらの混合物を含んでもよい。
【0037】
本発明の更なる実施形態では、活性カソード材料は、MnO、酸化バナジウム銀(SVO)、銅銀バナジウム酸化物(CSVO)、V、TiS、CuO、CuS、FeS、FeS、CF(フッ化黒鉛)、AgO、Ag、CuF、AgCrO、CuO、Cu、Cu、Cu10、AgCu、AgCu、銅バナジウム酸化物又はそれらの混合物、好ましくはMnOである。
【0038】
必要に応じて、カソードの調製中にバインダー材料が活性カソード材料に添加される。前記バインダーは、通常、全カソード材料混合物の1.0から10重量%を構成する。適切な材料には、ポリテトラフルオロエチレン又はポリフッ化ビニリデンなどの粉末状フルオロポリマーが含まれる。
【0039】
更に、グラファイト又はカーボンブラックを含む、カソード導電率を改善するための1つ又は複数の添加剤をカソード材料に添加することができる。好ましくは、これらの添加剤は、全カソード材料混合物の1.0から10重量%を占める。
【0040】
好ましくは、カソードは、グラファイト及び/又は炭素の薄層で被覆された金属箔又はメッシュグリッドなどのグリッドの薄シートの形態であり得る、少なくとも金属カソード電流コレクタ上に導電的に接続される。適切な材料は、チタン、金、ステンレス鋼、コバルトニッケル、モリブデン又は鋼合金から選択されるが、これらに限定されない。
【0041】
好ましい実施形態では、一次電池は、活性アノード材料としてリチウムを有する少なくとも1つのアノードと、活性カソード材料としてMnOを有する少なくとも1つのカソードと、を含むリチウム金属バッテリーである。この組み合わせは、上記で概説したリチウムの利点が、非常に安定した、高い電位容量及び低コストの材料であるMnOと組み合わされるので、特に魅力的である。3.0Vの公称電圧は、例えばリチウムチオニルクロリド(3.6V)の公称電圧よりも低いが、Li-MnOは、著しく大きな電流(最大5Aの連続負荷及び最大10Aのパルス負荷)を達成する。
【0042】
しかしながら、活物質としてMnOを含むカソードを有する電池は、アノード表面上のマンガンの析出に起因して電圧遅延を生じる傾向があり、これは材料自体の好ましい特性を部分的に相殺する。驚くべきことに、本発明による電解質へのジェミナルジニトリルの添加は、前記析出を効果的に抑制し、したがって一次リチウム金属MnO電池を最大限に使用することができることが見出された。
【0043】
内部短絡を回避するために、電極は、同じく化学的に不活性である、すなわちアノード又はカソード材料並びに電解質と反応しない電気絶縁材料で作られたセパレータによって分離される。それにもかかわらず、セパレータは、電解質で湿らせたときにイオン、すなわち放電中にアノードからカソードへのLiイオンの拡散を可能にする。適切な材料は、特に、ポリエチレン若しくはポリプロピレンなどのポリオレフィン、又はポリエチレンテトラフルオロエチレンなどのフルオロポリマーである。好ましくは、セパレータは膜の形態である。
【0044】
電池構成要素は、アノード、カソード及び電解質の材料に適合するケーシング内に配置される。ケーシングは、とりわけチタン、アルミニウム又はステンレス鋼などの材料を含むことができる。
【0045】
本発明は更に、医療機器におけるバッテリーとしての、又はインプラント型医療機器におけるインプラント型バッテリー()としての、ジェミナルジニトリル添加剤を含む一次アルカリ金属電池の使用を含む。
【0046】
したがって、本発明は、本発明による一次アルカリ電池を含む医療機器、特にインプラント型医療機器を更に含む。
【0047】
心臓ペースメーカー、除細動器(ICD)、薬物送達ポンプ又は神経刺激装置は、バッテリー駆動の能動的インプラント型医療機器の例である。
【0048】
特に、ペースメーカー及びICDは、長時間の非活動の後でさえパルスの一貫した出力を可能にするバッテリーに依存する。急性心イベントが検出された場合、可能性のある心肺停止を防ぐために大電流パルスが出力される。そのような好ましくない条件下で動作しても、本発明による一次電池は、かなりの量の望ましくないリチウム析出も電圧遅延も示さない。
【0049】
発明の開発、利点及び適用可能性はまた、以下の例及び図面の説明から明らかになる。図面に記載及び/又は図示されたすべての特徴は、特許請求の範囲又はそれらの後方参照に含まれることとは無関係に、それ自体又は任意の組み合わせで本発明の主題を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】例1による一次電池の例示的なパルス放電曲線を示すグラフである。
図2】例2による一次電池の例示的なパルス放電曲線を示すグラフである。
図3】例3による一次電池の例示的なパルス放電曲線を示すグラフである。
図4】比較例C1による一次電池の例示的なパルス放電曲線を示すグラフである。
図5】各電池1から20の内蓋面、内部筐体表面及び接触構成要素のリチウム析出量の合計を示すグラフである。
図6】添加剤としてテトラシアノエチレンを含む場合と含まない場合の電解質1のサイクリックボルタンモグラムの比較を示すグラフである。
図7a】電圧遅延なしの電気化学電池の例示的な第1のパルス放電を示すグラフである。
図7b】電圧遅延なしの電気化学電池の例示的な第2のパルス放電を示すグラフである。
図8a】電圧遅延を伴う電気化学電池の例示的な第1のパルス放電を示すグラフである。
図8b】電圧遅延を伴う電気化学電池の例示的な第2のパルス放電を示すグラフである。
図9a】例2による一次電池の1kHzインピーダンスの変化を示すグラフである。
図9b】比較例C1による一次電池のkHzインピーダンスの変化を示すグラフである。
図10a】30日間の回復段階後の例2による一次電池の例示的なパルス放電を示すグラフである。
図10b】30日間の回復段階後の比較例C1による一次電池の例示的なパルス放電を示すグラフである。
図11a】0.01Mテトラシアノエチレンを含む標準電解質の例示的なサイクリックボルタンモグラムを示すグラフである。
図11b】Mn2+イオンの存在下で添加剤としてテトラシアノエチレンを含む場合と含まない場合の標準電解質のサイクリックボルタンモグラムの比較を示すグラフである。
図12】Fe2+イオン存在下で添加剤としてテトラシアノエチレンを含む場合と含まない場合の標準電解質のサイクリックボルタンモグラムを比較したグラフである。
【0051】
以下の例は本発明を例示するが、本発明はこれらの例によって限定されない。すべての例を表1に示す。
【0052】
一次リチウム金属MnO電池は、リチウム析出並びに電圧遅延に対するジェミナルジニトリルの効果を決定するためのモデル系として使用される。カソードは、グラファイト(全組成物の3重量%)及び導電性添加剤としてのカーボンブラック(全組成物の2重量%)、並びにバインダーとしてのポリテトラフルオロエチレン(全組成物の3重量%)と混合された、活性カソード材料としてのMnOを含む。アノードは金属リチウムを含み、電解質は1,2-ジメトキシエタン、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの混合物(比4:4:2(v/v))中にLiClO(1mol/l)を含む。更に、ジェミナルジニトリルtert-ブチルマロノニトリル(TBMN)、テトラシアノエチレン(TCNE)及びアセチルマロノニトリル(AMN)を、0.02mol/lの濃度で電解質に添加した(以下の表の例1、2及び3を参照)。ジェミナルジニトリル添加剤を含まない一次リチウム金属MnO電池を、比較例C1として使用する。上記で概説した各例の複数の電池(電池1から20参照)を分析して、結果の再現性を確実にした。
【0053】
【表1】
【0054】
本明細書では、「標準電解質」という用語は、1,2-ジメトキシエタン、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネート(4:4:2(v/v)の混合物中のLiClOの1mol/l溶液に使用される。
【0055】
アノード表面並びに金属受動部品の内面にリチウム析出を引き起こすために、加速条件下でのICDにおける使用をシミュレートするために、電池1から25を、1、5Vのカットオフ電圧に達するまで16日間の試験に供した。毎日のパルス列は、10秒の持続時間、39mA/cmの電流密度、及び最大1.5Vの電圧を有する25個のパルスからなっていた。2つのパルスの間の休止期間は15秒であり、試験温度はヒトの体温を模倣するように37℃に設定された。試験期間が終了したら、電池を開放し、内面、特に蓋の内面を、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)を使用してリチウム析出について分析した。
【0056】
図1から図4に示すグラフは、例1、2、3及び比較例C1による一次電池のパルス放電曲線を示す。例1、2及び3による電池は、試験期間中に同様の挙動を示す。
【0057】
初期電圧は約2.25Vであり、その後上昇して約600から700mAh後に最大約2.35から2.4Vに達する。この初期の増加は、電池放電中のカソード活性材料の構造変化、特にMnOの使用に起因する可能性があり、ほとんどの場合、パイロルサイト構造からスピネル構造への変化が観察される。
【0058】
その最大値に達した後、測定された電圧は、最初はゆっくりとしか低下せず、したがって0mAhと1200mAhとの間にプラトーが生じる。このプラトー段階の間、電池の出力は実質的に一定のままである。電圧が初期電圧を下回った後、電圧の低下はその後、約1800mAhで1.5Vのカットオフ電圧に達するまで加速し、これはそれぞれの電池の寿命の終わりを示した。
【0059】
本発明によるジェミナルジニトリルの存在は、各個々の電池のほぼ同一の挙動を再現可能にもたらし、すなわち、個々の放電曲線はわずかな差しかないことが直ちに明らかになる。
【0060】
例1から3とジェミナルジニトリルを欠く電池、すなわち比較例C1の電池16から20との比較は、わずかに高い初期電圧(2.25Vと比較して約2.37V)及びより高い最大電圧(500mAhで約2.45V)を有するにもかかわらず、所望のプラトーの終わりが既に約1000mAhに達していることを示す。
【0061】
更に、2つの電池は、プラトー段階の終了直後に急激な電圧降下を示し、こうして1400mAhで1.5Vのカットオフ電圧に達した。この観察は、アノードと電池の別の金属成分との架橋をもたらす金属リチウムの過剰な析出に起因する。その結果、電池は内部短絡により排水される。
【0062】
図5は、電池1から20の内蓋面、内部筐体表面及び接触構成要素(contact components)上のリチウム析出量の合計を示す。ジェミナルジニトリル添加剤の有益な効果は直ちに明らかになる。ジェミナルジニトリルを特徴とする一次電池は、試験期間後でもほとんどリチウム析出を示さないが、決定されたリチウムの量は、比較電池16から20について950から1200μgの範囲であり、したがって、本発明による電池を最大3桁上回った。
【0063】
ジェミナルジニトリル添加剤の影響を、サイクリックボルタンメトリー(cyclovoltammetry:CV)によって更に調査した。CVは、電池内で起こるレドックス反応及びフォローアップ反応を研究するための一般的な方法である。これにより、反応自体、起こり得る析出及び電解質中の添加剤の効果に関する有益な情報を得ることができる。CVは、作用電極の電位が時間に対して線形に傾斜する、動電位法である。所望の電位に達すると、作用電極の電位は反対方向に上昇して初期電位に戻り、三角形の電位-時間関数をもたらす。作用電極における電流を印加電圧に対してプロットして、サイクリックボルタンモグラムを得る。
【0064】
図6は、TCNE(0.01mol/l)を有する場合と有さない場合の標準電解質の比較を示す。CV設定は、白金作用電極、白金対電極及びリチウム基準電極を含む。スキャンレートは、50mV/sとした。
【0065】
標準電解質のサイクリックボルタンモグラムは、2つの明確なピークを示し、それにより、Liイオンの金属リチウムへの還元が、0Vから-0.6V(vs.Li/Li)の電位範囲で観察される。これは、リチウムの析出に相当する。バックスキャンは、電解質中のリチウムの溶解に対応する、0Vから0.6V(vs Li/Li)の電位範囲における金属リチウムのLiイオンへの酸化を示す。還元及び酸化反応は、以下の通りである。
還元:Li+e→Li
酸化:Li→Li+e
【0066】
標準電解質のサイクリックボルタンモグラムにおける2つの別個のピークとは対照的に、0.01mol/lの濃度のTCNEの添加は、Ered1=2.34V及びEred2=1.41Vに2つの還元ピークを示し、電極表面上のTCNE添加剤の還元を示している。対応する酸化ピークの欠如は、これらの反応が不可逆的であり、安定なSEI層を形成することを示唆している。更に、TCNEの還元反応は、その後のLiイオンの還元、ひいては内面への金属リチウムの析出を防止する。これは、ジェミナルジニトリル添加剤を有さない標準電解質について観察されたレドックスピークが存在しないことによって確認される。
【0067】
リチウムMnO電池は、MnO格子へのLiイオンのインターカレーションに基づいている。基礎となる酸化還元反応は以下の通りである。
アノード:Li→Li+e
カソード:MnIV+Li+e→LiMnIII
全体:Li+MnO→LiMnO
【0068】
全体的な反応は不可逆的であるが、特定の条件下でのマンガンイオンの溶解及びその後のアノード表面への析出は、それぞれインピーダンス及び電圧遅延の増加をもたらす高抵抗表面層の形成をもたらす。
【0069】
図7a及び図7bは、電圧遅延なしの電気化学電池の例示的な第1及び第2のパルス放電を示す。両方のパルスについて、電池電位はパルス持続時間を通して減少し、パルスの終わりに最小値に達する。更に、第1のパルスの最小電位は、パルス列内の後続のパルスの最小電位よりも高い。
【0070】
しかしながら、電池が電圧遅延を示す場合、第1のパルスの前縁電位は、第1のパルスの終了電位よりも低い最小電位を形成する。この挙動は、電極上に高抵抗表面層が形成されることによる電池インピーダンスの増加を反映し、それによって有効性を制限し、最悪の場合には、電池及び供給される電子機器の適切な機能を制限する。図8a及び図8bは、電圧遅延を示す電気化学電池の例示的な第1及び第2のパルス放電を示す。
【0071】
アノード表面にマンガンの析出を引き起こすために、それぞれ例1及び比較例C1に記載の3つの電池を90%DODまで放電した。これは、それぞれ10秒の持続時間、33mA/cmの電流密度、2つのパルス間の10秒の休止期間、及び2つのパルス列間の30分の期間を有する4つのパルスからなるパルス列を用いたパルス放電条件下で達成された。
【0072】
その後、30日間の回復期間が続き、この回復期間では、電池を更にわずか100kΩの負荷で放電した。これにより、パルス放電中に溶解したマンガンは、表面に高抵抗層を形成することができた。
【0073】
図9a及び図9bは、それぞれ例1及び比較例C1による電池の測定されたインピーダンスの変化を示す。示されているデータは、1kHzでのインピーダンス測定によって得られた。TCNEの存在下での電池のインピーダンスは、30日間の回復期間にわたって本質的に一定(約0.16Ω)のままであるが、C1電池のインピーダンスは、ほぼ0.3Ωに倍増した。この観察は、本発明によるジェミナルジニトリルを含む一次電池の優れた長期安定性を既に示している。
【0074】
30日間の回復期間後の、それぞれ例1及び比較例C1による90%DOD電池のパルス放電曲線を図10a及び図10bに示す。
【0075】
前者はパルス持続時間中に所望の単調な電位低下を示すが、後者は明らかに電圧遅延を示し、高抵抗アノード表面層の形成を示している。更に、個々のC1電池は、それらの放電挙動において有意に異なる。対照的に、個々の例1の電池の曲線はわずかな差しかなく、ジェミナルジニトリル添加剤の所望の効果が、確実かつ再現可能に達成されることを示している。
【0076】
マンガン析出反応に関するより多くの洞察を得るために、a)0.01mol/lのTNCEを有する標準電解質(図11a参照)、0.01mol/lのMnClOを有する標準電解質(図11bを参照)、及び0.01mol/lのTCNE及び0.01mol/lのMnClOを有する標準電解質(図11bを参照)のCV測定を行った。MnClOを使用して、活性カソード材料から溶解したMnII+イオンの挙動を模倣した。
【0077】
Mn(II)ClOは、Li/Mn(IV)O電池放電中にMn(IV)がMn(III)に還元され、より低い電圧のカソードの一部でMn(III)をMn(II)に還元することができるので使用されている(Mn(II)は二酸化マンガンの可溶性バージョンである)。
【0078】
CV設定は、白金作用電極、白金対電極及びリチウム基準電極を含む。スキャンレートは、50mV/sとした。
【0079】
添加剤としてTCNEを含む標準電解質のサイクリックボルタンモグラムは、ERed1=2.985V及びERed2=2.265V(vs Li/Li)に2つの還元ピークを示し、EOx1=2.410V及びEOx2=3.080V(vs Li/Li)に2つの対応する酸化ピークを示す。したがって、TCNEの酸化還元挙動は可逆的である。
【0080】
対照的に、MnII+イオンを含む標準電解質について可逆的挙動は観察されない。1.6V(vs Li/Li)における不可逆的な還元ピークは、電極表面上のマンガンの還元及び析出を示す。
【0081】
MnIIイオンとジェミナルジニトリル添加剤の両方の存在下では、系の酸化還元挙動はかなり変化する。酸化ピークが存在しないことは依然として不可逆的反応を示すが、還元ピークは1.6Vから2.625V(vs Li/Li)の有意に高い電位にシフトする。これは、還元反応及び得られた還元生成物が修飾されているという明確な指標である。この観察の可能な説明は、溶液中のTCNE-Mn錯体の形成であり得る。明らかに、前記錯体のその後の還元はマンガン元素をもたらさない。したがって、高抵抗なアノード層の形成が防止される。
【0082】
この観察は、MnIIイオンに限定されない。図12は、FeIIイオンの存在下で添加剤としてTCNEを含む場合と含まない場合の標準電解質のサイクリックボルタンモグラムの比較を示す。FeIIイオンをFe(ClO(c=0.01mol/l)の形態で添加して、活性カソード材料としてFeIIを含むカソードからのFeIIイオンの溶解を、シミュレートした。CVは、上に概説したのと同じ条件下で測定した。
【0083】
FeIIの還元は、ジェミナルジニトリル添加剤の非存在下で電極表面上に鉄元素の析出をもたらす。これは、電位1.975V(vs.Li/Li)に不可逆的な還元ピークを示す。TCNEの存在は、不可逆的還元ピークを2.54Vの電位にシフトさせ、これも還元反応及び得られた還元種の変化を示している。
【0084】
これらの結果は、本発明によるジェミナルジニトリルが、内面への金属リチウムの析出並びに高抵抗アノード層の形成を効果的に防止することを明確に示している。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図9a
図9b
図10a
図10b
図11a
図11b
図12
【国際調査報告】