(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】脳腫瘍治療のための生物学的実体物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20240409BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240409BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240409BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20240409BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/869 Z
C12N7/01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023568484
(86)(22)【出願日】2022-05-04
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 US2022027684
(87)【国際公開番号】W WO2022235810
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523417413
【氏名又は名称】アリヴィッド エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】ALIVID LLC
【住所又は居所原語表記】63 Ridge Road, Rumson, NJ 07760, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド テューキー
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
(57)【要約】
脳腫瘍、特に神経膠腫を治療するための生物学的実体物、およびその生物学的実体物を含むベクターが開示される。この生物学的実体物は、少なくとも1つのGluAノックダウン剤、好ましくは少なくとも2つのGluAノックダウン剤から構成される少なくとも抗腫瘍導入遺伝子を含むコンストラクトであり、好ましくは、融合性タンパク質と、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体およびIL12の免疫応答プロモーターをさらに含む。ベクターは野生型HSV-1ウイルスを含み、生物学的実体物が野生型HSV-1ウイルスのICP34.5遺伝子を置き換える。生物学的実体物で修飾された野生型HSV-1ウイルスを含むベクターは、ニューロンに対してほとんどネガティブな効果を示さない一方で、ニューロン細胞と膠芽腫細胞とを別々に培養した場合と共培養した場合との両方において、ヒト膠芽腫細胞に対してポジティブな効果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのAMPA受容体干渉剤またはGluAノックダウン剤から構成される少なくとも1つの抗腫瘍導入遺伝子を含む、ヒト膠芽腫細胞を死滅させるのに有効である生物学的実体物。
【請求項2】
少なくとも1つの抗腫瘍導入遺伝子が2つのGluAノックダウン剤を含む、請求項1記載の生物学的実体物。
【請求項3】
前記2つのGluAノックダウン剤が、GluR1およびGluR2を含むAMPA受容体サブユニットを標的とする、請求項2記載の生物学的実体物。
【請求項4】
前記生物学的実体物が、融合性タンパク質と、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体およびIL12コンストラクトの形態の免疫応答プロモーターとをさらに含む、請求項1記載の生物学的実体物。
【請求項5】
野生型HSV-1ウイルスと、少なくとも1つのGluAノックダウン剤から構成される少なくとも1つの抗腫瘍導入遺伝子とを含む、ヒト膠芽腫細胞を死滅させるのに有効であるベクター。
【請求項6】
前記少なくとも1つの抗腫瘍導入遺伝子が2つのGluAノックダウン剤を含む、請求項5記載のベクター。
【請求項7】
前記2つのGluAノックダウン剤が、GluR1およびGluR2を含むAMPA受容体サブユニットを標的とする、請求項6記載のベクター。
【請求項8】
前記抗腫瘍導入遺伝子が、融合性タンパク質と、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体およびIL2の免疫応答プロモーターとをさらに含む、請求項5記載のベクター。
【請求項9】
前記ベクターが前記野生型HSV-1ウイルスのICP34.5遺伝子を置き換える、請求項5記載のベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.開示の分野
本開示は、脳腫瘍、特に神経膠腫を治療するための新規の生物学的実体物(biological entity)に関する。
【0002】
2.背景技術の考察
神経膠腫の先行技術による治療
神経膠腫は、悪性脳腫瘍の最も一般的な形態であり、その最も悪性な形態である膠芽腫(GBM)は、がんの中で最も致命的なものの1つである。GBM患者の平均生存期間は、診断から1年強である。膠芽腫の一次治療における現在の標準療法であるテモダール(Temodar)は、テモダールのFDA全処方情報に記載されているように、放射線単独と比較して全生存期間を12.1ヶ月から14.6ヶ月まで延ばした(
図1を参照)。
【0003】
過去20年間、神経膠腫における腫瘍溶解性ウイルスを研究する一連の小規模試験が行われてきた。当初の構想では、腫瘍溶解性ウイルス(OV)は、主に単純ヘルペス1型(HSV-1)(このHSV-1は、非腫瘍細胞によって生成される免疫応答に耐える必要がある)のICP34.5遺伝子を欠失させることにより、腫瘍細胞には感染するが正常組織には感染しないように操作されたウイルスであった(Mineta, T. et al. “Attenuated multi-mutated herpes simplex virus-1 for the treatment of malignant gliomas.” Nature Medicine 1, no. 9 (September 1995): 938-943を参照)。腫瘍部位にOVを投与する必要があることから、OVを用いた最初の主要な製薬的取り組みは皮膚がんであった。Biovex/Amgen社のImlygicは、HSV-1ウイルスを操作したもので、2015年に皮膚がんに対して承認された。アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスなどを含む、他のウイルスも抗がん目的で操作されている。しかしながら、現在までのところ、HSV-1をベースにしたウイルスだけが、このような治療に対する明確な臨床的な概念の実証を示している。
【0004】
神経膠腫では、腫瘍溶解性ウイルスのランダム化試験は実施されていない。しかしながら、一部の患者におけるOVの伝播によって引き起こされたと思われる腫瘍縮小および抗腫瘍免疫応答のエビデンスによって、臨床コミュニティは期待感を抱いている。定性的には、全研究に占める割合として、神経膠腫で実施されているOV研究は、他の腫瘍と比較して多い。これには幾つかの理由があると考えられる:i)血液脳関門が従来の薬理学的薬剤の全身送達に課題を課していること、ii)評価手順の侵襲性により、腫瘍内投与がより受け入れられやすくなっていること、およびiii)予後の厳しさにより、実験的ウイルスの脳内投与を許容するリスク/便益計算が得られること。
【0005】
2021年4月にThe New England Journal of Medicine誌に1つの早期臨床試験が掲載された。アラバマ大学バーミンガム校の研究者らは、1995年に作製されたOVコンストラクトで患者を治療した。(Friedman et al. “Oncolytic HSV-1 G207 Immunotherapy for Pediatric High-Grade Gliomas”. N Engl. J Med 2021; 384:1613-1622を参照)(
図2を参照)。
【0006】
一企業であるDNAtrix社は、早期臨床試験で少数の患者に奏効がみられたことに基づいて、膠芽腫でアデノウイルスOVを第3相に移行しようとしている(Lang et al. “Phase I Study of DNX-2401 (Delta-24-RGD) Oncolytic Adenovirus: Replication and Immunotherapeutic Effects in Recurrent Malignant Glioma.” Journal of Clinical Oncology 36, no. 14, 1419-1427 (May 2018)を参照)(
図3を参照)。そして、2021年6月、日本の保健当局は、TodoおよびDaiichi Sankyo社が販売する腫瘍溶解性ウイルスであるTeserpaturev(G47Δ)を悪性神経膠腫の治療薬として承認した。
【0007】
2020年11月、Imlygicの発明者によって設立されたReplimune社が、次世代OVであるRP2の概念の実証臨床データを発表したとき、OV分野に画期的な進展がもたらされた。その第一世代候補であるRP1は、免疫チェックポイント阻害剤との併用で皮膚がんにおける有効性を実証しているようにみえたが、単剤での有効性は実証されていなかった。RP2は、PD-1およびCTLA-4に対するチェックポイント阻害抗体をそのコンストラクト内に含んでいる。したがって、RP2は、RP1よりも効力が高められているようにみえるが、「ロードされたOV」、すなわち抗がん剤そのものでありながら、ウイルスを抗がん剤の送達剤として使用したOVである(Aroldi, F. et al. “Initial results of a phase 1 trial of RP2, a first in class, enhanced potency, anti-CTLA-4 antibody expressing, oncolytic HSV as single agent and combined with nivolumab in patients with solid tumors”. Poster presented 2020 Society for Immunotherapy of Cancer Annual Meetingを参照)(
図4を参照)。Replimune (REPL)社のRP-1概略図を
図5に示す(Thomas, S. et al., “Development of a new fusion-enhanced oncolytic immunotherapy platform based on herpes simplex virus type 1.” Journal for ImmunoTherapy of Cancer 7, no. 1, 6-17 (December 2019) を参照)。
【0008】
公開会社であるOncorus社は、現在、ONCR-177と名付けられた5つの免疫刺激性導入遺伝子を持つOVを試験中である(
図6を参照)。ONCR-177ペイロードは、新たに生産的抗腫瘍応答を刺激するように設計されていると言われている(Kennedy, E.M. et al., “Design of ONCR-177 base vector, a next generation oncolytic herpes simplex virus type-1, optimized for robust oncolysis, transgene expression and tumor-selective replication.” Poster presented at American Association for Cancer Research annual meeting 2019)を参照)。
【0009】
カルシウム透過性AMPA受容体(CPAR)
2019年、Venkataramaniらは、カルシウム透過性AMPA受容体(CPAR)が、腫瘍細胞の維持と、ニューロンのシナプスでの神経膠腫腫瘍細胞へのシグナル伝達を介する広がりとに寄与していることをNature誌に掲載した(Venkataramani, V. et al. “Glutamatergic synaptic input to glioma cells drives brain tumour progression.”, Nature 573, 532-538 (2019) を参照)(
図7)。CPARは、AMPA型グルタミン酸受容体のサブタイプであり、脳内の変化プロセスの重要なドライバーとしてここ10~15年の間に浮上した。CPARは、学習・記憶過程に関与していることが最も多く、CPARは、海馬内の情報ストレージの物理的発現の一部であり、報酬駆動型行動に必要である。
【0010】
本発明者は、CPARがニューロン細胞質からシナプスへと輸送される細胞内メカニズムの解明に貢献し(Tukey, D.S. et al., “Sucrose ingestion induces rapid AMPA receptor trafficking.” Journal of Neuroscience 33, No. 14, 6123-6132 (April 2013)を参照)(
図8を参照)、そして、CPARがシナプスに取り込まれると、CPAR自体が変化のドライバーになり得ることを実証した(Tukey, D.S. and Ziff, E.B., “Ca2+-permeable AMPA (α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid) receptors and dopamine D1 receptors regulate GluA1 trafficking in striatal neurons”, Journal of Biological Chemistry 288, No. 49, 35297-35306 (December 2013)を参照)(
図9を参照)。重要なことに、CPARは、ニューロンとグリア細胞との間のシナプスでの変化にも不可欠である(Ge, WP et al., “Long-term potentiation of neuron-glia synapses mediated by A2+-permeable AMPA receptors.” Science 312, No. 5779, 1533-1537 (June 2006) を参照)。グリア細胞は、遺伝子異常により神経膠腫を生じさせるニューロン支持細胞である。
【0011】
概要
本開示は、脳腫瘍、すなわち神経膠腫を治療するための新規の生物学的実体物である。本開示は、新規の腫瘍溶解性ウイルス(OV)を用いてニューロンシナプス生物学を適用する。
【0012】
本開示は、単純ヘルペスウイルス1(HSV-1)である新規のOVを提供し、このOVは、ニューロン-腫瘍シナプスを遮断することによって脳腫瘍の広がりを防止するかまたは最低でも緩和するために、抗腫瘍免疫応答を刺激する導入遺伝子を発現しながら、腫瘍細胞に選択的に感染し複製するように操作される。新規のOVは、HSV-1のICP34.5遺伝子を欠失させ、抗腫瘍導入遺伝子を含み得かつICP47遺伝子プロモーターによって駆動されるコンストラクトに置き換えたものである。
【0013】
この新規のOVは、腫瘍内注射によって投与されて、現在の標準療法/治療よりも良好な全奏効率ひいては同様に良好な全生存率を達成する。現在の標準療法はテモゾロミド単独であり、上で説明した神経膠腫に対して現在開発中の他のOVがある。全奏効率の向上により脳腫瘍の広がりを遅らせることは、患者の人生にとって計り知れない利益である。
【0014】
新規のOVは、好ましくは、神経膠腫細胞において、CPARを含むAMPA受容体の主要サブユニットであるタンパク質GluA1とGluA2との遺伝子的干渉を少なくとも含むことで、AMPA受容体の輸送ひいては神経膠腫細胞-ニューロンシナプスの輸送を妨げることによって腫瘍細胞の増殖を遅らせる。新規のOVは、局所的なシナプスGluA1およびGluA2ノックダウンを達成する効率的な方法でGluA1およびGluA2ノックダウン剤を送達して、神経膠腫におけるロードされた腫瘍溶解性コンストラクトの有効性を増強するように設計されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本開示の更なる詳細、特徴、および利点は、図に示す例示的な実施形態の以下の説明から明らかになる。
【
図1】放射線療法単独対放射線療法+テモダールの全生存率のカプランマイヤー曲線を示す図である。
【
図2】1995年に作製されたOVコンストラクトG207を用いて治療された患者の全生存率のカプランマイヤー曲線を示す図である。
【
図3】DNAtrix社が開発したアデノウイルス腫瘍溶解性試剤が奏効した患者A,B,Cの脳スキャンと、腫瘍サイズの経時的変化(%)を示すグラフと、をともに示す図である。
【
図4】固形がんを有する患者におけるRP2腫瘍溶解性HSVの単剤およびニボルマブとの併用における抗腫瘍活性および応答動態を示す図である。
【
図6】コンストラクト内に5つの免疫刺激性導入遺伝子を含有するHSV-1であるONCR-177ベースベクターの設計を示す図である。
【
図7】
図7のaは、対照条件下(矢印、4匹のマウスで5回の独立した実験)対高用量イソフルラン条件下(4匹のマウスで4回の独立した実験)のGB細胞(緑)および脳微小血管(赤)の代表的な時系列を示し、
図7のbは、GB細胞の浸潤速度(4匹のS24 PDXマウスにおけるn=254の対照細胞対n=143のイソフルラン細胞)を示し、
図7のcおよび
図7のdは、それぞれ非応答性および応答性のS24 PDX細胞(ニューロンChR2刺激(赤線);6匹のマウスにおける9回の独立した実験)(0時間後(赤の矢印)および5時間後(緑の矢印)に測定した細胞)の代表的な時系列を示し、
図7のeは、S24 PDX GB細胞の浸潤速度(非応答性(NR)、5匹のマウスでn=164の細胞、応答性(R)、n=53のマウス)を示し、
図7のfは、tdTomato(矢印)とともにGlu-2A-DN-GFPを発現する細胞の神経膠腫浸潤を、tdTomatoのみを発現する神経膠腫細胞と比較して示した代表的な時系列を示し、
図7のgは、ドミナントネガティブGluR2サブユニットが、悪性神経膠腫の動物モデルにおいて腫瘍浸潤速度を有意に遅らせることを示し、
図7のhは、Glu-2A-DN-GFPとtdTomato(矢印)またはtdTomatoのみを発現するGB細胞を有するS24異種移植片の0日目および14日目の代表的な画像を示し、
図7のiは、14日間にわたる細胞密度の変化(5匹のマウスでn=13の領域)を示し、
図7のjは、対照条件下およびAMPARアンタゴニストであるペランパネルによる治療後の0日目および14日目の神経膠腫領域を示し、
図7のkは、2つの異なる細胞株S24およびBG5における、対照条件下対ペランパネル(PER)条件下での14日目対0日目の細胞密度を示し、
図7のfおよびgは、本開示の目的に関連すると考えられる先行技術を示す図である。
【
図8】スクロース摂取による多段階GluA1輸送の誘導を示す電子顕微鏡写真を示し、それによって、細胞内GluA1輸送の防止がシナプスの強化を防止することを実証する図であり、
図8のaでは、GluA1をPEG標識し、粒子を5つのシナプス後領域:(1)スパイン内;(2)シナプス外膜または(3)PSD(間隙、PSD部、PSD近傍)に分類し、
図8のbは、水、スクロース/水、スクロースの動物(試験群あたり3匹の動物)から調製した電子顕微鏡写真を示し、
図8のc~fは、スクロースの反復摂取がスパイン内およびPSD GluA1を上昇させる一方、急性スクロース摂取はシナプス外膜への急速なGluA1輸送を誘導することを示す(注:
図8のc~eデータは、スパインあたりの粒子数の平均値として提示される)。
【
図9】AMPA誘導性GluA1輸送の遺伝子的遮断による確認を示し、CPARを有するシナプスにはフィードフォワードシナプス強化を誘導するメカニズムがあることを示唆する図である。
【
図10】ヒトGluR1/2発現ウイルスの構築および検証を示す図であり、ヒトgluR1-P2A-gluR2を発現する腫瘍溶解性HSV-1は、ICP47 HSV-1プロモーターから導入遺伝子の発現を駆動することによって構築され、hGlur1/2を発現するHSV-1を構築するために、親ウイルスであるガンマ34.5二重欠失ウイルスの感染性ウイルスDNAを使用し、感染性ウイルスDNAおよびプラスミドDNA(UL26/27フランキング配列とgluR1/2およびeGFP発現導入遺伝子配列とを有する)を同時トランスフェクトしたU20S細胞のライセートを4日後に採取し、新鮮な単層に感染させ、eGFP発現を使用して組換えプラークを可視化し、10倍プラーク精製ウイルスプラークの精製ウイルスゲノムDNAからのPCR(A)は、528bpの正しいバンドを示し、イムノブロッティング(B)は、感染したSF-295膠芽腫細胞において発現されたgluR2タンパク質を示す。
【
図11】本発明による好ましい生物学的実体物で修飾された野生型HSV-1ウイルスを含むベクターの概略図であり、生物学的実体物は、野生型HSV-1ウイルスのICP34.5遺伝子を置き換える。
【
図12】
図11に示す生物学的実体物の各エレメントの構成要素および説明、好ましい実施形態およびオプションの両方を示す図である。
【
図13】以下の実験1で使用した生物学的実体物で修飾された野生型HSV-1ウイルスを含む本発明の遺伝子マップを示す図である。
【
図14】以下の実験1で使用したヒトgluR1/2発現HSV-1の細胞傷害作用を視覚的に示す図であり、SF-295膠芽腫細胞を、本発明の野生型またはgluR1/2発現HSV-1の1感染多重度(MOI)で感染させ、hgluR1/2を発現するHSV-1は、SF-295細胞において広範な細胞傷害効果を引き起こす。
【
図15】
図14に示した視覚的結果、具体的には、CellTiter-gloキット(Promega社)を使用して評価した細胞生存率(代謝)の指標を棒グラフの形で示す図であり、倍率変化を未処理の対照細胞に対する相対値として計算し、値は3つの独立した実験の平均標準偏差である。***p<0.0005、****p<0.00005。
【0016】
好ましい実施形態の説明
上述したように、
図1~
図9は、様々なモデルおよび生物学的実体物を使用して神経膠腫を治療する先行技術の試みと、本発明に関連するAMPA受容体輸送の説明とを示している。当業者であれば、これらの先行技術の試みの詳細および分析を知っている可能性が高いため、ここではそれらのいずれについても詳細な説明は提示しない。これらの先行技術の試みの詳細を知らない可能性がある当業者は、上記の発明の背景で特定された文献を調査することによって、図に記載された研究を容易に検討することができる。
【0017】
図10は、HSV-1 ICP34.5遺伝子が欠失され、GluR1およびGluR2 AMPA受容体サブユニットのC末端から構成される生物学的実体物で置き換えられている、本発明の組成物を示している。
図10のaは、生物学的実体物がウイルス中でインタクトであることを示している。
図10のbおよび
図10のcは、AMPA受容体サブユニットGluR2のC末端が本発明のウイルスによって特異的に発現されることを示している。
【0018】
図11は、本発明による生物学的実体物で修飾された野生型HSV-1ウイルスを含むベクターの概略図を示し、この生物学的実体物は、野生型HSV-1ウイルスのICP34.5遺伝子を置き換える。野生型HSV-1ウイルスのICP34.5遺伝子は欠失され、野生型HSV-1ウイルスのICP34.5プロモーターによって駆動される抗腫瘍導入遺伝子を含む、
図11に従ったコンストラクトで置き換えられる。抗腫瘍導入遺伝子は、2つのAMPA受容体サブユニット干渉剤またはGluAノックダウン剤を含む。抗腫瘍導入遺伝子は、好ましくは、融合性(fusogenic)タンパク質、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体およびIL12コンストラクトをさらに含む。第1のAMPA受容体サブユニット干渉剤は、GluA1のC末端断片を含み、ニューロンシナプスおよび/またはシナプス外膜へのGluA1の輸送を防止するように設計されている。第2のGluAノックダウン剤は、ニューロンシナプスおよび/またはシナプス外膜へのGluA2の輸送を防止するように設計された、GluA2のC末端断片を含み得るか、または腫瘍細胞溶解後に隣接細胞のCPARシナプス伝達を遮断し得る、GluA1に対するN末端抗体を含み得る。
【0019】
図12は、本発明の好ましい生物学的実体物の各構成要素およびその一般的および詳細な説明を示している。
図12はまた、好ましいオプションを含む、各構成要素のバリエーションおよびオプションを示している。一般に、HSV-1ウイルスが好ましいのは、それについてより多くのことが知られており、その菌株がReplimune社のRP1-3製品で使用されているからである。RP1-3製品に使用されている菌株は、使用するのに好ましいウイルスである。上で述べたように、新規のOVは、GluA1およびGluA2というタンパク質の遺伝子ノックダウンを少なくとも含有する。第1のGluAノックダウン剤は、GluA1のC末端断片を含み、ニューロンシナプスおよび/またはシナプス外膜へのGluA1の輸送を防止するように設計されている。第2のGluAノックダウン剤は、GluA2のC末端断片を含み、ニューロンシナプスおよび/またはシナプス外膜へのGluA2の輸送を防止するように設計されている。ニューロン保護については、ICP34.5遺伝子の両コピーの欠失は、ニューロンのような終末分化した細胞でのウイルスの複製を防止するように設計されている。感染性については、HSV-1はすでに、オリゴデンドロサイトおよびそれらの前駆体を含む、GBM細胞に最も類似した神経系細胞に対する顕著な指向性を示している。GALV融合性タンパク質を組み込むと、感染性が高まる。好ましくは、2つのチェックポイント阻害剤である、抗PD-1抗体、好ましくはPD-1ブロッカーをコードする配列(Oncorus社と同様)と、抗CTLA-4抗体、好ましくはCTLA-4ブロッカーをコードする配列(Replimune社と同様)とが提供される。最後に、好ましくは、IL12サイトカインをコードする配列を組み込んだ免疫刺激剤IL12が組み込まれる。
【0020】
図14は、プレーティングしたSF-295ヒト膠芽腫細胞を、ビヒクル対照、野生型HSV-1または本発明の生物学的実体物を含有するHSV-1のベクターのいずれかで処理した効果を視覚的に示している。
【0021】
図15は、
図14の結果を棒グラフの形で示す。
図15において、「+」および「-」は、指定されたウイルスの存在または非存在を示している。
【0022】
実施例
実験に使用するヒトGluR1/2発現ウイルスの構築および検証を以下のように行った。ヒトgluR1-P2A-gluR2を発現する腫瘍溶解性HSV-1は、ICP47 HSV-1プロモーターから導入遺伝子の発現を駆動することによって構築した(
図13を参照)。Glur1/2を発現するHSV-1を構築するために、親ウイルスであるガンマ34.5二重欠失ウイルスの感染性ウイルスDNAを使用した。感染性ウイルスDNAおよびプラスミドDNA(UL26/27フランキング配列とgluR1/2およびeGFP発現導入遺伝子配列とを有する)を同時トランスフェクトしたU20S細胞のライセートを4日後に採取し、新鮮な単層に感染させ、eGFP発現を使用して組換えプラークを可視化した。10倍プラーク精製ウイルスプラークの精製ウイルスゲノムDNAからのPCRは、528bpの正しいバンドを示した。イムノブロッティングは、感染したSF-295膠芽腫細胞において発現されたgluR2タンパク質を示した。GluR-P2A-GluR2生物学的実体物全体の核酸配列は次のとおりである:
【化1】
【0023】
実験1
SF-295ヒト膠芽腫細胞を、支持培地として10%FBS添加高グルコースDMEMを使用してプレーティングした。この実験の期間は2日間であった。実験終了時、SF-295細胞は、非感染のプレーティング細胞と野生型HSV-1ウイルスに感染した細胞との両方で大幅に増殖し、両者の間の細胞代謝に事実上差がないことが視覚的に示された(
図13を参照)。一方、本発明の生物学的実体物を含有するHSV-1のベクターに感染させたプレーティング細胞は、他の2つのプレーティング細胞と比較して細胞代謝の大幅な低下を示している。これらの視覚的結果は、ICP34.5遺伝子を含有する野生型HSV-1または野生型HSV-1のICP34.5遺伝子を置き換える本発明のGluR1/2を含有するHSV-1の効果を計算することによって確認され、これらの結果を棒グラフの形で提示した(
図15を参照)。
【0024】
実験2
ヒトニューロンを、適切な培地を使用して2枚のプレートにプレーティングする。一方のプレートには野生型HSV-1ウイルスを加えてヒトニューロンを感染させ、他方のプレートには本発明の生物学的実体物を含有するHSV-1のベクターを加える。観察は、0、3、10および21日目に行う。21日間が経過した時点では、両プレートにプレーティングされたヒトニューロンの生存率の間に視覚的な差はなかった。このことは、本発明の生物学的実体物が、ヒトニューロンに対して視覚的に検出可能な悪影響を及ぼさないことを示している。
【0025】
実験3
ラット生後1日目のニューロンを適切な培地で7日間成長させる。7日目に、SF-295ヒト膠芽腫細胞を、適切な培地を使用して1:1、1:2、1:5および1:10(膠芽腫細胞:ラットニューロン)の比率でニューロンの上にプレーティングする。SF-295細胞の添加後7日目に、共培養物を、ビヒクル対照、野生型HSV-1ウイルスまたは本発明の生物学的実体物を含有するHSV-1ウイルスのいずれかで処理する。感染2日後、本発明の生物学的実体物を含有するウイルスで処理した共培養物では、野生型ウイルスで処理した共培養物と比較して、SF-295の浸潤速度および細胞代謝が有意に減少し、本発明のウイルスで処理した共培養物では、野生型ウイルスと比較して、共焦点顕微鏡で測定した樹状突起スパインの数およびサイズが有意に減少する。
【配列表】
【国際調査報告】