(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ヒアルロナンコンジュゲートの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/18 20060101AFI20240409BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240409BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20240409BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
A61K31/18
A61K47/54
A61K47/61
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568607
(86)(22)【出願日】2022-06-17
(85)【翻訳文提出日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 US2022034041
(87)【国際公開番号】W WO2022266472
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521497774
【氏名又は名称】アイホル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】AIHOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】6481 ORANGETHORPE AVENUE STE 2, BUENA PARK, CALIFORNIA 90620, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】リン,ファ‐ヤン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE59
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA11
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA28
4C206NA14
4C206ZB26
(57)【要約】
癌を治療するためのヒアルロナン(HA)コンジュゲートの使用が、本明細書で開示される。また、癌を治療するためのヒアルロナンコンジュゲートの使用も、本明細書で開示される。前記ヒアルロナンコンジュゲートは、ヒアルロン酸の単糖または1~4個の二糖単位を有するニメスリド-HAコンジュゲートである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする対象における癌の治療に使用するための医薬品の製造におけるヒアルロナンコンジュゲートの使用であって、
ここで、前記ヒアルロナンコンジュゲートが、
D-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンとの1~4個の二糖単位と、
前記二糖単位のうちの1個における前記D-グルクロン酸にそれぞれ共有結合している、1個以上の水素化ニメスリドと、を含む、ヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項2】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化1】
若しくは、その薬学的に許容可能な塩、を有する、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項3】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化2】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有する、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項4】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化3】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有し、式中、Xは1であり、かつYは0、1、2または3である、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項5】
前記対象が、ヒトである、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項6】
前記癌が、乳癌、肺癌、または結腸直腸癌である、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項7】
前記ヒアルロナンコンジュゲートの置換度が、20~100%である、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲートの使用。
【請求項8】
治療を必要とする対象における癌の治療に使用するためのヒアルロナンコンジュゲートあって、
ここで、前記ヒアルロナンコンジュゲートが、
D-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンとの1~4個の二糖単位と、
前記二糖単位のうちの1個における前記D-グルクロン酸にそれぞれ共有結合している、1個以上の水素化ニメスリドと、を含む、ヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項9】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化4】
若しくは、その薬学的に許容可能な塩、を有する、請求項8に記載のヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項10】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化5】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有する、請求項8に記載のヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項11】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化6】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有し、式中、Xは1であり、かつYは0、1、2または3である、請求項8に記載のヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項12】
前記対象が、ヒトである、請求項8に記載のヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項13】
前記癌が、乳癌、肺癌、または結腸直腸癌である、請求項8に記載のヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項14】
前記ヒアルロナンコンジュゲートの置換度が、20~100%である、請求項8に記載のヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項15】
有効量のヒアルロナンコンジュゲートおよび薬学的に許容可能な賦形剤を含む、治療を必要とする対象における癌を治療するための医薬組成物であって、
ここで、前記ヒアルロナンコンジュゲートが、
D-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンとの1~4個の二糖単位と、
前記二糖単位のうちの1個における前記D-グルクロン酸にそれぞれ共有結合している、1個以上の水素化ニメスリドと、を含む、医薬組成物。
【請求項16】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化7】
若しくは、その薬学的に許容可能な塩、を有する、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化8】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有する、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化9】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有し、式中、Xは1であり、かつYは0、1、2または3である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記対象が、ヒトである、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記癌が、乳癌、肺癌、または結腸直腸癌である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記ヒアルロナンコンジュゲートの置換度が、20~100%である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項22】
有効量のヒアルロナンコンジュゲートを対象に投与するステップを含む、治療を必要とする前記対象における癌を治療するための方法であって、
ここで、前記ヒアルロナンコンジュゲートが、
D-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンとの1~4個の二糖単位と、
前記二糖単位のうちの1個における前記D-グルクロン酸にそれぞれ共有結合している、1個以上の水素化ニメスリドと、を含む、方法。
【請求項23】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化10】
若しくは、その薬学的に許容可能な塩、を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化11】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化12】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有し、式中、Xは1であり、かつYは0、1、2または3である、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記対象が、ヒトである、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記癌が、乳癌、肺癌、または結腸直腸癌である、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記ヒアルロナンコンジュゲートの置換度が、20~100%である、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒアルロン酸のコンジュゲート(hyaluronic conjugate)に関し、より詳細には、癌を治療するためのヒアルロン酸のコンジュゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
癌は世界の主要な死因のひとつであり、2020年には約1,000万人が癌で死亡している。世界保健機関(WHO)の統計によると、2020年における最も一般的な新規癌症例の5つは、乳癌(226万人)、肺癌(221万人)、結腸・直腸癌(193万人)、前立腺癌(141万人)、および皮膚癌(非黒色腫)(120万人)である。2020年における癌による死亡の原因として最も多かったのは、肺癌(180万人死亡)、結腸・直腸癌(93万5千人死亡)、肝臓癌(83万人死亡)、胃癌(76万9千人死亡)、および乳癌(68万5千人死亡)であった。
【0003】
現在、癌の治療には、放射線療法、化学療法、手術療法、および/または免疫療法の4つの標準的な方法がある。その中でも手術と化学療法は、依然として癌治療に最もよく採用されている手段である。治療の目標を決定することは重要な最初のステップである。主な目標は一般に、癌を治癒すること、または寿命を大幅に延ばすことである。多くの場合、手術は体の他の部分に大きな損傷を与えることなく、癌を完全に取り除くことを目的として行われるが、癌は隣接する組織に浸潤したり、微細な転移によって遠隔部位に広がったりする性質があるため、その効果には限界があることが多い。化学療法は、癌細胞を破壊できる細胞毒性薬による癌の治療である。しかし、癌細胞が1種類以上の細胞毒性薬に対して耐性を獲得したり、感受性がなくなったりするため、これらの薬が癌治療に役立たないことがある。さらに、一部の癌(肺癌など)は、予後が悪いか、現在の化学療法剤に感受性がない。したがって、癌、特に薬剤耐性癌または化学療法剤非感受性癌の治療を成功させるために、他の有効な薬剤または手段を見出す試みが数多くなされてきた。
【0004】
したがって、関連技術において、癌の治療に有用である可能性のある薬剤または化合物が必要とされている。
【0005】
(概要)
以下では、読み手に基本的な理解を提供するために、本開示の簡略化した概要が示される。この概要は、本開示の広範な概要ではなく、本発明の肝要な/重要な要素を特定するものでも、本発明の範囲を明確にするものでもない。その唯一の目的は、後述するより詳細な説明の前段階として、本明細書に開示されているいくつかの概念を簡略化して提示することである。
【0006】
1つの態様では、本開示は、治療を必要とする対象における癌を治療する方法に関する。
【0007】
いくつかの実施形態では、当該方法は、有効量のヒアルロナンコンジュゲート(hyaluronan conjugate)を対象に投与するステップを含み、ここで前記ヒアルロナンコンジュゲートは、(-4GlcUAβ1-3GlcNAcβ1-)n(式中、n=1~4)のヒアルロナン部分(moiety)を含み、置換基(例えば、細胞毒性薬)は、D-グルクロン酸(4GlcUA)の1つ以上のカルボキシル基に、結合され得る。
【0008】
他のいくつかの実施形態では、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、3GlcNAcβ1-(4GlcUAβ1-3GlcNAcβ1-)nまたは(4GlcUAβ1-3GlcNAcβ1-)n-4GlcUAβ1(式中、n=1~4)のヒアルロナン部分を含み、置換基(例えば、細胞毒性薬)は、D-グルクロン酸(4GlcUA)の1つ以上のカルボキシル基に、結合され得る。
【0009】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本方法は、有効量のヒアルロナンコンジュゲートを対象に投与するステップを含み、ここで前記ヒアルロナンコンジュゲートは、2つの二糖単位のみを含み、以下の構造
【化1】
若しくは、その薬学的に許容可能な塩、を有する。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、以下の構造
【化2】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有する。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、以下の構造
【化3】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有し、式中、Xは1であり、かつYは0、1、2または3である。
【0012】
様々な実施形態において、前記対象は、ヒトを含む哺乳類である。
【0013】
本開示のいくつかの実施形態によれば、前記癌は、乳癌、肺癌、または結腸直腸癌である。例えば、肺癌は、非小細胞肺癌(例えば、扁平上皮癌、腺癌、および大細胞癌)または小細胞肺癌であり得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、静脈内注射で投与される。
【0015】
さらに別の態様において、本開示は、癌を治療するための医薬組成物に関する。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は、有効量の上記のヒアルロン酸のコンジュゲートと、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む。
【0017】
本開示の他の態様にも含まれる主題は、癌の治療に使用するための医薬品の製造におけるヒアルロン酸のコンジュゲートの使用、および癌の治療において使用するためのヒアルロン酸のコンジュゲート、を含む。
【0018】
本開示の付随的な特徴および利点の多くは、添付の図面に関連して考慮される以下の詳細な説明を参照することにより、よりよく理解されるであろう。
【0019】
本明細書は、添付の図面に照らして示される以下の詳細な説明から、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、A549細胞株に対するHAコンジュゲートの腫瘍細胞毒性を示す折れ線グラフである(
*:Nimに対してp<0.05;#:HA4に対してp<0.05)。
【
図2】
図2は、MDA-MB-231細胞株に対するHAコンジュゲートの腫瘍細胞毒性を示す折れ線グラフである(
*:Nimに対してp<0.05;#:HA4に対してp<0.05)。
【
図3】
図3は、HT-29細胞株に対するHAコンジュゲートの腫瘍細胞毒性を示す折れ線グラフである(
*:Nimに対してp<0.05;#:HA4に対してp<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(説明)
添付の図面に関連して以下に提供される詳細な説明は、本実施例の説明を意図したものであり、本実施例が構築または利用され得る唯一の形態を表すことを意図したものではない。本説明では、本実施例の役割と、本実施例を構築して実行させるためのステップの順序とを示している。しかし、同じまたは同等の役割および順序が、異なる実施例によって達成され得る。
【0022】
便宜上、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で採用されている特定の用語がここに集められている。本明細書で特に定義されていない限り、本開示で採用されている科学的および技術的な用語は、当業者が一般的に理解し、使用する意味を有するものとする。
【0023】
文脈上特に要求されない限り、単数形には同じものの複数形が含まれ、複数形には単数形が含まれることが理解される。また、本明細書および特許請求の範囲で使用されている「少なくとも1つ」および「1つ以上」という用語は、同じ意味を有し、1つ、2つ、3つ、または、それ以上を含む。さらに、本明細書および添付の特許請求の範囲を通して使用される、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」、「A、B、またはCのうちの少なくとも1つ」、および「A、Bおよび/またはCのうちの少なくとも1つ」という表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBを一緒に、BとCを一緒に、AとCを一緒に、ならびにA、B、およびCを一緒にカバーすることを意図している。
【0024】
本発明の広範な範囲を示す数値範囲やパラメータは近似値であるにもかかわらず、具体的な実施例に記載された数値は、可能な限り正確に報告される。しかし、いずれかの数値にも、それぞれの試験測定で見出される標準偏差に起因する一定の誤差が含まれている。また、本明細書では、「約」という用語は、一般に、所定の値または範囲の10%、5%、1%、または0.5%以内を意味する。また、「約」という用語は、当業者が考える場合の平均値の許容可能な標準誤差の範囲内を意味する。実行/実施例以外では、または別途明示して示されない限り、本明細書で開示されている材料の量、時間の長さ、温度、作動条件、量の割合などのためのすべての数値範囲、量、値、およびパーセントは、すべての例で「約」という用語によって変更されていると理解されるものとする。したがって、特にそれとは反対の指示がない限り、本開示および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、所望に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、各数値パラメータは、少なくとも、報告される有効桁数の数を踏まえて、および通常の丸め技法を適用することによって、少なくとも解釈されるものとする。範囲は、1つの終点からもう1つの終点までまたは2つの終点間として本明細書で示され得る。本明細書で開示される全ての範囲は、別途指定しない限り終点を含む。
【0025】
本明細書で使用される「治療」および「治療する」という用語は、予防に寄与する(例えば、予防的)、治癒的または緩和的な措置を指してもよい。特に、本明細書で使用される「治療する」という用語は、本ヒアルロナンコンジュゲートまたはこれを含む医薬組成物を、病状、病状に関連する症状、病状に続発する疾患もしくは障害、または、病状に対する素因、を有する対象に適用または投与することを指し、その目的は、前記特定の疾患、障害および/または状態のうちの1つ以上の症状または特徴を部分的にまたは全体的に緩和する、改善する、軽減する、発症を遅延させる、進行を阻害する、重症度を低減する、および/または、発病率を低減することである。疾患、障害および/または状態の兆候を示さない対象、および/または、疾患、障害および/または状態の早期の兆候のみを示す対象に、治療を施してもよく、その目的は、疾患、障害および/または状態に関連する病変を発症するリスクを減少させることである。
【0026】
用語「対象」および「患者」は、本明細書では互いに互換可能に使用され、本明細書に記載されたヒアルロナンコンジュゲート、これを含有する医薬組成物、および/または本発明の方法により治療可能なヒト種を含む動物を意味することを意図する。用語「対象」または「患者」は、本開示から恩恵を受ける可能性のある任意の哺乳類を含む。本明細書で使用される「哺乳類」は、ヒト、霊長類、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシなどの家畜および農場動物、ならびに動物園動物、スポーツ動物、またはペット動物、ならびにマウス、およびラットなどのげっ歯類を含む哺乳綱の全てのメンバーを指す。用語「非ヒト哺乳類」は、ヒトを除く哺乳綱の全てのメンバーを指す。1つの例示的な実施形態において、患者はヒトである。用語「対象」または「患者」は、1つの性別を具体的に示さない限り、男性および女性の両方を指すことを意図する。
【0027】
用語「適用」および「投与」は、本明細書では互いに互換可能に使用され、本発明のヒアルロナンコンジュゲートまたは医薬組成物を、治療を必要とする対象に適用することを意味する。
【0028】
本明細書で使用される用語「有効量」は、所望の治療効果を生じさせるのに十分な本発明のヒアルロナンコンジュゲートの量を指す。有効量の薬物は、疾患または状態を治癒するのには要求されないが、疾患もしくは状態の発症を遅延させる、妨害する、もしくは予防する、または疾患もしくは状態の症状を改善するなど、疾患または状態のための治療を提供する。有効量を、指定された期間を通して1回、2回、または、それ以上の回数で、投与するのに適した形態で1回量、2回量または、それ以上の用量に分割してもよい。具体的な有効量または十分量は、治療する特定の状態、患者の身体状態(例えば、患者の体重、年齢もしくは性別)、治療する哺乳類または動物の種類、治療の期間、併用療法(もしあれば)の特性、ならびに、使用する特定の剤形および化合物またはその誘導体の構造などの要因によって異なる。有効量は、例えば、ヒアルロナンコンジュゲートの総質量またはヒアルロナンコンジュゲートにおける4-アミノニメスリド(aminonimesulide)の等価質量(例えば、グラム、ミリグラムもしくはマイクログラム単位)、またはヒアルロナンコンジュゲートの質量またはヒアルロナンコンジュゲートにおける4-アミノニメスリドの等価質量の、体重に対する比、例えば、ミリグラム/キログラム(mg/kg)として表示してもよい。
【0029】
また、以下に提供される実施例によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは静脈内注射によって投与されるが、これは本発明がどのように実施され得るかについての例示に過ぎず、本開示はこれに限定されない。
【0030】
例えば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、薬学的に許容可能な賦形剤と共に、所望の投与様式に適した医薬組成物に製剤化され得る。ここに開示され、特許請求されている発明の概念に従って調製された特定の医薬組成物は、患者への経口、粘膜(例えば、鼻腔内、舌下、膣内、口腔内、または直腸)、非経口(例えば、皮下、静脈内、ボーラス注射、筋肉内、または動脈内)、硝子体内、または経皮投与に適した単一単位剤形である。剤形の例としては、錠剤;カプレット;軟質ゼラチンカプセルのようなカプセル;カシェー剤;トローチ;ロゼンジ;分散剤;坐剤;軟膏;パップ剤(湿布);ペースト;粉末;ドレッシング;クリーム;膏薬;溶液;パッチ;エアロゾル(例:鼻腔スプレーまたは吸入器);ゲル;懸濁液(例:水性または非水性液体懸濁液、水中油型エマルジョン、または油中水型液体エマルジョン)、溶液、エリキシル剤などの患者への経口投与または粘膜投与に適した液体剤形;および患者への非経口投与に適した液体剤形を提供するために再構成することができる無菌固体(例えば、結晶性または非晶質固体)が挙げられるが、これらに限定されない。理解され得るように、これらの医薬組成物も本開示の範囲内である。
【0031】
本明細書で使用される「薬学的に許容可能な賦形剤」という用語は、1つの臓器または身体の一部から別の臓器または身体の一部へなどの、対象薬剤の運搬または輸送に関与する、液体または固体の充填剤、希釈剤、担体、溶媒、カプセル化材料などの薬学的に許容可能な材料、組成物、またはビヒクルを意味する。各賦形剤は、製剤の他の成分と適合性があるという意味で「許容可能」でなければならない。医薬製剤は、本発明の化合物を、1つ以上の薬学的に許容可能な成分と組み合わせて含む。前記賦形剤は、固体、半固体または液体の希釈剤、クリームまたはカプセルの形態であり得る。これらの医薬製剤は、本発明のさらなる目的である。通常、活性化合物の量は、前記製剤の0.1~95重量%、非経口用製剤では好ましくは0.2~20重量%、経口投与用調製物では好ましくは1~50重量%である。本発明の方法の臨床使用のために、本発明の医薬組成物は、意図された投与経路に適した製剤に製剤化される。
【0032】
本明細書で使用する「ヒアルロン酸」(HA)(ヒアルロネートまたはヒアルロナンとも称される)という用語は、少なくとも1つの二糖単位、具体的にはD-グルクロン酸とN-アセチル-D-グルコサミンとからなるアニオン性の非硫酸化グリコサミノグリカン(-4GlcUAβ1-3GlcNAcβ1-)である。本開示のいくつかの実施形態では、前記HAは、2つの二糖単位(すなわち、HA四糖)を含む。「HA誘導体」という用語は、HAの1つ以上の二糖単位のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミド基、またはアセチルアミノ基に任意の修飾を有するHAを指す。本開示の特定の実施形態によれば、前記HAコンジュゲートは、金属塩、好ましくはアルカリ金属塩、より好ましくはナトリウム塩またはカリウム塩の形態である。
【0033】
本開示の特定の実施形態によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、(-4GlcUAβ1-3GlcNAcβ1-)n(式中、n=1~4)のヒアルロナン部分を含み、置換基(すなわち細胞毒性薬)は、D-グルクロン酸(4GlcUA)の1つ以上のカルボキシル基に、結合され得る。例えば、前記細胞毒性薬は、水素化ニメスリドである。
【0034】
他のいくつかの実施形態では、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、3GlcNAcβ1-(4GlcUAβ1-3GlcNAcβ1-)nまたは(4GlcUAβ1-3GlcNAcβ1-)n-4GlcUAβ1(式中、n=1~4)のヒアルロナン部分を含み、置換基(例えば、細胞毒性薬)は、D-グルクロン酸(4GlcUA)の1つ以上のカルボキシル基に、結合され得る。例えば、前記細胞毒性薬は、水素化ニメスリドである。
【0035】
具体的に、特定の実施形態によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、2つの二糖単位のみを含み、以下の構造
【化4】
若しくは、その薬学的に許容可能な塩、を有する。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、以下の構造
【化5】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有する。
【0037】
いくつかの実施形態では、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、以下の構造
【化6】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有し、式中、Xは1であり、かつYは0、1、2または3である。
【0038】
理解され得るように、前記ヒアルロナン部分が1つを超えるカルボキシル基を有する場合、前記HAコンジュゲートの「置換度(DS)」(すなわち、HA部分のカルボキシル基あたりに結合している置換基(すなわち、水素化ニメスリド)の比率)は20~100%であり得る。具体的には、(-4GlcUAβ1-3GlcNAcβ1-)4のヒアルロナン部分を有するHAコンジュゲートでは、前記HAコンジュゲートが1、2、3、または4個の置換基を有する場合、前記DSは、それぞれ25、50、75、または100%となる。別の例において、(4GlcUAβ1-3GlcNAcβ1-)4-4GlcUAβ1のヒアルロナン部分を有するHAコンジュゲートでは、前記HAコンジュゲートが1、2、3、4、または5個の置換基を有する場合、前記DSは、それぞれ20、40、60、80、または100%となる。
【0039】
本開示は、少なくとも部分的に、ニメスリド-HA四糖コンジュゲート(NIM-Tetra)が、ニメスリド単独または他のニメスリド-HAコンジュゲートと比較して、特定の癌細胞株に対して予想外に優れた腫瘍細胞毒性を示すという知見に基づいている。
【0040】
以上の観点から、本開示は、癌、特に乳癌、肺癌、および結腸直腸癌を治療するための方法を提案する。また、本明細書では、癌の治療における前記ヒアルロナンコンジュゲートの使用、および前記治療目的のための医薬品の製造におけるその使用も、記載される。前記医薬品(すなわち、前記ヒアルロナンコンジュゲートを含む医薬組成物)は、もちろん本出願の範囲に含まれる主題である。
【0041】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明するため、および本発明を実施する当業者に役立つように提供される。これらの実施例は、いかなる方法であっても本発明の範囲を限定するとは決して見なされない。更なる詳細無しで、当業者は、本明細書の記載に基づき最大限に本発明を利用できるとされる。
【実施例】
【0042】
実施例1
【0043】
NIM-HAコンジュゲートの合成および特性評価
【0044】
(1)水素化ニメスリド(H-NIM)の調製
【0045】
水素化ニメスリド(N-(4-アミノ-2-フェノキシフェニル)メタンスルホンアミド、または4-アミノニメスリド)を、市販のニメスリド(N-(4-ニトロ-2-フェノキシフェニル)メタンスルホンアミド)から合成した。簡単に説明すると、ニメスリド500mgを酢酸エチル20mlに完全に溶解させ、次いで、その溶液に触媒として5%Pd/C(パラジウム炭素)を200mg添加した。攪拌を続けながら瓶から空気を抜き、1気圧までの水素ガスで空気を置換し、次いで24時間攪拌して水素化ニメスリド(H-NIM)を得た。
【0046】
H-NIMの純度は、シリカゲル60F254でプレコートしたTLCプレート上で、254nmの紫外線照射下、薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて測定した。移動相:ヘキサン:酢酸エチル=2:1であった。
【0047】
Pd/C触媒を濾過により除去し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、残留溶媒を除去した。次いで、この水素化生成物をヘキサン-酢酸エチル(1:1)溶液に溶解し、シリカゲルカラムでさらに精製した。このカラムを溶出液(ヘキサン-酢酸エチル=1:1)で溶出した。発色した画分を回収し、凍結乾燥した。得られた生成物の濃度および構造を、それぞれUVおよびNMRを使用して確認した。
【0048】
(2)NIM-HA四糖コンジュゲートの合成
【0049】
D-グルクロン酸およびN-アセチルグルコサミンの2つの二糖単位を有するHA四糖(HA4)を4-アミノニメスリド(水素化ニメスリド、H-NIM)と反応させ、NIM-HA四糖コンジュゲート(NIM-Tetra)を得た。簡単に説明すると、50mgのHA4(0.06437mmol)を3mLのDDWに溶解した。次いで、5mLのDMSOをHA4溶液に加えた。9.1mgのOxyma(0.06437mmol)を0.5mLのDMSOに溶解し、6分間攪拌下でHA4溶液に添加した。次いで、17.9mgのH-NIM(0.07081mmol)を0.5mLのDMSOに溶解し、HA4溶液に添加した。14μLのDIC(0.09656mmol)を0.5mLのDMSOに1分間攪拌下に溶解し、HA4溶液に加えた。最終反応混合物を室温で48時間撹拌し、得られた溶液を3日間凍結乾燥し、Insertsil ODS-3カラムを用いた分取HPLC(Waters600)によって、分離精製した。こうして合成されたNIM-Tetraは、以下の構造
【化7】
を有している。
【0050】
(3)NIM-HA二糖コンジュゲートの合成
【0051】
D-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンとの二糖単位を1つ有するHA二糖を、4-アミノニメスリド(水素化ニメスリド、H-NIM)と反応させ、以下の構造
【化8】
を有するNIM-HA二糖(NIM-Di)コンジュゲートを得た。
【0052】
(4)NIM-HA単糖コンジュゲートの合成
【0053】
簡単に説明すると、グルクロン酸(194.14Da)を、4-アミノニメスリド(水素化ニメスリド、H-NIM)と反応させて、以下の構造
【化9】
を有するNIM-HA単糖(454.4Da)(NIM-Mono)コンジュゲートを得た。
【0054】
実施例2
【0055】
MDA-MB-231細胞に対するNIM-HAコンジュゲートの腫瘍細胞毒性
【0056】
この実施例では、MDA-MB-231細胞(ヒト乳癌細胞株)を用いて、様々なNIM-HAコンジュゲートの腫瘍細胞毒性を評価した。
【0057】
100μLのL-15培地中のMDA-MB-231細胞を、96ウェルプレートに1ウェルあたり5×103の密度で播種し、一晩インキュベートした。翌日、培地を廃棄し、0~150μMのニメスリド(NIM)、NIM-Tetra、HA四糖、またはNIM-HA二糖(NIM-Di)コンジュゲートを含む新しい培地(最終DMSO濃度:0.8%)と交換し、プレートを24時間インキュベートした。次いで、培地を廃棄し、10%MTT溶液(MTTストック:5mg/mL)を含む100μL培地を加え、プレートを、37℃、暗所で4時間インキュベートした。その後、培地を注意深く廃棄し、200μLのDMSOを加え、プレートを10分間振とうした後、570nmでプレートを読み取った。
【0058】
図1に要約したように、結果により、ニメスリド単独、HA四糖単独、またはNIM-HA二糖(NIM-Di)コンジュゲートと比較して、NIM-Tetraが、MDA-MB-231細胞に対して有意に優れた腫瘍細胞毒性を示すことがわかる。NIM-HA二糖(NIM-Di)も、Nimと同等の腫瘍細胞毒性活性を示した。
【0059】
実施例3
【0060】
A549細胞に対するNIM-HAコンジュゲートの腫瘍細胞毒性
【0061】
この実施例では、A549細胞(ヒト肺癌細胞株)を用いて、様々なNIM-HAコンジュゲートの腫瘍細胞毒性を評価した。
【0062】
100μLのF-12K培地中のA549細胞を、96ウェルプレートに、1ウェルあたり3×103の密度で播種し、一晩インキュベートした。翌日、培地を廃棄し、0~150μMのニメスリド、NIM-Tetra、HA四糖、またはNIM-HA二糖(NIM-Di)コンジュゲートを含む新しい培地(最終DMSO濃度:0.8%)と交換し、プレートを24時間インキュベートした。その後、培地を廃棄し、10%MTT溶液(MTTストック:5mg/mL)を含む100μL培地を加え、プレートを37℃、暗所で4時間インキュベートした。その後、培地を注意深く廃棄し、200μLのDMSOを加え、プレートを10分間振とうした後、570nmでプレートを読み取った。
【0063】
図2に要約したように、結果により、ニメスリド単独またはHA四糖単独と比較して、NIM-TetraおよびNIM-HA二糖(NIM-Di)コンジュゲートはいずれもA549細胞に対して有意に優れた腫瘍細胞毒性を示すことがわかる。NIM-HA単糖(NIM-Mono)も、NIMと同等の腫瘍細胞毒性活性を示した。NIM-HA二糖(NIM-Di)も、ニメスリドより優れた腫瘍細胞毒性活性を示した。
【0064】
実施例4
【0065】
HT-29細胞に対するNIM-HAコンジュゲートの腫瘍細胞毒性
【0066】
この実施例では、HT-29細胞(ヒト結腸直腸癌細胞株)を用いて、様々なNIM-HAコンジュゲートの腫瘍細胞毒性を評価した。
【0067】
100μLのMyCoy’s-5培地中のHT-29細胞を、96ウェルプレートに、1ウェルあたり3×103の密度で播種し、一晩インキュベートした。翌日、培地を廃棄し、0~150μMのニメスリド(NIM)、NIM-Tetra、またはHA四糖を含む新しい培地(最終DMSO濃度:0.8%)と交換し、プレートを24時間インキュベートした。その後、培地を廃棄し、10%MTT溶液(MTTストック:5mg/mL)を含む100μL培地を加え、プレートを37℃、暗所で4時間インキュベートした。次いで、培地を注意深く廃棄し、200μLのDMSOを加え、プレートを10分間振とうした後、570nmでプレートを読み取った。
【0068】
図3に要約したように、結果により、ニメスリド単独またはHA四糖単独と比較して、NIM-Tetraが、HT-29細胞に対して有意に優れた腫瘍細胞毒性を示すことがわかる。
【0069】
要約すると、本開示の実施例2~実施例4で提供される結果は、本発明のNIM-Tetraコンジュゲートが、乳癌、肺癌、および結腸直腸癌などのいくつかの癌に対して所望の腫瘍細胞毒性を示すことを示している。NIM-HA二糖(NIM-Di)は、乳癌、肺癌、および結腸直腸癌などのいくつかの癌において所望の細胞毒性を示す。
【0070】
上記した実施形態の記載は例示としてのみ行われ、様々な改変が当業者により行われ得ることが理解されるであろう。上記した明細書、実施例およびデータは、本発明の例示的実施形態の構造および使用の完全な説明を提供する。本発明の様々な実施形態を、ある程度の特殊性によりまたは1つ以上の個別の実施形態に関して記載したが、本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、当業者は、開示された実施形態に対して多数の変更を行うことができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のヒアルロナンコンジュゲートおよび薬学的に許容可能な賦形剤を含む、治療を必要とする対象における癌を治療するための医薬組成物であって、
ここで、前記ヒアルロナンコンジュゲートが、
D-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンとの1~4個の二糖単位と、
前記二糖単位のうちの1個における前記D-グルクロン酸にそれぞれ共有結合している、1個以上の水素化ニメスリドと、を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化1】
若しくは、その薬学的に許容可能な塩、を有する、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化2】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有する、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、以下の構造
【化3】
または、その薬学的に許容可能な塩、を有し、式中、Xは1であり、かつYは0、1、2または3である、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記対象が、ヒトである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記癌が、乳癌、肺癌、または結腸直腸癌である、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ヒアルロナンコンジュゲートの置換度が、20~100%である、請求項
1に記載の医薬組成物。
【国際調査報告】