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特表2024-516746マイコバクテリウム・アブセッサス・コンプレックス菌株の亜種分別およびマクロライド耐性の決定のための遺伝子型アッセイ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】マイコバクテリウム・アブセッサス・コンプレックス菌株の亜種分別およびマクロライド耐性の決定のための遺伝子型アッセイ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/689 20180101AFI20240409BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240409BHJP
   C12Q 1/6858 20180101ALI20240409BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6858 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568609
(86)(22)【出願日】2022-05-09
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 US2022028321
(87)【国際公開番号】W WO2022236166
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】63/185,678
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522352823
【氏名又は名称】ハッケンサック・メリディアン・ヘルス,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】HACKENSACK MERIDIAN HEALTH, INC.
(71)【出願人】
【識別番号】306010244
【氏名又は名称】ラトガーズ、ザ ステイト ユニバーシティ オブ ニュージャージー
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】クライスワース,バリー,エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】マラス,サルヴァトーレ,エイ.イー.
(72)【発明者】
【氏名】チェン,リャン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA06
4B063QA17
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
マイコバクテリウム・アブセッサスの亜種への分割のための堅牢かつ迅速な検出アッセイが提供される。アッセイは、M.アブセッサスの3種類の亜種、すなわち、M.アブセッサス亜種アブセッサス、M.アブセッサス亜種マシリエンセ、およびM.アブセッサス亜種ボレティイが検出されることを可能にする。亜種を検出し、かつまたどの菌株がマクロライド感受性であるかをも決定するために、分子ビーコンプローブおよびプライマーが開発された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッセイを準備するステップ;
マイコバクテリウム・アブセッサスの菌種または亜種を決定するための分子ビーコンプローブをアッセイ中に含めるステップ;
突然変異を検出するためのプライマーをアッセイ中に含めるステップ;
アッセイ上でリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行うステップ;ならびに
マイコバクテリウム・アブセッサスの菌種および突然変異に関してアッセイを分析するステップ
を含む、マイコバクテリウム・アブセッサスの異なる菌種を検出し、かつ突然変異を検出するための方法。
【請求項2】
アッセイが二試験管アッセイである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アッセイが八試験管アッセイである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
分子ビーコンプローブが、配列番号3、6、7、およびそれらのいずれかの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
M.アブセッサスの亜種をヒトおよび動物において検出するステップ、ならびにマクロライドに対して感受性である菌株を決定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
亜種がアブセッサス、マシリエンセ、ボレティイ、およびそれらのいずれかの組合せを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
プライマーが、
配列番号1、4、8、11、14、およびそれらのいずれかの組合せからなるフォワードプライマー;ならびに
配列番号2、5、9、12、15、およびそれらのいずれかの組合せのリバースプライマー
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
分子ビーコンが、配列番号3、6、7、10、13、16、およびそれらのいずれかの組合せからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
フォワードプライマー配列番号14、およびリバースプライマー配列番号15、および分子ビーコン配列番号16を用いることにより、erm(41)T28C突然変異を検出するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
フォワードプライマー配列番号11、およびリバースプライマー配列番号12、および分子ビーコン配列番号13を用いることにより、erm(41)Δ突然変異を検出するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
フォワードプライマー配列番号8、およびリバースプライマー配列番号9、および分子ビーコン配列番号10を用いることにより、23S rrlの野生型を検出するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
配列番号1、4、8、11、14、およびそれらのいずれかの組合せからなる群より選択されるフォワードプライマー;
配列番号2、5、9、12,15、およびそれらのいずれかの組合せからなる群より選択されるリバースプライマー;
配列番号3、6、7、10、13、および16~29、ならびにそれらのいずれかの組合せからなる群より選択される、M.アブセッサス亜種アブセッサス;M.アブセッサス亜種マシリエンセ;およびM.アブセッサス亜種ボレティイを検出するための少なくとも3種の分子ビーコンプローブ
を含み、
マクロライドに対して感受性な菌株を決定するためのM.アブセッサスの亜種および突然変異を検出する、
マイコバクテリウム・アブセッサスの異なる菌種を検出し、かつ突然変異を検出するためのアッセイ。
【請求項13】
M.アブセッサス亜種アブセッサスを検出するための分子ビーコンプローブが配列番号6、17、および20である、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項14】
M.アブセッサス亜種マシリエンセを検出するための分子ビーコンプローブが配列番号7、19、および22である、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項15】
M.アブセッサス亜種ボレティイを検出するための分子ビーコンプローブが配列番号3、18、および21である、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項16】
23S rrl突然変異を検出するための分子ビーコンプローブが配列番号10を含み、かつフォワードプライマーが配列番号8であり、かつリバースプライマーが配列番号9である、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項17】
erm(41)Δ突然変異を検出するための分子ビーコンプローブが配列番号13、28、および29を含み;かつフォワードプライマーが配列番号11であり、かつリバースプライマーが配列番号12である、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項18】
erm(41)T28C突然変異を検出するための分子ビーコンプローブが配列番号16、26、および27を含み;かつフォワードプライマーが配列番号14であり、かつリバースプライマーが配列番号15である、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項19】
23S rrl 2058-2059突然変異を検出するための分子ビーコンプローブが配列番号23、24、および25を含む、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項20】
配列番号1により表されるMAB2248に対するフォワードプライマー;
配列番号2により表されるMAB2248に対するリバースプライマー;
配列番号3により表されるM.アブセッサス亜種ボレティイを検出するための分子ビーコンプローブ;
配列番号4により表されるMAB2830に対するフォワードプライマー;
配列番号5により表されるMAB2830に対するリバースプライマー;
配列番号6により表されるM.アブセッサス亜種アブセッサスを検出するための分子ビーコンプローブ;
配列番号7により表されるM.アブセッサス亜種マシリエンセを検出するための分子ビーコンプローブ;
配列番号8により表される23S rrlの野生型に対するフォワードプライマー;
配列番号9により表される23S rrlの野生型に対するリバースプライマー;
配列番号10により表される23S rrlの野生型を検出するための分子ビーコンプローブ;
配列番号11により表されるerm(41)Δ突然変異に対するフォワードプライマー;
配列番号12により表されるerm(41)Δ突然変異に対するリバースプライマー;
配列番号13により表されるerm(41)Δ突然変異に対する分子ビーコンプローブ;
配列番号14により表されるerm(41)T28C突然変異に対するフォワードプライマー;
配列番号15により表されるerm(41)T28C突然変異に対するリバースプライマー;および
配列番号16により表されるerm(41)T28C突然変異を検出するための分子ビーコンプローブ
を含む、マイコバクテリウム・アブセッサスの異なる菌種を検出し、かつ突然変異を検出するためのアッセイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願に対する相互参照]
本出願は、2021年5月7日出願の米国仮特許出願第63/185,678号の出願日の利益を主張し、その開示は参照により本明細書の一部をなすものとする。
【0002】
本出願は、マイコバクテリウム・アブセッサス(Mycobacterium abscessus)(M.アブセッサスまたはMAB)を、3種類の亜種:アブセッサス、マシリエンセおよびボレティイへと亜種分別(subspeciate)することができる遺伝子型決定アッセイに関する。特に、遺伝子型決定アッセイは、M.アブセッサスの亜種を区別し、かつ、どの菌株がマクロライドに対して感受性であり得るかを決定する、堅牢な迅速かつ高度に正確な方法を確立するための、分子ビーコンプローブを用いるリアルタイム複合アッセイを含む。
【背景技術】
【0003】
マイコバクテリウム・アブセッサスは、亜種アブセッサス、マシリエンセ、およびボレティイを包含する、迅速に増殖する非結核性抗酸菌種である。M.アブセッサスは、汚染した設備および病院内給水源からもたらされる皮膚および軟組織感染症に関連付けられてきたが、より最近には、免疫能力のある患者および免疫不全の患者の両方において生命を脅かす慢性肺病原体として浮上してきた。例えば、M.アブセッサスは、嚢胞性線維症(CF)を有するヒトにおける慢性肺感染症の重大な原因となっている。治療は、抗結核薬をはじめとする抗生物質に対するそれらの内因性の抵抗性により複雑になる。erm(41)遺伝子および23S rrl遺伝子中の突然変異の結果として、マクロライドであるクラリスロマイシンまたはアジスロマイシンを用いてM.アブセッサス感染症を上首尾に治療できないことは、患者転帰に劇的に影響を及ぼしており、クラリスロマイシン耐性M.アブセッサスに対しては、治癒率は25~40%に低下する。
【0004】
骨髄移植患者および固形臓器移植を受けた患者、ならびに嚢胞性線維症患者などの基礎肺疾患を有する患者をはじめとする高リスク免疫不全患者集団の数の増加の結果として、M.アブセッサス慢性感染の増加および患者治療を改善する切迫した臨床上の必要性がある。マクロライド抗生物質は、依然として、感受性M.アブセッサス株に対する抗生物質の最も有効なクラスのうちの1つである。しかし、標準的な微生物検査室は、典型的には、M.アブセッサスの亜種分別に関して限定された診断ツールを有し、かつマクロライド耐性に関する検査は多くの場合に行われない。さらに、M.アブセッサスは、増殖の遅い環境性細菌であり、サンプルからの病原体の培養には3~4週間かかる場合がある。感受性検査をさらに行うとすれば、結果には培養からさらに1ヵ月を要するであろう。つまり、このことは、適切な抗細菌治療の提供において2ヵ月間の経過を生じる。
【0005】
当技術分野で理解される通り、M.アブセッサスの亜種分別および遺伝子型耐性は、ほぼすべてのM.アブセッサス亜種マシリエンセ株がクラリスロマイシンに対する感受性をもたらすerm(41)遺伝子中に2箇所の欠失(一方は2bpであり他方は274bp、塩基64~65および159~432)を有するという重要な知見をはじめとして、マクロライドに関連付けられる。同様に、クラリスロマイシン感受性と相関するerm(41)遺伝子のコドン28におけるTからCへの単一塩基変化を有するM.アブセッサス亜種アブセッサスの臨床分離株がある。
【0006】
M.アブセッサスを亜種分別し、かつマクロライド耐性をジェノタイピングするための迅速かつ単純なアッセイを開発する診断上の課題は、様々な亜種および薬物感受性遺伝子標的を配列決定する必要性が中心になる。rpoB、hsp65、およびsecA1における遺伝子変化をはじめとする多数の例が、比較的高い精度を伴ってM.アブセッサスを亜種分別するために用いられてきたが、それぞれの場合において、アッセイは、PCR増幅およびそれに続くDNA配列決定を必要とする。同じ問題が、M.アブセッサス亜種アブセッサスおよびM.アブセッサス亜種マシリエンセにおけるマクロライド感受性に関連付けられる23S rrl遺伝子中の耐性突然変異およびerm(41)遺伝子変化を規定することに当てはまる。ゲル電気泳動を必要とするPCRアプローチが開発されてきたが、これらの研究技術は多大な労力を要し、結果の解釈が主観的であり、かつ慣用の臨床的微生物学検査室に適していない。
【0007】
加えて、マルチプレックスPCRに基づく標的次世代配列決定およびCas12a/sgRNAに基づく核酸検出プラットフォームが、M.アブセッサス亜種分別に関して近年開発された。M.アブセッサス亜種およびマクロライド耐性を区別するラインプローブGenoType NTM-DRアッセイなどの商業的な核酸増幅試験もまた利用可能である。しかしながら、これらのすべてのアプローチはまた、単離された培養物を用いるPCR後の手順も含み、これはより長いターンアラウンド時間を要する。高レベルの遺伝子近縁性に起因して、単一遺伝子配列に基づいてM.アブセッサスから菌株を区別することは困難である。
【0008】
ここでまた、M.アブセッサスは最も頻繁に単離される非結核性抗酸菌(NTM)のうちの1つであり、ヒト、特に嚢胞性線維症を有する患者において皮膚および肺の重症疾患を引き起こす。獣医学でのM.アブセッサス感染症は、感染性疾患参考文献において言及され、M.アブセッサス皮膚感染症の数件の報告された症例のみが現在までに、すなわち欧州で公開され、米国からのネコおよびイヌでのマイコバクテリウム・ケロネー(Mycobacterium chelonae)-アブセッサス集団感染の数件の症例があり、含まれる菌種は特性決定されなかった。菌種および亜種レベルでの適切な特定が、ふさわしい治療のために必要とされる。最新の症例は、コンパニオンアニマルでのマイコバクテリウム感染の治療における困難性および制約を実証し、かつその所有者に対する潜在的な健康リスクを強調する。
【0009】
したがって、単一の迅速アッセイを用いてM.アブセッサスの亜種の診断を改善し、かつ薬物感受性遺伝子標的を決定するために、マクロライド耐性を遺伝子型決定する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0010】
上記の先行する試みと比較して、本明細書中に開示されるアッセイおよび方法は、当技術分野の現状の課題を解決し、上記の要求を満たし、かつさらに多くの利益を提供する。配列番号1により表されるMAB2248に対するフォワードプライマー;配列番号2により表されるMAB2248に対するリバースプライマー;配列番号3により表されるM.アブセッサス亜種ボレティイを検出するための分子ビーコンプローブ;配列番号4により表されるMAB2830に対するフォワードプライマー;配列番号5により表されるMAB2830に対するリバースプライマーを含む、マイコバクテリウム・アブセッサスの異なる菌種を検出し、かつ突然変異を検出するためのアッセイが開示される。
【0011】
アッセイはまた、配列番号6により表されるM.アブセッサス亜種アブセッサスを検出するための分子ビーコンプローブ;配列番号7により表されるM.アブセッサス亜種マシリエンセを検出するための分子ビーコンプローブ;配列番号8により表される23S rrlに対するフォワードプライマー;配列番号9により表される23S rrlに対するリバースプライマーも含む。アッセイは、配列番号10により表される23S rrlの野生型を検出するための分子ビーコンプローブ;配列番号11により表されるerm(41)Δに対するフォワードプライマー;配列番号12により表されるerm(41)Δに対するリバースプライマー;配列番号13により表されるerm(41)Δに対する分子ビーコンプローブ;配列番号14により表されるerm(41)T28Cに対するフォワードプライマー;配列番号15により表されるerm(41)T28Cに対するリバースプライマー;および配列番号16により表されるerm(41)T28Cに対する分子ビーコンプローブをさらに含む。
【0012】
アッセイを準備するステップ、マイコバクテリウム・アブセッサスの菌種を決定するための分子ビーコンプローブをアッセイ中に含めるステップ、突然変異を検出するためのプライマーをアッセイ中に含めるステップ、アッセイ上でリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行うステップ、ならびにマイコバクテリウム・アブセッサスの菌種および突然変異に関してアッセイを分析するステップを含む、マイコバクテリウム・アブセッサスの異なる菌種を検出し、かつ突然変異を検出するための方法。
【0013】
M.アブセッサスは、ヒトおよび動物の両方において肺疾患、ならびに他の疾患を引き起こす、最も一般的な高速で増殖するマイコバクテリウムである。その様々な亜種であるアブセッサス、マシリエンセ、およびボレティイへのM.アブセッサスの分類は、M.アブセッサスにおけるマクロライド耐性を担うerm(41)遺伝子の発見によっており、M.アブセッサスは臨床的に有用である。マクロライド感受性は、M.アブセッサスの上首尾の治療に対して重要である。M.アブセッサスの乏しい転帰および根絶は、マクロライド耐性である分離株では、ヒトおよび動物の両方において診断的なおよび治療の両方の課題であり続けている。本発明の遺伝子型アッセイおよび方法は、とりわけ、ヒトおよび動物の両方における疾患進行の予測を可能にする。
【0014】
上記の利点は、本発明により満たされる。加えて、本発明の上記およびまた他の目的ならびに利点は、以下に示される図面の簡単な説明、詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。これらの特徴および他の特徴が、以下の図面および詳細な説明において説明されかつ示される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A-1F】本出願のアッセイにおいて用いられる6種類の分子ビーコンプローブの変性プロファイル分析を示す図である。
図2A-2B】アッセイIおよびIIの二試験管リアルタイムPCRアッセイ結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
用語「アッセイ」とは、目的の特定の核酸の存在または非存在を検出するための標準化された手順を意味し、かつ遺伝子型決定アッセイである。用語「菌種」とは、M.アブセッサスの亜種を意味する。
【0017】
本出願のアッセイおよび方法は、リアルタイム転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイである。アッセイは、M.アブセッサスを3種類の菌種へと亜種分別させることができる新規遺伝子型決定アッセイである。3種類の菌種はアブセッサス、マシリエンセおよびボレティイ(bolletti)を含むことができる。アッセイは、マクロライド治療に対する菌株感受性を予測するために特異的突然変異の存在をさらに決定することができる。本出願のアッセイは、約2~3時間以内に結果を提供することができる。したがって、本出願のアッセイは、M.アブセッサスの亜種の検出を促進するための、およびマクロライド治療に対する感受性を予測するために突然変異を特定する、迅速かつ堅牢なツールとして機能するために理想的である。
【0018】
一実施形態では、アッセイは、分子ビーコンプローブを含む、二試験管の三種蛍光タグ付け複合遺伝子型決定アッセイであり得る。別の実施形態では、アッセイは、分子ビーコンプローブを含む、八試験管の三種蛍光タグ付け複合遺伝子型決定アッセイであり得る。分子ビーコンプローブは、2種類の遺伝子MAB2248およびMAB2830に対して固有である配列標的を特定するために設計される。特に、分子ビーコンプローブは、系統発生的にマイニングされ得る。特定される亜種特異的領域は、インシリコおよび実験的アッセイ中での両方で、100%の感度および特異度を提供する。
【0019】
RT-PCRおよび分子ビーコンプローブ検出に対して適している亜種特異的配列標的の特定および開発のために、12種類のM.アブセッサス亜種アブセッサス、19種類のM.アブセッサス亜種マシリエンセおよび2種類のM.アブセッサス亜種ボレティイを含む、米国国立生物工学情報センター(NCBI)からの33種類の完全に配列決定されたM.アブセッサスゲノムを統合した。HarvestスイートからのParsnpによりゲノムをアライメントし、亜種特異的一塩基多型(SNP)を抽出した。異なるM.アブセッサス亜種間で保存された遺伝子を特定するために、当業者により理解される通り、Roaryを用いてコアゲノム解析を行った。分子ビーコンプローブ設計のための推定上の領域を特定するために、当業者により理解される通り、BEDtoolsを用いて、M.アブセッサスコア遺伝子間での20ntスライディングウインドウ内のコアSNP数を算出した。
【0020】
M.アブセッサス検出および亜種分別に対する代替的標的を選択する能力を促進するために、1930種類のM.アブセッサスゲノムを解析した。この解析から、SNPに対する2種類の標的が、リアルタイムPCR設計の基礎となった。Blastnを用いて、NCBIアセンブリデータベース中の1930種類のマイコバクテリウム・アブセッサス・コンプレックス(MABC)概要ゲノムに対して、および社内で配列決定されたゲノムの中で、推定上の分子ビーコンプローブのインシリコでの感度および特異度ならびにそれらの隣接配列を調べた。加えて、分子ビーコンおよびプライマーの特異度を、119種類の固有のマイコバクテリウム菌種または亜種由来のゲノムを含む、NCBI Refseqデータベース中の非結核性抗酸菌種の476種類の代表的ゲノムまたは完全に配列決定されたゲノムに対しても調べた。
【0021】
M.アブセッサスにおける獲得マクロライド耐性は、23S rRNAのペプチジルトランスフェラーゼドメインをコードするrrl遺伝子中の点突然変異A2058およびA2059に主に関連付けられ、誘導性マクロライド耐性は、リボソームメチラーゼ遺伝子erm(41)に連鎖する。nt28でのTからCへの多型を有するerm(41)遺伝子は、マクロライド感受性に関連付けられる。現在、M.アブセッサス亜種アブセッサスおよびM.アブセッサス亜種ボレティイの大多数の臨床分離株は誘導性マクロライド耐性を発現するが、対照的に、M.アブセッサス亜種マシリエンセは、ほとんど常に、erm(41)内の塩基64~65および159~432の2箇所の欠失に起因するクラリスロマイシン感受性に関連付けられる。この関連性は、マクロライド治療に伴う好ましい臨床転帰に相関する。異なるM.アブセッサス亜種において特異的かつ迅速にマクロライド耐性を遺伝子型決定する目的で、rrlマクロライド感受性(野生型)遺伝子、erm(41)欠失およびerm(41)T28C突然変異を検出するための3組のプライマー対および分子ビーコンプローブ。遺伝子MAB2248中の1つの領域およびMAB2830中の2つの領域を用いて、それぞれ、M.アブセッサス亜種アブセッサス、M.アブセッサス亜種ボレティイ、およびM.アブセッサス亜種マシリエンセを特異的に特定するための、3種類のプライマー対および分子ビーコンプローブを設計した。
【0022】
アッセイにおける使用のためのPCRプライマーを、Primer-BLASTを利用して設計した。“Design and optimization of molecular beacon real-time polymerase chain reaction assays”Methods Mol.Biol 288:273-290においてVetおよびMarrasにより記載されるガイドラインを用いて、遺伝子または菌種特異的一塩基多型を特定するために、分子ビーコンプローブを設計した。
【0023】
PCRプライマーおよび分子ビーコンプローブを、マルチプレックスPCRアッセイにおける適合性に関して、IDTのOligoAnlyzer Toolソフトウェアを用いて評価した。本出願のPCRプライマーおよび分子ビーコンプローブの配列が、表1に列挙される。
【0024】
【表1】
【0025】
2種類のRT-PCRアッセイを、目的の培養物または単離細菌の各サンプルに対して行った。一方のアッセイであるアッセイIには、M.アブセッサス亜種ボレティイ、23S rrl 2058-2059に対する野生型遺伝子、およびerm(41)T28C突然変異の存在を決定するためのPCRプライマーおよび分子ビーコンプローブが含まれた。第2のアッセイであるアッセイIIには、M.アブセッサス亜種アブセッサスまたはM.アブセッサス亜種マシリエンセのいずれか、およびerm(41)欠失の存在を決定するためのPCRプライマーおよび分子ビーコンプローブが含まれた。各RT-PCRアッセイは、1×PlatinumホットスタートPCRマスターミックス(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)を含有した20μL体積にて実施した。アッセイIに対して、250nM MAB2248 for、250nM MAB2248 rev、500nM MAB2248 bol MB、250nM 23S rrl for、250nM 23S rrl rev、500nM 23S rrl MB、100nM erm(41)T28C for、1,000nM erm(41)T28C revおよび500nM erm(41)T28C MBを添加した。アッセイIIに対して、250nM MAB2830 for、250nM MAB2830 rev、500nM MAB2830 abs MB、250nM MAB2830 mas MB、250nM erm(41)Δfor、250nM erm(41)Δrevおよび500nM erm(41)ΔMBを添加した。各アッセイを、5μL DNA鋳型を用いて開始した。PCRアッセイを、CFX96 TouchリアルタイムPCR検出システムにおいて200μL白色ポリプロピレンPCRチューブ中で行った。反応混合物を、DNAポリメラーゼを活性化するために95℃で2分間インキュベートし、15秒間の95℃変性および60秒間の60℃アニーリングおよび鎖伸長からなった40回の熱サイクルがそれに続いた。分子ビーコン蛍光強度を、各熱サイクルの60℃アニーリングおよび鎖伸長段階の間にモニタリングした。
【0026】
3種類の亜種の分子疫学は顕著に異なり、M.アブセッサス亜種ボレティイにより引き起こされる感染は、他の2種類の亜種と比較して稀である。しかしながら、M.アブセッサス亜種ボレティイにより引き起こされる臨床的疾患および大流行が報告されてきた。M.アブセッサス亜種ボレティイとは対照的に、M.アブセッサス亜種アブセッサスおよびM.アブセッサス亜種マシリエンセ術後創傷感染および呼吸器疾患は、全世界で頻繁に報告され、臨床転帰での差異は一般的に、マクロライドに対する菌株の感受性に相関する。M.アブセッサス亜種マシリエンセに起因する感染は、マクロライド療法に比較的好ましく応答する。しかしながら、本出願で示される通り、すべてのM.アブセッサス亜種マシリエンセが切断型erm(41)を保有するわけではなく、野生型erm(41)を有するM.アブセッサス亜種マシリエンセ分離株が記載されてきた。erm(41)C28配列変異体(sequevar)M.アブセッサス亜種アブセッサスは、これらの分離株がマクロライドに対する誘導性耐性を示さないので、治療による顕著により高い培養変換率に関連付けられる。
【0027】
最後に、切断型erm(41)遺伝子を有するM.アブセッサス亜種マシリエンセが、rrl 2058および2059部位における突然変異により特定され、これらの突然変異がこの菌株をマクロライドに対して完全に耐性にする。集合的に、亜種分別およびマクロライド感受性の遺伝子型決定は、臨床的M.アブセッサス感染に対する正確な治療を誘導するために必要である。本出願のアッセイは、MABCにおいてマクロライド耐性に関連付けられる最も一般的な突然変異を検出するために設計され、限定するものではないが、例えば、臨床分離株の中でより蔓延してきた場合には、稀な耐性メカニズムを標的化し、かつアッセイに追加することができるであろう。
【0028】
本出願のアッセイは、患者の治療レジメンにおいてマクロライドを用いるべきであるか否かを決定する強力な予測能を有する。クラリスロマイシン表現型感受性検査に対して必要とされる3~14日間と比較して、本出願のリアルタイムPCR法は、2~3時間で完了することができ、適時かつ決定的な検査結果を提供する。
【0029】
以下に記載される研究から、erm(41)遺伝子切断がM.アブセッサス亜種マシリエンセを亜種分別するための信頼性の高いマーカーでないことも示唆される。重要なことに、アッセイは、米国の複数の医療施設由来の115種類の試験されたM.アブセッサス菌株の中で100%の特異度および感度を示し、このことはその臨床応用をさらに支持した。M.アブセッサス感染の治療におけるそれらの診断能を拡張する医療施設に関する能力は、適切な抗生物質治療を提供することにより患者ケアを劇的に改善し、かつM.アブセッサス感染をモニタリングおよび追跡するための疫学的マーカーを確立するであろう。
【0030】
ここでまた、M.アブセッサスは、重症慢性感染症を引き起こすことに関して悪名高い非結核性抗酸菌である。これらの感染症の治療は、複数の抗生物質に対するM.アブセッサスの内因性または獲得耐性のいずれかに起因して、困難である。長期の多抗微生物療法にもかかわらず、M.アブセッサス感染の治療はしばしば失敗し、ヒトおよび動物の両方における漸進的有病率および最終的な死亡率をもたらす。
【0031】
ヒトおよび動物におけるそのような疾患の治療での本開示により提供される重要なステップは、治療を効果的に提供するために、M.アブセッサスの亜種を区別することができることである。クロファジミンおよびリファブチンは、M.アブセッサスに対する使用に関して目的が変更された、公知の抗抗酸菌抗生物質である。M.アブセッサスに対して活性な他の抗微生物剤としては、デラマニド、プレトマニドおよびPIPD1ならびにβ-ラクタマーゼ阻害剤アビバクタム、レレバクタムおよびバボルバクタムが挙げられる。
【0032】
以前には未使用の抗微生物剤の組合せ、例えば、バンコマイシン-クラリスロマイシンおよび二重β-ラクタム療法が、実験モデルにおいてM.アブセッサスに対する相乗効果を有することが示されており、このことは、多剤レジメンにおける考えられる使用を示唆する。これらの治療剤はインビトロでM.アブセッサスに対する幾分かの活性を有し得るが、ヒト患者または動物を治療するために、M.アブセッサス(M.abscesssus)の亜種の臨床的決定が、適切な治療レジメンを確実に決定するために必要とされる。
【0033】
本出願のアッセイおよび方法が、以下の試験および実験を通して説明される。以下の実施例は、本明細書中に記載される原理を例示するためのみに与えられる。提供される原理を用いて多数の変法および実装が可能であるので、以下の実施例は、本明細書中に示される原理を限定することを意図されない。
【実施例
【0034】
<臨床分離株およびクラリスロマイシン試験>
嚢胞性線維症を有する患者から回収され、かつNational Jewish Healthにおいて分類および保管された100種類を含む115種類のM.アブセッサス臨床分離株のコレクションを利用した。菌株は、69種類のM.アブセッサス亜種アブセッサス、38種類のM.アブセッサス亜種マシリエンセおよび10種類のM.アブセッサス亜種ボレティイを含んだ。すべての菌株を、全ゲノム配列決定により解析した(bioproject登録番号PRJNA319839およびPRJNA549322)。センターフォーディスカバリーアンドイノベーション(Center for Discovery and Innovation)において保管されたM.アウルム(M.aurum)、M.アビウム(M.avium)、M.ガリナルム(M.gallinarum)、M.ガストリ(M.gastri)、M.ゴルドネ(M.gordonae)、M.ヘモフィルム(M.haemophilum)、M.イントラセルラレ(M.intracellulare)、M.マリヌム(M.marinum)、M.スクロフラセウム(M.scrofulaceum)、M.シミアエ(M.simiae)、M.スズルガイ(M.szulgai)、M.テラエ(M.terrae)、M.ウルセランス(M.ulcerans)、M.ケロネー(M.chelonae)、M.フォルツイツム(M.fortuitum)、M.カンサシイ(M.kansasii)、チモテ菌(M.phlei)、M.シミアエ(M.simiae)、+ヒト型結核菌(M.tuberculosis)およびM.ミクロチ(M.microti)を含む20種類の異なる非結核性抗酸菌種由来の22種類の菌株のコレクションを、アッセイの特異度を評価するために用いた。
【0035】
全3種類の亜種およびクラリスロマイシン耐性に関連付けられる遺伝子型多様性を含む6種類の試験菌株のパネルを、クラリスロマイシンに対するそれらの応答に関して分析した。感受性および耐性は、CLSI勧告に従って評価した。構成的クラリスロマイシン耐性は、5日目でのMIC 8μg/mL以上により定義される。誘導性耐性は、5日目での2μg/mL以下から14日目での8μg/mL以上のクラリスロマイシンMICの増加により定義される。
【0036】
<標的選択、インシリコ感度および特異度>
33種類の全ゲノム配列決定(WGS)されたM.アブセッサスゲノムのゲノム解析は、本出願の分子ビーコンプローブを用いて単離されたM.アブセッサスを亜種分別するために適した候補遺伝子領域を特定した。2種類の遺伝子標的MAB2248およびMAB2830を、それらの保存および3種類の亜種を区別するための特異度に基づいて選択した。MAB2248は推定上のペプチド合成酵素MbtEタンパク質をコードし、MAB2830はジヒドロオロターゼPyrC遺伝子である。M.アブセッサス亜種ボレティイに対して特異的なMAB2248遺伝子内の18bp配列を、この亜種を区別するための分子ビーコンプローブに対して標的化した。MAB2248ビーコンは、3箇所のSNP(3/18、16.7%変動)によりM.アブセッサス亜種アブセッサスまたはM.アブセッサス亜種マシリエンセの配列とは異なり、これが対立遺伝子特異的RT-PCRアッセイにおいてM.アブセッサス亜種ボレティイを検出する特異度を与える。
【0037】
M.アブセッサス亜種アブセッサスおよびM.アブセッサス亜種マシリエンセにおけるMAB2830相同体配列を、2種類の亜種特異的分子ビーコンを設計するために用い、標的領域は2種類の亜種において同じPCRプライマー対により増幅され得る。
【0038】
M.アブセッサス亜種アブセッサスに対して特異的な18bpのMAB2830配列を分子ビーコンプローブとして用い、この配列は、それぞれ4~5箇所のSNP(22.2~27.8%変動)によりM.アブセッサス亜種マシリエンセおよびM.アブセッサス亜種ボレティイから区別可能である。
【0039】
同様に、M.アブセッサス亜種マシリエンセに対して特異的な19bpのMAB2830相同体配列を、分子ビーコンプローブの設計のために標的化し、これはそれぞれ5箇所および3箇所のSNP(16.7~27.8%変動)によりM.アブセッサス亜種アブセッサスおよびM.アブセッサス亜種ボレティイにおけるMAB2830配列から異なった。
【0040】
3種類の設計された分子ビーコンプローブおよびプライマーのインシリコ感度および特異度を、NCBI由来および本発明者らの自家コレクション由来の1930種類のM.アブセッサスゲノムに対して評価した。
【0041】
1930種類のゲノムを3種類の亜種に対して割り当て、これは1192種類のM.アブセッサス亜種アブセッサス、609種類のM.アブセッサス亜種マシリエンセおよび129種類のM.アブセッサス亜種ボレティイを含む。MAB2248およびMAB2830配列は、全1930種類のMABCゲノムにおいて見出された。
【0042】
表2に見られる通り、それぞれ、インシリコ感度は、M.アブセッサス亜種ボレティイ、M.アブセッサス亜種マシリエンセおよびM.アブセッサス亜種アブセッサス特異的分子ビーコンに対して100%、99.41%および99.67%であり、特異度は、3種類の亜種に対して99.72%、100%および99.92%であった。
【0043】
【表2】
【0044】
初代患者試料を診断するために本アッセイを用い得ることを確認するための、NCBI Refseqデータベースに寄託された476種類の代表的または完全に配列決定されたマイコバクテリウム属ゲノムに対する3種類の亜種分子ビーコンプローブおよび2種類のプライマー対のインシリコ特異度。結果は、プライマーおよびプローブが、M.アブセッサス菌種に対して高度に特異的であることを示し、他のマイコバクテリウム属種に対する配列同一性を示さないかまたは低い配列同一性を示した。
【0045】
上記の臨床的に最も重要な非結核性抗酸菌種の中で、M.ケロネー・コンプレックスに属する5種類の菌種(M.ケロネー、M.サオパウレンセ(M.saopaulense)、M.イムノゲヌム(M.immunogenum)、M.サルモニフィルム(M.salmoniphilum)およびM.フランクリニイ(M.franklinii))を除くすべてにおいてMAB2248プライマーおよびプローブ配列は非存在であり、存在する場合、分子ビーコン標的領域は61~82%(4~7箇所のミスマッチ)のみの類似性を示した。
【0046】
同様に、MAB2830標的は大多数の菌種において非存在であり、M.ケロネー、M.サオパウレンセ、M.イムノゲヌム、M.サルモニフィルムおよびM.フランクリニイ由来のゲノムのみに対して70~80%(4~6箇所のミスマッチ)のヌクレオチド同一性を明らかにした。加えて、2種類の遺伝子標的は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、セパシア菌群(Burkholderia cepacia complex)、およびステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)を含む他のCFおよび肺関連病原体においては非存在であった。
【0047】
erm(41)T28Cおよび欠失に対するプライマーおよびプローブのインシリコ特異度検査はM.アブセッサスゲノムに対して特異的であり、他のクエリゲノムに対して配列マッチは見られない。23S rrlプライマーおよび分子ビーコンを、野生型対立遺伝子(A2058およびA2059)を標的化するために設計し、この領域は、M.ケロネー、M.サオパウレンセ、M.イムノゲヌム、M.サルモニフィルムおよびM.フランクリニイの他の菌種に対して100%の同一性を示した。
【0048】
<変性プロファイル分析>
アッセイにおける使用のための上記の分子ビーコンプローブを、変性プロファイル分析において特性決定し、上記の分子ビーコンプローブはそれらの意図される完全マッチ標的がPCRのアニーリング温度で存在する場合にのみ蛍光シグナルを発すること、および意図しないミスマッチ標的がPCRのアニーリング温度で存在する場合には非蛍光のままであることを決定した。
【0049】
サンプル中に存在するM.アブセッサス亜種を区別する3種類の分子ビーコンプローブのそれぞれに関して、3種類のオリゴヌクレオチド標的を、表3に見られる通りに設計したが、1種のオリゴヌクレオチドはM.アブセッサス亜種アブセッサスに対するプローブの標的領域に対して同一であり;1種はM.アブセッサス亜種マシリエンセプローブに対する標的領域に対して同一であり;1種はM.アブセッサス亜種ボレティイに対するプローブに対する標的領域に対して同一である。各分析は、オリゴヌクレオチド標的が添加されない対照も含み、この対照は、プローブのバックグラウンド蛍光における増加を生じる分子ビーコンプローブステム部分が開く温度を示す。
【0050】
【表3】
【0051】
図1A図1Fにおいて、上段は3種類の亜種分子ビーコンプローブの変性プロファイルを図示する。プロットは、PCRアッセイのアニーリング温度(60℃、破線により表される)では、蛍光シグナルは亜種特異的分子ビーコンプローブおよびその意図される完全マッチ標的オリゴヌクレオチドからのみ生じたことを示す。この温度では、プローブは、他の2種類のミスマッチ遺伝子標的からは蛍光シグナルを生じ(elect)なかった。
【0052】
さらに、分子ビーコンプローブのステム部分はこの温度では閉じており、プローブからのバックグラウンド蛍光の増加は見られなかった。同様の変性プロファイル分析を、野生型rrl遺伝子、erm(41)T28C突然変異、およびerm(41)欠失を特定するために設計された3種類の分子ビーコンプローブに対して行った。これらのプローブに関して、オリゴヌクレオチド標的は、意図される標的に対する完全マッチとして、かつ意図しない標的と比較してミスマッチを伴って設計した。
【0053】
図1A図1Fにおいて、下段はこれらの3種類の分子ビーコンプローブの変性プロファイルを図示する。例えば、左側プロットは、その意図される野生型標的の存在下および2種類の考えられるミスマッチ標的であるGA突然変異体またはAG突然変異体の存在下、ならびにプローブのステムハイブリッドの安定性を決定するための対照としていかなる標的も非存在である場合の野生型rrl遺伝子分子ビーコンプローブに関する変性プロファイルを示す。
【0054】
プロットは、60℃のアニーリング温度では、その意図される完全マッチ野生型標的が存在した場合のみにプローブからの蛍光シグナルが生じたことを示す。この温度では、分子ビーコンプローブは、2種類の意図しない突然変異体標的の存在下ではいかなる蛍光も示さず、このことは、野生型と突然変異体標的との間でのこの分子ビーコンプローブの完全な識別を示した。これはまた、本アッセイにおいて他の分子ビーコンプローブに対しても当てはまった。
【0055】
<アッセイ解析>
リアルタイムPCR結果を解析した。本解析から、両方の複合アッセイに関する情報を組み合わせて、M.アブセッサス亜種を予測し、かつ菌株がマクロライド耐性であるかまたは感受性であるかを決定した。アッセイは、すべての分離株がerm(41)遺伝子を有し、かつその野生型構造が誘導性マクロライド耐性と相関するという理解のもとに設計した。したがって、T28C突然変異または274bp欠失を有しない菌株は、予測上は耐性である。
【0056】
同様に、野生型23S rrl遺伝子はマクロライド感受性に関連付けられ、稀な菌株は構成的マクロライド耐性と相関する突然変異を有する。本アッセイでは、rrl陽性分子ビーコンの非存在が耐性を予測する。
【0057】
アッセイIおよびIIの複合リアルタイムPCR結果が、図2A図2Bに示される。6種類の代表的な臨床菌株の遺伝子型が、表4に記載される。
【0058】
【表4】
【0059】
各菌株に関して、図2A図2Bにおいて、アッセイIのリアルタイムPCRプロファイルが左側パネルに示され、アッセイIIのプロファイルが右側パネルに示される。菌株Aの結果は、野生型rrl遺伝子の存在およびM.アブセッサス亜種アブセッサスの特定を明らかにした。解釈は、この菌株が野生型erm(41)、野生型rrl遺伝子を有すること、および結果として、誘導性マクロライド耐性を有したことである。菌株Bに関する結果は、野生型rrl遺伝子を示したが、erm(41)T28C突然変異の存在も示し、このことは、この菌株がマクロライドに対して感受性であったことを示し、かつ右側パネル中の陽性FAM分子ビーコンプロファイルは、これがM.アブセッサス亜種アブセッサスであったことを示す。左側パネル中の菌株Cに関する陽性分子ビーコンプロファイルの非存在は、これがrrl遺伝子突然変異を有し、このことは構成的マクロライド耐性を予測するものであり、かつ右側パネル中の陽性FAM分子ビーコンプロファイルは、これがM.アブセッサス亜種アブセッサスであったことを示す。菌株Dの結果は、野生型rrl遺伝子および左側パネル中の陽性CFR610分子ビーコン蛍光を明らかにし、このことは、M.アブセッサス亜種ボレティイを予測するものであった。右側パネル中のいかなる分子ビーコンプロファイルも非存在であることは、亜種分別およびこれが野生型erm(41)遺伝子を有することの結果として、マクロライドに対する誘導性耐性を有するM.アブセッサス亜種ボレティイであったという全体的な解釈を確認した。菌株EおよびFに関する結果は、野生型rrl遺伝子および右側パネル中の陽性Q670蛍光を明らかにし、このことは、M.アブセッサス亜種マシリエンセを予測するものである。菌株Eに関して、erm(41)は野生型遺伝子型を示し、このことは、この菌株がマクロライドに対して誘導性耐性を有したことを示したが、一方で、菌株Fは、マクロライド感受性菌株を予測するものであった決定的欠失を有した。
【0060】
<技術的感度および特異度>
アッセイの感度を、菌株B、DおよびFから取得した異なる量のDNAを用いてPCRアッセイを開始することにより決定した。これらの菌株が共に本アッセイ中で利用された全6種類の分子ビーコンプローブに対する標的領域を含むので、これらの菌株が選択された。反応のそれぞれに鋳型として添加されたDNAの量を、1000、100、10および1コピーのゲノムDNAに同等となるように算出した。結果は、各菌株に関するアッセイIおよびIIが、1~10コピーのゲノムDNAを検出および特定することができたことを示した。19種類の異なるマイコバクテリウム属種由来のDNAを用いるアッセイの特異度を試験した。MAB2248およびMAB2830分子ビーコンプローブに関して陽性増幅は観察されず、このことは、上記のインシリコデータマイニング結果と合致した。バイオインフォマティクスおよび実験的アプローチは、アッセイが、M.アブセッサスの検出に対して高度に特異的であることを確認する。加えて、19種類のサンプルパネルのうちのいずれも、erm(41)T28C突然変異またはerm(41)274bp欠失に対して陽性でなかった。23S rrl分子ビーコンに関して、M.ケロネー由来のDNAのみが30サイクル未満のCt値を伴って陽性増幅を与えたが、他の菌株は、非常に遅い増幅シグナル(Ct>33)しか示さなかった。23S rrlプライマーおよび分子ビーコン領域はM.アブセッサスとM.ケロネーとの間で100%同一であり、インシリコデータと一致して、rrl RT-PCR結果は陽性であったことを注記することが重要である。
【0061】
臨床分離株試験:アッセイを用いて、米国各地のCFセンターからのNTM分離株を代表するNational Jewish Healthから、およびセンターフォーディスカバリーアンドイノベーションにおいて保管された選択された菌株からの遺伝学的に特性決定された臨床M.アブセッサス分離株の大型コレクションを評価した。盲検DNAサンプルをアッセイし、全ゲノム配列決定により決定された通りの各菌株の亜種分別およびマクロライド遺伝子型に対して比較した。分子ビーコン結果のそれぞれの概要が、アッセイされた合計115種類の菌株に関して表5に示される。結果は、亜種およびマクロライド遺伝子型の決定において100%の特異度および感度を示し、個別の結果は表6に示される。
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
実施形態を参照して本明細書中の本発明が説明されてきたが、これらの実施形態は、本発明の原理および応用の単なる例示であることが理解されるべきである。したがって、多数の改変を例示的な実施形態に対して行うことができること、および他の配置を、添付の特許請求の範囲により規定される通りの本発明の精神および範囲から逸脱することなく考案することができることが理解されるべきである。
図1A-1F】
図2A-2B】
【配列表】
2024516746000001.app
【国際調査報告】