IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソウル ナショナル ユニバーシティ ホスピタルの特許一覧 ▶ ジ インダストリー アンド アカデミック コオペレーション イン チュンナム ナショナル ユニバーシティー(アイエーシー)の特許一覧

特表2024-516749感音性難聴の原因特異的治療効果を予測する方法及びそのために使用される診断キット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(54)【発明の名称】感音性難聴の原因特異的治療効果を予測する方法及びそのために使用される診断キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240409BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240409BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240409BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/02
C12Q1/686 Z
G01N33/53 P
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509290
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(85)【翻訳文提出日】2023-10-25
(86)【国際出願番号】 KR2021013682
(87)【国際公開番号】W WO2022231076
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】10-2021-0056601
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0095924
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516011833
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ ホスピタル
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY HOSPITAL
(71)【出願人】
【識別番号】520222313
【氏名又は名称】ジ インダストリー アンド アカデミック コオペレーション イン チュンナム ナショナル ユニバーシティー(アイエーシー)
【氏名又は名称原語表記】THE INDUSTRY & ACADEMIC COOPERATION IN CHUNGNAM NATIONAL UNIVERSITY (IAC)
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ビョンユン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ボンジク
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA13
2G045AA25
2G045CA17
2G045CA26
2G045CB07
2G045DA36
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB07
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
本開示は、感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断することができるキット及び情報提供方法に関し、さらに詳しくは、本発明の一態様に係るキット及び方法によれば、感音性難聴の原因特異的治療効果を早期に診断し、最適な治療方法を選択することができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)個体から分離されたサンプルからIL-1βの分泌を誘導するステップと、
(b)ステップ(a)で誘導されたIL-1βの分泌様相を測定するステップと、
(c)ステップ(b)で測定されたIL-1βの分泌様相を正常個体サンプルと比較するステップと、を含む、感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断するための情報提供方法。
【請求項2】
ステップ(a)が、LPS、ATP、及びCaClからなる群から選択される少なくとも1つを用いてIL-1βの分泌を誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)におけるサンプルが、全血(whole blood)、全血から抽出されたPBMC、血清(serum)または唾液(saliva)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)において、IL-1βの分泌様相の測定が、ELISA、RT-PCRまたは迅速抗原検査によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
IL-1βの分泌誘導製剤及びIL-1βの分泌様相を測定する製剤を含む、感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断するためのキット。
【請求項6】
前記IL-1βの分泌誘導製剤が、LPS、ATP、及びCaClからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記IL-1βの分泌様相を測定する製剤が、プライマー、プローブ及び抗体からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項5に記載のキット。
【請求項8】
前記キットが、
個体から分離されたサンプルからIL-1βの分泌を誘導するためのテスト部と、
前記誘導されたIL-1βの分泌様相を測定するための測定部と、
前記測定されたIL-1βの分泌様相を正常個体サンプルと比較する分析部と、を含む、請求項5に記載の感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断するためのキット。
【請求項9】
前記キットが、IL-1βの分泌を誘導する前後のIL-1βの分泌様相の差または比率の変化を示す表示部をさらに含む、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
前記キットが、PBMC分離抽出部をさらに含む、請求項8に記載のキット。
【請求項11】
前記キットが、自己免疫疾患またはFTA-ABS検査部をさらに含む、請求項8に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断するための情報提供方法及びそのために使用される診断キットが開示される。
【0002】
[本発明を支援した国家研究開発事業]
課題固有番号:1711114924
課題番号:2018R1A2B2001054
[部署名]韓国科学技術情報通信部
[課題管理(専門)機関名]韓国研究財団
[研究事業名]個人基礎研究(科学技術情報通信部)(R&D)
[研究課題名]薬物で治療可能な自己炎症性遺伝性難聴スペクトルの確立:遺伝的バイオマーカーの発掘と治療有効性物質の探索
[貢献率]1/1
[課題実施機関名]盆唐ソウル大学病院
[研究期間]2018年3月1日~2021年2月28日
【背景技術】
【0003】
徐々に進行する感音性難聴(sensorineural hearing loss;SNHL)は、広範囲にわたる感覚消失(sensory defect)である。発症してから2~3日以内に悪化する突発性感音性難聴から、その期間より長く数ヶ月にわたって亜急性に悪化する難聴は、様々な病因があり、単一の疾患というよりは症候群といえる。
【0004】
そのような感音性難聴は、その原因を特定することが困難なことから、一般的な治療としてステロイドを全身的または局所的に用いている。しかしながら、原因特異的でないステロイド治療は、十分な効果が得られない場合が多く、ステロイド治療自体に抵抗を示すといった限界がある。
【0005】
そのような背景を踏まえて、本発明者らは、感音性難聴の様々な病因を検討し、感音性難聴進行における潜在的なバイオマーカーと、効率的な治療のための予測因子とを研究し、本発明の完成に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一態様において、本発明は、感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断するための情報提供方法を提供することを目的とする。
【0007】
別の態様において、本発明は、感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断するためのキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、本発明は、(a)個体から分離されたサンプルからIL-1βの分泌を誘導するステップと、(b)ステップ(a)で誘導されたIL-1βの分泌様相を測定するステップと、(c)ステップ(b)で測定されたIL-1βの分泌様相を正常個体サンプルと比較するステップと、を含む、感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断するための情報提供方法を提供する。
【0009】
別の態様において、本発明は、IL-1βの分泌誘導製剤及びIL-1βの分泌様相を測定する製剤を含む、感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断するためのキットを提供する。
【発明の効果】
【0010】
一態様において、本発明の一実施例に係る方法またはキットは、感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断する効果に優れる。
【0011】
一態様において、本発明の一実施例に係る方法またはキットは、感音性難聴の原因特異的治療効果を早期に診断し、最適な治療方法を選択することで、治療を決定するために臨床的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例に係る被験者の遺伝子型及び表現型の特性を示す表である。
図2A】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2B】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2C】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2D】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2E】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2F】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2G】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2H】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2I】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2J】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2K】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2L】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図2M】本発明の一実施例により、被験者の炎症性マーカー(ESR/CRP)の血中レベルに関連する聴力閾値を示すグラフである。
図3】本発明の一実施例に係る被験者のIL-1βの分泌レベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
一態様において、本発明は、(a)個体から分離されたサンプルからIL-1βの分泌を誘導するステップと、(b)ステップ(a)で誘導されたIL-1βの分泌様相を測定するステップと、(c)ステップ(b)で測定されたIL-1βの分泌様相を正常個体サンプルと比較するステップと、を含む、感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断するための情報提供方法を提供する。本発明の一態様において、「感音性難聴の原因特異的治療効果の予測または診断」とは、被験者に対して感音性難聴の原因因子が何であるか、あるいは被験者の感音性難聴がIL-1βの拮抗薬(antagonist)治療に効果があるかどうかを予測または診断することを意味してもよい。本発明の一態様において、方法またはキットは、感音性難聴の原因特異的治療効果を早期に診断し、最適な治療方法を選択することで、治療を決定するために臨床的に用いることができる。
【0015】
一実施例において、ステップ(a)は、LPS、ATP、及びCaClからなる群から選択される少なくとも1つを用いてIL-1βの分泌を誘導してもよい。
【0016】
一実施例において、ステップ(a)におけるサンプルは、全血(whole blood)、全血から抽出されたPBMC(peripheral blood mononuclear cell)、血清(serum)または唾液(saliva)であってもよい。
【0017】
一実施例において、ステップ(b)では、IL-1βの分泌様相の測定は、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、RT-PCR、または迅速抗原検査キットなどの迅速試験キット(rapid test kit)を用いて行ってもよい。ここで、IL-1βの分泌様相の測定とは、IL-1βの分泌の有無を定性的に測定するか、あるいはIL-1βの分泌レベルを定量的に測定することを含む意味である。
【0018】
別の態様において、本発明は、IL-1βの分泌誘導製剤及びIL-1βの分泌様相を測定する製剤を含む、感音性難聴の原因特異的治療効果を予測または診断するためのキットを提供する。
【0019】
一実施例において、前記IL-1βの分泌誘導製剤が、LPS、ATP、及びCaClからなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0020】
一実施例において、前記IL-1βの分泌様相を測定する製剤は、プライマー、プローブ及び抗体からなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0021】
本明細書において「プライマー」とは、遺伝子の標的部位に対応する特定領域を、PCRを用いて増幅するために用いる遺伝子の特定領域の末端に相補的に結合することができる配列の塩基を有するポリヌクレオチド、またはその変異体を意味する。前記プライマーは、特定領域の末端と完全に相補的である必要はなく、前記末端にハイブリダイゼーションされて二重鎖構造を形成するのに十分な程度相補的であれば用いてもよい。
【0022】
本明細書において「プローブ(probe)」とは、遺伝子の標的部位と相補的に結合することができる配列の塩基を有するポリヌクレオチド、その変異体、またはポリヌクレオチドとそれに結合した標識物質を含むことを意味する。
【0023】
本明細書において「ハイブリダイゼーション(hybridization)」とは、2つの一本鎖核酸が相補的な塩基配列のペアリング(pairing)によって二量体構造(duplex structure)を形成することを意味する。ハイブリダイゼーションは、一本鎖核酸の配列間の相補性が完全である場合(perfect match)だけでなく、一部のミスマッチ(mismatch)塩基が存在しても起こり得る。
【0024】
一実施例において、前記抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。具体的には、前記抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、及び2つの全長の軽鎖及び2つの全長の重鎖を有する完全な形態のみならず、並びに抗体分子の機能的断片、例えばFab、F(ab’)、F(ab’)2、及びFvのいずれも含むものであってもよい。抗体産生は、本発明の属する分野において周知の技術を用いて容易に製造することができ、製造されて市販されている抗体を用いてもよい。
【0025】
一実施例において、本発明の一態様によるキットは、前記IL-1βの分泌誘導製剤及びIL-1βの分泌様相を測定する製剤のみならず、並びに抗原-抗体複合体の形成を定量的または定性的に測定可能なラベル、免疫学的分析に用いられる通常の道具、試薬などをさらに含んでもよい。
【0026】
一実施例において、前記抗原-抗体複合体の形成を定性的または定量的に測定可能にするラベルとして、酵素、蛍光体、リガンド、発光物、微小粒子(microparticle)、酸化還元分子及び放射線同位元素などがあり、必ずしもこれらに限定されるものではない。検出ラベルとして利用可能な酵素には、β-グルクロニダーゼ、β-グルコシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、尿素、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ヘキソキナーゼとGDPase、RNase、グルコースオキシダーゼとルシフェラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ホスホエノールピルビン酸デカルボキシラーゼ、β-ラクタマーゼなどがあり、それらに限定されるものではない。蛍光物には、フルオレシン、イソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルデヒド、フルオレスカミンなどがあり、それらに限定されるものではない。リガンドとして、ビオチン誘導体などがあり、それに限定されるものではない。発光物としては、アクリジニウムエステル、ルシフェリン、ルシフェラーゼなどがあり、それらに限定されるものではない。微小粒子としては、コロイド金、着色されたラテックスなどがあり、それらに限定されるものではない。酸化還元分子としては、フェロセン、ルテニウム錯化合物、ビオロゲン、キノン、Tiイオン、Csイオン、ジイミド、1,4-ベンゾキノン、ヒドロキノン、KW(CN)、[Os(bpy)2+、[RU(bpy)2+、[MO(CN)4-などがあり、それらに限定されるものではない。放射性同位元素としては、H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、125I、131I、186Reなどがあり、それらに限定されるものではない。
【0027】
一実施例において、前記道具または試薬の一例としては、適切な担体、溶解剤、洗浄剤、緩衝剤、安定化剤などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。標識物質が酵素である場合、酵素活性を測定することのできる基質及び反応停止剤を含んでもよい。担体は、可溶性担体、不溶性担体があり、可溶性担体の一例として、当該技術分野にて公知の生理学的に許容される緩衝液、例えば、PBSがあり、不溶性担体の一例として、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサカライド、その他紙、ガラス、金属、アガロース、及びそれらの組み合わせであってもよい。
【0028】
一実施例において、前記キットは、個体から分離されたサンプルからIL-1βの分泌を誘導するテスト部と、前記誘導されたIL-1βの分泌様相を測定するための測定部と、前記測定されたIL-1βの分泌様相を正常個体サンプルと比較する分析部と、を含んでもよい。
【0029】
一実施例において、前記テスト部は、例えば、LPS、ATP、CaClなどのIL-1βの分泌誘導製剤によって、サンプルからIL-1βの分泌を誘導してもよい。その場合、前記サンプルは、全血、全血から抽出されたPBMC、血清または唾液であってもよい。
【0030】
一実施例において、前記キットは、PBMC分離抽出部をさらに含んでもよい。
【0031】
一実施例において、前記測定部は、例えば、ELISA、RT-PCR、迅速抗原検査などでIL-1βの分泌様相を測定してもよい。
【0032】
一実施例において、前記キットは、IL-1βの分泌を誘導する前後のIL-1βの分泌様相の差または分泌比率の変化を示す表示部をさらに含んでもよい。
【0033】
一実施例において、前記キットは、自己免疫疾患またはFTA-ABS(fluorescent treponemal antibody absorption test)検査部をさらに含んでもよい。前記自己免疫疾患としては、Wegener肉芽腫(Granulomatosis with polyangiitis)、Cogan症候群、結節性多発動脈炎などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明の構成及び効果をより具体的に説明する。しかしながら、以下の実施例は、本発明についての理解を助けるために提供するものであり、本発明の範疇及び範囲がそれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
被験者の選定
臨床的に診断されたクリオピリン関連周期性症候群(Cryopyrin-associated periodic syndrome;CAPS)患者17人と、自己炎症性難聴(autoinflammatory type hearing loss;AIHL)に分類された患者2人を、本発明の一実施例に係る研究における被験者として登録した。被験者を対象に検査し、症状を特徴づけてCINCA(chronic infantile,neurological,cutaneous and articular)症候群、MWS(Muckle-Wells syndrome)、FCAS(familial cold autoinflammatory syndrome)またはDFNA34(非症候群性SNHL)であるかを評価した。さらに、CAPS患者と比較するために、家族歴のない2人の「表面上のAIHL(seemingly AIHL)」患者を登録した。
【0036】
すべての被験者から書面による同意を得、未成年者の場合、親または保護者から書面による同意を得た。本研究のすべてのステップは、ソウル大学病院と盆唐ソウル大学病院の機関審議委員会による承認を獲得した。
【実施例2】
【0037】
被験者の感音性難聴の原因特異的治療効果の診断
実施例1で選定された被験者の性別、年齢、病歴、身体検査、聴力検査結果を含む臨床データが得られた。聴力閾値は、0.5、1、2、及び4kHzの閾値を平均して計算され、聴力レベルは、以下の4つのカテゴリーに分類された:軽微(mild)(26~40dB)、中等度(moderate)(41~55dB)、中等度の重症(moderately severe)(56~70dB)、重症(severe)(71~90dB)、及び深刻(profound)(>90dB)。前記臨床データを取得した具体的な方法は、以下のとおりである。
【0038】
分子遺伝子診断
ゲノムDNAは、メーカーのプロトコルに従って被験者の末梢血または口腔綿棒から抽出した。その後、全NLRP3遺伝子をスクリーニングして原因変異を確認した。NLRP3スクリーニングにより潜在的な変異候補が確認された場合、遺伝的診断のために単離研究を行った。潜在的病原性であるNLRP3変異が検出されなかった場合、他の可能な候補遺伝子を調べるためにエクソーム解析を行い、その後、生物情報学的分析によるフィルタリングプロセスを経た。
【0039】
臨床評価:聴力及び放射線データの検討
臨床的特徴を文書化し、2人の経験豊富な小児リウマチ専門医と2人の耳科専門医が、CAPSを診断するために身体検査を行った。聴力学的評価は、テスト適格性(年齢によって異なる)に従って行われた:純音聴力測定及び/または聴覚脳幹反応、及び/または聴覚定常状態反応。FLAIRシーケンスを含む内部耳道プロトコルMRIを行い、腫瘍状態または炎症が大脳ポンチン角度、内部耳道または蝸牛に存在するかどうかを評価した。
【0040】
統計分析
統計分析は、Windows用Prism v.8.0ソフトウェア(GraphPad Software,Inc.San Diego,CA,USA)及びStatistics v.24(IBM,Armonk,NY,USA)を用いて行った。脳MRIに対する蝸牛の向上と聴覚結果との間の関連性を決定するために、Fisherの正確なテストを用いた。Kruskal-Wallis検査は、LPSとLPS+CaCl治療に対する各個人の医学的状況(正常対照群、DFNA34、AIHL)によるIL-1βの分泌を比較するために使用され、事後検査のために、Bonferroni調整を行った。P<0.05は、統計的に有意であると考えられた。
【0041】
自己炎症性難聴患者の遺伝子型特性
臨床的に診断されたCAPSまたはDFNA34を有するすべての対象の遺伝子型及び表現型特性を、図1に示す。19人の被験者のうち、18人の被験者(94.7%)で遺伝子診断が行われ、NLRP3の新たな3つの変異が発見され、遺伝的に関連のない2人の被験者から、2回発生する1つの変異が発見された(c.1217T>C、Case5及び9)。さらに、関連していない2人の被験者から、他の変異であるc.1709A>Gが発見された(Case2及び6)。他の2つの家系において、母親から子供へのNLRP3変異の常染色体優性遺伝が現れ(Case15及び17)、その一方は、CINCA症候群(Case15)であり、他方は、非症候群性(DFNA34)(Case17)であった。
【0042】
疾患の重症度と治療反応を予測する潜在的なバイオマーカーとしての聴覚学的表現型
19人の被験者のうち、2人(Case1(FCAS)及び4(CINCA症候群))は、聴力検査を受けたことがなく、7人(Cass5、8、11、12、13-1、15及び16)は、全体的に性状の聴力閾値を持っていたが、前記7人のうち4人(Case5、8、13-1、15)は、高周波のみに制限された軽微な聴力損失を示していた。それによって、CAPS患者において、高周波の聴力に一番衰弱であることが分かる。興味深いことに、4人の被験者(Case3、5、6及び13-2)は、非対称の聴力損失を示した(右耳と左耳の間で>15dBの差)。利用可能な聴力度及び実験室データを有する13人の被験者を対象に、炎症マーカーに関連する聴力表現型を分析した(Case2~3、Case5~14)。ESR及びCRPを含む聴力閾値及び炎症マーカーの変化は、疾患進行及び抗IL1療法に対する反応に対する潜在的なバイオマーカーとしての聴力閾値の役割を調べるために、IL-1βの拮抗薬であるアナキンラ(anakinra)の使用に集中した時間域(診療所訪問)にプロットした(図2A~2M)。治療に対する炎症マーカーの即時かつ一貫した反応とは対照的に、聴力閾値は、アナキンラに対する差動反応を示した。具体的には、7人の遺伝的に確認されたNLRP3関連症候群患者(Case5、6、8、9、11、12及び13-1)は、最初に正常または軽微な聴覚喪失から始まり、アナキンラ療法に反応して安定するか、あるいはわずかに改善された聴力状態を示した。また、初期に重症のSNHLを持つMWS被験者(case14)は、アナキンラ治療が遅延されたにもかかわらず、徐々に聴力向上を示した。要約すると、NLRP3関連のCAPSを持つ3人の被験者は、軽微な聴覚喪失から正常(Case11)に、中等度から軽微な聴力喪失(Case6)に、及び重症から軽減された重症の聴力喪失(Case14)に、アナキンラに反応して聴力状態が明らかに一段と改善された。
【0043】
逆に、初期に中等度の聴力損失範囲に属していたCINCA症候群患者(Case2)1人とMWS患者(Case7)の聴力閾値は、アナキンラ治療にもかかわらず、結局深刻な聴力損失まで悪化し、最終的にCIが必要になった。明らかなCINCA症候群の発現を示しているが、明確なNLRP3病原性変異がない別の患者(Case3)は、最初は軽微な聴力損失を示し、その後アナキンラ治療を続けたにもかかわらず、後に中等度の聴力損失まで悪化した。さらに興味深いことに、同じNLRP3変異によるCINCA症候群を有する2人の一卵性の双子(Case13-1及び13-2)は、異なる聴覚表現型及びアナキンラ治療に対する様々な反応を示した。具体的には、Case13-2は、追跡期間にわたって聴覚状態が安定したCase13-1とは異なり、アナキンラ治療を受けても、徐々に片側の聴力が悪化した。
【0044】
培養済みPBMCにおけるIL-1βのELISA分析
4人の被験者(正常対照群1(NC01)、Case17-1及び17-2、AIHL2)の末梢静脈血液サンプルから、PBMCを収集した。プラスチック接着PBMCを-80度の冷凍容器に保存し、無血清RPMI培地と共に12ウェル培養プレート(ウェル当たり2×10細胞)中で20分間培養した。LPSを含むか、あるいは含まない10%のFBSを含むRPMI 1mLに培地を3時間にかけて交換した。その後、培地を60分間、1mMのCaClを含むか、あるいは含まない500μLの無血清RPMIに交換した。サンプル上清を回収し、IL-1βのELISAキット(BMS224-2,Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を用いて450nmで吸光度を測定し、サンプルを分析した。分析結果を正常対照群(NC01)によって標準化された倍数で計算し、図3に示した。
【0045】
血清サイトカイン測定(ELISA分析)
以下の3つの条件下、対照群(NC-01)、非症候群性自己炎症性難聴群(DFNA34)及びAIHL被験者(AIHL 2)の間で、培養済みPBMCのIL-1βの分泌レベルを比較した:刺激なし、LPSで刺激、またはLPS+CaClで刺激。Case17-2では、LPSで刺激した場合のIL-1βのレベルは、NC01及びCase17-1よりも有意に高かった(それぞれP=0.008及びP=0.016)。同様に、LPS+CaClに対するCase17-2のIL-1βの分泌は、NC01よりも高かった(Kruskal-Wallis試験及びBonferroni補正によるP=0.031)(図3)。
【0046】
総合的に、本発明の一実施例によれば、正常対照群と比較して、IL-1βが過分泌される感音性難聴の場合、IL-1βの拮抗薬治療に反応して聴力が改善した。それにより、本発明の一実施例に係る方法またはキットを用いると、感音性難聴の原因がNLRP3変異によるものであるか、あるいは被験者の感音性難聴がIL-1βの拮抗薬治療に効果を示すかどうかを予測または診断できることが分かった。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図2J
図2K
図2L
図2M
図3
【国際調査報告】