(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-17
(54)【発明の名称】ペプチド鎖加水分解試薬、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 1/12 20060101AFI20240410BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240410BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C07K1/12
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N33/48 A
G01N27/62 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560489
(86)(22)【出願日】2021-10-20
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 CN2021124827
(87)【国際公開番号】W WO2022205839
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】202110360904.5
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523371399
【氏名又は名称】安徽国▲タイ▼生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】ANHUI GUOTAI BIOTECHNOLOGY CO LTD
【住所又は居所原語表記】No.28-1,Liuxi Road,Economic Development Zone,Langxi County,Xuancheng,Anhui 242100
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲ニー▼ 鋒
(72)【発明者】
【氏名】高 新昌
(72)【発明者】
【氏名】衣 大龍
(72)【発明者】
【氏名】張 恒
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA12
2G041FA25
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA02
2G041JA05
2G041KA01
2G041LA09
2G041MA05
2G045AA34
2G045BA11
2G045BB60
2G045DA36
2G045FA33
2G045FB06
2G045FB08
4H045AA20
4H045AA30
4H045EA50
4H045FA16
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、ペプチド鎖加水分解試薬、その製造方法及びその使用を開示し、ポリペプチド又はアミノ酸を標識及び加水分解するのに有用なペプチド鎖加水分解試薬及びその製造方法を考案し、また、アミノ酸検出方法における上記ペプチド鎖加水分解試薬の使用を開示し、具体的には、ペプチド鎖加水分解試薬を用いてポリペプチド又はタンパク質を加水分解し、回転蒸発し、さらに水で溶解してpHを中性に調整し、金属キレート剤を添加した後、遠心分離して上清を採取し、上清の全イオンマスクロマトグラムを得て、イオンピークを抽出して選択イオンマスクロマトグラムを得、加水分解生成物の同位体二次フラグメントイオンが等しくないという特性に基づいて関係式を確立し、比を得て、ポリペプチド又はタンパク質中のグルタミン酸及びアスパラギン酸の合計含有量をそれぞれ得て、その比から実際含有量を算出することであり、ポリペプチド又はタンパク質中のグルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アスパラギン酸の4種類のアミノ酸を10%未満の偏差で正確に定量化できるという利点がある。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸ジオキサン溶液、重水及び2価金属塩化物溶液からなり、前記塩酸ジオキサン溶液と前記重水と前記2価金属塩化物溶液とのモル比は、(2~4):(35~40):(0.005~0.012)である、ことを特徴とするペプチド鎖加水分解試薬。
【請求項2】
前記塩酸ジオキサン溶液中の前記塩酸の濃度が1.7~2.2mol/Lである、ことを特徴とする請求項1に記載のペプチド鎖加水分解試薬。
【請求項3】
前記2価金属塩化物溶液中の前記2価金属イオンがMg
2+、Ca
2+、Co
2+、Ni
2+、Zn
2+、Cd
2+、Cu
2+、Pb
2+、Ba
2+、Sr
2+、Fe
2+、Sn
2+から選択され得る、ことを特徴とする請求項1に記載のペプチド鎖加水分解試薬。
【請求項4】
請求項1に記載のペプチド鎖加水分解試薬の製造方法であって、
塩酸ジオキサン溶液と重水とを(2~4):(35~40)のモル比で均一に混合して、塩酸ジオキサン重水溶液を得るステップa)と、
前記塩酸ジオキサン塩溶液中の前記重水溶液と前記2価金属塩化物溶液とのモル比が(35~40):(0.005~0.012)となるように、ステップa)の前記塩酸ジオキサン重水溶液に、2価金属塩化物溶液を添加し、ペプチド鎖加水分解試薬を得るステップb)と、を含むことを特徴とするペプチド鎖加水分解試薬の製造方法。
【請求項5】
アミノ酸の検出分析における請求項1に記載のペプチド鎖加水分解試薬の使用であって、具体的な方法において、
1)ポリペプチド又はタンパク質試料を計量し、前記ペプチド鎖加水分解試薬を添加し、凍結して真空吸引し、不活性ガス充填後、加熱して加水分解し、
2)十分に加水分解した後、回転蒸発して溶媒を除去し、さらに水で溶解して溶液のpHを6.5~7.5に調整し、
3)金属キレート剤を添加して2価金属塩化物中の2価金属イオンを除去し、遠心分離して、上清を得、
4)ステップ3)の前記上清を液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析法にかけて、前記上清の全イオンマスクロマトグラムを得、
5)ステップ4)の前記全イオンマスクロマトグラム中のグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン及びアスパラギン酸加水分解生成物の選択イオンマスクロマトグラムを抽出し、前記加水分解生成物の同位体二次フラグメントイオンが等しくないという特性に基づいて関係式を確立し、前記関係式からポリペプチド又はタンパク質試料中のグルタミンとグルタミン酸の比、アスパラギンとアスパラギン酸の比を得、
6)ポリペプチド又はタンパク質試料中のグルタミン酸及びアスパラギン酸の合計含有量をそれぞれ得て、ステップ5)で得られた前記比から、ポリペプチド又はタンパク質試料中のグルタミン酸、グルタミン、アスパラギン及びアスパラギン酸の実際含有量をそれぞれ算出する、ことを特徴とするアミノ酸の検出分析におけるペプチド鎖加水分解試薬の使用。
【請求項6】
ステップ1)の前記加水分解の温度が110℃であり、前記加水分解の時間が8~24hである、ことを特徴とする請求項5に記載のアミノ酸の検出分析におけるペプチド鎖加水分解試薬の使用。
【請求項7】
ステップ3)の前記金属キレート剤と前記2価金属イオンとの質量比が12~24:1である、ことを特徴とする請求項5に記載のアミノ酸の検出分析におけるペプチド鎖加水分解試薬の使用。
【請求項8】
ステップ5)では、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アスパラギン酸を除く各測定対象アミノ酸の様々な濃度の混合標準溶液を調製し、前記混合標準溶液の全イオンマスクロマトグラムを得て、前記混合標準溶液の全イオンマスクロマトグラム中の前記各測定対象アミノ酸の選択イオンマスクロマトグラムを抽出し、前記各測定対象アミノ酸の様々な濃度に対応するピーク面積を得て、前記各測定対象アミノ酸のピーク面積と濃度の検量線をそれぞれ作成し、前記各測定対象アミノ酸のピーク面積と濃度との線形関係式を得て、
ポリペプチド又はタンパク質試料の全イオンマスクロマトグラムを測定し、ポリペプチド又はタンパク質試料の全イオンマスクロマトグラムに対応する混合標準溶液の全イオンマスクロマトグラムのクロマトグラムのピーク位置から、ポリペプチド又はタンパク質試料中の測定対象アミノ酸に対応するピーク面積を得て、対応する前記各測定対象アミノ酸の線形関係式に代入して、ポリペプチド又はタンパク質試料中の測定対象アミノ酸の実際含有量を得る、ことを特徴とする請求項5に記載のアミノ酸の検出分析におけるペプチド鎖加水分解試薬の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸検出の分野に属し、特にペプチド鎖加水分解試薬、その製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は人の代謝において重要な役割を果たしており、タンパク質の定量測定は食品、医学、生物学において重要な意義を持っている。アミノ酸は、アミド基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)の両方を含む有機化合物の総称で、タンパク質やポリペプチドが加水分解されたもので、タンパク質中のアミノ酸を定性的・定量的に分析することもタンパク質構造解析の基礎となる。
【0003】
現在、タンパク質中のアミノ酸の分析方法には、主に酸加水分解法、アルカリ加水分解法、及び酵素法がある。酸加水分解法はグルタミンとアスパラギンの分解を引き起こし、トリプトファンも破壊され、アルカリ加水分解は一般的にNaOH、KOHなどの強アルカリを採用しているが、この加水分解条件の下でグルタミン、アスパラギン、トレオニン、セリン、アルギニンやシステインはすべて破壊される(▲ゴン▼天理、劉付芳、王衛ら。食品中のアミノ酸テストの発展[J].中国標準化,2018(S1):156-159.)。酵素加水分解では、アミノ酸の加水分解はしばしば不十分で、反応時間が長く、しかも妨害を導入してしまう。
【0004】
現行のアミノ酸検出方法GB5009.124-2016は、酸加水分解法を採用しており、ニニンヒドリンポストカラム誘導体化イオン交換クロマトグラフで食品中のアミノ酸の測定を行うことを以下のように規定している。食品中のタンパク質を塩酸で加水分解して遊離アミノ酸にし、イオン交換カラムで分離した後、ニンヒドリン溶液と色反応して、さらに可視分光光度検出器でアミノ酸の含有量を測定する。しかし、酸加水分解法でポリペプチドを処理する場合、グルタミンとアスパラギンという重要な栄養価と生理機能を持つ2種類のアミノ酸は、それぞれグルタミン酸(
図1(a)に示す)とアスパラギン酸(
図1(b)に示す)に加水分解され、その結果、測定されたアスパラギン酸とグルタミン酸の実験結果の一部はアスパラギンとグルタミンに由来するため、試料中の本来のグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、及びアスパラギン酸の4種類のアミノ酸の真の含有量を正確に検出することができなく、また、トリプトファンは酸性条件下で破壊されるため、現行の国家標準法では、アラニン、スレオニン、セリン、メチオニン、プロリン、グリシン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、リジンアミノ酸、及びアルギニン等の15種類のアミノ酸しか測定できず、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸を含むポリペプチド又はタンパク質を同時に検出することができないため、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸を含むポリペプチド又はタンパク質を含む試料の検出には適用できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規なペプチド鎖加水分解試薬を製造することによって、ペプチド鎖を加水分解すると同時に加水分解生成物のアミノ酸をO18同位体で標識し、さらに液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析法による加水分解物の同位体二次フラグメントイオンが等しくないという特性を利用して、ポリペプチド又はタンパク質試料中のグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン及びアスパラギン酸を検出することができ、多種類のアミノ酸の同時測定及び正確な定量を実現する、ペプチド鎖加水分解試薬、その製造方法、及びアミノ酸検出方法における該ペプチド鎖加水分解試薬の使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する技術的解決手段は次の通りである。
【0007】
ペプチド鎖加水分解試薬であって、
塩酸ジオキサン溶液、重水及び2価金属塩化物溶液からなり、前記塩酸ジオキサン溶液と前記重水と前記2価金属塩化物溶液とのモル比は、(2~4):(35~40):(0.005~0.012)である。
【0008】
前記塩酸ジオキサン溶液中の前記塩酸の濃度が1.7~2.2mol/Lである。
【0009】
前記2価金属塩化物溶液中の前記2価金属イオンがMg2+、Ca2+、Co2+、Ni2+、Zn2+、Cd2+、Cu2+、Pb2+、Ba2+、Sr2+、Fe2+、Sn2+から選択され得る。
【0010】
ペプチド鎖加水分解試薬の製造方法であって、
塩酸ジオキサン溶液と重水とを(2~4):(35~40)のモル比で均一に混合して、塩酸ジオキサン重水溶液を得るステップa)と、
前記塩酸ジオキサン塩溶液中の前記重水溶液と前記2価金属塩化物溶液とのモル比が(35~40):(0.005~0.012)となるように、ステップa)の前記塩酸ジオキサン重水溶液に、2価金属塩化物溶液を添加し、ペプチド鎖加水分解試薬を得るステップb)と、を含む。
【0011】
アミノ酸の検出分析における上記ペプチド鎖加水分解試薬の使用であって、具体的な方法において、
1)ポリペプチド又はタンパク質試料を計量し、前記ペプチド鎖加水分解試薬を添加し、凍結して真空吸引し、不活性ガス充填後、加熱して加水分解し、
2)十分に加水分解した後、回転蒸発して溶媒を除去し、さらに水で溶解して溶液のpHを6.5~7.5に調整し、
3)金属キレート剤を添加して2価金属塩化物中の2価金属イオンを除去し、遠心分離して、上清を得、
4)ステップ3)の前記上清を液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析法にかけて、前記上清の全イオンマスクロマトグラムを得、
5)ステップ4)の前記全イオンマスクロマトグラム中のグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン及びアスパラギン酸加水分解生成物の選択イオンマスクロマトグラムを抽出し、前記加水分解生成物の同位体二次フラグメントイオンが等しくないという特性に基づいて関係式を確立し、前記関係式からポリペプチド又はタンパク質試料中のグルタミンとグルタミン酸の比、アスパラギンとアスパラギン酸の比を得、
6)ポリペプチド又はタンパク質試料中のグルタミン酸及びアスパラギン酸の合計含有量をそれぞれ得て、ステップ5)で得られた前記比から、ポリペプチド又はタンパク質試料中のグルタミン酸、グルタミン、アスパラギン及びアスパラギン酸の実際含有量をそれぞれ算出する。
【0012】
ステップ1)の前記加水分解の温度が110℃であり、前記加水分解の時間が8~24hである。
【0013】
ステップ3)の前記金属キレート剤と前記2価金属イオンとの質量比が12~24:1である。
【0014】
ステップ5)では、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アスパラギン酸を除く各測定対象アミノ酸の様々な濃度の混合標準溶液を調製し、前記混合標準溶液の全イオンマスクロマトグラムを得て、前記混合標準溶液の全イオンマスクロマトグラム中の各測定対象アミノ酸の選択イオンマスクロマトグラムを抽出し、前記各測定対象アミノ酸の様々な濃度に対応するピーク面積を得て、前記各測定対象アミノ酸のピーク面積と濃度の検量線をそれぞれ作成し、前記各測定対象アミノ酸のピーク面積と濃度との線形関係式を得て、
ポリペプチド又はタンパク質試料の全イオンマスクロマトグラムを測定し、ポリペプチド又はタンパク質試料の全イオンマスクロマトグラムに対応する混合標準溶液の全イオンマスクロマトグラムのクロマトグラムのピーク位置から、ポリペプチド又はタンパク質試料中の測定対象アミノ酸に対応するピーク面積を得て、対応する前記各測定対象アミノ酸の線形関係式に代入して、ポリペプチド又はタンパク質試料中の測定対象アミノ酸の実際含有量を得る。
【発明の効果】
【0015】
従来技術と比較して、本発明の利点は以下にある。
【0016】
本発明では、グルタミン及びアスパラギンが強酸条件下でグルタミン酸及びアスパラギン酸に加水分解されるため、ポリペプチド及びタンパク質試料中のこれら4種類のアミノ酸を正確に検出することができないことに関して、新規なペプチド鎖加水分解試薬を考案し、特定のモル比の試薬を製造することにより、加水分解生成物のアミノ酸を標識しながらポリペプチド又はタンパク質を加水分解することができ、2価金属塩化物溶液を特定の割合で添加することにより、加水分解反応の特異性をより高め、その後の検出分離を容易にする。
【0017】
本発明では、考案された新規なペプチド鎖加水分解試薬を用いて、液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析法により、反応液中のグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン及びアスパラギン酸の加水分解後に生成する加水分解生成物の重水同位体二次フラグメントイオンが等しくないという特性に基づいて、グルタミン及びアスパラギンの加水分解により生成したO18グルタミン酸とO18アスパラギン酸を本来のアスパラギン酸及びグルタミン酸と区別することができ、同等モル質量のグルタミン及びアスパラギンがそれぞれ同等モル質量のO18グルタミン酸及びO18アスパラギン酸を生成し、グルタミン及びアスパラギンのペプチドセグメント中の位置が異なるため、生成されるグルタミン酸及びアスパラギン酸のO18の個数が異なり、それによりグルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アスパラギン酸の4種類のアミノ酸を10%未満の偏差で正確に定量することができる。
【0018】
本発明は、また、種々のポリペプチド及びタンパク質試料中の種々のアミノ酸を検出することができ、特にグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸を含有するポリペプチド及びタンパク質試料に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)は、本発明におけるアスパラギンを酸分解条件でアスパラギン酸に加水分解する化学反応方程式であり、
図1(b)は、本発明のグルタミンを酸分解条件でグルタミン酸に加水分解する化学反応方程式である。
【
図2】
図2(a)は、本発明ではグルタミンがペプチド鎖のN末端に位置することを示し、
図2(b)は、本発明ではグルタミンがペプチド鎖の中間の任意の位置にあることを示し、
図2(c)は、本発明ではグルタミンがペプチド鎖のC末端に位置することを示す。
【
図3】
図3(a)は、本発明のペプチド鎖加水分解試薬によるペプチド鎖の非C末端に位置するグルタミンGlnの加水分解の化学式であり、
図3(b)は、本発明のペプチド鎖加水分解試薬によるペプチド鎖のC末端に位置するグルタミンGlnの加水分解の化学式である。
【
図4】本発明のペプチド鎖加水分解試薬によるペプチド鎖の非C末端に位置するグルタミン酸Gluの加水分解の化学式である。
【
図5】本発明のグルタミン酸標準溶液のMS/MS質量スペクトルである。
【
図6】本発明では、グルタミン中のアミド基が加水分解されて1つのO
18が生成されるときのグルタミン酸のMS/MS質量スペクトルである。
【
図7】本発明では、グルタミン中のアミド基が加水分解されて2つのO
18が生成されるときのグルタミン酸のMS/MS質量スペクトルである。
【
図8】本発明では、リジン、グルタミン、ヒスチジン、アルギニン、セリン、アラニン、グリシン、イソロイシン、アスパラギン、ロイシン、グルタミン酸、メチオニン、プロリン、バリン、アスパラギン酸、チロシン、フェニルアラニン、スレオニン、システイン、及びトリプトファンなどの18種類のアミノ酸標準液の全イオンマスクロマトグラムである。
【
図9】本発明で抽出された個々のアミノ酸(ヒスチジン及びアルギニン)の選択イオンマスクロマトグラムである。
【
図10】本発明における混合ペプチドセグメントの加水分解生成物の全イオンマスクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、特定の実施例を参照して本発明をさらに説明するが、本発明は、記載された実施例に限定されるものではない。
【0021】
【0022】
本発明では、グルタミン及びアスパラギンが強酸条件下でグルタミン酸及びアスパラギン酸に加水分解されるため、これら4種類のアミノ酸が正確に検出されることができなくなることに着目し、塩酸ジオキサン溶液、重水及び2価金属塩化物溶液からなり、塩酸ジオキサン溶液と重水と2価金属塩化物溶液とのモル比が、(2~4):(35~40):(0.005~0.012)である塩ペプチド鎖加水分解試薬を考案した。
【0023】
本発明は、また、ペプチド鎖加水分解試薬の製造方法であって、
塩酸ジオキサン溶液と重水とを(2~4):(35~40)のモル比で均一に混合して、塩酸ジオキサン重水溶液を得るステップa)と、
塩酸ジオキサン塩溶液中の重水溶液と2価金属塩化物溶液とのモル比が(35~40):(0.005~0.012)となるように、ステップa)の塩酸ジオキサン重水溶液に、2価金属塩化物溶液を添加し、ペプチド鎖加水分解試薬を得るステップb)と、を含むペプチド鎖加水分解試薬の製造方法を提供する。
【0024】
本発明は、また、アミノ酸の検出分析における上記ペプチド鎖加水分解試薬の使用であって、具体的な方法において、
1)ポリペプチド又はタンパク質試料を計量し、前記ペプチド鎖加水分解試薬を添加し、凍結して真空吸引し、不活性ガス充填後、加熱して加水分解し、
2)十分に加水分解した後、回転蒸発して溶媒を除去し、さらに水で溶解して溶液のpHを6.5~7.5に調整し、
3)金属キレート剤を添加して2価金属塩化物中の2価金属イオンを除去し、遠心分離して、上清を得、
4)ステップ3)の前記上清を液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析にかけて、前記上清の全イオンマスクロマトグラムを得、
5)ステップ4)の前記全イオンマスクロマトグラム中のグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン及びアスパラギン酸加水分解生成物の選択イオンマスクロマトグラムを抽出し、前記加水分解生成物の同位体二次フラグメントイオンが等しくないという特性に基づいて関係式を確立し、前記関係式からポリペプチド又はタンパク質試料中のグルタミンとグルタミン酸の比、アスパラギンとアスパラギン酸の比を得、
6)ポリペプチド又はタンパク質試料中のグルタミン酸及びアスパラギン酸の合計含有量をそれぞれ得て、ステップ5)で得られた前記比から、ポリペプチド又はタンパク質試料中のグルタミン酸、グルタミン、アスパラギン及びアスパラギン酸の実際含有量をそれぞれ算出する、アミノ酸の検出分析におけるペプチド鎖加水分解試薬の使用を提供する。
【0025】
本発明では、「重水」という用語は、酸素原子の同位体である酸素18原子を含有する水分子である。
【0026】
本発明では、ペプチド鎖が酸分解されると、強酸によってアミド結合が切断され、それぞれα-アミノ基を有するアミノ酸とα-カルボキシル基を有する別のアミノ酸が生成され、例えば、グルタミンジペプチドが酸分解されると、アラニン及びグルタミン酸が生成される。
【0027】
ペプチド鎖は、通常、遊離α-アミノ酸及び遊離α-カルボキシル酸を含み、本発明では、「N末端」という用語は、ペプチド鎖中の遊離α-アミノ酸の一端であり、「C末端」という用語は、ペプチド鎖中の遊離α-カルボキシル酸の一端であり、一般に、ペプチド鎖のアミノ酸配列の順序は、ペプチド鎖のN末端で始まり、C末端で終わるように規定されている。したがって、1つのペプチド鎖中のアミノ酸の位置には、3つの場合が存在する可能性があり、例えば、ペプチド鎖中のグルタミンGlnの位置には、
図2に示すように、ペプチド鎖のN末端(
図2(a)に示す)、ペプチド鎖の中間の任意の位置(
図2(b)に示す)、ペプチド鎖のC末端(
図2(c)に示す)という3つの場合が存在する可能性がある。
【0028】
本発明では、「非C末端」という用語は、アミノ酸がペプチド鎖のN末端にある場合又はペプチド鎖の中間の任意の位置にある場合のいずれかを意味する。ペプチド鎖が本発明のペプチド鎖加水分解試薬により加水分解された後、加水分解生成物のアミノ酸には2つの場合が存在する可能性がある。例えば、グルタミンGlnがペプチド鎖の非C末端(α1)に位置する場合、カルボキシル基部位は外部からヒドロキシ基を得る必要があり、すなわち、ペプチド鎖加水分解試薬からヒドロキシ基を得る必要があり、本発明のペプチド鎖加水分解試薬はO
18を含むため、ペプチド鎖の非C末端に位置するグルタミンGln(a1)は、O
18のカルボキシル基を有する2つのグルタミン酸(a2)を生成し、加水分解反応式は
図3(a)に示すとおりである。グルタミンGlnがペプチド鎖のC末端(b1)に位置する場合、カルボキシル基部位にはヒドロキシ基を有し、外部からヒドロキシ基を得る必要がないため、ペプチド鎖のC末端に位置するグルタミン(b1)はO
18のカルボキシル基を有するグルタミン酸(b2)を1個のみ生成し、加水分解反応式は
図3(b)に示すとおりである。同様に、グルタミン酸Gluが非C末端(c1)に位置する場合にも、カルボキシル基部位は外部からヒドロキシ基を得て、O
18のカルボキシル基を有する1つのグルタミン酸(c2)を生成し、加水分解反応式は
図4に示すとおりである。したがって、グルタミンGlnがペプチド鎖の非C末端(a1)に位置する場合、1次質量分析を行うと、その分子量がグルタミン酸Gluの分子量より2Da多く、グルタミンGlnがペプチド鎖のC末端(b1)に位置する場合、その分子量がグルタミン酸Gluと同等となり、グルタミンGlnがペプチド鎖のC末端に位置する場合、その分子量が非C末端(c1)に位置するグルタミン酸Gluの分子量より2Da少なくなる。
【0029】
本発明では、「全イオンマスクロマトグラム」という用語は、クロマトグラムによって分離されて流出した画分が質量スペクトルに継続的に入ることを意味し、質量スペクトルは連続的に走査されてデータ収集を行い、各走査で1枚の質量スペクトルグラムが得られ、各質量スペクトルグラム中のすべてのイオン強度を加算すると、1つの合計イオン電流強度が得られ、イオン強度を縦軸、時間を横軸としてプロットしたグラフが全イオンマスクロマトグラムとなる。本発明における「選択イオンマスクロマトグラム」という用語は、あるイオンが抽出された又は選択されたマスクロマトグラムのピークと同時刻に重畳されたマスクロマトグラムを意味する。
【0030】
これに基づいて、本発明では、多重反応モニタリング法によって検出した結果、グルタミン酸のペプチド鎖のC末端のイオン対シグナルピークが148.06043/102.05540、グルタミン酸Gluのペプチド鎖の非C末端(c1)のイオン対シグナルピークが150.06483/102.05540、グルタミンGlnのペプチド鎖のC末端(b1)のイオン対シグナルピークが150.06483/104.05962、グルタミンのペプチド鎖の非C末端(a1)のイオン対シグナルピークが152.06895/104.05959であり、試料中のグルタミンからのシグナルがC末端のグルタミンと非C末端のグルタミンとの重畳シグナルであり、グルタミン酸からのシグナルがC末端のグルタミン酸と非C末端のグルタミン酸との重畳シグナルであり、イオン対間の関係式からペプチド鎖中のグルタミンGlnとグルタミン酸Gluの比が算出され得る。次に、国家標準法GB5009.124-2016によってグルタミン酸Gluの含有量が得られ、この含有量は、試料中のグルタミンGln及びグルタミン酸Gluの合計含有量であり、その比からグルタミンGln及びグルタミン酸Gluの実際含有量がそれぞれ得られ得る。同様に、試料中のアスパラギン及びアスパラギン酸の実際含有量も得られ得る。
【0031】
本発明の態様をさらに説明するために、以下では、図面及び実施例を参照して本発明を詳細に説明するが、理解できるように、これらの説明は、本発明の特徴及び利点をさらに説明するためのものであって、本発明の保護範囲を限定するものと理解すべきではなく、本発明の権利の範囲は特許請求の範囲に準じる。
【0032】
主な試薬:重水(上海泰坦科技股▲ふん▼有限公司、99.9%)、塩酸(CAS番号:7647-01-0;1,4-ジオキサン4M溶液、北京伊諾凱科技有限公司);
6つのペプチド鎖のアミノ酸配列(3文字の略語で表される)は、それぞれ次のとおりであり、
Gln-Gln(97.8%)((1)と記載)
Glu-Glu(97.2%)((2)と記載)
Asn-Asn(99.8%)((3)と記載)
Asp-Asp(99.2%)((4)と記載)
Ala-Cys-Phe-Gly-His-Ile-Lys-Leu(99.2%)((5)と記載)
Met-Pro-Arg-Ser-Trp-Val-Tyr-Trp(99.5%)((6)号と記載)
上記ペプチド鎖はすべて上海生工生物工程股▲ふん▼有限公司より購入し、塩化カルシウムCaCl2(上海泰坦科技股▲ふん▼有限公司、99.8%)、塩化マグネシウムMgCl2(上海アラジン試薬有限公司、99.9%)、金属キレート剤Chelex100(sigma、100~200mesh)、5%Chelex-100(w/v)配合:Chelex-100 5gを量り、滅菌純水100mlを加え、4℃で保存した。
主要な器械:Thermo Scientific Q Exactive四重極静電場オービトラップ高分解能質量分析システム、DionexUltiMate3000高速液体クロマトグラフィーシステム(米国サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
【実施例1】
【0033】
ペプチド鎖加水分解試薬の製造
a)4M塩酸ジオキサン溶液3mLと重水3mLを均一に混合して、2Mの塩酸ジオキサン重水溶液を得、
b)2M塩酸ジオキサン重水溶液1.5mLに、2価金属塩化カルシウム1mgを添加して、ペプチド鎖加水分解試薬を得た。
【0034】
混合ペプチド鎖の加水分解
ペプチド鎖(1)3mg、(2)2mg、(3)2.482mg、(4)2.462mg、(5)8.881mg、(6)10.392mgを正確に計量して、混合ペプチド鎖を得、15mlの加水分解チューブに添加し、さらに実施例1のペプチド鎖加水分解試薬を添加した。加水分解チューブをドライアイスに入れ、3min~5min凍結し、真空ポンプの吸引管に接続し、真空吸引し、その後、窒素ガスを充填し、真空吸引を繰り返し、窒素ガスを3回充填した後、窒素ガスを充填した状態で、開口を速やかにシーリングするか、又はスクリューキャップを締め付けた。
【0035】
開口をシーリングした加水分解チューブを110℃のオーブンに置いて、24h加水分解後、反応を止めて、冷却後、すべての反応液を15mL蒸発瓶内に移して、回転蒸発し、その後、水2mLで溶解して、再び回転蒸発して完全に乾燥した。最後に少量の水を添加して溶解し、水酸化ナトリウム溶液で試料のpHを中性7.0に調整し、メスフラスコを使用して10mLまで定容し、1mlの溶液を取り、5%金属キレート剤Chelex 100を1ml添加して、1min振とう混合した後、12000RPM/minの高速で遠心分離で上清を取り、高分解能質量分析を行った。
【0036】
計器パラメータ
高速液体クロマトグラフィー条件:移動相Aは、0.1%ギ酸と4mmol/Lギ酸アンモニウムを含む水であり、Bは、0.1%ギ酸を含むアセトニトリルであり、グラジエント溶出:0~2min、10%~40%B;2~9min、40%~85%B;9~12min、85%~100%B;12~15min、100%~10%B。試料注入量:5μL;流速:300μL/min;カラム温度:40℃;WatersACQUITY UPLC BEHC18カラム(1.7μm、2.1mm×100mm)。
【0037】
質量分析パラメータ:HESIイオン化方式を採用;スプレー電圧3.5kV;毛細管温度325℃;ヒーター温度350℃;シースエア30ユニット、補助気10ユニット;スキャンモード Full Scan/ddMS 2、収集範囲 100~800m/z、プラスイオン同時収集モード;解像度にはMS Full Scan 70000 FWHM、MS/MS 17500 FWHMを採用し、NCEは35eVである。
【0038】
グルタミン酸標準溶液のMS/MS質量スペクトルの測定
グルタミン酸5mgを正確に計量して水に溶解し、25mlのメスフラスコに定容し、200ug/mlのグルタミン酸標準溶液を得た。200ug/mlグルタミン酸標準溶液50ulを水9.95mlに添加して、1ug/mlグルタミン酸標準溶液を得て、蠕動ポンプによって10uL/mlを質量分析に注入して分析した。
図5に示すようなグルタミン酸標準溶液のMS/MS質量スペクトルが得られ、そのスペクトルから、1つの電荷を持つグルタミン酸の親イオンが148.050であり、特徴型フラグメントイオン102.056がグルタミン酸から1つのCO
2H
2を脱離したものであることが分かり、したがって、C末端におけるグルタミン酸のイオン対特徴シグナルは148.050/102.056であった。
【0039】
実験データ及びデータ分析
実施例1のペプチド鎖加水分解試薬で処理された混合ペプチドセグメント試料の上清を純水で1000倍希釈した後、蠕動ポンプで10uL/mlを質量分析に注入して分析し、試料の全イオンマスクロマトグラムを得て、次に、分子量150.06483の選択イオンマスクロマトグラムを抽出し、
図6を得た。
図6に示すように、グルタミンGln中のアミド基が加水分解されて1つのO
18のグルタミン酸のMS/MS質量スペクトルが生成され、ここで、親イオン150.06483は、ペプチド鎖の非C末端にあるGlu(cl)とペプチド鎖のC末端にあるGln(bl)からそれぞれ生成された1つのO
18を持つGlu(b2+c2)で構成されたが、この両方の場合に生成された脱CO
2H
2フラグメントは異なり、一方のフラグメントは102.05540であり、他方のO
18含有フラグメントは104.05962であり、この2つのフラグメントの比から、ペプチド鎖の非C末端にあるGlu(cl)と、ペプチド鎖のC末端にあるGln(bl)との含有量の比を決定することができる。
【0040】
実施例1のペプチド鎖加水分解試薬で処理された試料の上清を純水で1000倍希釈した後、蠕動ポンプで10uL/mlを質量分析に注入して分析し、試料の全イオンマスクロマトグラムを得て、次に、分子量152.06895の選択イオンマスクロマトグラムを抽出し、
図7を得た。
図7に示すように、グルタミン中のアミド基が加水分解されて2つのO
18のグルタミン酸のMS/MSマススペクトルが生成され、フラグメントイオン104.05959はペプチド鎖の非C末端のGlnの濃度に比例していた。
【0041】
したがって、ペプチド鎖加水分解試薬でペプチドセグメントを加水分解する場合、GlnはペプチドセグメントのC末端と非C末端で生成する生成物が異なる。
【0042】
試料中のグルタミンGlnのモル濃度をXとし、ペプチドセグメントのC末端のグルタミン(b1)のモル濃度をX1とすると、加水分解により生成されるグルタミン酸のm/zは150.06468であり、ペプチドセグメントの非C末端(a1)のグルタミン濃度をX2モルとすると、加水分解により生成されるグルタミン酸のm/zは152.06893である。
【0043】
同様に、試料中のグルタミン酸Gluのモル濃度をYとし、ペプチドセグメントの非C末端のグルタミン酸(c1)のモル濃度をY1とすると、加水分解により生成されるグルタミン酸のm/zは150.06468であり、ペプチドセグメントのC末端のグルタミン酸濃度をY2モルとすると、加水分解により生成されるグルタミン酸のm/zは148.06043である。
【0044】
アミノ酸とO18標識アミノ酸は、同じ衝突エネルギーでは、マススペクトルシグナルに差がなく、シグナル強度や積分面積(peak area)は濃度に比例していた。
Peak area(150.06468)∝(X1+Y1)
Peak area(152.06893)∝X2
Peak area(148.06043)∝Y2
ここで、「∝」は、二者が正比例の関係にあることを表している。
【0045】
親イオン150.06483は、ペプチド鎖の非C末端にあるGlu(c1)とペプチド鎖のC末端にあるGln(b1)からそれぞれ生成された1つのO
18を持つGlu(b2+c2)で構成され、どちらの場合も脱CO
2H
2は102.05540と104.05962のフラグメント分子量が得られたが、同一フラグメントに対応する断裂の位置が異なるため、フラグメント分子量が異なっていた。同じイオン化条件で、
図6に示すように、b1の左と右の脱カルボキシル化によれば、それぞれ102.05540と104.05962のフラグメントの分子量が得られ、フラグメントの強度の比率は5:4であり、この2つのフラグメントの比から、ペプチド鎖の非C末端にあるGlu(c1)とペプチド鎖のC末端にあるGln(b1)の含有量の比を決定することができ、それによって以下の式1が導き出される。
【0046】
【数1】
それぞれ分子量(150.06468、152.06893、148.06043、150.06468/102.05495、150.06468/104.05920)のイオン電流を抽出し、表2に示すような対応する積分面積(peak area)を得た。
【0047】
【0048】
表2から、Peak area(150.06468/102.05495)/Peak area(150.06468/104.05920)=2300456:2201342=23:22となり、式1に代入すると、X1とY1の比が3:2となることが得られる。
【0049】
式2:試料中のグルタミン/グルタミン酸=X/Y=(X1+X2)/(Y1+Y2)
Peak area(150.06468)∝(X1+Y1)、Peak area(152.06893)∝X2、Peak area(148.06043)∝Y2、及びX1:Y1=3:2を式2に代入すると、
グルタミン/グルタミン酸=(52006678*0.6+30914568)/(52006678*0.4+19201690)=62118574/41906127=1.000:0.6440が得られる。
【0050】
混合ペプチド鎖試料について、国家標準方法(GB 5009.124-2016、食品中のアミノ酸の測定)を使用して、グルタミン酸の総含有量を得て、試料中のグルタミン酸の含有量が4.798mgであることが得られ、この場合、試料中のグルタミンとグルタミン酸の比=1.000:0.6440から、グルタミンの含有量が2.918mgであり、グルタミン酸の含有量が1.880mgである、と算出できる。
【0051】
理論上の混合ペプチドセグメント試料中のグルタミンとグルタミン酸の比は(3*0.978/274):(2*0.972/276)=1.000:0.658であり、グルタミン酸の理論含有量は3.104mg(グルタミンジペプチドのモル数*2*グルタミンの分子量)であり、グルタミン酸の理論含有量は2.071mg(グルタミン酸ジペプチドのモル数*2*グルタミン酸の分子量)である。偏差計算式として偏差(%)=(理論含有量-検出含有量)/理論含有量*100%から計算した結果、グルタミンの偏差は5.99%であり、グルタミン酸の偏差は9.21%である、と算出できる。
【0052】
他のアミノ酸によるグルタミン/グルタミン酸、アスパラギン/アスパラギン酸の測定の干渉
本発明のペプチド鎖加水分解試薬でペプチドセグメントを加水分解して生成されたアミノ酸の可能な高分解能の質量電荷比により、グルタミン酸及びアスパラギン酸(O18含有分子を含む)の分析に対する他のアミノ酸の干渉が極力排除され、実施例1のペプチド鎖加水分解試薬による加水分解での他のアミノ酸の質量電荷比と一部の同位体の存在量の表が表3に示される。
【0053】
【0054】
実験結論:表3から分かるように、他のアミノ酸はグルタミン/グルタミン酸、アスパラギン/アスパラギン酸の測定に明らかな干渉がなく、本発明のペプチド鎖加水分解試薬を用いて加水分解し、さらに多重反応モニタリング法を利用して、ポリペプチド又はタンパク質試料中のグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸を測定することができる。
【実施例2】
【0055】
ペプチド鎖加水分解試薬の製造
a)4M塩酸ジオキサン溶液4mLと重水3.2mLを均一に混合して、2.2M塩酸ジオキサン重水溶液を得、
b)2.2M塩酸ジオキサン重水溶液1.5mLに、2価金属塩化マグネシウム1.2mgを添加して、ペプチド鎖加水分解試薬を得た。
【0056】
ペプチド鎖を加水分解して「110℃のオーブンに置いて、24h加水分解後」を「110℃のオーブンに置いて、8h加水分解後」に変更した。「水酸化ナトリウム溶液で試料のpHを中性7.0に調整する」を「水酸化ナトリウム溶液で試料のpHを中性7.5に調整する」に変更した。
【実施例3】
【0057】
ペプチド鎖加水分解試薬の製造
a)4M塩酸ジオキサン溶液2mLと重水2.8mLを均一に混合して、1.7M塩酸ジオキサン重水溶液を得、
b)1.7M塩酸ジオキサン重水溶液1.5mLに、2価金属塩化カルシウム0.6mgを添加して、ペプチド鎖加水分解試薬を得た。
【0058】
ペプチド鎖を加水分解して「110℃のオーブンに置いて、24h加水分解後」を「110℃のオーブンに置いて、12h加水分解後」に変更した。「水酸化ナトリウム溶液で試料のpHを中性7.0に調整する」を「水酸化ナトリウム溶液で試料のpHを中性6.5に調整する」に変更した以外、残りは実施例1と同様にした。
【0059】
実験結果
実施例1~3でグルタミン酸及びグルタミンの検出含有量をそれぞれ算出し、さらに3回分の平均値を算出した結果を表4に示す。
【0060】
【0061】
ここで、偏差(%)=(理論含有量-検出含有量)/理論含有量*100%
【実施例4】
【0062】
混合ペプチドセグメント中の18種類のアミノ酸の含有量
器具パラメータ
Thermo Scientific Q Exactive四重極静電場オービトラップ高分解能質量分析システム、DionexUltiMate 3000高速液体クロマトグラフィーシステム(米国サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
スキャンモード Full Scan、収集範囲 70~250m/z、プラスイオン同時収集モード;その他のパラメータは上記と同じである。
移動相:0.1%(v/v)formic acid in water及び0.1%(v/v)formic acid in acetonitrile
カラム:Waters XBridge C18カラム3.5um 2.1x150mm
移動相:0.1%(v/v)formic acid in water及び0.1%(v/v)formic acid in acetonitrile。開始B相は0%、5分間維持、10分かけて5%に上昇。
【0063】
各種アミノ酸5mgを正確に計量して水に溶解し、25mlのメスフラスコに定容し、200ug/mlのアミノ酸標準溶液を得た。200ug/mlのアミノ酸標準溶液を50ulずつ10mlのメスフラスコに入れ、10mlに定容し、1ug/mlのアミノ酸混合標準溶液を得て、
図8に示すような混合標準溶液の全イオンマスクロマトグラムを得た。
図8は本発明のリジン、グルタミン、ヒスチジン、アルギニン、セリン、アラニン、グリシン、イソロイシン、アスパラギン、ロイシン、グルタミン酸、メチオニン、プロリン、バリン、アスパラギン酸、チロシン、フェニルアラニン、スレオニン、システイン、トリプトファンなど18種類のアミノ酸標準溶液の全イオンマスクロマトグラムである。
【0064】
ヒスチジンやアルギニンを抽出するなど、全イオンマスクロマトグラム中の各測定対象アミノ酸の選択イオンマスクロマトグラムを抽出し、得られた選択イオンマスクロマトグラムを
図9に示す。各測定対象アミノ酸の様々な濃度に対応するピーク面積を得て、各測定対象アミノ酸のピーク面積と濃度との検量線をそれぞれ作成し、各測定対象アミノ酸の線形関係式を得た。
【0065】
図10に示すように、実施例1の混合ペプチド鎖の加水分解について高分解能質量分析テストを行い、混合ペプチドセグメントの加水分解生成物の全イオンマスクロマトグラムを得た。
【0066】
図8及び
図10の全イオンマスクロマトグラム中の各アミノ酸に対応するピーク面積位置から、混合ペプチドセグメント中の各アミノ酸のピーク面積を得て、対応する各アミノ酸の線形関係式に代入することにより、混合ペプチドセグメント中の各測定対象アミノ酸の検出含有量を得た。
【0067】
実験を3回繰り返し、18種類のアミノ酸の平均検出含有量をそれぞれ得て、結果を表5に示す。
【0068】
【0069】
実験結果
表5から、トリプトファンが本発明のペプチド鎖加水分解試薬の作用により破壊され、検出含有量が得られないことを除いて、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アスパラギン酸、その他多くのアミノ酸の実際含有量は、液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析法により10%未満の偏差で得られることが分かる。
【0070】
なお、以上は、本発明の好ましい実施形態にすぎず、当業者にとっては、本発明の原理から逸脱することなく、いくつかの改良及び修正が加えられてもよく、これらの改良及び修正も本発明の保護範囲とみなされる。
【国際調査報告】