(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-17
(54)【発明の名称】耐摩耗性クロムフリー鉄基ハードフェーシング
(51)【国際特許分類】
C23C 4/06 20160101AFI20240410BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20240410BHJP
C23C 4/12 20160101ALI20240410BHJP
【FI】
C23C4/06
B23K35/30 340C
C23C4/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562962
(86)(22)【出願日】2022-04-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 US2022024860
(87)【国際公開番号】W WO2022221561
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515195347
【氏名又は名称】エリコン メテコ(ユーエス)インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラッチ,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】チェニー,ジャスティン
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA01
4K031CA01
4K031DA04
(57)【要約】
5~12重量%のAlと、1.8~7.5重量%のBと、0~2重量%のCと、0~4.5重量%のMoと、0~6.5重量%のVと、残部Feとを有する鉄基合金を含む熱溶射材料フィードストックが提供される。鉄基合金は、クロム及びニッケルを実質的に含まない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶射材料フィードストックであって、
5~12重量%のAlと、
1.8~7.5重量%のBと、
0~2重量%のCと、
0~4.5重量%のMoと、
0~6.5重量%のVと、
残部Feと、を含む鉄基合金を含み、
前記鉄基合金が、クロム及びニッケルを実質的に含まない場合の、熱溶射材料フィードストック。
【請求項2】
前記鉄基合金が、
5~10.5重量%のAlと、
3~6.5重量%のBと、
0~1.2重量%のCと、
0~2.5重量%のMoと、
0~5.5重量%のVと、
残部Feと、
を含む、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項3】
前記鉄基合金が、
0.7~2重量%のCと、
1.1~4.5重量%のMoと、
1.3~6.5重量%のVと、
を更に含む、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項4】
前記鉄基合金が、
0.7~1.2重量%のCと、
1.1~2.5重量%のMoと、
1.3~5.5重量%のVと、
を更に含む、請求項2に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項5】
ハードフェーシング材料を製造するための方法であって、
請求項1に記載の熱溶射材料フィードストックをパルプロール及び紙ロール上にプラズマ溶射、レーザクラッディング、又は溶接して、前記ハードフェーシング材料を得ることを含む、方法。
【請求項6】
ハードフェーシング材料を製造するための方法であって、
請求項1に記載の熱溶射材料フィードストックを耐摩耗性材料上にプラズマ溶射、レーザクラッディング、又は溶接して、前記ハードフェーシング材料を得ること、を含む、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の鉄基合金を含む、ハードフェーシング材料。
【請求項8】
前記ハードフェーシング材料が、Fe-Al BCCマトリックス相中に15.5~65.5mol%の少なくとも1つのホウ化物相を含むハードフェースコーティングを含む、請求項7に記載のハードフェーシング材料。
【請求項9】
前記少なくとも1つのホウ化物相が、Fe
2Bホウ化物相、Mo
3B
2ホウ化物相、V
3B
4ホウ化物相、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項8に記載のハードフェーシング材料。
【請求項10】
前記Fe-Al BCCマトリックス相が、15.5~65.5mol%の前記少なくとも1つのホウ化物相を含む、請求項9に記載のハードフェーシング材料。
【請求項11】
前記Fe-Al BCCマトリックス相が、5.5~17.5重量%のAlを含む、請求項8に記載のハードフェーシング材料。
【請求項12】
前記鉄基合金が、1300KにおいてBCC_A2マトリックス相中に5重量%を超える総重量%アルミニウム含有量を含む、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項13】
前記鉄基合金が、1300KにおいてBCC_A2マトリックス相中に10重量%を超える総重量%アルミニウム含有量を含む、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項14】
前記鉄基合金が、1300KにおいてBCC_A2マトリックス相中に15重量%を超える総重量%アルミニウム含有量を含む、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項15】
1300Kにおいて存在するホウ化物相の総モル分率が、15mol%以上である、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項16】
1300Kにおいて存在するホウ化物相の総モル分率が、35mol%以上である、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項17】
1300Kにおいて存在するホウ化物相の総モル分率が、50mol%以上である、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項18】
前記鉄基合金が、前記鉄基合金の微細構造中に3重量%以上のAlを含む、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項19】
前記鉄基合金が、前記鉄基合金の微細構造中に5重量%以上のAlを含む、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項20】
前記鉄基合金が、前記鉄基合金の微細構造中に10重量%以上のAlを含む、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項21】
前記鉄基合金が、800HV
0.3以上の硬度を有する、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項22】
前記鉄基合金が、900HV
0.3以上の硬度を有する、請求項1に記載の熱溶射材料フィードストック。
【請求項23】
請求項1に記載の熱溶射材料フィードストックを備える、ヤンキードライヤー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月16日に出願された米国仮出願第63/175,795号の利益及び優先権を主張し、その開示は、その全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
発明の背景
1.開示の分野
本開示は、クロム及びニッケルを実質的に含まない鉄基合金を有する熱溶射材料フィードストックに関する。熱溶射材料フィードストックは、溶射、レーザクラッディング、又は肉盛りハードフェーシングプロセスに有効である。
【背景技術】
【0003】
2.背景情報
従来のハードフェーシング合金はクロムを含有する。クロムは、炭化物、ホウ化物、又はホウ炭化物等の硬質相の形成によって、耐摩擦性、耐食性、及び耐摩耗性を改善する。ほとんど全ての従来のステンレス鋼及びニッケル基超合金は、合金に所望のレベルの耐食性を付与するためにクロムを利用する。しかしながら、クロムを含有する合金を溶接又は熱溶射プロセスに供すると、合金中の危険な量のクロムが六価クロムとして空気中に放出される可能性がある。六価クロムは既知の発癌物質であり、人体に有毒である。吸入された場合、六価クロムは、肺損傷、鼻損傷、喉損傷、又は癌をもたらし得る。したがって、この健康上の懸念を軽減するためにクロムフリー材料を開発することが重要である。
【0004】
合金系からクロムを除去することの欠点は、耐食性の喪失である。これは、鉄基合金に特に当てはまる。特定の用途では、耐食性は不要であり、クロムフリー合金を利用することができる。しかしながら、ほとんどの用途では、合金が錆びたり腐食したりしないことが要件である。
【0005】
いくつかのクロムフリーの溶接ハードフェーシング合金及び熱溶射ハードフェーシング合金が開発されている。1つの例は、60%~75%のホウ化鉄を含むベイナイト鋼からなるクロムフリー合金を教示している特許文献1である。
【0006】
第2の例は、特許文献2、特許文献3、特許文献4の各々の開示である。3つの開示は全て、ニッケルを含有するクロムフリー合金を教示している。クロムと同様に、ニッケル及びニッケル含有合金もまた、近年、環境保健機関によって精査されている。したがって、合金中のニッケル及びクロムを避けることが重要である。
【0007】
第3の例は、チタンを含有するクロムフリー合金を教示する特許文献5である。チタンの添加は、特に合金が不活性ガス噴霧化プロセスに供される場合、製造性の課題を引き起こす可能性がある。したがって、合金中のチタンを避けることが望ましい。
【0008】
第4の例は、クロムフリーの耐摩耗性合金を教示する特許文献6である。この開示は、バナジウム、チタン、ニオブ、ジルコニウム、ハフニウム、タングステン、又はモリブデンで構成することができる、ホウ化タングステン及びホウ化モリブデン、並びにMC炭化物を形成する合金を有する例を含む。実施形態において、本開示の鉄基合金は、タングステン及び任意の種類の炭化物を含まない。やはり、これはコストを削減し、製造可能性を改善するためである。実施形態において、本開示の鉄基合金は、40重量%以上の高いホウ化物含有量かつ/又は低い炭素含有量を有する。
【0009】
実施形態において、本開示の鉄基合金は、30重量%~65重量%のホウ化物含有量を有する。他の実施形態において、本開示の鉄基合金は、35重量%~65重量%のホウ化物含有量を有する。更に他の実施形態において、本開示の鉄基合金は、40重量%~65重量%のホウ化物含有量を有する。
【0010】
実施形態において、本開示の鉄基合金は、2.0重量%未満の炭素含有量を有する。他の実施形態において、本開示の鉄基合金は、1.5重量%未満の炭素含有量を有する。更に他の実施形態では、本開示の鉄基合金は、1.0重量%未満の炭素含有量を有する。
【0011】
第5の例は、最大4.5重量%のアルミニウムを含有するクロムフリー鉄基熱溶射材料を教示する特許文献7である。十分な耐食性を提供するために、本開示は5.0重量%を超えるアルミニウムを含有する。本開示において、アルミニウムは、クロムフリー鉄基合金の耐食性に寄与する主要元素である。したがって、本開示では、アルミニウム含有量を最大にすることが重要である。
【0012】
しかしながら、特許文献1~7に記載された合金はいずれも、合金又は塗膜の耐食性及び/又は硬度の改善をもたらさない。本開示は、実質的にクロムフリーであり、実質的にニッケルフリーであり、かつ耐摩耗性である合金を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第8,268,543号
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0294962号
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/010126号
【特許文献4】米国特許第7,569,286号
【特許文献5】米国特許出願公開第2010/000858号
【特許文献6】米国特許第10,105,796号
【特許文献7】米国特許出願公開第2020/198302号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
概要
本開示の目的は、溶接及び熱溶射用途のための耐摩耗性を依然として維持しながら、実質的にクロムフリー及びニッケルフリーである鉄基合金、鉄基合金を含む熱溶射材料フィードストック、鉄基合金を含むハードフェーシング材料、並びにハードフェーシング材料を製造するための方法を提供することである。製造するための方法は、コアワイヤ充填(cored wire filling)、成形、並びに延伸及び粉末噴霧化を含むことができる。
【0015】
「実質的にクロムフリー」は、1.0重量%未満と定義される。好ましくは、「実質的にクロムフリー」は、0.5重量%未満と定義される。より好ましくは、「実質的にクロムフリー」は、0.1重量%未満と定義される。
【0016】
本開示の例示的な実施形態は、ハードフェーシング/ハードバンディング材料、ハードフェーシング/ハードバンディング材料を製造するために使用される合金又は粉末組成物、ハードフェーシング/ハードバンディング材料を製造するための方法、これらのハードフェーシング/ハードバンディング材料を組み込む構成要素又は基板、及びこれらのハードフェーシング/ハードバンディング材料によって保護される構成要素又は基板に関する。これらの構成要素又は基材の例は、パルプ及び紙の用途であり得るが、これらに限定されない。パルプ及び紙の用途としては、以下の構成要素及び以下の構成要素のための塗膜が挙げられる:ヤンキードライヤーを含む抄紙機で使用されるロール、エアドライヤー及び他の乾燥機、カレンダロール、マシンロール、プレスロール、巻取りロール、蒸解装置、パルプミキサー、パルパー、ポンプ、ボイラー、シュレッダー、ティッシュマシン、ロール及びベールハンドリングマシン、ファイバーガイダンスシステム、例えばデフレクタブレード、ドクターブレード、蒸発器、パルプミル、ヘッドボックス、ワイヤ部品、プレス部品、M.G.シリンダー、ポップリール、ワインダー、真空ポンプ、デフレーカー、並びに他のパルプ及び紙機器。
【0017】
多くの用途では、コーティングを用いて熱溶射又はハードフェーシングが行われた構成要素は腐食環境に曝される。これらの用途のいくつかでは、適切な耐食性を提供するためにクロムがコーティングに添加される。しかしながら、六価クロムに関する環境上、健康上及び安全上の懸念のために、本開示は、コーティング材料フィードストック中のクロムの量を回避又は最小化することを目的とする。
【0018】
本開示の例は、塗膜に耐食性を提供するためにクロムの代わりにアルミニウムを利用する。アルミニウムは、酸素に曝されると酸化アルミニウム層を生成することがよく知られている。この酸化アルミニウム層は、下にある塗膜を更なる腐食攻撃から保護するのに役立つ。本開示の例示的な実施形態は、5.0重量%以上のアルミニウムを含む合金に関する。
【0019】
さらに、多くの用途は、塗膜が耐摩耗性であることを必要とする。したがって、例示的な実施形態において、ハードフェーシング塗膜はホウ化鉄を形成する。ホウ化鉄は、一般にFe2Bとして形成される硬質の耐摩耗相である。モリブデン及びバナジウムの添加はまた、塗膜に対する耐摩耗性を改善するMo3B2及びV3B4のホウ化物相の形成を促進する。本開示の実施形態において、ハードフェーシング塗膜は60%未満のホウ化鉄を含有する。
【0020】
例示的な実施形態において、計算冶金学を使用して、Fe-Al体心立方(BCC)マトリックス相で15.5~65.5mol%の範囲のFe2B、Mo3B2、及びV3B4のホウ化物を形成する合金を同定する。マトリックスは、塗膜に十分な耐食性を提供するために最大量のアルミニウムを含有する。例示的な実施形態において、鉄BCCマトリックス相中のアルミニウム含有量は5.5~17.5重量%である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
金属合金組成物
或る実施形態において、熱溶射材料フィードストックは、組成範囲によって説明される鉄基合金を含む。実施形態において、鉄基合金は、P147-X1を包含し、本開示の熱力学的、微細構造的、及び性能の基準を満たす。例示的な実施形態において、鉄基合金は、クロム及びニッケルを実質的に含まない。合金中にクロム及びニッケルがないことは、材料を溶接又は熱溶射するときの健康上及び安全上の懸念を最小限に抑えるのに有利である。
【0022】
実施形態において、鉄基合金組成物は、重量パーセントで、
1.8~12.0のAlと、
1.8~7.5のBと、
0.0~2.0のCと、
0.0~4.5のMoと、
0.0~6.5のVと、
残部Feと、を含む。
【0023】
実施形態において、鉄基合金組成物は、重量パーセントで、
5~12のAlと、
1.8~7.5のBと、
0~2のCと、
0~4.5のMoと、
0~6.5のVと、
残部Feと、を含む。
【0024】
実施形態において、鉄基合金組成物は、重量パーセントで、
1.8~12.0のAlと、
1.8~7.5のBと、
0.5~2.0のCと、
1.0~4.5のMoと、
1.0~6.5のVと、
残部Feと、を含む。
【0025】
或る実施形態において、鉄基合金組成物は、重量パーセントで、
5.0~10.5のAlと、
3.0~6.5のBと、
0.0~1.2のCと、
0.0~2.5のMoと、
0.0~5.5のVと、
残部Feと、を含む。
【0026】
或る実施形態において、鉄基合金組成物は、重量パーセントで、
5.0~10.5のAlと、
3.0~6.5のBと、
0.5~1.2のCと、
1.0~2.5のMoと、
1.0~5.5のVと、
残部Feと、を含む。
【0027】
本開示の鉄基合金組成物は、C、Mo、Vを含まなくてもよい。実施形態において、鉄基合金組成物は、C、Mo、及びVを含む。他の実施形態において、鉄基合金組成物は、C、Mo、及びVを含まない。或る実施形態において、鉄基合金組成物は、重量%で2≧C≧0と、重量%で4.5≧Mo≧0と、重量%で6.5≧V≧0とを含む。好ましい実施形態において、鉄基合金組成物は、0.7~2.0重量%のCと、1.1~4.5重量%のMoと、1.3~6.5重量%のVとを含む。より好ましい実施形態では、鉄基合金組成物は、0.7~1.2重量%のCと、1.1~2.5重量%のMoと、1.3~5.5重量%のVとを含む。
【0028】
表Iは、この研究を行うために小規模インゴットの形態で生産された、Feの残部を含む公称実験合金組成を重量パーセントで列挙する。
【0029】
【0030】
熱力学的基準
本開示の例示的な実施形態は、特定の平衡熱力学的基準によって説明される合金に関する。合金は、記載された熱力学的基準の一部又は全てを満たすことができる。
【0031】
第1の熱力学的基準は、合金の耐食性に関する。この基準は、1300Kにおける無秩序体心立方(BCC_A2)マトリックス相中の総アルミニウム含有量(重量%)として定義される。BCC_A2マトリックス中のアルミニウム含有量(重量%)を追跡することにより、マトリックス相中に最大量のアルミニウムを有する合金の生産が可能になる。アルミニウムの主な機能は、合金の耐食性を高めることである。この基準は、耐食性クロムフリー合金の生産を支援するために重要である。
【0032】
或る実施形態において、1300KにおけるBCC_A2マトリックス相中のアルミニウム含有量は、5重量%以上である。別の実施形態において、1300KにおけるBCC_A2マトリックス相中のアルミニウム含有量は、10重量%以上である。更に別の実施形態において、1300KにおけるBCC_A2マトリックス相中のアルミニウム含有量は、15重量%以上である。或る実施形態において、1300KにおけるBCC_A2マトリックス相中のアルミニウムは5.0~20.0重量%である。別の実施形態において、1300KにおけるBCC_A2マトリックス相中のアルミニウムは10.0~20.0重量%である。更に別の実施形態において、1300KにおけるBCC_A2マトリックス相中のアルミニウムは15.0~20.0重量%である。Alの存在は、最大の耐食性を提供するためにBCC_A2相に必要である。BCC_A2中のAl含有量がこれらの範囲内であると、より高い耐食性が得られる。ただし、5.0~20.0重量%の範囲と比較して、範囲が15.0~20.0重量%である場合、より高い耐食性が得られる。
【0033】
第2の熱力学的基準は、合金の耐摩耗性及び硬度に関する。この基準は、1300Kにおいて存在するホウ化物相の総モル分率として定義される。ホウ化物相の例示的な実施形態は、ホウ化鉄、ホウ化モリブデン、ホウ化バナジウム、及びそれらの組み合わせを含む。ホウ化物相は、合金に硬度及び耐摩耗性を付与する。
【0034】
本開示の或る実施形態において、1300Kにおける総ホウ化物モル分率は15.0モル%以上である。別の実施形態において、1300Kにおける総ホウ化物モル分率は35.0モル%以上である。更に別の実施形態において、1300Kにおける総ホウ化物モル分率は50.0モル%以上である。
【0035】
表IIは、2つの熱力学的基準を満たす実験的合金及びそれらの計算された熱力学的結果を列挙する。
【0036】
【0037】
微細構造基準
実施形態において、合金は微細構造基準によって説明される。合金は、記載される微細構造基準の一部又は全部を満たすことができる。
【0038】
第1の微細構造基準は、合金又は塗膜微細構造の無秩序BCCマトリックス相中の測定されたアルミニウム含有量に関する。所望の耐食性を達成するためには、最小限のアルミニウム含有量が必要である。実施形態において、合金微細構造中のアルミニウム含有量は、3重量%以上である。別の実施形態において、合金微細構造中のアルミニウム含有量は、5重量%以上である。更に別の実施形態において、合金微細構造中のアルミニウム含有量は、10重量%以上である。或る実施形態において、合金微細構造中のアルミニウム含有量は3.0~25.0重量%である。別の実施形態において、合金微細構造中のアルミニウム含有量は5.0~25.0重量%である。更に別の実施形態において、合金の微細構造中のアルミニウム含有量は10~25重量%である。
【0039】
第2の微細構造基準は、合金又は塗膜の硬度に関する。適切なレベルの耐摩耗性を達成するためには、最小限の硬度が必要である。或る実施形態において、合金又は塗膜の平均硬度は、800HV0.3以上である。好ましい実施形態において、合金又は塗膜の平均硬度は、900HV0.3以上である。或る実施形態において、合金又は塗膜の平均硬度は、800~1300HV0.3である。別の実施形態において、合金又は塗膜の平均硬度は、900~1200HV0.3である。更に別の実施形態において、合金又は塗膜の平均硬度は、950~1100HV0.3である。
【0040】
表IIIは、この研究で生産された実験的に測定された合金に対して実験的に測定された全ての微細構造基準を列挙し、合金は、ワイヤへと生成する前に合金としてのそれぞれの特性を評価するために実験室規模のインゴットの形態で製造された。
【0041】
【0042】
表IIIに列挙した実験合金の評価後、P147-X11、P147-X13、及びP147-X14の合金を各々ワイヤに製造し、噴霧して塗膜を形成し、測定して、得られた塗膜の硬度を決定した。
【0043】
表IVは、少なくとも12の独立した硬度測定によって決定された3つの合金の平均塗膜硬度(HV0.3)、最小塗膜硬度(Min(HV0.3))、及び最大塗膜硬度(Max(HV0.3))を示す。比較のため、特許文献6に記載の材料、具体的にはAl 1.4、B 0.9、C:2.5、Mo 8.3、Mn 0.2、Si 0.15、V 9.6を同様の条件で噴霧した。示されるように、この化学は、アークスプレープロセスによって望ましい硬度よりも低い硬度をもたらした。
【0044】
【0045】
得られた塗膜を、表Vに列挙した実験パラメータを使用してツインワイヤアークプロセスによって生成した。
【0046】
【0047】
実施形態において、ハードフェーシング材料は、鉄基合金を含む熱溶射材料フィードストックを用いて製造される。実施形態において、ハードフェーシング材料は、ハードフェーシング材料を得るために熱溶射材料フィードストックをパルプロール及び紙ロール上にプラズマ溶射、レーザクラッディング、又は溶接することによって製造される。他の実施形態において、ハードフェーシング材料は、ハードフェーシング材料を得るために耐摩耗性材料上に熱溶射材料フィードストックをプラズマ溶射、レーザクラッディング、又は溶接することによって製造される。
【0048】
実施形態において、ハードフェーシング材料は、Fe-Al BCCマトリックス相中に15.5~65.5mol%の少なくとも1つのホウ化物相を含むハードフェースコーティングを含む。実施形態において、少なくとも1つのホウ化物相は、Fe2Bホウ化物相、Mo3B2ホウ化物相、V3B4ホウ化物相、及びそれらの組み合わせである。実施形態において、Fe-Al BCCマトリックス相は、5.5~17.5重量%のAlを含む。
【0049】
さらに、少なくとも本発明は、例えば単純化又は効率化等のために、特定の例示的な実施形態の開示によって本発明を作製及び使用することを可能にする方法で本明細書に開示されていることから、本明細書に具体的に開示されていない追加の要素又は追加の構造がない状態で本発明を実施することができる。
【0050】
前述の例は、単に説明の目的で提供されたものであり、決して本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。例示的な実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本明細書で使用される単語は、限定的な単語ではなく、説明及び例示の単語であることが理解される。添付の特許請求の範囲の範囲内で、その態様における本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、現在述べられているように、及び補正されたように、変更を行うことができる。本発明は、特定の手段、材料、及び実施形態を参照して本明細書に記載されているが、本発明は、本明細書に開示された詳細に限定されることを意図するものではなく、むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲内にあるような、全ての機能的に等価な構造、方法及び使用に及ぶ。
【国際調査報告】