(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-17
(54)【発明の名称】船舶の抗力を低減するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
B63B 1/38 20060101AFI20240410BHJP
【FI】
B63B1/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566945
(86)(22)【出願日】2022-04-25
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2022060825
(87)【国際公開番号】W WO2022229054
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523409119
【氏名又は名称】アルマダ・テクノロジーズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ARMADA TECHNOLOGIES LIMITED
【住所又は居所原語表記】25 Shandon Drive,Bangor Down BT20 5HR United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー・アームソン
(57)【要約】
船舶(2)にかかる抗力を低減するシステムであって、船体の少なくとも一部と水との間に気泡の層を送達するために、前記船舶(2)の前記船体の通常は水没している領域に設けられた複数の出口(4);前記複数の空気出口(4)のうちの1つ又は複数に空気及び水を供給するように適合された、少なくとも1つのベンチュリ管(6);前記船舶が水中を移動するときに、前記少なくとも1つのベンチュリ管(6)に海水を供給するように適合された、前記船舶(2)の船首領域に配置された少なくとも1つの海水入口(8);前記少なくとも1つのベンチュリ管(6)に海水を供給するように適合された少なくとも1つの海水ポンプ(10);前記少なくとも1つのベンチュリ管(6)を流れる海水中に周囲空気が取り込まれるように、前記少なくとも1つのベンチュリ管(6)に周囲空気を供給するように適合された、少なくとも1つの周囲空気入口ポート(16);少なくとも1つのベンチュリ管(6)に圧縮空気を供給する圧縮機(18);前記船体の前記複数の出口を通した気泡の送達を最適化し、それによって前記船舶の抗力低減を最適化するために、前記少なくとも1つの海水ポンプ供給される海水の流量を調節し、前記圧縮機からの圧縮空気の供給を調節するように適合されたコントローラを含む、システム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶にかかる抗力を低減するシステムであって、
船体の少なくとも一部と水との間に気泡の層を送達するために、前記船舶の前記船体の通常は水没している領域に設けられた複数の出口;
収束入口領域と、発散出口領域と、前記収束入口領域と発散出口領域との間のスロートとを有する少なくとも1つのベンチュリ管であって、少なくとも1つの空気入口が前記スロート内又はその下流に設けられ、前記出口領域が前記複数の空気出口のうちの1つ又は複数と連通する、少なくとも1つのベンチュリ管;
前記船舶が水中を移動するときに、前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記入口領域に水を供給するように適合された、前記船舶の船首領域に配置された少なくとも1つの水入口;
前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記入口領域に水を供給するように適合された少なくとも1つの水ポンプ;
前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記少なくとも1つの空気入口のうちの1つ又は複数に周囲空気を供給するように適合された、少なくとも1つの周囲空気入口ポートであって、前記少なくとも1つの周囲空気入口ポートからの空気が、前記少なくとも1つのベンチュリ管を通って流れる水中に同伴されて、気泡を前記複数の出口のうちの1つ又は複数に送達する、少なくとも1つの周囲空気入口ポート;
前記船体の前記複数の出口を通した気泡の送達を最適化し、それによって前記船舶の抗力低減を最適化するために、前記少なくとも1つの水ポンプから前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量を調節するように適合されたコントローラ
を含む、システム。
【請求項2】
さらに、空気を圧縮して圧縮空気を生成し、前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記少なくとも1つの空気入口の1つ又は複数に圧縮空気を選択的に供給する空気圧縮装置を含み、
前記コントローラは、前記船体の前記複数の出口を通る気泡の送達を最適化するために、前記空気圧縮装置から前記少なくとも1つのベンチュリ管への圧縮空気の供給を調節するように適合されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
複数の前記ベンチュリ管を含み、各ベンチュリ管は、前記出口のそれぞれの1つ又はそれぞれのグループに供給する、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの水ポンプは、前記船体の外部から水を受け入れる入口と連通する前記船体の内部のそれぞれのシーチェストに関連付けられる、請求項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの水ポンプは、バラストポンプ、冷却ポンプ、消火ポンプ又はジョッキーポンプなどの前記船舶内に設けられた既存のポンプを含む、請求項2又は3に記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの周囲空気入口ポートは、水面よりも上及び/又は甲板よりも上に位置する、請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記空気圧縮装置は少なくとも1つの空気圧縮機を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1つの圧縮機は、可変周波数駆動スクリュー圧縮機を含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記コントローラは、前記少なくとも1つの水ポンプから前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量を調節するように、及び/又は水を通る前記船舶の速度の関数として、前記空気圧縮装置から前記少なくとも1つのベンチュリ管への圧縮空気の供給を調節するようにプログラムされている、請求項1~8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
以下の1つ又は複数の流量を測定するために、1つ又は複数のセンサーが設けられ、前記1つ又は複数のセンサーは、前記コントローラに入力を提供する、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム:前記少なくとも1つの水入口から前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量;前記少なくとも1つの水ポンプから前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量及び/又は前記ポンプの速度;前記少なくとも1つの周囲空気入口ポートから前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される空気の流量;前記空気圧縮装置から前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される空気の流量;前記少なくとも1つのベンチュリ管から前記船舶の前記船体の前記複数の出口に供給される空気及び水の流量;前記少なくとも1つの水ポンプにかかる静水背圧。
【請求項11】
船舶の抗力を低減する方法であって、前記船舶の船体の通常は水没している領域に複数の出口を提供すること;
収束入口領域と、発散出口領域と、前記収束入口領域と発散出口領域との間のスロートとを有する少なくとも1つのベンチュリ管であって、少なくとも1つの空気入口が前記スロート内又はその下流に設けられ、前記出口領域が前記複数の空気出口のうちの1つ又は複数と連通する、少なくとも1つのベンチュリ管を提供すること;
前記船舶が水中を移動する際に、前記船舶の船首領域に位置する少なくとも1つの水入口から前記少なくとも1つのベンチュリ管の入口領域に水を供給すること;
少なくとも1つの水ポンプによって、前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記入口領域にポンピングすること;
ここで、前記少なくとも1つのベンチュリ管を通る水の流れは、前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記少なくとも1つの空気入口の少なくとも1つを通って、前記少なくとも1つの周囲空気入口ポートから周囲空気を同伴する;
前記船体の前記複数の出口を通した気泡の送達を最適化し、それによって前記船舶の抗力低減を最適化するために、前記少なくとも1つの水ポンプによって、前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量を調節すること
を含む、方法。
【請求項12】
さらに、空気圧縮装置から圧縮空気を前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記少なくとも1つの空気入口のうちの1つ又は複数に選択的に供給して、前記船体の前記複数の出口を通る気泡の送達を最適化するために、前記空気圧縮装置から前記少なくとも1つのベンチュリ管への圧縮空気の供給を調節するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの水ポンプから前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量は、水を通る前記船舶の速度の関数として調節される、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記空気圧縮装置から前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される空気の流量は、水を通る前記船舶の速度の関数として調節される、請求項12に従属する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの水ポンプから前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量、及び/又は前記空気圧縮装置から前記少なくとも1つのベンチュリ管への圧縮空気の供給は、以下のうちの1つ又は複数の関数として調節される、請求項13又は14に記載の方法:前記少なくとも1つの水入口から前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量;前記少なくとも1つの水ポンプから前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量;前記少なくとも1つの周囲空気入口ポートから前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される空気の流量;前記空気圧縮装置から前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される空気の流量;前記少なくとも1つのベンチュリ管から前記船舶の前記船体の前記複数の出口に供給される空気及び水の流量;前記少なくとも1つの水ポンプにかかる静水背圧。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気潤滑によって船舶にかかる抗力を低減するためのシステム及び方法に関し、特に、抗力(摩擦)を低減するために、船舶が水中を移動する際に、船舶の船体と船体の下を流れる水との間に空気潤滑層を設けることにより、船舶を水中で駆動するのに必要なエネルギーを削減し、燃料を節約し、より経済的な推進力を得るシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際海運は、温室効果ガスの排出源として大きく増加している。海上輸送は年間約9億4,000万トンのCO2を排出し、世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約2.5%を占めている。さらに、商業輸送の効率を改善するための措置を早急に講じない限り、これらの排出量は大幅に増加すると予測されている。2018年1月1日より、欧州経済領域(EEA)内の港で貨物や乗客の積み下ろしを行う総トン数5,000トンを超える大型船舶は、関連するCO2排出量及びその他の関連情報を監視し、報告する必要がある。
【0003】
水は粘性媒体であるため、水中を推進する船の船体にはせん断粘性抗力がかかる。船体が水中でより速く推進されるにつれて、力の大きさは増大する。船舶の船体の外側と船舶が移動する水域との間に気泡を挿入することによって、そのような抗力を低減することが知られている。結果として生じる気泡の層と水との間の抗力は、船体と水とが直接接触する場合よりも小さく、船体に作用する粘性抗力の大幅な低減を達成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
欧州特許第2817208号、欧州特許第2915735号、欧州特許第2925736号、欧州特許第3290324号、及び欧州特許第3290325号に開示されている既知のシステムの1つでは、船舶の船体の平らな領域に空気キャビティが設けられ、このキャビティに空気が供給され、海水がキャビティを流れるときに海水に空気が混合される。キャビティ内の空気は通常、圧縮機によって供給される。この既知のシステムの問題は、このシステムが受動的なせん断効果に作用するため、本質的に水中を通過する船舶の速度と連動し、制限されることである。速度が速いほどせん断効果が大きくなり、空気噴射量が大きくなる。このため、システムの最低動作速度は約9ノットとなり、多くの種類の船舶には適さないことになる。さらに、せん断効果の性質により、気泡の特性を制御することができない。このシステムは船体の側壁でも動作できない。
【0005】
イギリス特許第2505281号、韓国特許出願公開第20170031425号、韓国特許出願公開第20180000968号、及び韓国特許出願公開第20200055517号に開示されているような他の既知のシステムには、船体水界面にノズルが組み込まれており、そこから圧縮空気が圧力下で「噴射」される。船の動きにより、6自由度で、個々のノズル位置の瞬間静水圧が継続的に変化する。船舶の動き(より具体的には、各ノズルの対応する瞬間的な深さ)を正確に予測し、正確な静水圧の一致によって最適な圧縮空気の供給を確保することは不可能であると考えられている。その結果、どの瞬間においても、各噴射ノズルで過圧又は過小圧の空気が供給されることになる。その結果、圧縮空気は、加圧不足の場合には供給が不足するか、過圧の場合には高圧で排出される。これは潤滑不足効果又は過剰な空気噴射のいずれかを引き起こし、供給されたマイクロバブルの未決定の割合が底部境界層の平らな部分内に取り込まれるのではなく海に失われる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、船舶にかかる抗力を低減するシステムが提供され、このシステム、船体の少なくとも一部と水との間に気泡の層を送達するために、前記船舶の前記船体の通常は水没している領域に設けられた複数の出口;
収束入口領域と、発散出口領域と、前記収束入口領域と発散出口領域との間のスロートとを有する少なくとも1つのベンチュリ管であって、少なくとも1つの空気入口が前記スロート内又はその下流に設けられ、前記出口領域が前記複数の空気出口のうちの1つ又は複数と連通する、少なくとも1つのベンチュリ管;
前記船舶が水中を移動するときに、前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記入口領域に水を供給するように適合された、前記船舶の船首領域に配置された少なくとも1つの水入口;
前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記入口領域に水を供給するように適合された少なくとも1つの水ポンプ;
前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記少なくとも1つの空気入口のうちの1つ又は複数に周囲空気を供給するように適合された、少なくとも1つの周囲空気入口ポートであって、前記少なくとも1つの周囲空気入口ポートからの空気が、前記少なくとも1つのベンチュリ管を通って流れる水中に同伴されて、気泡を前記複数の出口のうちの1つ又は複数に送達する、少なくとも1つの周囲空気入口ポート;
前記船体の前記複数の出口を通した気泡の送達を最適化し、それによって前記船舶の抗力低減を最適化するために、前記少なくとも1つの水ポンプから前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量を調節するように適合されたコントローラ
を含む。
【0007】
このシステムはさらに、追加の空気を、少なくとも1つのベンチュリ管の前記少なくとも1つの空気入口の少なくとも1つ、又は少なくとも1つのベンチュリ管の空気入口の上流もしくは下流の水の流れに選択的に供給することを含み得る。
【0008】
前記追加の空気の少なくとも一部は、空気圧縮装置によって供給される圧縮空気を含んでもよく、前記コントローラは、船体の複数の出口を通る気泡の送達を最適化するために、空気圧縮装置から少なくとも1つのベンチュリ管への圧縮空気の供給を調節するように適合される。空気圧縮装置は、可変周波数駆動スクリュー圧縮機などの少なくとも1つの空気圧縮機を含むことができる。
【0009】
前記追加の空気の少なくとも一部は、少なくとも1つのベンチュリの空気入口の上流又は下流で水の流れに混合される気泡、より好ましくはナノスケール気泡の形態であってもよい。
【0010】
一実施形態では、システムは複数の前記ベンチュリ管を含むことができ、各ベンチュリ管は前記出口のそれぞれ1つ又はそれぞれのグループに供給する。
【0011】
少なくとも1つの水ポンプは、船舶の周囲の水と連通する水入口と連通する船体の内部のそれぞれのシーチェストと関連付けることができる。あるいは、少なくとも1つの水ポンプは、バラストポンプ、冷却ポンプ、消火ポンプ又はジョッキーポンプなど、船舶内に設けられた既存のポンプを含んでもよい。
【0012】
少なくとも1つの周囲空気入口ポートは、船舶が浮かぶ水面よりも上に位置することが好ましい。
【0013】
好ましくは、コントローラは、水を通る船舶の速度の関数として、少なくとも1つの水ポンプから少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量を調節するようにプログラムされる。コントローラはさらに、船舶の喫水の関数として、及び/又は少なくとも1つの水ポンプに対する静水背圧の関数として、少なくとも1つの水ポンプから少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量を調節するようにプログラムされ得る。以下を決定するために、1つ又は複数のセンサーを提供することができる:少なくとも1つの水入口から少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量のうちの1つ以上の流量;少なくとも1つの水ポンプから少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量;少なくとも1つの周囲空気入口ポートから少なくとも1つのベンチュリ管に供給される空気の流量;少なくとも1つのベンチュリ管から船舶の船体の複数の出口に供給される空気及び水の流量;少なくとも1つの水ポンプの静水背圧。前記1つ以上のセンサーはコントローラに入力を提供する。
【0014】
本発明のさらなる態様によれば、船舶の抗力を低減する方法が提供され、この方法は、前記船舶の船体の通常は水没している領域に複数の出口を提供すること;
収束入口領域と、発散出口領域と、前記収束入口領域と発散出口領域との間のスロートとを有する少なくとも1つのベンチュリ管であって、少なくとも1つの空気入口が前記スロート内又はその下流に設けられ、前記出口領域が前記複数の空気出口のうちの1つ又は複数と連通する、少なくとも1つのベンチュリ管を提供すること;
前記船舶が水中を移動する際に、前記船舶の船首領域に位置する少なくとも1つの水入口から前記少なくとも1つのベンチュリ管の入口領域に水を供給すること;
少なくとも1つの水ポンプによって、前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記入口領域にポンピングすること;
ここで、前記少なくとも1つのベンチュリ管を通る水の流れは、前記少なくとも1つのベンチュリ管の前記少なくとも1つの空気入口の少なくとも1つを通って、前記少なくとも1つの周囲空気入口ポートから周囲空気を同伴する;
前記船体の前記複数の出口を通した気泡の送達を最適化し、それによって前記船舶の抗力低減を最適化するために、前記少なくとも1つの水ポンプによって、前記少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量を調節すること
を含む。
【0015】
この方法は、追加の空気を、少なくとも1つのベンチュリ管の前記少なくとも1つの空気入口のうちの1つ又は複数に、又は少なくとも1つのベンチュリの上流又は下流の水の流れに選択的に供給するステップを含み得る。
【0016】
前記追加の空気の少なくとも一部は、少なくとも1つのベンチュリの空気入口の上流又は下流で水の流れに混合される気泡、より好ましくはナノスケール気泡の形態であってもよい。
【0017】
前記追加の空気の少なくとも一部は、空気圧縮装置によって供給される圧縮空気を含んでもよく、前記方法は、船体の複数の出口を通る気泡の送達を最適化するために、前記圧縮空気を、少なくとも1つのベンチュリ管の前記少なくとも1つの空気入口のうちの1つ又は複数に供給し、空気圧縮装置から少なくとも1つのベンチュリ管への圧縮空気の供給を調節することを含む。
【0018】
少なくとも1つの水ポンプから少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量は、水を通る船舶の速度の関数として調節されることが好ましい。空気圧縮装置から少なくとも1つのベンチュリ管に供給される空気の流量は、水を通る船舶の速度の関数として調節され得る。少なくとも1つの水ポンプから少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量は、船舶の喫水及び/又は少なくとも1つの水ポンプにかかる静水背圧の関数としてさらに調節され得る。
【0019】
少なくとも1つの水ポンプから少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量は、適切なセンサーによって測定された、以下のうちの1つ以上の関数として調節され得る:少なくとも1つの水入口から少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量;少なくとも1つの水ポンプから少なくとも1つのベンチュリ管に供給される水の流量;少なくとも1つの周囲空気入口ポートから少なくとも1つのベンチュリ管に供給される空気の流量;少なくとも1つのベンチュリ管から船舶の船体の複数の出口に供給される空気及び水の流量;少なくとも1つの水ポンプの静水背圧。
【0020】
次に、本発明の一実施形態による、空気潤滑によって船舶の抗力を低減するシステムについて、単なる例として、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態による、空気潤滑によって船舶の抗力を低減するためのシステムを組み込んだ船舶の概略側面図である。
【
図3】
図1のシステムのベンチュリ管の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図面に示すように、空気潤滑によって船舶2の抗力を低減するシステムは、船舶の水没した船体の少なくとも一部の境界層への空気の泡の噴射を制御する。空気の泡を境界層に噴射するための複数の出口4が船舶の船体に設けられており、気泡は船体の後方から船尾に向かって広がり、船体の水没表面の大部分を覆い、これにより、船舶の船体に作用する粘性抗力が大幅に減少する。
【0023】
本発明は、空気潤滑の目的で、前記複数の出口4を介して船舶の境界層に噴射される気泡のサイズ及び空気の量を制御できるシステムを提供する。これは、複数のベンチュリ管6を使用して船舶内部の配管システム内の水に空気を噴射し、ベンチュリ管6への空気と水の両方の流量を制御して空気を水の流れに取り込むことによって達成される。これにより、境界層への気泡の噴射をより高度に制御できるようになり、船舶の周りの流れを利用して電力要件を削減できるようになる。正確に制御された空気と水の混合物を境界層に噴射することにより、乱流の発生が回避され、船底(場合によっては側壁)での気泡の拡散も軽減される。
【0024】
図面に示される実施形態では、一連のベンチュリ管6(例えば6本)が設けられ、それぞれが船舶2の船体内の個別の出口又は出口群4に供給する。単一のベンチュリ管6を使用してもよく、船舶のサイズ及び/又は船舶の船体に設けられた出口4の数に適合するように任意の数の複数のベンチュリ管を使用してもよい。
【0025】
水は、まず船舶の船首に配置された受動的給水口8から各ベンチュリ管6に供給され、船舶が水中を移動するときに水が給水口に入るようにする。第二に、水は1つ以上の水ポンプ10を介して各ベンチュリ管を通して選択的にポンピングされ、これにより、各ベンチュリ管6への水の流量は、各水ポンプ10の動作を制御することによって制御され得る。
【0026】
図示の実施形態では、水ポンプ10が2台設けられ、それぞれは、船の船体の外側から水を受け取るための入口を備えた船2の船体に位置するそれぞれのシーチェスト12から一群のベンチュリ管6に水を供給する。あるいは、ベンチュリ管6に水を供給するために既存のバラスト/冷却/消火器/ジョッキージャンプを使用することも考えられ、そのようなポンプは典型的には船舶2のエンジンルームに設置される。
【0027】
各ベンチュリ管6を流れる水中に混入された空気は、大気と連通する大気ポート16(例:船の外甲板に設置)から各ベンチュリ管6、好ましくは各ベンチュリ管のスロートに位置する各空気入口14に供給される。
【0028】
さらに空気を各ベンチュリ管6内に、又は各ベンチュリ管の上流もしくは下流の水流内に供給することもできる。
【0029】
一実施形態では、前記さらなる空気の少なくとも一部は、適切な気泡発生器によって生成され、各ベンチュリ管の前記周囲空気入口14の上流又は下流の水の流れに導入される気泡、より好ましくはナノスケールの気泡を含んでもよい。ナノスケールの気泡は、システム内及び船体の外側の濡れた表面領域でのスライムの成長を減らし得る。
【0030】
一実施形態では、前記さらなる空気の少なくとも一部は、好ましくは各ベンチュリ管6の第2の組の空気入口20を介して、圧縮機18などの圧縮空気源からの圧縮空気を含んでもよい。前記第2組の空気入口20は、圧縮空気源からそれぞれのベンチュリ管6に空気を供給するために、各ベンチュリ管6のスロート(又はスロートの下流のベンチャーチューブの発散セクション、又はスロートの上流又は下流のその他の場所)に配置された環状空気噴射ノズルを含むことができる。
【0031】
制御システムは、各ベンチュリ管6への水及び任意に空気の供給を制御して、船舶の船体の水没部分に位置する複数の出口4を介して、船舶2の境界層への気泡の最適なサイズ及び流量を生成するために設けられる。
【0032】
システムの能動要素と受動要素の複合効果により、出力(気泡)の正確な制御が可能になり、現在のクラス最高のシステムと比較してエネルギー要件が削減される。受動水及び能動水のシステム、及び任意選択でベンチュリ管への空気/気泡の供給システムにより、船舶2の動作条件、特に速度に関係なく、船舶2の境界層への気泡の流量を最適化することができる。
【0033】
空気は、制御システムを介して受動的(ベンチュリ管内で発生する圧力降下による)と能動的(空気圧縮機及び/又は気泡発生器からの圧縮空気の供給による)の両方でベンチュリ管又は各ベンチュリ管に噴射でき、噴射ノズルからの一般的な動作条件に合わせて空気の供給(速度と圧力)を調整できる。
【0034】
受動的な気泡の噴射サイズ(ベンチュリ管内で発生する圧力降下による)は、各ベンチュリ管6を通る流速によって決まる。それぞれのベンチュリ管6を通る海水の流量を制御するための水ポンプ10の使用によるこの流速の能動的制御により、受動空気の噴射条件の制御が可能になる。ベンチュリ管6を通る水の流量の制御により、空気/水の混合物を正しい速度で境界層に噴射することができ、したがって境界層の乱流が減少し、気泡の分散が減少する。
【0035】
受動水の入口8は、船首のよどみ点の近くに配置されることが好ましい。船舶が水中を移動すると、水(「システム水」)がこの入口から入る。
【0036】
必要に応じて、最適な性能を提供するために、海水ポンプ10又は各海水ポンプ10は、各ベンチュリ管6に水を追加してエダクター効果を生み出す。エダクター効果により吸引力が発生し、システム内の水流を増加又は維持し、ベンチュリ管6によって生じる摩擦損失と背圧を克服する。各水ポンプ10によって供給される追加の水は、受動水の入口で摂取される受動水を補い、ポンプ速度を注意深く制御することにより、船体の底部と側壁にある出口4を介して船から排出される水と空気の正確な速度と量が確保される。
【0037】
結合されたシステム水(受動入口+能動にポンプで送られる)は、各ベンチュリ管6を通過する。2つの水の流れがベンチュリ管6の上流で合流すると、水の総流量が増加する。この流量の増加により、局所的な圧力低下が生じる(ベルヌーイの法則)。各ベンチュリ管の収束入口セクションは、圧力降下を大気圧未満に維持するように設計(比例配分)され、その結果、正味の吸引効果が得られる。周囲空気は、好ましくは水面及び/又はデッキレベルから周囲空気ポート16に引き込まれ、空気の泡として各ベンチュリ管6を通って流れる水中に同伴される。
【0038】
気泡のサイズは、各ベンチュリ管6を通る水の流量によって決まる。したがって、各ベンチュリ管自体の内部形状、特にそのスロート領域の断面積は、生成される気泡の特性に対する「大まかな」制御機構を提供する。気泡の制御を容易にするために、調整可能なスロート面積を備えた可変サイズのベンチュリを設けることができることが想定される。
【0039】
内部に複数の空気噴射ノズルを有する圧縮機から空気を供給するために、任意の環状空気噴射ノズルアセンブリ20を設けることができる。空気噴射ノズルアセンブリ20の空気噴射ノズルは、それぞれのベンチュリ管のスロートセクション内、外気入口14のすぐ下流に配置され得る。圧縮機18は、特定の船舶の運転条件(すなわち、正味エネルギー使用量を最小限にする)に合わせて最適な空気潤滑を確保するため、必要とされる正確な圧力及び体積流量で圧縮空気を生成するために使用できる可変周波数駆動(VFD)スクリュー圧縮機を含むことができる。
【0040】
空気噴射ノズルアセンブリ20の噴射ノズルの形状及び設計は、各ベンチュリ管6を通過する水の流れに噴射される気泡の正確な制御(均質化)を可能にするように適合され得る。
【0041】
センサベースの自動制御システムが提供され、船舶の一般的な運転条件、特に船舶の速度に基づいて物理的コンポーネントの相互作用を管理して、最適な出力を確保し、エネルギー使用量を削減することができる。制御システムは、継続的な最適化を可能にする機械学習機能を備えて開発され得る。
【0042】
制御システムは、ベンチュリ管によって生成される空気と水の混合物の正確な制御を維持するため、各ベンチュリ管に流入する受動周囲空気を自動的にカスタマイズし、任意選択で圧縮機からの追加の能動空気で受動空気量を補い、さらには水ポンプの動作を制御することにより各ベンチュリを通る水の流量を制御するようにプログラムできる。コントローラはさまざまなセンサー、例えば、船舶速度センサー、周囲空気入口ポート16からの空気流量を測定する空気流量計、周囲の空気圧、空気圧及び/又は圧縮機18からの流量を決定する圧力センサー、及び/又は受動水の入口8及び水ポンプ10(及び/又はポンプ速度センサー)からの水流を測定する水流量計、及び/又は水ポンプ10の静水背圧を決定するための圧力センサーから入力を受け取ることができる。コントローラはまた、例えばシステムが船舶によって運ばれる荷重を補償できるように、センサーから情報を受信して船舶の喫水を決定することもできる。コントローラは、船舶の一般的な運転条件の広範囲にわたってシステムの最適な動作を提供するため、特に、船舶の速度に応じて各ベンチュリ管に供給される水の流量と、好ましくは空気の流量を制御するため、これらのさまざまなセンサーから受け取った情報に応じて、各ベンチュリ管に供給される水の流量と、できれば空気の流量を制御するようにプログラムすることができる。
【0043】
i)出口4における局所的な水の流速、及びii)水ポンプ10の静水背圧に応じて、水ポンプ10は、出口4の圧力に打ち勝つためにさらに激しく働かなければならない可能性があり、したがって水ポンプ10のエネルギー「需要」は船舶の喫水とともに増加する。水中を通過する船舶の速度は、水ポンプ10の動作速度の主な決定要因であることが好ましい。しかしながら、水中での船舶の喫水は、水ポンプ10からの必要な流出量を適応させる二次的な影響を与える可能性がある。ポンプ10は、出口4におけるより高い/より低い圧力に打ち勝つために、より高い又はより低い流量/速度を送出するように設計され得る。要するに、ポンプ速度、質量流量、圧力及び射出速度はすべて本質的に関連している。
【0044】
噴射点での乱流を避けるために、噴射点(船体の出口4の位置)における境界層内の流れの速度に等しい出口噴射速度を目標とすることが望ましい。水ポンプ10は、噴射されたシステム水と出口4を通過する海水との間の相対流量差がゼロであることを保証するように適合及び制御される。噴射点における境界層の流れの速度、つまり水ポンプの需要に影響を与える要因は次のとおりである:
1.船舶の前進速度(水中の速度)-船舶のブリッジの測定値から取得できる;
2.船体の出口4の位置-設計/設置及びCFD分析を通じて判明する;
3.喫水も局所的な流速に影響を与え得る-これは音響測深機や喫水計で検出され得る;
4.内部パイプラインの汚れにより、システム/水ポンプの背圧が増加する-これは圧力計で検出され得る。
【0045】
船体の出口4は、空気と水の混合物を船の底部及び側壁の流体力学的境界層に送り込む。出口は、流れの乱流を最小限に抑え、境界層への流れを確実に流すように適合させることができる。
【0046】
船舶の船体の出口4での気泡の形成を促進するために、ベンチュリ管の上流又は下流で水に界面活性剤を添加してもよい。
【0047】
このシステムは船の底部と側面に継続的な空気潤滑を提供し、水による抵抗を軽減する。制御システムは、船舶の総エネルギー使用量を確実に最小限に抑え、出口から供給される空気と水の混合物の「レシピ」を調整するため、各ベンチュリ管に供給される受動及び能動の水と空気の間の相互作用を自動的に最適化するようにプログラムすることができる。これにより、動作条件/速度/船舶の種類に関係なく、システム出力の3D制御が可能になり得る。したがって、空気の出力/量は船の速度から切り離される。
【0048】
各ベンチュリ管6を通る水の流速を制御することによって、噴射点におけるせん断応力を制御し得る。これにより、発生する気泡のサイズを確実に制御することができる。単純化すると、気泡が小さいほど、その気泡の体積に対する表面積の比率が大きくなり、したがって生成される単位空気量あたりの潤滑性が高くなる。これにより、競合システムと比較してシステムの最終パフォーマンスが向上する。
【0049】
船内の水中に空気を取り込むことにより、船底部に加えて船体の側面の出口からも気泡を送り出し、船体の側面を潤滑することができ、潤滑に利用できる面積が効果的に2倍になる。
【0050】
ベンチュリ管の受動的な性質により、受動的水入口と周囲空気入口ポートからそれぞれ水と空気の受動的供給のみを使用して、エネルギー入力がゼロのシステムによって生成される気泡の少なくとも一部を生成することができる。従来技術の完全アクティブシステム(例えば、すべての空気が圧縮機から供給されるシステム)と比較して、システムの正味の性能向上を提供する。一方、水ポンプ及び空気圧縮機からそれぞれ水及び任意に空気を能動的に供給することにより、従来技術の完全にパッシブシステムに比べて、システムの性能及び柔軟性が大幅に向上する。
【0051】
本発明によるシステム及び方法は、商船、フェリー、レジャークラフト、内陸水路船舶、及び水中を移動するように構成された他の任意の船舶など、任意の水上船舶に適用することができる。
【0052】
本発明は、本明細書に記載の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく修正又は変更することができる。
【国際調査報告】