(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-17
(54)【発明の名称】ワクチンの開発に使用される環状3Dエピトープをモデリングするための方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/195 20060101AFI20240410BHJP
C07K 14/005 20060101ALI20240410BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240410BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240410BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C07K14/195 ZNA
C07K14/005
C07K14/47
A61K39/00 Z
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568548
(86)(22)【出願日】2022-05-05
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 EP2022062156
(87)【国際公開番号】W WO2022234018
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523419392
【氏名又は名称】シンセティック ヴァクシンス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ランボー,パトリック
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BA07
4C085BA51
4C085BB01
4C085CC32
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA30
4H045CA01
4H045CA10
4H045CA41
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA10
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、標的抗原の表面から環状3Dエピトープをモデリングするための方法であって、a)標的抗原の3Dモデル表示において、3Dエピトープになり易い/3Dエピトープを構成し易い1つまたは複数の保存領域(複数可)を同定するステップであって、該1つまたは複数の保存領域(複数可)が、アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、アスパラギン酸(Asp)およびグルタミン酸(Glu)からなる群において選択される1種または複数の荷電アミノ酸(複数可)を有するステップと;b)ステップa)において同定された1つまたは複数の保存領域(複数可)で分子モデリングを実施するステップと;c)3Dエピトープ内の1つまたは複数の保存領域(複数可)を集め易い直鎖状アミノ酸配列を提供するステップと;d)標的抗原の中にある状態の3Dエピトープを模倣するために、直鎖状アミノ酸配列をインシリコで環化するステップと;e)モデリングされた環状3Dエピトープを得るステップと、を含む、方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的抗原の表面から環状3Dエピトープをモデリングするための方法であって、
a)前記標的抗原の3Dモデル表示において、3Dエピトープになり易い/3Dエピトープを構成し易い1つまたは複数の保存領域(複数可)を同定するステップであって、前記1つまたは複数の保存領域(複数可)が、アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、アスパラギン酸(Asp)およびグルタミン酸(Glu)からなる群において選択される1種または複数の荷電アミノ酸(複数可)を有するステップと;
b)ステップa)において同定された前記1つまたは複数の保存領域(複数可)で分子モデリングを実施して、力場のエネルギーを計算する以下の方程式(方程式E):
【数1】
(式中、Eは、力場のエネルギーであり、rは、2つの共有結合原子の間の半径であり、r
0は、298Kでの理想的なファンデルワールス半径であり、θは、2つの共有結合間の原子価角であり、φは、SP3炭素の二面角であり、nは、前記二面角の多重度または周期性であり、パラメータHφおよびHθは、それぞれの力の定数であり、添字0を有する変数は、それぞれの平衡値であり、Aは、2つの原子間の距離であり、Bは、2つの非結合原子間の倍距離であり、qは、原子電荷であり、Dは、デビエ定数(Debie constant)である)
を用いて前記3Dエピトープ内の前記1つまたは複数の保存領域(複数可)を集め易い直鎖状アミノ酸配列を提供するステップと;
c)前記3Dエピトープ内の前記1つまたは複数の保存領域(複数可)を集め易い直鎖状アミノ酸配列を提供するステップと;
d)前記標的抗原の中にある状態の前記3Dエピトープを模倣するために、前記直鎖状アミノ酸配列をインシリコで環化するステップと;
e)モデリングされた環状3Dエピトープを得るステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記環状3Dエピトープが、ミモトープである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記環状3Dエピトープが、合成である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的抗原が、細菌抗原、ウイルス抗原およびがん抗原を含む、またはそれらからなる群において選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)が、前記1つまたは複数の保存領域(複数可)の相同配列および/または変異配列をアライメントして原子座標を得ることにより実施される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記1つまたは複数の保存領域(複数可)が、前記標的抗原の前記3Dモデル表示の表面にある、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)が、詳細には1つまたは複数のエネルギー最小化アルゴリズム(複数可)により、原子座標により誘導された力場のエネルギー最小化を1または複数サイクル(複数可)実施することを含み、前記エネルギー最小化が、ステップb)で用いられた前記方程式の導関数(derivate)を利用することにより実現される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記エネルギー最小化アルゴリズム(複数可)が、分子動力学ステップに関連する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップd)が、化学的に、詳細には部位特異的架橋により、実施される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップd)が、ステップc)で得られた前記直鎖状配列内で2つのアミノ酸残基をシステイン残基で置換することにより実施され、前記システイン残基のそれぞれのアルファ炭素のそれぞれと、隣接するアミノ酸残基の任意の1つとの間の二面角が、ジスルフィド架橋の形成に適合する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法によりモデリングされた環状3Dエピトープの合成により得られた環状3Dエピトープ。
【請求項12】
請求項11に記載の環状3Dエピトープを含む医薬組成物またはワクチン組成物。
【請求項13】
個体のワクチン接種の方法における使用のための、請求項11に記載の環状3Dエピトープまたは請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
抗体、詳細には中和抗体の生成における使用のための、請求項11に記載の環状3Dエピトープまたは請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
個体において免疫反応を誘発するための使用のための、請求項11に記載の環状3Dエピトープまたは請求項12に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、環状3Dエピトープをモデリングすることによるワクチン、詳細には合成ワクチンの開発に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
抗体、詳細には中和抗体などの特異的免疫試薬を作製するアプローチとしての合成ペプチド免疫原への関心は、過去数十年間で著しく増加している。
【0003】
理論的には、多くのペプチド配列が、免疫原性であり得るが、実際には、インタクト同族タンパク質と交差反応する抗体を誘起することにおいて、全てが等しく有効とは限らない。現在、多くの因子が特異的抗体を増加させるペプチド免疫原の使用の成功に影響を及ぼし得ることが、認識されている。これらには、用いられる1つのタンパク質配列からのペプチドの数、配列データの利用可能性および正確さ、インタクトタンパク質の予測された二次および三次構造、そして最後に特異的配列の合成の容易さなどの要素がある。合成方法論に対する絶え間ない改善により、最近の態様が過去の態様ほど重大でないことを意味するとしても、特定の配列は、依然として問題を含み得る(Hancock and O’Reilly; 2005. Methods in Molecular Biology, vol. 295: Immunochemical Protocols, Third Edition. Chapter 2. Edited by: R. Burns c Humana Press Inc., Totowa, NJ)。
【0004】
近年になり、科学者らは、ミモトープアプローチを開発した。ミモトープは、エピトープを模倣し得るペプチドである。エピトープは、抗原性タンパク質の特異的表面であり、抗体により認識される。エピトープは、直鎖状または三次元(3D)であり得るが、3D-エピトープは、免疫グロブリン(IgG)の80%により認識され、かなりより特異的である。3D-エピトープを設計する主要なアプローチは、エピトープを模倣することができる3D構造を有するペプチドを設計するために分子モデリングを利用することである。
【0005】
これまで、2種の主要な戦略が、この分野で開発されている。第一のアプローチは、異種生存生物、詳細には細菌内への組換えcDNAの発現に依存する技術を利用することによる、該当するタンパク質のインビボ生成である。第二のアプローチは、化学に基づくインビトロペプチド合成である。
【0006】
合成ペプチドが、生成されているが、Fmocの化学作用により得られた合成ペプチドによるワクチン接種は多くの場合、安定した3D構造を有さず、直鎖状エピトープを認識することのみに有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえ、これらの欠点を克服すること、および合成ワクチンの開発に用いられ得る、安定していてロバストな3Dエピトープをモデリングするための再現性のある方法を最先端技術に提供すること、が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
概要
本発明の第一の態様は、標的抗原の表面から環状3Dエピトープをモデリングするための方法であって、
a)標的抗原の3Dモデル表示において、3Dエピトープになり易い/3Dエピトープを構成し易い1つまたは複数の保存領域(複数可)を同定するステップであって、該1つまたは複数の保存領域(複数可)が、アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、アスパラギン酸(Asp)およびグルタミン酸(Glu)からなる群において選択される1種または複数の荷電アミノ酸(複数可)を有するステップと;
b)ステップa)において同定された1つまたは複数の保存領域(複数可)において分子モデリングを実施するステップと;
c)3Dエピトープ内の1つまたは複数の保存領域(複数可)を集め易い直鎖状アミノ酸配列を提供するステップと;
d)標的抗原の中にある状態の3Dエピトープを模倣するために、直鎖状アミノ酸配列をインシリコで環化するステップと;
e)モデリングされた環状3Dエピトープを得るステップと、
を含む、方法に関する。
【0009】
幾つかの実施形態において、環状3Dエピトープは、ミモトープである。特定の実施形態において、環状3Dエピトープは、合成である。幾つかの実施形態において、標的抗原は、細菌抗原、ウイルス抗原、およびがん抗原を含むか、またはそれからなる群において選択される。特定の実施形態において、ステップa)は、1つまたは複数の保存領域(複数可)の相同配列および/または変異配列をアライメントして原子座標を得ることにより実施される。幾つかの実施形態において、1つまたは複数の保存領域(複数可)は、標的抗原の3Dモデル表示の表面にある。特定の実施形態において、ステップb)は、詳細には1つまたは複数のエネルギー最小化アルゴリズム(複数可)により、原子座標により誘導された力場のエネルギーを最小化する1つまたは複数のサイクル(複数可)を実施することを含む。幾つかの実施形態において、エネルギー最小化アルゴリズム(複数可)は、分子動力学ステップに関連する。特定の実施形態において、ステップd)は、化学的に、詳細には部位特異的架橋により、実施される。幾つかの実施形態において、ステップd)は、ステップc)で得られた直鎖状配列の中で2つのアミノ酸残基をシステイン残基で置換することにより実施され、そこで、システイン残基それぞれのアルファ炭素のそれぞれと、隣接するアミノ酸残基の任意の1つの間の二面角が、ジスルフィド架橋の形成と適合する。
【0010】
本発明のさらなる態様は、本発明による方法によりモデリングされた環状3Dエピトープの合成により得られた環状3Dエピトープに関する。
【0011】
一態様において、本発明は、本発明による環状3Dエピトープを含む医薬組成物またはワクチン組成物に関する。
【0012】
本発明はまた、個体のワクチン接種の方法における使用のための、本発明による環状3Dエピトープまたは医薬組成物に関する。
【0013】
一態様において、本発明は、抗体、詳細には中和抗体の生成における使用のための、本発明による環状3Dエピトープまたは医薬組成物に関する。
【0014】
本発明の別の態様は、個体において免疫反応を誘起するための使用のための、本発明による環状3Dエピトープまたは医薬組成物に関する。
【0015】
定義
本発明において、以下の用語は、以下の意味を有する。
【0016】
数字の前の「約」は、前記数字の値の±10%以下を包含する。用語「約」が指す値は、具体的におよび好ましくは開示されるその値そのものであることが、理解されなければならない。
【0017】
「アジュバント」は、ワクチン組成物中の免疫応答を増強する化合物または化合物の組合わせを指す。一実施形態において、アジュバントは、ワクチン組成物と共に用いられ、したがって感染性疾患に対する免疫応答を強化する。例えばアジュバントは、リンパ球の数を増加させ得る、リンパ球の活性化を増加させ得る;リンパ球の適合を増加させ得る、および/またはリンパ球の生存率を上昇させ得る。
【0018】
「含む」は、「含有する」、「包含する」、および「包括する」を意味するものとする。幾つかの実施形態において、用語「含む」はまた、用語「からなる」を包含する。
【0019】
「架橋剤」は、2種の反応基を利用することによりペプチドまたはポリペプチドの2つのドメインまたは部分を物理的に結合させる一連の化学的配列またはアミノ酸配列を指す。幾つかの実施形態において、架橋剤は、ホモ二機能性(2つの同一反応基)またはヘテロ二機能性(2つの別個の反応基)化合物でもよい。
【0020】
「環状3Dエピトープ」は、2つの非連続アミノ酸残基の側鎖が共有結合により連結され、3D構造を有するペプチドを生じる、ペプチドの形態であるエピトープを指す。一実施形態において、共有結合による連結は、詳細には架橋剤を用いることにより、化学的に得られる。一実施形態において、共有結合による連結は、2つの非連続システイン残基に属する2つの-SH基の間のジスルフィド架橋である。
【0021】
「分子モデリング」は、当業者に周知の技術の集合体を指し、力場に応じて位置エネルギーを有するタンパク質またはペプチドの現実的3D構造を提供することを指す。力場の位置エネルギーは、エネルギー最小化および/または動力学により改変され得る。
【0022】
「免疫原性組成物」は、個体との接触により前記個体において免疫応答を誘発することが可能な組成物を指す。
【0023】
「免疫原性ペプチド」は、個体との接触により前記個体において免疫応答を誘発することが可能なペプチドを指す。
【0024】
「単離ペプチド」は、それが合成された環境から取り出されたペプチドを指す。「モデル」または「モデリング」は、目的の標的抗原の表現またはシミュレーションをインシリコで生成する活動を指す。幾つかの実施形態において、目的の標的は、標的抗原の表面である。
【0025】
「リンカー」は、ペプチドまたはポリペプチドの2つのドメインまたは部分を物理的に隔てる一連の化学的配列またはアミノ酸配列を指す。本明細書で用いられる「ペプチドおよびキャリアタンパク質がリンカーによりコンジュゲートされる」は、ペプチドおよびキャリアタンパク質がリンカーを通して間接的に共有結合により会合することを意味するものとする。
【0026】
「ミモトープペプチド」は、天然に見出される抗原のエピトープを模倣したペプチド、詳細には合成ペプチドを指す。本明細書で用いられるミモトープは、直鎖状ペプチド、好ましくは3D構造のペプチドにより表示され得る。
【0027】
「ペプチド」または「ポリペプチド」は、ペプチド結合により互いに連結されたアミノ酸の直鎖状ポリマーを指す。
【0028】
「合成ペプチド」は、天然に存在しない、および/または化学的に、もしくは組換え技術を利用することにより合成される、ペプチドを指す。
【0029】
「ワクチン組成物」は、1種もしくは複数の抗原を含む組成物、および/またはこれらの抗原に対して免疫応答を惹起するのに適したエピトープ、および/または前記組成物のレシピエントである個体の中のエピトープを指す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
安定した3Dエピトープを設計するための容易でロバストで再現性のある方法を提供することを目標として、本発明者らは、詳細にはジスルフィド架橋を有する、3Dエピトープと類似のコンフォメーションにおいて、免疫原性標的の表面エピトープを模倣するペプチドの3D構造を遮断することが可能であることを示した。この方法を、「ミモトープアプローチ」と命名した。
【0031】
ミモトープアプローチでは、1つのみのジスルフィド架橋が作製される。遊離システイン、またはエピトープの外側のシステインとの天然のジスルフィド架橋が存在する場合、例えば遊離システインを置換するために、セリンなどの別のアミノ酸残基によって変異を導入しなければならない。2つまたは3つのジスルフィド架橋は、同じ配列で異なるコンフォメーションを生成し得るため、唯一のジスルフィド架橋を有することが、有利である。
【0032】
ジスルフィド架橋に最適な場所を決定するために、本発明の方法は、MImotope MOdeling Force Field(MIMOFF)と呼ばれる特異的力場方程式および場合により動力学ステップと組み合わせた最小化アルゴリズムを使用する。この数学的アプローチは、原子3D座標に関してペプチド鎖に位置エネルギーを提供する一組の方程式に対応する力場を利用する。エネルギー最小化の目的は、エネルギー最小化アルゴリズムにより、力場エネルギーをファンデルワールスエネルギーに関して負の値を有する最適な位置エネルギーに低減することである。
【0033】
本発明は、標的抗原の表面から環状3Dエピトープをモデリングするための方法であって、
a)標的抗原の3Dモデル表示において、3Dエピトープになり易い/3Dエピトープを構成し易い1つまたは複数の保存領域(複数可)を同定するステップであって、1つまたは複数の保存領域(複数可)が、アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、アスパラギン酸(Asp)およびグルタミン酸(Glu)からなる群において選択される1種または複数の荷電アミノ酸(複数可)を有するステップと;
b)ステップa)において同定された1つまたは複数の保存領域(複数可)で分子モデリングを実施するステップと;
c)3Dエピトープ内の1つまたは複数の保存領域(複数可)を集め易い直鎖状アミノ酸配列を提供するステップと;
d)標的抗原の中にある状態の前記3Dエピトープを模倣するために、直鎖状アミノ酸配列をインシリコで環化するステップと;
e)モデリングされた環状3Dエピトープを得るステップと、
を含む、方法に関する。
【0034】
幾つかの実施形態において、ステップb)は、力場のエネルギーを計算する以下の方程式Eを用いて実施された:
【数1】
(式中、Eは、力場のエネルギーであり、rは、2つの共有結合原子の間の半径であり、r
0は、298Kでの理想的なファンデルワールス半径であり、θは、2つの共有結合間の原子価角であり、φは、SP3炭素の二面角であり、nは、二面角の多重度または周期性であり、パラメータHφおよびHθは、それぞれの力の定数であり、添字0を有する変数は、それぞれの平衡値であり、Aは、2つの原子間の距離であり、Bは、2つの非結合原子間の倍距離であり、qは、原子電荷であり、Dは、デビエ定数(Debie constant)である)。
【0035】
上記方程式Eは、それによりMImotope MOdeling Force Field(MIMOFF)と称される。
【0036】
ステップb)で用いられた方程式Eは、以下のとおり5つの明確に異なる方程式に分割され得ることが、理解されなければならない。
方程式E1:
【数2】
方程式E2:
【数3】
方程式E3:
【数4】
方程式E4:
【数5】
方程式E5:
【数6】
(式中、E1は、2つの共有結合原子の間の半径に関連するエネルギーを反映する指数方程式であり;方程式E2は、共有結合に関与する電子軌道の幾何学によりエネルギーを維持して、粒子間の角度(炭素ハイブリダイゼーション(SP3およびSP2)に関係してそれぞれ106.7°および120°である3つの共有結合原子間の角度)に関連するエネルギーを反映する調和方程式であり;方程式E3は、結合順序および隣接する結合または孤立電子対により結合をねじるためのエネルギーを表す正弦方程式であり;方程式E4は、非結合原子のためのファンデルワールスエネルギーを反映し;方程式E5は、原子電荷を反映する)。
【0037】
幾つかの実施形態において、方程式E3は、炭素原子の軌道ハイブリダイゼーションに適合される。幾つかの実施形態において、方程式E3は、SP2炭素原子についての二面角に関連するエネルギーを反映する。幾つかの実施形態において、E3は、SP3炭素原子についての二面角に関連するエネルギーを反映する。
【0038】
幾つかの実施形態において、方程式E2、E3およびE5は、AMBER力場に由来する。幾つかの実施形態において、方程式E4は、CHARMM力場に由来する。両方の力場が、当業者に公知である。
【0039】
幾つかの実施形態において、方程式E1は、MIMOFFに特異的であり、その非調和関数を用いて、調和関数を用いるAMBERまたはCHARMM力場と反対のファンデルワールスエネルギーを説明する。幾つかの実施形態において、2つの結合原子が、最適なファンデルワールス半径を重んじる場合、方程式E1は、負のエネルギーを提供する。
【0040】
幾つかの実施形態において、環状3Dエピトープは、ミモトープである。
【0041】
特定の実施形態において、環状3Dエピトープは、合成である。
【0042】
幾つかの実施形態において、エピトープは、ペプチドである。実際には、本発明のペプチドは、最先端技術で公知の任意の適切な方法、またはそれに由来する方法により合成され得る。例示として、本発明によるペプチドを合成するための方法は、例えばLloyd-Williamsら(1997; Chemical approaches to the synthesis of peptides and proteins. Boca Raton: CRC Press. 278)、Merrifield(1963; Journal of the American Chemical Society. 85, 2149-54)、Lewandowskiら(2013; Science, Vol. 339(6116), 189-193)により開示され得る。
【0043】
幾つかの実施形態において、標的抗原は、細菌抗原、ウイルス抗原およびがん抗原を含む、またはそれらからなる群において選択される。
【0044】
本明細書で用いられる「細菌抗原」および「ウイルス抗原」は、個体、詳細には脊椎動物個体、より詳細には非ヒト哺乳動物またはヒトにおいて、免疫応答を誘発し得る、それぞれ細菌またはウイルス起源の抗原を指す。
【0045】
特定の実施形態において、細菌抗原および/またはウイルス抗原は、感染性疾患、詳細には急性弛緩性麻痺(AFM)、アナプラズマ症、炭疽、バベシア症、ボツリヌス症、ブルセラ症、カンプロバクター症、カバペネム耐性感染(CRE/CRPA)、下疳、チクングニアウイルス感染(チクングニア)、クラミジア症、シガテラ(有害有毒藻類ブルーム(HAB))、クロストリジウム・ディフィシル感染、クロストリジウム・パーフリンゲンス(イプシロン毒素)、コクシオイデス症真菌感染(バレー熱)、COVID-19(コロナウイルス疾患2019)、クロイツフェルト・ヤコブ病、伝達性海綿状脳症(CJD)、スリプトスポリジウム症(クリプト)、サイクロスポラ症、デング(デング熱)、ジフテリア、志賀毒素産生性大腸菌感染(STEC)、東部ウマ脳炎(EEE)、エボラ出血熱(エボラ)、エーリキア症、アルボウイルスまたは傍感染性脳炎、非ポリオエンテロウイルス感染(非ポリオエンテロウイルス)、D68エンテロウイルス感染(EV-D68)、ジアルジア症(ジアルジア)、鼻疽、淋菌感染(ゴノルヘア)、鼠経肉芽腫、ヘモフィルスインフルエンザ病B型(HibまたはF-flu)、ハンタウイルス肺症候群(HPS)、溶結性尿毒症症候群(HUS)、A型肝炎(Hep A)、B型肝炎(Hep B)、C型肝炎(Hep C)、D型肝炎(Hep D)、E型肝炎(Hep E)、ヘルペス、ヘルペスゾスター(帯状疱疹)、ヒストプラスマ感染(ヒストプラスマ症)、ヒト免疫不全ウイルス/AID(HIV/AIDS)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、インフルエンザ(Flu)、鉛中毒、レジオネラ症(在郷軍人病)、らい病(ハンセン病)、レプトスピラ症、リステリア症(リステリア)、ライム病、鼠経リンパ肉芽腫感染(LGV)、マラリア、麻疹、類鼻疽、ウイルス性髄膜炎、細菌性髄膜炎、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、小児多系統炎症症候群(MIS-C)、おたふく風邪、ノロウイルス、麻痺性貝中毒(麻痺性貝中毒、シガテラ)、シラミ症(シラミ、アタマジラミおよびコロモジラミ)、骨盤内感染症(PID)、パタシス(百日咳)、腺ペスト、敗血症型ペスト、肺ペスト(ペスト)、肺炎球菌感染症(肺炎)、急性灰白髄炎(ポリオ)、ポワサン、オウム病(オウム熱)、シラミ寄生症(毛ジラミ症;シラミの蔓延)、膿疱性発疹症(天然痘、サル痘、ウシ痘)、Q熱、狂犬病、リシン中毒、リケッチア症(ロッキー山紅斑熱)風疹(三日ばしか)、サルモネラ胃腸炎(サルモネラ)、疥癬の蔓延(疥癬)、サバ、敗血症性ショック(敗血症)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、細菌性赤痢胃腸炎(赤痢菌)、天然痘、メチシリン耐性ブドウ球菌感染(MRSA)、ブドウ球菌(腸毒素B)食中毒(Staph食中毒)、バンコマイシン中間耐性ブドウ球菌感染(VISA)、バンコマイシン耐性ブドウ球菌感染(VRSA)、A群(侵襲性)レンサ球菌感染症(Strep A(侵襲性))、B群レンサ球菌感染症(Strep-B)、レンサ球菌毒素性ショック症候群(STSS、TSS)、梅毒、破傷風感染(破傷風、開口障害)、トリコモマス症(トリコモナス感染)、旋毛虫感染(旋毛虫症)、結核(TB)、野兎病(ラビットフィーバー)、D群腸チフス熱、チフス、細菌性膣症(酵母感染)、ベイピング関連肺障害(電子タバコ関連肺障害)、水痘(水疱瘡)、コレラ菌感染(コレラ)、ビブリオ症(ビブリオ)、ウイルス性出血熱(エボラ、ラッサ、マールブルグ)、西ナイルウイルス、黄熱、エルシニア感染、およびジカウイルス感染(ジカ)からなる群において選択された感染性疾患に関連し得る。
【0046】
本明細書で用いられる用語「がん抗原」は、特定の型のがんの患者の血中に多量に見出され得る抗原を指すものとする。
【0047】
がんの非限定的例としては、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄芽球性白血病、副腎癌、胆管がん、膀胱がん、乳がん、子宮頸がん、大腸がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、消化管間質腫瘍、膠芽腫、頭頸部がん、肝細胞がん、ホジキンリンパ腫、腎臓がん、肺がん、黒色腫、メルケル細胞皮膚がん、中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性障害、非ホジキンリンパ腫、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、唾液腺がん、肉腫、扁平上皮癌、精巣がん、甲状腺がん、尿路上皮癌、およびブドウ膜黒色腫が挙げられる。
【0048】
実際には、前記がんは、血液がんまたは固形がんである。
【0049】
本明細書で用いられる用語「血液がん」は、「血液学的がん」とも称され、血液細胞、詳細には白血球の非制御な増殖を含む任意のがんを包含する。血液がんとしては、免疫芽球性リンパ節腫脹、白血病、リンパ腫(ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫)、および骨髄腫が挙げられる。
【0050】
本明細書で用いられる用語「固形がん」は、塊を形成せずに組織にびまん性浸潤するがんと反対に、別個の腫瘍塊を形成する任意のがん(悪性腫瘍とも称される)を包含する。固形がんとしては、黒色腫、乳癌、結腸癌、腎臓癌、副腎皮質癌、精巣奇形腫、皮膚肉腫、線維肉腫、肺癌、腺癌、肝臓癌、膠芽腫、前立腺癌、卵巣がんおよび膵臓癌が挙げられる。
【0051】
がん抗原の非限定的例としては、アルファ-フェトプロテイン(AFP)、がん抗原125(CA125)、がん抗原15-3(CA15-3)、炭水化物抗原19-9(CA19-9)、癌胎児性抗原(CEA)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCGまたはベータ-hCG)、および前立腺特異性抗原(PSA)が挙げられる。
【0052】
幾つかの実施形態において、がん抗原は、ネオアンチゲンである。
【0053】
本明細書で用いられる用語「ネオアンチゲン」は、免疫系により過去に認識されていない、新たに形成された抗原である。ネオアンチゲン、延いてはネオアンチゲン決定基(またはネオエピトープ)は、タンパク質がグリコシル化、リン酸化またはタンパク質分解などの生化学的経路でさらなる修飾を受けた場合に、形成され得る。
【0054】
ネオアンチゲン変異は、腫瘍から単離されたDNAと正常な供給源のものとを比較することにより同定されてもよい。
【0055】
好ましくは、任意の適切なシーケンシング・バイ・シンセシスのプラットフォームが、変異を同定するために用いられ得る。4種の主要なシーケンシング・バイ・シンセシスプラットフォームが、現在利用される:Roche/454 Life SciencesのGenome Sequencers、Illumina/SolexaのHiSeq Analyzer、Applied BioSystemsのSOLiDシステム、およびHelicos BiosciencesのHeliscopeシステム。シーケンシング・バイ・シンセシスプラットフォームはまた、Pacific BiosciencesおよびVisiGen Biotechnologiesにより記載されている。これらのプラットフォームのそれぞれが、本発明の方法において用いられ得る。
【0056】
特定の実施形態において、標的抗原は、ポリペプチドまたはタンパク質である。
【0057】
特定の実施形態において、標的抗原の3Dモデル表示は、データベースから入手されてもよい。幾つかの実施形態において、標的抗原の3Dモデル表示は、結晶学的検査および/またはNMR(核磁気共鳴)を利用することにより得られてもよい。特定の実施形態において、標的抗原の3Dモデル表示は、標的抗原と相同な抗原(複数可)の3Dモデル表示(複数可)からのモデリングにより得られてもよい。幾つかの実施形態において、標的抗原の3Dモデル表示は、3D構造を予測するための分子モデリングを利用することにより得られてもよい。
【0058】
原子座標から誘導された力場のエネルギーを最小化するためのアルゴリズムの非限定的例としては、Steepest Descent、Conjugate Gradients、および同様のものが挙げられる。
【0059】
特定の実施形態において、ステップa)は、1つまたは複数の保存領域(複数可)の相同配列および/または変異配列をアライメントして原子座標を得ることにより実施される。
【0060】
実際にはステップa)は、相同なポリペプチドまたはタンパク質の配列をアライメントすることにより実施されてもよい。本明細書で用いられる用語「相同なポリペプチドまたはタンパク質」は、実質的なアミノ酸配列同一性を共有するポリペプチドまたはタンパク質を指すものとする。実際には相同なポリペプチドまたはタンパク質は、オーソロガスポリペプチドまたはタンパク質、パラロガスポリペプチドまたはタンパク質、およびゼノロガス(xenologous)ポリペプチドまたはタンパク質を包含する。
【0061】
2つ以上のポリペプチドの配列間の関連性において用いられる場合の、本明細書で用いられる用語「配列同一性」は、2つ以上のアミノ酸残基の文字列の間の一致数により決定される、ポリペプチド間の配列関連性の度合いを指す。「同一性」は、特定の数学モデルまたはコンピュータプログラムにより取り組まれるギャップアライメント(もしあるならば)により、2つ以上の配列の小さいほうの間の完全一致のパーセント値(即ち、InsightIIによる「相同性」)を示す。関連のポリペプチドまたは核酸配列の同一性は、公知の方法により即座に計算され得る。同一性を決定するための好ましい方法は、試験される配列間で最大一致を与えるように設計される。同一性を決定する方法は、公開されたコンピュータプログラムにおいて説明される。2つの配列間の同一性を決定するための好ましいコンピュータプログラムに基づく方法は、GAP(Devereux et al., Nucl. Acid. Res. 2, 387 (1984); Genetics Computer Group, University of Wisconsin, Madison, Wis.)、BLASTP、BLASTN、TBLASTNおよびFASTA(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215, 403-410 (1990))をはじめとするGCGプログラムパッケージングが挙げられる。BLASTXプログラムは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)および他の供給源(BLAST Manual, Altschul et al. NCB/NLM/NIH Bethesda, Md. 20894; Altschul et al.、上記参照)から公開される。周知のSmith Watermanアルゴリズムもまた、同一性を決定するために用いられてよい。一実施形態において。「同一性」は、参照する配列の全長にわたり測定されるパラメータを指す。
【0062】
実際にはアミノ酸の配列同一性を、最先端技術からの任意の適切なアルゴリズムにより評価してもよい。アルゴリズムの非限定的例としては、CLUSTAL、CLUSTAL W、BLAST P、LALIGN、および同様のものが挙げられる。
【0063】
例示として、アミノ酸の同一性パーセンテージを、CLUSTAL Wソフトウエア(バージョン1.83)を用いて決定してもよく、そのパラメータは、以下のとおり設定される:
- スロー/精密アライメントでは:(1)ギャップ開始ペナルティ:10.00;(2)ギャップ伸長ペナルティ:0.1;(3)タンパク質重み行列;BLOSUM;
- ファスト/近似アライメントでは:(4)ギャップペナルティ:3;(5)Kタプル(言語)サイズ:1;(6)最適な対角線の数:5;(7)ウィンドウのサイズ:5;(8)スコア方法:PERCENT。
【0064】
幾つかの実施形態において、1つまたは複数の保存領域(複数可)は、標的抗原の3Dモデル表示の表面にある。
【0065】
本明細書で用いられる用語「表面」は、標的抗原が水溶液中にある場合に、1つまたは複数の保存領域(複数可)が溶媒に暴露されることを意味するものとする。
【0066】
特定の実施形態において、ステップb)は、原子座標により、詳細には1つまたは複数のエネルギー最小化アルゴリズム(複数可)により、誘導された力場のエネルギー最小化を1または複数サイクル(複数可)実施することを含む。エネルギー最小化アルゴリズム(複数可)は、当該技術分野で公知である。
【0067】
幾つかの実施形態において、エネルギー最小化は、力場方程式の導関数(derivate)を利用することにより実現される。幾つかの実施形態において、エネルギー最小化は、本発明のステップb)で用いられる方程式、好ましくは方程式E(MIMOFF)の導関数を利用することにより実現される。
【0068】
幾つかの実施形態において、力場方程式の導関数は、力場の最小位置エネルギーを有する原子座標を提供する。
【0069】
本明細書で用いられる用語「エネルギー最小化」は、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の所与の構造のための最小エネルギーの立体構造を表す一組の座標を見出すためのアプローチを指すものとする。ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質のエネルギーが原子座標の関数として特徴づけられ得ることは、最先端技術で共通認識されている。実際にはこのエネルギー関数は、例えばそれぞれ共有結合および結合角を表す、結合エネルギーおよび結合角エネルギー;二面角から得られた二面角エネルギー;原子の立体障害を決定するファンデルワールス力;ならびに荷電原子と部分荷電原子の間の遠距離力に対応する静電力、などの複数のパラメータに依存し得る。
【0070】
実際には、エネルギー最小化のためのアルゴリズムの非限定的例としては、Steepest DescentおよびConjugate Gradientが挙げられる。幾つかの実施形態において、エネルギー最小化は、本発明のステップb)で用いられた方程式、好ましくは方程式E(MIMOFF)と共にInsightII(登録商標)ソフトウエアのDiscoverモジュールを用いることにより、実施されてもよい。
【0071】
幾つかの実施形態において、エネルギー最小化アルゴリズム(複数可)は、分子動力学ステップに関連する。
【0072】
本明細書で用いられる「分子動力学」は、エネルギーホイール(energy wheel)におけるエネルギー最小化の停止を解決するためのアプローチを指すと意図される。
【0073】
実際には分子動力学は、エネルギー最小化のためのSteepest Descentアルゴリズムに関連する。
【0074】
幾つかの実施形態において、分子動力学ステップは、エネルギー最小化を1または複数サイクル(複数可)繰り返すことを含む。
【0075】
幾つかの実施形態において、分子動力学ステップは、最小化アルゴリズムが遮断された場合に実行される。
【0076】
幾つかの実施形態において、分子動力学ステップは、MIMOFFの異なる位置エネルギーの軌跡を異なる回数のエネルギー最小化により分析することを含むか、またはそれからなる。幾つかの実施形態において、分子動力学ステップは、異なる初期エネルギーを利用してエネルギー最小化を1または複数サイクル(複数可)繰り返すことを含むか、またはそれからなる。幾つかの実施形態において、分子動力学ステップは、異なる位置エネルギー値を利用してエネルギー最小化を1または複数サイクル(複数可)繰り返すことを含むか、またはそれからなる。
【0077】
本発明によれば、ステップc)は、3Dエピトープ内の1つまたは複数の保存領域(複数可)を集め易い直鎖状アミノ酸配列を提供することからなる。本明細書で用いられる用語「直鎖状アミノ酸配列を提供すること」は、「直鎖状アミノ酸配列を決定すること」を意味すると意図される。一実施形態において、用語「提供すること」および「決定すること」は、等価である。
【0078】
幾つかの実施形態において、3Dエピトープ内の2つ以上の保存領域を、1つの直鎖状アミノ酸配列として整列させてもよい。特定の実施形態において、2つ以上の保存領域は、詳細には1つまたは2つのグリシンリピートを含むグリシンリッチアミノ酸リンカーなどのアミノ酸リンカーを利用することにより、互いに連結されてもよい。
【0079】
本明細書で用いられる用語「アミノ酸リンカー」は、その機能が、ペプチド結合の鎖を提供することにより目的の2つ以上のペプチドを空間内で隔てることであるペプチドを指す。実際には適切なアミノ酸リンカーは、Chenら(Adv Drug Deliv Rev. 2013; 65(10): 1357-1369)、Chichiliら(Protein Sci. 2013; 22(2): 153-167)、CrastoおよびFeng(Prot Engineer. 2000; 13(5),309-312)、Waldoら(Nat. Biotechnol. 1999; 17, 691-695)に記載され得る。
【0080】
幾つかの実施形態において、アミノ酸リンカーは、約1~約100アミノ酸残基、好ましくは約5~約50アミノ酸残基、より好ましくは約10~約25アミノ酸残基の範囲内の長さを有する。
【0081】
本明細書で用いられる表現「約1~約100アミノ酸残基」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61,62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99および100のアミノ酸残基を含む。
【0082】
実際には、該当するエピトープの構造は、環化により維持および安定化される。
【0083】
特定の実施形態において、ステップd)は、化学的に、詳細には部位特異的架橋により、実施される。
【0084】
本明細書で用いられる用語「部位特異的架橋」は、2つ以上の選択されたアミノ酸を共有結合により化学的に接続するステップを指すと意図される。
【0085】
幾つかの実施形態において、部位特異的架橋は、架橋剤により実施されてもよい。
【0086】
実際には部位特異的架橋は、ホモ二機能性架橋剤およびヘテロ二機能性架橋剤を含む架橋剤により媒介され得る。
【0087】
本明細書で用いられる「ホモ二機能性架橋剤」は、同一の反応基をスペーサーアームのいずれかの末端に有する架橋剤を指すと意図される。ホモ二機能性架橋剤の非限定的例としては、アジピン酸ジヒドラジド(CAS番号1071-93-8)、1,4-ビス[3-(2-ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ブタン(CAS番号141647-62-3)、4,4’-ジイソチオシアナトスチルベン-2,2’-ジスルホン酸二ナトリウム(DIDS;CAS番号207233-90-7)、ジメチル 3,3’-ジチオ-ビス(プロピオンイミダート)二塩酸塩(DTBP;CAS番号38285-78-8)、ジメチルピメリンジイミダート二塩酸塩(DMP;CAS番号58537-94-3)、3,3’-ジチオジプロピオン酸ジ(N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)(DTSP;CAS番号57757-57-0)、エチレングリコール-ビス(コハク酸 N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)(CAS番号70539-42-3)、セバシン酸ビス(N-スクシンイミジル)エステル(DSSeb;CAS番号23024-29-5)、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS;CAS番号68528-80-3)、およびビス(スルホスクシンイミジル)スベリン酸ナトリウム塩(BS3;CAS番号82436-77-9)が挙げられる。実際にはホモ二機能性架橋剤は、アミノ酸残基の側鎖内の同一の遊離反応基を架橋してもよい。例えば遊離-OH基は、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、およびチロシン(Tyr)などのアミノ酸残基の側鎖に局在化してもよく、遊離-NH2基は、アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、アルギニン(Arg)およびリジン(Lys)などのアミノ酸残基の側鎖に局在化してもよい。
【0088】
本明細書で用いられる「ヘテロ二機能性架橋剤」は、異なる反応基をどちらかの末端に有する架橋剤を指すものとする。ヘテロ二機能性架橋剤の非限定的例としては、アセチレン-PEG4-マレイミド、マレイミド-PEG-スクシンイミジルエステル、アジド-PEG4-フェニルオキシジアゾールメチルスルホン、LC-SMCC(スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシ-(6-アミドカプロアート))、PDPH(3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド)(CAS番号:115616-51-8)、SIAB(N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾアート)(CAS番号:72252-96-1)、SMPH(スクシンイミジル-6-((b-マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノアート)、スルホ-SIAB(スルホ-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾアート)、3-(マレイミド)プロピオン酸N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステル(BMPS;CAS番号:55750-62-4)、2-(2-((7-(tert-ブトキシ)-7-オキソヘプチル)オキシ)エトキシ)酢酸(OtBu-PEG2酸)、およびN-(β-マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド、トリフルオロ酢酸塩(BMPH)が挙げられる。
【0089】
実際には該架橋剤は、例えばMerk(登録商標)、Termofisher Scientific(登録商標)、Sigma Aldrich(登録商標)から、市販され得て、製造業者の使用説明書に従って使用され得る。
【0090】
幾つかの実施形態において、ステップd)は、ステップc)で得られた直鎖状配列内で2つのアミノ酸残基をシステイン残基で置換することにより実施され、システイン残基のそれぞれのアルファ炭素のそれぞれと、隣接するアミノ酸残基の任意の1つとの間の二面角が、ジスルフィド架橋の形成に適合する。
【0091】
本明細書で用いられる用語「ジスルフィド架橋」は、遊離システインの側鎖からの2つの-SH基の間の共有結合を指す。ジスルフィド架橋を作製するためには、第一の遊離システインの-SH側鎖が、第二の遊離システインの別の-SH側鎖から0.1nm未満の場所に存在しなければならない。各システインのアルファ炭素のsp3ハイブリッド性が、異なる配向を可能にするが、この可撓性は、近隣のアミノ酸残基とのペプチド結合の二面角の自由度により制限される。近隣のアミノ酸残基の側鎖のサイズは、二面角の自由度に直接的影響を及ぼし得る。
【0092】
特定の実施形態において、ステップd)の前に、ステップc)で得られた直鎖状配列内での、アラニン(Ala)、セリン(Ser)、およびトレオニン(Thr)、好ましくはアラニン(Ala)およびセリン(Ser)、より好ましくはセリン(Ser)からなる群において選択される1つまたは複数のアミノ酸残基(複数可)による1つまたは複数のシステイン残基(複数可)の置換(複数可)を実施するステップを行ってもよい。実際には1つのみのジスルヒド架橋の形成が可能であり得るように、ステップd)の終了時の直鎖状ペプチドは、2つのみのシステイン残基を含み得る。
【0093】
本発明の別の態様はまた、本発明による方法によりモデリングされた環状3Dエピトープの合成により得られた環状3Dエピトープに関する。
【0094】
本発明のさらなる態様は、本発明による環状3Dエピトープを含む医薬組成物またはワクチン組成物に関係する。
【0095】
幾つかの実施形態において、本発明による医薬組成物は、医薬的に許容できる賦形剤を含む。本明細書で用いられる用語「医薬的に許容できる賦形剤」は、動物、好ましくはヒトに投与された場合に、有害反応、アレルギー反応または他の不都合な反応を生じない賦形剤を指す。それには、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌薬、等張および吸収遅延剤、ならびに同様のものが挙げられる。ヒトへの投与の場合、調製物が、例えば食品医薬品局(米国のFDA)または欧州医薬品庁(EMA)などの、規制当局により要求されるような滅菌性、発熱性、一般的安全および純度規準に適合しなければならない。
【0096】
幾つかの実施形態において、本発明によるワクチン組成物は、1種または複数のアジュバント(複数可)を含む。本明細書で用いられる用語「アジュバント」は、抗原への免疫応答を強化し、および/または所望の免疫応答に向けてそれを調整する成分を指す。したがって、ワクチン配合物へのアジュバントの組込みは、ワクチン抗原に対する所望の応答に向けて特異的免疫応答を増強、促進、および延長することを目標とする。アジュバントの利点としては、抗原の免疫原性の増強、免疫応答の性質の改変、有効な免疫化に必要となる抗原量の低減、必要となるブースター免疫化の頻度の低減、ならびに高齢者および免疫不全状態における免疫応答の改善が挙げられる。
【0097】
幾つかの実施形態において、本発明による環状3Dエピトープは、キャリアタンパク質にコンジュゲートされてもよい。キャリアタンパク質の非限定的例としては、ウシ血清アルブミン(BSA)、スカシガイ由来ヘモシアニン(KLH)、多抗原ペプチド(MAP)、またはオボアルブミン(OVA)が挙げられる。
【0098】
一態様において、本発明は、個体のワクチン接種の方法に使用するための、本発明による環状3Dエピトープまたは医薬組成物に関する。
【0099】
本発明の1つのさらなる態様は、本発明による環状3Dエピトープまたは医薬組成物の治療効率の良い量を投与するステップを含む、それを必要とする個体にワクチン接種するための方法に関する。
【0100】
本発明はまた、抗体、詳細には中和抗体の生成に使用するための、本発明による環状3Dエピトープまたは医薬組成物に関する。
【0101】
幾つかの態様において、本発明はまた、本発明による環状3Dエピトープまたは医薬組成物の治療効率の良い量を投与することを含む、必要とする個体における抗体、詳細には中和抗体の生成のための方法に関する。
【0102】
本発明の別の態様は、個体において免疫反応を誘発するために使用するための、本発明による環状3Dエピトープまたは医薬組成物に関係する。
【0103】
本発明のさらなる態様は、本発明による環状3Dエピトープまたは医薬組成物の治療効率の良い量を投与するステップを含む、必要とする個体において免疫反応を誘発するための方法に関する。
【0104】
幾つかの実施形態において、必要とする個体は、感染性疾患またはがんに罹患し易い。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【
図1】SARS-CoV-2ウイルスおよびS(スパイク)タンパク質を示すSARS-CoV-2ウイルス粒子の概略図である。
【
図2】S(スパイク)タンパク質の5%のみに対応し、全てのSARS-CoV-2株において高度に保存された受容体結合ドメイン(RBD)の一部である、エピトープ配列を示すスキームである。「
*」は、同一アミノ酸残基の位置を示す。「:」は、類似の特性(極性または電荷)を共有するアミノ酸残基の位置を示す。
【
図3】Mimocov2ペプチド(配列番号3)の構造を示したスキームである。一次構造は、SARS-CoV-1と、ACE2受容体と直接相互作用するSARS-CoV-2 RBDと、の中に高度に保存された配列に対応する。「
*」は、ジスルフィド架橋を可能にしてループ構造を安定化させるために導入されたアミノ酸置換を示す。N末端の1型ベータターンおよびC末端のループが、主要な二次構造である。3D構造は、SARS-CoV-1の原子座標により決定され、ジスルフィド架橋は、エネルギー最小化の後のみに作製された。
【0106】
実施例
本発明を、以下の実施例によってさらに例証する。
【0107】
実施例1:SARS-CoV-2のS(スパイク)タンパク質に対する3D環状エピトープの設計
2019年12月下旬に、起源が未知である複数例の肺炎が、中国から報告され、2020年1月初旬に、それが新規コロナウイルスにより引き起こされると発表された。新興のSARS-CoV-2ウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)は、コロナウイルス疾患2019(COVID19)の継続的アウトブレイクを担う(Walls et al., 2020)。効率的な薬物処置が、COVID19を治癒するために見出されるとしても、ワクチンだけが、このウイルスの伝搬を迅速に根絶することができよう。ワクチンは、このウイルスによる死亡を制限する封じ込めの唯一の代替法である。
【0108】
中国においてこの疾患を含む大規模な試験が行われたにもかかわらず、ウイルスは、世界的に伝搬して、COVID-19は、2020年3月に世界保健機関(WHO)によりパンデミックが宣言された。COVID-19は、COVID-19に関する最後のWHOレポート(2020年3月)において、1億1100万人を超える症例および246万例の死亡を世界全体に誘導した。危篤状態であり、2020年2月20日から3月18日まで公立病院に入院したボランティア(n=1591)のコホートでのロンバルディア(イタリア)での調査では、世界的死亡率が26%で、大部分が男性であることが示された。死亡率は、63歳を超えるボランティアでは35%であり、64歳未満のボランティアでは15%であることが示された(Grasseli et al., 2020)。
【0109】
SARS-CoV-2ウイルスの主要なエンベロープタンパク質の1つは、S(スパイク)タンパク質と呼ばれる(
図1)。感染したボランティアは、ヌクレオカプシドNタンパク質および/またはSタンパク質に対する抗体を生成することができるが、Sタンパク質の最上部の受容体結合ドメイン(RBD)を惹起する抗体のみが、中和性である、つまりこれらの抗体が、COVID-19からの治癒を支援する。
【0110】
SARS-CoV-2 S(スパイク)タンパク質は、ヒト細胞内に進入するために、アンギオテンシン変換酵素2のACE2と呼ばれる受容体と相互作用する (Coutard et al., 2020 & Walls et al., 2020)。他のコロナウイルスと比較して、ヒトACE2受容体へのSARS-CoV-2 S(スパイク)タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)の高い親和性が、ヒトにおけるSARS-CoV-2の急速なウイルス伝搬の原因であり得る(Ortega et al., 2020)。予防ワクチンは、RBD配列に対するIgG応答を惹起して、ヒト細胞感染を中和しなければならない。
【0111】
Fmocの化学作用で得られた合成ペプチドは、最も安全なワクチンアプローチであり、現在、SARS-CoV-2に対する60種を超えるワクチンの中で用いられる。合成ワクチンは、滅菌性であり、凍結乾燥後3年間安定し得る。短鎖ペプチド(30残基未満)は、大量のワクチン接種のために経済的に実用可能である。しかしペプチドは、不安定な構造(またはランダムコイル)を有し、直鎖状エピトープのみに有用である。
【0112】
SARS-CoV-2に対するワクチン(Mimocov2ワクチンとも称される)の設計のための第一のステップは、ACE2受容体に結合するSARS-CoV-2 RBDの中の構造モチーフを同定することであった(ステップa)。この設計を作製したが、SARS-CoV-2を有するACE2の3D構造は、依然として発表されなかったため、SARS-CoV-1のSタンパク質を有するACE2受容体のX線構造に対応するPDBファイルを用いた(Shang et al., 2020)。SARS-CoV-1配列とSARS-CoV-2配列(配列番号1)との配列アライメント解析の後、SARS-CoV-1と、ACE2受容体と相互作用するSARS-CoV-2の両方において高度に保存された領域を同定することが可能になった。InsightII(登録商標)のAnalysis of the Homologyのプルダウンから、SARS-CoV-2 RBDの保存領域が、
図2に示されたとおり、アミノ酸残基483~アミノ酸残基509(配列番号2のペプチド:
図2)の、S(スパイク)タンパク質からのSARS-CoV-1およびSARS-CoV-2バリアントの高度に保存された領域と適合することが明らかにされた。この配列は、おそらくこれらの2種のウイルスがヒト細胞に進入するのに不可欠な配列に対応するため、低い変動性を呈する。
【0113】
同定されたペプチドの配列は、2つの端部にあるベータターン(アミノ酸残基483~アミノ酸残基491)と、ベータターン(アミノ酸残基506~アミノ酸残基509)と、で作製された2つの構造モチーフを有する。MERS-CoVウイルスは、これらの2つの構造モチーフの間のこの配列の中央に挿入を有する。この挿入は、おそらくACE2受容体への親和性を低下させる。3種のウイルスの中に厳密に保存された第一のループはもちろん、ACE2結合部位の中に適合するのに不可欠な構造モチーフである。
【0114】
分子モデリングを、力場を計算するMIMOFF方程式を利用して、ループを形成する2つの構造モチーフを含む保存領域で実施した(ステップ3)。3D構造を保存するこのループでは、分子モデリングは、構造が497位のシステインと507位のシステインとのジスルフィド架橋により硬化されるモデルを提供する。分子モデリングは、488位のシステインを用いて配列の別の部分とジスルフィド架橋を作製することが可能でないことを教示する。したがってループ構造を固定するために、唯一の可能性は、2つのアミノ酸置換、即ち
図3に示されるPhe497CysおよびPro507Cysを実施することであった。異なる可能なジスルフィド架橋を回避するために、第三の置換、即ちCys488Serを導入した。488位のセリンの側鎖は、-SHの代わりに-OH基を有するシステインに非常に接近しており、二面角に同じ制約を提供する。得られたペプチドを、Mimocov2ペプチドと命名した(配列番号3)。
【0115】
SARS-CoV-1(アミノ酸残基483~アミノ酸残基509)の原子座標を、InsightII(登録商標)ソフトウエアからのHomologyを利用してMimocov2ペプチドの原子座標を決定するためのテンプレートとして用いた。X線構造のACE2受容体およびSARS-CoV-1のSタンパク質から(Shang et al., 2020)、ACE2受容体と相互作用するSARS-CoV-2 S(スパイク)タンパク質のループをカバーする30残基未満のペプチドをモデリングすることが可能であった。このペプチドは、RBDに属する。ペプチドは、SARS-CoV-2 Sタンパク質のループのバックボーンに重複し得る。ペプチド内に導入されたジスルフィド架橋は、SARS-CoV-2の中にあるため、構造を遮断する。アミノ酸残基483~アミノ酸残基509を含有する1つのボックスのみが、原子座標を決定するために用いられた。その後、Discover(InsightII(登録商標))を用いて、エネルギー最小化サイクルが、3つの置換による潜在的構造変化を決定するために、遊離システインで実行された。アルゴリズムSteepest Descent(登録商標)でのCovalent Valence Force Field(CVFF)を、制約を誘導しないように遊離システインで用いた。3つの最小化サイクルと、3つの異なる側鎖による極わずかな変化の後、システインの2つの-SH側鎖は、依然としてジスルフィド架橋を作製するのに適した位置にあった。
【0116】
したがって得られたMimocov2ペプチド(配列番号3)と命名されたペプチドは、ACE2受容体に結合するSARS-CoV-2 RBDの保存領域を集めることが可能な直鎖状アミノ酸であることが確認された(ステップc)。インシリコでのその環化は、モデリングされた環状3Dエピトープをもたらす。
【0117】
実施例2:Mimocov2ペプチド(配列配列番号3)の合成
Mimocov2ペプチド合成を、Cys(c)、Asn(N)およびGln(q)では保護基Trtを、Glu、Ser(s)、Thr(t)およびTyr(Y)では保護基tBuを用いてFmoc/tBuの化学作用により実行した。化学合成では、Fmocを、ピペリジン/DMF(25/75)で脱保護した。
【0118】
アミノ酸残基が、HCTUおよびNMMと、A/HCTU/NMM(5eq/5eq/10eq)の比でカップリングされた。ペプチド脱保護を、TFA/水/DTT(90/5/5)で実行した。
【0119】
合成されたペプチドを、Symmetry C18カラム、100Å、5μm、4.6mm×250mm(Waters(登録商標))でのHPLCにより、製造業者の使用説明書に従って分析した。注入容量は、10μLであり、溶出緩衝液A/Bは、
- A:H2O中の0.1%トリフルオロ酢酸(TFA);
- B:アセトニトリル中の0.1%TFA
であった。
【0120】
【0121】
Mimocov2ペプチドは、合成の際に非常に安定していることが示された。
【0122】
実施例3:Mimocov2ペプチドでのワクチン接種
動物モデルでの試験では、毒性が示されなかった。
【0123】
動物での試験では、Mimocov2ワクチンがSiemen検査で検出可能なRBDに対して免疫応答を誘導し得たことが示される。IgGによる免疫応答は、6か月後も依然として検出可能であり、SARS-CoV-2感染に対する防御を提供するのに充分高かった。
【0124】
本明細書で用いられた配列
配列番号1(YP_009724390.1 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2の表面糖タンパク質)
MFVFLVLLPLVSSQCVNLTTRTQLPPAYTNSFTRGVYYPDKVFRSSVLHSTQDLFLPFFSNVTWFHAIHVSGTNGTKRFDNPVLPFNDGVYFASTEKSNIIRGWIFGTTLDSKTQSLLIVNNATNVVIKVCEFQFCNDPFLGVYYHKNNKSWMESEFRVYSSANNCTFEYVSQPFLMDLEGKQGNFKNLREFVFKNIDGYFKIYSKHTPINLVRDLPQGFSALEPLVDLPIGINITRFQTLLALHRSYLTPGDSSSGWTAGAAAYYVGYLQPRTFLLKYNENGTITDAVDCALDPLSETKCTLKSFTVEKGIYQTSNFRVQPTESIVRFPNITNLCPFGEVFNATRFASVYAWNRKRISNCVADYSVLYNSASFSTFKCYGVSPTKLNDLCFTNVYADSFVIRGDEVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGCVIAWNSNNLDSKVGGNYNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVEGFNCYFPLQSYGFQPTNGVGYQPYRVVVLSFELLHAPATVCGPKKSTNLVKNKCVNFNFNGLTGTGVLTESNKKFLPFQQFGRDIADTTDAVRDPQTLEILDITPCSFGGVSVITPGTNTSNQVAVLYQDVNCTEVPVAIHADQLTPTWRVYSTGSNVFQTRAGCLIGAEHVNNSYECDIPIGAGICASYQTQTNSPRRARSVASQSIIAYTMSLGAENSVAYSNNSIAIPTNFTISVTTEILPVSMTKTSVDCTMYICGDSTECSNLLLQYGSFCTQLNRALTGIAVEQDKNTQEVFAQVKQIYKTPPIKDFGGFNFSQILPDPSKPSKRSFIEDLLFNKVTLADAGFIKQYGDCLGDIAARDLICAQKFNGLTVLPPLLTDEMIAQYTSALLAGTITSGWTFGAGAALQIPFAMQMAYRFNGIGVTQNVLYENQKLIANQFNSAIGKIQDSLSSTASALGKLQDVVNQNAQALNTLVKQLSSNFGAISSVLNDILSRLDKVEAEVQIDRLITGRLQSLQTYVTQQLIRAAEIRASANLAATKMSECVLGQSKRVDFCGKGYHLMSFPQSAPHGVVFLHVTYVPAQEKNFTTAPAICHDGKAHFPREGVFVSNGTHWFVTQRNFYEPQIITTDNTFVSGNCDVVIGIVNNTVYDPLQPELDSFKEELDKYFKNHTSPDVDLGDISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQELGKYEQYIKWPWYIWLGFIAGLIAIVMVTIMLCCMTSCCSCLKGCCSCGSCCKFDEDDSEPVLKGVKLHYT
【0125】
配列番号2(ACE2受容体との総合作用を担うSタンパク質のドメイン)
EGFNCYFPLQSYGFQPTNGVGYQPYR
【0126】
配列番号3(本発明によるMimocov2ペプチド)
EGFNSYFPLQSYGCQPTNGVGYQCYR
【手続補正書】
【提出日】2024-01-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】