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  • 特表-高溶融強度ポリプロピレン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-17
(54)【発明の名称】高溶融強度ポリプロピレン
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/06 20060101AFI20240410BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20240410BHJP
   C08J 3/28 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C08F10/06
C08F8/00
C08J3/28 CES
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568550
(86)(22)【出願日】2022-05-12
(85)【翻訳文提出日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2022062865
(87)【国際公開番号】W WO2022238520
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】21173666.5
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511114678
【氏名又は名称】ボレアリス エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ライヒェルト ノルベルト
【テーマコード(参考)】
4F070
4J100
【Fターム(参考)】
4F070AA15
4F070AB23
4F070AB24
4F070AB26
4F070AC32
4F070AE08
4F070HA04
4F070HB15
4J100AA03P
4J100BA16H
4J100CA01
4J100CA31
4J100DA09
4J100DA19
4J100DA42
4J100FA09
4J100FA22
4J100HA53
4J100HC29
4J100HE21
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸から誘導可能な単位を含む高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)、この高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)を調製するプロセス、及びこの高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)を含む物品に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)であって、0.9未満のGPCによって決定された分岐指数g’を有し、
i)プロピレン、及び
ii)少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸
から誘導可能な単位を含む、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項2】
前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の全重量に基づいて0.05~2.0重量%の、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸から誘導可能な単位を含む請求項1に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項3】
前記少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸はリノール酸及び/又はα-リノレン酸である請求項1又は請求項2に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項4】
xが5.55~5.27ppmにおけるH NMRシグナル(400MHz、1,2-テトラクロロエタン-d)の強度であり、zが4.85~4.73ppmにおけるH NMRシグナル(400MHz、1,2-テトラクロロエタン-d)の強度であり、wが4.73~4.66ppmにおけるH NMRシグナル(400MHz、1,2-テトラクロロエタン-d)の強度であるとすると、比x/(z-w)は0.25~2.0の範囲にある請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項5】
不等式(I)
【数1】
を満たし、前記式(I)中、[F30(HMSPP)]は、30barでISO16790:2005に従って決定された前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のF30溶融強度であり、[F200(HMSPP)]は、200barでISO16790:2005に従って決定された前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のF200溶融強度である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項6】
前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRを有する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)と比較して、ISO16790:2005に従って決定された付加的F30溶融強度(AMS)が2.0cN超であり、前記付加的F30溶融強度(AMS)は式(II)に従って決定され、
AMS=MS(HMS-PP)-LMS (II)
前記式(II)中、AMSは、前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRを有する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)と比較した場合の、ISO16790:2005に従って決定された付加的F30溶融強度(AMS)[単位:cN]であり、MS(HMS-PP)は、ISO16790:2005に従って決定された前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のF30溶融強度[単位:cN]であり、LMSは、前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRを有する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)[単位:cN]であり、
前記F30溶融強度(LMS)は式(III)に従って決定され、
LMS=17.35MFR-0.994 (III)
前記式(III)中、MFRは、前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項7】
120℃未満のDSCに従って決定された結晶化温度Tcを有する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項8】
高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の調製の方法であって、
a)直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)、好ましくは直鎖状プロピレンホモポリマー(H-PP)を提供する工程と、
b)前記プロピレンポリマー(L-PP)を多価不飽和脂肪酸を含むカップリング剤(CA)とブレンドする工程と、
c)工程b)で得られた混合物を電子線照射によって照射する工程と
を含む、方法。
【請求項9】
工程c)に係る前記電子線照射の線量は50~150kGyの範囲にある請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程b)で得られた混合物は、工程b)で得られた混合物の全重量に基づいて0.01~5.0重量%の前記多価不飽和脂肪酸を含むカップリング剤(CA)を含む請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記多価不飽和脂肪酸を含むカップリング剤(CA)は天然アマニ油である請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
組成物(C)であって、前記組成物(C)の全重量に基づいて少なくとも10.0重量%のリサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)を含み、前記リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)は、使用済み廃棄物及び/又は産業廃棄物に由来する廃棄プラスチック材料から回収される請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)である、組成物(C)。
【請求項13】
前記リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)、及び前記高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)であり前記リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)が得られるもとになる起源の高溶融強度ポリプロピレン(o-HMS-PP)のISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRは不等式IVを満たし、
【数2】
前記式(IV)中、MFR(oHMSPP)は、前記起源の高溶融強度ポリプロピレン(o-HMS-PP)のISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRであり、MFR(rHMSPP)は、前記リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)のISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRである請求項12に記載の組成物(C)。
【請求項14】
難燃剤、充填剤、顔料、耐衝撃性改良剤、酸化防止剤、核形成剤、プロセス安定剤、スリップ剤、又はこれらの混合物からなる群から選択される添加剤(AD)を含む請求項12又は請求項13に記載の組成物(C)。
【請求項15】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)又は請求項12から請求項14のいずれか1項に記載の組成物(C)を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸から誘導可能な単位を含む高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)、この高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)を調製するプロセス、及びこの高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)を含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系ポリマー組成物が造形物を形成するために適用される場合、その組成物が、組成物を所望の形状に成形することができるように十分に高い溶融強度を有することが必要である。これは、例えば、プロピレン系ポリマー組成物がその融解温度を超えるまで加熱され、続いて所望の物体に成形されるプロセスを介して、プロピレン系ポリマー組成物が物体に成形される場合である。このようなプロセスでは、物体が成形される温度で、プロピレン系ポリマー組成物の高い形状安定性が要求される。プロピレン系ポリマー組成物は、冷却による凝固が起こる前に、そのような温度条件下で溶融状態でその形状を維持することができる必要がある。プロピレン系ポリマー組成物を使用して調製されるそのような物体は、例えば、発泡構造体を含んでもよい。
【0003】
「Polypropylene foams」、Ratzschら、Springer、1999、DOI:0.007/978-94-01-4421-6-86、635-642頁に記載されているように、プロピレン系ポリマー組成物を使用して発泡構造体を製造する一般的な方法は、
(i)プロピレン系ポリマー組成物を溶融状態にする工程と、
(ii)溶融したプロピレン系ポリマー組成物にガス状材料のポケットを導入して、発泡セルを含む溶融したプロピレン系ポリマー組成物を形成する工程と、
(iii)発泡セルを含む溶融したプロピレン系ポリマー組成物を、発泡構造を含む所望の形状に成形する工程と、
(iv)そのプロピレン系ポリマー組成物の融点未満まで冷却することにより、成形された発泡構造体を凝固させる工程と
を含むプロセスである。
【0004】
概して、これらの工程は、提示された順序で行われる。このプロセスにおける重要な要素は、工程(ii)における発泡セルの形成である。加工された材料の性質に応じて、発泡構造体は、特定の量の独立気泡を含んでもよい。本発明の文脈において、独立気泡は、各セル内のガス状材料が別のセル内のガス状材料と接触しないように、独立気泡壁によって囲まれたすべての側にあるガス状材料のポケットであると理解されてもよい。このようなセル壁は、例えば、上記プロピレン系ポリマー組成物を含んでもよい。
【0005】
特定の用途では、発泡構造体が、特定の高い独立気泡率を含むことが望ましい。高い独立気泡率は、発泡構造体の断熱値に寄与してもよい。さらには、高い独立気泡率は、例えば曲げ弾性率及び引張強度に関して発泡構造体の強度に寄与してもよい。さらには、これらの発泡構造体は、ある程度低い密度を有することが望ましい。例えば、発泡構造体の密度は、100kg/m以下、あるいは、80kg/m以下であってもよい。そのような低い密度を有する発泡構造体は、肉又は果物用のトレイ等の用途のための軽量化の要件に適合する。
【0006】
別の重要な特徴は、そのような所望の高い独立気泡率を有しそのような所望の低い密度を有する発泡構造体が押出発泡体製造方法によって製造されてもよい温度範囲が、十分に広いことである。この温度範囲は、発泡性ウィンドウ(foamability window)とも呼ばれる。好ましくは、発泡性ウィンドウは5℃以上である。発泡性ウィンドウが狭すぎると、処理温度の変動を避ける必要があるため、発泡加工装置に重大な負担がかかる。発泡される材料の発泡性ウィンドウを超える変動は、品質要件を満たさないという理由で商業的に販売するのに不適切である規格外の材料をもたらす可能性がある。
【0007】
上記の特性を達成するために、プロピレン系ポリマー組成物は十分に高い溶融強度を有する必要がある。溶融強度は、ポリマー組成物が溶融状態にある条件下で個々のポリマー分子がそれらの位置を互いに向かって何とか維持する程度の指標を表す。
【0008】
高溶融強度ポリプロピレンは分岐しており、従って、ポリプロピレン主鎖が側鎖にも及ぶが、非分岐ポリプロピレン、すなわち直鎖状ポリプロピレンは側鎖には及ばないという点で直鎖状ポリプロピレンとは異なる。このような長鎖分岐は、ポリプロピレンのレオロジー挙動、例えば伸長粘度及び剪断粘度を劇的に改変するということが知られている。
【0009】
商業規模で低密度発泡体に必要とされる特性を有する分岐ポリプロピレンを製造するために、3つの主な経路が公知である。
A. カップリング剤/増感剤を用いないポリプロピレンの照射、
B. 低温過酸化物/ペルオキシカーボネートを単独で又はカップリング剤と組み合わせて使用するポリプロピレンの反応押出、
C. 特別な触媒を用いたプロピレン及びオリゴマーの重合。
【0010】
経路Bは、ラジカル源としての過酸化物又はカップリング剤のいずれかの添加に起因する欠点を有する。経路Cの欠点は、必要とされる特別な触媒及び特別な重合条件、並びに商業的な重合反応器の典型的なサイズと比較して小さい生産量に起因する。
【0011】
経路Aは、生成物純度に関して最も好ましい経路であるが、活性マクロラジカルがビスブレーキング反応を開始する傾向があるため、照射プロセスにおける生成物品質の確保は困難である。
【0012】
欧州特許出願公開第0190889号明細書は、カップリング剤なしで、低レベルの酸化防止剤の存在下、低酸素下でのPPフレークの照射によって分岐ポリプロピレンを製造するプロセスを開示する。線量範囲は毎分0.1~1000kGyであると開示され、電離放射線は、照射される直鎖状プロピレンポリマー材料の塊において所望される程度まで浸透するのに十分なエネルギーを有するべきであることが開示されている。(電子発生装置について)加速電位500~4000kV、線量10~90kGyの使用も開示されている。照射工程に続いて、照射された材料は押出機内で加熱され、マクロラジカルが失活させられる。
【0013】
欧州特許出願公開第0519386号明細書及び欧州特許出願公開第0634441号明細書は、酸化防止剤を含有するポリプロピレンフレークの高エネルギー照射によって高溶融強度のプロピレンポリマー及びコポリマーを製造するための欧州特許出願公開第0190889号明細書と同様の方法を開示する。米国特許第5,047,446号明細書及び米国特許第4,916,198号明細書は、照射後の2つの熱失活工程を強調する欧州特許出願公開第0190889号明細書と同様の製造プロセスを開示する。
【0014】
欧州特許出願公開第0678527号明細書(チッソ株式会社(Chisso)、1995)は、1~20kGyの吸収線量を与えるように、ポリプロピレン及び架橋剤混合物が電離放射線で照射され、続いて得られた材料が熱処理される変性ポリプロピレンの製造のプロセスを開示する。
【0015】
国際公開第97/08216号パンフレットは、照射を受けるジエン変性プロピレンポリマーを製造する方法を開示する。照射は、好ましくは、電子線又はガンマ線を約1~約20Mradの線量で数秒間使用して実施されることが開示されている。ポリプロピレンは、メタロセン触媒を用いてジエンと共重合された後、照射して鎖延長されることが可能であるということが開示されている。
【0016】
欧州特許出願公開第0799839号明細書及び欧州特許出願公開第0351866号明細書も、欧州特許出願公開第0634441号明細書と同様の開示を有し、500~4000kVの加速電位を有する電子発生装置の使用を開示する。
【0017】
欧州特許出願公開第0451804号明細書は、酸素の存在下での照射によってシンジオタクチックポリプロピレンの分子量を増加させる方法を開示する。この明細書は、照射のためのいかなるエネルギー範囲も開示していない。照射の線量は0.1~50Mradであってもよい。照射後、ポリプロピレンは加熱されてもよい。
【0018】
欧州特許出願公開第0787750号明細書は、2~8Mrdの線量でブタジエン又はジアクリレート等の分岐剤の存在下で照射することにより分岐ポリプロピレンを製造するプロセスを開示する。
【0019】
米国特許第5,554,668号明細書は、ポリプロピレンを照射してポリプロピレンの溶融強度を高めるプロセスを開示する。溶融強度の増加は、別途メルトインデックスとして知られるメルトフローレートを減少させることにより達成される。直鎖状プロピレンポリマー材料が高エネルギー電離放射線、好ましくは電子線で、直鎖状プロピレンポリマー分子の実質的な量の鎖切断が起こるには十分であるがその材料のゲル化を引き起こすには不十分な時間、毎分約1~1×10Mradsの範囲の線量率で照射されることが開示されている。その後、材料は、実質的な量の長鎖分岐が形成されるのに十分な期間維持される。最後に、材料は、照射された材料中に存在する実質的にすべてのフリーラジカルを失活させるように処理される。電子線の場合、電子は、500~4000kVの加速電位(すなわちエネルギー)を有する電子発生装置から発せられることが開示されている。典型的には、照射されるポリプロピレン材料は粒子状であり、電子線発生装置の下のコンベヤベルト上で運ばれ、電子線発生装置は、コンベヤベルトによってポリプロピレン粒子がその下を平行移動されるにつれて、ポリプロピレン粒子を連続的に照射する。得られたポリプロピレンは、メルトフローレートの低下によって表されるように、改善された溶融強度を有する。米国特許第5,554,668号明細書に開示されたプロセスの短所は、コンベヤベルトの速度が遅く、少量の材料しか処理されないので、照射されたポリプロピレンの製造速度が比較的低いことである。これは、プロセスの商業的実施において困難をもたらす。加えて、この明細書は、非常に広い範囲の線量率、すなわち毎分1~1×10Mradの使用を開示する。約40Mradを超える高い線量率は、ポリプロピレンの実質的に完全な架橋構造をもたらすことができる。しかしながら、このような高い架橋構造は、加工が困難である。
【0020】
ポリプロピレン粉末の取り扱いは、物流及び粉塵爆発の安全リスクにおいていくつかの短所を有するので、ペレットの照射によって分岐ポリプロピレンを製造するプロセスを見出すためにいくつかの試みがなされた。
【0021】
欧州特許出願公開第0520773号明細書は、ポリエチレンとブレンドされていてもよいポリプロピレンを含む発泡性ポリオレフィン樹脂組成物を開示する。架橋発泡体を調製するために、発泡性樹脂組成物のシートが電離放射線で照射されてその樹脂が架橋される。電離放射線は、1~20Mradの線量の電子線を含んでもよい。欧州特許出願公開第1297031号明細書において1,9-ノナンジオールジメタクリレートによって例示される二官能性モノマーを含む補助架橋剤が使用されてもよいことが開示されている。
【0022】
欧州特許出願公開第0519341号明細書は、ポリマーを照射し、グラフト化モノマーで処理することによる、粒子状オレフィンポリマーへのビニルモノマーのグラフト化を開示する。一例では、ポリプロピレンは2MeVのエネルギーを有する電子線で照射された後、グラフトモノマーとして無水マレイン酸で処理される。
【0023】
米国特許第4,916,198号明細書は、ポリプロピレン粉末の照射及び照射後の添加剤の添加を開示する。ポリプロピレン顆粒及びアマニ油の使用は開示されていない。
【0024】
米国特許第5,414,027号明細書も、プロピレンポリマーの電子線照射を開示すが、安定剤としてのアマニ油の使用を開示していない。
【0025】
米国特許第2,948,666号明細書及び米国特許第5,605,936号明細書は、照射ポリプロピレンを製造するプロセスを開示する。後者の明細書は、高分子量直鎖状プロピレンポリマーの高エネルギー照射による高い溶融強度を特徴とする高分子量非直鎖状プロピレンポリマー材料の製造を開示する。照射工程で用いる電離放射線は、500~4000kVの加速電位を有する電子発生装置から発せられた電子を含んでいてもよいことが開示されている。重合したジエンの含有量のないプロピレンポリマー材料の場合、電離放射線の線量は0.5~7Mradである。重合したジエンの含有量を有するプロピレンポリマー材料の場合、線量は0.2~2Mradである。
【0026】
欧州特許出願公開第0821018号明細書は、電離放射線に曝された架橋性オレフィンポリマーの調製を開示する。この明細書は、シラン誘導体をポリマー鎖上にグラフトするためにポリマー鎖を分割するための比較的低いエネルギー及び低い線量の電子線を例示する。この明細書は、ポリマーの高い溶融強度を達成する課題に対処していない。
【0027】
米国特許第5,411,994号明細書は、オレフィンポリマー粒子の塊が照射され、その後、塊が液体形態のビニルモノマーで処理される、ポリオレフィンのグラフトコポリマーの製造を開示する。電離放射線の線量は1~12Mrad程度であり、電離放射線は、500~4000kVの加速電位を有する電子発生装置から発せられた電子を含むことが好ましい。ポリマーは最初に照射され、次いでグラフト剤で処理される。
【0028】
従来のチーグラー・ナッタ(Ziegler-Natta)触媒を用いて製造されたアイソタクチックポリプロピレンを照射する場合、電子線によるポリプロピレンの照射は遊離マクロラジカルを生成し、鎖切断と分岐との間に競合があり、鎖切断が有利であることがさらに公知である。
【0029】
分岐剤、例えば多ビニル化合物を使用して、分岐の達成に向けて平衡をずらすことが公知である。例えば、カナダ国特許第2,198,651号明細書は、二官能性不飽和モノマーを照射前及び/又は照射中に添加することができることを開示する。このような化合物としては、ジビニル化合物、アルキル化合物、ジエン又はこれらの混合物が挙げられてもよい。これらの二官能性不飽和モノマーは、照射中にフリーラジカルの助けを借りて重合することができる。ブタジエンが特に好ましい。カナダ国特許第2,198,651号明細書は、0.05~12Mradsの放射線量で150~300keVのエネルギーを有する低エネルギー電子線加速器が使用される、増加した耐応力亀裂性及び溶融強度のポリプロピレン混合物を製造するための連続方法も開示する。このプロセスも、照射された粉末の製造速度が商業的に受け入れられるにはいくらか低い可能性があるという短所を有する。また、照射されるポリプロピレン粉末は、非常に微細な粒子状でなければならない。プロピレンと、1,5-ヘキサジエン等のジエンとのコポリマーを照射することも公知である。そのようなコポリマーを用いることは、ジエンの不完全変換(重合率)及び対応する臭気に起因して、重合手順を実質的に複雑にする。
【0030】
国際公開第01/88001号パンフレットは、ブタジエン及びアセチレン等の架橋促進ガスの存在下で照射することにより分岐ポリプロピレンを調製するプロセスを開示する。
【0031】
米国特許第7,019,044号明細書及び欧州特許出願公開第1297031号明細書は、10000個の炭素原子あたり0.1個を超える二重結合を有するプロピレンコポリマーの照射によって分岐ポリプロピレンを調製するプロセスを開示する。
【0032】
欧州特許出願公開第1187860号明細書及び欧州特許出願公開第1170306号明細書は、アクリレート、ジアクリレート、ブタジエン及びテトラビニルシラン等の分岐剤の存在下で5MeVを超える加速電圧を有する電子線で照射することによる欧州特許出願公開第0787750号明細書と同様のプロセスを開示する。
【0033】
米国特許第7,935,740号明細書及び米国特許第8,399,536号明細書は、亜リン酸エスエル、HALS、ベンゾフラノン、ヒンダードアミン、ヒドロキシルアミン等の少なくとも1種の非フェノール性酸化防止剤を含有するポリプロピレンペレットの照射によって高い溶融強度を有するポリプロピレンを製造するプロセスを開示する。
【0034】
国際公開第2018/028922号パンフレット(Sabic(サビック))は、ビタミンEのみを含有するポリプロピレンペレットの照射によって高い溶融強度を有するポリプロピレンを製造するプロセスを開示する。
【0035】
ポリプロピレンが低線量でゲルを形成することなく必要な分岐レベルに達するための複数の不飽和分岐剤が開示されている。これらの物質は、高エネルギー照射によりポリプロピレン鎖から水素が引き抜かれて形成されるマクロラジカルを安定化し、結合させて分岐構造を形成するために用いられる。典型的な増感剤は、非常に反応性が高い不飽和化学化合物、例えばアクリレート、ジアクリレート及びトリアクリレート、共役ジエン、例えばブタジエン、アセチレン又はビニル化合物、例えばテトラビニルシラン又はジビニルベンゼンである。
【0036】
このような分岐剤(又はグラフト化剤又は増感剤)の使用は、通常、変性ポリプロピレン中の未反応の分岐剤又はグラフト化剤の結果として、不快な臭い、コストの増加、及び環境問題、特に毒性の可能性の増加という短所をもたらす。これらの提案されたすべての物質の別の共通の問題は、ポリマー又はポリマーから作製された発泡体から環境への未反応の分岐剤の移動の潜在的可能性があることである。
【0037】
長鎖分岐ポリプロピレンの押出発泡に関連する一般的な問題は、押出中の剪断によって引き起こされる粘度及び溶融強度の変化である。この粘度の変化は、再ペレット化したPP発泡体製造廃棄物を第2の成分として発泡プロセスにおいて使用する場合に問題を引き起こす。バージンの高溶融強度ポリプロピレン樹脂とは異なる高溶融強度ポリプロピレンリサイクル素材の異なる溶融強度及び粘度は、超低密度発泡体の製造のための最大添加レベルを20~30重量%に制限する。
【0038】
食品包装が分岐ポリプロピレンの主な用途の1つであるので、好ましくは、ポリプロピレン組成物に使用されるすべての物質(分岐剤及び酸化防止剤)は、再生可能な供給源に由来するべきであり、ポリプロピレン組成物において使用されるために一般的に安全と認められている(generally be recognized as safe、GRAS)もの又は食品認可されたものであるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0190889号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0519386号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0634441号明細書
【特許文献4】米国特許第5,047,446号明細書
【特許文献5】米国特許第4,916,198号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0678527号明細書
【特許文献7】国際公開第97/08216号パンフレット
【特許文献8】欧州特許出願公開第0799839号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第0351866号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第0451804号明細書
【特許文献11】欧州特許出願公開第0787750号明細書
【特許文献12】米国特許第5,554,668号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第0520773号明細書
【特許文献14】欧州特許出願公開第1297031号明細書
【特許文献15】欧州特許出願公開第0519341号明細書
【特許文献16】米国特許第5,414,027号明細書
【特許文献17】米国特許第2,948,666号明細書
【特許文献18】米国特許第5,605,936号明細書
【特許文献19】欧州特許出願公開第0821018号明細書
【特許文献20】米国特許第5,411,994号明細書
【特許文献21】カナダ国特許第2,198,651号明細書
【特許文献22】国際公開第01/88001号パンフレット
【特許文献23】米国特許第7,019,044号明細書
【特許文献24】欧州特許出願公開第1187860号明細書
【特許文献25】欧州特許出願公開第1170306号明細書
【特許文献26】米国特許第7,935,740号明細書
【特許文献27】米国特許第8,399,536号明細書
【特許文献28】国際公開第2018/028922号パンフレット
【非特許文献】
【0040】
【非特許文献1】「Polypropylene foams」、Ratzschら、Springer、1999、DOI:0.007/978-94-01-4421-6-86、635-642頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
本発明は、再生可能な供給源からの分岐剤を使用して高い製造速度で製造することができる、改善された特性、特に改善された溶融強度を有するポリプロピレン樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0042】
従って、本発明は、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)であって、0.9未満のGPCに従って決定された分岐指数g’を有し、
i)プロピレン、及び
ii)少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸
から誘導可能な単位を含む、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)に向けられる。
【0043】
本発明はさらに、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の調製のプロセスであって、
a)直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)を提供する工程と、
b)上記プロピレンポリマー(L-PP)を多価不飽和脂肪酸を含むカップリング剤(CA)とブレンドする工程と、
c)工程b)で得られた混合物を電子線照射によって照射する工程と
を含む、プロセスに向けられる。
【0044】
さらに、本発明は、上記プロセスから得られる高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)に向けられる。
【0045】
本発明は、上記の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)を含む発泡体にも向けられる。
【0046】
本発明はさらに、組成物(C)であって、組成物(C)の全重量に基づいて少なくとも10.0重量%のリサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)を含み、このリサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)は、使用済み廃棄物及び/又は産業廃棄物に由来する廃棄プラスチック材料から回収される上記の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)である、組成物(C)に向けられる。
【0047】
最後に、本発明は、上記の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)を含む物品に向けられる。
【0048】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明のHMS-PPのH NMRスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下で、本発明はより詳細に説明される。
【0051】
上記に既に示されているとおり、本発明は、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)であって、0.9未満のGPCに従って決定された分岐指数g’を有し、
i)プロピレン、及び
ii)少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸
から誘導可能な単位を含む高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)に向けられる。
【0052】
分岐指数g’は、分岐の程度を定義し、ポリマーの分岐の量と相関する。好ましくは、本発明に係る高溶融強度ポリプロピレンは、0.85以下、より好ましくは0.80以下のGPCにより求められる分岐指数g’を有する。
【0053】
本発明に係る高溶融強度ポリプロピレンの分岐指数g’は、通常少なくとも0.10である。
【0054】
本発明は、多価不飽和脂肪酸から誘導可能な単位を含む高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)に向けられる。この高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、多価不飽和脂肪酸の存在下で直鎖状ポリプロピレン前駆体を照射することにより調製される。多価不飽和脂肪酸は、好ましくは天然の供給源から得られる。それゆえ、本発明は、多価不飽和脂肪酸を多量に含む植物油等の再生可能物質を用い、電子線照射により照射することにより、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)を得ることができるということを特徴とする。
【0055】
本発明者らは、予想外にも、多価不飽和脂肪酸から誘導可能な単位を含む高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)が、
・1未満のMFR(fractional MFR)を有する直鎖状ポリプロピレン(フラッフ(綿毛状物)及びペレット)の押出中のMFR変化を制限すること、
・電子線照射によってポリプロピレンの長鎖分岐及び高い付加的高溶融強度を作り出すこと、
・押出中の剪断によって引き起こされる長鎖分岐ポリプロピレンの粘度及び溶融強度の変化を制限すること
によく適しているということを見出した。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「多価不飽和脂肪酸」は、少なくとも2つの炭素-炭素二重結合を含む脂肪酸を指す。好ましくは、本発明の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、二官能性不飽和脂肪酸、すなわち2つの炭素-炭素二重結合を含む多価不飽和脂肪酸から誘導可能な単位を含む。
【0057】
高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の全重量に基づいて少なくとも0.05重量%、より好ましくは0.05~2.0重量%、さらにより好ましくは0.1~1.0重量%、例えば0.25~0.5重量%の、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸から誘導可能な単位を含むことが好ましい。
【0058】
少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸、例えば二官能性不飽和脂肪酸は、リノール酸及び/又はα-リノレン酸であることがとりわけ好ましい。
【0059】
高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)内のα-リノレン酸及び/又は他の多価不飽和植物油から誘導可能な単位の存在は、H NMR分光法によって検出することができる。特に、xが5.55~5.27ppmにおけるH NMRシグナル(400MHz、1,2-テトラクロロエタン-d)の強度であり、zが4.85~4.73ppmにおけるH NMRシグナル(400MHz、1,2-テトラクロロエタン-d)の強度であり、wが4.73~4.66ppmにおけるH NMRシグナル(400MHz、1,2-テトラクロロエタン-d)の強度であるとすると、比x/(z-w)は0.25~2.0の範囲にあることが好ましい。図1は、本発明の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のH NMRスペクトル(400MHz、1,2-テトラクロロエタン-d)を示す。表3から分かるように、5.55~5.27ppmのシグナルは、α-リノレン酸(LSO)等の不飽和酸から誘導可能な単位に帰属することができ、不飽和酸の存在下での直鎖状ポリプロピレンの照射後の上記シグナルの強度xは、直鎖状ポリプロピレンに添加される上記不飽和酸の量と共に増加する。
【0060】
本発明に係る高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム及びステアリン酸カルシウムから選択される有機金属ステアレート並びに/又は少なくとも1種の無機ハイドロタルサイト、例えばDHT4Aを含むことができる。高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、ステアリン酸カルシウムを含んでもよい。当該高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、ステアリン酸カルシウムを含むことが好ましい。有機金属ステアレート及び/又は無機ハイドロタルサイト、好ましくはステアリン酸カルシウムの量は、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の全重量に基づいて100重量ppm~1000重量ppm、より好ましくは200重量ppm~800重量ppm、さらにより好ましくは400重量ppm~600重量ppmの範囲にあってもよい。
【0061】
本発明に係る高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、さらなる添加剤(AD)、例えば、核形成剤及び清澄剤、安定剤、離型剤、充填剤、過酸化物、可塑剤、酸化防止剤、潤滑剤、帯電防止剤、ビタミンE、耐擦傷性(耐スリキズ性)剤、高性能充填剤、顔料及び/又は着色剤、耐衝撃性改良剤、難燃剤、発泡剤、酸捕捉剤、リサイクル添加剤、カップリング剤、抗菌剤、防曇添加剤、スリップ剤、ブロッキング防止添加剤、ポリマー加工助剤等を含有してもよい。このような添加剤は市販されており、例えば、Hans Zweifelの「Plastic Additives Handbook」、第6版、2009年、1141~1190頁に記載されている。好ましくは、添加剤(AD)は、難燃剤、充填剤、顔料、耐衝撃性改良剤、酸化防止剤、例えばビタミンE(α-トコフェロール)、核形成剤、プロセス安定剤、スリップ剤又はこれらの混合物からなる群から選択される。
【0062】
さらには、本発明に係る用語「添加剤(AD)」は、担体材料、特にポリマー担体材料も含む。
【0063】
好ましくは、本発明の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の重量に基づいて5.0重量%を超える量、好ましくは3.0重量%を超える量、より好ましくは2.0重量%を超える量の、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)とは異なるさらなるポリマー(複数種可)を含まない。添加剤(AD)のための担体材料であるいずれのポリマーも、本発明に示されるようなポリマー化合物の量ではなく、それぞれの添加剤の量に対して算入される。
【0064】
添加剤(AD)のポリマー担体材料は、本発明の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)中での均一分布を確保するための担体ポリマーである。このポリマー担体材料は特定のポリマーには限定されない。ポリマー担体材料は、エチレンホモポリマー、エチレン及びC3~C8α-オレフィンコモノマー等のα-オレフィンコモノマーから得られるエチレンコポリマー、プロピレンホモポリマー、並びに/又はプロピレン並びにエチレン及び/若しくはC4~C8α-オレフィンコモノマー等のα-オレフィンコモノマーから得られるプロピレンコポリマーであってもよい。ポリマー担体材料がスチレン又はその誘導体から誘導可能なモノマー単位を含有しないことが好ましい。
【0065】
高溶融強度ポリプロピレンは分岐しており、従って、ポリプロピレン骨格が側鎖に及ぶが、非分岐ポリプロピレン、すなわち直鎖状ポリプロピレンは側鎖には及ばないという点で直鎖状ポリプロピレンとは異なる。側鎖は、ポリプロピレンのレオロジーに著しい影響を及ぼす。従って、直鎖状ポリプロピレン及び高溶融強度ポリプロピレンは、応力下でのそれらの流動挙動によって明確に区別することができる。
【0066】
安定な溶融強度は、標準剪断(ダイ圧力30bar(バール))及び増強剪断(ダイ圧力200bar)で測定された、200℃、120mm/秒の加速度でのISO16790:2005に従うRheotens(レオテンス)測定による溶融強度の比が1.3未満であるとして定義することができる。それゆえ、200℃、120mm/sbarの加速度でのRheotens測定によって測定された、標準剪断(ダイ圧力30bar)で測定されたF30溶融強度と、200barのダイ圧力での増強剪断溶融強度F200との比は、1.3より小さいことが好ましい。
【0067】
前段落に加えて又はその代わりに、本発明に係る高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、不等式(I)を満たすことが好ましく、不等式(Ib)を満たすことがより好ましく、不等式(Ic)を満たすことがさらに好ましく、
【数1】
上記式中、[F30(HMSPP)]は、30barのダイ圧力でISO16790:2005に従って決定された高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のF30溶融強度であり、[F200(HMSPP)]は、200barのダイ圧力でISO16790:2005に従って決定された高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のF200溶融強度である。
【0068】
直鎖状ポリプロピレンの溶融強度は、メルトフローレートに対する指数関数的依存性を有し、これは、異なるメルトフローレートを有する分岐ポリプロピレンの比較を非常に困難にする。高溶融強度ポリプロピレンの付加的F30溶融強度(AMS)は、式(II)に従って計算することができ、
AMS=MS(HMS-PP)-LMS (II)
上記式(II)中、AMSは、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)を有する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)と比較した場合の、ISO16790:2005に従って決定された付加的F30溶融強度(AMS)[単位:cN]であり、MS(HMS-PP)は、ISO16790:2005に従って決定された高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のF30溶融強度[単位:cN]であり、LMSは、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)を有する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)[単位:cN]であり、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じメルトフローレート及び3~5の範囲の多分散性を有する対応する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)は式(III)に従って決定され、
LMS=17.35MFR-0.994 (III)
上記式(III)中、MFRは、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)である。
【0069】
本発明の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、2.0cNより大きい(コーティンググレードの場合)、より好ましくは20cNより大きい(発泡グレードの場合)上記で定義された付加的F30溶融強度(AMS)、及び240mmより大きいv30延伸性(extensibility)を有することが好ましい。メルトフローレート正規化溶融強度としての付加的F30溶融強度(AMS)の使用により、異なるメルトフローレートを有する分岐ポリプロピレン(HMS-PP)生成物間の比較が可能になる。
【0070】
DSCによって決定された高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の結晶化温度Tcは、通常、照射前の直鎖状ポリプロピレン前駆体樹脂の結晶化温度Tcよりも小さい。特に、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、120℃未満、より好ましくは115℃未満のDSCに従って測定された結晶化温度Tcを有する。
【0071】
さらに、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、熱機械的に安定であることが好ましい。それゆえ、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、少なくとも155℃、より好ましくは155~167℃の範囲、さらにより好ましくは157~163℃の範囲、例えば158~160℃の範囲のDSCに従って決定された融解温度Tmを有することが好ましい。
【0072】
高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、好ましくは200~500Paの範囲、より好ましくは250~450Paの範囲、さらにより好ましくは300~400Paの範囲の0.1rad/sの周波数で試験された剪断貯蔵弾性率G’を有する。さらには、剪断貯蔵弾性率G’が200℃でDMSによって決定された本発明の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の剪断損失弾性率G”と等しいクロスオーバー点は、22000Pas未満、より好ましくは12000Pas未満、さらにより好ましくは10000Pas未満であることが好ましく、及び/又はクロスオーバー点Gcは、100rad/s未満、より好ましくは70rad/s未満、さらにより好ましくは50rad/s未満であることが好ましい。
【0073】
0.1rad/sの周波数で200℃でDMSによって決定された剪断貯蔵弾性率G’と剪断損失弾性率G”との比は、好ましくは2.5未満、より好ましくは2.0未満、さらにより好ましくは1.5未満である。
【0074】
高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、好ましくは、0.05rad/sの周波数における複素粘度ηと285rad/sの周波数における複素粘度ηとの間の比として定義されるずり流動化(シアシニング、shear thinning)度が30超、より好ましくは40超であり、複素粘度はDMSによって決定され、DMSスペクトルを決定するために、ARES G2レオメータが200℃で使用され、ISO1872-2(2007)に従って製造された0.5mm厚さのプレートを使用して、0.01rad/s~300rad/sの周波数で、5%の線形粘弾性ひずみで測定された。
【0075】
高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の5時間ソックスレー抽出によって決定された熱キシレン不溶部(XHU)は、好ましくは0.25重量%未満である。
【0076】
さらに、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、8.0を超える、より好ましくは10.0以上の、2.75秒で測定される1.0秒のひずみ伸長速度での、170℃の温度での伸長粘度測定によって決定されたひずみ硬化係数を有することが好ましい。歪み硬化係数は、溶融強度の指標である。
【0077】
本発明はさらに、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の調製のプロセスであって、
a)直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)を提供する工程と、
b)上記プロピレンポリマー(L-PP)を分岐不飽和脂肪酸エステルを含むカップリング剤(CA)とブレンドする工程と、
c)工程b)で得られた混合物を電子線照射によって照射する工程と
を含む、プロセスに向けられる。
【0078】
本発明のプロセスの工程a)によれば、直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)が高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の前駆体として提供される。
【0079】
本発明で適用される直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、プロピレンのホモポリマー又はコポリマーであってもよい。直鎖状プロピレンホモポリマー又は直鎖状プロピレンコポリマーからなるポリプロピレン組成物が公知である。直鎖状プロピレンホモポリマーは、適切な重合条件下でプロピレンを重合することにより得られる。直鎖状プロピレンコポリマーは、適切な重合条件下で、プロピレンを1種以上の他のオレフィン、好ましくはエチレンと共重合することにより得られる。プロピレンホモポリマー及びコポリマーの調製は、例えば、Moore,E.P.(996)Polypropylene Handbook.Polymerization,Characterization,Properties,Processing,Applications、Hanser Publishers(ハンサーパブリッシャー);ニューヨークに記載されている。
【0080】
本明細書で使用されるポリプロピレンとは、プロピレンホモポリマー又はプロピレンとα-オレフィン、例えば2個又は4個~10個のC原子を有するα-オレフィンの群から選択されるα-オレフィンとのコポリマーを意味し、例えば、α-オレフィンの量は、全プロピレンコポリマーに基づいて10重量%未満である。
【0081】
ポリプロピレン及びプロピレンとα-オレフィンとのコポリマーは、いずれかの公知の重合技術によって、並びにいずれかの公知の重合触媒系を用いて作製することができる。技術に関しては、スラリー重合、溶液重合又は気相重合を参照でき、触媒系に関しては、チーグラー・ナッタ触媒系、メタロセン触媒系又はシングルサイト触媒系を参照できる。
【0082】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は直鎖状プロピレンホモポリマー(H-PP)である。
【0083】
直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)の分岐度は低いことが好ましく、分岐指数g’は、好ましくは少なくとも0.95、より好ましくは少なくとも0.96、さらにより好ましくは少なくとも0.98、例えば少なくとも0.99である。直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、1.00の分岐指数g’を有することがとりわけ好ましい。
【0084】
前段落に加えて又はその代わりに、直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)中の分岐の量が少ないことが好ましい。特に、直鎖状プロピレンポリマー中の分岐の量(L-PP)は、0~10分岐/1000個の炭素原子の範囲、より好ましくは0~5分岐/1000個の炭素原子の範囲、さらにより好ましくは1~5分岐/1000個の炭素原子の範囲にあることが好ましい。
【0085】
好ましくは、直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、0.1~100g/10分の範囲、より好ましくは1.0~100g/10分の範囲、さらにより好ましくは1.0~25.0g/10分の範囲、例えば1.0~8.0g/10分の範囲の、ISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)を有する。
【0086】
上記直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、プロピレンのコポリマー又はホモポリマーであることができ、後者が好ましい。さらに、直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、異なる1種以上の直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)成分を含むことができる。
【0087】
上記直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)がプロピレンのコポリマーである場合、この直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、0.2~25.0mol%の範囲、より好ましくは0.5~20.0mol%の範囲、さらにより好ましくは2.0~15.0mol%の範囲、例えば6.0~12.0mol%の範囲のコモノマー含有量を有することが好ましい。
【0088】
上記コモノマーは、エチレン及び/又はC~Cα-オレフィンから選択されることが好ましい。コモノマーがエチレンであることがとりわけ好ましい。プロピレンのコポリマーである複数の、例えば2種の異なるプロピレンポリマー成分を含む直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)については、すべてのプロピレンポリマー成分が同じコモノマー、例えばエチレンを含有することが好ましい。
【0089】
本発明の1つの実施形態によれば、上記直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、
i)プロピレンのポリマーであるマトリクス(M)と、
ii)プロピレン並びにエチレン及び/又はC~C a-オレフィンに由来する単位を含むコポリマーであるエラストマー(E)と
を含む異相プロピレンコポリマー(HECO)である。
【0090】
本発明において全般的に、表現「異相」は、エラストマーがマトリクス中に(微細に)分散していることを示す。言い換えると、エラストマーはマトリクス中に混在物を形成する。従って、マトリクスは、マトリクスの一部ではない(微細に)分散した混在物を含有し、この混在物はエラストマーを含有する。本発明に係る用語「混在物」は、好ましくは、マトリクス及びこの混在物が異相ポリプロピレン内で異なる相を形成し、この混在物が、例えば、電子顕微鏡法又は走査型力顕微鏡法等の高分解能顕微鏡法によって可視であることを示すものとする。
【0091】
異相プロピレンコポリマー(HECO)である直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、好ましくは、かなり低い総コモノマー含有量、好ましくはエチレン含有量を有することが理解される。従って、異相プロピレンコポリマー(HECO)のコモノマー含有量は、4.0~17.0モル%の範囲、好ましくは5.0~14.0モル%の範囲、より好ましくは6.0~10.0モル%の範囲にあることが好ましい。
【0092】
異相プロピレンコポリマー(HECO)は、一般に、冷キシレン可溶部(XCS)画分及び冷キシレン不溶部(XCI)画分を特徴とする。本出願の目的のために、異相プロピレンコポリマー(HECO)の冷キシレン可溶部(XCS)画分は、上記異相プロピレンコポリマー(HECO)のエラストマーと本質的に同一である。
【0093】
従って、異相プロピレンコポリマー(HECO)のエラストマーの固有粘度及びエチレン含有量について言及する場合、この異相プロピレンコポリマー(HECO)の冷キシレン可溶部(XCS)画分の固有粘度及びエチレン含有量を意味する。
【0094】
従って、異相プロピレンコポリマー(HECO)である直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)中のマトリクス(M)含有量、すなわち冷キシレン不溶部(XCI)含有量は、好ましくは75.0~93.0重量%の範囲、より好ましくは77.0~91.0重量%の範囲、例えば78.0~89.0重量%の範囲にある。
【0095】
他方で、異相プロピレンコポリマー(HECO)である直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)中のエラストマー(E)、すなわち冷キシレン可溶部(XCS)含有量は、好ましくは7.0~25.0重量%の範囲、より好ましくは9.0~23.0重量%の範囲、例えば11.0~22.0重量%の範囲にある。
【0096】
異相プロピレンコポリマー(HECO)としての直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)の第1の成分は、マトリクス(M)である。
【0097】
マトリクス(M)としての使用に適したポリプロピレンは、当該技術分野で公知の任意の種類のアイソタクチック若しくは主にアイソタクチックなポリプロピレンホモポリマー又はランダムコポリマーを含んでもよい。従って、ポリプロピレンは、プロピレンホモポリマー、又はプロピレンとエチレン及び/若しくはC4~C8α-オレフィン、例えば1-ブテン、1-ヘキセン若しくは1-オクテンとのアイソタクチックランダムコポリマーであって、総コモノマー含有量が0.05~10重量%の範囲にあるアイソタクチックランダムコポリマーであってもよい。
【0098】
さらに、及び好ましくは、ポリプロピレンマトリクス(M)は、かなり高いメルトフローレートを有する。従って、本発明において、ポリプロピレンマトリクス(M)、すなわち直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)の冷キシレン不溶部(XCI)画分は、100~1500g/10分の範囲、より好ましくは120~800g/10分、さらにより好ましくは140~600g/10分、例えば150~500g/10分の範囲のISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)を有することが好ましい。
【0099】
さらには、ポリプロピレンマトリクス(M)は、分子量の観点から、マルチモーダル(多峰性)又はバイモーダル(二峰性)であることができる。
【0100】
本発明を通して使用される表現「マルチモーダル」又は「バイモーダル」は、ポリマーのモダリティ(様相)、すなわち
・分子量の関数としての分子量分率のグラフである、そのポリマーの分子量分布曲線の形態、
及び/又は
・ポリマー画分の分子量の関数としてのコモノマー含有量のグラフである、そのポリマーのコモノマー含有量分布曲線の形態
に関して用いられる。
【0101】
異相プロピレンコポリマー(HECO)としての直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)の第2の成分は、エラストマー(E)である。
【0102】
エラストマー(E)は、(i)プロピレン並びに(ii)エチレン及び/又は少なくとも別のC4~C20α-オレフィン、例えばC4~C10α-オレフィンから誘導可能な単位、より好ましくは(i)プロピレン並びに(ii)エチレン並びに1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン及び1-オクテンからなる群から選択される少なくとも別のα-オレフィンから誘導可能な単位を含み、好ましくはこれらからなる。エラストマーコポリマー(E1)は、共役ジエン、例えばブタジエン、又は非共役ジエンに由来する単位をさらに含有してもよいが、しかしながら、このエラストマーコポリマーは、(i)プロピレン並びに(ii)エチレン及び/又はC4~C20α-オレフィンから誘導可能な単位のみからなることが好ましい。使用される場合の適切な非共役ジエンとしては、直鎖状及び分岐鎖状の非環式ジエン、例えば1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、3,7-ジメチル-1,7-オクタジエン、並びにジヒドロミルセン及びジヒドロオシメンの混合異性体、並びに単環脂環式ジエン、例えば1,4-シクロヘキサジエン、1,5-シクロオクタジエン、1,5-シクロドデカジエン、4-ビニルシクロヘキセン、1-アリル-4-イソプロピリデンシクロヘキサン、3-アリルシクロペンテン、4-シクロヘキセン及び1-イソプロペニル-4-(4-ブテニル)シクロヘキサンが挙げられる。テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ(2,2,1)ヘプタ-2,5-ジエン、2-メチルビシクロヘプタジエン、並びにアルケニルノルボルネン、アルキリデンノルボルネン、シクロアルケニルノルボルネン及びシクロアルキリデンノルボルネン、例えば5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデンノルボルネン、5-(4-シクロペンテニル)-2-ノルボルネン、及び5-シクロヘキシリデン-2-ノルボルネンを含む多環脂環式の縮合環ジエン及び架橋環ジエンも適切である。好ましい非共役ジエンは5-エチリデン-2-ノルボルネン、1,4-ヘキサジエン及びジシクロペンタジエンである。
【0103】
従って、エラストマー(E)は、少なくともプロピレン及びエチレンから誘導可能な単位を含み、前の段落で定義されたさらなるα-オレフィンから誘導可能な他の単位を含んでもよい。しかしながら、エラストマー(E)は、プロピレン及びエチレン、及び任意選択で、ブタジエン等の共役ジエン、又は前段落で定義された1,4-ヘキサジエン等の非共役ジエンから誘導可能な単位のみを含むことが特に好ましい。従って、エラストマー(E)としてのエチレンプロピレン非共役ジエンモノマーポリマー(EPDM)及び/又はエチレンプロピレンゴム(EPR)がとりわけ好ましく、後者が最も好ましい。
【0104】
マトリクス(M)と同様に、エラストマー(E)は、ユニモーダル(単峰性)又はマルチモーダル、例えばバイモーダルであってもよい。ユニモーダル及びマルチモーダル、例えばバイモーダルの定義に関しては、上記の定義を参照されたい。
【0105】
本発明において、エラストマー(E)中のプロピレンから誘導可能な単位の含有量は、冷キシレン可溶部(XCS)画分中の検出可能なプロピレンの含有量に等しい。従って、冷キシレン可溶部(XCS)画分中で検出可能なプロピレンは、45.0~75.0重量%、より好ましくは40.0~70.0重量%の範囲にある。従って、特定の実施形態では、エラストマー(E)、すなわち冷キシレン可溶部(XCS)画分は、エチレンから誘導可能な単位を25.0~65.0重量%、より好ましくは30.0~60.0重量%含む。好ましくは、エラストマー(E)は、この段落で規定されるプロピレン及び/又はエチレン含有量を有する、エチレンプロピレン非共役ジエンモノマーポリマー(EPDM)又はエチレンプロピレンゴム(EPR)であり、後者がとりわけ特に好ましい。
【0106】
加えて、異相プロピレンコポリマー(HECO)である直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)の冷キシレン可溶部(XCS)画分のコモノマー含有量、好ましくはエチレン含有量、は35.0モル%以上、好ましくは35.0~65.0モル%の範囲、より好ましくは45.0~60.0モル%の範囲、なおより好ましくは50.0~56.0モル%の範囲にあることが好ましい。冷キシレン可溶部(XCS)画分中に存在するコモノマーは、エラストマー(E)について上で規定されたものである。1つの好ましい実施形態では、コモノマーはエチレンのみである。
【0107】
本発明のさらに好ましい要件は、異相プロピレンコポリマー(HECO)である直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)の冷キシレン可溶部(XCS)画分の固有粘度(IV)がかなり低いことである。従って、異相プロピレンコポリマー(HECO)である直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)の冷キシレン可溶部(XCS)画分の固有粘度は、3.5dl/g未満、より好ましくは3.4dl/g以下であることが理解される。さらにより好ましくは、異相プロピレンコポリマー(HECO)である直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)の冷キシレン可溶部(XCS)画分の固有粘度は、1.8~3.5dl/gの範囲、より好ましくは1.9~3.4dl/gの範囲、例えば2.0~3.4dl/gである。固有粘度は、ISO1628に従ってデカリン中135℃で測定される。
【0108】
直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)が上記で定義された異相プロピレンコポリマー(HECO)である場合、好ましくは、直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)のプロピレン含有量は、直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)の総重量に基づいて、より好ましくはマトリクス(M)及びエラストマーコポリマー(E)を合わせた量に基づいて85.0~96.0重量%、より好ましくは88.0~94.0重量%である。
【0109】
異相プロピレンコポリマー(HECO)である直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、マトリクス(M)とエラストマー(E)とをブレンドすることにより製造することができる。しかしながら、異相プロピレンコポリマー(HECO)は、直列構成であり異なる反応条件で動作する複数の反応器を使用し、連続工程プロセスで生成されることが好ましい。結果として、特定の反応器中で調製される各画分は、それ自体の分子量分布及び/又はコモノマー含有量分布を有してもよい。
【0110】
直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、
(a)IUPACの第4~6族の遷移金属の化合物(TC)、第2族金属化合物(MC)、及び内部ドナー(ID)を含むチーグラー・ナッタ触媒、
(b)任意選択で、共触媒(Co)、並びに
(c)任意選択で、外部ドナー(ED)
の存在下で調製されることが好ましい。
【0111】
このチーグラー・ナッタ触媒は、プロピレン重合のためのいずれの立体特異的Ziegler-Natta触媒であってもよく、このような触媒は、好ましくは、500~10000kPa、特に2500~8000kPaの圧力、及び40~110℃、特に60~110℃の温度で、プロピレン及び任意選択のコモノマーの重合及び共重合を触媒することができる。
【0112】
上記直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)がプロピレンのホモポリマーであることがとりわけ好ましい。
【0113】
本発明によれば、「プロピレンホモポリマー」という表現は、実質的に、すなわち少なくとも99.0重量%、より好ましくは少なくとも99.5重量%、さらにより好ましくは少なくとも99.8重量%、例えば少なくとも99.9重量%のプロピレン単位からなるポリプロピレンに関する。別の実施形態では、プロピレン単位のみが検出可能であり、すなわち、プロピレンのみが重合されている。
【0114】
好ましくは、プロピレンポリマー(PP)、例えばプロピレンホモポリマー(H-PP)はアイソタクチックである。従って、プロピレンポリマー(PP)、例えばプロピレンホモポリマー(H-PP)がかなり高いペンタッド濃度(mmmm%)、すなわち94.1%超、より好ましくは94.4%超、例えば94.4超~98.5%、さらにより好ましくは少なくとも94.7%、例えば94.7~97.5%の範囲の高いペンタッド濃度(mmmm%)を有することが好ましい。
【0115】
本発明のプロセスの工程b)によれば、直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、分岐不飽和脂肪酸エステルを含むカップリング剤(CA)とブレンドされる。直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)は、好ましくは、例えば、ドライブレンド又は押出によって、カップリング剤(CA)と溶融ブレンドされる。
【0116】
本発明のプロセスの工程b)で得られた混合物は、工程b)で得られた混合物の全重量に基づいて、好ましくは0.01~5.0重量%、より好ましくは0.1~2.0重量%、さらにより好ましくは0.2~2.0重量%、なおより好ましくは0.2~1.5重量%、例えば0.3~0.8重量%の分岐不飽和脂肪酸エステルを含むカップリング剤(CA)を含む。
【0117】
好ましくは、カップリング剤(CA)は、天然供給源の多価不飽和不飽和脂肪酸である。特に、カップリング剤(CA)がアマニ油であることが好ましい。好ましくは、このアマニ油は天然アマニ油である。
【0118】
アマニ油は、空気中の酸素との特有の反応を有しそれゆえポリプロピレンの安定剤/ラジカル捕捉剤として作用するα-リノレン酸が異常に多量であることに関して特有であり、市販の植物油として入手可能な多価不飽和脂肪酸の最も高い含有量と飽和脂肪酸の最も低いレベルとの組み合わせを提供する。米国食品医薬品局(USFDA)は、高α-リノレン酸アマニ油について一般的に安全と認められている(GRAS)との位置付けと査定した。従って、本発明に係る高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、食品容器及び食品関連製品の製造に適している。
【0119】
工程b)で得られた混合物は、過酸化物及びジエンを含まないことが好ましい。
【0120】
本発明のプロセスの工程c)によれば、直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)及びカップリング剤(CA)を含む工程b)で得られた混合物は、電子線照射によって照射される。
【0121】
好ましくは、電子線照射の線量は、50~150kGyの範囲、より好ましくは60~140kGyの範囲、さらにより好ましくは70~120kGyの範囲、なおより好ましくは90~120kGyの範囲にある。
【0122】
工程b)で得られた混合物は、不活性環境又は非不活性環境で照射されてもよい。
【0123】
例えば、米国特許第8,399,536号明細書において記載されるような、活性酸素が酸素低減環境の全体積に対して約15体積%未満の濃度に確立され維持される酸素低減環境を使用することが可能である。このプロセスでは、中間体照射ポリプロピレン樹脂は、中間体照射ポリプロピレン樹脂内に相当量の長鎖分岐が形成されるのに十分な時間、酸素低減環境に維持され、中間体照射ポリプロピレン樹脂は、中間体照射ポリプロピレン樹脂中に存在するすべてのフリーラジカルを実質的に失活させるために中間体照射ポリプロピレン樹脂が酸素低減環境にある間に、処理される。
【0124】
工程b)で得られた混合物の照射は、好ましくは不活性雰囲気中で行われる。特に、照射が窒素下で行われることが好ましい。
【0125】
照射工程c)の後に、残りのラジカルを失活させるために、混合物が加熱されてもよい。特に、工程c)の後に得られる混合物は、60~120℃、より好ましくは80~110℃、さらにより好ましくは90~100℃の温度に加熱されることが好ましい。
【0126】
任意選択で、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、続いて、有機金属ステアレート及び/又は無機ハイドロタルサイト並びに上で定義した添加剤(AD)と配合される。
【0127】
本発明は、上記の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と1種以上のさらなるポリマー成分とを含むブレンドにも向けられる。好ましくは、上記1種以上のさらなるポリマー成分は、1種以上のさらなるポリオレフィンである。より好ましくは、上記1種以上のさらなるポリマー成分は、上記のプロピレンホモポリマー、プロピレンコポリマー、ポリエチレンホモポリマー及びポリエチレンコポリマー並びに異相プロピレンコポリマーからなる群から選択される。
【0128】
本発明はさらに、上記のプロセスに従って得られる高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)に向けられる。高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の特性に関しては、上記で提供された規定が参照される。
【0129】
本発明は、組成物(C)であって、少なくとも10.0重量%のリサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)を含み、このリサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)は、使用済み廃棄物及び/又は産業廃棄物に由来する廃棄プラスチック材料から回収される上記の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)である、組成物(C)にも関する。
【0130】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的のために、用語「リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)」は、バージンポリマーとは対照的に、使用済み廃棄物及び産業廃棄物の両方から回収される材料を示すために使用される。使用済み廃棄物は、少なくとも第1の使用サイクル(又はライフサイクル)を完了した、すなわちすでにそれらの第1の目的を果たした物体を指すのに対して、産業廃棄物は製造スクラップを指し、これは通常は消費者に届かない。
【0131】
一方、用語「バージン」は、初回使用前の新たに製造された高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)材料及び/又は物体であって、まだリサイクルされていないものを意味する。バージンの高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、貯蔵安定性を高めるために調製プロセス中又はその後に添加される添加剤、例えば酸化防止剤及びUV安定剤、を含んでもよい。
【0132】
好ましくは、リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)は、バージンの高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)が最終物品にさらに加工される前に典型的に添加されるさらなる添加剤を含む。従って、リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)は、難燃剤、充填剤、顔料、耐衝撃性改良剤、α-トコフェロール等の酸化防止剤、核形成剤、プロセス安定剤、スリップ剤、又はこれらの混合物を含むことが好ましい。
【0133】
典型的には、バージンの高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は物品にさらに加工され、この加工は、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)を押出プロセスに供することを含む。理論に束縛されるものではないが、押出プロセス中に作用する剪断力は、押出されるポリマーのメルトフローレートの増加をもたらす。それゆえ、押出プロセスによって物品に加工されたリサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)は、対応するバージンの高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)よりも高いメルトフローレートを有する。
【0134】
従って、リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)のISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)は、起源の高溶融強度ポリプロピレン(o-HMS-PP)のISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)よりも高いことが好ましい。
【0135】
用語「起源の」は、使用済み廃棄物及び産業廃棄物に含有される材料を製造するために使用された、特定の新たに製造された高溶融強度ポリプロピレン(o-HMS-PP)であって、リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)が得られるもとになるものを意味する。
【0136】
特に、リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)及び起源の高溶融強度ポリプロピレン(o-HMS-PP)のISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)は、不等式IV、より好ましくは不等式IVa、さらにより好ましくは不等式IVbを満たすことが好ましく、
【数2】
上記式中、MFR(oHMSPP)は、起源の高溶融強度ポリプロピレン(o-HMS-PP)のISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)であり、MFR(rHMSPP)は、リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)のISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)である。
【0137】
本発明は、本発明に係る高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)を使用して製造される発泡物体又は発泡物品にも関する。
【0138】
本発明はさらに、上記の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)又は組成物(C)を含む物品に向けられる。好ましくは、当該物品は、物品の全重量に基づいて、少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、さらにより好ましくは少なくとも95重量%、例えば少なくとも99重量%の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)又は組成物(C)を含む。当該物品が高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)又は組成物(C)からなることがとりわけ好ましい。
【0139】
当該物品は、好ましくは発泡物品、より好ましくは押出発泡物品、発泡射出成形物品又はパール発泡物品、射出ブロー成形物品又はインフレーションフィルムである。
【0140】
好ましくは、当該物品は、発泡物品、射出ブロー成形物品又はインフレーションフィルムである。当該物品が押出発泡物品、発泡射出成形物品又は粒子発泡物品等の発泡物品であることがとりわけ好ましい。
【0141】
本発明に係る高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、溶融加工工程によって発泡構造体に成形されてもよい。このような溶融加工工程は、溶融押出機で行われてもよい。発泡セルの形成を誘導するために、発泡剤が溶融加工に添加されてもよい。このような発泡剤は、化学的発泡剤又は物理的発泡剤であってもよい。化学的発泡剤は、例えば、炭酸水素ナトリウム、クエン酸誘導体、アゾジカルボンアミド、ヒドラゾ-ジカルボンアミド、4.4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、5-フェニルテトラゾール、p-トルエンスルホニルヒドラジド、及び/又はp-トルエンスルホニル-セミカルバジドから選択されてもよい。物理的発泡剤は、例えば、窒素、二酸化炭素、イソブタン、ペンタン及びシクロペンタンから選択されてもよい。好ましくは、発泡剤はイソブタンである。
【0142】
発泡剤は、本発明に係る高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)が溶融状態にある位置で押出機に導入されてもよい。例えば、発泡剤は、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の全重量に基づいて、1.0~20.0重量%の範囲、より好ましくは1.5~10.0未満重量%の範囲、さらにより好ましくは2.0~5.0重量%の範囲の量で導入されることが好ましい。このような量の発泡剤の導入は、所望の高い独立気泡率と組み合わせた所望の低密度を有する発泡構造体の形成に寄与してもよい。高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の全重量に基づいて、2.0~10.0未満重量%、より好ましくは2.0超~5.0重量%のイソブテンが発泡剤として使用されることが好ましい。
【0143】
加えて、プロピレン系ポリマー組成物からの発泡構造体の製造に適したさらなる一般に公知である添加剤が使用されてもよい。例えば、ある量のタルク及び/又は脂肪酸(ビス)アミド等の核形成剤が添加されてもよい。好ましくは、タルクが核形成剤として使用される。例えば、核形成剤は、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の全重量に基づいて、0.1~2.0重量%、より好ましくは0.5~1.5重量%の量で添加されることが好ましい。
【0144】
また、ある量のセル安定剤、例えばモノステアリン酸グリセロール(GMS)、モノパルミチン酸グリセロール(GMP)、ジステアリン酸グリコール(GDS)、パルミチド(palmitide)及び/又はアミド、例えばステアリルステアルアミド、パルミトアミド及び/又はステアルアミドが添加されてもよい。好ましくは、モノステアリン酸グリセロールがセル安定剤として使用される。例えば、セル安定剤は、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の全重量に基づいて、0.1~2.0重量%、より好ましくは0.5~1.5重量%の量で添加されることが好ましい。
【0145】
当該高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、その後、溶融押出機のダイ出口から押出されてもよい。これにより、発泡構造体が形成されてもよい。本発明に係るプロピレン系ポリマー組成物及びこの組成物を使用して製造された発泡構造体の異なる材料特性は、本明細書に記載される方法によって決定されている。
【0146】
本発明は、本発明に係る照射プロセスで得られた高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)を用いて製造された発泡体にも関する。
【0147】
発泡構造体の密度は、20~800kg/mの範囲にある。発泡構造体の密度は、ISO845(2006)に従って見かけの全体密度として決定された。独立気泡率は、好ましくは90%以上、より好ましくは98%以上、さらにより好ましくは98%超である。独立気泡率は、既知の質量及びISO845(2008)に従って見かけの全体密度として決定された既知の密度を有する発泡体の試料をデシケータ中に置くことにより決定された。それぞれの試料の長さは5cm、幅は3cmであった。デシケータに水及び界面活性剤としてポリエチレングリコールを充填した。デシケータ内の圧力が500mbarに下げられた。試料はこれらの条件下で0分間保持され、その後、本発明のプロセスに従って製造されたプロピレン系組成物を用いた溶融押出発泡法による物体が続き、発泡性ウィンドウは5℃以上であり、発泡性ウィンドウは、発泡剤として2.3重量%のイソブタンを使用する場合、ISO845(2006)に従って決定された175kg/m以下の見かけの全体密度及び90%以上の独立気泡含有量を有する発泡体が生成されてもよい温度範囲として定義される。
【0148】
本発明は、本発明のプロセスに従って製造されたプロピレン系組成物を用いて製造された発泡物体であって、ISO845(2006)に従って決定された300kg/m以下の見かけの全体密度及び90%以上の独立気泡含有量を有する発泡物体にも関する。
【0149】
これより、本発明を、以下の非限定的な実施例によって説明する。
【実施例
【0150】
A. 測定方法
以下の用語の定義及び決定方法は、特に定義されていない限り、本発明の上記の一般的な説明及び以下の実施例に適用される。
【0151】
MFR(230℃)は、ISO1133(230℃、2.16kg荷重)に従って測定する。
【0152】
NMR分光法による微細構造の定量
定量的核磁気共鳴(NMR)分光法を使用して、ポリマーのコモノマー含有量及びコモノマー配列分布を定量した。定量的13C{H}NMRスペクトルは、H及び13Cについてそれぞれ400.15MHz及び100.62MHzで動作するBruker Advance III 400 NMR分光計を使用して、溶液状態で記録した。すべてのスペクトルを、125℃の13Cに最適化した10mm拡張温度プローブヘッドを使用し、すべての空圧について窒素ガスを使用して記録した。約200mgの材料を、溶媒中の緩和剤の65mM溶液(Singh,G.、Kothari,A.、Gupta,V.、Polymer Testing 28 5(2009)、475)を与えるクロム(III)アセチルアセトナート(Cr(acac))とともに3mlの1,2-テトラクロロエタン-d(TCE-d)に溶解した。均一溶液を確保するために、ヒートブロック中での最初の試料調製のあと、そのNMRチューブを回転式オーブンの中で少なくとも1時間さらに加熱した。磁石の中へ挿入したあと、チューブを10Hzで回転させた。正確なエチレン含有量の定量のために必要である高分解能及び定量性を主な理由としてこの設定を選んだ。最適化した先端角(tip angle)、1sの繰り返し時間(recycle delay)及びバイレベルWALTZ16デカップリングスキーム(Zhou,Z.、Kuemmerle,R.、Qiu,X.、Redwine,D.、Cong,R.、Taha,A.、Baugh,D.;Winniford,B.、J.Mag.Reson. 187(2007)225;Busico,V.、Carbonniere,P.、Cipullo,R.、Pellecchia,R.、Severn,J.、Talarico,G.、Macromol.Rapid Commun. 2007、28、1128)を使用して、NOEを伴わない標準的なシングルパルス励起を採用した。1スペクトルあたり全部で6144(6k)の過渡信号を取得した。
定量的13C{H}NMRスペクトルを、独自のコンピュータプログラムを使用して処理し、積分し、関連の定量的特性を積分値から求めた。すべての化学シフトは、溶媒の化学シフトを使用して、30.00ppmのエチレンブロック(EEE)の中央のメチレン基を間接的に基準とした。このアプローチにより、この構造単位が存在しない場合でも比較可能な基準設定が可能になった。エチレンの組み込みに対応する特徴的なシグナルを観察した(Cheng,H.N.、Macromolecules 17(1984)、1950)。
ポリプロピレンホモポリマーについては、すべての化学シフトは、21.85ppmのメチルアイソタクチックペンタッド(mmmm)を内部基準としている。
位置欠陥(Resconi,L.、Cavallo,L.、Fait,A.、Piemontesi,F.、Chem.Rev. 2000、100、1253;Wang,W-J.、Zhu,S.、Macromolecules 33(2000)、1157;Cheng,H.N.、Macromolecules 17(1984)、1950)又はコモノマーに対応する特徴的なシグナルを観察した。
タクチシティ分布は、23.6~19.7ppmのメチル領域の積分により、注目する立体配列に関連しない部位があればそれを補正して定量した(Busico,V.、Cipullo,R.、Prog.Polym.Sci. 26(2001) 443;Busico,V.、Cipullo,R.、Monaco,G.、Vacatello,M.、Segre,A.L.、Macromolecules 30(1997) 6251)。
具体的には、タクチシティ分布の定量に及ぼす位置欠陥及びコモノマーの影響は、立体配列の特定の積分領域から代表的な位置欠陥及びコモノマーの積分値を減算することにより補正した。
アイソタクチシティは、ペンタッドレベルで決定し、すべてのペンタッド配列に対するアイソタクチックペンタッド(mmmm)配列の百分率として報告した。
[mmmm]%=100×(mmmm/全ペンタッドの合計)
2,1エリスロ位置欠陥の存在は、17.7及び17.2ppmの2つのメチル部位の存在によって示され、他の特徴的部位によって確認した。
他の種類の位置欠陥に対応する特徴的なシグナルは観察されなかった(Resconi,L.、Cavallo,L.、Fait,A.、Piemontesi,F.、Chem.Rev. 2000、100、1253)。
2,1エリスロ位置欠陥の量は、17.7及び17.2ppmの2つの特徴的なメチル部位の平均積分値を使用して定量した。
21e=(Ie6+Ie8)/2
1,2一次挿入プロペンの量はメチル領域に基づいて定量した。その際、この領域に含まれるが一次挿入に関連しない部位及びこの領域から除外される一次挿入部位について補正を行った。
12=ICH3+P12e
プロペンの全量は、一次挿入プロペン及び存在するすべての他の位置欠陥の合計として定量した。
total=P12+P21e
2,1エリスロ位置欠陥のモルパーセントは、全プロペンに対して定量した。
[21e]モル%=100×(P21e/Ptotal
コポリマーについては、エチレンの組み込みに対応する特徴的なシグナルを観察した(Cheng,H.N.、Macromolecules 17(1984)、1950)。
位置欠陥も観察された(Resconi,L.、Cavallo,L.、Fait,A.、Piemontesi,F.、Chem.Rev. 2000、100、1253;Wang,W-J.、Zhu,S.、Macromolecules 33(2000)、1157);Cheng,H.N.、Macromolecules 17(1984)、1950)場合には、コモノマー含有量に対するそのような欠陥の影響の補正が必要であった。
コモノマー分率は、13C{1H}スペクトルのスペクトル領域全体にわたる複数のシグナルの積分により、Wangら(Wang,W-J.、Zhu,S.、Macromolecules 33(2000) 1157)の方法を使用して定量した。この方法を、そのロバスト性、及び必要な場合には位置欠陥の存在を考慮できることが理由で選んだ。積分領域は、直面するコモノマー含有量の全範囲にわたる適用性を高めるためにわずかに調整した。
PPEPP配列中の孤立したエチレンのみが観察される系については、Wangらの方法を、存在しないことが既知の部位の非ゼロ積分の影響を低減するように改変した。このアプローチはそのような系に対するエチレン含有量の過大評価を低減し、これは、絶対的なエチレン含有量を求めるために使用される部位の数を
E=0.5(Sββ+Sβγ+Sβδ+0.5(Sαβ+Sαγ))
に減じることにより成し遂げられた。
この部位の組の使用により、対応する積分方程式は、Wangらの論文(Wang,W-J.、Zhu,S.、Macromolecules 33(2000)、1157)で使用されたのと同じ表記法を使用して、
E=0.5(I+I+0.5(I+I))
となる。絶対的プロピレン含有量のために使用した方程式は改変しなかった。
モルパーセントでのコモノマー組み込みはモル分率から算出した。
E[モル%]=100×fE
重量パーセントでのコモノマー組み込みはモル分率から算出した。
E[重量%]=100×(fE×28.06)/((fE×28.06)+((1-fE)×42.08))
トライアド(triad)レベルでのコモノマー配列分布は、Kakugoらの分析方法(Kakugo,M.、Naito,Y.、Mizunuma,K.、Miyatake,T. Macromolecules 15(1982)1150)を使用して決定した。この方法は、そのロバスト性、及びより広い範囲のコモノマー含有量への適用性を高めるためにわずかに調整される積分領域が理由で選んだ。
【0153】
照射後のグラフトされたカップリング剤濃度(α-リノレン酸)のH-NMRによる測定
1. グラフト化されていないカップリング剤を除去するためのソックスレー抽出
2.5gの粉砕試料をソックスレースリーブに秤量する。丸底フラスコ(250ml)に200mlのn-ヘキサンを入れ、スリーブをソックスレーに挿入する。グラフト化されていないカップリング剤の抽出は、24時間にわたって還流冷却下で行われる。残渣を真空乾燥オーブン中で90℃で一晩乾燥させ、室温に冷却し、H NMR分光法の方法に使用する。
2. H NMR分光法の方法
定量的H NMRスペクトルは、400.15MHzで動作するBruker AVNEO 400 NMR分光計を使用して、溶液状態で記録した。すべてのスペクトルを、125℃の13Cに最適化した10mm選択的励起プローブヘッドを用いてすべての空圧に対して窒素ガスを使用して記録した。約200mgの材料を、約3mgのHostanox 03(CAS 32509-66-3)を安定剤として使用して、約3mlの1,2-テトラクロロエタン-d(TCE-d)に溶解した。30°パルス、緩和遅延3秒及び10Hzの試料回転を利用して標準的なシングルパルス励起を採用した。サンプリング間隔61μsでFIDあたり全部で64k個のデータポイントを集め、これは約20ppmのスペクトル窓に対応した。4回のダミースキャンを使用してスペクトルあたり512の過渡信号を取得した。この設定は、不飽和種に関して高い感度、分解能及び安定性のために選択した。
定量的Hスペクトルを、0.3Hzのラインブロードニングを用いた指数窓関数を適用して処理し、積分し、関連する比を積分の強度から決定した。すべての化学シフトは、5.95ppmの残留プロトン化溶媒から生じるシグナル{Resconi L.、Cavallo L.、Fait A.、Piemontesi F.、Chem.Rev. 2000、100、1253}を使用して0.00ppmのTMSを間接的に基準にし、脂肪族バルクシグナルの強度(Ibulk)を100000に設定した。表1に要約する、列挙された構造基の存在に対応する特定のH NMR化学シフトにおける特徴的なシグナルを観察した{Resconi L.、Piemontesi F.、Camurati I.、Sudmeijer O.、Nifantef I.E.、Ivschenko P.V.、Kuzmina L.G.、J.Am.Soc. 1998、120、2308-2321}。
【0154】
【表1】
【0155】
図1は、本発明の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の典型的なH NMRスペクトルを示す。
【0156】
特定の基の強度間の比を計算し、他の基の影響を補償した。
比x/z=x/(z-w)
比x/y=x/(y-(h/4×42))
【0157】
融解温度Tm、結晶化温度Tc及び融解エンタルピーHm
融解温度Tmは、示差走査熱量測定(DSC)により、RSC冷却装置及びデータステーションを備えたTA-Instruments(ティーエー・インスツルメンツ) 2920 Dual-Cellを用いてISO11357-3に従って決定する。+23~+210℃の間の加熱/冷却/加熱サイクルにおいて、10℃/分の加熱速度及び冷却速度を適用する。結晶化温度(Tc)は冷却工程から決定し、融解温度(Tm)及び融解エンタルピー(Hm)は第2の加熱工程で決定している。
【0158】
30及びF200溶融強度並びにv30及びv200溶融延伸性
本明細書に記載する試験は、ISO16790:2005に従う。歪み硬化挙動は、論文「Rheotens-Mastercurves and Drawability of Polymer Melts(ポリマー溶融物のRheotensマスターカーブ及び延伸性)」、M.H.Wagner、Polymer Engineering and Science、第36巻、925-935頁に記載されている方法によって決定する。ポリマーの歪み硬化挙動は、Rheotens装置(ジーメンス通り(Siemensstr.) 2、74711 ブーヒェン(Buchen)、ドイツのGoettfert(ゲットフェルト)の製品)によって分析する。この装置では、規定の加速度で引き下げることにより、溶融物のストランドが伸長される。
Rheotens実験は、工業用の紡糸及び押出成形プロセスをシミュレートする。原理的には、溶融物を丸いダイを通して圧迫するか又は押し出して、得られたストランドを引き出す。押出成形品にかかる応力を、溶融物の特性及び測定パラメータ(とりわけ、出力と引き出し速度の比、実用的には伸長率の尺度)の関数として記録する。以下に示す結果については、材料は、実験用押出機HAAKE Polylabシステムと、円筒形ダイ(L/D=6.0/2.0mm)を備えたギアポンプを用いて押し出した。F30溶融強度及びv30溶融延伸性を測定するために、押出ポリマーの一部をバイパスすることにより、押出機出口(=ギヤポンプ入口)における圧力を30barに設定する。F200溶融強度及びv200溶融延伸性を測定するために、押出ポリマーの一部をバイパスすることにより、押出機出口(=ギヤポンプ入口)における圧力を200barに設定する。
ギアポンプは、ストランドの押し出し速度が5mm/sになるようにあらかじめ調整し、溶融温度は200℃に設定した。ダイとRheotensホイールの間のスピンライン長は80mmであった。実験開始時には、Rheotensホイールの巻き取り速度を、押し出されたポリマーストランドの速度に調整した(引張力ゼロ)。その後、ポリマーフィラメントが破断するまでRheotensホイールの巻き取り速度をゆっくりと上げて実験を開始した。ホイールの加速度は、引張力が準定常状態で測定されるように十分小さくした。引き下げられたメルトストランドの加速度は120mm/秒である。このRheotensは、PCプログラム「EXTENS」と組み合わせて操作した。これは、リアルタイムのデータ取得プログラムであり、引張力と引き下げ(ドローダウン)速度の測定データを表示及び保存する。ポリマーストランドが破断するRheotens曲線(力対プーリー回転速度)の終点を、それぞれF30溶融強度及びv30溶融延伸性値、又はF200溶融強度及びv200溶融延伸性値とする。
【0159】
付加的溶融強度(AMS)は、式(II)に従って計算する。
AMS=MS(HMS-PP)-LMS (II)
上記式(II)中、AMSは、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)を有する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)と比較した場合の、ISO16790:2005に従って決定された付加的F30溶融強度(AMS)[単位:cN]であり、MS(HMS-PP)は、ISO16790:2005に従って決定された高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のF30溶融強度[単位:cN]であり、LMSは、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)を有する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)[単位:cN]であり、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じメルトフローレート及び3~5の範囲の多分散性を有する対応する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)は、式(III)に従って決定され、
LMS=17.35MFR-0.994 (III)
上記式(III)中、MFRは、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のISO1133に従って決定されたメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)である。
【0160】
式(III)は、Rheotensによって試験した市販の直鎖状プロピレンホモポリマーの、ISO1133に従って決定したメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)及び上で定義したF30溶融強度のフィッティング関数である。Borealis(ボレアリス)製の上記市販の直鎖状プロピレンホモポリマーのメルトフローレート及びF30溶融強度を表2に要約する。
【0161】
【表2】
【0162】
分岐指数g’
分岐の相対量は、分岐ポリマー試料のg’指数を用いて決定する。長鎖分岐(LCB)指数は、g’=[η]br/[η]linと定義される。g’値が増加すると分岐含量が減少することは周知である。[η]は、ある特定の分子量のポリマー試料のTCB中160℃における固有粘度であり、オンライン粘度及び濃度検出器により測定される。固有粘度は、Cirrus Multi-Offline SEC-Softwareバージョン3.2のハンドブックに記載されているように、Solomon-Gatesman(ソロモン-ゲーツマン)式を使用して測定した。
各溶出スライスの必要な濃度は、RI検出器によって決定される。
[η]linは直鎖状試料の固有粘度であり、[η]brは同じ分子量及び化学組成の分岐状試料の粘度である。g’の数平均及び重量平均g’は、以下のように定義される。
【数3】
上記式中、aは画分iのdW/dlogMであり、Aは画分iまでのポリマーの累積dW/dlogMである。分子量に対する直鎖状基準(直鎖状アイソタクチックPP)の[η]linをオンライン粘度検出器で測定した。以下のK及びα値(K=30.68×10-3及びα=0.681)は、logM=4.5~6.1の分子量範囲において直鎖状基準から得た。g’計算のためのスライス分子量あたりの[η]linは、以下の関係[η]lin,i=K×M αによって計算した。[η]br,iは、オンライン粘度及び濃度検出器によって各特定の試料について測定した。
【0163】
gpcBR指数:
gpcBR指数は、下記式を用いて算出される。
【数4】
上記式中、Cirrus Multi-Offline SEC-Softwareバージョン3.2及び以下のアプローチを用いて、Mw(LS15)は、15°の角度の光散乱溶出面積から計算され、[η](バルク)は対応する粘度検出器溶出面積から計算される。
【数5】
上記式中、KLSは15°の角度の光散乱定数であり、dn/dcはRI検出器の検出器定数から計算される屈折率増分であり、KIVは粘度計の検出器定数であり、Spは各クロマトグラフィースライスにおける比粘度であり、Cはg/dl単位の対応する濃度である。
【0164】
ずり流動化指数(shear thinning index、SHI)
ポリマーの融液(melt)の動的剪断測定による特性解析は、ISO規格6721-1及び6721-10に従う。測定は、25mm平行平板の配置を備えるAnton Paar(アントンパール) MCR501応力制御型回転レオメータで実施した。測定は、窒素雰囲気を使用し、歪みを線形粘弾性領域内に設定して圧縮成形平板で行った。振動剪断試験は、0.01~300rad/sの周波数範囲を適用し、ギャップを0.5mmに設定して20℃で行った
動的剪断実験では、正弦波的に変化する剪断歪み又は剪断応力(それぞれ歪み及び応力を制御したモード)でプローブを均一な変形に供する。制御歪み実験では、下記式で表すことができる正弦波歪みにプローブを供する。
γ(t)=γsin(ωt) (1)
加えた歪みが線形粘弾性領域の範囲内にあれば、得られる正弦波応力応答は下記式で与えられうる。
σ(t)=σsin(ωt+δ) (2)
上記式中、σ及びγはそれぞれ応力振幅及び歪み振幅であり、ωは角周波数であり、δは位相差(加えた歪みと応力応答との間の損失角)であり、tは時間である。
動的試験結果は、典型的にはいくつかの異なるレオロジー関数、つまり剪断貯蔵弾性率G’、剪断損失弾性率G”、複素剪断弾性率G、複素剪断粘度η、動的剪断粘度η’、複素剪断粘度の異相成分η”及び損失正接tanηによって表され、上記レオロジー関数は以下のとおりに表すことができる。
【数6】
【0165】
MWDと相関しMwとは無関係である、いわゆるずり流動化指数の決定は、式9に記載するように行う。
【数7】
【0166】
例えば、SHI(0.05/2285)は、周波数0.05rad/sで測定した複素粘度(単位:Pa s)の値を、周波数285rad/sで測定した複素粘度(単位:Pa s)の値で割ることにより定義される。
貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G”)、複素弾性率(G)及び複素粘度(η)の値を、周波数(ω)の関数として得た。
これにより、例えば、η 300rad/s(eta 300rad/s)を、285rad/sの周波数における複素粘度の略号として使用し、η 0.05rad/s(eta 0.05rad/s)を、0.05rad/sの周波数における複素粘度の略号として使用する。
損失正接tan(δ)は、所与の周波数における損失弾性率(G”)と貯蔵弾性率(G’)との比として定義される。これにより、例えば、tan0.05を、0.05rad/sにおける損失弾性率(G”)と貯蔵弾性率(G’)との比の略号として使用し、tan300を、300rad/sにおける損失弾性率(G”)と貯蔵弾性率(G’)との比の略号として使用する。
弾性バランスtan0.05/tan300は、損失正接tan0.05と損失正接tan300との比として定義する。
多分散性指数PIは、式10によって定義される。
【数8】
上記式(10)中、ωCOPはクロスオーバー角周波数であり、貯蔵弾性率G’が損失弾性率G”に等しい角周波数として決定される。
値は、Rheoplusソフトウェアによって定義される単点補間手順によって決定する。所与のG値に実験的に到達しない状況では、値は、前と同じ手順を使用して、外挿によって決定する。両方の場合(補間又は外挿)において、Rheoplusからのオプション「Interpolate y-values to x-values from parameter(y値をパラメータからのx値に補間する)」及び「logarithmic interpolation type(対数補間タイプ)」を適用した。
参考文献:
[1] 「Rheological characterization of polyethylene fractions」、Heino,E.L.、Lehtinen,A.、Tanner J.、Seppala,J.、Neste Oy、ポルヴォー(Porvoo)、フィンランド、Theor.Appl.Rheol.、Proc.Int.Congr.Rheol、11th(1992)、1、360-362
[2] 「The influence of molecular structure on some rheological properties of polyethylene」、Heino,E.L.、Borealis Polymers Oy、ポルヴォー、フィンランド、Annual Transactions of the Nordic Rheology Society、1995.)
[3] Definition of terms relating to the non-ultimate mechanical properties of polymers、Pure & Appl.Chem.、第70巻、第3巻、701-754頁、1998.
【0167】
熱キシレン不溶分(XHU)率は、EN579に従って決定した。約2.0gのポリマー(m)を秤量し、秤量した金属製のメッシュに入れる。総重量は(mp+m)によって表される。メッシュの中のポリマーを、ソックスレー装置で沸騰したキシレンで5時間抽出する。その後、溶離液を新鮮なキシレンで置き換え、さらに1時間煮沸を続ける。その後、メッシュを乾燥させ、再び重量を測定する(mxHu+m)。mxHu+m-m=mxHuの式で得られた熱キシレン不溶部の質量(mxHu)をポリマーの重量(m)と関連させて、キシレン不溶物の割合mxHu/mを得る。
【0168】
B. 実施例
発明例IE1~IE7並びに比較例CE1、CE2及びCE2aを以下のように調製した。
【0169】
直鎖状前駆体として、チーグラー・ナッタ触媒を使用するスラリープロセスによって製造された、0.6g/10分(230℃、2.16kg/cm;ISO1133)のMFR、161℃の融点、116℃の結晶化温度を有し、97.3%のアイソタクチシティ(13C NMRによるペンタッド濃度)を有するBorealisの直鎖状ポリプロピレンホモポリマーHA001を使用する。この安定化粉末のF30溶融強度は35cNである。
【0170】
アマニ油は、Lausitzer Oelmuehle Hoyerswerda GmbH(ラウジッツァー・エールミューレ・ホイエルスヴェルダ)から購入した。これは、100mLあたり99gの脂肪、23gの一価不飽和脂肪酸、60gの多価不飽和脂肪酸、15gの飽和脂肪酸及び0.22gのタンパク質を含む冷間圧搾アマニ油である。
【0171】
BorealisのプロピレンホモポリマーフラッフHA001を、窒素下のPrism TSE 24MC上で、表4(例P0~P4)に示す量のアマニ油と共にペレットへと配合した。スループットは10kg/hであった。添加剤は、予備ブレンド又は直接投入によって押出機に投入した。押出機の温度設定は20℃~240℃であった。このようにして得たペレットを、以下のようにして照射した。
【0172】
Eビーム照射プロセスを3つの工程で行った。
【0173】
不活性雰囲気中、20℃、ベルト速度50mm/秒、ベルト幅800mm、照射試料の床高さ50mmで、80~110kGyの線量、10MeVでの顆粒の照射、
照射した顆粒を不活性雰囲気中60℃で30分間加熱する、
不活性雰囲気中100℃で30分間加熱することによりラジカルを失活させる。
【0174】
グラフトされたカップリング剤の濃度を、上記のようにH NMR分光法によって決定した。結果を表3にまとめる。
【0175】
得られた本発明のポリプロピレン及び比較のポリプロピレンの特性を表4にまとめる。
【0176】
さらに、以下の市販のポリマーを比較例として使用した。
CE3は、LyondellBasell(ライオンデルバセル)の市販のHMS-PP PF814である、
CE4は、Borealisの市販のHMS-PP WB140HMSである。
【0177】
表4から分かるように、本発明に係る高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のレオロジー特性は、ラジカル源として過酸化物及びカップリング剤としてブタジエンを用いて調製された高溶融強度ポリプロピレンである比較例CE3及びCE4の特性に匹敵する。表4は、F30溶融強度とF200溶融強度との間の比が発明例に関して安定であることも示し、これは、本発明の高溶融強度ポリプロピレンがレオロジー特性を悪化させることなく再押出できるということを示す。さらに、結晶化温度Tcは、直鎖状前駆体(HA001)と比較して同じレベルのままであるため、核形成効果は生じていない。
【0178】
例IE2、IE5、IE6、及びIE7はすべて同じ直鎖状ポリプロピレンホモポリマーHA001に基づいており、これに0.5重量%の同じカップリング剤を添加し、同じ線量で照射したものである。それにもかかわらず、特性はわずかに異なる。このずれは正常な挙動である。
【0179】
高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のF30溶融強度の非常に望ましい値は、30cNに近く、より好ましくは少なくとも30cNである。重要な事実は、すべての発明例が、上記のように部分的に同じ条件であるにもかかわらず特性にいくらかの変動があったとしても、この目標を達成するということである。
【0180】
上記に既に示したとおり、特性の変動は正常である。照射工程後、高溶融強度ポリプロピレンは依然としていくつかのラジカルを含有する。これらのラジカルは、高溶融強度ポリプロピレンの試料が特定の特性、例えばMFR又は溶融強度の測定の工程に輸送されるときにさらに反応する。本明細書に開示する例では、試料をそれぞれの測定工程にかなり迅速に移すように注意が払われている。それにもかかわらず、タイムスパン、温度、及びカップリング剤の濃度に関しては、常に同じ条件を達成することを保証することはできない。条件のわずかなずれが特性の測定可能な差異を引き起こす可能性はある。
【0181】
発明例IE8~IE13は、使用したカップリング剤を除いて、発明例IE1~IE7と同じ様式で調製した。表5は、添加したカップリング剤の種類及び量並びに対応する結果を示す。
【0182】
クルミ油は、オランダのAromatika BV(アロマティカ)製のWalnussoelであり、9.8重量%の飽和脂肪を含有する。
キリ油は、Bindulin Werk(ビンドゥリン・ベルク)製のAllendo(登録商標)であり、CAS番号8001-20-5である。
ヒマワリ油は、Spar(スパー)製のOsolioであり、10重量%の飽和脂肪を含有する。
これら3つの油はすべて、オーストリアのリンツ(Linz)の通常のスーパーマーケットから購入した。
【0183】
【表3】
【0184】
【表4】
【0185】
【表5】
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-11-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)であって、0.9未満のGPCによって決定された分岐指数g’を有し、
i)プロピレン、及び
ii)少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸
から誘導可能な単位を含む、高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項2】
前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の全重量に基づいて0.05~2.0重量%の、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸から誘導可能な単位を含む請求項1に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項3】
前記少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸はリノール酸及び/又はα-リノレン酸である請求項1又は請求項2に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項4】
xが5.55~5.27ppmにおけるH NMRシグナル(400MHz、1,2-テトラクロロエタン-d)の強度であり、zが4.85~4.73ppmにおけるH NMRシグナル(400MHz、1,2-テトラクロロエタン-d)の強度であり、wが4.73~4.66ppmにおけるH NMRシグナル(400MHz、1,2-テトラクロロエタン-d)の強度であるとすると、比x/(z-w)は0.25~2.0の範囲にある請求項1又は請求項2に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項5】
不等式(I)
【数1】
を満たし、前記式(I)中、[F30(HMSPP)]は、30barでISO16790:2005に従って決定された前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のF30溶融強度であり、[F200(HMSPP)]は、200barでISO16790:2005に従って決定された前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のF200溶融強度である請求項1又は請求項2に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項6】
前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRを有する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)と比較して、ISO16790:2005に従って決定された付加的F30溶融強度(AMS)が2.0cN超であり、前記付加的F30溶融強度(AMS)は式(II)に従って決定され、
AMS=MS(HMS-PP)-LMS (II)
前記式(II)中、AMSは、前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRを有する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)と比較した場合の、ISO16790:2005に従って決定された付加的F30溶融強度(AMS)[単位:cN]であり、MS(HMS-PP)は、ISO16790:2005に従って決定された前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のF30溶融強度[単位:cN]であり、LMSは、前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)と同じISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRを有する直鎖状ポリプロピレンのF30溶融強度(LMS)[単位:cN]であり、
前記F30溶融強度(LMS)は式(III)に従って決定され、
LMS=17.35MFR-0.994 (III)
前記式(III)中、MFRは、前記高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)のISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRである請求項1又は請求項2に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項7】
120℃未満のDSCに従って決定された結晶化温度Tcを有する請求項1又は請求項2に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)。
【請求項8】
高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の調製の方法であって、
a)直鎖状プロピレンポリマー(L-PP)、好ましくは直鎖状プロピレンホモポリマー(H-PP)を提供する工程と、
b)前記プロピレンポリマー(L-PP)を多価不飽和脂肪酸を含むカップリング剤(CA)とブレンドする工程と、
c)工程b)で得られた混合物を電子線照射によって照射する工程と
を含む、方法。
【請求項9】
工程c)に係る前記電子線照射の線量は50~150kGyの範囲にある請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程b)で得られた混合物は、工程b)で得られた混合物の全重量に基づいて0.01~5.0重量%の前記多価不飽和脂肪酸を含むカップリング剤(CA)を含む請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記多価不飽和脂肪酸を含むカップリング剤(CA)は天然アマニ油である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
組成物(C)であって、前記組成物(C)の全重量に基づいて少なくとも10.0重量%のリサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)を含み、前記リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)は、使用済み廃棄物及び/又は産業廃棄物に由来する廃棄プラスチック材料から回収される請求項1又は請求項2に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)である、組成物(C)。
【請求項13】
前記リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)、及び前記高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)であり前記リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)が得られるもとになる起源の高溶融強度ポリプロピレン(o-HMS-PP)のISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRは不等式IVを満たし、
【数2】
前記式(IV)中、MFR(oHMSPP)は、前記起源の高溶融強度ポリプロピレン(o-HMS-PP)のISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRであり、MFR(rHMSPP)は、前記リサイクル高溶融強度ポリプロピレン(r-HMS-PP)のISO1133に従って230℃及び2.16kgの荷重で決定されたメルトフローレートMFRである請求項12に記載の組成物(C)。
【請求項14】
難燃剤、充填剤、顔料、耐衝撃性改良剤、酸化防止剤、核形成剤、プロセス安定剤、スリップ剤、又はこれらの混合物からなる群から選択される添加剤(AD)を含む請求項12に記載の組成物(C)。
【請求項15】
請求項1又は請求項2に記載の高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)を含む物品。
【請求項16】
請求項12に記載の組成物(C)を含む物品。
【国際調査報告】