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特表2024-516884呼吸器系ウイルス性肺炎の処置における細胞微小粒子の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-17
(54)【発明の名称】呼吸器系ウイルス性肺炎の処置における細胞微小粒子の使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/09 20100101AFI20240410BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240410BHJP
   A61K 35/13 20150101ALI20240410BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C12N5/09
A61P31/14
A61K35/76
A61K35/13
A61P11/00
A61K9/72
A61K9/51
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568708
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2022075503
(87)【国際公開番号】W WO2022237247
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】202110517772.2
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511121045
【氏名又は名称】インスティテュート オブ ベーシック メディカル サイエンシズ チャイニーズ アカデミー オブ メディカル サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】黄 波
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BD13
4B065BD15
4B065BD50
4B065CA44
4C076AA65
4C076AA93
4C076BB27
4C076CC35
4C076FF68
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB50
4C087BB55
4C087MA56
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB33
(57)【要約】
呼吸器系ウイルス性肺炎の処置における細胞微小粒子の使用が開示されている。腫瘍細胞由来の微小粒子(MP)は、アポトーシス腫瘍細胞によって放出された細胞小胞を含む。細胞小胞は、スパイクタンパク質結合受容体をその表面に発現している。MPは、高いバイオセーフティーを有する。加えて、微小粒子の表面上の受容体がウイルス吸着能力を有すること、及びマクロファージがMPを効率的に取り込むことができることが明らかになっており、これらのことは、ウイルス性肺炎の処置に使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポトーシス腫瘍細胞によって放出された細胞小胞を含む、腫瘍細胞由来の微小粒子であって、細胞小胞が、スパイクタンパク質結合受容体をその表面に発現し、
好ましくは、スパイクタンパク質が肺炎ウイルススパイクタンパク質であり、
更に好ましくは、肺炎ウイルスが、SARS-CoV、SARS-CoV-2、及びこれらのバリアントからなる群から選択され、
最も好ましくは、スパイクタンパク質結合受容体が、アンギオテンシン変換酵素2(ACE2)又はその結合断片であり、
腫瘍細胞が、肺がん細胞又は結腸がん細胞である、
腫瘍細胞由来の微小粒子。
【請求項2】
好ましくは、肺がん細胞が、NCI-H196、NCI-H292、NCI-H460、NCI-H446、NCI-H1299、NCI-H1650、H1792、NCI-H3255、A427、A549、0225-02Sp、2F7、95-D、SPCA-1、LLC、Calu-1、Calu-3、L1022、PC9R、MSTO-211H、及びTKB-1からなる群から選択され、更に好ましくはCalu-3及びA549からなる群から選択され、
好ましくは、結腸がん細胞が、HCT116、HCT116/FU、HCT-8/FU、LoVo、LoVo ADR、SW480、SW620、CaCo-2、RKO-E6、RKO-AS45-1、FET、HT55、HT115、HT-29、COLO 205、KM12、CL-40、KM12-SM、COLO320DM、NCI-H508、SW1417、COLO394、及びWiDrからなる群から選択され、更に好ましくはCaco-2である、
請求項1に記載の腫瘍細胞由来の微小粒子。
【請求項3】
細胞小胞の平均粒子サイズが、200nmから800nm、好ましくは300nm、400nm、500nm、600nm、700nmである、請求項1に記載の腫瘍細胞由来の微小粒子。
【請求項4】
1)スパイクタンパク質結合受容体を発現する腫瘍細胞を準備する工程、
2)工程1)の腫瘍細胞をアポトーシスさせる工程であって、好ましくは、工程1)の腫瘍細胞が、紫外線照射、X線照射、及び化学療法薬からなる群から選択される手段によってアポトーシスさせられる、工程、
3)アポトーシス腫瘍細胞によって放出された細胞小胞を回収する工程、好ましくは、アポトーシス腫瘍細胞によって放出された細胞小胞を遠心分離によって回収する工程であって、細胞小胞の平均粒子サイズが200nmから800nm、好ましくは300nm、400nm、500nm、600nm、700nmである、工程
を含む、腫瘍細胞由来の微小粒子を調製するための方法。
【請求項5】
スパイクタンパク質が、肺炎ウイルススパイクタンパク質であり、
肺炎ウイルスが、SARS-CoV、SARS-CoV-2、及びこれらのバリアントからなる群から選択され、
好ましくは、スパイクタンパク質結合受容体が、ACE2又はその結合断片であり、
腫瘍細胞が、肺がん細胞及び結腸がん細胞からなる群から選択され、
肺がん細胞が、NCI-H196、NCI-H292、NCI-H460、NCI-H446、NCI-H1299、NCI-H1650、H1792、NCI-H3255、A427、A549、0225-02Sp、2F7、95-D、SPCA-1、LLC、Calu-1、Calu-3、L1022、PC9R、MSTO-211H、及びTKB-1からなる群から選択され、更に好ましくはCalu-3及びA549からなる群から選択され、
好ましくは、結腸がん細胞が、HCT116、HCT116/FU、HCT-8/FU、LoVo、LoVo ADR、SW480、SW620、CaCo-2、RKO-E6、RKO-AS45-1、FET、HT55、HT115、HT-29、COLO 205、KM12、CL-40、KM12-SM、COLO320DM、NCI-H508、SW1417、COLO394、及びWiDrからなる群から選択され、更に好ましくはCaco-2である、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程3)において、細胞小胞が、
工程2)で得られたアポトーシス腫瘍細胞を、2から8℃で、800から1000gで5から15分間遠心分離して、無傷の細胞を除去し、第1の生成物を得るステップ、
第1の生成物を、2から8℃で、12000から15000gで1から3分間遠心分離して、細胞残屑を除去し、第2の生成物を得るステップ、
第2の生成物を、2から8℃で、12000から15000gで40から80分間遠心分離して、放出された細胞小胞を回収するステップ
を含む手段によって回収される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか一項に記載の方法によって調製される、腫瘍細胞由来の微小粒子。
【請求項8】
ウイルス性肺炎を処置するための医薬の調製における、請求項1から3及び7のいずれか一項に記載の腫瘍細胞由来の微小粒子の使用であって、ウイルスが、SARS-CoV、SARS-CoV-2、及びこれらのバリアントからなる群から選択される、使用。
【請求項9】
薬学的に許容可能な担体、及び
請求項1から3及び7のいずれか一項に記載の腫瘍細胞由来の微小粒子
を含む医薬組成物であって、肺投与のための投与形態に調製される、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、生物学、医学、及び臨床分野に関する。具体的には、本願は、コロナウイルス疾患2019感染の処置における細胞微小粒子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス性肺炎は、大流行する場合も、孤発性及び風土性となる場合もある。ウイルス性肺炎は1年のうちのいつでも生じ得るが、冬及び春がより一般的である。初めは、ウイルス性肺炎は主に上気道のウイルス感染であり、ウイルスが肺に向かって下へ広がると肺炎を生じさせる。
【0003】
ウイルス性肺炎は飛沫によって伝播し得る。臨床的兆候は一般に軽度であり、主に、呼吸器疾患に類似した症候、例えば、頭痛、倦怠感、発熱、及び咳である。気道感染は、世界の主な死因の1つであり、特に、重度の肺炎を有する患者は、高い死亡率及び重篤な後遺症を有する。現在、重度の肺炎の局地的大流行を生じさせる主な病原体であるインフルエンザウイルス及びコロナウイルス等のウイルスは、非常に伝播性であり、死亡率が高い。
【0004】
コロナウイルス疾患2019(COVID-19)は、2019年の新たなコロナウイルス(SARS-CoV-2)によって生じる急性呼吸器感染症である。
【0005】
SARS-CoV-2は、これまでヒトで見られたことのない新たなコロナウイルス株であり、主な伝播経路は、呼吸器飛沫伝播及び接触伝播である。COVID-19は、発熱、空咳、及び倦怠感として主に現れ、少数の患者は、鼻詰まり、鼻水、下痢、並びに他の上気道及び胃腸の症候も有する。重病の患者は、通常、約1週間で呼吸が困難になり、重度のケースでは、急性呼吸窮迫症候群、敗血性ショック、凝固障害、多臓器不全等に急速に進行し、最終的には患者の死亡をもたらす。SARS-CoV-2は非常に伝播性であり、死亡率が高い。
【0006】
SARS-CoV-2によって生じた肺炎の大流行の後、様々な国で薬剤開発の大変な努力がなされたにもかかわらず、これまでのところ、SARS-CoV-2感染を処置するための有効な薬剤は依然として存在していない。COVID-19の予防及び処置のために、ワクチンの研究及び開発は大きく進歩し、中国は、3つの不活化ワクチン及び1つのアデノウイルスベクターワクチンを含む4つのCOVID-19ワクチンの販売承認をしている。ワクチンはウイルスの拡散を大きく予防し得るが、ウイルスに既に感染している患者のための更に有効な治療レジメンを探求する必要が依然としてある。現在、COVID-19のための薬剤開発は、主に、ウイルスの複製及びパッケージングに対する低分子化合物をスクリーニングすることであるが、多くの低分子化合物が、不確実性及び安全性の問題という課題に直面している。多くの薬剤が良好な抗コロナウイルス活性をインビトロで示しているが、これらはヒトにおけるインビボ適用で価値を有していないことが多い。一部の薬剤は、臨床的な抗ウイルス処置で使用されているが、これらの薬剤はSARS-CoV-2に特異的ではなく、これらの副作用は無視できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、COVID-19患者のための従来にはない処置戦略を探求することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は、スパイクタンパク質結合受容体を表面に発現し、標的化剤として作用し、肺炎処置部位に更に容易にアクセスする、アポトーシス腫瘍細胞の細胞小胞に由来する、腫瘍細胞由来の微小粒子を提供する。
【0009】
当業者には、細胞が、細胞内容物を包んでいる細胞膜から構成され、細胞膜が、リン脂質二重層に埋め込まれているタンパク質分子からなること、及び、細胞の球状構造が、細胞骨格と呼ばれるタンパク繊維フィラメントによって形成される牽引力によって維持されていることが公知である。細胞が外来のシグナル(例えば、化学療法薬、紫外線、放射線照射等)によって刺激され、アポトーシスを起こすと、タンパク繊維フィラメントは破壊されるか、又は接着を失い、牽引力が消え、その結果、局所の細胞膜構造が外側に膨らみ、突き出し、小胞の形態で細胞内容物を包み込む。小胞は約100から1000ナノメートルのサイズを有し、本願において「細胞小胞」と記載される。
【0010】
上記の細胞小胞は、治療標的の標的化を更に促す、標的化剤を表面に発現させるための担体として使用される。このタイプの小胞は、正常組織に入ることができず(透過性は約5から10nm)、正常組織に損傷を生じさせず、したがって、ナノマテリアル等の外因性の担体によって生じる副作用を避ける。
【0011】
一部の実施形態において、細胞小胞は腫瘍細胞に由来し、特に、腫瘍細胞は、処置対象の部位の組織と同一のタイプの組織に由来する。一部の実施形態において、細胞小胞は、患者の身体における処置対象の部位の細胞膜と容易に接触することができる。一部の特定の実施形態において、患者における処置対象の部位は、肺である。一部の実施形態において、腫瘍細胞は肺がん細胞である。したがって、細胞小胞は、肺がん細胞に由来する。
【0012】
他の実施形態において、細胞小胞を調製するために使用される腫瘍細胞のタイプは、細胞小胞が投与される部位の細胞のタイプと異なっていてよい。例として、本願の細胞小胞は結腸がん細胞から調製されるが、細胞小胞は肺に投与することが可能である。
【0013】
特定の実施形態において、細胞小胞を調製するために使用される腫瘍細胞は、オキシステロール、例えば、ヒドロキシル化修飾を有するコレステロールを含有する。例として、細胞小胞を調製するために使用される腫瘍細胞は、25-ヒドロキシル化コレステロールを含有する。
【0014】
当技術分野において、多くの周知の利用可能なヒト腫瘍細胞系が存在し、これらのオキシステロール含有量は異なる。一部の実施形態において、オキシステロール(例えばヒドロキシル化コレステロール)に富んだ腫瘍細胞系を、細胞小胞の調製のための材料として選択することができる。
【0015】
一部の実施形態において、腫瘍細胞は、肺がん細胞、例えば、限定されないが、NCI-H196、NCI-H292、NCI-H460、NCI-H446、NCI-H1299、NCI-H1650、H1792、NCI-H3255、A427、A549、0225-02Sp、2F7、95-D、SPCA-1、LLC、Calu-1、Calu-3、L1022、PC9R、MSTO-211H、TKB-1である。特定の一実施形態において、腫瘍細胞は、オキシステロールに富んだCalu-3である。特定の一実施形態において、腫瘍細胞は、オキシステロールに富んだA549である。
【0016】
一部の実施形態において、腫瘍細胞は、結腸がん細胞系である。結腸がん細胞は、HCT116、HCT116/FU、HCT-8/FU、LoVo、LoVo ADR、SW480、SW620、CaCo-2、RKO-E6、RKO-AS45-1、FET、HT55、HT115、HT-29、COLO 205、KM12、CL-40、KM12-SM、COLO320DM、NCI-H508、SW1417、COLO394、及びWiDrからなる群から選択される。特定の一実施形態において、腫瘍細胞は、オキシステロールに富んだCaco-2である。
【0017】
一部の実施形態において、標的化剤は、小胞の表面に発現しているスパイクタンパク質結合受容体である。
【0018】
一部の実施形態において、細胞小胞上に発現しているスパイクタンパク質結合受容体は、天然に発現していても組換えによって発現していてもよい。
【0019】
一部の実施形態において、スパイクタンパク質は、肺炎ウイルススパイクタンパク質(S、スパイク)である。
【0020】
一部の実施形態において、ウイルスは、SARS-CoV、SARS-CoV-2、及びこれらのバリアントからなる群から選択される。
【0021】
一部の特定の実施形態において、スパイクタンパク質結合受容体は、アンギオテンシン変換酵素2又はその結合断片である。
【0022】
一部の特定の実施形態において、ACE2は、ヒトACE2である。この用語は、天然のヒトACE2又は天然のこれらのバリアント、並びに人工的に発現したヒトACE2又はこれらのバリアント、例えば、インビトロで発現した組換えヒトACE2又はこれらのバリアントを包含する。
【0023】
本願において記載される「アンギオテンシン変換酵素2の結合断片」は、スパイクタンパク質に特異的に結合するそれらの能力を依然として保持している限り、アンギオテンシン変換酵素2の断片を指す。アンギオテンシン変換酵素2の結合断片も本願の範囲内である。本願におけるアンギオテンシン変換酵素2又はその結合断片は、天然に発現していても、組換えによって発現していても、又は遺伝子操作されていてもよい。
【0024】
一部の実施形態において、腫瘍細胞は、肺がん細胞及び結腸がん細胞から選択される。
【0025】
本願は、任意の実行可能な手段を使用することによって腫瘍細胞をアポトーシスさせて細胞小胞を得ることによる、腫瘍細胞由来の微小粒子を調製するための方法を提供する。
【0026】
一部の特定の実施形態において、腫瘍細胞由来の微小粒子を調製するための方法であって、
1)スパイクタンパク質結合受容体を発現する腫瘍細胞を準備する工程、
2)工程1)の腫瘍細胞をアポトーシスさせる工程、
3)アポトーシス腫瘍細胞によって放出された細胞小胞を回収する工程
を含む、方法が提供される。
【0027】
一部の特定の実施形態において、細胞は、当技術分野における任意の周知の手段によってアポトーシスさせられる。非限定的な例としては、紫外線照射、X線照射、又はデキサメタゾン等の化学療法薬が含まれる。本願の方法において、アポトーシスは、外因性の物質を腫瘍細胞に導入することなく行うことができ、したがって、放射線照射が好ましい(例えば、紫外線照射、X線照射)。一部の特定の実施形態において、放射線照射の時間及び放射線照射の強度は、通常の操作に従って当業者によって決定され得る。
【0028】
本願の特定の実施形態において、好ましくは、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するために紫外線又は化学療法薬が使用される。細胞小胞の回収のために、単離が、低温条件(又は室温条件)下で超遠心機を使用することによって行われ得る。好ましくは、細胞小胞は、低温条件下(例えば約4℃)で、100から10万gの遠心力で、遠心分離機によって回収される。
【0029】
一部の特定の実施形態において、アポトーシス腫瘍細胞によって放出された細胞小胞は、遠心分離によって回収され、細胞小胞の平均粒子サイズは、200nmから800nm、好ましくは300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm±10%である。
【0030】
一部の特定の実施形態において、腫瘍細胞由来の微小粒子を調製するための方法であって、
1)ヒトACE2又はその結合断片を発現する、肺がん細胞又は結腸がん細胞であるヒト腫瘍細胞を準備する工程、
2)工程1)の腫瘍細胞をアポトーシスさせる工程、
3)アポトーシス腫瘍細胞によって放出された細胞小胞を、
工程2)で得られたアポトーシス腫瘍細胞を、2から8℃で、800から1000gで5から15分間遠心分離して、無傷の細胞を除去し、第1の生成物を得るステップ、
第1の生成物を、2から8℃で、12000から15000gで1から3分間遠心分離して、細胞残屑を除去し、第2の生成物を得るステップ、
第2の生成物を、2から8℃で、12000から15000gで40から80分間遠心分離して、放出された細胞小胞を回収するステップ
を含む手段によって回収する工程
を含む、方法が提供される。
【0031】
一部の特定の実施形態において、アポトーシス腫瘍細胞によって放出された細胞小胞は、
得られたアポトーシス腫瘍細胞を、2から8℃で、1000gで10分間遠心分離して、無傷の細胞を除去し、第1の生成物を得る工程、
第1の生成物を2から8℃で、14000gで2分間遠心分離して、細胞残屑を除去し、第2の生成物を得る工程、
第2の生成物を、2から8℃で、14000gで60分間遠心分離して、放出された細胞小胞を回収する工程
を含む手段によって回収され、上記のこれらの工程に従って回収された細胞小胞の平均粒子サイズは、100nmから1000nmの範囲、特に200から800nmの範囲に入る。
【0032】
本願は、前述の方法によって調製された腫瘍細胞由来の微小粒子を提供する。
【0033】
本願は、本願に従った腫瘍細胞由来の微小粒子を含む医薬組成物を提供する。
【0034】
本願の医薬組成物の好ましい実施形態に従うと、医薬組成物は、細胞小胞又は腫瘍細胞由来の微小粒子を含む。
【0035】
回収された微小粒子について、これは、従来の手段に従って、医薬組成物、特に噴霧製剤又はスプレー製剤に調製することができる。
【0036】
本願の好ましい実施形態として、腫瘍細胞由来の微小粒子によって形成された医薬組成物における平均粒子サイズは、100から1000ナノメートルであり、言及され得る非限定的な例は、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、900、950、1000±10%nmである。
【0037】
本願によって提供される薬剤組成物は、従来の臨床的処置方法に従って投与され得、例えば肺炎では、これは、点鼻薬、スプレー、又は肺への灌流によって直接投与され得る。投与に使用される用量は、医療関係者によって決定される用量であり得る。
【0038】
特定の実施形態において、本願によって提供される微小粒子、細胞小胞、又は医薬組成物は、肺投与に適した投薬形態に調製される。
【0039】
例として、肺投与のための吸入可能な粉末は、従来の技術、例えば、ジェットミル、スプレー乾燥、溶媒沈殿、超臨界流体濃縮等によって生産される。ドライパウダー吸入器(DPI)を使用することによって作製された定量噴霧式吸入器、例えば、Nektar(商標)、Vectura(Gyrohaler(商標))、及びGSK(Discus(商標))、又はAstra(Turbohaler(商標))等に基づく吸入器は、適切な担体(例えば、マンニトール、スクロース、又はラクトース)中に、本願の微小粒子、細胞小胞、又は医薬組成物を含み、これが末端肺胞の表面に送達される。超音波ネブライザーもリポソームを伴う(又はリポソームを伴わない)溶液調製物を肺に送達するために使用され得る。
【0040】
本願の一部の実施形態に従うと、COVID-19感染を有する患者のための治療手段として使用され得る、A549細胞由来の微小粒子が提供される。微小粒子の表面上に存在するアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)は、SARS-CoV-2の表面タンパク質に結合し、ウイルスの進入を媒介することができる、受容体である。したがって、MPは、SARS-CoV-2ウイルスを吸着し、体内でのウイルスの拡散を制限することができる。ウイルスを担持する微小粒子は、マクロファージによって効率的に取り込まれ、リソソームに送達されて分解され、こうすることで、COVID-19の有効な処置が可能となる。
【0041】
本願において、「微小粒子(MP)」という用語は、活性化又はアポトーシスの際に真核細胞の膜表面から分離する、平均粒子サイズが100から1000nmの小胞様構造を指す。微小粒子は、異なるタイプの細胞の間での生物情報物質の伝播及び交換を媒介する、バイオインフォメーションの担体であると考えられている。高い生体適合性、低い免疫原性、及び標的化能力等の特徴を理由として、MPは薬剤の担体として利用されており、抗腫瘍薬をロードされた腫瘍細胞由来の微小粒子は、良好な抗腫瘍効果を有し、臨床診療で適用されている。
【0042】
一部の実施形態において、微小粒子製剤は、動物実験において、5×106/50μlの用量で、1日に1回、5日間投与される。当業者は、動物実験に基づいて、ヒト対象の単位用量を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】A549細胞由来の微小粒子(MP)におけるACE2の発現を示す図であり、ウェスタンブロット分析が、MPにおけるACE2の発現を示している。
図2A】SARS-CoV-2がMPによって吸着され得ることを示す図である。AMPをSARS-CoV-2とインキュベートした後、0.1 Mpタイプフィルターを通して溶液を濾過すると、リアルタイムPCR分析は、ウイルスRNAが、インキュベートされたMPで検出され得、インキュベートされていないMPでは検出され得ないことを示している。
図2B】SARS-CoV-2がMPによって吸着され得ることを示す図である。免疫蛍光染色は、MP上のACE2へのウイルスSタンパク質の結合を更に裏付けている。
図3】MPがビリオンを吸着し、これらを肺胞マクロファージに送達することを示す図である。肺胞マクロファージとウイルスを吸着しているMPとのインビトロでのインキュベーションは、マクロファージがウイルス含有MPを10分以内に取り込むことができるが、単離された初代II型肺胞上皮細胞はMPを取り込むことが困難であることを示している。
図4】MPによって吸着されたSARS-CoV-2ウイルスが肺胞マクロファージにおいて不活化されることを示す図である。SARS-CoV-2、SARS-CoV-2/MPを肺胞マクロファージと0.5時間、1時間、及び4時間インキュベートした後、SARS-CoV-2は肺胞マクロファージにおいて複製することができ、MPに結合したSARS-CoV-2は、肺胞マクロファージにおける量が低減した。プローブ1は、ウイルスのセンス配列を標的化してウイルス分布を評価し(緑)、プローブ2は、ウイルスのアンチセンス配列を標的化してウイルス複製を示す(赤)(従来の設計原理に従って、当業者はプローブを設計することができる)。
図5A】5μmのスケールバーを伴う共焦点顕微鏡画像を示す図である。
図5B】放射線照射されたA549-ACE2-OE細胞中のコレステロール-25-ヒドロキシラーゼが有意に上方調節され、抽出された微小粒子の25-ヒドロキシコレステロールの含有量が有意に増大していることを示す図である。注記:293Tは、ヒト腎臓上皮293細胞系(ヒドロキシル化コレステロールの含有量が低い細胞系)であり、293T-UVは、1時間の紫外線照射の後の293T細胞であり、A549-OEは、A549 ACE2を過剰発現する細胞であり、A549-OE-UVは、1時間の紫外線照射の後のA549 ACE2を過剰発現する細胞であり、293-MPは、293T細胞由来の微小粒子であり、AO-MPは、A549-ACE2を過剰発現する細胞由来の微小粒子である。
図5C】放射線照射されたA549-ACE2-OE細胞中のコレステロール-25-ヒドロキシラーゼが有意に上方調節され、抽出された微小粒子の25-ヒドロキシコレステロールの含有量が有意に増大していることを示す図である。注記:293Tは、ヒト腎臓上皮293細胞系(ヒドロキシル化コレステロールの含有量が低い細胞系)であり、293T-UVは、1時間の紫外線照射の後の293T細胞であり、A549-OEは、A549 ACE2を過剰発現する細胞であり、A549-OE-UVは、1時間の紫外線照射の後のA549 ACE2を過剰発現する細胞であり、293-MPは、293T細胞由来の微小粒子であり、AO-MPは、A549-ACE2を過剰発現する細胞由来の微小粒子である。
図5D】放射線照射されたA549-ACE2-OE細胞中のコレステロール-25-ヒドロキシラーゼが有意に上方調節され、抽出された微小粒子の25-ヒドロキシコレステロールの含有量が有意に増大していることを示す図である。注記:293Tは、ヒト腎臓上皮293細胞系(ヒドロキシル化コレステロールの含有量が低い細胞系)であり、293T-UVは、1時間の紫外線照射の後の293T細胞であり、A549-OEは、A549 ACE2を過剰発現する細胞であり、A549-OE-UVは、1時間の紫外線照射の後のA549 ACE2を過剰発現する細胞であり、293-MPは、293T細胞由来の微小粒子であり、AO-MPは、A549-ACE2を過剰発現する細胞由来の微小粒子である。
図5E】コレステロール-25-ヒドロキシラーゼ(略称はCH25H)をノックアウトすることによって、エンドソームのpHを上方調節する微小粒子の効果が消えることを示す図である。CtrlはPBSのみの群であり、SGCtrlは、A549由来のコントロール微小粒子を有する群であり、SG1は、A549-CH25Hノックアウト細胞由来の微小粒子を有する群であり、SG2は、A549-CH25Hノックアウト細胞由来の微小粒子を有する群である。
図6A】MPがリソソーム内のpHを下げることによってSARS-CoV-2ウイルスの分解を増強することを示す図である。MPでの肺胞マクロファージの処理は、リソソームのpHを低下させる。
図6B】MPがリソソーム内のpHを下げることによってSARS-CoV-2ウイルスの分解を増強することを示す図である。MPで処理されたマクロファージから単離されたリソソームは、コントロールマクロファージから単離されたリソソームよりも効率的にウイルスを不活化する。
図7A】SARS-CoV-2ウイルス感染の処置におけるMPのインビボでの有効性を示す図である。SARS-CoV-2感染の5日後、MPをマウスの鼻腔に5日間連続して注入する。H&E染色は、処置群のマウスにおける、気管支周囲及び血管周囲の炎症性細胞の浸潤の減少、並びに肺の組織病理学的損傷の低減を示している。Ctrlはコントロールであり、モックはPBS処理群である。
図7B】SARS-CoV-2ウイルス感染の処置におけるMPのインビボでの有効性を示す図である。SARS-CoV-2感染の5日後、MPをマウスの鼻腔に5日間連続して注入する。形態学的改善と一致して、RNA Scopeは、肺におけるウイルス量の減少を示している。Ctrlはコントロールであり、モックはPBS処理群である。
図8A】SARS-CoV-2のみを取り込んだマクロファージと比較した、SARS-CoV-2を担持しているMPを取り込んだインビトロのマクロファージにおける、TNF-α、IL-1β、及びIL-6炎症性因子のレベルを示す図である。
図8B】MPで処置されたマウスの肺組織におけるTNF-α、IL-1β、及びIL-6炎症性因子のレベルを示す図である。注記:Ctrlはコントロールであり、モックはPBS処理群である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
実施例で使用される様々な細胞系、剤、及び実験動物
マウスマクロファージ細胞系Raw264.7及びA549ヒト肺腺癌細胞系を、China Center for Type Culture Collection(CCTCC)から購入した。
【0045】
メスICR、hACE2トランスジェニックマウス、6から8週齢を、中国医学科学院(北京)のMedical Laboratory Animal Centerから購入した。ウイルス感染を伴わないマウスの研究は、中国医学科学院のAnimal Protection and Utilization Committeeによって承認された。
【実施例1】
【0046】
ACE2はA549細胞由来の微小粒子(MP)内で発現する
1.実験工程
ヒトACE2のコード配列を増幅し、プラスミドpLV-EF1α-IRES-Puroに挿入し、これを293T細胞で一時的に発現させて、ヒトACE2遺伝子を有するウイルスを得た。ヒトACE2を有するレンチウイルスをA549細胞に形質導入し、これを次いで、1μg/mlのピューロマイシンでスクリーニングして、ACE2の発現が高い細胞クローン、すなわちA549-ACE2-OEを得た。
【0047】
安定なノックアウトACE2細胞系を構築するために、ノックアウトのためのRNAを、データベース内の周知のヒトACE2遺伝子配列について設計した。RNAをpSpCas9(BB)-2A-GFPベクタープラスミドにクローニングし、これを使用して、細胞を形質転換した。48時間後、GFP陽性細胞を、BD Biosciences社のFACSAria IIIを使用して、フローサイトメトリーによってソートした。候補ノックアウト細胞をウェスタンブロット又は免疫蛍光によって確認して、A549-ACE2-SG(ACE2ノックアウトA549細胞)を得た。
【0048】
A549、A549-ACE2-OE、及びA549-ACE2-SGそれぞれに、300J/m2の紫外線を1.5時間照射し、上清を18時間後に回収した。上清を1000×gで10分間遠心分離して細胞を除去し、その後、14000×gで2分間遠心分離して残屑を除去した。次いで、上清を4℃で14000×gで60分間遠心分離して各々のタイプのMPを調製した。MPを3回洗浄し、培養培地中に懸濁して、その後の実験を行った。
【0049】
A549細胞及び各々のタイプのMPを溶解バッファーに溶解し、超音波処理した。タンパク質濃度をBCAキットによって決定した。次いで、タンパク質をSDS-PAGEゲル上で分解し、ニトロセルロース膜に転写した。ニトロセルロース膜を5%ウシ血清アルブミンでブロックし、抗体で一晩検出して、細胞をポジティブコントロールとして、MPにおけるACE2の発現を検出した。
【0050】
2.実験結果
ウェスタンブロット分析は、MPにおけるACE2の発現、及びこの方法を使用して得られたA549由来の微小粒子におけるACE2の存在を示した(図1)。
【実施例2】
【0051】
SARSCoV-2ウイルスはMPによって吸着され得る
1.実験工程
A549-ACE2-OEから得られたMPをSARSCoV-2ウイルスと37℃で30分間インキュベートし、次いで、0.1μmのフィルター膜を通して濾過した。フィルターはウイルス粒子を選択的に通過させることができたが、MPの通過は防いだ。MPとインキュベートされなかったSARS CoV-2ウイルスをコントロール群として使用し、これもフィルター膜を通して濾過した。異なる群の膜上のウイルス量をリアルタイム定量PCRによって検出した。
【0052】
MP(5×105)を組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質(0.1μg)とインキュベートし、固定し、次いで、抗ACE2タンパク質抗体(赤)及び抗スパイクタンパク質抗体(緑)で染色した。蛍光を超解像構造化照明顕微鏡によって決定した、スケールバーは2μmである。
【0053】
2.実験結果
AMPをSARS-CoV-2とインキュベートした後、Q-PCR分析は、ウイルスRNAが、インキュベートされたMPでは検出されたが、インキュベートされていないMPでは検出されなかったことを示した(図2A)。免疫蛍光染色の結果は、MP上のACE2へのウイルスSタンパク質の結合を裏付けた(図2B)。
【実施例3】
【0054】
MPはビリオンを吸着し、これらを肺胞マクロファージに送達する
1.実験工程:
初代肺胞マクロファージを、マウスの気管支肺胞洗浄液から単離した。マウスを麻酔し、直後に洗浄し、気管を切断した。肺を1mlのPBSで5回洗浄し、洗浄液を4℃で600×gで5分間遠心分離した。回収された細胞をRPMI1640完全培地に懸濁し、培養プレートで2時間培養し、次いで、PBSで穏やかに洗浄して、非接着細胞を除去した。
【0055】
初代肺胞上皮細胞を、右室を通して10ミリリットルの冷たいPBSを灌流したhACE2マウスから単離した。肺組織を、2mlのラセマーゼ及びゲル化温度が低いアガロースゲルで満たし、次いで、2mlのラセマーゼと37℃で20分間インキュベートした。肺組織を次いで粉砕し、ホモジネートを、70及び40μmのナイロンメッシュを通して濾過した。ビオチン標識された抗体及び磁気ビーズを使用して、細胞懸濁液から白血球、単球/マクロファージ、NK細胞、好中球、内皮細胞、及び赤血球を除去した。
【0056】
ICRマウスの初代肺胞マクロファージ及び初代肺胞上皮細胞を単離した。PKH67標識されたA-OE-MPで10分間、30分間、及び2時間処理した後、共焦点顕微鏡下で画像をキャプチャした、スケールバーは5μmである。
【0057】
2.実験結果:
肺胞マクロファージとウイルスを吸着しているMPとのインビトロでのインキュベーションは、マクロファージがウイルス含有MPを10分以内に取り込むことができるが、単離された初代II型肺胞上皮細胞は2時間でもMPを取り込むことが困難であったことを示した(図3)。
【実施例4】
【0058】
MPによって吸着されたSARS-CoV-2ウイルスは、肺胞マクロファージにおいて不活化される
1.実験工程:
MP(5×105)をSARS-CoV-2(5×104 TCID50)と37℃で30分間インキュベートし、次いで、肺胞マクロファージを添加して、30分間、1時間、及び4時間処理した。SARS-CoV-2とインキュベートされていないMPをコントロール群として使用した。細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、過酸化水素と室温で10分間インキュベートし、RNAScopeキットを使用してRNAのin situ分析を行った。プローブ1は、ウイルスのセンス配列を標的化してウイルス分布を評価し(緑)、プローブ2は、ウイルスのアンチセンス配列を標的化してウイルス複製を示し(赤)、スケールバーは5μmである(従来の設計原理に従って、当業者はプローブ1及び2を設計することができる)。
【0059】
2.実験結果:
SARS-CoV-2、SARS-CoV-2/MPを肺胞マクロファージと0.5時間、1時間、及び4時間インキュベートした後、SARS-CoV-2単独は肺胞マクロファージにおいて複製することができ、MPに結合したSARS-CoV-2は、肺胞マクロファージにおける量が低減した(図4)。
【実施例5】
【0060】
MPはエンドソームのpHを上昇させることによってウイルス回避を防ぐ
マクロファージを微小粒子で30分間予め処理し、次いで、pHrodo(商標)Redデキストランを添加して10分間標識し、共焦点顕微鏡を使用してイメージングを行った。スケールバーは5μmである。
【0061】
A549-ACE2-OE細胞を6ウェルプレート(5×105)に播種し、300J/m2で1時間紫外線照射した。RNAを18時間後に回収して、qPCRによってCH25H含有量を検出した。同時に、この方法を使用して微小粒子を抽出し、MP中の25-ヒドロキシコレステロール(25HC)の含有量を質量分析実験によって検出した。A549細胞内のCH25Hを、CRISPR-Cas9系を使用してノックアウトし、その後、MPを抽出し、これを使用して、マクロファージを30分間処理した。次いで、pHrodo(商標)Redデキストランを添加して標識し、共焦点顕微鏡を使用してイメージングを行った(図5A)。
【0062】
結果は、微小粒子がエンドソームのpHを上昇させ、ウイルスが細胞質に逃げるのを防ぐことによってウイルス複製を阻害し得ることを示した。微小粒子で処理された後、マクロファージのエンドソームのpHは上昇した。微小粒子によって担持されたオキシステロールはエンドソームのpHに影響した。図5B図5C、及び図5Dは、放射線照射されたA549-ACE2-OE細胞中のコレステロール-25-ヒドロキシラーゼが有意に上方調節され、抽出された微小粒子中の25-ヒドロキシコレステロールの含有量も有意に増大したことを示した。図5Eは、CH25Hをノックアウトすることによって、エンドソームのpHを上方調節する微小粒子の効果が消えたことを示した。
【実施例6】
【0063】
MPはリソソーム内のpHを低減させることによってSARS-CoV-2ウイルスの分解を増強させる
1.実験工程
肺胞マクロファージを、A549-ACE2-OEから得られたMPで30分間前処理し、MPで処理されていない肺胞マクロファージをコントロール群として使用した。マクロファージをLysoSensor(商標)Yellow/Blue DND-160で染色し、pHの値をマイクロプレートリーダーで検出し、マクロファージリソソームのpHを、リソソームpHメーターを使用して、LysoSensor(商標)Yellow/Blue DND-160によって決定した。結果は、生細胞のpHが二光子励起分光法に依存することを示した。
【0064】
リソソームを単離及び精製し、接着細胞をトリプシンによって消化し、次いで、氷冷したPBSで洗浄した。細胞ペレットを再懸濁し、ホモジナイザー内に置いて破壊した。細胞ホモジネートを1000×gで10分間遠心分離し、上清を20000×gで20分間遠心分離して、リソソーム粒子及び他のオルガネラを調製した。密度勾配を確立し、SW50.1ローター内で150000×gで4時間遠心分離することによって、一番上の(最低密度の)バンドを除去し、PBS中に希釈した。洗浄した後、リソソームを20000×gで20分間遠心分離して、単離及び精製を行った。
【0065】
MPで処理したマクロファージから単離されたリソソーム、及びコントロールマクロファージから単離されたリソソームを、それぞれSARS-CoV-2と37℃で30分間インキュベートし、次いで、ウイルスE6を添加して48時間感染させた。細胞を抗NP抗体で染色した。スケールバーは5μmであった。
【0066】
2.実験結果
MPで肺胞マクロファージを処理するとリソソームのpHが低下し(図6A)、MPで処理されたマクロファージから単離されたリソソームは、コントロールマクロファージから単離されたリソソームよりも少ないウイルス量を有していた(図6B)。
【実施例7】
【0067】
SARS-CoV-2ウイルス感染の処置におけるMPのインビボでの有効性
1.実験工程
hACE2マウスをSARS-CoV-2(1×105 TCID50)に気管内感染させ、次いで、コントロール群(PBS)又はMP(5×106)で処置した。処置は、1日に1回、5日間連続して行った(n=群当たり5頭の動物)。5日間の処置の後、マウスを屠殺し、肺組織を固定してHE染色を行った。
【0068】
肺組織を固定した後、RNAScopeキットを使用して、RNAのin situ分析を行った。プローブ1は、ウイルスのセンス配列を標的化してウイルスの分布を評価し(緑)、プローブ2は、ウイルスのアンチセンス配列を標的化してウイルス複製を示し(赤)、スケールバーは5μmである。
【0069】
2.実験結果
H&E染色は、処置群のマウスにおける気管支周囲及び血管周囲の炎症性細胞の浸潤が減少し、肺組織の病理学的損傷が軽減したことを示した(図7A)。形態学的改善と一致して、RNAScopeは、肺におけるウイルス量の減少を示した(図7B)。
【実施例8】
【0070】
マクロファージは、MPに吸着されたSARS-CoV-2を排除する場合は炎症応答を生じさせない
SARS-CoV-2(1×105 TCID50)をマクロファージ(1×105)に24時間添加した。RNAをTRIZOL法によって抽出し、TNF-α、IL-1β、及びIL-6のレベルをqPCRによって検出した。
【0071】
hACE2マウスにSARS-CoV-2(1×105 TCID50)を気管内感染させ、次いで、コントロール群(PBS)又はMP(5×106)でそれぞれ処置した。処置は、1日に1回、5日間連続して行った(n=群当たり5頭の動物)。マウスを処置の5日後に屠殺した。肺組織のRNAをTRIZOL法によって抽出し、TNF-α、IL-1β、及びIL-6のレベルをqPCRによって検出した。
【0072】
図8Aは、SARS-CoV-2を担持しているMPを取り込んだインビトロのマクロファージにおけるTNF-α、IL-1β、及びIL-6炎症性因子のレベルが、SARS-CoV-2のみを取り込んだマクロファージと比較して有意に低下したことを示した。図8Bは、MPで処置されたマウスの肺組織におけるTNF-α、IL-1β、及びIL-6炎症性因子のレベルが有意に下方調節されたことを示した。
【0073】
要約すると、本願の技術的解決法は以下の効果を有する。
【0074】
1.本願において提供されるA549細胞由来の微小粒子(MP)は、SARS-CoV-2ウイルスを吸着し、肺胞マクロファージがSARS-CoV-2を除去する能力を増強させる、その特徴を利用して、新規な従来にはない処置戦略として、SARS-CoV-2感染を処置するために使用される。
【0075】
2.ウイルス感染の後、MPの気管内注入によって、微小粒子の表面上に存在するACE2は、SARS-CoV-2の表面Sタンパク質に結合し、ウイルス粒子を吸着することができ、これによって、体内でのウイルスの更なる拡散を制限する。ウイルスを担持する微小粒子はマクロファージによって効率的に取り込まれ、リソソームに送達される。MPは、リソソームのpH値を調整することによって、マクロファージがSARS-CoV-2を排除する能力を増強させ、これによって、COVID-19の臨床的処置を達成する。MPは、こうして、COVID-19患者の死亡率を効果的に低減させることができ、良好な臨床適用の展望を有する。
【0076】
3.本願の微小粒子は細胞に由来し、例えば、高い生体適合性、低い免疫原性、標的化能力等の特徴を有し、その結果、安全性が高く、毒性も副作用もない。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
【国際調査報告】