(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-17
(54)【発明の名称】組換えタンパク質の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20240410BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240410BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569665
(86)(22)【出願日】2022-05-09
(85)【翻訳文提出日】2024-01-05
(86)【国際出願番号】 EP2022062469
(87)【国際公開番号】W WO2022238321
(87)【国際公開日】2022-11-17
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514232085
【氏名又は名称】ユーシービー バイオファルマ エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン、ジェフリー ノーマン
(72)【発明者】
【氏名】デイビス、リチャード バリー
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CC09
4B064CC15
4B064CC24
4B064CD02
4B064DA01
(57)【要約】
本発明は、細菌宿主細胞におけるタンパク質の組換え生産の分野に関する。特に、本発明は、組換えタンパク質の生産のために細菌宿主細胞を培養する方法であって、生産相中に添加されるマグネシウムの量を特定の範囲内に保つことによって、ストルバイトの形成が低減される方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えタンパク質を生産するための方法であって、
a)誘導時に組換えタンパク質を生産することができる細菌宿主細胞を提供する工程と、
b)一定量の液体培地を提供する工程と、
c)該液体培地中で該細菌宿主細胞を培養する工程と、
d)組換えタンパク質の生産を誘導する工程と、
e)該細菌宿主細胞を液体培地中でさらに培養して、組換えタンパク質を生産する工程と、
を含み、
方法全体にわたり、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gのマグネシウムの総量が提供され、かつ
マグネシウムの総量が、工程(b)の開始から工程(e)の終了までの培養中に段階的に提供される、上記方法。
【請求項2】
細菌宿主細胞における組換えタンパク質の生産中に、ストルバイト形成を低減するか、又はストルバイト形成のリスクを低減するための方法であって、
a)誘導時に組換えタンパク質を生産することができる細菌宿主細胞を提供する工程と、
b)一定量の液体培地を提供する工程と、
c)該液体培地中で該細菌宿主細胞を培養する工程と、
d)組換えタンパク質の生産を誘導する工程と、
e)該細菌宿主細胞を液体培地中でさらに培養して、組換えタンパク質を生産する工程と、
を含み、
方法全体にわたり、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gのマグネシウムの総量が提供され、かつ
マグネシウムの総量が、工程(b)の開始から工程(e)の終了までの培養中に段階的に提供される、上記方法。
【請求項3】
提供されるマグネシウムの総量のうち、第1の量のマグネシウムが工程(b)の液体培地中に存在し、第2の量のマグネシウムが工程(c)の間に補充として添加され、かつ第3の量のマグネシウムが工程(e)の間に補充として添加される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(c)が、培養物を少なくとも35のOD600まで増殖させることを含む、請求項1、2又は3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(d)が、溶存酸素が培養物中の空気飽和度の50%以上に増加したときに開始される、請求項1、2、3又は4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)の間に添加されるマグネシウム補充物が、工程(b)の液体培地のkgあたり0.04~0.22gのマグネシウムの総量の添加を含む、請求項1、2、3、4又は5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(c)が、
i)細菌宿主細胞を培養する工程と、
ii)OD600が20~55である場合、工程(b)の液体培地のkgあたり0.03g~0.12gのマグネシウムに相当するマグネシウム補充物を添加する工程と、
iii)溶存酸素が空気飽和度の50%以上に増加するまで細菌宿主細胞を培養する工程と、
iv)工程(b)の液体培地のkgあたりマグネシウム0.01g~0.10gの総量を添加し、かつ培養物のOD600が、工程(ii)で述べたOD600よりも少なくとも20単位増加するまで宿主細胞を培養する工程と
を含む、請求項1、2、3、5又は6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(e)の間に補充として添加されるマグネシウムの総量が、工程(b)の液体培地のkgあたり0.02~0.08である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
マグネシウムが塩の形態で添加され、好ましくはマグネシウム塩が硫酸マグネシウム又は塩化マグネシウムを含むか又はそれからなる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
細菌宿主細胞が大腸菌(E.coli)細胞である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(c)の培養物のpHが6~8であり、及び/又は工程(e)の培養物のpHが6~8である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(e)の持続時間が10~96時間である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
組換えタンパク質を回収する工程を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
組換えタンパク質を精製する工程と、場合により、組換えタンパク質を製剤化するさらなる工程とをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工業規模の方法である、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程(e)が、100L以上の体積を有するバイオリアクター内で行われる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌宿主細胞におけるタンパク質の組換え生産の分野に関する。特に、本発明は、組換えタンパク質の生産のために細菌宿主細胞を培養する方法であって、ストルバイトの形成が低減される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医学の分野では、抗体又は抗体由来分子などの生物学的実体の使用が絶えず存在及び重要性を増している。これにより、制御された製造方法の必要性が生じている。医療用途のためのタンパク質の商業化により、それらを大量に生産されることが必要となり、所望のタンパク質を発現する組換え宿主細胞の培養及びそれらの処理を改善することに多くの努力が注がれてきた。これにより、生成物の力価が増加したが、結果として、より多量のバイオマス/破片及び汚染物質も細胞培養レベルで観察される。そのような汚染物質の除去は労力を要し得るので、望ましくない汚染物質の形成を最小化するように方法を最適化することが好ましい。
【0003】
ストルバイトは、式NH4MgPO4・6H2Oを有するホスファート材料である。ストルバイトは、高濃度のマグネシウム、アンモニウム及びホスファートの存在下で形成することができる。ストルバイト形成は、廃水処理プラントでしばしば起こる(例えば、Kim他、2007を参照のこと)。ストルバイト形成は、細菌発酵中にも起こり得る(Beavon 1962)。ストルバイト形成は、宿主細胞からの組換えタンパク質の精製、特に組換えタンパク質の工業規模の製造において問題となる望ましくない沈殿物の形成及び/又は膜汚染をもたらし得る。
【0004】
例えば廃水からの廃棄物の除去又は栄養素の回収のためのストルバイト沈殿の使用は広く研究されているが、組換えタンパク質生産のための宿主細胞の培養中のストルバイトの形成に関して、良好な細胞増殖及びタンパク質生産をなお維持しながら、ストルバイト形成を防止又は最小化する方法はほとんど報告されていない。
【0005】
これは、本発明によって対処される。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様では、本発明は、組換えタンパク質を生産するための方法であって、
a)誘導時に組換えタンパク質を生産することができる細菌宿主細胞を提供する工程と、
b)一定量の液体培地を提供する工程と、
c)液体培地中で細菌宿主細胞を培養する工程と、
d)組換えタンパク質の生産を誘導する工程と、
e)細菌宿主細胞を液体培地中でさらに培養して、組換えタンパク質を生産する工程と
を含み、
方法全体について、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gのマグネシウムの総量が提供され、
マグネシウムの総量が、工程(b)の開始から工程(e)の終了までの培養中に段階的に提供される、上記方法に関する。
さらなる態様では、本発明は、細菌宿主細胞における組換えタンパク質の生産中に、ストルバイト形成を低減するか、又はストルバイト形成のリスクを低減するための方法であって、
a)誘導時に組換えタンパク質を生産することができる細菌宿主細胞を提供する工程と、
b)一定量の液体培地を提供する工程と、
c)液体培地中で細菌宿主細胞を培養する工程と、
d)組換えタンパク質の生産を誘導する工程と、
e)細菌宿主細胞を液体培地中でさらに培養して、組換えタンパク質を生産する工程と、
を含み、
方法全体について、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gのマグネシウムの総量が提供され、
マグネシウムの総量が、工程(b)の開始から工程(e)の終了までの培養中に段階的に提供される、上記方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
発明の詳細な説明
本発明は、組換えタンパク質を生産するために細胞を培養する方法に関する。本発明者らは、驚くべきことに、発酵中のマグネシウムの濃度が臨界レベル未満に維持されるように、発酵中にマグネシウムを細胞培養培地に段階的に添加すると、良好な細胞増殖及び組換えタンパク質生産を維持しながら、ストルバイト沈殿物の形成のリスクが有意に低減することを見出した。初期培地中のマグネシウム濃度に応じて、培養方法の生産相中に添加されるマグネシウムの総量は、良好な培養性能を維持しながら、ストルバイト沈殿物の形成のリスクを低減するために特定の範囲内に維持されるべきである。
図1は、本発明による実施形態の非限定的な概略図である。
【0008】
したがって、第1の実施形態では、本発明は、組換えタンパク質を生産するための方法であって、
a)誘導時に組換えタンパク質を生産することができる細菌宿主細胞を提供する工程と、
b)一定量の液体培地を提供する工程と、
c)液体培地中で細菌宿主細胞を培養する工程と、
d)組換えタンパク質の生産を誘導する工程と、
e)細菌宿主細胞を液体培地中でさらに培養して、組換えタンパク質を生産する工程と、
を含み、
方法全体について、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gのマグネシウムの総量が提供され、
マグネシウムの総量が、工程(b)の開始から工程(e)の終了までの培養中に段階的に提供される、上記方法に関する。
【0009】
第2の実施形態では、本発明は、細菌宿主細胞における組換えタンパク質の生産中に、ストルバイト形成を低減するか、又はストルバイト形成のリスクを低減するための方法であって、
a)誘導時に組換えタンパク質を生産することができる細菌宿主細胞を提供する工程と、
b)一定量の液体培地を提供する工程と、
c)液体培地中で細菌宿主細胞を培養する工程と、
d)組換えタンパク質の生産を誘導する工程と、
e)細菌宿主細胞を液体培地中でさらに培養して、組換えタンパク質を生産する工程と、
を含み、
方法全体について、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gのマグネシウムの総量が提供され、
マグネシウムの総量が、工程(b)の開始から工程(e)の終了までの培養中に段階的に提供される、上記方法に関する。
【0010】
第3の実施形態では、本発明は、0.17g~0.28gのマグネシウムの総量が、工程(b)の開始時から工程(e)の終了時までの培養中に3段階又は4段階以上で添加される、第1及び第2の実施形態による組換えタンパク質を生産するための方法に関する。
【0011】
第4の実施形態では、本発明は、組換えタンパク質を生産するための方法であって、
a)誘導時に組換えタンパク質を生産することができる細菌宿主細胞を提供する工程と、
b)一定量の液体培地を提供する工程と、
c)液体培地中で細菌宿主細胞を培養する工程と、
d)組換えタンパク質の生産を誘導する工程と、
e)細菌宿主細胞を液体培地中でさらに培養して、組換えタンパク質を生産する工程と、
を含み、
方法全体について、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gのマグネシウムの総量が提供され、
提供されるマグネシウムの総量のうち、第1の量のマグネシウムが工程(b)の液体培地中にあり、第2の量のマグネシウムが工程(c)の間に補充として添加され、第3の量のマグネシウムが工程(e)の間に補充として添加される、上記方法に関する。
【0012】
第5の実施形態では、本発明は、細菌宿主細胞における組換えタンパク質の生産中に、ストルバイト形成を低減するか、又はストルバイト形成のリスクを低減するための方法であって、
a)誘導時に組換えタンパク質を生産することができる細菌宿主細胞を提供する工程と、
b)一定量の液体培地を提供する工程と、
c)液体培地中で細菌宿主細胞を培養する工程と、
d)組換えタンパク質の生産を誘導する工程と、
e)細菌宿主細胞を液体培地中でさらに培養して、組換えタンパク質を生産する工程と、
を含み、
方法全体について、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gのマグネシウムの総量が提供され、
提供されるマグネシウムの総量のうち、第1の量のマグネシウムが工程(b)の液体培地中にあり、第2の量のマグネシウムが工程(c)の間に補充として添加され、第3の量のマグネシウムが工程(e)の間に補充として添加される、上記方法に関する。
【0013】
第6の実施形態では、第1から第5の実施形態のいずれかによる方法のために提供されるマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.18g~0.27g、又は工程(b)の液体培地のkgあたり0.19g~0.26gである。さらなる実施形態では、本発明の実施形態のいずれかによる方法のために提供されるマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり約0.17、約0.18、約0.19、約0.20、約0.21、約0.22、約0.23、約0.24、約0.25、約0.26及び約0.27g(並びにその任意の中間値)である。
【0014】
第7の実施形態では、第1から第6の実施形態のいずれかによる方法における工程(c)は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.04~0.22gの第2の量のマグネシウムの添加を含む。さらなる非限定的な実施形態として、工程(c)は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.06~0.20gの第2の量のマグネシウムの添加を含む。追加の非限定的な実施形態として、工程(c)は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.08~0.18gの第2の量のマグネシウムの添加を含む。他の非限定的な実施形態では、工程(c)は、工程(b)の液体培地のkgあたり約0.06、約0.07、約0.08、約0.09、約0.10、約0.11、約0.12、約0.13、約0.14、約0.15、約0.16、約0.17又は0.18g(並びにその任意の中間値)の第2の量のマグネシウムの添加を含む。本発明による方法の実施形態のいずれにおいても、工程(c)の間に第2の量として添加されるマグネシウムは、例えば、ボーラス量(すなわち、一度に添加される単回用量)として添加されてもよく、及び/又はフェドバッチ相の供給物の一部として添加されてもよい。
【0015】
本明細書に記載される実施形態のいずれかによる方法の一実施形態では、工程(c)は、バッチ相とそれに続くフェドバッチ相とからなり、バッチ相の間にマグネシウムのボーラスが添加され、フェドバッチ相の間に追加のマグネシウムが添加される。
【0016】
第8の実施形態では、第1から第7の実施形態のいずれかによる方法に提供されるアンモニウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり少なくとも2gのアンモニウムであるが、好ましくは20g以下、例えば4~20g、5~15g又は6~12gのアンモニウムである。
【0017】
第9の実施形態では、第1から第8の実施形態のいずれかによる方法に提供されるホスファートの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり少なくとも1gのホスファートであるが、好ましくは20g以下、例えば3~15g、例えば5~12g又は5~10gのホスファートである。
【0018】
第1から第8の実施形態のいずれかによる方法の工程(a)の細菌宿主細胞は、誘導時に組換えタンパク質を生産することができる。本発明の文脈で全体として使用される細菌宿主細胞は、タンパク質の組換え生産に適しており、指定された条件下で増殖することができる任意の適切な細菌宿主細胞であり得る。好ましい実施形態では、細菌宿主細胞は大腸菌(E.coli)細胞又はバチルス(Bacillus)細胞である。より好ましい実施形態では、宿主細胞は、大腸菌(E.coli)宿主細胞、例えばK12、HB101、B7、RV308、DH1、HMS174、W3110若しくはBL21株の大腸菌(E.coli)宿主細胞、又はプロテアーゼ欠損の大腸菌(E.coli)株である。典型的には、誘導性プロモーターの制御下で組換えタンパク質をコードする核酸配列が細菌宿主細胞に導入されている。そのような核酸構築物を宿主細胞に発現させるための適切なベクター、及び宿主細胞の形質転換又はトランスフェクションのための方法は、当技術分野で周知である。適切な誘導性プロモーターも当技術分野で周知であり、いくつかの非限定的な例を本明細書で以下に述べる。
【0019】
第1から第9の実施形態のいずれかによる方法の工程(c)において、細菌宿主細胞は液体培地中で培養される。様々なタイプの細菌宿主細胞を培養するための方法及び培地は、当技術分野で周知である。培地は生物によって異なるが、典型的には、炭素源、窒素源、リン源、必須金属イオン及び場合により微量元素などの成分を含む(最小培地)。それらは、アミノ酸及びビタミンなどのさらなる成分をさらに含み得る(富栄養培地、例えば、Elbing他、2019を参照のこと)。本発明の実施形態のいずれかによる方法の工程(c)は、典型的には、バイオリアクター内でのフェドバッチ培養を含む。フェドバッチ相の前にバッチ相があってもよい。接種は、ワーキングセルバンクから直接又はシード培養物を介して、例えば振盪フラスコ内で行われ得る。本発明の実施形態のいずれかによる方法の工程(c)の主な目的は、その後のタンパク質生産相に十分なバイオマスを得ることである。一実施形態では、工程(c)は、培養物を少なくとも20、例えば少なくとも25、少なくとも35、少なくとも50、少なくとも55、少なくとも60、少なくとも70、又は少なくとも80のOD600(600nmの波長での光学密度)まで、好ましくは20~80、より好ましくは20~55又は25~50のOD600まで増殖させることを含む。
【0020】
細菌宿主細胞培養物へのマグネシウムの添加は、一般に、増殖を促進する。マグネシウムは、膜リン脂質、リポ多糖、DNA及びRNAのようなポリリン酸化合物、並びにリボソームの安定化への関与を含む、細胞における多くの役割を有する。マグネシウムはまた、ATPを生物学的に活性にするために必要であり、直接的又は間接的な機構のいずれかを介して特定の酵素反応の触媒に関与する。本発明の文脈では、最適な増殖及び生存率のために十分なマグネシウムを添加すべきであるが、マグネシウムレベルは、ストルバイト形成を回避又は最小化するために特定の閾値濃度を超えるべきではない。したがって、本発明によれば、マグネシウムは発酵方法中に段階的に添加する必要がある。マグネシウムは、典型的には、マグネシウム塩の形態で添加される。
【0021】
第10の実施形態では、本発明は、組換えタンパク質を生産するための方法であって、
a)誘導時に組換えタンパク質を生産することができる細菌宿主細胞を提供する工程と、
b)一定量の液体培地を提供する工程と、
c)液体培地中で細菌宿主細胞を培養する工程と、
i)OD600が20~55である場合にマグネシウムのボーラスを添加する工程と、
ii)細菌宿主細胞をさらに培養し、それによって溶存酸素(DO)が空気飽和度の50%以上に増加するまでODを増加させる工程と、
iii)さらなるマグネシウムを添加し、OD600が工程(c)(i)で述べたOD600よりも少なくとも15、20、25、35、40又は50単位、好ましくは15~50単位、より好ましくは20~40単位増加するまで宿主細胞を培養する工程と、
d)組換えタンパク質の生産を誘導する工程と、
e)細菌宿主細胞を液体培地中でさらに培養して、組換えタンパク質を生産する工程と、
を含み、
方法全体について、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gのマグネシウムの総量が提供され、
マグネシウムの総量が、工程(b)の開始から工程(e)の終了までの培養中に段階的に提供される、上記方法に関する。
【0022】
第11の実施形態では、本発明は、細菌宿主細胞における組換えタンパク質の生産中に、ストルバイト形成を低減するか、又はストルバイト形成のリスクを低減するための方法であって、
a)誘導時に組換えタンパク質を生産することができる細菌宿主細胞を提供する工程と、
b)一定量の液体培地を提供する工程と、
c)液体培地中で細菌宿主細胞をOD600まで培養する工程と、
i)OD600が20~55である場合にマグネシウムのボーラスを添加する工程と、
ii)細菌宿主細胞をさらに培養し、それによって溶存酸素(DO)が空気飽和度の50%以上に増加するまでODを増加させる工程と、
iii)さらなるマグネシウムを添加し、OD600が工程(c)(i)で述べたOD600よりも少なくとも15、20、25、35、40又は50単位、好ましくは15~50単位、より好ましくは20~40単位増加するまで宿主細胞を培養する工程と、
d)組換えタンパク質の生産を誘導する工程と、
e)細菌宿主細胞を液体培地中でさらに培養して、組換えタンパク質を生産する工程と、
を含み、
方法全体について、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gのマグネシウムの総量が提供され、
マグネシウムの総量が、工程(b)の開始から工程(e)の終了までの培養中に段階的に提供される、上記方法に関する。
【0023】
DOの増加は炭素源の枯渇に関連することは周知である。
【0024】
非限定的な実施形態として、マグネシウムは、工程(b)の液体培地のkgあたり0.03g~0.12gの量で本方法の工程(c)(i)においてボーラスとして添加することができ、工程(c)(iii)において補充として添加されるマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.01g~0.10gのマグネシウムに相当し得る。さらなる非限定的な実施形態として、マグネシウムは、工程(b)の液体培地のkgあたり0.04g~0.11gの量で工程(c)(i)においてボーラスとして添加することができ、工程(c)(iii)において補充として添加されるマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.02g~0.09gのマグネシウムに相当し得る。追加の非限定的な実施形態として、マグネシウムは、工程(b)の液体培地のkgあたり0.05g~0.10gの量で工程(c)(i)においてボーラスとして添加することができ、工程(c)(iii)において補充として添加されるマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.02g~0.08gのマグネシウムに相当し得る。いくつかの非限定的な実施形態では、マグネシウムは、工程(c)(i)において、工程(b)の液体培地のkgあたり約0.03、約0.04、約0.05、約0.06、約0.07、約0.08、約0.09、約0.10、約0.11又は約0.12gのマグネシウム(並びにその任意の中間値)でボーラスとして添加することができ、工程(c)(iii)において補充として添加されるマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり約0.01、0.02、0.03、約0.04、約0.05、約0.06、約0.07、約0.08、約0.09、約0.10のマグネシウム(並びにその任意の中間値)に相当し得る。
【0025】
別の実施形態では、工程(c)(iii)で補充として添加されたマグネシウムは、主供給物(すなわち、炭素源を含む供給物)の一部として添加される。或いは、マグネシウムは、補助供給物として添加されてもよく、主供給物と同時に又は別個に添加されてもよい。供給物は、断続的な供給物又は連続的な(中断されない)供給物であり得る。
【0026】
一実施形態では、工程(d)は、DOが培養物中の空気飽和の50%まで増加したとき、又は工程(c)(iii)で定義された所定のOD600に達したときに開始される。DOは、オンラインポーラログラフ式溶存酸素センサ、光学的溶存酸素センサ、又は任意の他の適切な酸素検知技術などの任意の標準的な手段によって測定することができる。
【0027】
本方法の工程(d)において、組換えタンパク質の生産が誘導される。一実施形態では、工程(d)の前には組換えタンパク質が生産されないか、又は有意に生産されない。
【0028】
組換えタンパク質の生産の誘導は、任意の適切な方法によって達成することができる。一実施形態では、組換えタンパク質をコードする遺伝子は、誘導性プロモーターの制御下にある。多数のこのような誘導性プロモーターが当技術分野で公知である。誘導性プロモーターを使用する周知の細菌発現系は、組換えタンパク質をコードする遺伝子が、IPTG(イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド)によって誘導することができるlac型プロモーターの制御下に置かれる系である。他の公知の細菌発現系としては、例えば、araBADプロモーター系(例えば、Guzman他、1995を参照のこと)又はT7/lac系(例えば、Rosenberg他、1987を参照のこと)が挙げられる。これら及び他のシステムは、例えば、Rosano及びCeccarelli(2014)で概説されている。
【0029】
本発明の方法の一実施形態では、細菌宿主細胞は、IPTG誘導性プロモーターの制御下で組換えタンパク質をコードする核酸配列を含み、したがってIPTGで誘導すると組換えタンパク質を生産する。そのような実施形態では、方法の工程(d)は、IPTGの添加を含む。或いは、細菌宿主細胞は、例えば、アラビノース誘導性プロモーター(例えば、araBADプロモーター)、トリプトファン誘導性プロモーター(例えばtrpプロモーター)又はホスファート誘導性プロモーター(例えば、phoAプロモーター)の制御下で組換えタンパク質をコードする核酸配列を含み、したがって、それぞれアラビノース、トリプトファン又はホスファートで誘導されると組換えタンパク質を生産し得る。そのような実施形態では、工程c)は、アラビノース、トリプトファン又はホスファートの添加を含む。
【0030】
本発明の方法の工程(e)において、細菌宿主細胞は、組換えタンパク質を生産するために培養されている。
【0031】
工程(e)は、典型的には、バイオリアクターにおけるフェドバッチ培養を含む。一実施形態では、本発明の実施形態のいずれかによる方法の工程(e)の持続時間は、約10~約96時間、例えば約12~約72時間、例えば約15~約55時間、例えば1~約8~約50時間である。
【0032】
本発明の実施形態のいずれかによる方法の非限定的な実施形態では、方法の工程(e)の間に補充として添加されるマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.02g~0.08gである。本発明の実施形態のいずれかによる方法のさらなる非限定的な実施形態では、工程(e)の間に補充として添加されるマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.02g~0.07gである。追加の非限定的な実施形態では、工程(e)の間に補充として添加されるマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.03~0.06である。いくつかの特定の非限定的な例では、本発明の実施形態のいずれかによる方法の工程(e)の間に補充として添加されるマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり約0.02、約0.03、約0.04、約0.05、約0.06、約0.07又は約0.08g(並びにその任意の中間値)である。
【0033】
本発明によれば、ストルバイト沈殿を低減又は防止するために、方法に提供されるマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gである。液体培地中のマグネシウムが欠乏しているか又は非常に少ない場合、方法中に添加されるマグネシウムの総量[すなわち、工程(c)及び(e)]は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.17g~0.28gであり得る。一般的に使用されるほとんどの液体培地はマグネシウムを含むので、工程(c)及び(e)で添加されるマグネシウムの総量は、液体培地中のマグネシウムの含有量に依存するため、適合させる必要がある。液体培地のレシピは周知である。例えば、当業者は、M9最小培地が約0.002g/kgのマグネシウムを含むのに対して、Durany培地が約0.01g/kgのマグネシウムを含むことを知っているであろう。非限定的な実施形態として、マグネシウムの総量が工程(b)の液体培地の0.20g/kgを目標とする場合、M9最小培地から始めて、当業者は、例えば0.1g/kgのボーラス、0.05g/kgを提供する指数関数的供給物、及び0.048g/kgを提供する生産相供給物を添加することによって、工程(c)及び(e)の間に合計0.198gのマグネシウム/kgの液体培地を添加することができる。さらなる非限定的な実施形態では、マグネシウムの総量が液体培地0.18g/kgを目標とする場合、Durany最小培地から始めて、当業者は、例えば0.1g/kgのボーラス、0.025g/kgを提供する指数関数的供給物、及び0.045g/kgを提供する生産相供給物を添加することによって、工程(c)及び(e)の間に合計0.17gのマグネシウム/kgの液体培地を添加することができる。
【0034】
さらなる実施形態では、炭素源を含有する供給物(本明細書では「主供給物」とも呼ばれる)が、本発明の方法の開始工程(c)(iii)に添加される。好ましくは、供給速度を低下させることによって、又は供給物中の炭素源の濃度を低下させることによって、単位時間あたりに培養物に添加される炭素源の量は、工程(c)(iii)よりも工程(e)において少ない。
【0035】
本明細書に記載されるように、本発明の方法は、マグネシウム塩などのマグネシウム源の存在下で細菌宿主細胞を培養することを含む。
【0036】
上述のように、マグネシウムは、微生物及び動物細胞の増殖及び代謝機能において重要な役割を果たし、細胞培養及び発酵培地におけるMg2+の利用可能性は、細胞の増殖及び代謝に劇的に影響を及ぼし得る。
【0037】
本発明で提供されるマグネシウム塩は、マグネシウム塩の混合物又は単一のマグネシウム塩からなり得る。微生物若しくは動物細胞の増殖に適した任意のマグネシウム塩、例えば、限定されないが、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム又はさらにホウ化マグネシウムなどが、それら自体又はそれらの水和物形態のいずれかの下で使用され得る。一実施形態では、提供されるマグネシウム塩は、有意な量のリン酸マグネシウムを含まない。好ましくは、マグネシウム塩は、マグネシウムとホスファートとのいかなる塩も含まない。好ましい実施形態では、マグネシウム塩は、硫酸マグネシウム又は塩化マグネシウムを、それ自体又はそれらの水和物形態のいずれかの下で含むか又はそれからなる。
【0038】
液体培地は、(限定されないが)M9、M63、Durany、LB、TNT又はそれらの誘導培地(例えば、Elbing他、2019を参照のこと)などの最小培地又は富栄養培地であり得る。
【0039】
液体培地は、典型的にはマグネシウムを含む。一実施形態では、本発明の方法の工程(b)の液体培地は、液体培地のkgあたり0.001g~0.25gのマグネシウム、例えば本発明の実施形態のいずれかによる方法の工程(b)の液体培地のkgあたり0.01g~0.25g、0.02~0.25g、0.02~0.2g、0.02~0.1、例えば(約)0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08又は0.09gのマグネシウムの総量を含む。
【0040】
液体培地は、典型的にはアンモニウムも含む。アンモニウム塩は、窒素の重要な供給源である。増殖又は微生物又は動物細胞に適した任意のアンモニウム塩又はアンモニウム塩の混合物を使用してもよく、限定されないが、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、塩化アンモニウム及び炭酸アンモニウムが挙げられる。好ましくは、アンモニウム塩は、アンモニウムとホスファートとの塩を含まない。一実施形態では、本方法のために提供されるアンモニウムの総量は、本発明の方法の工程(b)の液体培地のkgあたり少なくとも約2gのアンモニウムであるが、好ましくは、工程(b)の液体培地のkgあたり20g以下、例えば4~20g、5~15g又は6~12g、例えば(約)6.0、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5又は12gのアンモニウムである。
【0041】
工程(b)の液体培地は、典型的にはホスファートも含む。一実施形態では、液体培地は、工程(b)の液体培地のkgあたり少なくとも1gのホスファートに相当するが、好ましくは20g/kg以下、例えば3~15g/kg又は5~12g/kg、例えば1kgあたり約5、6、7、8、9、10、11又は12gのホスファートを含む。
【0042】
本発明の方法は、典型的には、1つ以上の有機炭素源の添加を含む。使用される炭素源は、単一の種類の炭素源又は異なる炭素源の混合物であってもよい。適切な炭素源としては、例えば、グルコース、ラクトース、アラビノース、グリセロール、ソルビトール、ガラクトース、キシロース又はマンノースが挙げられる。一例として、工程b)の培養培地中の炭素源の75%超、例えば少なくとも90%がグリセロールからなる。別の好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(e)の培養培地中の炭素源の75%超、例えば少なくとも90%がグリセロールからなる。別の例として、工程(c)の培養培地中の炭素源の75%超、例えば少なくとも90%がグルコースからなる。別の好ましい実施形態では、工程(e)の培養培地中の炭素源の75%超、例えば少なくとも90%がグルコースからなる。さらなる例として、工程(c)の培養培地中の炭素源の75%超、例えば少なくとも90%がラクトースからなる。別の好ましい実施形態では、工程(e)の培養培地中の炭素源の75%超、例えば少なくとも90%がラクトースからなる。
【0043】
ストルバイトの形成は、pHに影響されると記載されている(例えば、Perez-Garcia他、1989を参照のこと)。本発明の方法の一実施形態では、本発明の実施形態のいずれかによる方法の工程(c)の培養物のpHは、6.5超、例えば6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2であり、工程(e)の培養物のpHは、6.5超、例えば6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2である。別の実施形態では、工程(c)のpHは6~8、例えば6.5~7.5、例えば6.6~7.4、例えば6.7~7.3、例えば6.8~7.2であり、工程(e)のpHは6~8、例えば6.5~7.5、例えば6.6~7.4、例えば6.7~7.3、例えば6.8~7.2である。温度は、典型的には、完全な発酵方法を通して可能な限り一定に保たれる。
【0044】
本発明の方法で生産される組換えタンパク質は、典型的には、別の生物に由来する異種タンパク質である。例えば、組換えタンパク質は、抗体、サイトカイン、増殖因子、ホルモン又は他のペプチド若しくはポリペプチドであり得る。
【0045】
好ましい実施形態では、組換えタンパク質は抗体である。本明細書で使用される「抗体」という用語は、当技術分野で公知の組換え技術によって生成されるモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体及び組換え抗体を含むが、これらに限定されない。「抗体」には、任意の種、特に哺乳動物種の抗体、例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE、IgDを含む任意のアイソタイプのヒト抗体、及びIgGA1、IgGA2を含むこの基本構造の二量体として生産される抗体、又はIgMなどの五量体及びその改変変異体、例えば、チンパンジー、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザル由来の非ヒト霊長類抗体、例えばマウス又はラット由来の齧歯類抗体、ウサギ、ヤギ又はウマの抗体、ラクダ科動物抗体(例えば、Nanobodies(商標)などのラクダ又はラマからのもの)及びその誘導体、ニワトリ抗体等の鳥類の抗体、又はサメ抗体などの魚種の抗体が含まれる。「抗体」という用語はまた、少なくとも1つの重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第1の部分が第1の種に由来し、重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第2の部分が第2の種に由来する「キメラ」抗体を指す。本明細書における目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザルなどの旧世界サル)に由来する可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体が含まれる。「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体に由来する配列を含有するキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が、所望の特異性、親和性及び活性を有する、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域[又は相補性決定領域(CDR)]からの残基で置き換えられたヒト抗体(レシピエント抗体)である。ほとんどの場合、CDR外の、すなわちフレームワーク領域(FR)におけるヒト(レシピエント)抗体の残基は、対応する非ヒト残基によってさらに置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体特性をさらに改良するために行われる。ヒト化は、ヒトにおける非ヒト抗体の免疫原性を低減し、したがって、ヒト疾患の治療への抗体の適用を容易にする。ヒト化抗体及びそれらを生成するためのいくつかの異なる技術は、当技術分野で周知である。「抗体」という用語はまた、ヒト化の代替として生成することができるヒト抗体を指す。例えば、免疫化すると、内因性マウス抗体の生産の非存在下でヒト抗体の完全なレパートリーを生産することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を生産することが可能である。インビトロでヒト抗体/抗体断片を得るための他の方法は、ファージディスプレイ又はリボソームディスプレイ技術などのディスプレイ技術に基づいており、少なくとも部分的に人工的に又はドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから生成される組換えDNAライブラリーが使用される。ヒト抗体を作製するためのファージ及びリボソームディスプレイ技術は、当技術分野で周知である。ヒト抗体はまた、目的の抗原でエクスビボ免疫され、続いて融合されてハイブリドーマを生成し、次いでこれを最適なヒト抗体についてスクリーニングすることができる単離されたヒトB細胞から生成され得る。「抗体」という用語は、グリコシル化抗体と非グリコシル化抗体の両方を指す。さらに、本明細書で使用される「抗体」という用語は、完全長抗体を指すだけでなく、抗体断片も指す。抗体の断片は、当該分野で公知の少なくとも1つの重鎖又は軽鎖免疫グロブリンドメインを含み、1つ以上の抗原に結合する。本発明による抗体断片の例としては、Fab、修飾Fab、Fab’、修飾Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、scFv及びBis-scFv断片が挙げられる。断片はまた、ダイアボディ、トリボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、単一ドメイン抗体(dAb)、例えばsdAb、VL、VH、VHH又はラクダ科抗体(例えば、Nanobody(商標)などのラクダ又はラマから)及びVNAR断片であり得る。本発明による抗原結合断片はまた、1つ又は2つのscFv又はdsscFvに連結されたFabを含むことができ、各scFv又はdsscFvは同じ又は異なる標的(例えば、治療標的に結合する1つのscFv又はdsscFvと、例えばアルブミンに結合することによって半減期を延長する1つのscFv又はdsscFv)に結合する。そのような抗体断片の例は、FabdsscFv(BYbeとも呼ばれる)又はFab-(dsscFv)2(TrYbeとも呼ばれ、例えば国際公開第2015/197772号パンフレットを参照のこと)である。上で定義した抗体断片は、当技術分野で公知である。好ましい実施形態では、生産される組換えタンパク質はFab又はFab’断片である。
【0046】
本発明の実施形態のいずれかによる方法は、原則として、振盪フラスコ又はバイオリアクターなどの任意の適切な容器内で行うことができ、これは、例えば必要とされる生産規模に応じて、フェドバッチモードで操作されてもされなくてもよい。好ましい実施形態では、少なくとも工程(c)、(d)及び(e)は、バイオリアクター、好ましくは工業規模のバイオリアクターで行われる。バイオリアクターは、例えば、撹拌タンク又はエアリフト型リアクターであってもよい。バイオリアクターは、ガラス若しくは金属、例えばステンレス鋼で作られた再使用可能なリアクター、又はプラスチックなどの合成材料で作られた使い捨てバイオリアクターであってもよい。好ましい実施形態では、本発明の方法の少なくとも工程(e)は、100L以上、500L以上、1,000L以上、2,000L以上、5,000L以上、10,000L以上又は20,000L以上、1,000~30,000L、5,000~30,000L、10,000~30,000L、1,000~20,000L、5,000~20,000L、10,000~20,000L又は10,000~25,000Lの体積を有するバイオリアクターで行われる。好ましい実施形態では、工程(b)、(c)、(d)又は(e)において、培養物は、100L以上、500L以上、1,000L以上、2,000L以上、5,000L以上、10,000L以上又は20,000L以上、1,000~30,000L、5,000~30,000L、10,000~30,000L、1,000~20,000L、5,000~20,000L、10,000~20,000L又は10,000~25,000Lの体積を有する。さらに好ましい実施形態では、培養物は、工程(b)、(c)、(d)及び(e)の全てにおいて、培養物は、100L以上、500L以上、1,000L以上、2,000L以上、5,000L以上、10,000L以上又は20,000L以上、1,000~30,000L、5,000~30,000L、10,000~30,000L、1,000~20,000L、5,000~20,000L、10,000~20,000L又は10,000~25,000Lの体積を有する。
【0047】
本発明の方法は、工程(e)の後に1つ以上のさらなる工程を含み得る。例えば、方法は、組換えタンパク質を回収するさらなる工程を含み得、これは、最初に細胞を上清又は封入体から分離することを含み得る。回収されたら、組換えタンパク質を単離し、精製することができる。単離及び精製方法は当業者に周知である。それらは、典型的には、様々なクロマトグラフィー工程及び濾過工程の組み合わせからなる。本発明の方法は、組換えタンパク質を、医学的使用、例えば治療的又は予防的使用に適した医薬組成物に製剤化する工程をさらに含み得る。一実施形態では、組換えタンパク質は、医薬組成物に製剤化される前に、修飾される(例えば、別の分子にコンジュゲートされる)。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】本発明による方法の相の概略図である。バッチ相中、細胞は、浸漬型炭素源上で増殖される。規定のOD600に達したら、マグネシウムボーラスを添加する。バッチ処理された炭素源が枯渇すると、供給が開始され(指数関数的供給)、細胞は増殖し続ける。バッチ及び指数関数的供給相は、本明細書に記載の工程(c)に相当する。次いで、異種タンパク質の発現の誘導後[誘導剤添加-工程(d)に相当]、異種タンパク質が生産されている間[工程(e)に相当]、細胞を培養し続ける。
【
図2】
図2aは、ストルバイトが生成された発酵バイオリアクターから採取されたペレットを示す図であり(ストルバイトは、矢印によって示される白色スポットとして見ることができる)、
図2bは、ストルバイトが存在しない発酵からのものを示す図である。
【
図3】ボーラス中のマグネシウムのレベルを変えて実施した実験から発酵方法中に採取した上清試料中のマグネシウム濃度(工程(b)の液体培地のkgあたりのマグネシウムのグラム数)を示す図である。
【
図4】例4に記載の発酵方法中に採取した上清試料中のマグネシウム濃度を示す図である。
【実施例】
【0049】
材料及び方法
以下の例では、特に明記しない限り、方法は以下のように行われる。
【0050】
細胞の培養。抗体Aを発現する大腸菌(E.coli)W3110宿主細胞(8.8~9.3の範囲のpIを有するFab’断片)を含有する凍結セルバンクバイアルを使用して、6×ペプトン-酵母抽出物(6×P-Y)培地+テトラサイクリンを含有する振盪フラスコ(全体積700mL)に接種した。この振盪フラスコを30℃及び200~250rpmでインキュベートした。必要なOD範囲で、振盪フラスコを使用して、合成培地(Durany他、2004のMD培地から誘導され、約0.05g/kgのMgを含有する)+テトラサイクリンを含有するシード発酵槽(全体積20L)に炭素源を接種した。シード発酵槽内の細胞培養物を30℃に維持し、溶存酸素濃度(DO)を空気飽和度の20%超に維持し、pHを約7.0に制御した。必要なOD範囲で、シード培養物を使用して、シード発酵槽で使用したのと同じ合成培地を含有する生産発酵槽(175Lの液体培地)に接種した。生産発酵槽をシード発酵槽と同じ条件で維持し、炭素源が枯渇するまでバッチ相で増殖させた。この期間中、この代謝産物の枯渇を回避するためにMgSO4のボーラス添加を行った(全ての例を参照のこと)。バッチ相の終わり(測定されたDOのスパイクによって通知される)に、指数関数的炭素源供給(工程(b)の約0.06g/kgの液体培地のレベルでマグネシウムを含有するのスイッチを入れ、培養物に特定量の炭素源を供給して、50単位を超えるOD600を達成した。この時点で、炭素源供給を指数関数相供給から生産相供給に切り替え(全ての例を参照のこと)、IPTGの添加によって抗体Aの発現を誘導した。細胞(発現した抗体Aを含有する)を、誘導後40時間超後に回収した。
【0051】
ストルバイト分析。各サンプリング点について、3連の1mLのブロス培養物を2mlのエッペンドルフチューブで遠心分離し、上清を廃棄し、標準的な方法に従ってチューブを反転させることによって細胞ペレットを乾燥させた。ペレットを110℃のオーブンで24時間以上さらに乾燥させ、次いで、目視検査して、ストルバイトを有する(
図2aに示す)及びストルバイトを有しない(
図2bに示す)ペレットの参照画像と比較して、ストルバイトの存在を定性的に評価した。
【0052】
マグネシウム分析:Quantichrom Magnesium Assayキット(BioAssay Systems、カタログ番号DIMG-250)及びFLUOstar OPTIMAマイクロプレートリーダー(BMG LABTECH)を使用して、製造業者の指示に従って試料中のマグネシウムの濃度を決定した。
【0053】
DO測定。溶存酸素(DO)を、オンラインポーラログラフ式溶存酸素センサを使用して測定した。
【0054】
例1 方法A
発酵は上記のように行った。発酵中に試料を採取し、マグネシウムレベル並びにストルバイトの存在について分析した。ボーラス及び生産相供給を介して添加されるマグネシウムの量を以下の表に示す。
【表1】
【0055】
この例では、発酵方法(液体培地、ボーラス、指数関数的供給及び線形供給を介する)全体で細胞に供給されたマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり0.3g超であった。
【0056】
回収点で採取した試料から生じたペレット中にはストルバイトが明確に目視可能であり(データは示さず)、したがって、使用したボーラス及び供給物濃度は適切ではないと結論付けることができる。バイオリアクターにおけるストルバイト沈殿の欠点のために、方法を修正する必要があった。方法に提供されるマグネシウムのモル量は、ホスファート及びアンモニウムのそれぞれのモル量よりも少なくとも5倍低いので、ストルバイト沈殿が発酵方法に提供されるマグネシウムの総量(すなわち、液体培地中に含まれるマグネシウムの量に加えて、指数関数的供給物の添加及び生産相供給でボーラスとして添加されるマグネシウム)によって最も顕著に影響されるというのが本発明者らの仮説であった。
【0057】
例2 生産相供給物中のMgを減少させ、Mgボーラス量を変えることの効果
本発明者らは、液体培地の組成も指数関数的供給物の組成も変更することを意図していなかったので、ボーラスとして添加されたマグネシウム及び生産相供給物中のマグネシウムの効果を研究することにした。発酵は、材料及び方法の項に記載されているように行った。発酵中に試料を採取し、マグネシウムレベル並びにストルバイトの存在について分析した。生産相供給物中のマグネシウムの量は、3つの条件全てについて、約0.04g/工程(b)の液体培地のkgに設定した。これは、例1に記載の生産相供給物で使用される量の約半分である。ボーラスに添加されたマグネシウムのレベルは、以下の表に示すように変化させた。
【表2】
【0058】
この例では、発酵方法(液体培地、ボーラス、指数関数的供給及び線形供給を介する)全体で細胞に供給されたマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり約0.2~0.25gであった。
【0059】
図3は、生産相供給物及びボーラスで使用される量への適応が、発酵ブロス中の得られるマグネシウムレベルに予想される影響を及ぼしたことを示す。
【0060】
採取点で採取された試料から得られたペレットの目視検査は、評価された条件のいずれもがストルバイトの形成をもたらさなかったことを明確に示している。さらに、細胞増殖は影響を受けなかった(データは示さず)。
【0061】
例3 さらなるボーラス減少の影響
発酵は、材料及び方法の項に記載されるように行った。発酵中に試料を採取し、マグネシウムレベル並びにストルバイトの存在について分析した。ボーラス及び供給物に添加されたマグネシウムの濃度を以下の表に示す。
【表3】
【0062】
この例のボーラスで添加されるマグネシウム量は、例2で報告された研究の中間点と比較して83%減少する。発酵方法全体を通して細胞に供給されたマグネシウムの総量は、工程(b)の液体培地のkgあたり約0.16g未満であった。
【0063】
採取点で採取された試料から得られたペレットの目視検査は、これらの濃度がストルバイトの形成をもたらさなかったことを明確に示している(データは示さず)。
図4は、マグネシウム濃度が低レベルに低下し、かなりの時間低いままであり、これが細胞の増殖に悪影響を及ぼし、マグネシウムレベルのその後の増加をもたらしたことを示す(増殖の減少により、細胞は、供給物を介して添加されていたマグネシウムの多くを利用しなくなったため)。
【0064】
全体的な結論
培養に提供されるマグネシウムの総量を約0.17~約0.28g/工程(b)の液体培地のkgに維持し、マグネシウムを段階的に添加することによって、良好な培養性能を維持しながらストルバイト沈殿を低減又は回避できることは、本発明者らの驚くべき発見であった。
【0065】
【国際調査報告】