(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-17
(54)【発明の名称】電極及び電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/80 20060101AFI20240410BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240410BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
H01M4/80 C
H01M4/13
H01M4/66 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569738
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 EP2021062443
(87)【国際公開番号】W WO2022237967
(87)【国際公開日】2022-11-17
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513310818
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツア フェーデルンク デア ヴィッセンシャフテン エー.ファオ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ヤーンケ, ティモテウス
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ユェンジェン
(72)【発明者】
【氏名】ハックナー, マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】シュパッツ, ヨアヒム
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017CC25
5H017EE01
5H017EE04
5H017EE05
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5H050AA08
5H050AA12
5H050BA15
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5H050DA04
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5H050DA08
5H050FA13
5H050FA16
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA09
5H050HA17
(57)【要約】
本発明は、一価又は多価イオン電池用電極であって、互いに直接接触している金属繊維の三次元ネットワークと、活物質とを含み、上記金属繊維のネットワークが200μm~5mmの範囲の厚さを有する、電極に関する。さらに、本発明は、本発明の電極を含む電池、及び本発明の電池を含む電気自動車に関する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一価又は多価イオン電池用電極であって、
互いに直接接触している金属繊維の三次元ネットワークと、活物質とを含み、
上記金属繊維のネットワークが200μm~5mmの範囲の厚さを有する、電極。
【請求項2】
上記金属繊維の三次元ネットワークの厚さは、500μmを超える範囲、特に550μmを超える範囲、より特に600μmを超える範囲、さらに特に750μmを超える範囲である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
上記金属繊維のネットワークの導電率は、1×10
5S/m以上、特に5×10
5S/m以上、特に1×10
6S/m以上である、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
上記金属繊維の三次元ネットワーク中の金属繊維の体積分率は、0.075vol%以上、特に1.3vol%以上、特に2.0vol%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
上記三次元ネットワークの空隙率は、90vol%~99.5vol%の範囲、特に93vol%~99.4vol%の範囲、特に95vol%~99.0vol%の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
上記金属繊維の幅は100μm以下、厚さは50μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
上記金属繊維の空間的配向は不規則である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電極。
【請求項8】
上記金属繊維の空間的配向は少なくとも部分的に規則的である、請求項1~7のいずれか一項に記載の電極。
【請求項9】
接触点の密度は、1mm
-3~5000mm
-3、好ましくは3mm
-3~2000mm
-3、より好ましくは5mm
-3~500mm
-3の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載の電極。
【請求項10】
上記金属繊維は、上記金属繊維間の接触点で互いに直接焼結されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の電極。
【請求項11】
上記金属繊維は、銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、鉄、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、ケイ素、リチウム、マンガン、ホウ素、これらの組み合わせ、及びこれらの1つ以上を含む合金、例えばCuSn8、CuSi4、AlSi1、Ni、ステンレス鋼、Cu、Al、又はvitrovac合金のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の電極。
【請求項12】
上記金属繊維は銅又は銅合金からなる、請求項1~11のいずれか一項に記載の電極。
【請求項13】
上記金属繊維はアルミニウム又はアルミニウム合金からなる、請求項1~12のいずれか一項に記載の電極。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の電極を含む電池。
【請求項15】
上記電池は、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、カルシウムイオン電池、カリウムイオン電池、アルミニウムイオン電池、亜鉛イオン電池、デュアルイオン電池、特にリチウムイオン電池である、請求項14に記載の電池。
【請求項16】
上記電池は請求項1に記載の電極を1つ含み、上記金属繊維は銅又は銅合金からなる、請求項14又は15に記載の電池。
【請求項17】
上記電池は請求項1に記載の電極を1つ含み、上記金属繊維はアルミニウム又はアルミニウム合金からなる、請求項14~16のいずれか一項に記載の電池。
【請求項18】
請求項14~16のいずれか一項に記載の電池を含む電気機械。
【請求項19】
上記電池は上記電気機械の回路に電力を供給し、特に、上記電気機械の上記回路は、上記電気機械を駆動させるためのモーターに電力を供給する、請求項18に記載の電気機械。
【請求項20】
上記電気機械は電気自動車である、請求項17又は18に記載の電気機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一価又は多価イオン電池用電極に関する。さらに、本発明は該電極を含む電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の車やその他のモバイル機器等のモバイル用途の開発に伴い、大規模な電気化学エネルギー貯蔵デバイスの必要性がますます高まっている[1]。リチウムイオン電池(LIB)やその他の一価及び多価イオン電池のエネルギー密度を高める一つのアプローチは、電極の層厚を厚くして、セル中の不活性構成要素の数を減らすことである[2~4]。LIBについては、ドライコーティング[5,6]、焼結[7,8]、及び噴霧析出[9]等の実質的な成果によって、電極の厚さに関する劇的な改善が既にもたらされている。しかしながら、工業的な電極の厚さは、10mAh/cm2を超える容量が望まれるのに対し、依然として4mAh/cm2未満の面積容量に制限されている[10,11]。
【0003】
加えて、電極の厚さを厚くするためには、インターカレーション中に起こるプロセスの基本的な理解に関してさらなる調査がまだ必要である[12,13]。厚い電極では鈍重なイオン拡散動力学と低い速度性能が主な障害であることが既に知られている[4]。一価及び多価イオン電池、特にLIBにおいて起こる拡散プロセスは、粒内及び粒間の固体拡散と粒子間及び電極中の液体拡散とに分けられる。
【0004】
粒内固体拡散は、活物質自体でのLiイオンの拡散を意味し、粒間拡散は、一次粒子間、すなわち二次粒子内部で生じる拡散である[12]。Gaoら[12]は、電気インピーダンス分光法(EIS)及び定電流間欠滴定法(GITT)を用いて、この効果をLIBの超厚膜NMC(Ni-Mn-Co酸化物)電極において実証することができた。彼らは、電極の厚さが200μmを超えると、有効拡散率の大きな低下が生じることを示した。この効果は、リチウムの局所的な過度の枯渇と過飽和に関係しており、電解質中のLiの輸送に影響を及ぼす[12]。ここで、電解液中の拡散率は、十分な量のイオンをインターカレーションサイトに供給するのに十分に大きいものではなく、これが過度の枯渇又は過飽和の原因である。
【0005】
この拡散効果の他に、活物質層の厚さが200μmを超える電極の適用を制限するさらなる要因として、活物質層の導電率がある。Zhangら[13]によれば、集電体に向かって活物質層を通る導電率、及び電解質と活物質との界面における電荷移動は十分に大きくなければならない。この電荷移動抵抗は、電極中の溶媒和リチウムイオンがインターカレートしたリチウム原子に移行し、その後、活物質中で固体拡散を受けることによって特徴付けられる。電荷移動抵抗は、ナノサイズの活物質を作製し、結果的に活物質と電解質との界面積を大きくすることで低減することができる[14]。活物質層中の電子移動に関連する電気化学抵抗を克服するために、導電性添加剤が抵抗降下を減少させる目的で適用されている[15]。
【0006】
結論として、200μmを超える厚さの超厚膜電極を作製するには、高い導電率と大きなイオン拡散率の両方が必要である。これらの課題を克服するために、様々なアプローチが追求されている。例えば、超多孔質導電性電極の凍結乾燥によって、面積容量が大きくなり[15,16]、拡散経路が短くなる[17]。しかしながら、その体積容量は依然としてさらなる改善が求められている。
【0007】
優れた導電率と大きなイオン拡散率を両立させるためには、目的にあわせた複合材料が必要である。このような複合材料を作製する手法としては、電解質中のリチウムイオンの拡散を本質的に向上させることが挙げられる。考えられるアプローチは、向上した金属-金属表面拡散を利用することである。有効拡散率の大きな増加の背後にある物理的原理は、金属表面に沿ったイオン流束の向上であり、これは電解質の有効拡散率Deffを増加させ得る。平らな銅表面上のリチウム拡散を調査したいくつかの研究がある。Bairavら[25]は、金属アノード上に析出したリチウムのテラス及び層間表面拡散を調査し、デンドライト形成に及ぼすリチウム表面拡散の影響が無視できないことを観察した。Rico Ruppのグループ[26]は、リチウムイオン電池の平面集電体の銅界面に沿ってリチウムイオンが表面拡散することを明らかにした。どちらの研究からも、集電体上で表面拡散が生じているが、電極の性能には影響を及ぼしていないことが示された。LIBにおけるリチウム及びリチウムイオンの表面拡散は、デンドライト形成、集電体へのリチウム捕捉、及びSEI形成に強い影響を及ぼす。しかしながら、平面集電体がイオン流束と直交するため、電解質中の拡散流束への寄与は見られない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような観点から、より高性能且つ長寿命の一価イオン電池又は多価イオン電池用、特にリチウムイオン電池用の超厚膜電極を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この目的は、請求項1に記載の電極によって解決される。特に、この目的は、一価又は多価イオン電池用電極であって、金属繊維間の接触点で互いに直接焼結されている金属繊維の三次元ネットワークと、活物質とを含み、上記金属繊維のネットワークが200μm~5mmの範囲の厚さを有する、電極によって解決される。
【0010】
本発明の電極が示す一価又は多価イオン、特にリチウムイオンの拡散率は予想外に高い。例えば、本発明の電極は、銅に対するリチウムの有益な表面拡散効果を利用することができる。理論に束縛されることはないが、本発明の電極では、金属繊維系焼結ネットワークが活物質の骨格として作用する。これにより、インターカレーションサイトから集電体への電気エネルギーの優れた輸送が可能になると同時に、電解質中で大きな有効拡散率Deffを得ることもできる。ここで、繊維の配向の一部がイオン流束と平行であり、したがって表面拡散現象が電極内のイオン流を向上させる。この効果は、厚い電池、すなわち200μm以上の範囲の厚さの電極を有する電池の全体的性能を著しく改善する。
【0011】
微細構造シミュレーションによれば、ネットワーク中の繊維の導電率対繊維密度が、電極材料中の局所電位分布に影響を及ぼすことが示される。超厚膜電極を機能させることが可能な高い拡散率の効果は、リチウムイオンの拡散率の増加に関係している。拡散の向上によって、超厚膜電極を機能させることが可能になるだけでなく、電極での過電圧も低減されることを示すという目的で、シミュレーションでは、繊維ネットワークに対する表面拡散効果が示されている。
【0012】
本発明の好ましい実施形態は、従属する請求項の主題であり、以下に記載される。
【0013】
好ましくは、金属繊維のネットワークの厚さは、500μmを超える、特に550μmを超える、より特に600μmを超える、さらに特に750μm以上の範囲である。ネットワークがこのような厚さを有すると、超厚膜電極を提供することができる。繊維が互いに接触、好ましくは焼結しているため、繊維間は直接電気的に連通しており、導電率の点で高いネットワーク伝導性とイオン拡散が得られる。そして、局所電位が電極の体積にわたって均一に分布し、過電圧、ホットスポットの形成など、電解質等の電池構成要素の寿命を縮める現象が低減される。さらに、超厚膜電極は面積容量が高く、不活性構成要素の割合を減少させる。すなわち、電池の質量単位当たりの性能も改善される。ネットワークの厚さは特に限定されない。しかしながら、ネットワーク全体にわたる均一な電位分布の観点から、厚さは、好ましくは5mm以下、さらに好ましくは4mm以下、さらに好ましくは3mm以下である。
【0014】
金属繊維は、1.0mm以上の長さ、及び/又は100μm以下の幅、及び/又は50μm以下の厚さを有することが好ましい場合がある。このような寸法の金属繊維であれば、金属繊維を融点に近い温度まで30分を超える時間加熱することなく、互いに固定された金属繊維でネットワークを製造することができる。従来の焼結法では、金属の融点に近い又はわずかに上回る温度を比較的長時間維持する必要がある。この結果、金属繊維の材料がある程度溶融又は少なくとも軟化し得るため、特に焼結中に比較的高い圧力が加わる場合、金属繊維はネットワークではなく金属箔を形成する。金属繊維のネットワークは金属箔ではないので、すなわち、金属繊維のネットワークを製造するために使用される金属繊維の構造は、金属繊維のネットワークにおいて依然として認識可能である。したがって、金属繊維のネットワークの断面図では、金属繊維の一部ではなく、ネットワーク繊維の各金属繊維の間にある空隙が存在する。
【0015】
また、金属繊維の幅は80μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。加えて、金属繊維の厚さは50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましく、5μm以下であることが最も好ましい。
【0016】
本発明によれば、金属繊維は、互いに固定される前、DSC測定において加熱された際に発熱事象を示し、発熱事象によって、0.1kJ/g以上の量、より好ましくは0.5kJ/g以上の量、さらに好ましくは1.0kJ/g以上の量、最も好ましくは1.5kJ/g以上の量でエネルギーが放出されることが好ましい。絶対量は、使用する金属又は金属合金に大きく依存する。発熱事象の程度は、熱平衡前後の金属繊維のDSC測定値を比較することで求めることができる。言い換えれば、このような発熱事象を示す金属繊維は、周囲温度では熱力学的平衡状態にない。DSC測定における加熱中、金属繊維は、結晶化、再結晶、又は金属原子の格子中の欠陥を減少させる他の緩和プロセスなどによって、準安定状態から熱力学的により安定な状態に移行することができる。DSC測定中などに加熱される際に金属繊維で観察される発熱事象は、金属繊維が熱力学的平衡状態にないこと、例えば、金属繊維が、結晶化又は再結晶が生じることによって金属繊維の加熱中に放出される欠陥エネルギー及び/又は結晶化エネルギーを含むアモルファス又はナノ結晶状態にあり得ることを示している。このような事象は、DSC測定などによって認識することができる。このような発熱事象を示す金属繊維のネットワークは、金属繊維を互いに固定した後に強度が改善されることが見出された。
【0017】
好ましくは、金属繊維は、非円形断面、特に長方形、正方形、部分円形、例えば三日月形、又は長軸と短軸を有する楕円形の断面を有する。このような断面により、通常、熱平衡状態にない、すなわち準安定状態にある繊維となるが、これは用途によっては有益であり得る。
【0018】
これに関連して、明らかに、短軸の値は長軸の値よりも小さくなければならないことが留意される。短軸が長軸よりも大きい値、すなわち大きい長さを有する場合、「短」と「長」の定義は単純に入れ替えられなければならない。
【0019】
短軸と長軸の比が1~0.05の範囲、好ましくは0.7~0.1の範囲、特に0.5~0.1の範囲にあることが好ましい場合がある。一般に知られているように、楕円の短軸と長軸の長さの比は、楕円が円のように見えるようになるほど大きくなり、円の場合、比は1になるであろう。比の値が小さいほど、楕円は平らになる。したがって、短軸と長軸の比は特に1未満である。
【0020】
あるいは、金属繊維は円形断面を有していてもよい。このような断面の場合、「長」軸と「短」軸の比は明らかにちょうど1になるであろう。円形断面は、アスペクト比が1未満の断面に比べてエネルギー的により好ましい状態を有する。故に、円形断面を有する繊維は、他の形状の断面を有する繊維よりもエネルギー的に平衡状態に近い。
【0021】
本発明の別の実施形態によれば、金属繊維は、金属繊維の溶融材料を、特に垂直又は水平溶融紡糸によって、102K/分以上の冷却速度に供することによって得ることができる。溶融紡糸により製造されるこのような金属繊維は、溶融紡糸プロセス中に適用される高速冷却により、高エネルギー状態(すなわち準安定状態)の空間的に閉じ込められたドメインを含み得る。この関連での高速冷却とは、102K/分以上、好ましくは104K/分以上、より好ましくは105K/分以上の冷却速度を指す。
【0022】
また、溶融紡糸によって得られる繊維は、多くの場合、長方形又は半楕円形の断面を有しているが、これは平衡状態からかけ離れているので、特定の適用分野では好ましい。このような繊維を製造することができる溶融紡糸機の例は、例えば、未公開の国際出願PCT/EP2020/063026及び公開出願WO2016/020493A1及びWO2017/042155A1(参照により本明細書に組み込まれる)から公知である。
【0023】
別の実施例によれば、金属繊維の少なくとも一部はアモルファスであるか、あるいは金属繊維の少なくとも一部はナノ結晶である。ナノ結晶金属繊維は結晶ドメインを含む。ナノ結晶金属繊維の融点の約20~60%の温度に加熱すると、これらのドメインは再結晶化し、その結果、加熱前のナノ結晶金属繊維中の初期結晶ドメインの平均サイズと比較して結晶ドメインの平均サイズが増大する。また、非平衡化繊維(例えばナノ結晶繊維又はアモルファス繊維)と平衡化繊維(例えばアニール処理した繊維)とを混合することもできる。
【0024】
金属繊維は互いに焼結されているので、互いに直接電気的に接触している。好ましくは、これは、金属繊維の材料によって金属繊維を互いに焼結させることによって達成される。すなわち、金属繊維を互いに固定する金属繊維間の接触点は、金属繊維と同じ材料からなる。好ましくは、はんだ又は有機バインダー等のバインダーは存在しない。これにより、繊維間の導電率が高くなり、結果的にネットワーク伝導性が高くなる。高いネットワーク伝導性により、局所電位が均一になり、すなわち電流密度が桁違いに活物質中で局所的に低下し、その結果、オーム抵抗が低くなり、電解質の分解が少なくなり、温度発展が少なくなる。最終的には、本発明による電極を利用した電池の寿命が長くなる。
【0025】
好ましくは、ネットワーク伝導性は、1×105S/m以上、特に5×105S/m以上、特に1×106S/m以上である。このような高いネットワーク伝導性によって、金属繊維の三次元ネットワークの密度が低い場合でも、局所電位の均一な分布が改善される。ネットワーク伝導性は、4点プローブ測定器を用いて測定することができる。
【0026】
金属繊維の三次元ネットワークの空隙率が、95vol%~99.5vol%の範囲、特に96vol%~99.4vol%の範囲、特に97vol%~99.0vol%の範囲であることが好ましい。このような高い空隙率によって、多量の電極活物質の添加が可能となり、不活性構成要素の割合が減少し、それによって質量当たりの電池性能が改善する。空隙率は、マイクロコンピューター断層撮影を用いて繊維構造を再現し、次いで、本明細書に記載するバブルポイント法を用いて空隙率を評価することによって求めることができる。
【0027】
電極活物質又は触媒活物質等の活物質を開気孔に組み込むことができる。本発明によるネットワークでは、複数の金属繊維のうち少なくとも一部の金属繊維が少なくとも部分的にコーティングされていることがさらに好ましい。コーティングは、例えば、電池中のLiイオンと相互作用する電極活物質等の活物質とすることができる。
【0028】
例として、このような電池用電極活物質としては、アノード用では、黒鉛、ケイ素、炭化ケイ素(SiC)、及び酸化スズ(SnO)、二酸化スズ(SnO2)、及びチタン酸リチウム(LTO);カソード用では、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、及びリン酸鉄リチウム(LFP)が挙げられる。
【0029】
また、金属繊維の三次元ネットワーク中の金属繊維の体積分率は、0.075vol%以上、特に1.3vol%以上、特に2.0vol%以上であることが好ましい。体積分率がより低いネットワークは、局所電位を均一に分布させることが困難な場合があり、その結果、ホットスポットの形成や高い過電圧が生じる可能性がある。したがって、金属繊維の三次元ネットワーク中の金属繊維の体積分率を上記のように特定することで、電池寿命を延ばすことができる。金属繊維の三次元ネットワーク中の金属繊維の体積分率は、マイクロコンピューター断層撮影を用いて繊維構造を再現し、次いで、本明細書に記載するバブルポイント法を用いて分率を評価することによって求めることができる。
【0030】
三次元ネットワークの導電率が1×105S/m以上、特に5×105S/m以上、特に1×106S/m以上であり、空隙率が95vol%~99.5vol%の範囲、特に96vol%~99.4vol%の範囲、特に97vol%~99.0vol%の範囲であり、金属繊維の三次元ネットワーク中の金属繊維の体積分率が0.075vol%以上、特に1.3vol%以上、特に2.0vol%以上であることが特に好ましい。
【0031】
好ましくは、金属繊維は、導電率を最大限に向上させることができるように、互いに直接電気的に接触している。この関連で、金属繊維の全てが、追加のバインダー、例えば高分子バインダー又ははんだを必要とすることなく、他の金属繊維に、最も好ましくは直接他の金属繊維に、焼結されていることが特に好ましい。したがって、金属繊維が、高分子バインダーなしで互いに固定されていることがさらに好ましい。なぜなら、このような高分子バインダーは、多くの場合、導電率及び高温性能が劣っているからである。
【0032】
金属繊維は、銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、鉄、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、ケイ素、リチウム、マンガン、ホウ素、これらの組み合わせ、及びこれらの1つ以上を含む合金、例えばCuSn8、CuSi4、AlSi1、Ni、ステンレス鋼、Cu、Al、又はvitrovac合金のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい場合がある。vitrovac合金は、Fe系及びCo系アモルファス合金である。特に、金属繊維が銅、アルミニウム、又はステンレス鋼合金で作製されていることが好ましい場合がある。様々な種類の金属繊維を互いに組み合わせることができるので、フィルターは、例えば、銅、1種以上のステンレス鋼合金、及び/又はアルミニウムで作製された金属繊維を含むことができる。ネットワークは、銅、アルミニウム、コバルト;銅、アルミニウム、ケイ素、及び/又はコバルトを含むステンレス鋼合金からなる金属繊維で作製されることが特に好ましい。
【0033】
繊維は、WO2020/016240A1等に記載されるように、互いに焼結させることができる。
【0034】
本発明によれば、金属繊維は、互いに固定される前、DSC測定において加熱された際に発熱事象を示し、発熱事象によって、0.1kJ/g以上の量、より好ましくは0.5kJ/g以上の量、さらに好ましくは1.0kJ/g以上の量、最も好ましくは1.5kJ/g以上の量でエネルギーが放出されることが好ましい。絶対量は、使用する金属又は金属合金に大きく依存する。発熱事象の程度は、熱平衡前後の金属繊維のDSC測定値を比較することで求めることができる。言い換えれば、このような発熱事象を示す金属繊維は、周囲温度では熱力学的平衡状態にない。DSC測定における加熱中、金属繊維は、結晶化、再結晶、又は金属原子の格子中の欠陥を減少させる他の緩和プロセスなどによって、準安定状態から熱力学的により安定な状態に移行することができる。DSC測定中などに加熱される際に金属繊維で観察される発熱事象は、金属繊維が熱力学的平衡状態にないこと、例えば、金属繊維が、結晶化又は再結晶が生じることによって金属繊維の加熱中に放出される欠陥エネルギー及び/又は結晶化エネルギーを含むアモルファス又はナノ結晶状態にあり得ることを示している。このような事象は、DSC測定などによって認識することができる。このような発熱事象を示す金属繊維のネットワークは、金属繊維を互いに固定した後に強度が改善されることが見出された。
【0035】
好ましくは、金属繊維は、非円形断面、特に長方形、正方形、部分円形、又は長軸と短軸を有する楕円形の断面を有する。このような断面により、通常、熱平衡状態にない、すなわち準安定状態にある繊維となるが、これは用途によっては有益であり得る。
【0036】
これに関連して、明らかに、短軸の値は長軸の値よりも小さくなければならないことが留意される。短軸が長軸よりも大きい値、すなわち大きい長さを有する場合、「短」と「長」の定義は単純に入れ替えられなければならない。
【0037】
短軸と長軸の比が1~0.05の範囲、好ましくは0.7~0.1の範囲、特に0.5~0.1の範囲にあることが好ましい場合がある。一般に知られているように、楕円の短軸と長軸の長さの比は、楕円が円のように見えるようになるほど大きくなり、円の場合、比は1になるであろう。比の値が小さいほど、楕円は平らになる。したがって、短軸と長軸の比は特に1未満である。
【0038】
あるいは、金属繊維は円形断面を有していてもよい。このような断面の場合、「長」軸と「短」軸の比は明らかにちょうど1になるであろう。円形断面は、アスペクト比が1未満の断面に比べてエネルギー的により好ましい状態を有する。故に、円形断面を有する繊維は、他の形状の断面を有する繊維よりもエネルギー的に平衡状態に近い。
【0039】
好ましくは、本発明の電極において使用される金属繊維は、金属繊維の溶融材料を、特に垂直又は水平溶融紡糸によって、102K/分以上の冷却速度に供することによって得ることできる。溶融紡糸により製造されるこのような金属繊維は、溶融紡糸プロセス中に適用される高速冷却により、高エネルギー状態(すなわち準安定状態)の空間的に閉じ込められたドメインを含み得る。この関連での高速冷却とは、102K/分以上、好ましくは104K/分以上、より好ましくは105K/分以上の冷却速度を指す。
【0040】
また、溶融紡糸によって得られる繊維は、多くの場合、長方形又は半楕円形の断面を有しているが、これは平衡状態からかけ離れているので、特定の適用分野では好ましい。このような繊維を製造することができる溶融紡糸機の例は、例えば、未公開の国際出願PCT/EP2020/063026及び公開出願WO2016/020493A1及びWO2017/042155A1(参照により本明細書に組み込まれる)から公知である。
【0041】
別の実施例によれば、複数の金属繊維のうち少なくとも一部の金属繊維はアモルファスであるか、あるいは複数の金属繊維のうち少なくとも一部の金属繊維はナノ結晶である。ナノ結晶金属繊維は結晶ドメインを含む。ナノ結晶金属繊維の融点の約20~60%の温度に加熱すると、これらのドメインは再結晶化し、その結果、加熱前のナノ結晶金属繊維の初期結晶ドメインの平均サイズと比較して結晶ドメインの平均サイズが増大する。また、非平衡化繊維(例えばナノ結晶繊維又はアモルファス繊維)と平衡化繊維(例えばアニール処理した繊維)とを混合することもできる。
【0042】
ネットワークは、0.1~1000μmの範囲、好ましくは0.5~500μmの範囲、特に1~100μmの範囲で選択される平均細孔径を有していてもよい。平均細孔径は、マイクロコンピューター断層撮影を用いて繊維構造を再現し、次いで、バブルポイント法を用いて平均細孔径を評価することによって求めることができる。バブルポイント法は、2つの繊維間に適合し得る最大の球の直径を求めるものであり、この直径が細孔径とされる。より詳細には、2つの繊維間の中央に点を配置し、その点を中心として気泡の半径を、両繊維の表面に接触するまで増加させる。気泡の直径が細孔径に相当する。所定のパラメータにおいて気泡の直径が一方の繊維にしか接触しない場合、中心点は気泡が接触しなかった繊維の方向にずらされる。
【0043】
本発明による電極に含まれる金属繊維の三次元ネットワークが、接触点で互いに固定、特に直接固定されていることが特に好ましく、接触点は、好ましくは金属繊維のネットワーク全体にランダムに分布している。別の発明の側面によれば、接触点はランダムに分布しておらず、金属繊維のネットワークの周辺領域等に配置されること、あるいは金属繊維が規則的であるので、接触点も規則的であることが好ましい。
【0044】
金属繊維が互いに固定されている接触点が特定の領域に局在し、金属繊維の全ネットワークにわたって均等に配置されていないことがさらに好ましい。金属繊維が互いに固定されている接触点がそれぞれ分離した領域にのみ存在する場合、これらの領域の間の繊維は高い柔軟性を有すると同時に、機械的な安定性と良好な導電率を確保することができる。
【0045】
好ましくは、金属繊維の空間的配向は不規則である。不規則なネットワークの場合、常に金属繊維の一部分がイオン流束の方向に配向する。これにより、金属繊維の表面でイオン拡散率が増加し、本発明の効果を得ることができる。
【0046】
好ましくは、金属繊維の空間的配向は少なくとも部分的に規則的である。したがって、金属繊維の主要な空間方向は一つの方向に向いている。これにより、イオン流束の方向に配向している金属繊維の割合を増やすことができ、さらに高いイオン拡散率が得られる。金属繊維の配向は、金属繊維の三次元ネットワークへと焼結させる前に金属繊維をカーディングするなどして達成できる。
【0047】
好ましくは、接触点の密度は1mm-3~5000mm-3の範囲である。より好ましくは、接触点の密度は、3mm-3~2000mm-3の範囲、さらに好ましくは5mm-3~500mm-3の範囲である。また、接触点の密度は繊維間の架橋密度と見なすこともできる。なぜなら、接触点では金属繊維が互いに直接固定され、互いに電気的に接触しているからである。繊維密度が1mm-3以上、特に5mm-3以上の場合、電位の均一な分布が実現され、高い過電圧や、高い抵抗による局所的なホットエリアの生成などの有害な影響が回避される。一方、接触点の密度が5000mm-3以下、特に2000mm-3以下、さらに特に500mm-3以下の場合、金属繊維の三次元ネットワークに柔軟性を付与するのに有用であり、その結果、かなり厚い三次元ネットワーク、すなわち200μm以上、500μm以上、550μm以上、600μm以上、又は750μm以上の厚さのネットワークでも、破損させずに変形させる、例えば巻くことができる。
【0048】
さらに、本発明は前記の請求項のいずれか一項に記載の電極を含む電池に関する。
【0049】
好ましくは、電池は、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、カルシウムイオン電池、カリウムイオン電池、アルミニウムイオン電池、亜鉛イオン電池、デュアルイオン電池である。デュアルイオン電池は、正イオンとそれに対応する負イオン又はイオン錯体、例えばPF6
-、ClO4
-の同時インターカレーションに基づく。最も好ましくは、リチウムイオン電池である。
【0050】
好ましくは、電池は、金属繊維が銅又は銅合金からなる本発明による電極を1つ含む。
【0051】
好ましくは、電池は、金属繊維がアルミニウム又はアルミニウム合金からなる本発明による電極を1つ含む。
【0052】
さらに、本発明は、本発明による電池を含む電気機械に関する。特に、本発明による電池は、電気機械の回路に電力を供給する。さらに、電気機械の回路が、電気機械、特に電気自動車を駆動させるためのモーターに電力を供給することが好ましい。
【0053】
次に、添付の図面及び図を参照し、さらに本発明のネットワーク及び方法の様々な例により、本発明をさらに詳細に説明するが、これらは一例に過ぎない。図面には以下が示される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】面積容量が同様な2D及び3D黒鉛系電極の比較である。サイクリングはCレートが0.5Cで行った。
【
図2a】厚さが異なる2D及び3D電極のナイキストプロットである。
【
図3a】各種の繊維体積分率及び各種の繊維導電率での厚さ400μmの黒鉛系3D金属繊維ネットワーク電極のアノードの電位分布である。
【
図3b】各種の繊維体積分率及び各種の繊維導電率での厚さ400μmの黒鉛系3D金属繊維ネットワーク電極のカソードの電位分布である。
【
図4a】微視的モデルを用い、電極厚さを85μmとして、充電速度1Cで2D及び3D電極の電位をシミュレーションしたものである。
【
図4b】DFNモデルを用い、電極厚さを85μmとして、充電速度1Cで2D及び3D電極の電位をシミュレーションしたものである。
【
図5a】2Dアノード電極(a)及び3D金属繊維系アノード電極(b)の厚さに沿って電流密度をシミュレーションしたものである。
【
図5b】2Dカソード電極(a)及び3D金属繊維系カソード電極(b)の厚さに沿って電流密度をシミュレーションしたものである。
【
図5c】各種の厚さの3D電極についての放電曲線のDFNモデルに基づく巨視的シミュレーションである。
【
図7】金属繊維表面へのイオン吸着の模式図である。
【
図8】繊維表面に沿ったイオン輸送のメカニズムの模式図である。
【
図9】表面に沿った拡散をシミュレーションするための層流とその単純化された対応流の模式図である。
【
図10a】電極厚さを85μmとし、各種の電解質拡散率についてそれぞれアノード放電速度1C及び0.1Cで3D電極の電位をシミュレーションしたものである。
【
図10b】電極厚さを85μmとし、各種の電解質拡散率についてアノード充電時の3D電極の電位をシミュレーションしたものである。
【
図11】電極厚さを400μmとし、各種の電解質拡散率についてアノード充電時の3D電極の電位をシミュレーションしたものである。
【
図12】微視的モデルのシミュレーションに使用した電極のモデルである。
【
図13】電極活物質(赤)及びバインダー(緑)の断面図(a)及び3D図である。
【
図15】Doyle-Fuller-Newman(DFN)モデルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
実験観察における2D対3D電池
【0056】
3D集電体骨格を有する超厚膜電極(以降、3D電極と呼ぶ)の性能を2D金属箔系電極(以降、2D電極と呼ぶ)と比較して調査するために、両電極を同様な面積容量で作製した。
図1に示すように、3D電極の場合、利用可能容量の25%の増加が観察された。Gaoらによると、3D電極で観察される容量の増加は、イオン輸送能力の向上及び導電率の増加によって説明できる[12]。そのため、充放電プロセス中により多くの活物質が利用され、その結果、3D電極の容量が大きくなる。
【0057】
3D電極のイオン輸送能力の増加と(電子)伝導率の向上の効果とを分離するために、まず、各種の活物質充填量(すなわち活物質層の厚さ)の2D電極の電荷移動抵抗及び内部抵抗率を、超厚膜3D電極の電荷移動抵抗と比較した(
図2参照)。
【0058】
3D対2D導電率の実験観察
【0059】
ハーフセルでのEIS測定に基づき、2D電極と3D電極の導電率の明確な差を観察することができる。ここで、活物質層の厚さがそれぞれ28μm、51μm、85μm、124μm、166μmの各種の2D電極をEISで調査し、厚さがそれぞれ500μm、1500μmの3D電極と比較した。
図2aに示すような得られたナイキストプロットを、EC-LabのフィッティングソフトウェアZ-Simを用いてフィッティングし、
図2bに従って等価回路を設計した。ハーフセルでのEIS測定は、平衡状態でない場合に副反応が起こりやすく、半サイクルの形状と開始点が歪むため、全ての測定は0.143Vで実施した。
【0060】
図2aで視覚的に観察できるように、全ての電極で同様の内部抵抗が得られる(Im(Z)=0におけるナイキストプロットの開始点に相当)。ここで、値は0.3オームから1.9オームまでに及び、それぞれの電極と鋼製ハウジングとの間の接触抵抗に起因し得る。しかしながら、電荷移動抵抗(半円の直径)には大きな差が観察される。電荷移動(リチウムイオン移動)抵抗は、アクセス可能なリチウムインターカレーションサイトの数、よって利用可能な活物質の量により変化する[18]。この効果は、2D電極の場合、各種の厚さの活物質層ではっきりと現れる。ここで、面積充填量が大きいほど利用可能なリチウムインターカレーションサイトの数が多くなり、単一粒子間の大きい接触抵抗は、電荷移動抵抗の増加とよく相関する[19]。
【0061】
しかしながら、3Dネットワークの場合、電荷移動抵抗の著しい減少が観察された。この効果は、厚さ1.5mmのネットワークではさらに顕著になった。ここで、それでもなお活物質は多数のインターカレーションサイトを有している。なぜなら、それらは活物質充填量(面積当たりの容量)に関するからである。3D電極(500μm)及び最大の2D電極(2D-166μm)の活物質充填量は、どちらの場合も面積容量が約4mAh/cm2であるため、互いに同等である。しかしながら、本発明の電極の場合、3D電極の活物質は金属繊維骨格とよく接続されており、金属繊維の高い導電率により、電極厚さにわたる抵抗降下が著しく低減される。
【0062】
電極の充放電中に観察されるさらなる影響である高電流密度による電極の老化は克服することができる。なぜなら、長距離電子移動が金属繊維ネットワークで起こっているからである。まとめると、金属繊維ネットワークを利用した本発明の電極では、電荷移動抵抗が著しく低下することになる。この実験的に観察された効果では、観察された3D電極の性能向上の十分な説明にはならない。Vladら[20]によれば、超厚膜電池は、
(i)高いオーム抵抗による高い分極、
(ii)効率の低い電流収集、及び
(iii)電極中のイオン伝導の低下
という問題を抱えている。本発明の電極のような3D集電体の適用や、これまでに行った測定によって、金属3D集電体で(i)と(ii)の影響を克服することができた。従来の2D電極では、活物質粒子間の接触抵抗を低減するために緻密な活物質層が必要であるが、
図2aのナイキストプロットで示されるように、そのような層の厚さも制限される。インターカレーションサイトに十分なイオン、例えばLiイオンを供給するためには、特に高い電流が印加される場合(すなわち急速充電)、活物質を最大限に利用するのに短いイオン拡散経路が必要である。
【0063】
これらの知見を局所的に可視化するために、有限体積モデル(FVM)に基づくマルチスケールシミュレーションを実施した。
【0064】
導電率の(DFN及び微視的)3Dシミュレーション
【0065】
シミュレーション結果を
図3a及び
図3bに示す。
図3a及び
図3bは、厚さ400μmの黒鉛系3D金属繊維ネットワーク電極の電位分布を示している。
図3aのシミュレーションでは、全電極の集電体面10に初期値として0.11Vの電位を設定し、対電極12の電位を0Vに設定する。
図3bのシミュレーションでは、全電極の集電体面に初期値として3.7Vの電位を設定し、対電極の電位を0Vに設定する。電位は、黒鉛へのCV測定から得られたピークインターカレーション電位(色分けでの上限値)に対応して選択したが、下限値はその半値全幅(FWHM)である。シミュレーションは、繊維密度が0.6vol.%(
図3a及び
図3bの1段目)、1.3vol.%(
図3a及び
図3bの2段目)、及び2.0vol.%(
図3a及び
図3bの3段目)のネットワークについて行った。
図3a及び
図3bにおいて、第1列は10
3S/m、第2列は10
4S/m、第3列は10
5S/m、
図3aの第4列は6×10
7S/m、
図3bの第4列は3.8×10
7S/mの繊維導電率を表す。6×10
7S/m又は10
5S/mの高い導電率で容易に認識できるように、繊維密度に関係なく、局所電位が均一分布している。
【0066】
図3aに示すように、10
5~10
6S/mの導電率(単一カーボンナノチューブ(CNT)の軸方向導電率に相当)[21]であれば、電極中の均一な電位分布と、全ての所与の繊維密度でのオーム抵抗の最小化に十分である。しかしながら、CNT糸の測定[22]によると、CNTは接続したネットワークを形成しない代わりに、単繊維の接触点で大きな接触抵抗を有するため、1~4*10
4S/mの導電率しか得られないことが分かる。シミュレーションから明らかなように、超厚膜電極の場合、CNTネットワークの導電率(10
4S/m)は、均一な電位分布を得るのに十分ではない。カソードシミュレーションの場合、カソード活物質の固有導電率は
図3bに示すようにはるかに低いため、この効果はさらに顕著になる。
【0067】
電池性能に及ぼす3D電極の影響を従来の2D電極と比較するために、ハーフセル電池のシミュレーションを行った。ここで、充放電プロセスの過電圧によって電池性能をシミュレーションする。しかしながら、微視的シミュレーション(
図4a)に基づいても、DFNモデルを用いた巨視的シミュレーション(
図4b)においても、過電圧の変化は大きくない。
【0068】
電極の厚さが増すにつれて、
図4a及び
図4bに示すように、2D電極と3D電極の間の過電圧の差はより明瞭になるが、まだ無視できる程度である。
【0069】
これに沿って、両電極、すなわち2D電極と3D電極の電流密度分布を詳しく調べた。なぜなら、電解質の分解は主に高電流密度での追加のSEI形成及び分解のいずれかによって影響を受けるからである[2,23]。
図5aに示すように、金属繊維の3次元ネットワークを利用した3D電極では、活物質中の電流密度が著しく低下する。金属繊維ネットワークに存在する高い金属伝導性により、電極中の電流は繊維に蓄積する。金属繊維ネットワークが存在すると、
図5aに視覚的に示されるように、特に厚みの大きい電極では、活物質全体にわたって電流密度が下がるだけでなく、均一にもなる。
【0070】
さらに、オーム抵抗は、大きなCレート(大きな電流密度)での温度上昇及びそのような温度と関連する老化の主な要因であるため、より長い電極寿命が期待される[2]。ここで、活物質中に存在する電流密度が概して低いことからオーム熱は低減される。したがって、本発明による電極では、電極内の熱応力及び長期サイクリング中の活物質内の分解が著しく低減される。加えて、金属繊維の高い熱伝導性によって、効率的な熱伝導及び分布も可能になり、局所的な大きな熱源の発生がさらに抑制される。
【0071】
DFNモデルに基づく巨視的シミュレーション(
図5c)の場合、
図3及び
図4でシミュレーションしたようなハーフセルだけでなく、最大2mmの厚さの電極を有するフルセルもシミュレーションすることができたが、3D電極と2D電極の間の過電圧にはわずかな差しか観察されなかった。
図5cは、活物質の厚さに対して電池性能を示している。巨視的なDFN(Doyle-Fuller-Newman)モデルでシミュレーションを行った。放電電流は0.1Cであり、活物質の導電率は異なる。
図5cから、活物質の導電率の増加は、薄層電極ではほとんど寄与しないことが観察できる。300μmから2000μmでは、電極の導電率により過電圧の違いが見られたが、影響はまだ最小限である。
【0072】
結果的に、3D電極の過電圧は、それに対応する2D電極と比較して、実験的調査が示すほど著しくは低減しないことがシミュレーションによって明らかとなった。さらに、各種の電極厚さのシミュレーションによれば、超厚膜電極の場合、ある深さでは電解質中のリチウムイオン濃度がゼロに降下することも分かる。これは、この深さを超えると、インターカレーションプロセスが停止し、活物質が反応に関与しなくなるため、十分に利用されないことを示している。これは、超大型2D電極での我々の知見とよく一致しているが、結果的に3D電極の著しく優れた性能を説明することはできない。
【0073】
したがって、これらの知見は、超厚膜電極では、イオン輸送能力が電池性能の主な制約となっていることを示している。故に、理論に束縛されることはないが、3D金属繊維ネットワークが多孔質電極内のイオン拡散を向上させることができると考えられる。この効果を定量化するために、電気インピーダンス分光(EIS)法を用いて実験電極を定量的に調査する。
【0074】
拡散率の3D測定
【0075】
パルス勾配スピンエコー核磁気共鳴法(PGSE-NMR)[24]、電気インピーダンス分光法(EIS)[12]、又は定電流間欠滴定法(GITT)[12]のような手法を用いて、電解質中のリチウムの拡散率に関する研究がいくつか実施されている。電解質中の拡散率の測定は、3つの手法の中で最も正確であろうPGSE-NMRによって容易に行うことができるだろう。しかしながら、測定中に印加される大きな交番磁場のために、金属導体(すなわち、電極中の繊維)に電流が誘導され、測定が不可能になる。このハードルを克服するために、対称型セルに対してEISを用い、電圧0Vで
図6の模式図に従って銅箔集電体(比較例1に従って調製)とCuSi
4金属繊維集電体(実施例1に従って調製)を直接比較して電解質の拡散率を調査した。これらの測定値から、ワールブルグ抵抗をフィッティングし、比ワールブルグ係数σを求めた。対称型セルの利点は、さらなる活物質の副反応、電解質の分解、SEIの形成、又は同様の作用が発生せず、電解質の拡散率に及ぼす集電体とその構造の影響のみが測定されることである。
【0076】
ここで、厚さ1mmのディスタンスホルダーで隔てられている両3D集電体の厚さは500μmである。これらの測定値を、金属繊維ネットワークの代わりに銅箔を使用して同じアセンブリで比較した。
ソフトウェアZ-Fitを使用し、表1に示すように、測定値をワールブルグ要素でフィッティングすることでワールブルグ係数の値を得た。ワールブルグ係数σのフィッティングは、以下により行った。
【数1】
【0077】
【0078】
活物質による副作用(例えば、屈曲度の増加)を排除した上で、3D集電体について著しく小さいワールブルグ係数を測定することができた。式2によると、ワールブルグ係数σはD
eff
-2に比例し、したがって、ワールブルグ係数が小さいほど、有効拡散率は大きくなる。我々の知る限りでは、金属繊維の存在下での拡散率のこのような大きな増加は、文献ではまだ考慮されていない。理論に束縛されることはないが、我々は、金属繊維の場合、繊維の一部がイオン流束に対して垂直に配向しているため、繊維に沿った拡散が有効拡散率に寄与していると仮定する。
【数2】
【0079】
この拡散率の増加を詳細に評価するために、ハーフセルアセンブリにおけるワールブルグ要素の解析を実施した。ここで、2D及び3D電極のハーフセル中の拡散率を、0.143VでのEIS測定値によって比較した。
【0080】
【0081】
表2に示す値によると、2D電極と3D電極の間のワールブルグ係数σの著しい差が観察される。ここで、本発明による3D電極(実施例1)及びそれに対応する2D(金属箔)電極(比較例1)について得られたそれぞれのワールブルグ係数の差は、空の対称型セルの場合、3.6倍小さいことが明らかになった。この効果は、ハーフセル構成及びそのそれぞれの測定の場合にも観察される。
【0082】
ここで、空の対称型セル構成とハーフセル構成の間の絶対値の差は、拡散長、対電極の化学的性質(金属Li)、電極に存在する活物質、及び測定されたベース電圧の違いによって引き起こされる。活物質が自由なLiイオンの動きを妨げるため、ハーフセル構成の場合に効果がさらに顕著になることが明らかになった。この効果を電池性能と相関させるために、増加した拡散率を微視的及び巨視的シミュレーションにおいて入力パラメータとして用いた。
【0083】
拡散率の(微視的及びDFN)3Dシミュレーション
【0084】
拡散率の増加が電池性能に及ぼす影響をシミュレーションするために、微視的ハーフセル及び巨視的フルセルシミュレーションを実施する。まず、テラス及び層間表面拡散がイオン拡散流束に大きな影響を及ぼすと仮定する。電解質と繊維ネットワークの間の電位差により、より多くのリチウムイオンが繊維近傍に集中し、その後、繊維の表面でリチウムイオン拡散が起こり、その結果、正味のイオン拡散が向上する。Bairavら[25]は、銅板上にリチウムイオンが析出し、板に沿った拡散が観察されるというように同様の複合現象を描写している(
図7上部も参照)。
【0085】
しかしながら、アノード(本発明による炭素系3D電極)の場合、炭素が存在するため、リチウムイオンはインターカレートされる。そのため、大量のリチウムの析出が起こることはなく、分極が後に続く。その後、分極は繊維表面へのリチウムイオンの吸着(接近&付着)を誘導する。結果的に、
図8に模式的に描かれているように、その後、これらのイオンは繊維に沿って拡散する。
【0086】
しかしながら、金属繊維の3次元ネットワークは複雑な構造をしているため、この物理現象を微視的スケールでシミュレーションするには膨大な計算能力が必要となる。また、各種イオンの動きをシミュレーションするには、異なるシミュレーション手法が必要になるであろう(モンテカルロ法、分子動力学法)。シミュレーションを単純化するために、層流メカニズムを採用して表面拡散を実証した。詳細には、我々のモデル系では、繊維表面までの距離に応じてイオン流束の速度が低下するという
図9の左側に示す通り、繊維に沿ったイオン拡散が層流方程式に従うと仮定する。さらに微視的シミュレーションを単純化するために、層流を、(繊維表面までの)特性距離dを有する定速流へと変換する。層流のHagen-Poiseuilleの法則(式3)と拡散のFickの第一法則(式4)に基づいて、繊維表面近傍での有効拡散率と特性距離dを導出することができる。これらの入力パラメータにより、微視的スケールでの拡散率シミュレーションを行うことができる。
【0087】
【0088】
しかしながら、この有効拡散率の増加は、式5に従って、増加した正味の拡散流束Deff*∇ceとして説明することもできる。この有効拡散率をシミュレーションするためには、有効拡散率の増加のみが必要である。
【0089】
【0090】
シミュレーションは、微細構造及びDFNモデルに基づいて実施した。ここで、厚さ400μmの電極について大きな性能向上が観察された。電解質中のリチウムイオンの有効拡散率は、1*10-10~1*10-11m2sの範囲の空隙率及び屈曲度に依存している。この値をベースとして、拡散率の差を1*10-7m2sの拡散率までシミュレーションした。拡散率が大きくなると、過電圧の低減が観察される。活物質(このシミュレーションでは黒鉛)のインターカレーション速度が、Liイオン流が十分に大きい場合にはボトルネックとなるため、1*10-9m2sより低い値ではさらなる性能向上は観察されなかった。
【0091】
2つの異なる充電速度を比較した結果、活物質へのインターカレーション速度が実際に制限要因であることが明らかになった。なぜなら、充電速度が速くなると、性能の差が無視できるようになるからである。
【0092】
図10bに示されるように巨視的モデルに基づいても、この効果が観察される。また、DFNシミュレーションによっても、ある値を超えると、さらなる改善が観察されないことを示すことができた。
【0093】
図10bは、繊維ネットワークの表面拡散効果を考慮して過電圧の電池シミュレーション結果(電極厚さ:85um)を示している。アノード側の過電圧は、正味の拡散が増加すると著しく低減される。特筆すべきは、有効イオン拡散率が5e-10m
2/sを超えれば、拡散率が過電圧に及ぼす影響は些細なものになることが観察されたが、これは電池性能が拡散率制限のボトルネックから解放されたことを意味する。超厚膜電極(400um)については、電池性能に及ぼす電解質の影響がより明瞭に観察される(
図11参照)。
【0094】
以下、シミュレーション方法をさらに説明する。
【0095】
シミュレーション(微視的モデル):
【0096】
電極の構造をシミュレーションし、拡散率増加の効果を実証するために、電極の微細構造をモデル化し、拡散率増加に基づいてシミュレーションした。電極のモデルは、電極の中心に単一金属繊維を含んでいた。
図12に示すように、50μmごとに、垂直繊維が最初の繊維に対して0°又は90°に交互に電極へと配置された。シミュレーション体積は、周期境界条件の下で400×50×50ボクセルである。
【0097】
その後、繊維ネットワークを活物質(AM)と重ね合わせた。それらの粒子形状及び粒度分布は、Math2Marketが提供するFIB-SEMスキャンから抽出した統計データに基づいている。
【0098】
【0099】
得られた電極構造を
図13に示す。
図3において、活物質は灰色で、バインダーは黒色である。
【0100】
繊維状電極を得るために、両構造物を重ね合わせ、切断し、両構造物の重なりを繊維材料とした。セパレータ厚さを6μmとし、対電極として無限のリチウムリザーバーを用いてGeoDictでハーフセルを組み立てた。
【0101】
各構成要素の材料パラメータを以下の表に、それぞれの平衡インターカレーション電位を
図14に示す。
【0102】
【0103】
シミュレーション(巨視的モデル):
【0104】
電解質の正味の拡散率が充放電中の電池性能にどのように影響するかを理解するために、電池シミュレーション用の巨視的モデルを構築する。パラメータ研究の目的で、擬似マルチスケールDoyle-Fuller-Newman(DFN)モデルを採用して、例えば、電極の導電率、拡散率、活物質の粒径、及び電荷移動速度が電池性能に及ぼす影響を試験する。
【0105】
DFNモデルでは、活物質は、電解質相に囲まれた整然と配置した球状粒子(
図15参照)とみなされる。粒子内部では、粒子の半径方向に沿って(中心に向かって又は中心から離れて)リチウムの固体拡散が起こるが、これは式[1-1]により表される。
【0106】
液相では、リチウムイオンの拡散は、両集電体間のイオン流束によって定義され、ネルンスト・プランクの式(式[1-2])によって規定される。固液界面では、バトラー・ボルマーの式が電荷移動速度の動的特性を表し(式[1-3])、さらに、オームの法則が活物質中の電子の移動を規定する(式[1-4])。しかしながら、DFNモデルの性質上、微視的特徴は無視され、屈曲度や拡散率のような微視的特徴に関連する物理パラメータは有効値を用いて含められる。
【0107】
【0108】
したがって、微視的及び巨視的シミュレーションを相関させるためには、繊維ネットワーク骨格を有する3D電極と2D電極の微視的シミュレーションから、空隙率、屈曲度、有効導電率、有効拡散率、反応速度、及び開回路電位のような微視的特徴に関連する物理パラメータを得る必要がある。具体的に、パラメータを以下の表に示す。
【0109】
【0110】
次いで、電解質の拡散率のパラメータ研究をDFNモデルで行うことができる。
図10bは、様々な電解質の拡散率でのハーフセルアノード充電シミュレーション結果(電極の厚さ:85μm)を示しており、正味の拡散を増加させると、アノード側の過電圧が著しく低減される。
【0111】
以下、実施例1及び比較例1の調製について説明する。
【0112】
実施例1及び比較例1は、以下のようにして調製した。実施例1及び比較例1ともに、固形分として片状黒鉛(Sigma Aldrich社製)85wt%、PVDF-HFP(ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)、Alfa Aesar社製)10wt%、及びSuper P(Sigma Aldrich社製)5wt%を含む活物質を使用した。固形分をアセトン中に1:5の固体/液体重量比で分散させた。IKA T25イージークリーンデジタル分散機を用いてスラリーを8000RPMで10分間激しく攪拌した後、スラリーをそれぞれの集電体材料、すなわち実施例1では銅繊維の三次元ネットワーク、比較例1では20μmの銅箔にコーティングした。
【0113】
実施例1:
厚さ500μm又は1500μmのCuSi4合金(ケイ素4wt%、銅96wt%)繊維ネットワークの直径14mmの2枚のディスクを打ち抜き、CR2032コインセルにおいて電極として使用した。セルは、両電極間のディスタンスホルダーとして外径16mm、内径10mm、及び高さ1mmのPTFE(テフロン(登録商標))リングを用いて組み立てた。その後、電解質でセル容積を満たした後、セルを組み立て、2時間の湿潤期間後に試験した。
【0114】
比較例1:
BSVS1811/3型自動フィルムアプリケーターと調整可能なフィルムアプリケーターを用いて、スラリーを20μmの銅箔(PGChem社製)にコーティングした。コーティングした銅箔から直径14mmのディスクを打ち抜き、電極をアルゴン充填グローブボックス内で組み立てた。セパレータとして、ガラス繊維フィルターの16mmディスク(Whatman Grade AH630)、電解質として1M LiPF6 1:1EC/DMC(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート)を使用した。対電極は全体が純度99.99wt%のLiで構成されていた。その後、CR-2032コインセルにおいて全ての構成要素を組み立て、試験前に少なくとも2時間湿潤させた。充放電試験は、0.1Cで5サイクルの形成期間後に定電圧ステップを行った後、0.5Cの一定の充放電プログラムにより行った。電気インピーダンス分光法は、ハーフセル構成では電圧0.8V、振幅40mVで100mHzから1MHzまで行った。
【0115】
対称型セルでの電気化学インピーダンス分光法(EIS)測定は、電圧0Vで1mHzから1MHzまで振幅40mVで行った。
【0116】
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【国際調査報告】