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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-17
(54)【発明の名称】時計のための定エネルギー脱進機
(51)【国際特許分類】
   G04B 15/08 20060101AFI20240410BHJP
【FI】
G04B15/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570155
(86)(22)【出願日】2022-05-12
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 EP2022062883
(87)【国際公開番号】W WO2022238524
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】00542/21
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トゥー,スアン マイ
(57)【要約】
本発明は、ロッカー(2)及び可動要素(3)と協働するがんぎ車(1)を備える機械式時計のための脱進デバイスに関し、ロッカー(2)は、抑止手段によってがんぎ車と協働し、解放手段によってテンププレート(4)と協働し、可動要素(3)は、弾性手段を備え、巻き上げ手段によってがんぎ車(1)の歯部(1.2)と協働し、かつインパルス手段によってテンプ輪プレート(4)と協働し、この省スペース型脱進デバイスは、可変バレルトルク範囲内でほぼ一定量のエネルギーをテンプ輪に供給することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械式時計のための脱進デバイスであって、
-歯部(1.2)を備えるがんぎ車(1)と、
-ロッカー(2)と、
-可動要素(3)と、
-テンププレート(4)などの、前記時計の振動子の一部を形成する少なくとも1つの部品と、を含み、
前記がんぎ車(1)は、前記ロッカー(2)及び前記可動要素(3)と協働し、
前記ロッカー(2)は、抑止手段によって前記がんぎ車と協働し、かつ解放手段によって前記振動子の一部を形成する前記部品と協働し、
前記可動要素(3)は、弾性エネルギーを蓄積するように構成された弾性手段を備え、巻き上げ手段によって前記がんぎ車(1)と協働し、かつインパルス手段によって前記振動子の一部を形成する前記部品と協働し、
-前記巻き上げ手段が、前記テンプの第1の回転方向に沿って、前記弾性手段を巻き上げるフェーズを行うように構成されており、前記インパルス手段が、前記テンプの回転中に前記テンプの少なくとも第2の回転方向に沿って、前記振動子の一部を形成する前記部品に前記可動要素(3)によって与えられるインパルスフェーズを行うように構成されており、
かつ
-前記インパルスが、前記可動要素(3)から、前記振動子の一部を形成する前記部品に直接与えられることを特徴とする、脱進デバイス。
【請求項2】
前記弾性手段を巻き上げる前記フェーズの後の前記ロッカー(2)の第1の抑止位置は、前記振動子の一部を形成する前記部品に前記可動要素(3)によって与えられた前記インパルスフェーズの後の前記ロッカー(2)の第2の抑止位置とは異なることを特徴とする、請求項1に記載の脱進デバイス。
【請求項3】
前記可動要素(3)は、前記弾性手段を巻き上げる前記フェーズの後に、前記がんぎ車(1)の歯部(1.2)によって抑止されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の脱進デバイス。
【請求項4】
前記インパルス手段は、
-前記振動子の一部を形成する前記部品から突出する少なくとも1つのフィンガ(4.3)若しくはレバー、及び/又は
-前記可動要素(3)から突出する少なくとも1つのインパルスアーム(3.2)を備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の脱進デバイス。
【請求項5】
前記巻き上げ手段は、
-前記がんぎ車(1)の少なくとも1つの歯部(1.2)、及び/又は
-前記可動要素(3)の少なくとも1つの巻き上げアーム(3.3)を備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の脱進デバイス。
【請求項6】
前記振動子の一部を形成する前記部品は、前記テンプの両方の回転方向において前記可動要素(3)から来るエネルギーを受け取ることができるダブルリフトを形成する2つのフィンガ又はレバー(4.3.1、4.3.2)を備えることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の脱進デバイス。
【請求項7】
前記可動要素(3)の前記弾性手段は、渦巻き型ばね(3.4)によって形成されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の脱進デバイス。
【請求項8】
前記可動要素(3)の前記弾性手段は、板ばね(3.5)によって形成されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の脱進デバイス。
【請求項9】
前記可動要素(3)の前記弾性手段は、いかなる物理的な回転軸もない可撓性誘導システム(3a)を形成するように、板ばねによって形成されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の脱進デバイス。
【請求項10】
前記振動子の一部を形成する前記部品は、テンププレート(4)であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の脱進デバイス。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の脱進デバイスが設けられた時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式時計のための定エネルギー脱進デバイスに関する。この脱進デバイスは、バレルの可変トルク範囲内で実質的に一定量のエネルギーをテンプに提供することができる。
【背景技術】
【0002】
機械式振動子の周波数をできるだけ安定させるためには、テンプの振動の振幅をできるだけ一定にしなければならないことが知られている。定エネルギー脱進デバイスは、外部擾乱がない状態でこの結果を得ることを可能にする。
【0003】
定エネルギー脱進デバイスが知られている。
【0004】
Charles Grosによる書籍「clock and watch escapements」、Watchmakers editions January 2013、ページ349~359では、時計のためのいくつかのタイプの定エネルギー脱進機が示されている。
【0005】
これらの脱進機は、以下の欠点を有する。
-多数の構成要素が使用され、これにより、結果として製造コストが高くなる。
-脱進機の表面及び/又は高さが大きく、これにより、小容積の時計への脱進機の一体化が複雑になる。
【0006】
フランス特許公開第1009853(A)号は、2つの重ね合わされたアンカー脱進機からなる定エネルギー脱進機を記載しており、がんぎ車は、同じ回転軸の周りを独立して回転し、渦巻きばね(図3)によって互いに接続されている。
【0007】
スイス特許公開第704764(A2)号も、同じ回転軸の周りを回転するいくつかの重ね合わされたホイールからなる定エネルギー脱進機を記載している(図1)。
【0008】
上述した2つの特許は、Charles Grosの書籍に記載されている脱進機について既に上に列挙したものと同じ欠点を提示している。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、バレルの可変トルク範囲内で実質的に一定のエネルギーをテンプに伝達することを可能にする新しいタイプの脱進機を提案することであり、これは、限られた数の構成要素で、かつ低減された空間要件で行われる。
【0010】
本発明の別の目的は、そのような脱進機を備えた機械式時計を提案することである。
【0011】
この目的のために、本発明の第1の態様は、機械式時計のための脱進デバイスであって、
-歯部を備えるがんぎ車、すなわち、歯付きがんぎ車と、
-ロッカーと、
-可動要素と、
-テンププレートなどの、時計の振動子の一部を形成する少なくとも1つの部品と、を含み、
がんぎ車は、ロッカー及び可動要素と協働し、
ロッカーは、抑止手段によってがんぎ車と協働し、かつ解放手段によって振動子の一部を形成する部品と協働し、
可動要素は、弾性エネルギーを蓄積するように構成された弾性手段を備え、巻き上げ手段によってがんぎ車と協働し、かつインパルス手段によって振動子の一部を形成する部品と協働し、
-巻き上げ手段が、テンプの第1の回転方向に沿って、弾性手段を巻き上げるフェーズを行うように構成されており、インパルス手段が、テンプの回転中にテンプの少なくとも第2の回転方向に沿って、振動子の一部を形成する部品に可動要素によって与えられるインパルスフェーズを行うように構成されており、
かつ
-インパルスが、特に中間要素を通過することなく、可動要素から振動子の一部を形成する部品に直接与えられることを特徴とする脱進デバイスに関する。
【0012】
上記の実施形態によれば、巻き上げ手段は、可動要素の弾性手段を巻き上げるように、すなわち、(時計、バレル、及びそのばねのエネルギーの留保部と噛み合う)がんぎ車から可動要素及びその弾性手段にエネルギーを伝達するように構成されている。衝撃手段は、可動要素から振動子の一部を形成する部品(テンププレート)に(弾性手段によって蓄積された)エネルギーを分配又は再蓄積するように設計されている。その結果、ロッカーは、振動システム(テンプ)の振動の維持に直接関与しない。また、テンプに伝達されるエネルギーは、可動要素の弾性手段によって蓄積されるエネルギーであり、このエネルギーは、可動要素の弾性手段の巻きにのみ依存し、したがって一定であり、バレルばねの巻きに依存しないことに留意されたい。
【0013】
特に、弾性手段を巻き上げるフェーズは、テンプの第1の回転方向に対応することができ、振動子の一部を形成する部品に可動要素によって与えられるインパルスフェーズは、テンプの第2の回転方向に対応することができる。
【0014】
加えて、巻き上げフェーズは、テンプの回転の影響下で行われると考えることができる。
【0015】
一実施形態によれば、可動要素は、静止位置と巻き取り位置との間で移動するように設計されている。特に、可動要素は、がんぎ車によって静止位置から巻き取り位置に移動されるように設計されている。がんぎ車によって(好ましくは直接的に)引き起こされる可動要素のこの変位は、弾性手段を巻き上げること、すなわち、弾性手段にエネルギーを蓄積させることを可能にする。更に、可動要素は、弾性手段の作用によって巻き取り位置から静止位置に移動するように設計されている。弾性手段によって引き起こされる可動要素のこの変位は、可動要素を移動させ、同時にテンププレートにインパルスを与える(エネルギーを伝達する)ことを可能にする。静止位置と巻き取り位置との間の可動要素の変位中に弾性手段によって受け取られて蓄積されるエネルギーの量は、バレルによってがんぎ車に適用されるトルクがどのようなものであれ、常に同じであることに留意されたい。
【0016】
一実施形態によれば、可動要素は、機械的停止部によって静止位置及び/又は巻き取り位置に保持される。可動要素を巻き取り位置に保持する機械的停止部が後退可能であるように計画することができる。可動要素を巻き取り位置に保持する機械的停止部は、がんぎ車の一部分、特に、がんぎ車の歯部であるように計画することができる。
【0017】
一実施形態によれば、ばね巻き上げフェーズ後のロッカーの第1の抑止(又は静止)位置は、振動子の一部を形成する部品に可動要素によって与えられたインパルスフェーズの後のロッカーの抑止(又は静止)位置とは異なる。
【0018】
一実施形態によれば、可動要素は、弾性手段を巻き上げるフェーズの後、がんぎ車の歯部によって抑止される。
【0019】
一実施形態によれば、インパルス手段は
-振動子の一部を形成する部品から突出する少なくとも1つのフィンガ若しくはレバー、及び/又は
-可動要素から突出する少なくとも1つのアームを備える。インパルス手段は、可動要素と振動子の一部を形成する部品との間で共有又は分配され、ロッカーは、この機能に直接関与しない。
【0020】
一実施形態によれば、巻き上げ手段は、
-がんぎ車の少なくとも1つの歯部、及び/又は
-可動要素の少なくとも1つの巻き上げアームを備える。巻き上げ手段は、がんぎ車と可動要素との間で共有又は分配され、ロッカーは、この機能に直接関与しない。
【0021】
一実施形態によれば、抑止手段は、
-ロッカーの少なくとも2つのアーム、及び/又は
-がんぎ車の少なくとも1つの歯部を備える。抑止手段は、ロッカーとがんぎ車との間で共有又は分配され、可動要素は、この機能に関与しない。
【0022】
一実施形態によれば、解放手段は、
-ロッカーの少なくとも1つのフォーク、及び/又は
-振動子の一部を形成する部品の少なくとも1つのフィンガ若しくはレバーを備える。解放手段は、ロッカーと振動子の一部を形成する部品(テンププレート)との間で共有又は分散され、可動要素はこの機能に関与しない。
【0023】
一実施形態によれば、振動子の一部を形成する部品は、テンプの両方の回転方向において可動要素から来るエネルギーを受け取ることができるダブルリフトを備える。
【0024】
一実施形態によれば、可動要素の弾性手段は、渦巻き型ばねによって形成されている。
【0025】
一実施形態によれば、可動要素の弾性手段は、板ばねによって形成されている。
【0026】
一実施形態によれば、可動要素の弾性手段は、板ばねによって形成されて、それにより、物理的な回転軸を有さない、又は提示しない可撓性誘導システムを形成する。この実施形態によれば、可動要素は、静止部分と、可撓性リーフによって静止部分に接続された可動要素部分とを備え、可撓性リーフは、可動要素部分の運動、特に、いかなる回転シャフトもなく、摩擦を伴う相対摺動又は枢動もなしに、可動要素部分の回転運動を可能にし、これにより、仮想回転軸が生成される。
【0027】
要約すると、可動要素の弾性手段は、
-可動要素がシャフト又は物理的回転軸上で枢動する渦巻きばね、板ばねと、
-固定部分に面する自由可動部分の移動を許可するために、好ましくは、固定部分に面する仮想回転軸の周りの自由可動部分の回転運動を許可するために、曲げることによって働く1つ以上のばねリーフ又はレバーと、とすることができることに留意されたい。
【0028】
一実施形態によれば、振動子の一部を形成する部品は、テンププレートである。
【0029】
一実施形態によれば、ロッカーは、振動子の一部を形成する第1の部品(典型的には、テンププレート)又は振動子の一部を形成する部品の第1の部分(典型的には、テンププ
レートの第1の部分)と協働することができ、可動要素は、振動子の一部を形成する第2の部品又は振動子の一部を形成する部品の第2の部分(典型的には、テンププレートの第2の部分)と協働することができる。
【0030】
換言すれば、本発明は、機械式時計のための脱進デバイスであって、
-歯付きがんぎ車又は歯部を備えるがんぎ車と、
-ロッカーと、
-可動要素と、
-テンププレートなどの、時計の振動子の一部を形成する少なくとも1つの部品と、を含み、
がんぎ車は、ロッカー及び可動要素と協働し、
ロッカーは、抑止手段によってがんぎ車と協働し、かつ解放手段によって振動子の一部を形成する部品と協働し、
可動要素は、弾性エネルギーを蓄積するように構成された弾性手段を備え、巻き上げ手段によってがんぎ車と協働し、かつインパルス手段によって振動子の一部を形成する部品と協働し、
-巻き上げ手段は、テンプの第1の回転方向に沿って、テンプの回転中に弾性手段を巻き上げるフェーズを行うように構成されており、インパルス手段は、テンプの回転中にテンプの少なくとも第2の回転方向に沿って、振動子の一部を形成する部品に可動要素によって与えられるインパルスフェーズを行うように構成されており、
-インパルスは、可動要素から振動子の一部を形成する部品に直接与えられることを特徴とする、脱進デバイスに関するものとすることができる。
【0031】
換言すれば、本発明は、機械式時計のための脱進デバイスであって、
-歯付きがんぎ車又は歯部を備えるがんぎ車と、
-ロッカーと、
-可動要素と、
-テンププレートなどの、時計の振動子の一部を形成する少なくとも1つの部品と、を含み、
がんぎ車は、ロッカー及び可動要素と協働し、
ロッカーは、抑止手段によってがんぎ車と協働し、かつ解放手段によって振動子の一部を形成する部品と協働し、
可動要素が、弾性エネルギーを蓄積するように構成された弾性手段を備え、
がんぎ車が、巻き上げ手段によって、エネルギーをがんぎ車から可動要素に伝達し、弾性手段によって蓄積されるように構成されており、
振動子の一部を形成する部品が、インパルス手段によって、弾性手段によって蓄積されたエネルギーを可動要素から振動子の一部を形成する部品に伝達するように構成されており、
-巻き上げ手段が、テンプの第1の回転方向に沿って、テンプの回転中に弾性手段を巻き上げるフェーズを行うように構成されており、インパルス手段が、テンプの回転中にテンプの少なくとも第2の回転方向に沿って、振動子の一部を形成する部品に可動要素によって与えられるインパルスフェーズを行うように構成されており、
-インパルスが、可動要素から振動子の一部を形成する部品に直接与えられることを特徴とする、脱進デバイスに関し得る。
【0032】
本発明の別の態様は、第1の態様による脱進デバイスが設けられた時計に関する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明の特徴及び利点は、添付の図面を参照して、以下の記載から明らかになるであろう。
図1】本発明による脱進デバイスの実行例の形態を示す。
図2a図1の脱進デバイスの第1の抑止位置を示す。
図2b】テンプが第1の回転方向、特に、反時計回り方向に回転するときの、係合解除後の図1の脱進デバイスの状況を示す。
図2c】テンプが第1の回転方向に回転している間の、図1の脱進デバイスの第2の抑止位置を示す。
図3a】テンプが第2の回転方向、特に、時計回り方向に回転している間の、図1の脱進デバイスの第2の抑止位置を示す。
図3b】テンプが第2の回転方向に回転するときの、係合解除後の図1の脱進デバイスの状況を示す。
図3c】インパルスが可動要素3によってテンププレートに与えられた後の、図1の脱進デバイスの異なる可動要素の位置を示す。
図4a図1の脱進機のテンププレートを示す。
図4b図1の脱進機のテンププレートの代替的な実行例を示す。
図4c図4bのテンププレートの代替的な実行例による、ばね3.4の巻き上げフェーズを示す。
図5】本発明による脱進機の第2の代替的な実行例を示す。
図6】本発明による脱進機の第3の代替的な実行例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明による脱進デバイスの実行例の一形態が図1に示されている。図1による脱進デバイスは、以下を備える。
-巻き上げ手段の一部を形成する歯部1.2を備えるがんぎ車1であって、図示されていない伝達ホイール又は仕上げホイールを介してバレルによって駆動される、がんぎ車1。このがんぎ車1は、軸1.1を中心に反時計回りに回転する。
-抑止手段及び解放手段を含む、軸2.1を中心に枢動するロッカー2。このロッカーの動きは、制限停止部B1及びB2によって制限される。
-軸3.1を中心に枢動する可動要素3であって、時計の静止部分と可動要素3との間に取り付けられたばね3.4と、インパルス手段の一部を形成する第1のインパルスアーム3.2と、上述の巻き上げ手段の一部を形成する第2の巻き上げアーム3.3とを含む、可動要素3。この可動要素3の移動は、制限停止部B3によって制限される。
【0035】
図示された実施例では、ロッカー2は、フォーク2.4で終端するロッドを備えた非対称アンカーの一般的な形状を有することができる。抑止手段は、アンカーの2つのアーム2.2及び2.3に対応するか、又はアンカーの2つのアームの一部を形成することができ(取り付けられたパレットも設けることができる)、一方、解放手段は、フォーク2.4又は特にフォーク2.4のホーンに対応することができる。
【0036】
テンププレート4に関して、いくつかの文献では、脱進デバイスの一部を直接形成しないが、本出願では、それは、脱進機システムに含まれるとみなされる。そのため、テンププレート4も図1に示されている。このテンププレート4は、軸4.1を中心に枢動し、解放手段(ここでは、フィンガ又はレバー4.2の形態である)及びエネルギー受取手段4.3を備え、これらのエネルギー受取手段4.3は、上述のインパルス手段の一部を形成している。図示の実施例では、解放手段はフィンガ又はレバー4.2とすることができ、フィンガ又はレバーは、テンププレート4の周囲から突出し、インパルス手段の一部を形成するエネルギー受取手段4.3は、テンププレート4の周囲から突出する別のフィンガ又は別のレバーを形成することができる。なお、このローラ4は、時計の振動子デバイスの一部、特に、時計のばね仕掛けテンプ組立体の一部も形成する。
【0037】
以下の図は、本発明による脱進デバイスの主な動作ステップを記載する。
【0038】
図2a~図2cは、がんぎ車によって弾性位置エネルギーを可動要素3のばね3.4に巻き上げるか又は提供するフェーズの異なるステップを示す。
【0039】
図2aは、図1の脱進デバイスの第1の抑止位置を示す。
【0040】
この位置では、がんぎ車の歯部が抑止手段(ロッカー2のアーム2.3)上に静止し、ロッカーの移動が停止部B1によって制限される。可動要素3のインパルスアーム3.2は、ばね3.4の戻りトルクの影響下で停止部B3上に静止する。第1の回転方向、この場合は図2aの反時計回り方向に回転するテンプ4は、係合解除の直前の位置にある。
【0041】
図2bは、係合解除後の状況を示す。がんぎ車1のトルクの影響下で、可動要素3は時計回り方向に回転し、ばね3.4に弾性位置エネルギーを提供する。この実行例では、アーム3.2は、ばね3.4の巻き上げ中にテンププレート4に接触しないことに留意されたい。
【0042】
図2は、図1の脱進デバイスの第2の抑止位置を示す。
【0043】
この位置では、がんぎ車1の歯部が抑止手段(ロッカー2のアーム2.2)上に静止し、ロッカーの移動が停止部B2によって制限される。可動要素3のアーム3.3は、がんぎ車1の別の歯部によって抑止される。
【0044】
2つの抑止位置の間で、可動要素3は、ある角度αだけ移動され、がんぎ車によってばね3.4に提供されるエネルギーは、次のとおりである。
E=1/2.k.α
kはばねの定数である。
【0045】
図3a~図3cは、ばね3.4からテンプへのエネルギー伝達フェーズの異なるステップを示す。
【0046】
図3aは、(図2cと同様に)図1の脱進デバイスの第2の抑止位置を示す。しかしながら、図2cとは異なり、テンププレート4は、第2の回転方向、この場合は時計回り方向に回転し、係合解除の直前の位置にある。
【0047】
図3bは、係合解除後の状況を表す。ロッカー2は、第2の抑止位置から第1の抑止位置に移動し、これにより、がんぎ車1及び可動要素3のアーム3.3を解放する。可動要素3のアーム3.2は、ばね3.4のトルクの影響下で、テンププレート4のエネルギー受取手段4.3にインパルスを与え、このインパルスは、直接型であること、すなわち、アーム3.2が、中間要素を通過することなく、テンププレート4にトルクを直接伝達することに留意されたい。
【0048】
図3cは、インパルスフェーズが可動要素3によってテンププレート4に与えられた後の脱進デバイスの異なる可動要素の位置を示す。
【0049】
したがって、がんぎ車のトルクがばね3.4のトルク以上である場合、テンプは常に、ばね3.4から来る同じ量のエネルギーを最も近い伝達効率で受け取る。換言すれば、インパルスエネルギーは、ロッカー2(アンカー)によってではなく、ばね3.4によって直接伝達される。
【0050】
所望の目的が達成されていることが観察され、本発明による脱進デバイスは、バレルの
可変トルク範囲内で、実質的に一定量のエネルギーをテンプに提供することを可能にする。本発明によるデバイスは、先行技術で知られているデバイスと比較して少ない構成要素しか必要とせず、更に、その空間要件は非常に小さく、それにより、デバイスを小容積の時計に容易に組み込むことが可能になる。
【0051】
図4b及び図4cは、本発明による脱進機の代替的な実行例を示す。
【0052】
図4aは、図1の脱進機のテンププレート4を示し、このテンププレート4には、解放手段(フィンガ又はレバー4.2)及びエネルギー受取手段(フィンガ又はレバー4.3)が設けられ、これらは、それぞれ、説明したように、テンププレート4の周縁部から突出するフィンガ又はレバーの形態をとる。
【0053】
図4b及び図4cでは、テンププレート4のエネルギー受取手段は、2つのフィンガ又はレバー4.3.1及び4.3.2を備え、これにより、「ダブルリフト」を形成する。それらの部分の係合解除受取手段は、変更されないままであり、テンププレート4の周縁部から突出するフィンガ又はレバーのフィンガ又はレバーt4.2の形態をとる。
【0054】
図2bは、ばね3.4を巻き上げるフェーズ中、アーム3.2がテンププレート4と接触しないことを示している。可動要素3の慣性が小さいと仮定すると、ばね3.4を巻き上げるフェーズ中のがんぎ車1の移動は、テンププレート4と噛み合うロッカー2の移動よりも速くすることができる。この脱同期は、脱進デバイスが第2の抑止位置に位置決めされているときに脱進デバイスの不安定性を引き起こすことがある。
【0055】
がんぎ車1の移動をロッカー2の移動と同期させるために、図4bに示されるテンププレート4を有利に使用することができる。この代替的な実行例では、第1のフィンガ又はレバー4.3.1は、ばね3.4を巻き上げるフェーズ中に、すなわち、テンプの第1の回転方向に回転中に可動要素3のアーム3.2と接触する。第2のフィンガ又はレバー4.3.2は、テンプが第2の回転方向に回転するとき、係合解除後にばねからエネルギーを受け取るために使用される。
【0056】
図4cは、テンププレート4の新しい変形例を用いた、ばね3.4を巻き上げるフェーズ中の本発明による脱進デバイスを示す。
【0057】
図5は、本発明による脱進機の第2の代替的な実行例を示す。
【0058】
この新しい実行例では、渦巻きばね3.4は、可動要素3のスロットに係合された板ばね3.5に置き換えられる。
【0059】
図6は、本発明による脱進機の第3の代替的な実行例を示す。
【0060】
この第3の代替的な実行例では、先の図の軸3.1上で枢動する可動要素3が、物理的な回転軸を有さない可撓性誘導システム3aに置き換えられる。実際には、可動要素3のアーム3.2及び3.3は、上述した巻き上げフェーズ及びインパルスフェーズを可能にする板ばねによって時計の静止部分に接続されている。
【0061】
添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される本発明の異なる実施形態に対して、当業者に明らかな様々な修正及び/又は改善を行うことができることが理解されよう。
【0062】
特に、ロッカーは任意の形状を有することができ、アンカーに限定されない。
【0063】
最後に、可動要素は、テンプの任意の部分に、又は振動子の一部を形成する別の部品にさえインパルスを与えることができ、必ずしもテンププレート上に形成されたフィンガ又はレバーにインパルスを与える必要はない。例えば、歯付きセクタ又は歯付き部分を設けることができる。換言すれば、インパルス手段は、可動要素から、テンプ又はテンププレートなどの、振動子の(好ましくは、振動する)部品にインパルスを与えるように設計することができる。
図1
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図5
図6
【国際調査報告】