(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-17
(54)【発明の名称】血管化生体組織を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240410BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20240410BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20240410BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240410BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20240410BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240410BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240410BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240410BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20240410BHJP
A61L 27/28 20060101ALI20240410BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240410BHJP
A61K 35/44 20150101ALI20240410BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240410BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240410BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/077
C12N5/0793
C12M1/00 A
C12N11/02
A61L27/38 100
A61L27/22
A61L27/38 200
A61L27/50 300
A61L27/40
A61L27/50
A61L27/28
A61L27/20
A61K35/44
A61K35/12
A61K47/42
A61K47/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513553
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2022061249
(87)【国際公開番号】W WO2022233680
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】102021111956.1
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(71)【出願人】
【識別番号】523422510
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート デ ザールラント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAET DES SAARLANDES
【住所又は居所原語表記】Campus, 66123 Saarbruecken, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(72)【発明者】
【氏名】ツィンマーマン、ハイコ
(72)【発明者】
【氏名】ゲップ、ミィヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー、ベンヤミン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B065
4C076
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC03
4B033NA16
4B033NB44
4B033NB47
4B033NB48
4B033NB57
4B033NB58
4B033ND12
4B065AA91X
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4B065BC41
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4C076CC09
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4C076FF32
4C076FF34
4C081AB00
4C081AB13
4C081AB31
4C081BA12
4C081BA13
4C081CD011
4C081CD041
4C081CD112
4C081CD151
4C081CD34
4C081DA04
4C081DC03
4C081EA01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA02
4C087MA05
4C087MA65
4C087NA14
4C087ZC80
(57)【要約】
血管化生体組織を製造する方法は、支持ポリマーの複数の相互接続されたフィラメント11からネットワーク構造を製造するステップ、ネットワーク構造をタンパク質材料でコーティングするステップ、コーティングされたネットワーク構造に内皮細胞2、2A及び組織形成生体細胞3を集合させるステップ、並びに血管化組織1が形成されるように、フィラメント11を溶解するステップを含む。血管化組織1は、例えば、心筋細胞、肝細胞、腎細胞、神経細胞及び/又は膵細胞を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管化生体組織(1)を製造する方法であって、
-支持ポリマーの複数の相互接続されたフィラメント(11)からネットワーク構造(10)を製造するステップ、
-前記ネットワーク構造(10)をタンパク質材料(12)でコーティングするステップ、
-コーティングされた前記ネットワーク構造(10)に内皮細胞(2、2A)及び組織形成生体細胞(3)を集合させるステップ、並びに
-前記血管化組織(1)が形成されるように、前記ネットワーク構造(10)の前記フィラメント(11)を溶解するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
-前記ネットワーク構造(10)の前記製造するステップは、分解性マトリックス材料(21)でコーティングされた担体基材(20)上に前記フィラメント(11)を堆積させること、及び続いて前記担体基材(20)から前記ネットワーク構造(10)を分離させることを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
-前記ネットワーク構造(10)が前記担体基材(20)から分離する前に、前記ネットワーク構造(10)を前記タンパク質材料(12)でコーティングするステップ、及びコーティングされた前記ネットワーク構造(10)に前記内皮細胞(2、2A)及び前記組織形成生体細胞(3)を集合させるステップによって、ネットワーク構造-細胞複合体(4)を形成するステップであって、前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)内の前記フィラメント(11)の横断面(13)が前記担体基材(20)に接触する、ステップ、
-前記担体基材(20)から前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)を分離させるステップ、
-前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)内の前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が少なくとも部分的に互いに接触するように、前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の折り畳みにより多層(5)を形成するステップ、並びに
-折り畳まれた前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)を固定し、続いて、前記ネットワーク構造(10)を溶解するステップ
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の前記折り畳みは、
-前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が露出している前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の表面が互いに接触するように、前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)を細長い保持要素(30)に吊り下げること、
-前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が露出するように、前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)を折り畳み基材(40)上に配置し、且つ、前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が露出する前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の表面が互いに接触するように、前記折り畳み基材を変形させること、又は
-前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が露出するように、前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)を折り畳み工具(50)上に配置し、且つ、前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が露出する前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の表面が互いに接触するように、前記折り畳み工具を動作させること
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
-前記ネットワーク構造(10)は、前記ネットワーク構造(10)の範囲に垂直な所定の基準面(6)に対して鏡面対称に形成され、且つ
-前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の前記折り畳みは、前記基準面(6)に沿って行われる、
請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
-前記ネットワーク構造(10)が前記担体基材(20)から分離された後に、前記ネットワーク構造(10)が前記タンパク質材料(12)でコーティングされ、且つコーティングされた前記ネットワーク構造(10)に前記内皮細胞(2、2A)及び前記組織形成生体細胞(3)を集合させる、
請求項2に記載の方法。
【請求項7】
-前記ネットワーク構造(10)の前記製造するステップは、固体担体基材(20)に結合しない前記フィラメント(11)の3D堆積を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
-前記フィラメント(11)の前記3D堆積は、前記支持ポリマーの3D凍結プリントを含む、
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
-前記フィラメント(11)の前記3D堆積は、カニューレデバイスによる担体材料への前記支持ポリマーの押出を含む、
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
-前記カニューレデバイスは、前記支持ポリマー及び前記内皮細胞(2、2A)が同時に前記担体材料に導入される同軸カニューレを含む、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
-前記支持ポリマーが、アルギネート、別のウロン酸系多糖類、特にガラクツロン酸、及び/又はタンパク質系支持ポリマー、特にゼラチンを含む特徴、及び
-前記支持ポリマーが、アルギン酸リアーゼ、デキストラナーゼ、ペクチナーゼ及び/又は錯化剤、特にEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を用いて溶解される特徴
のうちの少なくとも1つを有する、
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
-血管化組織(1)の少なくとも2つの層を接続して組織ブロック(9)を形成するステップ
を更に含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
-前記血管化組織(1)又は前記組織ブロック(9)内に少なくとも1つの灌流ライン(60)を埋め込むステップであって、前記灌流ライン(60)は、可溶性材料から製造され、且つ前記血管化組織(1)又は前記組織ブロック(9)内に培養培地を供給するように配置される、ステップ
を更に含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
-前記組織形成生体細胞(3)が、心筋細胞、肝細胞、腎細胞、神経細胞及び/又は膵細胞を含む、
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織、特に心筋細胞、肝細胞、腎細胞、神経細胞及び/又は膵細胞由来の組織を製造する方法に関する。本発明の用途は、例えば生物医学、特にいわゆる組織工学である。
【背景技術】
【0002】
一般に、共通の機能を有する多数の分化した生体細胞を含む生体組織を、生物工学的方法を使用する研究目的のために、又は移植目的のために複製することが知られている。例えば、心筋細胞は、多能性幹細胞から分化させて得られ、且つインキュベータ内で培養して増殖させることができる。しかしながら、分化した細胞の蓄積を含む生体組織の従来の複製物(組織生成物)は、組織生成物の用途及びそのコストに制限をもたらす以下の欠点を有する。
【0003】
まず、天然の生体組織は、分化した細胞だけでなく、血管及び細胞外マトリックスも含んでいる。他の組織成分との組み合わせにおいてのみ、分化細胞の蓄積は、天然の生体組織の特性への適応をもたらす。したがって、生体組織の複製は、これまで、天然組織の機能を限られた範囲でしか行うことができなかった。さらに、細胞培養物内の細胞に栄養素及び酸素を最適に供給することができず且つ死滅する可能性があるため、生体組織の従来の複製物のサイズは限られている。特に、接着状態で培養する場合、生体組織の従来の複製物は、組織の自然な空間形態に最適には適合しない層形態を有することが多い。従来の組織生成物が生物有機体に埋め込まれる場合、組織生成物は、それらの組成が天然組織のものとは異なるために異物として認識されるため、望ましくない免疫応答又は拒絶反応さえも起こり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来技術の制限が回避された、生体組織を製造する改良方法を提供することである。
【0005】
生体組織を製造する方法は、特に、特性が天然組織の特性に対しよりよく適合し、より大きな寸法で製造することができ、自由に選択可能な空間形態で製造することができ、免疫応答の減少を特徴とし、より安価に製造することができ、且つ/又は組織生成物の新たな若しくは拡張された用途を可能にする組織の作製を特徴とする。
【0006】
この目的は、請求項1の特徴を有する生体組織を製造する方法によって達成される。本発明の好ましい実施形態及び用途は、従属請求項から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一般的な態様によれば、上記の目的は、血管化生体組織(vaskularisiertem biologischem Gewebe)を製造する方法によって達成される。この方法は、支持ポリマーの複数の相互接続されたフィラメントからネットワーク構造を製造するステップ、ネットワーク構造をタンパク質材料でコーティングするステップ、コーティングされたネットワーク構造に内皮細胞及び組織形成生体細胞を集合させるステップ、及び血管化組織が形成されるようにネットワーク構造のフィラメントを溶解するステップを含む。
【0008】
有利には、コーティングされたネットワーク構造によっては、支持ポリマーのフィラメントによって形成された単層又は多層体積の基材が提供される。フィラメントは、糸又は繊維又は細長いポリマー部分とも呼ばれ、例えば、不規則な分布又は規則的な分布を空間内に形成し、フィラメントは互いに接触しているか、いくつかの点又はいくつかの部分で互いに離隔している。したがって、ネットワーク構造の内面が作製され、ネットワーク構造がタンパク質材料でコーティングされ、且つ、続いて必要に応じて細胞外マトリックス(ECM)を添加して、血管細胞(例えば内皮細胞)及び組織形成生体細胞を集合させることが可能になる。フィラメントは、好ましくは多糖、例えばアルギネート、又はゼラチンから製造される。ネットワーク構造のコーティングは、特に、ネットワーク構造内のフィラメントをタンパク質材料でコーティングすることを含む。タンパク質材料は、フィラメント上の細胞の接着成長を有利に促進する。
【0009】
コーティングされたネットワーク構造に内皮細胞及び組織形成生体細胞を集合させるために、ネットワーク構造を細胞懸濁液と共にインキュベートして、細胞をフィラメントに接着的に接着し、且つ、接着した細胞を、好ましくは培養培地(栄養培地)を供給しながら培養する。好ましくは、内皮細胞は、最初にネットワーク構造に導入され、次いで内皮細胞の層(多層、単層又は準単層)が形成された後、組織形成生体細胞が導入される。
【0010】
内皮細胞は、天然組織の血管内部を形成する分化細胞である。組織が複製される生物、例えば哺乳動物、特にヒトの内皮細胞の使用が好ましい。組織形成生体細胞は、複製される組織を構成する少なくとも1つの細胞種の分化細胞である。組織形成生体細胞の分化は、好ましくは、ネットワーク構造に集合させる前に行われる。
【0011】
ネットワーク構造に細胞を集合させた後、ネットワーク構造が溶解されることが提供される。ネットワーク構造の溶解は、好ましくは、フィラメントの液体状態への化学的及び/又は熱的変換と、集合した細胞複合体からの変換された材料の洗い流しとを含む。ネットワーク構造を溶解することにより、相互接続された中空空間が細胞の複合体内に残り、該中空空間の内面が内皮細胞によって形成される。本発明者らは、これらの中空空間が、天然組織中の血管と同じように幾何学的に分布することによって、好ましくは最終組織生成物を構成する血管化組織中に血管を形成することを見出した。
【0012】
ネットワーク構造は、好ましくは、集合が完了し、且つネットワーク構造の内部容積が細胞で高密度に満たされた後に溶解される。あるいは、ネットワーク構造の内部容積が部分的にのみ充填されている場合に溶解を提供してもよく、結果、さらなる血管の成長が促進される。
【0013】
以下の利点は、本発明に従って製造された血管化組織を用いて有利に達成される。
【0014】
血管化組織の特性は、従来の組織生成物の場合よりも、対応する天然組織の特性によく適合する。血管化組織は、天然組織と区別がつかないことさえある。したがって、組織生成物を生体に移植する際の免疫応答の低下も可能である。
【0015】
さらに、従来の組織生成物のサイズ制限は、組織中の分化細胞が血管化組織中の血管を通って供給され得るという点で克服される。血管化組織は、層形態に限定されず、天然組織又は所望の移植組織の形態に適合した自由に選択可能な空間形態で製造することができる。
【0016】
本発明に係る方法は、血管化組織のコストにプラスの影響を与え、従来の組織生成物よりも高い効率で、より大きな体積且つより多くの量で製造することができる。
【0017】
本発明に従って製造された血管化組織はまた、特に研究及び移植医療、例えばモデル組織の作製における組織生成物の新規な用途を提供し、該モデル組織は、天然組織と異ならないか、又は無視できるほどしか異ならない。
【0018】
本発明は、様々な組織形成細胞と共に使用することができる。本発明の好ましい用途によれば、組織形成細胞は、心筋細胞を含み、且つ、血管化組織は、心筋組織生成物を含む。あるいは、組織形成細胞は、肝細胞、腎細胞、神経細胞又は膵細胞を含み、血管化組織は、対応して、肝組織生成物、腎組織生成物、神経組織生成物又は膵組織生成物である。血管化組織は、或いは、例えば心筋細胞及び神経細胞、又は神経細胞と組み合わせた他の細胞などの複数の細胞種を含んでもよい。
【0019】
有利には、ネットワーク構造が固体担体基材上に、又は固体担体基材に結合することなく製造される本発明の様々な実施形態が利用可能である。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、ネットワーク構造を製造するステップは、例えば多糖、特にデキストランなどの分解性マトリックス材料でコーティングされた担体基材上にフィラメントを堆積させること、及び続いて担体基材からネットワーク構造を分離させることを含む。ネットワーク構造は、担体基材によって有利に支持される。
【0021】
フィラメントを堆積させることは、フィラメントが担体基材上に構築されるように、予め製造された、例えば押出された支持ポリマーの複数のフィラメントを配置すること、及び/又は3D堆積法によって支持ポリマーを堆積させることを含む。3D堆積法は、例えば、3Dプリント法、特に支持ポリマーのフィラメントが凍結状態で形成される3D凍結プリントを含む。
【0022】
フィラメントの堆積の直前の調製ステップにおいて、担体基材をマトリックス材料でコーティングすることができる。担体基材として容器の基部が使用されることが好ましく、容器の基部は、フィラメントをコーティングし、細胞を集合させるその後のステップで、供給された成分の溶液又は懸濁液を受け、且つ、インキュベータを形成する。容器は、例えばマイクロタイタープレートなどの反応プレートの反応容器である。
【0023】
マトリックス材料は、分離層を形成する。担体基材からネットワーク構造を分離することは、マトリックス材料を溶解することを含む。マトリックス材料は、その化学的溶解度がフィラメントの溶解度と異なることが好ましい。フィラメント及びマトリックス材料は、異なる多糖類から製造されることが特に好ましい。したがって、有利には、フィラメントは、ネットワーク構造が担体基材から分離したときに最初に保持される。
【0024】
したがって、本発明のこの実施形態では、好ましくは、マトリックス材料及び支持ポリマー、特に好ましくは多糖類の2段階溶解が提供され、ここで、ネットワーク構造は、最初に担体基材から分離され、且つ、次いで、細胞の集合後、ネットワーク構造が溶解される。
【0025】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、ネットワーク構造が担体基材から分離される前に、ネットワーク構造をタンパク質材料でコーティングするステップ、及びコーティングされたネットワーク構造に内皮細胞及び組織形成生体細胞を集合させるステップによって、ネットワーク構造-細胞複合体が形成され、ネットワーク構造-細胞複合体(すなわち、ネットワーク構造-細胞複合体の外側面)中のフィラメントの横断面が担体基材に接触し、続いて、ネットワーク構造-細胞複合体を担体基材から分離させるステップ、ネットワーク構造-細胞複合体中のフィラメントの横断面が少なくとも部分的に互いに接触するように、ネットワーク構造-細胞複合体の折り畳みにより多層を形成するステップ、及び折り畳まれたネットワーク構造-細胞複合体を固定し、続いて、ネットワーク構造を溶解するステップが提供される。
【0026】
ネットワーク構造が担体基材から分離される前に、ネットワーク構造をタンパク質材料でコーティングし、且つコーティングされたネットワーク構造に集合させることによって、担体基材は、細胞が複合体中に配置されるまでその支持機能を有利に発揮し、フィラメントの配置、及び従って続いて形成される血管の配置は保持される。ネットワーク構造-細胞複合体を折り畳んで多層を形成することにより、組織生成物の空間形態の形成が有利に促進される。
【0027】
有利には、個々に又は組み合わせて行うことができる、ネットワーク構造-細胞複合体の折り畳みの異なる変形例が利用可能である。第1の変形例によれば、フィラメントの横断面が露出しているネットワーク構造-細胞複合体の表面が互いに接触するように、ネットワーク構造-細胞複合体が、例えば保持糸又は保持ロッドなどの細長い保持要素によって吊り下げられることが提供される。ネットワーク構造-細胞複合体は、細長い保持要素によって分離されたネットワーク構造-細胞複合体の表面の2つの部分が互いに対向するように、細長い保持要素で折り畳まれる。表面の部分は、有利には互いに接着して、閉じた細胞複合体が形成され、当該細胞複合体から細長い保持要素を容易に分離することができる。
【0028】
第2の変形例(「折紙」変形例)によれば、フィラメントの横断面が露出するように、ネットワーク構造-細胞複合体が折り畳み基材上に配置され、且つ、フィラメントの横断面が露出しているネットワーク構造-細胞複合体の表面が互いに接触するように、折り畳み基材が変形されることが提供される。折り畳み基材の変形は、有利には、ネットワーク構造-細胞複合体の外側面の部分が互いに接触する力効果を提供し、それによってネットワーク構造-細胞複合体の部分の接着接続が補助される。
【0029】
第3の変形例によれば、フィラメントの横断面が露出するように、ネットワーク構造-細胞複合体が折り畳み工具上に配置され、且つ、フィラメントの横断面が露出しているネットワーク構造-細胞複合体の表面が互いに接触するように、折り畳み工具が動作することが提供される。この場合も、折り畳み工具によって力が有利に加えられ、当該力の下で細胞複合体は、折り畳まれた状態で安定化される。
【0030】
特に好ましくは、ネットワーク構造は、ネットワーク構造の範囲に垂直な所定の基準面に対して鏡面対称に形成され、ネットワーク構造-細胞複合体の折り畳みは、基準線に沿って起こる。したがって、同じ形態のフィラメント部分は、折り畳み後に互いに接触して、溶解後により大きい血管径が達成される。
【0031】
本発明の代替実施形態によれば、ネットワーク構造が担体基材から分離された後に、ネットワーク構造がタンパク質材料でコーティングされ、且つ、コーティングされたネットワーク構造に内皮細胞及び組織形成生体細胞を集合させることが提供される。この場合、タンパク質材料、内皮細胞及び組織形成生体細胞のネットワーク構造への多面的な供給が容易になるという利点が得られる。
【0032】
本発明の更に好ましい実施形態によれば、ネットワーク構造を製造するステップは、好ましくは、固体担体基材に結合することのないフィラメントの3D堆積を含む。3D堆積は、例えば、高粘度担体液体又は軟質ポリマー、特に基材ブロック中で、又は予め製造されたフィラメントの層上で行うことができる。
【0033】
「3D堆積」という用語は、概して、基材結合の有無にかかわらず支持ポリマーを構築することによってフィラメントから三次元構造を製造する方法を指す。3D堆積の使用は、支持ポリマーの堆積の空間分解制御によって、血管化組織におけるフィラメント、従って血管の分布を規定することができるという特定の利点を有する。
【0034】
フィラメントの3D堆積は、有利には、支持ポリマーの3D凍結プリント(3D‐Gefrier‐Drucken)を含むことができ、支持ポリマーの溶液は、支持ポリマーの凝固点より低い温度で層ごとに構築され、且つ架橋されて、内部容積を有するフィラメントの配置が形成される。
【0035】
あるいは、フィラメントの3D堆積は、カニューレデバイスによる担体材料への支持ポリマーの押出を含み得る。特に好ましくは、カニューレデバイスは、支持ポリマー及び内皮細胞を同時に担体材料に導入することができる同軸カニューレを含む。
【0036】
支持ポリマーは、好ましくは、アルギネートを含み、支持ポリマーは、アルギン酸リアーゼを使用して溶解される。アルギネートの使用は、アルギネートの生体適合性及び細胞複合体中に血管を形成するための残留物を出さない溶解に対するその適合性のために、特定の利点を有する。代替的又は追加的に、例えばガラクツロン酸などの他のウロン酸系多糖類、又は例えばゼラチンなどのタンパク質系支持ポリマーを使用することができる。支持ポリマーは、好ましくは、アルギン酸リアーゼ、デキストラナーゼ及び/又はペクチナーゼを使用して溶解される。さらに、支持構造体を溶解するために、例えばEDTA(エチレンジアミン四酢酸)などの錯化剤を使用することができる。
【0037】
本発明の特定の利点は、血管化組織を自由に選択可能なサイズで製造できることにある。有利には、血管化組織の少なくとも2つの層が連結されて組織ブロックを形成することが提供され得る。
【0038】
本発明に係る方法は、有利には、例えば供給を改善するために、血管化組織を形成するための細胞複合体の改変を可能にする。本発明の一実施形態によれば、血管化組織を製造するための細胞複合体内、血管化組織内及び/又は組織ブロック内への少なくとも1つの灌流ラインの埋め込みが好ましくは提供され、且つ灌流ラインは、可溶性材料から製造され、培養培地を供給するように構成される。灌流ラインは、例えば、血管化組織の第1の培養段階において、血管化組織における細胞増殖を補助するために培養培地の供給を増加させることを可能にし、灌流ラインは、血管化組織の後の培養段階又はその使用中に、内血管が十分に厚いときに溶解され得る。
【0039】
本発明のさらなる詳細及び利点を、添付の図面を参照して以下の本文で説明する。図面を、以下に概略的に示す。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の一実施形態による血管化組織を製造する方法の特徴を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態による血管化組織を製造する方法の特徴を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態による血管化組織を製造する方法の特徴を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態による血管化組織を製造する方法の特徴を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態による血管化組織を製造する方法の特徴を示す図である。
【
図6】本発明のさらなる実施形態による血管化組織を製造する方法の特徴を示す図である。
【
図7】本発明のさらなる実施形態による血管化組織を製造する方法の特徴を示す図である。
【
図8】本発明のさらなる実施形態による血管化組織を製造する方法の特徴を示す図である。
【
図9】本発明のさらなる実施形態による血管化組織を製造する方法の特徴を示す図である。
【
図10】埋め込み灌流ラインを有する血管化組織の製造を示す図である。
【
図11】組織ブロックの形態の血管化組織の製造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施形態の特徴を、例として、血管化された心筋細胞組織の製造を参照して以下の本文で説明する。実際の本発明の実施は、心筋細胞での用途に限定されず、例えば、肝細胞、腎細胞、神経細胞及び/又は膵細胞などの他の細胞型でも可能であることが強調される。使用される内皮細胞及び心筋細胞の特定の細胞型、例えば多能性幹細胞からの分化及びそれらの培養による調製物の詳細は、それら自体が先行技術から公知であるので記載されない。
【0042】
図は、各々が少数のフィラメント又は少数の血管の領域におけるネットワーク構造又は血管化組織の単層又は2層の詳細を示す拡大断面図によって本発明の実施形態を示す。実際には、本発明は、かなり多くのフィラメント又は血管及び/又はより多くの層又はネットワーク構造の空間形態を含むことができる広範なネットワーク構造で実施される。
【0043】
血管化された生体組織は、例えば、溶液及び/又は懸濁液を供給するためのデバイスを有するインキュベータを使用するなど、実験室でのバイオテクノロジー作業又は工業生産からそれ自体知られている技術を使用して製造される。
【0044】
図1~
図5は、血管化組織を作製するための本発明に係る方法の第1の実施形態を示し、内皮細胞及び心筋細胞を有するネットワーク構造及びその集合体の製造は、固体担体基材上で行われる。
【0045】
図1A及び
図1Bは、例えばアルギネートなどの支持ポリマーの複数の相互接続されたフィラメント11からのネットワーク構造10の製造、及び例えばフィブロネクチン又はラミニンなどのタンパク質材料12によるネットワーク構造10のコーティングを示す。
【0046】
好ましくは平面を有する固体担体基材20は、例えばPMMA又はガラスから製造される。担体基材20は、例えば、マイクロタイタープレート(マイクロウェル)のウェルの基部によって形成され、且つ、例えばデキストランなどのマトリックス材料21でコーティングされる。マトリックス材料21の好ましくは閉鎖した層の厚さは、例えば10μmである。
【0047】
図の断面図に示され、且つ互いに接触し、且つ/又は図面の平面外で交差することができるフィラメント11は、
図1Aに従って、例えば、沈降アルギネートフィラメントの予め製造されたネットワークの形態で、又は不規則な分布若しくは規則的な分布で担体基材10上に3D堆積することによって配置される。フィラメント11の横断面13は、コーティングされた担体基材20に接触し、フィラメント11間に間隙14が残る。アルギネートフィラメント11の直径は、好ましくは、50μm~500μm、又は更には500μmを超える範囲で選択される。間隙14は、100μm~500μmの範囲のサイズを有する。
【0048】
図1Bによれば、タンパク質材料12は、例えば、コーティングされた担体基材20の上の周囲溶液から、又はフィラメント11及びマトリックス材料21の露出領域上の目的の液滴堆積によって堆積される。
【0049】
次に、
図2によれば、ネットワーク構造-細胞複合体4の形成が行われる。この目的のために、フィラメント11及びマトリックス材料21の露出領域には、最初に、第1のタイプの内皮細胞2を接着的に接着するように集合させる(
図2Aを参照)。細胞は、コーティングされた担体基材20及びフィラメント11を覆う懸濁液から供給される。内皮細胞2の閉鎖した層(単層又は多層)が形成されていることが好ましい。必要に応じて、フィラメント11及び/又はフィラメント11間の領域には、例えば平滑筋細胞などの第2の種類の細胞2Aを更に集合させる(
図2Bを参照)。2種類以上の内皮細胞を用いることにより、天然組織におけるものと同様に血管壁の組成を有利に形成することができる。必要に応じて、培養培地の供給を伴う担体基材20上の接着状態の内皮細胞2、2Aの培養を提供することができ、ここで内皮細胞2、2Aは増殖する。
【0050】
次いで、例えば心筋細胞などの組織形成細胞3を内皮細胞2、2A上に配置する(
図2C参照)。心筋細胞は、コーティングされた担体基材20及び内皮細胞2、2Aが設けられたフィラメント11を覆う懸濁液から再び供給される。組織形成細胞3は、フィラメント11及びフィラメント11間の領域にわたって延びる閉鎖した層を形成する。このようにして製造されたネットワーク構造-細胞複合体4の全体の厚さは、例えば5mmである。
【0051】
ネットワーク構造-細胞複合体4は、担体基材20から分離される。この目的のために、マトリックス材料21は、フィラメントの支持ポリマーではなくマトリックス材料21を溶解する、例えばデキストラナーゼなどの溶媒の供給によって溶解され、ネットワーク構造-細胞複合体4は、担体基材20から分離する(
図3Aを参照)。
【0052】
ネットワーク構造10は、好ましくは、
図3Aに概略的に示されるように、ネットワーク構造10の範囲に垂直な所定の基準面6に対して鏡面対称に形成される。ネットワーク構造-細胞複合体4を基準面で折り畳むことにより(
図3Aの矢印参照)、折り線7に対して同じ位置にあり、同じサイズのフィラメントが一致する(
図3B参照)。担体基材20との接触の結果として側面で最初に扁平であったフィラメント11から、全ての側面が丸みを帯び、且つ断面形態が、形成されるべき血管の断面形態に適合する形成されたフィラメントが存在する。折り畳み状態では、ネットワーク構造-細胞複合体4の互いに接する表面同士が接合され、それによってネットワーク構造-細胞複合体4が固定される。
【0053】
基準面6に対する対称性は、本発明の必須の特徴ではない。非対称分布の場合であっても、自己組織化プロセスの結果として、ネットワーク構造-細胞複合体4の折り畳みは、後続の血管化(Vaskularisierung)のために提供される接触フィラメント11の分布をもたらす。
【0054】
続いて、ネットワーク構造10の溶解が行われ、血管化組織1が形成される(
図3C参照)。ネットワーク構造10の溶解は、例えば、アルギン酸リアーゼを供給することにより行われる。結果として、血管化組織1は、組織形成細胞3から構成され、その複合体中には、フィラメントの溶解後に中空空間が残る。中空空間は、血管化組織1内に血管8を形成するように、互いに接続されている。血管8の内壁は、内皮細胞2、2Aによって形成される。
【0055】
図4及び
図5は、折り畳み基材40(
図5A)を使用して又は折り畳み工具50(
図5)を使用して、細長い保持要素30(
図4)から吊り下げることによるネットワーク構造-細胞複合体4の折り畳みの変形例を示す。
【0056】
細長い保持要素30は、例えば、ネットワーク構造-細胞複合体4が基準面6とネットワーク構造-細胞複合体4との交差線に沿って上に配置される保持糸である(
図4A参照)。フィラメント11の横断面13が露出しているネットワーク構造-細胞複合体4の表面は、互いに接触し且つ細胞-細胞接触の形成によって接続されるまで、重力の作用下で保持要素30の両側で揺動する(
図4B参照)。次いで、保持要素30を取り外し、フィラメント11を溶解して血管化組織1を形成することができる。
【0057】
折り畳み基材40は、折り畳まれていない平坦な状態(
図5Aに破線で示す)と折り畳まれた状態(
図5Aに実線で示す)との間で軸中心に旋回可能な2つの平坦なウィングを有する折り畳み式担体要素である。折り畳み基材40は、例えば、内部機械的応力によって2つの状態間で軸中心に旋回可能な弾性的に弾力的な双安定性材料からなる。折り畳み基材40によって、ネットワーク構造-細胞複合体4の2つの部分を互いに平面的に配置し、接触させることができる。ネットワーク構造-細胞複合体4は、折り畳まれていない状態の折り畳み基材40上に配置され、基準面6とネットワーク構造-細胞複合体4との交差線(
図3参照)は、折り畳み基材40の2つのウィング間の旋回軸の方向と一致する。折り畳み基材40は、共に折り畳まれた状態(矢印参照)に移行した結果として、フィラメントの横断面が露出しているネットワーク構造-細胞複合体4の表面が、細胞-細胞接触の形成によってが互いに接触し互いに接続されるように変形する。次いで、折り畳み基材40を取り外し、フィラメントを溶解して血管化組織を形成することができる。
【0058】
図5Bに係る折り畳み工具50は、折り畳まれていない平坦な状態(
図5Bに破線で示す)と共に折り畳まれた状態(
図5Bに実線で示す)との間で軸中心に旋回可能であるという点で、折り畳み基材40と同様の機能を有する。折り畳み基材40の内部応力とは異なり、折り畳み工具50は、ネットワーク構造-細胞複合体4を折り畳むために、少なくとも1つのアクチュエータ51によって動作される。
【0059】
図6~
図8は、血管化組織を製造するための本発明に係る方法の第2の実施形態を示し、該実施形態では、ネットワーク構造の製造のみが固体担体基材上で行われる。次いで、ネットワーク構造を担体基材から分離させ、タンパク質材料でコーティングし、内皮細胞及び心筋細胞を集合させる。
【0060】
図6Aは、
図1Aと同様に、マトリックス材料21でコーティングされた担体基材20上に相互距離14を有する、例えばアルギネートなどの支持ポリマーの複数の相互接続されたフィラメント11からのネットワーク構造10の製造を示す。次いで、ネットワーク構造10を担体基材20から分離させ、タンパク質材料12で全ての面をコーティングする(
図6B及び
図7A)。
【0061】
担体基材20から分離し、タンパク質材料12でコーティングされたネットワーク構造10に、内皮細胞2を集合させる(
図7B)。この目的のために、ネットワーク構造10は、内皮細胞2の懸濁液と共にインキュベータ内でインキュベートされる。
【0062】
心筋細胞懸濁液とのインキュベーションによって、フィラメント11上及びフィラメント11間に配置された内皮細胞2に心筋細胞3を集合させ、それによってネットワーク構造-細胞複合体4が形成される(
図8A)。次いで、フィラメント11の支持ポリマーが溶解され、それによって、ネットワーク構造-細胞複合体4の内部、及び従って血管化組織1が形成される。
【0063】
図9は、血管化組織を製造するための本発明に係る方法の第3の実施形態を示し、該実施形態では、ネットワーク構造及び内皮細胞及び心筋細胞による集合体の製造は、固体基材への結合ではなく、基材ブロック、例えば軟質の不完全に架橋されたアルギネート中で行われる。アルギネートは、細胞がアルギネート中で整列することができ、且つ同時にそれらの周囲から分離されるのに十分に柔らかいように形成される。次いで、ネットワーク構造を基材ブロックから分離させ、フィラメントの支持ポリマーを溶解させる。
【0064】
図9Aによれば、例えば、アルギネート又はガラクツロン酸などの支持ポリマーのフィラメント11は、カニューレによって埋め込まれる。同軸カニューレの使用が好ましく、該カニューレの内側チャネルには、支持ポリマー、特に弱く架橋されたアルギネート及び必要に応じて細胞の極性化のための細胞外マトリックス(ECM)が供給され、且つその外側チャネルには内皮細胞2がECMと共に、且つ必要に応じてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)も加えて供給される。同軸カニューレは、所定のプログラムに従って基材ブロック22内に配置され、且つ支持ポリマー及び内皮細胞2を添加剤と共に送達しながら、例えば所定の経路に沿って引き抜かれる。次いで、ECM及び必要に応じてEDTAの添加物を含む心筋細胞3が供給され、カニューレによって内皮細胞2上に配置され、その結果、ネットワーク構造-細胞複合体4が基材ブロック22内に形成される。
【0065】
さらなる方法において、ネットワーク構造-細胞複合体4は、基材ブロック22がアルギン酸リアーゼにより溶解されることによって、基材ブロック22から分離される(
図9B)。次いで、フィラメント11は、例えばペクチナーゼで溶解され、それによって血管化組織1の自由血管8が形成される(
図9C)。
【0066】
図10は、特にネットワーク構造-細胞複合体4が基材ブロック22内で培養されている間に細胞に培養培地を更に供給するために、ネットワーク構造-細胞複合体4に灌流ライン60が更に埋め込まれている、
図9に係る方法の改変を示す。灌流ライン60は、特に、ネットワーク構造-細胞複合体4の成熟及び組織化中の供給に役立ち、且つ、これらは好ましくは、例えばデキストランなどの分解性材料から製造される。例えば、透析チューブを灌流ライン60として使用することができる。ネットワーク構造-細胞複合体4が基材ブロック22から分離されるとき、灌流ライン60は、例えばデキストラナーゼによって溶解され得る。
【0067】
特に記載された実施形態の1つによる方法によって製造された血管化組織1の複数の部分は、
図11に概略的に示されているように、接続して組織ブロック9を形成することができる。接続は、ゲニピンの添加と相互接触することによって行われる。
【0068】
前述の説明、図面及び特許請求の範囲に開示されている本発明の特徴は、その様々な実施形態において本発明を実施するために、個別に及び組み合わせ又は部分的組み合わせの両方で重要であり得る。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管化生体組織(1)を製造する方法であって、
-支持ポリマーの複数の相互接続されたフィラメント(11)からネットワーク構造(10)を製造するステップ、
-前記ネットワーク構造(10)をタンパク質材料(12)でコーティングするステップ、
-コーティングされた前記ネットワーク構造(10)に内皮細胞(2、2A)及び組織形成生体細胞(3)を集合させるステップ、並びに
-前記血管化組織(1)が形成されるように、前記ネットワーク構造(10)の前記フィラメント(11)を溶解するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
-前記ネットワーク構造(10)の前記製造するステップは、分解性マトリックス材料(21)でコーティングされた担体基材(20)上に前記フィラメント(11)を堆積させること、及び続いて前記担体基材(20)から前記ネットワーク構造(10)を分離させることを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
-前記ネットワーク構造(10)が前記担体基材(20)から分離する前に、前記ネットワーク構造(10)を前記タンパク質材料(12)でコーティングするステップ、及びコーティングされた前記ネットワーク構造(10)に前記内皮細胞(2、2A)及び前記組織形成生体細胞(3)を集合させるステップによって、ネットワーク構造-細胞複合体(4)を形成するステップであって、前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)内の前記フィラメント(11)の横断面(13)が前記担体基材(20)に接触する、ステップ、
-前記担体基材(20)から前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)を分離させるステップ、
-前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)内の前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が少なくとも部分的に互いに接触するように、前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の折り畳みにより多層(5)を形成するステップ、並びに
-折り畳まれた前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)を固定し、続いて、前記ネットワーク構造(10)を溶解するステップ
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の前記折り畳みは、
-前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が露出している前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の表面が互いに接触するように、前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)を細長い保持要素(30)に吊り下げること、
-前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が露出するように、前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)を折り畳み基材(40)上に配置し、且つ、前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が露出する前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の表面が互いに接触するように、前記折り畳み基材を変形させること、又は
-前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が露出するように、前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)を折り畳み工具(50)上に配置し、且つ、前記フィラメント(11)の前記横断面(13)が露出する前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の表面が互いに接触するように、前記折り畳み工具を動作させること
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
-前記ネットワーク構造(10)は、前記ネットワーク構造(10)の範囲に垂直な所定の基準面(6)に対して鏡面対称に形成され、且つ
-前記ネットワーク構造-細胞複合体(4)の前記折り畳みは、前記基準面(6)に沿って行われる、
請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
-前記ネットワーク構造(10)が前記担体基材(20)から分離された後に、前記ネットワーク構造(10)が前記タンパク質材料(12)でコーティングされ、且つコーティングされた前記ネットワーク構造(10)に前記内皮細胞(2、2A)及び前記組織形成生体細胞(3)を集合させる、
請求項2に記載の方法。
【請求項7】
-前記ネットワーク構造(10)の前記製造するステップは、固体担体基材(20)に結合しない前記フィラメント(11)の3D堆積を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
-前記フィラメント(11)の前記3D堆積は、前記支持ポリマーの3D凍結プリントを含む、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
-前記フィラメント(11)の前記3D堆積は、カニューレデバイスによる担体材料への前記支持ポリマーの押出を含む、
請求項7に記載の方法。
【請求項10】
-前記カニューレデバイスは、前記支持ポリマー及び前記内皮細胞(2、2A)が同時に前記担体材料に導入される同軸カニューレを含む、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
-前記支持ポリマーが、アルギネート、別のウロン酸系多糖類、特にガラクツロン酸、及び/又はタンパク質系支持ポリマー、特にゼラチンを含む特徴、及び
-前記支持ポリマーが、アルギン酸リアーゼ、デキストラナーゼ、ペクチナーゼ及び/又は錯化剤、特にEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を用いて溶解される特徴
のうちの少なくとも1つを有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
-血管化組織(1)の少なくとも2つの層を接続して組織ブロック(9)を形成するステップ
を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
-前記血管化組織(1)内に少なくとも1つの灌流ライン(60)を埋め込むステップであって、前記灌流ライン(60)は、可溶性材料から製造され、
且つ前記血管化組織(1)内に培養培地を供給するように配置される、ステップ
を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項14】
-前記組織ブロック(9)内に少なくとも1つの灌流ライン(60)を埋め込むステップであって、前記灌流ライン(60)は、可溶性材料から製造され、
且つ前記組織ブロック(9)内に培養培地を供給するように配置される、ステップ
を更に含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項15】
-前記血管化組織(1)及び前記組織ブロック(9)内に少なくとも1つの灌流ライン(60)を埋め込むステップであって、前記灌流ライン(60)は、可溶性材料から製造され、
且つ前記血管化組織(1)及び前記組織ブロック(9)内に培養培地を供給するように配置される、ステップ
を更に含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項16】
-前記組織形成生体細胞(3)が、心筋細胞、肝細胞、腎細胞、神経細胞及び/又は膵細胞を含む、
請求項1に記載の方法。
【国際調査報告】