(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-18
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池材料からの金属の抽出
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240411BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20240411BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240411BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20240411BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20240411BHJP
C22B 21/00 20060101ALI20240411BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20240411BHJP
C22B 3/20 20060101ALI20240411BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20240411BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240411BHJP
C22B 3/32 20060101ALI20240411BHJP
C22B 3/42 20060101ALI20240411BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20240411BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B1/00 601
C22B23/00 102
C22B3/06
C22B47/00
C22B21/00
C22B1/02
C22B3/20
C22B3/26
C22B3/44 101Z
C22B3/32
C22B3/42
C22B3/02
H01M10/54
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563289
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 FI2021050268
(87)【国際公開番号】W WO2022219221
(87)【国際公開日】2022-10-20
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523389279
【氏名又は名称】メッツォ フィンランド オーワイ
【氏名又は名称原語表記】Metso Finland Oy
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】トゥオマス ヴァン デル メール
(72)【発明者】
【氏名】マリカ ティーホネン
(72)【発明者】
【氏名】アヌーカ マキネン
(72)【発明者】
【氏名】ニコ イソマキ
(72)【発明者】
【氏名】ロシャン ブダトーキ
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA05
4K001CA11
4K001DB16
4K001DB26
4K001DB30
5H031EE01
5H031EE02
5H031EE03
5H031HH03
5H031HH06
5H031RR02
(57)【要約】
本発明は、リチウムイオン電池のブラックマスから金属を抽出する方法に関し、前記ブラックマスは電池のアノード材料およびカソード材料を含有し、前記カソード材料はリチウム、ニッケル、およびコバルトを含む。さらに、本発明は、この方法の使用に適した装置に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池のブラックマスから金属を抽出する方法であって、前記ブラックマスは電池のアノード材料およびカソード材料を含有し、前記カソード材料は、リチウム、ニッケル、およびコバルトを含み、前記方法は、
(a)1つ以上の前処理ステップであって、非金属材料の画分は、前記ブラックマスから分離され、アノード材料およびカソード材料を含有する前処理されたブラックマスが回収される、ステップと、
(b)1つ以上の浸出ステップであって、抽出剤として二酸化硫黄と分子状酸素を含有するガスとを酸浸出ステップにさらに添加することによって、硫酸を含有する溶液中で実行される酸浸出ステップを含み、それによって、前処理されたブラックマスのカソード材料が溶解され、溶解したカソード材料を含有する浸出溶液が回収される、ステップと、
(c)金属分離ステップであって、金属材料の初期画分が前記浸出溶液から分離され、コバルト、ニッケルおよびリチウムのうちの少なくとも1つを含む主要画分が回収される、ステップと、
を含む、リチウムイオン電池のブラックマスから金属を抽出する方法。
【請求項2】
ブラックマスから金属を抽出するために使用され、前記カソード材料は、リチウム、ニッケル、およびコバルト、ならびに任意選択的にマンガンおよびアルミニウムの一方または両方を、酸化物の形態で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記前処理ステップは、洗浄もしくは加熱、またはその両方の1つ以上のステップを含み、前記加熱は、好ましくは熱分解または蒸発をもたらすために行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記前処理ステップは、前記ブラックマスから有機化合物などの非金属成分を分離させるために実行され、その結果、前処理されたブラックマスは、3重量%未満、好ましくは1.5重量%未満の有機化合物を含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記浸出ステップにおいて使用される分子状酸素を含有するガスは、O
2またはO
3の形態で酸素を含有するガスまたはガス混合物であり、前記ガスは、好ましくは空気またはO
2の形態の分子状酸素であり、好ましくは空気である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記二酸化硫黄と分子状酸素を含有するガスとは、前記酸浸出ステップにおいて0.5:1~1.5:1のレベル、好ましくは0.7:1~1.3:1のレベルに調整されたSO
2:O
2の体積比で添加される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸浸出は、単一ステップで行われ、任意選択で追加の金属含有固体またはスラリーと混合された、前処理されたブラックマスを、前記酸および前記抽出剤の両方を含有する溶液中に分散させることによって進行する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸浸出ステップは、50℃超、好ましくは50~95℃、より好ましくは60~90℃の温度で実行される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記酸浸出ステップは、大気圧またはわずかに加圧された100~200kPaの圧力で実行される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属分離ステップは、前記浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するための1つ以上のステップが先行して行われる、コバルト、ニッケルおよびリチウムのイオンのうちの少なくとも1つを含有する金属材料の主要画分を回収するための1つ以上のステップを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記金属分離ステップは、前記浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するための1つ以上のステップを含み、前記金属材料の初期画分は、鉄、アルミニウム、カルシウムおよびフッ化物イオンのうちの少なくとも1つおよび任意選択的にリン酸イオンを含み、前記初期画分は、好ましくは鉄、アルミニウム、カルシウムおよびフッ化物イオンのうちの2つ以上、より好ましくは3つまたは4つ、最も適切にはすべてを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記金属分離ステップは、前記浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するための1つ以上のステップを含み、前記ステップは、前記浸出溶液から鉄およびアルミニウムなどの不純物を除去することを目的とした溶媒抽出として実行され、固体不純物を除去し前記溶媒抽出の選択性を高めるために、任意選択で固体分離が先行して行われる、少なくとも1つのステップを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記金属分離ステップは、前記浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するための1つ以上のステップを含み、前記ステップは、鉄およびアルミニウムなどの不純物、ならびに存在し得るリン酸塩を前記浸出溶液から除去することを目的とした沈殿として実行される少なくとも1つのステップを含み、好ましくはその後溶媒抽出する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記金属分離ステップは、好ましくは金属材料の他の分離または回収の前に実行される、前記浸出溶液から銅を回収するための1つのステップを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記金属分離ステップは、マンガン、コバルト、ニッケルおよびリチウムのイオンのうちの少なくとも2つを金属材料の主要画分として回収するステップ、好ましくはマンガン、コバルト、ニッケルおよびリチウムのイオンのうちの3つまたは4つ、最も適切にはすべてを回収するためのステップを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
少なくともリチウムと、マンガン、コバルト、およびニッケルのイオンのうちの1つ以上とは、前記金属分離ステップで回収され、それによって、前記マンガン、コバルト、およびニッケルの少なくとも1つは、前記リチウムより前に回収される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記金属分離ステップは、好ましくは前記浸出溶液中に存在するマンガン、コバルト、およびニッケルが回収された後に実行される、前記浸出溶液からリチウムを回収するステップを含み、例えば、リチウムを炭酸塩またはリン酸塩試薬と反応させ、任意選択でその後にさらなる変換、蒸発、または結晶化を行うことによって、前記リチウムが回収される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
コバルトおよびニッケルが同時回収ステップまたは別々の回収ステップ、好ましくは別々のステップで前記浸出溶液から回収される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ニッケルは、硫酸ニッケル溶液(NiSO
4)を生成する溶媒抽出によって、好ましくはカルボン酸官能基を有する抽出化学薬品を使用して、前記浸出溶液から回収され、適切な抽出化学薬品の一市販例はVersatic(登録商標)10であり、これは、ネオデカン酸である、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
硫酸ニッケル溶液を生成する溶媒抽出によってニッケルが前記浸出溶液から回収され、溶液は、そのまま利用されるか、または例えば、イオン交換および任意選択で結晶化によってさらに精製され、もしくは水酸化物もしくは炭酸塩として沈殿される、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ニッケルの回収と同時にまたはその直前に、好ましくはニッケルの回収の直前に、コバルトは、前記浸出溶液から回収される、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
コバルトは、硫酸コバルト溶液(CoSO
4)を生成する溶媒抽出によって、好ましくはホスフィン酸官能基などのカルボン酸官能基を有する抽出化学薬品を使用して、前記浸出溶液から回収され、適切な抽出化学薬品の一例は、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィネートとしても知られる、Cyanex(登録商標)272である、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
硫酸コバルト溶液を生成する溶媒抽出によってコバルトが前記浸出溶液から回収され、溶液は、そのまま利用されるか、または例えば、イオン交換および任意選択で結晶化によってさらに精製され、もしくは水酸化物もしくは炭酸塩として沈殿される、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記金属分離ステップは、好ましくは前記ニッケルまたはコバルトが回収される前に実行され、より好ましくはコバルト、ニッケルまたはリチウムのいずれかが回収される前に実行される、前記浸出溶液からマンガンを回収するステップを含み、前記マンガンの回収は、例えば溶媒抽出もしくは沈殿によって、または溶媒抽出とそれに続く沈殿によって、実行される、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
リチウムイオン電池のブラックマスから金属を抽出するための装置であって、前記ブラックマスは電池のアノード材料およびカソード材料を含有し、前記カソード材料はリチウム、ニッケル、およびコバルトを含み、前記装置は、
前記ブラックマスから非金属成分の画分を分離し、前記アノード材料およびカソード材料を含有する前処理されたブラックマスを回収するための1つ以上の前処理ユニット1と、
前処理されたブラックマスのカソード材料を溶解し前記溶解したカソード材料を含有する浸出溶液を回収するための1つ以上の浸出ユニット2であって、少なくとも1つの浸出ユニット2は、硫酸および抽出剤用の入口211を有する、酸浸出ユニット21の形態である、1つ以上の浸出ユニット2と、
前記浸出溶液から金属材料を分離しコバルト、ニッケルおよびリチウムのうちの少なくとも1つを含む画分を回収するための金属分離ユニット3と、
を備える、リチウムイオン電池のブラックマスから金属を抽出するための装置。
【請求項26】
前記前処理ユニット1は、前記ブラックマスから有機化合物などの非金属成分を除去するための洗浄ユニット11もしくは加熱ユニット12、またはその両方を備え、前記加熱ユニット12は、好ましくは熱分解ユニット121または蒸発ユニット122から選択される、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記浸出ユニット2、好ましくは少なくとも前記酸浸出ユニット21は、温度を調整するための手段212を備える、請求項25または26に記載の装置。
【請求項28】
前記金属分離ユニット3は、コバルト、ニッケル、およびリチウムのイオンのうちの少なくとも1つを含む金属材料の主要画分を回収するための1つ以上のユニット33、34、35、36を含み、好ましくは前記浸出溶液から初期金属画分を分離するための1つ以上のユニット31、32に先行され、最も適切には少なくとも1つの溶媒抽出ユニットを含む、請求項25から27のいずれか一項に記載の装置。
【請求項29】
請求項25から28のいずれか一項に記載の装置を使用して実行される、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池材料から、特に当該電池材料から得られるブラックマスから金属を抽出する方法に関する。このようなブラックマスは、主にカソード金属とアノード材料とを含有し、カソード金属は、通常、リチウム、ニッケルおよびコバルトを含み、さらに可能なカソード金属はマンガンおよびアルミニウムである。本発明はまた、この方法の使用に適した装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の使用はここ数年着実に増加しており、新しい電気自動車の開発が続くにつれてその重要性はさらに高まるようである。リチウムイオン電池のカソードにはいくつかの遷移金属が含有されており、これらの遷移金属は、新しい電池として再利用するため、または他の目的のために電池から回収するときに、貴重になり得る。
【0003】
これらのカソード金属を他の電池構成要素から分離するために、これまで乾式冶金プロセスが使用されてきたが、これらは環境への影響が大きい高コストのプロセスであり、金属の損失が大きくなる傾向がある。したがって、湿式冶金による分離がより一般的となった。
【0004】
リチウムイオン電池からの金属の湿式冶金分離は、カソード金属とアノード材料とを含有するブラックマスの回収を介して進行するが、そこからは配線およびプラスチックまたはスチール部品などの他の粗い固体電池構成要素はすでに除去されている。
【0005】
ブラックマスの形成後の金属回収の次のステップは、通常、例えば酸浸出を使用してカソード金属を可溶化し、場合によっては、ターゲット金属の溶解度を高めるために還元剤を使用して、ブラックマスの他の成分からカソード金属を分離することである。
【0006】
本発明者らは、試薬の選択を最適化することによって、任意選択で還元条件下での、酸浸出、およびその後の別個の金属の回収をより効率的に行い得ることを現在発見した。したがって、ブラックマスの湿式冶金処理において金属酸化物を可溶化するためのより効率的な手順を提供し得、また、結果として、方法の後続のステップにおいて金属の選択的回収をもたらし得る。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの特定の実施形態は、従属請求項で定義される。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、リチウムイオン電池材料から得られるブラックマスから金属を抽出する方法が提供され、ブラックマスは、電池のアノード材料およびカソード材料を含有する。特に、抽出される金属には、遷移金属、より具体的には、リチウム、ニッケル、およびコバルトのうちの少なくとも1つが含まれる。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、酸浸出ステップを利用することによってブラックマスから当該カソード金属を抽出する方法が提供される。
【0010】
本発明の第3の態様によれば、硫黄環境においてブラックマスから当該金属を酸浸出させることを含む方法が提供される。
【0011】
本発明の第4の態様によれば、浸出は、還元剤としてSO2を使用する還元浸出であり、さらに効率的な可溶化を提供するために分子状酸素を含むガスが使用される。
【0012】
本発明のさらなる態様によれば、本発明の方法のステップを実行する際の使用に適した装置が提供される。
【0013】
したがって、本発明の方法は、
酸浸出ステップを含む、1つ以上の浸出ステップと、
所望の遷移金属を、通常、リチウム、コバルトおよびニッケルのイオンのうちの少なくとも1つを含む画分として回収するために必要な金属分離ステップと、
を含む。
【0014】
同様に、本発明の装置は、
溶解したカソード材料を含有する浸出溶液が回収される、1つ以上の浸出ユニットと、
リチウム、コバルト、ニッケルのイオンのうちの少なくとも1つを含む画分を回収するための金属分離ユニットと、
を備える。
【0015】
したがって、本発明は、ブラックマスの金属の酸浸出におけるSO2と分子状酸素を含有するガスとの使用に関し、したがって、一般的な浸出手順と比較して、そこに含まれる遷移金属のより効率的な可溶化を提供する。
【0016】
本方法で使用される硫酸は、ブラックマス中のカソード金属の硫酸塩化の基礎を形成し、これらの金属を可溶化するのに必要である。実際、硫酸は、酸化数が最も低いカソード金属を、より溶解性の高い硫酸塩に変換することが可能である。
【0017】
分子状酸素を含有するガスは溶液の酸性度を制御し、より効率的な可溶化を実現し、SO2は特定の金属イオンをより可溶性の酸化状態に変換する。例えば、マンガンイオンおよびコバルトイオンは、少なくとも部分的に難溶性の酸化状態であるMn4+およびCo3+で存在する傾向があり、還元剤によってそれらはより可溶性の高い状態であるMn2+およびCo2+に変換される。
【0018】
還元剤がリチウムイオン電池のカソード材料からのコバルトおよびマンガンの浸出を改善するのに有益であることが過去に示されている。本発明者らは、酸の必要性を補う能力があるためSO2が還元剤の好ましい選択であることを現在発見した。二酸化硫黄は気体であるというさらなる利点を有し、それによって、水で希釈する必要がなく、また溶液中に痕跡を残さない。特に未反応の酸化剤または還元剤は、溶媒抽出回路において有害となる可能性があり得る。これは、溶媒抽出で使用される有機物が劣化して性能が低下し、使用される有機物を交換する必要性が高まるためである。
【0019】
したがって、本発明はいくつかの利点を提供する。とりわけ、硫酸塩溶液で操作し、浸出溶液のpHを適切な操作範囲に調整し、両方とも適切な速度で浸出に供給される選択した還元剤、つまり二酸化硫黄(SO2)と共に酸素含有ガスを浸出ユニットに供給することによって、高効率の可溶化が可能になる。
【0020】
金属の溶解を可能にする還元剤としての機能に加えて、SO2は、酸をも生成し、硫酸添加の必要性の一部を補う。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明による装置のユニットを示す図である。
【
図2a】本発明の2つの別個の実施形態による装置のユニットを示す図である。
【
図2b】本発明の2つの別個の実施形態による装置のユニットを示す図である。
【
図3】浸出溶液にO
2ガスを供給したときのさまざまな金属の回収に対する浸出溶液のpHの影響を示すグラフである。
【
図4】SO
2/空気混合物のガス供給を浸出溶液に供給したときのさまざまな金属の回収に対する浸出溶液のpHの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(定義)
本明細書において、「ブラックマス」という用語は、電池の構成要素を機械的に分離した後に得られるカソード材料とアノード材料との混合物を表すことを意図しており、ブラックマスは通常、ブラックマスの前処理方法に応じて、バッテリーの電解液に由来する化合物などの、有機化合物をも含有する。
「有機化合物」は、本明細書では、1つ以上の炭素原子が水素、酸素または窒素の1つ以上の原子に共有結合している分子を包含することを意図する。したがって、例えばグラファイトまたは純粋な炭素の他の同素体は、この化合物の群から除外される。定義を満たしているにもかかわらず、このクラスの化合物から除外されると一般に考えられている他の化合物には、化合物の唯一の炭素がこの群に含まれる場合、炭酸塩およびシアン化物、ならびに二酸化炭素が含まれる。
「アノード」は、通常、例えば、グラファイトまたはシリコンから形成され、これは、本発明の浸出では可溶化されないが、浸出前のブラックマス中に存在する。
「カソード材料」または「カソード金属」は、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン(Li、Ni、Co、Mn)などの金属イオンが、通常は酸化物の形態で含まれる。ブラックマス中のこれらの金属の含有量は、いずれも1~35重量%の範囲内であることが好ましい。ブラックマス中に存在し得るカソード成分の他の例としては、通常は少量ではあるが、スズ、ジルコニウム、亜鉛、銅、鉄、フッ化物、リンおよびアルミニウム(すなわち、Sn、Zr、Zn、Cu、Fe、F、PおよびAl)が含まれる。
【0023】
本発明は、リチウムイオン電池材料のブラックマスから金属を抽出する方法に関する。本方法は、
(a)1つ以上の前処理ステップであって、非金属材料の画分は、ブラックマスから分離され、アノード材料およびカソード材料を含有する前処理されたブラックマスが回収され、好ましくは浸出によってさらに処理される、ステップと、
(b)1つ以上の浸出ステップであって、抽出剤として二酸化硫黄と分子状酸素を含有するガスとをさらに添加することによって、硫酸を含有する溶液中で実行される酸浸出を含み、それによって、前処理されたブラックマスのカソード材料が溶解され、溶解したカソード材料を含有する浸出溶液が回収され、好ましくはそこから金属画分を分離することによってさらに処理される、ステップと、
(c)金属分離ステップであって、金属材料の初期画分が浸出溶液から分離され、コバルト、ニッケルおよびリチウムのうちの少なくとも1つを含む主要画分が回収される、ステップと、
を含む。
【0024】
リチウムイオン電池のブラックマスは、通常、正極材料と負極材料との両方に加え、有機化合物を含む電解質材料を含有する。本発明の目的のために、有機化合物の存在は浸出ステップ後の浸出溶液からの金属の分離を妨げ得るため、有機化合物は上記の前処理ステップによってブラックマスから除去されることが好ましい。
【0025】
例えば、1つ以上の洗浄ステップは、前処理ステップとして使用され得、好ましくは電池材料を水または有機溶媒、最も適切には水と混合することによって実行され、それによって、当該有機化合物などの、当該溶媒中に溶解または分散される材料は、ブラックマスの不溶解成分から分離され得る。あるいは、通常、熱分解または蒸発ステップとして実行される1つ以上の加熱ステップは、有機化合物を除去するために使用され得、好ましくは195~470℃の温度で実行される。さらなるオプションは、洗浄ステップと前述の加熱手順の1つとの両方を実行することである。
【0026】
したがって、前処理ステップは、好ましくは電池正極のリチウム、ニッケルおよびコバルト、場合によってはマンガンを、酸化物の形態で含有し、より好ましくは残りの有機化合物の3重量%未満のみ、最も適切には1.5重量%未満を含有する、前処理されたブラックマスを得る。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、通常任意選択の洗浄ステップで失われる、リチウムの少なくとも一つの画分は、
残りの固体から分離され非金属材料の分離画分を含有する使用済み洗浄溶液をリン酸塩試薬と反応させて、その中のリチウムをリン酸リチウムとして沈殿させるステップと、
リン酸リチウム沈殿物を残りの洗浄溶液から分離し、それを次の浸出ステップに運ばれる前処理されたブラックマスと混合するステップと、
によって回収される。
【0028】
前処理ステップの後、通常、固体/液体分離が実行され、それによって、前処理されたブラックマスは次の浸出ステップに運ばれ得、任意選択で、例えば、前処理ステップまたは金属回収ステップのいずれかからリサイクルされたリン酸リチウム沈殿物などの、追加の金属含有固体またはスラリーと混合され得る。
【0029】
本発明の一実施形態では、硫酸を含有する溶液中で実行される当該酸浸出ステップである、1つの浸出ステップのみが使用される。したがって、通常、酸浸出は、前処理されたブラックマスを酸を含有する溶液中に分散させ、抽出剤を添加し、好ましくはその後混合することによって行われる。
【0030】
浸出ステップ中の温度は、好ましくは調整可能であり、それによって、酸浸出中の温度は、最も適切には、50℃を超える温度、好ましくは50~95℃の温度、より好ましくは60~90℃の温度などの高いレベルに維持される。同様に、酸浸出中の圧力は、好ましくは大気圧、またはわずかに加圧された100~200kPaの圧力に維持される。通常、目的の遷移金属の可溶化は2~6時間以内に完了する。
【0031】
硫酸の添加は、浸出液のpHを調整するために一部使用される。したがって、浸出溶液のpHは、抽出剤を添加する前に、当該硫酸を使用して、好ましくは0~5、より好ましくは1~2のレベルに調整される。
【0032】
所望のカソード成分の効率的な可溶化は、還元剤の存在によって強く促進される。本発明では、二酸化硫黄(SO2)を使用して、洗浄されたブラックマスのコバルトおよびマンガンなどの金属をより酸化されていない状態に維持またはさらに還元する、すなわち、これらの金属イオンを溶液相に維持する。
【0033】
酸浸出に使用される分子状酸素を含有するガスは、カソード金属をより効率的に可溶化するために必要である。この酸素含有ガスは、分子酸素、すなわちO2またはO3、を、好ましくはO2の形態で、含有する、任意のガスまたはガス混合物から選択され得、主に不活性ガスと混合され得、他のガスは主に希釈剤として機能することが好ましい。例えば、ガスは、15~100体積%の酸素含有量を有し得る。通常、この酸素含有ガスは、約21体積%の分子状酸素(O2)を含有する空気、またはO2の形の純粋な分子状酸素から選択され、希釈されていない分子状酸素は、二酸化硫黄の供給量を増やす必要性を引き起こし得るため、好ましくは空気である。
【0034】
ガスの選択に関係なく、二酸化硫黄と分子状酸素を含有するガスとを、0.5:1~1.5:1のレベル、好ましくは0.7:1~1.3:1のレベルに調整されたSO2:O2の体積比で添加することが好ましい。一実施形態では、この比は、SO2の含有量がO2の含有量よりも少なくなるように0.5:1~0.99:1のレベルに調整され、より好ましくは0.7:1~0.9:1のレベルに調整される。
【0035】
酸素含有ガスおよびSO2の供給速度は、好ましくは、前処理されたブラックマス中の金属の量に基づく化学量論的供給速度と組み合わされ、最も適切には、酸化還元電位などのパラメータに基づいて微調整される。
【0036】
浸出反応が完了した後、つまり、前処理されたブラックマスが浸出条件で2~6時間といった十分な時間を費やした後、通常、カソード金属を含有する浸出溶液を回収するための固体/液体分離が実行され、それによって、別個の金属画分を回収するために、この方法の次のステップに運ばれ得る。
【0037】
本発明の一実施形態では、コバルト、ニッケルおよびリチウムイオンのうちの少なくとも1つを含む金属材料の主要画分の回収は、浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するための1つ以上のステップが先行して行われることが好ましい。金属材料の当該初期画分(または「初期金属画分」)は、通常、鉄、アルミニウム、カルシウムおよびフッ化物イオンのうちの少なくとも1つ、および場合によってはリン酸塩を含む。この手順の順序には、初期画分には不純物に属すると考えられる材料が含まれているため、金属材料の初期画分の回収用の精製溶液が提供されるという利点がある。これらの物質はまた、浸出溶液中に残った場合、その後の主要画分の回収を損なうか、少なくとも純度の低下や収率の低下を引き起こし得る。
【0038】
好ましくは、浸出溶液から金属材料の初期画分を分離するステップは、鉄、アルミニウム、カルシウムおよびフッ化物イオンのうちの2つ以上、好ましくは3つまたは4つ、最も適切にはすべてを分離するためのステップを含む。また、銅やリン酸塩もこれらの初期画分に含まれ得る。任意選択で、好ましくは他の初期画分を溶液から分離する前に、別個の銅回収ステップを実行し得る。
【0039】
通常、金属材料の初期画分の分離には、浸出溶液から鉄およびアルミニウムなどの不純物を除去することを目的とした溶媒抽出(SX)として実行され、すでに固体の形で存在する当該不純物を除去し溶媒抽出の選択性を高めるために、任意選択で固体分離が先行して行われる、少なくとも1つのステップが含まれる。
【0040】
別の代替案では、金属材料の初期画分の分離は、鉄およびアルミニウムなどの不純物と、場合によってはリン酸塩とを浸出溶液から固体画分として除去することを目的として、沈殿、例えば水酸化物沈殿として実行される、少なくとも1つのステップを含む。
【0041】
特に好ましい代替案では、金属材料の初期画分の分離は、任意選択で浸出溶液からの不純物の分離を伴う、沈殿を含み、続いて溶媒抽出が行われ、両ステップは上記の通りである。このような2段階の不純物分離の利点は、このようにして精製された浸出溶液中の鉄およびアルミニウムなどの不純物の含有量がさらに減少することである。このような初期金属画分の2段階分離において溶媒抽出の前に沈殿を行うことが特に好ましい。これによって、溶媒抽出における高い選択性が促進されるためである。
【0042】
銅が別々に回収される場合、銅はその後の回収、そしてより重要なことに製品の品質に悪影響を与える可能性があるため、この銅回収ステップは、金属材料の当該初期画分が浸出溶液から分離される前に実行されることが好ましい。
【0043】
酸浸出ステップは酸性溶液中で行われるため、第1の金属分離ステップは酸性条件に耐える必要がある。この要件は、初期金属画分の分離で満たされる。
【0044】
さらなる浸出または洗浄ステップ、溶媒抽出、沈殿、イオン交換ステップ、および電解採取ステップなどの様々な反応および手順を利用して、当該金属の分離および回収を実行し得る。しかし、初期金属画分の分離には、少なくとも1回の溶媒抽出を利用することが好ましい。これによって、残留溶液の純度が高くなり、その後の主要画分の回収、特にコバルトおよびニッケルの回収も容易になるためである。これによって、主要画分のすべての金属を、通常は電池グレードの材料として高収率かつ高純度で回収し得る。
【0045】
上述したように、金属の主要画分の回収には、コバルト、ニッケル、リチウムのイオンの少なくとも1つ、場合によってはマンガンを回収するステップが含まれるが、これらの回収順序はさまざまであり得る。
【0046】
特に、主要画分の回収には、マンガン、コバルト、ニッケルおよびリチウムのイオンのうちの2つ以上、好ましくは3つまたは4つ、最も適切にはすべてを浸出溶液から回収するステップが含まれ、リチウムはニッケルやコバルトとともに回収するのに好ましい金属の1つである。
【0047】
したがって、リチウム、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくとも1つは、任意選択でマンガンと一緒に、回収され、好ましくはマンガン、リチウム、コバルトおよびニッケルのうちの少なくとも2つ、より好ましくはこれらのうちの2つまたは3つ、最も適切にはこれらの4つすべてが回収される。通常、マンガン、コバルト、ニッケルは当該リチウムよりも前に回収される。
【0048】
したがって、リチウムの回収は、好ましくは初期金属画分の分離後に実行され、より好ましくは浸出溶液中に存在するマンガン、コバルト、およびニッケルのいずれかが回収された後にも実行される。この好ましいステップの順序を使用すると、高純度のリチウム含有溶液からリチウムを回収できる状況が得られる。
【0049】
通常、リチウムは、リチウムをその炭酸塩またはリン酸塩に反応させて、そのまま回収され得、あるいはさらに例えば結晶化させて純粋な水酸化物結晶を得ることができる水酸化リチウムに変換され得る、生成物画分を生成することによって回収される。
【0050】
リチウム回収のさらなるオプションは、溶媒抽出を使用することであり、その後、さらなる変換または結晶化を実行し得る。この手順の利点は、リチウムの回収率がさらに高いことである。
【0051】
本発明の一実施形態では、リチウムはその炭酸塩に回収され、固体/液体分離によって回収し得る生成物画分を生成し、固体生成物画分はそのまま収集されるか、あるいは例えば水酸化リチウムにさらに変換される。次に、液体画分は、リン酸塩試薬、場合によっては別の沈殿試薬とさらに反応し、その結果、その中に残っているリチウムが沈殿してリン酸リチウム沈殿物となる。この沈殿物は、例えば、それを炭酸塩またはリン酸塩生成物画分と組み合わせることによってリチウム回収されるか、前処理されたブラックマスと混合することによって、浸出ステップにリサイクルされ得る。さらなるオプションは、沈殿物の画分をこれらの各々に運ぶことである。
【0052】
上記で使用されるリン酸塩試薬は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の任意のリン酸塩から選択され得る。しかしながら、反応混合物に新たなカチオンをもたらさず、適切な反応性を有するため、リン酸ナトリウム(Na3PO4)が好ましい。
【0053】
任意選択の沈殿試薬は、溶液のpHを上昇させることによって機能し、それによって、所望のリン酸リチウムの沈殿を促進する、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤から選択されることが好ましい。
【0054】
ニッケルの回収も好ましく、特に初期金属画分の分離後に浸出溶液に対して行われ、通常、コバルトの回収と同時にまたは直後に行われ、より好ましくはコバルトの回収後、最も適切にはリチウムの回収の前に行われる。同様に、任意選択のマンガン回収の後にニッケル回収を行うことが好ましい。
【0055】
当該ニッケルの回収は、例えば溶媒抽出(SX)を使用して行われ得、これによってかなり純粋な硫酸ニッケル溶液(NiSO4)が生成される。この溶液は、例えばイオン交換(IX)によって、任意選択でさらに精製され、その後、結晶化が行われ得、あるいは水酸化物もしくは炭酸塩への沈殿または硫酸塩溶液を、例えば新しいカソード材料の調製において、結晶化や沈殿なしに、そのまま使用し得る。ニッケル回収のための任意選択の溶媒抽出は、カルボン酸官能基を有する抽出化学物質を使用して最も適切に実行され、適切な抽出化学物質の市販の一例は、ネオデカン酸であるVersatic(登録商標)10である。
【0056】
コバルトの回収もまた、初期金属画分の分離後に浸出溶液に対して行われることが好ましく、通常、ニッケルの回収と同時または直前に行われ、より好ましくはニッケルの回収前、最も適切にはまたリチウムの回収の前に行われる。同様に、任意選択のマンガン回収の後にコバルト回収を行うことが好ましい。
【0057】
当該コバルト回収の好ましいオプションは、溶媒抽出(SX)であり、これによってかなり純粋な硫酸コバルト溶液(CoSO4)が生成される。この溶液は、例えばイオン交換(IX)によって、任意選択でさらに精製され、その後、結晶化が行われ得、あるいは水酸化物もしくは炭酸塩への沈殿または硫酸塩溶液を、例えば新しいカソード材料の調製において、結晶化や沈殿なしに、そのまま使用し得る。コバルト回収のための任意の溶媒抽出は、ホスフィン酸官能基など、カルボン酸官能基を有する抽出化学物質を使用して最も適切に実行され、適切な抽出化学物質の市販の一例は、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィネートとしても知られる、Cyanex(登録商標)272である。
【0058】
金属分離ステップを進める代替方法では、上記で示したように、例えば溶媒抽出、または水酸化物もしくは炭酸塩への沈殿によってコバルトおよびニッケルは、浸出溶液から同時に回収され得、こうして硫酸塩溶液を生成し、任意選択でイオン交換(IX)によるさらなる精製を行い得る。あるいは、硫酸塩溶液は、結晶化や沈殿なしに、例えば新しいカソード材料の調製において、そのまま使用され得る。
【0059】
本発明の一実施形態によれば、金属分離ステップは、浸出溶液からマンガンを回収するステップを含み、マンガンの回収は、初期金属画分の分離後にも実行される。好ましくは、マンガンは、ニッケルまたはコバルトの前に回収され、最も適切には、ニッケル、コバルトまたはリチウムのいずれかが回収される前に、回収される。
【0060】
当該マンガン回収のオプションには、溶媒抽出、沈殿および結晶化、または溶媒抽出とそれに続く沈殿または結晶化が含まれる。特に好ましい選択肢の1つは、二酸化硫黄、SO2、および空気を使用する酸化的沈殿を利用して、酸化マンガン、MnO2を形成することである。
【0061】
本発明の方法は、方法のステップを実行するのに必要なユニットおよび設備を備えた任意の適切な器具または装置で実行され得る。
【0062】
本発明の一実施形態では、上記の方法は、
ブラックマスから非金属成分の画分を分離し、好ましくは、下流の浸出ユニット2への適切な接続を介して実施されることを意図している、アノード材料とカソード材料とを含有する前処理されたブラックマスを回収するための1つ以上の前処理ユニット1と、
前処理されたブラックマスのカソード材料を溶解し、好ましくは、下流の分離ユニット3への適切な接続を介して実施されるように意図している、当該溶解したカソード材料を含有する浸出溶液を回収するための1つ以上の浸出ユニット2であって、少なくとも1つの浸出ユニット2は、硫酸および抽出剤用の入口211を有する、酸浸出ユニット21の形態である、1つ以上の浸出ユニット2と、
浸出溶液から金属材料を分離し生成物画分としてコバルト、ニッケルおよびリチウムのうちの少なくとも1つを含む画分を回収するための金属分離ユニット3と、
を備える、
図1の装置を使用して実行される。
【0063】
本発明の一実施形態では、
図2aおよび
図2bに示す様々なオプションを使用して、前処理ユニット1は、ブラックマスから有機化合物などの非金属成分を除去するための洗浄ユニット11もしくは加熱ユニット12、またはその両方を含み、加熱ユニット12は、熱分解ユニット121または蒸発ユニット122から最適に選択される。任意選択の洗浄ユニット11は、水入口をさらに備えることが好ましい。
【0064】
浸出ユニット2は、通常、当該酸浸出ユニット21のみからなり、これは、
図2aおよび2bに示すように、硫酸および抽出剤に必要な入口211、ならびに加熱または冷却いずれかを組み込み得る温度を調整するための手段212を備えることが好ましい。
【0065】
金属分離ユニット3は、好ましくは、いくつかのサブユニットを含み、その好ましいオプションは、
図2aおよび2bに示すように、すべてのサブユニットは、通常、意図する反応を実行するために必要なさらなるサブユニット(例えば、溶媒抽出ユニット、イオン交換ユニット、沈殿ユニット、電解採取ユニット、洗浄ユニット、または固体/液体分離ユニット)、リサイクルライン、入口および出口を備える。
【0066】
好ましくは、コバルト、ニッケル、およびリチウムイオンのうちの少なくとも1つを含有する金属材料の主要画分を回収するための1つ以上のユニット33、34、35、36は、金属材料の初期画分を浸出溶液から分離するための1つ以上のユニット31、32に先行され、初期画分を分離するための当該ユニット31、32は、最も適切には、少なくとも1つの溶媒抽出ユニットを含む。
【0067】
銅が装置内で別々に回収される場合、銅回収ユニット31は、浸出溶液から初期金属画分を分離するために他のユニット32の上流に配置されることが好ましい。
【0068】
当該分離および回収を行うために、さらなる浸出または洗浄ユニット、溶媒抽出ユニット、沈殿ユニット、イオン交換ユニット、および電解採取ユニットなどの様々なタイプのユニットおよび設備を利用し得る。しかしながら、溶媒抽出ユニットが好ましい。特に、初期金属画分を分離するために少なくとも1つの溶媒抽出ユニットを利用することが好ましい。より好ましくは、溶媒抽出は、固体分離ユニットに先行され、これは、次いで、任意選択で、そのような不純物のための沈殿ユニットに先行される。
【0069】
したがって、金属材料の主要画分を回収するためのユニット33、34、35、36は、任意の適切な順序で配置された、コバルト、ニッケルおよびリチウムイオンのうちの少なくとも1つを回収するためのユニットを含む。
【0070】
本発明の好ましい実施形態では、コバルトおよびニッケルの少なくとも一方を回収するためのユニット34、35は、リチウムを回収するためのユニット36の上流に位置し、後者は、好ましくは、リチウムを対応する炭酸塩またはリン酸塩に反応させるためのサブユニットを含み、任意選択で、リチウムをさらに水酸化リチウムに変換するための、その後に結晶化サブユニットが続き得るサブユニットが続く。
【0071】
本発明の別の好ましい実施形態では、マンガンを回収するためのユニット33が装置に含まれ、コバルト、ニッケルおよびリチウムのうちの少なくとも1つを回収するユニット34、35、36の上流に位置する。
【0072】
金属分離ユニット3を選択し配置する別の方法では、コバルトとニッケルとは、同じユニット34/35で回収される。
【0073】
開示される本発明の実施形態は、本明細書に開示される特定の構造、プロセスステップ、または材料に限定されず、関連技術の当業者によって認識されるように、その均等物に拡張されることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のみに使用されており、限定することを意図していないことも理解されたい。
【0074】
本明細書全体にわたる一実施形態への言及は、その実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が本発明の少なくとも一実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な場所に現れる「一実施形態において」または「ある実施形態において」という語句は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではない。例えば、約または実質的などの用語を使用して数値に言及する場合、正確な数値も開示される。
【0075】
本明細書で使用される場合、複数の品目、構造要素、構成要素、および/または材料は、便宜上、共通のリストで提示され得る。ただし、これらのリストは、リストの各要素が別個の一意の要素として個別に識別されるかのように解釈されるべきである。さらに、本発明のさまざまな実施形態および例は、そのさまざまな構成要素の代替案とともに本明細書で参照され得る。このような実施形態、実施例、および代替案は、互いの事実上等価物として解釈されるべきではなく、本発明の別個の自律的な表現として考慮されるべきであることを理解されたい。
【0076】
さらに、記載された特徴、構造、または特徴は、1つ以上の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせ得る。
【0077】
前述の例は、1つ以上の特定の用途における本発明の原理を説明するものであるが、形態、使用法、および実装の詳細における多数の変更は、進歩性を発現させることなくおよび本発明の原理および概念から逸脱することなく、加えることができることは当業者には明らかであろう。
【0078】
下記の非限定的な例は、本発明の実施形態によって得られる利点を単に説明することを目的とする。
【実施例】
【0079】
(実施例:ブラックマスの浸出に対するpHおよびガス供給の影響)
ニッケル、コバルト、リチウム、マンガン、アルミニウム、鉄を酸化物の形態で含有するブラックマスを、温度80℃の水溶液中で8時間浸出させた。下記の表1に示すように、同一の反応器容積を使用し、硫酸を使用して調整したpHレベル0.5~3の浸出溶液を使用し、異なる浸出試薬を使用して、7つの浸出試験を実施した。
【0080】
1セットのテスト(L1~L5)では、酸素ガス供給(O2)で浸出溶液内の金属を酸化することによって浸出が実行され、別のセットのテスト(L11およびL15)では、二酸化硫黄(SO2)と空気(酸素、O2を含有する)の混合ガス供給を試薬として使用し、還元条件において、浸出が実行された。
【0081】
【0082】
これらのテストの結果は、浸出後の浸出溶液中のさまざまな金属の回収率を示しており、浸出ステップ中にpHを最適化し、ガス試薬の最適な供給を選択することによって、優れた金属収率を達成可能であることを示す。
【0083】
図3の結果が示すように、当該金属回収を最適化するには酸性条件が必要であるが、
図4は、すべての金属回収が還元性ガス混合物の使用から恩恵を受けることを示す。このような還元条件では、pHの選択に関係なく、コバルト、ニッケル、リチウム、マンガンをほぼ100%の収率で回収し得る。アルミニウムおよび鉄は、同様に、当該還元条件下でもpHの影響を強く受ける。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本方法、および当該方法での使用に適した装置は、リチウムイオン電池から得られるブラックマスから金属を回収するための従来の代替手段を置き換えるために使用され得る。
【0085】
特に、本方法および装置は、そのような電池材料からコバルト、ニッケルおよびリチウムの少なくとも1つ、ならびに任意選択でマンガンを良好な収率で回収するための経済的かつ効率的な手順を提供する。
【符号の説明】
【0086】
図(
図1および
図2を参照)に示すように、本発明の1つ以上の実施形態によれば、以下のユニットおよび入口を本発明の装置に含め得る。
【0087】
1 下記を含むまたは下記からなる前処理ユニット
11 通常、固体/液体分離サブユニットを備える、洗浄ユニット
12 例えば、下記の形態の、加熱ユニット
121 熱分解用サブユニット
122 蒸発用サブユニット
2 通常、固体/液体分離ユニットを備える、浸出ユニット、であって、
下記を含むまたは下記からなる、浸出ユニット
21 下記を含む酸浸出ユニット
211 酸および抽出剤の入口
212 温度調整手段
3 下記を含む金属分離ユニット
31 金属材料回収用オプションユニット
32 金属材料の初期画分を分離するためのユニット
33 マンガン回収用オプションユニット
34 コバルト回収ユニット
35 ニッケル回収ユニット
36 リチウム回収ユニット
【国際調査報告】