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特表2024-516957珪素含侵反応結合した混合セラミック材料の複合成形体
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  • 特表-珪素含侵反応結合した混合セラミック材料の複合成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-18
(54)【発明の名称】珪素含侵反応結合した混合セラミック材料の複合成形体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/563 20060101AFI20240411BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20240411BHJP
   C04B 35/573 20060101ALI20240411BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20240411BHJP
   B28B 1/26 20060101ALI20240411BHJP
   B28B 3/02 20060101ALI20240411BHJP
   F41H 1/02 20060101ALI20240411BHJP
   F41H 5/02 20060101ALI20240411BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C04B35/563
C04B35/577
C04B35/573
B28B1/30
B28B1/26 102
B28B3/02 P
F41H1/02
F41H5/02
A41D13/00 102
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563300
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2021059908
(87)【国際公開番号】W WO2022218540
(87)【国際公開日】2022-10-20
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523389383
【氏名又は名称】シュンク インジニアケラミク ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】SCHUNK INGENIEURKERMIK GMBH
【住所又は居所原語表記】Hanns-Martin-Schleyer Strasse 5, 47877 Willich, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108914
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 壯兵衞
(72)【発明者】
【氏名】ラース シュネッター
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ジンジャー
(72)【発明者】
【氏名】クラーラ ミナス・ペイヤムヤー
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ハインツ
【テーマコード(参考)】
3B211
4G052
4G054
【Fターム(参考)】
3B211AB04
4G052CA05
4G052CB15
4G052CC05
4G052DA02
4G052DB12
4G052DC06
4G054AA06
4G054BA02
(57)【要約】
珪素含侵反応結合した混合セラミック材料の成形複合体が、平均粒径が500μm>d50> 100μm であり、10重量%より大で50重量%未満の組成の結晶炭化硼素(B4C)の一次グレイン(1)と、d50<70μmで且つ10重量%より大で50重量%未満の組成の微細な炭化珪素の一次グレインから定められる微細構造を有する。結晶炭化硼素の一次グレインは、1重量%より大で20重量%未満となる遊離金属珪素(2)を有する炭化珪素マトリクスにおいて、珪素化処理(3)で結合されて、5重量%より大で25重量%未満の組成で、副次的生成炭化珪素を構成している。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径d50が100μmより大で500μm未満で且つ10重量%より大で50重量%未満の組成の、結晶炭化硼素(B4C)の一次グレイン(1)と、
平均粒径d50が70μm未満で且つ10重量%より大で50重量%未満の組成の、微細な炭化珪素の一次グレインと
から定められる微細構造を有し、
1重量%より大で20重量%未満となる組成の遊離金属珪素(2)を有する炭化珪素マトリクスにおいて、前記結晶炭化硼素の前記一次グレインが、珪素化処理(3)による結合によって、5重量%より大で25重量%未満の組成となる副次的生成炭化珪素を構成していることを特徴とする、珪素含侵反応結合した混合セラミック材料の成形複合体。
【請求項2】
前記結晶炭化硼素が珪素化結合されて、15重量%より大で25重量%未満の組成で前記副次的生成炭化珪素の一次グレインを構成していることを特徴とする請求項1に記載の成形複合体。
【請求項3】
前記炭化珪素は、平均粒径d50が40μm未満、特に10μm未満の前記一次グレインを構成していることを特徴とする請求項1又は2に記載の成形複合体。
【請求項4】
前記炭化珪素の前記一次グレインが構成する組成の密度勾配が、2重量%未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項5】
硼素が、0.05重量%より大で5重量%未満の組成で、前記遊離金属珪素(2)の内部に溶融されて含まれていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の成形複合体。
【請求項6】
前記複合成形体の成形が、泥漿鋳込み成形、加圧鋳造、一軸プレス、静水圧プレス、スタンピング又は手動による粉体圧縮によって行うことができることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項7】
前記複合成形体の成形は、粉体床融合3D印刷プロセスを介して行うことができることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の成形複合体。
【請求項8】
前記炭化珪素(SiC)と炭化硼素(B4C)の粉体混合物は、3次元の構成部品とするために粉体床融合方式の印刷技術において結合剤を用いて構成され、引き続き珪素化処理されることを特徴とする請求項7に記載の複合成形体。
【請求項9】
前記複合成形体の成形は板状の形態で行われることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の成形複合体。
【請求項10】
前記複合成形体の成形は、前記複合成形体の外殻の容積>200×200×200 mmとするように行われることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項11】
一又は二以上の層から成る裏地材料を更に備え、該一又は二以上の層から成る裏地材料が前記混合セラミック材料と共に圧縮されて、基本重量が32kg/m2より小か又は40kg/m2より大となるように設定され、1又は2ショットの弾薬系を選択自在に防弾する防弾装甲装備のために用いられる請求項1~10のいずれか1項に記載の成形複合体の防弾装甲装備への使用方法。
【請求項12】
前記裏地材料は、タングステン又は炭化タングステン含有銃弾の防弾用に設計されることを特徴とする請求項11に記載の複合成形体の防弾装甲装備への使用方法。
【請求項13】
前記裏地材料は、一又は二以上のプラスチックから成る少なくとも一層、特にポリエチレン又はアラミド、炭素繊維、ガラス繊維、金属またはこれらの組み合わせ或いはそのすべて、又は接合材料、特に接着フォイル、或いはそのすべてで構成されて防弾装甲装備に用いられることを特徴とする請求項11又は12に記載の成形複合体の防弾装甲装備への使用方法。
【請求項14】
前記複合成形体の成形は、人体用防弾板、シートシェル、背もたれ、それらの組み合わせ、航空宇宙用防弾装甲板を提供するために用いられることを特徴とする請求項11又は12に記載の複合成形体の防弾装甲装備への使用方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融珪素を含侵し、反応結合した混合セラミックで構成された、複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
人や車両や航空機のための防護材料(防弾材料)の分野では、重量が重要な問題になる。このため、特に鋼材による解決策(ソリューション)の代わりに、複合セラミックによる解決策が用いられている。複合セラミックを用いれば、鋼材に比して、軽い総重量で弾丸の貫通推進力を停止できるので、ユーザには快適な装着感になる。
【0003】
原則として、酸化アルミニウム、炭化珪素、焼結形状の炭化硼素材、マトリクス(母相又は基質)中に金属成分を含有する反応結合材料が着目される。反応結合材料の例として、反応結合(RB)したSiC(RB-SiC)、反応結合したB4C(RB-B4C)、RB-SiCとRB-B4Cの組み合わせ(RB-SiC/B4C)がある。炭化珪素素材と炭化硼素材、特に炭化硼素材は、最軽量の防護材を提供するが、コストが最も高くなる。最軽量の防護材であるために、これらの材料は、人に対する防護だけでなく航空機に対する防護の分野でも好都合に用いられる。人防護/人体防護の分野では、特にモノリシック素材(一体型防護素材)も用いられている。
【0004】
これらの製品の中で、一般的には、反応結合材料で作られた防護素材よりも焼結材料が、軽い防護素材を提供する。しかし、殆どの場合、反応結合材料の方が優れた価格性能比を提供する。例えば、RB-B4CはRB-SiCと効果的に併用して、NIJ4規格のような様々な脅威の種類や、焼入鋼弾芯の銃弾類を防弾することもできる。反応結合材料は、欧州だけでなく、韓国のようなアジア各国の市場を凌駕している。
【0005】
特許文献1には、WC/Co (タングステンカーバイド-コバルト)のような超硬合金製の銃弾に対して優れた防弾機能を発揮すること、特に“次世代SAPI板”に要求される優れた防弾機能を発揮することが記載されている。米国の防衛市場は世界で最大なので、効率的な防護材料に大きな関心がある。炭化タングステン弾芯の銃弾テストでは、RB-B4CとRB-SiCに限らず、焼結B4Cも今迄は一般的に性能が低かったので、殆ど焼結炭化珪素が用いられ、反応結合材料は今迄殆ど用いられていなかった。
【0006】
焼結B4Cも、炭化タングステン弾芯型の銃弾には不十分である。何故ならば、貫通体材料の硬度が高く、且つ高速度であることが、炭化硼素材の非晶質化を誘発するからである。非晶質化が誘発されることは、例えば、非特許文献1に記載されている。非晶質化の誘発により、防弾材料としての性能が低下する。
【0007】
米国市場では一般的であるが、非炭化タングステン弾芯の脅威に対してRB-B4Cの材料が頻繁に用いられることが、例えば、特許文献2に記載されている。このことから、炭化タングステン製のいわゆる運動エネルギー弾に対する適性は、米国市場で入手可能な通常の反応結合材料には欠けていることが分かる。
【0008】
更に、使用する防護材料の大半は、特許文献3に記載されているような微細な粒子サイズを有している。従来技術によれば、微細な粒子サイズの材料は優れた防弾性能を提供する。特許文献4も反応結合した炭化硼素材の材料を記載しているが、炭化硼素材の粉体の粒径は40μm未満である。
【0009】
更に、特許文献5には、主要をなす粗い結晶は、粗い微結晶が結晶間結合を弱くするので、防弾性能を低下させることが記載されている。
【0010】
更に、特許文献6には、600グリットから120グリットの粒径の珪素含侵の炭化硼素材が記載されている。従って、一般的に110μm未満の粒径が、珪素含侵の炭化硼素材には用いられている。その上、特許文献6に記載の炭化硼素(B4C)の含有量は、50重量%より遥かに大きい。しかし、高い炭化硼素(B4C)の含有量は、炭化硼素材の非晶質化が生じさせるので、WC/Co銃弾に対して性能が低下することが分かっている。
【0011】
最後に、特許文献7には、200μm~40μmの粒径が原則として使用でき、特に90μmを超える粒子が用いられることが記載されている。特許文献7には更に、従来、炭化タングステンに対して不利であるとされていた炭化硼素を、50~60重量%で含有する材料について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第8,128,861号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/079202号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6,609,452号明細書
【特許文献4】特許第5914026号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2013/0168905号明細書
【特許文献6】米国特許第3,857,744号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2013/0168905号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】『炭化硼素材への高速弾衝撃が、局所的な非晶質化を誘発(High-Velocity Ballistic Impact with Boron Carbide Produces Localized Amorphization)』、MRS会報(Bulletin)、第28巻、第5号、2011年5月、p.333、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、炭化タングステン銃弾に対する重要な防弾用として使用できる、反応結合したSiC/B4C材製の改善された成形複合体を、最適な価格/性能比で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、請求項1の特徴によって実現される。
【0016】
そこで、珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、粗粒子の炭化硼素(B4C)を含んでいる金属セラミック複合材料をベースにして、特に防弾装甲装備用に適したセラミック体が提供される。材料の特性は、原材料の配合、成形プロセス、珪素化処理プロセスから決まる。このように製造した成形複合体は、最適化した密度と高い硬度を一般的に有しており、特殊な微細構造により防弾装甲装備の応用例に特に適している。
【0017】
微細構造は、反応結合した珪素浸透の混合セラミック材料の場合、炭化珪素の副次的生成の影響を受ける。任意に添加される炭素の性質と量は、副次的生成炭化珪素の生成と、材料強度を定める結合ブリッジの形成に決定的なものになる。溶融珪素を多孔質の成形体に浸透させる珪素化処理の手順は、細孔構造の影響を大きくうける。
【0018】
驚くべきことに、本発明の成形複合体を用いた防弾試験によれば、主要をなし、100μmより大で且つ炭化硼素(B4C)が50重量%未満の組成で反応結合(RB)した結晶炭化硼素が、主要をなす炭化珪素(SiC)及び、この主要をなす炭化珪素以外の副次的生成炭化珪素(SiC)を成分とする微粒化した炭化珪素母相(SiCマトリクス)に埋め込まれることにより、比較的良好な特性が与えられることが分かった。驚くべきことは、大きな炭化硼素粒子と、過度に大きくない炭化硼素の組成の条件の組み合わせが、炭化珪素マトリクス(母相/基質)が安定化するときの非晶質化を防止することである。選択された炭化硼素の一次グレインのサイズには、炭化珪素マトリクスを安定化させる効果もある。これらは、従来技術では指摘されていない材料特性である。
【0019】
最後になるが、本発明において添加する炭素の量の制御は、副次的生成炭化珪素の生成と、副次的生成炭化珪素が生成された結果生じる結合ブリッジに影響を及ぼすことができる。本発明において、含侵中に生じる炭化珪素(SiC)の量がより少ないことが好ましく、例えば、5重量%より大で25重量%未満が好ましく、珪素(Si)の組成を20重量%未満にすることが好ましい。従って、本発明の材料は、それ自体は殆ど変形しないセラミックに、炭化硼素(B4C)のレベルで一種の機能的な変形を生じさせるように思われる。
【0020】
炭化珪素(SiC)の含有量が高いだけでなく、珪素(Si)の含有量が低いことも利点になりえる。特に利点になることは、残余の珪素の含有量が15重量%未満なことである。炭化硼素(B4C)の含有量が30~40重量%の間にあり、副次的生成炭化珪素(SiC)の含有量が15~25重量%であり、珪素の含有量が15重量%未満であり、炭化硼素の一次粒径が100μmより大である材料が、特に好ましい。
【0021】
成形の作業には、すべての通常プロセスが使用できる。人体用防弾板のような、限定されたサイズで単純な幾何学的形状の場合は、例えば、鋳造、特に加圧泥漿鋳込み成形(加圧スリップ鋳造)が、最も効率的な製造技術である。炭化硼素(B4C)の粗い微結晶は沈降傾向であることに注意すべきである。しかし、微結晶の沈降傾向と無関係に、沈降に関して安定な泥漿(スリップ)を製造することができる。
【0022】
特に、壁厚が10mmを超え、且つ非常に大きな寸法形状になると、亀裂や広大な変形がより頻繁に生じるため、泥漿鋳込み成形は、壁厚10mmが限界になる。密度勾配は静水圧プレス中のサイズと容積に応じて増えるので、壁厚10mmの限界は、静水圧プレス材料にも適用される。
【0023】
驚くべきことに、粉体床融合(粉体ベッド)を基礎とした3D印刷が非常に大型の構成部品に適した製造技術として浮上してきた。特に、本発明の材料-微細な炭化珪素(SiC)と組み合わせた粗い炭化硼素(B4C)-に対して、粉体床融合方式の印刷技術は非常に効率的な製造方法である。大きな寸法形状は特に航空宇宙の分野で、例えば、座席や座席よりも大きな板の防護部品として、要求される。
【発明の効果】
【0024】
一方で、粗い炭化硼素(B4C)の微結晶は、明らかに印刷効率を高くする利点がある。他方で、驚くべきことに、粗い炭化硼素の微結晶を用いて粉体床融合方式の3D印刷で製造した大型の構成部品は、鋳造、ダイキャスト(スタンピング)、又は静水圧プレスで製造した製品よりも非常に均質であることが分かった。静水圧プレスと、静水圧プレス以降に採用される生素地の機械加工(グリーンマシニング)の処理に比べると、粉体床融合方式の印刷は、機械加工(素地のフライス加工)が不要で、ごく僅かの材料を用いるだけなので、コスト面でも大きな利点を奏する。
【0025】
例えば、粉体床融合方式の3D印刷は、本発明による成形複合体から、シートシェル(椅子の骨格部分)や背もたれ(バックレスト)のような、大型の構成部品を製造することを可能にする。完成品に近い状態(ニア・ネット・シェイプ)に作り上げる手法により、これらの構成部品は、用途に応じて実際に必要となる量だけ素材を用いればよいので、材料の節約になるだけでなく、重量を低減することにもなる。
【0026】
このように製造する防弾板は1m以上の寸法形状を容易に想定でき、車両や航空機のドア、後部ドア(テールゲート)、床の構成要素、他の構造部品等の防護素材の全体を、単一構造として構成できる。防護素材の構成要素を大きくできるので防護素材の一体化が促進され、砲撃の弱点になる恐れのある接合部が回避できる。即ち、三重点(防弾タイルの三つの角部が交わる点)では、防弾性能が30%まで低下することが知られている。しかし、3D印刷による材料の高い均質性のために、外殻(エンベロープ)の容積が200×200×200mm3よりも大きい、或いは500×500mm2よりも広い面積の非常に大型の構成部品も、如何なる問題もなく実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、微細構造の断面を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の更なる実施の態様の内容は、以下の明細書の説明、及び明細書に続く特許請求の範囲の記載から読むことができる。
【0029】
本発明は、代表的な実施形態を参照して次に更に詳細に説明される。
【0030】
本発明は、珪素含侵反応結合した混合セラミック材料から成る成形複合体に関するものである。成形複合体の微細構造は、平均粒径d50が100μmより大で500μm未満であり、含有量が10重量%より大で50重量%未満の結晶炭化硼素(B4C)の一次グレインによって定められる。本発明の成形複合体の微細構造は、d50<70μmで、含有量が10重量%より大で50重量%未満の炭化珪素の一次グレインによって更に定められる。珪素化結合された結晶炭化硼素の一次グレインは、炭化珪素マトリクス(母相又は基質)中において、含有量が5重量%より大で25重量%未満となるように、副次的炭化珪素を生成している。炭化珪素マトリクスは、1重量%より大で20重量%未満の遊離金属珪素(未反応金属珪素)を含有する。図1は本発明による微細構造の一例を示す。重量%の数値は重量比をパーセントで示している。含有量(組成)は、グレイン(結晶粒)が含まれる割合若しくは比率、又はその両方を意味する。
【0031】
従って、本発明は炭化硼素(B4C)の含有量が50重量%未満であり、炭化硼素材の平均粒径(d50)が100μmを超え、副次的生成炭化珪素(SiC)の含有量が25重量%未満であり、金属珪素の含有量が20重量%未満の反応結合したSiC/B4Cに関している。
【0032】
副次的生成炭化珪素(SiC)の含有量は15重量%と25重量%の間にあることが好ましい。15重量%と25重量%の間に設定すると、主要をなす結晶炭化硼素(B4C)と珪素(Si)に適した安定したサポートマトリクスを生成できるので、例えば、発射体(弾丸)に対する耐性を強くすることができる。
【0033】
炭化硼素(B4C)の含有量が30重量%と40重量%の間にあり、珪素の含有量が15重量%未満であり、炭化硼素の一次グレインの径(一次粒径)が200μmより大きい成形複合体が、特に好ましい。
【0034】
更に、一次グレインが、d50<40μm、特に<10μmの炭化珪素であることが特に好ましい。密度勾配は2重量% 未満であってもよい。成形複合体は、0.05重量%より大で5重量%未満の量の金属珪素内で溶解した硼素(B)を更に含有していてもよい。
【0035】
図1の微細構造は、結晶炭化硼素(B4C)の一次グレイン1と、遊離金属珪素(Si)2と、微粒化した主要炭化珪素(SiC)と副次的生成炭化珪素の浸透複合体3から構成された構造を示す。
【0036】
成形複合体は、コロイド状炭素や有機補助物質だけでなく炭化珪素(SiC)/炭化硼素(B4C)粒子を含む泥漿(スリップ)の製造を伴う、加圧泥漿鋳込み成形によって製造できる。加圧泥漿鋳込み成形によって製造された素地(グリーンボディ)は、1500℃~1700℃の温度で液体珪素と接触させて含侵させる。接触、含侵のプロセス中において、珪素が炭素と反応し、副次的生成炭化珪素(SiC)が生成される。
【0037】
本発明の別の実施の態様では、成形の作業が3D印刷で行われるので、航空宇宙用途向けのシートシェルや背もたれのような、複雑な製品の加工が可能になる。このようにして製造したセラミックスは、炭素繊維やガラス繊維又は金属あるいはそのすべてだけでなくポリマー(PE、アラミドなど)と組み合わせて、WC/Co銃弾に対して、特にM993やM995の徹甲弾の種類に対して特に効率的な防護機能を発揮する。
【0038】
本発明の更なる目的は、成形複合体を防弾装甲装備として使用することである。このために、成形複合体は、好都合に、一又は二以上の層の裏地材料で表面処理される。例えば、少なくとも一層の裏地材料を、本発明による混合セラミックで圧縮できる。更に、裏地材料は、例えばポリエチレン、アラミド等の一又二以上のプラスチック、炭素繊維、ガラス繊維、例えばアルミニウムや鋼鉄等の金属、更に、これらの材料の組み合わせ、又は、例えば接着フォイルのような接合材料の数層から形成するのが好ましい。又、裏地材料は、プラスチック、炭素繊維、ガラス繊維、金属、これらの材料の組み合わせ、及び接合材料の両方を含む数層で形成するのが好ましい。
【0039】
次に、様々な応用例について説明する。
【0040】
(第1実施形態)
本発明の成形複合体から人体用防弾板を製造するために、加圧泥漿鋳込み成形を用いる場合を説明する。まず、含有量が10重量%で平均粒径が1μm未満のコロイド状炭素と、含有量が50重量%で平均粒径が5~10μmの微粒化した炭化珪素と、含有量が40重量%で平均粒径が120μmの粗く粒化した炭化硼素(B4C)とを含む水性懸濁液を用意する。このために、18重量%の水と、1重量%の有機補助物質(湿潤剤、流動化補助剤、結合剤(バインダ))とが、100重量%の固形分に対して考慮される。スリップ(泥漿)は、寸法形状が350×275×9mmの多曲面板を形成するために、0.4kPaのスリップ圧力でポリメチルメタクリレートをベースとした多孔質のプラスチック金型を用いて、ダイキャスト(スタンピング)機で鋳造される。
【0041】
このように鋳造した破片(シャード)は、循環空気乾燥チャンバー内で乾燥し、遊離珪素だけでなく炭化珪素(SiC)と炭化硼素(B4C)とから基本的に成る反応結合した複合素材をベースとするセラミック板に反応焼成によって変換される。このように成形して製造した複合体は、防弾チョッキの一体形インサート(モノリシックインサート)として使用できる人体用防弾板を形成する。このために、成形複合体は、例えば、含有量が31重量%の粗粒子炭化硼素(B4C)と、含有量が41重量%の微粒化した主要炭化珪素(SiC)と、含有量が17重量%となる微粒化した副次的生成炭化珪素(SiC)と、含有量が11重量%となる遊離金属珪素を含んでいる素材から構成される。
【0042】
(第2実施形態)
本発明の成形複合体から車両用防弾装甲板を製造するために、一軸プレス成形を用いる場合を説明する。最初に、水性懸濁液が、第1実施形態に記載の組成に準じて作られ、噴霧乾燥プロセスによりプレス顆粒に更に加工される。有機補助剤の組成を調整し、プレス支援工程を加えるだけである。
【0043】
次に、顆粒を四角形の超硬合金の型に充填し、17kPaの圧力で加圧する。このようにして得たブランク(加工素材)に、次に反応焼成を施して、遊離珪素だけでなく炭化珪素(SiC)と炭化硼素(B4C)とから基本的に成る反応結合した複合材料をベースとするセラミック板を製造する。セラミック板は50mmのエッジ長と9mmの壁厚とを有する。このようにして得た成形複合体は、車両用防弾装甲における、広い領域に対する効率的な裏打ち材として使用できる多角形の防弾板を形作る。
【0044】
(第3実施形態)
本発明に係る成形複合体でヘルメットを製造するために、3D印刷プロセスが用いられる。ヘルメットの形状は、70重量%の炭化珪素(SiC)と30重量%の炭化硼素(B4C)の混合比となる条件で炭化珪素(SiC)と炭化硼素(B4C)とから成る無定形の粒状物から、層ごとに作られる。炭化硼素(B4C)の粉体は、例えば100/Fとして分類される工業用耐火セラミックに用いられる粒径分布に準じているので、d10 =75μm、d50 =115μm、d90=160μmの特性値を有している。更に微粒化した炭化珪素(SiC)の粉体は、例えば、F180として分類される工業用研削粒で用いられる粒径分布に準じているので、平均粒径がd50=65μmになる。
【0045】
粒子の選択的な固化は、インクジェット印刷ヘッドを介して行われる。選択的な固化は、有機結合剤(バインダ)、好ましくはフラン樹脂(フルフラール樹脂)の滴下導入により、基本となるCADモデルが指定する位置で行われる。選択的な固化に用いるCADモデルは、最終的な構成部品の幾何学的な形状に対応しているので、複雑な構造を成形することができる。
【0046】
固化と成形の二つのサブステップに続いて、製造される平面の厚さは、予め定めた厚さだけ薄くなる。例えば、第3実施形態では300μm だけ薄くなる。以上の一連のステップは、CADモデルの層ごとの構造が決まるまで繰り返し反復される。このようにして製造された複雑な形状の造形前素材(プリボディ)は、容積比で45重量%の多孔度を有している。次に、分散補助剤と湿潤剤と共に、30重量%のコロイド状炭素を含む水性分散液に含侵される。
【0047】
最初の含浸プロセスの後、複雑に成形されたセラミックのプリフォームがこのようにして製造される。プリフォームは、87重量%の原材料としての炭化珪素(SiC)-炭化硼素(B4C)粉体混合物と、13重量%のコロイド状炭素を含む。乾燥プロセスと追加実施可能な第2の含浸ステップの後、この比率は、79/21重量%に変わり、追加実施可能な第3の含浸ステップの後で76/24重量%に変わる。
【0048】
遊離珪素添加の炭化珪素(SiC)と炭化硼素(B4C)で実質的に構成された反応結合複合材料を基礎とし、最終の乾燥プロセスの後、このようにして製造された複雑形状のプリフォームは、反応焼成によってセラミック基体に変換される。このようにして得られた材料は、例えば、15重量%が含有量となる粗粒子炭化硼素(B4C)と、45重量%が含有量となる微粒化した主要炭化珪素(SiC)と、24重量%が含有量となる微粒化した副次的生成炭化珪素(SiC)と、15重量%が含有量となる遊離金属珪素とから成る。このようにして得られた複雑形状のプリフォームは、頭部防護用の防弾ヘルメットの基本要素として使用できる。第3実施形態で記載した3D印刷プロセスを用いた製造により、人間工学的に考えられる個々に適したヘルメットの幾何学的な形状の提供が可能になる。
【0049】
(第4実施形態)
本発明に係る成形複合体を用いたシートシェルを3D印刷によって製造する場合を第4実施形態で説明する。第3実施形態で記載したように、粉体床融合ベースの3D印刷プロセスでの混合比は、60重量%が含有量となる炭化珪素(SiC)と40重量%が含有量となる炭化硼素(B4C)である。これにより、焼成した構成部品の密度が低下するので、このような材料組成の製造は航空宇宙の分野に特に適している。このようにして得られた材料は、例えば、21重量%が含有量となる粗粒子の炭化硼素(B4C)と、40重量%が含有量となる微粒化した主要炭化珪素(SiC)と、24重量%が含有量となる微粒化した副次的生成炭化珪素(SiC)と、15重量%が含有量となる遊離金属珪素から成る。
【0050】
このように第4実施形態では適正なCADモデルを用い、重量が最適化されたシートシェルを、ヘリコプタのような様々な飛行体に使用できるように実現できる。このようにして製造したシートシェルは、約300×300mmのサイズで、壁厚が9mm、高さが200 mmであり、人間工学に準じて形作られている。シートシェルに関連する背もたれは、長さが500mm、幅が300mm、高さが100mmであり、同様に人間工学に準じて形作られている。このような大きな構成部品でも亀裂を生じることなく製造できる。切削加工のような除去プロセス(サブトラクティブ・プロセス)による機械加工は、最早必要ない。
【0051】
(第5実施形態)
本発明に係る成形複合体を用いた航空宇宙用防弾装甲板を、3D印刷を用いて製造する場合を第5実施形態で説明する。第4実施形態と同様に、粉体床融合ベース3D印刷プロセスが、本発明に係る成形複合体を製造するために用いられる。粉体床融合ベース3D印刷プロセスにおける混合比は、50重量%で含有される炭化珪素(SiC)と50重量%で含有される炭化硼素(B4C)である。このようにして得られた材料は、例えば、26重量%で含有される粗粒子の炭化硼素(B4C)と、35重量%で含有される微粒化した主要炭化珪素(SiC)と、24重量%で含有される微粒化した副次的生成炭化珪素(SiC)と、15重量%で含有される遊離金属珪素とから成る。これらの含有量は、焼成することにより、構成部品の密度が更に低下する。よって、第5実施形態で説明した材料組成の成形複合体の製造は、航空宇宙の分野、特に航空宇宙用防弾装甲板のような大型の構成要素に特に適している。このようにして製造した付帯素子(サイド・エレメント)は、例えば、1200mm×800mm×9mmの寸法形状になる。
【0052】
(第6実施形態)
本発明に係る成形複合体で防弾装甲装備を製造する場合を、第6実施形態で説明する。特に、炭化タングステン弾芯の弾薬系に対する防弾装甲装備を、成形複合体から製造する場合に関する。例えば、単位面積あたりの重量が2075g/700cm2 = 33.5kg/m2の防弾装甲装備である。第6実施形態に係る防弾装甲装備は、例えば、240mm×305mm×9.1mmで1790gの形態(構成)の、珪素含侵混合セラミックを備える。第6実施形態に係る防弾装甲装備の裏地材料は、例えば、27層のポリエチレン層を有することが好ましく、更に8層の炭素繊維層を有することが好ましい。第6実施形態に係る防弾装甲装備の単位面積あたりの重量は、例えば、385gである。
【0053】
混合セラミック材料と裏地材料は、加熱と加圧により互いに圧縮してもよい。好ましくは、混合セラミック材料と裏地材料は、オートクレーブ(加熱圧力釜)内で互いに圧縮される。結果として、第6実施形態に係る防弾装甲装備によれば、炭化タングステン弾芯を有する5.56×45 M995の1ショットに対する防弾機能が達成される。5.56×45 M995の1ショットに関する防護機能として、試験では、背面が39mm変形しただけで、銃弾が貫通しなかったことを意味する。概して、裏地材料は、アラミド繊維の敷物、ポリエチレン(PE)、炭素繊維の敷物、又はガラス繊維の敷物、又はそれらの混合物、あるいはそれらのすべてで構成できる。更に、裏地材料の層は混合セラミック材料の層の片面または両面に取り付けることが好ましい。そこで、一般的に言えば、炭化タングステン弾芯のM995の1ショットを、32kg/m2未満の基準重量で停止できることが好ましい。
【0054】
(第7実施形態)
本発明に係る成形複合体から防弾装甲装備を製造する場合を第7実施形態で説明する。特に、炭化タングステン弾芯の弾薬系に対する防弾装甲装備に関して説明する。第7実施形態に係る防弾装甲装備は、例えば、単位面積あたりの重量が2342g/700cm2 = 33.5kg/m2である。第7実施形態に係る防弾装甲装備は、例えば、240mm×305mm×9.1mmで1792gの形態(構成)の、珪素含侵混合セラミックを備え、裏地材料は、例えば、39層のポリエチレン層を有することが好ましく、更に8層の炭素繊維層を有することが好ましい。第7実施形態に係る防弾装甲装備は、例えば、単位面積あたりの重量が385gである。
【0055】
混合セラミック材料と裏地材料は、加熱と加圧により圧縮してもよい。好ましくは、混合セラミック材料と裏地材料は、オートクレーブ(加熱圧力釜)内で互いに圧縮できる。第7実施形態に係る防弾装甲装備は、結果として、炭化タングステン弾芯を有する5.56×45 M995の2ショットに対する防弾機能を達成する。第7実施形態に係る防弾装甲装備に関する防護機能として、試験では、最初のショットに対して29mm、2番目のショットに対して37mm変形しただけで、銃弾が貫通しなかった。概して、裏地材料は、アラミド繊維の敷物、ポリエチレン(PE)、炭素繊維の敷物、又はガラス繊維の敷物、又はその混合物、あるいはそれらのすべてで構成できる。更に、裏地材料の層は、混合セラミック材料の層の片面または両面に好適に取り付けることができる。概して、従って、炭化タングステン弾芯のM995の2ショットが、好ましくは100mmの距離で、40kg/m2未満の基準重量で好適に停止できる。
【符号の説明】
【0056】
1…結晶炭化硼素(B4C)の一次グレイン、2…遊離金属珪素(Si)、3…主要炭化珪素(SiC)と副次的生成炭化珪素の浸透複合体、

図1
【国際調査報告】