(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-18
(54)【発明の名称】電着銅箔の製造方法及びそれによって得られる銅箔
(51)【国際特許分類】
C25D 1/00 20060101AFI20240411BHJP
C25D 1/04 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C25D1/00 311
C25D1/04 311
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568151
(86)(22)【出願日】2022-05-06
(85)【翻訳文提出日】2023-12-18
(86)【国際出願番号】 EP2022062331
(87)【国際公開番号】W WO2022234113
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520068685
【氏名又は名称】サーキット フォイル ルクセンブルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【氏名又は名称】根本 恵司
(74)【代理人】
【識別番号】100099472
【氏名又は名称】杉山 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100150773
【氏名又は名称】加治 信貴
(72)【発明者】
【氏名】デヴァイフ、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】レジンスター、モーガン
(72)【発明者】
【氏名】ストリール、ミシェル
(57)【要約】
8μm以下のRz ISOを有する艶消し側を備えた電着銅箔であって、回転ドラム型の陰極、固定陽極及び電解液を含む電鋳セル中で連続的に形成される電着銅箔を製造するための方法。電解液は:好ましくは銅イオンの形で、少なくとも60g/Lの濃度の銅;30と50ppmの間を含む濃度のハロゲンイオン;5と15ppmの間を含む濃度の3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸塩;5と12ppmの間を含む濃度の窒素含有ポリマーレベラーであって、1000と30000g/molの間を含む平均分子量Mwを有する窒素含有ポリマーレベラー;及び15と30ppmの間を含む濃度のポリエーテルサプレッサーであって、500と12000g/molの間を含む平均分子量Mwを有するポリエーテルサプレッサー、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ドラム型の陰極、固定陽極、及び電解液を備える電鋳セル内で、電着銅箔が連続的に形成される電着銅箔の製造方法であって、
電解液が;
-好ましくは銅イオンの形で、少なくとも60g/Lの濃度の銅;
-30と50ppmの間を含む濃度のハロゲンイオン;
-5と15ppmの間を含む濃度の3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸塩;
-5と12ppmの間を含む濃度の窒素含有ポリマーレベラーであって、1000と30000g/molの間を含む平均分子量Mwを有する窒素含有ポリマーレベラー;及び
-15と30ppmの間を含む濃度のポリエーテルサプレッサーであって、500と12000g/molの間を含む平均分子量Mwを有するポリエーテルサプレッサー、
を含む電着銅箔の製造方法。
【請求項2】
窒素含有ポリマーレベラーの平均分子量Mwは、1500と15000g/molの間、好ましくは2000と5000g/molの間を含む、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
窒素含有ポリマーレベラーは、ポリビニルピロリドン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、及びその混合物から選択される、請求項1又は2に記載された方法。
【請求項4】
窒素含有ポリマーレベラーは、6と11ppmの間、好ましくは7と10ppmの間を含む濃度で電解液中に存在する、請求項1から3のいずれか1項に記載された方法。
【請求項5】
ポリエーテルサプレッサーの平均分子量Mwは、500と6000g/molの間、好ましくは1000と3500g/molの間を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載された方法。
【請求項6】
ポリエーテルサプレッサーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールの共重合体、及びそれらの混合物から選択される、請求項1から5のいずれか1項に記載された方法。
【請求項7】
ポリエーテルサプレッサーは、12と28ppmの間、好ましくは15と25ppmの間を含む濃度で存在する、請求項1から6のいずれか1項に記載された方法。
【請求項8】
銅は硫酸銅として電解液に添加される,請求項1から7のいずれか1項に記載された方法。
【請求項9】
銅は、60と100g/Lの間、好ましくは70と90g/Lの間を含む濃度で電解液中に存在する、請求項1から8のいずれか1項に記載された方法。
【請求項10】
ハロゲンイオンは、塩化物及び/又は臭化物イオンである、請求項1から9のいずれか1項に記載された方法。
【請求項11】
ハロゲンイオンは、35と50ppmの間を含む濃度で電解液中に存在する、請求項1から10のいずれか1項に記載された方法。
【請求項12】
電着銅箔は、陰極と陽極との間に電流密度を印加することによって形成され、電流密度は、40と80A/dm
2の間、好ましくは40と60A/dm
2の間、より好ましくは45と55A/dm
2の間が含まれる、請求項1から11のいずれか1項に記載された方法。
【請求項13】
電解液は50℃より高い温度、好ましくは50と60℃の間が含まれる温度を有する、請求項1から12のいずれか1項に記載された方法。
【請求項14】
方法は連続したプロセスであり、かつ電解液の寿命は3日を超え、好ましくは7日を超え、より好ましくは15日を超える、請求項1から13のいずれか1項に記載された方法。
【請求項15】
電解液は、65と85g/Lの間、好ましくは70と80g/Lの間を含む濃度の硫酸をさらに含む、請求項1から14のいずれか1項に記載された方法。
【請求項16】
電着銅箔を製造するための電解液であって、
-好ましくは銅イオンの形で、少なくとも60g/Lの濃度の銅;
-30と50ppmの間を含む濃度のハロゲンイオン;
-5と15ppmの間を含む濃度の3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸塩;
-5と12ppmの間を含む濃度の窒素含有ポリマーレベラーであって、1000と30000g/molの間を含む平均分子量Mwを有する窒素含有ポリマーレベラー;及び
-15と30ppmの間を含む濃度のポリエーテルサプレッサーであって、500と12000g/molの間を含む平均分子量Mwを有するポリエーテルサプレッサー、
を含む電解液。
【請求項17】
窒素含有ポリマーレベラーの平均分子量Mwは、1500と15000g/molの間、好ましくは2000と5000g/molの間を含む、請求項16に記載された電解液。
【請求項18】
窒素含有ポリマーレベラーは、ポリビニルピロリドン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、及びその混合物を含むリストから選択される、請求項16又は17に記載された電解液。
【請求項19】
窒素含有ポリマーレベラーは、6と11ppmの間、好ましくは7と10ppmの間を含む濃度で電解液中に存在する、請求項16から18のいずれか1項に記載された電解液。
【請求項20】
ポリエーテルサプレッサーの平均分子量Mwは、500と6000g/molの間、好ましくは1000と3500g/molの間を含む、請求項16から19のいずれか1項に記載された電解液。
【請求項21】
ポリエーテルサプレッサーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールの共重合体、及びそれらの混合物を含むリストから選択される、請求項16から20のいずれか1項に記載された電解液。
【請求項22】
ポリエーテルサプレッサーは、12と28ppmの間、好ましくは15と25ppmの間を含む濃度で電解液中に存在する、請求項16から21のいずれか1項に記載された電解液。
【請求項23】
銅は硫酸銅として電解液に添加され、及び/又は銅は、60と100g/Lの間、好ましくは70と90g/Lの間を含む濃度で電解液中に存在する、請求項16から22のいずれか1項に記載された電解液。
【請求項24】
ハロゲンイオンは、塩化物及び/又は臭化物イオンであり、及び/又はハロゲンイオンは、35と50ppmの間を含む濃度で電解液中に存在する、請求項16から23のいずれか1項に記載された電解液。
【請求項25】
電解液は、65と85g/Lの間、好ましくは70と80g/Lの間を含む濃度の硫酸をさらに含む、請求項16から24のいずれか1項に記載された電解液。
【請求項26】
請求項1から15のいずれか1項に記載された方法又は請求項16から25のいずれか1項に記載された電解液を用いてとくに製造される電着銅箔であって、0.8μmを超えないRz ISO表面粗さ、0.15%を超えない好ましくは0.1%の光沢電解液側の表面現像率を有し、かつ表面及び視覚的な欠陥がない電着銅箔。
【請求項27】
電着銅箔が18μmの厚みと20℃で10と25%の間の伸びを有する、請求項26に記載された電着銅箔。
【請求項28】
電着銅箔が35μmの厚みと20℃で15と35%の間の伸びを有する、請求項26に記載された電着銅箔。
【請求項29】
電着銅箔は厚みに関係なく20℃で28と37kgf/mm
2の間の引張り強さを有する、請求項26又は27又は28に記載された電着銅箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して電着銅箔(electrodeposited copper foils)の分野に関し、より具体的には、表面粗さの低い電着銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路基板で使用するための電着銅箔の製品及びプロセスは、銅塩を含む電解液(electrolyte)に2つの電極(陰極と陽極)を配置し、電極間に電流を流し、かつ陰極に所望の厚さで銅を成膜(堆積)するものであるから、基本的にはめっき技術である。電着銅箔は次に陰極の表面から剥がされ、かつ保管用リールに巻かれる。陰極は概して回転ドラム型であり、電解液中で固定陽極と向かい合って配置される。
【0003】
一般に、電解液として、銅イオンと硫酸イオンのみを含む水溶液を用いると、機器からの粉塵及び/又は油の不可避的混合物により、銅箔にピンホール及び/又は微多孔(micro porosities)が生成され、実用上重大な欠陥が生じる。また、ドラムに接触する電着箔(electrodeposited foil)の正面、いわゆる「光沢側」は比較的平滑であるが、「艶消し側」(matte side)と呼ばれる他方の(電解液)側は表面に凹凸面がある。
【0004】
換言すれば、電解液と接触している銅箔の表面のプロファイル(山/谷)形状が変形し、その結果表面粗さ(surface roughness)が増大する。電着銅箔の艶消し側は、概して0.80μmを遥かに超え、かつ普通は3.0μmを超える表面粗さ(Rz ISOで)を示す。
【0005】
電着銅箔に求められる性能について、艶消し側のプロファイルを小さくすること(profile lowering)(粗さ低減)の改善は、何十年にも渡って求められて来ており、高周波アプリケーションの開発に伴って重要になってきている。表面粗さが3.0μmを超える従来の銅箔は粗すぎて、第5世代移動体通信(5G)の様な、77GHz以上の周波数のアプリケーション向けに有効な伝送路を作成可能にする要件を満たすことができない。
【0006】
実際、銅箔の表面粗さが大きくなればなる程、高速/高周波アプリケーションでは信号損失は大きくなる。これは、高周波では信号が導体の表面でのみ伝搬されるという事実によるものである(いわゆる「表皮効果」のため)。したがって、より平滑な導体では、信号の伝搬経路が短くなり、損失が小さくなる。
【0007】
過去数十年の間、艶消し側をより平滑にするためのさまざまな試みがなされてきた、またその結果、多くの場合電解液に添加剤(additives)が含まれている。
【0008】
ピンホールの様な欠陥の発生を防止するために、電解液に塩化物イオン(chloride ions)を、例えば、添加しかつ電解液を活性炭等が含まれるフィルターに通すことで塵埃及び/又は油を除去し得る。艶消し側の表面粗さを調整しかつ微多孔を防ぐために、電解液に膠状接着剤(glue)を添加することもまた古くから実行されており、かつ膠状接着剤とは別に様々な有機・無機添加剤も提案されてきている。
【0009】
艶消し側のプロファイルを小さくすることは、例えば、膠状接着剤及び/又はチオ尿素(thiourea)などのいわゆる光沢剤(brightener)を電解液に大量に添加することによっても達成できる、しかしこれらの添加剤の量が増加すると、電着銅箔の室温伸び率(elongation rate)及び高温伸び率が急激に低下し、その結果その機械的特性が劣化する。
【0010】
WO97/11210A1は、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸塩(3-mercapto-1-propane sulfonate)、塩化物イオン(chloride ions)、高分子量多糖類(high molecular weight polysaccharide)及び低分子量膠状接着剤(low molecular weight glue)を含む電解液を開示している。製造された銅箔は室温と高温の両方で良好な引張り強さと伸びを示す。しかしながら、WO97/11210A1の電解液を用いて電着した銅箔は、殆ど1.3μm程度の表面粗さ(Rz)を示すことはなく、かつ添加剤として用いられる天然由来の膠状接着剤や多糖類のばらつき(variations)により、電着プロセスの制御が困難になり得る。
【0011】
膠状接着剤の調達に関連する問題を解決するために、膠状接着剤を他のアミノ化合物(amino compounds)に置き換えることが提案された。EP1574599A1及びEP1568802A1は、それらの艶消し側(side)で低い表面粗さを示す低いプロファイルの電解銅箔(electrolytic copper foils)を得るために、有機硫黄化合物(organosulfur compound)及び第四級アミン塩(quaternary amine salt)を含む電解液を用いることを開示している。しかしながら、表面粗さ(Rz)は1~1.3μm程度のものが達成できたに過ぎなかった。
【0012】
CN111394754Aは、第5世代移動体通信の分野における利用に適した銅箔の製造のための電解液及び電解液を用いるプロセスを開示している。CN111394754Aは艶消し側の平滑性を改善するために、電解液に、いわゆるレベラー(平滑化材;leveler)としてヘキシルベンジルアミン塩(hexylbenzylamine salt)を使用することを提案している。銅箔に対して、接合力を満たす等の良好な機械的特性は達成されたものの、それらの表面粗さ(Rz)は1.15μm未満には低下しなかった。
【0013】
過去10年間、絶え間ない改善が続けられてきたにも拘わらず、長年求められてきた、また第5世代移動体通信の発展の鍵を握る低い表面粗さを示す電着銅箔の生産はいまだに実現できていない。
【発明の目的】
【0014】
本発明の目的は、上述した問題がなく表面粗さを極力低くした電着銅箔の製造方法を提供することである。
【発明の概要】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、回転ドラム型の陰極、固定陽極、及び電解液を含む電鋳セル(electroforming cell)内で連続的に形成される電着銅箔であるその電着銅箔の製造方法を提案する。本方法は、電鋳セル内で粗さRz ISOが0.8μm以下の艶消し側を備えた電着銅箔を形成することを可能にする。Rz ISOという用語は、例えば日本規格に従って決定されるRz JISと対比して、ISO規格に従って決定される粗さRzを指す。
【0016】
本発明によれば、電解液は、
-好ましくは銅イオンの形で、少なくとも60g/Lの濃度の銅;
-30と50ppmの間を含む濃度のハロゲンイオン;
-5と15ppmの間を含む濃度の3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸塩(3-mercapto-1-propane sulfonate);
-5と12ppmの間を含む濃度の窒素含有ポリマーレベラーであって、1000と30000g/molの間を含む平均分子量(average molecular weight)Mwを有する窒素含有ポリマー;及び
-15と30ppmの間を含む濃度のポリエーテルサプレッサー(polyether suppressor)であって、500と12000g/molの間を含む平均分子量Mwを有するポリエーテルサプレッサー、
を含む。
【0017】
本文において、平均分子量Mw(又は単にMw)という表現は、その数平均分子量(number average molecular weight)Mn又はその粘度平均分子量(viscosity average molecular weight)Mvに反して、ポリマーの重量平均分子量(weight average molecular weight)を指す。ポリマーの重量平均分子量は、存在する分子の数だけでなく、各分子の重量(weight)にも依存するため、分子が大きいほど、より小さい分子よりも寄与が大きくなる。平均モル重量(average molar weight)Mwは、従来、以下のように算出される:
【式1】
【0018】
【0019】
ここで、Niは分子量Miの分子数であり、iは整数である。
【0020】
既述の全ての濃度は、電鋳セルに提供される電解液のそれぞれの種々の成分の濃度に対応している。種々の成分の濃度が常に所定のそれぞれの範囲内にあることを保証するために、電鋳セルの運転中に電解液に種々の成分が連続的に供給される。銅イオン、ハロゲンイオン、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸塩、窒素含有ポリマーレベラー及びポリエーテルサプレッサーは、それ自体として、電解液に添加することができ、又は電解液中において所望のそれぞれの成分を得るための任意の適切な誘導体化合物(derivative compounds)として、電解液に添加できる。これは、それぞれ銅塩又はハロゲン塩として電解液に一般的に添加される銅イオン及びハロゲンイオンに対して適用されるが、本発明による電解液中の他の成分に対しても適用される。
【0021】
本文中では、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸塩はMPS又は光沢剤と呼び得る。光沢剤は銅成膜の分野で促進剤としてより一般的に知られており、かつ電着銅箔の製造中に銅成膜の比率(rate)を増加させる。
【0022】
電解液は、窒素含有ポリマーレベラーをさらに含む。レベラーは、ハロゲンイオン存在下で銅成膜反応(copper deposition reactions)に強い抑制効果を発揮する。
【0023】
ポリエーテルサプレッサーは、単にサプレッサー、又は界面活性剤(surfactant)と呼び得る。本文中ではサプレッサー(界面活性剤)もまたハロゲンイオン存在下での銅成膜反応に対して強い抑制効果を発揮するが、レベラーに関しては、サプレッサーは比較的広い銅成膜電流領域に作用し、かつ光沢剤(又は促進剤)を用いることによって非活性化し得る。
【0024】
サプレッサーは、ハロゲンイオンと結合して電着銅箔の表面に弱く吸着し、かつ金属表面で消費又は化学物質によって形質変換しない抑制剤(inhibitors)である。これとは反対に、レベラーは金属表面に強く吸着されかつ消費される抑制剤である。
【0025】
本発明は、所定の濃度での特定の組み合わせに係る異なる種類の光沢剤、レベラー及びサプレッサーにより、従来から求められてきた、例えば過剰成長、溝、孔、クレーター及び輝度の損失のような視覚的/表面的欠陥のない、低い表面粗さを示す電着銅箔が得られる、との発明者達の知見に基づくものである。換言すれば、本発明による方法により、所定の光沢剤、レベラー及びサプレッサーを特定の濃度で使用して、表面欠陥がなく、艶消し側で0.8μm以下(≦0.8μm)の表面粗さRz ISOを有する電着銅箔が製造される。
【0026】
有利にも、本発明者達は、従来の低分子量膠状接着剤(low-molecular weight glue)をポリエーテル(polyether)で置き換えることによって、プロセスを確実に改善できることを見出した。ポリエーテルの挙動は低分子量膠状接着剤の一つよりも一貫性があるため、製造プロセスの制御は一層容易である。
【0027】
驚いたことに、発明者達は、電解液中で窒素含有ポリマーレベラーを使用することで、公知の電着銅箔の粗さが高すぎるという問題が解決されることも発見した。本発明の方法で製造された銅箔は、従来技術で得られたものと比較して、表面粗さが著しく減少している。実際、本発明の方法で製造された銅箔の表面粗さは、表面粗さRz JISの0.6μm以下に相当するRz ISOの0.8μm以下である。本発明の方法により製造された電着銅箔の表面現像率(SDR:surface developed ratio)も、従来技術に対して0.4%から0.15%に、又は0.1%のように、それより下にすらなる。
【0028】
表面現像率(SDR)は、実際の現像面の面積と投影面の面積の比率に対応する。実際の表面は、その表面粗さを考慮して製造された電解銅箔の表面であり、一方投影面は対応する平らで完全に平滑な箔の表面である。SDRは次のように計算できる;
SDR=(実際の現像面-投影面)/投影面×100
【0029】
得られた電着銅箔は、概して、さらなる後続の処理プロセスを施し得る。通常は、処理と表面不活性化(passivation)を強化する表面接着剤(surface bond)が電着銅箔の艶消し側に成膜される。表面粗さを低減することにより、最終製品の特性(絶縁樹脂基板との剥離強度の向上、銅箔の保存期間の向上のような)の改善を生み、より均質な成膜(deposition)による処理と表面不活性化が可能になる。
【0030】
さらに、本発明の方法により製造された銅箔の低減された粗さにより、高速/高周波アプリケーションにおいて生じる信号損失がより低いことが理解されよう。これは、高周波では信号が導体の表面でのみ伝搬されるためである(表皮効果)。したがって、平滑な導体では、信号の伝搬経路が短くなり、損失が低くなる。これにより、77GHz以上の周波数(5Gなど)のアプリケーション向けに有効な伝送路が作成できる。
【0031】
さらに、最初のテストで、本発明により製造された超低粗さ電着銅箔が従来の銅箔と同様の機械的特性を持つことが明らかになった。特に、得られた電着銅箔は、厚さ18μmの箔では20℃で10と25%の間、厚さ35μmの箔では20℃で15と35%の間の伸びを有し得る。引張り強さは、厚さに関係なく、20℃で28と37kgf/mm2の間であり得る。
【0032】
しかしながら、本発明による方法によって又は本発明による電解液を用いて製造された電着銅箔は、これら2つの厚さに限定されず、種々の厚さの銅箔を得ることができる。いくつかの実施形態によれば、厚さ9から70μmの銅箔を製造し得る。
【0033】
電着銅箔のドラム側はドラム自体に依存する粗さを有する。本発明の趣旨において、電着銅箔は、例えば0.9から1.8μm程度の従来の粗さを有し得る。
【0034】
大規模な(数十又は数百m3の電解液)連続プロセスでは、添加剤分解生成物の蓄積が長期間(数日)にわたって成膜が行われる銅箔の品質に悪影響を及ぼし、輝度(brightness)の損失、最終的には表面粗さの増加につながる可能性がある。驚くべきことに、本発明者達は、本発明の方法が、著しい障害がなく、連続使用における大量の電解液の優れた長期安定性を提供することを見出した。
【0035】
より具体的には、本発明者達は、500と12000g/molの間を含む平均分子量Mwのポリエーテルサプレッサーを用いれば、銅箔の表面粗さを低減するのに十分な抑制効果を確保しつつ、製造方法の数日間の動作後に電着銅箔の劣化の原因となる、不溶性分解生成物の生成を低減することを見出した。
また、電解液中のポリエーテルサプレッサー濃度の特定の範囲、15から30ppmだけが、電解液の長期安定性を確保しつつ、数日以内に銅箔の外見の劣化につながる分解生成物の蓄積(accumulation)を回避することにもよって、電着銅箔の目標表面粗さを達成することができる。
【0036】
電着銅箔の過剰成長欠陥(overgrowth defects)の形成は、窒素含有ポリマーレベラー分解生成物の形成を制御することによって有利に防止される。それを実行するために、使用された窒素含有ポリマーレベラーは、1000と30000g/molの間を含む平均分子量Mwを有し、かつその濃度は12ppmを超えてはならない。しかしながら、十分なレベリング効果を保証するために、電解液は少なくとも5ppmの窒素含有ポリマーレベラーを含む。
【0037】
実施形態において、窒素含有ポリマーレベラーの平均分子量Mwは、1500と15000g/molの間、好ましくは2000と5000g/molの間を含む。追加的又は代替的に、窒素含有ポリマーレベラーは、6と11ppmの間、好ましくは7と10ppmの間を含む濃度で電解液中に存在する。
【0038】
一般に、窒素含有ポリマーレベラーは1以上のポリマーを含むか、又はそれから構成され得る。有利にも、窒素含有ポリマーレベラーは、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリアリルアミン(polyallylamine)、ポリエチレンイミン(polyethyleneimine)、及びその混合物から選択される。レベラーがポリマーの混合物である実施形態においては、電解液中の窒素含有ポリマーレベラーの濃度は、混合物を形成する全てのポリマーの総濃度に対応し、かつ混合物を形成する一つ一つのポリマーは、1000と30000g/molの間、好ましくは1500と15000g/molの間、より好ましくは2000と5000g/molの間を含む平均分子量Mwを有している。代替的には、混合物を形成するポリマーは、より高い又はより低い平均分子量を有し得る、しかし、ポリマー混合物は、1000と30000g/molの間、好ましくは1500と15000g/molの間、より好ましくは2000と5000g/molの間を含む平均分子量Mwを有する。
【0039】
実施形態において、ポリエーテルサプレッサーの平均分子量Mwは、500と6000g/molの間、好ましくは1000と3500g/molの間を含む。追加的又は代替的に、ポリエーテルサプレッサーは、12と28ppmの間、好ましくは15と25ppmの間を含む濃度で存在する。
【0040】
一般に、ポリエーテルサプレッサーは1以上のポリマーを含むか又はそれから構成され得る。有利にも、ポリエーテルサプレッサーは、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)、ポリプロピレングリコール(polypropylene glycol)、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールの共重合体、及びそれらの混合物から選択される。ポリエーテルサプレッサーがポリマーの混合物である実施形態において、電解液中のポリエーテルサプレッサーの濃度は、混合物を形成する全てのポリマーの総濃度に対応し、かつ混合物を形成する一つ一つのポリマーは、500と12000g/molの間、好ましくは500と6000g/molの間、より好ましくは1000と3500g/molの間を含む平均分子量Mwを有する。代替的には、混合物を形成するポリマーは、より高い又はより低い平均分子量を有し得る、しかしポリマー混合物は、500と12000g/molの間、好ましくは500と6000g/molの間、より好ましくは1000と3500g/molの間を含む平均分子量Mwを有する。
【0041】
実施形態において、銅は硫酸銅として電解液に添加される。同じ又は代替実施形態によれば、銅は、60と100g/Lの間、好ましくは70と90g/Lの間を含む濃度で電解液中に存在する。
【0042】
実施形態において、ハロゲンイオンは、塩化物及び/又は臭化物イオンであり、及び/又はハロゲンイオンは、35と50ppmの間を含む濃度で電解液中に存在する。
【0043】
実施形態において、電解液は、さらに65と85g/Lの間、好ましくは70と80g/Lの間を含む濃度の硫酸を含み得る。そのような濃度で硫酸を使用することで陽極と陰極との間の電気抵抗を低減し、それによって電着銅箔を製造するために必要な電力及び電力消費が減少するという有利な効果がある。したがって、生産コストを低減し得る。
【0044】
同じ又は代替実施形態によれば、電着銅箔は、陰極と陽極との間に電流密度を印加することによって形成され、電流密度は、40と80A/dm2の間、好ましくは40と60A/dm2の間、より好ましくは45と55A/dm2の間を含む。このような電流密度により、有利にも、本発明による方法で使用される電解液の強力なレベリング効果が得られる。また、このような電流密度を使用することでより高速な銅成膜が可能になり、より低い電流密度を使用する点で、生産性が向上する。
【0045】
電解液は、電解液中の硫酸銅の結晶化を防止するために、好ましくは50℃より高い温度に維持される。より好ましくは、電解液の温度は、銅の溶解性を高めると同時に、硫酸銅の結晶化と電着銅箔の表面粗さの劣化を防止するために、50と60℃の間を含む。
【0046】
有利にも、この方法は連続プロセスであり、かつ電解液は無限の寿命を有する、即ち、本発明による方法における電解液の使用中に形成される分解生成物及び副生成物は、製造された電解銅箔の品質に影響を与えず、特に電解銅箔の輝度を変化させない。換言すれば、製造された電解銅箔の品質、特にその輝度及び表面粗さは、例えば、レベラー、サプレッサー又は光沢剤の分解生成物のような、反応副生成物又は分解生成物が電解液中に蓄積することによって損なわれれることはない。電解液の寿命は3日を超え、好ましくは7日を超え、より好ましくは15日を超えることを理解されたい。そのような長寿命の電解液により、一定の特性を持つ、即ち、電解液を数日間使用しても製造におけるいかなる品質欠陥もない、電着銅箔を製造することができる。
【0047】
別の態様によれば、本発明は、
-好ましくは銅イオンの形で、少なくとも60g/Lの濃度の銅;
-30と50ppmの間を含む濃度のハロゲンイオン;
-5と15ppmの間を含む濃度の3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸塩;
-5と12ppmの間を含む濃度の窒素含有ポリマーレベラーであって、1000と30000g/molの間を含む平均分子量Mwを有する窒素含有ポリマーレベラー;及び
-15と30ppmの間を含む濃度のポリエーテルサプレッサーであって、500と12000g/molの間を含む平均分子量Mwを有するポリエーテルサプレッサー、
を含む、電着銅箔を製造するための電解液に関するものである。
【0048】
本発明の方法の利点及び実施形態に関して述べたことは、本発明の電解液に準用する。
【0049】
さらに別の態様において、本発明は、電着銅箔、特に本発明の方法によって製造されるか、又は本発明の電解液を用いて製造される電着銅箔であって、光沢電解液側(a bright electrolyte side)を有し、Rz0.8μm以下の表面粗さ、0.15%未満、好ましくは0.1%の表面現像率(surface developed ratio)を備え、かつ構造的欠陥のない電着銅箔にも関するものである。
【0050】
上述したように、本電着銅箔は、5%未満、あるいは3%以下ですらあり得る質量偏差(weight deviation)並びに工業用に適した機械的特性を示す。
【0051】
本文において、任意の所与の数値は、前記数値の-10%から+10%の値の範囲、好ましくは、前記数値の-5%から+5%の値の範囲、より好ましくは、前記数値の-1%から+1%の値の範囲を含む。
【0052】
本発明のさらなる細部及び利点は、添付図面を参照して、いくつかのそれに限定しない実施形態についての以下の詳細な説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
本発明は、次に、添付の図面を参照して、例示により説明されるが、その場合、
【
図2】本発明による方法により製造された電着銅箔のSEM(走査型電子顕微鏡)図である。
【
図3】第1の比較方法によって製造された電着銅箔の過剰成長欠陥を示すSEM図である。
【
図4】第2の比較方法によって製造された電着銅箔のクレーターを示すSEM図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
まず、電鋳セルの動作原理について、
図1を用いて説明する。
【0055】
上述のように、本発明は、電着銅箔の製造方法、電鋳セル内で連続的に形成される電着銅箔、並びに電着銅箔を製造するための電解液を提供するものであって、製造された銅箔は表面粗さが非常に低く、欠陥がない。
【0056】
電着銅箔は、
図1に示す銅箔18を製造するための電鋳セル10(業界ではめっき機(plating machine)と呼ぶ)を用いて製造される。電鋳セル10内では、電解液12が、回転ドラム型の陰極14(表面はステンレス鋼又はチタン製)及び陰極14に対向して設けられた固定陽極16(貴金属系酸化物で覆われた鉛又はチタン電極)を含む装置(an apparatus)を通過する。両電極14,16に電流を流して、陰極14の表面に所望の厚さで銅を成膜させ、この様にして電着銅箔18を形成する。次に、電着銅箔18を陰極14の表面から剥離し、保管用リール20に巻き取る。このようにして準備された箔は、概して未処理銅箔と呼ばれる。
【0057】
続くプロセスにおいて、電着銅箔18は、結合強化処理及び/又は表面不活性化処理(図示せず)などの電気化学的又は化学的表面処理が施され得る。
【0058】
例
電着銅箔は、本発明による方法(例1から6)又は本発明の一部を形成しない比較方法(比較例1から6)のいずれかを用いて製造した。本発明による方法及び比較方法は、電解液の組成のみが互いに異なる。いずれの方法によっても、電解液は55℃の温度に維持され、陰極と陽極間に印加される電流密度は50A/dm2である。
【0059】
各種実施例の電解液組成物を表1に、各種比較例の電解液組成物を表2に示す。MPSは、表1及び表2の3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸塩の略である。
【0060】
表1及び表2に示す濃度は、電鋳セルに提供される電解液の種々の化合物の濃度に対応する。電鋳セル(又はめっき機)を起動する前に、各電解液は、表1及び表2に示す化合物を適当な量の水に可溶化することで準備が行われる。各電解液には、硫酸で金属銅を酸化することにより電解液に溶解する銅も含まれている。銅濃度は80g/lである。電鋳セルの動作中、さまざまな成分の濃度が常に確実に所定のそれぞれの範囲内であるように、各電解液にはさまざまな成分が連続的に供給される。
【0061】
次に、得られた電着銅箔を分析して、表面粗さ(Rz ISOの)や表面現像率(SDR)などの艶消し側の表面特性を決定し、かつ視覚的な欠陥の存在を検出した。
電着銅箔は次のように分析する:
【0062】
艶消し側の表面粗さの決定
銅箔の粗さは、表面を滑動するダイヤモンド針(スタイラス)からなる接触式プロフィロメータ(contact profilometer)で測定する。この測定値から、表面の2Dプロファイルが作成され、Rzは8つのサンプリング長にわたる最高峰と最深谷間の平均距離として計算される。ここで、表面粗さRzはISO4287:1997を指す。
【0063】
表面現像率(SDR)の決定
各電着銅箔の艶消し側の表面現像率は、非接触三次元白色光干渉計(non-contact three-dimensional white light interferometry)を用いて測定する。
【0064】
原理は、光線を2つの経路に分割し、1つを基準ミラー(reference mirror)に向け、もう1つをサンプル表面に向けることである。この測定ビームは、表面のプロファイルに応じて異なる距離を移動する。次に、2つの波形を再結合し、位相差に応じた特定の干渉パターンを作成する。これらのパターンを分析して、走査した各ポイント(ピクセル)でのサンプルの高さを計算する。次に、この3Dプロファイルから粗さのパラメータを計算する。ここで、表面粗さSDRはISO 2517を参照し、通常は200×1000μmのサンプル表面で測定する。
【0065】
視覚的な欠陥の特定
製造された電着銅箔は、光学顕微鏡を使って制御され、それらが構造的欠陥を表しているかどうか検出される。その後、欠陥の種類(クレーター及び/又は過剰成長欠陥)を同定するために、走査型電子顕微鏡を使用し得る。輝度の損失は、箔の外観(visual aspect)によって制御され、かつRzの急激な増加(2.0μm超)と関係付けられる。
【0066】
電着銅箔の表面特性
本発明による方法によって製造された電着銅箔の表面特性を表1に示し、比較方法によって製造された電着銅箔の表面特性を表2に示す。
【0067】
本発明による電解液を用いて製造された全ての銅箔(例1から6)は、0.7と0.8μmの間を含む表面粗さ、0.10と0.15%の間を含むSDRを有し、かつ視覚的及び表面的な欠陥がない(例5に対応する、表1及び
図2参照)。
【0068】
表2に示すように、30ppmより高い濃度のポリエーテルを用いた場合、電解液は分解生成物の蓄積により長期にわたって安定しない(比較例1)。換言すれば、電解液は数日の使用後に輝度を失う。これは、それに限られないが、SDRの増加のような、製造された銅箔の外見の数日以内の劣化につながる。平均分子量Mwが12000g/mol以上のポリエーテルを用いた場合も同じ影響が認められる(比較例5)。
【0069】
15ppm未満のポリエーテルを含む電解液を使用することで、製造された電着銅箔に視覚的な欠陥は現れないが、目標の表面粗さ(比較例2、表2)を達成することはできない。
【0070】
表2に示すように、12ppmより高い濃度の、窒素含有ポリマーを用いると、目的の表面粗さは達成できるが、局所的な過剰成長欠陥が出現した銅箔外見の劣化が認められる(比較例3、
図3も参照)。
【0071】
30000g/molより高い平均分子量を備えた窒素含有ポリマーを用いた場合にも、過剰成長欠陥の出現が認められる(比較例4)。また、この場合、目標とする表面粗さは得られず、かつ製造された銅箔は、表面粗さRz ISOが5.1μm、SDRが10.8%であった。
【0072】
30ppm未満のハロゲンイオンを用いた場合(比較例6)、目標とする表面粗さは得られず、かつ製造した電着銅箔は輝度に欠ける(表2参照)。
【0073】
本発明に対応する、すなわち、所定の平均分子量Mwを有するハロゲンイオン、ポリエーテル(サプレッサー剤としての)及び窒素含有ポリマー(レベラー剤として)を含み、かつ規定濃度内の電解液組成物(electrolyte compositions)のみが、視覚的/表面欠陥が出現することなしに、電着銅箔の表面粗さを所望のように低減することができる。
【0074】
【0075】
【国際調査報告】