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特表2024-5170133-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物、およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-18
(54)【発明の名称】3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物、およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20240411BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20240411BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240411BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240411BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240411BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240411BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240411BHJP
   C12P 13/04 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C12N15/54
C12N9/10 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P13/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568679
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-08
(86)【国際出願番号】 KR2022003845
(87)【国際公開番号】W WO2022239953
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】10-2021-0060009
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507406611
【氏名又は名称】シージェイ チェルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ソ,イ‐スル
(72)【発明者】
【氏名】シン,グァン・ス
(72)【発明者】
【氏名】シム,ジヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ,グァン・ウ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ヨン‐ジェ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE03
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA24X
4B065AA26X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA17
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA50
(57)【要約】
3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ変異体、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物、前記微生物を含むパントテン酸および/またはパントイン酸生産用組成物、および前記微生物を培養する段階を含むパントテン酸および/またはパントイン酸の製造方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された、ポリペプチド。
【請求項2】
前記159番目の残基に相応するアミノ酸が、アルギニン(R)、セリン(S)、チロシン(Y)、システイン(C)、プロリン(P)、ヒスチジン(H)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、トレオニン(T)、リジン(K)、バリン(V)、メチオニン(M)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、またはグルタミン(Q)に置換された、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドは、配列番号110~配列番号125のアミノ酸配列からなる群より選択されたいずれか1つの配列番号のアミノ酸配列からなるものである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
配列番号37のアミノ酸配列において、
(1)N-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換され;および
(2)N-末端から116番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された、ポリペプチド。
【請求項5】
(1)前記159番目の残基に相応するアミノ酸が、アルギニン(R)、セリン(S)、チロシン(Y)、システイン(C)、プロリン(P)、ヒスチジン(H)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、トレオニン(T)、リジン(K)、バリン(V)、メチオニン(M)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、またはグルタミン(Q)に置換され;および
(2)前記116番目の残基に相応するアミノ酸が、アラニン(A)、アスパラギン(N)、トレオニン(T)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、アスパラギン酸(D)、システイン(C)、グルタミン(Q)、またはメチオニン(M)に置換された、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記ポリペプチドは、配列番号128のアミノ酸配列からなるものである、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項9】
(1)配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターからなる群より選択された1つ以上;または
(2)配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換され、N-末端から116番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターからなる群より選択された1つ以上を含む、
パントテン酸またはパントイン酸を生産する微生物。
【請求項10】
前記159番目の残基に相応するアミノ酸が、アルギニン(R)、セリン(S)、チロシン(Y)、システイン(C)、プロリン(P)、ヒスチジン(H)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、トレオニン(T)、リジン(K)、バリン(V)、メチオニン(M)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、またはグルタミン(Q)に置換された、請求項9に記載の微生物。
【請求項11】
前記配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチドは、
配列番号110~配列番号125のアミノ酸配列からなる群より選択されたいずれか1つの配列番号のアミノ酸配列からなるものである、請求項9に記載の微生物。
【請求項12】
(1)前記159番目の残基に相応するアミノ酸が、アルギニン(R)、セリン(S)、チロシン(Y)、システイン(C)、プロリン(P)、ヒスチジン(H)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、トレオニン(T)、リジン(K)、バリン(V)、メチオニン(M)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、またはグルタミン(Q)に置換され;および
(2)前記116番目の残基に相応するアミノ酸が、アラニン(A)、アスパラギン(N)、トレオニン(T)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、アスパラギン酸(D)、システイン(C)、グルタミン(Q)、またはメチオニン(M)に置換された、請求項9に記載の微生物。
【請求項13】
前記配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換され、N-末端から116番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチドは、
配列番号128のアミノ酸配列からなるものである、請求項9に記載の微生物。
【請求項14】
前記微生物は、コリネバクテリウム属微生物またはエシェリキア属微生物である、請求項9に記載の微生物。
【請求項15】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムである、請求項14に記載の微生物。
【請求項16】
請求項9~15のいずれか1項に記載の微生物を含む、パントテン酸またはパントイン酸生産用組成物。
【請求項17】
請求項9~15のいずれか1項に記載の微生物を培地で培養する段階を含む、パントテン酸またはパントイン酸の製造方法。
【請求項18】
前記培養する段階の後に、培養された微生物、培地、またはこれらのすべてからパントテン酸またはパントイン酸を回収する段階を追加的に含む、請求項17に記載のパントテン酸またはパントイン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2021年5月10日付の大韓民国特許出願第10-2021-0060009号に基づく優先権の利益を主張し、当該大韓民国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ変異体、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物、前記微生物を含むパントテン酸および/またはパントイン酸生産用組成物、および前記微生物を培養する段階を含むパントテン酸および/またはパントイン酸の製造方法が提供される。
【背景技術】
【0003】
パントテン酸(pantothenic acid)は、ビタミンB複合体に属する物質でビタミンB5とも呼ばれ、化粧品、医薬、ヒト栄養物、動物栄養物などに多様に応用されている商業的に重要な物質の一つである。パントテン酸は、パントイン酸(pantonic acid)にベータ-アラニンがアミド結合で連結された構造である。
【0004】
パントテン酸またはパントイン酸は、化学的に合成して製造したり、好適な培地で好適な微生物を発酵させることによって生物工学的に製造することができる。微生物を用いる生物工学的製造方法の利点は、目的とする立体異性体型D-形態のパントテン酸またはパントイン酸が形成されるということである。
【0005】
そこで、生物工学的にパントテン酸および/またはパントイン酸を製造するのに有利な効果を有する微生物およびこれを用いてパントテン酸および/またはパントイン酸を高効率で製造する技術の開発が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国登録特許第7718205号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願の一例は、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(3-methyl-2-oxobutanoate hydroxymethyltransferase)の活性を有するポリペプチドを提供する。一具体例において、(1)前記ポリペプチドは、配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含むものであってもよい。他の具体例において、(2)前記ポリペプチドは、配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換され、N-末端から116番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含むものであってもよい。前記のようにアミノ酸配列においてN-末端からアミノ酸を計数することは、開始コドンから翻訳されたメチオニン(Met、M)を1番目のアミノ酸として計数することを意味することができる。
【0008】
他の例は、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0009】
他の例は、前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを提供する。前記組換えベクターは、発現ベクターであってもよい。
【0010】
他の例は、前記ポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターからなる群より選択された1つ以上(1つ、2つ、またはすべて)を含み、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(3-methyl-2-oxobutanoate hydroxymethyltransferase)の活性が強化された、パントテン酸またはパントイン酸を生産する微生物を提供する。
【0011】
前記微生物は、
(1)配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターからなる群より選択された1つ以上(1つ、2つ、またはすべて);または、
(2)前記(1)、および配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から116番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターからなる群より選択された1つ以上(1つ、2つ、またはすべて)を含むものであってもよい。
【0012】
前記微生物は、コリネバクテリウム属微生物またはエシェリキア属微生物であってもよい。前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムであってもよい。
【0013】
他の例は、前記微生物を含む、パントテン酸またはパントイン酸生産用組成物を提供する。
【0014】
他の例は、前記微生物をパントテン酸および/またはパントイン酸の生産に使用するための用途を提供する。
【0015】
他の例は、前記微生物を培地で培養する段階を含む、パントテン酸またはパントイン酸の製造方法を提供する。前記製造方法は、前記培養する段階の後に、培養された微生物、培地、またはこれらのすべてからパントテン酸またはパントイン酸を回収する段階を追加的に含むことができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本明細書では、パントテン酸および/またはパントイン酸生産能を向上させることができる3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼまたはその変異体を探索し、これを微生物に導入することによって、パントテン酸および/またはパントイン酸生産能に優れた組換え菌株を提供しようとする。
【0017】
本明細書において、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼを発現する微生物がパントテン酸生産能に優れていることを確認し、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの特定位置にアミノ酸置換変異が導入される場合、パントテン酸生産能がより増加することを確認した。
【0018】
一例は、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドを提供する。一具体例において、前記ポリペプチドは、配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含むものであってもよい。他の具体例において、前記ポリペプチドは、配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換され、N-末端から116番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含むものであってもよい。前記のようにアミノ酸配列においてN-末端からアミノ酸を計数することは、開始コドンから翻訳されたメチオニン(Met、M)を1番目のアミノ酸として計数することを意味することができる。
【0019】
他の例は、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0020】
他の例は、前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを提供する。前記組換えベクターは、前記ポリペプチドの発現ベクターとして使用できる。
【0021】
他の例は、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物を提供する。前記微生物は、パントテン酸またはパントイン酸を生産する微生物であってもよい。
【0022】
前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化されるのは、微生物内在の3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼが変異したり、または外来の3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼまたはその変異体が導入されることによって強化されるものであってもよい。
【0023】
一具体例において、前記活性が強化された3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼは、配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含むものであってもよい。あるいは、前記活性が強化された3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼは、配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換され、N-末端から116番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0024】
前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物は、
(1)配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターからなる群より選択された1つ以上;または
(2)前記(1)、および配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から116番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターからなる群より選択された1つ以上を含むものであってもよい。
【0025】
前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物は、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼが強化されていない(例えば、配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸および/または116番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されていない)同種微生物と比較して、高いパントテン酸および/またはパントイン酸の生産能を有することができる。
【0026】
他の例は、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物を含むパントテン酸および/またはパントイン酸生産用組成物を提供する。
【0027】
他の例は、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物を培養する段階を含むパントテン酸および/またはパントイン酸の生産方法を提供する。
【0028】
以下、より詳しく説明する。
【0029】
ポリペプチド
本明細書において、パントテン酸(pantothenic acid;e.g.,D-パントテン酸)は、化1の構造を有する化合物であって、パントイン酸(pantoic acid)にβ-アラニンがアミド結合で連結されたビタミン(ビタミンB5)であり、補酵素A(coenzyme A、CoA)とアシル基キャリアタンパク質(acyl carrier protein、ACP)の構成成分であり、生物体の各種代謝作用に関与する。
【化1】
【0030】
パントイン酸(pantoic acid;e.g.,D-パントイン酸)は、化2の構造を有する化合物であって、多様な生物学的活性化合物の構成成分である。
【化2】
【0031】
本明細書において、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(3-methyl-2-oxobutanoate hydroxymethyltransferase)は、5,10-メチレンテトラヒドロフォレート、3-メチル-2-オキソブタノエート、および水からテトラヒドロフォレートおよび2-ジヒドロパントエートを生合成する過程を触媒する酵素である。
【0032】
一具体例において、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼは、1つ以上のアミノ酸残基が置換、欠失、または挿入された変異が導入された変異体であってもよい。
【0033】
一例において、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの変異体は、配列番号37のアミノ酸配列において159番目の残基に相応するアミノ酸が、他のアミノ酸、つまり、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、システイン(C)、プロリン(P)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、チロシン(Y)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、およびグリシン(G)からなる群より選択され、元のアミノ酸と異なるアミノ酸に置換されたものであってもよい。一具体例において、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ変異体は、配列番号37のアミノ酸配列において159番目の残基に相応するアミノ酸が、他のアミノ酸、つまり、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、システイン(C)、プロリン(P)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)またはチロシン(Y)に置換されたものであってもよい。前記変異体のうち、配列番号37のアミノ酸配列において159番目のアミノ酸残基に相応するアミノ酸を除いた一部のアミノ酸配列が欠失、改変、置換または付加されても、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を示す限り、本出願の変異体に含まれることは自明である。
【0034】
また、一例において、前記変異体は、配列番号37で記載されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列において配列番号37のアミノ酸配列の159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチドを含むことができる。つまり、配列番号37のアミノ酸配列の159番目の残基に相応する位置において他のアミノ酸への置換を含み、配列番号37のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上、100%未満の配列相同性または同一性を有し、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドは、本出願の変異体に含まれる。
【0035】
一具体例において、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ変異体は、配列番号110~配列番号125の中から選択されたアミノ酸配列を含むものであってもよいが、これに制限されるわけではない。前記配列番号110~配列番号125の中から選択されたいずれか1つの配列からなる変異体において159番目の残基に相応するアミノ酸を除いた一部のアミノ酸配列が欠失、改変、置換または付加されても、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を示す限り、本出願の変異体に含まれることは自明である。また、一例において、前記変異体は、配列番号37のアミノ酸配列の159番目の残基に相応するアミノ酸は固定され、配列番号110~配列番号125の中から選択されたいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性または同一性を有するポリペプチドを含むことができる。つまり、配列番号37のアミノ酸配列の159番目の残基に相応する位置において他のアミノ酸への置換を含み、配列番号110~配列番号125の中から選択されたいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上、100%未満の配列相同性または同一性を有する3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドは、本出願の変異体に含まれる。
【0036】
一例において、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの変異体は、
(1)配列番号37のアミノ酸配列において3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの159番目の残基に相応するアミノ酸残基に相応するアミノ酸が、他のアミノ酸、つまり、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、システイン(C)、プロリン(P)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)およびチロシン(Y)からなる群より選択され、元のアミノ酸と異なるアミノ酸に置換され、および
(2)配列番号37のアミノ酸配列において3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの116番目の残基に相応するアミノ酸残基に相応するアミノ酸が、他のアミノ酸、つまり、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、システイン(C)、アラニン(A)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)およびメチオニン(M)からなる群より選択され、元のアミノ酸と異なるアミノ酸に置換されたものであってもよい。
【0037】
前記変異体のうち、配列番号37のアミノ酸配列において159番目の残基に相応するアミノ酸残基、および116番目の残基に相応するアミノ酸残基に相応するアミノ酸を除いた一部のアミノ酸配列が欠失、改変、置換または付加されても、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を示す限り、本出願の変異体に含まれることは自明である。
【0038】
また、一例において、前記変異体は、配列番号37で記載されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列において、(1)配列番号37のアミノ酸配列の159番目の残基に相応するアミノ酸、および(2)配列番号37のアミノ酸配列の116番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチドを含むことができる。つまり、(1)配列番号37のアミノ酸配列の159番目の残基に相応する位置、および(2)配列番号37のアミノ酸配列の116番目の残基に相応する位置において他のアミノ酸への置換を含み、配列番号37のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上、100%未満の配列相同性または同一性を有し、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドは、本出願の変異体に含まれる。
【0039】
一具体例において、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ変異体は、配列番号128のアミノ酸配列を含むものであってもよいが、これに制限されるわけではない。前記配列番号128のアミノ酸配列からなる変異体において、(1)159番目の残基に相応するアミノ酸、および(2)116番目の残基に相応するアミノ酸を除いた一部のアミノ酸配列が欠失、改変、置換または付加されても、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を示す限り、本出願の変異体に含まれることは自明である。また、一例において、前記変異体は、(1)配列番号37のアミノ酸配列の159番目の残基に相応するアミノ酸、および(2)配列番号37のアミノ酸配列の116番目の残基に相応するアミノ酸は固定され、配列番号128のアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性または同一性を有するポリペプチドを含むことができる。つまり、(1)配列番号37のアミノ酸配列の159番目の残基に相応する位置、および(2)配列番号37のアミノ酸配列の116番目の残基に相応する位置において他のアミノ酸への置換を含み、配列番号128のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上、100%未満の配列相同性または同一性を有する3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドは、本出願の変異体に含まれる。
【0040】
微生物
本明細書において、
(1)配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から159番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターからなる群より選択された1つ以上;または
(2)前記(1)、および配列番号37のアミノ酸配列においてN-末端から116番目の残基に相応するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターからなる群より選択された1つ以上を含む、
パントテン酸またはパントイン酸を生産する微生物を提供する。
【0041】
本明細書において、用語「3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物」は、先に説明した3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドを発現するように操作(変異)されることによって、パントテン酸および/またはパントイン酸生産能がなかった微生物がパントテン酸および/またはパントイン酸生産能を有するか、元のパントテン酸および/またはパントイン酸生産能より高いパントテン酸および/またはパントイン酸生産能を有するものであってもよい。本明細書において、「微生物」は、単細胞のバクテリアを包括するもので、「細胞」と相互交換的に使用されてもよい。本明細書において、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドが発現するように変異する前の微生物を前記変異した微生物と区別するために、「親菌株(parent microorganism or parent strain)または宿主細胞(host cell)」で表現される。
【0042】
一例において、前記微生物は、コリネバクテリウム属(the genus Corynebacterium)微生物、エシェリキア属(Escherichia)微生物などからなる群より選択された1種以上であってもよい。前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)などを含むことができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。さらにより具体的には、前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であってもよい。前記エシェリキア属菌株は、大腸菌(Escherichia coli)であってもよい。
【0043】
本明細書において、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物は、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が導入されたものであってもよい。
【0044】
本明細書において、「3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物」は、親菌株が3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドを発現するようにする変異(操作)が導入された、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドを発現する微生物であってもよい。前記微生物は、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターからなる群より選択された1つ以上を含むものであってもよい。一例において、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドを発現するようにする変異は、先に説明した3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはこれを含む組換えベクターを親菌株に導入することによって行われるものであってもよい。このように親菌株に導入される3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、親菌株内在の3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を代替したり、これに加えて追加的に含まれるものであってもよい。
【0045】
一具体例において、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドを発現する微生物は、寄託番号KCCM12973P(Corynebacterium glutamicum CV03-5002と名付ける)である。
【0046】
本明細書において、ポリヌクレオチド(「遺伝子」と相互交換的に使用されてもよい)またはポリペプチド(「タンパク質」と相互交換的に使用されてもよい)が「特定の核酸配列またはアミノ酸配列を含む、特定の核酸配列またはアミノ酸配列からなる、または特定の核酸配列またはアミノ酸配列で表現される」いうのは、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが前記特定の核酸配列またはアミノ酸配列を必須として含むことを意味することができ、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの本来の機能および/または目的とする機能を維持する範囲で前記特定の核酸配列またはアミノ酸配列に変異(欠失、置換、改変、および/または付加)が加えられた「実質的に同等の配列」を含むもの(または前記変異を排除しないもの)と解釈される。
【0047】
一例において、本明細書で提供される核酸配列またはアミノ酸配列は、これらの本来の機能または目的とする機能を維持する範囲で通常の突然変異誘発法、例えば、指向性進化法(direct evolution)および/または部位特異的突然変異法(site-directed mutagenesis)などによって改変されたものを含むことができる。一例において、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが「特定の核酸配列またはアミノ酸配列を含む、または特定の核酸配列またはアミノ酸配列からなる」というのは、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、(i)前記特定の核酸配列またはアミノ酸配列を必須として含むか、または(ii)前記特定の核酸配列またはアミノ酸配列と60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、または99.9%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるか、これを必須として含み、本来の機能および/または目的とする機能を維持することを意味することができる。本明細書において、前記目的とする機能は、微生物のパントテン酸および/またはパントイン酸生産能を増加させたり付与した機能を意味することができる。
【0048】
本明細書に記載された核酸配列は、コドンの縮退性(degeneracy)によって前記タンパク質(リジン排出タンパク質)を発現させようとする微生物で好まれるコドンを考慮して、コード領域から発現するタンパク質のアミノ酸配列および/または機能を変化させない範囲内でコード領域に多様な改変が行われる。
【0049】
本明細書において、用語「相同性(identity)」は、与えられた核酸配列またはアミノ酸配列と一致する程度を意味し、百分率(%)で表示される。核酸配列に対する相同性の場合、例えば、文献によるアルゴリズムBLAST(参照:KarlinおよびAltschul,Pro.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873,1993)や、PearsonによるFASTA(参照:Methods Enzymol.,183,63,1990)を用いて決定することができる。このようなアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(参照:http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0050】
一例において、本明細書で提供される特定の核酸配列を含むポリヌクレオチドは、前記特定の核酸配列またはこれと実質的に同等の核酸配列だけでなく、前記特定の核酸配列に相補的な核酸配列を含むポリヌクレオチド断片を含むものと解釈される。具体的には、前記相補性を有するポリヌクレオチドは、目的に応じて当業者によって適切に調節可能なTm値、例えば、55℃、60℃、63℃または65℃のTm値でハイブリダイズし、後述する条件で分析することができる:このような条件は公知の文献に具体的に記載されている。例えば、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98%以上、99.5%以上、または99.9%以上の高い相補性を有する遺伝子同士でハイブリダイズし、それより低い相補性を有する遺伝子同士はハイブリダイズしない条件、または通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC(saline-sodium citrate buffer)、および0.1%(w/v)SDS(Sodium Dodecyl Sulfate);60℃、0.1xSSC、および0.1%SDS;または68℃、0.1×SSC、および0.1%SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件などが挙げられるが、これに制限されるわけではない。ハイブリダイゼーションには2つのヌクレオチドが相補的配列を有することが要求されたり、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が許容される。前記用語「相補的」は、互いにハイブリダイズ可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するために使用できる。例えば、DNAの場合、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェンシーは、ポリヌクレオチドの長さおよび相補性の程度に依存し、これは関連技術分野にてよく知られている(Sambrook et al.,supra,9.50-9.51,11.7-11.8参照)。
【0051】
前記ポリヌクレオチドまたはベクターの導入は、公知の形質転換方法を当業者が適切に選択して行われる。本明細書において、用語「形質転換」は、特定のポリヌクレオチドまたはこれを含むベクターを宿主細胞内に導入する過程で、形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で染色体内に挿入されて位置したり、染色体外に位置することができる。一例として、形質転換は、標的タンパク質(外来タンパク質)をコードするポリヌクレオチドやこれを含むベクターを宿主細胞内に導入して宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が発現できるようにするものであってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAおよび/またはRNAを含むことができる。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現できるものであれば、その導入される形態は制限がない。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現するのに必要なすべての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入される。前記発現カセットは、通常、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位および/または翻訳終結シグナルなどの発現調節要素を含むことができる。前記発現カセットは、自ら複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入されて宿主細胞で発現に必要な配列と作動可能に連結されているものであってもよい。前記用語「作動可能に連結」とは、発現調節要素が目的タンパク質(外来タンパク質)をコードするポリヌクレオチドの転写調節(例、転写開始)を行えるように発現調節要素(例、プロモーター)とポリヌクレオチドとが機能的に連結されていることを意味することができる。作動可能な連結は、当業界における公知の遺伝子組換え技術を利用して行うことができ、例えば、通常の部位-特異的DNA切断および連結によって行われるが、これに制限されない。
【0052】
前記ポリヌクレオチドを宿主細胞に形質転換する方法は、核酸を細胞(微生物)内に導入するいかなる方法でも行うことが可能であり、宿主細胞により当分野にて公知の形質転換技術を適切に選択して行うことができる。前記公知の形質転換方法として、エレクトロポレーション法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿法、塩化カルシウム(CaCl)沈殿法、マイクロインジェクション法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿法(polyethylene glycol-mediated uptake)、DEAE-デキストラン法、陽イオンリポゾーム法、リポフェクション(lipofection)、酢酸リチウム-DMSO法などが例示されるが、これに制限されるわけではない。
【0053】
前記ポリヌクレオチドの宿主細胞遺伝体(染色体)内導入(挿入)は、公知の方法を当業者が適切に選択して行われ、例えば、RNA-ガイドエンドヌクレアーゼシステム(RNA-guided endonuclease systemまたはCRISPR system;例えば、(a)RNA-ガイドエンドヌクレアーゼ(例、Cas9タンパク質など)、それをコードする遺伝子、または前記遺伝子を含むベクター;および(b)ガイドRNA(例、single guide RNA(sgRNA)など)、それをコードするDNA、または前記DNAを含むベクターを含む混合物(例えば、RNA-ガイドエンドヌクレアーゼタンパク質とガイドRNAとの混合物など)、複合体(例えば、リボ核酸融合タンパク質(RNP)、組換えベクター(例えば、RNA-ガイドエンドヌクレアーゼ-コード遺伝子およびガイドRNA-コードDNAを共に含むベクターなど)などからなる群より選択された1つ以上)を用いて行われるが、これに制限されるわけではない。
【0054】
本明細書において、用語「ベクター」は、好適な宿主内で目的タンパク質を発現させることができるように好適な調節配列に作動可能に連結された前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA産物を意味する。前記調節配列は、転写を開始できるプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、および/または転写および/または解読の終結を調節する配列を含むことができる。ベクターは、適当な宿主細胞内に形質転換された後、宿主細胞のゲノム(遺伝体)と無関係に発現したり、宿主細胞のゲノム内に統合される。
【0055】
本明細書において使用可能なベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されず、通常使用されるすべてのベクターの中から選択されてもよい。通常使用されるベクターの例としては、天然状態または組換えられた状態のプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージなどが挙げられる。例えば、前記ベクターとして、ファージベクターまたはコスミドベクターとしてpWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、およびCharon21Aなどを使用することができ、プラスミドベクターとしてpBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系およびpET系などを使用することができる。具体的には、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを例示することができるが、これに制限されない。
【0056】
本明細書において使用可能なベクターは、公知の発現ベクターおよび/またはポリヌクレオチドの宿主細胞染色体内挿入用ベクターであってもよい。前記ポリヌクレオチドの宿主細胞染色体内挿入は、当業界にて知られた任意の方法、例えば、相同組換えまたはCRISPRシステムによって行われるが、これに限定されない。前記ベクターは、前記染色体内挿入の有無を確認するための選別マーカー(selection marker)を追加的に含むことができる。前記選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、つまり、前記ポリヌクレオチドの挿入の有無を確認するためのもので、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能表現型を付与する遺伝子の中から選択されて使用可能である。選択剤(selective agent)が処理された環境では、選別マーカーを発現する細胞のみ生存したり他の表現形質を示すので、形質転換された細胞を選別することができる。
【0057】
他の例は、前記微生物を含む、パントテン酸またはパントイン酸生産用組成物を提供する。
【0058】
他の例は、前記微生物を培地で培養する段階を含む、パントテン酸またはパントイン酸の製造方法を提供する。
【0059】
他の例は、微生物の3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を強化させる段階を含む、前記微生物のパントテン酸および/またはパントイン酸生産能を増加させる方法、または前記微生物にパントテン酸生産能を付与する方法を提供する。
【0060】
前記微生物の3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を強化させる段階は、前記微生物に3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドを発現するようにする変異を導入する段階を含むことができる。
【0061】
前記変異を導入する段階は、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを微生物に導入(形質転換)させる段階を含むものであってもよい。
【0062】
他の例は、前記3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が強化された微生物を培地で培養する段階を含む、パントテン酸および/またはパントイン酸の生産方法を提供する。前記方法は、前記培養する段階の後に、前記培養された微生物、培地、またはこれらのすべてからパントテン酸および/またはパントイン酸を回収する段階を追加的に含むことができる。
【0063】
前記方法において、前記微生物を培養する段階は、特にこれに制限されないが、公知の回分式培養方法、連続式培養方法、流加式培養方法などによって行われる。この時、培養条件は、特にこれに制限されないが、塩基性化合物(例:水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア)または酸性化合物(例:リン酸または硫酸)を用いて適正pH(例えば、pH5~9、具体的にはpH6~8、最も具体的にはpH6.8)を調節することができ、酸素または酸素-含有ガス混合物を培養物に導入させて好気性条件を維持することができる。培養温度は20~45℃、または25~40℃を維持することができ、約10~160時間培養することができるが、これに制限されるわけではない。前記培養によって生産されたパントテン酸および/またはパントイン酸は、培地中に分泌されたり細胞内に残留しうる。
【0064】
前記培養に使用可能な培地は、炭素供給源として糖および炭水化物(例:グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、糖蜜(molasse)、デンプンおよびセルロース)、乳脂および脂肪(例:大豆油、ヒマワリ種子油、ピーナッツ油およびココナッツ油)、脂肪酸(例:パルミチン酸、ステアリン酸およびリノール酸)、アルコール(例:グリセロールおよびエタノール)、有機酸(例:酢酸)などからなる群より選択された1種以上を個別的に使用するか、または2種以上を混合して使用することができるが、これに制限されない。窒素供給源としては、窒素-含有有機化合物(例:ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、トウモロコシ浸漬液、大豆粉および尿素)、無機化合物(例:硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウム)などからなる群より選択された1種以上を個別的に使用するか、または2種以上を混合して使用することができるが、これに制限されない。リン供給源として、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、これに相応するナトリウム含有塩などからなる群より選択された1種以上を個別的に使用するか、または2種以上を混合して使用することができるが、これに制限されない。また、前記培地は、その他の金属塩(例:硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄)、アミノ酸、および/またはビタミンなどのような必須成長-促進物質を含むことができる。
【0065】
前記パントテン酸および/またはパントイン酸を回収する段階は、培養方法により当該分野にて公知の好適な方法を用いて培地、培養液、または微生物から目的とするアミノ酸を収集するものであってもよい。例えば、前記回収する段階は、遠心分離、ろ過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化、HPLCなどから選択された1つ以上の方法で行われる。前記パントテン酸および/またはパントイン酸を回収する方法は、その前、同時、またはその後に、精製段階を追加的に含むことができる。
【発明の効果】
【0066】
本明細書では、3-メチル-2ケトブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの変異体を提供し、これを用いて微生物のパントテン酸および/またはパントイン酸の生産能を増加させる技術が提供される。前記3-メチル-2ケトブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ変異体を発現するようにする変異を微生物に導入することによって、パントテン酸および/またはパントイン酸の生産性を向上させたり、パントテン酸および/またはパントイン酸生産能を付与できる技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは例示に過ぎず、本発明の範囲を制限しようとするものではない。下記記載の実施例は発明の本質的な要旨を逸脱しない範囲で変形できることは当業者にとって自明である。
【0068】
実施例1.3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ遺伝子の探索および選別
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(panB)をクエリに設定してNCBI BLAST探索の結果、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の活性を有すると推定される候補遺伝子とこれらを保有した微生物を選別した。そのうち、バイオセーフティーレベル(biosafety level)が1等級の微生物由来の3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を選別し、これを表1にまとめた。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例2.外来微生物由来の3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼが導入されたコリネバクテリウム属微生物の作製
前記実施例1で確保された微生物のゲノムを抽出した後、これを鋳型として表1のプライマー配列を用いてPCRを行って、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードするDNA断片を増幅した。前記PCRはPfuUltraTM高-信頼DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いて行い、変性95℃、30秒;アニーリング55℃、30秒;および重合反応72℃、1分を30回繰り返す条件で行った。その結果、それぞれの3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードするDNA断片(panB)を取得した。
【0071】
コリネバクテリウム・グルタミカム由来のPLM1プロモーターを確保するために、コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13032)ゲノムDNAを鋳型として配列番号27と28のプライマーを用いて前記記載されたものと同一にPCRを行って、プロモーターDNA断片を取得した。
【0072】
制限酵素BamHIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpECCG117(大韓民国登録特許第10-0057684号)ベクターと得られたDNA断片(各panB、PLM1プロモーター)をモル濃度(M)2:1:1(pECCG117ベクター:panB:PLM1)となるようにして、タカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて提供されたマニュアルによりクローニングすることによってプラスミドを取得し、前記取得されたプラスミドの名前と導入された遺伝子情報を前記表1に表記した。
【0073】
作製された13種のベクターをエレクトロポレーション法によってコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に形質転換して、外来PanB(3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ)を発現する菌株を作製した。
【0074】
実施例3.外来微生物由来の3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼが発現するコリネバクテリウム属微生物のパントテン酸生産能調査
前記実施例2で得られた多様な外来微生物由来のpanB発現菌株のパントテン酸の生産性を確認するために、下記のような組成からなる生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに親菌株(非形質転換菌株)および前記菌株をそれぞれ接種した後、32℃で48時間、200rpmで振盪培養してパントテン酸を製造した。
【0075】
<生産培地>
ブドウ糖10%、ベータ-アラニン0.5%、酵母抽出物0.4%、硫酸アンモニウム1.5%、第1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水和物0.05%、硫酸鉄7水和物10mg/l、硫酸マンガン1水和物6.7mg/l、ビオチン50μg/l、チアミン・HCl100μg/l、pH7.2
【0076】
前記得られた培養液を20,000rcfで10分間遠心分離後、上澄液をTDW(triple distilled water)で1/10希釈した後、HPLC分析を行ってパントテン酸およびL-バリンの濃度を測定し、その結果を下記の表2に示した。
【0077】
【表2】
【0078】
表2に示されているように、親菌株のコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032はパントテン酸を生産しないのに対し、試験されたすべての外来微生物由来のpanB発現コリネバクテリウム・グルタミカム菌株は平均的に約0.6g/Lのパントテン酸を生産した。特に、外来微生物由来のPanBの発現菌株のうち、大腸菌由来のpanB発現菌株のATCC13032 pECCG117-panB(EC)が最も高いパントテン酸生産性(1.2g/L)を示した。
【0079】
上記の結果は、実施例1で選別された13種の微生物由来の酵素(3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ)がすべてパントテン酸生産能を示し、この中でも大腸菌由来の酵素が特に高いパントテン酸生産能を有することを示す。
【0080】
実施例4.大腸菌由来の3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ遺伝子が導入されたコリネバクテリウム属微生物の作製
前記実施例3において、特に優れたパントテン酸生産能を有することが確認された大腸菌由来の3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ-コード遺伝子(panB)をコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に導入するためのプラスミドを作製した。
【0081】
まず、親菌株に存在するpanBを欠損させるためのベクターを作製した。コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032のゲノムDNAを鋳型として配列番号29と30および配列番号31と32のプライマーを用いてPCRを行った。PCRは変性95℃、30秒;アニーリング55℃、30秒;および重合反応72℃、1分を25回繰り返す条件で行った。その結果、panB遺伝子の上流領域1000bpとpanB遺伝子の下流領域1000bpの遺伝子断片をそれぞれ取得し、QIAGEN社のPCR Purification kitを用いて各増幅産物を精製して、ベクター作製のための挿入DNA断片として用いた。
【0082】
制限酵素smaIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZ(大韓民国登録特許番号第0924065号)ベクターとDNA断片(panB遺伝子の上流領域1000bpの遺伝子断片およびpanB遺伝子の下流領域1000bpの遺伝子断片)をモル濃度(M)2:1:1となるようにして、タカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて提供されたマニュアルによりクローニングすることによって、panB遺伝子を染色体上に欠損するためのベクターpDZ_ΔpanBを作製した。
【0083】
大腸菌由来のpanB遺伝子を用意するために、実施例2で作製されたプラスミドpECCG117-panB(EC)を鋳型として配列番号33と34のプライマーを用いてPCRを行った。PCRは変性95℃、30秒;アニーリング55℃、30秒;および重合反応72℃、1分を25回繰り返し行い、その結果、1077bpのDNA断片を取得した。制限酵素smaIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZ_ΔpanBベクターと前記得られたDNA断片をモル濃度(M)1:2となるようにして、タカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて提供されたマニュアルによりクローニングすることによって、大腸菌由来のpanB遺伝子を染色体上に導入するためのベクターpDZ_ΔpanB::PLM1-panB(EC)を作製した。
【0084】
作製されたベクターpDZ_ΔpanBとpDZ_ΔpanB::panB(EC)をエレクトロポレーション法によりそれぞれコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に形質転換し、2次交差過程を経て染色体上でpanBが欠損した菌株(ΔpanB菌株)と大腸菌由来のpanBが導入された菌株(ΔpanB::panB(EC))をそれぞれ得た。大腸菌由来のpanBの適切な置換の有無は、下記のプライマーの組み合わせを用いてMASA(Mutant Allele Specific Amplification)PCR手法(Takeda et al.,Hum.Mutation,2,112-117(1993))を用いて確認した。つまり、大腸菌panBに符合するプライマーの組み合わせ(配列番号35と28および配列番号36と1)では増幅される菌株を選別することによって1次決定し、選別された菌株のpanB配列は配列番号35および配列番号36のプライマーの組み合わせを用いて分析することによって2次確認した。
【0085】
前記のように得られた変異株のパントテン酸の生産性を確認するために、生産培地(実施例3参照)25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコにコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の野生型菌株、ΔpanB菌株、およびΔpanB::panB(EC)変異株を接種した後、32℃で48時間、200rpmで振盪培養してパントテン酸を製造した。
【0086】
前記得られた培養液を20,000rcfで10分間遠心分離後、上澄液をTDW(triple distilled water)で1/10希釈した後、HPLC分析を行ってパントテン酸およびL-バリンの濃度を測定し、その結果を下記の表3に示した。
【0087】
【表3】
【0088】
表3に示されているように、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の野生型およびpanB欠損(ΔpanB)菌株は、パントテン酸を全く生産できなかったりほとんど生産できないのに対し、外来のpanBを発現する変異株コリネバクテリウム・グルタミカム(ΔpanB::panB(EC))は0.4g/lの濃度でパントテン酸を生産した。
【0089】
実施例5.人工変異法(NTGに基づく変異)によるランダム突然変異株の作製およびpanB生産菌株の選別
本実施例では、パントテン酸の生産能がより向上した微生物変異株を得るために、下記のような方法を用いて、実施例4により作製した大腸菌由来のpanBを発現する変異株コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032ΔpanB::panB(EC)菌株を親菌株として微生物の変異を誘導した。
【0090】
具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032ΔpanB::panB(EC)菌株を活性化培地で16時間培養して活性化させ、121℃で15分間滅菌した種培地に接種して14時間培養した後、培養液5mlを回収した。回収した培養液を100mMクエン酸緩衝溶液(citric buffer)で洗浄した後、NTG(N-Methyl-N’-nitro-N-nitrosoguanidine)を最終濃度200mg/lとなるように添加して20分間処理し、100mMリン酸緩衝溶液(phosphate buffer)で洗浄した。NTGが処理された菌株を最小培地に塗抹して死滅率を測定した結果、死滅率は85%となった。生存した細胞を生産培地に接種および培養し、最終的に優れたパントテン酸生産能を示す変異株を2種選別して、コリネバクテリウム・グルタミカムCJVB5-01(Corynebacterium glutamicum、CJVB5-01)およびCJVB5-02(Corynebacterium glutamicum、CJVB5-02)と名付けた。
【0091】
本実施例で使用した培地の組成は下記の通りである。
【0092】
<活性化培地>
牛肉抽出物1%、ポリペプトン1%、塩化ナトリウム0.5%、酵母抽出物1%、寒天2%、pH7.2
【0093】
<生産培地>
ブドウ糖10%、ベータ-アラニン0.5%、酵母抽出物0.4%、硫酸アンモニウム1.5%、第1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水和物0.05%、硫酸鉄7水和物10mg/l、硫酸マンガン1水和物6.7mg/l、ビオチン50μg/l、チアミン・HCl 100μg/l、pH7.2
【0094】
<最小培地>
ブドウ糖1.0%、硫酸アンモニウム0.4%、硫酸マグネシウム0.04%、第1リン酸カリウム0.1%、尿素0.1%、チアミン0.001%、ビオチン200μg/l、寒天2%、pH7.2
【0095】
前記得られた変異株コリネバクテリウム・グルタミカムCJVB5-01およびCJVB5-02のパントテン酸生産能を確認するために、生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコにコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032ΔpanB::panB(EC)菌株、CJVB5-01変異株およびCJVB5-02変異株をそれぞれ接種した後、32℃で48時間、200rpmで振盪培養してパントテン酸を製造した。
【0096】
前記得られた培養液を20,000rcfで10分間遠心分離後、上澄液をTDW(triple distilled water)で1/10希釈した後、HPLC分析を行ってパントテン酸およびL-バリンの濃度を測定し、その結果を下記の表4および表5に示した。
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】
【0099】
前記表4および表5に示されているように、コリネバクテリウム・グルタミカムΔpanB菌株はパントテン酸を生産しておらず、コリネバクテリウム・グルタミカムCJVB5-01変異株およびCJVB5-02変異株は外来panBが挿入されたコリネバクテリウム・グルタミカムΔpanB::panB(EC)と比較して、より優れたパントテン酸生産能を示すことを確認した。また、3-メチル-2-オキソブタノエートを基質とする物質であるバリンの濃度が減少したことから、CJVB5-1変異株およびCJVB5-02変異株のパントテン酸生産能が野生型よりはるかに強くなったことを確認することができた。
【0100】
コリネバクテリウム・グルタミカムCJVB5-01変異株のゲノムシーケンシングの結果、挿入された大腸菌panB遺伝子が、野生型大腸菌3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(配列番号37)にG116A変異(配列番号37のアミノ酸配列のうち116番目のアミノ酸残基のG(Gly)がA(Ala)に置換)が導入された変異体をコードするように変異したことを確認した。以下、「G116A」のようにアミノ酸位置を用いたアミノ酸変異表示は、アミノ酸変異および/またはこのようなアミノ酸変異を誘導する遺伝子変異を意味するものと理解される。前記G116A変異が導入された大腸菌3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ変異体のアミノ酸配列を配列番号62に示した。
【0101】
コリネバクテリウム・グルタミカムCJVB5-02変異株のゲノムシーケンシングの結果、挿入された大腸菌panB遺伝子が、野生型大腸菌3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(配列番号37)にA159L変異(配列番号37のアミノ酸配列のうち159番目の残基に相応するアミノ酸残基のA(Ala、アラニン)がL(Leu、ロイシン)に置換)が導入された変異体をコードするように変異したことを確認した。以下、「A159L」のようにアミノ酸位置を用いたアミノ酸変異表示は、アミノ酸変異および/またはこのようなアミノ酸変異を誘導する遺伝子変異を意味するものと理解される。前記A159L変異が導入された大腸菌3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ変異体のアミノ酸配列を配列番号110に示した。
【0102】
上記の結果により、ランダム突然変異法により得られたCJVB5-01変異株およびCJVB5-02変異株がピルビン酸からパントテン酸の合成される経路が阻害されず、パントテン酸を高効率および高収率で生産できることを確認した。
【0103】
実施例6.3-メチル-2ケトブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性を有する変異型panBプラスミドの作製
前記実施例5によりパントテン酸生産能に影響を与えることが確認された大腸菌PanB(3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ)の変異位置である116番目および/または159番目の残基に相応するアミノ酸残基がパントテン酸生産能の増加に重要な位置であることを確認するために、この位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸に置換した変異型を作製して、その効果を確認した。
【0104】
実施例2で作製されたpECCG117-panB(EC)(表1参照)を鋳型とし、下記の表6に記載のプライマーを用いて、大腸菌PanB(配列番号37)の116番目位置のアミノ酸のG(Gly)が他のアミノ酸に置換されたランダム突然変異(飽和突然変異誘発:Saturated mutagenesis)が導入された(つまり、前記ランダム突然変異が導入された大腸菌PanBをコードするように変異したpanB遺伝子が導入された)変異体を作製した。また、下記の表7に記載のプライマーを用いて、大腸菌PanB(配列番号37)の159番目位置のアミノ酸のA(Ala)が他のアミノ酸に置換されたランダム突然変異が導入された変異体を作製した。実施例1で作製されたpECCG117-panB(EC)を鋳型として使用した。それぞれの飽和突然変異誘発(Saturated mutagenesis)が導入された変異株の変異型による置換されたアミノ酸および各変異型に使用されたプライマーを下記の表6および表7にまとめた。
【0105】
【表6】
【0106】
【表7】
【0107】
具体的には、前記表6および表7で提示したプライマーを用いて、実施例2で作製されたpECCG117-panB(EC)(表1参照)を鋳型としてPCRを行った。重合酵素はSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼ(SolGent co.,Ltd.)を使用し、PCRは95℃で10分間変性後、95℃30秒変性、55℃30秒アニーリング、72℃1分重合を25回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行って進行させた。その結果、3-メチル-2-オキソブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ遺伝子の変異(116番目の残基)を中心に5’上流部位の610bpのDNA断片と3’下流部位の470bpのDNA断片を得、159番目の残基を中心に5’上流部位の477bpのDNA断片と3’下流部位の318bpのDNA断片を得ており、制限酵素BamHIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpECCG117(大韓民国登録特許第10-0057684号)ベクターと前記得られたそれぞれのDNA断片(116番目の残基:5’上流部位の610bpのDNA断片および3’下流部位の470bpのDNA断片、159番目の残基:5’上流部位の477bpのDNA断片および3’下流部位の318bpのDNA断片)をモル濃度(M)2:1:1となるようにして、タカラ(TaKaRa)のInfusion Cloning Kitを用いて提供されたマニュアルによりクローニングすることによって、変異panB導入のためのプラスミドを取得した。コリネバクテリウム・グルタミカム由来のPLM1プロモーターを確保するために、コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13032)ゲノムDNAを鋳型として配列番号108と109のプライマーを用いて前記記載されたものと同一にPCRを行って、プロモーターDNA断片を取得した。
【0108】
前記得られた変異プラスミドの情報を下記の表8および表9にまとめた。
【0109】
【表8】
【0110】
【表9】
【0111】
実施例7.変異型3-メチル-2ケトブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼのパントテン酸生産能評価
実施例6で作製された変異プラスミド(表8および表9)とpECCG117-panB(WT-EC)(表1)を、それぞれ実施例4で作製されたATCC13032ΔpanB菌株に電気パルス法で導入した後、カナマイシン25mg/lを含有する選別培地で塗抹して、それぞれのランダム突然変異(Saturated mutagenesis)が導入された計19種の形質転換変異株を取得した。その後、実施例3と同様の方法でフラスコ評価を進行させて、得られたパントテン酸生産能を測定した。前記得られた結果を表10および表11に示した:
【0112】
【表10】
【0113】
上記の表10から分かるように、ATCC13032ΔpanB菌株はパントテン酸を生産しないのに対し、大腸菌PanB(野生型)またはその変異型が導入された変異株はすべてパントテン酸生産能を示した。また、G116S、G116C、G116L、G116I、G116T、G116V、G116D、G116E、G116N、G116A、G116M、またはG116Q変異が導入された変異株は大腸菌PanB(野生型)を含む変異株のATCC13032ΔpanB pECCG117-panB(WT)と比較して、より高い水準でパントテン酸を生産した。このような結果により、大腸菌PanBの野生型および変異型ともパントテン酸の生産増加効果を有し、特にPanB(配列番号37)の116番目のアミノ酸残基がパントテン酸の生産に重要な位置であり、この位置のアミノ酸を元と異なる多様なアミノ酸に置換する場合、パントテン酸の生産能がより増加することを確認することができた。
【0114】
本実施例において、パントテン酸の生産能に最も優れていることが確認されたATCC13032ΔpanB pECCG117-panB(G116A)菌株(Corynebacterium glutamicum CV03-5001と名付ける)を、2020年6月8日付で大韓民国ソウル特別市西大門区(ソデムング)弘済洞(ホンジェドン)所在の韓国微生物保存センターに寄託して、KCCM12744Pの寄託番号が与えられた。
【0115】
【表11】
【0116】
また、前記表11から確認できるように、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株はパントテン酸を生産しないのに対し、前記作製された19種の変異株はすべてパントテン酸生産能を示し、このうち、野生型panB(配列番号37)の159番目の残基に相応するアミノ酸が、アルギニン(R)、セリン(S)、チロシン(Y)、システイン(C)、プロリン(P)、ヒスチジン(H)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、トレオニン(T)、リジン(K)、バリン(V)、メチオニン(M)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、またはグルタミン(Q)に変異した変異株は、野生型panBを含むATCC13032 pECCG117-panB(WT)菌株と比較して、高い水準でパントテン酸を生産した。このような結果により、panB(配列番号37)の159番目の残基に相応するアミノ酸残基がパントテン酸の生産に重要な位置であることを確認することができ、この位置のアミノ酸を元と異なる多様なアミノ酸に置換する場合、パントテン酸の生産能がより増加することを確認することができた。
【0117】
本実施例において、パントテン酸の生産能に最も優れていることが確認されたATCC13032ΔpanB pECCG117-panB(A159L)菌株をCV03-5002と名付け、2021年4月13日付で大韓民国ソウル特別市西大門区(ソデムング)弘済洞(ホンジェドン)所在の韓国微生物保存センターに寄託して、KCCM12973Pの寄託番号が与えられた。
【0118】
実施例8.パントテン酸生産能が向上した変異型3-メチル-2ケトブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼの作製および評価
実施例7で効果を確認した3-メチル-2ケトブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼG116A変異体と、3-メチル-2ケトブタノエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼA159L変異体とを組み合わせて、追加的な活性の向上があるか否かを確認した。
【0119】
G116AとA159L変異体を含むベクターを作製するために、実施例2で作製されたpECCG117-panB(A159L)を鋳型として配列番号74、126および配列番号77、127のプライマーを用いて、実施例2に記載されたものと同一にG116AとA159Lがすべて含まれているベクターを作製した。作製された変異プラスミドpECCG117-panB(G116A、A159L)を野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株に電気パルス法で導入した後、カナマイシン25mg/Lを含有する選別培地で塗抹して、それぞれの形質転換株を取得した。その後、実施例2と同様の方法でフラスコ評価を進行させて、得られたパントテン酸生産能を測定した。前記得られた結果を下記の表12に示した。
【0120】
【表12】
【0121】
前記表12から確認できるように、ATCC13032菌株はパントテン酸を生産しないのに対し、panBの116番目の残基に相応するアミノ酸変異と159番目の残基に相応するアミノ酸変異とをすべて含む変異株は野生型panBを含むATCC13032 pECCG117-panB(WT)菌株と比較して高い水準でパントテン酸を生産し、A159LまたはG116A変異を含む変異株よりも高い水準でパントテン酸を生産した。このような結果により、panBの116番目と159番目の残基に相応するアミノ酸残基がパントテン酸の生産に重要な位置であることを確認することができ、この位置のアミノ酸を元と異なるアミノ酸に置換する場合、パントテン酸の生産能がより増加することを確認することができた。
【0122】
以上の説明から、本出願の属する技術分野における当業者は本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。これに関連し、以上に述べた実施例はあらゆる面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。本出願の範囲は、上記の詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲の意味および範囲、そしてその等価概念から導出されるすべての変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれると解釈されなければならない。
【0123】
(受託番号)
寄託機関名:韓国微生物保存センター
受託番号:KCCM12744P
受託日付:20200608
寄託機関名:韓国微生物保存センター
受託番号:KCCM12973P
受託日付:20210413
【配列表】
2024517013000001.app
【国際調査報告】