(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-18
(54)【発明の名称】リン酸鉄リチウム正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20240411BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569872
(86)(22)【出願日】2022-05-06
(85)【翻訳文提出日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 CN2022091178
(87)【国際公開番号】W WO2022237642
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】202110506894.1
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510177809
【氏名又は名称】ビーワイディー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】徐云玲
(72)【発明者】
【氏名】徐茶清
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼俊越
(72)【発明者】
【氏名】曹文玉
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA06
5H050AA08
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB12
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5H050DA09
5H050EA08
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
リン酸鉄リチウム正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池を開示する。該リン酸鉄リチウム正極材料の化学式は、LiFe1-xMxPO4/Cであり、式中、0<x≦0.05、Mは、Mg、Al、Zr、Ti、Co、V、Mn、W、Sn、Nb及びMoから選択される少なくとも1種の元素であり、前記リン酸鉄リチウム正極材料の粒径分布は、(D90-D10)/D50=1~2.17を満たし、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の磁性体の含有量は、850重量ppm~900重量ppmである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式がLiFe
1-xM
xPO
4/Cであり、式中、0<x≦0.05、MがMg、Al、Zr、Ti、Co、V、Mn、W、Sn、Nb及びMoから選択される少なくとも1種の元素であり、
粒径分布が(D90-D10)/D50=1~2.17を満たし、磁性体の含有量が850重量ppm~900重量ppmである、リン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項2】
前記リン酸鉄リチウム正極材料の総重量を基準とすると、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の炭素の含有量は、1wt%~3.5wt%である、請求項1に記載のリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項3】
前記リン酸鉄リチウム正極材料の総重量を基準とすると、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の炭素の含有量は、1.4wt%~3.2wt%である、請求項1又は2に記載のリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項4】
前記リン酸鉄リチウム正極材料中の磁性体の含有量は、850重量ppm~885重量ppmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項5】
Mは、Ti、V及びNbから選択される少なくとも1種の元素である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項6】
前記リン酸鉄リチウム正極材料の粒径分布は、(D90-D10)/D50=1~1.55を満たす、請求項1~5のいずれか一項に記載のリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項7】
不活性雰囲気下、リチウム塩、リン酸及び鉄塩を溶媒の存在下で混合した後、水熱反応を行わせて、第1スラリーを得るステップ(1)と、
前記第1スラリーを洗浄して、第2スラリーを得るステップ(2)と、
前記第2スラリーに有機炭素源、分散剤及び結晶粒成長抑制剤を添加し、不活性雰囲気下でサンドミリングを行って、第3スラリーを得るステップ(3)と、
前記第3スラリーとリチウム補充剤を混合してから、噴霧乾燥して前駆体を得るステップ(4)と、
前記前駆体を焼結し、焼結生成物に対して気流粉砕処理を行った後、リン酸鉄リチウム正極材料を得るステップ(5)とを含む、リン酸鉄リチウム正極材料の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム塩、前記リン酸及び前記鉄塩の使用量は、リチウム元素、リン元素及び鉄元素のモル比が2.8~3.2:1:1であることを満たし、
前記第2スラリーの無水ベースで計算すると、前記有機炭素源の使用量は、8wt%~16wt%であり、
前記第2スラリーの無水ベースで計算すると、前記分散剤の使用量は、0.5wt%~5wt%であり、
前記第2スラリーの無水ベースで計算すると、前記結晶粒成長抑制剤の使用量は、0.1wt%~6wt%であり、
前記第3スラリーの無水ベースで計算すると、前記リチウム補充剤の使用量は、0.2wt%~5.5wt%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2スラリーの無水ベースで計算すると、前記結晶粒成長抑制剤の使用量は、0.3wt%~5wt%である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記第3スラリーの無水ベースで計算すると、前記リチウム補充剤の使用量は、0.5wt%~5wt%である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記リチウム塩は、塩化リチウム、硫酸リチウム、水酸化リチウム及び硝酸リチウムから選択される少なくとも1種であり、
前記鉄塩は、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄及びシュウ酸第一鉄から選択される少なくとも1種である、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記有機炭素源は、スクロース、水溶性フェノール樹脂、グルコース、ポリエチレングリコール6000、ヒドロキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、デンプン及びポリビニルアルコールから選択される少なくとも1種であり、前記ポリアクリルアミドの重量平均分子量が500万g/mol~1200万g/molであり、前記ポリビニルアルコールの重量平均分子量が20万g/mol~70万g/molであり、
前記分散剤は、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ドデシル硫酸ナトリウム、メチルペンタノール、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム及びピロリン酸ナトリウムから選択される少なくとも1種であり、
前記結晶粒成長抑制剤は、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルミニウム、硝酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸テトラエチル、チタン酸エチル、酢酸コバルト、硝酸コバルト、五酸化二バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガン、五塩化ニオブ、二硫化タングステン、塩化スズ、酸化スズ、硫化モリブデン及び酸化モリブデンから選択される少なくとも1種である、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記リチウム補充剤は、リン酸二水素リチウム、リン酸一水素リチウム及びリン酸リチウムから選択される少なくとも1種である、請求項7~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(1)において、前記水熱反応の条件は、温度が130℃~200℃であり、時間が2h~8hであることを含む、請求項7~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(2)において、前記洗浄は、前記第1スラリー中の反応母液を除去してから、反応母液除去後の生成物を希塩水溶液で洗浄するステップを含み、前記希塩水溶液は、塩化リチウム、硝酸リチウム、リン酸二水素リチウム、リン酸一水素リチウム及びリン酸二水素アンモニウムの水溶液から選択される少なくとも1種である、請求項7~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記希塩水溶液の濃度は、0.01wt%~2wt%である、請求項7~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(3)において、前記サンドミリングの条件は、線速度が5m/s~15m/sであり、時間が0.5h~12hであることを含む、請求項7~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(4)において、前記噴霧乾燥の条件は、固形分が30wt%~50wt%であり、温度が90℃~105℃であり、時間が5h~12hであることを含み、
前記焼結の条件は、温度が650℃~760℃であり、時間が5h~10hであることを含む、請求項7~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項7~18のいずれか一項に記載の方法で製造されるリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項20】
請求項1~6及び請求項19のいずれか一項に記載のリン酸鉄リチウム正極材料を含むことを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権情報)
本願は、2021年5月10日に中国国家知識産権局に提出された、名称が「リン酸鉄リチウム正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池」である中国特許出願第202110506894.1号の優先権を主張するものであり、その全ての内容は、参照により本願に組み込まれるものとする。
【0002】
本願は、正極材料の分野に関し、具体的には、リン酸鉄リチウム正極材料及びその製造方法、並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リン酸鉄リチウム正極材料と三元系正極材料(NCMとNCA)は、現在、リチウムイオン電池に主に用いられている2種の正極材料であり、それぞれの特徴に基づいて、応用分野は、明らかに区別されている。リン酸鉄リチウム正極材料は、優れた安全性及び長いサイクル寿命を有するため、大型バスの分野に広く適用され、三元系正極材料は、高いエネルギー密度を有し、乗用車の分野に広く適用されている。
【0004】
リン酸鉄リチウムの構造は、斜方晶系のオリビン構造に属し、充放電の過程でリチウムの挿入脱離による体積変化が非常に小さい(6.8%)ため、極めて優れたサイクル性能を有するが、その低い電子導電性及びイオン導電性により、その低温性能及びレート性能が低く、動力電池の低温性能及びレートに対する要求を満たすことが困難である。リン酸鉄リチウム正極材料の低温性能及びレート性能が低いという問題に対して、現在、多くの改善が行われ、一定の進展が得られているが、リン酸鉄リチウム正極材料の低温性能及びレート性能は、三元系正極材料に比べて依然として劣っている。同時に、製造過程で混入した鉄系不純物により、リン酸鉄リチウム正極材料中の磁性体の含有量が高いため、電池の自己放電が深刻になり、ひいては安全性の問題があることも、現在、解決すべき重要な課題である。
【0005】
リン酸鉄リチウムの製造方法は、主に固相法及び水熱合成法(「湿式法」と略称する)を含み、固相法は、リチウム塩、リン源、鉄源及び炭素源を機械的混合方式により均一に混合した後、噴霧、焼結及び気流粉砕プロセスによってリン酸鉄リチウム正極材料を得ることである。該方法は、技術が比較的成熟し、かつコストが比較的低く、製造されたリン酸鉄リチウムの容量が比較的高く、圧密が比較的高いため、現在、ほとんどの正極メーカーに使用されているが、固相法で合成されたリン酸鉄リチウムは、粒子のサイズが大きいため、低温性能及びレート性能が比較的低いという問題がある。固相法に比べて、湿式合成方法は、得られたリン酸鉄リチウムのサイズが小さく、低温性能及びレート性能には大きな優位性があるが、湿式合成技術で製造されたリン酸鉄リチウムには、多くの不純物相があり、合成過程で影響因子が多く、一致性が低いため、容量が低く、かつ不純物相があるため、磁性体の含有量が高く、高温性能及びサイクル性能が低い。固相法に比べて、湿式合成方法で製造されたリン酸鉄リチウムは、粒子のサイズが小さいが、一次粒子の多くが160nm以上であり、かつ凝集が深刻であるため、低温性能及びレート性能が固相法に比べて向上しているが、動力電池の要求を満たすことが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、従来技術におけるリン酸鉄リチウム正極材料の低温性能が低く、レート性能が低く、磁性体の含有量が高いという問題を解決するために、リン酸鉄リチウム正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するために、本願の第1態様は、化学式がLiFe1-xMxPO4/Cであり、式中、0<x≦0.05、MがMg、Al、Zr、Ti、Co、V、Mn、W、Sn、Nb及びMoから選択される少なくとも1種の元素であり、
粒径分布が(D90-D10)/D50=1~2.17を満たし、磁性体の含有量が850重量ppm~900重量ppmである、リン酸鉄リチウム正極材料を提供する。
【0008】
本願の第2態様は、
溶媒の存在下で、リチウム塩、リン酸及び鉄塩を不活性雰囲気下で均一に混合した後、水熱反応を行って、第1スラリーを得るステップ(1)と、
前記第1スラリーを洗浄して、第2スラリーを得るステップ(2)と、
前記第2スラリーに有機炭素源、分散剤及び結晶粒成長抑制剤を添加し、不活性雰囲気下でサンドミリングを行って、第3スラリーを得るステップ(3)と、
前記第3スラリーとリチウム補充剤を均一に混合してから、噴霧乾燥して前駆体を得るステップ(4)と、
前記前駆体を焼結し、焼結生成物に対して気流粉砕処理を行った後、リン酸鉄リチウム正極材料を得るステップ(5)とを含む、リン酸鉄リチウム正極材料の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の第3態様は、上記方法により製造されたリン酸鉄リチウム正極材料を提供する。
【0010】
本発明の第4態様は、上記リン酸鉄リチウム正極材料を含むリチウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0011】
上記技術手段によれば、本願は、以下の利点を有する。
【0012】
(1)本願のリン酸鉄リチウム正極材料は、不純物相が少なく、一次粒子の粒度が小さく、分散性が高く、粒度分布範囲が狭く、リチウム電池正極材料として使用する場合、リチウムイオン電池の低温性能及びレート性能の向上に有利である。
【0013】
(2)本願のリン酸鉄リチウム正極材料中の磁性体の含有量が低く、リチウムイオン電池正極材料として使用する場合、リチウムイオン電池の自己放電の低減に有利であり、リチウムイオン電池の高温貯蔵性能及びサイクル性能を向上させる。
【0014】
(3)本願のリン酸鉄リチウム正極材料の製造方法は、分散剤と結晶粒成長抑制剤を使用し、かつサンドミリングを行って、三者の相乗作用により、サンドミリングの過程で生成した小粒度粒子が凝集しないことを保証するとともに、後続の焼結過程での凝集的成長を防止し、溶融した大粒子を形成することを回避する一方で、結晶粒成長抑制剤のバルク相イオンドーピングは、電子伝導とイオン伝導を改善し、レート性能の向上に有利であり、かつリチウム補充剤を添加することにより、リン酸鉄リチウム正極材料中の不純物相と磁性体の含有量を効果的に低減し、リン酸鉄リチウム正極材料の自己放電性能、高温貯蔵性能及びサイクル性能の改善に有利である。
【0015】
本開示の追加の態様及び利点は、一部が以下の説明において示され、一部が以下の説明において明らかになるか、又は本開示の実施により把握される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
ここで説明される図面は、本願への理解を深めるためのものであり、本願の一部を構成し、本願の例示的な実施例及びそれらの説明は、本願を説明するためのものであり、本願に対する不適切な限定を構成するものではない。
【0017】
【
図1】本願の実施例1で製造されたリン酸鉄リチウム正極材料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、拡大倍率は、100kである。
【
図2】本願の実施例2で製造されたリン酸鉄リチウム正極材料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、拡大倍率は、100kである。
【
図3】本願の実施例3で製造されたリン酸鉄リチウム正極材料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、拡大倍率は、100kである。
【
図4】本願の比較例1で製造されたリン酸鉄リチウム正極材料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、拡大倍率は、100kである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に開示されている範囲の端点及び任意の値は、当該正確な範囲又は値に限定されるものではなく、これらの範囲又は値は、これらの範囲又は値に近似する値を含むものとして理解されるべきである。数値の範囲について、各範囲の端点値同士、各範囲の端点値と単独の点値、又は単独の点値同士を互いに組み合わせて1つ以上の新たな数値の範囲を得ることができ、これらの数値の範囲は、本明細書において具体的に開示されているものと見なされるべきである。
【0019】
本願の第1態様は、化学式がLiFe1-xMxPO4/Cであり、式中、0<x≦0.05、MがMg、Al、Zr、Ti、Co、V、Mn、W、Sn、Nb及びMoから選択される少なくとも1種の元素であり、
粒径分布が(D90-D10)/D50=1~2.17を満たし、磁性体の含有量が850重量ppm~900重量ppmである、リン酸鉄リチウム正極材料を提供する。前記リン酸鉄リチウム正極材料は、粒度が小さく、分散性が高く、粒径分布範囲が狭い。なお、本願において、前記リン酸鉄リチウム正極材料の化学式がLiFe1-xMxPO4/Cであることは、前記リン酸鉄リチウム正極材料の構造がCで被覆されたLiFe1-xMxPO4であると理解されたい。
【0020】
本願のいくつかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料の総重量を基準とすると、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の炭素の含有量は、1wt%~3.5wt%であり、本願の別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料の総重量を基準とすると、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の炭素の含有量は、1.4wt%~3.2wt%である。
【0021】
本願のいくつかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料の粒径分布は、(D90-D10)/D50=1~2.17を満たし、本願の別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料の粒径分布は、(D90-D10)/D50=1~1.55を満たす。前記リン酸鉄リチウム正極材料は、不純物相が少なく、一次粒子の粒度が小さく、分散性が高く、粒度分布範囲が狭く、リチウム電池正極材料として使用する場合、リチウムイオン電池の低温性能及びレート性能の向上に有利である。
【0022】
本願のいくつかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の磁性体の含有量は、850重量ppm~900重量ppmであり、本願の別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の磁性体の含有量は、850重量ppm~885重量ppmである。前記リン酸鉄リチウム正極材料中の磁性体の含有量が低く、リチウムイオン電池正極材料として使用する場合、リチウムイオン電池の自己放電の低減に有利であり、リチウムイオン電池の高温貯蔵性能及びサイクル性能を向上させる。本願に係る磁性体の含有量は、JSII-G1磁性体分析装置を用いて測定して得られる。
【0023】
本願のいくつかの実施形態において、Mは、Mg、Al、Zr、Ti、Co、V、Mn、W、Sn、Nb及びMoから選択される少なくとも1種の元素であり、本願の別の実施形態において、Mは、Ti、V及びNbから選択される少なくとも1種の元素である。
【0024】
本願の第2態様は、
溶媒の存在下で、リチウム塩、リン酸及び鉄塩を不活性雰囲気下で均一に混合した後、水熱反応を行って、第1スラリーを得るステップ(1)と、
前記第1スラリーを洗浄して、第2スラリーを得るステップ(2)と、
前記第2スラリーに有機炭素源、分散剤及び結晶粒成長抑制剤を添加し、不活性雰囲気下でサンドミリングを行って、第3スラリーを得るステップ(3)と、
前記第3スラリーとリチウム補充剤を均一に混合してから、噴霧乾燥して前駆体を得るステップ(4)と、
前記前駆体を焼結し、焼結生成物に対して気流粉砕処理を行った後、リン酸鉄リチウム正極材料を得るステップ(5)とを含む、リン酸鉄リチウム正極材料の製造方法を提供する。
【0025】
従来技術において、その場での炭素被覆と金属ドーピングにより、リン酸鉄リチウム正極材料のレート性能をある程度向上させることができるが、湿式合成過程で、効果的なその場での被覆とイオンドーピングを達成することが困難であり、第1要因は、湿式合成過程で炭素源を添加すると、反応温度が高くないため、その場での炭化が困難であり、後続の洗浄過程で、炭素源が水溶性であるため、洗浄されることであり、第2要因は、金属イオンドーピングが後続の焼結過程でしか材料の内部に拡散できず、水熱合成段階の反応条件が金属イオンを材料の内部に進入させるには不十分であることである。また、サンドミリングは、水熱合成の材料の粒度をさらに小さくすることができるが、粒度が小さくなることにより凝集が発生し、後続の焼結過程で材料が凝集して成長し、溶融した大粒子を形成し、レート性能の向上に不利である。
【0026】
本願の発明者は、分散剤と結晶粒成長抑制剤を使用し、かつサンドミリングを行って、三者の相乗作用により、サンドミリングの過程で生成した小粒度粒子が凝集しないことを保証するとともに、後続の焼結過程での凝集的成長を防止し、溶融した大粒子を形成することを回避する一方で、結晶粒成長抑制剤のバルク相イオンドーピングが電子伝導とイオン伝導を改善し、レート性能の向上に有利であることを見出した。また、サンドミリングの過程で炭素源を添加すると、炭素源が水溶性であるため、分子レベルの混合被覆を実現することができる。
【0027】
本願のいくつかの実施形態において、前記リチウム塩、リン酸及び鉄塩の使用量は、リチウム、リン及び鉄のモル比が2.8~3.2:1:1を満たす。
【0028】
本願のいくつかの実施形態において、前記第2スラリーの無水ベースで計算すると、前記有機炭素源の使用量は、8wt%~16wt%であり、前記分散剤の使用量は、0.5wt%~5wt%であり、前記結晶粒成長抑制剤の使用量は、0.1wt%~6wt%である。本願の別の実施形態において、前記第2スラリーの無水ベースで計算すると、前記結晶粒成長抑制剤の使用量は、0.3wt%~5wt%である。
【0029】
本願のいくつかの実施形態において、前記第3スラリーの無水ベースで計算すると、前記リチウム補充剤の使用量は、0.2wt%~5.5wt%であり、本願の別の実施形態において、前記第3スラリーの無水ベースで計算すると、前記リチウム補充剤の使用量は、0.5wt%~5wt%である。
【0030】
本願において、「前記第2スラリーの無水ベースで計算する」とは、前記第2スラリー中の粉末の質量を基準として計算することであり、「前記第3スラリーの無水ベースで計算する」とは、前記第3スラリー中の粉末の質量を基準として計算することである。前記第2スラリー中の粉末の質量は、第2スラリーの質量と第2スラリーの固形分との積により計算され、前記第3スラリー中の粉末の質量は、第3スラリーの質量と第3スラリーの固形分との積により計算される。第2スラリー及び第3スラリーの固形分は、水分計を用いて160℃で測定して得られる。
【0031】
本願のいくつかの実施形態において、ステップ(1)において、前記リチウム塩は、可溶性リチウム塩であり、例えば、前記リチウム塩は、塩化リチウム、硫酸リチウム、水酸化リチウム及び硝酸リチウムから選択される少なくとも1種であってもよい。
【0032】
本願のいくつかの実施形態において、ステップ(1)において、前記鉄塩は、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄及びシュウ酸第一鉄から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0033】
本願のいくつかの実施形態において、ステップ(3)において、前記有機炭素源は、スクロース、水溶性フェノール樹脂、グルコース、ポリエチレングリコール6000(即ち、PEG6000)、ヒドロキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド((C3H5NO)n、重量平均分子量が500万g/mol~1200万g/mol)、デンプン及びポリビニルアルコール(重量平均分子量が20万g/mol~70万g/mol)から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0034】
本願のいくつかの実施形態において、前記分散剤は、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール200(即ち、PEG200)、ポリエチレングリコール400(即ちPEG400)、ドデシル硫酸ナトリウム、メチルペンタノール、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム及びピロリン酸ナトリウムから選択される少なくとも1種である。サンドミリングの過程で分散剤を添加することにより、小粒子の二次凝集を効果的に抑制することができ、リン酸鉄リチウム正極材料の低温性能及びレート性能の改善に有利である。
【0035】
本願のいくつかの実施形態において、前記結晶粒成長抑制剤は、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルミニウム、硝酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸テトラエチル、チタン酸エチル、酢酸コバルト、硝酸コバルト、五酸化二バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガン、五塩化ニオブ、二硫化タングステン、塩化スズ、酸化スズ、硫化モリブデン及び酸化モリブデンから選択される少なくとも1種である。本願の別の実施形態において、前記結晶粒成長抑制剤の濃度は、0.3wt%~5wt%である。サンドミリングの過程で、添加された結晶粒成長抑制剤は、後続の焼結に「結晶圧延」作用を果たし、粒子の成長を抑制するとともに、リン酸鉄リチウム結晶格子に入る金属イオンを提供し、リン酸鉄リチウム正極材料の電子伝導性及びイオン伝導性を向上させ、リン酸鉄リチウム正極材料の低温性能及びレート性能の改善に有利である。
【0036】
本願のいくつかの実施形態において、前記リチウム補充剤は、リン酸二水素リチウム、リン酸一水素リチウム及びリン酸リチウムから選択される少なくとも1種である。前記リン酸鉄リチウム正極材料の製造方法において、リチウム補充剤を添加することにより、リン酸鉄リチウム正極材料中の不純物相を減少させ、その磁性体の含有量を低減することができ、原理としては、サンドミリング中に、水熱合成されたリン酸鉄リチウム材料の内部を再び露出させることができ、リチウム補充剤の作用下で、材料内部の鉄不純物相が後続の焼結により、リン酸鉄リチウム材料に再び変換可能であり、材料に含まれる不純物相及び磁性体の含有量を効果的に低減し、リン酸鉄リチウム正極材料の自己放電性能、高温貯蔵性能及びサイクル性能の改善に有利である。
【0037】
本願のいくつかの実施形態において、ステップ(1)において、前記溶媒は、水である。本願の別の実施形態において、不活性雰囲気下でリチウム塩、リン酸及び鉄塩を均一に混合し、本願で使用可能な不活性ガスは、窒素ガス又はアルゴンガスを含むが、これらに限定されない。
【0038】
本願のいくつかの実施形態において、前記水熱反応の条件も特に限定されず、本分野の通常のプロセス条件を参照することができ、例えば、前記水熱反応の条件は、温度が130℃~200℃であり、時間が2h~8hであることを含んでもよい。
【0039】
本願のいくつかの実施形態において、前記第1スラリーは、水熱反応後に得られた、反応母液を含むリン酸鉄リチウムスラリーであり、本願の別の実施形態において、前記第1スラリーのpHは、5.5~7である。
【0040】
本願のいくつかの実施形態において、ステップ(2)において、前記洗浄は、具体的には、前記第1スラリー中の反応母液を除去してから、希塩水溶液を用いて遠心生成物を洗浄することであり、
前記希塩水溶液は、塩化リチウム、硝酸リチウム、リン酸二水素リチウム、リン酸一水素リチウム及びリン酸二水素アンモニウムの水溶液から選択される少なくとも1種である。本願の別の実施形態において、前記希塩水溶液の濃度は、0.01wt%~2wt%である。前記洗浄は、1回の洗浄であってもよく、複数回の洗浄であってもよい。
【0041】
本願のいくつかの実施形態において、ステップ(3)において、サンドミリングを行うことにより、リン酸鉄リチウム正極材料の一次粒子の粒径を低減することができ、その低温性能及びレート性能の改善に有利である。リン酸鉄リチウム正極材料の低温性能及びレート性能をさらに向上させるために、本願の別の実施形態において、前記サンドミリングの条件は、線速度が5m/s~15m/sであり、時間が0.5h~12hであることを含む。
【0042】
本願のいくつかの実施形態において、サンドミリングの線速度及び時間を制御することにより、リン酸鉄リチウム正極材料の一次粒子サイズを制御することができ、分散剤を添加することにより、粒子サイズが小さいリン酸鉄リチウムの二次凝集を防止することができ、結晶粒成長抑制剤を添加することにより、後続の焼結過程で粒子の成長及び凝集を抑制することができる。
【0043】
本願のいくつかの実施形態において、前記不活性雰囲気は、窒素雰囲気又はヘリウム雰囲気である。
【0044】
本願のいくつかの実施形態において、ステップ(4)において、前記噴霧乾燥は、フラッシュ蒸発作用により第3スラリー中の水分を蒸発させることにより、一次粒子からなる二次球状粒子を得る。
【0045】
本願のいくつかの実施形態において、前記噴霧乾燥の条件は、特に限定されず、例えば、前記噴霧乾燥の条件は、固形分が30~50wt%であり、温度が90~105℃であり、時間が5-12hであることを含んでもよい。
【0046】
本願のいくつかの実施形態において、前記焼結の条件も特に限定されず、本分野の通常のプロセス条件を参照することができ、例えば、前記焼結の条件は、温度が650~760℃であり、時間が5~10hであることを含んでもよい。本願の別の実施形態において、前記焼結は、不活性雰囲気下で行われ、本願で使用可能な不活性ガスは、窒素ガス又はアルゴンガスを含むが、これらに限定されない。
【0047】
本願のいくつかの実施形態において、前記焼結生成物は、一次粒子からなる二次球状粒子であり、前記気流粉砕は、前記焼結生成物の二次球状粒子を分散させて、分散したリン酸鉄リチウム正極材料の一次粒子を得るためである。
【0048】
本願の第3態様は、上記方法により製造されたリン酸鉄リチウム正極材料を提供する。前記リン酸鉄リチウム正極材料の化学式は、LiFe1-xMxPO4/Cであり、式中、0<x≦0.05、Mは、Mg、Al、Zr、Ti、Co、V、Mn、W、Sn、Nb及びMoから選択される少なくとも1種の元素であり、前記リン酸鉄リチウム正極材料の粒径分布が、(D90-D10)/D50=1~2.17を満たし、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の磁性体の含有量が、850重量ppm~900重量ppmである。
【0049】
本願のいくつかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料の粒径分布は、(D90-D10)/D50=1~1.55を満たし、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の磁性体の含有量は、850重量ppm~885重量ppmである。
【0050】
本願のいくつかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料の総重量を基準とすると、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の炭素の含有量は、1wt%~3.5wt%であり、本願の他の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料の総重量を基準とすると、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の炭素の含有量は、1.4wt%~3.2wt%である。
【0051】
本願のいくつかの実施形態において、Mは、Ti、V及びNbから選択される少なくとも1種の元素である。
【0052】
本願の第4態様は、上記リン酸鉄リチウム正極材料を含むリチウムイオン電池を提供する。本願のリン酸鉄リチウム正極材料は、リチウムイオン電池において優れた低温性能、レート性能、高温性能及びサイクル性能を示す。
【0053】
本願のいくつかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、-20℃、1Cの条件下で低温容量維持率が65%~80%であり、本願の別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、-20℃、1C条件下で、低温容量維持率が70%~80%であり、本願のさらに別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、-20℃、1C条件下で、低温容量維持率が70%~75%である。
【0054】
本願のいくつかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、15Cレートで、放電容量維持率が75%~86%であり、本願の別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、15Cレートで、放電容量維持率が78%~86%であり、本願のさらに別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、15Cレートで、放電容量維持率が81%~84%である。
【0055】
本願のいくつかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、60℃の条件下で7日間貯蔵した後、高温容量残存率が90%~99%であり、本願の別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、60℃の条件下で7日間貯蔵した後、高温容量残存率が92%~99%であり、本願のさらに別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、60℃の条件下で7日間貯蔵した後、高温容量残存率が95%~98.5%である。本願のいくつかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、60℃の条件下で7日間貯蔵した後、高温容量回復率が96.5%~102%であり、本願の別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、60℃の条件下で7日間貯蔵した後、高温容量回復率が99.5%~102%であり、本願のさらに別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、60℃の条件下で7日間貯蔵した後、高温容量回復率が100%~101%である。
【0056】
本願のいくつかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、1Cレートで500回サイクルした後、サイクル容量維持率が95.5%以上であり、本願の別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、1Cレートで500回サイクルした後、サイクル容量維持率が96%以上であり、本願のさらに別の実施形態において、前記リン酸鉄リチウム正極材料は、1Cレートで500回サイクルした後、サイクル容量維持率が96.8%~97.5%である。
【0057】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0058】
以下の実施例及び比較例において、特に断らない限り、使用した原料は、いずれも市販品である。
【0059】
特に説明しない限り、本願に記載の室温は、25±2℃を指す。
【0060】
以下の実施例及び比較例において、関連パラメータは、以下の測定方法によって得られる。
【0061】
(1)SEMによる形態計測:日立(HITACHI)社のS-4800型走査型電子顕微鏡によって計測する。
【0062】
(2)粒径分布:Smileviewソフトウェアを用いて、日立(HITACHI)社のS-4800型走査型電子顕微鏡により、拡大倍率が100kのSEM画像において統計を行い、まず、全ての粒子の短辺サイズを量り、得られたデータをmintabソフトウェアに導入して統計分析を行って、D10、D50及びD90の数値を取得し、さらにそれらの数値に基づいて、粒径分布値を計算する。
【0063】
(3)磁性体の含有量:JSII-G1磁性体分析装置を用いて測定し、測定条件は、10gの試料を測定シリンダに入れて直接測定することである。
【0064】
(4)XPSスペクトル:Thermo Scientific社から購入したThermo Avantage V5.926ソフトウェアを備えたEscalab 250Xi型X線光電子分光装置により測定して得られ、測定条件は、分析領域が直径約800μmの円形であり、情報深さが約10nmであり、原子数百分率の検出下限が0.1%であり、測定環境が温度23.6℃、相対湿度50%、真空度5.0×10-8Torrであり、電圧が15kVであり、電流が23mAであり、電力が350Wであり、X線走査角度が45.0゜であることを含む。
【0065】
(5)電気化学性能測定
以下の実施例及び比較例において、リン酸鉄リチウム正極材料の電気化学性能は、2025型ボタン電池により測定する。
【0066】
2025型ボタン電池の製造プロセスは、具体的に以下のとおりである。
【0067】
極板の製造:リン酸鉄リチウム正極材料、アセチレンブラック及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を100:1.5:2.5の質量比で適量のN-メチルピロリドン(NMP)と十分に混合して、均一な正極スラリーを形成し、正極スラリーをアルミニウム箔に塗布して100℃で12h乾燥させた後、直径が14mmの正極板を製造し、前記リン酸鉄リチウム正極材料の担持量は、5~10mg/cm2である。
【0068】
電池の組立:水含有量と酸素含有量がいずれも5ppm未満の、アルゴンガスが充填されたガスグローブボックス内で、正極板、セパレータ、負極板及び電解液を2025型ボタン電池に組み立てた後、6h静置する。負極板は、直径が17mm、厚さが1mmの金属リチウム板を用いる。セパレータは、厚さが25μmのポリエチレン多孔質膜(Celgard 2325)を用いる。電解液は、1mol/LのLiPF6、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液を用いる。
【0069】
電気化学的性能測定
以下の実施例及び比較例において、深セン市新威爾電子有限公司の電池テストシステムにより2025型ボタン電池に対して電気化学的性能測定を行う。
【0070】
低温容量維持率:室温で、電池を0.1Cで3.8Vまで定電流充電し、次に、0.1Cで2.5Vまで定電流放電し、再び電池を0.1Cで3.8Vまで定電流充電し、次に、0.1Cで2.5Vまで定電流放電した後、0.5Cで3.8Vまで定電流充電し、電池の室温、0.5Cでの充電比容量を得た。次に、電池を-20℃の冷蔵庫に入れ、1Cで2.0Vまで定電流放電し、電池の-20℃、1Cでの放電比容量を得た。電池の-20℃、1Cでの放電比容量と、電池の室温、0.5Cでの充電比容量との比は、該電池の低温容量維持率である。
【0071】
放電容量維持率:0.2Cレートで3.8Vまで充電し、カットオフ電流が0.02Cであり、次に、15Cレートで2.5VまでCC放電し、15Cレートでの放電比容量と、0.2Cレートでの放電比容量との比は、15Cレートでの放電容量維持率である。
【0072】
高温容量残存率及び高温容量回復率:電池を0.1Cで満充電した後、電池を60℃のオーブンに7日間貯蔵し、取り出した後、0.1Cで2.5Vまで放電し、次に、0.1Cで3.8Vまで充電し、次に、2.5Vまで放電し、高温貯蔵後の前記0.1Cで2.5Vまで放電した電池の初回放電比容量と、貯蔵前の放電比容量との比は、高温容量残存率であり、0.1Cで3.8Vまで充電し、次に2.5Vまで放電した後の前記放電比容量と、貯蔵前の放電比容量との比は、該電池の高温容量回復率である。
【0073】
サイクル容量維持率:室温で、電池を1Cレートで500回充放電サイクルした後、500回目の放電比容量と、1回目の放電比容量との比は、サイクル容量維持率である。
【実施例1】
【0074】
(1)窒素雰囲気下で、水酸化リチウム、リン酸及び塩化第一鉄を化学量論比(リチウム元素、リン元素及び鉄元素のモル比は3:1:1である)で脱イオン水に添加して均一に撹拌し、第1混合物を得てから、第1混合物を高圧反応釜に入れ、160℃で5h反応させ、第1スラリーを得た。
【0075】
(2)第1スラリーを遠心分離し、その反応母液を分離除去して、遠心生成物を得てから、濃度が0.05wt%の塩化リチウム溶液で遠心生成物を洗浄し、1回繰り返した後、第2スラリーを得た。
【0076】
(3)第2スラリーの無水ベースで(即ち、第2スラリー中の粉末の質量を基準として)計算した11wt%のグルコース、2.5wt%の五塩化ニオブ及び2wt%のPEG200を、窒素雰囲気下で第2スラリーに添加し、線速度が10m/sの条件下でサンドミリングを5h行って、第3スラリーを得た。
【0077】
(4)第3スラリーの無水ベースで(即ち、第3スラリー中の粉末の質量を基準として)計算した1.32wt%のリン酸二水素リチウムを第3スラリーに添加して均一に混合して、第2混合物を得て、第2混合物を噴霧乾燥して、前駆体を得た。
【0078】
(5)前駆体を窒素雰囲気に置き、720℃で8h焼結し、焼結生成物に対して気流粉砕処理を行った後、リン酸鉄リチウム正極材料LiFe0.99Nb0.01PO4/Cを得た。
【実施例2】
【0079】
(1)窒素雰囲気下で、水酸化リチウム、リン酸及び硫酸第一鉄を化学量論比(リチウム元素、リン元素及び鉄元素のモル比は3:1:1である)で脱イオン水に添加して均一に撹拌し、第1混合物を得てから、第1混合物を高圧反応釜に入れ、160℃で5h反応させ、第1スラリーを得た。
【0080】
(2)第1スラリーを遠心分離し、その反応母液を分離除去して、遠心生成物を得てから、濃度が0.05wt%のリン酸二水素リチウム溶液で遠心生成物を洗浄し、1回繰り返した後、第2スラリーを得た。
【0081】
(3)第2スラリーの無水ベースで(即ち、第2スラリー中の粉末の質量を基準として)計算した11wt%のグルコース、1.5wt%の五酸化二バナジウム及び2wt%のPEG400を、窒素雰囲気下で第2スラリーに添加し、線速度が10m/sの条件下でサンドミリングを5h行って、第3スラリーを得た。
【0082】
(4)第3スラリーの無水ベースで(即ち、第3スラリー中の粉末の質量を基準として)計算した2.26wt%のリン酸二水素リチウムを第3スラリーに添加して均一に混合して、第2混合物を得て、第2混合物を噴霧乾燥して、前駆体を得た。
【0083】
(5)前駆体を窒素雰囲気に置き、720℃で8h焼結し、焼結生成物に対して気流粉砕処理を行った後、リン酸鉄リチウム正極材料LiFe0.975V0.025PO4/Cを得た。
【実施例3】
【0084】
(1)窒素雰囲気下で、水酸化リチウム、リン酸及び硫酸第一鉄を化学量論比(リチウム元素、リン元素及び鉄元素のモル比は3:1:1である)で脱イオン水に添加して均一に撹拌し、第1混合物を得てから、第1混合物を高圧反応釜に入れ、160℃で5h反応させ、第1スラリーを得た。
【0085】
(2)第1スラリーを遠心分離し、その反応母液を分離除去して、遠心生成物を得てから、濃度が0.05wt%のリン酸二水素リチウム溶液で遠心生成物を洗浄し、1回繰り返した後、第2スラリーを得た。
【0086】
(3)第2スラリーの無水ベースで(即ち、第2スラリー中の粉末の質量を基準として)計算した11wt%のグルコース、2.5wt%のチタン酸テトラブチル及び2wt%のPEG200を、窒素雰囲気下で第2スラリーに添加し、線速度が10m/sの条件下でサンドミリングを5h行って、第3スラリーを得た。
【0087】
(4)第3スラリーの無水ベースで(即ち、第3スラリー中の粉末の質量を基準として)計算した1.69wt%のリン酸二水素リチウムを第3スラリーに添加して均一に混合して、第2混合物を得て、第2混合物を噴霧乾燥して、前駆体を得た。
【0088】
(5)前駆体を窒素雰囲気に置き、720℃で8h焼結し、焼結生成物に対して気流粉砕処理を行った後、リン酸鉄リチウム正極材料LiFe0.99Ti0.01PO4/Cを得た。
【実施例4】
【0089】
ステップ(3)における五塩化ニオブを等モル量の塩化マンガンで置換すること以外は実施例1と同様の方法に従って、リン酸鉄リチウム正極材料を製造し、リン酸鉄リチウム正極材料LiFe0.99Mn0.01PO4/Cを得た。
【実施例5】
【0090】
第2スラリーの無水ベースで計算すると、PEG200(分散剤)の使用量が0.4wt%であること以外は実施例1と同様の方法に従って、リン酸鉄リチウム正極材料を製造し、リン酸鉄リチウム正極材料LiFe0.99Nb0.01PO4/Cを得た。
【実施例6】
【0091】
第2スラリーの無水ベースで計算すると、五酸化二バナジウム(結晶粒成長抑制剤)の使用量が0.25wt%であること以外は実施例2と同様の方法に従って、リン酸鉄リチウム正極材料を製造し、リン酸鉄リチウム正極材料LiFe0.996V0.004PO4/Cを得た。
(比較例1)
【0092】
ステップ(3)において分散剤及び結晶粒成長抑制剤を添加せしないこと以外は実施例1と同様の方法に従って、リン酸鉄リチウム正極材料を製造し、リン酸鉄リチウム正極材料LiFePO4/Cを得た。
(比較例2)
【0093】
ステップ(3)において分散剤及び結晶粒成長抑制剤を添加せず、かつサンドミリングを行わないこと以外は実施例1と同様の方法に従って、リン酸鉄リチウム正極材料を製造し、リン酸鉄リチウム正極材料LiFePO4/Cを得た。
(比較例3)
【0094】
ステップ(3)においてサンドミリングを行わないこと以外は実施例1と同様の方法に従って、リン酸鉄リチウム正極材料を製造し、リン酸鉄リチウム正極材料LiFe0.99Nb0.01PO4/Cを得た。
(比較例4)
【0095】
ステップ(4)においてリチウム補充剤を添加しないこと以外は実施例1と同様の方法に従って、リン酸鉄リチウム正極材料を製造し、リン酸鉄リチウム正極材料LiFe0.99Nb0.01PO4/Cを得た。
(試験例)
【0096】
(1)形態計測
本願は、上記実施例及び比較例で製造されたリン酸鉄リチウム正極材料の走査型電子顕微鏡画像を計測し、実施例1~3及び比較例1で製造されたリン酸鉄リチウム正極材料のSEM写真を例示的に提供し、結果をそれぞれ
図1~4に示した。
図1~4から分かるように、本願のリン酸鉄リチウム材料は、一次粒径が小さく、粒度分布が均一である。
【0097】
(2)物性測定
本願は、上記実施例及び比較例で製造されたリン酸鉄リチウム正極材料の粒径分布及び磁性体の含有量を測定し、具体的な測定結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
表1の結果から分かるように、本願のリン酸鉄リチウム正極材料の製造方法は、分散剤、結晶粒成長抑制剤、リチウム補充剤及びサンドミリングを組み合わせることにより、粒度が小さく、分散性が高く、粒度分布が狭く、磁性体の含有量が低いリン酸鉄リチウム正極材料を得ることができる。
【0099】
(3)電気化学的性能の測定
本願は、-20℃、1Cでの低温容量維持率、15Cレートでの放電容量維持率、60℃で7日間貯蔵した後の高温容量残存率と高温容量回復率、及び1Cレートで500回サイクルしたサイクル容量維持率を含む、上記実施例及び比較例で製造されたリン酸鉄リチウム正極材料の電気化学的性能を測定した。具体的な測定結果を表2に示す。
【0100】
【表2】
表2の結果から分かるように、本願に係るリン酸鉄リチウム正極材料の製造方法は、分散剤、結晶粒成長抑制剤、リチウム補充剤及びサンドミリングを組み合わせることにより、レート性能、低温性能及び高温性能に優れたリン酸鉄リチウム正極材料を得ることができる。
【0101】
以上、図面を参照しながら本願の実施例を説明したが、本願は、上記具体的な実施形態に限定されるものではなく、上記具体的な実施形態は、限定的なものではなく、例示的なものに過ぎず、当業者であれば、本願の示唆で、本願の趣旨及び特許請求の範囲の保護範囲から逸脱せずに多くの形態を行うことができ、これらはいずれも本願の保護範囲内に属する。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式がLiFe
1-xM
xPO
4/Cであり、式中、0<x≦0.05、MがMg、Al、Zr、Ti、Co、V、Mn、W、Sn、Nb及びMoから選択される少なくとも1種の元素であり、
粒径分布が(D90-D10)/D50=1~2.17を満たし、磁性体の含有量が850重量ppm~900重量ppmである、リン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項2】
前記リン酸鉄リチウム正極材料の総重量を基準とすると、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の炭素の含有量は、1wt%~3.5wt%である、請求項1に記載のリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項3】
前記リン酸鉄リチウム正極材料の総重量を基準とすると、前記リン酸鉄リチウム正極材料中の炭素の含有量は、1.4wt%~3.2wt%である、請求項
1に記載のリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項4】
前記リン酸鉄リチウム正極材料中の磁性体の含有量は、850重量ppm~885重量ppmである、請求項
1に記載のリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項5】
Mは、Ti、V及びNbから選択される少なくとも1種の元素である、請求項
1に記載のリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項6】
前記リン酸鉄リチウム正極材料の粒径分布は、(D90-D10)/D50=1~1.55を満たす、請求項
1に記載のリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項7】
不活性雰囲気下、リチウム塩、リン酸及び鉄塩を溶媒の存在下で混合した後、水熱反応を行わせて、第1スラリーを得るステップ(1)と、
前記第1スラリーを洗浄して、第2スラリーを得るステップ(2)と、
前記第2スラリーに有機炭素源、分散剤及び結晶粒成長抑制剤を添加し、不活性雰囲気下でサンドミリングを行って、第3スラリーを得るステップ(3)と、
前記第3スラリーとリチウム補充剤を混合してから、噴霧乾燥して前駆体を得るステップ(4)と、
前記前駆体を焼結し、焼結生成物に対して気流粉砕処理を行った後、リン酸鉄リチウム正極材料を得るステップ(5)とを含む、リン酸鉄リチウム正極材料の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム塩、前記リン酸及び前記鉄塩の使用量は、リチウム元素、リン元素及び鉄元素のモル比が2.8~3.2:1:1であることを満たし、
前記第2スラリーの無水ベースで計算すると、前記有機炭素源の使用量は、8wt%~16wt%であり、
前記第2スラリーの無水ベースで計算すると、前記分散剤の使用量は、0.5wt%~5wt%であり、
前記第2スラリーの無水ベースで計算すると、前記結晶粒成長抑制剤の使用量は、0.1wt%~6wt%であり、
前記第3スラリーの無水ベースで計算すると、前記リチウム補充剤の使用量は、0.2wt%~5.5wt%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2スラリーの無水ベースで計算すると、前記結晶粒成長抑制剤の使用量は、0.3wt%~5wt%である、請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
前記第3スラリーの無水ベースで計算すると、前記リチウム補充剤の使用量は、0.5wt%~5wt%である、請求項
7に記載の方法。
【請求項11】
前記リチウム塩は、塩化リチウム、硫酸リチウム、水酸化リチウム及び硝酸リチウムから選択される少なくとも1種であり、
前記鉄塩は、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄及びシュウ酸第一鉄から選択される少なくとも1種である、請求項
7に記載の方法。
【請求項12】
前記有機炭素源は、スクロース、水溶性フェノール樹脂、グルコース、ポリエチレングリコール6000、ヒドロキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、デンプン及びポリビニルアルコールから選択される少なくとも1種であり、前記ポリアクリルアミドの重量平均分子量が500万g/mol~1200万g/molであり、前記ポリビニルアルコールの重量平均分子量が20万g/mol~70万g/molであり、
前記分散剤は、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ドデシル硫酸ナトリウム、メチルペンタノール、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム及びピロリン酸ナトリウムから選択される少なくとも1種であり、
前記結晶粒成長抑制剤は、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルミニウム、硝酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸テトラエチル、チタン酸エチル、酢酸コバルト、硝酸コバルト、五酸化二バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガン、五塩化ニオブ、二硫化タングステン、塩化スズ、酸化スズ、硫化モリブデン及び酸化モリブデンから選択される少なくとも1種である、請求項
7に記載の方法。
【請求項13】
前記リチウム補充剤は、リン酸二水素リチウム、リン酸一水素リチウム及びリン酸リチウムから選択される少なくとも1種である、請求項
7に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(1)において、前記水熱反応の条件は、温度が130℃~200℃であり、時間が2h~8hであることを含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(2)において、前記洗浄は、前記第1スラリー中の反応母液を除去してから、反応母液除去後の生成物を希塩水溶液で洗浄するステップを含み、前記希塩水溶液は、塩化リチウム、硝酸リチウム、リン酸二水素リチウム、リン酸一水素リチウム及びリン酸二水素アンモニウムの水溶液から選択される少なくとも1種である、請求項
7に記載の方法。
【請求項16】
前記希塩水溶液の濃度は、0.01wt%~2wt%である、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(3)において、前記サンドミリングの条件は、線速度が5m/s~15m/sであり、時間が0.5h~12hであることを含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(4)において、前記噴霧乾燥の条件は、固形分が30wt%~50wt%であり、温度が90℃~105℃であり、時間が5h~12hであることを含み、
前記焼結の条件は、温度が650℃~760℃であり、時間が5h~10hであることを含む、請求項7~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項
7に記載の方法で製造されるリン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項20】
請求項1~6及び請求項19のいずれか一項に記載のリン酸鉄リチウム正極材料を含むことを特徴とするリチウムイオン電池。
【国際調査報告】