(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-19
(54)【発明の名称】高倍率リン酸鉄リチウム正極材料、その製造方法、正極及びそれを含む電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20240412BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240412BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
C01B25/45 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548898
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 CN2022137784
(87)【国際公開番号】W WO2023197638
(87)【国際公開日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】202210395265.0
(32)【優先日】2022-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523273451
【氏名又は名称】フーベイ ワンルン ニュー エナジー テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HUBEI WANRUN NEW ENERGY TECHNOLOGY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.557,Tianma Avenue,Yunyang Economic Development Zone,Shiyan City,Hubei 442500,China
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ワン,キン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA06
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB12
5H050EA08
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA06
5H050GA10
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、高倍率リン酸鉄リチウム正極材料を提供し、リン酸鉄リチウムと、前記リン酸鉄リチウムの表面に被覆された炭素とを含み、その一次粒子の粒径は30~70nmである。本発明における材料は、一次粒径が小さくて均一化されているとともに、大きな単結晶粒子がなく、比表面積が大きいので、それによって製造された電池は、容量が大きくて、循環性能が良好で、レートおよび低温性能が優れている。本発明は、前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の製造方法をさらに提供し、製造工程が簡単で、環境に優しく、前駆体及び高価で貴重な設備の購入が不要となるので、投入コストが低い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸鉄リチウムと、前記リン酸鉄リチウムの表面に被覆された炭素とを含む高倍率リン酸鉄リチウム正極材料であって、
一次粒子の粒径は30~70nmである、ことを特徴とする高倍率リン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項2】
D50が1~5μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項3】
比表面積が15~25m
2/gである、ことを特徴とする請求項1に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料。
【請求項4】
高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の製造方法であって、
有機鉄化合物、有機リン化合物、および、有機リチウム化合物を混合して造粒した後、焼成することによって、高倍率リン酸鉄リチウム正極材料を取得する工程を含む、ことを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記有機鉄化合物は、グルコン酸鉄、クエン酸鉄、酢酸鉄、グリシン鉄のうちの1つ以上を含み、
前記有機リン化合物は、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェートのうちの1つ以上を含み、
前記有機リチウム化合物は、酢酸リチウム、クエン酸リチウムのうちの1つ以上を含む、ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記有機鉄化合物、前記有機リン化合物、および、前記有機リチウム化合物において、Fe、P、および、Liのモル比は、1:1:1~1.1である、ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記焼成することは、
第1レートで第1温度まで昇温させて、第1時間にわたって保温し、
続いて、第2レートで第2温度まで昇温させて、第2時間にわたって保温することを含む、ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第1レートは、50~80℃/hであり、前記第2レートは、100~150℃/hであり、前記第1温度は、250~400℃であり、前記第2温度は、600~800℃であり、前記第1時間は、2~5hであり、前記第2時間は、5~10hである、ことを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の正極材料を含む、ことを特徴とする正極。
【請求項10】
請求項9に記載の正極を含む、ことを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2022年4月15日に提出された、出願番号202210395265.0の「高倍率リン酸鉄リチウム正極材料、その製造方法、正極及びそれを含む電池」という発明名称を有する中国発明特許出願の優先権を要求しており、当該出願に開示の内容が引用により本文に組み込まれている。
【0002】
本発明は、電池分野に関し、具体的に、高倍率リン酸鉄リチウム正極材料、その製造方法、正極及びそれを含む電池に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、自動車向け起動・停止用電池の市場は、主に鉛蓄電池によって独占されており、全世界の起動・停止用電池の分野では、AGM鉛蓄電池が主として用いられる。応用市場から見れば、起動・停止用電池は、ヨーロッパ市場および日本市場において幅広く普及されている。それは、ヨーロッパおよび日本で実施されている厳しい炭素排出対策の影響を受けたことが主因とみられる。調べによると、2016年のヨーロッパおよび日本における新車向け起動・停止用電池の年間装着率は、それぞれ、70%超え、50%超えであり、中国国内における15%の装着率よりも高いことが明らかになった。
【0004】
また、中国では、環境問題がますます深刻となっているという背景の下に、中国国内における「炭素許容量」、「炭素クレジット」などの対策は積極的に確立されている。それにより、排出削減や省エネルギーの面では、OEMによる投入がある程度に大きくさせられる可能性がある。2020年まで、中国国内における乗用車の新車平均燃費は、5L/100kmに達し、商用車の平均燃費は、2015年よりも10%低下したことが望まれている。そのような燃費の目標は、ヨーロッパと比べて、明らかな差があるが、日本とは同水準のものとみられる。そのような厳しい目標の達成は、各OEMにとって、大きなチャレンジだともいえるだろう。また、調べによると、自動車向け起動・停止システムが用いられた場合、都市道路による燃費が8%以上も節約可能であるとともに、CO2排出量も低減され、自動車に対する迅速的かつ安全的な起動が可能であることが明らかになった。そのため、起動・停止用電源の装着は、OEMにおける燃費低減のための有効な手段の一つとなっている。
【0005】
現在、リン酸鉄リチウムの発展やリン酸鉄リチウム電池にかかるコストの持続的な下落につれて、リン酸鉄リチウムが起動・停止用電源に応用されることは、時代の傾向となっている。しかし、現時点では、リン酸鉄リチウムは、低温度及び倍率性能の面では、まだ一定の欠陥がある。
[発明の概要]
【0006】
それに鑑みて、本発明が解決しようとする技術的課題は、高倍率リン酸鉄リチウム正極材料、その製造方法、正極及びそれを含む電池を提供することにしている。本発明が提供する高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、容量が高く、倍率性能が良好で、低温性能及び循環性能も優れている。
【0007】
本発明は、リン酸鉄リチウムと、前記リン酸鉄リチウムの表面に被覆された炭素とを含み、その一次粒子の粒径は30~70nmである高倍率リン酸鉄リチウム正極材料を提供する。
【0008】
具体的には、本発明が提供する高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子であり、前記一次粒子は、リン酸鉄リチウムと、前記リン酸鉄リチウムの表面に被覆された炭素とを含む。前記リン酸鉄リチウムは、当業者にとってよく見られるリン酸鉄リチウムである。前記炭素は、前記リン酸鉄リチウムの表面に均一的に被覆されたことで、その電子導電性が補強されることが可能である。一実施例では、前記炭素の含有量は、1~5wt%であり、好ましくは2.21wt%である。
【0009】
本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、小さい一次粒子の粒径を有するため、良好な電気化学性能が得られる。一実施例では、その一次粒子の粒径は、50nmである。
【0010】
本発明が提供する高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、粒度分布が集中し、大きな単結晶粒子がなく、良好な電気化学性能が得られる。一実施例では、前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、D10が0.1~1μmであり、D50が1~5μmであり、D90が6~9μmである。
【0011】
本発明が提供する高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、高い気孔率を有するとともに、BET比表面積試験法による試験が行われた結果、大きい比表面積も有するものであるため、良好な電気化学性能の取得に有利なものである。一実施例では、前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、比表面積が15~25m2/gであり、好ましくは19.16m2/gである。
【0012】
本発明は、上記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の製造方法を提供し、
有機鉄化合物、有機リン化合物、および、有機リチウム化合物を混合して造粒した後、焼成することによって、高倍率リン酸鉄リチウム正極材料を取得する工程を含む。
【0013】
具体的には、本発明は、まず、有機鉄化合物、有機リン化合物、および、有機リチウム化合物を、50~60℃の温度の下で、300~500r/minの速度で均一的に攪拌して混合する。
【0014】
本発明は、炭素鎖を含む有機鉄化合物、有機リン化合物、および、有機リチウム化合物を原料として、粒径が小さい高倍率リン酸鉄リチウム正極材料を製造して取得することができる。一実施例では、前記有機鉄化合物は、グルコン酸鉄、クエン酸鉄、酢酸鉄、グリシン鉄のうちの1つ以上を含む。一実施例では、前記有機リン化合物は、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェートのうちの1つ以上を含む。一実施例では、前記有機リチウム化合物は、酢酸リチウム、クエン酸リチウムのうちの1つ以上を含む。一実施例では、前記有機鉄化合物、前記有機リン化合物、および、前記有機リチウム化合物において、Fe、P、および、Liのモル比は、1:1:1~1.1であり、好ましくは1:1:1.03~1.05である。
【0015】
本発明では、上記有機鉄化合物、有機リン化合物、および、有機リチウム化合物を均一的に攪拌して混合した後、造粒し、造粒の後、焼成することとなっている。本発明に記載の造粒は、当業者にとってよく見られる造粒法によって行われ、例えば、押出し造粒法、スプレー造粒法、および、遠心造粒法が挙げられる。本発明に記載の焼成は、二段式の焼成法によって行われる。具体的には、第1のレートで第1温度まで昇温させて、第1時間にわたって保温し、続いて、第2レートで第2温度まで昇温させて、第2時間にわたって保温する。
【0016】
一実施例では、上記焼成は、具体的に、50~80℃/hの昇温レートで250~400℃まで昇温させて、2~5hにわたって保温し、続いて、100~150℃/hの昇温レートで600~800℃まで昇温させて、5~10hにわたって保温する。一実施例では、上記焼成は、具体的に、50~80℃/hの昇温レートで300~350℃まで昇温させて、2~3hにわたって保温し、続いて、100~150℃/hの昇温レートで680~720℃まで昇温させて、4~6hにわたって保温する。本発明に記載の第1のレートでは、第2のレートよりも遅い速度で昇温させるので、炭素の消耗を回避するとともに、磁性物質の含有量が高いのも防止することができる。本発明に記載の第2温度は、第1温度よりも高いので、高い粒子結晶性が得られるとともに、磁性物質の含有量を低くすることもできる。
【0017】
本発明では、上記有機鉄化合物、有機リン化合物、および、有機リチウム化合物を均一的に攪拌して混合した後、造粒し、造粒の後、焼成することとなっており、前記焼成は、不活性ガスの雰囲気で行われる。具体的には、本発明に記載の焼成は、ローラーハース炉にて行われ、前記ローラーハース炉は、順次に接続された第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントを含み、前記ローラーハース炉には、不活性ガスが流され、1時間ごとにローラーハース炉に流された不活性ガスの体積は、ローラーハース炉の火炉体積の10~15倍であり、それにより、炉内圧力が外界の大気圧よりも50~100Pa高いものとなる。一実施例では、前記不活性ガスは、第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントにおける体積の比が2:1.5~2:1~2:0.5~1.2である。一実施例では、前記焼成は、ヘリウムガス、アルゴンガスまたは窒素ガスの雰囲気で行われる。
【0018】
本発明では、上記有機鉄化合物、有機リン化合物、および、有機リチウム化合物を均一的に混合した後、造粒し、造粒の後、焼成することとなっており、焼成後、得られた物質材料に対して、粉砕、分級、ふるい分け、除鉄及び包装の処理を順次に行う。本発明に記載の粉砕、分級、ふるい分け、除鉄及び包装は、当業者にとってよく見られる材料の処理方式である。
【0019】
具体的には、本発明では、焼成して得られた物質材料に対して、気流による粉砕、分級ホイールによる分級、超音波振動篩によるふるい分け、電磁除鉄器による除鉄及び包装の処理を順次に行う。一実施例では、前記気流による粉砕に用いられる粉砕ガスは、130~150℃、0.3~0.5MPaの窒素ガスであり、前記窒素ガスには、100ppm未満の酸素ガスが含まれ、前記窒素ガスの露点が-20℃未満である。一実施例では、前記分級ホイールによる分級では、15~25cmの分級ホイールが用いられ、500~700r/minの回転速度で分級が行われ、前記分級ホイールには、セラミックベーンが均一的に分布しており、前記セラミックベーンの間隔距離が1~1.5cmである。一実施例では、前記超音波振動篩によるふるい分けは、目開きが100~200メッシュである篩が用いられ、3~5kWのパワーで行われる。一実施例では、前記除鉄は、15000GSの電磁除鉄器によって行われ、前記除鉄にかかる時間が15秒以上である。一実施例では、前記包装は、15~25℃の温度で行われる。
【0020】
本発明は、本発明に記載のリン酸鉄リチウム正極材料を含む正極を提供する。
【0021】
本発明は、上記正極を含む電池をさらに提供する。
【0022】
本発明が提供する高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、リン酸鉄リチウムと、前記リン酸鉄リチウムの表面に被覆された炭素とを含み、その一次粒子の粒径は30~70nmである。その一次粒径が小さくて均一化されているとともに、大きな単結晶粒子がなく、比表面積が大きいので、それによって製造された電池は、容量が大きくて、循環性能が良好で、倍率性能および低温性能が優れている。実験により、本発明は、10Cにおける放電容量が140mAh/g以上にも達し、-20℃における容量維持率が90%以上であり、起動・停電用電源の要求を満たしたことが判明された。本発明は、前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の製造方法をさらに提供し、製造工程が簡単で、環境に優しく、前駆体及び高価で貴重な設備の購入が不要となるので、投入コストが低い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の低倍走査電子顕微鏡写真である。
【
図2】本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の高倍走査電子顕微鏡写真である。
【
図3】本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料のXRDスペクトルである。
【
図4】本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の1C、2C、5Cおよび10Cにおける充放電グラフである。
【
図5】本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の1Cにおける常温循環性能グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、高倍率リン酸鉄リチウム正極材料、その製造方法、正極及びそれを含む電池を開示している。当業者であれば、本文の内容を鑑みて、工芸パラメータを適応的に変更して実現できるはずである。特に説明すべきなのは、全ての類似した置き換えおよび変更は、当業者にとっての自明なものであり、本発明に含まれたものとしても見なされるということである。本発明の方法及び応用は、好適な実施例によって説明されているので、関係者であれば、本発明の内容、精神および範囲から逸脱しない限り、本文に記載の方法及び応用を変化させ、又は、適当に変更したり、組み合せたりすることで、本発明の技術を実現し、応用することができるのも明らかである。
【0025】
以下は、実施例を組み合わせながら、本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0026】
グルコン酸鉄、トリブチルホスフェート、および、酢酸リチウムを混合して、55℃の温度の下に、400r/minの回転速度で均一的に高速攪拌して混合することによって、ペーストが得られる。ここで、前記グルコン酸鉄、リン酸エステル、および、酢酸リチウムにおいて、Fe、P、Liのモル比は、1:1:1.04である。
【0027】
得られた上記ペーストを押出し造粒し、その後、匣鉢へ送り、前記匣鉢をローラーハース炉に入れて、窒素ガスによる保護の下に焼成する。ローラーハース炉は、順次に接続された第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントを含む。前記ペーストは、第1の昇温セグメントにおいて、65℃/hの昇温レートで320℃まで昇温させて、第1の保温セグメントにおいて、320℃で3hにわたって保温し、続いて、第2の昇温セグメントにおいて、120℃/hの昇温レートで690℃まで昇温させて、第2の保温セグメントにおいて、690℃で5hにわたって保温し、その後、降温セグメントにおいて、60℃以下となるまで降温させてから出炉して、焼成材料が得られる。
【0028】
ローラーハース炉における第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントの各々には、誘引ファンと連通している吹出口が設けられている。第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントの各々には、窒素ガスが流され、窒素ガスがキルン底部から流れ込んでいる。第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントに流れ込んでいる窒素ガスの体積比は、2:1.8:1.5:0.8:2である。焼成過程では、1時間ごとに流れ込んでいる窒素ガスの体積は、ローラーハース炉の火炉体積の13倍であり、炉内圧力が外界の大気圧よりも80Pa高い。
【0029】
上記焼成材料を流動層型ジェット粉砕機に通過させて、0.4MPa、140℃の条件の下に、粉砕し、分級することによって、粉砕材料が得られる。粉砕過程では、気流は窒素ガスであり、窒素ガスにおける酸素ガスの含有量が100ppm未満で、露点が-20℃未満である。分級過程では、分級ホイールが用いられ、600r/minの回転速度で分級が行われる。前記分級ホイールは、直径が20cmであり、セラミック材質のものである。分級ホイールには、セラミックベーンが均一的に分布しており、セラミックベーンの間隔距離が1.2cmである。上記粉砕材料を超音波振動篩に通過させて、ふるい分けを行い、篩が150メッシュであり、超音波のパワーが4kWである。ふるい分けが行われた粉砕材料を、15000Gsの電磁除鉄器に滞留させて、2段階の除鉄を行い、滞留時間が15秒以上である。除鉄が行われた物質材料を、恒温・恒湿状態の包装室に誘引して、湿度が10%以下であって、温度が25℃である環境の下に、真空包装して、高倍率リン酸鉄リチウム正極材料が得られる。
【0030】
前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料に対して、走査電子顕微鏡及びXRDによって、形及び構造を特徴付けし、その結果を
図1、
図2、
図3に示す。ここで、
図1は本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の低倍走査電子顕微鏡写真であり、
図2は本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の高倍走査電子顕微鏡写真であり、
図3は本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料のXRDスペクトルである。
【0031】
図1と
図2から分かるように、前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の一次粒子は、粒径が非常に小さくて、約50nmであり、且つ、分布が非常に集中しており、その中には、大きな単結晶粒子がなく、粒子の球形度が高い。上記要素は、優れている倍率性能の取得に非常に有利なものである。
図3から分かるように、本発明に記載のリン酸鉄リチウム正極材料は、リン酸鉄リチウムの標準的な回折ピークに適合している。
【0032】
前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料を理化指標で表す場合、元素組成をICPによって検出し、粉末内部抵抗を四探針法によって測定し、測定圧力が10MPaであり、プレス密度を3トンの圧力で測定することとなっている。その結果を、表1に示す。
【0033】
【0034】
表1から分かるように、本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料には、主に、Li、Fe、P、Cが含まれ、不純物の含有量が非常に低い。本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の粉末内部抵抗が極めて低いので、炭素による被覆が非常に均一的で、電子導電性が良好であることも示されている。また、本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、高い焼成温度の下に製造されたので、その粒子結晶性が高く、鉄溶出量および磁性物質の含有量が低い。
【0035】
前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料をボタン電池として組み立てて性能を表す場合、その組立過程は以下の通りである。本発明に記載のリン酸鉄リチウム正極材料、SP導電剤、および、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、90:5:5の質量比で適量取り、スーパーミキサーによって均一的に混合するとともに、自動塗工機によってアルミニウム箔上に塗布し、塗布されたアルミニウム箔をオーブンにて乾燥させ、乾燥したアルミニウム箔を、必要なプレス密度でロールプレスして、所望の大きさを有する小円片に切断して質量を測定し、その後、再乾燥させる。最終的に得られたアルミニウム箔は、正極とされ、リチウムシートが負極、六フッ化リン酸リチウムが電解液、ポリエチレン材料がセパレータとされる。正極ケース、負極ケース、正極シート、リチウムシート、セパレータ、電解液を必要に応じてボタン電子に組み立て、前記ボタン電池を電池テストシステムに引っ掛けて放置した後、テストを行う。
【0036】
上記組み立てられたボタン電池を、青色電池テストシステムに放置してテストし、テスト温度が24~26℃である。0.1C、1C、2C、5C、および、10Cのレートで、3.75Vに達するまで充電させて、充電容量が得られ、そして、対応する0.1C、1C、2C、5C、および、10Cのレートで、2.0Vになるまで放電させて、放電容量が得られる。テストの結果は、表2および
図4に示された通りである。ここで、
図4は、本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の1C、2C、5Cおよび10Cにおける充放電グラフである。
図4には、a、b、c、dは、それぞれ、1C、2C、5C、10Cにおける充放電グラフである。
【0037】
【0038】
表2および
図4から分かるように、本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の容量が効果的に機能し、倍率性能及び低温性能が優れている。
【0039】
続いて、本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料に対して、1Cにおける常温循環性能のテストを行う。具体的には、本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料を、3Ahのパウチ型電池セルとして組み立てるとともに、青色電池テストシステムによって、25℃の温度の下に、1Cのテストレートでテストを行う。テストの結果を
図5に示す。
図5は本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の1Cにおける常温循環性能グラフである。
【0040】
図5から、本発明に記載の高倍率リン酸鉄リチウム正極材料の2500サイクルにおける容量維持率は96.6%であることが明らかになり、その循環性能が優れていることも示されている。
【実施例2】
【0041】
クエン酸鉄、トリオクチルホスフェート、および、酢酸リチウムを混合して、55℃の温度の下に、400r/minの回転速度で均一的に高速攪拌して混合することによって、ペーストが得られる。ここで、前記クエン酸鉄、トリオクチルホスフェート、および、酢酸リチウムにおいて、Fe、P、Liのモル比は、1:1:1.07である。
【0042】
得られた上記ペーストを押出し造粒し、その後、匣鉢へ送り、前記匣鉢をローラーハース炉に入れて、窒素ガスによる保護の下に焼成する。ローラーハース炉は、順次に接続された第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントを含む。前記ペーストは、第1の昇温セグメントにおいて、78℃/hの昇温レートで370℃まで昇温させて、第1の保温セグメントにおいて、370℃で5hにわたって保温し、続いて、第2の昇温セグメントにおいて、145℃/hの昇温レートで790℃まで昇温させて、第2の保温セグメントにおいて、790℃で10hにわたって保温し、その後、降温セグメントにおいて、60℃以下となるまで降温させてから出炉して、焼成材料が得られる。
【0043】
ローラーハース炉における第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントの各々には、誘引ファンと連通している吹出口が設けられている。第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントの各々には、窒素ガスが流され、窒素ガスがキルン底部から流れ込んでいる。第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントに流れ込んでいる窒素ガスの体積比は、2:1.8:1.5:0.8:2である。焼成過程では、1時間ごとに流れ込んでいる窒素ガスの体積は、ローラーハース炉の火炉体積の13倍であり、炉内圧力が外界の大気圧よりも80Pa高い。
【0044】
上記焼成材料を流動層型ジェット粉砕機に通過させて、0.4MPa、140℃の条件の下に、粉砕し、分級することによって、粉砕材料が得られる。粉砕過程では、気流は窒素ガスであり、窒素ガスにおける酸素ガスの含有量が100ppm未満で、露点が-20℃未満である。分級過程では、分級ホイールが用いられ、600r/minの回転速度で分級が行われる。前記分級ホイールは、直径が20cmであり、セラミック材質のものである。分級ホイールには、セラミックベーンが均一的に分布しており、セラミックベーンの間隔距離が1.2cmである。上記粉砕材料を超音波振動篩に通過させて、ふるい分けを行い、篩が150メッシュであり、超音波のパワーが4kWである。ふるい分けが行われた粉砕材料を、15000Gsの電磁除鉄器に滞留させて、2段階の除鉄を行い、滞留時間が15秒以上である。除鉄が行われた物質材料を、恒温・恒湿状態の包装室に誘引して、湿度が10%以下であって、温度が25℃である環境の下に、真空包装して、高倍率リン酸鉄リチウム正極材料が得られる。
【0045】
前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料を理化指標で表す場合、粉末内部抵抗を四探針法によって測定し、測定圧力が10MPaであり、プレス密度を3トンの圧力で測定することとなっている。テストの結果から分かるように、本実施例における製造された高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、一次粒子の粒径が70nm、D50が3.1μm、粉末内部抵抗が6.2Ω.cm、プレス密度が1.97g/mL、比表面積が18.9m2/gであり、実施例1および実施例2における製造された高倍率リン酸鉄リチウム正極材料と同様に、粉末内部抵抗が低く、比表面積が高いものである。
【0046】
前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料をボタン電池として組み立てて性能を表す場合、その組立過程は以下の通りである。本発明に記載のリン酸鉄リチウム正極材料、SP導電剤、および、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、90:5:5の質量比で適量取り、スーパーミキサーによって均一的に混合するとともに、自動塗工機によってアルミニウム箔上に塗布し、塗布されたアルミニウム箔をオーブンにて乾燥させ、乾燥したアルミニウム箔を、必要なプレス密度でロールプレスして、所望の大きさを有する小円片に切断して質量を測定し、その後、再乾燥させる。最終的に得られたアルミニウム箔は、正極とされ、リチウムシートが負極、六フッ化リン酸リチウムが電解液、ポリエチレン材料がセパレータとされる。正極ケース、負極ケース、正極シート、リチウムシート、セパレータ、電解液を必要に応じてボタン電子に組み立て、前記ボタン電池を電池テストシステムに引っ掛けて放置した後、テストを行う。
【0047】
性能を表す場合、以下のような方法が用いられる。上記組み立てられたボタン電池を、青色電池テストシステムに放置してテストし、テスト温度が25℃である。0.1Cのレートで、3.75Vに達するまで充電させて、充電容量が得られ、そして、0.1Cのレートで、2.0Vになるまで放電させて、放電容量が得られる。テストの結果を表3に示す。
【0048】
【0049】
表3から分かるように、本実施例における製造された高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、実施例1における製造された高倍率リン酸鉄リチウム正極材料とほぼ同じであり、同様に高い比容量および高倍率性能を有し、低温性能が優れている。
【実施例3】
【0050】
酢酸鉄、トリブチルホスフェート、および、クエン酸リチウムを混合して、55℃の温度の下に、400r/minの回転速度で均一的に高速攪拌して混合することによって、ペーストが得られる。ここで、前記グルコン酸鉄、リン酸エステル、および、酢酸リチウムにおいて、Fe、P、Liのモル比は、1:1:1.05である。
【0051】
得られた上記ペーストを押出し造粒し、その後、匣鉢へ送り、前記匣鉢をローラーハース炉に入れて、窒素ガスによる保護の下に焼成する。ローラーハース炉は、順次に接続された第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントを含む。前記ペーストは、第1の昇温セグメントにおいて、60℃/hの昇温レートで320℃まで昇温させて、第1の保温セグメントにおいて、320℃で4hにわたって保温し、続いて、第2の昇温セグメントにおいて、120℃/hの昇温レートで690℃まで昇温させて、第2の保温セグメントにおいて、690℃で4hにわたって保温し、その後、降温セグメントにおいて、60℃以下となるまで降温させてから出炉して、焼成材料が得られる。
【0052】
ローラーハース炉における第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントの各々には、誘引ファンと連通している吹出口が設けられている。第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントの各々には、窒素ガスが流され、窒素ガスがキルン底部から流れ込んでいる。第1の昇温セグメント、第1の保温セグメント、第2の昇温セグメント、第2の保温セグメント、および、降温セグメントに流れ込んでいる窒素ガスの体積比は、2:1.8:1.5:0.9:2である。焼成過程では、1時間ごとに流れ込んでいる窒素ガスの体積は、ローラーハース炉の火炉体積の12倍であり、炉内圧力が外界の大気圧よりも70Pa高い。
【0053】
上記焼成材料を流動層型ジェット粉砕機に通過させて、0.4MPa、140℃の条件の下に、粉砕し、分級することによって、粉砕材料が得られる。粉砕過程では、気流は窒素ガスであり、窒素ガスにおける酸素ガスの含有量が100ppm未満で、露点が-20℃未満である。分級過程では、分級ホイールが用いられ、600r/minの回転速度で分級が行われる。前記分級ホイールは、直径が20cmであり、セラミック材質のものである。分級ホイールには、セラミックベーンが均一的に分布しており、セラミックベーンの間隔距離が1.2cmである。上記粉砕材料を超音波振動篩に通過させて、ふるい分けを行い、篩が150メッシュであり、超音波のパワーが4kWである。ふるい分けが行われた粉砕材料を、15000Gsの電磁除鉄器に滞留させて、2段階の除鉄を行い、滞留時間が15秒以上である。除鉄が行われた物質材料を、恒温・恒湿状態の包装室に誘引して、湿度が10%以下であって、温度が25℃である環境の下に、真空包装して、高倍率リン酸鉄リチウム正極材料が得られる。
【0054】
前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料を理化指標で表す場合、元素組成をICPによって検出し、粉末内部抵抗を四探針法によって測定し、測定圧力が10MPaであり、プレス密度を3トンの圧力で測定することとなっている。その結果を、表4に示す。
【0055】
【0056】
表4から分かるように、本実施例における製造された高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、実施例1における製造されたものと同様で、主にLi、Fe、P、Cを含み、粉末内部抵抗、鉄溶出量および磁性物質の含有量が低いものである。
【0057】
前記高倍率リン酸鉄リチウム正極材料をボタン電池として組み立てて性能を表す場合、その組立過程は以下の通りである。本発明に記載のリン酸鉄リチウム正極材料、SP導電剤、および、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、90:5:5の質量比で適量取り、スーパーミキサーによって均一的に混合するとともに、自動塗工機によってアルミニウム箔上に塗布し、塗布されたアルミニウム箔をオーブンにて乾燥させ、乾燥したアルミニウム箔を、必要なプレス密度でロールプレスして、所望の大きさを有する小円片に切断して質量を測定し、その後、再乾燥させる。最終的に得られたアルミニウム箔は、正極とされ、リチウムシートが負極、六フッ化リン酸リチウムが電解液、ポリエチレン材料がセパレータとされる。正極ケース、負極ケース、正極シート、リチウムシート、セパレータ、電解液を必要に応じてボタン電子に組み立て、前記ボタン電池を電池テストシステムに引っ掛けて放置した後、テストを行う。組み立てられたボタン電池を、青色電池テストシステムに放置してテストし、テスト温度が25℃である。0.1Cのレートで、3.75Vに達するまで充電させて、充電容量が得られ、そして、対応する0.1Cのレートで、2.0Vになるまで放電させて、放電容量が得られる。テストの結果を表5に示す。
【0058】
【0059】
表5から分かるように、本実施例における製造された高倍率リン酸鉄リチウム正極材料は、実施例1における製造された高倍率リン酸鉄リチウム正極材料と同様で、高い比容量および高倍率性能を有し、低温性能が優れている。
【0060】
以上の説明は、本発明の好ましい具体的な実施形態に過ぎず、本発明の保護範囲はそれによって限られていない。本技術分野に詳しい技術者であれば、本発明に開示の技術範囲内において、本発明の技術案及びその発明思想を基にして、等価的に置き換えたり、変化したりすることができ、それらが本発明の保護範囲内にカバーされたものとして見なされる。
【国際調査報告】