(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-19
(54)【発明の名称】子宮漿液性がんを治療するためのWEE1化合物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20240412BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562607
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 US2022024079
(87)【国際公開番号】W WO2022221143
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518346476
【氏名又は名称】リキュリウム アイピー ホールディングス リミテッド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポルター,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォリオティス,ディミトリオス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィアナ,マルクス ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】ドネイト,フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】デ ジョン,ペトリュス ルドルフ
(72)【発明者】
【氏名】サマター,アフメド アブディ
(72)【発明者】
【氏名】バンカー,ケビン デュアン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ピーター キンファ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB06
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】
子宮漿液性がんを有する対象を、WEE1阻害剤又はその医薬的に許容される塩で治療するための方法が、本明細書に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
子宮漿液性がん(USC)を有する対象を治療する方法であって、治療有効量のZN-c3又はその医薬的に許容される塩を、投薬計画に従って、前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記USCが、進行又は再発USCである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記投薬計画が、前記ZN-c3の経口投与を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記投薬計画が、周期投薬相を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記周期投薬相が、少なくとも連続3日間の期間にわたって固定されている、1日当たり約200mg~1日当たり約350mgの範囲内の1日用量を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記周期投薬相が、少なくとも連続3日間の期間にわたる1日1回の投薬を含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記投薬計画が、間欠投薬相を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記間欠投薬相が、少なくとも1日の休薬日を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記間欠投薬相が、前記対象に毎日投与される前記ZN-c3の量の少なくとも1回の変更を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記投薬計画が、5日間のZN-c3の投薬及び2日間の休薬日を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日当たり約200mgである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日当たり300mg以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日当たり約350mgである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日当たり約300mgである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日1回(QD)約200mgである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日1回(QD)300mg以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日1回(QD)約350mgである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日1回(QD)約300mgである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日2回(BID)約100mgである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日2回(BID)150mg以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日2回(BID)約175mgである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記対象に投与される前記ZN-c3の前記治療有効量が、1日2回(BID)約150mgである、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が、以前の治療計画によって前記USCについて以前に治療されている、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記以前の治療計画が、以前のUSC療法を前記対象に施すことを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記以前のUSC療法が、カルボプラチン、パクリタキセル、ベバシズマブ、トラスツズマブ、ペンブロリズマブ、レンバチニブ及びドキソルビシンから選択される少なくとも1つを含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権出願の参照による組み込み
本出願は、2021年4月12日に出願された米国仮特許出願第63/174,004号、及び2021年4月12日に出願された米国仮特許出願第63/174,005号に対する優先権を主張するものであり、これらの両方の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、概して、WEE1阻害剤を使用して、子宮漿液性がん(uterine serous carcinoma、USC)を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
DNAは、環境から絶えず損傷を受けている。光、化学物質、ストレス及び細胞複製は、DNA骨格に沿った一本鎖又は二本鎖切断をもたらす。典型的には、生物は、損傷したDNAを再接続又は再合成する修復タンパク質によって、DNA損傷に対して防御している。これらのタンパク質が正確に機能することは、生命にとって不可欠である。DNAへのヌクレオチドの不正確な置換は、突然変異(並びに挿入、欠失及びフレームシフトを含むが、これらに限定されない、他の遺伝子変異)、遺伝疾患並びにタンパク質機能の喪失を引き起こし得る。DNA修復の完全な喪失は、細胞死、腫瘍進行及びがんを引き起こし得る。
【0004】
細胞周期チェックポイントは、適切なDNA修復にとって重要であり、細胞に、それらのゲノム完全性が回復されるまで細胞複製を進行させないことを確実にする。WEE1は、有糸分裂開始前のDNA修復のための、G2-M細胞周期チェックポイントでの停止に関与する核キナーゼである。正常細胞は、G1停止中に損傷したDNAを修復する。がん細胞は、多くの場合、G1-Sチェックポイントを欠き、DNA修復のための機能的G2-Mチェックポイントに依存している。WEE1は、様々ながん型において過剰発現され、WEE1のいくつかの阻害剤及び/又は分解剤が、当業者に既知である。例えば、国際公開第2019/173082号及び同第2020/069105号を参照されたい。
【0005】
子宮漿液性がん(USC)は、非常に侵襲性のII型子宮内膜がんである。例えば、Ferriss JS et al,Uterine serous carcinoma:key advances and novel treatment approaches.International Journal of Gynecologic Cancer 2021;31:1165-1174を参照されたい。再発子宮漿液性がんにおけるアダボセルチブの第II相試験が、報告されている。Liu JF et
al.Phase II study of the WEE1 inhibitor
adavosertib in recurrent uterine serous
carcinoma.J Clin Oncol 2021;39を参照されたい。しかしながら、既存の治療アプローチは限定的なままであり、したがって、追加の療法が緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
様々な実施形態は、子宮漿液性がん(USC)を有する対象を治療する方法であって、治療有効量のZN-c3又はその医薬的に許容される塩を、投薬計画に従って対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0007】
これら及び他の実施形態は、以下により詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】対象番号1についてのある特定のベースライン(2020年11月)及び2回目のステージ再評価(2021年4月)時の腹膜イメージング結果を例解し、そのフォローアップ時点で確認された部分応答を実証する。
【
図2】対象番号2についてのある特定のベースライン(2021年1月)及び1回目のステージ再評価(2021年3月)時の腹膜イメージング結果を例解し、そのフォローアップ時点での部分応答を実証する。
【
図3】対象番号3についてのある特定のベースライン(2021年4月)及び5回目のステージ再評価(2021年11月)時の腹膜イメージング結果を例解し、そのフォローアップ時点での完全応答を実証する。
【
図4】対象番号3についてのある特定のベースライン(2021年4月)及び5回目のステージ再評価(2021年11月)時の腹膜イメージング結果を例解し、そのフォローアップ時点での完全応答を実証する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
WEE1は、細胞DNA損傷に応答した有糸分裂の開始を防止する、ATR媒介性G2細胞周期チェックポイント制御の重要な構成要素である、チロシンキナーゼである。ATRは、CHK1をリン酸化して活性化し、次にWEE1を活性化して、Tyr15でのサイクリン依存性キナーゼ1(cyclin-dependent kinase 1、CDK1)の選択的リン酸化
をもたらし、それによって、CDK1-サイクリンB複合体を安定化させて、細胞周期の進行を停止させる。このプロセスは、有糸分裂開始前に、腫瘍細胞が損傷したDNAを修復する時間を与えることによって、生存上の利点を付与する。WEE1を抑制すると、G2チェックポイントを阻害し、DNA損傷を伴うがん細胞に予定外の有糸分裂を開始させ、分裂期細胞死による細胞死を起こす。したがって、WEE1の阻害及び/又は分解は、シスプラチンなどのDNA損傷剤に対する腫瘍の感受性を高め、腫瘍の細胞死を誘導する可能性を有する。
【0010】
定義
別段の定めがない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で参照される全ての特許、出願、公開出願及び他の出版物は、特に明記しない限り、参照によりそれらの全体が組み込まれる。本明細書のある用語に対して複数の定義が存在する場合、特に明記しない限り、この節にある定義が優先される。
【0011】
本明細書で使用される「WEE1阻害」、「WEE1阻害剤」という用語及び類似の用語は、例えば、WEE1チロシンキナーゼを分解することによって、及び/又はCDK1のリン酸化の媒介に関するWEE1チロシンキナーゼの活性を低減させることによって、WEE1チロシンキナーゼの活性又は機能を阻害することを指す。WEE1チロシンキナーゼを分解することによって機能するWEE1阻害剤は、本明細書においてWEE1分解剤と称され得る。
【0012】
本明細書で使用される場合、「対象」とは、治療、観察又は実験の対象である動物を指す。対象動物は、限定することなく、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、霊長類(サル、チンパンジー及び類人猿など)、並びに特に、ヒトなどの哺乳動物であり得る。いくつかの実施形態では、対象は、ヒトであり得る。いくつかの実施形態では、対象は、小児及び/又は乳児であり得る。他の実施形態では、対象は、成人であり得る。
【0013】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療すること」、「治療」、「治療的」
及び「療法」という用語は、必ずしも疾病又は病態の完全な治癒又は消滅を意味するとは限らない。疾病又は病態の任意の所望されない兆候又は症状の任意の程度の任意の緩和が、治療及び/又は療法とみなされ得る。その上、治療は、対象の健康又は外観についての全体的な感覚を悪化させ得る行為を含み得る。
【0014】
「治療有効量」及び「有効量」という用語は、示される生物学的又は医学的応答を導く活性化合物(例えば、ZN-c3又はその医薬的に許容される塩)の量を示すために使用される。例えば、治療有効量のそのようなZN-c3化合物、塩又は組成物は、疾病若しくは病態の症状を予防、緩和若しくは寛解するか、又は治療されている対象の生存を延長するために必要な量であり得る。この応答は、組織、系、動物、又はヒトにおいて生じ得、治療されている疾病又は病態の兆候又は症状の緩和を含む。有効量の判定は、本明細書に提供される本開示を考慮して、十分当業者の能力の範囲内である。用量として必要とされる治療有効量のZN-c3化合物、塩又は組成物は、投与経路、ヒトを含む治療されている動物の種類、及び考慮中の特定の動物の身体特性に依存するであろう。用量は、所望の効果を達成するように調整され得るが、体重、食生活、併用投薬及び医療分野の当業者が認識するであろう他の要因などの要因に依存するであろう。
【0015】
例えば、有効量のZN-c3化合物、塩又は組成物は、(a)USCによって引き起こされる1つ以上の症状の低減、緩和若しくは消失、(b)腫瘍サイズの低減、(c)腫瘍の除去、及び/又は(d)腫瘍の長期疾患安定化(増殖停止)をもたらす量であり得る。例として、有効量のZN-c3化合物、塩又は組成物は、WEE1活性及び/又はリン酸化(CDC2のリン酸化など)の低減をもたらす量であり得る。WEE1の活性の低減は当業者に既知であり、WEE1内因性キナーゼ活性及び下流の基質のリン酸化の分析によって判定することができる。
【0016】
本明細書で使用される場合、「投薬計画」という用語は、投与経路、用量及び投薬間隔を含む、ZN-c3化合物が対象に投与される様式を指す。投薬計画は、特定の投薬量(例えば、300mg)が、特定の期間(例えば、3日間)にわたって規則的な間隔(例えば、1日1回)で投与される「周期」投薬相を含み得る。投薬計画は、投薬量及び/又は投薬間隔などの1つ以上の投薬パラメータが変動又は変更される、「間欠」投薬相を更に含み得る。例えば、間欠投薬相は、ZN-c3化合物が投与されないか、又は低減した投薬量及び/若しくはより少ない頻度で投与される、「休薬」相を含み得る。
【0017】
本明細書に記載の化合物は、同位体で標識され得ることが理解される。重水素などの同位体での置換は、例えば、インビボ半減期の増加又は必要投与量の低減など、より大きい代謝安定性に起因するある特定の治療上の利点をもたらし得る。化合物構造において表される各化学元素は、当該元素の任意の同位体を含み得る。例えば、化合物構造において、水素原子は、化合物中に存在すると明確に開示され得るか、又は理解され得る。水素原子が存在し得る化合物の任意の位置において、水素原子は、水素-1(軽水素)及び水素-2(重水素)を含むが、これらに限定されない、水素の任意の同位体であり得る。したがって、本明細書における化合物に対する言及は、文脈が明確にそうでないと示さない限り、全ての可能な同位体形態を包含する。
【0018】
値の範囲が提供される場合、上限及び下限、並びにその範囲の上限と下限との間に介在する各値が、実施形態内に包含されることが理解される。
【0019】
本出願で使用される用語及び語句、並びにこれらの変化形、特に添付の特許請求の範囲にあるものは、特に明記しない限り、限定的ではなく非限定的であると解釈されるべきである。上記の例として、「含むこと」という用語は、「限定することなく含むこと」、「含むが、これらに限定されないこと」などを意味するよう解釈されるべきである。本明細
書で使用される場合、「備えること」という用語は、「含むこと」、「含有すること」、又は「特徴とする」と同義語であり、包括的又は非限定的であり、追加の列挙されていない要素又は方法の工程を除外しない。「有すること」という用語は、「少なくとも有すること」と解釈されるべきである。「含む」という用語は、「含むが、これらに限定されない」と解釈されるべきである。「例」という用語は、考察中の項目の徹底的又は限定的なリストではなく例示的な実例を提供するために使用される。「好ましくは」、「好ましい」、「所望の」又は「望ましい」のような用語、並びに同様の意味の単語の使用は、ある特定の特徴がその構造又は機能にとって重大、本質的又は重要でさえあるということを暗示するものとしてではなく、むしろ単に特定の実施形態で利用される場合又はされない場合がある代替又は追加の特徴を強調することが意図されるものとして理解されるべきである。加えて、「備えること」という用語は、「少なくとも有すること」又は「少なくとも含むこと」という語句の同意語として解釈されるものとする。化合物、組成物、又はデバイスの文脈で使用される場合、「備えること」という用語は、化合物、組成物、又はデバイスが少なくとも列挙された特徴又は構成要素を含むが、追加の特徴又は構成要素も含み得ることを意味する。
【0020】
本明細書の実質的にいかなる複数形及び/又は単数形の用語の使用に関しても、当業者は、文脈及び/又は用途に応じて適切に、複数形から単数形、及び/又は単数形から複数形に変換することができる。様々な単数形/複数形の入れ替えは、明確にするために本明細書で明示的に記載され得る。「a」又は「an」という不定冠詞は、複数を除外しない。ある特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されるという単なる事実は、利益を得るためにこれらの手段の組み合わせを使用することができないということを示すものではない。請求項中のいかなる参照符号も、その範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0021】
WEE1化合物
ZN-c3は、細胞の有糸分裂開始を防止して、DNA損傷の修復を可能にする、G2/M細胞周期チェックポイントの重要な構成要素である、WEE1の選択的かつ経口で生物学的に利用可能な小分子阻害剤である。ZN-c3は、複数の細胞株及び異種移植モデルにおいて有意なインビトロ抗腫瘍活性を実証している。
【0022】
【0023】
ZN-c3は、国際公開第2019/173082号に記載のように調製することができ(例えば、その中の実施例9Bを参照されたい)、これは、特に、ZN-c3を作製するための方法、並びにその塩及び医薬組成物を作製するための方法を記載する目的で、参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
医薬組成物
本明細書に記載のいくつかの実施形態は、有効量のZN-c3化合物又はその医薬的に許容される塩と、医薬的に許容される担体、希釈剤、賦形剤又はこれらの組み合わせとを含み得る、医薬組成物に関する。
【0025】
「医薬組成物」という用語は、ZN-c3及び/又はその医薬的に許容される塩と、希釈剤又は担体などの他の化学構成要素との混合物を指す。医薬組成物は、生物への化合物の投与を容易にする。医薬組成物はまた、化合物を、無機又は有機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びサリチル酸と反応させることによって得られ得る。医薬組成物は、一般に、意図される具体的な投与経路に合わせて調整される。
【0026】
「生理学的に許容される」という用語は、ZN-c3化合物の生物活性及び特性を抑制することも、組成物の送達が意図される動物に明らかな損傷又は負傷を引き起こすこともしない、担体、希釈剤又は賦形剤を定義する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「担体」は、細胞又は組織への化合物の組み込みを容易にする化合物を指す。例えば、限定することなく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)は、対象の細胞又は組織への多くの有機化合物の取り込みを容易にする、一般的に利用される担体である。
【0028】
本明細書で使用される場合、「希釈剤」は、明らかな薬理活性はないが、医薬的に必要又は望ましくあり得る、医薬組成物中の成分を指す。例えば、希釈剤は、製造及び/又は投与には質量が小さ過ぎる、効力のある薬物のかさ増しのために使用され得る。それはまた、注射、摂取、又は吸入によって投与される薬物を溶解させるための液体であり得る。当該技術分野において一般的な希釈剤の形態は、限定することなく、ヒト血液のpH及び等張性を模したリン酸緩衝生理食塩水などの、緩衝水溶液である。
【0029】
本明細書で使用される場合、「賦形剤」は、限定することなく、かさ、稠度、安定性、結合能力、潤滑、崩壊能力などを組成物に提供するために、医薬組成物に添加される、本質的に不活性の物質を指す。例えば、酸化防止剤及び金属キレート剤などの安定剤は、賦形剤である。一実施形態では、医薬組成物は、酸化防止剤及び/又は金属キレート剤を含む。「希釈剤」は、ある種の賦形剤である。
【0030】
本明細書に記載の医薬組成物は、ヒト患者にそれ自体で、あるいはそれらが、併用療法におけるような他の活性成分、又は担体、希釈剤、賦形剤若しくはそれらの組み合わせと混合される医薬組成物において、投与することができる。適切な製剤化は、選択される投与経路に依存する。本明細書に記載の化合物の製剤化及び投与のための技術は、当業者に既知である。
【0031】
本明細書に開示の医薬組成物は、例えば、従来の混合、溶解、顆粒化、ドラジェ作製、水簸、乳化、封入、捕捉又は錠剤化プロセスによって、それ自体が既知である様式で製造され得る。追加的に、ZN-c3活性成分は、典型的には、その意図される目的を達成するのに有効な量で含有され、医薬的に適合する対イオンとの塩として提供され得る。
【0032】
筋肉内、皮下、静脈内、髄内注射、くも膜下、直接心室内、腹腔内、鼻腔内及び眼内注射を含む、経口、直腸、肺内、局所、エアロゾル、注射、注入及び非経口送達を含むが、これらに限定されない、ZN-c3化合物、塩及び/又は組成物を投与する当該技術分野で認められている複数の技術が、使用され得る。いくつかの実施形態では、ZN-c3又はその医薬的に許容される塩は、経口投与され得る。
【0033】
組成物は、所望される場合、活性成分を含有する1つ以上の単位剤形を含有し得る、パック又はディスペンサデバイス中に提供され得る。パックは、例えば、ブリスタパックなどの金属又はプラスチック箔を含み得る。パック又はディスペンサデバイスには、投与に
関する指示書が添付され得る。パック又はディスペンサはまた、医薬品の製造、使用、又は販売を規制する行政機関によって規定された形式の、容器に関連付けられた注意書きが添付され得、その注意書きは、ヒト又は動物投与のための薬物の形態の機関による承認を反映する。そのような注意書きは、例えば、処方薬に関し米国食品医薬品局によって承認されたラベル、又は承認された製品添付文書であり得る。本明細書に記載の適合する医薬的担体中に製剤化されたZN-c3及び/又は塩を含む組成物はまた、示される病態の治療のために調製され、適切な容器内に配置され、かつラベル付けされ得る。
【0034】
使用及び治療方法
本明細書に記載のいくつかの実施形態は、USCを有する対象を治療する方法であって、治療有効量のZN-c3又はその医薬的に許容される塩を、投薬計画に従って対象に投与することを含む、方法に関する。
【0035】
本明細書に記載のいくつかの実施形態は、投薬計画に従ってUSCを有する対象を治療するための薬物の製造における、治療有効量のZN-c3又はその医薬的に許容される塩の使用に関する。他の実施形態は、USCを有する対象の治療において使用するためのZN-c3に関し、その治療は、治療有効量のZN-c3又はその医薬的に許容される塩を、投薬計画に従って対象に投与することを含む。様々な実施形態では、投薬計画は、対象へのZN-c3の経口投与を含む。
【0036】
様々な実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日当たり300mg以上である。例えば、いくつかの実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日当たり約300mgである。他の実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日当たり約350mgである。他の実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日当たり約200mgである。いくつかの実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日1回(QD)300mg以上である。一実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日1回(QD)約300mgである。別の実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日1回(QD)約350mgである。更に別の実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日1回(QD)約200mgである。いくつかの実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日2回(BID)150mg以上である。一実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日2回(BID)約150mgである。別の実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日2回(BID)約175mgである。更に別の実施形態では、対象に投与されるZN-c3の治療有効量は、1日2回(BID)約100mgである。
【0037】
様々な実施形態では、投薬計画は、対象へのZN-c3投与の用量及び頻度が、ある期間、例えば、連続3日以上にわたって固定される、周期投薬相を含む。例えば、一実施形態では、周期投薬相は、少なくとも連続3日間の期間にわたって固定されている、1日当たり約200mg~1日当たり約350mgの範囲内の1日用量を含む。一実施形態では、1日用量は、1日1回(QD)投与される。別の実施形態では、1日用量は、1日2回、3回又は4回提供される分割用量で投与される。一実施形態では、周期投薬相は、少なくとも連続3日間の期間にわたる1日1回の投薬を含む。
【0038】
様々な実施形態では、投薬計画は、対象へのZN-c3投与の用量及び頻度が変更される、間欠投薬相を含む。一実施形態では、間欠投薬相は、対象に毎日投与されるZN-c3の量の少なくとも1回の変更を含む。一実施形態では、間欠投薬相は、少なくとも1日の休薬日、例えば、1、2、3、4、5、6又は7日の休薬日を含む。例えば、一実施形態では、投薬計画は、ZN-c3が5日間にわたって1日1回対象に経口投与される周期相に続いて、ZN-c3が2日間にわたって投与されない間欠相又は休薬相を含む。5日
間投与/2日間休薬と称され得るそのような投薬計画は、特定の場合に応じて、必要な頻度で繰り返され得るか、又は循環され得る。
【0039】
様々な実施形態では、対象は、ヒトである。いくつかの実施形態では、対象は、進行USCであるUSCを有する。いくつかの実施形態では、対象は、再発USCであるUSCを有する。
【0040】
様々な実施形態では、対象は、以前の治療計画によってUSCについて以前に治療されている。様々な治療計画が、当業者に既知であるか、又は開発中である。一実施形態では、以前の治療計画は、以前のUSC療法を対象に施すことを含み得る。例えば、様々な実施形態では、以前のUSC療法は、カルボプラチン、パクリタキセル、ベバシズマブ、トラスツズマブ、ペンブロリズマブ、レンバチニブ及びドキソルビシンから選択される少なくとも1つを含み得る。
【0041】
特定の場合のUSCの治療において有効であるZN-c3の化合物又はその医薬的に許容される塩の量は、選択された特定の化合物又は塩だけでなく、投与経路、治療されている疾病又は病態の性質及び/又は症状、並びに患者の年齢及び状態によっても変化し、最終的に、主治医又は臨床医の判断による。医薬的に許容される塩の投与の場合、投薬量は、遊離塩基として計算され得る。当業者によって理解されるように、ある特定の状況において、特に侵襲性の症例のUSCを効果的かつ積極的に治療するために、本明細書に記載の投薬量範囲を超えるか、又ははるかに超えさえする量で、ZN-c3化合物、塩又は組成物を投与することが必要であり得る。
【0042】
所望の用量は、単回用量で、又は例えば、1日当たり2回、3回、4回若しくはそれ以上の部分用量として、適切な間隔で投与される分割用量として、好都合に提供され得る。部分用量自体は、例えば、いくつかの別個の大まかに間隔がおかれた投与に更に分割され得る。
【0043】
当業者には容易に明らかになるように、投与される有用なインビボ投薬量及び特定の投与様式は、年齢、体重、苦痛の重症度、治療される哺乳動物種、用いられる特定のZN-c3化合物、塩又は組成物、及びこれらの療法が用いられる特定の用途に応じて変化するであろう。有効な投薬量レベル、つまり所望の結果を達成するために必要な投薬量レベルの判定は、日常的な方法、例えば、ヒト臨床試験、インビボ研究及びインビトロ研究を使用して、当業者によって達成することができる。例えば、ZN-c3又はその医薬的に許容される塩の有用な投薬量は、それらのインビトロ活性及び動物モデルにおけるインビボ活性を比較することによって判定することができる。そのような比較は、カルボプラチン及び/又はパクリタキセルなどの確立された薬物との比較によって行うことができる。
【0044】
投薬量及び間隔は、活性部分が調節作用を維持するのに十分である血漿レベル、つまり最小有効濃度(minimal effective concentration、MEC)を提供するように、個々に
調節され得る。MECは、化合物ごとに変化するが、インビボ及び/又はインビトロデータから推定することができる。MECを達成するために必要な投薬量は、個々の特性及び投与経路に依存するであろう。しかしながら、血漿濃度を判定するためには、HPLCアッセイ又はバイオアッセイを使用することができる。投薬量間隔もまた、MEC値を使用して判定することができる。組成物は、10~90%の期間、好ましくは30~90%及び最も好ましくは50~90%にわたって、MECを超える血漿レベルを維持する計画を使用して投与されるべきである。局所投与又は選択的取り込みの場合、薬物の有効局所濃度は、血漿濃度に関係しない場合がある。
【0045】
毒性又は臓器機能不全による投与の終了、中断又は調節の方法及び時期については、主
治医が承知しているであろうことに留意されたい。反対に、主治医は、臨床応答が適切ではない(毒性を除外する)場合、治療をより高いレベルに調節することも承知しているであろう。対象となる疾患の管理において投与される用量の大きさは、治療しようとする疾病又は病態の重症度及び投与経路によって変化するであろう。疾病又は病態の重症度は、例えば、ある程度は、標準的な予後評価方法によって評価され得る。更に、用量及び恐らく投薬頻度はまた、個々の患者の年齢、体重及び応答によっても変化するであろう。上記で考察されるものと同等のプログラムが、獣医学で使用され得る。
【0046】
本明細書に開示のZN-c3化合物、塩及び組成物は、既知の方法を使用して有効性及び毒性に関して評価することができる。例えば、ZN-c3についての毒性学は、哺乳動物の細胞株、及び好ましくはヒトの細胞株などの細胞株に対するインビトロ毒性を判定することによって確立され得る。そのような研究の結果は、多くの場合、哺乳動物、又は特にヒトなどの動物における毒性を予測する。代替的に、マウス、ラット、ウサギ、イヌ又はサルなどの動物モデルにおける特定の化合物の毒性は、既知の方法を使用して判定され得る。特定の化合物の有効性は、インビトロ方法、動物モデル、又はヒト臨床試験などのいくつかの認められている方法を使用して確立され得る。有効性を判定するためのモデルを選択する場合、当業者は、適切なモデル、用量、投与経路及び/又はレジメンを選択するにあたり最先端の技術を指針とすることができる。
【実施例】
【0047】
実施例1~3
方法
ZN-c3-001(NCT04158336)は、進行又は転移性固形腫瘍を有する対象、標準療法に不応性の対象、又は標準療法が利用可能ではない対象におけるZN-c3の安全性及び臨床活性を評価する、非盲検、多施設、第I相用量漸増及び拡大試験である。毎日の経口ZN-c3投薬を、1日1回(QD)25mgから450mgまで漸増させ、推奨される第2相用量は、QDで300mgであった。ここで、本発明者らは、QDで300mg以上の用量のZN-c3を受けたUSCを有する対象についての予備的な安全性及び有効性の結果を報告する。
【0048】
結果
2022年1月21日現在、全腫瘍型にわたって合計80人の対象を登録した。子宮漿液性がん(USC)については、QDで300mg以上の用量のZN-c3を受け、かつ安全性について評価された対象が、14人いた。治療期間の中央値は、12.4週間(範囲は2~36週間)であった。このサブグループの安全性プロファイルは、患者集団全体と同等であり、14人中12人の対象が、少なくとも1つの治療関連有害事象(treatment-related adverse event、TRAE)を報告している。TRAEグレード1~4は、3
人以上の対象において生じ、頻度が多い順に、悪心、嘔吐、下痢、疲労、食欲減退、脱水及び貧血が含まれた。2人以上の対象において生じたグレード3以上のTRAEには、貧血及び血小板減少症が含まれた。これらの血液学的事象は、それぞれ2人の対象に限定されたものであった。14人中11人の対象は、測定可能な疾患及び少なくとも1つのベースライン後腫瘍評価を有し、これらの対象の最良の全体応答として、3人の対象(27.3%)で、部分応答が確認され(これらの対象のうちの1人が、最後の腫瘍評価で完全応答を達成した)、7人(63.6%)が、安定疾病を有し、1人(9.1%)が、進行性疾病を有した。完全応答、部分応答及び安定疾病を有する者として定義される疾病制御率は、90.9%であった。
【0049】
USCで確認された部分応答番号1-概要
●72歳、白人女性、ステージIVのUSC、腹膜及びリンパ節への転移、ECOG PS 1
●進行/転移状況における2つの以前の療法
●ZN-c3開始用量:2020年12月にQDで350mg
●腫瘍マーカーCA-125は、ベースライン時の36U/mLから、約3ヶ月の治療後に最低12U/mLまで減少した
●部分応答が確認され、全体で49%低減した
●対象は、放射線学的疾病進行まで199日間、試験薬物を受け続けた
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
図1は、対象番号1についてのある特定のベースライン(2020年11月)及び2回目のステージ再評価(2021年4月)時の腹膜イメージング結果を例解し、そのフォローアップ時点で確認された部分応答を実証する。
【0054】
USC部分応答番号2-概要
●69歳、アフリカ系アメリカ人女性、ステージIVのUSC、リンパ節及び肺への転移、ECOG PS 0
●ペンブロリズマブ及びレンバチニブの以前の使用を含む、進行/転移状況における4つの以前の療法
●ZN-c3開始用量:2021年1月にQDで300mg
●腫瘍マーカーCA-125は、ベースライン時の440U/mLから、2ヶ月の治療
後に50U/mL未満まで減少した
●部分応答が確認され、全体で43%低減した
●対象は、放射線学的疾患進行まで230日間、試験薬物を受け続けた
【0055】
【0056】
【0057】
図2は、対象番号2についてのある特定のベースライン(2021年1月)及び1回目のステージ再評価(2021年3月)時の腹膜イメージング結果を例解し、そのフォローアップ時点での部分応答を実証する。その後の腫瘍評価で、部分応答が確認された。
【0058】
USC部分応答番号3-概要
●60歳、白人女性、ステージIVのUSC、腹膜への転移、ECOG PS 1
●ペンブロリズマブ及びレンバチニブの以前の使用を含む、進行/転移状況における2つの以前の療法
●ZN-c3開始用量:2021年4月にQDで300mg
●腫瘍マーカーCA-125は、ベースライン時には収集されなかった
●全体で100%の低減を伴う未確認の完全応答
●対象は、臨床疾患進行まで252日間、試験薬物を受け続けた
【0059】
【0060】
【0061】
図3及び
図4は、対象番号3についてのある特定のベースライン(2021年4月)及び5回目のステージ再評価(2021年11月)時の腹膜イメージング結果を例解し、そのフォローアップ時点での完全応答を実証する。
【0062】
結論
ZN-c3は、実施例1~3に例示されるように、QDで300mg以上の経口用量の単剤として安全で耐容性が良いようであり、再発又は進行USCを有する対象において臨床活性を実証した。これらの対象における安全性の結果は、全試験集団の結果と一致していた。進行中の用量拡大試験は、USC患者を登録している。予備的な有効性シグナルは、専用の第2相試験(ZN-c3-004、NCT04814108)において確認されるであろう。
【0063】
その上、上記は、明確さ及び理解のために、例解及び実施例としてある程度詳細に記載されているが、本開示の趣旨を逸脱することなく数多くの様々な修正がなされ得ることが、当業者によって理解されるであろう。したがって、本明細書に開示の形態は例解的であるにすぎず、本開示の範囲を限定することは意図されていないが、それどころか本発明の真の範囲及び趣旨に沿った全ての修正及び代替形態を包含することも明確に理解するべきである。
【国際調査報告】