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特表2024-517146アスファルトバインダー用の劣化速度抑制添加剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-19
(54)【発明の名称】アスファルトバインダー用の劣化速度抑制添加剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 95/00 20060101AFI20240412BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
C08L95/00
C08K5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565551
(86)(22)【出願日】2022-04-26
(85)【翻訳文提出日】2023-12-12
(86)【国際出願番号】 US2022026310
(87)【国際公開番号】W WO2022232119
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】63/179,991
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518438209
【氏名又は名称】エー.エル.エム.ホールディング カンパニー
(71)【出願人】
【識別番号】518438210
【氏名又は名称】エルゴン アスファルト アンド エマルションズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】レインケ,ジェラルド エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】バウムガードナー,ゲイロン エル.
(72)【発明者】
【氏名】ハンズ,アンドリュー
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AG001
4J002EB076
4J002EB086
4J002EB096
4J002EC016
4J002ED026
4J002EF086
4J002EF106
4J002EH026
4J002EN016
4J002EV026
4J002EV176
4J002EV216
4J002FD036
4J002GL00
(57)【要約】
本開示は、アスファルトバインダー用のさらなる劣化抑制添加剤について記載する。かかる添加剤は、3つの構造要素、i)縮合炭化水素環構造、ii)前記環構造に結合した極性要素、および、iii)前記環構造の、前記極性要素とは反対側に結合した脂肪族要素、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バージンバインダー、
再生アスファルト舗装(RAP)、再生アスファルトシングル(RAS)または両者の組み合わせに由来するアスファルトバインダーを含む、劣化アスファルトバインダー、および、
3つの構造要素、i)縮合炭化水素環構造、ii)前記環構造に結合した極性要素、および、iii)前記環構造の、前記極性要素とは反対側に結合した脂肪族要素、を含む、式Iで示される劣化抑制添加剤、を含むアスファルトバインダー組成物。
【化1】
【請求項2】
前記極性要素Aが、ヒドロキシル部分、ハロゲン部分、硫黄ベースの部分、または窒素ベースの部分を含み、
前記縮合環構造が、炭素原子が約12~約24個の複素縮合脂肪族環を含み、任意で、1つ以上の結合したメチル部分または1つ以上の前記縮合環中の1つ以上の二重結合を含み、
前記脂肪族要素R1が、約2~約16個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル、またはアルケニル部分を含む、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項3】
前記極性要素Aがヒドロキシル部分であるとき、前記縮合環構造は、式2または式3の縮合4環構造以外の環構造である、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【化2】
【請求項4】
前記極性要素Aが、-OH、-OR、-OCO-R、R-COH、-F、-Cl、-Br、-SH、-SO-、-SO、-NH、-NHR、または、-N(R)を含み、
ここで、RおよびRは、任意に1つ以上のヒドロキシル部分を有するC-C10の直鎖状または分枝状の、アルキル基またはアルケニル基である、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項5】
前記縮合環構造が、剛体であり、不飽和であり、かつ、本質的に非反応性である、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項6】
前記剛体縮合環構造が、剛体であり、飽和しており、かつ、本質的に非反応性である、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項7】
前記縮合環構造が17個の炭素原子を含む、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項8】
前記縮合環構造が4個の6員縮合環を含む、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項9】
前記劣化抑制添加剤が約250~1,000g/molの分子量を有する、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項10】
前記劣化抑制添加剤が約250~650g/molの分子量を有する、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項11】
前記劣化抑制添加剤が約300~550g/molの分子量を有する、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項12】
前記劣化抑制添加剤が約325~425g/molの分子量を有する、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項13】
前記劣化抑制添加剤が、少なくとも約150°F以上の融点を有する、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項14】
前記劣化抑制添加剤が約250°F~約500°Fの融点を有する、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項15】
前記劣化抑制添加剤が、前記バージンバインダーの重量に対して、約0.5重量%~約15重量%である、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項16】
約20重量%以上の量のRAPを含む、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項17】
約20重量%以上の量のRASを含む、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項18】
約20重量%以上の量のRAPとRASとの混合物を含む、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項19】
約60重量%~約95重量%のバージンバインダーと、約5重量%~約40重量%のRAPとを含む、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項20】
約60重量%~約95重量%のバージンバインダーと、約5重量%~約40重量%のRASとを含む、請求項1に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項21】
追加の骨材をさらに含む、請求項1~20のいずれか1項に記載のアスファルトバインダー組成物。
【請求項22】
請求項1~20のいずれか1項に記載のアスファルトバインダー組成物を、舗装面を形成するために下地表面上に圧縮された追加の骨材とともに含む、舗装面。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
アスファルトバインダーの有害な劣化効果を遅らせる添加剤、プロセス、および手順が報告されている。例えば、以下の公開米国特許出願、公開特許出願、および米国特許は、植物ステロール添加剤が、アスファルトバインダーと組み合わされることで、前記の報告された添加剤を含まないアスファルトバインダーと比較して、有益な劣化抑制および劣化速度特性を有する、改良されたアスファルトバインダーを提供することを報告している。かかる文書は、米国特許出願第16/930,186号、米国特許公開2016/032338 A1号、2018/0215919 A1号、2019/0265221 A1号、2019/0153229 A1号、2020/0354274A1号、2020/0207944 A1号、2020/0277497 A1号、および米国特許第10,669,202号を含むが、これらに限定されない。これらの文献の各々が、植物ステロール添加剤(本開示においては、「ステロール(sterol)」または「ステロール(sterols)」と称する)を含むアスファルトバインダーの劣化速度の抑制または低減を補助する試験工程および分析手順を記載する目的で、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔概要〕
本開示は、アスファルトバインダー用のさらなる劣化抑制添加剤について記載する。かかる添加剤は、3つの構造要素、i)縮合炭化水素環構造、ii)前記環構造に結合した極性要素、および、iii)前記環構造の、前記極性要素とは反対側に結合した脂肪族要素、を含む。
【0003】
かかる特徴は、以下の説明句のように、模式的に表されうる:
極性要素A---縮合環構造---脂肪族要素R1
ここで、前記極性要素Aは、例えば、ハロゲン部分、硫黄ベースの部分、または窒素ベースの部分を含み、前記縮合環構造は、例えば、炭素原子が約12~約24個の複素縮合脂肪族環を含み、任意で、1つ以上の結合したメチル部分または1つ以上の前記縮合環中の1つ以上の二重結合を含み、かつ、前記脂肪族要素R1が、約2~約16個の炭素原子を有する、置換または非置換の、直鎖状または分枝状のアルキル、またはアルケニル部分を含む。他の実施形態において、前記極性要素Aは、前記縮合環構造が以下の式1および式2に例示される縮合4環構造より少ないかまたはより多くの縮合環を含む場合、ヒドロキシル部分を含んでもよい。
【0004】
代表的な劣化速度抑制添加剤としては、式1または式2による、2個のメチル部分を含む縮合4環構造を有する添加剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0005】
【化1】
【0006】
他の縮合環構造には、例えば、3環構造、4環構造、5環構造、または6環構造である実施形態が含まれる。これらの実施形態には、共に縮合環のいずれかに1つ以上の二重結合を有する、飽和環または不飽和環が含まれる。前記炭化水素縮合環構造は、発癌性があるか、毒性があるか、または有害でかつ環境的に不適である可能性がある、多環式芳香族化合物などの芳香族環を含む縮合環構造とは容易に区別される。対照的に、前記の開示された縮合環構造は、環境リスクを示さず、環境へのリスクが低いかまたは全くない添加剤として好適に使用できる。
【0007】
式1および式2の縮合環構造に類似する縮合環構造を有するステロール分子およびスタノール分子が多数存在する。類似の縮合環構造を有する実施形態の代表例としては、Δ5-アベノステロール、Δ7-アベノステロール、5.α.-スチグマスト-8(14)-エン-3-オン、5-エルゴステン-3-オン、22-メチルコレステロール、ブラシカステロール、カンペステロール、カンペスタノール、コレスタン-4-オール、コプロステロール、エルゴスト-22-エン-1,3-ジオール、スチガステロール、Δ7-スチガステロール、スチグマステロール、シトスタノール、およびβ-シトステロールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0008】
他の実施形態において前記、縮合環のいずれかが、前記環構造に結合した1つ以上のアルキル部分、例えば、メチル部分を含んでいてもよい。前記メチル部分の包含は、例えば、異なる環に結合した2つのメチル部分を含む式1および2に例示される。
【0009】
式1および2の縮合環構造のいくつかの実施形態はまた、極性要素、例えばAの結合に適切な部位、および、脂肪族要素、例えばR1の結合に適切な部位を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、好適な極性要素Aは、例えば、-OH、-OR、-OCO-R、R-COH、-F、-Cl、-Br、-SH、-SO-、-SO、-NH、-NHR、または、-N(R)を含む。ここで、RおよびRは、任意で1つ以上のヒドロキシル部分により置換された、C-C10の直鎖状または分枝状の、アルキル基またはアルケニル基である。
【0011】
本開示のいくつかの実施形態において、前記縮合環構造は、実質的に剛体であり、飽和または不飽和であり、かつ、本質的に非反応性である。例えば、図1図2、および図3を参照されたい。この三次元トポグラフィーは、インターネット上で入手可能な資料(Faller, Roland, UCD Biophysics 241: Membrane Biology,“1.6: Sterols and Sterol Induced Phases”,(March 28, 2021);参照により本開示に組み込まれる)の中で、追加の物理的特性とともに提供されている空間充填モデルによっても説明されている。三次元トポグラフィーは、剛体で、飽和または不飽和であり、本質的に非反応性である縮合環状構造である。アスファルトバインダー添加剤として使用される場合、前記飽和または不飽和の炭化水素縮合環構造、ならびに、前記結合した極性部分および前記結合した脂肪族要素は、かかる添加剤と組み合わされたアスファルトバインダーの使用、例えば、舗装および屋根への適用、に関連する劣化プロセスの結果としては、変化しない。
【0012】
本開示のいくつかの実施形態において、前記劣化速度抑制添加剤は、少なくとも約250g/mol、約250~650g/mol、約300~550g/mol、または約325~425g/molの範囲の計算上の分子量を有し得る。同様に、前記劣化速度抑制添加剤は、少なくとも150°F以上の融点を有し得、または、いくつかの実施形態においては、約250°F~500°Fの融点を有し得る。
【0013】
本開示のいくつかの実施形態において、前記極性要素の機能は、非極性の完全飽和化合物である、コレスタンと、脂肪族要素R1とは反対側の縮合4環構造の一端に結合した極性ヒドロキシル基を有する、関連する極性化合物であるコレスタノールとを比較することによって明らかにすることができる。この比較は、以下に詳細に開示されるように、コレスタンが添加剤である場合には、経年劣化を抑制する利点がないが、コレスタノールが添加剤として使用される場合には、コレスタノールが、アスファルトバインダーの経年劣化特性を抑制することを示している。
【0014】
詳細およびデータは比較例1にさらに記載されている。
【0015】
〔図面の説明〕
図1、2および3は、コレスタン、コレスタノールおよびβシトステロールの3次元トポグラフィーを示す。
【0016】
図4および5は、コントロール試料および劣化遅延添加剤試料の高温PGグレードのデータをグラフ化したものである。
【0017】
図6および7は、コントロール試料および劣化遅延添加剤試料の低温m臨界グレードのデータをグラフ化したものである。
【0018】
図8、9および10は、選択的圧力容器劣化(PAV)試料のイアトロスキャン(Iatroscan)プロットの比較である。
【0019】
〔詳細な説明〕
本開示のいくつかの実施形態において、前記アスファルトバインダーは、バージンアスファルト(典型的には、劣化していないか、または、過去の施工で使用されていないアスファルトバインダー)であってもよく、または、前記アスファルトバインダーは、バージンバインダー、ならびに、劣化した、または、過去に使用されたアスファルトバインダー(一般に、再生アスファルトバインダーまたは再利用アスファルトバインダーと呼ばれる)の混合物を含んでもよい。いくつかの実施形態において、前記バインダー混合物は、バージンバインダーと、RAP(再生アスファルト舗装)、RAS(再生アスファルトシングル)、または、RAPとRASの両方、から抽出されたバインダーとを含む。特定の実施形態においては、前記RASは、製造アスファルトシングル廃棄物、消費アスファルトシングル廃棄物、または製造アスファルトシングル廃棄物と消費アスファルトシングル廃棄物の両方の組み合わせから抽出される。いくつかの実施形態において、バインダー混合物は、RAP、RAS、またはRAPとRASとの混合物を、少なくとも約20重量%、もしくは、20重量%より多く含んでもよい。特定の実施形態において、アスファルトバインダー混合物は、80重量%程度のRAP、RAS、またはRAPとRASとの混合物を含んでもよい。他の実施形態において、バインダー混合物は、約60重量%~約95重量%のバージンバインダー、および約5重量%~約40重量%のRAPを含んでもよい。さらに、いくつかの実施形態は、約5重量%~約40重量%のRAS(再生アスファルトシングル、製造アスファルトシングル廃棄物から抽出された材料、消費アスファルトシングル廃棄物から抽出された材料、または製造アスファルトシングル廃棄物および消費アスファルトシングル廃棄物から抽出されたバインダーの混合物から抽出された材料)と、約60重量%~約95重量%のバージンバインダーを含むバインダー混合物である。特定の実施形態において、前記バインダー混合物は、バージンアスファルトバインダーの約0.5重量%~約15.0重量%の追加の劣化遅延添加剤を含む。特定の実施形態において、前記バインダー混合物は、約0.2重量%~約1.0重量%の追加の劣化遅延添加剤を含み得る。前記劣化遅延添加剤は、RAP含有アスファルトバインダー混合物、RAS含有アスファルトバインダー混合物、またはRAP含有およびRAS含有アスファルトバインダー混合物の、高温および低温特性、ならびに低温末端および高温末端の両方における、性能グレーディング(PG)を改善することが示されている。
【0020】
アスファルトバインダー組成物は、機械的または熱的対流を加えることによって調製することができる。いくつかの実施形態において、アスファルトバインダー組成物を調製する方法は、アスファルトバインダーを、約100℃~約250℃の温度で、劣化遅延添加剤、および、RASまたはRAPと混合することを含む。ある特定の実施形態において、前記アスファルトバインダーは、約125℃~約175℃、もしくは、約180℃~約205℃の温度で、劣化遅延添加剤およびRAP、RAS、またはRAM(RAPとRASの両方の混合物である再生アスファルト材料)と混合される。いくつかの実施形態において、前記アスファルトバインダー組成物は、i)バージンアスファルト、ii)RAP、RAS、またはRAM、iii)劣化遅延添加剤、およびiv)柔軟剤と混合される。さらに他の実施形態において、前記アスファルトバインダー組成物は、i)バージンアスファルト、ii)RAP、RAS、またはRAM、iii)劣化遅延添加剤、およびiv)骨材と混合される。前記骨材は、石灰岩、花崗岩、およびトラップ岩(trap rock)のようなアスファルト混合物の調製に有用な任意の材料であってもよいが、これらに限定されない。骨材材料の大きさおよび特性は、通常、政府機関または顧客によって指定され、一般的に、最終混合物が配置される特定の計画のための政府の要件に適合する必要がある。前記アスファルトバインダー組成物の各成分を混合する順序は限定されない。前記組成物は、前記バインダーを劣化遅延添加剤と混合し、その後、RAP、RAS、またはRAM、および場合によってはバージンな骨材を添加することによって調製することができる。また、前記バインダーをまずRAP、RAS、またはRAMと混合し、次いで劣化遅延添加剤および前記骨材を添加することもできる。さらに別の実施形態においては、前記バインダー、劣化遅延添加剤、およびRAP、RAS、またはRAMを同時に添加し、続いて前記骨材を添加する。当業者であれば、他の順序での各成分の添加および混合が可能であることを認識するであろう。
【0021】
〔実施例〕
比較例1.コレスタンおよびコレスタノールの劣化遅延特性
この例においては、コレスタン(図3に示すように、環A上の-OH(ヒドロキシル)基または環B上の二重結合は持たないが、5員環Dから分かれた脂肪族側鎖を持つ)が、植物ステロールまたはコレステロールをアスファルトに添加した場合に生じるアスファルトバインダーの劣化遅延特性を提供しないことを示すデータ(図4)を提供する。コレスタンおよびコレスタノールの分子構造を、それぞれ図1および2に、さらに詳細な化学構造を以下に示す。
【0022】
【化2】
【0023】
図4は、ASTM D6521またはAASHTO R28に記載されているように、3つの20時間のPAV調整手順によって劣化された高温PGグレードのプロットを示す。劣化遅延添加剤無添加のアスファルトバインダー試料における、同様の劣化は、劣化アスファルトコントロールにおける、7.5%のコレスタン混合物および7.5%ステロール混合物の特性と比較されるコントロールとして機能した。両方の添加剤が、RAPから回収されたアスファルトに相似するように実験室的に劣化されたアスファルトバインダーに混合された。これらの3つの試料の劣化勾配は、コレスタンを含む試料が、ステロールが添加された試料よりも速い速度で劣化することを示している。コレスタンの試料とステロールの試料とは、初期または0時間の時点では2℃の差であるが、60時間のPAV劣化後には12℃の差があり、コレスタン混合物の方が、ステロール混合物よりも高い高温PGグレードを有している。高温PGグレードが高いことは、バインダーの弛緩特性が低く、交通負荷および低温環境温度への暴露によってクラックが発生しやすいことを示している。
【0024】
図5は、高温PGグレードにおける、劣化コントロールバインダーと、同様の劣化コントロールにおける、7.5%コレスタノールおよび7.5%ステロールの試料との、PAV劣化の60時間までのプロットを示す。図4で検討されたコレスタンの研究が完了してから、コレスタノールの研究が開始されるまでの間に、コレスタンの研究に使用された劣化バインダーは消費され、新しいバッチの実験室用劣化バインダーが製造された。2つのバッチの劣化コントロールのデータは、後続のデータが示すように類似していた。図4に示した劣化コントロールバインダーの高温データと、図5に示した劣化コントロールの高温データとを分析すると、4つの高温の結果について平均2℃の差が見られた。劣化コントロールバインダーは異なるものであるにも関わらず、それらの類似した経時特性により、図4のデータとの有意義な比較が可能となった。図5に示した高温の結果は、コレスタノールおよびステロールの劣化速度が、劣化コントロールバインダーと同程度に低いことを示している。ステロール混合物はコレスタノールよりもわずかに高い値を示すが、劣化勾配が高いコントロールバインダーと比較すると、どちらもほぼ同じ劣化勾配を示す。また、図4の混合物に使用した劣化コントロールバインダーの劣化勾配は0.447であり、図5の混合物に使用した劣化コントロールの劣化勾配は0.4495であった。これらのコントロールバインダーの劣化勾配の類似性は、同じ添加剤で処理した場合に、劣化コントロールバインダーが同様の挙動を示すことをさらに示唆している。図4の7.5%ステロールの劣化勾配は0.3385であり、図5の7.5%ステロールの劣化勾配は0.3255であった。同じ添加剤を同じ濃度でブレンドした場合の特性は、またしても非常によく似ている。
【0025】
図6および図7は、ステロールとコレスタンとの比較混合物(図6)およびステロールとコレスタノールとの比較混合物(図7)の低温m臨界グレード(Tm-臨界)値を比較したものである。図6は、ステロールよりもコレスタンの方が低温グレードを大きく低下させることを示している。この挙動は、軟化添加剤を劣化バインダーに配合した場合にしばしば観察される。図6のデータは、コレスタンが元のバインダーとほぼ同じ劣化速度で劣化するのに対して、ステロール混合物は劣化コントロールバインダーの劣化速度の半分未満の減少速度で劣化することを示している。バイオオイル添加剤等のいくつかの軟化添加剤で観察されているように、ステロールと比較してより急速な軟化添加剤の劣化速度が、よりゆっくりと劣化するステロール混合物の劣化速度傾向線と交差する、劣化点に到達する。図6のデータでは、この交点に劣化40時間で到達している。このデータから、ステロールは、コレスタンと比較して、60時間後の低温値に優れていることがわかる。図7は、コレスタノールとステロールとの低温劣化率がほぼ同じであり、Tm-臨界プロットが重なっていることを示している。これは、最終試料の劣化抑制特性を確立する上で、その分子構造が重要であることを示している。
【0026】
開示された結果はまた、アスファルトバインダー中にブレンドされたステロールが、バインダー内で消失したり、あるいは、可溶化または不活性化したりしないことも示している。バインダーのイアトロスキャン GC-FID評価を、バインダー中のステロールの未劣化混合物で行い、同じ材料の60時間劣化試料と比較すると、ステロールのピークは、劣化後に同じ領域が存在することを示している。劣化ステロール含有バインダーを試験すると、劣化バインダー内にステロールが存在することがわかる。ステロールを含まない劣化バインダーと組み合わせると、ステロールの劣化抑制効果が示される。これらの結果を裏付けるデータは、本開示の冒頭で引用した文献のいくつかに示されている。
【0027】
コレスタンおよび/またはコレスタノールがステロールに匹敵する化学的機能を有するかどうかを判定するために、いくつかの混合物のイアトロスキャン試験が実施された。図8は、ステロール7.5%およびコレスタノール7.5%の、20時間PAV劣化試料のイアトロスキャンの結果を示す。スキャンが示すように、ステロールとコレスタノールとの両方について、イアトロスキャンの主樹脂ピークの前に別のピークが存在する。コレスタノールのピークは樹脂からそれほど分離していないが、面積は測定することができ、2つの添加剤の面積の結果は類似している。
【0028】
図9は、コレスタノール試料とコレスタン試料との2つのイアトロスキャン試験のプロットである。これらの試験は、未劣化バインダーで実施された。コレスタン試料は、コレスタノールとは異なる劣化バインダーコントロールを使用した。コレスタン試料は、主樹脂ピークの前駆体としての初期ピークはなく、コレスタン試料の樹脂ピークは3つの試料の中で最も低く、コレスタンがバインダー中の他の場所に存在することを示唆している。未劣化コレスタン試料の飽和面積は12.1面積単位で、劣化基準の飽和面積は6.3であった。したがって、追加の飽和面積は、5.8単位であった。これらのデータは、コレスタンが別のピークとしてではなく、総面積の一部として飽和画分に含まれていることを示唆している。コレスタンは飽和分子であるため、これらの結果はコレスタンが飽和物とともに溶出することを示している。
【0029】
図10は、劣化コントロールバインダー(10-28-19-A)、劣化コントロールバインダー中の7.5%のコレスタンおよび7.5%のステロール、ならびに、本書で先に言及した劣化コントロールバインダーの新たな試料中の7.5%のコレスタノールからなる、60時間PAV劣化試料のイアトロスキャン結果をプロットしたものである。60時間の劣化後も、ステロールとコレスタノールとは、バインダー樹脂画分の前駆ピークとして存在する。ステロールとコレスタノールとは、異なる劣化コントロールバインダーに配合されたにも関わらず、これらの添加剤のピークが示す相対量は、わずか0.8面積単位しか違わない。このステロールとコレスタノールとの混合物の前駆体ピークの類似性は、両物質が化学的に類似した挙動を示し、劣化後に両物質が元の形態で存在することを示唆している。7.5%コレスタン試料の飽和面積は19.4に等しく、イアトロスキャンプロットが示すように、他の3試料の飽和面積よりかなり大きい。03-26-21-B試料のステロール面積が11.6面積単位であり、04-14-21-A試料のコレスタノール面積が10.8面積単位であることを考慮すると、両試料がそれぞれの添加物を7.5%含む場合、飽和物画分内に追加の10.6面積単位のコレスタン面積が存在することは、追加の飽和物面積が、コレスタンによるものであることを示唆している。これらのデータはまた、コレスタンは、これまで示されてきたように劣化を遅らせることはないが、バインダーの劣化中に分解したり消費されたりすることもないようであることを示唆している。この観察は、ステロール系添加剤の縮合環構造が、アスファルトの劣化条件下では反応性がないことの証拠となる。これはまた、ステロール系添加剤の極性官能性が、劣化を遅らせる力学的特性を提供する証拠でもある。なぜなら、例えばコレスタン構造は、極性官能性を欠き、劣化を抑制する特性を示さないためである。
【0030】
特定の特性を持つ分子全般が、アスファルトバインダーに配合することができ、消費されたり分解されたりすることなく、劣化プロセスに供することができる。ステロールまたはコレスタノールなどの、これらの構造の一部は、アスファルトバインダーの劣化速度を遅らせることができる。さらに、同様の化学的官能基および構造を持つ他の分子も、同様の挙動を示す。極性官能基原子または構造および/または極性官能基種に近接する6員環の少なくとも1つに二重結合を有するという最小限の化学的機能性を持たない分子は、劣化抑制特性を提供しないようである。コレスタンのデータに基づくと、試験された飽和環構造の縮合基であるが、炭素原子数5個または6個の脂肪族鎖を有するものは、劣化抑制機能は有さないが、添加されたバインダーの剛性を低下させる。初期の軟化作用は、バイオオイル添加剤のような軟化添加剤の影響に匹敵するが、今回得られたデータは、コレスタンが元のバインダーの劣化速度よりも実質的に速い速度では劣化しなかったことを示している。これは、コレスタンが酸素または劣化を促進する他の反応部位(二重結合など)を含まないことに起因している可能性がある。試験におけるコレスタノールと比較したコレスタンの挙動は、ステロール構造と(二重結合の除去による)スタノール構造とがバインダーの劣化速度を遅らせることに適していることを示している。
【0031】
4つ以上の飽和環、個々の極性結合の大きさならびにその双極子モーメントの大きさおよび方向に依存する分子双極子モーメント、300~400g/molの範囲の分子量、および少なくとも250°F以上の融点を有する分子は、アスファルトバインダーにおいて劣化抑制の利点を提供する。開示された実施形態において、-OH部分は、改善された劣化抑制特性を提供し、アスファルト中で最も反応性が低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、コレスタンの3次元トポグラフィーを示す。
図2図2は、コレスタノールの3次元トポグラフィーを示す。
図3図3は、βシトステロールの3次元トポグラフィーを示す。
図4図4は、コントロール試料および劣化遅延添加剤試料の高温PGグレードのデータをグラフ化したものである。
図5図5は、コントロール試料および劣化遅延添加剤試料の高温PGグレードのデータをグラフ化したものである。
図6図6は、コントロール試料および劣化遅延添加剤試料の低温m臨界グレードのデータをグラフ化したものである。
図7図7は、コントロール試料および劣化遅延添加剤試料の低温m臨界グレードのデータをグラフ化したものである。
図8図8は、選択的圧力容器劣化(PAV)試料のイアトロスキャンプロットの比較である。
図9図9は、選択的圧力容器劣化(PAV)試料のイアトロスキャンプロットの比較である。
図10図10は、選択的圧力容器劣化(PAV)試料のイアトロスキャンプロットの比較である。
図1
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【国際調査報告】