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特表2024-517152フェロシリケートSSZ-70モレキュラーシーブ、その合成及び使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-19
(54)【発明の名称】フェロシリケートSSZ-70モレキュラーシーブ、その合成及び使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
C01B39/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565601
(86)(22)【出願日】2022-04-18
(85)【翻訳文提出日】2023-10-25
(86)【国際出願番号】 IB2022053601
(87)【国際公開番号】W WO2022229782
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】17/241,204
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リュー、クリストファー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】チェン、コン - ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ビー - ゼン
(72)【発明者】
【氏名】ゾネス、ステイシー イアン
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA36
4G073BA63
4G073BB44
4G073CZ50
4G073FB04
4G073FB11
4G073FB50
4G073FD12
4G073GA03
4G073GA14
4G073GA40
4G073UA01
(57)【要約】
SSZ-70の骨格構造を有するフェロシリケートモレキュラーシーブ及びその製造方法が開示される。上記フェロシリケートモレキュラーシーブは、パラフィン系炭化水素原料の脱ろうプロセスに使用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-SVY骨格型のフェロシリケートモレキュラーシーブであって、その合成されたままの形態において、その細孔中に有機構造指向剤を含み、
前記有機構造指向剤が式(1):
【化1】

(式中、R及びR’はそれぞれ独立に、イソプロピル、イソブチル、及びシクロヘキシルから選択される)
によって表される、前記フェロシリケートモレキュラーシーブ。
【請求項2】
SiO/Feのモル比が25~750の範囲である、請求項1に記載のフェロシリケートモレキュラーシーブ。
【請求項3】
SiO/Feのモル比が50~500の範囲である、請求項1に記載のフェロシリケートモレキュラーシーブ。
【請求項4】
-SVY骨格型のフェロシリケートモレキュラーシーブの合成方法であって、
(1)(a)鉄の酸化物の供給源と、
(b)ケイ素の酸化物の供給源と、
(c)アルカリまたはアルカリ土類金属(M)の供給源と、
(d)有機構造指向剤(Q)と、
(e)水酸化物イオンの供給源と、
(f)水と
を含み、モル比で表した組成が以下:
【表1A】

の通りである反応混合物を調製することと、
(2)前記反応混合物を、前記フェロシリケートモレキュラーシーブの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に供することと
を含み、
前記有機構造指向剤が式(1):
【化1】

(式中、R及びR’はそれぞれ独立に、イソプロピル、イソブチル、及びシクロヘキシルから選択される)
によって表される、前記方法。
【請求項5】
前記反応混合物のモル比で表した組成が以下:
【表1B】

の通りである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記結晶化条件が、120℃~200℃の温度で3日~30日間、自己圧力下で前記反応混合物を加熱することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記反応混合物がフッ化物イオンの供給源をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記反応混合物のF/SiOのモル比が0.01~1.0の範囲である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
パラフィン系炭化水素原料の水素異性化プロセスであって、
前記パラフィン系炭化水素原料を、水素異性化条件で、水素及び-SVY骨格型のフェロシリケートモレキュラーシーブを含む触媒と接触させることと、
前記炭化水素原料と比較して分岐炭化水素が増加した生成物を得ることと
を含み、
前記触媒が、0.01~10重量%の貴金属をさらに含む、前記プロセス。
【請求項10】
前記パラフィン系炭化水素原料がn-C8+炭化水素を含む、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記フェロシリケートモレキュラーシーブのSiO/Feのモル比が25~750の範囲である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項12】
前記フェロシリケートモレキュラーシーブのSiO/Feのモル比が50~500の範囲である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項13】
前記貴金属が、白金、パラジウム、またはそれらの混合物を含む、請求項9に記載のプロセス。
【請求項14】
前記水素異性化条件が、200℃~450℃の温度、0.5~20MPaの圧力、0.1~10h-1の液空間速度、及び35.6~3560Nm/mの水素循環速度を含む、請求項9に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は-SVY骨格型のフェロシリケートモレキュラーシーブ及びその製造方法に関する。さらに、本開示は上記モレキュラーシーブを含む触媒を使用するパラフィン系炭化水素油の脱ろうプロセスにも関する。
【背景技術】
【0002】
モレキュラーシーブは、ゼオライト命名に関するIUPAC委員会の規則に従い、国際ゼオライト学会の構造委員会によって分類されている。この分類に従えば、構造が確定している骨格型ゼオライト及び他の結晶性の微多孔性モレキュラーシーブには3文字のコードが割り振られ、それらは、例えば、the "Atlas of Zeolite Framework Types" (Sixth Revised Edition, Elsevier, 2007))に記載されている。
【0003】
SSZ-70は構造が確定しているモレキュラーシーブの1腫であり、この骨格型の材料は-SVYと名付けられている。SSZ-70はMWWの多型であり、MWW層の無秩序なABC型の重なりと見なすことができる。MWW骨格構造は2つの独立した多次元チャネル系を特徴とする。一方の細孔系は2次元の10員環(10-MR)正弦波チャネルによって規定される。他方は10-MRウィンドウで連結された12-MRスーパーケージから構成される。
【0004】
現在、水素異性化触媒は、一般的には、酸機能及び貴金属(PM)機能を有する二元機能触媒を含む。酸性は通常モレキュラーシーブ成分によって与えられ、PM機能は、非常に多くの場合、触媒上及び/もしくは触媒中に担持された白金またはパラジウムによって与えられる。現在利用可能な触媒に使用されているモレキュラーシーブは、酸性度を制御するために、特定の含有量のアルミニウム及び/またはシリカを有している。これらの触媒は非常に優れた活性を示すが、比較的高いクラッキングにも悩まされる。
【0005】
本開示は、同形置換された(AlをFeで)、すなわち、四面体配位骨格位置に一般的なアルミニウム(Al)に代えて鉄(Fe)を有する-SVYモレキュラーシーブ、及び水素異性化触媒としてのそれらの使用を対象とする。上記骨格中への鉄による置換により、当該モレキュラーシーブの酸特性の変更が可能になり、その結果として、現在利用可能な触媒と比較して優れた特性を有する触媒が提供される。上記触媒の性能上の利点により、収率が向上し(クラッキングが低下)、より有利な生成物分布が増加した。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様において、その合成されたままの形態において、その細孔中に有機構造指向剤を含む-SVY骨格型のフェロシリケートモレキュラーシーブであって、上記有機構造指向剤が式(1):

【化1】

(式中、R及びR’はそれぞれ独立に、イソプロピル、イソブチル、及びシクロヘキシルから選択される)
によって表される、上記フェロシリケートモレキュラーシーブが提供される。
【0007】
第2の態様において、-SVY骨格型のフェロシリケートモレキュラーシーブの合成方法であって、(1)(a)鉄の酸化物の供給源と、(b)ケイ素の酸化物の供給源と、(c)アルカリまたはアルカリ土類金属(M)の供給源と、(d)有機構造指向剤(Q)と、(e)水酸化物イオンの供給源と、(f)水とを含み、モル比で表した組成が以下:
【表1A】

の通りである反応混合物を調製することと、(2)上記反応混合物を、上記フェロシリケートモレキュラーシーブの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に供することとを含み、上記有機構造指向剤が式(1):
【化1】

(式中、R及びR’はそれぞれ独立に、イソプロピル、イソブチル、及びシクロヘキシルから選択される)
によって表される、上記方法が提供される。
【0008】
第3の態様において、パラフィン系炭化水素原料の水素異性化プロセスであって、上記パラフィン系炭化水素原料を、水素異性化条件で、水素及び-SVY骨格型のフェロシリケートモレキュラーシーブを含む触媒と接触させることと、上記炭化水素原料に比較して分岐炭化水素が増加した生成物を得ることとを含み、上記触媒が、0.01~10重量%の貴金属をさらに含む、上記プロセスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、例1に従って調製された、合成されたままのフェロシリケートSSZ-70の粉末X線回折(XRD)パターンを示す図である。
【0010】
図2図2は、例1に従って調製され、焼成されたフェロシリケートSSZ-70の粉末XRDパターンを示す図である。
【0011】
図3図3は、例2に従って調製された、合成されたままのフェロシリケートSSZ-70の粉末XRDパターンを示す図である。
【0012】
図4図4は、例3に従って調製された、合成されたままのフェロシリケートSSZ-70の粉末XRDパターンを示す図である。
【0013】
図5(A)】図5(A)は、例21による、Pd/Fe-SSZ-70触媒上でのn-デカンの水素転化に関する、転化率または収率対温度のプロットである。
【0014】
図5(B)】図5(B)は、例21による、Pd/Al-SSZ-70触媒上でのn-デカンの水素転化に関する、転化率または収率対温度のプロットである。
【0015】
図6(A)】図6(A)は、例21による、Pd/Fe-SSZ-70触媒上でのn-デカンの水素転化に関する、収率対転化率のプロットである。
【0016】
図6(B)】図6(B)は、例21による、Pd/Al-SSZ-70触媒上でのn-デカンの水素転化に関する、収率対転化率のプロットである。
【0017】
図7(A)】図7(A)は、例21による、Pd/Fe-SSZ-70触媒上でのn-デカンの水素転化に関する、C10異性体分布対転化率のプロットである。
【0018】
図7(B)】図7(B)は、例21による、Pd/Al-SSZ-70触媒上でのn-デカンの水素転化に関する、C10異性体分布対転化率のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
用語「フェロシリケート」とは、FeO及びSiO四面体単位で構築された骨格を有するモレキュラーシーブを指す。上記フェロシリケートは、指定された酸化物のみを含有していてもよく(その場合には、該フェロシリケートは「純粋なフェロシリケート」と表わされることがある)、または他の酸化物をさらに含んでいてもよい。
【0020】
用語「-SVY」とは、国際ゼオライト学会の構造委員会によって承認された-SVYトポロジー型を指す。-SVYトポロジー型の材料の例としては、SSZ-70及びECNU-5が挙げられる。
【0021】
用語「合成されたままの」とは、モレキュラーシーブであって、結晶化後で、有機構造指向剤の除去前のその形態の上記モレキュラーシーブを指す。
【0022】
用語「Cn」炭化水素(nは正の整数(例えば、1、2、3、4、5など)である)とは、分子当たりn個の炭素原子(複数可)を有する炭化水素を意味する。
【0023】
用語「Cn+」炭化水素(nは正の整数(例えば、1、2、3、4、5など)である)とは、分子当たりn個以上の炭素原子(複数可)を有する炭化水素を意味する。
【0024】
用語「Cn-」炭化水素(nは正の整数(例えば、1、2、3、4、5など)である)とは、分子当たりn個以下の炭素原子(複数可)を有する炭化水素を意味する。
【0025】
本明細書で使用される用語「貴金属」とは、一般に、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、及び金からなる群から選択される金属を指す。
【0026】
用語「フェロシリケートSSZ-70」は、「Fe-SSZ-70」と略称される場合がある。
【0027】
用語「アルミノシリケートSSZ-70」は、「Al-SSZ-70」と略称される場合がある。
【0028】
用語「M-SSZ-70」とは、SiO及びMO四面体単位(但し、MはAlまたはFeである)で構築された骨格を有するメタロシリケートSSZ-70を指す。
【0029】
用語「1,3-ジイソブチルイミダゾリウム」は「DIBI」と略称される場合がある。
【0030】
用語「1,3-ジシクロヘキシルイミダゾリウム」は「DCHI」と略称される場合がある。
【0031】
モレキュラーシーブの合成
-SVY骨格型のフェロシリケートモレキュラーシーブは、(1)(a)鉄の酸化物の供給源と、(b)ケイ素の酸化物の供給源と、(c)アルカリまたはアルカリ土類金属(M)の供給源と、(d)有機構造指向剤(Q)と、(e)水酸化物イオンの供給源と、(f)水とを含む反応混合物を調製することと、(2)上記反応混合物を、上記フェロシリケートモレキュラーシーブの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に供することとによって合成することができる。
【0032】
上記反応混合物のモル比で表した組成は、表1:
【表1】

に示す範囲内であってもよい。
【0033】
好適な鉄の供給源としては、水溶性鉄塩(例えば、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄)が挙げられる。
【0034】
好適なケイ素の供給源としては、シリカのコロイド状懸濁液、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、アルカリ金属ケイ酸塩、及びオルトケイ酸テトラアルキル(例えば、オルトケイ酸テトラエチル)が挙げられる。
【0035】
上記アルカリまたはアルカリ土類金属(M)は通常、水酸化物イオンの供給源と共に上記反応混合物中に導入される。かかる金属の例としては、ナトリウム及び/またはカリウム、さらにはリチウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、及びカルシウムが挙げられる。本明細書で使用される場合、語句「アルカリまたはアルカリ土類金属」とは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が択一的に使用されることを意味するのではなく、1種以上のアルカリ金属が単独で、または1種以上のアルカリ土類金属との組み合わせで使用されてもよいこと、及び1種以上のアルカリ土類金属が単独で、または1種以上のアルカリ金属との組み合わせで使用されてもよいことを意味する。
【0036】
上記有機構造指向剤(Q)は、式(1):
【化1】

(式中、R及びR’はそれぞれ独立に、イソプロピル、イソブチル、及びシクロヘキシルから選択される)
によって表される、1,3-ジアルキルイミダゾリウムカチオンを含む。上記有機構造指向剤の具体例としては、1,3-ジイソプロピルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジイソブチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジシクロヘキシルイミダゾリウムカチオンが挙げられる。
【0037】
好適なQの供給源としては、第四級アンモニウム化合物の水酸化物、塩化物、臭化物、及び/または他の塩が挙げられる。
【0038】
上記反応混合物は、場合により、フッ化物イオンの供給源を含んでいてもよい。上記フッ化物イオンの供給源は、上記反応混合物中でフッ化物イオンを放出する能力がある任意の化合物であってよい。フッ化物イオンの供給源の例としては、フッ化水素;金属フッ化物、好ましくは上記金属がナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、もしくはバリウムである金属フッ化物;フッ化アンモニウム;またはフッ化テトラメチルアンモニウムもしくはフッ化テトラエチルアンモニウムなどのフッ化テトラアルキルアンモニウムが挙げられる。上記反応混合物中のF/SiOのモル比は、0~1.0(例えば、0.01~1.0、0.05~1.0、0~0.5、0.01~0.5、または0.05~0.5)の範囲であってよい。
【0039】
合成混合物はまた、種結晶(通常は-SVY骨格型モレキュラーシーブの種結晶)を、望ましくは上記反応混合物基準で0.01~10,000重量ppm(例えば、100~5000重量ppm)の量で含んでいてもよい。種結晶添加は、-SVYの選択性を向上させる、及び/または結晶化プロセスを短縮するのに有利な場合がある。
【0040】
上記反応混合物からの所望のモレキュラーシーブの結晶化は、適宜の反応容器、例えば、ポリプロピレン製瓶またはテフロン(登録商標)ライナー付きもしくはステンレス鋼製オートクレーブ中で、静的、転倒、または撹拌のいずれかの条件下、120℃~200℃(例えば、140℃~180℃)の温度で、使用する温度で結晶化が生じるのに十分な時間、例えば、約3日~30日間(例えば、5日~25日間)実施することができる。結晶化は通常、上記反応混合物が自己圧力を受けるように、オートクレーブ中、加圧下で行われる。
【0041】
所望のモレキュラーシーブ結晶が形成されたところで、遠心分離またはろ過などの標準的な機械的分離技法によって固体生成物を反応混合物から分離してもよい。回収された結晶は水洗され、次いで数秒~数分間(例えば、フラッシュ乾燥の場合は5秒~10分)、または数時間(例えば、75℃~150℃でのオーブン乾燥の場合は4時間~24時間)乾燥され、上記合成したままのモレキュラーシーブ結晶が得られる。上記乾燥ステップは真空下または大気圧で実施することができる。
【0042】
結晶化プロセスの結果として、回収された結晶性モレキュラーシーブ生成物は、その細孔内に合成に使用された構造指向剤の少なくとも一部を含む。
【0043】
合成されたままのフェロシリケートモレキュラーシーブを、熱処理、オゾン処理、もしくは他の処理に供して、その合成に使用された有機構造指向剤の一部または全てを除去してもよい。有機構造指向剤の除去は、合成されたままの材料を、空気もしくは不活性ガス中、有機構造指向剤の一部または全てを除去するのに十分な温度で加熱する熱処理(例えば、焼成)を使用して実施することができる。上記熱処理には大気圧よりも低い圧力を使用してもよいが、便宜上の理由により大気圧が望ましい。上記熱処理は、少なくとも370℃の温度で少なくとも1分間、一般的には20時間以下(例えば、1~12時間)実施してもよい。上記熱処理は925℃までの温度で行うことができる。例えば、上記熱処理は、空気中、400℃~600℃の温度で1~8時間実施してもよい。
【0044】
フェロシリケートモレキュラーシーブ(有機構造指向剤の一部または全てが除去されたもの)は、水素化金属成分と組み合わせられてもよい。上記水素化金属成分は、水素化-脱水素機能が実行される、モリブデン、タングステン、レニウム、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、または白金もしくはパラジウムなどの貴金属から選択することができる。かかる水素化金属成分は、以下のプロセス、すなわち、共結晶化、組成物中へのイオン交換、組成物中への含浸、または組成物との物理的混合の1つ以上によって組成物に組み入れることができる。金属の量は、触媒を基準として0.001~20重量%(0.01~10重量%、または0.5~2.0重量%)の範囲であってよい。
【0045】
フェロシリケートモレキュラーシーブが合成されたところで、これを、有機転化プロセスで使用される温度及びその他の条件に耐性のある別の材料と組み合わせることにより、触媒組成物中に配合してもよい。かかる耐性材料は、活性材料、不活性材料、合成ゼオライト、天然ゼオライト、無機材料、またはそれらの混合物から選択することができる。かかる耐性材料の例は、クレー、シリカ、アルミナなどの金属酸化物、またはそれらの混合物から選択することができる。上記無機材料は、天然に存在するものであってもよいし、またはシリカと金属酸化物の混合物を含むゼラチン状の沈殿物もしくはゲルの形態であってもよい。耐性材料を上記フェロシリケートモレキュラーシーブと共に、すなわち、上記フェロシリケートモレキュラーシーブと混合して、もしくはその結晶が活性である上記合成されたままの材料の合成中に存在させて使用することにより、特定の有機転化プロセスにおける触媒の転化率及び/または選択率が変化する傾向にある。不活性耐性材料は、所与のプロセスにおいて転化量を制御するための好適な希釈剤としての役割を果たし、その結果、反応速度を制御するための他の手段を使用することなく経済的且つ煩雑ではない方法で生成物を得ることができる。これらの材料を天然のクレー(例えば、ベントナイト及びカオリン)中に導入し、商用運転条件下での触媒の圧壊強度を向上させることができる。上記不活性耐性材料(すなわち、クレー、酸化物など)は上記触媒の結合剤として機能する。商業的使用においては、触媒が粉末様の材料に崩壊するのを防止することが望ましいことから、良好な圧壊強度を有する触媒は有益である場合がある。
【0046】
上記フェロシリケートモレキュラーシーブと複合化されてもよい天然に存在するクレーとしては、モンモリロナイト及びカオリンファミリーが挙げられ、これらのファミリーには、サブベントナイト、ならびに、一般にデキシークレー、マクナミークレー、ジョージアクレー、及びフロリダクレーとして知られるカオリン、または主たる鉱物成分がハロイサイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、もしくはアノキサイトであるその他のクレーが含まれる。かかるクレーは、当初採掘されたままの未加工の状態で使用されてもよく、または最初に焼成、酸処理、または化学修飾に供されてもよい。
【0047】
上記フェロシリケートモレキュラーシーブとの複合化に有用な結合剤としては、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、ベリリア、アルミナ、またはそれらの混合物から選択される無機酸化物も挙げられる。
【0048】
上記フェロシリケートモレキュラーシーブは、上述の材料に加えて、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニア、ならびにシリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、シリカ-アルミナ-マグネシア、及びシリカ-マグネシア-ジルコニアなどの三元系組成物などの多孔質マトリクス材料と複合化されてもよい。
【0049】
フェロシリケートモレキュラーシーブと無機酸化物マトリクスとの相対比率は広範囲に変化してもよく、モレキュラーシーブ含有量は複合材料の1~95重量パーセント(例えば、20~90重量パーセント)の範囲であってよい。
【0050】
上記触媒は、例えば、球または押出成形物の形態で、従来の方法で使用される。
【0051】
モレキュラーシーブの特性評価
フェロシリケートモレキュラーシーブの、合成されたままの且つ無水の形態でのモル比で表した化学組成は、表2に示す範囲内であってよい。
【表2】

但し、Qは本明細書において上記した有機構造指向剤を含み、Mはアルカリまたはアルカリ土類金属である。
【0052】
米国特許第7,108,843号によって教示されるように、モレキュラーシーブSSZ-70は、その合成されたままの形態では少なくとも以下の表3に示すピークを含み、且つその焼成された形態では少なくとも表4に示すピークを含む、粉末X線回折パターンを有する。
【表3】

【表4】
【0053】
当業者であれば理解しようが、パラメータ2シータの測定は人的誤差と機械的誤差の両方の影響を受け、それらが組み合わさって2シータのそれぞれの報告値に約±0.15°の不確実性が生じる可能性がある。面間隔dの値は、ブラッグの法則を使用して対応する面間隔dの値に変換する際の、対応する偏差±0.15度の2シータに基づいて決定される偏差を有している。ラインの相対強度I/Ioは、バックグラウンドを超えるピーク強度の最も強いラインの強度に対する比を表す。上記相対強度は、記号VS=非常に強い(>60)、S=強い(≧40且つ≦60)、M=中程度(≧20且つ<40)、及びW=弱い(<20)で表される。
【0054】
回折パターンのわずかな変動は、格子定数の変化に起因する特定の試料の骨格種のモル比の変動から生じる可能性がある。さらに、十分に小さい結晶はピークの形状及び強度に影響を及ぼし、ピークの有意なブロード化につながる。回折パターンのわずかな変動は、調製に使用される有機化合物の変化によっても生じる可能性がある。焼成によってもXRDパターンがわずかにシフトする可能性がある。これらの小さな摂動にもかかわらず、基本的な結晶格子構造は変化せずに維持される。
【0055】
パラフィン系炭化水素原料の水素異性化
上記フェロシリケートモレキュラーシーブは、炭化水素原料と比較して分岐炭化水素が増加した生成物を得るための、水素異性化条件で水素と共に触媒に接触させる、パラフィン系炭化水素原料の水素異性化における触媒としての使用に好適である。
【0056】
水素異性化条件としては、200℃~450℃(例えば、250℃~400℃)の温度、0.5~20MPa(例えば、1~15MPa)の圧力、0.1~10h-1(例えば、0.5~5h-1)の液空間速度、及び35.6~3560Nm/m(例えば、356~1781Nm/m)の水素循環速度が挙げられる。
【0057】
上記炭化水素原料がn-C8+炭化水素(例えば、n-C10+炭化水素、またはn-C15+炭化水素)を含む場合には、該炭化水素原料は特定の種類に限定されない。より詳細には、かかる炭化水素原料の例としては、灯油及びジェット燃料などの比較的軽質の留分;任意の種類の原油、常圧蒸留残油(常圧残油)、減圧塔残油、減圧蒸留残油(減圧残油)、循環油、合成原油(例えば、シェールオイル、タール油等)、軽油、減圧軽油、ろう下油、及びFT合成油に由来する燃料留分またはワックス留分などの高沸点原料;及びその他の重質油が挙げられる。
【0058】
いくつかの態様において、上記原料の少なくとも一部は、生体成分源に由来する原料に相当していてもよい。この議論において、生体成分原料(feed)または原料(feedstock)とは、植物性油脂、動物性油脂、魚油、熱分解油、及び微細藻脂質/油などの生物原料成分に由来する炭化水素原料を指す。
【実施例
【0059】
例証のための以下の実施例は非限定的であることを意図する。
【0060】
例1 フェロシリケートSSZ-70の合成
23mLのテフロン(登録商標)ライナーに、1.5628gの脱イオン水、0.1550gの50% NaOH水溶液、及び9.7013gの1,3-ジシクロヘキシルイミダゾリウム水酸化物(10%)を仕込んだ。この混合物を均一な溶液が得られるまで撹拌した。次いで、1.2gのヒュームドシリカをゆっくりと添加し、均一な溶液が得られるまで撹拌した。最後に、0.1597gのFe(NO・9HOを添加した。得られたゲルのモル比で表した組成は以下の通りである:
1 SiO2 : 0.01 Fe2O3: 0.1 NaOH : 0.2 Q-OH : 30 H2O
上記ライナーに蓋をし、23mLのParrオートクレーブ容器で密封した。次いで、このオートクレーブ容器を対流オーブン中で、転倒条件下、150℃において7日間加熱した。生成物をろ過により単離し、脱イオン水で洗浄し、次いでオーブン中、95℃で乾燥した。
【0061】
上記生成物は、粉末XRDによれば、純粋なSSZ-70であった。図1は合成されたままの生成物の粉末XRDパターンを示す。
【0062】
上記合成されたままの生成物のSiO/Feモル比は、誘導結合プラズマ原子発光分光法(ICP-AES)によって測定して89であった。
【0063】
熱重量分析(TGA)を、空気流下、試料を20℃~900℃の範囲、1℃/分の加熱速度で加熱することによって実施した。TGAでは約25%の質量減少が示された。
【0064】
合成したままのFe-SSZ-70の試料を、マッフル炉中で、空気流中、1℃/分で120℃まで温度を上昇させ、温度を120℃で2時間保持し、次いで空気中、1℃/分で550℃まで温度を上昇させることによって焼成した。温度を550℃で5時間保持した後、各試料を周囲温度まで放冷した。図2は、焼成された形態のFe-SSZ-70の粉末XRDパターンを示す。
【0065】
焼成した試料(H型)を窒素物理吸着で測定し、データをtプロット法を使用して解析した。この材料の微細孔容積は0.17cm/gであった。
【0066】
上記焼成材料(H型)に対してイソプロピルアミン昇温脱着(Ipam-TPD)を実施した。データの解析により、酸点密度は180μmol H/gであることが示された。
【0067】
上記合成したままの及び焼成したFe-SSZ-70材料の物理化学的特性を以下の表6にまとめる。
【0068】
例2 フェロシリケートSSZ-70の合成
23mLのテフロン(登録商標)ライナーに、0.1808gの50% NaOH水溶液及び9.9602gの1,3-ジイソブチルイミダゾリウム水酸化物(9%)を仕込んだ。この混合物を均一な溶液が得られるまで撹拌した。次いで、1.4gのヒュームドシリカをゆっくりと添加し、均一な溶液が得られるまで撹拌した。最後に、0.1854gのFe(NO・9HOを添加した。過剰な水が適度に蒸発するまで、窒素ガス流を上記混合物上に吹きつけた。得られたゲルのモル比で表した組成は以下の通りであった。
1 SiO2 : 0.01 Fe2O3: 0.1 NaOH : 0.2 Q-OH : 20 H2O
上記ライナーに蓋をし、23mLのParrオートクレーブ容器で密封した。次いで、このオートクレーブ容器を対流オーブン中で、転倒条件下、150℃において7日間加熱した。生成物をろ過により単離し、脱イオン水で洗浄し、次いでオーブン中、95℃で乾燥した。
【0069】
上記生成物は、粉末XRDによれば、純粋なSSZ-70であった。図3は合成されたままの生成物の粉末XRDパターンを示す。
【0070】
例3 フェロシリケートSSZ-70の合成
ポリエチレン製瓶に、5.0gのテトラエチルオルトシリケート(TEOS)、次いで26.41gの1,3-ジイソブチルイミダゾリウム水酸化物(9%)を仕込んだ。この混合物を終夜撹拌して、TEOSを加水分解させた。加水分解によって生成したエタノールが蒸発するまで、上記混合物上に窒素ガス流を吹きつけた。次いで、0.4997gのフッ化水素酸(48%)と混合物をスパチュラで均一化した。最後に、0.1977gのFe(NO・9HOを添加し、この混合物をスパチュラで均一化した。得られたゲルのモル比で表した組成は以下の通りであった。
1 SiO2 : 0.01 Fe2O3: 0.5 HF: 0.5 Q-OH : 5 H2O
上記ポリエチレン製瓶の内容物をテフロン(登録商標)ライナーに移した。このライナーに蓋をし、23mLのParrオートクレーブ容器で密閉した。次いで、このオートクレーブ容器を対流オーブン中で、静的条件下、150℃において19日間加熱した。生成物をろ過により単離し、脱イオン水で洗浄し、次いでオーブン中、95℃で乾燥した。
【0071】
上記生成物は、粉末XRDによれば、純粋なSSZ-70であった。図4は合成されたままの生成物の粉末XRDパターンを示す。
【0072】
例4~16 フェロシリケートSSZ-70の合成
例4~16のFe-SSZ-70材料を調製するために、以下の表5に概要を示すプロセス条件及びモル比を適用した。
【0073】
それぞれ得られた材料は、粉末XRDによれば、SSZ-70の骨格構造を有するゼオライト材料であった。
【表5】
【0074】
例17 アルミノシリケートSSZ-70の合成
アルミノシリケートSSZ-70(Al-SSZ-70)を、R.H. Archer et al. (Chem. Mater. 2010, 22, 2563-2572)によって報告された手順に従って調製した。23mLのテフロン(登録商標)ライナーに、1.6071gの水、0.1550gのNaOH(50%)、及び9.7011gの1,3-ジシクロヘキシルイミダゾリウム水酸化物(10%)を仕込んだ。この混合物を均一になるまで撹拌した。次いで、上記混合物に38.4mgのReheis F-2000水酸化アルミニウムを添加し、均一になるまで撹拌した。上記混合物に1.2gのヒュームドシリカを添加し、均一になるまで撹拌した。得られたゲルのモル比で表した組成は以下の通りであった。
1 SiO2 : 0.01 Al2O3: 0.1 NaOH: 0.2 Q-OH : 30 H2O
このライナーに蓋をし、23mLのParrオートクレーブ容器で密閉した。次いで、このオートクレーブ容器を対流オーブン中で、転倒条件下、160℃において120時間加熱した。生成物をろ過により単離し、脱イオン水で洗浄し、次いでオーブン中、95℃で乾燥した。
【0075】
合成されたままのAl-SSZ-70の試料を例1に記載したように焼成した。
【0076】
上記合成したままの及び焼成したAl-SSZ-70材料の物理化学的特性を以下の表6にまとめる。
【表6】
【0077】
例18 アンモニウム交換
例1及び17に従って調製した焼成メタロシリケートゼオライト(M-SSZ-70)を、上記ゼオライトを10:1の10% NHNO溶液:M-SSZ-70ゼオライトの質量比で10% NHNO溶液に添加することによって、アンモニウム型(NH /M-SSZ-70)にイオン交換した。この溶液を95℃で少なくとも2時間加熱した。この溶液をデカントし、このプロセスをさらに2回繰り返した。最後の交換後に、上記ゼオライトを導電率が50μS/cm未満になるまで脱イオン水で洗浄し、乾燥した。得られたNH /M-SSZ-70は、焼成によって水素型(H/M-SSZ-70)に変換することができる。
【0078】
例19 触媒調製
例18に従って調製したアンモニウム交換メタロシリケートSSZ-70ゼオライト(NH /M-SSZ-70)を、pH約10及びPd担持量0.5重量%で、硝酸パラジウム水溶液中でイオン交換した。交換されたゼオライトを導電率が50μS/cm未満になるまで脱イオン水で洗浄し、乾燥した。次いで、上記ゼオライトを空気中、482℃で3時間焼成した。
【0079】
例20 拘束指数
水素型メタロシリケートSSZ-70ゼオライト(H/M-SSZ-70)を4~5kpsiでペレット化し、破砕し、20~40メッシュに揃えた。次いで、0.47gのこの触媒(乾燥重量は600℃でのTGAにより測定)を3/8インチのステンレス鋼管中に充填し、ゼオライト床の両側に触媒的に不活性なアランダムを充填した。ATS(Applied Test Systems, Inc.)炉を使用して上記反応管を加熱した。ヘリウムを23mL/分及び大気圧で上記反応器に導入した。触媒を482℃で2時間脱水した。次いで、必要に応じて、反応器温度を予め選択した反応温度(例えば、454℃)まで下げた。次いで、ヘリウム流速を9.4mL/分に調整し、n-ヘキサン(n-C6)と3-メチルペンタン(3-MP)の等モル混合物原料を0.48mL/hの速度で反応器に導入した。原料の供給はISCOポンプを介して行った。原料導入の15分後に、生成物のガスクロマトグラフ(GC)へのオンラインサンプリングを開始した。代表的な結果を表7に示す。
【表7】
【0080】
表7の結果は、Al-SSZ-70が、Fe-SSZ-70よりも低温で大幅に高い転化率を示すことを明らかにしており、このことは、骨格の鉄に伴う酸点が骨格のアルミニウムに伴う酸点よりも弱いことを示唆している。拘束指数の値は、Al-SSZ-70とFe-SSZ-70の両方で本質的に同一であり、このことは、触媒活性の違いが骨格の何らかの違いに起因するものではないことを示している。
【0081】
例21 n-デカンの水素転化
0.5gの例19のPd担持試料を5000psiでペレット化し、20~40メッシュの範囲に揃え、長さ23インチ×外径1/4インチのステンレス鋼製反応管の中心部に充填し、触媒の上流に原料を予熱するためのアランダムを充填した。運転条件は以下の通り、すなわち、1200psigの全圧、1気圧及び25℃で測定して8.3mL/分のダウンフローの水素の速度、ならびに0.66mL/hのダウンフローのn-デカンの供給速度であった。まず、すべての材料を水素流中、約315℃で1時間還元した。生成物を30分毎にオンラインキャピラリーガスクロマトグラフィー(GC)によって分析した。GCの生データを自動データ収集/処理システムによって収集し、炭化水素転化率を生データから計算した。転化率は、反応して他の生成物(iso-C10を含む)を生成したn-デカンの量として定義される。収率はn-デカン以外の生成物のモル%として表され、産出生成物としてのiso-C10異性体を含む。図5(A)~(B)、図6(A)~(B)、及び図7(A)~(B)において、Fe-SSZ-70のn-デカンの水素転化の結果を、Al-SSZ-70の結果と比較する。
図1
図2
図3
図4
図5(A)】
図5(B)】
図6(A)】
図6(B)】
図7(A)】
図7(B)】
【国際調査報告】