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特表2024-517153免疫グロブリンが濃縮されたホエータンパク質含有生成物
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  • 特表-免疫グロブリンが濃縮されたホエータンパク質含有生成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-19
(54)【発明の名称】免疫グロブリンが濃縮されたホエータンパク質含有生成物
(51)【国際特許分類】
   A23C 21/00 20060101AFI20240412BHJP
   A23C 9/14 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
A23C21/00
A23C9/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565603
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-25
(86)【国際出願番号】 EP2022061383
(87)【国際公開番号】W WO2022229342
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】21171274.0
(32)【優先日】2021-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505310426
【氏名又は名称】フリースランドカンピーナ ネーデルランド ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー、ウェイウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ドートルモン、クリス テレーズ エミリアンヌ
(72)【発明者】
【氏名】クーネット、クリスティーン
(72)【発明者】
【氏名】ボンテ、アルフレッド ウィリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーヴァー、アルバート ブルーノ
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC01
4B001AC05
4B001AC07
4B001AC15
4B001AC46
4B001AC99
4B001BC04
4B001BC99
4B001EC05
(57)【要約】
免疫グロブリンが濃縮されたホエータンパク質含有生成物を生成するためのプロセスであって、(i)500~1000kDa、好ましくは500~800kDaの分子量カットオフ(MWCO)又は50~100nm、好ましくは50~80nmの孔径を有する膜を使用して、カゼイン低減乳をクロスフロー濾過し、それによりラクトース、塩、α-ラクトアルブミン及びβ-ラクトグロブリンが濃縮された透過液と、UF保持液とを得る工程と、(ii)前記UF保持液を混合モードクロマトグラフィーにかける工程であって、免疫グロブリンは、樹脂に付着し、且つその後、溶出されて、免疫グロブリンが濃縮された前記ホエータンパク質含有生成物を形成する、工程とを含むプロセス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリンが濃縮されたホエータンパク質含有生成物を生成するためのプロセスであって、
(i)500~1000kDa、好ましくは500~800kDaの分子量カットオフ(MWCO)又は50~100nm、好ましくは50~80nmの孔径を有する膜を使用して、カゼイン低減乳をクロスフロー濾過し、それによりラクトース、塩、α-ラクトアルブミン及びβ-ラクトグロブリンが濃縮された透過液と、UF保持液とを得る工程と、
(ii)前記UF保持液を混合モードクロマトグラフィーにかける工程であって、免疫グロブリンは、樹脂に付着し、且つその後、溶出されて、免疫グロブリンが濃縮された前記ホエータンパク質含有生成物を形成する、工程と
を含むプロセス。
【請求項2】
前記カゼイン低減乳は、酸ホエー、チーズホエー及びネイティブホエー、好ましくは酸ホエー及びチーズホエーから選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
工程(ii)で形成された前記ホエータンパク質含有生成物は、濃縮及び/又は乾燥工程にかけられる、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ホエータンパク質含有生成物は、総ホエータンパク質を基準として少なくとも40重量%、好ましくは50~80重量%のIgGを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
混合モードクロマトグラフィーにかけられた前記保持液は、6.0~8.0の範囲、好ましくは6.5~7.5の範囲のpHを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
クロスフロー濾過にかけられる前の前記カゼイン低減乳のIgG含量は、総タンパク質を基準として2.5~10重量%、好ましくは2.5~5.0重量%の範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
工程(i)で使用される前記膜は、スパイラル型膜である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に従って得ることができるホエータンパク質含有生成物。
【請求項9】
総ホエータンパク質を基準として少なくとも40重量%、好ましくは50~80重量%のIgGを含む、請求項8に記載のホエータンパク質含有生成物。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のホエータンパク質含有生成物を含む栄養組成物。
【請求項11】
乳児用調製乳、フォローアップ調製乳及びグローイングアップミルクから選択される、請求項10に記載の栄養組成物。
【請求項12】
請求項8又は9に記載のホエータンパク質含有生成物を少なくとも脂質源、炭水化物源、ビタミン及びミネラル並びに任意選択によりさらなる乳製品及び/又はタンパク質源と組み合わせることにより、請求項10又は11に記載の栄養組成物を生成するためのプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い免疫グロブリン含量を有するホエータンパク質含有生成物、その生成及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乳汁は、哺乳類の子孫にとって、他の供給源からの食物を消化することができるようになるまで唯一の栄養源となる。全ての泌乳動物の初乳及び乳汁は、微生物の病原体及び毒素に対する免疫学的防御を子孫にもたらし、乳腺を感染から保護する免疫グロブリン(Ig)を含有する。ウシ乳及びヒト乳中の免疫グロブリンの主要なクラスは、IgG、IgA及びIgMであり、これらは、構造及び生物学的活性が異なる。IgGは、IgG及びIgGにさらに細かく分けることができる。ヒト乳における主要なIgは、IgAである。ヒト母乳は、約85~90重量%のIgA、約2~3重量%のIgG及び約8~10重量%のIgMを含有する(J.A.Cakebread et al.,J.Agric.Food Chem.,63(2015)7311-7316)。ヒト母乳中の総Ig濃度は、ウシ乳のIg含量の約1.5倍である(J.A.van Neerven et al.,J.Allergy Clin.Immunol.,October 2012,853-858)。他方では、ウシ乳における主要なIgは、IgGである。成熟ウシ乳は、約80重量%のIgG(そのかなりの大部分がIgGである)、約10重量%のIgM及び約10%のIgAを含有する。ウシ初乳のIg含量は、成熟ウシ乳のIg含量よりもはるかに高く、初乳の総タンパク質含量の70~80%がIgであるが、成熟ウシ乳では総タンパク質含量の1~2重量%を提供するに過ぎない。
【0003】
乳児用調製乳は、少なくとも1種のホエータンパク質源、少なくとも1種の乳(カゼイン)タンパク質源、少なくとも1種の脂質源、少なくとも1種の炭水化物源、ビタミン及びミネラルを組み合わせることによって調製される。ウシ乳は、これらのタンパク質、炭水化物、脂質及びビタミンのために適用される供給源の1つである。ヒトの母乳に限りなく近い乳児用調製乳を生成することが引き続き望まれている。従って、その目標を達成するために、乳児用調製乳の活性免疫グロブリン含量を増加させることが望まれている。
【0004】
乳児用調製乳は、一般に、乳汁を少なくとも1種のホエータンパク質源、少なくとも1種の脂質源、少なくとも1種の炭水化物源並びにビタミン及びミネラルと組み合わせることによって調製される。
【0005】
ホエータンパク質源は、ホエータンパク質濃縮物(WPC)及び乳清タンパク質濃縮物(SPC)から選択されることが好ましい。いずれの製品も、レンネット処理(すなわちチーズ製造)、酸性化又は精密濾過により、脱脂乳を、カゼインに富む画分と、ホエータンパク質に富む画分とに分離した結果として生じるものである。免疫グロブリンは、カゼインミセル相ではなく、主に乳清/ホエー相に存在するため、ホエータンパク質に存在するものと考えられる。ホエータンパク質濃縮物(WPC)は、従来、酸ホエー又はチーズホエーを限外濾過及び/又は逆浸透並びに任意選択により脱塩することによって得られる。限外濾過により、水、ラクトース及び灰分の大部分が生成物から除去され、それによりホエータンパク質が濃縮される。逆浸透を使用して水を除去し、WPCをさらに濃縮することができる。乳清タンパク質濃縮物(SPC)も、濃縮されたホエータンパク質の生成物であり、ホエー画分の由来がWPCと異なる。SPC中のホエータンパク質は、酸ホエー又はチーズホエーではなく、脱脂乳の精密濾過から生じるものであり、これらは、一般に、ネイティブホエーと称される。前記精密濾過により、濃縮されたカゼイン濃縮画分と、透過画分としてホエータンパク質の大部分を含有する乳清画分とが生じる。従来、この透過画分は、次いで、ラクトース、灰分及び水を除去するために限外濾過及び/又は逆浸透にかけられる。これらの従来のプロセスで使用されるUF膜は、5~10kDaの範囲の分子量カットオフ(MWCO)を有する。その結果、水、ラクトース及びミネラルは、膜を通過するが、タンパク質は、保持液中で濃縮される。
【0006】
通常のWPC及びSPCの免疫グロブリン含量は、総ホエータンパク質を基準として6重量%未満である。この含量は、成熟ウシ乳中の含量に相当するものであり、これは、従来のWPCの調製がIg含量の顕著な濃縮をもたらさないことを意味する。
【0007】
欧州特許第0320152号明細書は、2つの異なるプロセスを用いて、免疫グロブリンが濃縮されたWPCを生成するための方法を開示している。第1のプロセスでは、500kDaの分子量カットオフ(MWCO)を有する膜を使用して、ホエーを限外濾過にかける。第2のプロセスでは、ホエーを最初に陰イオン交換クロマトグラフィーにかける。他のホエータンパク質とは対照的に、免疫グロブリンの大部分は、陰イオン交換樹脂に結合せず、従って溶出液となる。次いで、この溶出液は、500kDaのMWCOを有する膜を使用して限外濾過にかけられる。
【0008】
陰イオン交換樹脂を使用したWPCのIg濃縮物も国際公開第01/41584号パンフレットの実施例4に開示されている。
【0009】
これらの手順の問題点は、陰イオン交換樹脂が免疫グロブリンと結合せず、代わりにはるかに豊富な他のホエータンパク質と結合することである。これにより、クロマトグラフィープロセスの高い容量要求が生じる。
【0010】
H.J.Heidebrecht et al.,J.Chromatogr.A 1562(2018)59-68は、混合モードクロマトグラフィーを使用して、初乳ウシホエーからウシIgGを単離することを開示している。混合モードクロマトグラフィーは、疎水性相互作用と陽イオン交換との組み合わせに基づく。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
混合モードクロマトグラフィー樹脂は、大部分の他のホエータンパク質ではなく、免疫グロブリンと結合し、陰イオン交換クロマトグラフィーと比較してより低いクロマトグラフィー容量が必要とされることを意味する。しかしながら、クロマトグラフィー容量をさらに向上させ、且つ得られた免疫グロブリンの純度をさらに向上させることが依然として望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、クロマトグラフィー工程前に特定の膜を使用するクロスフロー濾過工程を含む本発明のプロセスによって満たされる。これにより、クロマトグラフィー樹脂の結合能、すなわちサイクル毎の樹脂体積当たりの免疫グロブリンの量をさらに増加させることが可能となる。事前の濾過工程により、樹脂に対する結合において免疫グロブリンと競合する可能性のあるホエータンパク質の数が減少し、高い結合能と、樹脂に対する免疫グロブリンの高い物質移動とがもたらされる。
【0013】
従って、本発明は、通常のホエータンパク質含有生成物(WPC及びSPCなど)よりも高い免疫グロブリン含量を有するホエータンパク質含有生成物の提供及び総タンパク質に対して少なくとも10倍、好ましくは少なくとも15倍、最も好ましくは少なくとも20倍の総Ig含量の濃縮をもたらすプロセスの提供に関する。本発明によるホエータンパク質含有生成物は、総タンパク質を基準として少なくとも40重量%、好ましくは50~80重量%のIgGを含有する。ホエータンパク質含有生成物の総タンパク質含量は、R.A.Brown et al.,Analytical Biochemistry,volume 180(1),July 1989,136-139に記載されているように、BCA法によって求められる。このIgG含量は、D.F.Elgar et al.,Journal of Chromatogeraphy A,Volume 878,2000,183-196)に記載されているように、RP-HPLCベースの方法を使用して求められる。
【0014】
ホエータンパク質含有生成物は、
(i)500~1000kDa、好ましくは500~800kDaの分子量カットオフ(MWCO)又は50~100nm、好ましくは50~80nmの孔径を有する膜を使用して、カゼイン低減乳をクロスフロー濾過し、それによりラクトース、塩、α-ラクトアルブミン及びβ-ラクトグロブリンが濃縮された透過液と、UF保持液とを得る工程と、
(ii)前記UF保持液を混合モードクロマトグラフィーにかける工程であって、免疫グロブリンは、樹脂に付着し、且つその後、溶出されて、免疫グロブリンが濃縮された前記ホエータンパク質含有生成物を形成する、工程と
を含むプロセスによって調製される。
【0015】
カゼイン低減乳という用語は、カゼイン沈殿(酸ホエーをもたらす)、チーズ製造プロセス(チーズホエーをもたらす)又はカゼインと乳清タンパク質とを分離する精密濾過(ネイティブホエーをもたらす)など、カゼインを低減するプロセスを施された任意の乳画分を指す。従って、カゼイン低減乳は、好ましくは、酸ホエー、チーズホエー又はネイティブホエーに関する。より好ましくは、それは、酸ホエー又はチーズホエーを指す。
【0016】
乳汁は、好ましくは、ウシ乳、より好ましくはウシ成熟乳である。ウシ初乳は、成熟ウシ乳よりもはるかに多くの免疫グロブリンを含有するが、免疫グロブリンが濃縮されたホエータンパク質含有生成物を生成するために、ウシ初乳由来のホエーを使用することは、選択肢ではない。第一に、初乳の組成(例えば、その高濃度のホエータンパク質)は、熱交換器及び蒸発器の表面上に沈着する傾向があり、それらを洗浄及びメンテナンスするという問題が引き起こされるようになる。加えて、初乳を使用することにより、生後数日以内に新生仔牛から必須栄養素を奪うため、倫理的な問題が引き起こされる。
【0017】
本発明の内容において、成熟ウシ乳は、初乳以外のウシ乳である。初乳は、分娩後の最初の3日間の乳汁である。初乳は、脂肪、ホエータンパク質(Igを含む)、ビタミン及びミネラルのレベルが高く、成熟ウシ乳よりもラクトース及びカゼインのレベルが低い。
【0018】
酸ホエーは、好ましくは、脱脂及び低温殺菌後の乳汁にカゼイン沈殿プロセスを施すことによって生成される。このカゼイン沈殿は、カゼインの凝固を誘導するために酸を添加することを含み、その結果、酸カゼイン画分(カゼインカード)と酸ホエー画分とが生じる。酸は、HCl、HSO及びクエン酸から選択されることが好ましい。例えば、1MのHSOを、40~45℃で十分に撹拌しながら、pHが4.3~4.6の範囲に達するまで脱脂乳に添加し得る。酸性化した乳汁は、カードの形成が完了するまで撹拌される。次いで、例えばバッグ濾過又は遠心分離により、カードをホエーから除去する。
【0019】
チーズホエーは、好ましくは、脱脂及び低温殺菌後の乳汁にチーズ製造工程を施すことによって生成される。チーズ製造工程は、好ましくは、凝固剤及び酸性化剤を添加することを含み、カゼインに富む画分(チーズ又はチーズ前駆体)とホエー画分とを得るために凝固させることができる。酸性化のために目標となるpHは、好ましくは、4.8~5.7、より好ましくは4.9~5.5の範囲である。適切な酸性化剤としては、ラクトースを乳酸に変換するスターターカルチャー(細菌性酸性化剤)、酸、酸味料(例えば、グルコノデルタラクトン又はGDLなど)及びこれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。最も一般的なスターターカルチャーとしては、好熱性スターター、典型的にはCSK、Chr.Hansen又はDuPontのスターターが挙げられる。Chr.Hansenによる好熱性スターターとしては、冷凍カルチャーであるSTI-02、STI-03、STI-04、STI-06並びに凍結乾燥カルチャーであるSTI-12、STI-13及びSTI-14が挙げられる。中温性スターターも使用され得る。好適な凝固剤は、当技術分野で公知であり、例えば仔牛レンネット、発酵生産レンネット及び微生物レンネットが挙げられる。仔牛レンネットの例としては、CSKにより製造されているKalase及びChr.Hansenにより製造されているNaturenが挙げられる。発酵生産レンネットの例としては、DSMによるFromase及びCSKによるMilaseが挙げられる。微生物レンネットの例は、Chr.HansenによるChy-Max及びDSMによるMaxirenである。他の凝固剤としては、ペプシン及び植物由来の様々なタンパク質分解酵素が挙げられる。
【0020】
カゼイン低減乳は、一般に、総タンパク質を基準として2.5~10重量%、好ましくは2.5~5.0重量%の範囲の総IgG含量を有する。カゼイン低減乳の総タンパク質含量は、総タンパク質含量を求め、この総タンパク質含量から非タンパク質窒素(NPN)及びカゼイン含量を差し引くことによって求められる。これらは、全て周知のケルダール法(変換係数6.38)によって求められる。カゼイン低減乳のIgG含量は、R.L.Valk-Weeber,T.Eshuis-de Ruiter,L.Dijkhuizen,and S.S.van Leeuwen,International Dairy Journal,Volume 110,November 2020,104814)で記載されるように、ELISA定量セットを使用して求めることができる。
【0021】
カゼイン低減乳を、500~1000kDa、好ましくは500~800kDaの分子量カットオフ(MWCO)又は50~100nm、好ましくは50~80nmの孔径を有する膜を使用するクロスフロー濾過にかけ、それによりラクトース、塩、α-ラクトアルブミン及びβ-ラクトグロブリンが濃縮された透過液と、総タンパク質に対して免疫グロブリンが濃縮された保持液とが得られる。この濾過工程は、クロマトグラフィー樹脂の結合能及び次工程の生成物の純度を向上させるために、流れの免疫グロブリン濃度及び純度を向上させる役割を果たす。
【0022】
適切な種類のクロスフロー濾過膜としては、スパイラル型膜、セラミック膜及び中空糸膜が挙げられる。その価格及び大規模プロセスへの適合性の観点から、スパイラル型膜が好ましい。膜は、ポリスルホン(PS)、(変性)ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、酢酸セルロース(CA)及びポリプロピレン(PP)などの様々なポリマーの種類から構成され得る。
【0023】
膜にわたる膜間圧力(TMP)は、0.25~1.5バール、より好ましくは0.25~1.0バール、最も好ましくは0.25~0.5バールの範囲であることが好ましい。クロスフロー濾過工程は、10~15℃又は50~55℃の範囲、好ましくは50~55℃の範囲の温度で行われる。クロスフローは、スパイラル型膜の場合、好ましくは0.1~0.3m/秒、より好ましくは0.2~0.3m/秒、最も好ましくは0.25~0.3m/秒の範囲であり、セラミック膜の場合、好ましくは5~7m/秒、最も好ましくは6~7m/秒の範囲であり、中空糸膜の場合、好ましくは1~3m/秒、より好ましくは2~3m/秒、最も好ましくは2.5~3m/秒の範囲である。
【0024】
免疫グロブリンの純度をさらに向上させるために、透析濾過を行うことが望ましい。カゼイン低減乳は、固定されたVCFで濃縮又は透析濾過され得る。
【0025】
保持液は、ほぼ中性のpHを有することが好ましい。すなわち、pHは、6.0~8.0、より好ましくは6.5~7.5の範囲であることが好ましい。pHが依然としてこの範囲内でない場合、酸又は塩基を添加することによって調整することができる。
【0026】
保持液は、次いで、特別な種類のクロマトグラフィーにかけられ、本発明者らは、本明細書において、これを混合モードクロマトグラフィー又はマルチモーダルクロマトグラフィーと称する。この種類のクロマトグラフィーは、疎水性相互作用とカチオン性相互作用とを組み合わせることを含み、疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(HCIC)とも呼ばれる。中性pHでは、タンパク質と樹脂の結合は、疎水性相互作用によって生じ、低pHでは、溶出メカニズムは、静電反発力に基づく。
【0027】
好ましい混合モード樹脂は、MEP HyperCel(商標)であり、これは、4-メルカプト-エチル-ピリジン(4-MEP)リガンドによって結合された多孔性セルロースマトリックスで構成される。pKaが4.8の4-MEPリガンドは、中性pHで無荷電であるため、免疫グロブリンの吸着は、主に疎水性相互作用によって達成される。他の適切な混合モード樹脂は、ヘキシルアミンリガンドを含むHEA Hypercel(商標);強イオン性スルホ基、弱イオン性カルボキシル基、疎水的に相互作用するフェニル基並びにヒドロキシル基及びアミン基に結合する水素を含有するEshmuno(登録商標)HCXクロマトグラフィー樹脂;疎水性陽イオン交換樹脂であるNuvia cPrime;並びにマルチモーダル弱陽イオン交換樹脂であるCapto(商標)MMCである。
【0028】
続いて、好ましくは2.0~7.0、より好ましくは2.0~6.0、さらにより好ましくは3.0~5.0、最も好ましくは4.0~5.0のpHを有する水溶液を使用して、樹脂から免疫グロブリンを溶出する。好ましくは、このpHに達するように緩衝溶液を使用する。任意の種類の緩衝液を使用し得る。
【0029】
得られた免疫グロブリン含有溶出液は、必要に応じて、さらなる処理工程にかけることができる。そのような処理工程の例は、脱塩、例えば限外濾過及び/又は透析濾過;濃縮、例えば蒸発濃縮又は凍結濃縮;並びに乾燥、例えば噴霧乾燥又は凍結乾燥である。
【0030】
本発明による、請求項1に記載のプロセスによって生成されるホエータンパク質含有生成物は、好ましくは、総タンパク質を基準として少なくとも40重量%、好ましくは50~80重量%のIgGを含む。前述のように、本生成物のタンパク質含量は、R.A.Brown et al.,Analytical Biochemistry,Volume 180(1),July 1989,136-139に記載されているように、BCA法によって求められ、IgG含量は、D.F.Elgar et al.,Journal of Chromatogeraphy A,Volume 878,2000,183-196に記載されているように、RP-HPLCをベースとした方法を使用して求められる。
【0031】
本発明のプロセスから得られるホエータンパク質含有生成物は、粉末製品を製造するためにさらに濃縮、脱塩及び/又は(噴霧)乾燥され得る。本発明によるホエータンパク質含有生成物は、栄養組成物、特に調製乳の生成における成分として使用するのに特に好適である。調製乳は、乳児用調製乳、フォローアップ調製乳及びグローイングアップ調製乳の群から選択される。従って、本発明は、栄養組成物、典型的には調製乳、特に乳児用調製乳、フォローアップ調製乳又はグローイングアップ調製乳など、小児のための栄養組成物にさらに関する。
【0032】
栄養組成物、特に調製乳は、WPCを少なくとも脂質源、炭水化物源、ビタミン及びミネラル並びに任意選択によりさらなる乳製品及びタンパク質源と組み合わせることによって調製され得る。脂質源は、調製乳に使用するのに好適な任意の脂質又は脂肪であり得る。好ましい脂肪源としては、乳脂肪、ベニバナ油、卵黄脂質、キャノーラ油、オリーブ油、ヤシ油、パーム核油、大豆油、魚油、パームオレイン、高オレイン酸ヒマワリ油、高オレイン酸ベニバナ油及び長鎖多価不飽和脂肪酸を含有する微生物発酵油が挙げられる。一実施形態では、無水乳脂肪が使用される。脂質源は、これらの油に由来する画分、例えばパームオレイン、中鎖トリグリセリド及び脂肪酸(例えば、アラキドン酸、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ドコサヘキサエン酸、リノレン酸、オレイン酸、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸、カプロン酸など)のエステルの形態でもあり得る。魚油又は微生物油などの予め形成されたアラキドン酸及びドコサヘキサエン酸を多量に含有する少量の油も添加され得る。この脂肪源は、好ましくは、n-6脂肪酸とn-3脂肪酸との比が約5:1~約15:1、例えば約8:1~約10:1である。特定の態様では、乳児用調製乳は、トリアシルグリセロールにエステル結合したパルミチン酸を含む油混合物を含み、例えば、トリアシルグリセロールのsn-2位でエステル結合したパルミチン酸は、総パルミチン酸の20重量%~60重量%の量であり、トリアシルグリセロールのsn-1/sn-3位でエステル結合したパルミチン酸は、総パルミチン酸の40重量%~80重量%の量である。調製乳中に存在することが好ましいビタミン及びミネラルの例は、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンC、ビタミンD、葉酸、イノシトール、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、コリン、カルシウム、リン、ヨウ素、鉄、マグネシウム、銅、亜鉛、マンガン、塩化物、カリウム、ナトリウム、セレン、クロム、モリブデン、タウリン及びL-カルニチンである。ミネラルは、通常、塩の形態で添加される。調製乳中に存在することが好ましい炭水化物の例は、ラクトース、難消化性オリゴ糖、例えばガラクトオリゴ糖(GOS)及び/又はフラクトオリゴ糖(FOS)並びにヒトミルクオリゴ糖(HMO)である。必要に応じて、栄養組成物は、乳化剤及び安定剤(例えば、大豆レシチン、モノグリセリド及びジグリセリドのクエン酸エステルなど)を含み得る。それは、ラクトフェリン、ヌクレオチド、ヌクレオシドなど、有益な効果を有し得る他の物質も含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施例1~3のクロマトグラフィー工程中のIgGの貫流を示す。これは、樹脂に結合せずにカラムを通過するIgGの百分率を示す。カラムを通過するIgGのレベルが低いほど、すなわち貫流が低いほど、結合能が高くなる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
比較実施例1
出発物質として、乾物で10重量%のチーズホエーを使用した。このpHを7.0に調節した。既知量(2.5l)の前記チーズホエーを、3.3ml/分に相当する1時間当たり4バッチ体積(BV/時間)の流速で混合モードクロマトグラフィーカラム(MEP-Hypercel、50mlの樹脂)に負荷した。負荷に続いてすすいだ後、吸着したタンパク質を、(1)pH6のMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸緩衝液0.050mol/l、(2)pH4.5の酢酸ナトリウム緩衝液0.05mol/l、及び(3)pH2.7のグリシン-HCl緩衝液0.1mol/lで段階的に溶出した。4BV/時間の流速で樹脂を酢酸緩衝液(50mM、pH=4.5)にさらすと、吸着されたタンパク質の大部分がカラムから放出された。BCA及びRP-HPLCを使用して、得られた画分(出発物質、貫流及び吸着)をタンパク質含量及びIgG含量について分析した。得られた結果を表1に示す。図1は、貫流曲線を示し、これは、樹脂に結合せずに通過したIgの濃度を示す。
【0035】
比較実施例2
クロマトグラフィーにかける前のチーズホエーを最初に乾物含量の6重量%となるまで希釈し、次いでTAMI 8kDaセラミック膜を使用してクロス濾過プロセスにかけたことを除き、比較実施例1を繰り返した。適用されたクロスフローは、15l/分であり、膜間圧力は、1.5バールであった。これにより、4倍の濃度の保持液が得られた。前記保持液のpHを7.0に調整し、次いで実施例1によるクロマトグラフィーにかけた。得られた結果を表1に示し、貫流曲線を図1に示す。
【0036】
実施例3
500kDのスパイラル型膜でクロスフロー濾過を実施したことを除き、比較実施例2を繰り返した。合計400kgのホエーが濃縮物側で循環した。80l/分のクロスフロー及び0.5バールのTMPで濾過を開始した。生成物を約33lの最終容量となるまで濃縮し、得られた濃縮物を1×33lの部分の透析濾過にかけた。
【0037】
前記保持液のpHを7.0に調整し、次いで実施例1によるクロマトグラフィーにかけた。得られた結果を表1に示し、貫流曲線を図1に示す。実施例3のプロセスは、実施例1及び2のプロセスと比較して、著しく減少したIgGの貫流、すなわちIgGの貫流の損失、IgGの高い純度及び高収率をもたらすことを示す。従って、8kDaの膜による限外濾過の濾過を行わない代わりに、本発明によるクロスフロー濾過をクロマトグラフィー工程前に行うことにより、結合能、IgGの純度及び収率が向上した。
【0038】
【表1】

図1
【国際調査報告】