(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-19
(54)【発明の名称】衝撃吸収手段を備えた背もたれを備えた車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20240412BHJP
B60N 2/68 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568084
(86)(22)【出願日】2022-04-26
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 FR2022050788
(87)【国際公開番号】W WO2022234213
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513181621
【氏名又は名称】エクスプリシート
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】バンジャマン・サアダ
(72)【発明者】
【氏名】トマ・シュヴリエ
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087CD03
3B087DB02
(57)【要約】
本発明は、車両の床に固定されることを意図されたシートであって、下部フレームを組み込んだシート部分と、衝撃の際にシートの横軸(AT)の周りに回転することによって傾くことができるようにするための少なくとも1つの締結具(21)によって下部フレームに固定された上部フレームを組み込んだ背もたれと、を備えたシートに関する。この締結具(21)は、以下のものを備えている:
- 横軸(AT)に平行な軸(A1)の第1のピボットリンク(P1)によって下部フレーム(8)に接続された第1の端部(27)と、横軸(AT)に平行な軸(A2)の第2のピボットリンク(P2)によって上部フレームに接続された第2の端部と、を有するリンクロッド(24)、
- 各ピボットリンク(P1、P2)が備えている、その回転振幅を制限する回転ブレーキ(33、37)及び/または停止システム、
- リンクロッド(24)の隣に位置し、下部フレームを上部フレームに接続する犠牲機械リンク(LF)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の床に固定されることを意図したシートであって、下部フレーム(8)を組み込んだシート部分(6)と、前記シートの横軸(AT)の周りに傾くことができるようにするための少なくとも1つの締結具(21)によって前記下部フレーム(8)に固定された上部フレーム(11)を組み込んだ背もたれ(9)と、を有しており、前記締結具が、
- リンクロッド(24;48)であって、前記横軸(AT)に平行な軸(A1)の第1のピボットリンク(P1)によって前記下部フレーム(8)に接続された第1の端部(27)と、前記横軸(AT)に平行な軸(A2)の第2のピボットリンク(P2)によって前記上部フレーム(11)に接続された第2の端部と、を有するリンクロッドと、
- 各々のピボットリンク(P1、P2)が備えている、その回転振幅を制限する回転ブレーキ(33、37、55)及び/または停止システム(38、43、64)と、
- 前記リンクロッド(24;48)の反対側に位置し、前記下部フレーム(8)を前記上部フレーム(11)に接続する犠牲機械リンク(LF)と、
を備えている、シート。
【請求項2】
前記上部フレーム(11)のチューブ(17)を取り囲む滑りリング(23)を有し、前記第2のピボットリンク(P2)が前記リンクロッド(24;48)の前記第2の端部(29)を前記滑りリング(23)に接続するように形成された、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
ブレーキ(33、37)を含むピボットリンク(P1、P2)が、ボス(26、28)にねじ込まれながらリンクロッド(24)の一端(27、29)を貫通するネジ(31、34)を有し、前記リンクロッド(24)の端部をしっかりと保持して、前記ボス(26)に対する前記リンクロッド(24)の前記端部の回転に対する反動中に摩擦トルクを発生させ、前記回転を制動するように形成された、請求項1に記載のシート。
【請求項4】
前記ネジ(31、34)の締め付けの程度によって前記ピボットリンク(P1、P2)のブレーキの制動の程度を調整することができるように形成された、請求項3に記載のシート。
【請求項5】
ブレーキ(55)を含むピボットリンク(P1、P2)が、少なくとも1つのネジによって互いに固定された2つの半リンクロッド(49、51)からなるリンクロッド(48)を有し、前記2つの半リンクロッド(49、51)をベアリング(57)にしっかりと保持し、該ベアリング(57)に対する前記リンクロッド(48)の回転に対する反動中に摩擦トルクを発生するように形成された、請求項1に記載のシート。
【請求項6】
前記リンクロッド(24;48)の端部(27、29)及び/または前記ボス(26、28)及び/または前記ネジ(31、48)及び/または前記ベアリング(57)の間に介在する少なくとも1つのプラスチック要素を備えているように形成された、請求項3または5に記載のシート。
【請求項7】
前記端部(27、29)に形成された少なくとも1つの穴(39、40、44、45)と、該穴(39、40、44、45)内に延在しているリテーナと、を有する停止システム(38、43)を含むピボットリンク(P1、P2)であって、前記穴は、前記リンクの前記軸(A1、A2)の周りに、前記リテーナ(41、42、46、47)の角度よりも大きな角度の延長部分を有している、ピボットリンクを備えている、請求項1に記載のシート。
【請求項8】
リテーナ(62)を支持する円筒形本体を有する支承面(59)を備えた停止システム(64)を含むピボットリンク(P2)であって、前記リテーナ(62)が前記円筒形本体から半径方向に突出している、ピボットリンク(P2)を備え、前記支承面(59)は、前記本体を取り囲む開口部を有するリンクロッドの端部(48)によって囲まれており、前記開口部には、前記リテーナ(62)を受け入れるノッチ(63)が設けられており、該ノッチ(63)は、前記軸(A2)の周りで、前記リテーナ(62)の角度よりも大きな角度の広がりを有しているように形成された、請求項1に記載のシート。
【請求項9】
前記下部フレーム(8)にしっかりと固定された固定スリーブ(22)を備え、前記上部フレーム(11)のチューブ(17)の一端と係合して前記犠牲機械リンク(LF)を形成している、請求項1に記載のシート。
【請求項10】
前記上部フレーム(11)の前記チューブ(17)の端部が、接着によって係合された前記スリーブ(22)に固定されている、請求項9に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート部分と背もたれとを備え、事故、衝突、更には緊急着陸の場合に、このシートのすぐ後ろに座って背もたれに当たる乗客の衝撃を確実に吸収して衝撃の強度を軽減する航空機のシート(aircraft seat)に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、航空機のシートは、事故や衝突、更には緊急着陸が発生した場合でも、輸送される乗客の一定レベルの安全が確保されていることを証明するための試験を受ける必要がある。
【0003】
図1に示す「2列試験(two row)」と呼ばれるこれらのテストの1つは、頭部3が、すぐ前のシート4の背もたれの上部に当たる衝撃の強さを評価するために、乗客1をシート2に座らせ、前方に突き出す強い水平加速度を加えることから構成されている。
【0004】
このようなテストは、衝撃中に頭部が受ける加速度を記録するためのデータ収集システムに接続されたセンサーを備えたダミー人形(dummy)を使って実行される。テストが成功するために維持される基準は、「頭部損傷基準(Head Injury Criterion)」と呼ばれ、衝撃を受けている間に頭部にかかる加速度の合計に基づく変数が所定の閾値を下回るかどうかである。
【0005】
解決策は、衝撃を吸収するために、頭部の衝撃中にシート4の背もたれが前方に傾いて、頭部の速度を段階的に減速することにより提供される。これは、シートに組み込まれたバネによって行われ、衝撃により背もたれが傾くと、背もたれの段階的な減速を保証している。
満たさなければならないもう1つの基準は、シートの背もたれを前方に傾けた後、簡単に、すなわち、航空機の脱出を妨げないように、適度な力を加えることによって、シートを通常の位置に戻すことができなければならないことである。一度直立させた背もたれが安定していること、すなわち、中程度の力が加わっても再び傾かないことも重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3580087号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/143855号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、背もたれを上げることを可能にしながら衝撃を確実に吸収するための既知の解決策は、かなりの重量と大きな全体寸法を有するため、シートへの組み込みには問題がある。
【0008】
本発明の目的は、シートへの組み込みの制限ができるだけ少ない背もたれによって衝撃を吸収するための解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このために、本発明の目的は、車両の床に固定されることを意図したシートであって、下部フレームを組み込んだシート部分と、シートの横軸の周りに傾くことができるようにするための少なくとも1つの締結具(fastener)によって下部フレームに固定された上部フレームを組み込んだ背もたれと、を有しており、この締結具は以下のものを備えている:
- リンクロッドであって、横軸に平行な軸の第1のピボットリンクによって下部フレームに接続された第1の端部と、横軸に平行な軸の第2のピボットリンクによって上部フレームに接続された第2の端部と、を有するリンクロッド、
- 各々のピボットリンクが備えている、その回転振幅(rotation amplitude)を制限する回転ブレーキ(rotation brake)及び/または停止システム(stop)、
- リンクロッドの反対側に位置し、下部フレームを上部フレームに接続する犠牲機械リンク(sacrificial mechanical link)。
【0010】
この解決策では、犠牲機械リンクが衝撃エネルギーの一部を吸収し、制動が衝撃エネルギーの別の部分を吸収するため、制動レベルの調整で締結具全体の吸収度(degree of absorption)を調整するのに十分である。
【0011】
本発明の別の目的は、上部フレームのチューブを取り囲む滑りリングを有し、第2のピボットリンクがリンクロッドの第2の端部をこの滑りリングに接続する、ように形成されたシートである。
【0012】
本発明の別の目的は、ブレーキを含むピボットリンクが、ボスにねじ込まれながらワッシャ及びリンクロッドの一端を貫通するネジを有し、リンクロッドの端部をしっかりと保持して、ボスに対するリンクロッドの端部の回転に対する反動中に摩擦トルクを発生させ、この回転を制動するように形成されたシートである。
【0013】
本発明の別の目的は、ネジの締め付けの程度によってピボットリンクのブレーキの制動の程度を調整することができるように形成されたシートである。
【0014】
本発明の別の目的は、ブレーキを含むピボットリンクが、少なくとも1つのネジによって互いに固定された2つの半リンクロッドからなるリンクロッドを有し、これら2つの半リンクロッドをベアリングにしっかりと保持し、ベアリングに対するリンクロッドの回転に対する反動中に摩擦トルクを発生するように形成されたシートである。
【0015】
本発明の別の目的は、リンクロッドの端部と、ワッシャ及び/またはボス及び/またはネジと、の間に介在する少なくとも1つのプラスチック要素を含む、ように形成されたシートである。
【0016】
本発明の別の目的は、リンクロッドの端部に形成された少なくとも1つの穴と、該穴内に延在しているリテーナと、を有する停止システムを含むピボットリンクであって、当該穴は、リンクの軸の周りに、リテーナの角度よりも大きな角度の延長部分を有している、ピボットリンクを備えたシートである。
【0017】
本発明の別の目的は、リテーナを支持する円筒形本体を有する支承面を備えた停止システムを含むピボットリンクであって、前記リテーナが円筒形本体から半径方向に突出している、ピボットリンクを備え、支承面は、本体を取り囲む開口部を有するリンクロッドの端部によって囲まれており、この開口部にはリテーナを受け入れるノッチが設けられており、このノッチは、リンクの軸の周りでリテーナの角度よりも大きな角度の広がりを有している、ように形成されたシートである。
【0018】
本発明の別の目的は、下部フレームにしっかりと固定された固定スリーブを備え、上部フレームのチューブの一端と係合してリンクロッドの反対側に位置する犠牲機械リンクを形成する固定スリーブを備えているシートである。
【0019】
本発明の別の目的は、上部フレームのチューブの端部が、接着によって係合されたスリーブに固定されている、ように形成されたシートである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】本発明による締結具によって互いに固定された上部フレーム部分と下部フレーム部分とを示す側面図である。
【
図5】シートバックの折り畳みの開始時に本発明による締結具によって固定された上部フレーム及び下部フレームの一部の側面図である。
【
図6】シートバックの折り畳みの終了時に本発明による締結具によって固定された上部フレーム及び下部フレームの一部の側面図である。
【
図7】シートバックを直立させ始めた際に、本発明による締結具によって固定された上部フレーム及び下部フレームの一部の側面図である。
【
図8】シートバックを直立させ終えた際に本発明による締結具によって固定された上部フレーム及び下部フレームの一部の側面図である。
【
図9】通常の状態における本発明による締結具の変形例の側面図である。
【
図10】背もたれの折り畳みの開始時の本発明による締結具の変形例の側面図である。
【
図11】本発明による締結具の別の変形例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図2において、航空機のシート5は、航空機の床7に固定され、背もたれ9を支持するシート部分6を有している。シート部分6は、厳密に言えばシート部分を形成する布片が固定されたフレームを形成するように接続要素によって組み立てられたチューブで形成された下部フレーム8と、足部10とを備えており、足部10によってこのシート部分6が床7にしっかりと固定されている。
【0022】
背もたれ9は、布片を支持する上部フレーム11を有し、この上部フレーム11は、1つまたは複数の締結具を介してシート部分の下部フレーム8によって支持されている。これらの締結具により、衝撃の際に背もたれ9がシートの横軸ATの周りで前方に傾くことが可能となり、この軸ATは背もたれ9の基部に沿った下部領域に位置している。
【0023】
図3に示されるように、参照符号12で示される側方後部接続要素は、シート部分6の下部フレームの側方チューブ13の後端を、足部10を形成するチューブ14の上端に接続している。シート5は、シートの反対側に、同じタイプの別の側方後部接続要素を備えている。
【0024】
この接続要素12は、これによって、シート部分6の下部フレームが背もたれ9の上部フレームを支持するものである。厳密に言えば、接続要素12は、背もたれ9の上部フレームの側方チューブ17によって延長される中間チューブ16の下端を支持している。
【0025】
接続要素12は、有利には、それぞれが対応するチューブの一端を受け入れることができる管状ベースプレート18、19を有する成形金属部品である。チューブ13、14、及び16は、複合材料、プラスチック、または金属からでも作製することができ、要素12の対応するベースプレートに係合された各々の端部は、例えば接着によってこのベースプレートにしっかりと固定されている。従って、要素12とこれらの管によって形成されるユニットは、機械的に剛性な全体構成を形成するアセンブリである。
【0026】
中間チューブ16の上端は、中間チューブ16の延長部におけるチューブ17の保持を確実にする取り付け締結具21を介して側方チューブ17の下端に接続されている。
【0027】
この締結具21は、
図4でより明らかになるが、背もたれ9の中間チューブ16の上端と側方チューブ17の下端とに係合する固定スリーブ22と、側方チューブを取り囲む滑りリング23と、固定スリーブ22と摺動リング23とに接続されたリンクロッド24とを有している。
【0028】
スリーブ22及びリング23はそれぞれ、略円筒形の形状を有し、その内径は、それらが取り囲む管の外径に対応している。
【0029】
スリーブ22は、リンクロッド24の第1の端部27が固定される外部ボス26を有し、同様に、滑りリング23は、リンクロッド24の第2の端部29が固定される外部ボス28を有している。
【0030】
より具体的には、ネジ31は、第1の端部27だけでなく、ワッシャ32またはキャップを通過し、ボス26にねじ込まれながら、ワッシャ32とこのボス26との間で、第1の端部27をしっかりと保持するようにしてブレーキ33を形成している。ネジ31は、スリーブ22の軸に対して半径方向軸A1に沿って延在しており、この軸A1は横方向ATに平行に配向されている。
【0031】
従って、リンクロッド24の第1の端部27は、軸A1のピボットリンクP1によってスリーブ22に接続されており、それに反動トルクを加えることによってこの回転を減速するために、スリーブに対するリンクロッドの回転に対抗するブレーキ33が組み込まれている。
【0032】
理解されるように、このピボットリンクP1に組み込まれたブレーキは、ディスクブレーキと同様の動作に従って、ワッシャ32及びボス26がしっかりと保持する端部27に及ぼす摩擦力によって引き起こされる。ブレーキ33による制動は、ネジ31の締め付けが強いほど強力となる。
【0033】
同様に、ネジ34はワッシャ36及びリンクロッド24の第2の端部29を通過し、別のブレーキ37を形成するために、端部29をしっかりと保持するように滑りリング23の外側ボス28にねじ込まれる。この別のネジは、軸A1に平行な軸A2に沿って延在している。リンクロッド24の第2の端部29は、従って、軸A2のピボットリンクP2によって滑りリング23に接続され、ブレーキ37を組み込んでいる。
【0034】
チューブ17の端部は、軸ATの周りで回転トルクが背もたれに加えられる場合に、スリーブ22の下端からチューブ17を取り外すことを可能にするために、その一部が短い長さに亘って、すなわち少なくともこのチューブ17の直径より短いスリーブ22内に係合されている。
【0035】
チューブ17の下端は、例えば強制的な取り付けまたは特定の接着剤で接着することによってスリーブ22に固定され、犠牲機械リンクLFを形成している。この犠牲リンクLFは、完全な機械リンク(すなわち、「埋め込み」タイプのリンク)であって、背もたれ9に閾値を超える軸ATの周りのトルクが加わった場合に破損する(give way)ようにされている。
【0036】
実際には、軸ATの周りで背もたれ9に加えられるトルクが閾値よりも大きい場合、
図5に概略的に示されているように、チューブ17とスリーブ22との剛性リンクが破損して、軸ATにほぼ対応する軸の周りの背もたれの回転が可能になる。
【0037】
この犠牲リンクLFは、横方向ATにおいてリンクロッド24の反対側、すなわち、垂直方向に関してリンクP1とP2との間に位置するレベルに位置し、その結果、このリンクLFが破損した際、背もたれとシート部分とは、リンクロッド24によって互いに固定されたままである。
【0038】
認定試験中に、シート5の後ろ、このシートの背もたれ9の上部に位置する乗客の頭部の衝撃により、軸ATの周りにしきい値よりも大きなトルクがかかり、犠牲リンクLFの破断を生じる。このリンクLFの破断により、衝撃を吸収するための第1の部分が確保され、それに続く背もたれ9の傾斜により、衝撃の強度を低下させるために頭部の減速を継続しながら、衝撃を吸収するための第2の部分が確保されている。
【0039】
図6から明らかなように、軸ATを中心とする背もたれ9の回転は、ピボットリンクP1及びP2の周りで、スリーブ22及びリング23に対してリンクロッド24の回転を生じさせる。これらのリンクP1、P2に設けられたブレーキ33、37により、背もたれ9の傾動が減速され、不動化するまで背もたれ9の上部で頭部の衝撃が吸収され続ける。
【0040】
理解されるように、ネジ31及び34を締めることにより、ブレーキ33及び37によって生成される制動レベルを調整することが可能になる。すなわち、衝撃吸収レベルを調整することが可能になる。衝撃吸収レベルは、例えば、長手方向に対してシートの向きを調整するか、その他のパラメータによって行われる認定テストの仕様によって決定され得る。
【0041】
図6に見られるように、衝撃の終わりでは、背もたれ9はほぼ水平に、つまりシート部分6と平行に折り畳まれる。その後、この背もたれ9は、反対方向に力を加えることで持ち上げることができ、
図7及び
図8に示すように、ほぼ垂直に直立させられる。
【0042】
この直立状態への移動は、例えば、シート5の乗客が衝撃後に再び座るときに背もたれ9に加わる力、または通路を解放するために、背もたれ9を直立させるために手で背もたれ9を掴む別の乗客の力に対応している。
【0043】
直立力(uprighting force)は、リンクP1及びP2に組み込まれたブレーキ33及び37に抗して背もたれ9に加えられ、これらのリンクを再位置決めできるようにしている。この動きの間、チューブ17の下端はスリーブ22の上端に当たっており、滑りリング23によって可能になるチューブ17のスライドのおかげで、スリーブ22内でチューブ17の端部を再係合すること無く直立運動を終了することができる。
【0044】
図8に示すように、直立が終了すると、リンクロッド24が中間チューブ16に対してわずかに斜めの位置を占めるため、チューブ17は中間チューブ16に対してわずかに後方にオフセットしながら、中間チューブ16に対して平行に延在している。リンクロッドが斜めになるのは、直立時にリンクP1にかかるトルクがリンクP2にかかるトルクよりも大きいことによりもたらされ、このリンクP1の回転は、動作全体を通じてリンクP2の回転よりも大きくて構わないためである。
【0045】
リング23内でのチューブ17のスライドのおかげで、このチューブ17の下端は、チューブ17をスリーブ22に再係合する必要無しに、背もたれ9が完全に直立した位置を占めることを可能にするような方法で、スリーブ22の上縁の後部を圧迫している。
【0046】
図8の直立状態では、リンクP1、P2のブレーキ33、37が背もたれ9の折り畳みに対抗し、背もたれ9が直立状態で安定し、乗員がシートから避難できるようにしている。
【0047】
有利なことに、
図9及び
図10に示すように、締結具21は、衝撃中の背もたれ9の折り畳みを、衝撃を吸収するのに十分な角度移動に制限する停止システムを備えているが、この角度移動はかなり制限されたままであり、傾けられた後、この背もたれは乗客の避難の邪魔にはならない。
【0048】
この場合、第1のピボットリンクP1は、リンクロッド24の第1の端部27に形成され、軸A1の両側に位置する2つの穴39及び40を有する停止システム38を備えており、スリーブ22には、2つのリテーナ41、42がこれも軸A1の両側に設けられている。
【0049】
これらの2つのリテーナ41及び42は、ここでは、軸A1に平行に延びて穴39及び40内にそれぞれ配置される円筒形のピンの形態を有している。穴及びリテーナによって形成される停止システム38は、リンクP1の可能な回転振幅を、
図9に示されている中立位置の一方の側ともう一方の側で10°程度の値に制限している。
【0050】
同様に、第2のピボットリンクP2には、軸A2の両側で、リンクロッド24の第2の端部29に形成された2つの他の穴44及び45を含む別の停止システム43が形成されており、リング23には、軸A2の両側で、この軸に平行に延び、それぞれ穴44、45内に2つのリテーナ46、47が配置されている。この別の停止システム43は、リンクP2の可動性を、
図9に示されている中立位置に関連して、一方の側ともう一方の側で約10°に制限している。
【0051】
これらの状況では、
図10に概略的に示されているように、衝撃時の背もたれの前傾動作は20°程度の値に制限されており、これは、
図9の中立位置に関しては、リンクP1の10°に、リンクP2の10°が加わった角度に相当している。逃げ角(clearance angle)は、背もたれの全体寸法またはその他のパラメータによる認定試験の仕様に従って調整され得る。
【0052】
理解されるように、
図9及び
図10に示されている締結具は、背もたれの傾斜振幅が制限されているという唯一の違いを除いて、
図4のものと同じように動作する。従って、
図9及び
図10のリンクの場合は、衝撃が発生すると、最初にリンクLFの破断が生じ、続いて、リンクP1及びP2のブレーキ33及び37によって制動され、停止システム38及び43によって角度が制限される背もたれの傾斜が生じる。
【0053】
背もたれが傾いているとき、これは
図10の状況に対応するが、わずかな傾きで傾いていても、それでも必要に応じて、
図7及び
図8の例と同様に、ブレーキ33及び37に抗して適度な力を加えることにより、背もたれを直立させることができる。
【0054】
図4から
図8の例では、2つのピボットリンクP1及びP2にブレーキが設けられ、
図9及び
図10の例では、更に、背もたれの傾きを制限する停止システムがそれぞれ装備されている。
【0055】
ただし、一方のリンクに停止システムが装備され、他方のリンクにブレーキが装備されていれば十分であるため、2つのリンクには必ずしもブレーキと停止システムが装備されている必要は無い。更に、ブレーキは、可動リンクロッドの平坦部に軸方向の力を作用させるのではなく、固定円筒部に径方向の力を作用させるタイプのものであっても良い。
【0056】
従って、
図11に示す実施形態では、第1のピボットリンクP1には半径方向の力を及ぼすブレーキのみが備えられ、第2のピボットリンクP2にはその角運動性を制限する停止システムのみを有している。
【0057】
この他の実施形態では、締結具21は、3つのネジ52、53、54によって互いに組み立てられた2つの半リンクロッド49、51から形成されたリンクロッド48を有している。
【0058】
参照符号56で示される下部スリーブは、中間チューブ16及び側方チューブ17の下部を受け入れるためのスリーブ22と同じタイプのものであるが、ボスの代わりに、リンクP1の軸A1に沿って延在している円筒形ベアリング57を有している。
【0059】
参照符号58で示される滑りリングは、側方チューブ17も囲んでいるが、ボスを含む代わりに、リンクP2の方向A2に延在している支承面59を有している。
【0060】
2つの半リンクロッド49及び51は、軸A1及び軸A2を含む平面に関して互いに対称であり、それぞれ、その下端に半円筒状の空洞を有し、その上端に別の略半円筒状の空洞を有している。
【0061】
図11の場合のように、2つの半リンクロッド49及び51が結合されると、それらが形成するリンクロッド48は、2つの半円筒形キャビティによって画定される下部開口部でベアリング57を取り囲み、ピボットリンクP1を形成している。この状況では、上部の略半円筒形の空洞は、支承面59を取り囲むリンクロッド48の上部開口の境界を画定し、リンクP2を形成している。
【0062】
2つの半リンクロッドは、リンクP1の両側に位置する2つのネジ52、53によって下端で互いに固定されており、軸A1に対して垂直な方向及びスリーブ56の軸に対して垂直な方向に延在している。それらはまた、それらの上端に位置する追加のネジ54によって互いに固定されており、この追加のネジはネジ52及び53と同じ向きを有している。
【0063】
図11に見られるように、2つの半リンクロッド49及び51は、所定の可撓性を有する2つの分岐を形成するように、それらの下端まで中央領域全体に亘って延在している間隔Eによって互いに分離されている。従って、ネジ52、53の締め付けにより、2つの半リンクロッドがベアリング57に及ぼす保持締付力を調整して、リンクロッド48が軸A1の周りでスリーブ56に対して回転するときに、リンクP1によって抗される摩擦トルクの強さを調整することができる。
【0064】
従って、リンクP1は、ベアリング57をしっかりと保持する半リンクロッド49及び51を互いに向けて圧縮するネジ52及び53の締め付けによって形成されるブレーキ55を有し、これはドラムブレーキと同様の構成に相当し、制動は、ネジ52、53の締め付けが重要であるのと同じくらい高くなる。
【0065】
リング58の外面から方向A2に突出している支承面59は、この本体の直径よりも大きい寸法のプレート61によって終端される円筒形本体を有しており、これにより、リンクロッド48の第2の端部と、円筒体の外面から半径方向に突出しているリテーナ62とを保持している。
【0066】
上部キャビティによって画定され、この支承面59を取り囲むリンクロッド48の上部開口は、リテーナ62を受け入れる半径方向ノッチ63を有する円筒形状を有している。このノッチは、軸A2の周りの角度延長部(angular extension)を有しており、この角度延長部は、この軸A2の周りのリテーナ62の角度延長部よりも大きい。
【0067】
リテーナ62とノッチ63とは、軸A2の周りのリンクロッド48の可能な回転範囲を、ノッチ63とリテーナ62の角度延長部の差に対応する値に制限する停止システム64を形成している。この延長部は、ここでは
図11の中立位置に対して、片側と反対側で10°程度である。
【0068】
一般に、説明してきたさまざまな実施形態に関して、リンクロッド、並びにワッシャ及びネジ、ボス、ベアリングまたは支承面は、金属部品であっても良く、これにより、ピボットリンクの摩擦、ひいてはその制動をより良く制御するために、プラスチックワッシャ及び/またはリングタイプの中間要素をこれらの部品の間に介在させるように設けることができる。
【0069】
これらの中間要素に使用される材料は、金属材料との摩擦の場合に比較的高い安定した摩擦係数を有している。この材料は、有利にはプラスチック材料であり、プラスチック樹脂、ナイロン、POM(polyoxymethylene)またはABS(acrylonitrile-butadiene-styrene)を組み込んだ複合材料であって良い。この材料はゴムまたはセラミック材料でも良い。
【0070】
理解されるように、本発明は、衝撃の際に後部乗員の衝撃を吸収することができる背もたれシステムを形成することを可能にし、吸収レベルは、締結具の1つまたは複数のネジの締め付けレベルを調整するだけで容易に調整することができる。
【0071】
従って、他のシートよりも衝撃強度が低い、斜めに設置された特定のシートに関する場合は、異なるサイズを有する締結具を提供する必要無しに、この特定の設置状況に適合させるために、締結具のネジの締め付けを減らすことができる。
【0072】
更に、図の例では、シートが有利にはこのタイプの締結具を2つ、すなわち両側に1つずつ有することを前提として、上部フレームを下部フレームに接続する締結具について説明する。これらの締結具は、背もたれとシート部分との接合部、図の例のように背もたれの下部に完全にまたは部分的に、および/またはシート部分の後部に配置されている。
【国際調査報告】