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特表2024-517320化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-19
(54)【発明の名称】化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0749 20120101AFI20240412BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
H01L31/06 460
H01L31/04 420
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569923
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 KR2022006130
(87)【国際公開番号】W WO2022240028
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】10-2021-0060607
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522267907
【氏名又は名称】メカロエナジー カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110434
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 勝
(72)【発明者】
【氏名】クォン ヘヨン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ヒョクギュ
(72)【発明者】
【氏名】イ ギュヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン テヨプ
(72)【発明者】
【氏名】イ スンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】オム テウ
【テーマコード(参考)】
5F251
【Fターム(参考)】
5F251AA10
5F251CB13
5F251CB14
5F251CB15
5F251CB24
5F251CB27
5F251CB29
5F251FA06
5F251GA03
5F251GA05
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、MoSex層を効果的に制御して高いエネルギー変換効率を示すCIGS光吸収層を提供する化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法に関する。本発明は、基板の上部面に下部電極を形成する下部電極形成工程と、前記下部電極形成工程を通して形成された下部電極の上部面に銅前駆体で銅薄膜を形成する銅薄膜形成工程と、前記銅薄膜形成工程を通して形成された銅薄膜層の上部面にインジウム前駆体でインジウム薄膜を形成するインジウム薄膜形成工程と、前記インジウム薄膜形成工程を通して形成されたインジウム薄膜層の上部面にガリウム前駆体でガリウム薄膜を形成するガリウム薄膜形成工程と、前記ガリウム薄膜形成工程を通してガリウム薄膜層が形成された積層体をセレン雰囲気で熱処理する熱処理工程と、を備える。前記インジウム薄膜形成工程と前記ガリウム薄膜形成工程は相互の順序が変わって進行されることもある。
上記した過程により製造される太陽電池用CIGS光吸収層は、MoSex層を効果的に制御して高いエネルギー変換効率を示す。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上部面に下部電極を形成する下部電極形成工程と、
前記下部電極形成工程を通して形成された下部電極の上部面に銅前駆体で銅薄膜を形成する銅薄膜形成工程と、
前記銅薄膜形成工程を通して形成された銅薄膜層の上部面にインジウム前駆体でインジウム薄膜を形成するインジウム薄膜形成工程と、
前記インジウム薄膜形成工程を通して形成されたインジウム薄膜層の上部面にガリウム前駆体でガリウム薄膜を形成するガリウム薄膜形成工程と、
前記ガリウム薄膜形成工程を通してガリウム薄膜層が形成された積層体をセレン雰囲気で熱処理する熱処理工程と、を備えることを特徴とする、
化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法。
【請求項2】
基板の上部面に下部電極を形成する下部電極形成工程と、
前記下部電極形成工程を通して形成された下部電極の上部面に銅前駆体で銅薄膜を形成する銅薄膜形成工程と、
前記銅薄膜形成工程を通して形成された銅薄膜層の上部面にガリウム前駆体でガリウム薄膜を形成するガリウム薄膜形成工程と、
前記ガリウム薄膜形成工程を通して形成されたガリウム薄膜層の上部面にインジウム前駆体でインジウム薄膜を形成するインジウム薄膜形成工程と、
前記インジウム薄膜形成工程を通してインジウム薄膜層が形成された積層体をセレン雰囲気で熱処理する熱処理工程と、を備えることを特徴とする、
化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法。
【請求項3】
前記銅前駆体は、ビス(アセチルアセトネート)銅、ビス(2,2,6,6-テトラメチルヘプタンジオネート)銅、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅 、(ビニルトリメチルシリル)(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅、(ビニルトリメチルシリル)(アセチルアセトネート)銅、(ビニルトリメチルシリル)(2,2,6,6-テトラメチルヘプタンジオネート)銅 、(ビニルトリエチルシリル)(アセチルアセトネート)銅、(ビニルトリエチルシリル)(2,2,6,6-テトラメチルヘプタンジオネート)銅および(ビニルトリエチルシリル)(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅からなるグループから選択された1つ以上でなされることを特徴とする、
請求項1または2に記載の化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法。
【請求項4】
前記インジウム前駆体は、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリイソプロピルインジウム、トリブチルインジウム、トリターシャリーブチルインジウム、トリメトキシインジウム、トリエトキシインジウム、トリイソプロポキシインジウム 、ジメチルイソプロポキシインジウム、ジエチルイソプロポキシインジウム、ジメチルエチルインジウム、ジエチルメチルインジウム、ジメチルイソプロピルインジウム、ジエチルイソプロピルインジウム、およびジメチルターシャリーブチルインジウムからなるグループから選択される1つ以上でなされることを特徴とする、
請求項1または2に記載の化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法。
【請求項5】
前記ガリウム前駆体は、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリイソプロピルガリウム、トリブチルガリウム、トリターシャリーブチルガリウム、トリメトキシガリウム、トリエトキシガリウム、トリイソプロポキシガリウム、ジメチルイソプロポキシガリウム、ジエチルイソプロポキシガリウム、ジメチルエチルガリウム、ジエチルメチルガリウム、ジメチルイソプロピルガリウム、ジエチルイソプロピルガリウム、およびジメチルターシャリーブチルガリウムからなるグループから選択される1つ以上でなされることを特徴とする、
請求項1または2に記載の化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法。
【請求項6】
前記銅前駆体、前記インジウム前駆体および前記ガリウム前駆体は、キャニスターの温度が-40℃~100℃であり、供給ラインの温度が常温~200℃の条件で供給されることを特徴とする、
請求項1または2に記載の化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光 吸収層の製造方法。
【請求項7】
前記銅薄膜、前記インジウム薄膜および前記ガリウム薄膜は、基板の温度が100℃~500℃の状態で形成されることを特徴とする、
請求項1または2に記載の化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法。
【請求項8】
前記銅薄膜、前記インジウム薄膜および前記ガリウム薄膜は、5mTorr~500Torrの圧力で形成されることを特徴とする、
請求項1または2に記載の化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法。
【請求項9】
前記セレン雰囲気は、セレン前駆体または金属セレンを気化して形成されることを特徴とする、
請求項1または2に記載の化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法。
【請求項10】
前記セレン前駆体は、ジメチルセレニド、ジエチルセレニド、ジイソプロピルセレニド、ジターシャリーブチルセレニド、ジメチルジセレニド、ジエチルジセレニド、ジイソプロピルジセレニド、ジターシャリーブチルジセレニド、ターシャリーブチルイソプロピルセレニド、およびターシャリーブチルセレノールからなるグループから選択された1つでなされることを特徴とする、
請求項9に記載の化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法。
【請求項11】
前記気化されたセレン前駆体または前記気化された金属セレンは、アルゴン、ヘリウムおよび窒素からなるグループから選択された1つ以上でなされる搬送ガスを介して供給されることを特徴とする、
請求項9に記載の化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理工程は、300℃~650℃の温度で行われることを特徴とする、
請求項1または2に記載の化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法に関し、より詳しくは、MoSex層を効果的に制御して高いエネルギー変換効率を示す化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境規制により炭素排出量を減らすために太陽光を電気エネルギーに変換し、設置場所に制約が少なく容易に電力を発電することができる太陽電池が注目を集めている。
【0003】
このような太陽電池は、単結晶または多結晶シリコンウェハを用いて作製されるが、一般に単結晶シリコンが光電変換効率が最も高いため、大規模発電システム分野などで広く使用されている。しかしながら、このような単結晶シリコンは製造工程が複雑であり、シリコン価格の動向に応じてセルやモジュールの価格が大幅に変化する欠点を有する。
【0004】
したがって、これを克服するための薄膜型太陽電池として、カルコゲナイド系化合物などの化合物半導体を用いる方法が開発されてきた。
【0005】
この中でカルコゲナイド系化合物であるCu(In1-xGax)Se2(以下、CIGSと称する)をCIGS光吸収層として用いた太陽電池が、高効率および低コストの候補と評価されているが、前記CIGSは化学気相成長法(chemical vapor deposition:CVD)により製造され、上記のような化学気相成長法で製造されたCIGS-適用された薄膜太陽電池は、原材料の消耗が少なく大面積の実装が容易で、比較的に装置が単純で大量生産に有利な利点を有している。
【0006】
従来、化学気相成長法でCIGS薄膜太陽電池を製造する過程は、背面電極であるモリブデンMo薄膜上に銅Cu、インジウムIn、ガリウムGaおよびセレンSeなどの4種類の前駆体を反応チャンバー内に同時に供給してCIGS光吸収層を作る方法が用いられたが、前記方法は、セレン前駆体が背面電極であるモリブデンと直接接触してモリブデン薄膜上に過度に厚いMoSex層が形成され、太陽電池の効率が低下する問題があった。
【0007】
前記問題を解消するために、背面電極であるモルブデン薄膜上に銅、ガリウムおよび(インジウム+セレン)前駆体を反応チャンバー内に順次に供給してCIGS光吸収層を作るか、またはモリブデン薄膜上に銅、(ガリウム+セレン)、(インジウム+セレン)の薄膜を順次に供給してCIGS薄膜を形成する方法が用いられており、前記方法はMoSex層の形成を抑制することができ、高いエネルギー変換効率も得られた。
【0008】
しかしながら、前記方法は、CIGS薄膜蒸着後の効率向上のために進行される熱処理過程で厚いMoSex層が形成されるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、MoSex層を効果的に制御して高いエネルギー変換効率を示すCIGS光吸収層を提供する化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、基板の上部面に下部電極を形成する下部電極形成工程、前記下部電極形成工程を通して形成された下部電極の上部面に銅前駆体で銅薄膜を形成する銅薄膜形成工程と、前記銅薄膜形成工程を通して形成された銅薄膜層の上部面にインジウム前駆体でインジウム薄膜を形成するインジウム薄膜形成工程と、前記インジウム薄膜形成工程を通して形成されたインジウム薄膜層の上部面にガリウム前駆体でガリウム薄膜を形成するガリウム薄膜形成工程と、前記ガリウム薄膜形成工程を通してガリウム薄膜層が形成された積層体をセレン雰囲気で熱処理する熱処理工程と、を備えることを特徴とする化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法を提供することにより達成される。
【0011】
また、本発明の目的は、基板の上部面に下部電極を形成する下部電極形成工程と、前記下部電極形成工程を通して形成された下部電極の上部面に銅前駆体で銅薄膜を形成する銅薄膜形成工程と、銅薄膜形成工程を通して形成された銅薄膜層の上部面にガリウム前駆体でガリウム薄膜を形成するガリウム薄膜形成工程と、前記ガリウム薄膜形成工程を通して形成されたガリウム薄膜層の上部面にインジウム前駆体でインジウム薄膜を形成するインジウム薄膜形成工程と、前記インジウム薄膜形成工程を通してインジウム薄膜層が形成された積層体をセレン雰囲気で熱処理する熱処理工程と、を備えることを特徴とする化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法を提供することによっても達成され得る。
【0012】
本発明の好ましい特徴によれば、前記銅前駆体は、ビス(アセチルアセトネート)銅、ビス(2,2,6,6-テトラメチルヘプタンジオネート)銅、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅 、(ビニルトリメチルシリル)(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅、(ビニルトリメチルシリル)(アセチルアセトネート)銅、(ビニルトリメチルシリル)(2,2,6,6-テトラメチルヘプタンジオネート)銅 、(ビニルトリエチルシリル)(アセチルアセトネート)銅、(ビニルトリエチルシリル)(2,2,6,6-テトラメチルヘプタンジオネート)銅および(ビニルトリエチルシリル)(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅からなるグループから選択された1つ以上でなされるものとする。
【0013】
さらに本発明の好ましい特徴によれば、前記インジウム前駆体は、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリイソプロピルインジウム、トリブチルインジウム、トリターシャリーブチルインジウム、トリメトキシインジウム、トリエトキシインジウム、トリイソプロポキシインジウム 、ジメチルイソプロポキシインジウム、ジエチルイソプロポキシインジウム、ジメチルエチルインジウム、ジエチルメチルインジウム、ジメチルイソプロピルインジウム、ジエチルイソプロピルインジウム、およびジメチルターシャリーブチルインジウムからなるグループから選択された1つ以上でなされるものとする。
【0014】
さらに本発明の好ましい特徴によれば、前記ガリウム前駆体は、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリイソプロピルガリウム、トリブチルガリウム、トリターシャリーブチルガリウム、トリメトキシガリウム、トリエトキシガリウム、トリイソプロポキシガリウム、ジメチルイソプロポキシガリウム、ジエチルイソプロポキシガリウム、ジメチルエチルガリウム、ジエチルメチルガリウム、ジメチルイソプロピルガリウム、ジエチルイソプロピルガリウム、およびジメチルターシャリーブチルガリウムからなるグループから選択される1つ以上でなされるものとする。
【0015】
本発明のさらなる好ましい特徴によれば、前記銅前駆体、前記インジウム前駆体および前記ガリウム前駆体は、キャニスターの温度が-40℃~100℃であり、供給ラインの温度が常温~200℃の条件で供給される。
【0016】
本発明のさらなる好ましい特徴によれば、前記銅薄膜、前記インジウム薄膜および前記ガリウム薄膜は、基板の温度が100℃~500℃の状態で形成される。
【0017】
本発明のさらなる好ましい特徴によれば、前記銅薄膜、前記インジウム薄膜および前記ガリウム薄膜は、5mTorr~500Torrの圧力で形成される。
【0018】
本発明のさらなる好ましい特徴によれば、前記セレン雰囲気は、セレン前駆体または金属セレンを気化して形成される。
【0019】
本発明のさらなる好ましい特徴によれば、前記セレン前駆体は、ジメチルセレニド、ジエチルセレニド、ジイソプロピルセレニド、ジターシャリーブチルセレニド、ジメチルジセレニド、ジエチルジセレニド、ジイソプロピルジセレニド、ジターシャリーブチルジセレニド、ターシャリーブチルイソプロピルセレニド、およびターシャリーブチルセレノールからなるグループから選択された1つでなされるものとする。
【0020】
本発明のさらなる好ましい特徴によれば、前記気化されたセレン前駆体または前記気化された金属セレンは、アルゴン、ヘリウムおよび窒素からなるグループから選択された1つ以上でなされる搬送ガスを介して供給される。
【0021】
本発明のさらなる好ましい特徴によれば、前記熱処理工程は300℃~650℃の温度で行われる。
【発明の効果】
【0022】
本発明による化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法は、MoSex層を効果的に制御して高いエネルギー変換効率を示すCIGS光吸収層を提供する優れた効果を表す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明による化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態による化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造過程を示す概略図である。
図3】本発明の一実施形態による化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造過程を示す概略図である。
図4】本発明の実施形態1により製造されたCIGS光吸収層の様子を走査型電子顕微鏡(FE-SEM)で撮影して示した写真である。
図5】本発明の実施形態1により製造されたCIGS光吸収層の深さプロファイル(depth profile)をAES(Auger electron spectroscopy)で測定して示すグラフである。
図6】本発明の実施形態1により製造されたCIGS光吸収層の電圧電流特性を測定して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の好ましい実施形態と各成分の物性を詳しく説明するが、これは本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が発明を容易に実施できるほど詳しく説明するためのものであり、これにより本発明の技術的思想およびカテゴリが限定されることを意味するものではない。
【0025】
本発明による化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法は、基板の上部面に下部電極を形成する下部電極形成工程S101と、前記下部電極形成工程S101を通して形成された下部電極の上部面に銅前駆体で銅薄膜を形成する銅薄膜形成工程S103と、前記銅薄膜形成工程S103を通して形成された銅薄膜層の上部面にインジウム前駆体でインジウム薄膜を形成するインジウム薄膜形成工程S105と、前記インジウム薄膜形成工程S105を通して形成されたインジウム薄膜層の上部面にガリウム前駆体でガリウム薄膜を形成するガリウム薄膜形成工程S107と、前記ガリウム薄膜形成工程S107を通してガリウム薄膜層が形成された積層体をセレン雰囲気で熱処理する熱処理工程S109と、を備える。
【0026】
前記下部電極形成工程S101は、基板の上部面に下部電極を形成する工程で、導電層としてモリブデン等のような金属を含むことができ、前記下部電極の厚さは特に限定されてはいないが、0.1μm~1μmであることが好ましく、0.4μm~0.6μmであることがさらに好ましい。
【0027】
なお、前記下部電極は1つの層からなることもあり、2層以上の複数層からなることもあるが、前記下部電極が2層以上の複数層からなる場合には、各々の層は同じ金属で形成されたり、互いに異なる金属で形成されたりすることができる。
【0028】
前記下部電極の形成は、スパッタリング、同時蒸発法、化学気相成長法、原子層蒸着法、イオンビーム蒸着法、スクリーン印刷、スプレーディップコーティング、テープキャスティングおよびインクジェットからなるグループから選択された1つ以上の公知の方法によって行われる。
【0029】
このとき、前記基板としてはガラス基板を用いることができ、セラミック基板、金属基板またはポリマー基板なども用いられるが、一例としてガラス基板としてはソーダライムガラス(sodalime)または高歪点ソーダガラス(high strained point soda glass)基板を使用することができ、金属基板としてはステンレス鋼またはチタンを含む基板を使用することができ、ポリマー基板としてはポリイミド(polyimide)基板を使用することができる。さらに、前記基板は透明であってもよく、リジッド(rigid)またはフレキシブル(flexible)であってもよい。
【0030】
前記銅薄膜形成工程S103は、前記下部電極形成工程S101を通して形成された下部電極の上部面に銅前駆体で銅薄膜を形成する工程であり、前記下部電極形成工程S101を通して形成された下部電極の上部面に銅前駆体を供給し、化学気相成長法で銅薄膜を蒸着させる過程からなる。
【0031】
化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)とは、半導体製造工程中の一段階で、金属前駆体をプラズマおよび熱を利用して金属薄膜を形成することを意味するが、化学気相成長法を用いる場合には蒸着物質の使用による高効率、大面積化容易性、簡単な装置構造、および安価なシステム価格の実現可能性などの利点を有する。一方、化学気相成長法を用いる場合、所望の工程に適した最適な前駆体を確保する必要があり、これを用いて所望の特性を得るための工程温度、圧力等において最適条件を設定する必要がある。化学気相成長法を遂行するためには、化学気相成長装置が設けられなければならない。
【0032】
化学気相成長装置は、内部を真空状態に維持するためのチャンバーと、前記チャンバーの一側に設けられ、基板をチャンバー内に搬入するためのゲートと、前記チャンバーの下部に設けられ、基板を装着して所望の工程(プロセス)温度まで加熱するための基板チャック(ヒーティングブロックおよびサセプタ)と、前記チャンバーの上部に設けられてプロセスガスを供給するためのシャワーヘッドと、を備えることが好ましい。また、前記シャワーヘッドは、外部に配置された多数個のキャニスターと連結されており、各キャニスターからプロセスガス(金属前駆体など)の供給が受けられる。
【0033】
前記基板は前記ゲートを通してチ前記チャンバー内に搬入され、前記基板チャックに固定される。基板が前記チャンバー内に搬入された後、前記ゲートを密閉し、前記チャンバー内部を減圧するために、チャンバーの内部圧力は5mTorr~500Torrであることが好ましい。
【0034】
前記下部電極上に銅前駆体を供給して化学気相成長法で銅薄膜を蒸着させると、銅薄膜の蒸着によってモリブデンを含む下部電極表面とセレン前駆体との直接接触を防止することができ、MoSex層の形成 を最小限に抑えることができる。
【0035】
このとき、前記銅前駆体を供給するためのキャニスター温度は、銅前駆体の蒸気圧を考慮して決定されるものであり、前記銅前駆体は、キャニスター温度を-40℃~100℃、好ましくは25℃~80℃、供給ライン温度を常温(25℃)~200℃に維持しながら供給されることが好ましいが、これに限定されない。前記銅前駆体を供給するとき、前記基板の温度は100℃~500℃を維持することが好ましく、アルゴンガス、ヘリウムガスおよび窒素ガスからなるグループから選択された1つ以上の搬送ガスを使用することが好ましい。
【0036】
なお、前記銅薄膜の蒸着厚さは、100nm~200nmであることが好ましいが、これに限定されない。このとき、銅薄膜の蒸着厚さが前記範囲から逸脱する場合、CIGS光吸収層の理想的なバンドギャップエネルギーの実現が難しくなる。
【0037】
このとき、前記銅前駆体は、ビス(アセチルアセトネート)銅、ビス(2,2,6,6-テトラメチルヘプタンジオネート)銅、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅 、(ビニルトリメチルシリル)(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅、(ビニルトリメチルシリル)(アセチルアセトネート)銅、(ビニルトリメチルシリル)(2,2,6,6-テトラメチルヘプタンジオネート)銅、(ビニルトリエチルシリル)(アセチルアセトネート)銅、(ビニルトリエチルシリル)(2,2,6,6-テトラメチルヘプタンジオネート)銅および(ビニルトリエチルシリル)(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅からなるグループから選択された1つ以上でなされることが好ましい。
【0038】
前記インジウム薄膜形成工程S105は、前記銅薄膜形成工程S103によって形成された銅薄膜層の上部面にインジウム前駆体でインジウム薄膜を形成する工程であり、前記銅薄膜形成工程S103を通して形成された銅薄膜層の上部面にインジウム前駆体を供給し、化学気相成長法でインジウム薄膜を蒸着させる過程からなる。
【0039】
前記化学気相成長法の条件や使用される装置および前記インジウム薄膜の厚さなどは、前記銅薄膜形成工程S103において銅薄膜を形成する条件と同一であるため、それに対する説明は省略する。
【0040】
このとき、前記インジウム前駆体は、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリイソプロピルインジウム、トリブチルインジウム、トリターシャリーブチルインジウム、トリメトキシインジウム、トリエトキシインジウム、トリイソプロポキシインジウム 、ジメチルイソプロポキシインジウム、ジエチルイソプロポキシインジウム、ジメチルエチルインジウム、ジエチルメチルインジウム、ジメチルイソプロピルインジウム、ジエチルイソプロピルインジウム、およびジメチルターシャリーブチルインジウムからなるグループから選択される1つ以上でなされることが好ましい。
【0041】
前記ガリウム薄膜形成工程S107は、前記インジウム薄膜形成工程S105を通して形成されたインジウム薄膜層の上部面にガリウム前駆体でガリウム薄膜を形成する工程であり、前記インジウム薄膜形成工程S105を通して形成されたインジウム薄膜層の上部面にガリウム前駆体を供給し、化学気相成長法でガリウム薄膜を蒸着させる過程からなる。
【0042】
前記化学気相成長法の条件や使用される装置および前記インジウム薄膜の厚さなどは、前記銅薄膜形成工程S103において銅薄膜を形成する条件と同一であるため、それに対する説明は省略する。
【0043】
このとき、前記ガリウム前駆体は、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリイソプロピルガリウム、トリブチルガリウム、トリターシャリーブチルガリウム、トリメトキシガリウム、トリエトキシガリウム、トリイソプロポキシガリウム、ジメチルイソプロポキシガリウム、 ジエチルイソプロポキシガリウム、ジメチルエチルガリウム、ジエチルメチルガリウム、ジメチルイソプロピルガリウム、ジエチルイソプロピルガリウムおよびジメチルターシャリーブチルガリウムからなる群から選択される1つ以上でなされることが好ましい。
【0044】
また、前記インジウム薄膜形成工程S105と前記ガリウム薄膜形成工程S107は、いずれかの工程が先に進行されても構わないが、すなわち、前記銅薄膜形成工程S103を通して形成された銅薄膜層の上部面にインジウム薄膜層とガリウム薄膜層の順に薄膜を形成したり、銅薄膜層の上部面にガリウム薄膜層とインジウム薄膜層の順に薄膜を形成したりすることができる。
【0045】
前記熱処理工程S109は、前記ガリウム薄膜形成工程S107を通してガリウム薄膜層が形成された積層体をセレン雰囲気で熱処理する工程であり、前記ガリウム薄膜形成工程S107を通してガリウム薄膜層が形成された積層体をセレン 雰囲気で300℃~650℃の温度で1分~50分間熱処理する過程からなる。
【0046】
上記のような熱処理温度および熱処理時間を最適化することにより、前記銅薄膜層、ガリウム薄膜層およびインジウム薄膜層に十分な熱処理が進行されてバルク状態のCIGS光吸収層を製造することができる。
【0047】
また、前記セレン雰囲気はセレン前駆体または金属セレンを気化して形成されるが、上記のように気化されたセレン前駆体または気化された金属セレンは、アルゴン、ヘリウムおよび窒素からなるグループから選択された1つ以上でなされる搬送ガスを介して供給される。
【0048】
このとき、前記セレン前駆体は、ジメチルセレニド、ジエチルセレニド、ジイソプロピルセレニド、ジターシャリーブチルセレニド、ジメチルジセレニド、ジエチルジセレニド、ジイソプロピルジセレニド、ジターシャリーブチルジセレニド、ターシャリーブチルイソプロピルセレニド、およびターシャリーブチルセレノールからなるグループから選択された1つ以上でなされることが好ましい。
【0049】
前記熱処理工程S109を経ると、背面電極であるモリブデン薄膜層とセレン前駆体とが容易に会えなくなり、厚いMoSex層の形成が抑制されるため、エネルギー変換効率に優れたCIGS光吸収層が提供される。
【0050】
前記熱処理工程S109によって製造されるCIGS光吸収層のバンドギャップエネルギーは、1.2eV~1.8eVであることが好ましいが、これに限定されない。1.2eV~1.8eVのバンドギャップエネルギーは、CIGS光吸収層内の銅、ガリウム、インジウム、セレンの組成の最適化を通じて調節されうることで、前記範囲を維持することにより、太陽電池の開放電圧(VOC)を大きく高めることができる。
【0051】
なお、前記CIGS光吸収層の空隙率は0.1%~10%であり得る。このとき、CIGS光吸収層の空隙率が前記範囲を外れると、電流漏れ経路(current leakage path)が生成され、これにより太陽電池の光電変換効率が低下する。
【0052】
前記CIGS光吸収層の平均グレインサイズは大きく形成されうる。このとき、CIGS光吸収層の平均グレインサイズが小さくなりすぎると、結晶粒界(grain boundary)が電流の流れを妨害して太陽電池の光電変換効率が低下する。
【0053】
前記CIGS光吸収層の最終的な厚さは、500nm~3000nmであることが好ましいが、これに限定されない。このとき、CIGS光吸収層の最終的な厚さが前記範囲を外れると、太陽電池の光電変換効率が低下する。
【0054】
以下では、本発明による化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法およびその製造方法で製造されたCIGS光吸収層の物性を実施形態を挙げて説明する。
【0055】
<実施形態1>
ソーダライムガラス(soda lime glass)基板上にモリブデン電極をDCスパッタリングでコーティングして約0.72μm厚さの下部電極層を形成し、前記下部電極層の上部面に銅前駆体(ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅)を 化学気相成長法(キャニスター温度40℃、供給ライン温度100℃、基板温度250℃、搬送ガスとしてアルゴン使用)で蒸着して0.15μm厚さの銅薄膜層を形成(図4の(a))し、前記銅薄膜層の上部面にインジウム前駆体(トリメチルインジウム)を化学気相成長法(キャニスター温度10℃、供給ライン温度100℃、基板温度250℃、搬送ガスとしてアルゴン使用)で蒸着して0.15μm厚さのインジウム薄膜層(図4の(b))を形成し、前記インジウム薄膜層の上部面にガリウム前駆体(トリエチルガリウム)を化学気相成長法(キャニスター温度10℃、供給ライン温度100℃、基板温度250℃、搬送ガスとしてアルゴン使用)で蒸着して0.15μm厚さのガリウム薄膜層を形成(図4の(c))し、ガリウム薄膜層が形成された積層体をセレン雰囲気(ジメチルセレニドを気化し、アルゴンガスを運搬ガスにして供給)において550℃の温度で30分間熱処理して1.27μm厚さのCIGS光吸収層を形成(図4の(d))した。
【0056】
前記実施形態1を通じて製造されたCIGS光吸収層の深さ(デプス)プロファイル(depth profile)をAES(Auger electron spectroscopy)で測定して、以下の図5に示した。
【0057】
具体的には、CIGS光吸収層の表面上に電子ビームを照射した後、放出されるオージェ(Auger)電子のエネルギーをリアルタイムで測定して表面を構成している元素の種類および含有量を分析し、AES(Auger Electron Spectroscopy)法を行った。
【0058】
以下の図5に示したように、実施形態1を通じて製造されたCIGS光吸収層の表面部位ではセレンの含有量が最も高くなっており、深さが深くなればなるほどモリブデンの含有量が高くなることが分かる。
【0059】
なお、前記実施形態1を通じて製造されたCIGS光吸収層の電圧電流特性を測定して以下の図6に示した。
【0060】
以下の図6に示したように、本発明の実施形態1を通じて製造されたCIGS光吸収層は、優れたエネルギー変換効率を示すことがわかる。
【0061】
したがって、本発明による化学気相成長法を用いた太陽電池用CIGS光吸収層の製造方法は、MoSex層を効果的に制御して高いエネルギー変換効率を示すCIGS光吸収層を提供する。
【0062】
以上で、本発明は実施形態を中心に詳しく説明されたが、本発明の技術思想範囲内で多様な変形および修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することは当然である。
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図4(c)】
図4(d)】
図5
図6
【国際調査報告】