(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-19
(54)【発明の名称】COVID-19ワクチンのための新規のタンパク質および核酸配列
(51)【国際特許分類】
C12N 15/50 20060101AFI20240412BHJP
C07K 14/165 20060101ALI20240412BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240412BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20240412BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240412BHJP
A61K 39/215 20060101ALI20240412BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240412BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240412BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240412BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
C12N15/50
C07K14/165 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
A61P31/14
A61K39/215
A61K35/76
A61K31/7105
A61K48/00
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570240
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 EP2022063214
(87)【国際公開番号】W WO2022238585
(87)【国際公開日】2022-11-17
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】315012541
【氏名又は名称】ドムペ・ファルマチェウティチ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】アレグレッティ,マルチェッロ
(72)【発明者】
【氏名】チミニ,アンナマリア
(72)【発明者】
【氏名】ベッカーリ,アンドレア・ロザリオ
(72)【発明者】
【氏名】タラリコ,カルミネ
(72)【発明者】
【氏名】マウリ,エリザベッタ・マリア・エステル
(72)【発明者】
【氏名】カッターニ,フランカ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA01
4C084MA17
4C084MA66
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4C084ZB331
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4C085AA03
4C085BA71
4C085BB11
4C085EE01
4C085FF11
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB33
4H045AA10
4H045BA10
4H045CA01
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、COVID-19の予防における使用のための、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、変異体もしくはそのフラグメント、またはそれらをコードするmRNAもしくはDNAに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型SARS-CoV-2タンパク質配列(配列番号1)のアミノ酸818、821、822、841、844、861、864および865に対応する位置におけるアミノ酸イソロイシンまたはロイシンの少なくとも1つが、アラニンで置き換えられている、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質。
【請求項2】
配列番号2、28、29、30または31のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質。
【請求項3】
請求項1または2に記載の突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の変異体であって、野生型SARS-CoV-2タンパク質配列(配列番号1)のアミノ酸818、821、822、841、844、861、864および865に対応する位置におけるアミノ酸イソロイシンまたはロイシンの少なくとも1つが、アラニンで置き換えられている、上記変異体。
【請求項4】
前記変異体が、以下の位置:
- 配列番号1のアミノ酸818に対応する位置から配列番号1のアミノ酸822に対応する位置までのアミノ酸配列、
- 配列番号1のアミノ酸841に対応する位置から配列番号1のアミノ酸844に対応する位置までのアミノ酸配列、および
- 配列番号1のアミノ酸861に対応する位置から配列番号1のアミノ酸配列865位までのアミノ酸配列
において、対応する突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の同じアミノ酸配列を有する、請求項3に記載の突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の変異体。
【請求項5】
前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の以下のアミノ酸:
- 配列番号1のアミノ酸892、899および942に対応する位置におけるアラニン、
- 配列番号1のアミノ酸817に対応する位置におけるフェニルアラニン、
- 配列番号1のアミノ酸986に対応する位置におけるリジン、および
- 配列番号1のアミノ酸987に対応する位置におけるバリン
のうち少なくとも2つが、プロリンで置き換えられている、請求項3または4に記載の変異体。
【請求項6】
配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54または配列番号55の配列を有する、請求項3~5のいずれか一項に記載の変異体。
【請求項7】
配列番号1のアミノ酸682、683および685に対応する位置におけるアミノ酸のアルギニンが、グルタミンで置き換えられている、請求項3~6のいずれか一項に記載の変異体。
【請求項8】
配列番号1のアミノ酸685に対応する位置におけるアミノ酸のアルギニンが、アラニンで置き換えられている、請求項3~6のいずれか一項に記載の変異体。
【請求項9】
以下に列挙した配列番号1のアミノ酸に対応する位置におけるアミノ酸改変をさらに含有する、請求項3~8のいずれか一項に記載の変異体:
T19R、EF156/157del、R158G、L452R、T478K、D614G、P681RおよびD950N、または
A67V、H69del、V70del、T95I、G142D、V143del、Y144del、Y145del、N211del、L212I、ins214EPE、G339D、S371L、S373P、S375F、K417N、N440K、G446S、S477N、T478K、E484A、Q493R、G496S、Q498R、N501Y、Y505H、T547K、D614G、H655Y、N679K、P681H、N764K、D796Y、N856K、Q954H、N969K、L981F。
【請求項10】
請求項1または2に記載の突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質または請求項3~9のいずれか一項に記載の変異体の免疫原性フラグメントであって、
- 配列番号1のアミノ酸818に対応する位置から配列番号1のアミノ酸822までに対応する位置のアミノ酸配列、
- 配列番号1のアミノ酸841に対応する位置から配列番号1のアミノ酸844までに対応する位置のアミノ酸配列、および
- 配列番号1のアミノ酸861から配列番号1の865位までに対応する位置のアミノ酸配列
から選択される、前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質または変異体の少なくとも1つの配列を含む、上記免疫原性フラグメント。
【請求項11】
- 配列番号2または配列番号31の818位から822位までのアミノ酸配列、
- 配列番号2、配列番号28、配列番号30または配列番号31の841位から844位までのアミノ酸配列、および
- 配列番号2、配列番号29、配列番号30または配列番号31の861位から865位までのアミノ酸配列
から選択される、前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質または変異体の少なくとも1つの配列を含有する、請求項10に記載の免疫原性フラグメント。
【請求項12】
以下のアミノ酸配列:
- 配列番号1の232位から246位までのアミノ酸配列、
- 配列番号1の233位から247位までのアミノ酸配列、
- 配列番号1の471位から503位までのアミノ酸配列、
- 配列番号1の604位から625位までのアミノ酸配列、
- 配列番号2または配列番号31の817位から833位までのアミノ酸配列、
- 配列番号1の891位から907位までのアミノ酸配列
- 配列番号1の897位から913位までのアミノ酸配列、
- 配列番号1の1164位から1191位までのアミノ酸配列、および
- 配列番号1の1182位から1209位までのアミノ酸配列
から選択される、少なくとも2つのオーバーラップしない配列をさらに含有する、請求項10または11に記載の免疫原性フラグメント。
【請求項13】
請求項1もしくは2に記載の突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、請求項3~9のいずれか一項に記載の変異体、または請求項10~12のいずれか一項に記載の免疫原性フラグメントの配列、および1つもしくはそれより多くの追加の配列を含むタンパク質。
【請求項14】
請求項1もしくは2に記載の突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、請求項3~9のいずれか一項に記載の変異体、請求項10~12のいずれか一項に記載の免疫原性フラグメント、または請求項13に記載のタンパク質をコードするmRNA。
【請求項15】
ウリジン残基が、ピリジン-4-オンリボヌクレオシド、5-アザウリジン、2-チオ-5-アザウリジン、2-チオウリジン、4-チオシュードウリジン、2-チオシュードウリジン、5-ヒドロキシウリジン、3-メチルウリジン、5-カルボキシメチルウリジン、1-カルボキシメチルシュードウリジン、5-プロピニルウリジン、1-プロピニルシュードウリジン、5-タウリノメチルウリジン、1-タウリノメチルシュードウリジン、5-タウリノメチル-2-チオウリジン、1-タウリノメチル-4-チオウリジン、5-メチル-ウリジン、1-メチルシュードウリジン、4-チオ-1-メチルシュードウリジン、2-チオ-1-メチルシュードウリジン、1-メチル-1-デアザシュードウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザシュードウリジン、ジヒドロウリジン、ジヒドロシュードウリジン、2-チオジヒドロウリジン、2-チオジヒドロシュードウリジン、2-メトキシウリジン、2-メトキシ-4-チオウリジン、4-メトキシ-シュードウリジン、4-メトキシ-2-チオシュードウリジンから選択される修飾ヌクレオシドで置き換えられた、好ましくは1-メチルシュードウリジンで置き換えられた配列を有する、請求項14に記載のmRNA。
【請求項16】
請求項1もしくは2に記載の突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、請求項3~9のいずれか一項に記載の変異体、請求項10~12のいずれか一項に記載の免疫原性フラグメント、または請求項13に記載のタンパク質をコードするDNA。
【請求項17】
請求項16に記載のDNAを含有するプラスミド。
【請求項18】
請求項16に記載のDNAを含有する、ウイルスベクター、好ましくは、アデノまたはポックスウイルスから選択されるウイルスベクター。
【請求項19】
対象におけるCOVID-19の予防において使用するための、請求項1もしくは2に記載の突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、請求項3~9のいずれか一項に記載の変異体、請求項10~12のいずれか一項に記載の免疫原性フラグメント、または請求項13に記載のタンパク質、請求項14もしくは15に記載のmRNA、請求項16に記載のDNA、請求項17に記載のプラスミド、または請求項18に記載のウイルスベクター。
【請求項20】
請求項1もしくは2に記載の突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、請求項3~9のいずれか一項に記載の変異体、請求項10~12のいずれか一項に記載の免疫原性フラグメント、または請求項13に記載のタンパク質、請求項14もしくは15に記載のmRNA、請求項16に記載のDNA、請求項17に記載のプラスミド、または請求項18に記載のウイルスベクターを含有するワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COVID-19ワクチンにおける使用に好適なタンパク質および核酸配列に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス(Covs)は、コロナウイルス科に属する一本鎖のエンベロープを有するRNAウイルスの大きいファミリーである。ヒトに感染できることが公知の限られた数のコロナウイルスは、これまでに、軽度の感染を引き起こす比較的害のない呼吸器のヒト病原体とみなされていた。しかしながら、ヒトにおいて重度の、時には死に至る気道感染を引き起こす2種のコロナウイルスサブタイプである、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)および中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)が出現した(Pereira, Hら、1989 Coronaviridae. Andrewes ‘Viruses of Vertebrates、第5版、42~57頁、Holmes, K.V.ら、Virology 1996、1:1075~1093)。2019年12月に、中国で不定形の肺炎の症例が発生し、後にその原因が新規のコロナウイルスであることが明らかになった。世界保健機関(WHO)は、このウイルスをSARS-CoV-2と名付け、関連疾患をCOVID-19と名付けた。
【0003】
このウイルスは急速に世界中に蔓延し、2020年3月11日にWHOはSARS-CoV-2感染をパンデミックとして宣言した。COVID-19に感染したほとんどの人は、軽度から中程度の呼吸器疾患(発熱、疲労、乾性咳および呼吸困難)を経験し、特殊な処置を必要とすることなく回復する。年配の人や、心臓血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、およびがんのような基礎疾患を有する人は、重篤な疾患を発症するする可能性がより高い。
【0004】
疫学的および臨床的な特徴ならびにSARS-CoV-2に感染した患者の転帰の分析から、症候的なCOVID-19を有する人の15%が、重度の肺炎などの重い疾患を有し、5%が生命を脅かす合併症を伴う深刻な疾患を経験することが示された。深刻な疾患としては、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、敗血症性ショック、心疾患、血栓塞栓性事象、例えば肺塞栓症および多臓器不全が挙げられる。
【0005】
また、深刻なCOVID-19疾患を発症する人において、まれな神経学的な合併症や精神医学的な合併症などの長期的な結果が合理的に予想されるという証拠も増えつつある。これらの例としては、卒中、譫妄、不安、うつ病、脳の損傷または炎症、および睡眠障害を挙げることができる。
【0006】
世界的な症例と死亡の劇的な増加ならびにそれらの社会的および経済的な結果のために、COVID-19パンデミックを制御し終結させることを助ける安全で有効なワクチンの開発に努力の焦点を当ててきた。
【0007】
様々なワクチンが開発中であり、一部がすでにCOVID-19予防のために承認された。
全てのCOVID-19ワクチンおよびワクチン候補は、様々な戦略および技術、すなわち、様々な異なるSARS-CoV-2抗原の宿主への導入に基づく、従来の不活化または生きた弱毒化ウイルスワクチン、アジュバントを伴う組換え生産されたSARS-CoV-2タンパク質に基づくワクチン、および宿主細胞でのインビボでの生産のためにウイルスタンパク質抗原をコードする遺伝子を送達する、mRNA、DNAまたはベクターワクチンなどの遺伝子ベースのワクチンを利用して、ウイルスタンパク質抗原に対する免疫応答を誘導することによって作用する。
【0008】
SARS-COV-2は、4つの構造タンパク質、すなわちスパイク(S)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、膜(M)タンパク質およびヌクレオカプシド(N)タンパク質によって特徴付けられる(Chen Yら、J Med Virol 2020、92:418~423)。
【0009】
現在、すでに承認されたかまたは開発中のほとんどのCOVID-19ワクチンは、標的抗原としてスパイクタンパク質を使用する。このタンパク質は、実際に、防御免疫応答を誘導することが可能な重要な抗原決定基とみなされる(Ouら、Nat Commun 2020;11:1620)。さらに、このタンパク質また、細胞侵入受容体であるアンジオテンシン変換酵素II(ACE2)を介した細胞へのウイルスの侵入に必須の分子でもある。それゆえに、Sタンパク質を標的化する抗体は、ウイルスが宿主細胞の内部に侵入し複製することを防ぐ。
【0010】
SARS-CoV-2 Sタンパク質は、配列番号1の1273アミノ酸の配列を有し、N末端に配置されたシグナルペプチド(アミノ酸1~13)、S1サブユニット(14~685残基)およびS2サブユニット(686~1273残基)からなる。S1サブユニットは、受容体結合ドメイン(RBD)を介したACE2への受容体結合を媒介し、S2サブユニットは、ウイルスと宿主細胞膜との融合に関与する(Letkoら、Nat Microbiol 2020、5: 562~569、Huangら、Acta Pharmacologica Sinica 2020、41:1141~1149)。融合プロセス中、S2サブユニットは、融合前のコンフォメーションから融合後の(ヘアピン)コンフォメーションに変化する。その後、表面のプロテアーゼがS2サブユニットを切断する(Silveriraら、Life Sci 2021、267:1128919)。
【0011】
EMAによってこれまで承認されたワクチンは、タンパク質抗原としてのスパイクタンパク質の宿主における生産を誘導する核酸に基づく:ファイザー(Pfizer)およびビオンテック(BioNTech)により開発されたmRNAベースコミナティ(Comirnaty)ワクチン、モデルナ(Moderna)により開発された、mRNAベースのモデルナ(Moderna)COVID-19ワクチンならびにオックスフォード大学およびアストラゼネカにより開発された、DNA、ウイルスベクターによって送達されるワクチンであるバキスゼブリア(Vaxzevria)、ならびにヤンセン・シラグ・インターナショナル(Janssen-Cilag International)により開発されたCOVID-19ワクチンヤンセン(Janssen)。
【0012】
これらのアプローチに基づく他のワクチンは開発中であり、同様に、活性成分として組換え生産されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質を使用するワクチン、例えばノババック(Novavax)によるワクチンNVX-CoV2373ならびにメディカゴ(Medicago)およびGSKによるCo-VLPも開発中である(Forniら、Cell Death & Differentiation 2021、28:626~639)。
【0013】
近年の証拠は、ウイルス感染の容易化とは独立して、細胞のシグナル伝達に対するSARS-CoV-2スパイクタンパク質の潜在的な活性を示唆している。
特定には、スパイクタンパク質は、マウスおよびヒトマクロファージにおいて、インビトロの炎症促進性応答を誘導でき(Shiratoら、Heliyon 2021、7(2)eO6187)、培養したヒト血管細胞における細胞シグナル伝達事象を活性化できることが示されている(Suzukiら、Vascular Pharmacology 2021、137:106823)。
【0014】
COVID-19ワクチンのほとんどが生物にスパイクタンパク質を導入するため、この観点は非常に有意義である。
これまで承認されたmRNAおよびDNAワクチンを筋肉内注射によって投与した後、スパイクタンパク質は、主として筋細胞、線維芽細胞、樹状細胞およびリンパ球で発現されるが、一部のワクチンでは、他の臓器でも所定の発現のレベルが検出されていることが報告されている(https://www.ema.europa.eu/において情報を得ることができる)。
【0015】
それゆえに、上記を考慮して、ワクチン接種によって生産されたスパイクタンパク質の体内の存在が、生物学的プロセスに干渉し、それにより短期および長期的に副作用を引き起こす可能性があるかどうかを調査する必要がある。
【0016】
核ホルモン受容体は、甲状腺やステロイドホルモン、ならびにレチノイン酸およびビタミンDなどの様々な他の脂溶性シグナルによって活性化されるリガンドによって制御される転写因子のファミリーである。
【0017】
ステロイドホルモン、特定にはアンドロゲンおよびエストロゲンは、二次性徴の発生および維持、代謝、血液の塩バランス、免疫および炎症性応答、ストレスに対する応答ならびに/またはニューロンの機能などの多様な生理学的機能を調節することが示されている。
【0018】
さらに、これらのホルモンのレベルまたは活性における不均衡は、多くの病理学的プロセスに関与している。
特定には、エストロゲンは、乳がん、子宮内膜がん、腎臓がん、および子宮がんの原因に関与しており(Okamotoら、Toxicology Letters 2020、318:99~103)、一方で前立腺がんの病因におけるアンドロゲンの重要な役割が実証された(Cold Spring Harb Perspect Med 2017;7:a030452)。
【0019】
さらに、外因性アンドロゲンおよびエストロゲンの投与は、プロトロンビン環境の生成およびより高いリスクの血栓形成現象に寄与する止血および線維素溶解経路の多くの局面の調節障害に関連していた(Roscaら、J. Clin. Med. 2021、10:147;Abou-Ismailら、Thrombosis Research 2020、192:40~51;Walkerら、JAMA Intern Med.2020、180(2):190~197)。
【0020】
これらの分子の活性は、核内受容体であるエストロゲンおよびアンドロゲン受容体によって媒介され、これらはホルモンによって活性化される転写因子として機能する。これらの受容体は、多様な活性に関与するが、著しい構造的および機能的な類似性を有する。これらは、リガンドの非存在下において、転写的に不活性な形態で標的細胞内に存在する。リガンドが活性化されると、それらは標的遺伝子のプロモーターに結合し、集合的にコレギュレーターとして公知の多数の相互作用タンパク質と転写複合体を形成し、ここでコレギュレーターは、転写活性を活性化するか(コアクチベーター(CoA))または不活性化するか(コリプレッサー(CoR))のいずれかによって、標的遺伝子発現の活性化または抑制を引き起こすことができる(Patelら、Pharm Ther 2018、186:1~24;Zellaら、Arch Biochem Biophys 2007、460(2):206~212)。核内受容体とコアクチベーターとの相互作用は、異なる核ホルモン受容体のコアクチベータータンパク質内に存在し共通するLxxLLモチーフ(式中、Lは、ロイシンであり、xは、任意のアミノ酸である)によって媒介される。これらのモチーフは、これらのタンパク質の受容体への結合およびその転写活性の強化に必要であり、十分である(Patelら、Pharm Ther 2018、186:1~24;Zellaら、Arch Biochem Biophys 2007、460(2):206~212;Changら、Trends Pharm Sci2005、26(5):225~228)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Pereira, Hら、1989 Coronaviridae. Andrewes ‘Viruses of Vertebrates、第5版、42~57頁、
【非特許文献2】Holmes, K.V.ら、Virology 1996、1:1075~1093
【非特許文献3】Chen Yら、J Med Virol 2020、92:418~423
【非特許文献4】Ouら、Nat Commun 2020;11:1620
【非特許文献5】Letkoら、Nat Microbiol 2020、5: 562~569、
【非特許文献6】Huangら、Acta Pharmacologica Sinica 2020、41:1141~1149
【非特許文献7】Silveriraら、Life Sci 2021、267:1128919
【非特許文献8】Forniら、Cell Death & Differentiation 2021、28:626~639
【非特許文献9】Suzukiら、Vascular Pharmacology 2021、137:106823
【非特許文献10】Shiratoら、Heliyon 2021、7(2)eO6187
【非特許文献11】https://www.ema.europa.eu/
【非特許文献12】Okamotoら、Toxicology Letters 2020、318:99~103
【非特許文献13】Cold Spring Harb Perspect Med 2017;7:a030452
【非特許文献14】Roscaら、J. Clin. Med. 2021、10:147
【非特許文献15】Abou-Ismailら、Thrombosis Research 2020、192:40~51
【非特許文献16】Walkerら、JAMA Intern Med.2020、180(2):190~197
【非特許文献17】Patelら、Pharm Ther 2018、186:1~24
【非特許文献18】Zellaら、Arch Biochem Biophys 2007、460(2):206~212
【非特許文献19】Changら、Trends Pharm Sci2005、26(5):225~228
【発明の概要】
【0022】
驚くべきことに、本発明者らはここで、SARS-CoV-2スパイクタンパク質が、NCOA1結合ドメインに結合して、エストロゲンおよびアンドロゲン受容体の転写活性を活性化することができる、核内コアクチベーター1(NCOA1)のものと相同な多数のLxxLL様モチーフを含有することを見出した。さらに、異なる核内受容体にわたるNCOA1結合ドメインの配列相同性が、ビタミンDや甲状腺ホルモン受容体などの他の核内受容体により誘導された転写も活性化するスパイクタンパク質の潜在的な能力を裏付ける。
【0023】
この発見から、ワクチンで生産されたかまたはワクチンに含有されるスパイクタンパク質は、核内受容体、特定にはエストロゲンおよびアンドロゲン受容体の活性に干渉する可能性があること、さらに、これらの受容体によって媒介される生理学的および病理学的な活性の間に不均衡を生じさせ、それにより不要な重篤な副作用を引き起こすことが導き出される。
【0024】
本発明者らは、エストロゲンおよびアンドロゲン受容体のNCOA1結合ドメインへのタンパク質の結合活性を破壊する、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のLxxLLモチーフにおける突然変異を同定した。
【0025】
したがってこれらの配列は、COVID-19に対するより安全なワクチンの開発に有用である。
したがって、本発明の目的は、野生型SARS-Cov-2タンパク質配列(配列番号1)のアミノ酸818、821、822、841、844、861、864および865に対応する位置におけるアミノ酸イソロイシンまたはロイシンの少なくとも1つが、アラニンで置き換えられている、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体である。
【0026】
本発明のさらなる目的は、配列番号2、配列番号28、配列番号29、配列番号30または配列番号31のアミノ酸配列を有する、本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質である。
【0027】
本発明のさらなる目的は、本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質または変異体の免疫原性フラグメントである。
本発明のさらなる目的は、本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、変異体または免疫原性フラグメントをコードするmRNAである。
【0028】
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19の予防での使用のための、前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、変異体、フラグメント、mRNAまたはDNAである。
【0029】
本発明のさらなる目的は、前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、変異体、またはフラグメント、mRNAもしくはDNAを含むワクチンである。
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19の予防での使用のための、前記ワクチンである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、核内受容体コアクチベーターと複合体化したエストロゲン受容体(ER)を示す。 複合体全体は、グラフィックで報告される;ER単量体は、灰色の表面で示され、一方でNCOAセグメントは、黒色のグラフィックとラインで報告される。
【
図2】
図2は、ER1およびER2の最も重要な相互作用のネットワークを示す。最も信頼できる相互作用タンパク質のなかでも、核内受容体コアクチベーター(Nuclear receptor Coactivator:NCOA)は、核内受容体と直接結合し、転写活性を刺激する。
【
図3】
図3は、スパイク中のLDX領域と他のLDXコファクター-受容体ドメインとの配列アライメントを示す。
【
図4】
図4は、スパイク-ERブラインドドッキングの3Dの最良のドッキング仮説を示す。タンパク質は、グラフィックで報告される。ER二量体は、白色のグラフィックで示され、一方でスパイクタンパク質は、黒色の表面で報告される。
【
図5】
図5は、スパイク-ERモチーフ配向ドッキングの3Dの最良のドッキング仮説を示す。タンパク質は、グラフィックで報告される。ER二量体は、白色のグラフィックで示され、一方でスパイクタンパク質は、黒色の表面で報告される。
【
図6】
図6は、実施例2に記載した通りに測定された、単独またはラロキシフェンの存在下のいずれかでの、媒体(CTR)、エストラジオール(ESTR)、野生型スパイクタンパク質(スパイク)または2つの組合せでのMCF-7乳がん細胞の処理により誘導された、対照のパーセンテージとして表される細胞増殖を示す。
【
図7】
図7は、実施例2に記載した通りに測定された、媒体(CTRL)、ペプチド2、5もしくは7、野生型スパイクタンパク質、野生型スパイクタンパク質とラロキシフェン、またはラロキシフェン単独でのMCF-7乳がん細胞の処理により誘導された、対照のパーセンテージとして表される細胞増殖を示す。
【
図8】
図8は、実施例2に記載されたようにペプチド2、5もしくは7または野生型スパイクタンパク質でのLNCap前立腺がん細胞の処理により誘導された、対照のパーセンテージとして表される細胞増殖を示す。
【
図9】
図9は、実施例3に記載されたように、対照(CTR)、エストロゲン(ESTR)、野生型スパイクタンパク質(スパイク)またはラロキシフェンおよび野生型スパイクタンパク質(RAL+スパイク)での処理の後に、プロテオームプロファイラーヒトXLサイトカインアレイキット(Proteome Profiler Human XL Cytokine Array Kit)(TPA/LPSで分化させ、24時間処理したTHP1細胞株)を用いて実行されたプロテオーム分析の結果を示す。
【
図10】
図10は、RAW264.7マクロファージから分化させ、実施例4bに記載されたように、1nMのエストラジオールおよび10ng/mLのスパイク野生型、または突然変異SP5、SP7またはSP5+SP7で処理した破骨細胞における、酵素結合免疫吸着測定法(U/L)による酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)活性の決定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、実験の章で詳細に説明されるように、SARS-CoV-2スパイクタンパク質が、核内受容体の、特定にはエストロゲンおよびアンドロゲン受容体の結合および活性化を媒介することができる3つのLxxLL様モチーフを露出させているという驚くべき発見に基づく。実施例に示されるように、これらのモチーフのそれぞれは、エストロゲンまたはアンドロゲン受容体により誘導されたがん細胞の増殖を活性化することができる。
【0032】
この発見は、上記モチーフの1つまたはそれより多くを含有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質もしくは変異体またはそのフラグメントの宿主への投与またはそれにおける生産に基づくCOVID-19ワクチンの潜在的な副作用に関連する懸念をもたらす。
【0033】
発明者らは、同定された3つのモチーフのうち1つまたはそれより多くに対応する特定のアミノ酸突然変異を導入することは、スパイクタンパク質の受容体と相互作用するスパイクタンパク質の能力を破壊しながらも、SARS-CoV-2に対する抗原特異的な免疫応答の効率を改変しないことを見出した。
【0034】
それゆえに、これらの突然変異を含む配列を有する、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の新しい、または商業的に入手可能なスパイクベースのCOVID-19ワクチン、またはそれをコードするmRNAもしくはDNA配列における使用は、野生型SARS-CoV-2スパイクタンパク質の使用と比較して、より高い安全性プロファイルを有する同等に有効な免疫応答を維持することを可能にする。
【0035】
本発明は、COVID-19の予防のためのワクチンにおける活性成分として使用するのに好適な、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、変異体およびそのフラグメント、加えて、それらをコードするmRNAおよびDNAを対象とする。
【0036】
したがって、本発明の第1の目的は、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体であって、野生型SARS-Cov-2タンパク質配列(UniProtKB-PODTC2、配列番号1)のアミノ酸818、821、822、841、844、861、864および865に対応する位置におけるアミノ酸イソロイシンまたはロイシンの少なくとも1つが、アラニンで置き換えられている、上記SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体である。
【0037】
好ましくは、本発明による前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体において、野生型SARS-Cov-2タンパク質配列(配列番号1)のアミノ酸818、821、822、841、861、864および865に対応する位置におけるアミノ酸イソロイシンまたはロイシンの少なくとも1つが、アラニンで置き換えられている。
【0038】
好ましくは、本発明による前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体において、少なくとも、配列番号1のアミノ酸818、821および822、またはアミノ酸841、またはアミノ酸861、864および865が、アラニンで置き換えられている。
【0039】
好ましくは、本発明による前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体において、少なくとも、配列番号1のアミノ酸818、821および822、またはアミノ酸841および844、またはアミノ酸861、864および865が、アラニンで置き換えられている。
【0040】
一実施態様によれば、本発明による前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体において、野生型SARS-Cov-2タンパク質配列(配列番号1)のアミノ酸818、821、822、841、861、864および865に対応する位置におけるイソロイシンまたはロイシンが、アラニンで置き換えられている。
【0041】
この実施態様によれば、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列を有する。
別の好ましい実施態様によれば、本発明による前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体において、野生型SARS-CoV-2タンパク質配列(配列番号1)のアミノ酸841および844に対応する位置におけるアミノ酸イソロイシンまたはロイシンが、アラニンで置き換えられている。この実施態様によれば、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質は、配列番号28のアミノ酸配列を有する。
【0042】
別の好ましい実施態様によれば、本発明による前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体において、野生型SARS-CoV-2タンパク質配列(配列番号1)のアミノ酸861、864および865に対応する位置におけるアミノ酸イソロイシンまたはロイシンが、アラニンで置き換えられている。この実施態様によれば、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質は、配列番号29のアミノ酸配列を有する。
【0043】
別の好ましい実施態様によれば、本発明による前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体において、野生型SARS-Cov-2タンパク質配列(配列番号1)のアミノ酸841、844、861、864および865に対応する位置におけるアミノ酸イソロイシンまたはロイシンが、アラニンで置き換えられている。この実施態様によれば、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質は、配列番号30のアミノ酸配列を有する。
【0044】
別の好ましい実施態様によれば、本発明による前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体において、野生型SARS-Cov-2タンパク質配列(配列番号1)のアミノ酸818、821、822、841、844、861、864および865に対応する位置におけるアミノ酸イソロイシンまたはロイシンが、アラニンで置き換えられている。
【0045】
この実施態様によれば、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質は、配列番号31のアミノ酸配列を有する。
上記で論じられたように、さらに実験の章で実証されたように、上述した突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質に導入されたアミノ酸の置き換えは、核ホルモン受容体上のスパイクタンパク質の活性を阻害することができ、同時に、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のコンフォメーションおよび抗原性特性を改変しない。
【0046】
本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質は、突然変異タンパク質の安定性を改善したり、またはスパイクタンパク質のアミノ酸配列における改変を特徴とするSARS-CoV-2ウイルスの対象となる変異体に対する免疫原性活性を改善したりするさらなる置換、または欠失もしくは挿入を導入することによって改変されてもよい。
【0047】
したがって、本発明のさらなる目的は、上述した突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質のいずれかの変異体である。
本発明による変異体において、野生型SARS-Cov-2タンパク質配列(配列番号1)のアミノ酸818、821、822、841、844、861、864および865に対応する位置におけるアミノ酸イソロイシンまたはロイシンの少なくとも1つが、アラニンで置き換えられている。
【0048】
好ましくは、前記変異体は、野生型SARS-Cov-2タンパク質配列(配列番号1)のアミノ酸818、821、822、841、844、861、864および865に対応する位置において、対応する突然変異SARS-COV-2タンパク質の同じアミノ酸を有する。
【0049】
より好ましくは、前記変異体は、以下の位置:
- 配列番号1のアミノ酸818に対応する位置~配列番号1のアミノ酸822に対応する位置のアミノ酸配列、
- 配列番号1のアミノ酸841に対応する位置~配列番号1のアミノ酸844に対応する位置のアミノ酸配列、および
- 配列番号1のアミノ酸861~配列番号1の865位に対応する位置のアミノ酸配列
において、対応する突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質または変異体の同じアミノ酸配列を有する。
【0050】
好ましくは、変異体は、上述した配列番号1のアミノ酸818、821、822、841、844、861、864および865に対応する位置におけるアミノ酸の置き換えを示す。
【0051】
本発明によれば、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の「変異体」は、アミノ酸の1つまたはそれより多くの置換、欠失または挿入を含有するという点で上述した突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の配列とは異なるアミノ酸配列を有するタンパク質を意味する。アミノ酸の前記置換、欠失または挿入は、配列番号1のアミノ酸818、821、822、841、844、861、864および865に対応する位置を除く任意の位置であってもよい。好ましくは、前記置換、欠失または挿入は、本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質のコンフォメーションおよび抗原性特性に干渉しない。より好ましくは、前記置換、欠失または挿入は、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の抗原性特性および/または安定性を改善する。好ましくは、変異体は、上述した対応する突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質と、少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%のアミノ酸同一性を有する配列を有する。
【0052】
好ましい一実施態様において、前記変異体は、融合前コンフォメーションのタンパク質を安定化するアミノ酸の置き換えを有する配列を有する。このコンフォメーションにおけるスパイクタンパク質の抗原としての使用は、感染の早期段階で、ウイルスが細胞に侵入する前に、ウイルスに応答し、それを不活性化することができる抗体の生産を誘導し、そのようにして、ワクチンの効能を有意に増加させる。
【0053】
融合前の状態のスパイクタンパク質を安定化するアミノ酸の置き換えを有する多数のスパイク変異体がすでに同定されている。これらのなかでも、例えば、ファイザー/ビオンテック(BNT162b)およびモデルナ(mRNA-1273)の両方からの、mRNAワクチンによってコードされる、アミノ酸の置き換えK986PおよびV987Pを有する突然変異SARS-2-Sスパイクタンパク質(S-2P)が挙げられる。さらに、安定な融合前コンフォメーションを有し、S-2Pと比較してより高い発現収量のSARS-CoV-2スパイクタンパク質の代替変異体も文献に記載されている。これらは、置き換えA892PおよびA942PまたはF817PおよびA899Pを特徴とする。最終的に、文献に記載される安定性および発現に関して最も有望な変異体は、上述した6つ全てのアミノ酸の置き換えを含むHexaPro変異体である。
【0054】
1つの好ましい実施態様によれば、本発明による変異体において、前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の以下のアミノ酸:
- 配列番号1のアミノ酸892、899および942に対応する位置におけるアラニン、
- 配列番号1のアミノ酸817に対応する位置におけるフェニルアラニン、
- 配列番号1のアミノ酸986に対応する位置におけるリジン、および
- 配列番号1のアミノ酸987に対応する位置におけるバリン
のうちの少なくとも2つが、プロリンで置き換えられている。
【0055】
本発明のこの実施態様によれば、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の融合前のコンフォメーションを安定化する突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の特に好ましい変異体が本明細書の以下で提供される。
【0056】
第1の変異体は、配列番号2の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号2の986位におけるアミノ酸のリジンおよび配列番号2の987位におけるバリンが、プロリンで置き換えられている(配列番号3)。
【0057】
第2の変異体は、配列番号2の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号2の892および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号4)。
【0058】
第3の変異体は、配列番号2の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号2の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニンおよび配列番号2の899位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号5)。
【0059】
第4の変異体は、配列番号2の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号2の986位におけるアミノ酸のリジン、配列番号2の987位におけるバリン、ならびに配列番号2の892および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号6)。
【0060】
第5の変異体は、配列番号2の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号2の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニン、配列番号2の892、899および942位におけるアラニン、配列番号2の986位におけるリジン、ならびに配列番号2の987位におけるバリンが、プロリンで置き換えられている(配列番号7)。
【0061】
第6の変異体は、配列番号2の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号2の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニン、配列番号2の892、899および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号8)。
【0062】
第7の変異体は、配列番号28の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号28の986位におけるアミノ酸のリジンおよび配列番号28の987位におけるバリンが、プロリンで置き換えられている(配列番号32)。
【0063】
第8の変異体は、配列番号28の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号28の892および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号33)。
【0064】
第9の変異体は、配列番号28の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号28の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニンおよび配列番号28の899位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号34)。
【0065】
第10の変異体は、配列番号28の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号28の986位におけるアミノ酸のリジン、配列番号28の987位におけるバリン、ならびに配列番号28の892および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号35)。
【0066】
第11の変異体は、配列番号28の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号28の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニン、配列番号28の892、899および942位におけるアラニン、配列番号28の986位におけるリジン、ならびに配列番号28の987位におけるバリンが、プロリンで置き換えられている(配列番号36)。
【0067】
第12の変異体は、配列番号28の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号28の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニン、配列番号28の892、899および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号37)。
【0068】
第13の変異体は、配列番号29の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号29の986位におけるアミノ酸のリジンおよび配列番号29の987位におけるバリンが、プロリンで置き換えられている(配列番号38)。
【0069】
第14の変異体は、配列番号29の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号29の892および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号39)。
【0070】
第15の変異体は、配列番号29の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号29の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニンおよび配列番号29の899位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号40)。
【0071】
第16の変異体は、配列番号29の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号29の986位におけるアミノ酸のリジン、配列番号29の987位におけるバリン、ならびに配列番号29の892および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号41)。
【0072】
第17の変異体は、配列番号29の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号29の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニン、配列番号29の892、899および942位におけるアラニン、配列番号29の986位におけるリジン、ならびに配列番号29の987位におけるバリンが、プロリンで置き換えられている(配列番号42)。
【0073】
第18の変異体は、配列番号29の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号29の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニン、配列番号29の892、899および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号43)。
【0074】
第19の変異体は、配列番号30の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号30の986位におけるアミノ酸のリジンおよび配列番号30の987位におけるバリンが、プロリンで置き換えられている(配列番号44)。
【0075】
第20の変異体は、配列番号30の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号30の892および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号45)。
【0076】
第21の変異体は、配列番号30の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号30の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニンおよび配列番号30の899位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号46)。
【0077】
第22の変異体は、配列番号30の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号30の986位におけるアミノ酸のリジン、配列番号30の987位におけるバリン、ならびに配列番号30の892および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号47)。
【0078】
第23の変異体は、配列番号30の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号30の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニン、配列番号30の892、899および942位におけるアラニン、配列番号30の986位におけるリジン、ならびに配列番号30の987位におけるバリンが、プロリンで置き換えられている(配列番号48)。
【0079】
第24の変異体は、配列番号30の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号30の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニン、配列番号30の892、899および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号49)。
【0080】
第25の変異体は、配列番号31の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号31の986位におけるアミノ酸のリジンおよび配列番号31の987位におけるバリンが、プロリンで置き換えられている(配列番号50)。
【0081】
第26の変異体は、配列番号31の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号31の892および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号51)。
【0082】
第27の変異体は、配列番号31の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号31の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニンおよび配列番号31の899位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号52)。
【0083】
第28の変異体は、配列番号31の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号31の986位におけるアミノ酸のリジン、配列番号31の987位におけるバリン、ならびに配列番号31の892および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号53)。
【0084】
第29の変異体は、配列番号31の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号31の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニン、配列番号31の892、899および942位におけるアラニン、配列番号31の986位におけるリジン、ならびに配列番号31の987位におけるバリンが、プロリンで置き換えられている(配列番号54)。
【0085】
第30の変異体は、配列番号31の突然変異SARS-CoV-2タンパク質の変異体であり、配列番号31の817位におけるアミノ酸のフェニルアラニン、配列番号31の892、899および942位におけるアラニンが、プロリンで置き換えられている(配列番号55)。
【0086】
COVID-19ワクチンにおける活性成分として使用されるSARS-CoV-2スパイクタンパク質を安定化するために、タンパク質をプロテアーゼ耐性にするタンパク質の変異体を使用することが有利であるとも記載されている。例えば、ワクチン候補NVX-CoV2373は、活性成分として、タンパク質の抗原性特性に干渉せず、プロテアーゼ耐性を著しく増加させるアミノ酸の置き換えR682Q、R683Q、R685Qを有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質の変異体を含有する。プロテアーゼのフューリンによるタンパク質の切断を防止するさらなるアミノ酸の置き換えは、アミノ酸の置き換えR685Aである。
【0087】
さらに好ましい実施態様によれば、上記の好ましい実施態様のいずれかとも組み合わせて、本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の変異体において、配列番号1のアミノ酸682、683および685に対応する位置におけるアミノ酸のアルギニンは、グルタミンで置き換えられている。
【0088】
この実施態様による特に好ましい変異体は、配列番号1のアミノ酸682、683および685に対応する位置におけるアミノ酸のアルギニンのグルタミンでの置き換えをさらに含有する上述した変異体のいずれかである。
【0089】
この実施態様による突然変異SARS-CoV-2タンパク質の特に好ましい変異体は、配列番号9~配列番号15のアミノ酸配列を有するもの(変異体31~37)である。
さらに好ましい実施態様によれば、上記の好ましい実施態様のいずれかとも組み合わせて、本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の変異体において、配列番号1のアミノ酸685に対応する位置におけるアミノ酸のアルギニンが、アラニンで置き換えられている。
【0090】
この実施態様による特に好ましい変異体は、配列番号1のアミノ酸685に対応する位置におけるアミノ酸のアルギニンのアラニンでの置き換えをさらに含有する上述した変異体のいずれかである。
【0091】
スパイクタンパク質のアミノ酸配列に改変を有するSARS-COV-2ウイルスの対象となる変異体に対する免疫応答を増加させるために、このような改変を取り込んだSARS-COV-2スパイクタンパク質配列に基づくワクチンが開発中である。
【0092】
したがって、さらに好ましい実施態様によれば、上記の好ましい実施態様のいずれかとも組み合わせて、本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の変異体は、デルタ(B.1.617.2):およびオミクロン(BA.1)ウイルス変異体のスパイクタンパク質に見出されるアミノ酸改変を含む。
【0093】
この実施態様によれば、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の変異体は、以下に列挙した配列番号1のアミノ酸に対応する位置における以下のアミノ酸改変を含有する:
- T19R、EF156/157del、R158G、L452R、T478K、D614G、P681RおよびD950N、または
- A67V、H69del、V70del、T95I、G142D、V143del、Y144del、Y145del、N211del、L212I、ins214EPE、G339D、S371L、S373P、S375F、K417N、N440K、G446S、S477N、T478K、E484A、Q493R、G496S、Q498R、N501Y、Y505H、T547K、D614G、H655Y、N679K、P681H、N764K、D796Y、N856K、Q954H、N969K、L981F。
【0094】
この実施態様による特に好ましい変異体は、以下に列挙した配列番号1のアミノ酸に対応する位置における以下のアミノ酸改変をさらに含有する上述した変異体のいずれかである:
T19R、EF156/157del、R158G、L452R、T478K、D614G、P681RおよびD950N、または
A67V、H69del、V70del、T95I、G142D、V143del、Y144del、Y145del、N211del、L212I、ins214EPE、G339D、S371L、S373P、S375F、K417N、N440K、G446S、S477N、T478K、E484A、Q493R、G496S、Q498R、N501Y、Y505H、T547K、D614G、H655Y、N679K、P681H、N764K、D796Y、N856K、Q954H、N969K、L981F。
【0095】
多数のCOVID-19ワクチン候補が、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の免疫原性フラグメントまたはそれをコードするmRNAもしくはDNAに基づく(Forniら、Cell Death & Differentiation 2021、28:626~639)。
【0096】
実験の章で実証されたように、野生型スパイクタンパク質における発明者らによって同定されたLxxLLモチーフは、核内受容体を活性化する能力を有する。
それゆえに、このタイプのワクチンに関して、本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質の免疫原性フラグメントまたはその変異体の使用は、すでに上記で論じられた理由のために有利である。
【0097】
したがって、本発明のさらなる目的は、上述した突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体の免疫原性フラグメントであり、前記フラグメントは、
- 配列番号1のアミノ酸818に対応する位置~配列番号1のアミノ酸822に対応する位置のアミノ酸配列、
- 配列番号1のアミノ酸841に対応する位置~配列番号1のアミノ酸844に対応する位置のアミノ酸配列、および
- 配列番号1のアミノ酸861~配列番号1の865位に対応する位置のアミノ酸配列
から選択される、前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質または変異体の少なくとも1つの配列を含む。
【0098】
したがって、本発明のさらなる目的は、上述した突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体の免疫原性フラグメントであり、前記フラグメントは、
- 配列番号2または配列番号31の818位~822位のアミノ酸配列、
- 配列番号2、配列番号28、配列番号30または配列番号31の841位~844位のアミノ酸配列、および
- 配列番号2、配列番号29、配列番号30または配列番号31の861位~865位のアミノ酸配列
から選択される、前記突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質または変異体の少なくとも1つの配列を含む。
【0099】
したがって、本発明のさらなる目的は、上述した突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体の免疫原性フラグメントであり、前記フラグメントは、配列番号2、配列番号28、配列番号29、配列番号30または配列番号31のアミノ酸818~アミノ酸865のアミノ酸配列に対応する配列を含む。
【0100】
本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体の「フラグメント」は、本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはその変異体のN末端および/またはC末端で短縮化された配列に対応するアミノ酸配列を有するタンパク質を指す。
【0101】
本発明による免疫原性フラグメントは、宿主において防御免疫応答を開始させることができるエピトープを含有する。
配列番号1の配列232~246、233~247、471~503、604~625、817~833、891~907、897~913、1164~1191、1182~1209に対応する、自己免疫応答を開始させるリスクが低減された、防御抗体の生産を刺激する野生型SARS-CoV-2スパイクタンパク質のエピトープが同定された。それとは逆に、ペプチド597~603が、エピトープ配列依存性を介して感染を強化する抗体を誘導することが見出された。
【0102】
したがって、好ましくは、本発明による免疫原性フラグメントは、以下のアミノ酸配列から選択される、少なくとも2つの、オーバーラップしない配列をさらに含有する:
- 配列番号1の232位~246位のアミノ酸配列、
- 配列番号1の233位~247位のアミノ酸配列、
- 配列番号1の471位~503位のアミノ酸配列、
- 配列番号1の604位~625位のアミノ酸配列、
- 配列番号2または配列番号31の817位~833位のアミノ酸配列、
- 配列番号1の891位~907位のアミノ酸配列
- 配列番号1の897位~913位のアミノ酸配列、
- 配列番号1の1164位~1191位のアミノ酸配列、および
- 配列番号1の1182位~1209位のアミノ酸配列。
【0103】
好ましくは、本発明による免疫原性フラグメントは、配列番号2、配列番号29、配列番号30または配列番号31の865位~1209位のアミノ酸配列を含む。
好ましくは、本発明による免疫原性フラグメントは、配列番号1の471位~817位のアミノ酸配列を含む。
【0104】
好ましくは、本発明による免疫原性フラグメントは、配列番号1の232位~470位のアミノ酸配列を含む。
好ましくは、本発明の変異体またはフラグメントは、配列番号1の597位~603位のアミノ酸配列を含有しない。
【0105】
本発明のさらなる目的は、本発明による突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、変異体またはそのフラグメントのアミノ酸配列および1つまたはそれより多くの追加の配列を含むタンパク質である。
【0106】
1つの好ましい実施態様によれば、前記追加の配列は、免疫原性ではなく、タンパク質またはフラグメント特異的な機能特性、例えば組織分布に関するそのような特性を付与するために使用される。
【0107】
別の好ましい実施態様によれば、前記追加の配列は、突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、変異体またはそのフラグメントのエピトープに対する免疫応答を刺激することができる。
【0108】
本発明のさらなる目的は、上述した突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、変異体、ペプチドまたはタンパク質をコードするmRNAである。
好ましい実施態様によれば、安定性を増加させ、インビボにおける分解を回避するために、前記mRNAは、ヌクレオシドが改変されたmRNA配列である。
【0109】
好ましい実施態様によれば、前記ヌクレオシドが改変されたmRNA配列において、ウリジン残基は、ピリジン-4-オンリボヌクレオシド、5-アザウリジン、2-チオ-5-アザウリジン、2-チオウリジン、4-チオシュードウリジン、2-チオシュードウリジン、5-ヒドロキシウリジン、3-メチルウリジン、5-カルボキシメチルウリジン、1-カルボキシメチルシュードウリジン、5-プロピニルウリジン、1-プロピニルシュードウリジン、5-タウリノメチルウリジン、1-タウリノメチルシュードウリジン、5-タウリノメチル-2-チオウリジン、1-タウリノメチル-4-チオウリジン、5-メチル-ウリジン、1-メチルシュードウリジン、4-チオ-1-メチルシュードウリジン、2-チオ-1-メチルシュードウリジン、1-メチル-1-デアザシュードウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザシュードウリジン、ジヒドロウリジン、ジヒドロシュードウリジン、2-チオジヒドロウリジン、2-チオジヒドロシュードウリジン、2-メトキシウリジン、2-メトキシ-4-チオウリジン、4-メトキシ-シュードウリジン、4-メトキシ-2-チオシュードウリジンから選択される改変されたヌクレオシド(修飾ヌクレオシド)で置き換えられ、好ましくは1-メチルシュードウリジンで置き換えられる。
【0110】
別の実施態様によれば、好ましくはmRNAをさらに安定化するために、本発明によるmRNAのコード領域は、野生型SARS-CoV-2スパイクタンパク質の対応するコード領域中に存在するG/C含量と比較して増加したG/Cを含有する。これは、G/C比率の増加を可能にする同義コドン置換を配列に導入することにより得られる。
【0111】
別の実施態様によれば、好ましくは、本発明によるmRNAにおいて、コドン出現頻度は、ヒト細胞における発現のために最適化されている。
本発明のさらなる目的は、上述した突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、変異体またはそのペプチドをコードするDNA配列である。
【0112】
好ましい実施態様によれば、前記DNAは、プラスミドに含有される。好ましくは、前記プラスミドは、少なくともプロモーターおよび停止コドンを含有する。
代替の好ましい実施態様によれば、前記DNAは、ウイルスベクターに含有される。
【0113】
前記ウイルスベクターは、非複製性であってもよいし、または複製性であってもよい。前記ウイルスベクターは、好ましくは、アデノまたはポックスウイルスから選択される。より好ましくは、前記ウイルスベクターは、アデノウイルス5型(Ad5)ベクター、アデノウイルス26型(Ad26)ベクター、複製欠損サルアデノウイルスChAdOxiベクターから選択される。
【0114】
本発明によるタンパク質、mRNAまたはDNAは、当業界において周知の方法によって調製することができる。
本発明のさらなる目的は、対象におけるCOVID-19の予防での使用のための、上述した突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、変異体もしくはそのペプチド、またはそれらをコードするmRNAもしくはDNAである。
【0115】
本発明のさらなる目的は、上記で定義された突然変異SARS-CoV-2スパイクタンパク質、変異体もしくはそのフラグメント、またはそれらをコードするmRNAもしくはDNAを含有するワクチン組成物である。
【0116】
ワクチン組成物は、好ましくは、COVID-19の予防における使用のためのものである。ワクチンは、タンパク質または核酸ベースのワクチンの調製のための周知の技術、例えばBattyら、AdvDrug Delivery Rev 2021、169:168~189に記載されるような技術に従って製剤化することができる。
【0117】
好ましくは、前記ワクチンは、アジュバント剤を含有する。
本発明による「アジュバント」は、組成物の免疫刺激性特性を強化することができる成分である。
【0118】
前記アジュバントは、当業者周知であり、使用される特定の抗原および配合物に好適なアジュバントから選択される。
本発明によるワクチンは、非経口投与によって投与されてもよく、好ましくは皮内、筋肉内または皮下投与、経口投与または経鼻投与によって投与されてもよい。
【0119】
実施例
【実施例1】
【0120】
遺伝子情報科学的分析
材料および方法
1. インタラクトーム分析
物理的な相互作用に加えて機能的な関連の両方を含むタンパク質間の全ての公知の予測された関連を統合するSTRINGデータベース[Szklarczyk Dら、Nucleic Acids Res.2021、49:D605~D612、doi:10.1093/nar/gkaa1074]を使用して、生体分子間の機能的な関連を分析した。各タンパク質-タンパク質相互作用は、「スコア」で注釈が付けられる。このスコアは相互作用の強度または特異度を示さないが、信頼性のみを示す。全てのスコアは0から1でランク付けし、1は、最も高い可能性のある信頼性である。
【0121】
2. 3Dモデル選択
スパイク3Dモデルを、その野生型の形態に戻し、完全にグリコシル化されたPDB 6VYBに基づいて構築した。3つのプロトマーの非対称グリコシル化を、公開されたN-グリカンおよびO-グリカンの糖分析データから導き出した(Casalini Lら、ACS Cent.Sci.2020、6:1722~1734、https://doi.org/10.1021/acscentsci.0c01056)。Amber14SB力場を使用して、タンパク質をモデル化し(Maier J Aら、J.Chem.Theory Comput.2015、11:3696~3713、https://doi.org/10.1021/acs.jcts.5b00255)、GLYCAM06力場のGLYCAM06J-1バージョンによって、炭水化物成分をモデル化した(Kirschner KNら、J.Comput.Chem.2008、29:622~655、https://doi.org/10.1002/jcc.20820)。このようにして調製された構造を、分子ドッキングシミュレーションの開始点として使用した。pdb2gmx GROMACSツールを用いて、amber99sb力場を使用してトポロジーファイルを作成した(Lindorff-Larsen Kら、Proteins 2010、78:1950~1958、https://dx.doi.org/10.1002/prot.22711)。タンパク質を三斜晶系ボックスに挿入し、溶質から15Åまで伸長させ、TIP3P水分子に浸漬した(Jorgensen WLら、J Chem Phys 1983、79:926~935、https://dx.doi.org/10.1063/1.445869)。対イオンを付加して、ゲニオン(genion)GROMACSツールを用いて全体的な電荷を中和した。エネルギー最小化の後、タンパク質原子に対して1000kJ・mol-1nm-2の位置的な拘束を適用することによって5nsにわたりシステムを緩和させた。この工程の後、非拘束MDシミュレーションを、GROMACS 2018.3シミュレーションパッケージを使用して、2fsのタイムステップで1マイクロ秒の長さにわたり行った(スーパーコンピュータのガリレオ(Galileo)およびマルコーニ(Marconi)-100、CINECA、ボローニャ、イタリア)(Abraham MJら、SoftwareX 2015、1:19~25、https://dx.doi.org/10.1016/j.softx.2015.06.001)。V-リスケール温度カップリングを採用して、温度を300Kで一定に維持した(Bussi Gら、J Chem Phys、2007126:014101. https://dx.doi.org/10.1063/1.2408420)。粒子・メッシュ・エバルトの方法を、長期にわたる静電的相互作用の処理のために使用した(Darden Tら、J.Chem.Phys 1993、98:10089、https://doi.org/10.1063/1.464397)。各軌道の最初の5nsを分析から除外した。1マイクロ秒のMDシミュレーションの後に得られた軌道を、代表的な構造を得るためにクラスター化した。特定には、ドッキング研究に使用される構造は、MD実験から抽出された第1のクラスターの第1の重心である。
【0122】
エストロゲン受容体に関して、エストラジオールおよび核内受容体コアクチベーター1を含有するコード3OLLを用いたXRAY PDBモデルを使用した(Mocklinghoff Sら、ChemBioChem 2010、11:2251~2254、https://doi.org/10.1QQ2/cbic.2Q1000532)。
【0123】
3. タンパク質-タンパク質ドッキング手順
一方は受容体に関し、他方はリガンドに関する2つの個々のタンパク質の入力を準備した。特定には、スパイクタンパク質およびERを、それぞれ受容体およびリガンドとして使用した。次いで、HDOCKツールは、FFTベースの検索方法を介してサンプルに推定の結合モードをドッキングすることを実行し、次いでタンパク質-タンパク質相互作用をスコア付けする。最後に、上位100種の予測された複合体構造を提供し、最良の10種の仮説を視覚的に検査して、計算の信頼度を確認した。ワークフロー全体が記載されている(Yan Yら、Nat Protoc 2020、15:1829~1852、https://doi.org/10.1038/s41596-020-0312-x)。
【0124】
スパイクタンパク質と核エストロゲン受容体(ER)との結合メカニズムに関する構造情報がないことを考慮して、第1のチェックは、エストロゲン受容体と相互作用することが知られているタンパク質の同定を含んでいた。これらのERと相互作用するタンパク質を同定した後、第2の工程は、スパイクタンパク質とERエフェクタータンパク質とのあらゆる配列類似性の研究を含んでいた。
【0125】
実施例1a
核内受容体コアクチベーターおよびLxxLLモチーフ
多くの転写因子およびコファクターは、エフェクタータンパク質との相互作用を確実にする共通の構造的なモチーフを示す。これらのタンパク質-タンパク質相互作用に参加するモチーフは、LxxLL(LDX)と呼ばれ、転写制御の様々な態様に関連する(Plevin MJら、Trends Biochem Sci 2005、30:66~69. https://dx.doi.org/10.1016/j.tibs.2004.12.001)。LxxLL配列は、最初に、核内受容体リガンド結合ドメイン(LBD)の活性化機能-2(AF-2)領域と結合するタンパク質において同定された。これらのモチーフは、コアクチベーター(NCOA-1、2および3)を含む多くの核受容体結合タンパク質を用いた核受容体の制御において基礎となるものである(Heery DMら、Nature 1997、387:733~736、https://doi.org/10.1038/42750)。
【0126】
ERとNCOAとの相互作用を示す実験的および構造的な確認により、LxxLLモチーフに焦点を当てることが可能になり、それから開始して、スパイクタンパク質配列のマッピングを行い、ERとその核コアクチベーターとの相互作用を模擬できるスパイクの構造的なモチーフおよび相同な部分を検索した(
図1)。
【0127】
実施例1b
エストロゲン受容体結合タンパク質ネットワーク分析
ER1およびER2の最も重要な相互作用のネットワーク(
図2)は、最も信頼できるER1およびER2と相互作用するタンパク質のなかでも、核内受容体コアクチベーター(NCOA)は核内受容体と直接結合し、転写活性を刺激することを強調する。NACOとスパイクとの配列アライメントをウイルスタンパク質の3次元分析と組み合わせることにより、原則的にERとの相互作用領域の場所として作用することができる外部ゾーンにおいて、スパイクタンパク質が、LDXモチーフ(LPPLL、野生型スパイクにおいてアミノ酸861~865)およびLxxLLに相同な2つのモチーフ(IEDLL、野生型スパイクにおいて、アミノ酸818~822およびLGDIA、アミノ酸841~846)を含有することが明らかになったが、これは、構造的な視点からも妥当である(実際に、これらの領域はアルファ-へリックスコンフォメーションの形態をとる)。様々なLDXドメインが、特定のコファクター-受容体相互作用と関連しており、スパイクLDX1は、NCOA1 LDX4に類似しており、クラスIIIドメインに属する(
図3)(Savkur RSら、J Pept Res 2004、63:207~212、http://dx.doi.org/10.1111/M399-3011.2004.00126.x。
【0128】
実施例1c
スパイクタンパク質-ERブラインドドッキング
ERはウイルスタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)と結合しないことを実験的に検証した(データは示されない)。インシリコの予測を確認し、検証するために、ウイルスRBD以外の領域で相互作用するERの能力を、HDOCKサーバー[http://hdock.phys.hust.edu.cn/]を使用して、2つのタンパク質間のブラインドドッキングの平均によって評価した。ブラインドドッキングアプローチは、いかなる構造的なバイアスも考慮に入れず、完全にガイド無しである。見出された最良の結合の仮説は、証拠として、いわゆる「融合ペプチド部分」に属するスパイクタンパク質の側面領域に対するERの高親和性を認めている(
図4)。
【0129】
実施例1d
スパイクタンパク質-ERモチーフ配向ドッキング
ER残基がNCOAによって認識されるという構造情報を使用して、タンパク質-タンパク質相互作用を最適化することによってスパイクへのERのドッキング研究をガイドした。入力としてタンパク質構造および残基の拘束を用いて、HDOCKサーバーによって好適なモデルを作成した。ERとNCOAとの相互作用の構造情報がわかっていることを考慮して、NCOAとの相互作用を保証するER残基を考慮した第2のドッキング研究を行うことによって、分子ドッキング手順をガイドした。ガイドされたドッキング研究から得た最良の結合仮説は、
図5に示されており、LxxLLパターンに相同なモチーフを含有するスパイク領域へのERの結合が強調される。
【実施例2】
【0130】
がん細胞株における増殖活性のインビトロの評価
材料および方法
ペプチド2、5および7
相同なLxxLL様のコアから開始して、以下のアミノ酸配列を有する2、5および7と名付けられた3つのペプチドを合成した:
ペプチド2:SKRSFIEDLLFNKVTL(配列番号16)
ペプチド5:IKQYGDCLGDIAARDLI(配列番号17)
ペプチド7:NGLTVLPPLLTDEMI(配列番号18)。
【0131】
ペプチドのそれぞれは、野生型スパイクタンパク質で見出されるLxxLLモチーフのうちの1つを含有する。
CASLO ApS(デンマーク工科大学(Technical University of Denmark)、DTU-Science Park Diplomvej 381、DK-2800 コンゲンス・リュンビュー、デンマーク)によって、Fmocベースの固相ペプチド合成プロトコールを使用してペプチドを合成した。各ペプチドをN末端でアセチル化し、C末端でアミド化し、それらを凍結乾燥した塩酸塩として貯蔵した。ペプチドの純度を、分析RP-HPLC(C18-250mm×内径4.6mm、1mL/分の流速;吸光度は220nmで検出)によって評価し、MALDI-TOF質量分析によっても検証した。
【0132】
試験濃度
スパイクタンパク質を、培地中10ng/mlの最終濃度で使用した。ラロキシフェンを、培地中2μMの最終濃度で使用した。エストラジオールストック溶液をエタノールで調製し、希釈した培地中1nMの最終濃度で使用した。ペプチドを、PBSで、4mg/mlの濃度に希釈し、次いで10ug/mlの濃度をアッセイに使用した(培地中の最終濃度)。
【0133】
増殖アッセイ
細胞増殖を評価するために、BrdUアッセイを実行した(アブカム(Abcam)、UK)。BrdUは、活発に増殖する細胞の新たに合成されるDNAに取り込まれる。20uLの希釈した1×BrdU標識を適切なウェルに添加し、24時間インキュベートした。BrdUを分裂細胞のDNAに取り込ませた。取り込まれたBrdUへの抗体結合を可能にするために、細胞を固定し、透過化し、およびDNAを変性する必要がある。これは全て、固定溶液での処理によって1工程で行われる。検出器である抗BrdUモノクローナル抗体をピペットでウェルに入れ、そのまま1時間インキュベートし、その間に、全ての取り込まれたBrdUに抗体を結合させる。様々な洗浄を実行して、未結合の抗体を洗い落とし、検出器抗体に結合するホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウス抗体を添加した。次いで、TMBペルオキシダーゼ基質を添加し、暗所で、室温で30分間インキュベートした。最後に、反応を止めるために、停止溶液を添加した。プレートを、450nmに設定された分光光度計マイクロタイタープレートリーダーを使用して読んだ。
【0134】
乳がん細胞株
MCF-7細胞株は、浸潤性乳腺/乳癌細胞ホルモン依存性(両方ともエストロゲンおよびプロゲステロン受容体陽性)である。
【0135】
MCF-7をATCCから得て、5%CO2および95%の加湿したインキュベーター(サーモ(Thermo)、米国)中、37℃で、10%ウシ胎児血清(FBS、コーニング(Corning)、米国)、ペニシリン/ストレプトマイシンおよびグルタミン(シグマ(Sigma)、米国)が補充されたDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)中で増殖させた。処理の前、FBS中のエストロゲンレベルを低減させるために、5%デキストランでコーティングされたチャコール処理血清を含有するフェノールレッド非含有培地中で24時間細胞を培養し、続いて0.2%BSAが補充されたフェノールレッド非含有の無血清培地中で少なくとも24時間インキュベートした。
【0136】
実験の第1のセットにおいて、細胞を、エストラジオール、野生型スパイクタンパク質、ラロキシフェン、エストラジオールおよびラロキシフェン、野生型スパイクタンパク質およびラロキシフェン、エストラジオール、スパイクタンパク質およびラロキシフェンで24時間処理し、増殖を測定した。
【0137】
図6に結果を示す。見てわかるように、エストラジオールとスパイクはどちらも実質的に細胞の増殖を増加させることができ、この活性はラロキシフェンでの同時処理によって打ち消された。これらのデータは、野生型スパイクが、ER媒介メカニズムを用いて乳がん細胞の増殖を誘導できることを実証する。
【0138】
実験の第2のセットにおいて、細胞を、ペプチド2、5および7、野生型スパイク、スパイク+ラロキシフェンまたはラロキシフェン単独で24時間処理し、増殖を測定した。
図7に結果を示す。以下の表1に平均およびSDを示す。
【0139】
【0140】
見てわかるように、ペプチドは全て、スパイクにより誘導された増殖と類似した増殖を誘導することができる。得られたデータは、野生型スパイクタンパク質におけるLxxLモチーフのそれぞれがエストロゲン受容体の活性化を誘導できることを実証した。
【0141】
前立腺がん細胞株
確立されたアンドロゲン依存性細胞株LNCapを、この研究のためのモデルとして使用した。
【0142】
細胞を、5%CO2および95%の加湿したインキュベーター(サーモ、米国)中で、37℃で、10%ウシ胎児血清(FBS、コーニング、米国)、ペニシリン/ストレプトマイシンおよびグルタミン(シグマ、米国)が補充されたDMEM中で培養した。処理の前、FBS中のエストロゲンレベルを低減させるために、5%デキストランでコーティングされたチャコール処理血清を含有するフェノールレッド非含有培地中で24時間細胞を培養し、続いて0.2%BSAが補充されたフェノールレッド非含有無血清培地中で少なくとも24時間インキュベートした。次いで細胞を、ペプチド2、5および7または野生型スパイクで24時間処理し、増殖を測定した。
【0143】
図8に結果を示す。以下の表2に平均およびSDを示す:
【0144】
【0145】
得られた結果は、ペプチドおよびスパイクタンパク質の両方が、アンドロゲン受容体の活性化によって増殖を誘導できることを実証する。
【実施例3】
【0146】
プロテオーム分析
ヒト単球THP-1をATCCから購入し、製造元の指示に従って培養した。次いで、THP-1を、72時間の20ng/mlの12-ミリスチン酸ホルボール13-酢酸(PMA)、続いて24時間のLPS刺激(100ng/ml)を使用して分化させ、実施例2で使用される濃度のエストラジオール、ラロキシフェンおよび野生型スパイク、野生型スパイク+ラロキシフェン、エストラジオール+野生型スパイク、エストラジオール+ラロキシフェン+野生型スパイクで24時間処理した。次いで培地を収集し、プロテオームプロファイルアッセイを行った。
【0147】
詳細には、THP-1処理細胞からの馴化培地を遠心分離して、微粒子を除去し、即座にアッセイした。サンプル量を示唆された通りに調整した(500μl)。試薬を製造元のプロトコール(R&D、米国)に従って調製した。
【0148】
簡単に言えば、膜を、ロッキングプラットフォーム振盪機で1時間、アレイバッファー6と共にインキュベートした。それぞれの調製されたサンプルに、2つの別個の試験管中の1mlのアレイバッファー4、次いで15μlの再構成されたマウスサイトカイン検出抗体カクテル(>40マウスサイトカイン)を添加することによってサンプルを調製し、1時間インキュベートした。次いで、アレイバッファー6を吸引し、サンプル/抗体混合物で交換し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、膜を3回洗浄し、ストレプトアビジン-HRP(1:2000)を、ロッキングプラットフォーム振盪機で、室温で30分間インキュベートした。
【0149】
膜を再度洗浄し、1mlの調製されたChemi試薬ミックスを各膜の上に置いた。複数の曝露時間を、UVITECデジタルアナライザー(アライアンス(Alliance)、英国ケンブリッジ)を使用して達成した。展開された膜で見られた陽性シグナルは、アレイ画像上に透明オーバーレイテンプレートを置き、それを参照スポットの対と各アレイの3つの角でアライメントすることによって同定することができる。
【0150】
アッセイ手順中にアレイをストレプトアビジン-HRPと共にインキュベートしたことを実証するために、参照スポットが含まれる。ピクセル密度(各サイトカインを表す二連の対の平均シグナル)をFijiソフトウェアによって分析し、各スポットから平均バックグラウンドを引いた。
【0151】
図9に結果を報告する。見てわかるように、IL-8は、最も豊富に出現し、エストラジオールと野生型スパイクの両方によって上方調節される。スパイクの作用を相殺することにおいて、ラロキシフェンが有効であった。非酵素的キチナーゼ-3様-タンパク質-1(CHI3L1)は、エストラジオールと野生型スパイクの両方によって上方調節されるが、ラロキシフェンは、スパイク単独の作用のみを相殺することができた。
【0152】
オステオポンチン(OPN)は、エストラジオールと野生型スパイクの両方によって上方調節され、ラロキシフェンは、スパイク単独の作用を相殺することができた。
【実施例4】
【0153】
野生型スパイクタンパク質および突然変異体の生産および精製
野生型スパイクタンパク質の16~1213のアミノ酸(細胞外ドメイン)ならびに後述される対応するSP5、SP7およびSP5+SP7突然変異体をコードするヌクレオチド配列を生成し、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサーおよびプロモーター、タンパク質分泌のためのマウスIgカッパ鎖リーダー配列、ウシ成長ホルモンポリアデニル化(bGH-ポリA)シグナル、真核細胞におけるタンパク質発現に特化した終結配列、ならびに細菌におけるプラスミド増幅のためのスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のカナマイシン耐性遺伝子を有するプラスミドDNAベクターに挿入した。
【0154】
詳細には、突然変異配列は以下の通りであった:
・SP5:配列番号1に対する突然変異L841A、I844A、
・SP7:配列番号1に対する突然変異L861A、L864A、L865A、
・SP5+SP7:配列番号1に対する突然変異L841A、I844A、L861A、L864A、L865A。
【0155】
これらはそれぞれ、配列番号1に対する、安定化するアミノ酸の置き換えR685A、K986PおよびV987Pも含有する。
スパイクタンパク質ならびにSP5、SP7およびSP5+SP7を、ExpiFectamine 293(サーモフィッシャー(Thermo Fisher))脂質カチオン性トランスフェクション試薬でのExpi293F高密度細胞の一過性トランスフェクションによって、製造元の指示に従って生産した。トランスフェクション開始から5日間のインキュベーション後に、タンパク質を含有する上清を収集し、後続の精製工程のために遠心分離およびろ過による清澄化に供した。PureCube Ni-NTAアガロース樹脂スラリー(キューブ-バイオテク(Cube-Biotech))を使用するIMAC(固定化金属キレートアフィニティークロマトグラフィー)を使用して、タンパク質をバッチ精製した。簡単に言えば、樹脂スラリーを遠心分離し、平衡バッファー(50mMのNaH2PO4、500mMのNaCl、pH7.4、10mMのイミダゾール)と共にインキュベートした。平衡化した樹脂を組換えタンパク質を含有する培養上清と合わせ、回転プラットフォーム上で4℃で一晩インキュベートした。その後、樹脂を遠心分離によって収集し、洗浄し、300mMのイミダゾールを含有する溶出バッファーによってタンパク質を溶出させ、スライド-A-ライザー(slide-A-lyzers)(サーモフィッシャー)を製品データシートに示された通りに使用して、リン酸バッファー(PBS)中での透析に供した。透析から回収したら、タンパク質を、分光光度計で280nmで吸光度を測定することによって定量化した。タンパク質の純度を、還元条件下と非還元条件下の両方で実行されたSDS-PAGEおよびウェスタンブロット分析によって評価した。それらのhACE2受容体への結合能力および関連する親和性のさらなる特徴付けを、実施例4aに記載した通りバイオレイヤー干渉BLIによって評価した。
【0156】
実施例4a
hACE-2受容体結合アッセイ
オクテットレッド(Octet Red)(フォルテバイオ(ForteBio))システムを使用することによって、生産されたスパイクタンパク質(野生型ならびにSP5、SP7およびSP5+SP7)のhACE2受容体と結合する能力を検証するために、結合研究を実行した。全ての工程を、各ウェル中200μlの溶液を含有する96-ウェルプレート(グライナー・バイオ・ワン(Greiner Bio-one)からの96-ウェルマイクロプレート、F型底、黒色、655209)で、600rpmで撹拌しながら、25℃で実行した。この研究では、全てのタンパク質および分析物の希釈のために、さらに、センサーの洗浄するために、動態バッファー1×(カタログ番号18-1105、フォルテバイオ)を使用した。まず、抗ヒトFcオクテット(Octet)バイオセンサー(抗ヒトIgG Fc捕獲バイオセンサー、カタログ番号18-5060、フォルテバイオ(FORTEBIO))を使用してhACE2-hFcタンパク質を捕獲することによって、動態アッセイを実行した。1×バッファー中にバイオセンサーを10分間浸漬し、続いて、基底シグナルを60秒間測定し、この時点で、hACE2-hFcを300秒にわたりローディングした(バイオセンサーが完全に飽和するまで)。1×カイネティックバッファー中で120秒洗浄する工程の後、hACE2-hFcと結合したバイオセンサーチップを、異なる濃度の抗原(スパイク、野生型タンパク質ならびにその突然変異体SP5、SP7およびSP5+SP7)を含有するウェル中に300秒間浸漬して、関連曲線を評価し、続いてカイネティックバッファー中で900秒間の解離時間を評価した。結合曲線データを収集し、次いでデータ分析ソフトウェアv11.1(フォルテバイオ)を使用して分析した。抗原結合サイクルの開始時および1回の参照の減算の後に、結合センサーグラムをアライメントした。1:1のグローバルラングミュア結合モデルを使用してKd値を計算した。
【0157】
様々な抗原を有するバイオセンサーの先端もカイネティックバッファーを含有するウェル中に浸漬して、捕獲された抗原の天然の解離を補うために、1回の参照の減算を可能にした。バイオセンサーの先端を、再生させずに使用した。
【0158】
以下の表3に示される結果は、野生型スパイクタンパク質およびその突然変異体がhACE2受容体と高親和性で結合することを実証する。
【0159】
【0160】
実施例4b
エストロゲン様活性
スパイクタンパク質のエストロゲン様活性を評価するために、酵素結合免疫吸着測定法(マイオバイオソース(Myobiosource)、カタログ番号MBS1601167)によって、酒石酸抵抗性Ackホスファターゼ(TRAP)活性を評価した。
【0161】
RAW264.7(マウスマクロファージATCC、米国)を製造元のプロトコールの通りに培養し、次いで24ウェルの培養皿中、細胞1.5×10
5個/cm
2を植え付け、核内因子kbリガンドのマウス受容体活性化剤(RANKL、ミルテニーバイオテク(Miltenyi Biotec)、ドイツ)を35ng/mlの最終濃度で添加し、これまでに説明されたようにして(Collin-OsdobyおよびOsdoby 2012、PMID:22130930)、破骨細胞(OC)の発達(日0)を開始させた。3日目に、細胞を顕微鏡下で検査し、RANKLを含有する新鮮な培地を再びフィードした。6日目、RAW-OC集団が優勢であり、処理、次いで生化学的な研究の準備をした。細胞を、1nMのエストラジオールまたは10ng/mlのスパイク野生型、SP5、SP7またはSP5+SP7で24時間処理した。処理の24時間後、細胞を滅菌試験管により迅速に収集し、PBS(pH7.4)を使用して再懸濁して、細胞懸濁液をおよそ100万個/mlの濃度に希釈した。次いで、細胞を繰り返しの凍結融解サイクルに供して、内部の成分を外に出した。その間、キットの試薬を室温にした。標準曲線、試薬およびサンプルを製造元のプロトコールに従って調製した。簡単に言えば、50μlの標準を「標準ウェル」に添加し、40μlのサンプルを「サンプルウェル」に添加した。次いで10μlの抗TRAP抗体をサンプルウェルに添加し、50μlのストレプトアビジン-HRPをサンプルウェルおよび標準ウェルに添加した。プレートをシーラーで覆い、ロッキングプラットフォームでよく混合し、37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄バッファーで5回洗浄し、各ウェルに50μlの基質溶液Aに加えて50μlの基質溶液Bを添加し、暗所で、37℃で10分間インキュベートした。最後に、50μlの停止溶液を各ウェルに添加し、450nmに設定したマイクロプレートリーダーを使用して即座に光学密度を決定した。
図10に結果を示す。以下の表4に平均およびSDを示す。
【0162】
【0163】
結果は、野生型スパイクが、エストラジオールで観察された作用と同じ作用を細胞に対して発揮することを実証する。それとは逆に、全ての突然変異体SP5、SP7およびSP5+SP7が、RANKLで刺激した対照のものと同じTRAPレベルを示したことから、これらの突然変異が、スパイクタンパク質のエストロゲン受容体を活性化する能力を抑制することが示される。
【国際調査報告】