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特表2024-517415バイオフィルムバイオリアクタにおける遺伝子操作された炭化水素分解性生物を使用するイソプレノイド合成の方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-22
(54)【発明の名称】バイオフィルムバイオリアクタにおける遺伝子操作された炭化水素分解性生物を使用するイソプレノイド合成の方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/52 20060101AFI20240415BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240415BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20240415BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20240415BHJP
   C12N 15/78 20060101ALI20240415BHJP
   C12N 15/74 20060101ALI20240415BHJP
   C12N 9/00 20060101ALI20240415BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20240415BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20240415BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20240415BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20240415BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240415BHJP
   C12M 1/40 20060101ALI20240415BHJP
   C12P 7/24 20060101ALI20240415BHJP
   C12P 9/00 20060101ALI20240415BHJP
   C12N 9/96 20060101ALI20240415BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240415BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20240415BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20240415BHJP
   A61K 8/14 20060101ALI20240415BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C12N15/52 Z
C12N1/21 ZNA
C12N15/54
C12N15/60
C12N15/78 Z
C12N15/74 Z
C12N9/00
C12N9/88
C12N15/53
C12N9/02
C12N9/04 Z
C12N1/20 Z
C12M1/40 A
C12P7/24
C12P9/00
C12N9/96
A61Q19/00
A61K8/31
A61K8/67
A61K8/14
A61K8/73
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563322
(86)(22)【出願日】2022-04-15
(85)【翻訳文提出日】2023-12-11
(86)【国際出願番号】 US2022025100
(87)【国際公開番号】W WO2022221717
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】63/175,858
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523389718
【氏名又は名称】カプラ バイオサイエンシーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】マグヤー アンドリュー ピー.
(72)【発明者】
【氏名】オンデルコ エリザベス
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
4C083
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB02
4B029CC11
4B064AB01
4B064AH01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B065AA41X
4B065AB10
4B065BA02
4B065CA02
4B065CA27
4B065CA44
4B065CA60
4C083AC021
4C083AC022
4C083AD251
4C083AD621
4C083AD622
4C083CC01
4C083CC02
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD45
4C083FF01
(57)【要約】
炭化水素分解性生物において使用するために最適化された、イソプレノイド、カロテノイド及びレチノイドの産生のための合成オペロンを含む遺伝子操作された生物、並びにこの遺伝子操作された生物を含むバイオフィルムバイオリアクタにおけるイソプレノイドの合成及び抽出の方法が本明細書に記載される。
【選択図】図35
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メバロン酸合成経路の1種以上の酵素タンパク質をコードする1種以上の変異遺伝子を含む、遺伝子操作された炭化水素分解性生物。
【請求項2】
前記生物はマリノバクター属種又はシュードモナス属種の生物である請求項1に記載の遺伝子操作された炭化水素分解性生物。
【請求項3】
前記生物はマリノバクター・アトランティカスである請求項2に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項4】
最適化された核酸配列は、野生型遺伝子と比較して、前記変異遺伝子の生物学的活性の増加をもたらす請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項5】
前記1種以上の変異メバロン酸経路遺伝子は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、又は配列番号15からなる群から選択される請求項4に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項6】
前記生物は、β-カロテン合成経路の1種以上の酵素タンパク質をコードする1種以上の変異遺伝子をさらに含む請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項7】
前記変異カロテン経路遺伝子は、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号27、配列番号28、又は配列番号29からなる群から選択される請求項6に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項8】
前記遺伝子操作された生物は、15,15’-ジオキシゲナーゼをコードする変異blh遺伝子(配列番号16)の導入を含み,前記変異blh遺伝子の導入は、レチナール及び/又はレチノールの産生をもたらす請求項7に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項9】
配列番号30を含むレチノールデヒドロゲナーゼをコードする変異ヒトレチノールデヒドロゲナーゼ12(RDH12)遺伝子。
【請求項10】
核酸配列は、配列番号17、配列番号18、又は配列番号20からなる群から選択される請求項9に記載のレチノールデヒドロゲナーゼ遺伝子(RDH12)。
【請求項11】
前記生物は、変異体レチノールデヒドロゲナーゼ12(RDH12)(配列番号30)を発現する変異RDH12遺伝子(配列番号17、配列番号18又は配列番号20)の導入をさらに含み、前記変異RDH12遺伝子の導入は、レチノールへのレチナールの変換をもたらす請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項12】
前記生物は、変異ybbO遺伝子(配列番号19又は配列番号21)の導入を含み、前記変異ybbO遺伝子の導入は、レチノールへのレチナールの変換をもたらす請求項7に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項13】
前記メバロン酸経路の前記変異遺伝子は、配列番号1を含む上流メバロン酸経路の変異オペロンを含む請求項1に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項14】
下流メバロン酸経路の前記変異遺伝子は、配列番号2を含む変異オペロンを含む請求項1に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項15】
前記β-カロテン経路の前記変異遺伝子は、配列番号3、配列番号4、配列番号22、配列番号23、配列番号24又は配列番号25からなる群から選択される変異オペロンを含む請求項6に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項16】
前記変異メバロン酸経路遺伝子は、配列番号1及び配列番号2の変異オペロンを含み、前記変異カロテン経路遺伝子は、配列番号3及び配列番号4の変異オペロンを含む請求項6に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項17】
前記変異メバロン酸経路遺伝子は、配列番号1及び配列番号2の変異オペロンを含み、前記変異カロテン経路遺伝子は、配列番号22及び配列番号26の変異オペロンを含む請求項6に記載の遺伝子操作された生物。
【請求項18】
請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の変異遺伝子配列のうちの1種以上を含む発現ベクター。
【請求項19】
請求項18に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項20】
前記宿主は炭化水素分解性生物である請求項19に記載の宿主細胞。
【請求項21】
前記生物はマリノバクター属種又はシュードモナス属種である請求項20に記載の生物。
【請求項22】
前記生物はマリノバクター・アトランティカスである請求項21に記載の生物。
【請求項23】
配列番号30を含む変異体レチノールデヒドロゲナーゼ12(RDH12)。
【請求項24】
請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の遺伝子操作された生物を含むバイオフィルム。
【請求項25】
バイオフィルムバイオリアクタであて、
a)請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の遺伝子操作された生物であって、前記遺伝子操作された生物を含有するバイオフィルムの増殖及び維持に適した粒子の充填床に支持されている生物と、
b)培地及び供給原料の導入のための入口と、
c)抽出溶液の導入のための第2の入口と
を含む、バイオフィルムバイオリアクタ。
【請求項26】
前記バイオリアクタは、前記バイオリアクタへの封入剤分子の導入を可能にするミキサ又はノズルをさらに含む請求項25に記載のバイオフィルムバイオリアクタ。
【請求項27】
前記抽出溶液は非極性溶媒である請求項25に記載のバイオフィルムリアクタ。
【請求項28】
請求項25から請求項27のいずれか1項に記載のバイオフィルムバイオリアクタを使用するバイオフィルムバイオリアクタにおいてイソプレノイドを製造する方法。
【請求項29】
製造される前記イソプレノイドはβ-カロテンである請求項28に記載の方法。
【請求項30】
製造される前記イソプレノイドはレチノールである請求項28に記載の方法。
【請求項31】
製造される前記イソプレノイドはスクアランである請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記方法は、抗酸化剤又は封入剤を含む抽出溶媒の使用を含む請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記封入剤はシクロデキストリンである請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記封入剤分子はリポソームを形成する請求項33に記載の方法。
【請求項35】
生成物は化粧品原料であり、抽出溶媒は前記化粧品の成分である請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記化粧品原料は皮膚軟化剤である請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記皮膚軟化剤はスクアランである請求項36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で2021年4月16日出願の米国仮出願第63/175,858号の利益を主張する。この出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
ASCIIテキストファイルにおける資料の参照による組み込み
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、この配列表は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2022年4月14日に作成されたこのASCIIコピーは、0412_0001WO1_SL.txtと名付けられ、79,417バイトのサイズである。
【背景技術】
【0003】
イソプレノイド又はテルペノイドは、5炭素化合物イソプレンに由来するクラスの分子である。本来、これは、多くの香辛料の風味を担う分子、及びカロテノイド等の色素分子を包含する。イソプレノイドは、コレステロール等のステロール及びステロイドの合成のための前駆体としても役立つ。これらの分子の多くは、天然に見出され、生物学的に合成することができるが、一般的な化粧品原料であるレチノール等の化合物の商業的製造は、石油化学由来前駆体からの有機合成を伴う。
【0004】
多くのイソプレノイドは植物に由来することもでき、その場合には、それらは天然に存在するが、これらの化合物の濃度はかなり低く(mg/kg)、非効率的な生成、費用のかかる生成物、及び多大な廃棄物につながる。発酵は、Keaslingらによって米国特許第7,172,886号明細書に記載されているように、イソプレノイドを製造するための代替アプローチとして大きい関心を集めている。カロテノイドの製造は、油糧真菌及び油糧酵母において研究されている(米国特許第8,288,149B2号明細書)。しかしながら、多くのイソプレノイドの低い水溶解度は、伝統的な発酵によるそれらの製造の商業的実行可能性を制限する。
【0005】
これらの溶解度の制限及び蓄積された生成物による毒性を克服するために、ヘキサン又はドデカン等の非極性有機溶媒のオーバーレイ(上層)の使用を発酵ブロスに適用して疎水性生成物を第2の相に抽出することができ、これは二相分配バイオリアクタとして知られる設計である(Daugulis 1997;Malinowski 2001)。特に、溶媒オーバーレイは、流加プロセスにおけるセスキテルペンファルネセンの商業生産に使用されている(米国特許第10,106,822B2号明細書)。同様のアプローチが、インサイツ(in situ)抽出による二相系におけるレチノイドの発酵合成に採用されている(米国特許第9,834,794B2号明細書、Jangら、2011年;Sunら、2019年)。
【0006】
伝統的な二相抽出・分配バイオリアクタのアプローチは、生物が典型的には溶媒に対して耐性ではなく、従って溶媒が生物と直接接触しないため、制限される。疎水性生成物は、それらがリアクタから抽出される前にそれらが低い溶解度を有する水相を通って拡散しなければならず、これはリアクタの生産性を制限する可能性がある。イソプレノイド及びレチノイド等の疎水性有機分子を合成するより迅速でより効率的な方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7,172,886号明細書
【特許文献2】米国特許第8,288,149B2号明細書
【特許文献3】米国特許第10,106,822B2号明細書
【特許文献4】米国特許第9,834,794B2号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Daugulis AJ. 1997. Partitioning bioreactors. Curr Opin Biotechnol 8(2):169-174.
【非特許文献2】Malinowski JJ. 2001 Two-phase partitioning bioreactors in fermentation technology. Biotechnol Adv 19:525-538
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、バイオフィルムバイオリアクタにおいて、炭化水素分解性(hydrocarbonoclastic)生物を使用してイソプレノイド、カロテノイド及びレチノイドを製造するための組成物、方法及び装置を包含する。インサイツ溶媒抽出での使用に適合させることができるバイオフィルムバイオリアクタ(例えば、米国出願第62/978,428号、国際公開第2021/168039号パンフレット/米国特許出願公開第2021/0253990号明細書に記載される。これらの教示は参照により本明細書に組み込まれる)は、上述のような生物有機疎水性分子の製造の制限を克服することができるが、溶媒耐性バイオフィルム形成生物を必要とする。具体的には、イソプレノイド及びレチノイドを産生する経路を有する(炭化水素分解細菌としても知られる)炭化水素分解性生物の操作は、例えばバイオフィルム又はバイオフィルムリアクタを使用して、有機溶媒を使用して直接抽出することによって、イソプレノイド及びレチノイドの生物学的合成のより効率的な方法を可能にすることができる。
【0010】
炭素及びエネルギーの供給源として炭化水素化合物を分解して利用することができる原核生物又は古細菌の種から選択される遺伝子操作された炭化水素分解性生物の使用を含む合成方法が本発明に包含される。本明細書に記載されるように、これらの炭化水素分解性生物は、イソプレノイド又はテルペノイド(テルペノイド/イソプレノイドは、5炭素化合物-イソプレン及びイソプレンポリマー、テルペンに由来する有機化合物である)と呼ばれるクラスの化合物を生成(生合成)する方法において使用される。炭化水素を分解して利用することは、マリノバクター属種(Marinobacter spp.)(Gauthier、1992;Handley、2013)又はシュードモナス属種(Pseudomonas spp.)(Isken、1998)等の炭化水素分解性生物の特徴である。
【0011】
具体的には、バイオフィルム又はバイオフィルムバイオリアクタにおいて高収率でイソプレノイド、カロテノイド、又はレチノイド(例えば、生成物分子/化合物は、例えば、レチナール又はレチノイドである)を合成/産生するための、その野生型生物と比較して増加した生物学的活性のために遺伝子操作された炭化水素分解性微生物が本発明に包含される。
【0012】
本発明で使用するのに適した炭化水素分解性微生物は、とりわけ、(例えば、バイオフィルムリアクタにおいて)安定なバイオフィルムを形成する能力、及び疎水性有機溶媒に対する耐性という2つの重要な特徴を有する。このような微生物としては、例えば、マリノバクター属種及びシュードモナス属種が挙げられる。より具体的には、バイオフィルムを形成することができ、疎水性有機溶媒に対する耐性を有する、マリノバクター属種、特にマリノバクター・アトランティカス(Marinobacter atlanticus)等のバイオフィルム形成性炭化水素分解性微生物が本発明に包含される。このような炭化水素分解性生物は、メバロン酸及び/又はカロテン合成経路を構成する1つ、又はより多い(例えば、複数の)遺伝子に1つ、又は複数の核酸又はアミノ酸配列変化/変異を含むように遺伝子操作される。特に、本発明は、メバロン酸経路、β-カロテン経路及びレチノール経路における遺伝子操作されたオペロン及び/又は遺伝子をコードし、例えば、マリノバクター属種における発現のためのコドン調和(codon harmonization)によって操作された核酸(DNA)配列(図1~30に示す配列番号1~30)を提供する。
【0013】
オペロンは、原核生物における遺伝子発現及びタンパク質合成に関与する。本明細書に記載されるオペロンは、1つ以上の生物学的に活性な酵素/タンパク質を産生するように発現される1つ以上の関連遺伝子/遺伝子配列の群(又はその領域)である。オペロンは、所望のタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子配列、プロモーター配列及びオペレーター配列(オペレーター配列は、プロモーター配列内に、又は別個の配列として位置することができる)を含む。オペロンは、DNAのメッセンジャーRNA(mRNA)への転写に関与し、mRNAは次いで原核生物において所望のタンパク質又は酵素産物に翻訳される。
【0014】
本明細書に記載されるとおり、本発明は、対応する野生型(改変されていない)オペロン/遺伝子とは異なる生物学的活性を有する酵素/タンパク質をコードする変異オペロン/遺伝子を包含する。野生型対応物を上回る変異オペロン/遺伝子の増加した生物学的活性の一例は、レチノイド化合物等の所望の生成物の収率を増加させることである。本明細書に記載される別の生物学的活性は、例えばバイオリアクタにおいて、より安定なバイオフィルムを形成する能力/力量である。本明細書に記載される別の生物学的活性は、有機溶媒に対する安定性の向上である。野生型対応物を上回る変異オペロン/遺伝子の増加した生物学的活性の一例は、炭化水素分解性/油糧性バイオフィルム形成生物における必要な遺伝子及びその後の酵素の発現を可能にすることである。
【0015】
例えば、本発明のいくつかの実施形態では、変異遺伝子は、所望の酵素の発現を増加させ、従って所望のレチノイド化合物の合成、収率又は安定性の増加をもたらす遺伝子操作されたプロモーター配列をコードする。別の例では、オペロンを含む特定の遺伝子を再構成して、野生型オペロンとは生物学的活性が異なり、ここでも所望のレチノイド生成物の合成、収率又は安定性の増加をもたらす変異オペロンをもたらすことができる。
【0016】
より具体的には、メバロン酸産生経路に必要とされる酵素をコードするオペロン遺伝子がコドン調和によって最適化されており(本明細書では合成遺伝子とも呼ばれる)、このメバロン酸産生経路は、マリノバクター属種又は類似の炭化水素分解性生物の天然アセチルCoAプールを、レチナール又はレチノール等のイソプレノイドの産生に導くように設計される、遺伝子操作された(本明細書では遺伝子組換え又は改変されたとも呼ばれる)炭化水素分解性微生物が本発明に包含される。そのような微生物は、β-カロテンをレチナール、レチノイン酸、レチノール又はレチニルエステルの産生に導くように設計されたβ-カロテン合成経路の変異遺伝子/オペロンを含むようにさらに改変することができる。
【0017】
本明細書に記載されるように、これらの経路からのこれらの酵素(本明細書では変異体タンパク質又は合成酵素とも呼ばれる)は、性能を改善するように操作される、つまり、これらの改変された酵素配列をコードするヌクレオチド配列は、野生型(非改変)微生物におけるオペロン遺伝子によってコードされる酵素活性と比較して(すなわち、酵素活性に対して相対的に)酵素の生物学的/触媒的活性を変化/改変する(典型的には増加させる)ように(例えば、野生型/天然に存在する対応酵素と配列及び生物学的活性が異なる変異体酵素をもたらすコドン調和、突然変異、挿入又は変更によって)最適化される。上記微生物を遺伝子操作する方法は本明細書に記載され、タンパク質の酵素活性/生物学的活性を評価する方法も本明細書に記載され、当業者に公知である。
【0018】
本発明の遺伝子操作された微生物は、酵素発現が最高収率の生成物合成のために最適化されるような様式で遺伝子が配置されるオペロンへ、レチナール又はレチノールの合成のための複数の遺伝子を特異的に配置することを含む。
【0019】
アセチルCoAをイソペンテニルピロリン酸(イソペンテニル二リン酸、IPP)に変換する酵素をコードする、メバロン酸合成経路(本明細書では、図31におけるようなMVA経路とも呼ばれる)における変異遺伝子を含む生物が本明細書に具体的に記載され、IPPは、すべてのイソプレノイドの基本単位である(米国特許第7,172,866B2号明細書。この教示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。このような変異遺伝子には、核酸配列5、6、7、8、9、10若しくは15(配列番号5、6、7、8、9、10若しくは15)又は配列5、6、7、8、9、10若しくは15と約80、85、90、95、96、97、98若しくは99%の配列同一性を含む配列が含まれる。
【0020】
いくつかの実施形態では、上記生物は、その生物に導入された1つ以上のさらなる変異遺伝子を用いても遺伝子操作され、そのような遺伝子は、IPPをβ-カロテンに変換する酵素をコードするβ-カロテン経路を構成する(図32を参照)。このような変異遺伝子には、核酸配列11、12、13、14、15、17、18、19、20、21、27、28若しくは29(配列番号11、12、13、14、15、17、18、19、20、21、27、28若しくは29)、又は配列11、12、13、14、15、17、18、19、20、21、27、28若しくは29と約80、85、90、95、96、97、98、若しくは99%の配列同一性を含む配列が含まれる。
【0021】
1つの実施形態では、遺伝子操作された生物は、15,15’-ジオキシゲナーゼをコードする変異blh遺伝子(配列16)の導入を含み、変異blh遺伝子の導入は、レチナール及び/又はレチノールの産生をもたらす。
【0022】
配列30を含むレチノールデヒドロゲナーゼをコードする変異体ヒトレチノールデヒドロゲナーゼ12(RDH12)遺伝子及び配列30を含むそのコードされたタンパク質も本発明に包含される。レチノールデヒドロゲナーゼ遺伝子(RDH12)は、配列17、配列18、若しくは配列20(配列番号17、18若しくは30)、又は配列18、19若しくは20と約80、85、90、95、96、96、98、若しくは99%の配列同一性を含む配列からなる群から選択される核酸配列を含むことができる。コードされるRDH12タンパク質は、配列番号30と約80、85、90、95、96、97、98、又は99%の配列同一性を含む配列も包含することができ、このタンパク質は、変異体RDH12活性に匹敵するアルデヒドデヒドロゲナーゼ生物学的活性を有する。また、変異体レチノールデヒドロゲナーゼ12(RDH12、配列30)を発現する変異RDH12遺伝子(配列番号17、18又は20)の導入を含む遺伝子操作された生物が本発明に包含され、この変異RDH12遺伝子の導入は、レチノールへのレチナールの変換をもたらす。
【0023】
変異ybbO遺伝子(配列番号19又は21)の導入を含む遺伝子操作された生物も包含され、変異ybbO遺伝子の導入は、レチノールへのレチナールの変換をもたらす。
【0024】
本明細書に記載される変異オペロン配列を含む遺伝子操作された生物も本明細書に包含される。例えば、本発明の生物は、配列1(配列番号1)を含む上流(upper)メバロン酸経路の変異オペロン及び/又は配列2(配列番号2)を含む下流(lower)メバロン酸経路の変異オペロンを含むことができる。
【0025】
本発明の遺伝子操作された生物は、β-カロテン経路の変異オペロン配列をさらに含むことができ、変異オペロン配列は、配列3、配列4、配列22、配列23、配列24又は配列25(配列番号3、4、22、23、24又は25)からなる配列の群から選択される。
【0026】
本発明の1つの特定の実施形態は、変異メバロン酸経路遺伝子が配列番号1及び配列番号2の変異オペロンを含み、変異カロテン経路遺伝子が配列番号3及び配列番号4の変異オペロンを含む、遺伝子操作された生物を含む。別の特定の実施形態は、変異メバロン酸経路遺伝子が配列番号1及び配列番号2の変異オペロンを含み、変異カロテン経路遺伝子が配列番号22及び配列番号26の変異オペロンを含む、遺伝子操作された生物を含む。
【0027】
本明細書に記載されるすべての核酸配列及びアミノ酸配列は、記載される配列と約80、85、90、95、96、97、98、又は99%の配列同一性の配列同一性を有する配列を含む。そのような配列は、標準的な技術を用いて評価した場合に、記載された配列と同等の生物学的活性(本質的に、いくつかの活性尺度の範囲内で同じ)を有する。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態では、これらの遺伝子/オペロンは、コンピテント(形質転換受容性のある)宿主細胞における遺伝子の発現に適切である/適合する発現ベクター、例えばプラスミド、に導入される。具体的には、本明細書に記載される宿主は、炭化水素分解性微生物、具体的にはマリノバクター属種の生物、より具体的にはマリノバクター・アトランティカス微生物である。本発明の変異遺伝子を含む発現ベクターの導入後、当業者に周知の適切な条件下で、変異遺伝子が、発現のために宿主生物のゲノムに組み込まれる/挿入される。細胞への遺伝子導入の技術は、当業者に公知である。本明細書に記載されるベクター又はプラスミドを含む宿主細胞も本発明に包含される。
【0029】
いくつかの実施形態では、炭化水素分解性生物は、芳香族分子又は脂肪族分子からイソプレノイド、カロテノイド又はレチノイドを生成する。さらに他の実施形態では、炭化水素分解性生物は、短鎖脂肪酸からイソプレノイド、カロテノイド、又はレチノイドを生成する。これらの実施形態のいくつかでは、短鎖脂肪酸は乳廃棄物由来の乳酸である。
【0030】
本発明はさらに、本明細書に記載されるような遺伝子操作された炭化水素分解性微生物を含むバイオフィルム、及び米国特許出願第62/978,428号明細書(現在、国際公開第2021/168039号パンフレット、米国特許出願公開第2012/0253990号明細書として公開されており、その教示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるようなバイオフィルムバイオリアクタであって、微粒子支持体上の遺伝子組換えされたイソプレノイド産生生物のバイオフィルムを、疎水性溶媒を用いた生成物抽出のための統合システムとともに含有するバイオフィルムバイオリアクタを包含する。バイオフィルムバイオリアクタは、例えば、固相、支持体又はマトリクス、例えば充填床を含むことができ、この固相は、本明細書に記載される炭化水素分解性微生物のバイオフィルムを支持するのに適した粒子又はビーズを含む。そのようなバイオリアクタは、図33に示されるとおりであり、バイオフィルムの生物の増殖を持続し、本明細書に記載されるような変異体酵素を産生する生物を維持する培養培地等の培地の導入のための入口を有する。この入口は、所望の最終生成物(例えば、目的のイソプレノイド)の生成に必要な因子を供給するための供給原料の導入にも適している。第2の入口は、例えば、所望の生成物を溶出/収穫/取得するために、抽出溶液の導入のためにバイオリアクタに組み込むことができる。例えば、抽出溶液は、生成物の化学構造の変化/破壊(すなわち、生成物の部分的又は完全な破壊)を最小限に抑えて所望のイソプレノイド生成物を抽出するのに適した非極性溶媒であってもよい。
【0031】
本明細書に記載されるように、本発明のいくつかの実施形態では、バイオリアクタは、抽出された生成物の封入を可能にして最終生成物を安定化させ、分解若しくは酸化を防止又は最小限にするためのミキサ又はノズルを含む。
【0032】
バイオフィルム又はバイオフィルムバイオリアクタにおいて、本明細書に記載されるマリノバクター属種又はシュードモナス属種等の遺伝子操作された炭化水素分解性生物を使用してイソプレノイド、カロテノイド及びレチノイドを製造/合成する方法も本発明に包含される。イソプレノイドβ-カロテン、レチナール、レチノール又はスクアランの製造が、本明細書に記載される方法によって特に包含される。重要なことに、これらの方法は、イソプレノイド生成物の著しい又は実質的な分解なしにイソプレノイドを抽出し、所望の生成物のより高い収率、合成及び/又は安定性をもたらすための有機溶媒(例えば、非極性溶媒)の使用を含む。例えば、本明細書に記載される合成バイオフィルム及びバイオフィルムバイオリアクタ、並びにイソプレノイド及びレチノイドを合成する方法は、抽出溶媒としてのヘキサン、ドデカン、又はオレイン酸の使用を含むことができる。所望の生成物は、当業者に公知である技術によって決定することができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、抽出溶媒は、具体的には、生成物の酸化又は分解を防止するために、抗酸化剤又は封入剤を含有する。例えば、抽出溶媒は、生成物分子を安定化させるためにシクロデキストリン等の分子を含むことができる。他の実施形態では、溶媒微小液滴中に分散された脂質分子を使用して、同時に生成物を抽出し、生成物をリポソーム中に封入する。
【0034】
本発明の具体的な実施形態では、当該方法は、化粧品の配合物において原料(ingredient)又は成分(component)として使用されるイソプレノイドの製造/合成を包含し、この化粧品原料は、従来の方法によって製造されたイソプレノイド中に見出されてもよい汚染物質を実質的に含まない。例えば、生成物レチノールは、ヒトでの使用のために製造される化粧品クリーム又は軟膏にしばしば使用されるので、レチノールの純度は極めて重要である。最終生成物の純度、又は汚染(混入)の程度、又は汚染の欠如の評価は、当業者に公知の方法によって行うことができる。具体的には、本明細書に記載される方法の生成物は、獣医学的使用又はヒトでの使用に好適な化粧品原料(例えば、化粧用顔用クリーム中のレチノール)であり、当該方法の抽出溶媒は、化粧品調製物/配合物の成分又は好適な追加原料である。例えば、その化粧品原料は皮膚軟化剤であってもよく、1つの実施形態では、皮膚軟化剤はスクアランである。
【0035】
従って、本明細書に記載される本発明及びその実施形態の結果として、イソプレノイド、カロテノイド及びレチノイドの製造のための改善された費用効果の高い方法が現在利用可能である。
【0036】
様々な新規な構成の詳細及び部品の組み合わせを含む本発明の上記及び他の特徴、並びに他の利点は、これより添付の図面を参照してより詳細に説明され、特許請求の範囲で指摘される。本発明を具体化する特定の方法及び装置は、例示として示されており、本発明を限定するものではないことが理解されるであろう。
【0037】
本発明の原理及び特徴は、本発明の範囲から逸脱しない範囲で、様々な多数の実施形態において採用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
添付の図面において、参照符号は、異なる図を通して同じ部分を指す。図面は必ずしも縮尺通りではない。代わりに、本発明の原理を説明することに重点が置かれている。特許又は出願ファイルは、カラーで実行される少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を有するこの特許又は特許出願公開のコピーは、要求し必要な料金を支払うと庁によって提供される。図1~30は、マリノバクター・アトランティカスにおけるイソプレノイド合成のために最適化されたメバロン酸及びβ-カロテン経路のオペロン遺伝子を示す。
【0039】
図1】配列1(配列番号1):MVA1(mvaE→mvaS)。mvaE遺伝子及びmvaS遺伝子のコドン調和バージョンを有する、上流メバロン酸経路を含有するオペロン。これらの遺伝子は、それぞれアセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ及びHMG-CoAシンターゼの発現をコードする。オペロン中の遺伝子間には-1のスペーシング(spacing)がある。
図2】配列2(配列番号2):MVA2(ldi→mvaK2→mvaD→mvaK1)。idi遺伝子、mvaK2遺伝子、mvaD遺伝子、及びmvaK1遺伝子のコドン調和バージョンを有する、下流メバロン酸経路及びβカロテン経路由来の1つの酵素を含有するオペロン。これらの遺伝子は、それぞれイソペンテニル-PPイソメラーゼ、ホスホメバロン酸キナーゼ、5-ジホスホメバロロン酸デカルボキシラーゼ、及びメバロン酸キナーゼの発現をコードする。オペロン中の遺伝子間には-1のスペーシングがある。
図3】配列3(配列番号3):CRT1.1(crtE→blh→crtY)。crtE、blh、及びcrtY遺伝子のコドン調和バージョンを有する、βカロテン経路における2つの遺伝子及びレチノールへのβカロテンの変換のための遺伝子を含有するオペロン。これらの遺伝子は、GGPPシンターゼ、15,15’-ジオキシゲナーゼ、及びリコペンシクラーゼの発現をコードする。
図4】配列4(配列番号4):CRT2.1(crtI→crtB→ispA)。crtI、crtB、及びispA遺伝子のコドン調和バージョンを有する、βカロテン経路における遺伝子のうちの3つを含有するオペロン。これらの遺伝子は、フィトエンデサチュラーゼ、フィトエンシンターゼ、及びファルネシルジホスフェートシンターゼの発現をコードする。
図5】配列5(配列番号5):mvaE。エンテロコッカス・フェカリス(フェカリス菌、Enterococcus faecalis)に由来し、アセチルCoAトランスフェラーゼの発現をコードする、mvaEのコドン調和バージョン。
図6】配列6(配列番号6):mvaS。エンテロコッカス・フェカリスに由来し、HMG-CoAシンターゼの発現をコードする、mvaSのコドン調和バージョン。
図7】配列7(配列番号7):mvaK1。ストレプトコッカス・ニューモニエ(肺炎連鎖球菌、Streptococcus pneumoniae)ATCC6314に由来し、メバロン酸キナーゼの発現をコードするmvaK1のコドン調和バージョン。
図8】配列8(配列番号8):mvaK2。ストレプトコッカス・ニューモニエATCC6314に由来し、ホスホメバロン酸キナーゼの発現をコードするmvaK2のコドン調和バージョン。
図9】配列9(配列番号9):mvaD。ストレプトコッカス・ニューモニエATCC6314に由来し、5-ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの発現をコードする、mvaDのコドン調和バージョン。
図10】配列10(配列番号10):idi。大腸菌(エシェリキア・コリ、Escherichia coli)K-12株W3110亜株(派生株)に由来し、イソペンテニル-PPイソメラーゼの発現をコードする、mvaDのコドン調和バージョン。
図11】配列11(配列番号11):crtE。パンテア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)KCCM40420に由来し、GGPPシンターゼの発現をコードする、crtEのコドン調和バージョン。
図12】配列12(配列番号12):crtB。パンテア・アグロメランスKCCM40420に由来し、フィトエンシンターゼの発現をコードする、crtBのコドン調和バージョン。
図13】配列13(配列番号13):crtI。パンテア・アグロメランスKCCM40420に由来し、フィトエンデサチュラーゼの発現をコードする、crtIのコドン調和バージョン。
図14】配列14(配列番号14):crtY。パンテア・アグロメランスKCCM40420に由来し、リコペンシクラーゼの発現をコードする、crtYのコドン調和バージョン。
図15】配列15(配列番号15):ispA。大腸菌K-12株W3110亜株に由来し、ファルネシルジホスフェートシンターゼの発現をコードする、ispAのコドン調和バージョン。
図16】配列16(配列番号16):blh。未培養海洋細菌66A03(韓国特許出願公開第1020160019480号明細書-A32 2016年2月19日)に由来し、15,15’-ジオキシゲナーゼの発現をコードする、blhのコドン調和バージョン。
図17】配列17(配列番号17):RDH12。ホモ・サピエンス(ヒト、Homo sapiens)に由来し、レチノールデヒドロゲナーゼの発現をコードする、RDH12のコドン調和バージョン。
図18】配列18(配列番号18):RDH12短。ホモ・サピエンスに由来し、N末端膜貫通αヘリックスが排除されたレチノールデヒドロゲナーゼの発現をコードする、RDH12のコドン調和バージョン。
図19】配列19(配列番号19):yBBO。大腸菌に由来し、オキシドレダクターゼの発現をコードする、YBBOのコドン調和バージョン。
図20】配列20(配列番号20):rdh12-His6。ホモ・サピエンスに由来し、ヘキサヒスチジン親和性タグ(配列番号39)を有するレチノールデヒドロゲナーゼの発現をコードする、RDH12のコドン調和バージョン。
図21】配列21(配列番号21):yBBO。大腸菌に由来し、オキシドレダクターゼヘキサヒスチジン親和性タグ(配列番号39)の発現をコードするYBBOのコドン調和バージョン。
図22】配列22(配列番号22):CRT1.2(crtE→blh→crtY→rdh12)。crtE、blh、crtY及びRDH12遺伝子のコドン調和バージョンを有する、βカロテン経路における2つの遺伝子及びレチノールへのβカロテンの変換のための遺伝子を含有するオペロン。これらの遺伝子は、GGPPシンターゼ、15,15’-ジオキシゲナーゼ、リコペンシクラーゼ、及びヒトレチノールデヒドロゲナーゼの発現をコードする。配列は、-1のスペーシングを維持しながら、切断されていないメチオニンを配列の始めに付加する可能性を排除し、これによりタンパク質の産生及び/又は活性を変化させるように改変された。
図23】配列23(配列番号23):CRT1.2(crtE→blh→crtY→rdh12)。crtE、blh、crtY及びRDH12-his6遺伝子のコドン調和バージョンを有する、βカロテン経路における2つの遺伝子及びレチノールへのβカロテンの変換のための遺伝子を含有するオペロン。これらの遺伝子は、GGPPシンターゼ、15,15’-ジオキシゲナーゼ、リコペンシクラーゼ、及びhis6標識(「his6」は配列番号39として開示される)ヒトレチノールデヒドロゲナーゼの発現をコードする。配列は、-1のスペーシングを維持しながら、切断されていないメチオニンを配列の始めに付加する可能性を排除し、これによりタンパク質の産生及び/又は活性を変化させるように改変された。
図24】配列24(配列番号24):CRT1.4(crtE→blh→crtY→ybbo)。crtE、blh、crtY及びybbo遺伝子のコドン調和バージョンを有する、βカロテン経路における2つの遺伝子及びレチノールへのβカロテンの変換のための遺伝子を含有するオペロン。これらの遺伝子は、GGPPシンターゼ、15,15’-ジオキシゲナーゼ、リコペンシクラーゼ、及びオキシドレダクターゼの発現をコードする。配列は、-1のスペーシングを維持しながら、切断されていないメチオニンを配列の始めに付加する可能性を排除し、これによりタンパク質の産生及び/又は活性を変化させるように改変された。
図25】配列25(配列番号25):CRT1.4(crtE→blh→crtY-ybbo-his6)。crtE、blh、crtY及びybbo-his6遺伝子のコドン調和バージョンを有する、βカロテン経路における2つの遺伝子及びレチノールへのβカロテンの変換のための遺伝子を含有するオペロン。これらの遺伝子は、GGPPシンターゼ、15,15’-ジオキシゲナーゼ、リコペンシクラーゼ、及びhis6標識(「his6」は配列番号39として開示される)オキシドレダクターゼの発現をコードする。配列は、-1のスペーシングを維持しながら、切断されていないメチオニンを配列の始めに付加する可能性を排除し、これによりタンパク質の産生及び/又は活性を変化させるように改変された。
図26】配列26(配列番号26):CRT2.2(crtI→crtB→ispA)。-1のスペーシングを維持しながら、切断されていないメチオニンを配列の始めに付加する可能性を排除し、これによりタンパク質の産生及び/又は活性を変化させるように改変されたCRT2.1オペロン。
図27】配列27(配列番号27):crtE。-1のスペーシングを維持しながら、切断されていないメチオニンを配列の始めに付加する可能性を排除し、これによりタンパク質の産生及び/又は活性を変化させるように改変されたcrtE遺伝子。
図28】配列28(配列番号28):crtY。-1のスペーシングを維持しながら、切断されていないメチオニンを配列の始めに付加する可能性を排除し、これによりタンパク質の産生及び/又は活性を変化させるように改変されたcrtY遺伝子。
図29】配列29(配列番号29):crtI。-1のスペーシングを維持しながら、切断されていないメチオニンを配列の始めに付加する可能性を排除し、これによりタンパク質の産生及び/又は活性を変化させるように改変されたcrtI遺伝子。
図30】配列30(配列番号30):RDH12短。N末端膜貫通αヘリックスが排除されたレチノールデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列。
図31】メバロン酸経路の概略図を示す。
図32】β-カロテン及びレチノール経路の概略図を示す。
図33】イソプレノイド、カロテノイド、及びレチノイドの合成及び抽出のために設計されたバイオフィルムバイオリアクタの設計を示す。
図34A】図は、M.アトランティカスによるレチノール及びレチノイン酸の産生を示すGC-MSデータを示す。ガスクロマトグラムの全スペクトルがパネルAに示されている。
図34B】図は、M.アトランティカスによるレチノール及びレチノイン酸の産生を示すGC-MSデータを示す。レチノール及びレチノイン酸の選択的反応モニタリングが、レチノール及びレチノイン酸標準物質並びにレチノイド産生株からのヘキサン抽出物のパネルBに示されている。
図35】レチノイン酸及びレチナールの標準物質と比較したレチノイド産生M.アトランティカス培養物から収集した溶媒オーバーレイのUV-vis吸光度スペクトルを示す。天然ワックスエステル炭素貯蔵経路のノックアウトは、レチノール産生の増加をもたらす。
図36】レチノール産生M.アトランティカス培養物の溶媒抽出物についての360nmのUV-Vis吸光度データのプロットを示す。経時的な吸光度の増加は、レチノイド産生を示す。バイオフィルムレチノール試料中の培地の更新(refreshing)は、レチノイド産生を再開する。
【発明を実施するための形態】
【0040】
これより、本発明は、本発明の例示的な実施形態が示されている添付の図面を参照して、以下でより完全に説明される。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具現化されてもよく、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「及び/又は」は、関連する列挙された項目のうちの1つ以上の任意の及びすべての組み合わせを含む。また、使用されるすべての接続詞は、可能な限り最も包括的な意味で理解されるべきである。従って、「又は」という語は、文脈上明らかに別の解釈が必要である場合を除き、論理学的な「排他的論理和」の定義ではなく、論理学的な「和(又は)」の定義を有するものとして理解されるべきである。さらに、単数形及び冠詞「a」、「an」及び「the」は、明示的に特段の記載がない限り、複数形も含むものとする。
【0042】
さらに、本明細書で使用される場合、includes(含む)、comprises(含む)、including(含む)及び/又はcomprising(含む)という用語は、述べられた特徴、整数、工程、動作、要素、及び/又は構成要素の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、整数、工程、動作、要素、構成要素、及び/若しくはそれらのグループの存在又は追加を排除しないことが理解されるであろう。さらに、構成要素又はサブシステムを含む要素が、別の要素に接続又は結合されると言及及び/又は示されるとき、その要素は、他の要素に直接接続若しくは結合されることができ、又は介在要素が存在してもよいことが理解されるであろう。
【0043】
「第1の」及び「第2の」等の用語は、本明細書では様々な要素を説明するために使用されるが、これらの要素はこれらの用語によって限定されるべきではないことが理解されよう。これらの用語は、ある要素を別の要素と区別するためにのみ使用される。従って、以下で論じられる要素は、第2の要素と呼ぶことができ、同様に、第2の要素は、本発明の教示から逸脱しない範囲で、第1の要素と呼ぶことができる。
【0044】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。一般に使用される辞書で定義されるもの等の用語は、関連技術の文脈における意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、本明細書で理想化された意味又は過度に形式的な意味で明示的に定義されない限り、そのように解釈されるべきではないことがさらに理解されるであろう。
【0045】
本明細書に記載されるように、本発明は、高収率及び高純度で効率的な様式でバイオフィルム又はバイオフィルムバイオリアクタにおいてイソプレノイド、カロテノイド、及びレチノイドを合成するように特異的に操作された遺伝子操作された炭化水素分解性微生物を包含する。イソプレノイド、カロテノイド及びレチノイドの大部分は水溶性ではなく、これは伝統的な発酵性生合成に課題を提示する。これらの分子を生成するためにバイオフィルムバイオリアクタを使用することは、分子を抽出するためにヘキサン、デカン、ドデカン、オレイン酸、又は植物油等の疎水性又は非極性溶媒を使用することによって、より効率的かつより良好な品質(例えば、他の伝統的な製造方法と比較して、汚染の低減又は純度の向上)の生成物合成を可能にすることができる。このスタイルのバイオフィルムバイオリアクタでは、細胞/微生物は、カラムに充填されるビーズ(約10ミクロン(10μm)~500ミクロン(500μm)、例えば、約10ミクロン(10μm)、20ミクロン(20μm)、30ミクロン(30μm)等から約100ミクロン(100μm)、200ミクロン(200μm)、300ミクロン(300μm)、400ミクロン(400μm)又は500ミクロン(500μm)まで)等の小さな粒子の表面上で増殖する。適切なカラムは当業者に公知である。供給原料を含有する増殖培地をカラムを通して循環させ、バイオフィルム中の細胞(つまり、本明細書に記載される遺伝子操作された炭化水素分解性細胞を含むバイオフィルム)は、供給原料を、産生するように操作された生成物(例えば、イソプレノイド)に変換する。抽出溶媒はバイオリアクタに導入され、バイオフィルム中に存在する遺伝子操作された炭化水素分解性生物との接触を維持し、生成物を疎水性相に取り出す/抽出する/溶出するのに適した時間、条件(例えば、流量及び温度)下で、本発明の遺伝子操作された微生物を含むバイオフィルムと接触させられる。次いで、溶出された生成物は、その特定の使用のため、又はさらなる処理、例えば、さらなる精製工程、濃縮、他の成分/原料との混合物、又は適切な保存のための処理のために捕捉される。
【0046】
バイオフィルムは、生成物及び抽出溶媒の両方の毒性効果に対して細胞にいくつかの固有の保護を提供する。炭化水素を分解する微生物である炭化水素分解性生物は、本質的に水中の油滴の表面に直接バイオフィルムを形成することが多いため、このタイプのバイオリアクタにおける生成物合成に特によく適している。その結果、これらの生物は、溶媒分子の能動的な輸送(Iksen 1998;Ramos 2002)及び非極性溶媒に対する耐性を改善する生物系界面活性剤の産生(Raddadi 2017)を含むいくつかの生物学的特徴を発達させた。
【0047】
多くの炭化水素分解性生物は、過剰の炭素供給原料を後の使用のためにワックスエステルの生成に導く天然炭素貯蔵経路(Klauscher 2007;Manila-Perez 2010)を含む。代替生成物を生成するために、生物を操作して、この炭素貯蔵経路を経路変更することができる。大腸菌(E.coli)等のモデル生物とは異なり、多くの炭化水素分解性生物は、新しい代謝経路を導入するためのよく発達した手順を有さず、これは、その生物を操作して新しい経路を生成するための前提条件である。マリノバクター属のいくつかの種の遺伝子操作を可能にする遺伝子系が開発されている(Sonnenschein 2011;Bird 2018)。
【0048】
大腸菌とは異なり、多くのマリノバクター属種及び類似の生物は、酢酸等の短鎖脂肪酸の代謝のための経路を含む。従って、グルコースを酢酸に変換する経路を標的生物に導入する必要はない。
【0049】
バイオフィルム又はバイオフィルムバイオリアクタにおいてマリノバクター属種を使用して、カロテノイド及びレチノイドを含むイソプレノイドを生成する方法が本明細書に記載される。より具体的には、レチノールのバイオリアクタ合成の完全な経路が本明細書に記載されている。レチノール経路は、メバロン酸及びβ-カロテン経路を含み、代替生成物の生成は、この経路の一部のみを使用することによって達成することができる。この経路は、アセチルCoAのプールで始まる。マリノバクター及び同様の生物において、アセチルCoAのこのプールは、ワックスエステルの生成のための炭素貯蔵経路の一部である。本発明のいくつかの実施形態では、この宿主生物は、天然ワックスエステル経路をノックアウトするように操作される。
【0050】
上流メバロン酸経路は、Jangら、2012年に記載されるように、アセチルCoAをメバロン酸に変換する。まず、アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼを発現するmvaE遺伝子(配列5)は、2つのアセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに変換し、次に、mvaS遺伝子は、アセトアセチル-CoA及びアセチル-CoAからβ-ヒドロキシ β-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)を生成するHMG-CoAシンターゼを発現する。いくつかの実施形態では、mvaSの110位のアラニンはグリシンで置換され、これは全体的な収率を改善することができる。mvaE遺伝子は、上流メバロン酸経路の最終工程として、HMG-CoAをメバロン酸に変換するHMG-CoAレダクターゼも与える。mvaE及びmvaS遺伝子(配列6)は、エンテロコッカス・フェカリスに由来する。
【0051】
次に、Yoonら、2009に記載されているように、下流メバロン酸経路はメバロン酸からIPPへ変換する。下流メバロン酸経路において、mvaK1遺伝子(配列7)は、メバロン酸及びATPからメバロン酸-5-リン酸を生成するメバロン酸キナーゼをコードする。次に、mvaK2遺伝子(配列8)は、メバロン酸-5-リン酸をメバロン酸-5-ピロリン酸に変換するホスホメバロン酸キナーゼをコードする。mvaD遺伝子(配列9)は、メバロン酸-5-ピロリン酸をIPPに変換する5-ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを生成する。mvaK1、mvaK2、及びmvaD遺伝子は、ストレプトコッカス・ニューモニエATCC6314に由来する。
【0052】
β-カロテン経路は、IPPからβ-カロテンを生成する(Yoon 2007、Kang、2005)。第1の工程において、idi遺伝子(配列10)は、IPPをDMAPPに変換するイソペンテニル-PPイソメラーゼ(Yoon 2009)をコードする。次に、ファルネシルジホスフェートシンターゼをコードするispA遺伝子(配列15)は、DMAPP及びIPPからFPPを生成する。crtE遺伝子(配列11)産物(GGPPシンターゼ)は、FPP及びIPPからGGPPを生成する。次に、crtB遺伝子(配列12)産物(フィトエンシンターゼ)はGGPPからフィトエンを生成し、crtI遺伝子(配列13)産物(フィトエンデサチュラーゼ)はフィトエンをリコペンに変換する。最後に、crtY遺伝子(配列14)産物(リコペンシクラーゼ)は、リコペンをβ-カロテンに変換する。ipi及びispA遺伝子は大腸菌K-12株W3110亜株に由来する。crtE、crtB、crtI、及びcrtYは、パンテア・アグロメランスKCCM40420に由来する。
【0053】
レチナールへのβ-カロテンの変換は、blh遺伝子によってコードされる15,15’-ジオキシゲナーゼによって行われる。レチノールへのレチナールの変換は自発的に起こる。Blh(配列16)は、非培養海洋細菌66A03(韓国特許出願公開第1020160019480号明細書-A32 2016年2月19日)に由来する。
【0054】
レチナールをレチノールに能動的に還元するために、レダクターゼ酵素を使用することができる。適切な酵素は、大腸菌由来のybbO遺伝子(配列19)によってコードされるオキシドレダクターゼ(Jang、2015)である。別の実施形態では、遺伝子RDH12(配列17)によってコードされるヒトレチノールデヒドロゲナーゼが、レチナールをレチノールに変換するために使用される。ヒトレチノールデヒドロゲナーゼ12は内在性膜タンパク質である。RDH12は、サッカロマイセス・セレビシエ(Sacchromyces cervisiae)におけるレチノール対レチナールの選択的産生を改善することが示されているが(Lee、2022)、RDH12の細菌発現の試みは、溶解度が低いため、活性酵素を得ることができなかった(Burgess-Brown、2008)。RDH12酵素はN末端膜貫通αヘリックスを有することが特定され、このN末端膜貫通αヘリックスが酵素の低い溶解性に寄与する可能性が高い。N末端から最初の26アミノ酸を排除するRDH12タンパク質の改良版を発現する遺伝子が設計された(配列30)。RDH12を収録する日本のDNAデータベース、アクセッション番号BC025724は、アミノ酸163にグルタミン(Q)を有するが、多くの他のレチノールデヒドロゲナーゼ及びRDH12のUniprotリストのQ96N48は、アミノ酸163にアルギニンを有する。本発明の異なる実施形態は、これらの配列のいずれかを含むことができる。
【0055】
各遺伝子の最適な発現を促進するために、核酸配列は、コドン調和によって宿主生物に対して最適化された。コドン調和は、ドナー生物及び宿主生物におけるコドン使用頻度を評価し、導入された遺伝子におけるコドン分布を宿主のために最適化する。コドン調和は、各遺伝子についてCodonWizardソフトウェア(Rehbein 2019)を用いて行われた。宿主生物及びドナー生物の両方についてのコード核酸配列についてのコドン使用頻度が決定され、次いで、コドン調和アルゴリズムがドナー核酸配列に適用された。
【0056】
合成を容易にするため、及びタンパク質発現を最適化するために、オペロンが、オペロン内の遺伝子間に-1のスペーシングを有する遺伝子の4つのグループ分けを用いて設計された。これらのグループ分けは以下の通りである:MVA1(配列1):mvaE→mvaS;MVA2(配列2):idi→mvaK2→mvaD→mvaK1;CRT1(配列3):crtE→bhI→crtY;CRT2(配列4):crtI→crtB→ispA。
【0057】
RDH12又はybbOを含めるために、その遺伝子は、CRT1オペロン、CRT1.2 crtE→bh1→crtY→RDH12又はCRT1.3(配列3):crtE→bhI→crtY→ybbOに付加された。いくつかの実施形態では、個々の遺伝子配列は、タンパク質発現のより容易な特徴付けを可能にするために、タンパク質上にHIS-6タグ(配列番号39)を含むように改変される。
【0058】
合成オペロンCRT1.2~CRT1.4及びCRT2.2が上記のように作製され、crtE、crtY及びcrtI遺伝子は、-1のスペーシングを維持しながら、切断されていないメチオニンを配列の始めに付加する可能性を排除し、これによりタンパク質の産生及び/又は活性を変化させるように改変された。
【0059】
これらの合成オペロン内又は合成オペロン間で遺伝子を並べ替えるか、又は各遺伝子を別個の遺伝子制御エレメント(例えば、プロモーター、RBS、転写ターミネーター)の制御下に置いて、これらの遺伝子のそれぞれについて最適な発現レベル及び対応する遺伝子産物の最適な産生を達成することが望ましい場合がある。
【0060】
これらの遺伝子は、ギブソン(Gibson)アセンブリ又は当業者に公知の同等の技術を用いて集められ、大腸菌において単一のプラスミドにクローニングされる。いくつかの実施形態では、各グループは構成的プロモーターの制御下にあるが、他の実施形態では、各遺伝子は個々の構成的プロモーターを有する。lacプロモーターが好ましく、tac、trp及びosmYがさらなる可能なプロモーターである。固定相での使用に適し、特定の炭化水素分解性生物と適合する他のプロモーターも使用することができる。このプラスミドは、Bird、2018に記載されているように、大腸菌とのコンジュゲーションを介して宿主生物(例えば、M.アトランティカス)に導入される。バイオフィルムにおけるより長期の生成物合成を可能にするために、組込みプラスミドの使用は、相同組換えによる宿主ゲノムへの遺伝子の組込みを可能にする。
【0061】
バイオリアクタにおいてレチノールを合成する方法は、バイオリアクタの調製から始まる。操作されたイソプレノイド経路を含有する炭化水素分解性生物の終夜培養物が、バイオフィルム促進培地中で、粒子状バイオフィルム支持材料(例えば、ガラス、プラスチック、炭素、木材)とともに6~24時間インキュベートされ、これらの粒子にバイオフィルムが播種される。支持体粒子上のバイオフィルムは凍結乾燥され、次いで滅菌支持材料と混合され、充填床構成で約1:10の比でバイオリアクタに導入される。このバイオリアクタは最初に約24~100時間稼働され、安定で生産的なバイオフィルムの形成が促進される。その初期期間の後、炭素源及び他の栄養素を含有する培地が、炭素源がバイオフィルムによって生成物に変換される状態で、リアクタを通して連続的に循環される。定期的に、疎水性抽出溶媒がリアクタに導入され、バイオフィルム中の細胞から生成物が取り出される。適切な溶媒には、ヘキサン、デカン、ドデカン、スクアラン、ファルネセン、オレイン酸等の液体脂肪酸、鉱油及び植物油が含まれる。いくつかの実施形態では、この有機溶媒は、バイオリアクタの断面全体を満たすプラグ(栓)として導入されるが、他の実施形態では、有機溶媒は、小さな液滴に分散され、培地とともにバイオリアクタに導入される。
【0062】
溶媒は、いくつかの実施形態では、レチナール又はレチノール等の酸化を受けやすい生成物を保護する追加の界面活性剤又は封入剤を含有してもよい。これらの封入剤は、シクロデキストリン等の分子を含んでもよく(Semenova 2002)、又はリポソーム中に生成物分子を封入するために使用することができるホスファチジルコリン又はコレステロール等の脂質分子を含んでもよい(Singh 1998)。この即時封入は、その後の精製工程を通して起こり得る酸化を阻害することによって生成物活性を改善するという利点を有する。疎水性溶媒相は、疎水性膜からなる受動相分離器を用いて水相から分離することができる。いくつかの実施形態では、生成物は、次いで、蒸留又は凍結乾燥によって溶媒相から精製される。他の実施形態では、サイズに基づいて生成物を分離するために、濾過が使用される。なおさらなる実施形態では、抽出溶液を最終/末端生成物に組み込むことができる。
【実施例
【0063】
実施例1:レチノイドを産生するためのM.アトランティカスの操作
M.アトランティカスにおけるレチノール産生を実証するために、pBBR-mev及びpSEVA.652.retプラスミドを、野生型M.アトランティカス又はワックスエステル炭素貯蔵経路をノックアウトしたM.アトランティカス株、ΔΔM.アトランティカス(Birdら、2018)に導入した。pBBR-mevは、pBBR1-MCS2プラスミド骨格を含有し、メバロン酸経路が多重クローニング部位に挿入されている。pSEVA651.retは、pSEVA.651プラスミド骨格を含有し(Silva-Rocha、2013)、メバロン酸経路の末端産物であるジメチルアリルピロリン酸をレチノールに変換するために必要な遺伝子が多重クローニング部位に挿入されている。
【0064】
pBBR1-MCS2骨格において、mvaE及びmvaSを、mvaE終止コドンの最後のヌクレオチドがmvaSのATG開始コドンの最初のヌクレオチドでもある、2つの遺伝子間の-1のスペーシングで合成オペロンに配置した。この合成オペロンを、配列TGGTGCAAAACCTTTCGCGGTATGGCATGATAGCGCC(配列番号31)を有する構成的lacプロモーター(pLacQI)及び配列tactagagaaagaggggaaatactag(配列番号32)を有するリボソーム結合部位(B0064)の制御下に置いた。配列CCAATTATTGAAGGCCTCCCTAACGGGGGGCCTTTTTTTGTTTCTGGTCTCCC(配列番号33)を有する転写ターミネーター(L3S3P21)(Chen 2013)をmvaSの後に配置した。
【0065】
第2の合成オペロンは、以下の順序で含有した:idi、mvaK2、mvaD、及びmvaK1。各遺伝子は、各遺伝子間に、終止コドンの最後のヌクレオチドが後続の開始コドンの最初のヌクレオチドである-1のスペーシングを有していた。この第2のオペロンを、配列TTTACACTTTATGCTTCCGGCTCGTATGTTG(配列番号34)を有する構成的lacプロモーター、及び配列TAGTACATTAAAGAGGAGAAATAGTAC(配列番号35)を有するリボソーム結合部位(B0030)の制御下に置いた。
【0066】
pSEVA.651骨格内で、crtE、blh、crtY、及び切断型RDH12を、停止コドンの最後のヌクレオチドが後続の開始コドンの最初のヌクレオチドである、各遺伝子間の-1のスペーシングで合成オペロン(CRT1.2)に配置した。この合成オペロンを、配列TTTACACTTTATGCTTCCGGCTCGTATGTTGTGTGGAATTGTGAGCGTCTAGTAGAAGGAGGAGATCTGGATCCAT(配列番号36)を有する構成的lacプロモーター及びRBSの制御下に置いた。配列CTCGGTACCAAATTCCAGAAAAGAGGCCTCCCGAAAGGGGGGCCTTTTTTCGTTTTGGTCC(配列番号37)を有する転写ターミネーター(L3S2P21)(Chen、2013)をRDH12の後に配置した。
【0067】
第2のオペロン(CRT2.1)において、crtI、crtB、及びispAを、列挙した順序で、上記のように各遺伝子間の-1のスペーシングで配置した。このオペロンを、配列aaaacctttcgcggtatggcatgatagcgcccggaagagagtcaattcagggaggtgaat(配列番号38)を有する構成的lacプロモーター及びリボソーム結合の制御下に置いた。
【0068】
上記pBBR-mevプラスミドを、pBBR-mevで形質転換したジアミノピメリン酸(DAP)栄養要求性ドナー株大腸菌WM3064を用いたコンジュゲーションを介して野生型M.アトランティカス又はΔΔM.アトランティカスに導入した。pBBR-mevプラスミドを含有するΔΔM.アトランティカスコロニーを、カナマイシンの存在下及びDAPの不存在下で選択した。M.アトランティカスへのpBBR-mevプラスミドの導入の成功を、PCR及びその後のDNA配列決定によって確認した。次いで、pSEVA.651.retプラスミドを大腸菌WM3064に形質転換し、選択寒天中でゲンタマイシンを添加して選択プロセスを繰り返した。pBBR-mev及びpSEVA.651.retプラスミドの両方の導入及び維持の成功を、PCR及びDNA配列決定によって確認した。
【0069】
レチノイド産生を評価するために、個々のコロニーの終夜培養物を増殖させた。終夜培養物を塩水培地で1:100に希釈し、12時間増殖させた。終夜培養物からの細胞をペレット化し、凍結乾燥し、次いでn-ヘキサンで処理してレチノイドを抽出した。レチノイン酸及びレチノールの生成の成功は、GC-MS、図34及びUV-Vis、図35によって観察した。
【0070】
実施例2:スクアラン、ドデカン中のレチノールの抽出
レチノイドの連続製造及び疎水性有機溶媒中へのそれらの抽出を実証するために、メバロン酸経路及びレチノール経路の両方のためのプラスミドを含有するように操作したM.アトランティカス株の培養物を、単一コロニーからの富栄養培地(例えば、富栄養塩水培地)中で一晩増殖させる。天然ワックスエステル産生株及び2つのワックスエステル産生遺伝子をノックアウトした株の両方を評価した。これらの培養物を、16mmのパイレックス(登録商標)培養チューブ中の3mLの新鮮な培地中で1:100に希釈する。最小人工海水培地及び富栄養培地を用いた増殖条件、並びにガラスビーズを用いたバイオフィルム形成条件及び浮遊増殖条件の両方を試験した。いくつかの試料において、0.5~1mLの有機溶媒の抽出溶媒をオーバーレイとして使用して、培養物からレチノールを連続的に取り出した。試料を少なくとも12時間及び48時間まで増殖させた。抽出溶液の試料を経時的に採取した。レチノイド産生をUV-Visによって特徴付けた。図34は、ドデカン及びスクアランの両方へのレチノイド抽出を示す。レチノール産生の動態を図35に示す。レチノール濃度は約12時間でピークに達したが、レチノール産生は、本明細書に記載される追加の栄養素の添加時にバイオフィルム試料中で再開することができた。
【0071】
実施例3:バイオフィルムバイオリアクタにおけるレチノールの産生
メバロン酸経路及びレチノール経路の両方のためのプラスミドを有するM.アトランティカス株の培養物を、富栄養塩水培地中で一晩増殖させる。バイオフィルム形成を促進するように設計したシリカ固体支持体及び塩水培地を含む培養フラスコに終夜培養物を接種する。翌日、バイオフィルム被覆ビーズを10mLのバイオフィルムバイオリアクタに移す。炭素源としてコハク酸を含む塩水培地を、1~6mL/分の一定流量を維持しながら、閉ループ流制御下でバイオリアクタを通して循環させた。定期的に(3~6時間毎に)ヘキサンをリアクタに流して、レチノイドを抽出した。ヘキサン抽出物を凍結乾燥によって濃縮し、吸光度によってレチノイドを特徴付けた。
【0072】
本発明は、その好ましい実施形態を参照して具体的に図示及び説明されたが、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱しない範囲で、本発明において形態及び詳細の様々な変更がなされてもよいことは当業者によって理解されるであろう。
【0073】
以下の参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0074】
参考文献
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図1
図2
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図31
図32
図33
図34A
図34B
図35
図36
【配列表】
2024517415000001.app
【国際調査報告】